【ミラクルニキ】風花雪月シリーズの全コーデとストーリーまとめ
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ミラクルニキの風花雪月シリーズのストーリーとトータルセットコーデについてまとめて紹介!関連イベントの情報やコーデの入手方法も掲載しているので、ぜひ参考にどうぞ!
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風花雪月シリーズとは
「風花雪月」は、ストーリートータルコーデの第3弾として登場。全部で4つのセットコーデがあり、イベント「風花雪月」の期間限定セットコーデとして追加された。
「風花雪月」イベントまとめ |
コーデを完成させてストーリーを読もう
セットコーデを完成させると、それぞれのストーリーを読めるようになる。また、セットコーデ完成図をフルスクリーンで楽しめるようになるぞ。
さらに4つのセットコーデをすべて完成させると、風花雪月オリジナルの特別PVを鑑賞できるようになる。
特別な背景が入手できる
4つのセットコーデの完成報酬として、イベント仕様の「背景」も入手することができる。イベント期間中にしか入手できない特別な背景なので、欲しい場合は頑張ってセットコーデを完成させよう。
背景の効果と入手方法 |
風花雪月シリーズのセットコーデ
【1】邂逅の風
セットコーデ名 | 邂逅の風 |
完成報酬 | コーデギフトBOX (シルフィ、邂逅の風、風と時間、初風の黎明、40ダイヤ) |
関連イベント | 風花雪月 |
「邂逅の風」の特別ストーリーへ |
【2】情熱の花
セットコーデ名 | 情熱の花 |
完成報酬 | コーデギフトBOX (ファラ、情熱の花、薔薇の荊棘、40ダイヤ) |
関連イベント | 風花雪月 |
「情熱の花」の特別ストーリーへ |
【3】儚世の雪
セットコーデ名 | 儚世の雪 |
完成報酬 | コーデギフトBOX (シュエリ、儚世の雪、悲哀の心、氷雪の封印、40ダイヤ) |
関連イベント | 風花雪月 |
「儚世の雪」の特別ストーリーへ |
【4】永望の月
セットコーデ名 | 永望の月 |
完成報酬 | コーデギフトBOX (ユエ、永望の月、蒼月の清光、40ダイヤ) |
関連イベント | 風花雪月 |
「永望の月」の特別ストーリーへ |
風花雪月シリーズをコンプするメリット
全部で4セットある風花雪月シリーズだが、ストーリーを完成させる以外にも、コーデをすべてコンプリートするメリットがある。
シリーズのコーデは、通常のセットコーデを同じく1セット毎に達成報酬を貰えるだけでなく、フルコンプすれば更に50ダイヤが貰える。
ストーリーの世界観も楽しみながら報酬も貰えるので、イベント期間中にコンプリートを目指そう!
風花雪月シリーズのストーリー
【1】邂逅の風
『初風の黎明』
私には全ての音が聞こえるわ。なんたって風がぜーんぶ味方なんだもの。葉っぱがこすれる音、虫の鳴き声、光と影の揺らぎ、幾重もの潮の流れ、過ぎ行く白い雲……人の声より、そういう自然の音の方が好き。
マーベル大陸は不思議な所よ。雲上の花畑、ノーザンの風雪、リリスの芳しいバラ園、広野を吹き抜けるウェイストランドの風……美しい場所がいっぱいある。でも、中でもいちばん好きなのは、やっぱりカルファの森ね。あそこは素晴らしい楽園のようだわ。人間達の喧噪から離れて、色んな小動物がいる。飛び跳ねる小鹿、自然を歌い上げる鳥、寝てばっかりのナマケモノ、ニンジンが大好きなウサギ、臆病なカメにハリネズミ、湖を自由自在に泳ぐ魚、数えきれない蛍 どれも自然で美しい音を発している。森に暮らすドワーフやエルフもいるわ。
ドワーフの声は可愛いくて、エルフの声は優美よ。カルファの森にいると時間が経っのも忘れて、ポワリー湖のほとりで風の囁きを聞きながら、つい寝ちゃうのよね。
いつからだったかな、森で突然、別の声が聞こえるようになった。全てを貫く冷たさのある声で、すごーく深い声なのよね。風が私だけにその存在を教えてくれたんだけど、その声が秘めている物語は教えてくれなかった。だから、その源を探すことにしたの。
風の導きに従ってポワリー湖を過ぎると、源のひとつが見つかったわ。でも、彼はただあの声を受け取っていただけで発してはいなかった。長い銀髪と尖った耳から、彼はエルフだと分かった。冷ややかで威厳のある目をした彼は、周りのエルフから「王子」と呼ばれていたわ。
私は彼の周りをクルクルと回ったけど、彼には私が見えない。そこで風を使って、彼の頬をツンツンつついたんだけど、彼は眉をしかめただけで、すぐに真面目な顔で部下と何か討論していたわ。なーんだ、つまんないの!
エルフは戦争に直面していたみたいで、みんな硬い鎧に身を包んで、手には剣を持っていたわ。その剣の恐ろしいこと!刀身は凄絶なまでに哀しい叫び声を上げ、異常なほどの血生臭さにまみれていたわ。そんなの人間の世界だけにある物で、カルファの森は自然の楽園だと思っていたのに…。
あの声は途切れ途切れに、まるで水中の塵のように漂っていたわ。ただ私に分かったのは、エルフたちがもうひとつの声の源へ向かっていたということよ。彼らに着いて森の奥へ入っていくと、あの声はどんどん大きくなっていった。エルフの王子も何かを感じ取っているみたいで、鼓動が早まっているのが聞こえたわ。焦りと不安、そして微かな悲哀が彼に纏わりついていた。彼は、どうして自分がそんな気持ちに囚われるのかも分かっていなかった。それがあの声のせいだと知っていたのは私だけ。
エルフたちが森の奥深くにある古い砦に辿り着くと、そこには敵が潜んでいたの、紙のように白い皮膚と、唇の下にはふたつの牙を隠して。前に感じたあの陰惨さと血生臭さがまた私を取り巻いた。エルフたちは王の統率のもと、最後の総攻撃を仕掛け、全てが混乱に陥ったわ。殺戮の音。私が一番嫌いな音。すぐその場を離れようと思った時、ずっと探していたあの声の源が目に飛び込んできたーー。
声の源は砦の最も高い場所に立っていたわ。傍へ飛んで行くと何かを感じたのか、こちらを見たの。私は驚いて後ずさった。その後、彼は顔を戻してもう私に目もくれなかった。私は堪らず、風で彼の頬をつついたけど、彼は何の反応も示さなかった。さっきのはただの錯覚だと思うと、ちょっとだけがっかりしたわ。そして彼の見ている方へ目をやって、初めて気づいたの。彼のターゲットはエルフの王子だった。その瞬間、喜びと悲しみがない交ぜになったあの声が酷くこだました。彼が何を言ってるのか私には分からない。ただ彼の唇が音もたてず「クロリス」と動いたのだけが見えた。
砦の上に広がっていた翳りはしだいに消え、エルフの敵も徐々に消えていき、残ったのは彼ただ一人。明るく白い太陽の光が穏やかに差す。彼は目を閉じ、微かに仰向いた。
エルフ王の黎明の刃が彼自身の体を貫いた時、エルフの王子が心の奥底で悲痛な叫びを上げたのが聞こえたわ。鋭い刃が王子の心臓をも貫いたかのようであり、まるで彼等は一心同体のようだった。知っているのは私だけ。それは最後の、そして最も大きな声だった。冷たくなったエルフ王の体の上に木の葉が落ちて、私はそれを風で払ってやることしかできなかった。
エルフ王は湖の底へ沈められ、森からは一切の声が消えた。風はもう新しい物語を運んできてはくれない。カルファの森へも、もうずいぶん行っていない。あそこは楽園でも何でもなかったのかもしれない。
そうして暫くの時が過ぎて、私はまたあの不思議な声を聞いたわ。それはとても微かだったけれど、確かに聞こえたの。私はカルファの森へ飛んで行ったけど、そこはもう見知らぬ森みたいで、風の中にも人間の声が酷く混じるようになっていた。剣士の格好をした紫の髪の少女が、森へ駈け込んでいくのを見たわ。ポワリー湖まで来ると、あの微かな声はまた消えてしまって、エルフの王子だけが静かに佇んでいた。その後ろに王冠を被った女性が居て、人間の世界でとても貴重な宝を差し出すと、
でも、それは別の物語だって、風が言うの。
【2】情熱の花
人間というのは面白い種族だ。自分たちに備わっているものの中で最も貴重なのは理性と知恵で、このふたつがあれば未来を掌握できると思っている。私はその理性ってやつが嫌いだ。面白くないし、偉そうだから。
好きなのは、愛や、些細な偶然や、抗いがたい真理など から生まれる最も制御不能なもの。それはうっとりする ような芳香を放ち、理性をとことんまで焼き尽くす。何であろうと、その成長を阻むことはできない。それは最 高の養分となり、体内に流れる鮮血と同じ色の花びらを 持つ美しい花を咲かせる。
私の薔薇園にまた新しい奮が生まれた。ふっと息を吹きかけ、花びらを一枚散らす。それは風に乗って宙を漂い あるべき所へと去っていく。そして、永い間とも、一瞬 ともつかぬうちに誰かの手のひらへ舞い降りた。それは少女の手だった。空を見上げてきょろきょろしているのは、花びらがどこから来たのか探しているのかもしれない。でも残念でした、その花はどこにもないのよ。
「クローカ、私の言ったことを覚えている?」
「はい、ナナリー女王陛下。私は生涯忠誠を捧げます」
「では、一緒にロイスの所へ行きましょう」
私は人間が出会う場面を見るのが好きだ。それは撒いた種がどんな花を咲かせるか見当もつかないのに似て、無限の未知を孕んでいる。クローカは黒い服を着て宮殿の片隅に佇み、12歳のロイスは金髪を輝かせて明るい陽 光の下に立つ。二人の世界はこんなにもくっきりと分か分かれている。ロイスは少女に興味津々だが、彼は明所から物を見ることしか知らないため、暗所から覗く世界を知らない。クロー力は明るい場所を嫌う。だから、明るい場所では彼女の視界はぼやけ、動作も緩慢になる。
「ロイス、これからはクローカが傍でお前を守ります」
ロイスには訳が分からなかった。姉はなぜ、彼より6つも年下の少女を護衛にしたのか。そして、その少女がなぜ毎日、黒い服を着て、ろくに口もきかず、陽光を嫌うのか。日光浴は気持ちがいいし、毎日楽しいことがたくさんあるのに、なぜクローカは笑わないのか。 この頃のロイスはくだらないことばかりしていた。役にも立たない歴史の本を読んだり、人間が正しいと思っている真理を勉強したり、バカみたいに姉の後ろをついて 回ったり...。だがクローカは、そんな彼の後ろに静か に控えていた。揺らめく影のように。
こんなのは私が見たいものじゃない。花びらは不安げな 子供のように、ぎゅっと縮こまっている。私は唇が触れ そうなほど近づいて初めて気づいた。花びらの一枚に大 きな傷跡があった。それはこの花が若死にする印かもしれないし、唯一無二のなにかに変わる印かもしれない。 全ては未知であり、私はこうした未知を楽しんでいる。 クリスタルで覆いをして奮を守り、ほかの花の世話をす る。薔薇園には時間が流れていない。ただ花の甘い香りが漂っているだけだ。再び例の奮を見ると、少しだけ変化があった。傷跡のあるあの花びらが微かに打ち震え、 今にも落ちそうだったのだ。水をやろうとしてカバーを 外すと、雨が降り出した。
小雨は降り止むことなく降り続け、風や雲を突き抜けて冷ややかに落ちると、ロイスの顔を濡らし、こびりついていた血痕を洗い流す。華奢な両の手に黒い小刀を持ったクローカが、小さな体でロイスの前に立ちはだかる。 雨が目に入るのも気にせず、双眸はキッと前を睨んでいる。ロイスは初めて鮮血を目の当たりにし、恐れおののいていた。王室の剣術程度では身を守れない。せっかく
学んだ真理も役には立たず、この待ち伏せを仕掛けた敵 が誰なのかさえ推測できない。空にはどんよりと黒雲が立ち込め、光を完全に遮断している。血の匂いだ。それもクローカの体から....。 首相の軍が到着すると、クローカはようやく小刀を放し倒れ込んだ。その落ち葉のよう な体をロイスが抱き止めると、ふと変わった花の香りがした。
クローカが意識を失っていた数日間、ロイスは毎日彼女 に付き添った。医師が包帯を変えるときにうっかり見て しまったクローカの背中には、大きな傷跡があった。こ の時、ロイスは初めて悟った。自分はこの世界のことを 何も分かっていないのと同じように、クローカのことも 何も理解していなかったと。
クローカが療養しているあいだ、ロイスはいつも彼女を 太陽のもとに連れ出し、たくさん話をし、時々クローカの過去を尋ねたりした。そして彼女が答えなければ、話題を変える。焦ってはいない。クローカが自分から話してくれる日が来るのを待たねばならない。クローカはやはり太陽を嫌う。感覚が鈍り、切っ先が正確に敵を捉えられなくなるからだ。しかし拒否はせず、自分に言い聞かせる。主人の命に逆らってはいけないと。
クリスタルカバーの中の奮はまだ咲かないものの、花びらが微かに綻んできた。薔薇園で唯一無二の花になるかしれないと思うと、とても愉快だ。
【3】儚世の雪
『氷雪の封印』
人は誰でも心の底に静かな湖を湛えているの。大抵は苦しみのせいで、すっかり凍ってるんだけど、時々融けることがあるわ。
氷の湖は記憶をしまっておく場所よ。しょっちゅう思い出すことや、つい最近のじゃなくて、自分でも忘れてるような過去の記憶ね。それは消えて失くなったんじゃなくて、氷が融けるのを待ってるだけなの。私はよく氷や雪を掻き分けて、どこかに亀裂がないか探してるわ。氷の湖にしまわれている記憶は、ほとんどが悲しくて残酷なものだから、持ち主は思い出したがらないものなの。だから氷の湖の世界はいつも大雪で、湖の上は身を切るように冷たい風が吹き荒んでいる。
私は大勢の人の心をこっそり覗きに行ってるわ。子供の心の湖は小さくて、湖面に張ってる氷は薄いし、その下には水が流れてて、太陽の光が見えることもあるわ。さながら、眩い大きなガラスね。少女の湖はとても可愛いわ。雪が優しくひらひら舞ってるの。
湖畔に行ったら暫く待つのよ。一秒後に何が起きるか分からないでしょ?石のようにカチカチだった湖面が急に融け始めるかもしれないし、何の兆しもなく猛吹雪が訪れるかもしれない。
ある日、凄く深い湖を見つけたの。真ん中も硬い氷が何層にもなってて亀裂ひとつなかったわ。周りは大雪で冷たい北風がビュウビュウ唸ってた。あんな湖は初めてだった。永久に融けそうになかったし、吹雪も永久に止みそうになかったもの。この湖の主はどんな人なのか興味が湧いたわ。吹雪はどうしてその人の心を葬り、この湖はどんな記憶をしまっているのかってね。
潜ってみたら、湖心までの道に赤い花が氷に封じられていたわ。人間の世界のノーザンという国特有の植物で、英雄の花と呼ばれるものね。花より奥へ行くと、小さなティーカップが見えて、カップには淡い金色のウサギの絵があったわ。そしてさらに奥へ行くと、一枚の勲章が現れたの。縁から微かな光を放っていたわ。氷の層の下の方は真っ暗だったから、きっとその光は勲章と一緒に記憶に封印されたのね。勲章に手を伸ばすと、ぼろぼろの何かの一部が目に入って、よく見たら大きな競技場だった。そして、その両サイドに若い戦士が恭しく立っていたの。黒髪の少年は漆黒の剣、銀髪の少年はロングスピアを手にしていたわ。周りが固唾を呑んで見守る中、二人は間合いを取りつつ互いを睨みつけていたけれど目に敵意は浮かんでなかったわ。
その後は記憶がちょっと途切れてて、再び二人が見えた時には、若い黒髪の戦士が片膝をついて両手を伸ばし、騎士のマントを羽織った男性から勲章を受け取っていたわ。銀髪の戦士はその横でスピアを持って立っていた。
「ニーズヘッグよ、今日からそなたは、王城の剣となり盾となって、ノーザンの栄誉を守り……」
彼がこの記憶の湖の主?私が更に深く潜ると、彼らのその後の物語が見えた。二人の若い戦士は行動を共にし、様々な土地へ行っていたわ。どこも戦場よ。そして互いに互いの背中を預け、目配せだけで絶妙に連携し、無敵を誇っていた。氷の層の中には血に染まった包帯、騎士のマント、それに小さな小さなクリスマスツリーもあったわ。クリスマスっていうのは人間が大切にしている祝日の1つみたいね。暖炉の前では、かつて彼らに勲章を授けた男性が、寛いだ服装でロッキングチェアを揺らしていたわ。そして、普通の家庭のお父さんみたいに、慈愛と誇りに満ちた目をして言うの。
「お前たちは本当に素晴らしい息子だ……」って。
暖炉の火が暖かったわ。ゆったりとした聖歌も心地よく耳元でこだましていた。でも、突然その情景が小さく遠ざかって、私の目の前で弾けたの。その欠片は矢のようにあちこちへ飛んでいったわ。振り返って目に入ってきたのは火の手よ。小さな家が大火の中で焼き尽くされて灰と化したの。次に見えたのは広野の墓碑。表面に何の字も刻まれてない、ただの石が物寂しく立っていたわ。その前で銀髪の青年が跪き、捕らわれた獣のように低い声で泣いていたわ。湖の主は乱れた黒髪で片目を隠し、もう一方の目でじっと墓碑を見つめていた。彼は泣きもせず、何も言わず、窒息させるような苦痛の中、手を伸ばして胸に付けたあの勲章を取り外した。
その瞬間、ものすごい圧迫感が襲ってきた。そんなことは初めてだったわ。湖の主が私の存在に気づいて、わざと私を彼の記憶から追い出そうとしてるみたいだった。そして抵抗する間もなく、湖心が発する巨大な力によって押し出されてしまったの。雪だらけの湖畔に戻った私は、今起きたことを何度も反芻したわ。
それからよ、私はよくあの湖へ行くようになった。待ってるの。あれ以上ない固い氷の層に亀裂が現れるのを。永久に現れないかもしれないけど、明日には現れるかもしれないから。
【4】永望の月
『蒼月の清光』
毎日、夜になると私はこの世界へやって来る。
人間がぐっすり眠って夢を見ていれば、私はその中へ忍び込むことができる。人間の夢の世界は彼らの心の内を最もよく表しており、虚飾や偽装は一切ない。彼らは夢の中でなら、会いたくても会えない人に会え、欲しくても手に入らないものが手に入り、現実では実現不可能なことも実現でき、限りなく深い絶望の中から希望を見出すこともできる。それはもう自由この上ない世界で、私が実際に行ったことのあるどの時空よりも絢爛豪華だ。
しかし、夢の世界にも恐ろしい深淵や波の逆巻く大海猛烈な咆哮や悲痛な慟哭は存在する。私は夢の世界の旅行者にすぎなかったが、そこで人間の深い苦しみや痛みを感じることができた。誰であれ、人の心の底には泣いている小さな子供が住んでおり、その子は陽の当たる場所にはおらず常に月光に寄り添っている。そうと知ってから、私は夢の世界で彼らにささやかな希望を与えるようになった。心の底に住む子らが好きだったから。
一番簡単な方法は、飴や人形など、彼らの欲している物を与えることだ。かつてある女の子の夢を訪れたときには、美しい海棠の木があり、散った花が雪のように止めどなく舞っていた。夢の中の海棠は永久に枯れず、花びらが落ちきることもないようだった。女の子は木の下に座り、眠っていたようだ。頬に張りついた小さな花びらが、玉のように白い彼女の肌をさらに引き立てていた。
彼女は時々目を覚まし、ぼんやりと空を仰ぐ。そして、何もないと分かるとがっかりし、独り言ちるようにぼつんと呟く。まだ来ない、と。そうしてまた目を閉じ眠ってしまう。ただただこうして眠りながら待ち、目を覚ましてはまた眠る。海棠の花びらはなおも舞い続ける。夢の世界には時間がないから、嘆く彼女を邪魔するものは一切ない。そこで私は彼女が待ち望んでいるものを与えた。次に彼女が目を開けたとき、空から青い鳥が飛来するように。
時に人間の心は量り難く、そこに住まう子の欲しているものを与えさえすれば泣き止むというものでもない。あるとき覗いた夢には、やはり少女がいた。彼女は一振りの剣を抱きかかえ、月光の差す物寂しい練武場に独り座り、多くの人を懐かしんでいたから、その幻影を出してやった。彼女に剣術を教えた父、一緒に書を読んだ母幼い頃大好きだった武者姿の兄たち。日夜恋しがっていた者に会えれば喜ぶだろうと思ったのだが、彼女は泣き止まず、私の心を締め付けた。
私が幻影を消すと、彼女はまた一人になった。すると彼女は月明かりを頼りに、石卓の上で明かりを灯した。私にはそれが何なのかは分からなかったが、彼女にとって大事なものだということは分かった。灯火はゆっくりと彼女の手を離れ、夜空へと舞い上がった。疾風が吹きつけて火が消えそうになると私がそれを守る。そうしてこの思いの詰まった灯火は消えることなく灯り続けた。
通常、夢の世界は独立している為、ひとつの世界を出てはまた別の世界へ潜り込むのだが、時に夢の世界間を通り抜けられることがある。両者が同じ夢を見ていれば、夢の世界の橋を渡れるというわけだ。ある冷たい夢の世界では、何かの音が夏の蝉のように途切れることなく響いていた。後になって、それが機械の発する音だと知った。あんなに冷たく純粋な夢というのは滅多にない。そこにあったのは精巧な機械と、絶えず流れる水、それに地味な装飾の古い青銅の箱の上に置かれた青龍の玉佩だった。
この夢の終わりまで来て、造りかけの楼閣があるのに気づいた。入ってみると、中は素晴らしく設えられているものの、人影がなく、窓から外を見ると、楼の前には二株の相思樹が植えられ、空には満月が掛かっていた。
月は低い所にあり、灰色の屋根瓦を照らす月光は流れる湖水のようだった。そのとき、どこかから蝶が飛んできて、流水のような月光を浴び、冷たい夢に哀しく暗い影を落とした。
その哀しさはどこから来ているのか。それを確かめようと外へ出た次の瞬間、私は橋を渡り、別の夢世界へ来てしまった。この夢にも先程の美しい楼閣があったが、こちらには光がなく、暗闇だけが広がっている。闇の中を手探りで進むが、距離も分からなければ、何の音もしない。もう自分の存在も忘れかけていた頃、不意に火の手が上がり、取り囲まれてしまった。火の勢いはそれほどでもないが、真っ暗闇の中では実際以上に恐ろしい。まるで先へ進むなと戒められているようだ。
私はその戒めを無視した。果てしない暗闇が広がっているだけの人の夢など、ある筈が無いからだ。そこで私はその世界の先へと進んだ。どれだけ歩いただろう。もう諦めようとした時、琴の音が響いてきた。その音はむせび泣くように闇の中を流れ、粉々にされた過去を訴えている。音のする方へ行ってみると、今度は一筋の光が見えた。光の中には細かな塵が漂っていて、それが子供を覆っている。こんな闇の中に子供が一人だけ?
その子を抱きしめると、体がとても冷たい。何を与えれば良いか分からなかったが、幸い私の体はまだ月光を纏っていた。
人間はどうしてこんなに孤独で哀しい想いをしているのだろう。私は夢の中で彼らに、ほんの少しの幻の希望を与えてやることしかできない。それでも彼らが夢から醒めれば、窓の外の月光で彼らを優しく包めるだろう。しかし夜は長く、痛む傷口も消えてはいないのだから、何も変えられないし、彼らを救うことはできないのかもしれない。
とはいえ、私は知っている。真の希望が既にマーベル大陸に降り立っていることを。彼女は最後の夜明けをもたらすかもしれない。
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