【陰陽師】「麓海帰路」ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の「麓海帰路」のストーリー(シナリオ)をまとめて紹介。
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麓海帰路のメインストーリー
1日目(10/21)
【蠍女】 「主人、鈴鹿山が見えました。」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山……やはり海鳴の言う通りだ。島だけではない、鈴鹿山付近の海域にも瘴気が充満している。おそらく、今回の旅は、思うようにはいきそうにないな。」【蠍女】 「主人、心配でしたら、海鳴たちを船に留めて、蠍女が先に様子を見に行きます。」【鈴鹿御前】 「いいんだ。鈴鹿山は私の家、そして彼らの家でもある。帰らせない理由はない。それに……」【蟹姫】 「鈴鹿山、鈴鹿山だ!!」【久次良】 「こんなかたちで戻ってくるなんて、故郷に申し訳ない。」【鈴鹿御前】 「それに、彼らも海国の民だ、決して臆病者ではない。」【海鳴】 「鈴鹿御前様、今回鈴鹿山に戻られるのは、何か計画でもおありなのですか?」【鈴鹿御前】 「鬼王の宴で、私はあの奇妙な鏡の欠片から、鈴鹿山を彷徨っている大嶽丸を見たんだ。彼の魂は鈴鹿山に戻ったのかもしれぬ。」【海鳴】 「若の魂……」【鈴鹿御前】 「大嶽丸の魂を探す、そして鈴鹿山の状況もこの目で確認したい。鈴鹿山を元に戻す方法が見つかるかもしれない。」【海鳴】 「わしと若で何年も探しましたが、結局見つけることはできませんでした。」【鈴鹿御前】 「「方法が見つからない」、だから鈴鹿山の総力をもって都を攻めるのか?いや、もういい、この話は終わりだ。海鳴、島に着いたら……待て!」【久次良】 「これはなんだ?」【鈴鹿御前】 「鬼船を制御できない!あなたたちは下がれ、危ない!!!」【蟹姫】 「やああああ!」【海鳴】 「な……」【鈴鹿御前】 「くそっ、間に合わぬ……」鈴鹿山上空の瘴気が流れ始め、鬼船全体を覆い、巨大な力で鬼船を直接擊碎した。濁った瘴気が襲いかかって、急な衝撃で皆を倒した。【???】 「……誰?」【鈴鹿御前】 「ゴホゴホ…ここに満ちているのはなんだ?瘴気に見えるが、城壁のように頑丈だ。他の者は……蹴散らされたのか?至るところで忌々しい瘴気が溢れている……ゴホ、奴らが妖力を吸い込んでいる。瘴気の中に長い時間居続けると、力が尽きて死んでしまう。私でさえ影響を受けている、他の者ならなおさら…だめだ、早く他の者を見つけないと!ゴホゴホ、ここは……鈴鹿山?海鳴の説明からしても、青行燈の幻境からしても、鈴鹿山は汚泥に満ちているはずだ。どうして今の鈴鹿山は瘴気が満ち溢れていることを除けば、まったく荒れていないのだ……どこか懐かしい、でもよく知らない鈴鹿山だな。はぐれて一人になったら危ないかもしれない。早く彼らを見つけよう。」── 探り・一 ──【鈴鹿御前】 「砂浜に填まっているのは鳥居なのか?懐かしいな、私が自ら建てたんだ。間違いない、ここは確かに鈴鹿山だ。やはり鈴鹿山に残された法陣を発動することはできない。島に着いたところで、私と鈴鹿山の繋りは途切れたまま、島の状況をまったく感知できないんだ。何とか島の瘴気を駆除しなければ。でないと大嶽丸を探すどころか、他の者の気配も感知できない。」【???】 「……」【鈴鹿御前】 「そこにいるのは誰だ!姿を現せ!」【???】 「う…」【鈴鹿御前】 「(知らない気配だ。まさか鈴鹿山に他の者がいるのか?)出てこい!!」【???】 「お前……離れろ……」【鈴鹿御前】 「!!!この声は……あ、あなたは……大嶽丸なのか?!大嶽丸!あなたなのか?!何をしている!くそ、邪魔な瘴気め!」【???】 「離れろ!」【鈴鹿御前】 「おい!待て!!どこに行った?姿が変わり、妖力と気配も少し違うが、あの声は……確かに大嶽丸のものだ。ちっ、鈴鹿山はどうなっているんだ?わけがわからん。まずは大嶽丸が消えた方向を探索してみるか。(大嶽丸は今ここまで成長したのか?見違えるほどだ……)」── 八百比丘尼のいる御神木へ移動 ──【鈴鹿御前】 「鈴鹿山を感知できるようになるには、やはりまず御神木の様子を見に行かねばならない。古樹たちが鈴鹿山の汚染に耐えてくれるといいが。」【八百比丘尼】 「あら、これは……」【鈴鹿御前】 「八百比丘尼!」【八百比丘尼】 「鈴鹿御前様、ご無事で何よりです。」【鈴鹿御前】 「どうしてここに?他の仲間を見なかったか?」【八百比丘尼】 「いいえ、私だけです。波に流され、島の霊力を辿ってここまで歩いてきました。ここならあなたに会えると、占いが教えてくれました。」【鈴鹿御前】 「あなたの占いで、他の者の位置を示せるのか?蠍女と風狸は泳げないし、海鳴も年だ、早く彼らと合流しなければ。」【八百比丘尼】 「島に溢れる瘴気は視野の邪魔だけではなく、占いの結果にも影響を与えます。残念ですが、彼らの位置を正確に感知できません。」【鈴鹿御前】 「では、私たちはまずここから離れ、他の者を捜しに行く。」【八百比丘尼】 「ここに居させてください。不死身とはいえ、瘴気の侵食の影響は少なからずあります。なるべく早く仲間を見つけたいでしょう。なのに私が一緒だと足手まといになる、そうでしょう?」【鈴鹿御前】 「しかし……」【八百比丘尼】 「それに、目の前にあるこの木も、誰かが守っていたほうがいいでしょう。」【鈴鹿御前】 「あなたに隠し事はできないな。この御神木と、他の数本が鈴鹿山を取り巻く結界を張っていたんだ。これらが鈴鹿山の霊力の流れを保っている。これで私は鈴鹿山全体の状況を感知できる。今鈴鹿山がかろうじて存在できているのは、この数本の古樹のおかげかもしれない。これが完全に侵食されたら、恐ろしい事態になりかねない。」【八百比丘尼】 「神木は島に生まれ、島は木に依存する。古樹はまだ枯死していません、その力を働かせて、付近の瘴気の侵食を弱めることはできます。他の人も、島に上がった後、私のように霊力をたどって御神木の近くまで辿り着いたのかもしれません。他の人の位置は感知できませんが、樹を印にして方向を示すくらいはできます。」【鈴鹿御前】 「あまりあなたの力を頼りたくはないが、そうするしかないな。ここの守備を頼む。そうだ、ここに来る途中、誰かと会わなかったか?」【八百比丘尼】 「その質問は、もうされましたよ。」【鈴鹿御前】 「一緒に来た海鳴たちではない、他の者だ。」【八百比丘尼】 「あなた以外、「誰にも」会っていません。」【鈴鹿御前】 「そうか……なんでもない。では、達者でな。」【八百比丘尼】 「もし次にまた「誰か」に会ったら、あなたが見たものは一体何なのか、確認してみるのはどうでしょう。私たちのような生者なのか、あるいは一瞬の幻か、それとも…………記憶の断片。」【鈴鹿御前】 「……」【八百比丘尼】 「瘴気の結晶を御神木に注入すればいいのです。」【鈴鹿御前】 「微弱な力だが、この区域の守るのには十分だ。」【八百比丘尼】 「あなたの行先を案内します、くれぐれも慎重に。」【鈴鹿御前】 「ああ、守りはあなたに任せた。」── 探り・二 ──【鈴鹿御前】 「八百比丘尼の言うように、私が見たのは本物の大嶽丸ではないのなら、彼は今何処にいる?今の鈴鹿山にはわからないことが沢山ありすぎる、できるだけ早く皆を見つけなければ。ここは水源地か?この上にあるのは……氷か?いや、違う……しょっぱいな。塩か?ここの瘴気は比較的薄い、この結晶に変わったせいか?誰がこれを……」【???】 「……」【鈴鹿御前】 「大嶽丸?そこにいるんだろう?!」【???】 「うう……あああ……」周辺の結晶が瘴気と化し、同じ方向に湧いていく。荒れ狂う瘴気が消散し、それに覆われていた人影が現れた。【鈴鹿御前】 「大嶽丸……なぜ……」【???】 「……」【鈴鹿御前】 「邪魔な悪霊め、どけ!」【???】 「……誰?鈴……」【鈴鹿御前】 「ゴホゴホ、私の前から……どけ……待て、大嶽丸、待つんだ!」【???】 「……」ドス黒い瘴気が水源地を丸ごと覆い、再び散った時、「大嶽丸」の姿はもうなかった。【鈴鹿御前】 「ドス黒い瘴気が水源地を丸ごと覆い、再び散った時、「大嶽丸」の姿はもうなかった。……大嶽丸。いったい何があったんだ…「記憶の断片」か?一体……だめだ、ここで立ち止まるわけにはいかぬ。やはり他の仲間を見つけることを優先しよう。」【海鳴】 「あああ……」【鈴鹿御前】 「この声は海鳴か?あそこ……」── 海鳴のいる御神木へ移動 ──【鈴鹿御前】 「海鳴!無事か?」【海鳴】 「鈴鹿御前様?ゴホゴホッ、わしは大丈夫です。先ほどは悪霊に囲まれたが、幸い……」【晴明】 「ちょうど今この近くに来たら、戦闘の音が聞こえたんだ。よかった、間に合ったな。」【鈴鹿御前】 「晴明?!どうしてあなたはここに?いや、あなたは誰だ!」【晴明】 「私は晴明であり、晴明ではない。」【鈴鹿御前】 「どういう意味だ……?」【晴明】 「私は確かに晴明だ。雲外鏡欠片の動向が心配だから、霊力を別々の紙人形霊符に注入した。紙人形の霊符は私の分身として、雲外鏡欠片の浄化にあたる各小隊と共に行動する。今鬼船が制御不能になり、紙人形霊符の分身術が発動された。だが、霊符が耐えられる霊力には限界がある。肝心な時にだけ使うんだ。」【鈴鹿御前】 「便利な陰陽術だ。晴明、瀬戸際に海鳴を助けてもらったことには感謝している、だがそれとこれとは話が別だ。約束したのだ、必ず欠片の浄化に協力する。これは海国の問題だ、あなたを巻き込むのは…」【晴明】 「とはいえ、君達は今は島各地に分散している。仲間が増えるに越したことはないだろう。島に着いた時、ここの霊力の流れを調べた。この島は既に危うい。この樹の下で守る者が必要だ。」【鈴鹿御前】 「君……まあいい。今更どうにもできん、あなたの紙人形霊符を引き裂くわけにもいかぬしな。では頼んだぞ。御神木は瘴気の侵食を緩められる。海鳴、晴明と一緒にここに残って……」【海鳴】 「わしがあなた様を巻き添えにしてしまいました。」【鈴鹿御前】 「あなたが足を引っ張ることなどない。周辺の動きに警戒しろ、私は他の者の状況を確認しに行く。」── 探り・三 ──【鈴鹿御前】 「まさか晴明が鈴鹿山までついてくるとは。彼は断りもなく、こっそりついてくるようなやつなのか?晴明のことを気にしている余裕はない。最も重要なのは大嶽丸とその仲間だ。また大嶽丸に会えるかどうかはわからない。もし会えたら、はっきり聞かないと……」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「!!!また現れたな……待て!」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「貴様…」【大嶽丸】 「貴様…」【鈴鹿御前】 「大嶽丸、あなたは大嶽丸だな!」【大嶽丸】 「ああ、俺だ。」【鈴鹿御前】 「私が誰かわかるだろう?」【大嶽丸】 「……鈴鹿御前。数百年ぶりだが、お前は相変わらずだな。」【鈴鹿御前】 「本当にあなただったのか……あなたは一体どうしたんだ?なぜ突然消えた、なぜ鈴鹿山が今の状態になった、あなたが何かしたのか、どうすれば……」【大嶽丸】 「……俺にもわからない。意識が戻った瞬間ここにいた、記憶も断片的だ。次の一秒には消えているかもしれねえ……」【鈴鹿御前】 「あなたに付き纏う悪霊たちは何なんだ?」【大嶽丸】 「悪霊?あれは……」静かな山から物音が伝わり、瘴気が凝結し実態となり、悪霊が襲いかかる。【鈴鹿御前】 「くそ、邪魔な悪霊め……」── 探り・四 ──【鈴鹿御前】 「こいつら、いくら殺してもきりがないな!」【大嶽丸】 「奴らは鈴鹿山から発生し、鈴鹿山がある限り、消えることはない。」【鈴鹿御前】 「なるほど。…………大嶽丸、あなた……ふん。聞きたいことがありすぎて、何を言えばわからなくなってきた。どうすれば、あなたがさっきのように消えてしまうことを防げるんだ?」【大嶽丸】 「俺は知らねえ。」【鈴鹿御前】 「そうか……でも、あなたに会えたということは、まだ希望はある。鈴鹿山に戻って正解だったな。まずは何とかこの鬱陶しい瘴気を駆除し、鈴鹿山を感知できるようにしなければならないようだ。」【大嶽丸】 「古樹たちはまだ生きている。」【鈴鹿御前】 「そうだな、とりあえず御神木の方向に進もう。…………大嶽丸。」【大嶽丸】 「ん?」【鈴鹿御前】 「本当にあなただったのか。」【大嶽丸】 「あぁ、俺だ。」【鈴鹿御前】 「…………今回は私一人で来たのではない、蠍女と海鳴、そしてあなたの部下も二人いる。久次良はなかなかの将才だ。蟹姫は…………カニちゃんすこし煩いけど、いい子だ。あとは、晴明と八百比丘尼もいる。経緯は少し複雑だが、今、都の陰陽師は我々の盟友だ。」【大嶽丸】 「都の陰陽師?ああ、そうか、そういうことか……」【鈴鹿御前】 「何だか変だな。やはり大きくなったのか?」【大嶽丸】 「何でもねえ。ゴホゴホッ…うう!」【鈴鹿御前】 「大嶽丸?」【大嶽丸】 「近付くな……」【鈴鹿御前】 「また消えるのか?おい、しっかりしろ!!くそっ、どうすれば……」【大嶽丸】 「俺の話を聞け!「俺」の魂は、今も鈴鹿山のどこかで眠っている!俺を呼び覚ませ……鈴鹿……山……」森を徘徊する悪霊が汚泥と共に襲いかかる。大嶽丸は再び瘴気の中に消えてしまった。【鈴鹿御前】 「大嶽丸!!!また消えた……」── 久次良のいる御神木へ移動 ──【鈴鹿御前】 「大嶽丸の魂は、今もまだ鈴鹿山のどこかで眠っている……四本の御神木を繋ぐことができれば、彼を見つけられるはず。御神木に近づくたびに、大嶽丸は消える。今度彼に会ったら、はっきり聞かなければ……この先に一本あるはずだ。いや、この方向のはずだが……」【久次良】 「はあ…」【鈴鹿御前】 「ちっ、私に不意打ちなんて……うん?」【久次良】 「あなたか!うう、失礼。」【鈴鹿御前】 「無事でなりよりだ。あなたの警戒心を称賛する。蠍女と蟹姫を見なかったか?蠍女は金づちだ、蟹姫も泳げるようには見えぬ……」【久次良】 「いや、この辺にいるのは俺だけだ。他の仲間を見ましたか?」【鈴鹿御前】 「海鳴と八百比丘尼は島の向こう側にいる、ひとまず無事だ。島の瘴気は妖力を飲み込み、心を蝕む。彼らはしばらく御神木の下で休んでいる。私は南のほうへ、他の者を探しに行って、ついでに御神木の状況も確認する。」【久次良】 「わかった、俺も同行しよう。」【鈴鹿御前】 「いや、あなたはここにいるんだ。」【久次良】 「しかし……」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山の状況はまだ把握できていない、御神木を攻撃されるわけにはいかない。周辺に悪霊が彷徨っている。久次良、ここで守りを頼む。」【久次良】 「……わかった。俺に任せろ。」【鈴鹿御前】 「大嶽丸は良い部下を持っているな。」【久次良】 「恐縮です。俺がもっと頼りになれば、若はきっと……」── 探り・五 ──【鈴鹿御前】 「いつの間にか島の大半を回ったな。数百年の時間だという実感はないな。ここは御神木から離れている、大嶽丸はまた現れるだろうか。「彼の魂を呼び醒ます」のか?大嶽丸の魂は何故鈴鹿山に眠っているんだ……」手裏剣が飛んできて、鈴鹿御前がそれを受け止めた。【鈴鹿御前】 「あなたははいつ現れるのかと、ついさっき考えていた。今回もうまく窮地から逃れることができたようだな?」【風狸】 「やあ、間一髪だったな。お前が操縦する船はもうごめんだぜ。近くまで歩いてきたんだが、危険を察知したから急いで駆け付けたぜ。」【鈴鹿御前】 「「危険」?」【風狸】 「ここにいるのはお前だけか?おかしいな、俺の直感は外れないはずなのに。今このあたりに殺気が……うわあ!」【大嶽丸】 「…………」【風狸】 「怖いお兄さんだな。予め身代わりを手放しておいて正解だったぜ。俺が感じた「危険」はやっぱりここか。おい、鈴鹿御前、向こうはすごい勢いで攻めてきたぞ、お前も早く逃げ……え?」【鈴鹿御前】 「大嶽丸、彼は私の部下だ、敵ではない。」【大嶽丸】 「…………」【風狸】 「大嶽丸?このお兄さんが探していた人なのか?」【大嶽丸】 「……」【風狸】 「まだ睨んでやがる。だから誤解だって、誤解!鈴鹿御前には危害を加えない。今回俺の任務は、彼女を守ることだ。」【鈴鹿御前】 「やはり来る者が多すぎると、面倒事が起きるな。風狸、この先に大樹がある、あなたは先に行って久次良とそこで合流するんだ。あなたも、瘴気の中では長く戦えないだろう。」【風狸】 「いいだろう、お前の命令なら、従おう。くれぐれも気をつけろよ!この島はどうもおかしいぜ。」【大嶽丸】 「あいつの直感は当たるんだ。」【鈴鹿御前】 「あなたの神出鬼没っぷりにも慣れてきた。さっき姿を消す前に、何を言おうとした?鈴鹿山がどうした?」【大嶽丸】 「いや、なんでもない。」── 蟹姫のいる御神木へ移動 ──【鈴鹿御前】 「(大嶽丸が何だか変だ。数百年後の再会だ、私も少し戸惑っているな。)大嶽丸、私はあなたと話さなければいけない。あなたのことや、鈴鹿山のことについて。」【大嶽丸】 「そう。」【鈴鹿御前】 「えっと、なんというか……私が鈴鹿山を出てから、あなた、いや、違う。とにかく!なんとしてでも、あなたを復活させる!私たち全員がそう思っている、だから鈴鹿山に戻って手掛かりを探している。しかし、あなたは今……」【大嶽丸】 「今は離れられねえ。」【鈴鹿御前】 「……そうだ、だから私も方法を探す……何だ?貴様…」【大嶽丸】 「…………」【蟹姫】 「ああああ……」【鈴鹿御前】 「またこんな時に遮る……待て、この声は…蟹姫か?話しは後だ、先にあっちに行ってみよう!」【大嶽丸】 「そう。…………」【蟹姫】 「サソリめ、離して!」【蠍女】 「このカニめ、引っ張るな!」【蟹姫】 「あなたが何かを企んでるのはわかってるからね、今目覚めなかったら、あなたに毒殺されていたに決まってる!」【蠍女】 「ふん、あなたのその分厚い殻は、毒に浸したほうがいい。」【蟹姫】 「やっぱり誰もいない時を狙って、私をいじめようとしてたのね!助けて!!若様!!!」【蠍女】 「静かに!また悪霊に気づかれてしまう!叫んでも無駄。大嶽丸はもう死んだ。」【蟹姫】 「あなた!!!」【蠍女】 「彼はもう死んでいます。これ以上……あ、主、主人。」【鈴鹿御前】 「…………」【蠍女】 「主人、わ、わざと言ったわけではないんです!」【鈴鹿御前】 「平気だ。」【蟹姫】 「一人増えたから何?怖くないんだからね!」【鈴鹿御前】 「…わかったわかった、もうやめろ。二人が無事で良かった。」【蠍女】 「主人、わざわざ私に会いに来てくれたのですか?」【鈴鹿御前】 「まあな。あなたたちを探すついでに、御神木の状況を確認していた。他の仲間たちは別の御神木の近くにいる。古樹は瘴気の侵食を緩めることができる。体力を温存するために、あなたたちもなるべくここから離れないでくれ。」【蠍女】 「あなた様は?あなた様はどちらへ?」【鈴鹿御前】 「私がもう一度あいつの手掛かりを聞いてみよう……まずい!……大嶽丸!」【蠍女】 「ご主人様?」【鈴鹿御前】 「……また消えた……これで四本の御神木を目覚めさせた、これで島の全方位の状況を感知できる。ゴホ、このあたりの瘴気を駆除するしかないのか?もし本当に瘴気と汚濁が鈴鹿山から発生しているのであれば、完全に駆除することは不可能だ。鈴鹿山がある限り、あれはどんどん湧いてくるのか?」【蠍女】 「ご主人様?」【鈴鹿御前】 「ゴホッ……だめだ、この瘴気を駆除しただけでは足りない。皆落ち着いたな。これから、鈴鹿山で見つけられる全ての場所に行くしかない。」【蠍女】 「主人!お待ちを……」【鈴鹿御前】 「御神木を目覚めさせれば、ようやく瘴気の発生源を感知できる……瘴気の発生源は……彷徨う悪霊たちなのか?悪霊が瘴気を生み、瘴気は悪霊を守る。まずは悪霊が集まる場所へ向かおう。ゴホッ……この妖気は……鈴鹿山には、まだ調べられていない場所も多い。暗くなる前に急がねば……」 |
2日目(10/22)
【大嶽丸】 「終わった……のか?」【鈴鹿御前】 「終わった。もう朝か……あなたの体!」【大嶽丸】 「なんてことはない……すこし力を消耗しすぎただけだ。ゴホゴホッ……俺はおそらく……」【鈴鹿御前】 「おい!大嶽丸!おい!再び眠りについたのか?体は透明になっていったが、今回は消えなかった。大嶽丸……御神木を攻撃する悪霊を殲滅したら、鈴鹿山も元通りになった。昨日は悪霊退治で疲れていたから、まだ皆に大嶽丸のことを話していなかったな。参ったな、なんて言えば……」鈴鹿御前は眠っている大嶽丸を連れて鈴鹿山各所にいる仲間と合流し、彼の状況を皆に説明した。【海鳴】 「…………」【久次良】 「…………」【蠍女】 「…………」【風狸】 「や、こりゃまた……」【蟹姫】 「ううううう……」【鈴鹿御前】 「うう、とにかく……急で受け入れ難いかもしれないが、確かに大嶽丸だ。」【久次良】 「若、本当に若だ……」【蟹姫】 「うううううう……」【蠍女】 「衰弱しすぎたせいで、眠りについたのか?」【蟹姫】 「ううううううう……」【海鳴】 「またあなた様に会えるとは、わしは…これでわしは悔い無くあの世に行けます。」【蟹姫】 「ううううううう……」【蠍女】 「カニ!煩い!」【蟹姫】 「だけど、これは若様だよ……本当に、本当に若様だ!尻尾のやつ…あなたは良い人!本当に蟹姫を若様に会わせてくれた…本当に若様なの?目が覚めたら、また居なくなってるってことはないよね?!」【鈴鹿御前】 「蟹姫、よしよし、涙を拭くんだ。都の一件以来、大嶽丸の魂は鈴鹿山に戻って、島と一体化した。その後、彼は魂の状態のまま、ここを彷徨っている。」【八百比丘尼】 「凄まじい意志の力ですね。何度も死のうとした私は、死ぬことの痛みをよく知っています。鈴鹿山に対する執念に導かれ、彼は死から抜け出したのです。」【蟹姫】 「わうううううう……」【蠍女】 「静かにして!あなたの泣き声で彼を起こしてしまう!!」【蟹姫】 「うう……(小声)これからどうすればいい?若様は十分寝たら、勝手に目が覚めるかな?」【海鳴】 「鈴鹿御前様、あなた様はどう思いますか?」【鈴鹿御前】 「すべてが突然すぎて、私にもわからない。」【海鳴】 「若が言ったように、我々の居る鈴鹿山が彼が造った虚像なのだとしたら……この虚像と実在の鈴鹿山は同時に存在しています。若こそが、この虚実の島を維持する鍵なのです。」【鈴鹿御前】 「彼は力が尽きかけている、長く持ちそうにないと言った。だから今の島は瘴気にまみれ、時には悪霊が出現するようになった。」【蟹姫】 「若様をいじめてるのはお前たちか?」【鈴鹿御前】 「ああ、できる限り悪霊を退治し、瘴気を駆除すれば、彼の力の回復の助けになるはずだ。もちろん、あくまで私の推測だ……鈴鹿山の状況はまだはっきりしてない、やみくもに行動するのは危険だ。あなたたちは御神木の近くを守っていてくれ、私が……」【蟹姫】 「尻尾のあなた、何を言ってるの?私たち皆が、あなたと一緒に鈴鹿山に来たのは、若様を救い出すためだよ!一人で英雄になんかならせないよ!」【蠍女】 「主人、ぜひご一緒させてください!」【風狸】 「おう、鈴鹿御前、このことについては……昨日気づいたんだ、島には悪霊が集まる場所がいくつもある。いっそ奴らが眠ってる隙に、こっそりと……」【蟹姫】 「蟹姫が巣に突入して、悪党どもを追い払ってやる!」【鈴鹿御前】 「悪霊が集う巣か?その方法もあるな……鈴鹿山に残された宝物を利用して、瘴気を駆除するよう尽力する。巣に行って悪霊を制圧してくれ。大嶽丸のために……皆、力を貸してくれ。」皆が島各所にある悪霊の巣に向かった後、鈴鹿御前も正殿を立ち去った。【鈴鹿御前】 「風狸、居るのだろう。」【風狸】 「いるよ、どうかした?」【鈴鹿御前】 「悪霊の退治は他の者に任せる、あなたは鈴鹿山の動きを監視してくれ。」【風狸】 「問題ないさ。でも、なぜ俺が?都から来た晴明と八百比丘尼を警戒するのはわかる。久次良と蟹姫は大嶽丸に仕える者だ、あんたはよく知らないかもしれん。海鳴のじいさんについては、説明しなくてもいいだろう。サソリちゃんはここで長く暮らしていたから、俺より鈴鹿山のことに詳しいはずだ。」【鈴鹿御前】 「あなたはここに来るのが初めてだから、島に惑わされずにいられるんだ。私たちは今この状態の鈴鹿山をよく知っている。私も蠍女たちも、客観的に調査することはできない。「よそ者」だからこそ、感情に影響されずに問題を見つけることができる。これがあなたを鈴鹿山に連れてきた理由だ。」【風狸】 「なるほど。鈴鹿御前、何を疑ってるんだ?」【鈴鹿御前】 「大嶽丸が眠っている間、何か別のものが存在しているのかもしれない……」 |
3日目(10/23)
暗闇。固まった暗闇の中。【声】 「まだ眠り続けるのか?目を開けるんだ。お前が守りたかったものは全て、とっくになくなった。」【大嶽丸】 「存在さえ残っていれば、生と死に違いはないだろう?俺は鈴鹿山のために目覚めた、鈴鹿山は俺のおかげで存続している。俺はこの廃墟に居続けられるだけで十分だ。」【声】 「……」鈴鹿正殿の中……【大嶽丸】 「ゴホゴホ…ここは……?」【鈴鹿御前】 「目覚めたのか?!大嶽丸……君……」【蟹姫】 「若様?本当に若様なの?」【大嶽丸】 「俺だ。蟹姫、お前も……うう。」【蟹姫】 「うわあああああ!!若様は私のことを覚えてた!本当に若様だ!!」【大嶽丸】 「ゴホゴホッ…蟹姫……貝落とし……」【風狸】 「やれやれ、なんて感動的な再会だ。」【鈴鹿御前】 「ええ……大嶽丸と別れた時、彼はまだ子供だったのに、今はもうすっかり大きくなっている。」【大嶽丸】 「蟹…姫…」【鈴鹿御前】 「本当に色々あったな、でも今の彼らを見ていると、微笑ましいと思う……いや、違う!あなたの槌は重すぎる、早く退かせてれ!蟹姫!!大嶽丸、無事か?」【蠍女】 「バカなカニめ、彼を気絶させたいのか?」【大嶽丸】 「ゴホゴホゴホゴホ…」【蟹姫】 「ごめん、はしゃぎすぎた……でも、あれは若様、本当に若様だよ!」【大嶽丸】 「蟹姫、よしよし、もう泣くな。」【久次良】 「若……」【海鳴】 「再びあなた様に会えるとは思いませんでした……わしは本当に……」【大嶽丸】 「海鳴、お前……まあいい。」【蟹姫】 「若様…若様!」【大嶽丸】 「ああ、俺はここだ。」【蟹姫】 「やっと会えた!若様、聞いて聞いて!あ……あなたが消えてから、蟹姫は毎晩寝付けなくて、悪夢に魘されてるの。若様が私たちを捨てて、一人で海に出る夢を見たの。起きたら若様が本当に居なくなってた。それでね、この前急に尻尾のやつとサソリが現れて、私たちを連れて海に出たの。」【鈴鹿御前】 「尻尾のやつ……私のことを言っているのか?」【蟹姫】 「尻尾のやつは蟹姫と約束したの、必ず若様に会わせてくれるって。だから私達を鈴鹿山に連れてきたの。彼女は良い人だけど、蟹姫はやっぱり若様がいい……」【蠍女】 「おい!!」【蟹姫】 「それで……それで……ほら、鈴鹿山は出発した時よりも良くなってるよ。若様の病気が治ったら、私たちも戻ってこれるかな?あとね、若様、若様!本当に会いたかった!本当に……会いたかった……」【鈴鹿御前】 「蟹姫……」【蟹姫】 「あなたはあの時、私たちが間違ったことをしたら、自分が責任を背負うって言ったでしょう。でも、私たちは家族だよ。鈴鹿山の皆はずっと一緒にいなきゃ!それじゃ、一緒に謝りに行って、償い方を考えよう…蟹姫は力持ちで、久次良もすごいよ、海鳴は物知りだし……きっと方法は見つかるよ!たとえ……たとえ許されないとしても、たとえ若様が悪者になったとしても……蟹姫も、もう若様と離れたくない!!ううううう……」【大嶽丸】 「悪い、蟹姫、心配させたな。」【蟹姫】 「ううう……若様……」【鈴鹿御前】 「もういい、蟹姫……皆も昨夜はずっと戦っていたんだ、今は休んでくれ。大嶽丸、あなたは今も悪霊の制圧と、鈴鹿山の虚像を維持することに大量の力を消費しているだろう?このまま寢ているがいい。我々は皆、あなたのそばにいる。」【大嶽丸】 「お前たち…ああ、頼もしいな。」【鈴鹿御前】 「私たちが来るまで、あなたはいつも一人だっただろう。何もないこの島で、悪霊たちと対峙し、膠着状態になった。蟹姫が言ったように、我々はあなたと共にいる。我々のやり方で、あなたを深淵から引きずり出す。あなたが完全に回復したら、説教しなければいけないな。」【大嶽丸】 「俺が急いで回復しねえと。」【鈴鹿御前】 「ああ。もうチビに心配をかけるな。」【大嶽丸】 「……」【風狸】 「ううう、なんて感動的なんだ……」【鈴鹿御前】 「おい、もうやめろ。」【八百比丘尼】 「どんな時でも、死は重いものです。死を乗り越えて再会することは、決して容易ではありません。」【鈴鹿御前】 「昼の鈴鹿山は、比較的安全だ。まずは彼をここで休ませよう。いまのところ、我々ができるのは瘴気の浄化と、悪霊の殲滅だけだ。」【海鳴】 「鈴鹿御前様、わしは戦闘の役に立ちません。もう少し、わしをここに居させてくれませんか?」【鈴鹿御前】 「海鳴、あなた……いいだろう。」【蟹姫】 「え?蟹姫もここに残って、若様とお話したい!」【蠍女】 「もういい、ここにいては彼の休息を邪魔するだけだ。元気を持て余しているなら、悪霊の巣で悪霊を退治しろ!」【蟹姫】 「よし……蟹姫が若様のお昼寝を邪魔する悪者たちを追い払ってやる!」【八百比丘尼】 「晴明さん、私たちもいきましょう。」がらんとした正殿が、再び静かになる。【海鳴】 「若……わしは生きてあなた様と再会し、罪をわびることができて、本当によかったです。わしは当初、根本的に間違っておった。あなた様が亡くなった瞬間、わしはようやく目を覚ましました。わしが天下統一の野心をあなた様に押し付けたせいで、あなた様をこんな目に……幸い、まだ遅くはありません。おかえりなさい……」鈴鹿御前は門外で、屋内の話し声がどんどん小さくなり、聞こえなくなるまで立ち聞きした。【鈴鹿御前】 「「まだ遅くはない」。どんな手を使ってでも、大嶽丸をここから助け出す。たとえ……」鈴鹿山の西南海岸にある長い裂け目から、ドス黒い瘴気が溢れ出している。海水は破砕した岩礁を飲み込み、より高い場所に向かう。偽りの夢は目覚めることを知らない。だが鈴鹿山と、そこにある全てのものは、密かに崩壊している。 |
4日目(10/24)
【風狸】 「鈴鹿御前、大嶽丸を捜しに行くつもりなのか?」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山に溢れる瘴気がだんだん減っている、彼の力もいくらか回復したんだろう。彼の様子を見に行く、ついでに次にどうするかも考えておこう。」【風狸】 「そうか。お前は?いったいどうするつもりだ?死者の復活は元々世界の規則に反することだ。それに、彼の魂は鈴鹿山と一体化しているんだ、簡単にはいかないさ。」【鈴鹿御前】 「一つになる……何があっても、一切の対価を惜しまない。彼をここから救い出す。」【風狸】 「昨日島にいる時に気が付いた、鈴鹿山はもう長くは持たないって。あなたならわかるだろう。「対価」って言ったな、お前らにとって一番大事な島も含まれているのか?他の人は知ってるのか?」【鈴鹿御前】 「彼らには言っていない。」【風狸】 「決断を下す前に、大嶽丸とちゃんと話をしたらどうだ。」【鈴鹿御前】 「久しぶりなうえに、色んなことがありすぎた。私……私は彼とどう接すればいいのわからない。」【風狸】 「まあまあ、頑張れや。いつか向き合わなくちゃな。鈴鹿御前、皆がお前みたいに、過去のすべてを置き去りにして前だけ見ることができるわけじゃないぞ。」【鈴鹿御前】 「……」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「大嶽丸?起きているのか?」【大嶽丸】 「そんな低い声で話しかけられるのには、なかなか慣れねえな。」【鈴鹿御前】 「う、邪魔したら悪いと思って。ゴホ、とにかく、様子を見にきた。あなたのような、う、のような魂には会ったことがない。だからどうすればいいのか……力の回復はどうだ?あなたが早く良くなるようにと、蟹姫はとても頑張っている。」【大嶽丸】 「ああ。わかっている。」【鈴鹿御前】 「ずっと眠る必要はなくなったようだな?」【大嶽丸】 「お前たちのおかげだ。奴らを制圧するのも随分楽になったから、俺ももう眠らなくてよくなった。」【鈴鹿御前】 「性格が穏やかになったではないか?」【大嶽丸】 「それは、お前が長い間いなかったからだ。一度死んだせいか、心境が少し変わった。」【鈴鹿御前】 「…今の言葉を撤回しろ。もう二度そんなことを言うでない。」【大嶽丸】 「すまない。久しぶりだな。お前とどう接すればいいのかわからねえ。」【鈴鹿御前】 「……プッ。ははははは。」【大嶽丸】 「何がおかしい?」【鈴鹿御前】 「私もだ。いや、なんでもない。もういい、私の前では頼りになる若として振舞わなくていい。」【大嶽丸】 「人を子供扱いする態度は、相変わらずだな。」【鈴鹿御前】 「私はあなたの姉だからな!さ、久々に髪を撫でさせて……」【大嶽丸】 「おい!鈴鹿御前、なぜ俺が鈴鹿山に眠っていると知ったんだ?」【鈴鹿御前】 「それは少し長い話になるが……簡単に言うと、あなたが鈴鹿山にいる手掛かりを手に入れたから、みんなを連れて帰ってきたのだ。そして鈴鹿山を徘徊するあなたと出会った。最初にあなたに出会った頃は、また幻境などの類のものかと思っていた。」【大嶽丸】 「「俺」に会った?」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山に着いたばかりの頃、私ははぐれた仲間を探していた。あなたは現れたり消えたりしていた。あの時だ。」【大嶽丸】 「ああ…そうだ、思い出した。」【鈴鹿御前】 「大嶽丸、私たちが鈴鹿山に戻った理由は知っているだろう。あなたのためだ。」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「あなたと鈴鹿山との繋がりを断ち切る方法はまだわからないが、必ず方法はある。だから、もう少しの辛抱だ、我々は必ずあなたを救い出す。」【大嶽丸】 「俺は行かねえ。」【鈴鹿御前】 「何のことだ?」【大嶽丸】 「俺はここから離れねえ。」【鈴鹿御前】 「なぜだ?あなたもわかっているはずだ。これ以上この島で消耗しても意味がないと!十分だ、もう十分だ……」【大嶽丸】 「鈴鹿御前、これは俺の選択だ。都を攻めることも、自害して贖罪することも、ここに戻って魂を鈴鹿山と一体化することも。俺は離れたくねえし、離れねえよ。死んだ海妖の魂は海に戻る。俺は海から生まれ、鈴鹿山に育てられた。俺はここに残り、ここをずっと守っていたいんだ。」【鈴鹿御前】 「でも鈴鹿山はもう……元の姿には戻せないんだ。」【大嶽丸】 「わかった。」【鈴鹿御前】 「このまま消耗し続けると、あなたの魂は鈴鹿山と一緒に消えてしまうぞ!それでも、手放さないのか?」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「……この!頑固なやつめ!」【大嶽丸】 「俺はお前の「弟」だからな。ゴホゴホ…」【鈴鹿御前】 「あなた……わかった、お互い一歩譲ろう。我々は引き続き島の悪霊を制圧する、あなたは休んでくれ。残るか去るかは、あなたの力が回復してからにしよう。その間、私も他の方法を探し続ける。私と口喧嘩できるようになってからにしろ。」【大嶽丸】 「分かった。」島の東の街で、荒れた地面が裂けはじめた。紫の血管のような裂け目が、鈴鹿山に蔓延しつつある。【風狸】 「やはり、ここもこうなったか。この数日で島を大体回ってきた、おおよそのことはわかったぜ。10日以内……ううん、5日以内か?鈴鹿山はもうもたなくなるだろう。よかった、よかった。数日遅れていたら、ここには何も残っていなかったかもしれない。参ったな、鈴鹿御前にどう報告すればいい?」【???】 「……」 |
5日目(10/25)
【蟹姫】 「うん?若様だ!」【久次良】 「若!どうしてここに!」【大嶽丸】 「しーっ…俺はもう眠らなくていい。鈴鹿御前と海鳴は心配しすぎだ。」【蟹姫】 「尻尾のやつに内緒で、海を見に行こうよ!」【大嶽丸】 「尻尾のやつ…さあ、海辺に行こう。」【久次良】 「若、本当にご無事で?」【大嶽丸】 「ああ。お前たちが悪霊を制圧し、陣眼に霊力を補充してれくたおかげで、今の俺は結界を維持できる。」【蟹姫】 「若様に良くなってもらうために、蟹姫が悪い奴を全員追い払ってくるわ!」【大嶽丸】 「蟹姫、ありがとう。……誰だ!」【風狸】 「えい、俺だ。こっそりあんたたちの仲間を守るって言っただろ、鈴鹿山出身じゃないってだけで敵視するなよ。刀を向けられるのはこれで二度目だ、怖い、怖い。」【大嶽丸】 「二度目……」【風狸】 「どこ行くんだ?俺も一緒に行くよ。」【蟹姫】 「尻尾のやつに内緒にできるなら、私たちが連れて行ってあげる。」【風狸】 「いいよ。鈴鹿山に来て数日経ったが、まだちゃんと回ってないな。今日はサボろう。」【蟹姫】 「変わった色だけど、やっぱり鈴鹿山の砂浜は最高!」【久次良】 「気をつけろ、あっちは……」【風狸】 「遠くに行っちゃたな。俺たちは船で来たが、道中カニちゃんはよく眠れなくて、元気がないんだ。鈴鹿山についてから、厳しい環境の中で戦いを続けていたから、彼女はよく眠っている。夜のいびきのことだけで、サソリちゃんは何回も俺に文句を言ってきた。鈴鹿山はあんたたちにとって、本当に大切な場所なんだな。」【大嶽丸】 「ええ……だから俺は帰ってきた。だから、彼らは帰ってきた。」【風狸】 「裏にある理由はすこし違うと思うがな。」【大嶽丸】 「何のことだ?」【風狸】 「たまには他の場所を回ってみたらどうだ?ま、俺とお前は親しいわけじゃないし、直接話すよ。時々、お前は自分のことを軽んじすぎてる。それに……細かいことにこだわりすぎだ。いつまでもそんなんじゃ、皆がすごく心配するぜ。」【大嶽丸】 「……」【蠍女】 「ここにいたのか?大嶽丸、あなたがまたいなくなったと思って、主人がずっと探している。」【大嶽丸】 「……「また」。」【蠍女】 「とにかく、これ以上主人を心配させないで。」【風狸】 「サソリちゃんも、実は大嶽丸のことを心配してるんだろ。素直じゃないな。」【蠍女】 「(何とかこいつを処分しなければ。)」【蟹姫】 「若様!一緒に遊ぼう!!」【大嶽丸】 「蟹姫、そろそろ戻るぞ……戻らないと、「尻尾のやつ」が怒るぞ。」戻った後、大嶽丸が厳密な守護結界をこっそり抜け出したことに、鈴鹿御前は非常に怒っている。【大嶽丸】 「……この島には、まだ何かが存在している。おかしいのは果たして鈴鹿山か、それとも…………俺自身?」【海鳴】 「若、まだ起きておられますか……?」【大嶽丸】 「…言え。」【海鳴】 「ついさっき、わしは島の霊力の波動を感じました。海岸のほうから……あなたは鈴鹿御前様には秘密で、何を調査しているのですか?」【大嶽丸】 「大した事じゃない。彼女に心配をかけたくねえだけだ。」【海鳴】 「お役に立てるのであれば、わしは必ず……」【大嶽丸】 「いらねえ。」【海鳴】 「若、わしはそれ以外に望むことはありませぬ。」【大嶽丸】 「「他に求めるものはない」か?海鳴、もし……」鯨骸岩礁の近くで、鈴鹿御前はまた瘴気を駆除した。【鈴鹿御前】 「風狸、今の状況は?」【風狸】 「西海岸は沈み続けている、明日には完全に沈んでしまうだろう。鈴鹿山の崩壊が加速してる。」【蠍女】 「主人、昨日悪霊の侵攻の合間に、ご命令通りここの御神木を調べました。ご推測の通り、我々が毎晩の戦いで守り抜くことができたとしても、あれは枯れ続けます。」【鈴鹿御前】 「御神木が枯れるのは、悪霊のせいではない。御神木に補充されていた霊力が消えた……いや、消えたのではない、どこかに流れたんだ。霊力を集めるには、やはり島中央にある鈴鹿山が最適だな。今麓のあたりを調査したが、法陣らしきものは見当たらなかった。陰陽師晴明にも聞いたが、心当たりはないようだ。わかるのは、今の状態は長く続かないということだけだ。鈴鹿山が完全に崩壊する前に、彷徨っている悪霊を全て排除しなければならない。さもないと汚染を制限する結界も、大嶽丸の魂も、鈴鹿山と共に消滅する。」【風狸】 「うわ、この古樹たちは本当に色々背負ってるな。でもさ、俺が御神木に補充した霊力が、誰かの所に流されることはないか?」【鈴鹿御前】 「風狸、私は言ったはずだ。大嶽丸は……」【風狸】 「これは合理的な疑いだ。それに、俺の直感は外れないよ。それに、これは元々「よそ者」の俺に頼んだことだろ?」【鈴鹿御前】 「……あなたの言う通りだ。以前大嶽丸の身分を疑ったことがある。だが今は断言できる、彼が大嶽丸だ。」【風狸】 「ふむ、これについては、お前と同じ意見だ。彼は偽物には見えないな。」【蠍女】 「主人、これから我々はどうすれば?」【鈴鹿御前】 「調査を続けよう。どんな手掛かりも見逃すな。もし……」 |
6日目(10/26)
闇から聞こえる岩が裂ける音が、だんだん近くなる。何かを促しているようでもあり、終わりを告げているようでもある。【声】 「あなたは去るべきだ。これは誰もが望んだ結末だ。でなければ、待っているのは、消滅だけ。」【大嶽丸】 「鈴鹿山に何か仕掛けたのは、お前か?正体を見せるのが怖いのか?」【声】 「違う、私はあなたの敵じゃない。」闇は再び静かになった。【大嶽丸】 「……海鳴か?出てこい。」【海鳴】 「若、わしです。あなた様が昨日行かれた海辺付近を調査しました。あ……あなた様は鈴鹿山で何をしたのですか?」【大嶽丸】 「お前は知らなくていい。」【海鳴】 「若!あなた……あなた様は自分の力を、魂と共に、鈴鹿山各所に分散し続けています!若、一体何をなさるつもりですか?」【大嶽丸】 「……お前は知りすぎている。」【海鳴】 「あの四本の古樹は、すでに自力で回復することはできませぬ。毎晩、激戦の後に御神木が回復できるのは、あなた様のおかげです。あなた様が被害を負った御神木に力を注入していなければ、奴らはとっくに死んでいたかもしれませぬ。ですがこのままでは、あなた様は……」【大嶽丸】 「それ以上言わなくていい。御神木は瘴気の侵食を防ぐことができる、結界を維持するために、俺はそうするしかねえんだ。」【海鳴】 「どうして鈴鹿山の状況を我々に教えてくれないのですか?鈴鹿御前様と一緒なら、あるいは……」【大嶽丸】 「いらねえ。彼女が俺に代わってしてくれたことは沢山ある。こんな細かいことを彼女に言う必要はねえ。」【海鳴】 「しかし……」【大嶽丸】 「海鳴。」【海鳴】 「わしは…わしはわかりました。」【大嶽丸】 「休むといい。じきに、全て終わる。」【海鳴】 「はい…」漆黒の夢が再び襲いかかる。【大嶽丸】 「またお前か?くだらない決まり文句をいくら言っても無駄だ。何を言っても無駄だ。俺は鈴鹿山を手放さない。」【声】 「……嘘をついている。自分の力を鈴鹿山の各所に分散すると決めた時から、あなたは変わった。「結界を維持するため」?「鈴鹿山を手放さない」?これは嘘だ。あなたは心配している。鈴鹿山に起こりうることについて、心配している。あなたは、自分の家族があの見えない敵に傷つけられるのが怖いのだ。その時が訪れぬよう、万全の準備をしておいてくれ。鈴鹿山各所に分散している力で、お前に鈴鹿山を壊滅させることができる!」【大嶽丸】 「……」【声】 「あなたは動揺している。あなたの心の中で、一番重要な存在はとっくに鈴鹿山ではなくなったのだ。」【大嶽丸】 「不測の事態に備えるだけだ。」【声】 「もう十分だ。あなたの疑いがすべてを説明している。死後にも執着を忘れなかった「大嶽丸」、死の深淵を抜けて故郷に帰った「大嶽丸」…今、鈴鹿山を破壊する準備が整った。認めろ、お前にとって、鈴鹿山よりもあの者たちのほうが大事だということを!」【大嶽丸】 「お前は一体誰だ!」【声】 「私はあなたの敵ではない。私は、ずっとあなたのことを見ているだけの存在にすぎない。長い、長い時間が、ようやく終わる。」暗闇の中に僅かな光が閃き、そして一瞬で消えてしまった。鈴鹿山の向こう側、水源地付近の島守りの法陣がある所。【鈴鹿御前】 「風狸の言う通りだな、ここも崩壊している。三日以内に、鈴鹿山は完全に崩壊する。逢魔が時には悪霊の勢いが増していたが、この数日巣を殲滅した効果が出たようだ。明日さえ持ち堪えることができれば、奴らを徹底的に制圧できるはずだ。あとはどうやって大嶽丸の魂を……」【八百比丘尼】 「鈴鹿御前様は、ここで何をしているのですか?」【鈴鹿御前】 「相変わらず神出鬼没だな。……八百比丘尼……」【八百比丘尼】 「あら?私がどうかしましたか?」【鈴鹿御前】 「いや、なんでもない。やはり、私も決心しなければ。近頃、昼の悪霊が活発になっている。気をつけて……」【八百比丘尼】 「あら、そんなに急いでどちらへ?あなたのお役に立てるのであれば、何よりです。私にとって、あなたは最も重要ですから。」 |
7日目(10/27)
【鈴鹿御前】 「また出てきたのか!大分良くなったか?」【大嶽丸】 「ああ。巣の悪霊はほとんどお前たちに制圧された、俺も結界を固めるための力は十分にある。もう毎日眠る必要はない。だが、奴らも気づいてるみたいだ。奴らの侵攻は、今夜が最後かもしれない。」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山の悪霊の正体は何なのか知っているのか?」【大嶽丸】 「俺は知らねえ。いや、薄々気づいたかもな。死んだばかりの頃……これは事実だ、そんな顔するな。俺が死んだばかりの頃、周りは真っ黒で、何もなかった。そしてすぐに無数の慟哭が聞こえてきた。俺はそんな慟哭の中を彷徨い、少しずつ意識を取り戻した。目を開けたら、俺は鈴鹿山に戻っていて、既に鈴鹿山と一体化していた。」【鈴鹿御前】 「この悪霊たちが慟哭してるのか?」【大嶽丸】 「多分な。奴らが何故泣いているのかはわからない、だが奴らが鈴鹿山から生まれたことだけは確かだ。奴らを制圧し、撃破することはできるが、奴らのためにできることはねえ。」【鈴鹿御前】 「彼らのことを理解する必要はない。あなたは昔からそうだった……必死にしがみつくのではなく、手放したほうがいいものもある。」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「あなたが小さかった頃のように、疲れて倒れたら、みんなが面倒を見なければならない。その性格は直したほうがいい。もう少し私たちに頼っていいんだぞ。」【大嶽丸】 「「支え」?俺の覚え間違いなのか?鈴鹿山での仕事はすべて俺に任せて、木材を持ち出し洞窟で船を造っていたのは誰だ?「早く、頼りになる鈴鹿山の若になれ」とは言うが、実際は自分が面倒だっただけだろう。」【鈴鹿御前】 「造船と言えば……戦闘時に妖力を制御できず、敵味方の船をまとめて壊した奴がいるな。私が造った船が敵に沈められることはなかったが、いつもあなたの戦闘に巻き込まれている。戦に勝ったら、戦利品を担いだまま波に乗って、鈴鹿山に戻るしかない。」【大嶽丸】 「「戦利品」とは、変わった形をしているあれか?海に出て宝探しをするたび、置いてあるものを指して「全部もらう」と言うのは誰だ?最後に宝物を抱えてくれたのは誰だ?あそこに、お前が宝物を置いている木の家が見える。」【鈴鹿御前】 「……」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「はははははは。」【大嶽丸】 「たくさんの思い出が、鈴鹿山に刻まれている。」【鈴鹿御前】 「違うんだ、大嶽丸、そうではない。思い出が鈴鹿山に刻まれたのではない、鈴鹿山が思い出に刻まれたのだ。消えても消えなくても、ずっといる。」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「せっかくの良い景色だ、この話はもうよそう。」【大嶽丸】 「今夜は厳しい戦いになりそうだ。」【鈴鹿御前】 「大丈夫、皆がいる。」【大嶽丸】 「ええ……」 |
麓海終焉(戦闘前)
【鈴鹿御前】 「終わった……」【麓銘大嶽丸】 「ああ、終わった。」【鈴鹿御前】 「悪霊は今、島の下で完全制圧されてる。そろそろこれからのことを考えるか。」【麓銘大嶽丸】 「……そうだな。」【鈴鹿御前】 「大嶽丸、あなたが鈴鹿山のためにすべてを投げ出すのは見たくない。だから……」【麓銘大嶽丸】 「ようやく終わった……」【鈴鹿御前】 「あ……ゴホゴホッ……大嶽丸?あ、あなた何を……した?」【麓銘大嶽丸】 「戦いと共に、終わるものがある。例えば、お前たちの命。」刀は鈴鹿御前の胸から引き抜かれ、血が空を舞う。【鈴鹿御前】 「大嶽丸!違う、あなたは大嶽丸ではない……何者だ?」【「大嶽丸」】 「俺は大嶽丸だ。我々はついに大嶽丸になった、と言うべきか。」【鈴鹿御前】 「何のことだ?」【「大嶽丸」】 「はははははは……」【蠍女】 「主人!!!」【風狸】 「鈴鹿御前、何があった?!」【蟹姫】 「わ…若様?若様なの?」【久次良】 「蟹姫、危ない!」【「大嶽丸」】 「冷てえな、若に対してそんな態度を取るのか?」【晴明】 「彼の見た目は確かに大嶽丸だが、気配が違った。下がれ。」【鈴鹿御前】 「ゴホゴホッ……あなたは……」【蠍女】 「主人、もう話さないで!い、今治療を……」【八百比丘尼】 「少し緩めてください、私が代わります。」【鈴鹿御前】 「待て……ケホ、あ、あなたは一体誰だ!大嶽丸はどこに行った!!」【「大嶽丸」】 「お前の目の前にいるぞ。長かった。やっとこの日が来たんだ。蟄居した甲斐があった。我々はようやく……「大嶽丸になることができた」。これで俺たちを縛るものはなくなった!はははははは…」【晴明】 「「我々」?」【久次良】 「若に何をした!」【「大嶽丸」】 「はははは……あ?まだいたのか?さっさとくたばれ。」島の奥から強烈な震動が伝わり、鈴鹿山に充満した瘴気が「大嶽丸」を中心に集まる。御神木の光が弱くなり、最後は闇に飲み込まれた。【八百比丘尼】 「まずはここから離れましょう!」【蟹姫】 「でも……」【海鳴】 「若は言いました。悪霊は鈴鹿山から発生し、鈴鹿山がある限り、消えることはないと…彼、彼は言いました、彼の魂は今鈴鹿山と一体化していると。若の魂が鈴鹿山に憑依しているように、あの悪霊たちも鈴鹿山の一部なのです。」【鈴鹿御前】 「海鳴!何を言っているのだ!こいつが裏で悪霊を操り、御神木を攻撃していたのか?!」【海鳴】 「この「若」は、島の悪霊の集合体です。」【蟹姫】 「でも、もしそうだったら、私たちが追い払ってる悪い奴らは一体何なの?私たちはずっと若様を傷つけていたの?!」【鈴鹿御前】 「違う……蟹姫、彼は大嶽丸ではない。」【???】 「ははははは、そうだ、我々は大嶽丸ではない。だが我々は己の努力で、やっと大嶽丸になれたのだ。鈴鹿御前、大嶽丸を復活させる方法について悩んでいるのか?肉体は消失したが魂は不滅だ、だからこそ鈴鹿山に憑依し、また鈴鹿山に束縛されている。だが我々は彼の魂のために、新たな憑依物を生み出した。」【海鳴】 「何のことだ?」【???】 「ここが鈴鹿山か。ここに留まるより、鈴鹿山を使って新しい体を創ったほうがいい。」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山を使って体を造るだと?あなたは……」【???】 「そして結界を破壊できる力と、好機さえあれば……我々はやっと自由になった!「大嶽丸」が帰ってきて、鈴鹿山の存続が保たれた……はははははは。」【海鳴】 「なるほど……そういうことか……悪霊は新たに体を造り、結界の束縛から抜け出しました。元から若の魂は悪霊たちと対抗しています。若の力が弱まっている隙に、奴らはあの体を駆使して、若の魂を……飲み込んだのか?!」【???】 「正解だ、「海鳴先生」。」【鈴鹿御前】 「「体を造る」?いつの間に……まさか?!鈴鹿山の崩壊は、貴様が……」【???】 「ああ。我々の体は鈴鹿山の最も頑丈な岩石より造られ、我々の力は鈴鹿山の瘴気から吸い取っているのだ!まったくしつこい奴らめ、迷惑なんだよ。でも当然、我々のほうが勝るがな、はははは。大嶽丸が構築した結界はとても堅固だ。通常の状態では、我々は鈴鹿山を出られない。ましてや単独であの木々に近づくことなどできるわけがない。あの木々の近くに力を吸い取るための裂け目を用意してなかったら、完全にお前たちに圧倒されていたかもしれない。」【晴明】 「「裂け目」?やはり島の御神木は、とっくに侵食されていた。」【鈴鹿御前】 「あのいくつかの裂け目のせいで、御神木に注入された霊力がよそに流されてしまったんだ。」【???】 「その通り!今の我々は十分な力を蓄えた!」【海鳴】 「なぜわしらは気づかなかったのだ……」【???】 「どうした?思い出せないのか?そこの鈴鹿御前、お前が島に着いた時、私が苦労して導いてやったんだぞ。その後お前は本物の大嶽丸を見つけたが、我々の目的は既に達成した。どうだ?俺たちはうまく騙しただろう、「姉さん」?」【鈴鹿御前】 「島に着いた時に出会った、時々消えてしまう大嶽丸…おかしな感覚は不完全な記憶のせいじゃない、それは……あの「大嶽丸」は貴様がなりすましていたに違いない。」【風狸】 「ほう?なるほど、大嶽丸が俺のことを覚えていないわけだ。あの時殺気を撒き散らして、俺と鈴鹿御前を殺そうとしたのは、「お前」だ。」【鈴鹿御前】 「この偽者め!大嶽丸を返せ!!」【悪霊怨骸】 「お前ごときが、我々に勝てるとでも思っているのか?今更鈴鹿山に戻って、何ができるというんだ?」【鈴鹿御前】 「何をするか?もちろん……大嶽丸を奪い返すのさ!」【悪霊怨骸】 「ははははは、まだ夢を見ているのか?鈴鹿山は既に死んだ、「俺」もとっくに死んだんだ!」【鈴鹿御前】 「黙れ!!!」【悪霊怨骸】 「この顔に向かって、本当に手を下せるのか?俺の「姉」よ……」【鈴鹿御前】 「貴様!大嶽丸の顔でそんな表情をするな!」【悪霊怨骸】 「お前たちがしていることはすべて無駄だ。「私」は離れたくないのなら、わざわざ「私」を連れて行く必要はなかろう。痛い、とても痛い!!残って我々に付き合え。「姉さん」。」【鈴鹿御前】 「あなたは大嶽丸ではない。」【悪霊怨骸】 「残れ、永遠にここに残れ……」【鈴鹿御前】 「ゴホ…あああ…あなたの力は枯渇しないのか?!」【悪霊怨骸】 「鈴鹿山にいる以上、我々は負けないのだ。この一撃で、終わりだ!」【海鳴】 「鈴鹿御前様!!!」【蠍女】 「主人!!!!」【悪霊怨骸】 「消えろ、鈴鹿山の旧主よ!……手が…な、なぜ…止まった…」刀は鈴鹿御前の前で留まり、振り下ろされなかった。一筋の光が瘴気を打ち抜き、妖気が金色の稲妻に伴って鈴鹿山の各所から溢れ出し、悪霊怨骸に襲かかる。あの妖気の色は鈴鹿山に溢れている瘴気に似てるが、海国一行をそっと敵から隔てくれる。【悪霊怨骸】 「うう……くっ、私の頭が……わ、我々は……鈴鹿山、いや……鈴鹿…御前…消えろ!!ああ……」【鈴鹿御前】 「こ……これは……」【蠍女】 「主人!その怪我!!」【鈴鹿御前】 「私は平気だ。彼は迷ってるのか?この妖気、どこか懐かしい気が……大嶽丸!大嶽丸だ!!」【悪霊怨骸】 「ああああああ…邪魔だ……」【鈴鹿御前】 「下がれ!あいつから離れるんだ!大嶽丸の魂は、まだあの体の中にある。海鳴、大嶽丸を救い出す方法はわかったのか?」【海鳴】 「若……若は、自身の魂を鈴鹿山各所に分散させていたのです。わしの推測にすぎないですが……奴らは己の体は鈴鹿山より形成し、鈴鹿山から力を吸い取っていると言っております。霊力と繋がる御神木を破壊し、彼の力の源を切り離すことができれば……彼の力を弱め、若の魂を解放できるかもしれません。しかし、そうすれば、鈴鹿山はもう…」【鈴鹿御前】 「……わかった。」【蟹姫】 「……何をしようとしてるの?尻尾のやつ、いや、鈴鹿御前!……若様、若様はみんなと約束したの、みんなと一緒に帰るって!若様は鈴鹿山が大好きだ、誰よりも鈴鹿山のことを気にかけてる!もう一度方法を考えよう、悪い奴さえ倒せば……」【蠍女】 「私たちはもうとっくに帰れないよ。」【鈴鹿御前】 「ええ……大嶽丸、あなたはこれを残した、つまりあなたもそう望んでいるということだろう。」地面が裂け、妖気が割れ目から溢れ出し、山は重圧がかけられているかのように震えている。【鈴鹿御前】 「おい、あなた!」【悪霊怨骸】 「…………」【鈴鹿御前】 「あなたもわかっているだろう。あなたたちが想像する「大嶽丸」になったとしても、鈴鹿山が変わることはない。だから……戻ることのできない鈴鹿山を守るより、全身全霊で、まだ取り戻せるすべてを…………全て取り戻す!大嶽丸、これが最後かもしれないな。鈴鹿山に別れを告げ、そして…………私と共に戦おう!!」鈴鹿御前の長刀が、躍動する稲妻を纏う。鈴鹿御前は冥弓を引く。矢は雲を打ち抜き、澄んだ空が顔を出す。【鈴鹿御前】 「こんな無茶なやり方で……あなたの目が覚めたら、また煩く言われるだろうな。その時には、あなたの文句を聞いてあげよう。どうせ、私のわがままにはとっくに慣れているだろう。私はあなたの「姉」だからな。」【悪霊怨骸】 「貴様…」電光を纏ったの矢が、この荒れた島に落ちた。過去の記憶も、美しい夢も、島と共に潰された。【悪霊怨骸】 「よくも!!鈴鹿山を壊す、それがどうした?我々はあれを永遠に残す……ああ、そうだ、これでいい……我々と一つになりさえすれば……そうすれば、大嶽丸も、鈴鹿山も、皆ずっと一緒にいられる!!」【鈴鹿御前】 「一体何を言っている?」島は揺れている。碎石、瓦礫、残骸、折れた枝……鈴鹿山のすべてが、彼に吸収されてゆく。【悪霊怨骸】 「お前たち、全員残れ!!」徘徊する悪霊は鈴鹿山の岩石を利用して、大嶽丸を模して自身の体を造った。奴らは鈴鹿山から力を吸い取り、凄まじい強さになった。大嶽丸一人では制圧しきれない。悪霊の力の源を断ち切るために、鈴鹿御前は島を打ち砕き、鈴鹿山は海に沈んだ。しかし悪霊は鈴鹿山の残骸を残らず吸収し、皆に襲いかかる。大戦は一触即発だ。帰麓の銘、旧海の約束。思い出と往事にあふれる旅は、もうすぐ終着点を迎える。それは……麓海最終戦! |
麓海終焉(戦闘中~戦闘後)
【鈴鹿御前】 「海底に沈んだが、やはり徹底的に倒さねばならないのか?」【海鳴】 「あなた様と若、二人の攻撃が確かに効いています。彼らが鈴鹿山の切り離された部分を強引に自分と合体させるのは、力を得るためであり、同時に自分を守るためでもある。」【鈴鹿御前】 「それで、次はその身にあるものを全て排除するのか?本当に迷惑な…」【蟹姫】 「あれは…若様?」【鈴鹿御前】 「いや、これは鈴鹿山に生まれた化け物、鈴鹿山の無数の悪霊を取り込んで生まれた化け物だ。大嶽丸の魂は、きっとまだあの中で眠っているはずだ。そう、その通りだ。やつは鈴鹿山と繋がっている。蟹姫、怖いか?」【蟹姫】 「蟹姫は…蟹姫は若様を傷つけたくありません。」【鈴鹿御前】 「じゃあ私たちは大嶽丸を傷つけない。ただ私達の邪魔をするあれを追い払うだけ。これでどうだ?」【蟹姫】 「……よし。蟹姫、頑張る!」【鈴鹿御前】 「いい子だ。」【海鳴】 「鈴鹿御前様!お気をつけください!わしは術を使って、若…あの者の精神を動揺させてみせます、どうかその隙に外部の岩石を砕いてください!」【鈴鹿御前】 「なるほど、わかった。」【久次良】 「力を貸します!必ず若を助け出してください!」【蟹姫】 「絶対にあの悪いやつを倒す!」【蠍女】 「主人を傷つけるやつは、許さない!!!」【風狸】 「やれやれ、俺は水の中で戦うのはあまり得意じゃないけど…」【海鳴】 「若、とうとうここまで来ました。わしは…」【鈴鹿御前】 「ちっ、彼の行動を制限できない限り、まともに傷を負わせることができない…久次良、後ろに……!!」【久次良】 「ゴホ、俺は…大丈夫だ。」【鈴鹿御前】 「蟹姫、蠍女、防御に集中しろ、海鳴を守り抜け!」【海鳴】 「ゴホゴホ、わしは大丈夫です…」【風狸】 「おい、鈴鹿御前、このまま消耗戦を続けるのは得策じゃないぞ。みんなの体力には限りがあるし、俺とサソリちゃんは水中での戦いが苦手だ。その体はとっくに限界だろう。このままじゃやべえことになるな…」【鈴鹿御前】 「私がやつの注意を引くから、隙を見て撤退しろ!久次良、海鳴を連れて…海鳴?海鳴、何をしている!近すぎる、巻き込まれるぞ!」【晴明】 「あの術は…心魔幻境か?」【鈴鹿御前】 「かつて海鳴が大江山の戦いで使った術か?彼の体はあんな状態だ、これほど大掛かりな術を使えるはずがない。」心魔結界が海底に展開され、海鳴は前に倒れそうになりながら、巨大な悪霊怨骸の前に立ちはだかる。【海鳴】 「若、これはわしが唯一できることです…」【悪霊怨骸】 「うああああ…ああ…」【海鳴】 「若様、本当にありがとうございます…わしはあなた様のことを騙していたのに、あなた様はまたわしのことを信頼してくれました。」数日前…【麓銘大嶽丸】 「海鳴、もし俺に何か想定外のことが起きたら、お前が俺を止めるんだ。」【海鳴】 「何をおっしゃるのですか?!「想定外」とは?」【麓銘大嶽丸】 「鈴鹿山にはまだ俺も知らない「何か」がいる。全ての要は俺にあると薄々気付いたが、俺は今目覚めたばかりだ。悪霊の攻撃、御神木の衰退、これは同じ目的を示しているのかもしれない。こんな訳の分からないことは、蟹姫達に知られてはならない。海鳴、これは俺のお前に対する信頼で、同時に…お前への罰でもある。お前はいつも注意を払いながら生きていかなければならない。鈴鹿山と仲間達の全てに気をつけるんだ。もし俺が暴走したら、俺を止める、或いは殺す役目はお前に任せる。そして俺を殺した罪も、お前が背負うことになる。お前は罪悪感と絶望の中で永遠に生きなければならない……それはお前の鈴鹿山に対する償いだ。」【海鳴】 「…わかりました。」 【海鳴】 「ゴホゴホ……これは唯一、わしにできることです。よかった、本当によかった、わしはようやくこの時を迎えることができました。わしはようやく……あの世に行けます。若、あなた様がわしのことを信じて、広い海に居場所を造ってくれました。鈴鹿御前様、あなたはわしに情けをくれ、罪深いわしを今日まで生かしてくれました。わしはようやく若に尽くすことのできる機会を得ました。幸い、まだ遅くはありませぬ……悪霊が集合した存在よ、その手足は自分自身に縛られておるぞ。」【悪霊怨骸】 「ぎゃああああ!あああ…あ…」【海鳴】 「ほら、本当の鈴鹿山の主は、あなたの卑劣な束縛から抜け出そうとしている。「心魔幻境は人の心底にある弱点を映し出す」。あなたの弱点は、自身の存在そのものです。あなたは悪霊を制圧する若を怖がっている。そして、本物の大嶽丸は蘇る!」【悪霊怨骸】 「ああああ……あ……海……鳴……」【海鳴】 「ゴホゴホ…ゴホッゴホゴホゴホ…若、わしはようやく……」【麓銘大嶽丸】 「海鳴………………」【悪霊怨骸】 「ぐあああ…あああ…海鳴…大嶽丸…」【鈴鹿御前】 「海鳴!!!」【海鳴】 「ゴホゴホ、もうはっきり見えぬ…鈴鹿御前様、わしの術は成功しましたか?若は目覚めましたか?」【鈴鹿御前】 「あなたの術は成功した。あいつの攻撃が遅くなった、大嶽丸が彼を抑えている!あなたは…もう…」【海鳴】 「よかった、本当によかったです。若、若が消えてから、わしは毎日のように後悔に苛まれております…あなた様に生き残れと命じられたので、わしは勝手に死ぬようなまねはできません。てっきり、ゴホ、てっきり鈴鹿御前様なら、必ずわしを死刑に処してくださると思っていましたが。まかさわしはまたしても許され、今日まで生き延びるとは思いませんでした。今、わしはようやく…あの世に行けます。若、どうか罪に縛られませぬよう、どうか生まれ変われますよう…あなた様が再びあの青く自由な海に戻れますように…」【麓銘大嶽丸】 「……お前はかつてあんなことをした、例えお前が死んでも誰も悼まない。しかし、我が先生よ、安らかにお眠りください。」【鈴鹿御前】 「海鳴、あなたは…」【蟹姫】 「ううううう……」【鈴鹿御前】 「蟹姫!!後ろだ!!!(この距離、間に合うだろうか…)」【蟹姫】 「うわああ、若様助けて!と、止まった?若様?若様、若様なの?!」【麓銘大嶽丸】 「あぁ、俺だ。俺がやつを抑える、お前らは思う存分攻撃しろ!最後は、俺が全てを終わらせる。」【蟹姫】 「うまくいった?」【久次良】 「気をつけろ!最後まで油断するな!」【麓銘大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「大嶽丸、あなたは…」【悪霊怨骸】 「ぐあああああ…我々は…消えろ!全て消えろ!!!我々は永遠に……我々と一緒に…留まれ…」【麓銘大嶽丸】 「まだ諦めないのか?ふん、こんな姿でも、まだ自分が「大嶽丸」だと思っているのか?笑止。」【悪霊怨骸】 「あああ…止まれ…」【蟹姫】 「うわ!!海底が…海全体が震えてる…」【久次良】 「上に注意を!あれは…あれは何だ?」【八百比丘尼】 「あれは…鈴鹿山の岩ですか?島ごと投げてきたのでしょうか?本当に懐かしい戦い方ですね。」【風狸】 「やれやれ、今回ばかりは避ける自信がないな…」【鈴鹿御前】 「ゴホゴホ、くっ…刺し違えるつもりか?そうはさせぬ。鈴鹿山はすでに一度沈めたんだ、もう一度…」【蠍女】 「主人!!傷が!!!」【鈴鹿御前】 「ゴホゴホゴホ…だめだ、このままでは…私がやらなければ………………大嶽丸?」海に沈む鈴鹿山の残骸が皆に向かってきたが、なぜか水中で止まった。微かな光を纏う結界が起動する。次の瞬間にも破られそうなその結界は、しっかりと巨石を掴んでいる。【麓銘大嶽丸】 「後は俺に任せろ。」【鈴鹿御前】 「大嶽丸?大嶽丸!!!!どこに行くんだ!!」【麓銘大嶽丸】 「……」【悪霊怨骸】 「………ああ…ああああ…大…嶽丸…」【麓銘大嶽丸】 「ふっ、喋る気になったか?ようやくお前とこんな風に会話できたな、殴られるのは気分がよくないだろう。」【悪霊怨骸】 「……」【麓銘大嶽丸】 「お前の企みは全て無意味になっちまった。何せ、あいつらはただ者じゃない。」【悪霊怨骸】 「彼らは…お前を救いに来た。お前は我々と合体すれば、復活できるんだ…そうすれば彼らのそばに居てやることもできる…」【麓銘大嶽丸】 「ありえねえ。俺の記憶を見すぎて、お前達が何なのかすら忘れたか?」【悪霊怨骸】 「我々…鈴鹿山…我々はかつてここで暮らしていた…我々は、死んで故郷に戻った…魂だ。」【麓銘大嶽丸】 「いや、お前らは鈴鹿山を彷徨う瘴気にすぎない。俺が失った記憶や、鈴鹿山に刻まれた記憶を自分のものだと思ったんだな。過去も記憶もない、恨みに突き動かされるだけの悪霊だ。これがお前たちだ。海国の民が死ぬと、魂は海に帰る。そんな禍々しい姿になるはずはない。そんな体で鈴鹿山から一歩でも外に踏み出したら、一瞬で消える羽目になる。」【悪霊怨骸】 「消失……鈴鹿山を離れたら、我々が死ぬだと?」【麓銘大嶽丸】 「お前らは片時も生きていなかった。」【悪霊怨骸】 「ハハハハハ…我々は自分の記憶を持っていない、存在したことすらなかった…ただの、ただの瘴気に過ぎない。ああ、思い出した。我々の記憶は鈴鹿山の瘴気から始まっている。我々は本能的に全ての霊力を呑み込むことを望む。鈴鹿山に生まれた時、ここには光がなかった。星がなかった。何もなかった…そして、闇の中からあの記憶が現れた。美しくまばゆい記憶…手放し難い。だから、我々は大嶽丸の記憶を渇望し、「大嶽丸」になることを渇望している…なぜ我々を止める?」【麓銘大嶽丸】 「「なぜ」?俺の鈴鹿山でやりたい放題して、俺の家族まで傷つけた…そのうえで俺がなぜお前らの邪魔をするのかだと?」【悪霊怨骸】 「我々…我々は離れるために…我々は負けていない、負けていない!崩れ落ちた岩石を組み合わせ、力を吸収すれば、まだ…そう、もう一度、お前の魂を……」【麓銘大嶽丸】 「悲しい生き物だ。お前は「大嶽丸」になりたいか?「大嶽丸」は頭を下げねえ、負けは負けだ。その姿、悲しいとしか思えねえ」【悪霊怨骸】 「我々は……」【麓銘大嶽丸】 「俺は鈴鹿山の若、大嶽丸だ。この島、この海、ここの草木の一本一本まで、全て俺に守られている。この鈴鹿山にある全てを、俺は決して手放さない………絶対に誰にも渡さん!」【悪霊怨骸】 「方法が間違っていたとしても、我々はただお前の願いを叶えたいだけだ、お前になりたいだけだ!我々は知っている...お前は既に倒れる寸前だ!さっき無理矢理彼らを助けたから、今のお前は既に魂が砕けた状態だ!仮に我々に呑み込まれずに済んでも、お前はすぐ消える!」【麓銘大嶽丸】 「……ならば望み通りにしてやる。」【悪霊怨骸】 「なっ、なに?」【麓銘大嶽丸】 「お前たちは鈴鹿山に生まれた。お前らは鈴鹿山の霊力を呑み込み、死のような静寂をもたらし、汚泥の中でただ生き長らえている…生きていたことすらないのに。お前らはかつて鈴鹿山で生きていた全てを羨んでいる。お前らは記憶の中の「大嶽丸」に憧れている。鈴鹿山に生まれた悲しい存在、お前もまた鈴鹿山の一員だ。この大嶽丸の家族だ。ならば俺がお前たちを受け入れる、俺がお前たちに居場所を与える!」【悪霊怨骸】 「我々の体が溶けていく!お前、何をしたんだ?!」【麓銘大嶽丸】 「俺の魂と完全に一つになりたいのだろう?ならばやってみろ。」【悪霊怨骸】 「バカな、今のお前が、そんな衝撃に耐えられるものか!お前…狂ってしまうぞ。精神が崩壊し、魂が消失して、お前は本当に死ぬのだ…」【麓銘大嶽丸】 「数万の悪霊を背負う器さえないのなら、鈴鹿山の若と名乗る資格もねえ。俺がお前らを受け入れた。同じく鈴鹿山に宿る存在として、「悪霊」か「大嶽丸の魂」か、その区別はなくなった。お前たちの願いは俺の願いでもあり、お前たちの力は俺の力となる。これで、お前たちも同じ「大嶽丸」になった。」【悪霊怨骸】 「例えその対価としてお前の魂が消滅するとしても、鈴鹿山から徹底的に我々を排除する気か?お前は死ぬぞ…我々には分かる、無数の悪霊を取り込んだ魂は、すぐに消滅する。」【麓銘大嶽丸】 「だから?」【悪霊怨骸】 「お前は我々に居場所を与えたが、この居場所はもうじき消える。お前は…以前から我々と共に地獄に落ちるつもりだったのか?!」【麓銘大嶽丸】 「鈴鹿山を彷徨う悪霊は消え去り、永遠に平和が戻る。」【悪霊怨骸】 「嫌だ!我々は…我々は死にたくない…そう…その通りだ。お前は、お前は嘘をついている!また自分を犠牲にして、鈴鹿山を、仲間たちを救うつもりか。しかし今度は、かつて都にいた時のような断固たるものではないな。お前は躊躇っている、お前には未練がある!だから、やめろ…我々は死にたくない…」【麓銘大嶽丸】 「…………十分だ。鈴鹿山に散らばっている俺の記憶を見たのなら、分かるはずだ。俺はここで育ち、ここに無数の記憶を残した。俺の命、俺の魂、俺の全てを捧げるのに値するのは、鈴鹿山だけだ。」【悪霊怨骸】 「お前は嘘をついている。お前の心の中には、とっくに鈴鹿山よりも重要なものができたんだ。しかし、もう遅い…お前の魂はもうじき完全に消える。我々はお前と共に、すぐに懐かしい死に帰るのだ。大嶽丸、まだ何か未練でもあるか?」【麓銘大嶽丸】 「十分だ。そうだ…俺からしてみれば、十分なはずだ。俺は大嶽丸、鈴鹿山の若だ。全てを尽くして鈴鹿山を守り、鈴鹿山と共に滅ぶ。これが俺が望む全てだ。この海は再び静けさを取り戻し、砕けた鈴鹿山は永遠に深海で眠る。鈴鹿御前はまた彼女の自分勝手な航海を続けられる。久次良はきっといい首領になれる、蟹姫は…蟹姫は泣くかもしれないが、いつか必ずまた笑える…蠍女はこのまま鈴鹿御前についていくことができるし、風狸も暗殺者として生き続けることができる。…こんな結末なら、十分だ。周りは真っ暗で…懐かしい死が降臨した。しかし、なぜ…俺は無意識に……この果てしない暗闇の中で、一筋の光を見つけたい。」【鈴鹿御前】 「まだだ。」【鈴鹿山】 「こんな姿であなたと会うとは、思ってもみませんでした。では一旦彼女の姿を借りましょう。」【麓銘大嶽丸】 「お前は鈴鹿御前じゃない。お前は誰だ?」【鈴鹿山】 「彼女は自分の名前を私に与えました。あるいは、私のことは直接「鈴鹿山」と呼んでもいいかもしれません。」【麓銘大嶽丸】 「……」【鈴鹿山】 「私は鈴鹿山の意志であり、鈴鹿山に住むすべての人の意志でもある。」【麓銘大嶽丸】 「あの漆黒の夢の中で俺と話していたのは、お前なのか?」【鈴鹿山】 「あぁ、俺だ。大嶽丸、鈴鹿山の若よ。あなたが都で亡くなった時、あなたに別れを告げたが、既に遅かった。今回は、あなたと別れたくありません。あなたはよく頑張りました。」【麓銘大嶽丸】 「私は…」【鈴鹿山】 「あなたが鈴鹿山を、家族を守りたいと思っているように。あなたを苦しみから救い出すことは、私たち全員の望みです。あなたは私たちのために全てを捧げました。今度は、私たちの番です。あなたが何度死の深淵に落ちても、私達はそのたびに引き上げます。あなたの魂が砕け散っても、家族の記憶が再びその魂を紡ぎ出します。ですから、たまには皆を頼りなさい。彼らが迎えに来ました。」【麓銘大嶽丸】 「……はい。」【鈴鹿山】 「大嶽丸、私たちのことを覚えていてくれてありがとう。この島もあなたのことを忘れません。」【麓銘大嶽丸】 「「思い出が島に刻まれたのではない、島が思い出に刻まれたのだ。」か?鈴鹿御前、俺たちは全員言い間違えたみたいだな。思い出は島に刻まれ、島もまた思い出に刻まれた。」【蝶】 「若、寝坊はだめです、もう起きてください。」【七人岬・雲】 「おい、若!」【七人岬・生】 「若……」【七人岬・扇】 「若、また我々を宝探しに連れて行ってください!」【七人岬・桑】 「若、若がいないとだめなんです。」【風狸】 「大嶽丸、そろそろ起きる時間だ。」【蠍女】 「大嶽丸、何ぼうっとしている?」【久次良】 「若。」【海鳴】 「若……」【蟹姫】 「若様、早く戻って。」【大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「大嶽丸。」【麓銘大嶽丸】 「……」【鈴鹿御前】 「!!大嶽丸、目覚めたか。」【麓銘大嶽丸】 「お前…どうしてそんな顔をしてるんだ?」【鈴鹿御前】 「……何でもない、傷口が少し疼いただけだ。平気さ。」【麓銘大嶽丸】 「いいだろう、全て…お前が決めろ。ここは?」【鈴鹿御前】 「さっきあなたは眠りに落ちた。そして体が段々透明になっていった…まるで…消えるかのように。その後、海に沈んだ鈴鹿山の岩石が輝き始めて、そこからたくさんの光が溢れ出た。光が消えると、あなたの体が再び現れた。」【麓銘大嶽丸】 「彼らは鈴鹿山の記憶だ。皆が俺の魂を死から引き上げてくれたんだ。」【鈴鹿御前】 「これは私たち全員の願いでもある。」【麓銘大嶽丸】 「……鈴鹿御前、俺はここから離れない。」【鈴鹿御前】 「貴様…今さら何を言っている。」【麓銘大嶽丸】 「昔、お前が鈴鹿山を出る前に、俺はもう誓っていた、この場所を守ると。」【鈴鹿御前】 「誰と?」【麓銘大嶽丸】 「鈴鹿山と。鈴鹿山が俺を救ってくれたように、何があっても俺はここを諦めない。それに、俺の魂はもとより鈴鹿山に宿っている。俺はここを離れることができない。だが約束だ、俺は死なない、鈴鹿山も消えない。もう何も手放さない。だから、力を貸してくれ、「姉さん」。」【鈴鹿御前】 「……そう言われたら、断るのは無理だろう?それに、私はもっと早くこうするべきだった…」【麓銘大嶽丸】 「……?」金色の光が二人の周りから溢れ出て、暗かった結界は再びまばゆい光を取り戻した。鈴鹿山の落石、溢れ出る汚泥、数え切れない思い出は、全てこの澄み渡る海の下に残っている。【麓銘大嶽丸】 「うん、人魚の肉か…?貴重なものだろう。本当に無茶をする…」【鈴鹿御前】 「これくらい大したことない。」【麓銘大嶽丸】 「昔に戻ったかのようだ。俺は鈴鹿山に残る、お前は宝を探しに行け。」【鈴鹿御前】 「ええ……大嶽丸、ここで待っていろ。必ず迎えに来る。じゃあ、出発する。」【麓銘大嶽丸】 「いってらっしゃい。」銀色の結界越しに、大嶽丸と鈴鹿御前はお互いを抱きしめた。水中結界の中、大勢の悪霊達が大嶽丸を取り囲んでいる。彼らは既に大嶽丸の力となり、苦痛から逃れた。【麓銘大嶽丸】 「うん?あの勾玉について聞きたいのか?あの瓊玉には鈴鹿山に転がっている無数の瓊玉と同じで、鈴鹿山の記憶が込められている。八尺瓊勾玉のような神器ではないが、それでも極めて強大な力を持っている。その瓊玉のおかげで、俺の魂は再び蘇った。何を言っている?そう、その通りだ。やつは鈴鹿山と繋がっている。もし鈴鹿御前達が何らかの危険に遭ったら、俺はすぐ感知できる。肝心な時に彼らを助けられるといいんだが。うん?まだ何か用か?俺は逃げない。再び「生き」残った以上、俺はもう何も手放さねえ。責任でもいい、罪でもいい。いや、今回待つのは全然苦しくない。むしろ新しい希望を意味している。…………海の向こうは、本当に遠いな。永生の海に向かう船の上で、鈴鹿御前は鈴鹿山のある方向を望んでいる。」【八百比丘尼】 「……」【鈴鹿御前】 「どうしてそんな目で私を見る?」【八百比丘尼】 「ふふ、あなた達は本当に面白いですね。自分がまだ生きている時に人魚の肉を抉り出して、他の人に食べさせます。これが何を意味しているのか、ご存知ですよね?」【鈴鹿御前】 「大したことないさ。ただ半分の命と力を彼に分け与えただけだ。人魚の一族は元々寿命が長い、この程度大したことない。」【八百比丘尼】 「「寿命」でしょうか?「永生」と言ったほうがいいかもしれませんね。彼の魂は動けないまま、鈴鹿山に留まっています。その魂が消えれば、あなたもすぐ死にます。」【鈴鹿御前】 「鈴鹿山の若様の約束を侮ってはいけない。私と約束した以上、彼は生き残る。心配する必要はない。彼が本当にまた馬鹿な真似をするなら、付き合ってやるまでだ。」【八百比丘尼】 「……」【鈴鹿御前】 「以前は逃してしまった。これからはもう逃したくないんだ。」【八百比丘尼】 「ですから、お二人は本当に面白いですね。これもまた悪くない終わりだと言えるでしょう。」 |
麓海帰路のサブストーリー
八百比丘尼
八百比丘尼・一 |
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少し前。鬼船が崩壊し、皆波が逆巻く海に落ちた。【鈴鹿御前】 「気を付けろ……!!」【八百比丘尼】 「あら、鈴鹿山への旅は、やはり思うようにはいきませんね。ゴホゴホ、こういう時にこそ、不死身の長所を発揮できるのですよ。ではここはどこなのでしょう?鈴鹿山の岸辺に流されたようですね。上がってみましょうか。樹は枯れて死なず、水は凝って枯渇しない。鈴鹿山はこのような状態で存在しているのですか。島の汚染は自然に回復したのですか?ええ……どうやら誰かが、わざわざこんな島を造ったみたいです。」【悪霊虚像】 「ああああああ…人間…魂…」【八百比丘尼】 「残念ですが、あなたの攻撃は効果がないみたいです。これは……虚像?記憶より生まれし影ですか?鈴鹿山の各所にある記憶は、汚染に影響されて、虚像を生み出しました。面白い。……占いの結果は瘴気のせいで見えなくなってしまいましたが、幸い私が待っていた人がもうすぐ現れるようです。島の他の場所を見てみましょう……氷の結晶?いいえ、これは……塩の結晶ですね。この島を創造した人は、塩を使って鈴鹿山を記憶と共に封印するつもりですか?あぁ……生ある者には死がある。死の蔓延を阻止することは、至難の業でしょう。こうして封印したところで、何も実りません。「死」がなければ、「生」も意味を失います。でも、不老不死の私はこんなことを言うべきではないですね。静寂の島、結晶にあふれる世界……どこかで見た光景ですね。」 |
八百比丘尼・二 |
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悪霊の巣を探していた鈴鹿御前は、海辺で八百比丘尼と鉢合わせた。【鈴鹿御前】 「あなたは本当に神出鬼没だな。」【八百比丘尼】 「ふふ、褒めてくださってありがとうございます。未来を見据える占い師が、ぴったりの場所に現れるのは当然のことです。」【鈴鹿御前】 「私に何か用か?」【八百比丘尼】 「あなたのことがすこし心配です。鈴鹿山に着いてから、休んでいらっしゃらないでしょう。急ぐのは結構ですが、無理はしないでくださいね。」【鈴鹿御前】 「分は弁えている。それを言いたいだけなら、私は行く。あそこにはまだいくつか巣があるはずだ。」【八百比丘尼】 「少し気になっているだけです。出発するまでに、大嶽丸を復活させられる確信はない、そうでしょう?鈴鹿山まで来て、ようやく大嶽丸の魂を見つけることができて、あなたは安心しているみたいですね。そこまで心境の変化があったということは、彼を復活させる自信を得たのですね。」【鈴鹿御前】 「……方法を見つけたのではない、希望を見つけたのだ。」【八百比丘尼】 「だから気になっているのです、あなたの言う「希望」とは何なのでしょうか?どうやって大嶽丸を復活させるつもりですか?」【鈴鹿御前】 「今、大嶽丸の魂は、鈴鹿山に憑依している。鈴鹿山が崩壊したら、大嶽丸の魂も消滅する……逆に言うと、適切な体を見つけ出し、それを彼の魂と繋げればいい。もしかしたら、彼を「復活」させられるかもしれない。」【八百比丘尼】 「なるほど。執念深い者だけは、死後に魂が滅びません。魂を失った肉体がどれだけ脆いものか、これでわかるでしょう。適切な体を見つけたところで、どうやってその体に魂を長く定着させるつもりですか?」【鈴鹿御前】 「それは…うん……まあいい、あなたになら、話してもいい。」【八百比丘尼】 「それはつまり……」 |
八百比丘尼・三 |
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【鈴鹿御前】 「私の記憶はある無人島から始まった。家族と故郷についての記憶はとても曖昧だ。長い間海を漂流していたんだ、自分の出身について調査したこともある。」【八百比丘尼】 「それで、結果は?」【鈴鹿御前】 「あなたと同じ肉を食べた……いや、変な言い方になるな。私は人間の伝説にある「鮫人」だ。明確な記憶はないが、血筋が自ずと全てを教えてくれた。」【八百比丘尼】 「……」【鈴鹿御前】 「永生の海に生まれた私は、どこにいようと海の方位を感知できるのだ。それに、海の伝説通り、鮫人は「永生」を人に与えることができる。もちろん、私はあの力を使ったことはない。」【八百比丘尼】 「なるほど。あなたは一言間違えました。すべての鮫人が人を不老不死にできるわけではありません。伝説に伝わる「人魚肉」を食べた人の多くは、寿命が鮫人のように長くになっただけです。人間から見れば、そのような長寿は永生と変わりません。」【鈴鹿御前】 「なるほど。我が同族の肉を食べたせいか?あなたには……いや、なんでもない。鮫人について、他に知っていることは?」【八百比丘尼】 「あなたが鮫人の中で、特別な存在であることも知っています。少数の鮫人だけが、「永生」を人に与えることができます。「永生」の力を与えた瞬間、鮫人自身も対価を払うことになります。」【鈴鹿御前】 「対価……何の対価だ?」【八百比丘尼】 「「永生」の力、万物を維持する肉体と魂。肉体が生きる限り、魂は不滅です。この力を差し出すことは、自分の命を相手と共有することを意味します。」【鈴鹿御前】 「……」【八百比丘尼】 「片方が「永生」の維持を断ち切れば、もう片方も……」 |
八百比丘尼・四 |
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鈴鹿御前と八百比丘尼は、海岸近くで悪霊の巣を探している。【鈴鹿御前】 「懐かしいな。あそこの、あの鳥居は、昔私が鈴鹿山に来たばかりの頃に、大嶽丸と一緒に建てたんだ。信念なんてない、神などどうだっていい。これは都のあちこちにあるから、模して造ってみた。まさか……この鳥居が、今も立っているとは。」【八百比丘尼】 「鳥居は人間と神々の住む場所を区分する建築なんです。海辺に鳥居を建てた鈴鹿山にとって、似たような意味があるのかもしれません。」【鈴鹿御前】 「そうか……そういう意図があったのか。それは…すべてが終わったら、鈴鹿山で新しく造りなおそう。痕……痕……あった。鳥居の柱に幾つか痕がある、誰かが身長を記録したものだ。大嶽丸がやったに違いない。彼は一度も認めたことはないがな。はぁ、やはり子供の頃のほうが可愛いかった。今の彼は……隠し事をしてるみたいだ。」【八百比丘尼】 「彼はあなたに心配させたくないから、黙っていたのかもしれませんね。」【鈴鹿御前】 「そうだな、私も知っている。だがやはり……言葉にしなければ、伝えられないことがあるんだ。」【八百比丘尼】 「では、また今度、彼とちゃんと話しましょう。」【鈴鹿御前】 「分かった。たくさん話したな、そろそろ戦いに戻ろう。東の海岸に行ってみる。八百比丘尼、話を聞いてくれてありがとう。」【八百比丘尼】 「気にするな」【鈴鹿御前】 「やはり、あなたからは奇妙な感じがする。どう言えばいいのか……」【八百比丘尼】 「ふふ、「永生」の力に縛られている者同士の憐れみかしら。」【鈴鹿御前】 「「永生」か……?独りきりの永生は、さぞ寂しいだろう。」【八百比丘尼】 「……」【鈴鹿御前】 「すまない、私の失言だ。あなたの「永生」は独りではない、都の彼らがいる、違うか?」【八百比丘尼】 「ええ、その通りです。」 |
海鳴
海鳴・一 |
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少し前。鬼船が崩壊し、皆波が逆巻く海に落ちた。【海鳴】 「鬼船は一体何にぶつかったのでしょうか……あああ……」【鈴鹿御前】 「海鳴!危ない!!!」【海鳴】 「あああああ……ゴホッゴホ…ここは……鈴鹿山ですか?鬼船から落ちて、島に流されました……これは……なぜ、なぜ鈴鹿山がこんな姿に?!鈴鹿山の環境が、独りでに回復した?そんな、ゲホゲホ……ばかな。わしと若の鈴鹿山の汚染に対する調査はすべて間違っていると言うのですか?どうして……この瘴気は……鈴鹿山から生じて漂う…ゴホゴホ、命を、命を侵食する瘴気と、どこかで知っている妖気。至急鈴鹿御前様を見つけなければ。」【悪霊虚像】 「うああああ……」【海鳴】 「あなたたちは……これは、虚像?海国の民を映し出す虚像……わしの知っている鈴鹿山ではない。わしは人生をかけて鈴鹿山を研究した挙げ句、何もわかっていなかったというのか?」【悪霊虚像】 「おあああああ……」【海鳴】 「もう逃げられそうにありません……これが……運命かもしれません。鈴鹿山で死ぬことができて、わしは満足じゃ……」【???】 「……消えろ。」【海鳴】 「!!!!あなた…あなた様は?!」【???】 「……貴様…」【悪霊虚像】 「うあああ!」【???】 「邪魔だ!」【海鳴】 「これは虚像でも、わしの死ぬ直前の憶測でもありません……あなた様が本当の若です。」【???】 「……」【海鳴】 「どちらへ行くおつもりですか…ゴホゴホ…消えました……鈴鹿御前様の言う通り、ここには確かに若の手掛かりがあります。早急に鈴鹿御前様を見つけねば……ゴホゴホゴホ……」【悪霊虚像】 「ああああ…あああ…」【晴明】 「「言霊・縛」。」 |
海鳴・二 |
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三日前……【海鳴】 「陰陽師……なぜ鈴鹿山に?」【晴明】 「話すと長くなる。悪霊が集まってきた、場所を移動するぞ。」【海鳴】 「……」【晴明】 「この辺の瘴気は弱まっているな、この木が原因なのか?」【海鳴】 「これは鈴鹿山の御神木です。元々鈴鹿山の霊力は御神木の結びつきによって、島各所に分散されています。奴らは、鈴鹿山の汚染が最も深刻な時も生き延びた、数少ない存在だった。」【晴明】 「この上から古き静かな霊力を感じる、非常に微弱だが、とても堅実だ。」【海鳴】 「……わしの記憶が正しければ、あなたは雲外鏡の欠片を浄化するために、よそに行ったはずですが。あなたは一体誰だ……?」【晴明】 「……私は晴明だ。」【海鳴】 「まさか、陰陽道の分身術なのか?紙人形霊符をそこまで使いこなせるとは、やはりあなたは只者ではない。ゴホゴホッ……陰陽師、わしを助けてくれてありがとう。」【晴明】 「森の中の音を頼りにお前を見つけた。今誰と話していたんだ?」【海鳴】 「わしは誰とも会っていません。悪霊が鈴鹿山の仲間の姿で現れたので、わしはつい……」【晴明】 「お前は「鈴鹿山の頭脳」でありながら、虚像と現実の区別もつかないのか?」【海鳴】 「……わしは本当に歳を取ってしまったかもしれぬ。」【晴明】 「まずは他の者と合流することが先決だ。お前はどうだ?」【海鳴】 「わしは平気ですが、他の者がこの瘴気の中で動けるかどうかはわかりませぬ。(鈴鹿山に溢れる瘴気に、懐かしい気配が混ざっている。この気配は、ヤマタノオロチではない、これは……若なのか?)」【晴明】 「どうした?」【海鳴】 「何でもありません、行きましょう。」 |
海鳴・三 |
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鈴鹿御前は水源地の付近を探索し、悪霊の巣を殲滅して隠された宝物を発動した。【鈴鹿御前】 「構わぬ、私が一人で行けばよい。付近の悪霊の巣の殲滅には私一人で十分だ、海鳴は引き続きここに留まってくれ。」【海鳴】 「しかし……」【鈴鹿御前】 「あなたの体はもう長くは持たないだろう。」【晴明】 「この数日間の働きで、鈴鹿山にある瘴気はかなり減った。仲間が増えた分、助け合えることも増えるさ。」【鈴鹿御前】 「はは、晴明らしくない言葉だな。分かった。陰陽道に長けたあなたたちなら、さらに手掛かりを見つけられるかもしれない。」【海鳴】 「鈴鹿御前様……」【鈴鹿御前】 「勘違いするな、あなたがしたことを許したわけではない。しかし大嶽丸があなたたちに生きろと命じた以上、彼の代わりに私が皆を守ってあげよう。行こう、あっちは瘴気が薄い。」【晴明】 「そう。」【鈴鹿御前】 「この近くは……水源地か?鈴鹿山全体で、この付近にだけ、大量の結晶が凝結している。」【海鳴】 「鈴鹿山の汚染は、ここから始まったのです。最初は……最初は気候に異常が生じました。そして島各所の水源が枯渇しはじめました。ここの水源は枯渇していませんが、代わりに…ドス黒い、禍々しい水が流れています。」【鈴鹿御前】 「それはいつのことだ?」【海鳴】 「今思い返せば、あなた様がいなくなった数年後に、汚染の兆しが見え始めました。鈴鹿山で初めて日照りが続きました。ですがあの頃は異常を感じませんでした。そして長い時間が経って、再び異常が生じました。汚染の存在に気づいた時には、もう間に合いそうにありませんでした。」【晴明】 「ヤマタノオロチはお前と大嶽丸の弱点を熟知している。君たちの弱点を利用して、個々にして撃破する。そして鈴鹿山を徹底的に潰す。人の心を操り、裏でそれを見て楽しむ。」【鈴鹿御前】 「悪趣味だな。海鳴、このあとは?あなたたちはどう対処していた?」【海鳴】 「鈴鹿山の汚染に気づいてから、若は鈴鹿山を浄化できる宝物を探し回り、色々な方法を試しました。全部通じませぬ。わしはむしろ…鈴鹿山の汚染は絶好の機会だと思います。」【鈴鹿御前】 「「機会」。」【海鳴】 「これは若が鈴鹿山を出て、世界を徹底的に掌握する機会なのです。平安京を契機に、海と陸地をすべて……」【晴明】 「これ以上言わなくていい。」【鈴鹿御前】 「……晴明、あなたの寛大さに感謝する。霊符をしまってくれ。海鳴、あなた……はぁ。私が晴明だったら、あなたはそれを言った瞬間に死んでいた。」【海鳴】 「…わしの失言です。」 |
海鳴・四 |
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【海鳴】 「わしは知っている、この世に永遠なんてないことを。人間の社会に生きていた頃、わしはこの道理を学びました。強者は生き、弱者は死ぬ。幸せな良い時間は短いものです。鈴鹿山みたいな場所でも……若ほど強い人でも……わしの愚かさのせいで、海国の未来を葬ってしまいました。若の恩を返すため、海国の存続のため、そして……今回の鈴鹿山行きは、わしの最後の機会です。」【晴明】 「鈴鹿御前はあっちに行った。」【海鳴】 「あ、はい……すぐに向かいます。」【晴明】 「海鳴、お前に聞きたいことがある。お前はいつヤマタノオロチと接触して力を手に入れたんだ?」【海鳴】 「…………記憶がはっきりしません。おそらく……鈴鹿山の汚染が始まってから。あの時のわしは鈴鹿山の繁栄を祈り、若が世に知れ渡る大妖になることを望んでいました。今になって、わし自身にもわからなくなってきた。どれがわし自身の思考なのか、どれが……」【晴明】 「お前はヤマタノオロチに操られていた。君の中で、彼はどんな存在なんだ?」【海鳴】 「今思い返すと、あの邪神には自身の目的というものがないと思います。彼自身も、目的を探しているのかもしれない。わしが力を求めると、力はそこにあった。まるで神の「施し」のように。思わず憧れ、従い……そしてその中に陥ります。」【晴明】 「…………隠された真の目的は、もしかすると……」 |
久次良
久次良・一 |
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少し前。鬼船が崩壊し、皆波が逆巻く海に落ちた。【久次良】 「危ない!蟹姫!!!海鳴様!!ふぅ……」【久次良】 「ゴホゴホ……ここは陸の上、俺は鈴鹿山まで流されたのか?早く他の者の居場所をつかまないと。ここは東海岸か?こっちから行けば、辿り着けるはずだ…………若を守れなかった上に、こんな狼狽した姿で帰ってくるなんて。我が友に顔向けができない。」【悪霊虚像】 「ああああああ……」【久次良】 「邪魔だ!「鯨骨·开」!」【悪霊虚像】 「あああ……ああああ……」【久次良】 「当初鈴鹿山を去った時、汚染は既に酷く、死と静寂が蔓延し、生きている者は一人もいなかった。この溢れ出しているものは何だ……我の仲間に化けるとは、反吐がでる!消えろ!!!決してお前らなんかに鈴鹿山を汚させない!」 |
久次良・二 |
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一日前……鈴鹿御前と合流した風狸は、彼女の命令を受けて御神木の付近に戻った。【久次良】 「荒廃しているように見えるが、周りの景色は最初に出発したときとは違うな。ここの植物も建物も、記憶の中にある鈴鹿山よりずっとよくなっている。どうしてこうなった?誰かがこんな鈴鹿山を造ったのか?まさか本当に……誰だ?!鯨骨……」【風狸】 「ちょっと待って!!俺だよ、俺!!」【久次良】 「今回の虚像は話すことができるのか……俺は惑わされないぞ!」【風狸】 「違うって!!!」【久次良】 「鯨骨……ああ、これは失礼。」【風狸】 「早く逃げて正解だぜ。いつも敵扱いされてる気がするが……本当にわざとじゃないのか?まあいい、場所が場所なんだ、警戒したほうがいい。」【久次良】 「他の仲間を見たのか?」【風狸】 「今鈴鹿御前に会ったんだ、ここに来て、お前と一緒に御神木を守るってさ。いやぁ、鈴鹿御前から鈴鹿山のことを聞いてはいたが、実際来るのは初めてだ。ここはそんなに悪くはないように見えるが。」【久次良】 「……」【風狸】 「あーあ、ごめんごめん、言い間違えた。」【久次良】 「……構わん。」【風狸】 「(参ったな、彼のこと全然知らないし、何を話せばいいか……)お前は鈴鹿山の出身だろ、このあたりには詳しいはずだ。ずっとこの木の所に居てもつまんねえし、近くを見てみないか?」【久次良】 「良かろう。」【風狸】 「……」【久次良】 「……」【風狸】 「俺は初めて来たんだ、客人だと思って、鈴鹿山を紹介してくれないか?」【久次良】 「……よし。ここはかつて鈴鹿山で一番賑やかな場所で、店が林立していた。」【風狸】 「建築の様式は都のに似てるな、もっと「海国」らしい特色があると思ってた。」【久次良】 「鈴鹿山の歴史は長い、俺がここに来た時にはもう、街はそれなりの規模だった。建物の様式については、鈴鹿山の建造者の影響を受けているかもしれない。」【風狸】 「へえ、良さそうに聞こえるね。惜しいな……俺みたいな刺客はさ、任務のためにあちこち行ったり来たりしてるから、故郷はどこかなんてとっくに忘れたぜ。」【久次良】 「鈴鹿山を家だと思っていい。」【風狸】 「え?いいのか?」【久次良】 「元々俺も海に流浪する身だと、鈴鹿山に来たばかりの頃に誰かに言われたな。鈴鹿山は、来る者は拒まないさ。お前は一緒に鈴鹿山に来た仲間だ、すぐに馴染む。」【風狸】 「(さっきまで俺を斬るつもりだったのに…)へへ、じゃあ遠慮なく。どうやら、俺の「家」のために頑張るしかないみたいだな。……待て。あっちで物音が……」【久次良】 「鯨……」【風狸】 「物音がするたびに手を出すのはやめろ!」 |
久次良・三 |
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二日前……【風狸】 「事情はこんな感じだ、その後で俺たちはお前に出会った。」【鈴鹿御前】 「皆、ご苦労だった。引き続きここに留まってくれ、私は近くの他の場所に行ってみる。」【風狸】 「おい、鈴鹿御前、そろそろ休んだらどうだ。」【鈴鹿御前】 「違う、私は……」【風狸】 「島に着いてから、休んでないだろ。やる気があるのはいいが、ずっとこのままってわけにはいかんだろう。」【鈴鹿御前】 「大丈夫だ。……すまない、焦りすぎた。」【風狸】 「気持ちはわかるぜ。次は旧市街に悪霊の巣を探しに行くのか?俺と久次良も付いて行くよ。」【久次良】 「ああ。人数が多い分、悪霊相手にする時多少圧力は小さくなるさ。」【鈴鹿御前】 「分かった。」三人は旧市街付近で調査している。【鈴鹿御前】 「久次良、聞きたいことが……大嶽丸のことをどう思う?」【久次良】 「……俺は若から知遇の恩を受けた。鈴鹿山に暮らしている人々にとって、彼は偉大な首領だ。我々は彼のことを慕い、共に戦い、共に笑うことを望んでいる。俺は、若と共にあり、若の望むものを手に入れることさえできれば、それで十分だ。あるいは俺だけではなく、若と共に戦ってきた多くの仲間もそう思っているかもしれない。若と同じだ、鈴鹿山を見捨てたくないんだ。若のことは、俺の口からはなんとも言えん。だが、確かなことは一つだけある。全員が自分を見失うことになっても、若は俺たちを導いて光へと進んでいく。彼の目指す場所が、俺たちの目指す場所だ。たとえ……たとえ若が血みどろの殺戮の道を選んだとしても、俺たちはついていく。共に罪人になることさえ厭わない。若は、いくら血を流したところで、自分の針路を忘れることは決してないのだ。……これが都の戦で、俺たちの目に映っていた若だ。」【鈴鹿御前】 「こうか……?」【久次良】 「すまない、色々話したが、あなたの問いの答えになるかどうかは。」【鈴鹿御前】 「…………いや、わかった。」 |
久次良・四 |
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【風狸】 「ボロボロだな。あ、あそこにマシな屋舎があるぞ。鈴鹿御前、一旦あそこで体制を整えないか?」【鈴鹿御前】 「うん、少し休憩しよう。久次良、あなたも少し休むといい。逢魔が時が来たら、また激しい戦いになる。」【久次良】 「ではお言葉に甘えて。」【風狸】 「安心しろ、俺が見張ってやる。危険を察知するのは得意なんだ。……」【鈴鹿御前】 「……風狸、言いたいことでもあるのか?」【風狸】 「わかったか?」【鈴鹿御前】 「久次良が大嶽丸を見た反応からすると、御神木にいた時、あなたは大嶽丸の存在を久次良に隠したな。なぜだ?」【風狸】 「俺の直感は当たるからさ。」【鈴鹿御前】 「……誰を疑っている?一緒に鈴鹿山に来た仲間か、それとも……大嶽丸なのか?」【風狸】 「直接話すと彼らに不安を与えてしまう、だから今こっそり話してるんだ。俺が最初に感じた殺気も本物だぜ。お前を狙ってきてる。」【鈴鹿御前】 「……気をつけよう。今一番大切なのは悪霊の制圧と瘴気の駆除、大嶽丸の力を回復させることだ。他のことは、あなたに任せた。」【風狸】 「分かった。(鈴鹿御前は大嶽丸のことに夢中になりすぎている、冷静さを欠くことにもなりかねない。(他の皆も同じみたいだな……俺がやるしかないか。)しかし、この島はいいね。」【鈴鹿御前】 「ええ……あそこにある、あの屋舎には女の子がいて、彼女の作る麺はとても美味しい。ここには酒屋があって、店主が作った酒の味は絶品だった。昔はあの木の下に飴屋がいて、よく子供たちに囲まれていたな…………」【風狸】 「あぁ。」【鈴鹿御前】 「もう何百年も前の話だ。私にとっては、一年前だ……長い三日間だった。さて、戻ろう。いつもまでも思い出に浸っているわけにはいかない。」【風狸】 「だが人は往々にして、思い出の中に生きるものだ。」 |
蟹姫
蟹姫・一 |
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少し前。鬼船が崩壊し、皆波が逆巻く海に落ちた。【蟹姫】 「うわあああ……若様助けてぇぇぇぇぇ……私泳げな……ううう……若….様…」【蠍女】 「主人……!!くそ、波に弾かれた……早く主人の所へ……」【蟹姫】 「若……様……」【蠍女】 「……」【蠍女】 「ちっ、バカカニ!沈むな、私に掴まって!!ゴホゴホッ……ここは、陸地?ぺっ、この海水、不味い……主人!!ここは島の端?もう鈴鹿山にいるんだ。早く主人と合流しないと。鈴鹿山はすでにひどく汚染されていると、海鳴が言っていなかったか?改めて見ると、そこまで悪くない。……あっちで物音がしたような……」【蟹姫】 「…うう。」【蠍女】 「ち。ねえ、カニ、起きて。」【蟹姫】 「若様…うう、若様…」【蠍女】 「……目を覚ませ!」【蟹姫】 「うわ!!!ゴホゴホッ…………若様?!どうしてあなたが?若様は?」【蠍女】 「ここに若はいない。目覚めたらさっさと起きろ。鈴鹿山の様子がおかしい、早く主人を見つけなければ。」【蟹姫】 「ゴホゴホッ……あなたに言われなくても、今……わ。足……構わないで、蟹姫は自分で立てる。私たちは今どこに……ここは鈴鹿山なの?!鈴鹿山に着いたの?」【蠍女】 「丁度あなたに聞きたいことがある。あなたたちは、出発した時、鈴鹿山では生きられないと言っていなかった?なぜ今の鈴鹿山は、昔とあまり変わらない?」【蟹姫】 「これは……きっと鈴鹿山が元通りになったんだ、きっとそうだよ。よかった、早く若様を見つけよう。そしたら一緒に戻って来て、皆のことも連れ戻せる。蟹姫はもっと頑張らないと…えっと、次は…早く行こう、島に行って若様を探すよ!」【蠍女】 「バカなカニはまだ眠っているのか?島に溢れる瘴気が見えないのか?そのまま入ると死ぬぞ。」【蟹姫】 「あなたみたいに臆病じゃ、いつになったら他の人を見つけられるの!」【蠍女】 「貴様…」【蟹姫】 「私一人でいい、あなたと一緒に行動するのは嫌!」【蠍女】 「ちっ、誰があなたなんかに構うか。」 |
蟹姫・二 |
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【蠍女】 「カニめ、殻を脱いでみろ!」【蟹姫】 「サソリめ、度胸があるなら毒の尻尾を使うな!」【蠍女】 「以前からお前のことが気に食わない。何が「若様」「若様」だ。鈴鹿山の主は鈴鹿御前様だ!」【蟹姫】 「はぁ?鈴鹿山の主人は当然私の若様よ!突然現れた尻尾のやつなんかじゃないもん。あなたは鈴鹿山の人間じゃない、うちのことに口出ししないで!」【蠍女】 「よくも主人にこのような侮辱を……」【蟹姫】 「若様の悪口も言ったよね!」【蠍女】 「それに、私は鈴鹿山の人間であるうえに、あなたよりずっと前からいた。最初は、鈴鹿御前様が自ら私を鈴鹿山に連れてきた。あの頃のあなたは、ただのカニだったでしょう。」【蟹姫】 「蟹姫は騙されない!蟹姫は鈴鹿山のみんなを一番良く知ってるもの。誰もあなたのことを口にしない、きっとみんなに嫌われてるよ!」【蠍女】 「私はずっと前に鈴鹿御前様を探しに鈴鹿山を出た。誰が何と言おうと関係ない。鈴鹿御前様のいない鈴鹿山なんて、鈴鹿山じゃない。」【蟹姫】 「ふん、若様は鈴鹿山のために一番尽くした人だ、あなたがそれを認めないだけ!若様の強さを知ったらわかるよ。蟹姫はサソリの馬鹿と話したくない。」【蠍女】 「……」【蟹姫】 「うわ……あなた、よくも!」【蠍女】 「もう黙って。」【蟹姫】 「蟹姫の貝落としは伊達じゃないよ!えい…逃げるな!」【蠍女】 「痛くも痒くもない。邪魔なカニ殻め、毒に浸してやる。」【蟹姫】 「ゴホゴホ…蟹姫はあなたなんか怖くない……うわああ、何これ?」【蠍女】 「どけ、邪魔だ。」【悪霊虚像】 「ううあああああ!!」【蠍女】 「あなたたちが鈴鹿山を去った時、鈴鹿山にそんなものがあったの?」【蟹姫】 「そっ、そんなことないよ!」【蠍女】 「(あの後に現れたのか?汚染が悪化したのか、それとも……)バカなカニ、突っ立ってないで、早く行くよ。」【蟹姫】 「ああ、待って……」 |
蟹姫・三 |
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【蠍女】 「……これがあなた様と出会う前の話です。私とカニは鬼船の残骸の所で鉢合わせて、ここまで歩いてきた。」【鈴鹿御前】 「蠍女、ご苦労だった。後は私がいる、安心しろ。」【蠍女】 「(主人……主人が頭を撫でてくれた!)はっ!蠍女は主人の力になれるよう尽力します!」【蟹姫】 「……ふん。」【鈴鹿御前】 「蟹姫、あなたはどうだ?泳げないと久次良から聞いた、怪我はないか?」【蟹姫】 「蟹姫は弱くないもん。蟹姫は一人前の大人だもん。」【鈴鹿御前】 「ならいい。あなたはここに残れ、私は近くに行ってみる。彼に関する手掛かりがあるかもしれない。御神木は瘴気の侵食を防ぐことができる、あなたたちは周辺に注意するんだ。すぐに行って戻ってくる。」【蟹姫】 「一緒に行く!」【蠍女】 「カニ、あなたは主人の足手まといになるだけだ!」【蟹姫】 「島に行って若の手掛かりを探すんでしょ!私も一緒に行く!何も知らないまま、ただ待つだけは嫌なの。」【蠍女】 「君……」【鈴鹿御前】 「蟹姫、危険だ……」【蠍女】 「主人、カニは見た目よりずっと丈夫なんです。どうか……彼女を島の探索に参加させてあげることはできませんか?蠍女も主人についてまいります。」【鈴鹿御前】 「あなたたち……いいだろう。島の瘴気はまだ完全には駆除されてない。気分が悪くなったら、必ず教えてくれ。」【蠍女】 「蠍女は決して主人の足を引っ張りません。」鈴鹿御前は蟹姫と蠍女と共に、鯨骨付近の森林の探索を開始した。大嶽丸の手掛かりは見つからなかったが、鈴鹿山に四散した宝物の残骸がたくさん集まった。【鈴鹿御前】 「大丈夫か?」【蟹姫】 「うう……蟹姫は、全然……眠く……ない……」【鈴鹿御前】 「瘴気のせいで意識が朦朧としているようだ。おいで、おんぶしてあげよう。」【蠍女】 「主……」【鈴鹿御前】 「えい、体がちっちゃいわりに、思ったより重いな。」【蠍女】 「人……」【鈴鹿御前】 「こんな小さな子が、こんな重い武器を担ぐのか?どうりで大嶽丸の幼い頃よりも背が低いわけだ。」【蠍女】 「主人!!!!あなたはまさか!!!まさか……どうやって彼女を背負うのですか?!やはり、やはり彼女は御神木の近くに残るべきです!」【鈴鹿御前】 「何でもない、止まらず行こう。」【蠍女】 「(歩けないふりをすれば、主人が背負ってくれるかもしれない…だめだ、主人の手を煩わせてはいけない。私は彼女についていけるだけで十分だ。でも……くそっ、カニが羨ましい!)」【鈴鹿御前】 「……そうだろう?」【蠍女】 「え?な……何を?主人、今何をおしゃったのです?」【鈴鹿御前】 「蟹姫は子供の頃の大嶽丸に似ている、そう思わないか?」【蠍女】 「皆チビだ。」【鈴鹿御前】 「はは、そうとも言えるな。皆頑固な子たちだ。」【蟹姫】 「うう……若様……焼きエビ……焼きタコ……」【鈴鹿御前】 「どれだけ強がっても、所詮は子供だな。」【蠍女】 「ただのわがままなやつだ。でも……彼女の気持ちも、わからなくはない。それに、大嶽丸にもう一度会いたいと願う彼女は、主人に会いたいと願った数百年前の私と同じだ。」【鈴鹿御前】 「蠍女……ご苦労だった。私は戻った、これから私達はずっと一緒にいる。」【蠍女】 「鈴鹿御前様、私……」【鈴鹿御前】 「前に進もう。」【蠍女】 「はっ!(蟹姫のほっぺをつつく)あなたも、たまには役に立つのね。」【蟹姫】 「うわ!あ、あなた何する気?」【鈴鹿御前】 「起きたか?」【蟹姫】 「サソリめ、やっぱり蟹姫が弱まってる時を狙って、不意打ちをくらわすつもりなんだ!あなたの鋏は、もう蟹姫の目の前にきてる!!蟹姫は…蟹姫は油断しないからね!」【鈴鹿御前】 「元気が戻ったみたいだな、これでもう心配せずにすむ。」【蠍女】 「(ちっ、せっかく主人と二人きりで話す機会が訪れたのに……)この空気が読めないカニめ!!」 |
蟹姫・四 |
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【蟹姫】 「こんばんは、蟹姫は毎晩日記を書くことにした。今日は一日目。途中で無数の海獣と嵐に襲われたけど、今日ようやく鈴鹿山に戻ってくることができた。鈴鹿山をちゃんと見る余裕もないうちに、みんな鬼船から落ちてしまったの。蟹姫は一所懸命で海で泳いだけど、結局沈んだ。昔はこういう時、いつも若様が助けてくれた、でも若様は……若様はもういないの。だから水でむせても、泣くのを我慢して、海を漂流したの。こうして蟹姫は陸に流されて、サソリのやつと鉢合わせたんだ。サソリは尻尾のやつの手下だ。昔は鈴鹿山で暮らしていたみたいだけど、その後いなくなった。ふん、鈴鹿山はこんなに良いところなのに、出たがる人なんているわけないでしょう?尻尾のやつは蟹姫と約束したの。蟹姫を連れて、必ず若様を見つけ出すって。彼女は若様が子供の頃から一緒に暮らしていたみたい。もしそうなら、確かに若様と長い間会ってないよね。たった数ヶ月で、蟹姫はこんなに若様のことが恋しくなった。もし数百年だったら……うん、馬鹿呼ばわりはやめた。彼女についているもう一人は、正真正銘の大悪人よ。彼女はいっつも蟹姫のことをバカにして、若様の悪口も言うの。若様は完璧だから、若様を好きにならない人はいないよ。若様は強くて優しくて、焼いた魚は尻尾のやつが焼いたのよりずっと美味しいんだよ。鬼船に乗った時、彼女が何が何でもご飯を作ってくれるから、もう少しのところで……今何を書こうとしてたんだっけ?この前久次良に言われた、私はいつも何かを書こうとするとうまく書けないって…………とにかく、サソリは大馬鹿野郎だ!それから彼女に助けられたの。サソリがいなければ、蟹姫は島の紫の連中に食われていたかもしれない。でも、蟹姫を助けてから、サソリが……」【蠍女】 「「別に、悪霊に殺させるより、生かしておいて、鈴鹿御前様の予備食としたほうがいいだけだ。」」【蟹姫】 「蟹姫は焼き蟹になんかならないもん!その後は尻尾のやつに会って、三人でこの辺を探索してたの。どうしてか、鈴鹿山は私が出発してすぐの頃とは違う、そんなに悪くはなっていないみたい。でも、変なの。ここは私の鈴鹿山じゃないみたい。他の人はどこにいるのかな……こんなに静かな鈴鹿山は、何だか怖い。幸い、尻尾のやつとサソリもここにいる。尻尾のやつは確かに喧嘩に強い。蟹姫は頑張って背を伸ばして、彼女より強くならなきゃ。尻尾のやつは若様ほど強くないに決まってる!!今日の出来事はこれだけ。蟹姫はちゃんと休んで、明日もこのよく知らない鈴鹿山で戦わないと。若様はきっとここで私たちを待ってる。若は私たちと約束した、すべてが終わったら戻ってくるって。蟹姫もう寝るね。若様、おやすみ。鈴鹿山、おやすみ。」 |
麓海帰路の回顧ストーリー
海見鳥居
海見鳥居 |
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鈴鹿山南西部の海岸にある鳥居は、鈴鹿御前が初めて鈴鹿山に来た時に建てた最初の鳥居だ。 鈴鹿山の住民達は神仏を敬う心を持ち合わせていないから、この赤い建物に祈りを捧げることはない。いつも鳥居の下に集い、船が帰航するのを待っている。 鳥居の柱には、誰かが身長を記録していた痕跡がたくさん残っている。それが鈴鹿御前に見つかった後、鈴鹿山の皆にも知られたため、いつも船を待つ時の話題にされている。 その後、痕跡は増えなくなり、鳥居の下で船を待つ者も減る一方だ。 「ただいま。」 「ああ。」 「他に言いたいことはないのか?」 「ちっ。お帰り!これでいいだろう!」 |
宝の木の家
宝の木の家 |
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巨木の中に隠されている部屋、最初は宝物を保管する場所だった。 時間が経つうちに、次第に色んな不思議な「宝物」がここに運ばれた。 その中には、世にも珍しい貴重なものもあれば、意味不明なものもあった。神器や骨董品から、木の枝や貝殻まで全て揃っている。貴重なものばかりではないが、全ては部屋の主が大切にしていたものだ。 鈴鹿山でかつて反乱が起きた。余所から来た者が住民達を唆し、鈴鹿山にあるという、人を不老不死たらしめる伝説の「宝物」を奪うために。 反乱者が木の屋にいた大嶽丸を襲ったせいで、彼の妖力が暴走し、木の家ごと多くのものを破壊した。それ後、彼は戦闘の中で自分の強すぎる妖力を制御する方法を学び始めた。 破壊された木の家は、後に大嶽丸によって建て直された。 「大嶽丸、覚えてる?小さい頃、あなたはここで暴走した。」 「…」 「そんな顔をしないで、もう昔の話だ。」 「俺はもっと強くなる。」 「私もいるから、大丈夫。」 |
海岸篝火
海岸篝火 |
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海岸にある篝火、海から魚を釣れば、そのままここで焼くことができる。 夜にはいつも酒盛りが行われる。鈴鹿山の住民達は篝火のもとに集まり、酒を飲んだり肉を食べたり、歌ったり踊ったり、思う存分楽しんでいる。 篝火の近くに座っているのは、最初は大嶽丸と鈴鹿御前だけだったが、その後海鳴、蠍女、七人岬が加わった… 時間が流れ、篝火のもとに集う人も、焼いた肉を分け合う人も段々増えていく。 皆で集まり美味しい料理を楽しむ場所、それが家だ。 「家」は料理に入れる塩のようなものだ。普通すぎて無視されたり、食材の様々な味に隠されたりこそするが、このわずかな塩の味がないと、全く違うものになる。 「やっぱり若様が焼いた魚が一番美味しい!蟹姫、あと百串食べれる!」 「ゆっくり食べろ。」 「若様、その竹の筒はすごく古いけど、中には何が入ってるの?」 「ただの塩だ。少しふりかける、そして…」 「いただきます!ひゃっ、熱い!」 |
大通り
大通り |
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鈴鹿山の南東部は、平らな場所で、住民が一番多い住宅区域だ。 ここにはかつて賑やかな町、様々な屋台があった。平安京をもとに、海国ならでは特色と活力が加わって、ここの建物は建てられた。 ここでは鈴鹿山のたくさんの名物料理が無料で食べられる。 そう、鈴鹿山で暮らしているのは皆家族だから、商売は必要ない。故に貨幣も無意味なものになった。 大嶽丸が都に向かう前に、ここで盛大な祭りを行った。祭りの灯りは鈴鹿山の近海区域まで照らし尽し、皆の笑い声が夜空に響き渡った。 楽しい時間はいつも短くて、忘れられないものだ。 「若様、昨日お帰りになったばかりですし、もう少し祭りを楽しまれませんか。」 「俺は大丈夫だ。あいつらの楽しむ姿を見ていると、俺の疲れも吹っ飛ぶ。」 「では、今回は…」 「今までと同じだ。手に入れた浄化のための法器も、やはり役に立たない。」 「そうですか…」 |
練兵場
練兵場 |
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海岸近くの練兵場、厳しい決まりや制度はないが、住民達はよりよく鈴鹿山を守れるように、自ら鍛錬し、強くなることを願っている。 たまにここで手合わせを行う妖怪もいる。 ここの地面はでこぼこしていて、戦闘の痕跡がたくさん残っている。 この場所があったからこそ、鈴鹿山の民は皆手練れの強者ばかりだ。 練兵場は最初、鈴鹿御前の提案によって建てられたが、建設が完了してから彼女はほとんどここに現れていなかった。いつも大嶽丸が、強くなりたい者を訓練している。 「はははは!もっと、もっとだ!!」 「若様!午前中はずっと戦っていましたから、そろそろ休憩すべきです!」 「まだだ!全然足りねえ!続け!」 「若様、若様は大丈夫でも、こっちはもう無理です!!あそこの新兵なんか、疲れて眠ってしまいました!」 「…いいだろう。」 |
鯨の骸骨
鯨の骸骨 |
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大鯨久次良の骸骨。 「死んだら深海に帰るより、鈴鹿山で眠らせてほしいジラ。」 大鯨がまだ生きていた頃、大嶽丸に伝えていた。もし自分が死んだら、鈴鹿山に残らせてほしいと。 彼が殺された後、大嶽丸はその願いに従い、彼の骸骨を残した。 おかげで、大鯨久次良は別の形で家族のそばに残ることができた。 鈴鹿山の子供達はいつも骸骨の近くで、隠れん坊したり、喧嘩したり、あるいは一番高い骸骨に乗って滑って降りたりしている。 ここでは、生と死はそんなに遠いものではないのかもしれない。 亡くなった家族は、まだ皆のそばで、鈴鹿山の思い出の中で生きている。 「若様、出航の準備は全て整いました。明日出発します。」 「久次良、航海で一番大切なのは何だ?」 「す…進む方向ですか?」 「正解だ。だから、憎しみに惑わされるな。」 「分かりました!」 「お前は俺の部下じゃない。俺たちは家族なんだ。鈴鹿山はいつでもお前の家だ。」 「はい。」 |
碑群
碑群 |
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海岸にある墓地、亡くなった者を葬る場所。 鈴鹿山の住民達が死んだら、一部の者は遺体を海に返すことを選ぶ。その他の者はここに葬られ、彼らの愛する故郷に永遠に残ることを選んだ。 「亡くなった過去、亡くなった人々よ、安らかに眠れ。」 「海は憶えている、鈴鹿山は憶えている、俺たちは憶えている。」 「苦痛を、涙を、傷跡を。」 「喜びを、笑顔を、日差しを。」 「広く優しい海よ、寡黙で偉大な鈴鹿山よ、子供たちはいつもその懐にいる。」 |
水源地
水源地 |
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鈴鹿山の片側にある天然の湖、周囲は鬱蒼とした森林。 周りは静かで、鳥の鳴き声しか聞こえない。 ここには鈴鹿山の最も原始的な様子が残っている。鈴鹿山の住民達は、東側の平坦な地域に集まっていて、普段は水源地の近くまで来る者は少ない。 故に、一部の人たちにとって、ここは最高の休憩場所である。 静かな泉は、数えきれないほどの秘密を聞いた。 「若様、わしが三ヶ月観察した結果、ご推測の通りでした。汚染は外に由来するものではなく、鈴鹿山自身が生み出したものです。」 「俺は浄化方法を探す旅に出る。」 「では、他の者には…」 「他の場所から水を汲むように手配しろ。何せ海妖ではない者もいる、彼らにとって、水は必要不可欠だ。」 「分かりました。」 |
島守りの結界
島守りの結界 |
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鈴鹿山の周囲にある渦のような結界は、忠実に島を守る役目を果たしている。 大嶽丸が海鳴の力を借りて作ったもので、島の下にある鬼船、島の上にある御神木と繋がっていて、敵の侵攻を防ぐことができる。 しかし、ほとんどの場合、結界が起動されることはない。敵が鈴鹿山に近づく前に、大嶽丸が既に彼らを撃退したからだ。 「若様、結界を作ったのは、重荷を背負う若様を楽にするためではないのですか?このまま戦いに身を投じるのは、さすがに…」 「平和な日々はもちろん貴重なものだが、たまには刺激も必要なんだ。安心しろ、ちゃんと分かっている。」 「でもわしは…」 「心配するな、俺は大嶽丸だ、負けることはねえ。」 |
山麓の森
山麓の森 |
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鈴鹿山の麓の森。鬱蒼とした森は街道、川や山地を繋げ、その中には多くの貴重な植物が生えている。 伝説によると、神器「八尺瓊勾玉」は鈴鹿山麓にある森の奥で眠っている。その後、神器は大嶽丸に見つかって、彼のものになった。故に良からぬことを企む連中が鈴鹿山に入ると、必ず麓の森に入って調べるのだ。 鈴鹿山はあらゆる漂流者を歓迎している。大嶽丸は疑わずに、全ての新しい家族を信頼する。おかげで、海鳴と久次良はさんざん悩まされた。彼らは若様の信頼に感動を覚えながらも、憂わずにはいられない。しかし大嶽丸は一度も動じることはなかった。 その疑いを知らないかのような信頼は、自分自身の実力に絶対的な自信を持つが故かもしれない。 鈴鹿山の若様は信頼を惜しまない、同時に裏切りも恐れない。 「家族は家族を傷つけてはならない、だが裏切った者はもはや家族ではない。だから、そんなやつが現れた時は、そいつを始末すればいい。」 |
鬼船の残骸
鬼船の残骸 |
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鬼船の残骸。 その鬼船はある戦闘で壊れて、波に流されるがままに、鈴鹿山の海岸に辿りつき、子供たちが探検と隠れん坊をする絶好のに場所となった。 木製の船は湿った潮風に蝕まれたせいで、船倉は苔だらけの不気味な場所になってしまった。しかし、鈴鹿山の住民はたまにここで真っ白な人影を見たり、夜に歌声を聞いたりする。 「蝶、なぜサンゴをここに隠すんだ?怖くないのかい?」 「怖くはありません。私、ここが好きです。」 「なぜだ?」 「若様は忘れましたか?私も鈴鹿山に流されて、若様に助けられたのですよ。」 「覚えている。あの波風が激しい日に、お前と鬼船は一緒に海岸に流された。」 「ここの湿っぽい匂いのおかげで、いつも助けられた日のことを思い出します。」 「…」 「若様、助けられた時、私が何を考えていたと思いますか?」 「何を考えていたんだ?」 「私はこう考えていました。激しい雨なのに、どうして空に金色の月が現れたの?って。」 |
古い屋敷
古い屋敷 |
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大嶽丸と鈴鹿御前が初めて鈴鹿山に到着した時に建てられた建物は、ほぼ小さくて粗末なものばかりだ。 鈴鹿山の住民が増えるにつれて、皆の活動拠点も少しずつ島の東部に移り、海岸の古い家は次第に使われなくなった。 しかし過去を懐かしむ人たちは、まだここを離れなかった。蠍女もその一人である。 彼女にとって、鈴鹿山の主は鈴鹿御前だけだ。故に鈴鹿御前が消えた後、彼女は拠点を離れ、一人で昔の拠点の近くで暮らし始めた。 その後彼女は一人で鈴鹿山を出て、鈴鹿御前を探すための旅に出た。 蠍女が去ったことに、大嶽丸はあまり触れなかった。 海国の若である彼も、全てを捨てて無限に広がる海原へ旅立というかと考えたことがあるのかもしれない。 「海の向こうか?すごく遠いぞ。」 |
海岸のヤシの林
海岸のヤシの林 |
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鈴鹿山の海岸にある椰子の林。その近くの砂浜は軟らかく、とても静かだ。 鈴鹿山にはたくさんの木が生えている。子供たちは裏山で探検するのが、大人たちは山の麓付近で活動するのが、そして老人たちは椰子の林の近くで休憩するのが好きだ。 砂浜で横になって、潮風を浴びながら、潮汐の声を聞き、海鳥が飛び交うのを眺めるのは、とても気持ちがいい。 ここはまた、海鳴が初めて鈴鹿山に来た時、大嶽丸と出会った場所でもある。 その子供と出会った瞬間、海鳴は、彼は将来とんでもない大物になると予感していた。鈴鹿山のような小さな島は彼を縛ることしかできない。海鳴の野望が止めどなく増えていったのは、その時が最初かもしれない。 後に、鈴鹿山の汚染は最高のきっかけになった。 しかし… 「先生、あなたはかつて人の町で暮らしたことがある。先生はどう思う、都と鈴鹿山とを比べたら、どっちがいい?」 「若様、わしにとって、鈴鹿山こそが最高の居場所です。」 「そうか…」 「しかし、人は居場所に縛られるべきではないと考えております。都も、鈴鹿山も、所詮は人が暮らす場所にすぎない。」 「船のようにか?」 「そう。海を渡るには、船は必要不可欠なもの、でもどこに進むかは船に乗る航海者が決めるのです。故に船は一番大切なものではありません。」 「船は一番大切なものではない…のか?」 |
蔵書室
蔵書室 |
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古書がたくさん収納されている書斎。 蔵書室は元々山麓の森の中にあったが、湿り気への対策として、海鳴はほぼ全ての本を街道近くの部屋に運んだ。 ほとんどの本は宝探しの時に見つけた希覯本だが、通りがかった航海者が残した図録なども混ざっている。古書の中にはたくさんの伝説や術が載っているが、ここにいる人の多くはそれらにまったく興味をもたない。 しかし海鳴は例外の一部だ。彼はかつて人と暮らしていた。陰陽道の知識も多少身につけている。鈴鹿山に来てから、彼は鈴鹿山の古書の研究に打ち込んだ。 古書を保存する部屋は、涼しくて静かな場所だ。故に蔵書室の扉を開けると、本の上で寝る子供たちの姿を見ることがある。 「足りぬ…鈴鹿山のために、わしはもっともっとたくさんのことを知るべきなのだ!」 「もしわしが全てを知ることができれば、あるいは…」 |
裏山
裏山 |
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鬼船を動かす術はここに隠されている。術を発動させると、鬼船は海の底より浮かび上がる。 鈴鹿山のような巨大な鬼船を作ると最初に言い出したのは、鈴鹿御前だった。しかし鬼船が完成した日、鈴鹿御前は船を鈴鹿山の下に封印すると決めた。 あれほど巨大な船は、もはや海の上に泊まる港ではない。ただの殺戮のための武器だ。それでは敵に圧力をかけるどころか、より大きな災いを招きかねない。 封印の時、鈴鹿御前は大嶽丸にこう告げた。鬼船が使われる日が永遠に来ないように。 しかし残念ながら、とうとうその日が来てしまった。 「出発だ!海の向こうへ!」 「若様、我たちはまた帰ってこれる?今度はとても長い旅になるの?」 「俺たちは帰ってくる。俺は鈴鹿山と約束した。俺たち全員、必ず帰ってくるんだ。」 「じゃあ蟹姫も頑張らなきゃ!」 「ああ。さあ、最後に鈴鹿山を見て、別れの言葉を言うんだ。」 「行ってきます!」 |
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