【陰陽師】熾鈴心舞ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の熾鈴心舞イベントの雪国神宮ストーリー(シナリオ/エピソード)をまとめて紹介。神宮追跡と雪の鈴音、五山奇談のそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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神宮追跡ストーリー
雪祭鈴跡・壱
雪祭鈴跡・壱 |
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陰陽寮の集会が終わった後、都を出た晴明達は源博雅と小白を探すべく雪国に旅立った。雪に覆われた林の中……【神楽】 「こんなに寒い冬、初めてかもしれない。平安京から出発した時は、まだ粉雪だったけど、ここはどこも雪に埋もれてる。」【八百比丘尼】 「ここは極北の地ですし、標高も高いです。平安京は盆地にあるので、天候が違ってもおかしくないですね。北に進むにつれて、妖怪に出くわすことも減ってきています。」【神楽】 「彼らも、この環境下では生きられないからかな。」【晴明】 「ここは鬼域と繋がっている。弱い妖怪なら雪を避けてもおかしくはないが、強い妖怪であれば話は違うはずだ。だがここまで来る途中、妖怪の痕跡を一つも発見できなかった。それに……ここ数日、たまに直感が働く。「勝手に足を踏み入れるな」と警告してくる。」【八百比丘尼】 「私もです。ですが星占いが、ここに宵の明星があると教えてくれました。しかしそれ以上の情報は何も得られません。」【晴明】 「占うことすらできない人跡未踏の地、ここに我々の求める手掛かりがありそうだ。」【神楽】 「お兄ちゃんと小白は一足先にここに来たから、もう情報をたくさん手に入れたはず。でも今まで全く音沙汰なし……」【晴明】 「この前博雅から連絡があった時には、雪の林の辺りに来たと言っていた。つまりこの近くだ、何か痕跡を見つけられるかもしれない。今回我々がここに来た理由は、博雅を探すことだけではない。狭間の封印が弱まったせいで、地脈の下に異変が起きてしまった。もう一つの強い結界が弱まった封印に同調して、影響されたと考えられる。そしてそのうちの一つの異変は、この場所を示している。ヤマタノオロチに関わることは全て、詳しく調べるべきだ。前方に家があるようだ。どうやらここに住んでいる者が何人かいるらしい、行ってみよう。」晴明達は、立ち上る煙に向かって進み始めた……【茶飲み客】 「おい、早く熱いお茶を出しな!まったく、すっかり凍えてしまうところだった!このお茶、味が変だぞ!お茶の味が分からないやつだって?ふざけるな、お茶には詳しいぞ!」【神楽】 「ここは……辺鄙な場所だけど、人がたくさん集まってる。」【晴明】 「この茶屋のお客達は全然違うな。服装も、訛りも。おそらく皆、遠方から来たのだろう。そしてほとんどはたくましい若い人だ。周りを警戒していて、身軽な格好で、武器を持ち歩いている……そうだな……私の推測が間違っていなければ、彼らは皆探検家だろう。」【神楽】 「たくさんの探検家がここに集まる理由……ここには何か貴重な宝物が眠っているの?」【茶飲み客】 「おい、聞こえたぞ、お宝がどうした?なんだ、小娘もこの色男にくっついてお宝を探しに来たのか?お前らみたいな連中まで、吹雪の林を乗り越え、聖地で神様の加護を手に入れようとしてるのか?」【晴明】 「すまない、さっき言っていた「聖地」について、詳しく聞かせてもらえないか?我々は都から、人を探してここに来た。数日前、仲間がこの辺りで行方不明になった。皆心配して、ここに来たんだ。」晴明達をよく観察した後、商売敵ではないと結論付けたのか、茶屋の人々の態度が明らかに和らいだ。【茶飲み客】 「お前の仲間は困ったやつだな、なんでよりによってこんなとこに来ちまったんだ?」【晴明】 「とある仕事のためだ。しかしここを通ったが最後、吹雪に巻き込まれたのか行方不明になってしまった。」【茶飲み客】 「そりゃだめだ、こんな吹雪の時に外に出たのなら、もう帰って来ないと思ったほうが良い。何を隠そう、ここの吹雪はな、人を喰らうんだ。」【神楽】 「ひ、人を喰らう?」【茶飲み客】 「ああそうさ、お前の兄さんとやらは十中八九呑み込まれてしまったんだろう。吹雪の林はな、晴れの日でさえ道が分かりづらいんだよ。まして悪天候ならなおさらだ。皆口を揃えてこう言う。あそこには妖怪が巣食っていて、運が悪けりゃ食べられちまう!」【八百比丘尼】 「では運が良ければ?」【茶飲み客】 「ふん、運が良ければだと?聖地に行って大儲けするんだ!だが、運なんか自分ではどうにもできない!出発前に、俺様はわざわざ稲荷大社に行って御守をもらったんだ。神様の加護は、俺様が必ず手に入れる。悪いこと言わないから、お前はさっさと帰ったほうがいいぜ!」茶屋の人々は突然大きな笑い声を上げた。盛り上がっているようにも見えるが、その裏では荒ぶる吹雪ですら吹き飛ばせない探検家の欲望と貪欲さが渦巻いている。その時、皮肉る声が茶屋の隅から聞こえた。」【村民】 「ふん、神に守られた地だと?神に捨てられた地だとは知らずに、自ら死地に足を踏み入れるとは、まったく命知らずだな。」【茶飲み客】 「貴様、馬鹿にしてるのか!そうだそうだ、聖地の伝説を知らねえやつなんかいない、騙されるもんか!」【村民】 「聖地?ははは、聖地がどんな場所か知っているのか?毎年どれだけの人間が聖地を目指すか知っているのか?」【茶飲み客】 「ど、どれだけいるんだ?」【村民】 「毎月数百人はいるだろう。しかしここ何年も、帰って来た者はいない!」【茶飲み客】 「ふん……虎穴に入らずんば虎児を得ずと言うだろう。誰も帰って来ないと言ったな、お前が知らねえだけのことだ!一攫千金の夢を抱えてここに来たからには、覚悟がある!」言い負かされた村人が出て行ったあと、軽蔑した様子で唾を吐いた探検家達は引き続き一攫千金の夢を見ていた。」【晴明】 「彼らの言っていた、聖地が長年吹雪の林に隠れている理由も、神の伝説と関係がある。つまり、我々の知っている雪国の伝説とほとんど同じだ。しかし、陰陽寮に残っていたのは昔の記録だ。知る人ぞ知る伝説だから、今まで一度も聞いたことがなかった。それなのに、この人達は必ず欲望を満たせるとでも言わんばかりに自信満々だ……大方先例があったのだろう。」【神楽】 「神様に会えた人がいるの?平安京でもよく神様の伝説を耳にする、私たちの知り合いにも何人か神様がいるけど……」【八百比丘尼】 「しかし彼らはここの神様とは違い、謎に包まれた存在ではないですよね?この茶屋に集まる人々も十人十色ですし、高天原の神々にも色んな方がいて当然でしょう。」【怪しい商人】 「仰る通りです、どうやら博識な方々のようですね。」斜め向かいに座っていたはずの商人がいつの間にか近寄ってきて、仰々しく一礼した。【怪しい商人】 「どうか私めの無礼を許して頂けませんか。さきほどあなた方の会話が不意に耳に入ってね、そして好奇心を我慢できずお話に来た次第です。私はさっきの乱暴者達とは違います。あなた方を都の普通の貴族と間違えるような無礼なことはいたしません。偶然ですが、さっきこの方の持ち物についている桔梗の印が目に入ってね……おそらく、平安京の陰陽師の皆さんですよね。お初にお目にかかります。」【晴明】 「我々は確かに用事があって、都から来た陰陽師だが、もしよければお名前を……」【怪しい商人】 「私はしがない旅商人でございます、気軽に商人と呼んでください。皆様のお邪魔をするつもりはないのですが。もし聞き間違いでなければ……あの吹雪の林に入るのですよね?」【晴明】 「ああ……何か教えてくれるのか?」【怪しい商人】 「いえいえ、ただお話を察するに、入る方法をご存知ない様子でしたが?」【八百比丘尼】 「その言い方、つまり入る方法をご存知なんですね。」【怪しい商人】 「まあ、何もかも知っていると言っても、どうせ信じてもらえないでしょう。でも雪国に入る方法は、知っています。ですがその道のりは少々危険でね、あなた方に話しかけたのは、頼れる仲間がほしかったからなんです。」【神楽】 「もしかして、あそこに商売に行くの?」【怪しい商人】 「違います、私はしがない商売人です。以前ご注文いただいた品物を、ただお届けに行くだけです。」【神楽】 「中に入る方法を知ってるのなら、どうして探検家達に話しかけなかったの?」【怪しい商人】 「(曖昧な笑顔で)それはきっと、私が心優しい人だからです!あそこは本当に危険ですから。それに例え私の知っている方法を使っても、彼らは中に入れません。仮に入れたとしても、あなた方のような力がなければ、死にに行くだけです。何も得られず命まで失うなんて、私は黙って見ていられませんよ!しかしもし雪国に入りたいのなら、急いだほうが良いと思います。」【神楽】 「でも、晴明、私達はまだ玉藻前も、そして博雅お兄ちゃんと小白に関する手掛かりも見つけられてない……」【晴明】 「心配するな、近づいてくる懐かしい妖力を微かに感じる……ほら、来た。」晴明達が茶屋を出ると、すぐ近くで雪の林の中から出てきた玉藻前に出会った。【晴明】 「久しぶりだな、玉藻前。」【燼天玉藻前】 「なるほど、この前私の手札を持ってここに来たのは、博雅と小狐だったか。」【晴明】 「ああ、あの時はまだ都でやらなければならない事が残っていたから、先に博雅と小白を向かわせたんだ。どうやら……まだ彼らに会ってはいないようだな。ということは、彼らは厄介なことに巻き込まれたのだろう。博雅は私が渡した霊符を持っている、しかしまだ発動させていないようだ。あるいは……霊符の霊力を使っても脱出できない場所に閉じ込められたか。」【燼天玉藻前】 「彼らの気配を感じはした。しかし気配をたどって探しに行くと、彼らの気配は吹雪の中で消えていた。うっかりしていて、吹雪に巻き込まれたのかもしれないな。……博雅お兄ちゃんと小白が!危ない目に……!」【晴明】 「そういうことなら、善は急げだ。我々も出発しよう、早く二人を見つけなければ。」【八百比丘尼】 「それなら、この方に案内してもらいましょう。私達の仲間が危ない目に遭っているかもしれません、案内していただけますか?」【燼天玉藻前】 「うん?彼は……」【怪しい商人】 「こほん、お初にお目にかかります。私は商人です、さきほど陰陽師の方々と取引をしました。雪国へ道案内しますから、私を危険から守ってください!」【燼天玉藻前】 「……なるほど、本当に……大したものだ。」【怪しい商人】 「は……はは、そ、それほどでも。運、運がいいだけです。さて、吹雪も止んだようです。そろそろ出発しましょう!」雪の林に入るなり、商人は変わった松の枝を取り出して方向を確認し始めた。それが終わると、商人は再び進み始めた。晴明達も商人の後に続いて、未知なる世界へと踏み込んだ。そして全員が吹雪の中入ると、どこからともなく鈴の音が聞こえた。その後、鉄が叩かれる音が聞こえ、鈴の音は止まってしまった。 その頃、雪原では…… 源博雅と小白は、風の当たらない丘の後ろに隠れている。【白蔵主】 「博雅様……寒いです……」【源博雅】 「………………この会話、何千回も繰り返した気がするな……なんだかますます元気がなくなってきた……」【白蔵主】 「でも話をしている時は……息を吐くから少しだけ手を暖めることができるじゃないですか……」【源博雅】 「……こんな風にしていても何の解決にもならねえ!元気を出せ、犬っころ!俺達はもうこんなに遠くまで来たんだ。どんなに大きな山でも、まっすぐ進んでいけば、いつか必ず麓に辿りつく。ところで、俺達が見つけた鈴のことだが、鈴に宿る火の気配が弱ってきている。山を降りるまで何とか持ちこたえてくれるといいんだが。この鈴の障壁がなくなれば、本当に困ったことになる!」【白蔵主】 「正しくは「間違いなく氷像になってしまう」ですね!でも小白は信じています、セイメイ様は必ず小白たちを見つけてくれますよ。ですから、絶対に連絡用の霊符の霊力を途切れさせてはだめですよ、博雅様!」【源博雅】 「分かってる。だが霊力ですら、外に出すことはできないみたいだ。晴明が入ってこなければ………………!!!」【白蔵主】 「???どうしました博雅様!急に跳び上がって、びっくりしましたよ!」【源博雅】 「小白!!霊符に反応が!」【白蔵主】 「…………!!!セイメイ様……セイメイ様!!!!」【源博雅】 「晴明!神楽!!急げ!小白!霊力はあっちの方から来ている!!」遠くの雪林の中……【晴明】 「雪をまき散らす北風の中にある、荒んだ特別な力のせいか、風に吹かれると魂まで凍えてしまいそうだ。もし霊力で体を守っていなければ、半日も経たないうちに、骨の髄まで凍えてしまうかもしれない。」【燼天玉藻前】 「以前、ここに入れないか試みたことがある。阻まれて仕方なく撤退したが。しかし、今回はあまり拒まれていないようだ。商人が案内してくれた道からは、優しく穏やかな力まで感じたが……」【晴明】 「この荒々しい霊力、ここは吹雪が吹き荒ぶ場所というより、むしろ……制御できなくなってしまった結界のようだ。そしてこの力は、この結界の中で、唯一秩序を保っている力だ。」【神楽】 「でも、どうして商人さんには道が分かるの?この道、刻一刻と変わってるのに。」【怪しい商人】 「へへへ、それは企業秘密です。でもまあ、あなた方は他人の秘密を言い触らすような人じゃなさそうですし、教えてあげてもいいですよ。道を見つける秘訣は……この前、友人から祈夢松をいただいたのです。吹雪の中で雪国への道を示してくれる優れものですよ。残念ながら、雪国でしか使えませんが!もしどこでも使えれば、私の旅の苦労も少しは減るのでしょう……」【燼天玉藻前】 「へえ?そうなのか?」【怪しい商人】 「………………あ!この前仰っていたお仲間さんのことですが、彼らも陰陽師ですか?」【晴明】 「ああ、私の親友と、私の式神だ。」【怪しい商人】 「なるほど、陰陽師に式神ですか、それなら自分の身を守ることはできますね。無闇に走り回り、雪原の奥に迷い込んでいなければ。あそこは方向が分かりづらいですから。この前も……行方不明になった者が出たと聞きました。」【神楽】 「もうすぐ雪国に着く?もしかしたら、もう霊符を通じて博雅お兄ちゃんと連絡がとれるかも……」【源博雅】 「晴明!!!神楽!!!」【神楽】 「………………!!!博雅お兄ちゃん!」遠くから源博雅と白蔵主の声が聞こえた後、吹雪がすごい速さで近づいてきた。そしてその中から二人が現れた。【源博雅】 「晴明!神楽!八百比丘尼!玉藻前まで!(しんどそうに深呼吸しながら)やっと……やっと会えた。」【白蔵主】 「うう……セイメイ様!やっとお会いできました。ここは……ここは寒すぎます。危うく氷像にされるところでしたよ。ただでさえ大変なのに、博雅様の面倒も見なければいけませんでしたし!」【源博雅】 「…………………………道を間違えたことは悪かった。だがお前だってちゃんと覚えてなかったじゃねえか!お前の意見も聞いただろ!」【白蔵主】 「でもやっぱり博雅様のせいですよ!博雅様が道を間違えなければ、あんなひどい場所に閉じ込められることもありませんでした!」【神楽】 「お兄ちゃんも小白も無事でよかった。それに、より一層仲良くなったみたい。」【源博雅】 「(口を揃えて)そんなことねえよ!」【白蔵主】 「(口を揃えて)そんなことないです!」【晴明】 「怪我はないか?突然消えてここに来たようだが、何があった?」源博雅は、彼らの身に起きたことを手短に晴明に伝えた。【晴明】 「……結界を解くことのできる祭壇か。博雅と小白が見たものは全て、祭祀という行為が要になっているな。」【燼天玉藻前】 「私が送った手札が?ああ、そうだったのか……」【晴明】 「どうやらそれは、ただの手札ではないようだな?」【燼天玉藻前】 「あの手札は、吹雪の中、とある打ち捨てられた祭壇で見つけたものだ。以前晴明が雪国について言及していたことを思い出し、必要だろうと思って蛙式神に届けさせた。しかし、あの手札はこの吹雪を離れると、どうしても解けない結界に包まれる。だから吹雪の外で結界に包まれていないあれを拾った時には、少し驚いた。」【晴明】 「まさかあの寒魄は、玉藻前が送ったものではないのか?」【燼天玉藻前】 「寒魄?何のことだ?」【源博雅】 「……………………???」【晴明】 「誰かが裏で助けてくれたようだな。博雅と小白が雪原に入ったのも、偶然ではないのかもしれない。」【怪しい商人】 「あの……盛り上がっているところ、お邪魔して申し訳ありませんが。そろそろ着きますよ。雪国に着く前に一つだけ忠告しておきます。目立たぬよう行動してください。ここにはよそ者は滅多に現れませんからね、嫌われるようなことはしないでください。」雪国にて…… 彼らが結界を出るなり、大声が聞こえた。【羽】 「あ!誰だ!よそ者みたいだ!またよそ者が雪国に侵入してきたんだ!」【山】 「おい!叫ぶな……」【羽】 「誰か……!!!」【怪しい商人】 「………………………………」 |
雪祭鈴跡・弐
雪祭鈴跡・弐 |
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博雅達と落ち合った後、晴明一行は雪国に足を踏み入れた。 雪国にて……【羽】 「早く、誰か……!!!」雪山一族の青年は大変驚いた様子で、叫びながら素早く後ろへと逃げていく。【晴明】 「………………」【神楽】 「………………」【源博雅】 「は?」【白蔵主】 「……小白たちは別に全然怖くないと思いますけど?」【燼天玉藻前】 「……この出迎えには驚いた。」【八百比丘尼】 「そうですね、私達が雪山一族の前に現れただけでも、とても目立つことなのかもしれません。」【怪しい商人】 「ええ!それはないでしょう!例え怖がるにしても、大袈裟すぎじゃありませんか?!」【晴明】 「ここに逃げなかった人間が一人いるようだ。」【山】 「あ、こんにちは、外から来た方々ですよね!俺は山と言います。さっきまで一緒にいたのは羽と言います。彼はよそから来た人が……苦手なんです。もしご気分を悪くさせてしまいましたらすみません。」【晴明】 「いや、こちらこそ急に現れて、驚かせてしまったようで悪かった。私は晴明、仲間と共に都からやってきた旅人だ。ここは他の場所と違う風情のあるところだと聞き、こうして参ったのだ。」【山】 「へえ!都か!聞いたことありますよ!あそこはどこもかしこも金箔まみれで、天に聳える屋敷が並び建っている。住民達は全員飛ぶことができて、犬や猫は山ぐらいの大きさなんだって!」【白蔵主】 「……何ですかそれ?!あからさまな嘘を真に受けないでください!」【山】 「え?喋れるんですね。噂は少し誇張されているけど、あながち嘘ではないようですね!ここには犬に似た雪狼がいるけど、何も喋れませんよ!」【白蔵主】 「…………」【源博雅】 「ははは、犬っころ……」【白蔵主】 「博雅様は何も言わないでください!小白はもう博雅様が何を言いたいのか分かってます!」【山】 「ここは「雪幕」に近すぎるから、あまり安全ではありません。長居は禁物です!もしよければ、俺が案内しましょう。」【白蔵主】 「「雪幕」って何のことですか?さっき小白達が通り抜けた、結界のことですか?」【山】 「結界?あなた達はそう呼んでいるのですか?そうです、あれのことです。雪幕は今までずっと安定していましたが、少し前から均衡を失いつつあります。よく変わったものを呑み込んだり、吐き出したりしますよ。一度呑み込まれたらもう帰ってこられないかもしれません。」【怪しい商人】 「私達のことを、変わったものだと言っているのでしょうか?」【山】 「いえいえ、そういう意味じゃありません。とにかく、無闇に近づかないほうがいいです。」【源博雅】 「さっき見かけたあの人、ひどく怯えて、人を呼ぼうとしているようだが。大丈夫か?」【山】 「少し急ぎましょう、面倒事にならずに済むはずです。村の中に入れば、彼らも少しは大人しくなると思います。」【八百比丘尼】 「彼ら?」【山】 「あ……羽と同じ考えを持つ人達のことです。彼らはよその人間を毛嫌いしています。」【晴明】 「我々はここに来たばかりだから、事情にあまり詳しくないが、ここの人達はよその人間が嫌いなことは分かる。よければどういう状況なのか、簡単に教えてくれないか?」【山】 「初めて来たなら、事情は知らないでしょうし確かに困りますよね。では僭越ながら、説明させてください。我々雪山一族は、代々この雪国で暮らしてきました。」【源博雅】 「代々ここで暮らしてきた?失礼かもしれないが、こんな雪深い場所、人間の暮らしには向いていないだろう?」【山】 「はは、そう思われても無理はないですね。でも俺達は、神様に守られている一族です。一族の記録によれば、千年前に禍々しい蛇が天地を呑み込もうとしていて、大混乱になったそうです。そして我が一族は、災いから逃げるために雪山にやってきて、女神、天鈿女命様の加護のおかげで生き残ることができました。神様から、俺達が生きていくことのできる雪国を賜りました。確かに寒いけど、生きていく上で心配なことはありません。」【晴明】 「なるほど、神に千年間守られていたのか。だから雪国は神々しい気配をまとい、邪悪が付け入る隙のない土地だった。」【神楽】 「目の前の大きな雪山は、一体どんな場所なの?」【山】 「あれは女神様を祭るために建てた、我が一族の神宮です。大司祭様と聖女様があそこで暮らしています。」【白蔵主】 「ここはただでさえ寒いのに、どうしてあんなに高いところに神宮を建てたのですか……あそこに住む人は、寒さを感じないんですか?!」【八百比丘尼】 「神に仕えることは、もとより楽なことではありません。神への敬意を示すべく、多くの仕来りを守らなければなりません。」【燼天玉藻前】 「八百比丘尼の言う通りだ、神に仕える者は、身分の低い信者でなければならない。ただし……神が必ずしも己の信者にその目を向けるとは限らない。」【白蔵主】 「雪山一族の女神様は、本当に慈悲深い方なんですね!」【山】 「もし興味がおありでしたら、神宮に参拝に行かれますか?神宮は、よそから来た人間も無下にはしません。もし運が良ければ、神官から祝福を頂けるかもしれませんよ。」【八百比丘尼】 「雪山一族の伝説は、天の神様と深い関わりがあります。私もとても気になります。あの宵の明星が、一体どこを指しているのか。」【晴明】 「私もだ。だが、今はまた新しい災難が降りかかってきたようだ。誰か来た。」慌ただしい足音と共に、たくさんの叫び声が聞こえた。その声には、明らかに悪意が満ちている。【羽】 「ここだ!よそ者はここから現れたんだ!」【雪山一族】 「早く追い返せ!五山大祭が間もなく始まる、よそ者を入れるわけにはいかない!もと来た場所に帰らせるよう、一体何を企んでるのか分かったもんじゃない!どうせ五山大祭を邪魔する気だろう!信心のないよそ者は、さっさと雪国を出てけ!」【晴明】 「どうやら、避けられなかったようだな。」【山】 「おい!お前ら、あんまりじゃないか!」【雪山一族】 「ふん、お前はいつもよそ者の肩を持つこと、みんな知ってるんだよ!もし外に出られるなら、お前はとっくに雪山一族を捨てたんじゃないか?この裏切り者め!」【山】 「………………お前!」【晴明】 「皆、我々に悪意はないんだ。安心してくれ、数日休んだら、我々はここから出て行く。」【雪山一族】 「騙されるもんか、裏で何か企んでるに違いない!お前達がここに残ったら、皆の信仰を惑わすだけだ!山が神宮の話まで持ち出して、よそ者を庇った。ならばいっそのこと、一緒に神宮に行けばいい。こいつらを大司祭様に突き出すんだ!それがいい!神宮に行って、大司祭様に判断を委ねるんだ!」凶暴な雪山一族の人々は、各々の持つ武器を振り、山と晴明達を威嚇した。【山】 「いいぞ、行こう、神宮へ!神宮の神官達は近付きがたいですが、皆分別のある人です。きっと理解してくれますよ。」【晴明】 「元はと言えば、急に押しかけた我々のせいだ。皆に安心してもらえるよう協力しよう。」【雪山一族】 「一端のことを言うな。しかし裏で何かを考えているか、分かったもんじゃない。」晴明達は雪山一族と共に、近くの大きな雪山に向かった。【源博雅】 「ここの人は、よその人間を相当警戒してるんだな。この前あんなことが起きた後……笑えないことになってたからな。」【神宮】 「…………………………」【雪山一族】 「おい!お前!商人とやら!何をしている!」【神宮】 「え、えっと、はは、その、ちょっと急用が……」【雪山一族】 「何が急用だ!まさか逃げるつもりか?!」【神宮】 「まさか!神宮に参拝に行ける上に、偉大な大司祭様と聖女様に会えるかもしれないんですよ、これは大変名誉なことじゃありませんか!はいはい、行かなくてもいいですよ……なんでそんなに乱暴にするんだ。」【雪山一族】 「そしてお前ら!何ぶつぶつ言ってるんだ!もしかして文句を言っているのか?!」【晴明】 「我々はただ、神様の偉大なお力に感服しただけだ。」【雪山一族】 「偉大?そうさ、神様のおかげで、雪山一族はこうして生きてるんだ!だから、神様や神宮を冒涜するよそ者は、絶対に雪国に近づけさせない!」【源博雅】 「……………これは……本当に敬虔な信者だな。」【山】 「申し訳ありません。彼らはいつもこうなんです。どうか大目に見てやってください。さっき彼が言っていたこと、間違ってはいませんが……でも……はあ、今それを言っても仕方ないですね。神宮に着いたら、ここに来た目的を正直に伝えてください。大司祭様と聖女様に会える保証はありません。神官達は少々冷たいですが、皆道理を弁えています。話をつけておきますから、難癖をつけられることはないはずです!」【燼天玉藻前】 「晴明、ここの信者達は少し変だな。」【晴明】 「ああ、こういう隔絶された環境では、人々の信仰は統一され、安定しているはずだ。雪山一族の相反する態度には必ず原因がある。神宮内部の意見が分かれているのか、それとも他の原因があるのか?」【八百比丘尼】 「彼らの信仰の要となる人物は、大司祭様と聖女様のようですね。一体どんなお方なのでしょう。」【晴明】 「会うまでに、もっと情報が手に入るかもしれない。それに……ここに来る道中、ずっと霊力で周辺を調べてきたが、霊力の強い場所を見つけられなかった。他の場所なら別におかしくはないが……雪国の話となると、少し変だ。神が降り立った地は、普通なら霊力が濃くなるはずだ。これだけ信心深い信者を持つのだから、神の威光はこの地を遍く照らし尽くしたはずだが。では雪山一族の神様……あの女神様の、彼女の力は一体どこにいったんだ?」【怪しい商人】 「へへ、一言で神様と言ってもね、十人十色って言葉もありますし、神様だからって必ず威厳を示すとも限りません。にしても、ちょっともったい…………も……もったい……」【白蔵主】 「もしかして、もったいないと言いたいんですか?」【怪しい商人】 「(強張った笑顔で)そんなことないですよ、そんなわけありません。」【晴明】 「………………」【源博雅】 「………………」【白蔵主】 「小白は人の表情を読み取るのは得意じゃないですけど、それでもそんな下手な嘘には騙されませんよ!」【神楽】 「そうね……」【八百比丘尼】 「本来なら他人の秘密を暴きたくはないのですが、小白がもう言ってしまいましたし……では、あなたが誰なのか、正直に教えていただけませんか?」【燼天玉藻前】 「出会った時から、私はずっと考えていた。どうして変装までして、我々と一緒に来た?」【白蔵主】 「え?もしかして、玉藻前様のお知り合いですか?」【燼天玉藻前】 「皆も会ったことがある、あるいは知っていると言うべきか。結縁神だ。」【縁結神】 「縁結神じゃ!しーっ、大狐、声が大きいぞ!しかし初対面の時点で既にばれておったか。つまり今までずっと演技をしておったのか!なかなかやるな!」【白蔵主】 「……少なくとも縁結神様よりはうまい演技でしたね。」【縁結神】 「仕方ない、われのことは秘密にしてくれ。」【晴明】 「では教えてくれ。なぜ縁結神様は苦労を厭わず変装までして、我々と一緒にここに来たんだ?」【燼天玉藻前】 「それに、私がもらった手紙には、昔の友達に会いに行くと書いてあったはずだ。しかしどうしてこの日まで先延ばしにして、我々と一緒に来ることにしたんだ?」【縁結神】 「……説明すると長い話になるから、時間ができたらまた話そう。とにかく、今一番重要なのは、われの正体を隠し通すことじゃ!何もなかったことにして、さっさと神宮に行ってまた降りてくるのじゃ。ついでに、会いたくない人に出くわさないように祈るのじゃ。」【白蔵主】 「でも縁結神様だってれっきとした神様じゃありませんか、一体誰に祈りを捧げるんですか?」【縁結神】 「自分の心に決まっておる、神であっても何もかも解決できるわけじゃないのじゃ!」【白蔵主】 「ううん、なんだかおかしな理論ですね……」【縁結神】 「でも小狐が誰かと縁を結びたいのなら、いつでも言ってくれ!相手は誰じゃ?晴明?それとも源博雅か?」【源博雅】 「……おい!」【晴明】 「…………」【白蔵主】 「……え?!えー!!!」【縁結神】 「えへ、冗談じゃ。はいはい、もうすぐ着くぞ。山に近い、この話はここまでじゃ!」【山】 「ご安心ください、神官は理不尽なことを言ったりはしないはずです。行きましょう。」晴明達は神宮に足を踏み入れた……その瞬間、神宮にある数え切れない鈴が突然鳴り出した。無形の音が空で複雑な結界を紡ぎ出し、一行に向かって勢いよく降りてきた。」【晴明】 「!!!」【燼天玉藻前】 「!!!」【白蔵主】 「セイメイ様!!!」【源博雅】 「神楽、気をつけろ!八百比丘尼……!」【八百比丘尼】 「はい!」しかし巨大な網が降りてくる前に、急に源博雅の体から噴き出した金色の炎が、すぐさま結界にぶつかり、結界と相殺してなくなった。そして次の瞬間、彼らの足元にはもう一つの結界が静かに浮かび上がった。」【縁結神】 「え???これは……」縁結神が言葉を言い終える前に、晴明、源博雅、小白、縁結神は光の中に吸い込まれた。【八百比丘尼】 「!!!」【神楽】 「博雅お兄ちゃん!!晴明!!!小白!!!」【燼天玉藻前】 「さっきのは……幻境か?」【山】 「一体どういうことだ!彼らはどこに行ったんだ!」【雪山一族】 「うわ……!!!神宮は、彼らが不吉な人間だと判断したんだ! !言ったじゃねえか、神宮に連れてくるべきだって!これでやつらの正体が暴かれた!」【山】 「出鱈目だ!今まで神宮でこんなことは一度も起きなかった!お前らが何かしたんだな。」【神宮】 「静粛に!!」神宮中に威厳のある女性の声が響き渡ると、その場にいる人々は静かになった。神宮の中から、一人の神官が出てきた。【神宮】 「神宮では静粛に。さっきの方々は、大司祭様に招かれました。ご心配には及びません。」【八百比丘尼】 「では、なぜ私達は残されたのでしょう?」【神宮】 「あの方達は我が一族の聖女様と関わりを持つが故に、大司祭様はあの方達だけを招待すると決めました。ご安心ください。あの方達は数日間神宮に滞在することになるかもしれません。皆様は麓でお待ちください。」それだけ言って、静かに現れた神官は踵を返して静かに去っていく。【山】 「……おい!千葉!ちっ、やっぱり話を聞いてくれないか。俺の家にはまだいくつか空き部屋があります。もしよろしければ、友達をお待ちの間、うちに泊まってください。」【八百比丘尼】 「確かに彼らは消えましたが、気配は感じられます。まだこの神宮にいるはずです。しかし居場所が分かりません……本当に大司祭様に招待されたみたいですね。もし嘘でなければ、いつか必ず出てくるでしょう。」【神楽】 「仕方ないね……お世話になります。」【八百比丘尼】 「数日間お邪魔することになりそうですね。ちょうどこの地の風習について、詳しく知りたいと思っていたころです。」【山】 「お任せください!もしよければ、俺達にも外の世界のことを教えてください!」神宮の中……【神宮】 「大司祭様、先ほどの異邦の方々は、もう神宮を出ました。」【大司祭】 「(目を閉じている)……………………」【神宮】 「……大司祭様!」【大司祭】 「……おや?どうした、まだ何か用があるのか。」【神宮】 「さっきご報告しましたが……やはり彼らを心試の境に送り込んだせいで、お疲れになられましたか。明日の平安祭は延期されてはいかがでしょうか、「聖女様」もあそこで休んでおられますし……」【大司祭】 「私に意見を言っているのか、千葉?」【神宮】 「も、申し訳ありません。僭越な真似を。」【大司祭】 「心配するな。一時的なことだ、平安祭を延期すると余計な問題が起こりかねない。予定通りに進めなさい。しかし……五山大祭が間もなく始まる、私にはもっと重要な仕事が残っているのも事実だ。平安祭を執り行う役目は、お前達に任せよう。」【神宮】 「畏まりました、失礼いたします。」女神官が下がったあと、部屋の中で微かな嘆きの声が聞こえた。【大司祭】 「封印は弱まっている、早めに結界を解くべきだ。「聖女」は五山大祭が始まる前に神宮に戻っていなければならない。彼女が言ったように、彼らが私の必要とする力を持っているといいのだが。」 |
雪祭鈴跡・参
雪祭鈴跡・参 |
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幻境の中……【縁結神】 「……わあ!」【白蔵主】 「うう……博雅様!早く起きてください!小白のしっぽが博雅様の下敷きになっています!」【源博雅】 「うっ……犬っころ、お前はもふもふしてるように見えるが、全然肉付きがよくないな。腰が痛え。」【白蔵主】 「博雅様は腰が痛いんですか?まだお若いのに? |
」【源博雅】 「……お前、喧嘩売ってるのか!」【晴明】 「……博雅、小白、よせ。どうであれ、ここは未知なる幻境だ。すぐに周りを調べて状況を把握しなければ。」【白蔵主】 「……かしこまりました、セイメイ様!」晴明達が周囲を観察している……【源博雅】 「ここの建物は……ん?道中通った場所に似てるな!」【晴明】 「これは雪国の幻境だな。しかし、現実の雪国と比べると……より人跡未踏の場所に近い。」晴明達の目の前に広がる世界も、同じように雪に覆われているが、幻境の雪国は大雪に覆い尽され、どこもかしこも氷の大地だった。【縁結神】 「雪国と言うより、むしろ氷の国と言うべきじゃ!鳥居も、荒廃した様々な建物も、木々も、全て氷像のようじゃ。もし都でこういう氷像を鑑賞できる催しを開けば、大儲けできるじゃろう……幻境をまるごと複製することはできぬじゃろうか……そうすればわれの豪華絢爛な大神社も、夢物語ではなくなるのじゃ!」【白蔵主】 「……ある意味、縁結神様には本当に商人としての才能がありますね。」【縁結神】 「(ドヤ顔で)えへへへ、褒められた。しかしなぜだか、お金が全然貯まらないのじゃ……最後は必ず無一文になってしまう。」【白蔵主】 「あくまでも小白の推測ですけど、こう考えたことはないですか?縁結神様は、ただお金に縁がないだけかもしれませんよ?」【縁結神】 「何を言っておるのじゃ?もしわれに生まれながらの縁があるなら、それはお金の縁に決まっておる!例えなかったとしても、強引に縁を結んでみせる!」【源博雅】 「ふん、この前言ってた俺と犬っころの縁みたいにか?」【縁結神】 「ほう、まだその冗談を覚えておったか。口では嫌だと言っておったが、もしかして本音は……」【源博雅】 「……!!!やめろ!気持ち悪くて鳥肌が立つ!」【白蔵主】 「……小白も身の毛のよだつ思いです!」【晴明】 「…………」【源博雅】 「それにしてもこの幻境は本当に不気味だ、氷以外は何もない。」【白蔵主】 「そうですね、ただでさえ寒いのに、景色まで廃れています。心まで凍えてしまいそうですよ!」【源博雅】 「そういえば、神宮で突然俺達をこの幻境に送り込みやがったのは一体誰なんだ?」【晴明】 「本人を見てはいないが、あの瞬間で、とてつもなく強い力を感じた。神宮ではばかりなく力を使える人物と言えば、雪山一族の大司祭、または聖女のどちらかだ。しかし不意に攻撃された時には、別の力が我々を守ってくれた。私の気のせいかもしれないが。あの炎の中で……誰かの姿を見たような気がする。」【源博雅】 「ん?そうか?全然気づかなかった。」【晴明】 「私も確信はない。行こう、幻境を調査し、脱出方法を探すんだ。それだけでなく、私の推測を裏付ける何かを見つけられるかもしれない……」雪国にて…… 神楽、玉藻前、八百比丘尼は山と共に天現峰から下りた。」【山】 「俺の家は麓近くにあります、もうすぐ着きますよ!俺の家は村の市にも近いから、もし興味がおありでしたら市を見て回るのもいいと思います。ただし、行く時は俺にも声をかけてください。村にはよそ者が嫌いな人も……たくさんいますから。」【神楽】 「そんなに嫌いなのって、もしかして以前よその人間が何かよくないことをしたの?」【八百比丘尼】 「それだけではないでしょう?ここの建物と町のつくりは、私がよく知っている都の様式も含め、たくさんの様式を取り込んでいます。これは全てもともと雪国にはなかったもののはずです。おそらく、よその人間が雪国に入った時、いくつもの変化をもたらしたのでしょう。」【山】 「……本当に鋭い方ですね……色々な場所を旅して、たくさんの人々に出会ってこられたのですか?やはり智和先生の言う通りです。見聞の広い人は、往々にして博識なのです。」【八百比丘尼】 「博識は少々言い過ぎですが、方々を旅してたくさんの人々に出会ったことは事実ですね。」【燼天玉藻前】 「智和先生とは?」【山】 「智和先生も外から来た人です。智和先生は雪国に住んでいる間、俺の先生になってくれました。智和先生は外の世界のことをたくさん教えてくれましたが、ここを出ていきました。たまに先生から手紙が届いて、外の世界で起きている新しいことを知ることができます。」【神楽】 「雪国の結界を自由に出入りできるなんて、あなたの先生はきっとすごい人なのね!」【山】 「はは、先生は皆様とは違い、旅をしている普通の学者にすぎません。無事に結界を出入りできるのは、神宮の聖女様から道を導いてくれる祈夢松を頂いたからです。」【燼天玉藻前】 「聖女は、よその人間にはとても優しいようだな。」【山】 「はい、聖女様に会える機会は滅多にありませんが、彼女はとても優しい人だと、皆知っています。」【燼天玉藻前】 「では、大司祭はどうだ?」【山】 「…………えっと……大司祭様か……厳しい人ではありますが……よその人間に悪意を抱いてはおりません。ですから、お友達のことは心配には及ばないはずです。ただし、そのせいで聖女様はまた巻き添えを食らうかもしれません……」【神楽】 「何か事情があるのね。」【山】 「はあ、話せば長い話になります。とりあえず家に着いてから、また教えましょう。」【燼天玉藻前】 「(山の反応を見るに、人々は大司祭に対して複雑な思いを抱えているようだ。保守派の人々も、さっきの過激派の人々も、大司祭のことを恐れているようだ。恐らく、全ての問題はその大司祭に起因するはず。そして、要はあの聖女かもしれない。)」幻境の中…… 晴明達は人が一人もいない雪国で、長い間歩いてきた。【源博雅】 「晴明、長時間歩いてきたが、本当に何もないな。人間はおろか、俺達を除けば、ここには生き物すらいないかもしれない。氷を壊さなければ、ここの秘密は見つけられないのか?」【晴明】 「……確かに変だ。これだけ歩いたが、霊力で調べた結果、ここはとても「清潔」だ。ただ人がいないという単純な話ではない。普通、この世の全てにはそれぞれ特殊な気配があるのだ。花鳥風月、人妖神仏、同じ空間にあるものの気配が混ざり、一つの気配を醸し出す。屍も例外ではない。しかし、ここには……何もない。ここに活気がない原因は虚無にある。例えるなら、ここはまるで火が全てを燃やし尽くした後の世界だ。」【白蔵主】 「……また小白の分からない話が出てきました。セイメイ様、ここはどこもかしこも氷に覆われていますよ!」【晴明】 「そういう意味ではないんだ、小白。ここに氷があるかどうかは関係ない。ここの象徴は虚無なんだ。外の形がどうなっているかは関係ない。だが例え博雅の言うように氷を壊したとしても、その下には何もないだろう。」【縁結神】 「えっと、要するに、我々は何もない世界の中を歩いておるのか?」【晴明】 「そうとも言い切れない。ここはあまりにも広すぎる、単に私が見逃しているだけかもしれない。それに、我々はまだこの雪国で一番特別な場所に辿り着いていない。」【源博雅】 「神宮か?」【晴明】 「ああ、外に変わった場所がないなら、神宮の様子を確かめるしかない。」しかしその時、氷に覆われた大地が震え始めた。何かが遠くから走ってくるようだ。【白蔵主】 「セイメイ様!ご覧ください!あれは一体何でしょうか!」【晴明】 「ん?あれは……」【源博雅】 「雪原の狼の群れのようだ!」【縁結神】 「え?!上に人影が見えるぞ!」【晴明】 「神宮の方に向かっているようだ、我々もついて行こう!」晴明達四人は雪原の狼と共に、神宮の方に向かった。しかし狼の群れの動きはあまりに速く、すぐに消えて見えなくなった。同時にどこからともなく現れた吹雪が、四人を襲った。【縁結神】 「げほげほ、雪国の吹雪はなぜこんなに厄介なのじゃ!口の中にまで入ってきた!」【源博雅】 「この吹雪は何だ?何も見えないぞ!」【白蔵主】 「セイメイ様!小白は懐かしい火の匂いを嗅いだ気がします。変ですね、どうして雪なのに火の匂いがするのでしょう?」【晴明】 「ああ、私も気づいた。何せこの世界では、我々を除けば、何の気配も感じられない。さっき現れた人だが、前に言っていた人影によく似ている。彼女を探し出せば、我々がここに送り込まれた原因が分かるはずだ。吹雪はそろそろ止むだろう。」晴明がそう言うと、吹雪は消え、参道が再び目の前に現れた。【縁結神】 「え?!!!何が起きたのじゃ、急に人がたくさん現れた!」【白蔵主】 「一体いつ現れたのでしょう、小白は全然気づきませんでした!」【縁結神】 「この氷の世界に、ようやく人が現れた。彼らがここに集まった理由を聞いてみるのじゃ!」そう言って手を振ると、縁結神は忽ち人々と同じような姿になり、雑踏に紛れ込んだ。【縁結神】 「すみません、もしよければどうしてここに集っているのか、教えてくれませんか?」【雪山一族】 「………………」【縁結神】 「あれ?われの声が届いておらぬようじゃ。」【晴明】 「ああ……やはりか……先ほど彼らが現れた時も、人の気配は感じられなかった。これも幻境が作り出した幻の一部なのだろう。しかしなぜ急に現れた?」【源博雅】 「こいつらは、雪原の狼の群れが消えた直後に現れたんだ。そして、縁結神は人影を見たと言っただろう、つまり……」【白蔵主】 「必ず関係がある!博雅様はそう言いたいんですか?皆分かっていることなのに、わざわざそれを口にした博雅様は、自分の賢さをひけらかしているんですかね……」【源博雅】 「……犬っころ!」【縁結神】 「やっちゃえ!やっちゃえ!」【晴明】 「…………」【源博雅】 「…………」【縁結神】 「はは、勘違いしないでくれ、これは皆を盛り上げておるのじゃ。ちょっとやりすぎたみたいじゃが……」【晴明】 「……………………目の前に問題に集中しよう。彼らの服には、神宮のものと似た模様がある。つまり、祭に行く途中である可能性が高い。私もちょうどそこが気になっていた、ついて行ってみよう。」晴明達が人々と共に進むと、神宮の外の祭壇までやって来た。祭壇の上には、神官が二人いる。祭壇の下では、人々が跪いている。そして彼らの目の前には、小指の爪ほどの大きさの鈴が置かれている。【神宮】 「静粛に、席に着き、火の鈴を捧げなさい……」【神宮】 「神火は天より降り、我が一族を守る。」人々は唱えた、「加護を賜りし女神、神火は不滅であれ。」」【神宮】 「一族の祈りを捧げるべし、女神は世に降り立たん。」「神火の導き、聖女の兆し、神の顕現を願わん。」【源博雅】 「そうか、これは神に祈りを捧げているんだな。神が聖女として顕現する……ってことは、聖女こそが雪国の神の化身なのか?」【縁結神】 「え?それを聞いて、以前耳にした噂を思い出したぞ。ここの聖女はな、神火の中から生まれたらしい。」【白蔵主】 「え?炎から生まれた聖女ですか?」【晴明】 「縁結神様は雪山一族のことにとても詳しいようだな。」【縁結神】 「えへへ、まあね、神の名は伊達ではないぞ。縁を結ぶために、色んな場所に行ったからじゃ。以前、少しの間、ここに滞在したこともあるのじゃ。でもあまり覚えておらぬ。こんなつまらない話の類いは、いちいち覚えていられないのじゃ!それに、デカ氷はこういう話が好きじゃないし……」【白蔵主】 「デカ氷?縁結神様が会いたいと仰っていた、お友達のことですか?玉藻前様の話によれば、縁結神様はずいぶん前に出発されたようですけど!それなのに、どうして縁結神様は今になってやっと来たのですか?」【縁結神】 「道中色んなことがあって、遅れてしまったのじゃ……でもちょうどいいのじゃ、それほど会いたいわけではないからのう。」【白蔵主】 「え?縁結神様はお友達に会いたくないんですか?」【縁結神】 「うーん、別に会いたくないわけじゃないんじゃ、会いたいが会う勇気がないというべきかな。」【白蔵主】 「なるほど!小白は平安京の菓子屋のおばさんから、似たような話を聞いたことがあります!息子さんはいつまで経っても結婚しないから、あまり実家に帰りたくないらしいです…」【縁結神】 「……それとはちょっと違う!」しかしその時、博雅が急に眉を顰め、聞き耳を立てた。【源博雅】 「しっ……何か聞こえないか。何か……音が聞こえなかったか。」皆が静かになると、遠くから微かに会話の声が聞こえた。【???】 「鈴彦姫、聖女たるもの、まずは自分の心火を抑えることを学ばなければならない。」その後、女の子の声が聞こえた。 「どうして?」【???】 「さもなければ、炎は君だけでなく、周りのものまで傷つけてしまう。君は炎が怖くないかもしれないが、決して炎に押されてはならない。」「……分かった。」【???】 「では今日の修行を始めなさい。」突然、皆の耳をつんざくばかりの狼の咆哮が聞こえた。何か思いついたのか、源博雅が急に真顔になった。破魔の弓を握った彼は、素早く声のするほうへ向かった。そして目にしたのは、巨大な狼が女の子に襲いかかる光景だった。【源博雅】 「危ない……!」源博雅が弓を引くと、金色の破魔の矢は狼に向かって飛んでいった。しかし破魔の矢が狼を射抜いた瞬間、目の前の景色は突然歪んで砕けた。白い服をまとった男の姿が一瞬消えたあと、また彼らの前に現れた。【???】 「不届き者、勝手に聖女の休憩所に踏み込むとは!」【晴明】 「博雅、気をつけろ!」【源博雅】 「ふん!迎え撃ってやる!」しかし戦闘が始まる寸前、晴明達の耳元で嘆き声が聞こえた。次の瞬間、赤い服の女が突然現れた。炎をまとい、七支刀を持って現れた彼女は、一振りで、幻を切り裂いた。【白蔵主】 「!!!」【縁結神】 「!!!」【鈴彦姫】 「あんまり言いたくないけど、他人が思い出に浸っている時に、邪魔するのはどうかと思う。この「恐怖と喜びの制御」の授業は、まだ半分も終わってない。」【源博雅】 「お前は……!」 |
雪祭鈴跡・肆
雪祭鈴跡・肆 |
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幻境の中…… 赤い服の女が源博雅たちの前に現れた。【源博雅】 「お前は!」【白蔵主】 「雪原で見かけました!あの姉さん!」【鈴彦姫】 「おや?あなたたちは?」【白蔵主】 「私たちは……」【晴明】 「下がれ!」その時、鈴彦姫が距離を詰め、烈火の刀を抜いた。【鈴彦姫】 「面倒だから、直接あなたたちの心を見るわ。」【白蔵主】 「!!!」【縁結神】 「……おい!!!いきなりそれはやりすぎだろ!」晴明が霊力の盾を素早く展開し、襲い掛かってきた刀の攻撃を防いだ。【鈴彦姫】 「へえ、これは確か……陰陽道だよね?なるほど、陰陽師か……しかも強い力を持つ陰陽師だと見受けられる。しかし、これは簡単に防げるものじゃないわ。本命は刀じゃなくてよ、陰陽師様。」霊力で起こした刃の風は消え、炎が霊力の盾を貫通し、火の粉になった。源博雅はその火を避けきれず、炎は彼の体内に溶け込んだ。【源博雅】 「……ぐっ!」【白蔵主】 「博雅様!」源博雅は頭を抱え、手は何かを抑えているように震えている。【源博雅】 「(どうして……頭の中に……わけのわからない怒りが。……ぐっ!晴明……はやく……まずい!)」破魔の矢が晴明を狙って飛んでくる。次の瞬間、源博雅は晴明の隣に飛び、彼を後ろに引っ込み、自分が放った矢をかろうじて防いだ。【源博雅】 「晴明……俺……ぐわぁぁ…………!もう抑えきれない!」【白蔵主】 「博雅様、何をしているですか!!!」【源博雅】 「晴明……!はやく……よけ……」青筋を立てた源博雅が短刀を抜き、晴明を刺そうとしたが、それを阻止しようとする源博雅は、短刀をむりやり自分の腕に向けて刺した。【鈴彦姫】 「ほう、面白い。」【縁結神】 「発狂しているようじゃな!我が鎮めてやるわ!」二本の赤い糸が縁結神の手のひらから放たれ、晴明の隣にいる源博雅を縛った。晴明は片手を源博雅の肩に乗せ、片手は霊符の霊力を込めて、源博雅の額を触る。【晴明】 「博雅、落ち着け。」【源博雅】 「…………うっ……」源博雅の怒りが霊力の力によって静まっていく。【白蔵主】 「セイメイ様!博雅様はいったいどうなったんですか!」【晴明】 「霊力が乱れたせいで、情緒が不安定になっただけだ。もう大丈夫だろう。」【白蔵主】 「あなた!博雅様に何をしたんですか!」【鈴彦姫】 「別に…彼の情緒をちょっといじっただけさ。」【晴明】 「人の情緒を操られるのか?」【鈴彦姫】 「とんでもない、今の私はある程度の影響を与えるくらいしかできないわ。驚きを怒りに変えたり、喜びを悲しみに変えたり。比較的極端な情緒の下でしか、人は本心を表さないからね。そう憎んだ顔でこっちに睨まないでくれるか、白狐。そっちはいきなり私の縄張りに侵入したんだもの。このくらいはやらせてもらうよ。でも自分の情緒を制し、仲間を守る決心を持つ。そんな人は信じても大丈夫そうね。」【白蔵主】 「え?心を見るというのはそういう意味なんですね……」【縁結神】 「今は感心している場合じゃないわ!あっちから怪しい吹雪が来る!」すさまじい吹雪が襲かかり、極寒の寒さが身に染みる。吹雪が通った場所を凍り付け、目の前に迫ってきて、神宮は白に覆われている。【鈴彦姫】 「招かれざる客とは言え、悪い人たちじゃなさそうだし、助けてやるか。」鈴彦姫が七支刀を持ち、烈火を帯びた刀身で手のひらを切った。【晴明】 「これは……」火が鈴彦姫の手のひらから垂れ落ち、晴明たちの周りに火の障壁を展開した。吹雪がみんなの姿を飲み込んだ。吹雪が通り過ぎた後、ようやく視界が回復した。【源博雅】 「すごく寒そう……火の障壁のおかげで助かった。」【白蔵主】 「博雅様!もう大丈夫ですか?」【源博雅】 「さっきは情緒が不安定だったが、もう平気だ……」【白蔵主】 「そうのようですね。博雅様の傷も増えていません。」【縁結神】 「この吹雪はもうすぐ終わるみたいだ。」【晴明】 「奇妙な吹雪だな……あの人と関係あるみたいだ。」【白蔵主】 「あの変な人まだいますかね?ここを出る方法を知っているかもしれません。小白は雪合戦をするのが好きですが、いつまでも寒い場所にいるのは嫌です……」【晴明】 「雪が止んだ。」【源博雅】 「……!!!あの人だ!」【白蔵主】 「え?彼女は……ええ!凍っているじゃないですか!」晴明たちの前に現れた氷柱の中に、鈴彦姫が目を閉じてかがまって、手足が傷だらけになっている。【白蔵主】 「まさか彼女は……え、小白は勘違いしちゃいましたか。彼女は小白たちのために……」【晴明】 「小白、落ち着け、彼女は生きている。それに、ほら……」晴明たちが氷柱に近づくと、彼らを覆っていた炎は氷柱に流れ込んでいく。炎の熱さで氷は溶けていき、鈴彦姫は生気を取り戻した。【縁結神】 「力を回収して再利用する……そういうことだったのね。我もこれができたら、神力が満ちた日は近いぞ!」【白蔵主】 「小白も……あれ?博雅様、体が光ってますよ?」【源博雅】 「何?あれ、これは、雪原で見つけた鈴……」博雅に取り出された鈴が鳴り始め、炎の気を吐き出し、鈴彦姫の体内に入った。【白蔵主】 「あ!セイメイ様、この炎の気は!思い出しました。それが小白と博雅様が雪原で入った砕けた幻境です!」【源博雅】 「この鈴が?」【晴明】 「ああ、外の神宮であの一撃を防げたのは、この力のおかげだ。炎……神宮……彼女の正体はなんとなく見当がついた。目が覚めたら聞いてみよう。」氷柱は炎の力によって溶けていき、鈴彦姫が目覚めた。【鈴彦姫】 「あれ……これは?どうしてあなたたちはここに?いいえ、私どれくらい眠っていたの?」【晴明】 「少しの間だけだ。吹雪が消え、私たちに与えた力を回収したら目が覚めた。」【鈴彦姫】 「それはおかしいわね。記憶は途切れ、心火も回収していない。時間を掛けて回復してから目覚めるはず。」【白蔵主】 「そう、そうだったんですか?」【鈴彦姫】 「白狐、何感動しているんだい?はは、まさか私の偉大さに感動されたのか?これは良い力だ。感激するのなら、私にくれないか。封印を解けるのに使えるかもしれない。」【白蔵主】 「……情緒をあなたに?意味がよくわかりません……」【晴明】 「封印と言ったな、君はここに封印されているのか?」【鈴彦姫】 「そうなのよ、可哀相だろう。いつからだろう…………………………う……んん……」【源博雅】 「……思い出せない程昔なのか!?」【鈴彦姫】 「自分にもよくわからないの。昔すぎて忘れたのか、それとも記憶も封印されたのか。教えてくれ…私が目覚める前に何があったのか。前より力が漲っているみたいだ。」【白蔵主】 「あの鈴のせいかもしれません!」【鈴彦姫】 「鈴?」源博雅は鈴彦姫に鈴を渡した。【鈴彦姫】 「これは!私の心鈴じゃないか!心鈴は私の力と同じ、そして封印されている。覚醒されたらここに投げ出されてしまう。」【晴明】 「私たちは外の神宮の入り口でここに引っ張られたんだ。私の推測が正しければ、君は雪山一族の聖女。そして君を封印した者と私たちを襲った者は、雪山一族の大司祭だろう。」【鈴彦姫】 「え?なぜわかるの?」【白蔵主】 「え!?そうなんですか!」【縁結神】 「…………はぁ?まさか…………そんな馬鹿な?」【白蔵主】 「縁結神様、驚いていますね。」【縁結神】 「いいえ……ただ、人の変化はわからないものだなと思っただけさ……」【白蔵主】 「聖女様はここから出る方法を知りませんか?」【鈴彦姫】 「私はここに封印され、心火も記憶と共に封印された。心火は情緒で燃える…ここじゃ封印を破れるほどの力を得られないんだ。封印を破壊しない限り、一生出られないだろう。」【源博雅】 「情緒をもらえないかって、犬っころに言ってたな。他人の情緒を利用することは可能ということか?」【白蔵主】 「!!!そういうことですね、聖女様!」【鈴彦姫】 「はは、気づかれたか。情緒があれば、封印された心火を燃やし、私の力に変えられる。そしたらここから出て、大司祭にけりをつけてもらう!問題はあなたたちが協力してくれるかどうかだけど。」【白蔵主】 「どこかに囚われるなんて……小白はそういうのが一番嫌いです!」【源博雅】 「俺たちを巻き込んだけりもつけてもらわないとな!」【縁結神】 「……なんで急に熱くなってどうしたのよ!」【晴明】 「あの……聖女様、あまり彼らの情緒を高めないでくれないか。」【鈴彦姫】 「コホン、失礼。」【晴明】 「元々この事態を見過ごすつもりはないよ。どうすれば聖女様の力になれるだろうか?」【鈴彦姫】 「記憶の封印に入った後、私は記憶の中に「戻る」。心鈴を頼りにすれば私を見つけられる。」【白蔵主】 「封印はどうやって開くんですか!」【鈴彦姫】 「自分の情緒を封印の中心である心火に委ねれば良いわ。」【晴明】 「なるほど、では始めよう。」【鈴彦姫】 「ええ!善は急げ、さっき途切れた記憶から始めよう!」彼女の指先に火がつくと、複雑な法陣が浮かび、吹雪が吹き始める……………………【???】 「鈴彦姫、心火を制する者こそ聖女なのよ。」女の子の声がした。 「なぜ?」【???】 「炎は自分を傷つけるだけでなく、自分以外のものも傷つけてしまう。炎を怖がっていないかもしれないが、炎に負けてはいけない。」「……わかった」【???】 「今日の練習を始める。」狼の遠吠えが響き渡り、一匹の雪原狼が女の子を襲いかかる。炎が彼女の隣で燃え上がろうとしたが、彼女に抑えられた。鋭い狼の牙と爪が彼女の顔に届きそうなのに、緊張した彼女は目を閉じ、炎を必死に抑え続けた。しかし痛みは襲ってこず、代わりに舌で舐められる感触があった。【???】 「……目を開けていいぞ。」女の子が目を開け、凛々しい雪原狼が彼女の前に座り、尻尾を振っている。【???】 「よくやった。恐怖は情緒を暴走させる要因の一つ。あなたの心火にとっても、誰にとってもそうだ。」大司祭にも恐れるものがあるの?」と、彼女はさり気なく言った。答えは長い沈黙だった。【大祭司】 「………………この子を連れていくがいい、褒美だ。」女の子は雪原狼に振り向き、質問の答えなどどうでもよくなった。「名前つけてもいい?」【大祭司】 「好きにしろ。」吹雪が再び吹き、みんなが記憶の中から出た。【白蔵主】 「………………」【鈴彦姫】 「おや、白狐はご機嫌斜めなのかな?」【白蔵主】 「…………鈴彦姫様、鈴彦姫様ですよね?記憶の中であなたの名前が聞こえました。小白の感謝の気持ちが、こ、この狼に変わったのですか!?」一匹の狼が鈴彦姫の隣に伏せて甘える仕草を見せる。小白のことはまるで眼中にない。【白蔵主】 「…………おい!その目つきはなんですか!」【鈴彦姫】 「ははは、誤解しないでくれ、白狐。この子は心火が具現化した姿に過ぎない。この子に会いたくて、この姿にしたんだ。」【晴明】 「今の記憶にいた人が、大司祭か。」【鈴彦姫】 「そうだよ。どうかしたか?意外な顔をしているね。思っていたのと違うのか?」【源博雅】 「確かに……厳しくて堅い人かと思っていたが、意外と……」【白蔵主】 「厳しくて冷たい人に見えますけど……まさか動物をくれるなんて!」【鈴彦姫】 「それが大司祭という人だよ。時に厳しく、時に優しく、飴と鞭というかしら。人に対して、他の生き物に対しても、みんな同じ扱いをする。私の記憶の中では、ね。」【白蔵主】 「どうして鈴彦姫様にこんなことを……」【鈴彦姫】 「それが覚えていないよね。この後の記憶に、答えを見つけられるかもしれない!私が許せないことをしちゃったかも。」【白蔵主】 「……そうだとしても、この仕打はあんまりです!」【晴明】 「答えがわかるまで、余計な推測は控えたほうがいい。気を取り直して続けよう。」【源博雅】 「そうだよな!外にいる神楽たちも心配だし。早くここから出ようぜ。」【鈴彦姫】 「外に大事な人がいるのね。では一気に行きましょう。最深部に封印された肝心な記憶を見つければ、ここを破壊できるでしょう。そしたら、あなたたちも外にいる人たちに会える。」【晴明】 「では、行こう。」【白蔵主】 「縁結神様!行きますよ!」【縁結神】 「え?」【白蔵主】 「縁結神様が何かを思案しているみたいで、珍しいです!」【縁結神】 「………………いいや、ちょっとわからないことがあって。」【源博雅】 「何がわからないんだ?」【縁結神】 「んん……人は、そんなに大きく変わるものなのか?」【晴明】 「変わる?具体的には?」【縁結神】 「人の性格や言動、まるで別人みたいに変わる。」【晴明】 「この話、深掘りすれば長くなるが。そうなることはある。人は多くのものに影響される。人自身の魂だけでなく、周りの環境、知り合った人、見聞などが深い影響を与える。もし人生で、それらのものを壊す、あるいは覆すほどの変化が起きたとしたら。人が大きく変わっても不思議じゃない。神にとって、そういった変化も些細なことに見えるから、百年も千年も変わらないでいられる。繊細で複雑な人間にとって、それは簡単に起こりうることだ。」【縁結神】 「……神と人?」【白蔵主】 「…………縁結神様、主旨が間違っていますよ!」【縁結神】 「まさか、他に思い付いたことがあるだけさ。とにかく急ぎましょう!我も用事ができた!」雪鎖の音につれ、鈴が砕け、形のない幻境の境界がひび割れた。【鬼童丸】 「……ここ、だったのか。この気配……楽しみだ。」その頃、雪域の中……【神楽】 「…………」【八百比丘尼】 「神楽さん、どうかしましたか?具合が悪いんですか?」【神楽】 「ううん……なんだか、山の中で……霊力が破られたみたい。」【八百比丘尼】 「霊力が破られた?何も感じませんが……まだ大丈夫ですか?」【神楽】 「平気よ、八百比丘尼。あの感覚は一瞬だったわ。今はもう……消えたみたい。その霊力は地下から噴出し、今はその痕跡どこにもなかった。」【八百比丘尼】 「これが晴明さんが言ってた地脈の下の封印のことですか?」【燼天玉藻前】 「そなた達がここに来たのには、なにかもっと重要な事情があったのでしょう。必要なら、私に言ってごらんなさい。」【山】 「皆さま、中に入ってお座りください!」山がそういうと、遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。外で誰かが叫び、数え切れないほどの人々がドタバタと移動しているようだ。【八百比丘尼】 「これは?」【神楽】 「村のある方向から音がするようだけど、何かが起きているのかしら?」【山】 「皆さん、一旦私の家で待っていてください。私が見てきます!」【燼天玉藻前】 「私たちは一緒に行かなくて良いのですか?」【山】 「必要ありません!村で人々が混乱しているということは、きっと何か良くないことが起きたのでしょう。皆さんが来てしまうと、あまりに悪目立ちしますから。私一人が見て来れば十分です。」そういうと、山は慌ててその場を立ち去った。【神楽】 「八百比丘尼、何故か分からないけど、さっきの霊力とこの騒動、何か関係があるように感じるわ。」【八百比丘尼】 「異常な事象に関連性があるというのは、合理的ですね。でも確実な情報をもう少し待ちましょう。」【神楽】 「とにかく、何もなければ良いのだけれど...」間もなくして、山は慌ただしく家の中に戻って来た。【山】 「...ハァ...ハァ...只今戻りました。」【神楽】 「外で一体何が起きていたの?」【山】 「えぇ......やはり事件が起きていました。「雪幕」が何らかの理由で突然揺れ始め、前方の一部を飲み込み、再度後ろに大きく後退したのです。逃げきれなかった一部の部族の者が負傷し、行方不明になった者もおります。それから、負傷した雪原狼の群れがあたりを走り回っていました。」【八百比丘尼】 「事態は急を要しているのですか?」【山】 「......神宮の神官達が直ぐに駆けつけ、負傷者たちは皆、彼らによって治療を受けています。「雪幕」の外の人に関しては言いにくいですが、ここ最近同じようなことが起き、行方不明の人は皆戻って来ていないそうです......狼の群れはというと......行動力を失ってしまい、人を傷つける余力もなく、神官達に連れていかれました。人々は皆、ひどく衝撃を受けているようです。」【燼天玉藻前】 「「雪幕」は最近になって、このような異常事態を引き起こすようになった、というのですか?」【山】 「はい、「雪幕」の外は以前から危険ではありました。でも中に足を踏み入れなければ、特に問題はなかったのです。しかし近年、雪幕の変動は活発になり、多くの部族の者たちが雪域の奥地へと引っ越すことを余儀なくされました。現在見える雪域の範囲は、それによって既に収縮された状態だったということなのです......」【燼天玉藻前】 「そんな状況だったのに、神宮はあなたたちに何の釈明もしなかったのですか?」【山】 「......まったくありません。神宮はただ何も言わずに、救助だけしました。老人たちは皆、こう言っています......信仰が不純な者が神の怒りに触れ、神からの罰がくだったのだと。」【燼天玉藻前】 「信仰が不純な者?それはつまり外部の者のことですか?」【山】 「はい、でも私たちの中にはそう思わない者もおります。外部の者は雪域で大きな罪を犯したことなどなく、多くの人は私たちのような一般人と変わりありません。雪山一族ではないという理由だけで神のお怒りに触れるのなら、神の慈悲などあったものじゃないでしょう?それで......実は神の怒りに触れたのには、あまり出回っていないもう一つの噂があるのです。......雪山一族が神の怒りに触れた本当の原因、それは大司祭様が独断で自らの分をわきまえず、聖女様を制御したことなのです。」【八百比丘尼】 「それは何故ですか?大司祭は実際、雪山一族の最高指導者でしょう。そんなことして何の意味が?」【山】 「これはとても長い間流布している噂なのです......聖女様は神火の化身。雪山一族の中では既に数百年も続いている存在です。しかし、大司祭様は聖女様よりも長い間雪山一族に存在していました。人々は、大司祭様こそが天の神様からの使者であり、神々の命令で、人々を率いて神々に供物を捧げに来たのだと思っています。しかし...人界の数千年にも及ぶ寒さは、神の使者にとってもつまらないものだったのでしょう。大司祭様は天に戻りたいと思い始めたのです。そして百年前の五山祭りで、大司祭様はどうやら聖女様の力を借りて一度試してみたそうです。」【神楽】 「既に一度試したのですね?」【山】 「そうです...しかし実際に起きたことを明確に説明できる者はおりません。老人たちによると、五山祭りの夜、誰もが皆極寒の中で昏睡状態に陥り、目覚めた時には烈火の中にいたということです。彼らが目を覚ました時、目の当たりにしたのは壊れた神像と祭壇の残骸、至る所に燃え盛る血の跡、そして天に消えゆく神光でした。それ以来、聖女様はあまり人前に姿を出さなくなり、大司祭様はより冷淡になりました。聖女様と大司祭様は、神宮の中で数年の修養を行いました。それ以降の五山祭りでは、人々が天現峰の頂上に参拝しに行くことを神宮が許可せず、人々が自分の記憶を頼りに彫刻した石像しかありませんでした。参拝するときは、山の麓でただ祈念するだけになったのです。人々はこう言います。聖女様と大司祭様は五山祭りで共に傷を負ったが、今ではお互いに和解し、雪山一族に平和が訪れたのだと。」【神楽】 「そのような噂が広まってしばらく経つというのに......どうして雪山一族の方々は大司祭を奉るのですか?」【八百比丘尼】 「それ以外に選択肢がないのでしょう。」【山】 「......その通りです。雪山一族は神の恩恵を受け、大司祭様と聖女様の庇護の下、数千年存続してきたのは紛れもない事実......それに「雪幕」に囲まれた雪山一族には行き場がなく、信仰を失ってしまえば、より恐ろしい事態に繋がりかねません。」【八百比丘尼】 「......希望を失った人々には神宮が必要。絶境においては必然的な選択と言えますね。」【燼天玉藻前】 「つまり、外部の者に対する憎悪、それは実のところ、無力感が転じたものということですね。長い間信仰されてきた神宮と、運よく結界を越えてきた外部の人間、どちらか一方を選ぶとしたら、必然的に後者でしょうね。」神宮にて...【男神宮】 「大司祭様、負傷者の手当てが終わりました。行方不明者は現在捜索中ですが......」【大祭司】 「………………全力を尽くせ。」【男神宮】 「......はい、それと村の外から負傷した雪原狼の群れを連れてきました。一体どうすれば......」【大祭司】 「野に返せ。」【男神宮】 「はい、しかし聖女様はたしか...」【大祭司】 「今はそんな場合じゃない。もうすぐ十四夜だ。祭りに必要な道具の準備を怠るな。」【男神宮】 「全て準備できております、大司祭様。ご安心ください。」神官達は凍り付くような大司祭の目の前で全ての話を終えると、無言で神殿を後にした。大司祭だけが今でも感情のない彫像のように神宮の中に座し、日の光が彼を包み込む瞬間を待っていた。」【大祭司】 「始めようか。」 |
雪祭鈴跡・伍
雪祭鈴跡・伍 |
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幻境の中…… 清明たちは鈴彦姫を追って神社に散らばった記憶の欠片を探していた。【鈴彦姫】 「あら……これかしら?でもなんだか……それともこれか?うーんこれも違うか......」【白蔵主】 「鈴彦姫様!半日もずっとそこでブツブツ言って、一体何をしてるんですか!」【鈴彦姫】 「私の記憶を探しているのよ。」【白蔵主】 「......そんな棒立ちで探しているんですか?小白には、この場所に何かがあるようには見えないですよ!」【源博雅】 「俺もこの近くに何かがあるようには感じないぞ。」縁結神はしばらく鈴彦姫の方を見つめると、急に手を叩いた。【縁結神】 「形が無く、見えない物。私は知っているぞ!音だ!」【源博雅】 「......音?」全員が口を閉ざし、静寂の中、吹雪の音だけが響く神宮内に、どこからともなく鈴の音が鳴り響いた。【晴明】 「きっとこの鈴の音だ。」【白蔵主】 「鈴彦姫様の記憶は、鈴の音の中に?でもこんなに沢山の鈴から、鈴彦姫様はどうやって見分けるのですか?小白には全部同じように聞こえます!」【鈴彦姫】 「結局のところ、神宮の鈴は全て私自ら祝祷したものなの。私の一番最初の記憶は、鈴の音から始まるの。一度音がすれば、過去の記憶が蘇る。ここに居れば、起きている限り鈴の音を聞くことができる。私のこの記憶を、雪の中に忘れて行くわけにもいかないからね。」【源博雅】 「音色が情を運ぶということか...」【白蔵主】 「鈴彦姫様の重要な記憶は、どんな音をしているのかな......」【鈴彦姫】 「強いて形容するなら......きっと傘に雪が舞い落ちた時のような音、かな?」【白蔵主】 「やっぱり小白には全然わからない表現ですね!」【鈴彦姫】 「あはは、私にもどうしてそんな音なのかは分からないわ。でも私の直感がそういうの。あっ......見つかったみたいだわ!」鈴彦姫の目が明るくなり、指先には光が灯った。それはまるで目に見えない音を操っているようだった。【鈴彦姫】 「この最も重要な封印を解けば、私はここを出るのに十分な力を得られるわ。皆、準備は良い?」【縁結神】 「私はもう準備万端だ!」【晴明】 「当然問題ありません。」【白蔵主】 「安心してください!鈴彦姫様にしっかりついていきますから!」【鈴彦姫】 「そんなにしっかりくっつかなくても良いのよ。過去の私がそれを知ってたら、きっと困惑していたでしょうね。」【白蔵主】 「え?え!?それってどういう意味ですか!?」【源博雅】 「お前の礼儀の無さを教えてやってるんだよ、犬っころ。」【白蔵主】 「————!!!小白はそんなつもりはなかったんです!!!」【鈴彦姫】 「あはは、ただの冗談よ。これらの記憶の中にもきっと重要な事しかないはず。皆安心して見ていて。それじゃあ、ここから出ましょうか。」そういうと、聞きなれた吹雪の音が再び辺りを包み込み、人々の影はその中に消えていった。吹雪が霧散すると、鈴彦姫の影は既に見えなくなり、一つの赤い影が彼らの間を通り抜け、心鈴も次第に振動を始めた。【白蔵主】 「————!!!うわっーー!!セイメイ様、さっきあの人が小白の身体を通りぬけていきました!」【縁結神】 「なんか、何処かで見覚えが......」【源博雅】 「心鈴がまだ振動しているぞ。鈴彦姫は、心鈴の音が彼女のいる方向を示すと言っていた。さっき通り過ぎた奴が鈴彦姫だろ!」【晴明】 「それじゃあ、一緒に見に行こうか。」......「過去」【女神宮】 「昨日、聖女様がまた大司祭様に叱責されたみたいです。」【男神宮】 「……祈神の舞がまた上手くできなかったのでしょうか?聖女様は確かに祈神の舞が不得意ですからね。」【女神宮】 「大司祭様は聖女様に対してあまりにも厳しすぎます。」【男神宮】 「口を慎みなさい。大司祭様のすることに間違いなどないのです。」…………【縁結神】 「大司祭様に間違いなどない......か。耳が痛い話です。」【白蔵主】 「縁結神様……それはどこかで何度も聞いたことなのですか?」【縁結神】 「…………もし厳格な先生がいたのなら、キツネのあなたも耳が痛いほど聞いたことがあるでしょう。」【白蔵主】 「あぁ、確かに小白もそのような言葉には聞き覚えがあります。ただ何処で聞いたのか覚えていないんです......」【源博雅】 「それはお前がよく言う言葉だろ?犬っころ。「セイメイ様の言うことに間違いなんてない!」って。俺は毎日毎日聞かされてるぜ!」【白蔵主】 「………………...小白は、小白は間違ったことを言ってません!」【晴明】 「いや.....小白、私だって永遠に正しいとは限らないよ。結局のところ、重要なのは正しいか間違っているかではなく、自分の過ちと向き合うことができるかどうかなのだよ。」【白蔵主】 「そうそう、セイメイ様の言う通り!」【縁結神】 「......本当に分かっているのでしょうか。」【晴明】 「ともかく、この記憶の方に集中しましょう。神官の意図からすると、鈴彦姫様は祈神の舞の事で、過去に何度も叱責されていたようですね。」【源博雅】 「でも祈神の舞って...神社の巫女なら出来て当然だろう。鈴彦姫は不得意だったようだな。」【白蔵主】 「祈神の舞が不得意な巫女なんて、あまり見かけませんよね。」【晴明】 「これが重要な記憶であるということは、鈴彦姫様が心の奥底で覚えているほど深い出来事だったと言えるでしょう。」【白蔵主】 「セイメイ様が言うなら、とても納得です!」......「過去」【大祭司】 「それでは、始めようか。」鈴彦姫は神楽鈴を手に持ち、祭壇の上に上がって舞を始めた。神官達は小さな声で祭祀の歌を歌い始めた。鈴彦姫の舞はぎこちなく、息も絶え絶えになりながら何かを念じているようで、明らかに未熟な様子が見て取れた。【大祭司】 「やはりダメだ。昨日と比べ全く進歩がない。」【鈴彦姫】 「厳密に言うと、昨日よりは覚えていた舞は一つ多いんですけどね。」【大祭司】 「あぁ、そうなのか?」【鈴彦姫】 「そう、これが私が一晩苦労した結果ですわ。」【大祭司】 「ふん、進歩がないだけでなく、向上心までないとは。」【鈴彦姫】 「…………」【大祭司】 「何度も言っただろう、心の火を鎮めるのだ、と。お前は全くできていない。」鈴彦姫はさりげなく自分の傷口を拭い、神楽鈴を少しも気にしない様子で放り投げた。【鈴彦姫】 「私は生まれつきこうなのです。私で駄目なら、大司祭が私の代わりにやればよろしいわ。」【大祭司】 「それは駄目だ。」【鈴彦姫】 「どうして駄目なのかしら?」【大祭司】 「神宮は天鈿女命に仕えるために存在し、聖女は雪山一族にとって、天鈿女命の化身なのだ。お前はこの職責と立場から逃げることは出来ぬのだ。」【鈴彦姫】 「ふん、やっぱりね......分かってたわよ。」【大祭司】 「今夜の神宮瞑想をあと三時間追加せよ。」【鈴彦姫】 「正直、私の進捗度合いからすると、その言葉はこう言い換えるべきですわ...「聖女はこれから毎日神宮瞑想を3時間延長せよ」【大祭司】 「自分の悪い所が分かっているなら、それなりの努力を尽くせ。帰った後、何をするべきか当然分かっているだろうな?」【鈴彦姫】 「......えぇ、分かっているわ。」鈴彦姫は彼の後に続いて、ゆらゆらと神宮へと向かっていった。その途中、鈴彦姫は何かを突然思い出したように、微笑みながら大司祭に近づいた。【鈴彦姫】 「ねぇ、もし私が完璧に祈神の舞を踊れたら、報酬は何をくださるの?」【大祭司】 「態度を慎め。」【鈴彦姫】 「......ふん、分かりましたわ。それで?」【大祭司】 「………もし完璧に踊れたのなら、そうだな...一つだけ願いを叶えてやろう。」【鈴彦姫】 「願いを一つ?何でも叶えてくれるの?」【大祭司】 「...それが我が意志に反しない限り、何でもいいだろう。」【鈴彦姫】 「言ったからには覚えておいてね!」鈴彦姫の足音はより活発になり、火炎が鮮血と共に手のひらから滴り落ち、厚い雪から青煙が出てきた。【晴明】 「これは……」【源博雅】 「彼女の血......俺たちが以前見たのと何かが違うぞ!」【白蔵主】 「えっ?以前鈴彦姫様が私たちを守ってくれた時、小白は火炎が放たれるのをハッキリと見ましたよ!」【源博雅】 「あれは神火の化身だ。火炎を放つくらい当然だろう。奇妙なのは...どうして彼女の前後の状態が一致しないのかだ。」【縁結神】 「私は、今の彼女の方がより純粋に見えます!」【晴明】 「火炎...血液...そして純粋?何かを見逃しているような気がする......」......「過去」【鈴彦姫】 「はぁ、また駄目だったわ。」【女神宮】 「聖女様、気を落とさないでください。今回は今までより大分良かったですわ。十四夜の火に山を下り、火を灯せば、きっと皆が聖女様の舞を称賛されるでしょう。」【鈴彦姫】 「(興味なさそうに)山を下って、か......大司祭は私が山を下ることを嫌がっているわ。私がそれらと接触するのが嫌なのよ。私には何の執着もないわ。ただ大司祭自身が山を下るのを恐れている気がするの…だから私を......」神宮の外で、何者かの人影が動き、突然立ち上がった。【鈴彦姫】 「え?下山するのを恐れている?そうだわ!叶えたい願いが分かったわ!さぁ!もう一回踊るわよ!」姫鈴彦は神楽鈴を掴み立ち上がり、かなり乗り気で神宮大殿内で踊り始めた。太陽が昇り、月が沈み、星が動き、最期の舞の途中で鈴彦姫は動きを停めた。そのとき音もなく大司祭が大殿に姿を現した。【大祭司】 「…………」【鈴彦姫】 「あらあら、大司祭様は私の願いを叶えることになりそうですわね。」彼女が手に持つ神楽鈴の揺れに合わせて、空一面の霧雪の中から封印が現れた。源博雅は吹雪に立ち向かい、霊力を使い、出現した封印の上を手で覆い、自らの感情を燃料にして封印の後ろにある心火を燃やした。封印の中央に突然力強く風が吹き骨の髄までしみ、瞬時に熱い息吹となって、その全てが鈴彦姫の身体に向かって押し寄せた。【白蔵主】 「出てきましたよ!」【源博雅】 「…………」【白蔵主】 「博雅様、大丈夫ですか!」【源博雅】 「あぁ......俺は大丈夫だ。封印を破った時、力を使いすぎただけだ。」【晴明】 「それ以外に、何か異常を感じたか?」【源博雅】 「...うーん...しいて言えば......何だか自分の心が......空虚になった気がする。まぁ、でも大したことじゃない。感覚は徐々に元に戻ってきている。」【鈴彦姫】 「この記憶の持つ心火の力があまりに強かったみたい......考えが甘かったわ、ごめんなさいね。」【源博雅】 「気にするな。もう元に戻ってきているし、ある意味心が洗われたみたいな感じだぜ!」【縁結神】 「話しを元に戻すけど、あの記憶の結末を私たちはまだ見ていないですよね!今はあの結果が気になって仕方ないです!」【白蔵主】 「そうですね!小白も結果が気になります!」【鈴彦姫】 「あぁ、あの願いのことなら、もちろん手に入れたわよ。」【縁結神】 「.........そうなんですか?」【白蔵主】 「.........そうなんですか?......じゃあ本当に山を降りるのが願いだったんですか、鈴彦姫様!」【鈴彦姫】 「もちろんよ、それ以外に何を望むのよ?」【縁結神】 「......そんな、全く以て意外な答えでしたね。」【鈴彦姫】 「こんなの些細なことよ。でも、この記憶の中でずっと私を困惑させている原因を見つけたわ。」【晴明】 「それは、あなたと大司祭の矛盾が結局どこにあるかということですか?」【鈴彦姫】 「そう、そのことよ。大司祭は、私に聖女たる資格がないことを悟っていたはず。忍耐力もなく、手に負えなくて、何度諭しても改めない。でも...よく思い返してみると、私はあまり後悔はしていないわ。彼に説教されればされるほど、話を聞く気が失せるんですもの。」【白蔵主】 「...何度諭しても改めない、の意味が分かる良い例ですね、鈴彦姫様。」【鈴彦姫】 「結局、聖女などという存在に大した意味なんてなかったのよ。聖女は一族の心の拠り所と言われてたけど、実はみんなが神棚に並べる供物みたいなものなのよ。それに何の意味があるのかしら?それに比べて、大司祭が私の反逆で怒る様子はより面白く映るわね。」【縁結神】 「......なぜだかよくわかりませんが、あなたが時々わざとやってるように思えます!でも、きっと私が考えるほど簡単なことではないのでしょうね。あなたのこの記憶を封印するなんてやりすぎだとは思いますが、彼のやり方とはかけ離れていませんか?」【鈴彦姫】 「………………それは確かに、一理あるわね。」【晴明】 「記憶が完全に戻ったわけではないのです。結論づけるのは尚早ですよ。この幻境に入る前、短い間とはいえ、私たちは雪域で雪山一族と交流しました。大司祭が聖女様をどう思っていようが、雪山一族によれば、あなたが彼らの愛する聖女であることは揺るぎのない事実です。信仰し奉ることは、人々が適当にできるような事ではありませんから......ですから、今の我々の理由付けはあまりに浅はかすぎると思うのです。きっとその背景には...もっと重要な秘密があるのでしょう。あなたの記憶の中に隠されていて、私たちが見逃している何かが...それは一体何なのか......」【鈴彦姫】 「山の下の…皆さんの信仰かしら?山の下の状況は私の記憶から抜け落ちているわ。どうやら失った記憶の中にその記憶がありそうね。次の記憶の封印を解けば、分かりそうね!」【晴明】 「はい、ですから我々はこのまま前に進みましょう。博雅、君はもう大丈夫か?」【源博雅】 「......冗談言うなよ、晴明!俺を見くびるなよ、問題なんて一つもないぜ!」【白蔵主】 「自分の感情をついさっき空っぽにされたのに、博雅様は何にも問題がないだけでなく、むしろ元気になってますね!」【鈴彦姫】 「感情とは心から来るものよ。心が無事なら、いくらでも感情は生み出されるわ。記憶を失って、私の心は完全に無事とは言えなくなったから、ずっと困惑から抜け出せないのかもね。」【白蔵主】 「本当に心さえあればこうなるのですか?」【鈴彦姫】 「絶対とは言い切れないかもね。人間の心はとても複雑で、多くの感情が入り乱れていて、その感情は決して純粋とは言えないわ。強い心を持つ人だけが、強く、究極な感情を持つことができるの。」【白蔵主】 「じゃ、じゃあ妖怪はどうなんですか?」【鈴彦姫】 「妖怪に関して言えば......ほとんどの妖魔は極端な感情と欲望から生まれるわ。強大な力を持つ種は、それだけ欲望も大きくなるわね。色々、容易に感情に操られることがあるわ。要するに、あなたたちのように強い心を持った人間には、あまり会ったことがないわ。あなたたちが現れなかったら、私の封印もきっと解けなかったでしょうね。ここで外部の人間と会うことなんてないだろうし、会ったとしても、その人間たちが全員出来ることではないわ。」【晴明】 「(封印を解くのが私たちであったのは......必然なのか?しかし、私たちがここに辿り着いたのも、何とも言えない外圧によってそうなったように思える。うーん......とにかく、一部の真実は、私たちのすぐ近くにありそうだ。)」【鈴彦姫】 「皆さんが問題無さそうなら、すぐに次の封印場所へ行きましょう!」【白蔵主】 「セイメイ様!博雅様!早く来てください!」【縁結神】 「あら!雪域の氷が一部解けていますね。」【源博雅】 「封印が全て溶ければ、この雪域にも春が来るかもな!」【晴明】 「脱出できる時も近づいてきているようですね。」【源博雅】 「よし、このまま前に進むぞ!」雪域の中... 再び大地が突然揺れ始めた。【神楽】 「きゃあ!」【八百比丘尼】 「神楽!」【燼天玉藻前】 「また揺れを感じたの?」【神楽】 「......は、はい。先ほど、またあの霊力の振動を感じました。しかもこれは......前回よりも明瞭なものでした。神宮の下から外へと拡散する霊力の流れる方向をはっきりと感じました。」【八百比丘尼】 「神宮?まさか晴明さんたちが......」【神楽】 「ですが、兄たちの気配は感じられませんでした。それと......拡散した霊力はどうやら、既に雪域の近くにまで広がっているようです......あの結界は……」村は再び混乱した人々の足音で騒々しくなり始めた。今回は山の家の中でも明瞭に異常な音を聞くことができた。【雪山一族】 「は...早く逃げないと!!!「雪幕」がまた収縮を始めたぞ!皆急いで逃げるんだ!」【神楽】 「!!!」【八百比丘尼】 「どうやら事態は急を要するみたいですね!」【神楽】 「こんな非常事態に、人々を放っておくことなんてできません!」【燼天玉藻前】 「…………晴明と全く同じね。それじゃあ、村落の近くまで見に行きましょうか。」幻境の中…… 見慣れた吹雪が再び吹き、山の下の熱気によって消し去られた。人々は、山の下の栄えた市で身を寄せ合っている...【源博雅】 「あれ、ここって...」【晴明】 「山の下の雪山一族が暮らしている場所じゃないか。ものすごい祝賀の雰囲気が溢れているね。ここにも神宮の模様が飾られているんだから、きっととても重要な祝日なのだろう。」【縁結神】 「雪山一族は五山祭りの前に十五日の祝典を開いて、盛大な儀式を行い一族の新生を祝うんだそうです。ただ私は一度も間に合ったことがなく、幻境でようやく見ることができました!これほど栄えているなら、縁結びの神の私がお手伝いできることが沢山ありそうなのに!非常に残念です......」【源博雅】 「この市に入る前に、雪山一族が五山祭りの事を言うのを聞いたか?早くしないと、間に合わなくなるぞ。」【白蔵主】 「セイメイ様、小白が見たこともないお菓子が沢山ありますよ!急いで鈴彦姫様がここから離れる手はずをつけて、それから神楽様と一緒にお菓子を食べに来ましょう!」【源博雅】 「見ろ!あそこにいるぞ!」......「過去」【鈴彦姫】 「大司祭よ!これは何だ?おや?これも気になる!それとあれも!うーん、もういいわ。これ全部持ち帰るから、包んでちょうだい。ありがとう!」【雪山一族】 「おい!待て!金をもらってないぞ!」【鈴彦姫】 「ん?お金?何それ、私そんなもの知らないわ。」【雪山一族】 「......金ってのはな、物を買う時に必要なんだよ。」【鈴彦姫】 「要するに、物々交換でしょ。それじゃ...大司祭...私にこの...」【大祭司】 「…………………………」【雪山一族】 「————!!!」【女の子】 「————!!!」【雪山族青年】 「————!!!」【雪山一族】 「大、大司祭様?ってことは、こちらは聖女様だ!あぁ、なんと!聖女様と大司祭様が私の店でお買い物を!お二人からお金など受取れません!お二人のおかげで、私たちは毎日生きることができているのですから!」【女の子】 「あなたが聖女様なの?わぁ...聖女様って、お母ちゃんが言ってた通り、美人で煌びやかね!聖女様!私に祝祷をしてください!」【鈴彦姫】 「...え?祝祷って何を?」【女の子】 「うーん...えっと...その、私の願いが叶うように!」【雪山一族】 「花ちゃん!聖女様の前でそんなこと言うのは止めなさい!」【鈴彦姫】 「あはは、気にしないで。あなたの願いって何かしら?」【女の子】 「...うーん...あ、あたし、すぐには思いつかないわ!」【鈴彦姫】 「それじゃあ、今凄くやりたくて、まだ出来ていないことはある?」【女の子】 「あたし、この花火に火を灯したい!」【鈴彦姫】 「それなら、手伝ってあげるわ!」鈴彦姫の指先が輝き、花火に火が灯された。」【女の子】 「ありがとう、聖女様!!!」【雪山族青年】 「聖女様!こんなところで聖女様にお目にかかれるなんて!私たちの村落には聖女様に願いをかけ、聖女様の氷像を作って以降、村の皆がかつてない温もりを感じられるようになったのです!さらに農作物の収穫量も増えました!」【雪山一族】 「全くもってその通りです。聖女様のお恵みを我々は胸に刻んで生きております。」【雪山族老人】 「聖...聖女様...本当にありがとうございます、聖女様。わしが雪原で狼を狩っていた時、わしの子を救ってくださった...聖女様のお力が無ければ、わしは息子に二度と会うことはできなかったでしょう...」【鈴彦姫】 「あぁ...それはあんまり覚えていないわ。大したことじゃなかったし。鈴彦姫は人々の熱烈な歓迎に、少し気圧されたが、瞳の中に輝く炎は、徐々に勢いを増していった。」【女の子】 「焚火がもうすぐ始まるよ!聖女様も一緒に来て!」【雪山族青年】 「ははは、俺も焚火の舞を踊るのが得意なんだ。是非聖女様に披露させてくれ!」【雪山一族】 「ははは、みんなで聖女様に、誰が一番上手いかを見てもらおう!」鈴彦姫は村人たちと共に村の中心まで歩いていた。人混みの中でも、彼女の存在は一目で分かるほど目立っていた。焚き火と共に燃え上がる炎を鈴彦姫が空中で操り、火龍となって天に昇り、空を照らした。…………封印から目覚める。【白蔵主】 「...鈴彦姫様は、雪山一族の人たちから本当に愛されていたんですね。小白には全く想像もできませんでした。」【晴明】 「彼女は炎から生まれ、神宮の中でも厳格に育てられたのだけど、本当はとても純粋なんだよ。当然と言えば当然だけどね。鈴彦姫様が大司祭との間にある矛盾は、彼女が「聖女」と呼ばれる職業に相応しいかということに起因しているんだ。しかし今改めて見ると...必ずしもそうではなさそうだ。」【鈴彦姫】 「………………」【縁結神】 「なんだか鈴彦姫は、目が覚めていないような気がするのですが?」【鈴彦姫】 「いや...そんなことはないわ。ただ...この記憶はまるで夢みたいだったから。本来、聖女であるというのはこういう感覚なのかしら?」【白蔵主】 「鈴彦姫様はとても楽しんでいるようにに見えますよ。」【鈴彦姫】 「えぇ、楽しかったわ...山の下の生活を、聖女として私が支える人間の世界を知る事が出来たわ。」【源博雅】 「お前の炎が......」【鈴彦姫】 「あら、うっかり制御を忘れていたわ。ごめんなさいね。自分の炎を制御できなくなるなんていつ以来かしら。でも、私はこのように燃え盛る炎が好きだったわ。」【晴明】 「どうやら、あなたの心境に何らかの変化が起きたようですね。」【鈴彦姫】 「ええ、このような人間の世界であれば、慎み深い聖女として生きるのも良いかもと思ったわ。」【源博雅】 「でもそうすると、あの大司祭の目的が尚更謎だな。」【鈴彦姫】 「その問いの答えは、もはやそれほど重要ではないのかもしれないわ。ともかく彼自身に問いただせば、答えが分かるはずよ。私たちはもうすぐ終点に辿り着くような気がしているわ。」その時、突然遠くから鈴の音が響き渡り、見覚えのある封印魔法陣が彼らの後ろから浮かび上がった。【白蔵主】 「えっ...!?どうしてまたいきなり魔法陣が?鈴彦姫様...!!!」【鈴彦姫】 「わ...私では...ない...」光が声と共に彼らを飲み込んだ。…………幻境の中のある場所にて...細かく砕けた鎖の音が、持ち主の歩みに合わせて雪原の上に響く。彼の後ろには、霊力の欠片と化した雪原狼が無数に存在していた。【鬼童丸】 「ほう、あっちの方へ行ったのか。旧友の他に一人...奇妙な獲物が混ざっているな。」幻境の中……【白蔵主】 「ここはどこですか!鈴彦姫様!」【源博雅】 「ここの風は...どうやら標高の高い場所にいるようだな。晴明!山の下を見ろ、俺たちは神宮の上にいるみたいだぞ。」【晴明】 「あぁ、ここはまだ神山の上、しかも山頂に通ずる山道のようだ。」【源博雅】 「でも俺たちはまだ記憶の中に入っていないぞ。鈴彦姫もどこにいるか分からねぇっていうし...」「運命の聖女、神は聖火を下し全ての幸せと、雪域の安寧を願う」【白蔵主】 「この声は一体どこから?!」【縁結神】 「なんだか聞き覚えのある声ですね。まるで何かの祭りの祝詞のような。何処かで聞いた気がするんですけど、何処だったかな......」【晴明】 「博雅、心鈴がまだ振動しているぞ。」【源博雅】 「!!!上の方を指しているみたいだぞ!上に何があるんだ?」【縁結神】 「なんだか長い間棄てられていた祭壇みたいですね...まだ...あれ!?思い出しました、この祝詞の事!これって、雪山一族が祭りの時に歌っていたものと同じです!」【白蔵主】 「ってことは、上では祭りが開かれてるはずですね!急いで見に行きましょう!」白蔵主と縁結神は前方に向かって走り出し、晴明は何か考えるところがあるようで、その場で立ち尽くし山の上を見つめていた。【晴明】 「(さっきの心鈴の雰囲気が以前と違ったような気がする。何故だか分からないがこの雰囲気には...なんだか覚えがあるぞ。まるで...全てが始まったあの時、博雅が寒魄を持って帰って来た時のような感覚が...ん?これは?)」晴明は眉間に霊直を集中させ、自らの意識の奥深くに見覚えのある火炎を見つけた。晴明がその火炎を消すと、脳の中で抑圧されていた記憶の奥深くの何かが溢れだして来た。【晴明】 「………………」【源博雅】 「どうした、晴明?」【晴明】 「...雪域に入って以降、ぼんやりと抱えていた疑念をようやく思い出したんだ。あれだけ記憶の中には手がかりが散らばっていたのに、このとても重要な事には気づくことはなかった。やはり...私の意識の中に火炎が見つかったんだ。これはつまり、最初に都で見つけたあの手札の結界に残っていたものだ。火炎......これは雪山一族の伝説を思い出さずにはいられない。雪山一族は天鈿女命の祝祷により千年も続き、神器も神火も賜ったのだ。鈴彦姫の記憶の中で、大司祭はこのように言っていた。「神宮は天鈿女命に仕えるために存在し、聖女は雪山一族にとって、天鈿女命の化身なのだ」と…あの時は深く考えていなかったが、今思うと、不自然に感じる。神宮とはこのように神を奉る場所だ。神に対する言葉遣いも自然に厳格になるだろう。神官も過ちを犯すことはあるだろうが、なぜ厳格な大司祭はこんな間違いを犯したのだろう?聖女は神の化身であり、人界に現れたのは世界を守るためだ...これほど支持されている神が、人々をここから離れさせるだけの力を持っていなかった。神の力を失った、神賜の地とは...雪山一族の伝説と関連付けると、一つの推測が生まれたんだ。」【源博雅】 「ってことは...」【晴明】 「しかし、黒幕の正体はまだ確定はしていない。かなりの紆余曲折を経て、私たちはようやくここに辿り着き鈴彦姫の封印を解いた。もし私の推測が正しければ、あの突然現れた封印は、あの人の仕業だ。そろそろ姿を現したらどうだ、雪山一族の大司祭よ。」 |
雪祭鈴跡・陸
雪祭鈴跡・陸 |
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騒々しい吹雪の音が聞こえてきて、周囲の音は死んだように静寂になった。彼らは自分自身が雪山の祭壇に続く階段の上にいることに気づいた。彼らの目の前では、鈴彦姫が既に階段の行き止まりに辿り着いていた。山頂の祭壇の上には、ある人物が彼らの到着を待ち構えていた。【大祭司】 「思ったより早かったな。」【鈴彦姫】 「...大司祭?」大司祭が手を掲げ、空に指先を向けると、山の中腹の神宮にある鈴が一斉に割れ始めた。空に鳴り響く鈴の音と共に、彼女が幻境で未だに見ていない記憶が鈴彦姫の脳内に流れ込んできた。【鈴彦姫】 「うっ......ゴホッ。祈神舞......五山祭り...そして永遠の氷.....これが...私の本当の記憶......………………」吹雪の夜、空を覆いつくした大火が鈴彦姫の目に再び浮かび、久しく失われていた百年の記憶が徐々に戻ってきた。【鈴彦姫】 「これが私をここに封印した理由だったのか、大司祭…結局...ははは。この答えはかなり前から既に明らかだったのね。」【大祭司】 「......分かっているなら、多くを語る必要などない。」【源博雅】 「お前は...このクソ野郎!お前がここにいるってことは、俺たちはもうあの幻境から抜け出せたってことか?」【白蔵主】 「鈴彦姫様は力がある程度戻ればここから抜け出せる、と最初に言っていました。でも、小白はまだ幻境から抜け出せた感じが全然しません!」【晴明】 「いや違う。ここの霊力の流れは山の下とは異なっている。もしや...」【縁結神】 「…………」【白蔵主】 「こういう時に縁結神が何も言わないのはちょっと怖いですね。」【縁結神】 「うーん、何と言ったら...何だか毛が逆立つような...そんな感覚がします。こんなの今まで体験したことがありません...誰かがここに来るような感じが...」【鈴彦姫】 「大司祭、あなたには聞きたいことがたくさんある。でもその前に、私に何か言うことはないの?」【大祭司】 「愚問だ。」祭壇の中央に立つ大司祭は、冷淡な表情で鈴彦姫を見つめ、晴明たちの方に目を向けた。【大祭司】 「平安京から来た客人よ、君たちには感謝する。君たちがいなければ、彼女がここまで回復することは無かっただろう。だが君たちにできるのはここまでだ。君たちの目的は知っている。」【晴明】 「天鈿女命...雪山一族の伝説に関して、お前はまだ何かを隠しているだろう。」【大祭司】 「千年前の神原の動乱の時、人間界の災厄はここまで波及した。」【晴明】 「...そして、神が降臨し、ここを守ったのだろう?」【大祭司】 「降臨したのではない、墜落してきたのだ。」【晴明】 「やはりそうだったのか......神が墜ちてきたことで、神力は雪域に散らばり、この地の人々と大地の中に溶け込んだ。だから私たちが道中感じたこの土地の純粋さは、目に見えない凝集した神光だったんだ。それから、雪山一族はこの地に数千年も閉じ込められているのに、「雪幕」が神によって取り除かれることはなかった。つまり、これは神による庇護の力ではないことを示している。私は、「雪幕」は無数の妖力の乱流と、この地の吹雪と相まって生まれた物だと推測する。神原の動乱、天鈿女命の墜落、これはあまりに出来過ぎた偶然だ。では妖力の乱流の原因は何か、天鈿女命はどうして墜落してきたのか...神をも撃破するほどの力を持つ者とは誰なのか?」【大祭司】 「お前はその答えを知っているだろう。」【晴明】 「ヤマタノオロチだ。つまり、ヤマタノオロチが高天原で動乱を起こした結果、天鈿女命がそこから抜け出すことに繋がった。それだけだろうか?」【大祭司】 「…………君たちにはかなり助けられたから、少し話してやってもよい。千年前に人間界に落ちてきたのは、なにも天鈿女命だけではない。...邪神を封じ込めた神器、六本ある天羽羽斬の内の一本もその中に含まれる。」【白蔵主】 「えっ?ここにそんな神器が...」【晴明】 「天羽羽斬......」【鈴彦姫】 「私たちの話はまだ終わっていないわ、大司祭。」【大祭司】 「私は別に構わないが、君たちはもう時間がないのではないか。」【鈴彦姫】 「...!?」大司祭が山の下に向かって手を振りかざした。極めて強大な力が、山の麓へと広がり、その振動は山頂にまで伝わってきて、麓の衝撃がどれほどの威力かを感じるには十分であった。【白蔵主】 「「雪幕」が、外の「雪幕」がすごい勢いで収縮しています!!あの凍るような寒さを強く感じます!」【源博雅】 「なんだと...くそっ!神楽!!!」【晴明】 「一体お前は何がしたいんだ?」【大祭司】 「数年前のあの五山祭りで出来なかったことを、今こそ実現するのだよ。」誰もが気づかぬうちに、霜が彼らの足元から立ち込め、彼らの身体を包み込んだ。それに気づいたときには既に動くことできなかった。【白蔵主】 「うわっ、動けないです...全く動けません。小白はずっと辺りを警戒していたのに!全然気づけませんでした!」【縁結神】 「クシュン...まったく、何も言わずに攻撃するなんて、まずは話し合いましょうよ...やああ!」【源博雅】 「くそっ!急いで神楽の下に向かわねぇと!」鈴彦姫を中心に外側へと火炎が広がり、彼らの身体の氷を溶かした。大司祭はそれを既に見越していたようで、気にもかけずに山の下を眺めていた。」【鈴彦姫】 「...お前はまさか......」【大祭司】 「今のお前の力では最後の心火を「燃やす」には足りないようだな。お前が今までに取り戻した全ての力を、感情と共に引火させるのだ。かなり昔に、無関係な人間に感情を動かされるな、と言ったことがあるな。」【鈴彦姫】 「私もかなり昔にこう言ったわ...私を縛れるのは、私だけってね!」【大祭司】 「…………」その瞬間、鈴彦姫は大司祭の顔に笑みが浮かんだのを見た。鈴彦姫はその表情に見覚えがあったが、彼のその表情には違和感があった。火炎が空に浮かんだ氷を渡河し、蒸発した水蒸気が四方に広がり、再び氷となって人々の身体を覆った。博雅と小白は、大司祭の行動を止めようと向かって行ったが、再び身体を凍らされ、自由に動くことができなかった。【大祭司】 「お前たちは私の作り出した幻境から抜け出せたとでも思ったか?」【源博雅】 「俺たちはまだ幻境にいるのか?それじゃあの山の下は...」【晴明】 「鈴彦姫が力を取り戻すにつれ、この幻境は絶えず現実と融合しているんだろう。おそらく....ここが最後の一つだ。」【源博雅】 「縮み続ける「雪幕」はやっぱり本当だったのか!くそっ!幻境にいる限りこいつの思い通りにしかならないのか!?」晴明達は未だに骨身に染みる極寒の寒さによって動くことは出来ず、心の底の感情は体温と共に失われ、目の前の世界は青白く朦朧としてきた。ただ鈴彦姫だけが神楽鈴を持って立ち上がり、ふらふらと大司祭に近づいて行った。山の下の吹雪の音がどんどん大きくなり、吹きすさぶ風の中から泣いているような声が遠くから鈴彦姫の耳に入って来た。」【鈴彦姫】 「私は...お前が理解できない。お前を認めることなどできない。」【大祭司】 「......そんなこと、さほど重要ではない。なぜなら...最後の一つが...既に揃ったのだから...」【鈴彦姫】 「!!!!!」彼らの身体を束縛していた圧迫感が消え去り、喜怒哀楽の感情が戻って来た。周囲は既に氷の世界ではなくなり、全てがはっきりと見えるようになった。全員が寒さの中起きあがり、信じられない光景を目にした。...鋭い鎖が、大司祭の胸を貫いていたのだ。【鬼童丸】 「ここはとても賑やかだな、わざわざ私の登場を待っていたのかい?」鎖が強く引き締まり、大司祭の身体はそれによって飛ばされた。その瞬間、鈴彦姫の目には2つの色、雪の白色と血の赤色だけが映った。赤と白に彩られた世界で、鈴彦姫は大司祭がまた違和感のある笑みを浮かべているのを目にした。 「雪幕」が急速に収縮する中、神楽、八百比丘尼、玉藻前は村落の外にいた。暴走した霊力が千年の霜を巻き込み、雪山一族の村落に襲い掛かった。これまでも「雪幕」の波動が複数発生したことが幸いし、人々はあまり遠くに出ておらず、死傷者は出なかった。【山】 「おーい...皆様!大丈夫ですか!」【神楽】 「さっきのあの強烈な振動...一体何が起きたのでしょう?」【山】 「「雪幕」が中心に向かって収縮を始めたのです!何が起きたのかは分かりませんが、このままでは...長く経たぬうちに、ここは全て雪幕に飲み込まれてしまいます!私たち一族は、本当にここで終わる運命だったのでしょうか...」【八百比丘尼】 「村の皆は安全な場所に避難しているのですか?」【山】 「はい。村落の半分近くは既に飲み込まれ、ここも既に危険です。皆さんが吹雪に巻き込まれていないかと、探しに来たのです。しかし老人たちの中には、これが神の罰だ、と言い離れない者もいました...その人たちは若者が強制的に連れて行きました。」【燼天玉藻前】 「「神の罰」って?ふむ...」【神楽】 「八百比丘尼、玉藻前、私たちも急ぎましょう。」【山】 「あぁ...いつかは私たちの足元のこの土地が吹雪に飲み込まれることを想像はしていました。でもそれがこれほど早く来るなんて。本当にこの日が来てしまったのですね。全く現実味がありません……私たちの一族は本当にここで...」【神楽】 「山...諦めちゃ駄目よ。晴明達が解決の道を探してくれるに決まってるんだから!それまでは...何ができるか分からないけど、全力であなたたちを手助けするわ!」【八百比丘尼】 「私も...もちろん手伝います。玉藻前様がどうするか、私にはわかりませんが。」【燼天玉藻前】 「こういう時こそ、占い師が明確な答えを出す時じゃないの?」【八百比丘尼】 「ここの空は吹雪で覆われていて、太陽と星が見えませんわ。そもそも玉藻前様は運命の存在を信じていらっしゃらないでしょう?」【燼天玉藻前】 「あはは、確かにそうね。」極寒の寒さが村落の中央へと広がり、人々は身を寄せ合い、天現峰の山頂に向かって跪いて、祈り続けた。吹き止まぬ吹雪が徐々に近づき、極度の寒さは人々の心拍数を減らしていった。まるで命が吹き荒ぶ吹雪によって凍り付いてしまったかのように。【女の子】 「お母さん...ううぅ...寒いよ、お母さん...神様は私たちに罰を与えているの?怖いよ...お母さん...」吹雪の音が突然鳴りやみ、女の子の目が色のない吹雪で焼かれてしまわれないように、誰かの手で覆われた。「怖かったら目を閉じていてね」と、温かい声が耳元に響いた。彼女の目を覆う手が離れると、女の子は恐る恐る目を開いた...すると、天を覆うほどの狐火が吹雪を食い止めていた。【燼天玉藻前】 「なんと面白い。一体どんな神様が彼らに罰を与えようとしているのか、興味があるわね。」狐火の光の中に、女の子は吹雪に向かって立つ一つの影を目にした。その人物が手に持った扇子を振ると、目の前の天地を飲み込むほどの吹雪が、そよ風のように扱われているようであった。【八百比丘尼】 「玉藻前様がわざわざ彼らを守るだなんて意外ですわ。目の前のこの風景を見て、何かを思い出されたのかしら?」【燼天玉藻前】 「「守る」?なぜ私が無関係の人間を守らなければいけないの?」【八百比丘尼】 「それじゃあれは……?」【燼天玉藻前】 「私はただ、事の結末を見たいだけよ。人間とは、本当に脆弱にして哀れな存在ね。」玉藻前は女の子に近づくと、その髪を軽くなで、女の子の後ろで地に跪き、神に祈っている村民たちの方を向いた。【燼天玉藻前】 「火炎、吹雪、極寒の寒さ...どれも彼らを殺すのには十分だ。それでも彼らは何度も生き延びた。哀れで、情けなく、憎たらしい人間。この上なく脆弱であるからこそ、自らの全てを神に委ねる選択をした...何世代にもわたってここに住んでいる人々には、それを選択する権利さえない。だから私は...もし可能なら、彼らに神を排除する能力を与え、彼ら自身の目で「神の罰」がもたらすものを直視させたいの。占い師、あなたはどう思う?」【八百比丘尼】 「吹雪が空を遮っています。この大雪が終わるまで、誰も結果を知ることはできないでしょう。うふふ。でも私の長年の占い経験があれば、簡単な予測ぐらいはできますわ。」【燼天玉藻前】 「ほう?」【八百比丘尼】 「吹雪がようやく終わったようですね。」【鈴彦姫】 「大司祭...!!!お、お前...何をしている!!!!?」【鬼童丸】 「何をしているか?下らない質問だね。見ての通り、こいつの命を奪っているのさ。旧友との久々の再会だ。元気づけてやらないとね?」【晴明】 「......鬼童丸」【鬼童丸】 「久しぶりだね、我が弟分よ。あ、それと君...」【縁結神】 「…………ど...どうしてあなたがここに?!!」【鬼童丸】 「神様である君が、鬼域まで獲物を連れてきたの?この吹雪を超える為に、僕は結構な力を使ったんだよ。」【白蔵主】 「獲物......まさか玉藻前様?お前は玉藻前様の妖気に釣られてここに来たのか!?」【縁結神】 「...油断していました。」【鬼童丸】 「吹雪によって支えられた幻境など面白くない。周囲に置いてある鈴もうるさすぎるから、全部壊してやるよ。術者はなかなか良い仕事をしてるね。妖怪の頭蓋骨よりもあの鈴の方が丈夫そうだ。」【源博雅】 「この変態が!!!」【鬼童丸】 「そんなに褒めないでよ。元々幻境の持ち主は面白い獲物だと思っていたんだ。でももう先が見えてつまらなくなったから、始末した方が早いと...」火炎が鬼童丸に襲い掛かり、空中に浮かぶ鎖によってかき消された。火炎の先には、鈴彦姫が神楽鈴を持ち、怒りの形相で鬼童丸を見つめていた。【鈴彦姫】 「こいつ...」【鬼童丸】 「僕は君たちを「救った」ともいえるのに、全く「親切」な歓迎だな。」山頂の祭壇全てを覆うような強烈な殺意が発せられた。鬼童丸は地上に倒れている大司祭の胸から鎖を取ると、纏わりついた赤い血を振るい落とした。【大祭司】 「......ゲホッゲホッ。」【鬼童丸】 「暴れない獲物は珍しいな。君は僕の攻撃に既に気づいていたんだろう。」【鈴彦姫】 「何?」【大祭司】 「ゲホゲホッ...お前は...確かに意外な来客であったが、しかし...」【鈴彦姫】 「これ以上喋らないで。」【鬼童丸】 「何て感動的な場面だ。」【縁結神】 「…………」博雅達は阻止しようとしたが、鈴彦姫は鈴刀を振り上げると突然炎の渦が出現し、彼らを引き離した。【源博雅】 「お前一人では...!!!」【鈴彦姫】 「博雅様、道中は本当にお世話になったわね。でもここからは...あなたたちには関係ないわ。本当の事を言うと、今回の出来事は...全く訳が分からないの。何もない幻境にいつの間にか長い間封印されて、ようやく目覚めて、幻境から抜け出すために大司祭を探して過去の清算をして、また滅茶苦茶な記憶を思い出すことになって。結局大司祭は瓢箪に何の薬を入れて売ろうとしていたのかも分からず、外の村落が危険な目に遭って...それに突然現れたこいつは一体何者なのかも分からない。でも...今までに起きたすべての面倒事は、私を...本当に怒らせたわ!」刀を逆手で握る鈴彦姫は、素早く振り返って容赦なく鬼童丸を目掛けて刀を振った。鬼童丸は動かなかった。頭を少しかしげてから、彼は素手で刀を受け止めた。そして手が切り裂かれたにも関わらず、そのまま地面に倒れた大司祭のほうに鎖を投げ捨てた。すると彼の予想通り、鎖に襲われることになっても、鈴彦姫は代わりに大司祭を守ることを選んだ。【鈴彦姫】 「……ちっ。」退屈と思ったのか、鬼童丸は傷ついた手を口に当てて、生臭い血を味わったあと、失望したような嘆きを漏らした。【鬼童丸】 「少しがっかりしたね。ねえっ…あそこの神様ってば、ぼーっとしないで、もっと面白い獲物を見繕ってくれないか?これは信者のお願いだよ。」【縁結神】 「え?どこにそんな…違う!け、喧嘩しないで!!ここは平和的に…(これ以上彼らに戦闘を続けさせてはだめじゃ、この周りはちょっと変じゃが…幻境、幻境はまだ存在しているのか?)」【鈴彦姫】 「なんだ、まさかこれで終わりじゃないよね?」鈴彦姫の手に血のような炎が動き出し、額の模様は次第に明らかになっていく。広がる火の粉は烈火と化し、鬼童丸に襲い掛かった。祭壇は一瞬にして赤く染められた。流れる炎と形を持った妖気が互いを滅ぼそうとしている。しかし烈火が徹底的に祭壇を呑み込む寸前、周囲は鈴の砕けた音が次々と響き出した。【鬼童丸】 「…うるさいね。」【源博雅】 「何の音だ?まさか外の「雪幕」が山まで侵食してきたのか!!!?」【晴明】 「いいえ、これは…幻境が壊れる音だ。」【大祭司】 「……もうすぐ終わりだ。」【鈴彦姫】 「私…この力はどういうことだ?」【白蔵主】 「何がどうなっていますか?小白には全然分かりませんよ、セイメイ様…」【晴明】 「私たちが幻境の中で鈴彦姫を助けた方法は、記憶による感情で彼女が再び心火を点すことに手伝うことだ。しかし今は……これは神が顕現した時ならではの力みたいだが。なぜ急に…まさか!」晴明は炎の中で不敵な笑みを湛える鬼童丸、そして相変わらず地面に倒れている大司祭に目を向けた。しかし彼が口を開く前に、彼らの足元には既に結界が浮かび上がった…それは彼らが初めて神宮に入った時の結界だった。【縁結神】 「しまった、外に送り込まれてしまうのじゃ!!!待てよ、われはまだ行っちゃだめなのじゃ…お主たちってば!どうして落ち着いて相談することができないんじゃ!!」最後の瞬間、縁結神は鈴彦姫のほうに一本の赤い糸を投げ捨てた。彼女が何かを言う前に、全員はもう結界の光の中に消えていった。山頂の祭壇は再び静けさを取り戻した。ただ風の音だけが聞こえる。血液が焼かれる痛みに耐えながら、鈴彦姫はゆっくりと起き上がる大司祭を見た。目の前の「大司祭」に、鈴彦姫は手を差し伸べた。空から聞こえる小気味よい鈴の音は誰もいない山頂で響き渡り、ここにも記憶が隠されることを暴いた。【鈴彦姫】 「…大司祭、昔ここで「あんた」に一つ質問したよね、もう一度聞かせてもらおう。「あんた」は……一体何者だ?」【大祭司】 「私は……」結界が消え、晴明達が目を開ける時、既に山にある神宮にいた。【白蔵主】 「私たちは…戻ってこられましたか?えええ?つまりさっきまではまだ幻境から脱出できてなかったのですか?鈴彦姫様は?あそこにとり残されましたか?」【晴明】 「私たちは幻境の主に追い出された…さっきの流れ出た神力のせいかな?」【白蔵主】 「幻境ってことは、さっき出会った鬼童丸もきっと…えー!?本物ですか!」【鬼童丸】 「ふん?文句あるのか?戦闘が中途半端なところで終わってしまったせいで興ざめしてたが、都の大陰陽師晴明なら、相手になってあげてもいいぞ。さっきの人の状況を考えてみれば、あれほど大掛かりな幻境を作り出せるのは大したことだが、所詮そこまでのことだ。」【白蔵主】 「あああなた…セイメイ様に手を出すつもりだったら、先に小白を倒してみなさい!」【鬼童丸】 「まさか…僕は弟弟子の晴明をいじったりしないよ。」【源博雅】 「実は勝てないんだろう……」【縁結神】 「…………」【白蔵主】 「どうして縁結神様はずっと黙っているんですか?怖いんですけど…」【鬼童丸】 「どうした、また何か変なことを思いついたのか?」【縁結神】 「そんなこと一度もないんじゃが!われは…ただ分からなくなっただけじゃ。」【晴明】 「縁結神様、さっき急に現れた「神力」のことだが、どう思いますか?」【縁結神】 「えっと…その…うう…」【晴明】 「縁結神様が言ってた友達にはもう会えたのでしょう。あの方こそが…「性格が変わった」友達で、縁結神様が雪国で会いたいデカ氷でしょう。」【縁結神】 「………………」【白蔵主】 「えっ!縁結神様が言ってた会う勇気のない先生のことですか!もし小白がセイメイ様の言葉を誤解していなければ、あの悪役大司祭こそが……確かに会いたくないですね…小白は一瞬にして縁結神様の気持ちを理解できました。」【源博雅】 「道理で大司祭に関わることになると、いつも変な顔をしてたんだな。しかしなんで最初に言わなかったんだ?」【縁結神】 「………………えっへん…もし穴に落ちたあと、全ての元凶が自分の友達だと気付いたら、お主らは正直に打ち明けるのか?それに初対面の時、鈴彦姫は明らかにデカ氷に恨みがある様子じゃ。もし知られたら、八つ当たりされてもおかしくないぞ?」【白蔵主】 「えっと…その…確かにあまり言いたくないですね…でも、縁結神様はどうやって「お友達」と知り合ったのでしょう?」【縁結神】 「われわれは同じ高天原を後にした神同士じゃから、時に会いに来るのじゃ。」【白蔵主】 「……本当に縁結神様らしいですね。」【縁結神】 「彼のことじゃが…正真正銘の氷みたいじゃ。人が話しているのに振り向くと、もうどこかに消えてしまったのじゃ。話かけるとすぐうるさいと思って、どこかに隠れるのじゃ。そして授業の時だけは、意味の分からない御託を並べ続けるんじゃ。知識が少し多いからってそんなに偉く振る舞うものか!」【白蔵主】 「どうやら本当に物静かな人でしたね。」【縁結神】 「でも今起きていることは、われの知っていることとは少々違うようじゃ…幻境の世界で鈴彦姫が記憶を集めることに協力してた時、いつも何となく彼女から懐かしい気配を感じてしまうのじゃ。それだけじゃない…彼女の記憶の中のデカ氷は、われの知っているデカ氷とは…どこか違うみたいじゃが?もしかしてわれの知っている「デカ氷」の正体は………あくまでもわれの推測じゃ、単純に人々に接する時の態度が違うだけかもしれん!」【鈴彦姫】 「私は憶えている。大司祭はとっくに去った。では、あんたは一体何者だ?」【大祭司】 「………………あなたの言っている大司祭は、まごうことなく百年前に去ってしまった。私はあの人があなたのために残した、最初で最後の記憶。あなたの足りなかった、最後の心火。」 |
雪祭鈴跡・漆
雪祭鈴跡・漆 |
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北風はまだ吹いている。「雪幕」がまだ侵食していない山頂の祭壇で、鈴彦姫と目の前の「大司祭」は無言で対峙している。【鈴彦姫】 「私の…心火。しかしどうしてそんな姿で?私が眠っている間…あんたは、あんたはどうして…」【大祭司】 「百年前、五山大祭の時、聖女鈴彦姫は人を生贄にすることを拒み、神力を捨てて、自分をも燃やし尽くすことを選んだ。全ての感情を使い切った鈴彦姫には消える運命しかなかったはず。しかし、あの人はここに一筋の思念を残した…」手を伸ばした「大司祭」は、鈴彦姫の額を優しく撫でた。そのとき、額にある模様は輝きを放っている。鈴彦姫は額に手を差し伸べ、あそこに残っている百年前の暖かさを思い出そうとした。【大祭司】 「その思念はあなたの記憶に溶け込み、あなたの消えるはずの魂を助けたあと、幻境を作り出し、あなたとあなたの記憶を全て封印した。それから…あなたの見上げていた大司祭の姿に変化し、あの人のように振る舞った。魂が癒され、十分な力を蓄えたあと、あなたは必ず目覚めて、再び世を照らす神女として降臨する。」【鈴彦姫】 「………本当に…よく手の込んだ計画だ。しかし、大司祭…長い年月が経ったのに、どうしてまだそんなに重い期待を寄せてくれるのよ。」【大祭司】 「あれから、私は幻境を守りながら、ここの世話をしていた。しかし雪山の地下深くに眠る封印が弱ってしまったせいで、吹雪はここの全てを呑み込もうとし始めた。」【鈴彦姫】 「だから彼らを招き入れたのか?」【縁結神】 「…だから、晴明達がここに呼ばれることには、それなりの理由があるはずじゃ。もしかしたら早めに幻境の封印を解きたいかもしれんのじゃ、だって…」【晴明】 「…時間がないんだ。天羽羽斬…天羽羽斬の封印が弱まったのか?神器に封印されたはずのヤマタノオロチの妖気が拡散するせいで、村の外側の吹雪は内側を侵食し続け、神の加護はここを支えられなくなってしまった。」【縁結神】 「われは偶然にここに来ただけ…いや、われは毎年この時期に来るから、彼はこれも予想したはずじゃ。えっと、あれのことじゃが…(ちらっと鬼童丸を見た)」【鬼童丸】 「神様に何か教えでもあるのか?」【縁結神】 「教えって程でもないんじゃ!えへ、えへへ、ただの推測じゃが…デカ氷は冷たい人じゃ、おまけにここが益々生きづらい場所になっていく。こういう極端な環境下では極端な信仰が生まれやすいんじゃ。うむむ、われは違うぞ。信者にはいつも…いつも…ごほん。」【晴明】 「彼が燃料として欲しがっていた感情は、雪山一族から得るのか?襲われる前に「最後の一欠片が揃った」と言ったな…私たちが閉じ込められてた幻境を管理していることは、全員の動きを知っているはず…」【白蔵主】 「そして鬼童丸が行動する時は必ず隠れたりしません…」【鬼童丸】 「そうだね。僕は覗かれる感じが好きじゃないんだ。だから幻境にある鈴を全て壊し尽した。」【白蔵主】 「ある意味、私たちの行動を制限してた幻境が早く壊れたのは、鬼童丸のおかげ…でもありますか!?」【鬼童丸】 「僕が襲った時、彼は既に覚悟したんだ。自分の結末を見抜き、生きる期待すら持たない獲物をいたぶっても、全然面白くないね。なすがままの獲物より、命かけて足掻く獲物のほうが面白いに決まっているじゃないか?」【白蔵主】 「あはは…この問題について、小白は賛成してもいいですか?」【源博雅】 「お、俺には分からないんだ!つまり、あの大司祭は鬼童丸のことまで考えて計画を練ったのか?なんでだよ?」【晴明】 「感情…恐らくは感情のためだ。残虐な殺意、燃えたぎる怒り、そして…命がけの戦いの高揚感。これらをもって鈴彦姫の力を補充する。神女が世に再臨するために。」【縁結神】 「……彼女が神になると、まさか…しまった!!!!!」【白蔵主】 「!!!じゃ、じゃああの人達はどうなりますか…」【晴明】 「…それは、鈴彦姫の選択次第だ。」【鈴彦姫】 「もしあの人が急に現れていなければ、あんたはもう一度山の下の雪山一族を利用するのだろう?ただ私のために…私の失った感情、力を補うために……」【大祭司】 「失っていない、取り戻すだけだ。」【鈴彦姫】 「どうであれ、それはもう私のもんじゃないんだ。それで、私が大司祭の望む姿になることはもう避けられないか?」【大祭司】 「その通りだ。」頭を下げ、鈴彦姫は諦めたかのように苦笑いを見せた。【鈴彦姫】 「…これって本当に…でもこれで分かったんだ。私の最後の記憶は、あんたが保管しているよね。私に返しなさい。ちゃんと選択するの。でも…最後に一つだけ聞かせて。心火は例外なく燃料を欠けてはならない。では、あんたの燃料は一体なんだ?」【大祭司】 「………あなたの……執念。」何年前にも起きたことのように、烈火は瞬く間に山頂の祭壇で立ち昇り、白衣の青年を呑み込んだ。青年は融けた氷みたいに光となった。【鈴彦姫】 「…本当に予想外の答えだね。でも…あんたは私のことを一番知っているはずだ。私には、どうしても妥協できないことがあるのだ。あんたは私に心に従って選択するって、ならば私に選択できる道、どう考えてもこれしかないんだ。」地面に落ちた鈴刀を拾い、鈴彦姫は祭壇で立ち尽した。遠くにある村を眺め、絶え間なく近寄って来る全てを呑み込む吹雪に目を凝らした。【鈴彦姫】 「五山大祭から始まったし、ならば五山大祭で終わりを告げるべきだ。」空一面に広がる吹雪に向かって、鈴彦姫はゆっくりと鈴刀を掲げた。彼女が一歩を踏み出すたびに、手を振るたびに、鈴の音が響き、一つの記憶は炎となり変わって、彼女を囲んで回転し続ける。雪地の中で目を開けた時に見た面影、村の煙、こっそりと飲んだ酒、懐いてくる雪原の子狼…説教された時に言い返した言葉、無知の人々が神像に祈りを捧げる姿、大司祭の冷たい眼差し…呆然と大地を覆う氷で作られた人々と対面する時間…氷の融けた神山を照らす陽射し…【鈴彦姫】 「私の記憶、感情は、全部ここにある…こう考えれば、聖女としての鈴彦姫は、悪くない生涯を過ごした!これからはどうなるのか?神様か…?天は高そうだね、ああいう静かな場所はもうウンザリだ。絶対私に合わないんだから。でも…難しく考える必要はないね。最後になったら、雪は融け、雲は消え、風は止む…皆はここを出たり、雪原の外の世界に行ったり、鳥の囀りや虫の鳴き声を聞いたり…もう十分だ。」鈴彦姫から生まれる炎は彼女の舞と共に踊り出し、外へと、山の下まで広がっていく。炎の中心にいながら、彼女の体は徐々に冷え込んでいく…この全ての感情を失う気持ちを、彼女は既に一度体験した。これは二度目で最後なんだ。炎は雪原全体を燃やした。 山麓の村、燃え盛る狐火に阻まれる「雪幕」の侵食は遅くなっている。次第に恐怖の支配から脱出できた村人たちは守ってくれる玉藻前を神として崇め、絶え間なく祈りを捧げる。【八百比丘尼】 「玉藻前様、神様として崇められる気分はいかがですか?」【燼天玉藻前】 「…………人間はいつもこうなんだ。」彼が続きの言葉を口にする前に、火は山から広がってきた。怪しい狐火の役目を引き継いだ金色の炎は、熱い狐火と違い、もっと優しかった。「雪幕」は炎に追い出されていく。【雪山一族】 「ああ…神様の降臨だ。ようやく聖女様が助けてくれたんだ!!聖女様、ありがとうございます…聖女様、ありがとうございます…神様、どうか我が一族を守ってください。」【神楽】 「彼らは……」【八百比丘尼】 「この火は…雪山一族の聖女が灯した火でしょう。しかし火の燃料について…」【燼天玉藻前】 「…ふっ。」【八百比丘尼】 「こんなことになりましたけど、それでも玉藻前様は彼らに真実を教えるのですか?」【燼天玉藻前】 「彼らの罪は無知にあるが、根源はそこじゃない…」玉藻前が扇子を振ると、一筋の狐火は村の上空をよぎり、人々の注意を引いた。そして注目される中、玉藻前は扇子で火をすくって払い除ける。なんと、消えた火の中から記憶が飛んできた…それは聖女様が人知らずに雪原で狼を退治して、村の子供を助けた光景だった。記憶の中で響いてくる屈託のない笑い声は、荒ぶ風音と祈りの声の中で、やけに大きく聞こえる。【燼天玉藻前】 「これがあなたたちの聖女の記憶。山から広がる火が見えたか?彼女は炎の中心にいるかもしれない。あなたたちがすがろうとしている神様は、あなたたちを救うために、もうすぐ燃え尽きてしまう。いいえ、正確には…ずっと前から、彼女がこの地に現れる前から…神は既にあなたたちに一番大切なものを贈った。地上の信者がどう思うかに関わらず、太陽は必ず世界を照らす。あなたたちが何を崇めようとも、彼女から何を得たかとも関係ない…ただ今、彼女はもうすぐ消えてしまう。」沈黙、いつもの、麻痺している沈黙が続く。小さな嘆きをもらしたあと、玉藻前は天現峰を見上げ、吹雪を燃やし尽くした炎が消えていく光景を見届ける。突然、ある幼い声が沈黙を破った。【女の子】 「お母さん…お母さん!聖女様が消えるのは嫌だよ!長い耳のお兄ちゃん、どうすれば聖女様を助けられるの?…え、えっと、あたしが祈りを捧げればいいのか…その、こう祈ればいいのか…神様、痛みから解放されますように。」「我々を守りし優しい神様、痛みから解放されますように」 「我々のために燃え尽きてしまう神様、痛みから解放されますように」 「我々の体の中で流れる神様、痛みから解放されますように」 数多の祈りは沈黙を打ち破った。皆は山を燃やす炎に向かって、炎の中にいる神様が辛い思いをしないように、痛みから解放されるように、切なる祈りを捧げた。神が最初に信者たちに贈った心はついに灯され、山道を辿って広がっていく。【八百比丘尼】 「これがあなた様の見たい結末ですか、玉藻前様?」【燼天玉藻前】 「…悪くない。あとは、彼女次第…」鈴彦姫はまだ祭壇で踊り続けている。烈火は山を下り、吹雪を焼き尽くした。しかし彼女の周りの焔は次第に弱まり、消えていく。【鈴彦姫】 「はぁ…大司祭、今度は上手に踊れたでしょう?うん…ちょっと寒いね…それほど寒くないけど…でも…太陽はもうすぐ昇りそうね。」帳みたいな吹雪は完全に消え、天現峰に積もる雪に日差しが照り返す。【鈴彦姫】 「いよいよ…終わるね…」少し疲れた鈴彦姫は地面に座り込んだあと、目の前の世界は少しずつ暗くなっていく、恍惚の中、彼女には真っ赤な何かが見えた。手に取ってみると、それは少し破れていたが、大切に使っていた紙傘だった。【鈴彦姫】 「日差しが…ちょっとまぶしい、目がちょっと霞んでしまうぐらい…そろそろ休むべきね…」日差しから彼女を守っている傘は誰かに取られ、まぶしい日差しが降り注ぐと、鈴彦姫は思わず頭を見上げた。すると息を切らしながら、手を後ろに回している誰かの姿が目に映った。【縁結神】 「はぁーはぁー…ここの階段、本当に長いんじゃ!いつもこんな高い場所に住む人には、絶対に友達ができないんじゃ…仮にできても、絶対に遊びに来たくないんじゃ。」【鈴彦姫】 「あんたは…」【縁結神】 「こんにちは!はじめまして、われは通りすがりの名無しの神じゃ。たまたま拾い物をしたから、届けに来たのじゃ。」【鈴彦姫】 「拾い物?」【縁結神】 「これじゃ…お主の落し物か?」縁結神は後ろに隠していた物を鈴彦姫に見せた。鈴彦姫の霞んだ目にぼんやりと見えるのは、一本、また一本のまだ燃えている糸だった…それは彼女が一度炎で焼き切らした糸だ。」【鈴彦姫】 「…それは私のじゃない。」【大祭司】 「あなたを縛るものを知っているのか?これらの糸だ…雪山一族の煩悩だこれは彼らの足掻き、あなたのではない」【縁結神】 「彼らにつける糸じゃから、彼らのものなのか?じゃ、こうするとどうなるのじゃ?」縁結神は強引に鈴彦姫の手を引っ張り、糸を悉く鈴彦姫の手につけた。つけ方はむちゃくちゃだが、しっかり全ての糸が繋がった。【縁結神】 「これで…お主のものでもあるのじゃ。天鈿女命は世から消え、彼らの神様じゃなくなった。それでもお主は彼らの聖女様なのじゃ。だから、格好つけて、一人こっそりと犠牲になりなさんな!」【鈴彦姫】 「私は……」暖かい力は赤い糸を伝って鈴彦姫の体に入っていき、彼女の消えかけた魂を再び繋ぎ止めた。かつて彼女を縛っていたものは、最後の時に消えかけた彼女の魂を人の世に繋ぎ止めた。手首の絡んでいる赤い糸を見て、鈴彦姫は突然笑い出した。遠く、祭壇へ通じる階段には、多くの人が忙しなく山を登っていき、かつて聖女が踏破した階段に踏み入れた。彼らの聖女は、神の名を天地に返上し、ようやく落ち着いた雪山の聖女でいられることが叶った。雪原の雪は、ついに止んだ。」【縁結神】 「はー、また一件落着じゃ…何かを忘れた気がするけど…あっ!!しまった、大狐が!あの二人が対面すると、本当に喧嘩するかもしれない!ここはせっかく落ち着いたし、あの大悪党にここの平和を…」【鬼童丸】 「失礼だね、僕は敬虔な信者じゃないか。いつ大悪党になったのかね?」【縁結神】 「ひいいい…あはは、あの、どうしてまだここに…われの言葉を聞きなさい。平和が一番だよ。せっかくの新年だから、無闇に喧嘩しないで…それにさっき喧嘩したばかりじゃ、そもそも大狐はもう出て行ったから…」【鬼童丸】 「いいよ。」【縁結神】 「え?雪国の風の吹きまわしは変わったのか?」【鬼童丸】 「…君の手が。」【縁結神】 「えっ?なになに?手がどうしたのじゃ?あっ…えへへ、大丈夫じゃ。われは縁結神じゃ、糸のことに関しては専門なのじゃ!ちょっと神力が必要じゃが…うん、問題ないよ!」【白蔵主】 「セイメイ様、今度の旅は本当に色々ありましたね!正直に、小白は大抵の時何も分からなくて、最後になっても何も分かりませんでしたけど…」【源博雅】 「珍しく意見が合うんだな、犬っころ。」【白蔵主】 「何よ…あ、思い出しました!神楽様!小白の話を聞いてください!幻境の世界に送り込まれた時、博雅様はね…うむむ!」【源博雅】 「犬っころ、黙れ!」【神楽】 「お兄ちゃん、幻境の中で何かあったの?怪我はないの?」【源博雅】 「いや、あははは、違うんだ…」【燼天玉藻前】 「…………」【晴明】 「玉藻前、何があった?なんだか…上機嫌のようだけど?」【燼天玉藻前】 「ほお、分かるのか?」【晴明】 「私たちが山の中にいる時、外側の「雪幕」の侵食は誰かに止められたらしい、それは君じゃないのか?詳しい事情は知らないけど、彼らを助けたことに感謝する。」【燼天玉藻前】 「うふふ、私に彼らを助ける理由はないけど。彼らの選択が、私が助けてあげる理由をくれた。彼らは自分を助けた。そういやあなたのほうこそ、ここで何か価値のある情報を手に入れたか?」【晴明】 「ああ。天鈿女命が人の世に降り立った記録の中から、高天原の過去の動乱が窺える。そして…邪神を封印する神器の一つは、ここにある。」【燼天玉藻前】 「ほう?」【晴明】 「鈴彦姫は吹雪を払ったおかげで、ここの霊力妖力の流れが回復した。たぶんここに残っていたヤマタノオロチの妖力の影響を取り除けたはずだ。情報は相変わらず少ないけど、ようやく糸口を見つけた。これからの計画については…」騒いでいる博雅と小白、二人を宥める神楽、笑みを湛えてその光景を見ている八百比丘尼のほうに目を向ける。晴明も微笑みをこぼした。【晴明】 「とりあえず一休みしましょう。」【燼天玉藻前】 「良かろう。(しかし、雪国に足を踏み入れてから、いつも近くにいるあの神使の気配が感じられる…なぜ彼は姿を見せないか…)」天現峰の吹雪の中に、ある昔の思い出は消えていき、もう誰にも知られることはないかも。再び神宮を抜け出し、他の子と一緒に遊びに行きたい鈴彦姫は大司祭に連れられて神宮に戻っていく。最近、麓の村の子供の中には紐の飾り物が流行っている。細い赤色の糸で色んな模様を編み、手に付けたり、腰に付けたり、お守りにしたりする。大司祭について神宮に帰る途中でも、鈴彦姫はずっと糸の編み方に集中している。しかしいつまで経っても上達せず、すぐ飽きてしまった。周りをよく観察した後、彼女は意地悪して赤色の糸を大司祭の手首につけ、ぐるぐると絡ませてから、敢えてこま結びにした。大司祭は歩みを止めることなく、彼女に目もくれなかった、そのまま傘を差しながら歩み続けている。大司祭のあとに続く彼女は、揺れる結びを見つめる。 「大司祭、見て……雪が止んだ」 「あぁ」 |
雪の鈴音ストーリー
雪の鈴音①
雪の鈴音① |
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通りすがりの旅人よ……この雪野原は一見静かだが、予想もつかぬ危険が潜んでいる。うっかり踏み外したが最後、山々の隙間に落ちてしまうかもしれない。雪道が不慣れなら、吹雪の時はその場に留まることだ…… |
雪の鈴音②
雪の鈴音② |
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この天現峰で過ごした数十年の間に、いろんな旅人を見てきた。皆この店で酒を飲み、旅の疲れを癒した。そうだ、うちが造った酒は、聖女様も褒めてくれるぐらい美味いんだ。どうだ、少し試してみないか? |
雪の鈴音③
雪の鈴音③ |
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雪野原の風は骨にしみる。雪山一族の子供は、この風とともに育つ。その寒さを嫌がるどころか、氷雪に親しみすら感じている。長年この雪に覆われた高原に住まい、外界と接することはほとんどないが、その分自由気ままに生きてこられた。それに、天現峰には炎から生まれた聖女様がいる。彼女がこの真っ白な国に、特別な温かさをもたらしたんだ…… |
雪の鈴音④
雪の鈴音④ |
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私は真っ白な雪の大地が嫌いだ。寂しくて、どこまでも続いていて、見ていると虚しくなる。でも幸いなことに、聖火に触れてからは、あの温もりが私の心に留まっている気がする。天現峰の聖女様こそ、わが雪山一族の不滅の炎なのだ。 |
雪の鈴音⑤
雪の鈴音⑤ |
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雪山一族は歌が上手い。何せ、このだだっ広い雪野原はまるで自然の舞台のようだからな。あはは、冗談だよ。透き通る歌声よりも、聖女様の舞の方が好きだ。でも噂によれば、聖女様の神楽の舞は、あの神宮にいる冷たい大司祭から教えられたものらしい……あの大司祭は、一体どんな風に踊るのだろう? |
雪の鈴音⑥
雪の鈴音⑥ |
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この天現峰の麓では、俺の肉屋が一番人気がある。何故かといえば……へへ、それは以前、聖女様が山を降りてこられた時に、俺の店に来て、まな板を一枚燃やしたからだ。聖女様の祝福は、そうそう見られるものじゃない。あの黒焦げのまな板は、今でも家に置いてある。 |
雪の鈴音⑦
雪の鈴音⑦ |
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私たち雪山一族は寺なんか建てない。目の前の天現峰に聖女様がいるからね。何か祈りたいことがあれば、神宮に向かって拝めばいい。 |
雪の鈴音⑧
雪の鈴音⑧ |
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我々はこの地の材料を生かすのが得意でね。あそこの天に聳える彫像が見えるか?全部氷で造ったんだ。その中でも一番華やかで美しいのが、聖女様の御姿になぞらえたものだ。幸運を祈ってくれる聖女様だ、心から崇めなければ。 |
雪の鈴音⑨
雪の鈴音⑨ |
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君、他所から来たんだろう。なんて格好をしているんだ。早く中に入って、火で体を温めなさい。もうすぐ嵐が来る。早く家の中に入らないと、風と大雪に埋もれてしまうぞ。この間も、弓矢を背負った少年と妖狐が連れ立って歩いているのを見かけたが、結局どこに行ったのやら…… |
雪の鈴音⑩
雪の鈴音⑩ |
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一人で天現峰を登った私は、ようやく聖女様に会えた。母の言っていた通り、美しく上品な方で、それでいて、雪野原を燃やし尽くしてしまいそうな情熱がある。聖女様なら、きっと私の祈りに耳を傾け、私たちを守ってくださるでしょう。だけど、聖女様……母はどうして亡くなってしまったのでしょう…… |
五山奇談ストーリー
五山奇談・壱
五山奇談・壱 |
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【白蔵主】 「雪原の朝日は綺麗ですね。でも本当に寒い……です……」【源博雅】 「犬っころは毛むくじゃらのくせに、皆の中で一番寒さが苦手なのか。」【白蔵主】 「博雅様、その話はもうやめてください!あれを見てください、あの巨大な影は一体なんでしょう?」白蔵主は指さすほうに目を向けると、聳える氷像が源博雅の目に映った。【白蔵主】 「すごく大きな氷像ですね。」【雪山一族】 「これは聖女様が神火でお作りになった彫像です。我々の村に与えられた祝福そのものですよ。ここは寒いですが、神宮はいつも我々を守ってくださいます。時に冬を乗り越えるための薪を、時に新鮮な雪山羊の肉を分けてくれます。強いお酒も分けてくれました、聖女様のお気に入りのものだそうです。」【白蔵主】 「聖女様はお酒を飲んでもいいんですか?」【雪山一族】 「ははは、そこまでは知りません。酒屋が客を引き寄せるために、広めた噂かもしれませんね!」 |
五山奇談・弐
五山奇談・弐 |
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雪原のあるかまくら。【白蔵主】 「博雅様、この二つの画布の布切れ、合わせることができそうですね。」【源博雅】 「雪原に散らばっているもの……もう長い間保管されていたのかもしれない。そっと集めよう、何か秘密が分かるかもしれない。」【白蔵主】 「そうかもしれませんけど……雪原で丸一日歩いたせいで、小白はへとへとですし、お腹が空きましたよ。」【雪山一族】 「お待たせ。お客さん達の料理です、ごゆっくり。」【白蔵主】 「わあ……とても大きなお肉ですね。」【源博雅】 「犬っころ、もうちょっと礼儀正しくしろ。」【白蔵主】 「雪山一族は本当に手厚くもてなしてくれますね。こんなに大きなお肉が食べられて、小白は……とても……満足です!!」【雪山一族】 「寒い雪原では、普通の作物は育ちません。そのため、外でよく食べられるお米とか、お蕎麦なんかはなかなか手に入りません。我々はいつも生肉を食べています。」【源博雅】 「な……生肉?し……しかし生肉なんて、どうやって食べるんだ?」【雪山一族】 「たれと生肉を一緒に地下の氷室に入れて。数カ月経つと、お客さん達が今食べているお肉になりますよ。」【源博雅】 「……こ、これは……」【雪山一族】 「あはは、雪原の料理に慣れないご様子ですね。お客さん達はあまり見かけない服を着ていますね。遠くから来られたのでしょう?」【白蔵主】 「その通りです、小白と博雅様は暖かい都から来ました。」【雪山一族】 「ご心配なく、すぐにお肉を焼いてきます。」【白蔵主】 「博雅様にも嫌いな食べ物があるんですね。これ、すごく美味しいですけど?小白は理解しました、博雅様は生肉を食べる勇気を持たない男なんですね。」【源博雅】 「……お前みたいに何でも美味しく食べられると思うな。」そう言い放つと、源博雅は持っていた食器を置き、生肉を焼くのを手伝った。肉を美味しそうな匂いが雪原の風に乗って、遠くまで広がっていく。 |
五山奇談・参
五山奇談・参 |
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【雪山一族】 「お二人は見かけない顔ですね。長旅でさぞお疲れでしょう、もしよければうちで少し休んでいきませんか。お茶やお菓子もありますよ。」【八百比丘尼】 「言われてみれば、確かに疲れましたね。ここで少し休憩しませんか?」【神楽】 「いい提案だと思う。」八百比丘尼と神楽はかまくらの中に入った。【雪山一族】 「近頃雪原には、お客さんがたくさんいらっしゃいます。」【神楽】 「外はすごく寒いけど、かまくらの中は暖かい。ここは風も通さないし、静かで快適。」【雪山一族】 「お客さん、よく気づかれましたね。でもここは風を通さないわけではありません。聖女様のご加護があるんですよ。」【神楽】 「聖女様のご加護?」【雪山一族】 「はい。かつて雪山一族の司祭が、聖女様の焔をここに持ってきて、この場所はご加護を賜りました。その後、雪原の建物は全て、寒風から解放されました。雪から守ってくれる外の壁は、触れるととても暖かいですよ。」【八百比丘尼】 「そういうことでしたか……聖女様の炎は、意外と優しいものですね。」 |
五山奇談・肆
五山奇談・肆 |
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【白蔵主】 「まさか画布の布切れに三枚目が存在するなんて。小白が合わせてみます!」【源博雅】 「やっぱり何が描かれているのか分からないな。しかし雪山一族は皆質素な人達だ、絵が描けるとは思えない。高そうな画布だから、もしかすると天現峰の神宮のものかもしれない。犬っころ、何が描かれているか分かるか?」【白蔵主】 「こういうのは、小白もあんまり得意じゃありません……待ってください、博雅様は何も聞こえませんか?」白蔵主が言葉を言い終える前に、突然背後から何かが走ってくる音が聞こえた。【白蔵主】 「遠くから走ってくるのは……羊の群れじゃないでしょうか?わあ、羊がいっぱいです……真っ白な姿が、完全に雪原に溶け込んでいます。でも……こっちに向かってきてないですか?!」【源博雅】 「羊の群れの後ろに、誰かいるのか?」【白蔵主】 「博雅様、それはどういう意味ですか?」二人は高い場所に逃げた。羊の群れの後ろをよく観察すると、誰かが鞭で羊の群れを誘導している。【源博雅】 「なんとなく見覚えのある姿だが……」【白蔵主】 「小白は見ました、数匹の羊のしっぽに、火がついているのを……」 |
五山奇談・伍
五山奇談・伍 |
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【源博雅】 「大声を出すな。まったく、雪原の狼が来ちまった、どうやって逃げればいい?」【白蔵主】 「博雅様、こんな時に文句ばっかり言うのはやめてくださいよ!」白蔵主と源博雅は息を殺し、かまくらの中に隠れている。外では数匹の狼が目を光らせている。【白蔵主】 「博雅様、何してるんですか?」源博雅が矢で穴を掘っていると、すぐに裂け目が現れた。【源博雅】 「もちろん自力で脱出する方法を考えているんだ。」【白蔵主】 「自力で脱出?痛っ…!博雅様、どうして小白のしっぽの毛をむしるんですか!」【源博雅】 「狼に食われたくなかったら、黙ってろ。」いつの間にか不思議な紙人形を取り出した源博雅が呪文を唱えると、紙人形はすぐさま白蔵主の姿になって出ていった。雪原狼の首領はそれを見た途端、「白蔵主」のいる場所に向かって走り出した。【源博雅】 「今だ。」金色の破魔の矢が風を切り、狼の群れに向かって飛んでいった。突然現れた破魔の矢に気づき、危険だと察した狼の群れは空に向かって咆哮し、すぐにどこかに消えた。【白蔵主】 「はあ……助かりました。博雅様、一体いつこんなすごい幻術を身につけたのです?」【源博雅】 「はは……旅に出る前、いざという時のために紙人形をいくつか晴明からもらったんだ。いつ使えばいいのか困っていたが、今日ここで役に立ったな。しかし、雪原の狼は獰猛なうえに、群れで行動している。だが何者かの命令に従って動いているようにも見える……」 |
五山奇談・陸
五山奇談・陸 |
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【白蔵主】 「このかまくら……なんだか熱くないですか……小白は……息苦しいです……」【源博雅】 「しっ、雪原狼が本当にいなくなったかどうか、まだ分からないぞ。」【白蔵主】 「でも本当に、どんどん熱くなってきてます……」いつの間にか、二人のいるかまくらに湯気が立ち昇り始めた。【雪山一族】 「あれ、どうしてかまくらに穴が?誰かいるのか?」かまくらの扉が開かれ、まぶしい日差しが差し込む。二人とも思わず目を細めた。【雪山一族】 「あなた達は……ここで何を?ここはお風呂ですよ。」【源博雅】 「お……お風呂?」【雪山一族】 「ふふふ……異邦の方はご存じないようですね。」【源博雅】 「はあ?」二人がかまくらを出ると、水に濡れた髪は寒風に吹かれ、すぐに凍ってしまった。【源博雅】 「何だと?あそこは……あそこは……風呂なのか?」【雪山一族】 「雪原はとても寒いので、もし流れる水で身体を洗おうとすると、すぐに凍えて氷になってしまいます。ですから、私達は普段「湯気」を利用して身体を綺麗にするのです。」【源博雅】 「面白そうだな。」【雪山一族】 「あはは、お二人も一度試してみませんか?とても気持ちいいですよ!」【白蔵主】 「今は結構です……」 |
五山奇談・漆
五山奇談・漆 |
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【白蔵主】 「この旅で、画布の布切れをたくさん集めましたね。一つ、二つ、三つ……合計七つありますね。えっ?布切れを合わせたら……なんだか見覚えがあります。」【源博雅】 「これは……天現峰にいる聖女様だな。丁寧に描かれた絵だ。」【白蔵主】 「丁寧に描かれた絵が…どうして破られたのでしょう?」【源博雅】 「裏に隠れている真実は……聖女様に聞くしかないだろう。」【雪山一族】 「何を見てるんですか?」【源博雅】 「なんでもない、なんでもない。」【雪山一族】 「あれ?なぜ神宮の絵をお持ちなんですか?聖女様の絵を破るなんて、あまりにも不敬です!誰か!この二人は神宮や聖女様を侮辱する不届き者です!」【白蔵主】 「ええ?違います……」【源博雅】 「人が大勢やって来た!小白、逃げるぞ……」 |
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