【陰陽師】罪業廻舞ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の罪業廻舞ベントのストーリー(シナリオ)をまとめて紹介。
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回舞劇ストーリー
壱
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【白蔵主】 「うう、頭が痛い……ここはどこですか?小白はどうしてここに?見覚えのない場所なのに、何故かここを知っている気がします。一体どうなっているのでしょう?小白は寝ぼけているのでしょうか。あそこに巻物がいくつも散らばっています。この筆跡……セイメイ様の字じゃないですか!おかしいですね。陰陽寮に提出する書類に見えますが、どうしてこんなところに?陰陽寮、陰陽寮、陰陽寮……あ!」【晴明】 「……そうか、分かった。私も今日、都周辺を調べてみよう。ああ、よろしく頼む。」【都の陰陽師】 「よろしくお願いいたします、晴明様!」【小白】 「セイメイ様、こんな夜遅くに陰陽師が訪ねてくるなんて、何かあったんですか?」【晴明】 「近頃、都を徘徊する妖怪が現れたらしい。人々を攫って屋敷に閉じ込め、無理やり芝居を演じさせるそうだ。」【小白】 「芝居ですか?随分のんきな妖怪ですね。」【晴明】 「普通の芝居ではない。「役者」たちの話によれば、お面をつけさせられ、互いを攻撃するよう強いられたという。そして最後まで生き残った者だけが、そこから去ることが許されるそうだ。その妖怪は、人々の殺し合いを楽しんでいる。そして殺戮の芝居を観賞し続けられるように、舞台にどんどん役者を補充しているわけだ。」【小白】 「なんて惨いことを!セイメイ様、その妖怪を退治しに行きましょう!でも待ってください。一人しか帰ってこれないのであれば、どうしてこんなにたくさんの人が知っているんですか?」【晴明】 「小白も気づいたようだな。助けを求めて陰陽寮に来た人々は、何の外傷もないが、芝居を演じたと断言し、屋敷の構造を詳しく説明することができる。」【小白】 「小白にはよく分かりません。たくさんの人が同じ夢を見たということでしょうか?」【晴明】 「いずれにせよ、大体の見当はついている。小白、今夜その「妖怪」を訪ねよう。」【小白】 「もう犯人が分かっているんですか?ぜひ同行させてください……」【白蔵主】 「その後、小白とセイメイ様はあの妖怪を訪ねたんですよね…なんて妖怪でしたっけ?どうして記憶が途切れ途切れになっているのでしょう?小白がここにいるということは、妖怪の術中にはまってしまったようですね。このまま何もしないわけにはいきません。早くセイメイ様と合流しないと。「殺戮芝居」に巻き込まれた以上、これから何が起こるか分かりませんから。それにしても、どうして巻物がたくさん落ちているのでしょう?セイメイ様のもので間違いなさそうですけど…それに、どこか変な感じがします。」小白は奇妙な焦りを覚えた。巻物にざっと目を通した後、懐にしまい、見知らぬ屋敷の敷地内を回り始めた。【白蔵主】 「セイメイ様……セイメイ様……いらっしゃいますか?もし小白が本当にあの「芝居」に巻き込まれたのだとしたら、他にも参加者がいるはずです。喧嘩なら、負けない自信があります!密かに進むより、大きい音を立てて、こちらへおびき寄せるほうがよさそうです。一刻も早くセイメイ様のもとへ行かないと!セイメイ様がいないとものすごく不安です。いや、小白は既に一人前の妖怪、そんなことを考えてはいけません。ああ、また頭痛が…」激しい頭痛に襲われた小白は、波のように寄せてくる恐怖と焦りを必死に抑えながら、出口のない屋敷を走り続けた。【白蔵主】 「広い屋敷ですね。この廊下、まるで終わりがないみたいです……」突然足音がした。足音の方へ行くと、襖の後ろでお面をつけた少女を見つけた。【少女・猿面】 「やああああ……殺さないで、殺さないで!!」【白蔵主】 「落ち着いてください!小白は悪いものではありませんし、あなたを殺しもしません!!」【少女・猿面】 「ほ、本当?本当に悪者ではないの?お願い、私を助けて!!ここ、ここは怖いの!気が付いたらここにいたの。そして他の人を攻撃しろと、私に命じる声がずっと聞こえるの!死にたくない!私を連れていって、お願い、守って……」【白蔵主】 「分かりました、とりあえず落ち着きましょう。小白があなたを守りますから、もう小白の袖を引っ張らないでもらえますか。気がついたらここにいたと言っていましたけど、妖怪に攫われてきたのですか?」【少女・猿面】 「うん……」【白蔵主】 「では、その妖怪の姿を見ましたか?」【少女・猿面】 「いいえ。目を覚ました時はもうここにいたの。そして、変な人たちが殺しあっていた…………その混乱にまぎれて逃げてきたの。」【白蔵主】 「分かりました。とりあえず、小白と一緒にいてください。そういえば……以前どこかで会ったことがありますか?」【少女・猿面】 「会ったこと、ないと思う。」【白蔵主】 「うっ、頭が痛い。まあ、今はそんなことより、早くセイメイ様を見つけなければ。」小白の心は謂れのない焦燥感と不安に包まれた。少女をゆっくり観察する余裕もなく、足を早め、二人で屋敷の中を探索した。【白蔵主】 「さっきもここに来ましたよね?まさか、迷子になってしまったのでしょうか?!早くセイメイ様を見つけなければいけないのに!!」【少女・猿面】 「仲間を探しているの?その人は、私たちを守ってくれるの?仲間と合流しても、私を見捨てたりはしないよね?お願い……」【白蔵主】 「そんなことはしません!セイメイ様は強くて優しい方ですから、あなたを見捨てたりはしませんよ。安心してください。」【少女・猿面】 「でも、もしも、もしもその人の身に、万が一のことが起きたら…」【白蔵主】 「万が一などありません!!」【少女・猿面】 「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…!怒らないで、私を一人にしないで!」【白蔵主】 「小白は怒ってません!あ、違います、小白は……すみません。大声を出すべきではありませんでした。(小白は一体どうしたのでしょう?なぜこんなに苛つくのでしょうか。普段の小白は、こんな風に怒ったりしません。ここの空気が陰鬱すぎるからでしょうか?とにかく、早くセイメイ様を見つけなければ。小白はいやな予感がしてなりません……)」二人が目の前の廊下を素早く通り抜け、角を曲がると、小白の目に信じられない光景が飛び込んできた。板張りの床一面に血が広がり、倒れている人の銀髪を赤く染めている。その横に立っているもう一人が振り向き、小白を見た。それは、倒れている人と同じ顔だった。」【黒晴明】 「…………」【白蔵主】 「……セイメイ様?セイメイ様!!!セイメイ様に一体何をしたんですか?!」【黒晴明】 「見ての通りさ。」小白は倒れている晴明に駆け寄り、震えながら彼の体を支えたが、いつも優しく見つめてくれる目は閉じたままだった。」【白蔵主】 「セイメイ様?セイメイ様!!起きてください、小白を一人にしないでください!!!あの時、小白はもう十分長く待たされました。もう二度と勝手にいなくならないと、小白と約束してくださったじゃないですか!約束を破るつもりですか…答えてください、セイメイ様…」小白が抱える体が無数の粒子と化し、横に佇む黒晴明に向かって飛んでいく。眩しい光が現れた後、二人が完全に一体化した。」【白蔵主】 「……セイメイ様?」【「晴明」】 「ここはどこだ?うん、この妖狐は?」【白蔵主】 「小白です、小白ですよ!セイメイ様と最初の契約を結んだ式神ですよ!覚えていないのですか?また……また小白のことを忘れてしまったのですか?」【「晴明」】 「…………」【少女・猿面】 「この人が、あなたが探していた人なの?あなたのこと……忘れているの?あなたを捨てたのね!そうよ、間違いない!あなたは全てを彼に託した。契約を結び、信頼し、力、そして命まで捧げたというのに、捨てられ、裏切られてしまった。万が一などないと断言していたけれど、現に起きてしまったみたいね、その「万が一」が。」【白蔵主】 「違います……小白は捨てられてなどいません……そうでしょう、セイメイ様?」【「晴明」】 「妖狐よ、お前の妖気が暴走している、このままだと危険だ。」【白蔵主】 「セイメイ様、何をおっしゃるのですか?どうして呪符を手に?小白を……小白を退治するというのですか?」【少女・猿面】 「ほら見て、あなたが守っていた人が、完全にあなたを裏切った!」【白蔵主】 「黙ってください!!!頭が……」小白の世界が大きく揺らぎ、どんどん暗くなる。「セイメイ」の呪符だけが、一面に広がる暗闇の中で妖しく光を放つ。それでも小白はじんじんする頭を抱え、返事を待っているかのように、目の前の人を執拗に見つめた。」【白蔵主】 「小白はセイメイ様に捨てられてなんかいません。そうですよね?」返事はなかった。返事のかわりに、小白の周りで術陣が光り、無数の鎖がその中から伸びて、小白を拘束した。【少女・猿面】 「あなたは縛られることを甘受し、名前と心を捧げた。それなのに、あなたを待っていたのは裏切りだけだった。これがあなたの定め。あなたは最初から最後まで、ずっと独りぼっちだった……」【白蔵主】 「セイメイ様……」項垂れると、鎖の締めつけがますますきつくなる。小白は目の前の光からの一撃を待った。すると、よく知っている声が遠くから聞こえてきた……【音声】 「目を覚めせ!負け犬みたいな顔はよせ!!」【白蔵主】 「小白は犬ではありません!えっ???」まともに反応する前に、反論の言葉が口から出た。頭を上げると、懐にしまっていた巻物が床に落ち、地面に広がった。巻物から字の書かれた紙切れが現れた。その字は、小白のよく知っているものだった。「小白、この巻物を都の陰陽寮まで届けてくれ。帰り道に、町で小白の好きな油揚げを買うといい。晴明」」【音声】 「それをよく見ろ。」よく知っている声が再び響き、小白を抑圧していた恐怖と焦りを少しずつ砕いていく。世界が再び明るくなった。目を開けると、知らない「セイメイ」は既に小白を拘束していた鎖とともに消えていた。背後の少女もいつの間にか姿を消し、割れた「猿面」だけが床に残っている。割れているが、恐怖でゆがんだ表情はまるで生きているようである。」【白蔵主】 「これは一体?あ、目覚めた時からずっと離れなかった異様な感じが消えています!そうだ、セイメイ様!さっきのはセイメイ様の声でした!あの紙切れで小白を呼び覚ましてくれたんですね!!よかったです、やっとセイメイ様と会え…………ました?って、どうしてあなたたちがいるんですか?!」【黒晴明】 「…………」【大天狗】 「その態度はなんだ?ついさっき、黒晴明様がお面の魔の手からお前を救ったんだぞ!それに、晴明はここになどいない。お前は前に町中で、一人で我々を尾行していただろう?!」【白蔵主】 「町中で?尾行?あ!」小白は巻物を見て、やっと思い出した。セイメイ様のおつかいで、陰陽寮に届け物をしている途中で、黒晴明たちを見かけた。「殺戮芝居」の噂が広まっている時に、都に現れた黒晴明たちのことを不審に思った小白は、密かに尾行することにしたのだった。【白蔵主】 「思い出しました。小白はあなたたちを尾行して、面霊気の屋敷まで行ったんです。雪女様の話をしているのが聞こえてきて、その後、気を失ってしまったんです!そして目が覚めたら、こんな場所にいて、記憶まで……あ!では都の「殺戮芝居」は、あなたたちと面霊気の仕業なのですか?!さっき小白が見たセイメイ様は、一体何だったんですか?」【大天狗】 「違う。我々はあんな卑劣で悪趣味な方法は使わない。」大天狗は割れたお面を拾い、小白に渡した。禍々しく歪んでいる顔を見て、小白が驚く。【大天狗】 「このお面が、お前に影響を与えたんだ。「猿面」、このお面が意味しているのは「恐怖」かもしれない。」【白蔵主】 「え?お面?これは一体……どういうことですか?」【大天狗】 「彼女に説明してもらおう。そろそろ姿を現わしたらどうだ。」【白蔵主】 「誰ですか?」【少女】 「私だ。」【白蔵主】 「?!今までぼーっとしていたから分かりませんでしたけど、改めてよく見たら、面霊気さんじゃないですか?!」【少女】 「面霊気?私はあの妖怪じゃない。私はここに攫われてきた一般人。この芝居を演じる役者の一人に過ぎない。知っていることは全部話すから、その代わり、この屋敷に住み着いている妖怪を…………「面霊気」を退治してほしい。」屋敷の別の場所では……【少女・猿面】 「はあ、はあ、怖い怖い、あいつらまともじゃない……わあああ…………もう逃がさない。いやだ、殺さないで!!!助けて、誰か助けて!!」黒い霧の中から、黒いお面をつけた妖怪が現れた。彫刻刀が振り下ろされた瞬間、真っ赤な花が咲き、白衣の少女がゆっくりと座り込んだ。【少女・猿面】 「どうして……いつもこうなるの……ゴホゴホ、いつも、結局は、この結末に……どうして答えてくれる人も、助けてくれる人もいないの……寒い、寒いよ。」黒いお面の妖怪が、彼女の大きく見開いた目を優しく閉じて、ため息をついた。少女の体は儚い影と化し、消えていった。【「面霊気」】 「私はここにいる。あなたの問いに、ずっと答え続けていた。なのに、一度も聞いてくれなかった……」 |
弐
弐 |
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雪女は、知らない部屋で意識が戻った。【雪女】 「ゴホゴホ、ここはどこ?私は黒夜山にいたはず。どうして…体がおかしい。融けていたのがおさまって、もうこれ以上悪化しなくなってる……?「悪化」?ああ、思い出した……鬼域から戻ってきた後、私たちは手がかりを入手した。そして、私を助けられる妖怪をずっと都で探し続けていた。そしてその妖怪の居場所を訪ねたのだろうか?皆とはぐれてしまったのは、その妖怪に襲われたからだろうか。頭が痛い、何かが……思い出せない。ゴホ、私は皆に迷惑ばかりかけている。これ以上はもう……まずはあの二人を探そう。」雪女は一人で、仄暗い屋敷の中を歩く。すると突然、静けさの中から足音が響いた。雪女は立ち止まり、足音が近づいてくるのを待った。襖が開けられた瞬間、冷たく光る氷晶を放ったが、入ってきた者を見て宙で止めた。【少女・姥】 「ここならきっと安全……わあ!」【雪女】 「…………」【少女・姥】 「こここ……殺さないで!」【雪女】 「殺すつもりはない。」【少女・姥】 「あ……じゃあ、あなたも攫われてきたの?」【雪女】 「記憶が断片的になっていて、どうしてここに来たのか思い出せない。あなたは?」【少女・姥】 「じゃあ、あなたもきっと私と同じように、あの妖怪に攫われてきたんだ!ここにはとある大妖怪が棲んでいる。いつも外から大勢の人間を捕まえてきて、最後の一人になるまで殺しあうように命じる。私もその一人で、友達と一緒に捕まえられたんだけど、彼女とはぐれてしまったの。お姉さん。お姉さん強そうだから、力を貸してもらえないかな!私、いい子しているから、友達を探してほしいの!」【雪女】 「実は……私も仲間とはぐれている。この屋敷はどうなっている?ここには人間が沢山いるのか?」【少女・姥】 「人間以外に、妖怪もね!しかも攫われてきた人間の中には、狂人もいる!私見たの。お面をしてて、刀で人を手あたり次第に刺してた!しかも彼女は血濡れた着物を着たまま彷徨っている!」【雪女】 「あなたも白い服を着て、お面をかぶってるけど……」【少女・姥】 「え?お姉さん、何言ってるの?私、お面なんかかぶってないよ。」己の言葉を証明するかのように、少女は自分の頬を触った。指が「姥面」の凹んだ部分をなぞっているのに、彼女はお面の存在に少しも気づいていない様子だ。【少女・姥】 「ほらね、お面なんかないでしょう。そんなことより、お姉さん、早く行こう!」【雪女】 「(どういうこと?彼女のお面……まあいい。私と無関係である以上、深入りする必要もないだろう。)」雪女はお面の少女と出発した。道中には襲ってくる妖怪が沢山いたが、いずれも雪女が難なく退けた。【悪妖】 「ガアアアア、死ね………!」【雪女】 「…………」【悪妖】 「永遠にここに留るがいい!!」【雪女】 「凍れ。」【少女・姥】 「わあ、お姉さんやっぱり凄い!全員氷になっている!」【雪女】 「大したことじゃない。」【少女・姥】 「でも、氷で動けなくしただけ?氷の彫刻にして、粉々にしたほうが、もっと完璧じゃない?」【雪女】 「粉々にする……必要はない。氷が砕けると、二度と元に戻れなくなるから。」【少女・姥】 「そっか……でも、お姉さんがいれば、妖怪に襲われる心配はなさそう。お姉さんが探している仲間も、お姉さんと同じくらい強いんでしょう?」【雪女】 「そう。」【少女・姥】 「どんな人たちなのかな。一度会ってみたいな。」【雪女】 「彼らは、彼らは……」雪女は立ちすくみ、一瞬恍惚とした。記憶の中の仲間の顔が、まるで吹雪に覆われたかのように、ぼんやりしてよく見えない。体の溶融は止まったが、その代わりに何かが消えていっていることに、彼女は気づいた。」【雪女】 「(一体何が起きている?どうして思い出せないのだろう……彼ら、仲間?仲間……私には「仲間」がいるはずなのに、どうしてだろう、何も思い出せない。記憶、この屋敷が、私の記憶を喰っている?)うっ。」【少女・姥】 「お姉さん、どうしたの?頭が痛いの?痛かったら、あまり考えない方がいいよ。あの妖怪たちもそろそろ氷から抜け出しそうだから、とりあえずここから離れよう、ね?」【雪女】 「ゴホ、うん、行こう。私なら大丈夫。(ここに長居するのはまずい。早く脱出しないと!)この屋敷はおかしい、早くここから抜け出そう。」【少女・姥】 「でもまだお姉さんの……うん、わかった。行こう。あっちは静かそうだから、きっと妖怪はいないよ!」少女と雪女は古屋敷の中を歩き回る。四方から襲ってくる妖怪はどんどん増えるばかりか、いつの間にか人間まで入り混じっている。【雪女】 「連れてこられた人間……?」【青年】 「待って、俺を殺さないで、攻撃しないから……あ……」【少女・姥】 「すごい、あっという間に凍った、さすがお姉さん!しかもさっきよりうまくなってる!」寒い空気が流れ、雪女は瞬く間に回りにいた全員を氷に閉じ込めた。その後、少女と目立たない物陰に入り、少し休むことにした。氷で固まり、刺さるような寒気のなかに座る数多の死体は、まるで青い芝生にでも座っていて、なんの苦痛も感じていないようだ。【少女・姥】 「お姉さんは妖怪だよね。どうしてここにいるの?こんなに強い力があれば、どこででも自由に暮らせるでしょう。」【雪女】 「「強い」?この私が?いいえ、私は全然強くない。ただ、ここの環境は何かが違う。私……私の力が、この屋敷と共鳴しているみたい。私が呼んだ霜雪も、ここに留まることを気に入っている。そしてここに来た理由は……え?誰と会ったから?いや、おかしい。変だ、私…私は誰かと出会ったはずだ。そしてその人のために、極寒の地を離れて都に来た。それは、誰?思い出せない。」【少女・姥】 「無理に思い出さなくてもいいよ。ゆっくり休んで、ここを出よう。」【雪女】 「うん……」【少女・姥】 「でも、やっぱり気になるな。お姉さんは雪でできているけど、暖かいものを触ることはできる?」奇妙な眠気がだんだんと雪女を襲う。真っ白な世界の中で、少女の周りだけがかろうじて色を保っている。雪女は朦朧としながらも、少女との会話を続けた。【雪女】 「触ることもできる。温もり……それで傷ついたこともあるけど、あの感覚、嫌いじゃない。昔の私は何も感じられなかったから……そうだ、誰かが、私に温もりを教えてくれた。」【少女・姥】 「それがお姉さんにとって、有害なものだとしても?」【雪女】 「それだけじゃない。その後も……色々な経験をした。私の虚ろで冷たい心が、だんだん暖かい思い出で埋まった。熱くて痛いけど、それでも……それでも、嬉しい。(どうして私はここに座って、この子にこんな話をしているの?)」【少女・姥】 「そうなんだ。じゃあ、一緒にここから出られたら、外の世界を案内してもらえないかな。」【雪女】 「出る?そうだ、ここから出ないと……(いや、まだ出てはいけない。誰か…誰かを探しているはずだ。それは……誰?)」【少女・姥】 「でも、ここから出たら、外の暖かい世界でお姉さんがまた融けてしまったりしないかな。」【雪女】 「融ける……かもしれない。」【少女・姥】 「分かった!大丈夫、もう心配いらない!さっきからお姉さんがやってるみたいに、暖かいものを氷にすれば、寒くて硬い心を手に入れられる。」【雪女】 「「手に入れる」?何を言っているの、私は別に……」【少女・姥】 「暖かいものはお姉さんを傷つけるんでしょう。じゃあ、何もかも氷にしてしまえば、安心できるでしょう?暮らしている森を雪原に、春の風を吹雪に変えて、仲間を氷の中に閉じ込めれば……そうすれば、皆とずっと一緒にいられる。」【雪女】 「……あなたのいう通りかもしれない。」【少女・姥】 「ほら、これもお姉さんがやったんでしょう?」少女が立ち上がり、凍り付いた人を雪女の前に押し出した。その人は狩衣をまとい、扇子を片手に持って、誰かに話しかけているかのように手を前に伸ばしている。しかしさきほどの吹雪で、彼の時間は永遠に止まった。少女が軽く押すと、氷の像は倒れ、粉々に砕けてしまった。【雪女】 「この人は……誰?どこかで、会ったことがある?」【少女・姥】 「会ったことあるの?でもその記憶はもうどこかに捨てた、そうでしょう?体はまだ痛い?」【雪女】 「痛くない……私の昔の力が戻った?」眠気が再び訪れる。凍り付いた部屋がどんどん明くなり、雪女と周りの世界を飲み込むような光を放った。【少女・姥】 「この人を傷つけたこと、仲間を傷つけたことが悲しい?雪と氷から生まれたあなたは、本当に温もりを理解しているの?」一面の眩い純白のなか、感情が潮のごとく引いていく。雪女には純粋で傷一つない氷だけが残った。……彼女はだんだん、何も感じなくなった。【雪女】 「……悲しみや苦しみを味わうはずなのに、何も感じない。「仲間」。私に仲間がいたのか?思い出せない。昔、雪原の中で目覚めた時も、同じことを考えていた……」【少女・姥】 「いっそこのまま、氷雪の世界で眠り続けるのも、悪くないでしょう。」【雪女】 「(いや、違う……眠ることなんて望んでいないし、こんな場所で眠ってはいけない。でも、このままあの白い場所で永久の眠りにつくのは、気持ちよさそう……)私は……」【少女・姥】 「お姉さん、おやすみなさい。この白い世界で、いい夢を見てね。」【雪女】 「違う。こんなところで……」雪女は白い世界に飲み込まれた。自らそうしたのか、何かに強制されたのか、彼女は記憶と感情を悉く捨て、強い力と凍てつく心を取り戻した。それでもわずかに残っている意識が、「こんなのおかしい!間違っている!」と叫んでいるが、もう何もかも手遅れだった。一本の羽がどこからともなく現れた。それは色褪せ、年季を感じさせるものだった。しかしその軽い羽が、凍り付いた天地にいとも簡単にひびを入れた。次に現れた呪符が硬い氷を砕く。風刃がさらに多くの羽を巻き起こし、雪女の世界に温かみと色をもたらした。【音声】 「雪女、起きろ。」【雪女】 「?!う、ゴホゴホ……どうなっている?今、今何が起きたの?」眠気があっという間に消え、よく知っている灼熱感が胸から伝わり、雪女を完全に目覚めさせた。そして目の前の人の姿も、はっきり見えた。大天狗と黒晴明だ。【雪女】 「私、私は何を?」【大天狗】 「やっと気がついたか。無事か?黒晴明様と合流してまもなく、空気の中から寒い気配を感じた。その気配を辿って、ここへ来た。」【黒晴明】 「お前の妖力が暴走していた。」【雪女】 「不思議な少女と出会いました。大勢の妖怪に襲われたけど、全員氷に変えて……」【黒晴明】 「この敷地内には我々しかいない。他には誰もいない。」雪女はこの時になって初めて、この部屋が氷雪に覆われ、自分が大きな氷の殻の中にいることに気づいた。さっきは黒晴明の呪符が、氷の殻を破ったのだった。【大天狗】 「これが床に落ちていた。」大天狗は散らばった氷のかけらから、割れたお面を拾った。「姥」だった。その上に広がる霜が、虚ろな表情に一抹の憂いを添えた。【大天狗】 「このお面が、お前に影響を与えたんだ。」【雪女】 「お面……どうしてさっきまで思い出せなかったのだろう……ここは面霊気の屋敷、彼女こそ、私たちが探している妖怪。」【黒晴明】 「我々も気づいた。怪しいお面が人に憑き、記憶と感情に影響を与えるのだ。少しは回復したか?」【雪女】 「もう大丈夫です。」【大天狗】 「ならば、まずここを離れよう。はっくしょん……我の推測が正しければ、先ほど町で我々を尾行していた白い犬も巻き込まれたに違いない。まったく世話のかかるやつだ。」【黒晴明】 「いずれにせよ、我々の目標に変わりはない。妖怪「面霊気」を見つけよう。行こう。」【雪女】 「はい、く、黒晴明様!」【黒晴明】 「うん?」【雪女】 「いいえ、なんでもありません。あはは……」【大天狗】 「雪女が笑うとは、実に珍しい。何かあったのか?」【雪女】 「私……今笑っていましたか?」【大天狗】 「以前渡した羽が、何かの攻撃を受けたのか、折れている。ひょっとして、あのお面がお前に何か見せたのか?」【雪女】 「気にするほどのことではない。」【大天狗】 「なら良い。行こう。」【雪女】 「ええ。」仲間の名前を呼んだ後、雪女は前を歩いている大天狗と黒晴明に追いつき、彼女が造った真っ白な空間から出た。温もりにはやはり敵わない。焼けるような痛みを耐えてでも、彼女は信頼する仲間とともに、前へ進むことを望む。【少女·姥】 「失敗した……しかも前回よりも早く現れているじゃないか。ふふん、どうやら趣向を変える必要があるようだね………………来たね。さあ、一撃で決めなさい。」黒衣の妖怪が刀を少女の胸に振り下ろすと、緋色が飛び散り、妖怪の着物にこびりついた。鮮やかな液体が、だんだん暗く深い色になっていく。【少女·姥】 「ゴホ、無駄だ、全部無駄だよ。最後はどうなるか、知っているだろうに。私たちを見下すのはもうやめな。結局私たちと同じなんだ、何もかも無駄だよ!感情なんて、早く捨てたほうがいい……」【「面霊気」】 「最後の時はまだ訪れていない。諦めるのはまだ早い。そう思わない?」返事はなかった。白衣の少女は既に目を閉じている。体が無数の粒子になって、大気に溶け込んだ。黒衣の妖怪は黒晴明一行の進む方向を確かめ、ひっそりと追いかける。 |
参
参 |
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はぐれていた黒晴明一行が合流する前、屋敷の一角……崩れ落ちそうな階段が襖の向こうから現れ、生き物のようにとぐろを巻く。その動きによって階段上の罅がどんどん広がり、激しくやりあっている二人の間に入った。二人の動きが一瞬止まった。一人がすかさずもう一人を突き放したが、袖を掴まれてしまい、階段から落ちてしまった。少女はなんとか上に戻ろうと、細い指で木の階段に必死に縋りついた。だがその手はもう一人に容赦なく踏まれ、白い少女は何時落ちてもおかしくない状況だ。【少女・福神】 「ほらみろ、最後に笑うのはやはりこの私だ。何度来ても無駄だ!!素晴らしい、いくら体が痛くても、上からお前の顔を眺めるだけで、愉快な気分になる。はははははは……う、き、貴様!!いつの間に刀を…」【少女・蝉丸】 「ひひ、私はあなたをずっと見ている、忘れるな…その甘い喜びに、苦い酒を注いでやる!ひひひひ……」鋭い刃が少女の踝を貫通した。血で赤く染まった手が刀を放し、目の前の足首を掴んだ。二人が対峙していると、階段が再び動き出した。【少女・蝉丸】 「どうやら今回、運は私の味方のようだ。ひひひ、私の道連れになるがいい!」【少女・福神】 「なぜだ?なぜあなたが運と力に恵まれる?!私の方が、ご主人様に愛されるべきなのに……放して、放して……あああ!!」【少女・蝉丸】 「ひひひひ……」叫び声が、落ちていく二人とともに遠くなる。変化し続けていた階段の動きが止まると、一つの人影が二人が戦っていた場所に現れた。床にぶつかる音を待つが、暗闇が音まで飲み込んだようで、何も聞こえない。人影は床に残った血痕に触れたが、指は血を通り抜けた。【大天狗】 「これも虚像か。意識が戻ってから、この辺りをつぶさに調べたが、どうしても部屋が変わる法則を掴めない。先ほどの虚像は、以前ここで起きたことの再現なのか?一体何度繰り返されたのだろう……全く悪趣味だ。たまに襲ってくる妖怪もいるが、今の雪女なら対応できるはずだ…いずれにせよ、早く合流せねばならない。ちっ、また頭痛が……この得体のしれない苛つきと、よく知っている感じ……低い天井、狭い廊下、視線を遮る数々の襖……この屋敷は意図的に設計されている。それは全て……人の感情を増幅させるためか?ふん、こんな所に住んだら、気が狂うのは時間の問題だろう。早く彼らを見つけて、ここを出よう。待て、我々は……自ら望んでここに来たのだろうか。一体何のためだ?思い出せない。感情だけでなく、記憶も影響されるようだ。本当に嫌な感じだ。」大天狗は無数の襖を通り抜けたが、部屋は無限に延び続けているようで、出口どころか、境界にすら到達できない。【黒晴明】 「…………」【大天狗】 「?!」【黒晴明】 「…………」【大天狗】 「く、黒晴明様……ん?あれは?」大天狗は声をかけずに、一旦襖の後ろに身を潜めた。黒晴明がもう一人と会話している。【大天狗】 「(見間違いではなければ、黒晴明様と話しているのは……彼は我々が意識を失い、仲間とはぐれるまで、ずっと我々を尾行していた。気づかれていないと思っているのだろうが……彼の周りに漂う異常に強い妖気は何だ?)」【「白蔵主」】 「……え?何も聞こえませんね。小白の勘違いのようです。」【黒晴明】 「もたもたしてないで、さっさと行け。」【「白蔵主」】 「はいはい、さすが目標を見据えた大陰陽師ですね。」【大天狗】 「…………黒晴明様!」【黒晴明】 「大天狗?ここにいたのか。」【大天狗】 「(さっきのような幻影ではなく、確かに黒晴明様で間違いない。では、黒晴明様の隣にいるのは……)」【黒晴明】 「この奇異な場所で、仲間と早く合流できたのは幸いだった。ここに来るまでに大勢の妖怪と遭遇したが、やつらも無理やりここに連れ込まれたのかもしれない。おそらくこの先も現れるだろう。」【大天狗】 「はい。しかし……(黒晴明様の様子がどこか不自然だ……う、頭が……またあのぼんやりとした焦燥感だ。)「仲間」とおっしゃいますが、雪女は?ここにいないということは、まだ彼女とは会えていないのですか?どうして彼女の安否についてお聞きにならないのです?そして、彼は……誰だ?」隣の狐耳の少年は、楽しそうに微笑んでいる。その正体が都中を駆け回る白狐であるとは、にわかには信じがたい。【「白蔵主」】 「仲間になったのに、大天狗様は小白のことを忘れてしまったんですか?」【大天狗】 「その禍々しい妖気は何だ?」【「白蔵主」】 「遠い昔、人間と関わる前はこんな感じでしたよ。昔の僕に戻ったに過ぎません。」【大天狗】 「…………黒晴明様、こんなやつを仲間と呼ぶのですか?」【黒晴明】 「説明するまでもない。彼こそが、我々がここに来た目的だ。目的を達成した以上、ここに留まる必要もない。まずはここを出る。」大天狗はその場を動かず、黒晴明と「白蔵主」が屋敷の奥深くに進んでいくのを見ていた。【大天狗】 「……本気ですか?我々がここに来たのは……う、来たのは……何のためだ?(何かが我の記憶を妨げている。この屋敷か?黒晴明様も影響されているのか?)」【「白蔵主」】 「おや、大天狗様、大丈夫ですか?少し休まれてはいかがですか?見張りは僕に任せてください。」【大天狗】 「我に触るな!」【「白蔵主」】 「ふ、気が荒れていますね。何かに怯えているのですか?」【黒晴明】 「大天狗よ、少し様子がおかしいぞ。この先の様子を見てくるから、お前はここでしばらく休むといい。」【大天狗】 「…………はは。おかしいのは黒晴明様のほうです。失望しましたよ。我は黒晴明様を信頼し、忠誠を誓い、ともに旅立つことを選んだ。それなのに、今の黒晴明様は何をしているのですか?信義を捨て、仲間を裏切る。邪道を選び、歪んだ力を求める。この世に大義をもたらす者が、こんなことをして良いのですか!(……我は何を言っている?何を口走っている?己の言動を制御できない。あの力が我を操っている……)今日こそ、天にかわって成敗する!!」【黒晴明】 「…………」【大天狗】 「(ありきたりな言葉だ……いや、これは単に操られているだけではない。)」大天狗は理由のない怒りで激昂した。翼を広げて飛び、上から黒晴明と「白蔵主」を眺める。【大天狗】 「(この怒りと苛つきは我のものではないと分かっていても、やはり影響を受けてしまう。まるで……本当に怒りを感じているようだ。)」【「白蔵主」】 「ははは、天にかわって成敗ですか?あなたが?」【大天狗】 「問答無用!!」風刃が鋭利な羽を巻き込みながら、「白蔵主」を捉えた。絶叫の後、鮮やかな赤色が地面に広がった。強い妖力が大天狗の体に流れ込む。漲る力による快楽を味わいながら、大天狗は黒晴明を見た。【大天狗】 「黒晴明様、見ましたか!あなたのこの「仲間」は、大したものではないようだ!我こそが、黒晴明様のおそばにいるべき者。はははははは、そしてこんなに強い力を手に入れた、我がこの世に真の正義をもたらす!(…………我は何を言っている?) |
」【黒晴明】 「貴様は私と同じく、信義に欠ける。貴様よりも簡単で、操りやすい者のほうが仲間に向いている。」【大天狗】 「ふん、本当にそう思っているのか?我の価値を認めない者は、みな消えるべき。それがたとえあなたでもだ、黒晴明様……!!」まだ消えていなかった風が再び一か所に集まり、黒晴明めがけて突進した。大天狗はどんどん湧いてくる力を感じる。【大天狗】 「はははは、はははははは。究極の力を手に入れ、世に認められるのはこの大天狗だ!あははははは…うっ、なっ、何だ?なぜ動きが止まった……おい、いい加減にしろ。この劣悪な芝居を、何時まで続けるつもりだ!!!」狂風が起こり、部屋を充満する妖気を払う。大天狗は部屋の真ん中に立っているが、「黒晴明」と「白蔵主」はどこかへ消えていた。そして、「蝉丸」と「福神」のお面だけが床に転がっている。嫉妬の苦味と喜びの甘味が刻まれたお面はいずれも割れていて、表情の歪みを際立たせた。【大天狗】 「黒晴明様に成りすまして、我の仲間を蔑み……あまつさえ我の体を操り、あのような卑劣極まりない言葉を発させた。万死に値する!教えてやろう……黒晴明様は仲間を道具として扱わない。ましてや志を蔑ろにしたりなど!それに、あれが小白だと?話し方すら真似できていなかったぞ。我と黒晴明様は、志を分かち合う仲間だ。他人に取って代わられただけで嫉妬すると思うか?ふん。お前たちが増幅させようとした「嫉妬」と「喜び」は存在しないし、我を羽一本傷つけることすらできないだろう。どこから来て、何を企んでこんなことをしたのかは分からないが……こんな拙劣な芝居で、我々を仲違いさせることができると?笑止千万。」周囲の妖気が完全に消えた。静寂のなか、大天狗の大声だけが響きわたる。床に転がる二つのお面は、さっきまでの出来事とは無関係だと言わんばかりに、沈黙を徹した。大天狗はしばらく待ってから、お面を踏みつぶした。【大天狗】 「失態だ。まだ彼らと合流していなくて良かった。さきほどの光景を見られていたら……ふん。………………あんなものに言動を影響されるなんて、実に恥ずかしい。………ちっ。」まるで恥ずかしいことを早く忘れたいかのように、大天狗は急ぎ足でその場を去った。さっきのは本当の自分ではないと言わんばかりに。小間を出ると、前方の曲がり角から足音が聞こえ、よく知っている姿が大天狗の目に映った。【黒晴明】 「大天狗?ここにいたのか。」【大天狗】 「黒晴明様!」【黒晴明】 「気がついたらお前たちとはぐれてしまった。雪女と会えたか?ここには時々虚像が現れる。狭い部屋が人の心を攪乱することもあるようだ。気をつけろ。」【大天狗】 「はい。」【黒晴明】 「行こう、まずは雪女と合流だ。それに、意識が途切れる前に、雪女の他にいつも晴明の側にいる小さいやつが見えた気がする。彼も巻き込まれたのかもしれない。一応探しておこう……」大天狗が突っ立っていることに気づくと、黒晴明は足を止めて彼を見た。【黒晴明】 「お前も割れたお面に影響されたのか?変な幻を見なかったか?」【大天狗】 「ご心配には及びません。行きましょう、黒晴明様。」大天狗は軽く羽ばたき、黒晴明とともに「嫉妬」と「喜び」を後にした。【???】 「またこんな結末になってしまった。どうして互いのことを、こうも許せないの?」【少女・福神】 「あなたにだけは言われたくない。無数の業を重ねてきたあなたこそ、私たちを許せていないのでしょう!はははは、つべこべ言わずに、さっさととどめを刺すが良い。」【少女・蝉丸】 「ひひひ、あなたを見ていると、もう嫉妬する必要はないと感じる。だって、私たちより、あなたの方がよっぽど不幸だもの……ゴホゴホ……」床に落ちた二人の少女は、目を瞑り大気に飛散するまで、砕けた体を絡ませ続けた。「嫉妬」と「喜び」は紙一重。喜びは嫉妬を生み、嫉妬は喜びを呼ぶ。【「面霊気」】 「残っているのは……今度こそ、見つかるのだろうか?度重なる生死の輪廻も、それそろ終わりにしたい。」 |
肆
肆 |
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古屋敷の一角で、無言の対決が繰り広げられている。似たような荒事は昔からよく芝居に登場する。しかし対戦している両者は、自分が役者になるとは、夢にも思わなかっただろう。【晴明】 「言い残すことはないか?」【黒晴明】 「貴様に言うことなどない。」【晴明】 「だろうな。」【黒晴明】 「世間話はここまでだ。とどめを刺せ!」黒髪の青年は扇子を閉じ、飛んでくる呪符が体を貫通しても抵抗しなかった。黒晴明が仲間と合流する前、古屋敷のある部屋で……【黒晴明】 「ここが面霊気が暮らしていた場所だろう。目覚めてから既に大分時間が立っている。この屋敷もほぼ一通り回った。この広さ、尋常ではない……実在する建物というより、あの少女の夢だと考えた方が妥当だ。夢の中でも、己を一つの場所に拘束し、離れようとしないか……静まり返っているとはいえ、屋敷のところどころに、大勢の来訪者がいたことを証明する痕跡がある。これは全て……戦いの爪痕か。都の巷で噂になっている「殺戮芝居」は、やはり面霊気の仕業だな。しかし、夢の中で戦い続ける人たちは果たして、引き込まれた客人なのか、それとも面霊気自身なのか?」突然足音がして、お面をかぶった少女が襖の裏から現れた。少女は黙ってある方向を指さして、消えた。【黒晴明】 「…………お面、少女……妖怪の面霊気ではなく、この屋敷に残っている思念だろうか?罠か、それとも……まず彼女が指し示した方向を調べてみよう。たとえ罠だとしても、ここに来た本来の目的、面霊気を見つけなければならない。」【悪妖】 「あああああ……」【黒晴明】 「精神が操られた妖怪か。倒すしかない……ん?この感覚は……」黒晴明が投げた筆は妖怪を通り抜け、後ろの木璧に当たった。【黒晴明】 「これも虚像か?」妖怪が黒晴明に飛び掛かった。黒晴明が何もせずに待っていると、妖怪はまた彼を通り抜けた。振り返った時、虚像は凍り、砕かれ、氷の屑が床一面に広がっていた。【黒晴明】 「虚像は、ここで起きたことを映し出している?氷……雪女がここで敵と遭遇した可能性がある。しかし彼女なら、こんなことは……頭が少し痛い。屋敷に漂っている妖気のせいか。まあ良い、前へ進もう。」黒晴明はその後も、刻々と変化する屋敷を長い間歩いた。お面の虚像が時々現れ、道を指し示してくれた。【黒晴明】 「……おかしなやつだ。彼女も虚像であるなら、ここで誰かの道案内をしていたことになる。もしかして、この道の先にいるのは、大天狗や雪女ではなく……それに、この建物の構造は異常だ。戸や廊下、いずれも生者のための造りとは思えない。この建物は最初から、亡霊のために建てられたのだ。もしこれが面霊気の夢の具現化だとすれば、面霊気……お前はなんて夢を見ているんだ。」【青年】 「殺す、殺してやる!!!」【黒晴明】 「人間?ふん、どんな異常な場所でも、必ず命知らずの人間が関わっているものだ。」【青年】 「貴様……よくも彼女を殺したな!許さない!!!」【悪妖】 「ガアアアア!」【黒晴明】 「愚かだ。身の程知らずにもほどがある。」人間と妖怪の虚像が激戦し、人間は早くも破れた。そして戦いの音が、もう一匹の妖怪を引き寄せた。一枚の呪符が飛び、虚像を悉く打ち砕くと力が抜けたかのように、飄々と地面に落ちた。【黒晴明】 「都の噂によれば、この人たちは夢に引きずり込まれただけであって、たとえここで死んでも、本当に死ぬことはないらしい。心配には及ばないだろう。」【少女・狐面】 「…………」【黒晴明】 「また出た。」【少女・狐面】 「知っていることを全部話す。」【黒晴明】 「私に話しているのではなく……ここに立っていた別の誰かに話している?」【少女・狐面】 「この部屋は純粋な悪に支配されている。「悪」を終わらせない限り、ここを出ることは叶わない。あなたが本当に私の話を理解しているなら、悪と相対する半身、そして人に取り憑いたお面を全部壊してください。それ以外に道はない。私の話を聞いて、殺戮の存在を知ったあなたは、たとえ逃げても、殺戮の道を歩むことになるだろう。知は罪なり。知った瞬間に、罪が生まれたのだ!」言い終わると、少女は頭を上げ、彫刻刀で自らの胸を貫いた。【黒晴明】 「「悪と相対する半身」……それは、お前に向けて発した言葉なのか?実に新味のない展開だ。そうだろう、晴明?」【晴明】 「…………全くその通りだ。」【黒晴明】 「何時ここに来た?いつも横にいる小さいやつは?」【晴明】 「私には私の目的がある。ここまでだ、黒晴明。」【黒晴明】 「全く心配しないな。」【晴明】 「私はお前をここから出さない。」【黒晴明】 「ほう?なぜだ?我々は面霊気を探しに来た。気がついたら仲間とはぐれていただけだ。「大陰陽師晴明様」が気にすることではないと思うがな。」【晴明】 「お前は「晴明」の悪だ。晴明として、お前を阻止するのは当然だ。面霊気もお前も、皆滅ぼされるべき存在だ。」【黒晴明】 「…………はは。」黒晴明の場違いな笑い声が聞こえなかったのか、不意に現れた晴明が攻撃を仕掛ける。黒晴明は応戦するほかなかった。しばらくして、隙を突かれた黒晴明は攻撃を防ぎきれず、床に倒れた。同じ顔のもう一人が、上から彼を見下ろした。【晴明】 「お前は晴明の自らへの不信と懲罰から生まれた。命を蔑ろにし、悪事に通じ、強い力を持ちながら犠牲を傍観する……これが悪だ。お前を殺すことは、晴明の「悪」を殺すことだ。これで晴明の業は全て消える。」【黒晴明】 「お前……「悪」を殺すとは何だ。己が犯した罪を認めるのがそんなに嫌か?」【晴明】 「認めるも何もない。全て抹消すれば、悪は存在しない!」【黒晴明】 「……」【晴明】 「言い残すことはないか?」【黒晴明】 「貴様に言うことなどない。」【晴明】 「だろうな。」【黒晴明】 「世間話はここまでだ。とどめを刺せ!」光る呪符が、倒れている黒髪の青年を襲う。何かが割れる音がした。さっきまで黒晴明が倒れていた床には、割れた「狐面」だけが残った。横には攻撃の構えをしている黒晴明が立っている。【黒晴明】 「茶番劇はもう終わりか?こんなことならもう少し付き合ってやるんだった。この「晴明」がどれほど愚かな台詞を発するか、楽しみにしていたのに。」黒晴明はお面を拾い上げ、虚ろな目の空洞を見て、微かにため息をついた。【黒晴明】 「あれだけ多くの虚像を駆使してまで俺をここに導いたのは、この「晴明」と戦わせるためだったのか?なめられたものだ。雪女の技を真似た時から破綻していたぞ。入念に演じているつもりかもしれないが、全て無駄だ。雪女は敵を倒しても、決してとどめを刺さない。彼女はいつも敵を生かしておくんだ。そしてあの「晴明」……はははは。あいつが自分の口からあんな言葉が発せられるのを見たら、さぞかし面白い顔をするだろう。お前が言っていた「悪を殺す」も、この上ない戯言だ。罪を認めないことは、それを恥に思い、この世から隠蔽すべきことだと思うことだ。それこそ罪ではないか。このような考えを持つ者が、罪を抹消するなんて夢のまた夢。そんなことを言うのは、逃げることしかできない軟弱者だ。死んだふりするな。急所は避けたはずだ。俺の仲間の居場所を教えろ。」お面から少女の虚像がまた現れ、ある方向を指さした。【少女・狐面】 「仲間の行方のほかに……ここで起きたことについて知りたければ……」黒晴明は少女の言葉を待たずに、お面を粉砕した。【少女・狐面】 「…………貴様!!うっ……」【黒晴明】 「世の人々は、狐面を知恵の象徴として捉える。だが知は罪なりと言われた以上、お前の話は聞かないほうがよさそうだ。ここで何が起きたのかは、この目でしっかり見る。」黒晴明はお面の残骸を越え、少女が指した方向の反対側へと進む。そんなに歩かないうちに、後ろから物音がした。振り返ると、大天狗がこちらに歩いてくる。【少女・狐面】 「やれやれ。一番手ごわいのはこういうやつだ。お面がなくなった以上、あいつがもうすぐ来るだろう。まあ、やるべきことは全部やった。彼はこのままいけば、もうすぐ仲間と合流するだろう。この後は、他の人次第だ。またあなたからか。おお、来たか。ひひ、とんだ誤解だ。私じゃない、私は何もできなかった。あいつは騙されるどころか、人の話すらろくに聞いてくれなかった。それに、始まりと終わりが繋がっているこの場所で、本当の始まりなど端から存在しない。あなたも後を追うより、彼らが来るのを待つほうがいい。駄目だ。まだ違う結果を待っているのか?無駄だ。客人たちはあなたを倒す。そして全てが振り出しに戻る。何も変わりはしない。…………まあよい。あなたの彼女への思いは別格だからな。私は今回、あなたの何枚目のお面だ?一枚目だ。彼女が現れるまで、後三枚か…仕方ない。今回も結末は見れないな。」白衣の少女はこれ以上は話さず、懐から彫刻刀を取り出し、自らの胸に刺した。黒衣の妖怪が少女の胸から刀を抜くと、真っ赤な色が咲き乱れた。妖怪は、半開きの少女の目を閉じ、軽くため息をついた。【少女・狐面】 「これからもあなたを探し続けるし、あなたが私を探しに来るのを待っている。逃げ続けても無駄だからね。」 |
伍
伍 |
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この時、屋敷の一角で、黒晴明一行は小白と合流した。不意に現れた白衣の少女が面霊気を退治してくれと彼らに頼むが、その姿は色々な場所に現れた少女そのものだった。【少女】 「お願い、私を助けて!ここから出るには、面霊気を倒すしかないの!」【白蔵主】 「面霊気……?」【大天狗】 「お前が面霊気ではないのか。」【少女】 「いいえ、私はただの……ここに巻き込まれた一般人。」【白蔵主】 「さっき小白の前に現れた人もあなたとそっくりでしたし、小白が覚えている面霊気さんも、あなたと同じ顔ですよ!」【少女】 「私は彼女たちとは違う!彼女たちはお面をつけていて、面霊気に操られている。でも私はお面をしていない。……ほら、私自身の顔!」少女はお面をしていないことを証明するかのように、両手で頬を撫でた。面霊気に関する話をしても埒が明かないと悟った一行は、仕方なく話題を変えた。【雪女】 「名前。」【大天狗】 「面霊気ではないのなら、名前はなんという?」【少女】 「私は……「白」?誰かにそう呼ばれていた気がする。誰だろう……」【白蔵主】 「ちょっと待ってください!「白」だと、小白とかぶってしまいます!小白は長い間小白と呼ばれていますし、小白こそが唯一の……うううう!」大天狗が無表情で小白の口をふさぎ、それ以上抗議するのを阻止した。黒晴明が、さりげなく話を戻す。【黒晴明】 「面霊気を倒してほしかったら、まず質問に答えることだ。なぜ面霊気が黒幕だと分かる?」【「白」】 「私、彼女と会ったことがある。直接会ったわけではないけど……私……」【白蔵主】 「(気配といい、容姿といい、小白が知っている面霊気さんと瓜二つじゃないですか……)んん……(あなたと面霊気さんは同一人物であると断言できます!)ん!(記憶に障害が生じているのでしょうか。それともしらを切っているか……)んん……」【「白」】 「彼女がお面を操って皆を殺し合わせるのを見たの!」【大天狗】 「黒晴明様の質問の答えになっていない。」【黒晴明】 「(精神年齢はまるで子供だ。話がなかなか進まない……)では、そのお面とやらは何だ?我々が遭遇した、思念や感情を増幅させるものか?」【「白」】 「あれは……あのお面たちは、妖怪面霊気の魂の一部。この家は古くから存在しているけれど、後から彼女に占拠された。そして、身の回りに漂うお面を古屋敷の隅々に配置し、人の形にし、殺し合うよう命じた!でも彼女はそれだけでは満足しなかった。より多くの役者が登場するように、一般人まで引きずり込むようになった!」【黒晴明】 「それほどの手間をかけてまで、大きな「舞台」を作ったのはなぜだ?」【「白」】 「分からない。」【黒晴明】 「このことをどうやって知った?面霊気に会ったことはないと言ったはずだ。」【「白」】 「私の夢の中で……ここに攫われてくるまで、いつもあの妖怪の夢を見ていた。夢の中で、黒い妖怪は私を追いかけた。どこまで逃げようと、必ず彼女に捕まえられてしまう。……そして、彫刻刀で私の胸を刺した。こ……来ないで!!!誰か助けて……見つけた。……もう逃がさない。これが夢なら、早く目覚めさせて!!」【大飛出】 「逃げな、早く逃げな、ひひひひ……捕まえられたが最後、刀で貫かれてしまうよ!ひひひ、痛い痛い!」【「面霊気」】 「……黙れ。出てこい、これ以上進むな。」【「白」】 「やああああ……悪夢がずっと続いていた。彼女に見つからない時もあった。そんな時は、夢の屋敷から抜け出すことも試みたけど、出口はどこにもなかった。門の外には厚い霧がかかっていて、霧を抜けるとまた元の場所に戻ってしまった。」【黒晴明】 「幻境か。しかも外界からは閉ざされて、独自の時間が流れている……以前の推測は正しかったな、ここはおそらく誰かの夢だ。夢を見ている者が目覚めたら、この夢も自ずと消えるかもしれない。」【「白」】 「私も夢を見ているのだと思っていた。だけど悪夢を見る日がどんどん多くなって、夢の中には逃げ場すらなかった。そして、だんだん……現実と夢の区別がつかなくなった。目覚めることもできなくなった。」【白蔵主】 「……小白も似たようなことを経験しました。夢の中で、セイメイ様と出会う前に戻りました。夢山にいた頃の小白は……あ、小白の話をしている場合ではありません!」【黒晴明】 「…………」【白蔵主】 「その後は、ここから出ることができないから、ずっと彷徨っているのですか?」【「白」】 「うん。そして、客人もどんどん増えた。彼らはお面をつけた途端にお面に操られ、まるで舞台上の役者のようになる。お面は彼らに決闘や殺し合いを演じるよう強いた。だけど結末は……芝居だけでは済まなかった。」【大天狗】 「都で噂になっている「殺戮芝居」か。」【雪女】 「では、どうしてあなただけ、お面の影響を受けない?操られた人はみな、我を失っていただろう。」【「白」】 「分からない……最初から、私に近づくお面はなかった。と、とにかく!面霊気を倒すことができたら、全て解決して、ここから出ることもできる!」【大天狗】 「黒晴明様……」大天狗が黒晴明に視線を送ると、黒晴明は分かったというように頷いた。これほど胡散臭い言い分で、黒晴明を騙せるわけがない。彼は人の心を操るお面の方に興味があった。」【「白」】 「私を信じてください!!」【黒晴明】 「分かった、歩きながら話そう。実は我々がここに来たのも面霊気を探すためだ。つまり、お前と利害は一致している。」【大天狗】 「彼女の居場所を知っているのだろう?道案内を頼む。」【黒晴明】 「雪女、体は大丈夫か?」【雪女】 「私は大丈夫です。」【黒晴明】 「ならいい。お前は……」「白」は一行を連れて、無数の襖をくぐり奥へと進んでいった。小白だけがまるで状況を理解できないかのように、その場を動かなかった。【白蔵主】 「ちょっと待ってください!どうして勝手に行き先を決めるんですか?!」【大天狗】 「お前はもともと我々の仲間ではない。好きなところへ行けばいい。我々を尾行していたようなやつと、同行する筋合いはない。」【黒晴明】 「そのまま動かないということは、名案があるのだろう。」【白蔵主】 「あなたって人は!」【黒晴明】 「お面に取り憑かれたとしても、我々の助けも不要だな。」【白蔵主】 「(認めたくないですけど、セイメイ様とそっくりの顔の人に怒るなんて、小白にはできません……)………もう!」小白は走って追いかけた。【白蔵主】 「さっきは助けていただいて、本当に感謝しています。でも……!あなたたちが今までやってきたことと、セイメイ様と敵対していることは、一生忘れません!今同行しているのも、ただ借りを返したいだけです!!」【大天狗】 「ほう?ここに天狗の面があるとは。埃に覆われているのは、実に残念だ。」【雪女】 「……(ぼうっとしているようだ)」【黒晴明】 「しかしこの建物の造りは、陰陽道と風水を組み合わせたのだろうか。なぜわざわざこんな造りに……実に面白い。この屋敷の構造は、特殊な結界になっている。時間に余裕があればもっと研究したいものだ。」【白蔵主】 「小白の話を聞いてください!!!」廊下の突き当りの襖の影に、騒いでいる小白たちを見つめている姿があった。【「白蔵主」】 「賑やかですね。僕も混ぜてくださいよ。」少女「白」とともに屋敷の中心へ向かう途中にも、お面に操られた妖怪と多数遭遇した。大天狗は襲ってくる妖怪を造作なく退けながら、旋回する階段に沿って進んだ。【「白」】 「もうすぐだよ。」【黒晴明】 「この屋敷の構造は常に変化している、なぜ面霊気の居場所が分かる?」【「白」】 「声が聞こえるから……そこに向かえるように、ずっと私を呼んでいる。彼女も私を探しているの?分からない。何も分からない。でも、ちゃんと聞かないと駄目な気がする。」【大天狗】 「もともと普通の少女だった面霊気は、お面と融合することで妖怪となったが、まだ人間としての意識を保っていると聞く。この人は、面霊気の人間の部分だろう。」【黒晴明】 「面霊気はなぜ人々を殺し合わせたのだろう。それにもう一つ大事なことがある……我々の記憶だ。」【大天狗】 「記憶?というのは……」【黒晴明】 「雪女の症状の悪化を止めるために、面霊気を訪ねて来たことは覚えている。おそらく我々は、既に面霊気と何らかの取引をしたのだろう。しかし気がついたら既にここに来ていた。そして面霊気と会った記憶も全くない。晴明の横にいる甘っちょろいチビでもあるまいし。我々が無防備で、こんな幻境に引き込まれるとは思えない。この古屋敷に入ること自体が、取引の一部なのかもしれない。そして取引によって、我々はこの古屋敷の力に影響されている。」【大天狗】 「確かにその可能性はある……ここではずっと言いようのない不自然な雰囲気を感じる。芝居を見ているようでもあり、芝居の中にいるようでもある。初めて経験することのはずなのに、まるで何度も見たことのような気がする。今渡った廊下、上った階段も、どことなく知っているような気がした。まるで、誰かが事前に仕込んだかのように。う……またその感じだ。」また何度も経験した恍惚に襲われた。黒晴明と大天狗が気づいた時には、彼らは既に妖しい模様の入っている襖を開け、少女とともに中に入っていた。後ろの襖が閉まる音とともに、二人は我に返った。振り返ると、雪女と小白はいなかった。【大天狗】 「油断した!貴様、今度は何を企んでいる!あの二人はどこだ?」【「白」】 「何の話?」【大天狗】 「さっきまで後ろを歩いていた二人だ!」【「白」】 「最初からあなたたち二人しかいなかったけど?」【黒晴明】 「…………」【「白」】 「それより、ほら、ついたよ!」部屋の真ん中では、黒衣の妖怪が一面に広がる血だまりの中に立っていて、お面の欠片が周りを漂っている。その妖怪が顔を上げると、それは「白」そっくりの少女だった。【「面霊気」】 「ようやく来たな。」一方、屋敷の反対側にいる雪女と小白は、閉まっている襖の前に立っている。生臭い血の匂いが、襖の向こうから漂ってくる。その匂いで、小白ははっと我に返った。いつの間にか意識が影響され、さっきまで朦朧としていたことに気づいた。隣には襖を丹念に見ている雪女がいたが、大天狗、黒晴明、そして「白」はどこにもいなかった。【白蔵主】 「ええ?どういうことですか……いたたたた!頭が痛いです!!雪女様、さっき小白はどうなっていたのですか?どうして小白と雪女様しかいないんですか?」【雪女】 「…………さっき合流した時、黒晴明様は私たちがまたこの屋敷に心を攪乱されると予想していた。我を失いはぐれることを避けるために、私は全員に氷の花を植え付けた。精神が影響され、はぐれる時、氷の花が咲く。」【白蔵主】 「それでは……彼らははぐれてしまったのですか?」【雪女】 「はぐれたのは私たち。」【白蔵主】 「え?そ、そうなんですか……」【雪女】 「私は咲いた氷の花によって目覚めたけれど、また全員心を影響されてしまったと気づいた時には、あなたは既に遠くへ行っていた。黒晴明様たちはあの少女と一緒だから、なかなか呼び覚ませなかった。」【白蔵主】 「だから……小白のことが心配で、ついてきてくれたんですか?ごめんなさい!小白がもっと気をつけていれば、こんなことには…雪女様、ありがとうございます!」【雪女】 「……気にしないで。あの力があなたをこちらに向かわせたのは、何か手がかりを見つけられるからかもしれない。妖怪面霊気は秦川勝が作った七つのお面と一体化したと、黒晴明様が言っていた。今まで私たちを惑わしたお面は五つ。彼らを砕いたことによって、面霊気の力を削ぐことができるかもしれない。そして残りの二つは……」【白蔵主】 「小白をおびき寄せたのが、彼らだというのですか?」【雪女】 「その可能性はある。だから、気にすることはない。」【白蔵主】 「雪女様……ありがとうございます。」小白が目の前の襖を開けると、血の匂いが一層濃くなった。暗赤色の中に、黒髪の少年が座っている。少年の背後では、大きな般若の面が見え隠れしている。まるで彼の正体を仄めかしているようだ。【「白蔵主」】 「あれ、やっと来たんですね。」 |
陸
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小白と雪女はお面に惑わされ、黒晴明たちと離れ離れになった。血なまぐさい部屋の真ん中で、小白と同じ容姿の少年が彼らを待っている。【白蔵主】 「あなたは……何者ですか!!」【「白蔵主」】 「煩いですね。僕はどう見ても白蔵主でしょう。」【白蔵主】 「はい?今度は小白のふりをして、小白を騙そうというのですか?あなたの後ろに……お面が見えていますから!!この間、あなたたちが装ったセイメイ様に騙されたのは不覚でした!小白はもう二度と騙されません!!」【雪女】 「彼をここに誘い込んだのはなぜだ?」【「白蔵主」】 「退屈だからに決まっているでしょう。ここは、退屈すぎます。」【白蔵主】 「え?」【「白蔵主」】 「僕の同類とは、既に会っているでしょう。今の言い方だと、既に彼らに騙されたようですね。この屋敷は大きな舞台です。そしてお面である僕らは、舞台に何度も何度も立たされ、芝居を強いられる役者ですよ。まあ、お面ですから、当然のことといえば当然ですけど。」【雪女】 「芝居……だからあんなにたくさん虚像が現れたのか?あれは全て、今まで上演されてきた「芝居」だったのか?」【「白蔵主」】 「その通りです。僕らのご主人様…あの娘は、お芝居が大好きですから。僕らは支配されている者として、つまらない演目を繰り返すしかありません。」【白蔵主】 「あなたたちは、何を演じているんですか?」【「白蔵主」】 「もちろん血色に染まった「殺戮芝居」ですよ。「初対面の七人が、妖怪によって古屋敷に閉じ込められ、お面をつけたまま殺し合い、最後まで生き残った者が勝者となる。」一回観る分にはまあまあ面白いですけど、何度も観たらさすがに飽きますよ。ましてや、亡者を演じるのは、僕ら自身なんですよ。」【白蔵主】 「たかがお芝居のために、殺し合わなければいけないのですか?!では殺された人たちは……」【「白蔵主」】 「彼女は、ああ見えて優しいんですよ。役者として攫われてきた人間は悪夢を見たようなもので、痛くも痒くもありません。苦しむのは僕らだけです。ねえ、知っていますか?彫刻刀が体を貫くのは痛そうでしょう?でも何百回も、何千回も経験すれば、その程度の痛みはどうでもよくなるんですよ。」【雪女】 「…………」【「白蔵主」】 「芝居を演じるのは毎回僕らですから、はめられても、誰かをはめても、たいして変わりません。」【白蔵主】 「……あなたの感想はどうでもいいです。そんなことより、小白をここにおびき寄せた目的を教えてください。それに…………小白に似た顔で話さないください!!!」【「白蔵主」】 「この姿、もう忘れましたか?」【白蔵主】 「え?」【「白蔵主」】 「似ている、ではなく、これがあなたの昔の姿じゃないですか。」【雪女】 「あなた、他のお面の虚像と少し違う。一体何を企んでいる?」【「白蔵主」】 「ばれました?そうですね、あまりにも退屈ですから、今度の輪廻では少し趣向を変えてみました。都の大陰陽師、晴明は陰陽分離の禁術を施し、自らの「悪」を剥がした。」【白蔵主】 「だから何だというのですか!」【「白蔵主」】 「そして、僕らの主人である面霊気も偶然が重なって、晴明と似たような存在になったのです。彼女の人間の半分は己が犯した罪を認めることができず、魂が二分し、黒い半分が誕生しました。最高だと思いませんか?「悪」から生まれた新しい魂。しかも自分だけの体を持てる……これがお面の僕らが何よりも悲願していることです。」【白蔵主】 「それはつまり……」【「白蔵主」】 「もし「罪」を剥がすことができたら、新しく生まれた体が、僕をつけることができるんじゃないでしょうか。ご主人様は僕らに永遠に夢の中にいてほしいみたいですけど、もうこのくだらない芝居に付き合うのは飽きてしまいました。だから、魂と体を、僕に貸してくれませんか?」【白蔵主】 「断ります!!!」【雪女】 「今のあなたの姿は、ただの目くらましでしかない。面霊気にとっても、晴明にとっても、善悪を分離することは、そうたやすいことではない。ましてやお面であるあなたは、魂を二分させ、新しく生まれる体を奪える自信がない。小白をわざわざここまでおびき寄せたのもそのためだろう。」【「白蔵主」】 「よく分かりましたね。その通りですよ。この姿に化けたのは、あくまでこいつの「怒り」の思い出を引き出すためです。賭けをしてみませんか?あなたの「罪」に勝てるかどうか。」【白蔵主】 「うう、頭が痛い。あなた……」【「白蔵主」】 「「小白」になれば、過去に犯した罪を忘れ、本当の「白」になれると思っているのか?さあ、罪を思い出して……」【大飛出】 「私は「大飛出」、怒り、狂乱、残暴……これらの感情を司るお面だ。私をつけてみないか?」小白は目の前の人を見つめるが、自分と同じ顔をしている彼の言葉が頭に入らない。不意に沸き起こる怒り。まるで幽室に閉じ込められ、視界に入った人間を漏れなく虐殺していた頃に戻ったかのようだ。【白蔵主】 「うう、頭が、痛い……くそ、離れてください、小白から離れてください!!小白はあそこから出たんです!!いいえ、違います、「小白」では……」【雪女】 「小白!すごい妖力だ。こんなに強い力を持っていたのか?晴明の傍にいた頃は、無意識に己の力を抑えていたのか?しっかりして!」小白の目に映っていた黒服の少年は消え、お面「大飛出」が巨大な妖狐と化した。あれは昔の自分、人間に操られ、人間を憎み、人間を虐殺していた自分。【黒狐虚影】 「我を覚えているか?」【白蔵主】 「覚えています。」【黒狐虚影】 「まるで何事もなかったかのように、晴明の側で気楽に暮らして。お前の爪と牙は、人間の血に染まっていることを忘れたか?」【白蔵主】 「いいえ、僕は……忘れていません。」【黒狐虚影】 「そうか?なら怒りに任せて、我を倒してみろ。」巨大な妖狐が狐火を纏って飛び上がり、小白に襲いかかる。躱そうとした小白はお面の欠片にぶつかる。そのすきに、小白の動きがお面たちに妨害される。あの原因不明の怒りに駆られ、小白は周囲のお面を砕いたが、またお面の欠片が纏わりついてくる。目だけが残った尖ったお面が押し寄せ、小白の退路を断つ。躱しきれなかった小白は、妖狐の鋭い爪で怪我をした。【白蔵主】 「うああ!!!どいてください!」【黒狐虚影】 「この程度か?お前は我々の主と同じだ。犯した罪から目を背け、平和な日常で血の跡を隠そうとする!お前に人を襲った妖怪を責める資格はない。お前も同類だからな。陰陽師の犬に成り下がっただけで、あいつがいなくなったら、お前は凶悪な悪犬に戻るのさ。」【白蔵主】 「違います!!!セイメイ様と出会ってから、すべて変わりました!僕は、そんな……僕?僕は……」周囲を漂うお面の欠片から非難する声があがり、巨大な黒い狐がゆっくりと近づいてくる。目が真っ赤になった小白はお面の欠片の妨げにもかまわずに、必死に抵抗している。【白蔵主】 「引き裂いてやる、邪魔者は皆いなくなれ!!!そうすればこのことを知る者はいなくなり、僕はまた……」突然、氷の刃が狐火を破った。氷の花が咲き、お面たちを凍らせ、小白の怒りも鎮めた。【雪女】 「小白。」【白蔵主】 「「小白」……?」【雪女】 「過去があってこそ、今がある。罪もその一部。落ち着いて。少なくとも、過去のあなたの行いは、悪事ばかりじゃない。この一撃は、あの絵のお礼。」【白蔵主】 「あなたに見せると約束したから、あなたに渡してくれと、彼に頼まれました。」憤怒の妖狐が、お面の欠片と共に雪女を襲う。さっきの一撃で力を使いすぎたせいか、彼女の体にヒビが入った。【白蔵主】 「雪女様!!!」古い屋敷のもう一方、黒晴明と大天狗が黒服を纏う妖怪、面霊気と対峙している。【「白」】 「面霊気!」【「面霊気」】 「やっと、また会えた。今回は逃げ回らずに、自ら私に会いに来たのか?珍しい。……で、また客人たちを連れてきたのか?」【黒晴明】 「(「また」?)貴様は面霊気か。」【「面霊気」】 「そうだ。」【黒晴明】 「ここは誰かの夢だな。貴様がこの屋敷の主か?」【「面霊気」】 「そうだ。」【大天狗】 「夢の主を起こせば、ここから出られる。どうやら、貴様を倒すしかないようだな。」【「面霊気」】 「……勝手にすればいい。彼女を見つけた。私はそれだけで満足だ。」黒服の少女が「白」を指し、微笑を浮かべた。【「白」】 「何をするつもり?!私たちをここから出して!!」【「面霊気」】 「何って?何もしない。私はいつも、あなたが目覚めて、私に会いに来るのを待っていた。」【「白」】 「……え?」【「面霊気」】 「あなたとその「小面」は、最初からずっと見てきたんだろう。これならどうだ?「出口のない古屋敷で、七つのお面が最後の一つになるまで殺し合う。」「最後の観客が舞台に上がり、最後のお面をつけ、幕引きの鐘を鳴らす……そして、また始まる。」」【黒晴明】 「「観客」?「お面」?なるほど。前に遭った虚像は、ここで演じられた「芝居」だった。お面たちが最後の一つになるまで殺し合うための。そして、最後の一つが始まりとなり、新たなお面が誕生し、また繰り返す。わざわざこんなことをする理由はなんだ?」【「面霊気」】 「理由……?ここは私たちの夢、夢に理由はいらない。夢で面白い殺し合いを見ることができて、夢で彼女に会える。これ以上何を望む?私たちは観客だ。最後のお面を奪い、「黒」と「白」の役を決める。」【「白」】 「狂ってる、あなたは狂ってる!!私はあなたとお面を奪い合ったりしたくない!ここから出して!」【「面霊気」】 「狂っているのは私ではなく、あなただ。」【大天狗】 「お前の遊びなど、我々の知った事ではない。だが勝手に我々を巻き込んで、記憶を捻じ曲げようとするなど、断じて許さん。」【「面霊気」】 「ただの芝居さ、あなたたちも役者の一人だ。そう怒るな。」【大天狗】 「…………」【「面霊気」】 「お面はあと二つ。今回最後に残ったのは「大飛出」と「小面」か?最後の一つが決まるのを待っている、芝居ももうすぐ終幕だ。」【「白」】 「終幕……ここから出られるの?!」【「面霊気」】 「私があなたに追いついて、私たちの芝居を続けるのか?それともあなたが私を殺して、ここから出るのか?」天井から激しい音がした後、血だらけの二人が空から落ちてきて、地面にぶつかった。それは激戦後の小白と、体が砕ける寸前の雪女だった。一つのお面が彼らと一緒に落ちてきた。目が飛び出そうで、亀裂が走り顔が割れた……「大飛出」。【「面霊気」】 「大飛出……どうやら、もう時間のようだ……最後の追いかけっこを、始めようか。」「始め」の合図と同時に、黒服と白服の少女が消えた。部屋の中には、黒晴明たちだけが残った。【白蔵主】 「…………?何が起きたんですか?どうして急にいなくなったんです?そうだ!!早く、雪女様を助けて…………」 |
漆
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静かな廊下で、白服の少女が目を開ける。この状況は何度も経験したようで、懐かしく感じる。後ろから足音が聞こえ、彼女は立ち上がった。これまで何度もしたように、走り出した。【「白」】 「ハァハァ……ハァ……あれは一体何?!」振り返ると、黒い霧の中に人影がかすかに見える。その影を見るだけで痛みを感じる。少女は振り返らずに、果てしなく続く廊下を走り続ける。【「面霊気」】 「…………見つけた。」足を踏み違えた少女が廊下から落ちていく。耳元で無数の音が聞こえる。【福神】 「気をつけろよ、ひひひ、ほら、また踏み違えた。」【蝉丸】 「今回はどこまで逃げられるかな?私にお願いしたら、助けてあげてもいいよ。」【大飛出】 「うるさい、何怖がってんだ、黙れ!」【狐面】 「さあ、こちらへ……」少女はついに床に落ちた。声に従って、次々と扉を開ける。彼女が足を踏み入れると、部屋の燭台が点灯する。走る彼女の影がねじ曲がり、無数の人間の輪郭に変わっていく。【「白」】 「怖い……怖い!逃げなきゃ、早く逃げなきゃ!どうしよう、追いつかれる!!」壁から目が浮かび上がり、お面たちは彼女が通った扉を閉め、彼女をより奥へ走らせる。【「面霊気」】 「ちっ、邪魔なやつ!」回転する廊下とねじれた階段を通り抜けると、少女はお面たちに囲まれ、屋敷の最深部に連れて行かれた。」【姥】 「これで大丈夫。」【猿面】 「狭いけど、もう怖がらなくてもいいよ!」【「白」】 「見つかったらどうしよう?追いつかれたら、きっと恐ろしいことになる!」【狐面】 「心配しないで、私たちがついてる。私たちは皆、あなたの友達だよ。」【福神】 「私たちが、あなたを守る。」お面たちが「そうだ」「そうだ」と騒ぐ。少女は、自分を追っていた妖怪が抑えられていることに気がついた。【狐面】 「おや、あいつ罠に掛かった!」【福神】 「あいつの力はもともと少ない、もう少し消耗させれば……あっ!」刻刀が「福神」の口を引裂き、狭い部屋が一瞬で粉砕された。崩れる部屋、蘇る記憶。黒服が倒れる。指先から温かく湿った感触が伝わる。少女を追っていた妖怪が受傷を負い、血まみれになっていた。【「白」】 「ああ……」【「黒」】 「今回も、同じか……あなたに追いついたが、私はここまでだ。」【「白」】 「どうして怪我を……?私を殺しに来たんじゃないの?!」【「黒」】 「あなたを傷つけるつもりはない。ただ、目を覚まさせてあげたい。あなたは私の魂の半分、あのお面たちは……友達なんかじゃない。よかった、あなたが夢の奥に引きずり込まれる前に、追いつけた……」【「白」】 「何の話?なぜお面たちが私を傷つけるの?あなたは誰なの?」【「黒」】 「……ゴホゴホ、長い話になる。それは……遠い昔、父親と古屋敷で暮らしていた、女の子の話。でもこの話は長いから、いつも最後まで話せない。」【「白」】 「待って!」【「黒」】 「すまない、今回も無理だ。あなたが知りたいことは……ああ、そうだ、お面たちに演じてもらおう。約束してくれないか?次見終わったら、ここから出て、目を覚ますんだ。そして私を受け入れ、私の魂と一つになるんだ。」黒き妖怪は、木屑となって消え、彼女がつけていたお面だけが残った。笑顔のお面に血の涙が一滴流れている。少女は手を伸ばし、お面を拾う。【「白」】 「でも私、まだ何も知らない。このまま目覚めたら、二度あなたに会えないの?」周りの世界が崩壊し始めた。少女はお面をつけて、白い光に飲み込まれた。狭い部屋の中、黒晴明と大天狗が雪女と小白の状態を確認している。【大天狗】 「これほどの怪我だとは。一体何をした?」【白蔵主】 「小白がやったわけじゃ!う、はい、確かに小白のせいです……」【黒晴明】 「彼女の状態を見るに、己の妖力を駆使して、全力の一撃を放ったのだろう。力は彼女のものだ。彼女の意思であれば、私は止めはしない。一体何があった?」【白蔵主】 「僕達は…………」巨大な黒狐が雪女様に襲いかかって……【白蔵主】 「雪女様……」小白が雪女の前に立ちはだかり、攻撃を受け止めた。二人は吹き飛ばされ、後ろの壁にぶつかった。【白蔵主】 「う、ゴホゴホ!痛い!大丈夫ですか!まずい、体が崩れていきます!どうしよう、どうしよう!早く黒晴明様たちのところに!」【黒狐虚影】 「ガアアアア……」【白蔵主】 「しつこいやつめ!」氷の花が咲き、小白の傷を癒やした。小白は雪女を守りながら、黒狐の攻撃を避ける。氷の花のおかげで、人を完全に呑み込んでしまいそうな黒霧も、怖くなくなってきた。小白は知っています、小白はもう迷いません。【黒狐虚影】 「逃さん!!!!」【白蔵主】 「小白は逃げませんよ!小白はあなたを倒します!雪女様の言った通り、罪の存在であるあなたも、小白の一部なのです!罪があってこそ、今の小白がいます!!もうあなたを恐れません。小白を怒らせようとしても無駄です。良い記憶だけ残そうとするのは、ずるいですよ!」小白の妖気が燃え上がり、お面の包囲を突破し、黒狐に襲いかかる。血と騒音が消え、地面には壊れたお面だけが残った。 |
」【白蔵主】 「ふう……あっ!雪女様!!早く二人を見つけないと!えっと、方向は確か……うわああああ…………その後、部屋から出る前に、床が崩れました。」【大天狗】 「そして落ちてきたわけか。雪女は、もともと体調が悪かった。彼女に無理をさせて、お前は……」【黒晴明】 「もういい。今は雪女のことが先だ。」雪女の体は絶え間なくひび割れ続け、こぼれ落ちる雪の結晶は一瞬で溶ける。隣の小白が混乱している。【白蔵主】 「どうしようどうしようどうしよう……全部小白のせいです……面霊気は?どうしてあなたたちしかいないんですか?面霊気がいれば、彼女に頼んで雪女様を助けてもらえるのでは?!」【黒晴明】 「彼女は……さっき消えた。妖力を補充しても無駄だ。このままでは、彼女が完全に溶けてしまうまであまり時間はない。」【大飛出】 「おい。」【白蔵主】 「げ……まだいたんですか?また小白の姿に化けて!」【大飛出】 「実体のないお面だから、仕方なくあなたの姿を借りているだけだ。お面自体はもう……主に頼みがあるんだろう。そこで横になっている、あれのためか?」【白蔵主】 「何のつもりですか?」【大飛出】 「彼女は……溶けているのか?欲張りなやつだ。」【白蔵主】 「ふざけたことを、あなたを徹底的に捻り潰しますよ!」【大飛出】 「ふざけてないさ。彼女は氷雪で出来てるだろう?氷は熱に弱い、常識じゃないか。」【白蔵主】 「何が言いたいんです?」【黒晴明】 「…………(大天狗に小白の口を押さえるよう合図する)続けろ。」【大飛出】 「心に温かい記憶がいっぱいだから、溶けるんだ。」【雪女】 「記憶……私の?」【黒晴明】 「目が覚めたか。横になったままじっとしていろ……」【大飛出】 「記憶は魂に刻まれる。普通の人間なら問題ないが、こいつの心と魂は氷で出来ているだろう。思い出が増えていくと、魂ごと肉体が溶けてしまう。」【黒晴明】 「そういうことか。私はずっと、彼女の体調が悪化する原因を探していた。最初は雲外鏡の欠片による異質な力の影響だと思ったが、欠片から遠ざけても、悪化は止まらなかった。原因は他でもなく、雪女……お前自身ということか。」【雪女】 「…………ごめんなさい。」【大天狗】 「謝る必要はない。」【黒晴明】 「ふん、晴明は、お前を白川山から連れ出したら、こうなることは予想していたはず。面霊気は人間の魂を分解したことがある。雪女のこともなんとかできるはずだ。」小白が「大飛出」に質問する間もなく、部屋が激しく揺れ始める。……屋敷全体が衝撃を受けたかのようで、いまにも崩壊しそうだ。黒晴明と大天狗が雪女を庇う。小白が姿勢を保ち、周囲を見ると、お面の虚像はすでに消えていた。揺れは止まらない。屋根が崩壊し始め、太陽の光が部屋に差し込む。【白蔵主】 「眩しい……どうして急に崩れたんですか?面霊気が倒されたのでしょうか?」【黒晴明】 「かもな。夢の主を起こせば、夢が崩れるのも当然だ。」【「白」】 「彼女は消えた。」【白蔵主】 「うわあ!どうしてここに?」【黒晴明】 「その血は……面霊気を殺したのか?」【「白」】 「違う!私は何も知らない。まだ何も教えてもらえてない……さっき……一瞬で、私たちしかいない屋敷に飛ばされた。怖かったから、ずっと逃げていた。彼女に追いつかれた時、彼女は自分が消えると言った!」【黒晴明】 「やはりそうか……」【「白」】 「もう私を守ることはできないと。一体どういう意味?私のせいなの?」【黒晴明】 「前に言っていたな、黒い妖怪がお前を殺そうとすると。そいつが消えているのに、なぜそんなに慌てる?」【「白」】 「慌てる?私が?どうしてだろう……あの人がずっと私の夢にいて、私を追っていた。追いつかれるたびに、怖い目に遭った。夢は毎回急だから、彼女の顔をちゃんと見たこともなかった。どうして彼女が消えた今、私は悲しむの?」【黒晴明】 「お前と彼女が、もともと一人だからだ。」【「白」】 「え?」【黒晴明】 「お前は「善」の部分であり、彼女は「悪」の部分だ。「善」が自ら「悪」の存在を認めることはない。故にお前は彼女を怖がっていた。もともと一人だから、無意識に彼女に近づく。お前の魂は、彼女と一つになることを欲している。」【「白」】 「私はどうすればいいの?」【黒晴明】 「いつまでもこんなところにいないで、外へ出よう。夢から出るんだ。現実の世界で、彼女はお前が目覚めるのを待っているかもしれない。」【「白」】 「……ああ、そのとおりね。ここから出たら、本当の彼女に会えるかも。行きましょう……」廊下がねじ曲がり、崩壊した壁の後ろに一つの扉があった。扉の隙間から奇妙な光が漏れている。【白蔵主】 「ここから出て、早く面霊気に雪女様を救けてもらいましょう。」【大天狗】 「そう簡単にはいかない。この屋敷に入ること自体が、彼女との取引の一部かもしれない。ここはもうすぐ崩れるが、我々の記憶はまだ影響されている。物事を軽く考えすぎないことだ。」【白蔵主】 「そこですよ!前々から思っていたんですけど、大天狗様の上から目線な口調が気に入りません。」【大天狗】 「は?我の口調がどうであれ、お前には関係ないだろう。」【黒晴明】 「よせ。この先何が起こるかわからない。静かにしろ。」【「白」】 「…………」【黒晴明】 「雪女、大丈夫か?」【雪女】 「はい……まだ大丈夫です。」一同が扉の前に移動し、黒晴明が扉に手をかけた時、雪女の胸に激痛が走った。記憶に溢れた心がこれ以上耐えられず、今にも崩壊しそうだ。沢山の記憶が浮かんでくる。どれも似たような内容で、まるで同じことを何回も繰り返したようだ。【白蔵主】 「あなたの上から目線な口調が大嫌いです!」【大天狗】 「我の口調がどうであれ、お前には関係ないだろう。」【黒晴明】 「お前は「善」の部分であり、彼女は「悪」の部分だ。お前は彼女を恐れていた。「善」が自ら「悪」の存在を認めることはない。それでも無意識に彼女に近づく。お前の魂は、彼女と一つになることを望んでいる。」【白蔵主】 「小白はもう、あなたのせいで怒ったりしません。小白が犯した罪も同じ……みんな大切な記憶なんです。どれもなかったことにはしません!」【雪女】 「過去があってこそ、今がある。落ち着いて。素敵な思い出もいっぱいあったでしょう?この一撃は、あの絵のお礼。」【大天狗】 「笑っているな。何かあったのか?」【雪女】 「私……今笑っていましたか?」【大天狗】 「以前渡した羽が、何かの攻撃を受けたのか、折れている。何かあったのか?」【雪女】 「大したことじゃない。」【大天狗】 「ならいい。」【黒晴明】 「ここは幻境か。しかも外界からは閉ざされて、独自の時間が流れている……以前の推測は正しかったな、我々は誰かの夢の中にいる。夢を見ている者が目覚めたら、この夢も消えて、我々はここから出ることができる。」【雪女】 「待って!!ここから、ゴホゴホ……出ないで!」【白蔵主】 「え?」【雪女】 「ゆ、夢の主は、他にいる!」【大天狗】 「喋るな。……崩壊がひどくなってる。」【雪女】 「これは何度も繰り返す芝居、ここから出たら……」【黒晴明】 「…………芝居がまた始まる。我々はまた屋敷のあちこちで目覚め、同じことを繰り返す。」【大天狗】 「……違和感の正体は、これだったのか。」【黒晴明】 「夢の本当の主は……貴様だ。」【「白」】 「おや。」【黒晴明】 「貴様は何度も黒の半身を殺して、私たちが出ていくように仕向けた……そして新たな輪廻を始める。」【「白」】 「あはははははは。気づかれてしまったか。私だってわざとじゃない。ほら、お面たちも彼女も、毎回あなたたちを注意していたでしょう。なのに毎回、どうしても扉を開けるんだから。なぜ気づいた?毎回輪廻が始まる前に、記憶は消されていたはず……」【雪女】 「…………」【「白」】 「そうか、あなたか。魂に刻まれた記憶が、あなたを呼び覚ましたのか?仕方ない、負けを認めよう。今回の鬼ごっこでは、ついに私が捕まった……」一同の目の前にある扉が崩れていう。その後ろにあるのは霧だ。霧の中には、無数のよく似た姿がかすかに見えている。黒晴明、小白、大天狗、雪女。錯乱した時空の中、彼らは屋敷の違う場所で、似たようなことを話し、似たようなことをする。白い光が霧を払った。再び目を開けると、小白たちはすでに夢と変わらない現実に戻っていた。【空相面霊気】 「どう?面白かった?待ちくたびれたよ。どれだけ面白くても、何回も見たら流石に飽きる。」【大天狗】 「貴様……!!」【空相面霊気】 「そう怒るな。約束しただろう。」大天狗が言い返そうとした時、忘れられていた記憶が蘇った。【空相面霊気】 「手伝う?なぜあなたたちを手伝う必要がある?去るがいい、招かれざる客人よ。この世界には私たち二人さえいればいい、他の人はいらない。」【黒晴明】 「…………」【空相面霊気】 「ああ、そうか、あなたか。なるほど。これもまた縁だな。わかった、協力しよう。庭院の外で待っている彼女のために来たんだろう?」【大天狗】 「何をするつもりだ?」【空相面霊気】 「そう警戒するな。彼女が溶けるのを止めたいのだろう?私ならできる。」【黒晴明】 「条件は?」【空相面霊気】 「条件か……ならば、芝居に付き合ってほしい。舞台に上がって、自分の意志で私の夢に入ってくれ。取引であることは忘れさせる。舞台から出られたら、彼女を助ける。出られない場合は……ふふふ、一生お面をつけたまま、私と遊ぶことになる。」【黒晴明】 「わかった。」【空相面霊気】 「決まりね。さあ、指きりげんまん、嘘ついたら針千本呑ます~はい。ふふふ、では、始めるよ!」【大天狗】 「ちっ。」【空相面霊気】 「思い出しただろう。私は約束を守るよ。」【黒晴明】 「我々を襲ったお面も、貴様の仕業だな?」【空相面霊気】 「あなたたちと同じ、芝居の役者だ。もっとも、こいつらは自由気ままに演じるのが好きだけど。」【大天狗】 「我々は「舞台」から出た、雪女を……」【空相面霊気】 「目覚めるのを待とう。あなたたちが出られたのは、彼女の氷の魂と、魂に刻まれた記憶のおかげだ。私にできるのは、魂を抜き取ることだけ。魂に刻まれたものには、手のつけようがない。安心して、変なことはしないから。魂の形を整えて、記憶と魂の結びつきを強くした。」【雪女】 「……うん?私は……」【大天狗】 「目覚めたか。大丈夫か?気分はどうだ?」【雪女】 「大丈夫。力が……回復している。」【大天狗】 「よかった。」【空相面霊気】 「ほらね。」【大天狗】 「……ちっ。」【空相面霊気】 「はあ、この人はいつもこんな感じなのか?」【白蔵主】 「……しばらく小白に声をかけないでくだい。情報が多すぎて、頭が追いついていません。」【空相面霊気】 「ふん、人の気も知らないで。目的は果たせただろう、ならばさっさと帰ってくれ。私たちの遊びの邪魔だ。」【黒晴明】 「「遊び」?」【空相面霊気】 「そうだ。この舞台はあなたたちのために造ったわけではない。」【黒晴明】 「傍観者として、お面たちが殺し合い、もう一人の自分に追われるのを見る……夢で体験した事は、もう既に何度も起きた事。貴様もこの屋敷に閉じ込められたことがあるはずだ。」【空相面霊気】 「そうだ。」【黒晴明】 「貴様が輪廻の屋敷に残っている理由は……彼女だろう。」黒晴明が、白服の少女の後ろで眠っている黒服の少女を指差す。黒服の少女は顔面蒼白で、全く生気を感じない。」【空相面霊気】 「そうだ。私を目覚めさせるために、彼女は力を全て使った。そしてその魂は、私と融合した……融合した後、彼女は消える運命にあった。でも私は彼女に消えてほしくなかった。」【黒晴明】 「だから、強引に彼女の魂を引き留めたのか。」【空相面霊気】 「うう、仕方ないだろう。彼女は私、私のたった一人の友達、大大大好きな人なんだ!それでも、彼女は目覚めなかった。だから、私は夢で会いに行くことにした。」【黒晴明】 「……この屋敷は意図的に作られているな。長く暮らしていると精神が歪められ、最終的に狂ってしまう。貴様……」【空相面霊気】 「これ以上言うと怒るよ。帰ってくれ。」【黒晴明】 「……雪女を助けてくれたこと、礼を言う。」【空相面霊気】 「ふふふ、礼はいらないよ。さっきの会話、全部聞いていたか?あの人が都のもう一人の晴明だ。この屋敷に長居しすぎると、狂ってしまうとさ。あなたは自分を犠牲にしてでも、私を呼び覚まそうとした。あの時あなたはもう狂っていたのだろうな。え?私?私もとっくに病んでいるのかもしれないな。でもどうでもいい、何もかも。ずっと二人でいられたら、それだけで十分だ、そうだろう?じゃあ、おやすみ。新たな夢の輪廻で会いましょう。」 |
仮面の下ストーリー
猿面
面・上 |
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私の記憶はいつも闇から始まり、血色に終わる。 最初の数回の輪廻では、気がつく前に倒れてしまった。血色が見える時にはいつも激痛が伴う。それは敵への恐怖すら忘れさせるほどの激痛だった。 都の人々が来た後、小面は輪廻が出現する理由を教えてくれた。これまでの輪廻では、毎回彼女の力を借りている。しかしそれでも私たちは、決して死の結末からは逃れられない。 新しい参加者たちが、私たちに変化をもたらした。 「あなたが何度も体験した痛みを、他の人にも味わわせてやりなさい。そうすれば、繰り返す運命から逃れられるかもしれない。」小面はそう言ながら、私を階段から突き落とし、今回の輪廻を終わらせた。 ああ、少なくとも今回の痛みは、いつもと少し違う。 |
面・中 |
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私の目標は、彼らの中で一番弱そうな少年だ。 彼は部屋の隅っこで小さく体を縮め、寝る時も大切そうに懐の本を抱きしめている。それは何か大切なものなのか?ならば、先にそれに関わる記憶を消そう。 お面が彼の顔を覆い隠す。彼が目を開けた時、私たちの視線は一つになった。 これが他人の目に映る世界なのか? 床の上の歪んだ血の模様がない。陰の中で蠢く妖怪もいない……そうか、目の前に広がる世界を誰もが恐れているわけではなかったのか。 おずおずと彼と共に見慣れた古屋敷の中で歩く中、任務を全うすることができるのか不安になった。 私に憑依されたこの人は、何を恐れる? 彼の心音が少しずつ大きくなる。私は彼の記憶に入り込み、彼の恐怖を煽り立てるものを探す。 最後に、私はある人を見つけた。 |
面・下 |
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失敗した。 また失敗した。 かつての輪廻での逃走も、今回の憑依も、いつもしくじってしまう。 あの人たちは、いつも私が煽った恐怖に簡単に打ち勝つ!失敗するたびに、彼らは後ろ姿で私の情けなさを嗤う。 こんなにも不甲斐ない私は、ご主人様に捨てられてしまうだろうか?またあの無数の死だけが待ち構える輪廻に捨てられるのか? まあ、それもいいだろう。もしもう一度選べるのなら、こんな私に魂など生まれないようにする。 一度捨てられる経験をすると、何度でも思い出してしまう。次の瞬間、次の曲がり角、次の輪廻……一番の恐怖は計り知れない未来ではなく、既に経験済みの、いつ襲ってくるか分からない痛みだ。 私に憑依された少年は? 恐怖に押し潰されても、最後は必ず踏みとどまる少年の姿を見た。一度捨てられた彼は、一体どうやって恐怖を抑えている? 彼の静かで美しい日常は、どうやって恐怖から逃げ切った? 今度……彼に聞いてみよう。 |
小面
小面・上 |
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ご主人様は軟弱で頑固者だ。 私たちが仕掛けた罠を、彼女は逆手に取り、利用した。狐面の最初の計画は、ただ白の半身を隠すことだったが、それがご主人様の逆鱗に触れた……結局、私たちは夢に閉じ込められ彷徨う魂になってしまった。 死を繰り返し、かつての台本通りに殺戮を繰り返す。白の半身を呼び起こすまで、ずっと。ご主人様はこんな計画を立てた。 お面たちがそれぞれ謀略をめぐらせた結果、誰も出られなくなった。 私も同じだ。 真相を突き止めたい。傍観者に徹する私もまた、舞台の一部になる。 観客として、私はこんな殺し合いには意味がないと知っている。しかしその観客は、舞台に上がった。私は死の定めを受け入れるしかない。あの子を何度も利用して、何度も裏切り、そして何度もあの狂人に殺される。 「もっとたくさんの人間を巻き込もう。」彼女もまた何の変化もない輪廻が辛いのか、狐面がこう提案した。 そして彼女の提案が、変化をもたらした。 |
小面・中 |
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輪廻のたびに、私は猿面の保護者役を買って出る。 彼女はいい子だ。臆病だけどちゃんと言うことを聞く。この血に濡れた屋敷の中で、彼女の声だけは、まだ一度も殺意に侵されなかった。だからあの狂人に問いただされても、狐面に嗤われても、彼女を守ることを諦めなかった。 わかっている、こんな保護なんかまったくもって無意味だ。私も彼女も死ぬ。舞台で躍らされることになった以上、台本を変えるべく努力して、私の望む結末に少しでも近づけるのだ。 だから、毎回猿面を連れて一緒に生き残る方法を探す。 この小さな足掻きはご主人様に許された。胸を貫かれる時、刀に込められる力が少し優しくなった。きっと猿面を見て、彼女は白い半身のことを思い出したのだろう。 変化が現れた後、猿面に一人で生き残る方法を探せと言った。私がいなければ、彼女はすぐに屋敷のどこかで死んでしまうかもしれない。 彼女が毎回死ぬ前に漏らす絶望に満ちた呻きは、実に耳に快いものだ。 残念だけど、今回は聞けない。 |
小面・下 |
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ご主人様の夢は拡張し続けていき、私たちと遊ぶ相手をたくさん引き込んだ。おかげで私は、たくさんの人に憑依できた。 皆が好む憑依対象はそれぞれ違う。福神は相変わらず享楽に耽る。狐面は識者を好む。猿面は臆病者同士で寄り添う。でも私にはこだわりがない。 冷静、傍観、私は憑依者を通じて毎回の輪廻を観察する。だから目さえあれば十分だ。 繰り返される輪廻の中、私は数多の人々に自分を重ね、無数の人生を経験した。 ご主人様のお考えが理解できなくなっていくことに、私は気づいた。 過去を捨てるのは難しいことではない。妖怪なんだから、親を殺めたぐらいで騒ぐ必要はない。 私たちの罪を咎める者はいないのに、彼女は忘れたりしない……そのうえ私たちをここに閉じ込める! 猿面は、もし私たちが一緒にここから出られたら、外に出て空を見ようと言った。輪廻のたびに、彼女はほとんどの記憶を失うが、私は大体のことを覚えている。 しかし同じ芝居を百回も千回も演じ、夢の中でも色んな人を演じ続けた私は、最後に自分の目で空を眺めたのはいつだったか思い出せなくなった。 全部ご主人様が悪い。 |
大飛出
大飛出・上 |
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小面は面白いね。 こんな混乱した状況下で、見返りを求めず他人を守るなんて、本当に理解しかねる。 ご主人様と融合する前は、彼女のことをあまり知らなかった。いつも喧嘩しているやつらと比べると、おとなしい彼女は忘れられやすい類だ。しかしその持ち前のおとなしさは、私たちがこの屋敷に引きずり込まれた今では、とても貴重なものだ。 ははは、彼女が臆病者の猿面を連れて逃げ回る姿を見るのは、本当に楽しい。 実際に殺さなくても、足音を立てたり、刃物を見せたりするだけでも、彼女たちが逃げ惑う姿を堪能できる。 狐面のように、自分から死ににいくような、ずるいやつはつまらない。やはり、怯えた獲物こそが最高の獲物だ。 華奢な白い姿と、血に濡れた屋敷は本当に離反している。それでいてとても愛しく思える。 美しくて優しい存在には、最高の結末が相応しい。 私は服で刃を拭い、彼女ために最高の部屋を用意する…… 私は彼女に最も完璧で、最も辛い死を与える。 |
大飛出・中 |
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何度も輪廻を体験したから、臆病者の猿面以外は、皆もう飽きていた。 あの数人の来訪者たちは、この淀んだ淵に変化をもたらす新しい刺激になる。新しい遊び相手ができた! 狐面はとある輪廻の中で、来訪者について教えてくれた。あの時、彼女は他にも何か呟いていたけど、その言葉はもう私の耳には入らなかった。刀の柄を握り締めると、滑らかで温かい感触が応えてくれる。 狐面は本当に賢い。彼女の提案のおかげで、私たちは対立をやめ、他人に付き従うようになった。死の結末が変わるかどうかはさておき、違う人に成りすますことができるから、確かに少しだけ面白くなった。 何よりも、彼らは普通の人間じゃない。もしかしたら…… 「怯えているのか?」狐面は震える私の手を見てそう言い放った。私は返事はせずに、背を向け、去った。 私は怒っている、そして同時に興奮している。 こんなにも素晴らしい機会がもっと早くに訪れなかったことに対して怒っている。自分が今までこんなにも面白いことを思いつかなかったことに対して怒っている。 興奮するのも不思議ではないだろう、私もこの手でご主人様の血の温かさを感じられるかもしれないのだから! |
大飛出・下 |
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殺意とは急に込み上げて、また急に消えるもの。怒りも同じだ。 輪廻の中で、私は往々にして真っ先に死んでしまう……猿面のやつでさえ、小面の協力を得て最後まで生き残れるかもしれないというのに。 でも私は違う。 胸の高鳴りが消える瞬間、生も死も同じように思える。 輪廻を数回繰り返せば、最初は抑えきれないほどの興奮をもたらしてくれる新しい客人も、つまらなくなってしまう。 私たちは彼らに勝てない。しかし彼らもここを出ることはできない。 こう考えると、彼らも私たちと同じだ。 こんな板挟みの状況の中、新しい可能性が見えた。 ご主人様は罪業の塊で、客人の一人はちょうど伝説の陰陽師晴明の「悪」の化身。 罪悪を分離させれば、新しい魂が誕生する。もし私が記憶の中から罪悪を分離し、新しい体を作ってお面をかぶせれば、一体どうなる? 殺意、凄まじい殺意の記憶が必要だ。 心地よい血の匂いに包まれて散歩していると、ある人影に惹かれた。 狂暴や不満を念入りに隠してはいるが、私に見つかってしまった。 |
狐面
狐面・上 |
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ご主人様はつまらない人だ。 今のご主人様は、元の彼女よりもずっとつまらないと言うべきか。 かつての彼女は、私が語る物語に怯え、お面の話し声が聞こえずに寂しがるような、無邪気で可愛い少女だった。 だから、彼女から霊魂を奪われても恨まなかった。 笑顔で友達や父親を殺したり、鏡の中の自分に向かって「妖怪」と叫んだりでる人は、すべてを手にしていて、不変の真理だ。 霊魂を奪われ、付喪神から普通の道具に戻る……これが本来の運命のはずだった。 だが、なぜかまた目覚めてしまった。 彼女が私たちに霊魂を返した理由は、「孤独が怖い」から!?何とも馬鹿げた理由だ。 またこの時、ご主人様が変わったことに気がついた。 霊魂の白い部分が消えた。黒色は罪を背負って生まれてきたが、人間と関わることなく無知だったから、冷酷な老練のふりをしていた。 私は機会が来たと実感した。 |
狐面・中 |
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稚拙で気が弱い黒の半身に比べると、最初からご主人様に属している白の半身のほうに警戒すべきだ。 仲間たちは馬鹿ばかりで、ご主人様につけいる隙に全然気づかない。 あの白の半身が消え、再び力を手に入れた私達が協力すれば、ご主人様を操ることも、不可能ではないはずだ。 そうして私は計画たち始めた。 機会を見計らっていると、都の陰陽師が自ら会いに来た。ご主人様は少女の魂に混じった不純物を分離するのに協力すると約束した。私は気づいた、これはご主人様の白黒の魂を対立させるいい機会だ。案の定、「人助けに熱心」な陰陽師は白の半身に姿を与えた。 ご主人様は私の予想通りに、己の魂に拒まれた。 その後は、二人を離間させるだけだ。これに関しては、白いほうが利用しやすい。 小さな提案、それはかとなく誘導して……さらに絶妙で華やかな舞台が加わる。 死骸は篝火に燃え、飛び舞う遺灰は花火の代わりになる。こんな風に刺激されたら、白の半身はより遠くへ逃げるだろう。 彼女が逃げれば、私たちもそれに乗じることができる。 私たちは彼女を夢の一番奥に案内した。 |
狐面・下 |
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私たちの罠に気づいたあと、ご主人様はそれを逆手に取り、罠を舞台へと飾り直した。私たち魂を持つお面は、もう一度本職….…芝居を始めた。 認めるよ、こっちが負けた。 罰として、私たちは長い生死の輪廻に身を投じることになった。 彼女たちは紛れもなく一つの魂だ。残忍なところは少しも違わない。 死が際限なく私たちの力を削るけれど、別にどうということはない。屋敷を埋め尽くした死は無数の影を残した。彼女が私たちに与えた罰は、かえって彼女の自分探しの仇となった。 今度はこっちの勝ちだ。 しかし探しに探した後、彼女は困難を乗り越え、ついに自分を見つけた。 ひひひひ、これこそが私の計画の最後の一手さ。 彼女が見つけることができるのは、永遠に彼女を拒み続ける自分だけ。 |
蝉丸
蝉丸・上 |
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やっと復讐の機会を手に入れた! かつてお面だった私たちには、喜怒哀楽すら許されない。ご主人様と融合した後は、ただの道具に成り下がった。しかし今は全て違う! 狐面の言う通り、ご主人様は私たちが考えてたよりも単純だった。あいつを囮にしただけで、彼女は躊躇なく罠に踏み込んだ。 今、彼女は私たちと同じになった! 今まで味わってきた苦しみを、倍にして彼女に返す! 彼女は永遠に無駄な努力を続けるが、決して求めるものを獲得できない。彼女は永遠に魂の半身とすれ違い、永遠に苦痛と絶望に囚われ続ける!!! これは彼女に相応しい罰だ、私たちを見下した罰! 彼女が苦しむ姿を堪能できることに比べたら、自分の幸せなど大したことではない。 猿面と小面は輪廻から解脱できないことに悩んでいるようだが、私は違う。現実よりも近くで、他人の死を見届けることができるこの場所が気に入っている。 皆、私と共にここで苦しみ続けるがいい! |
蝉丸・中 |
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狐面が新しい計画について教えてくれた。でも私は、密かに計画の失敗を望んでいる。彼女のような利口ぶったやつが、失敗して歪んだ顔を見せるのが見たくて仕方ないんだ。 いつも余裕ぶって、自分だけが賢いと自惚れているやつは、失敗の泥沼に落ちてくれなければ、どうしても気に食わない。 狐面以外に、そういうやつはもう一人いる。 この輪廻の屋敷の中で何が一番気に障るかと言えば、答えは「福神」しかない。 同じお面だけれど、やつのことは最初から大嫌いだ。あの憎たらしい笑顔は、反吐が出るぐらい気持ち悪い。あの諂う声を聞くと、どうしても気分が悪くなってしまう。 この世には、そんなにたくさん楽しいことがあるのか? どうして私はしかめっ面で、彼女は笑顔なんだ?……そしてよりによって、世間の皆は笑顔が好きなんだ! あの笑顔を壊したくてしょうがない! あいつのところに行こう、あの笑顔を粉々にしよう! |
蝉丸・下 |
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小面は小心者で、自惚れた偽善者。 狐面は尊大に構える愚者。 大飛出はただの狂ったやつ。 姥?普通じゃないやつのことはどうでもいい。 猿面は臆病で、役に立たない腑抜け。 福神は下劣な凡骨で、一番嫌なやつ。 ご主人様は気が弱くて無知だ。ずっとある人影を見つめていて、一番惨めな存在に成り下がった。 しかし彼女たちはなぜ、しばしの解脱や自由を手に入れられる?私は殺されても、本当の安らぎを得ることができないというのに。 はははは、どうしてだ、どうしてなんだ? この屋敷は憎き来訪者たちを助けている。ご主人様は私以外のお面たちを助けている。あの腑抜けの猿面だって、小面に助けられている……どうして私だけが苦しまなければならない? 福神は私が皆に嫉妬しているとほざいた。ふざけるな!なぜ私が彼女たちに嫉妬しなければならない? きっと方法を間違えたんだ、そうだ、きっとそうだ。今度はもっと強いやつに憑依しよう。そいつを操って皆を殺せば、もう苦しみに苛まれることはない。 |
福神
福神・上 |
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私はどうでもよかった。 別にたくさん悩みを抱えているわけでもない。所詮ただのお面だし、たまたま魂が生まれただけの話だ。いつまでもお面であることを悔やんでいるようでは、楽しい日々に手に入らない。 しかし我が同胞たちは違う。 彼女たちはただ空騒ぎしているだけ。賢い狐面さえも、現状を見通せなかった。それだけでなく、あいつは輪廻をぶち壊し、ご主人様の力を横取りしようと企んでいる。とんだ夢物語だ。 ご主人様を陥れるために罠を作ったけれど、最後は私たちが閉じ込められてしまった。 それ以上におかしいのは、あのお嬢さんを囮にしたことだ。今になってもまだご主人様を見極められなかったあの二人こそが、正真正銘の「いい子」だよ。実におかしい。 お面は人がかぶるもの。操られる私たちは、本当に自分の意志を持っているのだろうか? 狐面たちは罠を仕掛けているつもりだけれど、それはこの罠が誰かにとって都合がいいから、うまくいったのではないだろうか。 そう考えると、ますますおかしい。その意志さえも誰かに授けられたものと知らずに、輪廻をぶち壊したいと願い続けている。 かわいそうで、おかしい。 |
福神・中 |
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他のお面のことはどうでもいい。唯一気に食わないのは「蝉丸」だ。 この世の全ては彼女に借りがあると言わんばかりのあの顔を見ると、気分が悪くなる。 人々は「蝉丸」は嫉妬の象徴だと言う。全くその通りだと思う。 あの苦しそうな顔には、嫉妬という醜い感情がお似合いだ。 屋敷に入ったばかりの頃、私たちはまだご主人様の命令に従い、人に化けて殺戮を繰り返していた。ただ白いのに「芝居」を見せるために。あの時から、私たちはもういつも一緒だった。誰が有利になっても、最後は必ず一緒に死ぬ羽目になる。 毎回死ぬ前にあの皺くちゃの顔を見せられるくらいなら、輪廻に入った途端に階段から飛び降りて死ぬ! 結局、狐面が全てを教えてくれた。私たちは互いを殺すのが定めなんだ。これがいわゆる「結末」なんだ。 納得できない私を見て、狐面は次の輪廻でやり方を変えてみると……新しく入った役者たちに憑依してみると言い出した。 どうせまた何か企んでいるのだろう。でも私には関係ない。 しかし憑依というのは、いい提案だ。強いやつに憑依して、真っ先に「蝉丸」を消してしまおう! 前方にいる翼を持った妖怪は、なかなか良さそうだ。 |
福神・下 |
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どうしてあちこちで彼女と鉢合わせするんだ。 私たちは、憑依対象まで同じ人を選んだのか! あいつは「一時休戦」の提案を受け入れないが、同時により良い方法も示さない。やはり役立たずだ。 お面は芝居で使うもの。人に憑依したら、私たちのやるべきことは言うまでもなく、自分の感情を憑依対象に押しつけ、私たちを演じさせることだ。彼女はそれすら分からないのに、今までの輪廻を一体どうやって生き延びたのだろう。 ははは、彼女は私をはめようとした。 笑えるな! 苦さを知ってこそ、甘さがわかる。彼女の嫉妬はその苦さで、私はその後の甘さを手に入れる。ならば、憑依者を嫉妬させてその精神を狂わせれば、そして狂乱のあとに愉悦や歓喜を感じさせれば、最後に勝つのは私だ。 蝉丸? もちろん使い終わったら捨てるに決まっている。彼女は今回も私と共に死ぬつもりか?冗談も大概にしろ。 舞台でかぶるお面は、一つで十分だ。 |
姥
姥・上 |
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お面は、生き物ではない。 魂を手に入れたところで、舞台からは逃げられない。この事実を、狐面は悟らなかった。小面も悟らなかった。そして私たちのご主人様もまた、悟らなかった。 私たちは、運命という台本に導かれる。私は全てを捨てて、演劇の内容を覗き見る可能性を得た。 たった数行の文字が、私たちの死と輪廻を書き記している。可笑しな話だ。 「名手より作られる能面、百の心相故、魂が生まれ、人語を解する。」 「何度も何度も、手に入れた途端また喪失して、しかるべき死を遂げ、最後は虚無に帰る。」 私たちが殺し合いを始めた時から、結末はもう決まっていた。私たちはしかるべき死を遂げる。 猿面は恐怖より生まれ、他人に付き従うけれど、最後は捨てられ、死ぬ前に一番の恐怖を味わう。 小面は観察に集中し、解決策を求めるが、何の真相も見つけられないまま、争いに巻き込まれて死ぬ。 大飛出は乱暴者で、ひたすら心の安息を探す。しかし死の眠りに落ちてさえ、喧騒からは逃れられない。 福神と蝉丸、愉悦と嫉妬、表裏一体の甘美と苦味は永遠に絡み合い、相手に殺され続ける。 狐面は知恵の象徴、策士といえども策に溺れ、自慢の知恵は己を貫く刃となる。 私? 意味なきものを全て捨てた者は、最後に意味なきものと見なされ、捨てられてしまう。 |
姥・中 |
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ご主人様を訪れた客人は、新たに舞台に上がる役者となった。 その少女のことがとても気になる。 氷でできた魂にはたくさんの記憶が刻み込まれ、その記憶は彼女の魂を燃やし続けている。灼熱の燃焼は記憶が刻まれるのを阻止するどころか、逆にその手助けをしている。 心を持っていないのに、こうして記憶を残すなんて。 実に面白い。 彼女の在り方は私とは真逆で、貪欲で、執着深く全てを取り込んでいる。意味のあることと意味のないことの区別もなく。いや、全て意味のあることと捉えているのか? 興味が湧いてきた。 もし大切にしているものが全て捨てられ、手間をかけて彫り刻んだ魂が再び氷に覆われた最初の姿に戻ったと気づいたら、彼女は一体どんな顔をするだろう? |
姥・下 |
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狐面はご主人様のことを理解していない。おまけに愚かにも全てお見通しだと勘違いしている。 私たちのご主人様は、最初から白いほうに決まっている。 魂の半分は分かれたが、彼女は一時も魂の支配を手放していない。 ただ彼女は望んでいる。自分がまだあの追い払われ、殺されたか弱い人間の少女でいることを……彼女にとって、そっちのほうが気が楽だから。 故に、彼女は自分が夢の奥地に連れ込まれることを看過した。 もう一人の自分が彼女を探しにくると、彼女は知っている。 ふふ、この世で唯一自分を見捨てない人は、自分だ。彼女はそれを熟知していて、何の心配もなく罪なき被害者を演じている。 あの黒いご主人様?勝手な気持ちを抱いて全てを引き受けた。彼女のための舞台を作り、彼女のための役者を呼び集め、過去を何度も何度も演じ続ければ、見て見ぬふりをしている自分を呼び起こせると信じ込んだあげく、自分の魂まで捧げた。 最後には、全てまた振り出しに戻り、彼女が一番好きな状態に戻った。 寂しがる子供、見え隠れする黒い妖怪、傍に潜むお面。 何度も何度も、手に入れた途端また喪失して、しかるべき死を遂げ、最後は虚無に帰る。 |
庭間語ストーリー
恐怖
恐怖 |
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【猿面】 「私は自覚している、自分が臆病者だということを。いつも過剰反応して、こそこそしていて……で、でも本当に怖いんだ!!新たな輪廻が始まるたびに、私が一番最初に脱落する。もう、限界なんだ!どうして誰かを頼ってはいけないの?どうして皆強くならなければいけないの?私にはできないよ。」 |
探光
探光 |
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【猿面】 「この血と殺戮の地獄の中に、光が現われた。弱い私に手を伸ばしてくれた。その手は血に染まっていた。あんなに怖がっていた血が、温かく感じた。ああ、よかった。ようやく、ようやく頼らせてくれる存在を見つけた。」 |
裏切
裏切 |
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【猿面】 「いつ死んでもおかしくない場所で、他人を過信しないほうがいいと彼女は言っていた。「それじゃあ、あなたは?」と聞き返したら、彼女は黙り込んだ。私は大丈夫だと伝えた。未知の裏切りより、今彼女がそばにいてくれることのほうが大事だ。彼女はまた黙り込んだ。後悔はしない。」 |
霊魂
霊魂 |
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【猿面】 「私はずっと怖がっていた。痛みを、苦しみを、孤独を、見捨てられることを。ここに放り込まれ、終わりのない殺戮に無理やり参加させられて、私はずっと疑問に思っていた。なぜ私が?なぜこんなことを体験しなければいけない?なぜ……殺し合わなければいけない?私は気づいた。ご主人様にとって、人の姿をしていても、同じ顔をしていても……私は、私たちは、ただのお面なんだ。いつでも捨てていい、どうでもいいお面。滑稽だ……偶然魂を得て、苦しみと恐怖を感じることができるようになった……こんな目に遭うと知っていれば、普通のお面のままでいたかった。」 |
放棄
放棄 |
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【猿面】 「彼女は私を見捨てた!見捨てた!見捨てた!見捨てた!あれほど信じていたのに、すべてを捧げたのに!どうして私を助けてくれないの?どうして私を死へと突き落とすの?痛い、痛いよ……また刀で刺された。少し痛みに慣れてきた。」 |
勇気
勇気 |
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【猿面】 「「一緒にここから出よう!」暗殺から逃げ延びた後、私は彼女にこう言った。他の人なら、私を嘲笑っただろう。彼女は違った。指切りして、約束してくれた。初めて、勇気が湧いた。ほんの少しだけど、この勇気さえあれば、ここから出られると思った!」 |
結末
結末 |
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【猿面】 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、本当に怖かった……ごめんなさい。あの人が眠っている間に殺されるのを目撃した!私は何もしなかった。一緒にここから出たかったのに……私に生きて出る資格はある?本当に……脱出できる?」 |
遺言
遺言 |
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【小面】 「ようやく会えましたね。真実?そうですよ、私は最初から全部知っています。私たちが舞台の役者であることを含めて、全て知っています。まだ遅くはないですよね?こんなことはやめて、私たちと一緒にここから出ましょう。このままでは、あなたは消えてしまいます!!」 |
回顧
回顧 |
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【小面】 「私たちは姉妹のようだと、あなたは以前仰っていました……なのにどうして、振り向いてくれないですか?「ご主人様」と呼んでいるから、私のことは道具としか見てくれないのですか?もともとは器だったとしても、魂を持つ私たちはもう、お面ではありません!お面だって、割れて壊れたら、痛みを感じます……」 |
信任
信任 |
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【小面】 「私と行きましょう。安心して、私が守りますから。さっきの人?ああ、彼女は嘘つきです。人に近づいて、不意をついてくるのです。ここは危険に満ちています。いつ死が訪れるかわかりませんし、他人を過信してはいけません。…………そんなに私を信用しないで。いいえ、何でもありません。行きましょう。」 |
天空
天空 |
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【小面】 「「脱出」ですか?そうですね。最後まで生き残れば、脱出できます。出て叶えたい願いなんてありません。強いて言うなら、ここから出るのが一番の望みです。どうしてもと言うなら……ここから出たら、一緒に空を見ましょう。地上から見る空は丸くて、地面を覆っている。そしてお面も丸い。似ていると思いませんか?」 |
注視
注視 |
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【小面】 「またお前、お前、今回もお前!あの子を裏切った、お前のせいだ。お前のせいで私はお前たちのような汚い殺人犯になってしまった!!!いや、私はお前たちとは違う。私は人を殺めていない。私の手は血に染まったことはない……私が最後の生き残りだ!私はやってない!!違う……え、ご主人様、あなたですか?ようやく私を見てくれるんすか?そうですか、傍観するのではなく、殺戮に参加すれば、あなたは私を見てくれるのですね?嬉しい、やっと私を見てくれる。でもなぜ……目の前は真っ黒で、何も見えないのでしょう?」 |
行楽
行楽 |
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【大飛出】 「暗い顔をするな。今までにも死んだことはあるだろう。ささ、飲め飲め。ちっ、ケチなやつだ。これで問題ないだろ?はははは、楽しめる時は楽しまないとな。ほら、手足がバラバラになったら、酒を飲めないじゃないか。」 |
無欠
無欠 |
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【大飛出】 「邪魔なやつめ、消えろ!!そう慌てるな、彼女の死を後押ししただけだ。そんなことしたことない?ありえない。清らかなふりはやめときな。私たちは、皆一緒なんだよ。はははは……」 |
留影
留影 |
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【大飛出】 「まだあの臆病者を庇う気か?あんなやつ、さっさと見捨ててしまえ!そうだ、今回は私が引導を渡してやる。本当に綺麗な目だ。知っているか?私たちがこの姿ではなかった頃から、お前のその目が気に食わないんだ。皆同じお面なのに、お前の目だけはいつも冷たい。その冷たい目で、私たちを見透かしているようだ。でも残念、今見透かされてるのは私ではない。安心しろ、何度輪廻を繰り返しても、最後にお前の目に映るのは、いつだって私だ。」 |
回答
回答 |
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【大飛出】 「お、まだ息してるのか?その目、なかなかいいな。ごちゃごちゃ考える必要はない。私たちは妖怪だ、自由気ままにやればいい。お前を見ていると……あああ……ゴホゴホ、不意打ちだと?これがお前の答えか?やってくれたな。だがまだ甘い。」 |
道化師
道化師 |
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【福神】 「まあ、固い顔をするな。せっかく酒があるんだ、飲め。どうせ……あんたは手に持ってる刀でわしを刺す、飲んでからでも遅くはないははは、何を驚いている?わしが何も知らないと、本気で思っているのか?知りたければ教えてやる。わしは最後まで残らない、誰も最後まで残らない!ざまあみろ、ざまあみろ!あんたは逃げられない、わしも逃げられない、誰も逃げることはできない!そんなことより酒だ!う……ゴホゴホ、せっかちだな。まあいい、こんな終わりも悪くない!ほら、この芝居で一番おかしい道化師は誰だ?わしだよ!ははは……」 |
悪縁
悪縁 |
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【福神】 「あついに関わると、ろくなことはない。いつも暗い顔をしているあいつだ。お面だった頃から、互いのことが気に食わない。んん?あいつはもうやられたのか?本当か、見にいかないと!あいつの不幸は、自分の幸運よりも嬉しい。」 |
表裏
表裏 |
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【蝉丸】 「いつかあの目障りなやつを二度笑えないようにしてやる。毎回毎回あいつはいいとこばっかり……くそっ、くそっ!!私は運にすら恵まれないのか……ふざけるな!死んでも地獄から這い上がって、あいつを引きずり下ろしてやる!喜びの甘味と嫉妬の苦味は、紙一重だから!」 |
俯瞰
俯瞰 |
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【蝉丸】 「ふう……やっと逃げ切った。ははは、ざまあみろ、あいつらめ、ざまあみろ!狐面を取り込めば、私を倒せると思ったのか?先に死ぬのはお前たちだ!いつも私を見下すからだ!ざまあみろ!!」 |
対立
対立 |
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【蝉丸】 「小面、彼女も私の敵になるのか?臆病者を庇うことは、自己満足以外に、何か意味があるのか?どうしてここは私の敵ばかりなんだ?魂を獲得したお面の妖怪同士、私たちは仲間であるべきじゃないか!」 |
友達
友達 |
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【狐面】 「おや、また客人が来たのか?友達になろう。うんうん、友達になれたし、これをあげる。血がついてるって?何を言ってるの?拾ったんだよ。」 |
離間
離間 |
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【狐面】 「ふふ、どうかした?保護者とはぐれたのか?そう敵視しなくてもいいだろう。ここから出られるのは最後の勝者だけだとしても、今は仲良くしておこう? 気にならないか?なぜ……彼女はなぜあなたを守る?彼女に、何の得がある?ふふふふ……」 |
協力
協力 |
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【狐面】 「あいつの笑い顔、腹が立たないか?あの笑顔が固まったら、きっと面白いだろう。どうだ、私と手を組まないか?彼女に殺されるのは嫌だろう。」 |
虚無
虚無 |
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【狐面】 「「小面」と「姥」は似ていると思う時がある。二人はどういう関係だろう……一人は傍観するだけ、一人は感情を捨てた。似ていると思わない?違うのは、傍観するやつは、知らぬ間に殺戮に巻き込まれていたということ。感情を捨てたやつは、何があっても手出しはしない。」 |
探す
探す |
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【姥】 「「ご主人様」?さあね、あまり顔を出さないよ。ここにいる私たちは、彼女の探している人じゃないから。ふふ、面白い人。はぐれた魂を呼び覚ますために、こんな方法を使う必要はないだろう?これはこれでいいけど。私たちが先にあの魂の半分を見つけることができれば……」 |
喪失
喪失 |
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【面霊気】 「これは何度目だろう?もうわからない。彼女が消えてから、月日の流れなど、どうでもよくなった。夢の中で輪廻する時間が、私の記憶をすり減らすけれど、彼女と最後に会った夕方のことは覚えている。血色の夕日が廊下に降り注ぐ。彼女は光を踏みながら、私に向かって歩いてくる。何も言わなかった。当たり前だ。私は光の届かない隅で、こっそり彼女を見ていた。私の側を通って、遠くへ行った……思い返せば、私はあの瞬間から、自分を見失っていた。」 |
煙滅
煙滅 |
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【面霊気】 「殺戮は楽しいことじゃない、お面たちを苦しめる気はなかった。お面たちは、私の友達だった。もめることなく、私たちの生活を邪魔することについても、目を瞑っていた。それなのに……許せない。魂を持ってるとは言え、所詮はお面なのに!仲良くするくらいなら、死を味わわせてやる。反抗するなら、叩き潰す。うん、そうしよう。何度も繰り返される死で、懲らしめてやる。」 |
存在
存在 |
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【面霊気】 「どうすれば彼女は目覚めるの。ああ、疲れた。小面の言った通り、こんな繰り返しは、無意味なのかもしれない。彼女を諦めたら、普通の妖怪の生活を送ることができるかもしれない。夢にも囚われずに済む。でも、諦められない。お面も、他の妖怪も、魂が二つに引き裂かれる気持ちを知らない。この世界に自分がもう一人いるのは、すごく不思議な感覚だ。互いを欲する。やがて一つになって、分け隔てが無くなる。魂が混じり合い、最も親しい存在となる。今は……はあ、まだ時間が必要か。」 |
既得
既得 |
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【面霊気】 「ははは、思いついた。彼女を目覚めさせる方法は簡単だった。よかった。度重なる殺戮が彼女を苦しめないか心配していたけれど、これでその心配もなくなる。これが最後の輪廻だ。私が消えれば、彼女は目覚める。……少し残念だ。私はもう彼女に会えないのだろうか?」 |
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