累計販売数200万本を達成し、国内最大級のカンファレンスCEDEC 2026(Computer Entertainment Developers Conference 2026)にてデザイン優秀賞を獲得した4人協力型ホラーゲーム『MIMESIS(ミメシス)』。
『MIMESIS』は今までに無い新しい恐怖体験を得られるゲームであり、その最たる特徴は「AIが味方に成りすまして襲ってくる」点だ。
NPCが自身に襲いかかる演出自体は過去のホラーゲームでもあったが、『MIMESIS』ではなんと味方の姿を模した敵が、味方同士のボイスチャット音声や行動パターンを学習し、仲間の声を模して騙してくるのである。
居るはずのない「第5の仲間」という存在が、安堵感に繋がるはずの「味方との遭遇」を恐怖や疑いに転換する……今回は、この新たな恐怖体験がどのように生まれたかの一端が語られた、『MIMESIS』開発秘話トークイベント(2026年8月5日、グレイドパーク恵比寿で開催)の模様をレポートする。
AIを使ってゲームを面白くさせるには
3部構成で行われたトークイベント。第1部では ReLU AI クリエイティブチームのリーダーを務めるイ・ギムン氏から昨今のAIを活用したゲーム業界のありかた。そしてAIと共に週に3〜4本のペースでゲームのプロトタイプが生み出されるReLU Gamesの開発現場について語られた。
面白さを見つけるためのAI技術
ゲーム業界は、インターネットの普及によるMMORPGの誕生や、スマートフォンの登場による直感的なタッチ操作のモバイルゲーム体験の拡張のように、技術の進化に追随して進化してきた。AIの登場はそれらと同等の進化になると想像し、AIを用いた新時代のゲームデザインを先導すべく設立されたReLU Games。
イ・ギムン氏はあくまでAIはカメラやレンズといった「道具」に当たるものであり、完全に人間の代替となるようなものではないと語る。
良い映画を撮るために「カメラの使い方」ではなく「面白い物語の作り方」を学ぶように、面白いゲームを作るには「どんな遊びを作るか」を学んでいくべきであり、面白さを作るための思考材料として幾多のプロトタイプを生み出していきながら経験を積んでいくべき……とのことだ。
誰でもSeedを生み出せる環境でゲーム開発をする
続いて、ReLU Gamesにおけるゲーム開発で打ち立てている3つの原則が語られた。
1つ目が社内のメンバーが誰でも制作できる環境を作り、全員がそれを見てフィードバックをできる環境(Bottom-up)。
2つ目が提案書や企画書といったアイデアを出すのではなく、ゲームのプロトタイプを直接制作し、それをゲーム開発の種とすること(Seed)。
3つ目が職種、ポジションにとらわれず問題を見つけたメンバー全員がAIを活用して直接解決する動きを取れるようにすること(問題の解決に集中)。
複雑化してきた昨今のゲーム開発だと、実現困難に思える原則だが、ReLU Gamesではそれが実現可能なツール「Nolan」を生み出し、実現に向けて動き出している。
「Nolan」では、ZIPファイルをアップロードするだけでAIが自動でゲームの公開まで行ってくれる上、それを見た他のメンバーがAIエージェントに依頼すれば公開されているゲームを新しい派生作品として再構築するような仕組みが作られている。
ReLU Gamesでは「Nolan」を用いることにより、毎週3,4本のSeedが生み出されているという。とあるアートディレクターがわずか4日で作ったゲームに対して他のメンバーから600件近いコメントや派生版が寄せられ、わずか数日で経験値の取得プロセスが変わったもの、効果音が追加されたもの。果てにはエンドコンテンツが追加されたバージョンまで蜘蛛の巣のように派生していったとのことだ。
全ての工程において、メンバー個人が「こうしたい!」と思ったことがAIエージェントと手を組んでサッと出来てしまう。まさに複数の部署が力を合わせて開発していくような事を個々の発想力のみで実現できてしまうのは新時代の業務スタイルだ。
社内業務を自動化するAIシステム
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ゲームの開発に業務を集中させるため、ReLU Gamesでは更に2種類のAIシステムで開発プロセスを支えている。1つ目は「GPM(Game Project Manager)」と呼ばれるSlackやDiscordなどのコミュニケーションツールやゲーム自体から発信されるエラーログ等を全て分析してタスク化するツール。そして「MAGI」と呼ばれる3種類のペルソナを持ったAIによるフィードバックツールだ。
本来であればバグやエラー箇所は発生時に開発者がデバックに必要な箇所を割り出し、担当者に修正を依頼するといった時間や、伝聞による意図のズレが発生してしまうことがあるが、GPM自体が担当者へのマッチングまで自動で行ってくれるため、業務の「待ち時間」や「文脈の欠落」が完全に排除される仕組みだ。
ゲーム開発の中でも特に苦しいとされるデバックやレビューを全て自動化させてしまうことで、メンバーはゲームのSeedを考えることに集中できるようになっていくのだ。
日常のいざこざを解決するゲームすら開発してしまう環境
そんな速度でゲームのSeedが生み出される会社ならではのエピソードもイ・ギムン氏は語ってくれた。
夏のオフィスで真っ先に問題になるのは「社内のエアコン温度を何度に設定するか」だろう。同じ空間にメンバーが多ければ多いほど、温度を変更しても良いのか? 駄目なのか? 周りの目が気になってしまう。
そんな中で、1人のメンバーがAIエージェントを使って開発されたミニゲームが『エアコン争奪戦』。なんと自分がミニゲームで1位になれば、AIがオフィス内のエアコン温度を調整し、勝者の思い通りに設定できるというまさに夢のようなゲームアプリ。
エアコンを死守するため、メンバーたちは仕事中にも関わらず白熱していき、ゲームに向けられた熱さそのものが現実の壁を打ち破って周囲を冷やしてくれる。という特異なゲーム体験が実現されたとのことだ。
こういった日常の小さな悩みをゲームという形に置き換えて単純明快なシステムに落とし込めるフットワークの軽さ、そして作られたゲームに対して本気で取り組んでいくメンバーたちだからこそ日夜新しいSeedを生み出せるのだと感じた。
AIで「面白さ」にだけ没頭する解放感を
最後にイ・ギムン氏は、AI技術の発展により自分1人で作れる幅が増えた時代になったとし、今回紹介した技術をそのまま持っている必要は無いものの、面白さだけに没頭できる解放感を是非皆さんも体験していただきたいです。と締めくくった。
「AIを使ってコストの削減や効率を上げる」というよりも「AIを使ってゲームを面白くさせる」「人が面白さを追求できる時間を増やす」といった視点で活用していく。新時代の作業環境が垣間見えた20分間だった。
お蔵入りのSeedから生まれた『MIMESIS』
続いて、第2部ではグローバル累計販売200万本を達成したヒット作『MIMESIS』ディレクターのアン・ジェホン氏から、本作の『開発秘話が語られた。
開発中断がスタート地点だった
CEDEC 2026ではデザイン優秀賞を獲得した『MIMESIS』だが、このゲームアイデアは、大きな失敗から始まったとのことだ。原点となったのは『ドッペルゲンガー』という名前の西洋風の薄暗いダンジョンでアイテムを拾いながら脱出するハードコアなアクションゲーム。
ユニークな点として、プレイヤーの戦闘スタイルを学習、模倣するAIを搭載したモンスターが登場するものであったが、社内の評価としては「新しい面白さが無い」というものだった。ここから更にシステムを複雑にすれば模倣の精度が上がるとも考えたが、それは「ゲームを面白くする」ではなく「AIを搭載することへの回答」であると考え、最終的に開発中止となったとのこと。
「何をAIに模倣させるのか」を皮切りとした転換
一度は中止していたプロジェクトを再び起動させたのは、1つの問いに対する転換。「AIに何をどう模倣させるか」という考えに焦点を向けたことで一気にプロジェクトは進みだしたとのことだ。当時、Steamにて流行していたジャンルの中に「協力型ホラーコメディ」が存在していた。
プレイヤーが友人と共に探索する中でパニックに陥り、それがミスやさらなるパニックを引き起こすといったゲームシステム。アン・ジェホン氏率いるチームはその中に「目の前にいる友人の動きや声を模倣したらどうなるか?」「目の前にいる友人が本物なのか疑う瞬間が新しい面白さになるのでは?」と思いつき、『MIMESIS』開発プロジェクトが再起動したのだ。
2秒の騙しが長い疑心暗鬼に繋がる
『MIMESIS』を本格的に制作するにあたり、一番最初に検証したのが「2秒だけでもプレイヤーにAIを友人だと騙せるか」だったとのこと。人間に近い振る舞いをするAIを開発するには膨大な時間がかかるため、まずは簡素な試作品を作りテストを行ったようだ。
実際のテスト結果としてはかなり良好なもので、わずか2秒騙すだけでもそれ以降のゲーム体験において、仲間に対する疑心暗鬼を引き起こし、緊張感と面白さが生まれました。アン・ジェホン氏はこの時点で「プレイヤーを模倣する存在がゲームを面白くさせる」確信を得たと語った。
繰り返し遊んでもらうために人間らしさを追求する
確信を得た開発チームは、次の焦点を2025年7月に開催された「SteamNextFest」に当て、わずか3ヶ月という短い期間でデモ版を制作、出展を行う。
内容はマップ1つとモンスター4体というミニマムな内容ではあったものの、AIによる騙しによって友人を疑う状況を作り出すことに注力した結果。多数のプレイ動画が共有され、人気ランキング4位という好成績を果たした。
しかし、あくまで今回の成績は短いプレイ時間だからこそ現在の内容でも満足出来ただけと開発側は考え、アーリーアクセス版を実装するに向けて「繰り返し遊んでも面白い」という事を次の目標に据える。ワンパターンな動きだけではプレイヤーはすぐに飽きてしまい、すぐに面白く無くなってしまうからだ。
そこで開発チームが注力したのはAIをより「人間らしくする」というところだった。人間らしくするための手段としては「自動音声AIを組み込む」等の候補がいくつか上がった中で、「何が最も人間らしく感じさせられるのか?」という観点から「実際の仲間の声を模倣する」ということを選択する。
さらにAIの行動プロセスに関しても、プレイヤーが「どこで立ち止まるのか」「どのタイミングで何を見るのか」「いつ会話が発生するのか」を情報収集・分析し、不自然さを減らす作業に注力していたとのことだ。
結果としてアーリーアクセスでのAIは、ただ騙すだけではなく、プレイヤーらしい行動をしたり、逆にプレイヤーを警戒する行動を取ったりと、より自然な人間らしさが生まれていき、騙せる時間が伸びていった。
それがプレイヤーにとって面白いものなのか?
アン・ジェホン氏は最後に「ゲームが面白くないのは、使っているAI技術が足りないから。という錯覚に陥るケースが多々あるものの、技術の不足が面白さの不足に直結するわけでは無い」として、どのような開発や検討においても「プレイヤーに面白さを与えられる要素を生み出せるか」という所を判断の軸にしていったことが今の『MIMESIS』につながっていると語った。
トークセッションレポート
第3部では、ファミ通グループ代表の林克彦氏がモデレーターとなり、先ほど登壇したイ・ギムン氏、アン・ジェホン氏とのトークセッション形式で進行。1部、2部では語られなかった部分を掘り下げる形で進められた。
想定外にハマった日本の配信文化
最初の質問は「日本でヒットするという事を想定していたかどうか」だったが、アン・ジェホン氏は「特定の国や地域でヒットするようなターゲットは全く想定していなかった」と回答。
アーリーアクセス開始から1ヶ月程経ったタイミングで、日本の有名配信者によるゲーム実況コラボが配信されたのを皮切りに大きな人気へ繋がったとのこと。アン・ジェホン氏は当時を振り返って「開発チーム全員で何が起きているんだ? と驚くぐらいには大きな影響があった」と述べた。
さらに続けて、日本の実況配信でよく見られるプレイヤーが「ただいま!」と挨拶しながらトラム(プレイヤーがアイテムを持ち帰る移動型拠点)に戻る光景を見て、「彼らは実際にゲームの世界に没入してくれているんだ。」と感じたことが挙げられた。それは「友達と一緒にプレイする過程で笑い、騒ぎ、楽しんで欲しい」と開発陣が願っていたことそのものだった。
また、日本の配信文化の最たる特徴である「切り抜き動画」や配信者が実際にゲームの世界に入ったら? を想像したファンアートがSNS上で活発に飛び交っている点に関しても「リアクション等の面白い場面が手軽に拡散されていく光景が嬉しい」と喜んでいた。
AIを使うだけではなく面白くさせるということ
続いてAIをゲームに組み込む際の苦労について問われたイ・ギムン氏は、これまで数え切れないほど多くの失敗を重ねてきたとした上で、特に多かったのが第2部でも語られていた「ゲーム全体で見た時に面白くない」となったケースだと振り返った。
開発中止となった『ドッペルゲンガー』と同じように「AIを使う」ということではなく「AIを使ってプレイヤーに面白い体験を生み出せるか」を大事にするというのを考えるのが非常に重要だという話だ。
例として、ReLU Gamesが提供しているゲーム『魔法少女☆可愛いラブリー★ずきゅんどきゅんばきゅんぶきゅん☆ルルピン』を挙げ、当初はあらかじめ決められた呪文をプレイヤーに読ませて音声認識させるゲームスタイルだったが、ここにAIを組み込んで「プレイヤーが考えた呪文を認識させてオリジナルの呪文を生み出す」という自由度を持たせることで独自のゲーム性を持たせられたとのことだ。
『MIMESIS』のアップデート計画
今回トークイベントを開催するきっかけともなった『MIMESIS』。今後のアップデートや家庭用ゲーム機版への移植に関して問われたアン・ジェホン氏。
今後の移植や正規リリースは考えているものの、まだ『MIMESIS』はモンスターの種類やマップ、アイテムなどのコンテンツ量がまだ十分では無く、作り手が「もっと面白くできる!」と考えている未完成な状態であり、このまま正規リリースをするのは無責任だと考えているそうだ。そのため、少なくとも今年いっぱいはゲームの根幹にある面白さを追求するアップデートが優先されるとのことだ。
その中で次回10月に予定しているアップデート内容に関しても触れており、『MIMESIS』最大の魅力である「聞こえてくる声が本当の友達なのか、AIの擬態なのか信じられない」という面白さの拡張を目指し、、「友達と心から笑って楽しめる最高の協力ゲーム」を完成させたいと意気込んでいた。
日本のプレイヤーへの感謝と今後の抱負
トークセッションの最後にはイ・ギムン氏、アン・ジェホン氏から日本のプレイヤーやメディアに向けての感謝が述べられた。
アン・ジェホン氏は、「私たちにとって、日本市場でこれほど大きな反響を得たのは初めての経験であり、いまだに現実感がなく、夢のようです。まだまだ日本のプレイヤーや市場について知らないことも多いため、これからもっと深く理解し、学んでいきたいと考えています。ゲームに興味を持ってくださった日本の皆様に、心から感謝申し上げます。」と深々と挨拶を行った。
イ・ギムン氏も続けて、「個人的にも非常に特別な経験をさせてもらっています。これからもプレイヤーの皆様と一緒にゲームを育てていきたいです」と締めくくり、大きな拍手とともにトークイベントは幕を閉じた。
『MIMESIS』のゲーム情報
| ゲーム名 | MIMESIS |
|---|---|
| ジャンル | 協力型サバイバルホラー |
| プラットフォーム | PC |
| 価格 | 1,200円 |
| リリース日 | 2025年10月27日(早期アクセス) |
| 公式サイト | https://mimesis.ReLU Games.com/ |
| 公式X | https://x.com/relu_games |
| コピーライト | © ReLU Games. All rights reserved. |
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