【陰陽師】観山不見ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の観山不見イベントの見世雅劇ストーリー(シナリオ/エピソード)をまとめて紹介。見浮生と世離尋、雅聞楽のそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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見浮生ストーリー
桜吹雪
桜吹雪ストーリー |
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雪のように桜が舞い落ちる不見岳の桜の森では、まるで山の神が人々に約束したかのように、毎年決まった時期になると桜が満開になる。麓の百姓達は花見の日を家族や友人との団欒の日と位置づけており、それぞれの家族が桜餅や、思魂飲を二つずつ用意し、その半分を山の神に捧げる。山の神は喜んでそれを受け取る。山に住む霊獣を人混みの中に遣わせ、供物を咥えた霊獣は山の神の所へと戻る。 当初、桃の精は山岳の全貌を知らず、付近に有名な桜の名所があるということだけを知っており、よく桜の精を誘って一緒に花見をしていた。いつしかそれは、二人の間の約束事となった。今年は桜の精が、桃の精への秘密の贈り物として、手作りの桜餅と思魂飲を用意していた。 |
古木
古木ストーリー |
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そびえ立つ古代の木々が山脈のいたるところに根を下ろす不見岳に、於菊虫がやって来て、彼女が食べてしまった書物を修理するための紙を作るのに適した古木を、ようやく探し出した。 山神様は、表向きは気にしていないと言うが、於菊虫は彼が心の中ではそれらを非常に惜しんでいることに気づいていた。書物の内容はすべて彼女の魂に刻まれていて、消えることはないとはいえ、以前のように後世に伝えていくことができなくなってしまった。それゆえ、彼女は頭の中の記憶を頼りに、改めてこの珍しい書物の内容を書き出した。 於菊虫にとって最も意外であったのは、紙を作る作業がこれほど複雑で難しいということであった。彼女は今まで辛酸をなめた経験がなく、この体験の後「書物は全て厳格に保護されるべき」という考えが生まれたのだとか。山神様と書妖の気持ちを、彼女も理解できたようだ。 |
蔵書
蔵書ストーリー |
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山神様は普段「不見岳の異聞」関連の蔵書や、奇々怪々な雑学の書にしか感心を示さないが、今回書妖に頼んで持ってこさせたのは全て、邪神関連の記載がある書物だった。彼は長きに渡り世を離れて山に籠もっていたため、八岐大蛇が頻繁に都の近くに出没していることを知らなかった。ひとたび邪神関連の情報を聞くと、彼は一度も止まることなく、不眠不休で書妖と共に麓で数日話し込み、その好奇心は書妖の想像をも絶していた。 どうやらこの山神様は山の中で時間を持て余していたようだ。書妖は今度からもっと面白い蔵書や遊び道具を見つけてきて差し上げよう、と決意したのであった。 |
遺跡
遺跡ストーリー |
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初めて山神様と会った時、彼は口を開かずとも私が不死身であることを察していた。何だか嬉しそうな彼に、森の奥まで連れて行かれた。そこには現世で絶滅したはずの多くの植物が栽培されており、彼の神力の庇護の下で繁栄していた。彼は私に、太古の植物を知っているかと尋ねた。よく見てみると、確かに過去に見たことのある植物ばかりで、そこの空気ですら当時の空気と同じにおいに感じられた。山神様にこのように、珍しい樹木を育てる趣味があったとは意外だった。 人々はよくこう言う。この世から絶滅した種は環境に適応できずに淘汰されたのだ、既に時代から見捨てられた種に存在理由などない、と。彼は私に、この脆弱な「樹木の遺跡」を破壊されないように他人に口外しないで欲しい、と言った。私はもちろんそれに応じた。きっと私と彼だけがこのような時代の移ろいを目撃し、既に消えてしまった過去の遺物に関して知りうるのだろう。 |
白狐
白狐ストーリー |
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不見岳の山道を歩きながら、小白は夢山で起きた多くの事を思い出していた。彼がまだ変化する前、毎日大きな狐の姿で野山や森を駆け抜ける日々を送っていた。その頃の自由で気楽な小白には悩みも不安もなく、現世への執着などもちろんなかった。今では、陰陽師の式神となり、執着する物事が増え、わからない事も多くなった。 どうすれば八岐大蛇を倒せるのか?どうすればセイメイ様の歩く速度についていけるか?どうすれば庭院と大切な人を守れるのか?次々に降りかかる難題が彼を困惑させていた。あの頃のただの純粋な狐に戻り、人に見つからない深い山奥で、月の光を浴び、涼しい風に吹かれて過ごしたい……などと思うこともあった。 「今夜はせっかく誰もいないので、散歩にでも行きましょうかね。」 風が吹き、葉が舞い落ち、隠世山に赤い眼の白い狐の姿が消えていった。 |
石亀
石亀ストーリー |
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老人は古橋の上に横たわり、のんびりと人々の果てしない流れを見ていた。店の主が近くで話しているのを聞くと、十日前に質の悪い客が数人、鉄器を携えて山に宝を掘りに行ったらしい。誰もが彼らに忠告した、そんなことをすると神の罰が当たると。しかし彼らは聞き入れなかった。その後、誰も店には戻って来ず、残された衣類をどう処理すれば良いのか、部屋も掃除してしまって良いのかと店主は困っていた。老人は話を聞いていると、突然何か思いつき、橋から降りてきて、二合目から小さな木の苗を背負ってきた。 ひとしきり歩き、ようやく掘り起こされた穴を見つけた老人は、そこに苗を植えた。山神様が「壊れた所はきちんと修復するように」と言ったことがあったからだ。 |
蛇魔
蛇魔ストーリー |
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不見岳について、人々は口々に温和な山神様だと言う。しかし彼らは知っているだろうか?温和な人はいつも、あれもこれも救おうとして、常に板挟みになってしまうということを。そして最後には、持っているものを手放せず、偽善者扱いされ、何も手に入れられないということを。 本当に温和な山神様であるなら、それはそれでよいことだ。ただ、彼らが生存と欲望の為に山を破壊しようとし、外来人と山の民が衝突する時、山神様はどんな選択をするのか… ん?何やら地底から音がする…くそ、どうして土がこんなにどろどろになってるんだ。私も足を取られてしまった…くそっ!! |
世離尋ストーリー
序章
序章ストーリー |
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【源博雅】 「小白!小白!!」【小白】 「博雅様、こんな気持ち良い朝の眠りを邪魔するなんて、嫌われますよ……小白が目を覚ますまで待ってられないんですか?」【源博雅】 「この犬っころ、寝ぼけてんのか。今日は春風が心地いい、土埃が巻きあがり、柳が水面に映っている。遠足に行くって約束しただろ、忘れたのか?前回は一緒に来なかっただろ。お前、かなり人生損したぞ。」【小白】 「と、登山は……外はまだ寒いので、小白は布団を被っている方がいいです。引き続き冬眠させてください……」【源博雅】 「とっとと起きろ。さもないと、お前の毛を全部剃るぞ。晴明、お前からも言ってやれ。神楽達がまだ外で待ってるんだ。」【晴明】 「小白。」【小白】 「分かりましたよ……セイメイ様……小白も一緒に登山に行きますよ。でも、道中もう少しだけ、膝の上で寝させてください。」【晴明】 「毛布の準備ができたぞ、安心して寝るといい。」【小白】 「はい!ありがとうございます、セイメイ様!」【神楽】 「やっと不見岳を見つけた。長期間にわたる調査の結果、山脈のある場所をようやく見つけることができた。それは地図にはない隠世の地にあった。」【八百比丘尼】 「「不見」と呼ばれる所以は、過去の物語に関係していそうですね。」【晴明】 「ほう?この山には物語があるのか?山神様を呼んで、昔のことを尋ねてみようか。」【源博雅】 「そ、そんな必要はないだろ。俺たちはただ登山に来たんだ。年寄りを驚かす必要はない。道を尋ねるなら、麓の村で聞くか、桜の精と桃の精に聞くかすればいいだろ。」【桃の精】 「ここの桜の森は、その名に恥じへん絶景なんどす。桜の精がえらい気に入ってるさかい、時々彼女と来るんどす。うちらは山にはあんまり登らへんけど、麓の事なら少しは分かるし、案内してもええどすえ。」【八百比丘尼】 「それは助かります。昔、私もこの山に来たことがあります。当時の知り合いが、今はどうなっているかも気になります。」【晴明】 「そういうことなら別れて行動して、明日六時に集合しよう。」【神楽】 「小白は?」【小白】 「ふぁぁ……セイメイ様……小白の毛が全部抜け落ちちゃいますよ……へへへ……ふぁぁ……」【晴明】 「小白を休ませてやろう。いつもは、午後になってやっと起きてくるんだ。集合したら小白を起こして、それから皆で山を登ろう。」【不見岳】 「……起きて。早く起きて。」【小白】 「ふあぁ……セイメイ様、小白はまだ眠り足りないです……」【不見岳】 「君の友人が危機に瀕している。早く起きて、僕と一緒に彼らの所に行こう。」【小白】 「え?危機って……ところであなたは?ぼやけてはっきり見えませんが……あなたはどこから来たんですか?あっちに行ってください、夢山の主の夢の邪魔をしないでください。」【不見岳】 「僕は不見岳、この地を守って百年になる。山の霊力が乱れている。常人には感じ取れないが、君の友達は霊力が強大だから、巻き込まれ、道に迷ってしまった。」【小白】 「何か大変なことが起きたのかと思いましたが、道に迷っただけですか。小さな山の精霊さん、ご存知の通り、小白の仲間は皆、強い力を持った陰陽師なんです。だから心配はいりません。かつて妖怪が侵入してきた時も、難なく解決したんですから。それともあなたが守っているこの山には、鬼王よりも恐ろしい敵がいるんですか?」【不見岳】 「そういうわけでは……「神隠し」について聞いたことはあるかい?」【小白】 「あ、ありませんけど。」【不見岳】 「山道を歩いていたり、山を探索している人が突然、姿を消すことがあるんだ。人々は山の神様が連れ去ったと言うが、本当は山の中で遭難して、自力で脱出できなくなっているんだ。君の友達は、明日六時に集まると約束していた。彼らが約束を守れるかどうか。空の色が変わった。これは不吉な前兆だ。時間が経てば経つほど、彼らは危険になっていく。」【小白】 「そ、そんなの嘘です!でも確かに、四人が一度に消えるなんておかしいです!小白をここに置いていくなんて、ぞっとします。山の精霊さん、早く小白をセイメイ様たちの所に連れて行ってください!暗くなる前に!」【於菊虫】 「……ふん。」【不見岳】 「霜と雪が降り、冬は春になった。冬には桜の花の霊力が落ち葉とともに山に戻り、栄養分を循環させる。霊力が各幻境に分散している。遠方より来る陰陽師様よ、山で桜の花びらを拾ったら、ここに持って来てください。集まった力が栄養分となり、桜は何度もその美しい姿を現し、活力を取り戻すのです。僕と共に、この仕事を終わらせてくれませんか?」【不見岳】 「あ、来たんだね。いつの間にかここまで来ていたけど、上に続く山道は空気が薄く、冷たい風が吹いている。僕から離れないで。もし寒さを感じたら、思魂飲を飲むか、僕の羽織の下で暖を取って。風邪を引かないようにね。」【小白】 「うっ……これほどの力だとは!少しも弱まりません、なんとかしてください、山の精霊さん!」【不見岳】 「記憶の中の道を思い出してみた方がよさそうだね。」【小白】 「こっちじゃないですよ。」【不見岳】 「……」「桜の花の道こそが、正しい方角だ」【小白】 「わあ、ここには宝箱もあります!」【不見岳】 「注意していれば、山からの贈り物を見つけることもできるよ。山の謎を、小白は理解することができるかな?」【小白】 「分かりました!鏡の両側みたいに、向こう側にあるものが、こちら側にもあるんですね!」【不見岳】 「どこへ行こうとも、山の力は全然弱まらないな。もう一回行ってみよう。やはりここじゃないみたいだ、もう一度探そう。」【神使笠雲】 「どうやってここに辿り着いた?」【不見岳】 「……」 |
一合目
一合目ストーリー |
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【不見岳】 「山は見えず、雲が守る。尽きることのない山道は、天へと続く。山道のもう一端は真実へと繋がっている。人々はそれぞれの道をたどり、自らの足で登っていく。山の全ては、僕たちが通る道に記されている。白蔵主様、何が起きても、慌てないでください。僕から離れないで。」【小白】 「あ……小白でいいですよ!急に上品な口調になるから、セイメイ様が話しているのかと思いましたよ。急ぎましょう!セイメイ様たちを迎えに行って、ご飯を食べに帰らないと!小白が来ましたよ!」【不見岳】 「麓の観光客は、出発を急ぐあまり、持ち物の検査や登山用の杖の準備などを怠りがちだ。小白の登山杖は、桃の木にしようか、柳の木にしようか。赤と茶色、どっちが良い?あれ、小白は……」【桃の精】 「話してる間に遠くに行ってしもたで、のんびりしたはるから。山神様も、桃の木を杖にするのは勘弁してほしいどす。桃の花が落ちてしまうえ。」【不見岳】 「ご、ごめん……この桃の木は……記念に君にあげるよ。それじゃ。」不見岳が振り向くと、既に遠くに行ってしまったはずの小白が突如現れた。【小白】 「山の精霊さん、ここはとても不気味ですね。どうやっても二合目に行けませんし、元いた場所に戻ってきてしまいます。これはあなたの術ですか?」【不見岳】 「この山には、僕たちが残した様々な謎があるんだ。正しい道を見つけ、各合目の時代を守ることができなければ、君の仲間を見つけることもできないだろう。かつて、僕も同じような試練を経験したことがある。」【小白】 「ここが夢山だったら、目を閉じていても山頂まで行けるんですけどね。どうやって進めばいいんでしょう?地図はありませんか?」【不見岳】 「これを飲んで。」【小白】 「これは何ですか?セイメイ様が言っていました、知らない人から勧められた物を飲むなって!」【不見岳】 「この「思魂飲」は、山の霊力に満ちた聖なる水だ。麓の人々もよく飲んでいる。怪しい成分は入っていないし、身体に悪影響を及ぼすこともないよ。山頂は寒いから、身体を暖めるために持っていくことが多いんだ。これがあれば、山道がよく見えるようになるよ。」【小白】 「これを飲むと、どうして山道がよく見えるようになるんですか?目薬として使うんですか?」【不見岳】 「小白、灯りのない夜に事件が起きたら、君はどうやって布団から出て外に行く?」【小白】 「そういう時は、わずかな月の光を頼りに外に出ます。廊下と通路の場所は、記憶だけが頼りです。」【不見岳】 「この山を僕の家だとすると、山道は僕の家の通路のようなものだ。前の道が見えない時、手探りで進んでも引き返すことになってしまう。「見る」事に頼ってはいけない。その代わり、己の記憶を頼りに進むんだ。」【小白】 「なるほど!そういうことですか!博雅様が夜中に帰宅すると、よくつま先をぶつけているのは、視覚に頼り過ぎていたからなんですね。思魂飲を飲めば、山の記憶が蘇るんですか?」【不見岳】 「ああ。言い伝えによると、一杯飲めば、山の民は己の前世を思い出すらしい。小白は外部の人間だから、前世の記憶を取り戻しはしないけど、山の記憶を感じることはできるよ。」【小白】 「よし、じゃあ飲んでみます!」【不見岳】 「どうぞ。」【神使不見】 「ん……」【神使笠雲】 「不見……不見……何ぼーっとしてるの?もうすぐ式が始まるよ。」【神使不見】 「あれ……ここは……麓の桜の森……笠雲か。」【神使笠雲】 「大丈夫?少し座って休みましょう。」【神使不見】 「大丈夫、君に付いて行けば、正しい道が見つかるから。」【神使笠雲】 「何言ってるの?行きましょう、みんなが私たちを待ってる。」【小白】 「山の精霊さん、何してるんですか?」【小白】 「手遅れになる前に、彼女を追いかけないと!」人々は二人の結婚を祝うための飾り付けに忙しく、風鈴が揺れ、地面が僅かに動いたのに気づいた者はいなかった。【神使笠雲】 「本当に一人ですべての絵馬を吊るすとは思ってなかったわ。言うまでもなく、あなたの頑固さは世界一ね。何度手伝いを申し出ても、あなたは断るんだから。」【神使不見】 「この景色は、君への贈り物なんだ。他の人の手を借りて完成させても、意味がないだろ?」【神使笠雲】 「ふふ……これって、私たちが子供の頃に書いた絵馬?あなたが七歳の時に「大きくなったら笠雲を嫁にもらう」って書いた絵馬を私のお父さんに見られて、一晩中お尻を叩かれてたっけ。どこにあるのかな……あった!」【神使不見】 「……そうだね。」不見が薄暗い空を見上げると、不吉な気配が聖なる山の頂を徐々に覆い始めていた。【神使笠雲】 「険しい顔をしないで、今日は私たちの大切な日なんだから。普段から客人に会うのを好まないのは知ってるけど、今日は一生に一度の大切な日なんだから、我慢してね。面倒な人は私が対応するから、あなたはただ横に立ってて。」【神使不見】 「いや、平気さ。めったにない機会なんだ、君が白無垢を着る姿を、もう一度目に焼き付けておかないと。」【神使笠雲】 「?」【惠子ばあ】 「さぁ、二人の結婚を祝し、山神様に……」礼服を着た不見と笠雲が乾杯しようとした時、山の奥から動物たちが逃げ出し始めた。人々が反応する前に、雷が鳴り響き、地面が揺れた。それからどのくらい時間が経ったのだろう。雷が止まり、桜の木の下に設けられていた荘厳な式場は既に廃墟と化し、その下には動かなくなった人々がいた。結婚式で起きた災いは、神の罰だと見なされた。【林助】 「父さん!!母さん!!!誰か助けてくれ!!」【惠子ばあ】 「山神様の怒りじゃ!山神様の怒りじゃあ!!!」【神使不見】 「笠雲、大丈夫かい?」【神使笠雲】 「うん……私は、大丈夫。これは一体……不見、私たちの手の黒い呪い……まさか、天災なんじゃ……」【神使不見】 「馬鹿な事を考えるな。僕たちは大丈夫だ。」天災の後、桜の森は荒廃した。地面は死体と、苦しみの中生き残った人々で溢れていた。【惠子ばあ】 「うう……」【林助】 「ううっ……お父さん……お母さん…………不見、笠雲……こんなことになったのは、お前たち二人が山神様を怒らせたせいだ!!お前たちを呪ってやる!!山神様に二人を生贄に捧げ、両親の敵を討つんだ!!」【惠子ばあ】 「不見と笠雲を連れて行け!」【神使笠雲】 「恵子ばあ、林助……私たちじゃない……私たちのせいじゃないの……お願い、話しを聞いて……」【惠子ばあ】 「何をしておる、とっとと連れて行け!!!」【神使笠雲】 「不見!!」【惠子ばあ】 「悪いな、不見、笠雲。天災の原因が何であれ、お主たちは別れなければならぬのじゃ。さもなくば、民の怒りは治まらぬ。」【神使不見】 「必ず君を探しに行く、笠雲!絶対に君を見つけ出すから!」【小白】 「なるほど。前世のあなたたちは、結婚式で天災に遭い、あなたたちのせいだと勘違いした人々に引き離されてしまったんですね。でもあなたはその後、笠雲を探しに戻って来た時、村の人々にちゃんと説明したんですよね?」【不見岳】 「恵子ばあは、僕たちが原因ではないと知っていたんだ。」【小白】 「ではなぜ!?」【不見岳】 「災いに遭った人は、必ずその「原因」を探すんだ。災いを止められたという可能性を考えることで、心の中の悲しみや苦しみを抑えるんだ。真実は大して重要じゃない。真実を知ると、人はより辛く、無力感を感じて、心の弱さに負けてしまうからね。恵子ばあは、僕たちを村人から守るために、僕たちを引き離したんだ。恵子ばあは、僕たちが離れれば山神様の怒りも収まり、こんな事はもう起きないだろう、と皆に伝えてくれたんだ。」【小白】 「小白にはよく理解できません。あなたたちが一緒にいなければ、災いは本当に起きないんですか?災いをもたらしたのが山神様なら、村人はあなたたち二人ではなく、山神様を責めるべきではないんですか?そもそも、あなたたちはどうして山神様に嫌われているんですか?」【不見岳】 「山神様は、僕たちを嫌ってなんかいないさ。僕たちの持つ呪いは、とある穢れによるものなんだ。あの時代には山神様は存在しなかった。この山の神は何千年もの間、姿を消していたんだ。笠雲と僕はもともと山神様が作った石像だったんだ。山神が亡くなる時、魂を二分して命を与えてくれた。」【小白】 「ええ!!ちょっと、詳しく説明してください。あなたたち二人は、山神様の分身だったんですか?ええ……」【不見岳】 「……この時代の僕たちが、どんな結末を迎えたのか、君は知りたくないかい?」【小白】 「もちろん知りたいですけど、知りたいことが多すぎます!」【不見岳】 「この人生において、彼女と僕は幼馴染だった。山で育ち、互いを知り、恋に落ちたんだ。天災の後、僕は山の麓に残され、山神への「贖罪」のために、毎日山を歩き回り、お詣りをしていた。体内の呪いは僕の夢を蝕んだ。僕は夜中に目を覚まし、廃墟の下の死体の事を思い出した。一年も経たないうちに、僕は心身の疲労によって倒れてしまった。」【小白】 「あ、あなたたちには山神様の力があるんですよね?どうしてそんなに簡単に……」【不見岳】 「何度も輪廻を繰り返していること以外、僕も笠雲も普通の人間と変わりないんだ。呪いによってすれ違う人生を送り、そのせいでこの山にはもうずっと神がいない。」【小白】 「なんて複雑な理由なんでしょう……理解するのに少し時間がかかりそうです……」【不見岳】 「山の歴史は長く、今はその片鱗を見ているに過ぎない。花見の客の足跡が混ざり合い、古いものと新しいものの区別がつかないのと同じだ。小白、一合目の桜の森がどうしてあれほど密に生い茂っているか分かるかい?」【小白】 「それって、木の下に遺体が埋まっているからとかですか?」【不見岳】 「ふふふ……伝説によると、元々は山神様の住まう場所にしか桜は咲いていなかったらしいんだ。でも山神様が消えて以降、山は千年の時を経て、桜の種と養分を麓に届けた。神が独占していた桜は、今では旅人たちが気軽に楽しめる景色になった。これは遥か昔の話ではあるけれど、現世の人々は歴史を気にもせず、この美しい景色を見れて当然だと思っている。再び歴史が動く時、山が変化し、桜の森が一体どうなってしまうのか、誰にも分からない。」【小白】 「そんな伝説があったなんて、小白は今やっと歴史を理解しましたよ。そういえば、山に登ったセイメイ様も、桜の森を見ることができたでしょうか。桜の花を摘んで、セイメイ様にお届けしてもいいですか?」【不見岳】 「もちろんだよ。花を摘み終わったら、一緒に二合目に行こう。」 |
二合目
二合目ストーリー |
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【不見岳】 「二合目、もう麓から大分離れたね。ひもじさ、路頭に迷った夜、呪い……辛い日々だった……」【小白】 「山の精霊さん、その格好は何ですか?まるで舞台の一番後ろにいる、脇役の村人みたいです。つま先立ちにならないと、主人公の影に隠れて顔すら見えなくなる役ですよ。」【不見岳】 「今生の不見は、まさに歴史に忘れられし者だ。飢饉の時代に生まれ、浮草のように流され、「浮浪者」と呼ばれていた。一方、笠雲は川の向こう側の貴族の娘で、人の気持ちをよく理解できる先生だった。高貴な出身で、飢饉とは無縁な彼女は、本来あの時の僕とは別世界の人であるはずだった。しかし何の悪戯か、僕たちは巡り合った。」【小白】 「小白はもう結末が見えた気がします……こういう身分違いの恋は、物語の中でよく悲恋に終わってしまいます……まだ始まってもいないのに、もう終わった気がします!」【不見岳】 「僕たちを阻んでいたのは身分差だけじゃない。大規模な飢饉も一役買っていた。僕は彼女の弟子になって、彼女と共に飢饉を解決する方法を探っていた。それは僕たちが過ごした、一番楽しい日々だった。」【小白】 「そうでしたか。山の精霊さん、どうして山道に人が突っ立っているのでしょう?!お友達ですか?」【不見岳】 「ああ……彼らは山の亡霊だ。」【小白】 「亡霊???ここここっちを見てますけど!!」【不見岳】 「彼らはたまに山の記憶と共に現れるんだ。僕たちを攻撃したり、驚かせたりはしないよ。僕のせいで、皆出てきたみたいだ。」【小白】 「なんでこんなのを引きつけるんですか!おまけに不気味な風まで吹いていて、すごく寒いです!こ、小白は後ろに隠れているので、彼らを近づかせないでください!え!何する気ですか!」小白がそれを言い終える前に、不見岳は優しく小白を抱き上げた。【不見岳】 「羽織の中に隠してあげるから、怖がらないで。彼らが助けてくれれば、僕たちは尽きることのない山道を抜けることができるんだ。」【小白】 「そ、そうですか……羽織の中は結構広いですね……幽思飲はまだ残っていますか?もう一杯飲んで体を温めたいです。」【不見岳】 「あれを無闇に飲んではいけないよ。一合につき一杯で十分だ。さっきはもう飲んだだろう。」【小白】 「何でですか?お酒じゃなくて、ただの露だから酔うことはないですよね?もう一杯くださいよ。」【不見岳】 「だめだ。」【小白】 「半分なら?一口でもいいですよ?」【不見岳】 「ただの水ならあるよ。」【小白】 「真面目すぎます!見た目は若いけど、中身は頑固なおじいさんみたいですよ!」【不見岳】 「ここで少し休もう。ここには僕の友達が住んでるんだ。二合目の道に関しては、僕より彼のほうが詳しい。」【小白】 「へえ……ちょっと意外ですね。山の精霊さんには、こんな場所にもお友達がいるんですね。百回の輪廻のうちに、てっきりもうお友達は全員いなくなったのかと思っていました。」【不見岳】 「彼は亀に変化した霊石だ。僕が輪廻から解脱しても、彼は変わらずこの山に住み、友達でいてくれた。手間をかけるね、千歳。」【千歳】 「水臭いことを言うな。」小白の前に千歳の石亀が現れ、小白を背中の殻に乗せた。【小白】 「痛い!この殻ちょっと硬すぎませんか。うわ!」【千歳】 「これ以上文句を言ったら、川に捨てて亀の餌にするぞ。」【小白】 「やややめてください、話せばきっと分かり合えますよ。小白は夢山の狐で、今は陰陽師セイメイ様の式神をやっています。」【千歳】 「狐だと?わしは千年生きてきたが、こんなに狐らしくない狐は初めて見た。」【小白】 「……怒ってはだめです……怒ってはだめです……」【千歳】 「まあいいか。わしは「千歳」、この山で一番の長生きだ。無駄に歳を食っていることだけが取り柄で、毎日山で散歩したりして、楽しい生活を送っているぞ!しっかり掴め、出発するぞ。」【小白】 「千歳じいさん、もしかして幽思飲を飲まなくても道が分かるんですか?もし護身用の術が使えるなら、ぜひ教えてください!」【千歳】 「ふん、妖術など知らん。さっきの場所がどんな場所だったか、よく考えてみろ。」【不見岳】 「二合目からはもう彼の家なんだ。彼は千年前から毎日家の近くを散歩しているから、知らない場所はないってわけさ。山もまた彼が訪れた道を覚えている。どの道であろうと、決して彼を止めたりはしない。」【小白】 「へええ!」【千歳】 「長生きもいいことばかりではないが、長生きしなければできないこともある。今回は、わしが山頂まで送り届けてやる。しっかり掴め。」【不見岳】 「文字の記憶に沿って二合目を通り抜けよう。君の仲間たちが待ってるよ。」【小白】 「はい!」【笠雲嬢様】 「目が覚めましたか?ちゃんと朝ご飯を食べなきゃだめですよ、また教室で倒れるなんて。お粥を作りました、冷めないうちにどうぞ。」【遊牧民不見】 「すみません……明日は卒業式だというのに、恥ずかしいところを見せてしまいました。」【笠雲嬢様】 「謝る必要はありません。十里橋が開通した今、貴族と浮浪者の世界は再び繋がりました。私も安心して家に帰れます。そろそろ子供たちが来ますね、少し手伝ってくれませんか?これは子供たち一人一人へ宛てた手紙です。御祝いの言葉を書きました、記念にはちょうどいいでしょう。」【遊牧民不見】 「……」【笠雲嬢様】 「うふふ、慌てて探さなくても大丈夫、あなた宛ての手紙ももちろん用意してあります。あなたは私の一番大切な生徒ですから。」【遊牧民不見】 「ありがとう……」【笠雲嬢様】 「お礼はいりませんよ。初めて授業を受けに来た日のことを、まだ覚えていますか?私たちは同い年だから、子供たちの中にいるとあなたはどうしても目立ちます。自己紹介をお願いすると、あなたはこう言いましたね……」【遊牧民不見】 「生まれてから一度も親に会ったことがないから、兄から「不見」と呼ばれています。」【笠雲嬢様】 「不見……どうして隠れているの?算数を教えていた時、どうして子供たちと一緒に座って聞かなかったの?」【遊牧民不見】 「だめなんです、怒った兄さんに殴られます。算数を学んで、何になるんですか?」【笠雲嬢様】 「算数ができれば、将来商売をしても騙される心配がありません。算数が得意なら、どこかの店で会計係として雇ってもらえるかもしれません。食料を調達するだけでは、飢饉に苦しむ人々を助けられないから。だから私は子供たちに知識を与え、彼らにこの呪われた時代を終わらせる方法を見つけてほしいと思っているのです。」【遊牧民不見】 「呪われた時代を終わらせる……そうすれば、皆ちゃんと食べられるようになりますか?」【笠雲嬢様】 「もちろんです。平和な世に生まれれば、山の皆が飢饉に怯えることはなく、争いも消えてなくなります。山の裂け目も、私たちの世界を隔てる川ではなくなります。人々は日の出とともに目覚め、日の入りとともに眠る。本を読んで真理を探求したり、舞台で芝居を打って百世の人生を体験したりすることができます。」【遊牧民不見】 「とても具体的ですね。全部先生が考え出したことですか?」【笠雲嬢様】 「いいえ、これは私が考え出したことではありません。これは全て、本で読んだことです。むかしむかし、この山で暮らしていた人々の生活の記録です。」【遊牧民不見】 「兄さんは、僕たちの先祖は代々貧乏人で、先生の先祖とは違うって言ってました。」【笠雲嬢様】 「……いいえ、それは私たちの先祖よりもはるか昔の時代のことです。そんな素敵な時代を、もう一度取り戻すことができたら。でも運命はもう決まっています。私の一生は短すぎて、その願いが叶うのを見届けることはできません。」【遊牧民不見】 「先生は運命を信じているんですか?」【笠雲嬢様】 「そうね……ええ。運命を信じています、山神様が司る運命を。」【遊牧民不見】 「兄さんも信じています。兄さんはいつも運命は呪いだとか、僕たちの結末はもう決まっていると言っています。でも僕たちの人生は、結末のために存在するのではありません。」【笠雲嬢様】 「え?」【遊牧民不見】 「運命に逆らえないなら、運命を気にする必要はありません。」【笠雲嬢様】 「ふふ、一理ありますね。」【遊牧民不見】 「はい……さっきの商売の話ですが、願いを一つ叶える機会を、お粥一杯で買ってくれませんか?」【笠雲嬢様】 「ああ!お粥は何杯でもいいですよ。私ったら、あなたが空腹だってことに気づかずに。」【遊牧民不見】 「……何杯でもいいんですか……そうなると、願いをいくつも叶えなければなりませんね……」【笠雲嬢様】 「ふふ…………ありがとう。私の願いは一つだけです。私の弟子として勉強して、飢饉に苦しむ世の中を共に変えていきましょう。あなたなら、浮浪者の世界からでも、必ず道を見つけられます。」【遊牧民不見】 「笠雲……笠雲先生は?」【五兵衛】 「先生なら、橋を渡ったぞ。」【遊牧民不見】 「どうして急に?子供たちへの手紙だって、まだ僕が預かってるのに。最後の宿題も、見てもらいたかったのに。」【五兵衛】 「もう卒業だってのに、宿題だと?見せてみろ。これは……一体何の絵だ?」【遊牧民不見】 「十里橋の、二つ目の設計図だ。」【五兵衛】 「設計図?不見、俺たちは皆笠雲先生の弟子だから分かる。お前には才能があって、偉大な理想を抱えている。しかしまさか、一本目の十里橋を設計しただけでなく、二本目の設計図まで描くとはな。橋をもう一本架けるつもりか?」【遊牧民不見】 「うん、一つだけじゃ足りないから。これは僕と笠雲の理想を叶えるための最初の一歩だ。詳しい話は、全てが実現した時にまた教えるよ。君だってこの世の中を変えたい、飢饉から皆を救いたいと思ってるだろう?」【五兵衛】 「ふん、もちろんだ。武士が統べる、人々が飢えることのない、平和に暮らせる世界を作りたい。それに、大きな一族も作りたい。子孫がこの山で一番の金持ちになる一族を。俺みたいに飢饉に苦しむことがないようにな。」【遊牧民不見】 「山賊出身の君には、たくさん夢があるんだね。」【五兵衛】 「一番叶えたいのは、皆との夢だ。皆で良い暮らしを送ることができなければ、意味がない。子孫にしてやれるのは、せいぜい「蓄える」ことぐらいだ。俺は小さい頃から息子に貯金の大切さを叩き込み、貯金を習慣づけさせた。俺がこの世からいなくなっても、息子はきっとたくさん金を貯めて、それを孫に託すんだ。俺たちの運命は変えられないが、俺の子孫はいつか運命を変えられるかもしれない。」【遊牧民不見】 「……その夢は叶わない。」【五兵衛】 「なんだよ、興ざめするだろ!お前ってやつは、時に嫌なことを言うな。正直言うとな、不見。お前の才能には一目置いてる。俺はお前と一緒に、この世の中を変えたいんだ。だから俺を仲間にしてくれないか?橋のことも、もっと俺に頼っていいぞ。」【遊牧民不見】 「……三年間も一緒に勉強した誼だ、断る理由はないと思う。」【五兵衛】 「ははは!よかった!そういうことなら、一つ秘密を教えてやろう。山賊になる前、俺は川の向こう側で暮らしていた。」【遊牧民不見】 「知ってたよ。本当に山賊だったら「兵衛」などと呼ばれるはずがない。かつて貴族だった時の名残だろう。」【五兵衛】 「なっ……それは!」【遊牧民不見】 「落ちぶれた武士が食っていけなくなり、浮浪者の世界に追放され、仕方なく山賊になったという話をよく聞く。君もその一人なんだろう。」【五兵衛】 「とっくに見抜いていたか!でもお前に出会って、俺は変われたんだ。俺はいつでもお前の力になるぞ、不見。」【遊牧民不見】 「彼女が急にいなくなったから、探しに行かないと。」十里橋、かつての浮浪者は農民や商人にとなり、絶え間なく食料を運送している。川岸の貴族の屋敷はすっかり空き家になっていた。夕暮れの日差しが降り注ぐ水面には、人々の優しい笑顔が映っている。少年と武士は別れの挨拶をすべく、橋元で足を止めた。【遊牧民不見】 「ここまで送ってくれてありがとう。」【五兵衛】 「ああ……本当に行くのか?」【遊牧民不見】 「彼女との約束が、まだたくさん残ってる。彼女に連絡する方法も、まだ教えてもらってない。突然いなくなるなんて、おかしい。」【五兵衛】 「ひょっとしたら彼女は俺たちに嫌気がさしたのかもしれないぞ。一日も早く浮浪者の世界から離れたくて、何も言わずに卒業式の日に消えたんだ。知ってるだろう、彼女はいつも父親に結婚を催促されていた。」【遊牧民不見】 「彼女はそんな人じゃない。」【五兵衛】 「はあ……お前に出会うまで、俺は一生ただの山賊でしかないと思ってた。しかしそんな俺にも、世の中を救いたいという立派な理想が、生きる意味が見つかった。ここ数年、教室でお前と話す時間が一番楽しかった。お前は時代が患った病を見抜き、山を治す様々な方法を考えた。この山は昔、災いによって引き裂かれ、村々は隔絶された。浮浪者、山賊、武士、貴族……様々な人間が争い合い、分かり合おうとはしなかった。だがお前は俺たちを繋げた。山はお前が架けた十里橋で繋がった。皆が交流したり、勉強したりできるようになった。だからお前がなすべきなのは、浮浪者や山賊たちを導くことだ。俺たちを置いていったあの女のことなんか、忘れちまえよ。」【遊牧民不見】 「五兵衛、僕はよく夢を見るんだ。夢の中で、山神様はある女性と共に山を守り続けるよう僕に命じる。その女性は笠雲によく似ている。そして、僕は本当に彼女に出会った。つまり夢は全部本当のことなんだ。……もし君の生きる意味がこの世の中を救うことなら、僕の生きる意味は山を守ることなんだ。」【五兵衛】 「万が一、全てがお前の妄想だったら……」【遊牧民不見】 「いや、僕は確信できる。内側から湧いてくるこの気持ちは本物だと。君が子孫のために富を蓄えたいと望むように、僕は彼女の傍で……彼女の傍で、ありとあらゆる困難を共に乗り越えたい。」【五兵衛】 「いいだろう。お前がそうと決めたなら……悪い、不見。」五兵衛が懐から緑の粉を取り出し、不見の顔にかけた。不見は体から力が抜け、地面に倒れ込んだ。【遊牧民不見】 「眠り……草…………どうして……君が……………………」再び目を覚ますと、不見は冷たい牢獄の中に閉じ込められていた。【遊牧民不見】 「五兵衛……貴様……五兵衛!!僕をここから出すんだ!!!」【五兵衛】 「不見。」【遊牧民不見】 「五兵衛!!!笠雲は一体どこにいるんだ!!」【五兵衛】 「自分の身の安全よりも、彼女の行方が気になるのか。もしお前がここに残って、俺と共に新しい世界を作ってくれるなら、俺はこんなことをしなくても済むんだ!!」【遊牧民不見】 「どうしてこんなことを……」【五兵衛】 「不見、お前はこの山では滅多に見ない天才だ。しかし同時に危険な存在でもある。笠雲が何も言わずに消えたら、お前は諦めてここに残って、俺の偉業のために全力を尽くしてくれると思っていた。だがお前は彼女に執着するあまり、橋を渡って彼女を探しに行くと言い張った。万が一お前が貴族側についたら、俺たちは一体どうすればいい?お前の級友たちは、例外なく識者なんだ。もし全員お前みたいに川を渡って笠雲を探しに行ったら、追放された武士は復帰する希望すら失っちまう。」【遊牧民不見】 「五兵衛、そんなこと心配しなくても……」【五兵衛】 「お前がそんなやつじゃないということは、俺も分かっている。しかしもし皆が笠雲を人質にしたら、お前はそれでも皆の言いなりにならないか?」【遊牧民不見】 「僕は必ず彼女を助ける方法を見つける、誰の言いなりにもならない。」不見の揺るぎのない目を見て、五兵衛は呆れて首を横に振った。【五兵衛】 「何を言っても無駄だ。お前一人のために、皆の未来を賭けるわけにはいかないんだ。俺は武士であり、同時に山賊でもあるということを忘れるな。ほしいもんは奪う、要らないもんは他人に与えるくらいなら壊してやる。」【遊牧民不見】 「せめて教えてくれ、笠雲は今どこに……」【五兵衛】 「不見、級友宛ての手紙を書け。お前が消えても、俺はちゃんと皆を説得する。世を救う武士に尽くせとな。」【遊牧民不見】 「永遠に待たされるなんて、あまりにも残酷だろう。……笠雲にも同じことをしたのか?…………分かった。笠雲、待ってて、僕は必ず来世で君を見つけ出す。」【小白】 「浮浪者としての一生は、こうして終わったんですか?」【不見岳】 「そうなんだ。笠雲が死んだと知らされ、意気消沈した僕は、牢獄の中で武士に処刑されることを受け入れた。彼らは僕の計画通りに、飢饉に打ち勝ち、武士の時代を作った。でも同時に、僕なんか最初から存在していなかったかのように、仲間に僕の名を口にすることを禁じ、僕が存在していた痕跡を全て抹消した。」【小白】 「許せませんね。セイメイ様は「名為呪」と言いました。セイメイ様が小白という名前を与えてくださったおかげで、小白は新しい命を手に入れることができました。武士たちの行いは、あなたの人生を消したにも等しいです。」【不見岳】 「今更恨んでもどうしようもない。彼らはすでに骨となり、大地に還った。僕も、彼らも、忘れられた者はやがて山の一部となり、山の中で静かに眠る。」【小白】 「……山は本当にすごいです。全てを受け入れ、全てを浄化してくれます。まだ夢山にいた頃、小白は一族の多くの者と死別しました。何年も経った後、旧友とよく似た一族の者が目に入ると、小白は彼らが生まれ変わったのだと思いました。輪廻が繰り返す中、彼らは一度も夢山を離れませんでした。だから、次の別れもそれほど悲しいことではないように思えました。だって小白は知っていますから。いつか必ず、山の向こう側で会えますよ。これを差し上げます。」【不見岳】 「これは?」【小白】 「夢山の、融けることのない霜雪です。ずっと小白の毛の中に隠してあったので、いつしか小白の霊力の結晶となりました。危ない時はこれを握りつぶしてください。そうすれば白蔵主の分身が現れて、あなたをお守りします。ご安心ください、小白は五兵衛みたいに裏切ったりはしません。なんというか……小白とあなたの友情の証です!」【不見岳】 「ありがとう。もし君が晴明の式神でなかったら、ここに残ってくれと頼んでいたよ。」【小白】 「じょ、冗談はやめてください!小白は早くセイメイ様を見つけて、家に帰らねばなりません!で、でも、たまにはここに来てあげても、べ、別にいいですよ!」【晴明】 「……」【小白】 「あ!!セイメイ様!!やっと見つけました!」【晴明】 「……」【小白】 「勘違いしないでください、小白はここに残るなんて言っていませんよ!そんな顔をしないでください、不安になります。セイメイ様……?」普段の晴明であれば、扇子を広げて事情を説明するはずだ。しかし小白の耳はまるで何かに塞がれたかのようで、晴明の言葉が全く聞こえない。小白の後ろで轟音が響くと、不見岳は妖刀姫と犬神に挟み撃ちにされていた。時間が経つと、小白の耳を「塞いでいた何か」が徐々に消えたようで、懐かしい呪文が聞こえた。」【晴明】 「急急……如律令!」【小白】 「こ……これは……」【晴明】 「小白。」【小白】 「セイメイ様!え?さっきのセイメイ様は変でしたよ。」【晴明】 「変なのはそっちだ、小白。表向きは遠足ということだったが、実のところ、我々はここに隠された天羽々斬のことを調べに来た。誰かが山道を操り、我々四人をそれぞれ別の場所に送り込んだ。幸い山霊を呼び出すことができて、私は山神の正体を突き止めた。彼は我々の言葉が聞こえないように、小白を惑わせた。そして彼の術を破った今、小白はようやく目を覚ましたんだ。」唖然とした小白はしばらく黙り込んだと、やっとゆっくりと口を開いた。【小白】 「山の精霊さん……あなたは……悪い人なんですか?どうしてこんなことを……」【犬神】 「小白をいじめるやつは、例えこの地の山神だとしても断じて許さない。白状しろ!貴様の目的は一体何だ!」【不見岳】 「甲斐に夢山あり、白き大樹は空に聳え、白き草は鬱蒼たり、まことに寒き……」【小白】 「!!」【不見岳】 「ある日目を覚ますと、霜が体中を覆い、毛皮まで白くなっていた……」不見は言葉を発しながら、白い結晶を掲げ、中に秘められた霊力を己の体内に取り込んだ。【晴明】 「なんとなく、懐かしく感じるな……」【小白】 「小白と契約を結んだ日に、セイメイ様が小白に言った言葉です。」【不見岳】 「霜雪に秘められた夢山の主の霊力は、我が古山の神力に取り込まれた。二つの力を合わせれば、幻を現実に、夢を真に変えることができる。」【小白】 「そうなんですか!?」【不見岳】 「僕たちが見てきた幻境を、全て現実にしよう。」【犬神】 「たわけ!昔亡くなった人々は、とっくに閻魔か判官のところに行ったはずだ!」【小白】 「前世と今生……山の魂は、山の中で輪廻を繰り返す……まさか山の亡霊を……」【不見岳】 「必ず君を見つけ出すと約束したから。僕は頑固だから、約束したことは、必ず成し遂げてみせる。」 |
三合目
三合目ストーリー |
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【千歳】 「はあ……わしも老いぼれたか、さっき不見を三合目に送り出しただけで、へとへとになってしもうた。わしは少し休む、あとは任せた……於菊虫。」【於菊虫】 「千歳じいさん、ご安心ください。」【笠雲】 「頭が……ここは一体……」【於菊虫】 「こんにちは!私についてきて。」【笠雲】 「!!あなたは?ここは……何合目?」【於菊虫】 「三合目よ。さあ急いで、陰陽師と式神に追いつかれてしまう。」【笠雲】 「陰陽師と……式神?その姿、あなたは山に住む妖怪?」【於菊虫】 「ええ、詳しいことは途中で話しましょう。どこまで思い出せる?」【笠雲】 「記憶……頭が痛い!」【於菊虫】 「無理やり山から分離された魂には、もう少し時間が必要かもしれないわね。大丈夫、少しずつ思い出せばいいわ、あなたならできる。」【笠雲】 「…………そうだった……私は輪廻を終わらせる方法を見つけ出した。十合目に行けば……そう、この山道は……古書の中で誰かが描いた山道の設計図を見つけたから、協力者を探して梯子を作った……」【於菊虫】 「設計図、きっと彼が前世で描いたものね。他には?他に覚えていることは?」【笠雲】 「あの人が私を見つける前に、私は山に魂を捧げ、千年の輪廻を断ち切った……あの人は、誰……私、何か大切なことを忘れているような……」【於菊虫】 「一番肝心なことを忘れてしまったのね。彼を心の奥底に隠したせいかもしれないわ。私は於菊虫、森に棲む妖怪よ。この「幽思飲」を飲んで出発しましょう。山道と山の記憶を辿っていけば、きっと全てを思い出せるはず。これはあなたの言う「あの人」に命じられた任務なの。」於菊虫から「幽思飲」を受け取り、笠雲は躊躇なくそれを飲み干した。【於菊虫】 「潔い人ね。これも渡しておくわ。」【笠雲】 「これは?」【於菊虫】 「硫黄と粉薬をつけた木の剣よ、一振りで虫を退治できる。もし私が夜に不審な行動を見せたら、これで刺して。躊躇ってはだめよ。」【笠雲】 「夜に……何が起きるの?」【於菊虫】 「私にも分からない、だから怖いの。」日が暮れ始め、幽思飲を飲んだ後、笠雲は夢現の中で懐かしい光景を見た。子供たちが水遊びをしに川に行く。残された彼女と浮浪者不見は、野ざらしのぼろぼろの教室で卒業式の準備をしている。【遊牧民不見】 「笠雲……先生、先生への贈り物を用意しました。」【笠雲嬢様】 「卒業式はまだですよ、どうして今贈り物を?」【遊牧民不見】 「卒業式が始まれば、先生はきっと忙しくなるでしょう。今贈り物を渡さなければ、後で誰かに食べられてしまうかもしれません。」不見は細心の注意を払いながら、懐から花束を取り出した。それは茎が萎れた、あまり綺麗だとはいえない花だった。【笠雲嬢様】 「まさかここで花を見ることができるなんて。あなたが摘んだお花ですか?」【遊牧民不見】 「いいえ。人々は木の皮すら剥がして食べるほど飢えている、花を見逃したりはしません。」【笠雲嬢様】 「ではこれは……」【遊牧民不見】 「僕が植えた花です。君が塾を開いたばかりの時、君に贈る花を育てようと、あちこちで花の種を探しました。川の向こう側では、塾に通うにはお金が必要だということは分かっているのですが、生憎僕はお金がないから、君に相応しいお花を贈りたくて。貧相で醜い花しか採れませんでした。もし迷惑でなければ、花茶にしてお出しします。きっと美味しいと思います。」【笠雲嬢様】 「ぷっ……迷惑なわけないじゃない。ありがとう、気に入りました。」【遊牧民不見】 「……そ、そうですか。」【笠雲嬢様】 「ご存知かしら?川の向こうの貴族は、皆お花が大好きなの。時には大金をはずんで珍しいお花を探したり、花の美しさを保つために、花を運ぶ時も多くの人力を投入したりします。しかしほとんどのお花は、数日経つと枯れてしまいます。香りが残るわけでもなければ、腹の足しにもなりません。だから私は、お花が嫌いになった時期もありました。それでも、亡くなった人を偲ぶ時、どんなに気持ちを伝えたくても、お墓にお花を供えることしかできません。儚い美しさを持つが故に、人々に愛でられるようになったのでしょう。それは私たちの人生に似ています。」【遊牧民不見】 「この感情が、愛なのですか……先生は花にまつわる詩をたくさん教えてくださいましたね。僕はどれも大好きです。昔は、花は食べる物だとしか思っていませんでしたが、その美しさを理解できてから、僕の世界は少し変わったみたいです。先日僕の花畑を通りかかった浮浪者が、美しい花を何輪か奪っていきました。僕は命がけで、この数輪の花を守り抜きました。」【笠雲嬢様】 「まさか喧嘩したの?大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」【遊牧民不見】 「笠雲先生、一つお願いがあります。」【笠雲嬢様】 「え?言ってみて。」【遊牧民不見】 「十里橋一本だけでは、浮浪者たちの苦しみを解決することはできません。人々は生き残るため獣に成り下がり、運命を変える可能性すら失ってしまいました。橋をもう一本架けたいのです。山の裂け目によって隔絶された二つの世界を完全につなげるために。物資が橋を通って運送され、人々は橋を渡って行き来する。この流れは、この窮屈で貧しい時代を変えていくでしょう。」【笠雲嬢様】 「でも……」【遊牧民不見】 「先生が一本目の十里橋の設立に、どれだけ苦労されたかは知っています。貴族たちを説得する方法は、僕が考えておきました。浮浪者の花は貧相ですが、並々ならぬ生命力があります。なかなか傷まない上に、長時間保存することもできます。浮浪者の花と貴族の花、二つの花を混ぜれば、きっと新しい花が誕生します。浮浪者の花のように強靱な芯と、貴族の花のような美しさを持つ花です。先生が言っていたように、人々に愛される花が誕生するでしょう。その花を貴族に売って、そのお金で買った道具や食料作物などを、浮浪者の皆に分け与えて畑を耕します。」【笠雲嬢様】 「そうすれば、飢饉の問題も……」【遊牧民不見】 「はい!橋は富、知恵、人々の繋がりをもたらします。これが僕の考えた世界を救う方法……そしてこれは同時に、君の願いを叶える方法でもあります。」【笠雲嬢様】 「検討すべき点はいくつかありますが、確かに試すだけの価値のある計画ですね。橋の建設や花作りは私に任せて。不見、あなたは十里橋の新しい設計図を描いて!これは私からの最後の宿題よ。」笠雲の一族の協力を得て、十里橋は無事に落成した。二人の願いの込められた橋は、落成初日にすでに多くの人々の関心を集めた。卒業式の準備に追われていた笠雲は、父親から橋近くの屋敷に呼び出された。【笠雲嬢様】 「父上、お急ぎのご様子ですが、何かありましたか。」【石原】 「笠雲、見ろ。」【笠雲嬢様】 「開通初日でこんなにも賑やかになるなんて、素晴らしいですね。」【石原】 「ははは……これで我が一族の名が知れ渡るようになった。浮浪者どもは一生石原家に感謝するがいい!お前が計画した橋は、俺が架けてやった。これで憂うことなく、嫁に行けるだろう?」【笠雲嬢様】 「……」【石原】 「今日ここに呼び出したのもそのためだ。話をつけておいたから、この後会いに行け。卒業式などくだらない、放っておけ。」【笠雲嬢様】 「……はい。」【石原】 「うむ……橋は完成したが、浮浪者や山賊が入り込まないよう対策しなければ。見張りの武士を増やさねばならないだろうな。そういえば、お前は昨日珍しい花の話をしていただろう。興味深い話じゃないか。その花の販売を独占できれば、山の貴族だけでなく、外の貴族と商売することもできる。我々がこの山で一番豊かな一族になれば、橋なんぞいくらでも建ててやる……うっ……!!」【笠雲嬢様】 「きゃあ!!」笠雲が父親と話していると、殺意をむき出しにした武士が押し入り、何の躊躇もなく背後から笠雲の父に一太刀を浴びせた。二人が何か反応する前に、笠雲の父親は地面に伏していた。【笠雲嬢様】 「父上!!」【石原】 「お前は……誰だ……」【五兵衛】 「お久しぶりです、石原様、そして……笠雲先生。しばらく会わない間に、俺の名前まで忘れてしまいましたか?」【笠雲嬢様】 「彼は五兵衛、私の弟子です。でもどうして!」【石原】 「「無心刃」五兵衛……なぜそんな者がお前の弟子に??まさか……」【五兵衛】 「気づかれましたか、石原様。笠雲先生、あの時先生はまだ俺を知らないほど幼かった。お父上は俺の弟を殺したあと、俺を川に投げ入れた。だが生憎、俺は命拾いして川の向こうに流れ着いた。俺が三年間も潜伏していたのは、他でもない今日のためだ!!十里橋が落成したから、俺は「地獄」から復讐のために帰ってきた!」【石原】 「ちっ……俺の宝を盗んだお前の弟を……殺して何が悪い……」【五兵衛】 「俺の弟の命が、あんながらくた以下だというのか!?虫けらめ……死ね!」【石原】 「うっ……ごほっ……」【笠雲嬢様】 「!!!!五兵衛!!!」【五兵衛】 「笠雲先生……先生も分かってるだろ。山で路頭に迷う浮浪者が続出する原因は、先生の父上のような貴族が多すぎるせいだってこと。いつも教えてくれただろ、周りの人を、この世の人々を助けなさいって。なんで自分の父親には教えないんだ?仇は必ず討つ、しかし残念だな。もし先生と不見が手伝ってくれたら、俺はすぐに大名にまでのし上がることができただろう。もしこの件を不見が知ったら、きっと許してくれねえよな……先生、不見に手紙を書いてくれないか?先生のことは諦めろ、と。そして俺の傍で、全力を尽くせ、と。」【笠雲嬢様】 「……手紙を書いた後は、どうなるの?」【五兵衛】 「楽にしてやるよ、そしたら家族にまた会えるぜ。」【笠雲嬢様】 「……紙と筆を渡して。」五兵衛が俯いて地に落ちた紙と筆を拾い上げ、顔を上げようとすると、笠雲は彼の顔に何かの粉を撒いた。【五兵衛】 「ごほごほっ……なんだこれは……」【笠雲嬢様】 「眠り草で作った護身用の薬よ、眠りに落ちなさい。あなたに不見は渡さない。」【笠雲嬢様】 「不見……ここにいたのね!」幻境への道を開くと、手に花を持って教室で佇む不見の姿が笠雲の目に映った。【笠雲嬢様】 「真実を伝えなければ、心優しい不見はきっと五兵衛に利用されてしまう。いつの日か、不見の才能が彼を脅かす時がきたら、彼が不見に何をするか……そんなことさせない!あなたに真相を伝えに行くわ。あなたが架けてくれた橋のおかげで、あと少しで会える。五兵衛は……うっ!!ゴホッ………………………………………………どう…………して…………」【五兵衛】 「……眠り草だったか?なかなか強い薬だった、危うく眠っちまうところだったぜ。刀で小指を切り落としたからな。痛みのおかげで、眠らずにすんだ!」【笠雲嬢様】 「………………逃げて…………不見……………………………………」笠雲が動かなくなったのを見た五兵衛は、彼女にとどめを刺した。真っ赤な血が土に滲み、机の下に隠れた。【お節】 「笠雲先生はどこに行ったのかな……皆先生を見送るために来たのに、どうして何も言わずに帰ったんだろう。あ!五兵衛!」【五兵衛】 「よお。」【遊牧民不見】 「笠雲……笠雲先生は?」【五兵衛】 「先生なら、橋を渡ったぞ。」【遊牧民不見】 「どうして急に?子供たちへの手紙だって、まだ僕が預かってるのに……」【笠雲】 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……本当に現実感のある幻だった……幻だったとは思えない……幻境の中で死ぬと魂が傷ついてしまう、慎重に進まなければ……」【於菊虫】 「ぐーぐー……」【笠雲】 「於菊虫?あなたなの?」空が暗くなり、月さえもが姿を隠した時、於菊虫の体が青と赤の混ざった怪しい光を放ち、蠢き続ける下半身を照らした。危機を感じた笠雲は、すぐに於菊虫からもらった木の剣を抜いた。【笠雲】 「来ないで、あなたは一体誰なの?」【於菊虫】 「道理で最近夜になっても食べごろの虫が見つからないわけだ。お前らが盗んだんだろう?ふん、人間は虫を炒めたり、焼いたりするらしいな……美味しそうじゃないか。お前の腹の中には、まだ消化できてない虫が残ってるんじゃないか?切り裂いて確認してやる!」【笠雲】 「くっ!!」【於菊虫】 「おいおい、本当にこんな貧相な木の剣で私を止められると思うのか?ああ……分かった、昼間の私が教えたんだろう。はははは、弱虫の私は怖がりだが、本当の私は怖くなどない!さあ、その剣で私を倒してみろ。痛くも痒くもないぞ。」【笠雲】 「(昼の於菊虫は、幽思飲を飲まなかった。幽思飲が示してくれる山道に逃げれば、彼女から逃れられるかもしれない。)」【???】 「近畿の井戸に、怨念の虫卵あり。朝は露を飲み、夜は同族を食う。」【於菊虫】 「この腐った匂いは何だ?……悪くはない匂いだな。」【???】 「蛹になっても羽化せず、藁紙で覆うべし。幽思飲数滴に火山石二両、硫黄木剣で其の身を貫き、眠らせる。」突然於菊虫の足元に巨大な藁紙が出現し、すぐさま彼女を包み込んだ。それは虫の妖怪を捉える罠だった。【書妖】 「これが「蛇虫退治と登山木鑑賞」に載っている方法だ。作者は……不見。」【於菊虫】 「降ろせ!これは一体何だ!!」【書妖】 「幽思飲も硫黄木剣も持っているだろう、本の通りにやってみるんだ、笠雲さん。」【笠雲】 「あっ!幽思飲を数滴……木剣で其の身を貫く……」【於菊虫】 「やめろ!!!!あああああああ!!!!!………………」【笠雲】 「お、おとなしくなったみたい。」【書妖】 「よかったね。」【笠雲】 「何か特別な香りがする。藁紙で包まれた場所が、すごく柔らかい。」【於菊虫】 「葉っぱで包んだ寿司みたいな言い方はやめてください……」【笠雲】 「きゃあ!」【書妖】 「心配しないで、どうやら昼の於菊虫に戻ったみたいだ。うーん……昼の於菊虫、夜の於菊虫というのは不便だね。これから昼の於菊虫のことは、お菊と呼ばないかい?」【於菊虫】 「……昼に来ると言っていたでしょう?どうして夜になったの?」【書妖】 「ごめんね、昨日の夜は山の古書に夢中になって、うっかり徹夜してしまったんだ。それで昼寝したってわけさ。目を覚ますとすっかり夜になってたんだ、面目ない。笠雲さん、御高名はかねがね伺っております。僕は書妖、お菊さんと山神様に頼まれて参りました。」【笠雲】 「私のことを知っているの?」【書妖】 「本の中で何度も拝見しております。この地の山神様は、収集家の神様です。古書や骨董品の類をたくさん集めていました。光栄なことに、僕の本も何冊か、山神様の収蔵品に加わりました。そのため、時折不見岳に訪れ、山神様と本を交換したり、山神様に本を売ったりしています。お名前は何度も山の史書で拝見しました。千百年に渡る輪廻の中で、この地に計り知れないほどの影響を与えた存在を、僕が知らないわけがありません。」【笠雲】 「はあ……うっ……」【書妖】 「少し休んでください。幻境が現実になったことで、並々ならぬ負荷と衝撃があったのでしょう。それに、笠雲さんはまだ「荒魂」ですから、気をつけねばなりません。」【於菊虫】 「……うん。」【笠雲】 「ありがとう……」【書妖】 「そういえば、山の中でお菊さんのものを見つけた。この虫食い跡が散見する本だ、君に返すね。」【於菊虫】 「ど、どうして私の本だと?名前も書いていないのに。」【書妖】 「確かに。それにこの本にある署名は笠雲さんのものだ。僕は本に残っていた妖気から、持ち主を特定したんだ。」【笠雲】 「え?どうして?」【於菊虫】 「……」【笠雲】 「本を食べたことを咎めるつもりはないの。古いものは、いつか滅びる定めだから。でも私は、どうしてあなたが私の前に現れたのか、私とどんな縁があるのか知りたい。」【於菊虫】 「それだけ話せるということは、十分休めたみたいね。四合目に向かいましょう。……他のことは、四合目に着いたら話しましょう。」 |
四合目
四合目ストーリー |
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【笠雲】 「こ……この雰囲気、さっきまでの物寂しい三合目の雰囲気とは全く違う……」【書妖】 「はは、何て面白い時代なんだ。この衣服といい、荘厳な通り道といい、今生の笠雲は、素晴らしい人生を歩んだようだ。爽やかな風が吹き、あの人も一人寂しく……」【於菊虫】 「でもここに住む人々は、皆苦しんでいるだろう。」【書妖】 「ああ……笠雲さんの気持ちを考えられず、申し訳ない。書物の中の事が、現実に再現され、その人物とお近づきになれることに、興奮を隠しきれないんだ。」【於菊虫】 「構わない。」【笠雲】 「お菊さん、あなたと私は一体どういう縁なんだろうね?」【書妖】 「そうだ、どうして腹を割って話してくれないんだ?」【於菊虫】 「……私はかつて、山に住むただの虫の妖怪だった。不鳴岳で生まれ、不尽岳で育ち、不見岳にやって来た。酷い寒さだったが、食べ物は美味しかった。寒さを好むようになった私は、よく不見岳の頂へ行ったが、ある時持っていった食糧が足りなくなった。私は偶然山神の書庫に入り込んだ。山神に見つかった時には、古書を一箱分食べてしまっていた。」【書妖】 「古書を一箱分……うん……」【於菊虫】 「皆も知っているように、この山は霊力に満ちている。それは書籍も例外ではない。古書の中に込められた霊力が、私に影響を与えた。書物の中の感情、記憶、そして知識が全て、私の魂の一部になった。私は自分自身が書物の中に記された「先生」だと錯覚し、第二の魂が生まれた……それが、「お菊」と呼ばれる私。」【笠雲】 「お菊さんは第二の魂だったの?じゃあ本来のあなたは……」【於菊虫】 「そう。夜に現れる、残忍で無情、冷酷で狂った私。それこそが本当の於菊虫。当初の私は真相に気づかず、多くの蝶になる子供たちを、まるで書物の中の「笠雲」のように育てる教師になった。私は彼らが姿を消した時、自由を手にしてこの山脈を離れたのだとばかり思っていた。目が覚めて、食べ尽くされた繭を見つけるまで、この体に別の人格がいることを知らなかった。あの消えた子供たちは、皆……夜の於菊虫に食べられてしまった。この世に私ほど愚かな妖怪が他にいるだろうか……」【笠雲】 「そういうことだったの。」【書妖】 「犯人は夜に現れる於菊虫で、君はそれを知らなかっただけだ。愚かなんかじゃないさ。」【於菊虫】 「慰めてくれてありがとう。」【書妖】 「書物のことは残念だけど……」【於菊虫】 「それは……ごめんなさい……」【歌女笠雲】 「!!二人とも聞いて。この地に眠る武士の亡霊が叫び出したみたい。居場所を知られてしまうと、まずいことになる。」【於菊虫】 「(小声で)それは大変だ……」【書妖】 「……」【歌女笠雲】 「二人とも、私の後ろについてきて。私の記憶も段々戻ってきたから。想定外のことがなければ、あなた達を連れてこの道を進むことはできる。」【義武刃】 「ふわぁ……眠てえなぁ……あの女に会ってから、運がだだ下がりだぜ。また夜の当直にさせられるなんてよ。本当なら美味いもんでも食って夜を過ごすはずだったのに……」【清平刃】 「立て!我らは大名様のために、名前も、睡眠も、心臓も全て捧げたのだ。全てを大名様に捧げる身、居眠りなど許さぬ!」【義武刃】 「わかったよ……お前は真面目な性格だが、こんな素晴らしい夜にはちょっとくらい楽しみたいと思わないのか?大名様は今日は何も用事がないのだろう?さっき歌女を召されたと聞いたぞ。確か名前は……笠雲とか言ったか?」【清平刃】 「笠雲ではない、結香だ。」【義武刃】 「あれ……大名様は笠雲が一番のお気に入りなんじゃ?どうして彼女を呼ばないんだ?ああ、分かったぞ、お前が笠雲を独り占めしようというのだな。この裏切者め!」【清平刃】 「馬鹿を言うな!大名様を裏切るわけないだろう!(小声で)……彼は私に貸しがあるがな……」【義武刃】 「ん?何か言ったか?」【清平刃】 「ともかく、笠雲を大名様に近づけてはならぬ。あの女は危険だと、私は一目で見抜いた。あの女の舞う様子、きっと何か下心があるに違いない。」【義武刃】 「何言ってんだ……大名様に近づく女に「下心」がないはずないだろう!大名様はこの山で最も権力を持っていて、家臣はこの山のあちこちにいて、都の貴族たちですら恐れをなしている。お前は外の歌女たちが、大名様の寵愛を受けるために血みどろの争いをしていることを知らないんだ。」【書妖】 「反吐が出る。」【清平刃】 「誰だ!?さっきからこの道に、何だか奇妙な気配を感じないか。大名様を喜ばせようという輩も多いが、大名様を暗殺しようという賊も多くいる。我らの任務は、この重要な道を守り抜くこと。鼠一匹たりとも通してはならぬのだ。」【義武刃】 「まぁまぁ、安心しろよ。この義武刃の刀が、鬼だろうと一太刀で倒してやる。大名夫人よりもしつこいな。」【清平刃】 「しつこいのはお前だ!」【義武刃】 「しっ。あそこだ。」【歌女笠雲】 「!!(戦いになりそうだ。)」【義武刃】 「そこでこそこそ何をしている!早く言わねえと、この刃がお前を叩き斬るぞ!」【お薬】 「ちっ、気づかれちまったか。ついてないな。」【義武刃】 「誰かこいつを縛りあげ、事情聴取しろ。我々武士の刃から逃れようなどと、一体どこから入り込んだ鼠だ?」【清平刃】 「おい、廊下の声が段々大きくなっているぞ。大名を殺そうという賊どもが動き出したようだ。早く室内のやつらに援軍を頼まねば。」【義武刃】 「何?なぜ小汚い鼠どもがこんなに?まさか手を組んでるんじゃないだろうな?」【歌女笠雲】 「(ど、どうして他の人たちが……まさか彼らは皆……)」【お薬】 「(小声で)山神様のご加護で、この戦いに勝てますように……笠雲様。」【於菊虫】 「室内の武士が一斉に廊下に押し寄せている。今は室内に入り込む好機だ。歌女笠雲、表向きは大名が寵愛する、か弱い女子。しかし奇妙なのは、なぜ彼女がここに「潜入」し、これほど多くの仲間と協力しているのか。歌女の正体は、一体?」【書妖】 「どれどれ、探してみよう。これほど何度も輪廻転生していたら、読むのに時間がかかるぞ……ここだ、この記録に記されている。「笠雲という名は、かつて裏組織での呼び名であった。この組織は民衆の為に働き、民衆を抑圧する敵に対してだけ手を下した。」暗殺組織か?」【歌女笠雲】 「この人生における笠雲は……ただの名前ではなく、組織での呼び名になっていたのか。幼い頃、私の父は武士を咎めたことで、町中で暴力を振るわれ、殺され、私は生き残るために物陰に隠れていた。私は混沌とした街で育ち、優しい人に引き取られ、歌女としての訓練を受けた。その武士に気づかれないように、私は何時も名前を変えた。「笠雲」という名前に出会うまで。その時の私は、既に元の名前など忘れていた……彼らは組織の呼び名を、私の名前として貸してくれた。彼らは、私が武士たちを統率し、父と罪なき民を殺したあの武士に復讐することを望んだ。」【於菊虫】 「ちょっと、後ろを見て……あれは晴明か?」【書妖】 「武士に囲まれた通路も、晴明にはどうってことないようだ。」【於菊虫】 「彼に捕まるわけにはいかない!」【歌女笠雲】 「晴明って誰?」【於菊虫】 「我々を追っている陰陽師だ、彼に捕まるわけにはいかない。」【書妖】 「僕は晴明様と懇意にしている。感情を以て行動し、理屈も理解される方だ。晴明様なら僕たちの目的を理解してくれるだろう。」【於菊虫】 「(小声で)お前は山神様が、彼らに何をしたのか知らないのか……」【書妖】 「お菊さんは何を心配してるんだい?僕が代わりに仲直りしてあげるから、一緒に行動しないか?」【於菊虫】 「(小声で)あいつに陰陽師の足止めをさせるのもいいが、もしかしたらあいつにはもう利用価値はないかもしれないな……わかった、では我々の代わりに挨拶をして、状況を説明してきてくれ。また後で、四合目の終点で合流しよう。」【書妖】 「了解。」【於菊虫】 「……ふう。多くの武士が通路に出て行った。ここに残っているのは精鋭だけだ。笠雲、道はまだ覚えているか?」【歌女笠雲】 「ええ、覚えてる。あれは……不見!」【於菊虫】 「なぜだ、彼がここに現れるわけが……」【歌女笠雲】 「彼はあそこで、大名の門の外を守っているみたい。う……頭が痛い……」【於菊虫】 「(笠雲の目に映る不見は、どうやらあの場所を守っているようだ……躊躇っている暇はない。書妖のやつが足止めをできる時間もそう長くはない。)行けそうか?」【歌女笠雲】 「ええ……大丈夫。」【於菊虫】 「よし、武士たちの視線をかいくぐって、一気に駆け抜けるぞ。」【歌女笠雲】 「大名の部屋に入って、結香を助けないと。彼女が私に協力してくれたらいいけど、時間がないから、ゆっくり交渉するわけにはいかない。ここから入れば……」【義武刃】 「おやおや、誰かと思えば……絶世の美女、笠雲様じゃないか?」【歌女笠雲】 「!!」【義武刃】 「外の陽動作戦はあまりに露骨だ。お前たちは俺の知能を過小評価していたようだな。これは一網打尽の好機だ。外でわざわざ一匹ずつ鼠を捕まえる必要がなくなった。お前たちの今日の計画に感謝しないとな。」【歌女笠雲】 「くっ……あなた一人で、援護もなく私たちを捕まえられるとでも思っているの?」【義武刃】 「おっと怖い怖い、でもそういうの好きだぜ。安心しろ、笠雲さん。室内に戻ってきたのは俺一人だ、お前たちの計画はまだ仲間には伝えていない。お前たちに俺の腕前を見せてやりたいからな。」【歌女笠雲】 「……」【義武刃】 「お前と初めて会ったあの夜、俺は酔っていたから、少し乱暴になってしまった。あの愚かな不見が俺がお前を傷つけようとしていると思いこんで、俺たちの間にすれ違いが生じた。お前ほどの絶世の美女、俺が傷つけるわけないだろう。」【歌女笠雲】 「……あの時、不見は私を救い、護身術を教え、勇気づけてくれた。貴様など、不見の足元にも及ばない。」【義武刃】 「ちっ……あいつの口車に乗せられたか、なんで分かってくれねえんだ!」【歌女笠雲】 「近寄るな!」【義武刃】 「騒げばお前の計画は失敗し、命まで失っちまうかもな?辛抱強く耐えれば、可能性は薄いが、生きて計画を達成できるかもな。へへへ、さあどうする?」【歌女笠雲】 「(ごめん、皆、私はもう皆の期待に応えられないみたい……)」【土ばあ】 「あらまあ、これは義武刃様ではありませんか。殿方のお部屋にお茶をお届けに行くところなのですが。」【義武刃】 「うるせえ、ばばあ、邪魔すんな。」義武刃は振り返ることなく土ばあに向かって罵詈雑言を吐いた。しかしそんな隙だらけの彼は、土ばあに後ろから体を刺し貫かれた。【義武刃】 「うっ!!ばばあ……お前もやつらの仲間だったのか!?」義武刃が刀を抜き土ばあを道連れにしようとしたその時、いち早く彼の意図を察した笠雲が素早く匕首を抜き、彼の喉を切り裂いた。【義武刃】 「ゴホ……はあ………………」【歌女笠雲】 「はあ、はあ、はあ……」【土ばあ】 「よくやった、笠雲。やはりお主を選んだのは正解じゃった。結香はすでに気絶しておった。彼女の書を持っていけば、大名のいる部屋に入れるはずじゃ。わしらの長年の悲願を成し遂げられるかどうかは、お主にかかっておる……大名の傍にはいつも腕の立つ武士が二人ついていると聞いておる。そのうちの一人が、お主も知っておる不見じゃ。」【歌女笠雲】 「不見は……やはり忠義を貫く道を選んだのですね。彼は大名に恩があります。たかが歌女のために、主を裏切る彼ではないでしょう。」【土ばあ】 「ほほ、男はこうだから困るのう。彼なら決して悪の味方はせぬと買い被っておったが、結局下劣な武士たちと同じじゃった。」【歌女笠雲】 「土ばあ、彼は違います。」【土ばあ】 「はいはい、お主が彼を好きじゃと知らぬわけではない、わしはただ男を信用しておらぬだけじゃ。……今までずっとお主には隠してきたが、わしの一族はな、この山で最も有名な武士の家じゃった。わしらのご先祖様である五兵衛様は、一から富を「蓄え」、事業を展開し、最後は莫大な富を築いた。わしの父の代までは、五世代にわたって男子一人だけの家系じゃった。父はわしが生まれてすぐに死んでしもうた。そして女子が武士の名を継承することを、老いぼれたちはどうしても許してくれなかったのじゃ。わしも若い頃は、修行に励んでおった。しかし最後は努力もむなしく、卑怯な手を使った分家の能なしの男どもに家業を奪われてしもうた。」【歌女笠雲】 「過去にそんなことがあったから、土ばあは武士が憎いのですか?」【土ばあ】 「最初はそうじゃったが、わしはいつも「武士」への劣等感を抱いて生きてきた。しかし年をとって、少しずつ納得できるようになった。「男が家を受け継ぐべし」と定めたのも、わしのご先祖様なのじゃから。この観念は代々人々を支配してきた。例え特定の世代にだけ復讐しても、わしはきっと満足できぬじゃろう。ご先祖様が集めた古書を読んでいると、「笠雲」と、名もなき人との物語に出会った。飢饉に呪われた時代を救った彼らに、わしは感動した。」【歌女笠雲】 「それから「笠雲」という名の暗殺集団を立ち上げたのか。」【土ばあ】 「名もなき人のことは、探したくてもどうにもならぬ。わしは「笠雲」に希望を託した。我々の使命は民を虐げてきた悪者を排除することだけではない。この時代での責任も背負わねばならぬ。お主は強く優しい子じゃ。もしこの時代にも「笠雲」が必要となれば、それはきっとお主のような者じゃろう。……誰かを好きになることに対して、わしは反対したりせぬ。しかしあの者が本当に信じるに値するのか、敵なのか味方なのか、しっかり見極めねばならぬ。お主が独り立ちした強い人間でなければ、愛に惑わされてしまう。」【歌女笠雲】 「土ばあの言葉、笠雲は心に刻みました。笠雲は絶対に期待を裏切りません。それ以外のことは……もし生きて帰ることができたら、その時また考えましょう。」【歌女笠雲】 「大名の部屋はすぐそこだ。あと少し。」【武士不見】 「行け、振り向くな。」【武士不見】 「やはり来てしまったか、笠雲。……」【歌女笠雲】 「私が来ることは、分かっていたはずだ。「笠雲」を名乗る以上、これが私の使命であり、私の願いでもある。あの日助けてくれたこと、一番つらい時に傍にいてくれたことは、感謝してもしきれない。でも荒んでゆく町を、横暴な侍に怯える民の姿をあなたも見たでしょう。これ以上我慢しても、きっと何も変わらない。武士であるあなたには、私たちの苦しみは分からないかもしれない。……ごめんなさい。」【武士不見】 「お前は己の心に従って選択しただけだ、謝る必要はない。今度は、僕が選択する番だ。」【武士不見】 「お前にしてやれるのはここまでだ。あとは全部お前次第だ、笠雲。」【笠雲】 「私は無事に大名の部屋に侵入し、生き残った。この人生の結末は五合目の上にある。この境目を跨げば、旅は半分終わったことになる。」【於菊虫】 「危ない!」ヒュッと音が聞こえたあと、二本の色の同じの矢が於菊虫の体に刺さった。笠雲を庇いながら、彼女は射手が隠れている場所を探した。しかし射手がまだ見つからないうちに、霊力でできた水色の鎖が足元から襲い掛かってきた。全身を縛られた彼女は、身動きが取れなくなってしまった。【源博雅】 「遅いぞ、晴明。危うく逃げられちまうところだったぜ。」【晴明】 「彼女たちはこの山と幻境の地形に詳しいからな、追跡は容易ではない。でなければ、わざわざ挟み撃ちにする必要もない。」【於菊虫】 「忌々しい陰陽師め……放せ!書妖、時間を稼ぐと約束しただろう!」【書妖】 「この山の古書のために協力したけど、君はまだ僕に何か隠してるよね。幻境はこの地の山神が作ったもの、彼はなぜ山の記憶を現実のものにしようとするのだろう?彼はこれが陰陽の理に背く行為であり、山の悪霊を世に放つことになると知っているのだろうか。」【源博雅】 「……一旦笠雲の荒魂を封印してから、改めて山神と話すとするか。」【笠雲】 「……」【不見岳】 「手を煩わせる必要はありません、あなたたちは笠雲の魂を封印することができない。」晴明たちの意表をついて、不意に現れた不見岳は、神力を使って於菊虫の傷を治した。【源博雅】 「!?」【晴明】 「これは……なるほど。君は笠雲の魂を体内に取り入れた。魂が融け合い、一つの陰陽を築いている。だからいつでも体の主導権を切り替えられるというわけか。しかしそうなると、すぐに体がもたなくなるはずだ。なのになぜまだ霊力が安定してるんだ?」【不見岳】 「大陰陽師の名は伊達じゃないか。元はと言えば、僕と彼女は古の山神の魂より分かれた二つの存在。つまり、同じ起源を持っています。彼女の魂を少しの間僕の体に取り入れたとしても、特に問題はありません。」【書妖】 「さっきの笠雲さんは、山神様だったのか!?解せぬ、解せぬ。」【小白】 「……」【不見岳】 「小白。」【小白】 「気安く小白を呼ばないでください。愛する人を蘇らせるためなら、最初からそう小白に言ってくださればよかったのに。友達だと思っていたのに。どうして小白を騙したんですか!小白が贈ったものも握りつぶしてましたし!」【不見岳】 「……ごめんね。今までたくさん勘違いや裏切りを見てきたから、登山者の素性を確かめずにはいられなかったんだ。」【小白】 「小白は謝罪の言葉なんて聞きたくありません。山神様、小白の大切な仲間がまだ二人足りません。」【源博雅】 「そうだ、一体神楽をどこに隠したんだ?早く神楽を返せ!」【千歳】 「ふん!わしはもう見ていられぬ!お前たち、勝手に不見岳に侵入された我々の気持ちを考えたことはないか!狡猾さで有名な狐の妖怪の末裔が一人、源頼光の親戚に当たる武士が一人。後は怪しい力を持つ生贄の巫女に、八岐大蛇と取引して数百年生きた人間か!?この四人が断りもなしに不見岳に侵入してきたら、山神である彼は放っておくわけにいかぬだろう!まったく、数百年間この山を守り続けてきた彼の身にもなってほしい!」【小白】 「!!で、でも、小白たちは何も聞かれませんでしたよ!」【千歳】 「あのな、あいつは疑い深くていつも拗ねているんだ。人間の言葉で言えば、なんじゃったか?……忘れた、とにかく疑い深くて拗ねているやつだ。彼は誰のことも信じていない。だからお主ら四人を山に閉じこめてその素性を観察していた。そしてただ一つ例外として、夢山の主と共にいることを選んだ。」【不見岳】 「幽思飲を飲めば、記憶の道ははっきり見えるようになるけれど、同時に現世との繋がりを邪魔してしまう。山神と山霊の声以外、何も聞こえなくなる。最初は君と一緒に晴明を見つけたら、幽思飲の力を取り除くつもりだった。」【小白】 「じゃあどうして霜雪を握りつぶして、幻境を現実のものにしようと?」【千歳】 「そ、それは……そうじゃ、なぜ人からの贈り物を壊した?」【不見岳】 「それは、天羽々斬が関わっている。」【晴明】 「天羽々斬……山神様、なんの断りもなく勝手に押しかけてきて、本当に申し訳ありません。山神様は何の見返りも求めず、人知れずこの地をお守りになっているので、我々は山神様の存在すら知りませんでした。ご無礼をお許しください。先ほど、小白の力を借りて幻境を現実のものにしたのは天羽々斬のためだと仰いましたが、詳しく教えていただけませんか?残りの二人の仲間の行方も、教えていただければ。」【不見岳】 「不見岳と呼んでください、それにそんなに改まった口調でなくても……遥々やってきてくださったのに、僕が疑い深いせいで、もてなすことすら疎かになってしまいました。もしもう一度信じていただけるなら、一緒に五合目に行きましょう。この山の秘密も自ずと分かります。」 |
五合目
五合目ストーリー |
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【晴明】 「雪が止み、空は晴れ、雲が薄くかかっている。五合目の上、観山不見。筆を取り、一つ詩でも読みたい気分だ。」【源博雅】 「おい、時間がないんだ、帰ってからにしてくれ。」【晴明】 「それではだめなんだ、帰ってからでは、この山風も山の景色も鑑賞できないだろう?」【不見岳】 「天羽々斬の件が解決したら、また皆さんを山登りに招待しましょう。そうすればちゃんと景色を楽しめますよ。」【晴明】 「流石不見岳、この趣を理解しているようだな。」【源博雅】 「おい……悪いが、俺は早く神楽を見つけたいんだ。」【不見岳】 「小白は……まだ僕に怒ってる?」【晴明】 「心の整理がつかないから、理解するのに少し時間が必要なだけだ。どうして不見岳は、小白の夢山の力を借りて、幻影を荒魂に変えたんだ?天の理に反していると知りながら、自分の意見に固執している。外に知られたら、不測の事態になりかねない。」【不見岳】 「皆さんがここに来た本当の理由は、この地に眠る天羽々斬を調査するためだということは分かっています。邪神に見つかりたくないというのなら、この山における皆さんの痕跡を消してあげましょう。秘密を交換し合ってこそ、強固な協力関係を築くことができます。目的が同じなら、断る理由もないでしょう。」【晴明】 「そうだな……山の事は山に詳しい者に解決してもらうのが一番だ。その取引、受け入れよう。」【不見岳】 「わかりました。僕が笠雲の魂をこの世から切り離した理由、それは山の霊脈を再構築して、万物を守る結界を作るためでした。この山には古い歴史があり、霊脈の構造をすべて解析することは出来ませんでした。だから山の神の魂の片割れ……つまり笠雲の力を借りる必要があったのです。結界が完成すれば、僕は全てを元に戻します。」【晴明】 「結界を作るということは、まさか天羽々斬が……」【不見岳】 「そうです。千年前にあの神剣が山に落ち、山の生き物と地形に非常に大きな影響を与えました。邪神の穢れが山に染み込みました。山を元に戻すため、年老いた山神は魂を二分し、笠雲と僕にこの地を守るための力を託したのです。しかし、穢れは瞬く間に呪いへと変化し僕と笠雲を蝕み、僕たちは神剣を守ることができませんでした。僕たちは輪廻の渦に巻き込まれただけでなく、呪いによって絶えず引き離されていたのです。共に人生を歩むことができないというのは、僕たちにとって耐えがたい苦しみでした……」【晴明】 「この山の名前は、君の名前から取っているんだろう。百年間異変もなく、花も木も保護されていて、穢れは既に無くなっているようだ。どうやって穢れを祓ったんだ?」【不見岳】 「穢れは、ここにあります。」そういうと、不見は自らの身体を指さした。【不見岳】 「輪廻の最後の人生で、笠雲は僕より数十年早く生まれていました。彼女の遺した古書に、輪廻を断ち切る方法が書いてあったのです。そして彼女は十合目の梯子を作り、山に魂を捧げ、世間からこの山を隠すための霧を作り出したのです。彼女を失った僕は、もはや呪いの苦しみを経験する事はなくなりましたが、今でも夢の中で呼び声が聞こえることがあります。僕は梯子を上りながら、この千年の出来事を少し思い出していました。僕が彼女に近づくほど、多くの呪いが僕の身体に集まってきました。僕は十合目で決意しました……この山と一体になり、山神の身体を以て邪神の残した穢れを取り込んでしまおうと。」【晴明】 「一生その身を苦しめる呪い……君はどうやってその苦しみに耐えたんだ……」【不見岳】 「最初は、あまりの痛みに山に響くほどの声で叫びました。泉の水で痛みを和らげ、溶岩で身体を清めたのです。二年ほど経ち、僕は呪いに耐えながら、普通の生活を送れようになりました。十年経って、段々と感覚が麻痺してきました。今では呪いが身体を蝕んでいても、何の不便もありません。ただ五感が鈍り、喜びも苦しみも全て消え去りました。僕にとっては、全てが無意味なことです。」【晴明】 「……自由を手にしたのに、その自由を手放した。雪が溶け、山には春が訪れても、百年もの間、世の中を見ることができなかった。君の旅を追体験させてもらえて、実に光栄だ。」【不見岳】 「恐れ入ります。前世の事は、既に煙のように消えてしまいましたから。」【書妖】 「君とは良い友達になれそうだ。これほどしっかりした意思を持っているとは思わなかったよ。」【於菊虫】 「……余計なお世話だ。」【書妖】 「君は一体、何を目指して旅をしているんだ?言わないでくれ、君は書庫に行って本でも読むといい。それには全く同意できないね。」【於菊虫】 「しっ……たしかに書庫に行くつもりだ、でも本を読みに行くんじゃない。騒ぐな。もし皆に誤解されて追い出されでもしたら、お前の家の本を全部食ってやる。」【書妖】 「!!はあ。僕と山神様が交換していた書物は、全部珍しいものなんだ。最終的に、ちゃんと使えればいいけど。」【不見岳】 「二人は仲がよさそうだね、何を話していたんだい?」【於菊虫】 「何も!」【書妖】 「ははは、山神様、ただの食後の世間話ですよ。」【不見岳】 「そうだ……陰陽師たちが、すぐに仲間と会いたがっている。手遅れになる前に、皆すぐに出発して五合目へ向かうんだ。」大名の部屋で、笠雲が企てた暗殺は失敗に終わった。隣の部屋から不見の長刀が大名を貫き、笠雲を危機から救い出した。【歌女笠雲】 「なぜ私を助けた……あなたは武士を裏切った。やつらはきっとあなたを許さない!」【武士不見】 「不思議だ、この山の武士は山に頼り生きることは信じているのに、目の前の事がおざなりになっている。大名様も分厚い鎧を着ているから、正面から刀で刺される事はないが、後ろにはいくらでも隙がある。」【歌女笠雲】 「あなたは……最初からそのつもりだったのか?私が大名の正面にいれば、後ろから斬りかかることができると。でもこれでは、あなたは主を裏切った罪人だ。今回の事は成功しても、どうやって世の中にあなたの潔白を証明する……」返事を考えていた不見は、よく考えた後、いつものように微笑んだ。【武士不見】 「この地を離れたら、彼らには僕が悪党の首領だと伝えてくれ。お前は忠義の厚い武士に命を救われたというんだ。」【歌女笠雲】 「断る……自分の責任は自分で負う。」【武士不見】 「お前の責任は「笠雲」を守り続けることだ。目の前の荊の道を切り開き、武士を越えて山の民を前に進ませろ。」【清平刃】 「おい!!賊が大名様の部屋に入り込んだぞ、追うんだ!!」【武士不見】 「まずい。逃げるよ、僕の手を掴んで。」全ての兵士に通知が出されました。激しい追撃に注意してください。地形を利用して敵の兵士を交わせば、ダメージを受けずに済みます。【清平刃】 「内部への道を塞げ!全ての武士は通り道を塞げ!相手が最強の武士であろうと、私は退かない!」【武士不見】 「く……くそっ!!僕はお前たちを斬り刻んで、あの人の敵を討つと決めたんだ!!!」【歌女笠雲】 「はぁ……はぁ……」【武士不見】 「ここで息を整えておいて。道は狭いから、人海戦術を展開できない。ここにいれば僕たちに利がある。」【歌女笠雲】 「うん……」【武士不見】 「生きて出られるか分からないから、長い間隠していた秘密を最後に打ち明けよう。お前と出会ったあの日、助けられたのはお前だけじゃなかったんだ。」【歌女笠雲】 「何……貴様は私以外も助けたのか?……さすがは武士様。」【武士不見】 「違うよ、そういう意味じゃない。お前のおかげで、僕も救われたんだ。お前は、僕が大名の手下になる前に、どこにいたのか知ってるかい?」【清平刃】 「お前たちはもう逃げられない、とっとと出てこい!義武刃め、この大切な時にどこに行ったんだ!」【歌女笠雲】 「今、そんなことを話している場合?」一触即発のこの状況で、不見の目はこれまでにないほど平然としていた。それはまるで、この先の結末がどうなるかを知っているようだった。【歌女笠雲】 「……わかった、言って。」【武士不見】 「僕はもともと道場の武士だった。でも師匠が借金のせいで道場を売ることになって、僕は家を失ったんだ。その時、大名が僕に食べ物を恵んでくれた。その恩返しの為に、僕は彼の忠義の刃となり、長年彼に仕えたんだ。しかし、時が経つにつれ、僕はたくさんの秘密を知ることになった。大名は望んだものを手に入れるため、他人から奪い、人の弱みにつけこんでいたんだ。時には山賊を雇って、武士の妻を迫害し、武士に復讐を煽ったり、巨額の報酬を払って武士の一族に投降するよう促したりもしていた。僕はずっと考えていた。あの時師匠が賭場に行って返そうとしていたのは、何のお金だったのか……」【歌女笠雲】 「大名の仕業だというのか?」【武士不見】 「わからない。でもそうだとしても、既に証拠は消されていた。もう誰も真実を知ることはできないさ。僕は自分の「忠誠心」に疑問を抱き始め、この刀を戦いに使うべきなのか疑問に思い始めた。大名の開いた晩餐会の後、僕は明るく照らされた通りで道に迷い、その時武士に絡まれているお前に出会ったんだ。お前の言った言葉は、僕の心に突き刺さったよ。」【歌女笠雲】 「……私は何と言った?」【武士不見】 「あの時、お前は義武刃を叱りつけたんだ。「悪を斬るわけでもなく、老人や弱い女子供に威張るだけのために持っている刀なんて、火の中に投げて溶かしてしまえばいい」と。あの日から、僕はどんな敵に遭おうとも刀を抜くことはなくなった。僕は罪深き悪を斬る時にだけ、再び刀を抜くと決めたんだ。」【歌女笠雲】 「刀を抜かない武士……不見の刀、ふふ。それほどの実力があるのに、どうしてあの時義武刃と引き分けたのか不思議だった。そんな真相があったのか……」【清平刃】 「ふん、このまま膠着していたら、賊に休む暇を与えるだけだ。突撃する方法を考えよう。お前!それからお前!お前らはこっちに来い!」【武士不見】 「話したいことがまだ沢山あるから、死ぬのは惜しいがどうしようもない。死ぬことが運命なら、光の中で死なせてくれないだろうか?さっきは、お前の為に刀を抜いた。次は刀を仕舞う時の一撃で、全てを終わらそう。」そう言うと、不見は残った力を振り絞り、無数の敵を葬り去った。そこには鮮血で染まった一本の紅の道が出来上がった。【清平刃】 「我らは忠義のために死ぬのだ、絶対に退いてはならん!あいつを捕まえるんだ、裏切者を生かしておくものか!不見!!共に地獄に落ちようぞ!!!」不見と武士は、狂ったように戦った。刀が不見の内臓を貫いても、彼は戦いを止めなかった。その両目が空洞となり、力尽きて無になるまで。【武士不見】 「……くっ…………………………」【歌女笠雲】 「……不見……不見!!……」【清平刃】 「…………まだだ。はっ!」 |
六合目
六合目ストーリー |
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【於菊虫】 「この先が山神様の書庫よ。二度目だと、やはり気持ちも違うわね。これで悔いなく……」【不見岳】 「何をするつもりだ?」【於菊虫】 「!!山神……様。」【不見岳】 「体が笠雲の魂に操られていた時、僕の世話を見てほしいと頼んでも、君は何の見返りも要求しなかった。最初、再び書庫の古書に手を出すつもりじゃないかと疑ったけど、君は逃げることなく、僕たちと共に進み続けた。もしかして山道をどう進めばいいかも、書庫がどこにあるかも忘れたの?」【於菊虫】 「……以前、私は古書を食べることで理性を取り戻しました。最近古書を食べていなかったから、もうすぐあの残酷な於菊虫に戻ってしまうと思います。私の意識が完全に消える前に、私が生まれた場所でこの命を絶ちたいと思って、あなたの頼みを聞いたのです。これで、蛹になった子供たちは無事に羽化できます。」【不見岳】 「君は生き残りたくないのかい?」【於菊虫】 「私は本来であれば存在しなかった人格にすぎません。最初から命を持っていないし、生きているとは言えません。」【不見岳】 「生きているかどうかは、肉体ではなく、その人の行いによって決まるもの。君はかつて勉学に励み、他人に知識を与えていた。それこそが君が生きていた証だ。それ以外に理由が必要かい?それに君は僕の友達だ。僕は君に助けてもらったことがある。不見岳は決して友を見捨たりはしない。君を死なせはしない、残酷な彼女を山に野放しにしたりもしない。」【於菊虫】 「……」【不見岳】 「山の命のため、そして友のため、古書を君の霊力にしてあげるから、山の秘話と共に生きていって。」【於菊虫】 「私は……ありがとう、山神様。……私の秘密を暴いたのは、きっとあなたね?」【書妖】 「はは。紙は本となり、永遠に伝わる。筆は無情であり、霊は墨より生まれる。」【源博雅】 「まだ喧嘩してるのか……へっくしょん……!寒っ!!早く神楽の居場所を教えろ。この寒さじゃ、神楽が風邪をひいちまう。」【不見岳】 「山霊に彼女を麓に連れてくるように言っておいたけど、彼女は山霊の協力を断ったんですよ。六合目には僕の書庫があって、中は千年間かけて集めた本でいっぱいです。彼女は本に夢中で、帰りたくないのかもしれませんね。」【源博雅】 「なんだと?神楽が本好きだなんて、初耳だぞ。」【小白】 「博雅様、神楽様の好きな朝食は何か分かりますか?」【源博雅】 「朝飯か……あまり食べてるところを見たことがないな……子供の頃はよく蒸し卵を朝食にしたな、でも神楽は別に卵が好きなわけじゃないし。んん……唐揚げか?」【小白】 「それは博雅様の好物じゃないですか!だいたい、朝から唐揚げを食べる人なんているんですか?!博雅様は神楽様の好きな食べ物すら知らないんですから、読書好きであることを知らなくてもおかしくないと思いますけど。」【源博雅】 「この犬っころ……まあ、一理あるな。」【不見岳】 「神楽様は八岐大蛇に対抗した巫女だと聞いています。本に興味があるのは、それに関する資料を探すためではないでしょうか?そういった本なら、それなりにありますよ。」【晴明】 「ほう?山の歴史に関する書物ならわかるが、八岐大蛇に関する書物も集めていたのはなぜだ?」【不見岳】 「堕ちた天羽々斬、そして僕と笠雲の魂を邪神の呪いから守るためです。僕たちは山のために、呪いのことを調べてきました。最後に辿り着いたのは、八岐大蛇でした。お互いから離れると、邪神の呪いはその影響力を失うほど弱くなり、気づくことは困難になります。僕と笠雲が近づくと、魂と感情の共鳴が強くなり、呪いの力も増していくのです。人の情と欲が、呪いに力を与えたかのようでした。」【源博雅】 「確かにあの蛇がやりそうなことだ。人の感情と欲望を弄び、陰で人を嘲笑う。」【晴明】 「不見岳の言ってることが本当なら、ここに八岐大蛇の痕跡がないのは妙だな。」【不見岳】 「皆さんはご存知でしょうか、どうして古の山神が、二人の子を「不見」と「笠雲」と名付けたのか。」【源博雅】 「なんでだ?」【小白】 「どうしてですか?」【晴明】 「……雲纏いし岳、観山不見。山神の隠れ場所。まさか……八岐大蛇に見つからないようにするためか。」【不見岳】 「いかにも。神力だけで邪神に対抗することは不可能です。ましてや山神は争いを好みません。故に非対称な情報で誤魔化すのです。形、名前、存在しているかどうかすらわからない相手に対しては、どうすることもできません。」【源博雅】 「確かに人々はこの山のことを知らなすぎる。ごく少数の古物を除けば、不見岳に関する記述はどこにもなかった。非対称な情報か……得策だな。」【晴明】 「我々も使ったことのある策だ、忘れたか?海国との決戦の時、我々は云外鏡の力を使い、偽りの都を投影した。もし云外鏡の情報が漏れていたら、あの戦いに勝つことはできなかっただろう。」【小白】 「なるほど!戦では兵を動かすだけでなく、相手を惑わすことも重要なんですね。嘘と真、偽りと真実が混ざり合う。」【源博雅】 「はくしょん……!」【不見岳】 「もう春だとはいえ、六合目は冷えますね。幽思飲を飲んで、この人生の記憶を見てから、書庫で神楽様と合流しましょう。」それは、戦乱が絶えない時代だった。「青野家」の不見が前世の真相を知り、「森雲家」の将軍笠雲を追っていたが、第三の勢力である「藍木家」の待ち伏せを喰らった。【将軍笠雲】 「私に纏わりつくなと、何度も言ったはずだ。「藍木家」の邪魔が入っていなければ、今ここで貴様を斬っていたぞ……不見。」【兵士不見】 「そう怒らないでくれ、悪気はないんだ。森雲家は何人も民を受け入れているから、きっと今はそんなに余裕もないだろう。青野家の将軍は、本気で休戦を申し込んでいるんだ。野営地と食糧を分け、お前たちを受け入れる。それに言ったはずだ、幽思飲を飲めば前世のことが見えると。お前と僕は山神の責任を背負い、千年の輪廻を巡ってきた。今世こそ……」【将軍笠雲】 「これ以上ふざけたことを言ったら、来世に送ってやる!……休戦の話は、この場を切り抜けてからだ。」【将軍笠雲】 「「藍木家」最後の将校か。貴様を殺せば、岳北の勢力が盛り返すことはないだろう。」【藍木家将軍】 「や、やめろ……」笠雲は少しの躊躇もなく、一刺しで藍木家の将校の息の根を断った。【兵士不見】 「何故捕虜にしない?勝敗は既に決まっている。一人や二人生かしておいても問題はないはずだ。」【将軍笠雲】 「貴様は和談しに来ただけだ。「森雲家」のやり方をとやかく言われる筋合いはない。前世がどうであれ、今世には関係ない。二年間私に付き纏ってきた貴様を斬っていないだけ、ありがたいと思え。」【兵士不見】 「幽思飲は、もう飲んだのか?」【将軍笠雲】 「……ああ。」【兵士不見】 「お前は……真実を知って、どう思った?乱世の今、山岳には私が知っている勢力だけでも十数軍いる。現在に至る経緯を知るため、僕は史書を調べてみた。そしてようやくわかった。昔、山岳を統一していた大名が暗殺され、多くの武士が命を落とした。人命を粗末にする大名が排除され、統治者をなくした山岳は混乱に陥っていた。それ以降、人々は山の武士への信頼を失い、彼らを数十年間遠ざけていた。大名の座を引き継ぐ者は現れなかった。一方大名の家臣たちがそれを機に山を占拠し、主峰を囲み、家族間の戦争に火を付けた。大名を暗殺した大罪人「笠雲」と「不見」は……僕たちの前世だ。」【将軍笠雲】 「だったら、なぜ私にこだわる?今世ではお互い相容れない立場にいる。このまま戦争を放っておくと、また悲しい結末になりかねない。前世で犯した誤ちを、解決するにはまだまだ時間が必要だ。」【兵士不見】 「それでもお前の答えを聞きたい。」【将軍笠雲】 「答え?」【兵士不見】 「「天羽々斬が山岳に落ち、古の山神が魂を二つに分け、この地を守る」と古書に書かれていた。なぜ山神は魂を分けたのか、ずっと不思議に思っていた。完全な魂で転生すれば、これほどの苦難や試練は経験せずに済んだのに。山岳と生命を守るために、なぜこのような非合理的な方法を取ったのか、理解に苦しむ。」【将軍笠雲】 「ああ……確かに。」【兵士不見】 「その答えを知るため、僕は山岳を出て都で調査したが、疑問は深まる一方だった。こんな矛盾したことをする神は、他に誰一人いなかった。僕が出した結論はこうだ。山石と雲が互いを見守り、僕たちは魂と感情を得た。僕たちは二人で一つなんだ。」【将軍笠雲】 「二人で一つ……」【兵士不見】 「ああ、山神は僕たちに山岳の「情」を守らせようとしていたんだ。守護という行為自体、もともと虚ろなものだ。人々は欲のない英雄を作り出し、その命が尽きるまで世界を守ってほしいと祈る。だが真に尽きることのない守りの力は、人の桁外れの執念、感情、あるいは欲望から生み出されるもの。師は生徒のため、指導者は同胞のため、将軍は兵士のため……異なる時代、人々は異なる方法で山岳を守ってきた。喜怒哀楽、山神は僕たちに様々な感情を学ばせようとした。その願いを込めて僕たちを生んだのも、「情」の一部なのかもしれない。」【将軍笠雲】 「面白い解釈だな、不見。非理性的な感情に振り回され、非理性的な行為をした。それは天羽々斬を守る使命を背負った古の山神の怠慢なのではないか?」【兵士不見】 「……僕の答えを認めていないようだね。聞かせてくれ、お前の答えを。」【将軍笠雲】 「構わないが、うちの兵が来ている。またの機会にしよう。不見、私は森雲家の代表として、青野家との停戦を受け入れる。明日の正午、ここで和談を行うとしよう。」【明鑑】 「笠雲!怪我はないか!?斥候によると、不見のやつがまた出てきやがったらしいな。何もされてないか?」【将軍笠雲】 「大丈夫だ。藍木家将軍の首、確かにとったぞ。」【明鑑】 「お疲れさん。これで民を虐げ、我々を迫害する藍木家も消えた。」【将軍笠雲】 「明鑑さん、野営地の状況はどうだった?」【明鑑】 「ああ……落爺さんは息子の帰りを待てず、今朝亡くなった。刻ちゃんがまたご飯を食べなくなって、彼女の面倒を見ている馬場さんの体も限界だ……成り行きにまかせるしかないな。」【将軍笠雲】 「落爺さんのことは私に任せて。馬場さんと刻ちゃんのことも後で何とかする。不見がまた停戦を持ちかけてきた。青野家の将軍は、我々の兵と平民を受け入れてくれるそうだ。」【明鑑】 「……応じたのか?」【将軍笠雲】 「ああ。」【明鑑】 「はあ。」【将軍笠雲】 「戦の連続で、兵士たちは疲弊している。食糧も尽きた。長くは持たない。私には……他に選択肢がなかった……」【明鑑】 「笠雲、地面に散らばるこの手紙を見たか?」【将軍笠雲】 「血で書かれた文字、蒼雲の神に生を願う者たちが書いたものか。こんなにたくさん……」【明鑑】 「乱世の中、将士の家系は有能の士を巡って競い合っていた。見捨てられた老人子供、敗れた兵士の集まりである我々は、本来ならば山岳の狼に食われるはずだった。しかし森雲家は我々を、見捨てられた人々を助けてくれた。こうしてここで生きていられるのは、あなたのおかげだ……普通の人間ならともかく、生きる屍のような我々をも、青野家は受け入れてくれるのだろうか?あなたは我々の大将であるだけでなく、我々を救ってくれた神様でもあるんだ。」【明鑑】 「だから皆、あなたを蒼雲の神として拝み、悲しみ、苦しみ、恨みを手紙に書いて、永遠に我々を守ってくれと祈っている。皆で材料を掻き集めて、あなたに新しい鬼神のお面を作った。」【将軍笠雲】 「明鑑さん、私は普通の人間だ。私も悲しんだり、苦しんだり、恨んだりする。私の迷いは誰にぶつければいい?」【明鑑】 「だからあなたも我々を捨てるのか……?」【将軍笠雲】 「……」【明鑑】 「構わんよ、笠雲。我々は多くを求めすぎた。この乱世で自力で生きていけない者は、やはり魂となり山岳へ帰るべきであろう。あなたは小さな希望をくれた。その希望はあまりにも眩しくて、まるで大地を照らす太陽のようだ。だが結局それは幻で、あなたは笠雲という人間だった。お面をずっと見ていたせいか、本来のあなたを忘れてしまいそうだった。青野家と和談するがいい。明日の正午までに宴の用意をしておく。その後の運命は、本当の山神様に決めてもらおう。」【将軍笠雲】 「不見、貴様の言う通りだ。人々は欲のない英雄を作り出し、その命が尽きるまで世界を守ってほしいと祈る。その理由を考えたことはあるか……彼らの命と存在は他人に踏みにじられ、この世のあらゆる苦しみを味わってきた。生きるために、彼らは何かに頼らなければならなかった。私にも家族がいた。祖母は初代の蒼雲将軍だった。本来その甲冑を受け継ぐはずだった両親は、戦で命を落とした。私の両親を殺したのは、青野家の当代将軍だ。不見、貴様の主君だ。私の答えを知りたいと言ったな……不見。今世の私の目に、古の山神はそんなに美しく映っていない。魂を半分に分けたのは、無意味な感情を覚えさせるためではない。」私たちを殺し合わせ、千年の時を使って、天命を継承するに相応しい一人を決めるためなんだ……!【源博雅】 「神楽!!神楽!どこだ!!」蔵書の地に着いた途端、源博雅は破魔の矢のように中に飛び込んだ。【不見岳】 「あの……博雅さん、足元の本に気をつけてください……全てとても大事な本なので……」【千歳】 「よせ、人の妹をこんな高い場所に連れてきて、怒られてもおかしくないぞ。それに、本の内容はすでに頭に叩き込んであるだろう。そんなに大事にする必要はないはずだ。」【不見岳】 「紙の原料に高級な古木を使ってあるんだ、僕のお気に入りで……でも君の言う通りだ、家族の再会より大事なことなんてないよ。」【神楽】 「博雅お兄ちゃん。」【源博雅】 「神楽!どうして本の山の中に?寒くないか?怖くないか?ちゃんと飯食べてるか?不見岳のやつに悪いことされてないか?」【神楽】 「うん……大丈夫、私が本を読みながら待たせてって山神様に頼んだの。山の霊獣たちが私を囲んでるから、寒くない。お粥を作ったから、お腹も空いてない。」【源博雅】 「霊獣?どこにいるんだ。」【千歳】 「この山に住む子たちは人見知りなんでね、よそ者が来たらすぐに隠れるのさ。まあ、子は親に似るってことさ。」【不見岳】 「?」【神楽】 「皆が六合目に来たってことは、将軍時代の幻境は半分終わったの?七合目で一緒に結末を見たかったから、ここで待ってたの。」【小白】 「ええ!神楽様が小白たちを待ってくださっていたなんて!小白は感動しました……」【神楽】 「うん、これは輪廻が終わる一つ前の人生。だからこの山の歴史を本で読んだの。前世の不見と笠雲がどう足掻いても、最後は失敗し、離れ離れになった。でも彼らが必死に抗ったおかげで、時代は前に進んだ。山岳も欲深い人間に破壊されずに済んだ。天羽々斬は史書の記述の中の存在となり、この地に眠っている。千年の転機は、七合目の幻境が示してくれるはず。」【不見岳】 「その通りだ。山岳は僕たちの全ての人生を記録した。登山すると、この人生が出現することが一番多かった。山岳がこの人生に特別な意味を感じたから、繰り返し再現したのかもしれない。」【於菊虫】 「はあ……千年生きてきた山神様も、未だに女心がわかっていないようね。」【不見岳】 「え?」【千歳】 「ふふ、わしもそう思う。」【小白】 「え??この人生に何か意味があるのですか?小白にもわかりません!セイメイ様と博雅様はどうですか?」二人の陰陽師も、困惑した顔で首を横に振った。【於菊虫】 「だからあなたたちは鈍感なのよ……まあいいでしょう、山神様、答えは自分で見つけて。まずは七合目を目指しましょう。」【書妖】 「ふふ……では皆さん、僕はここで失礼するよ。」【於菊虫】 「え……一緒に行かないの?」【書妖】 「僕は元々、新しい本を山神の書庫に届けるのが目的だった。途中で君の依頼を受け助けたまでさ。六合目に着き、山神様の助けを得た今、僕がこれ以上進む理由はない。僕はここで静かに本を読ませてもらおう。」【於菊虫】 「……うん。」【不見岳】 「ご苦労だったな、書妖。縁があればまた会おう。」【書妖】 「陰陽師様の皆さん、それに山神様、於菊虫、小白も、お達者で。」皆は書妖と別れ、山道に沿って登っていくことにした。 |
七合目
七合目ストーリー |
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晴明たちが七合目を登り、進む道を探していると、後ろにいたはずの不見が消え、笠雲が再び現れた。【笠雲】 「……うう。ここは……頭が痛い……」【千歳】 「笠雲さん。」【笠雲】 「あなたは……石亀の千歳?」【千歳】 「また会えたな。混乱しているかもしれないから、わしが説明しよう。」【笠雲】 「大丈夫、状況は理解しているわ。」【千歳】 「ほう?」【笠雲】 「さっきまで体の自由を失い、意識は何もない空間に閉じ込められていたけど。あなたたちの会話は全部聞いていた。姿も見えたけど、言葉を交わすことはできなかった。だから、事の経緯は不見を通して把握したわ。」【千歳】 「辛かったな。」【笠雲】 「いいえ、大丈夫よ。今は私がこの体を使っている。不見の意識は眠っていると思う。残念なことに、彼とは意思疎通ができない。」【千歳】 「幻境でお主の魂を抽出し、自分の体に宿させる。あれは大量の霊力を使うからな、彼が疲れるのも無理もない。彼に言いたいことがあれば、わしが代わりに伝えてやろう。手紙を書いてもいい。数百年ぶりなのだ、言いたいことは山ほどあるだろう。」【笠雲】 「数百年か……彼は山岳を守り、私は雲の上にいた。最も遠い距離が、無限に伸ばす時間の狭間。今も昔も、さほど変わらない。言いたいことは、本当に再会できた時に直接言う。」【千歳】 「そうか……そうか、そうか……ここまで来たら、あともう少しの辛抱だな。うん、そうだな。後ろにいる陰陽師たちは不見が最近知り合った友人だ、同行させても構わないだろう?七合目の幻境の突破を手伝ってやってくれ。」【笠雲】 「もちろん。彼らのおかげで、私は再び人間界に戻れたんだから。その恩を返さないとね、特に夢山の主に。」【小白】 「はくしょん……誰か小白の話をしてますか?」【源博雅】 「誰もしてないだろ、風邪でも引いてんじゃないのか?はくしょん!」【小白】 「小白には暖かい毛がありますから、そう簡単に風邪なんて引きません。え、まさか……笠雲さんですか?」笠雲と千歳の会話を聞いていた晴明は、既に状況を理解していた。【晴明】 「はじめまして、笠雲さん。私は晴明、以後お見知りおきを。」【源博雅】 「俺は博雅だ!」【神楽】 「やっと会えた。」【源博雅】 「そうだな……いや!今はそんなこと言ってる場合じゃない!」【小白】 「笠雲さん、不見岳は何か言っていませんでしたか?彼はあなたの力を借りて、山岳の霊脈を再構築して結界を張るつもりだと聞きましたが、あなたを傷つけたりはしませんよね?もし何かひどいことされたら、言ってくださいね!」【笠雲】 「彼の意識は眠っていて、まだ話すことはできないわ。お心遣いありがとう、夢山の主。」【小白】 「小白でいいですよ!」【笠雲】 「小白……私は百年前に消えた存在、今日こうしているのは陰陽の理に反している。不見がやるべきことを終わらせたら、私の魂は雲の上に戻り、眠りにつく。」それを聞いた皆は、俯いて沈黙した。【笠雲】 「悲しむことはないわ。こうして皆に会えただけで、思いもよらぬ収穫なんだから。この件が片付いたら、不見の友達になってあげて。どの人生でも、彼は孤独だった……私がいなくなった後、彼の話し相手になってあげてほしいの。これは山神や天羽々斬とは関係ない、私の個人的な願い……」【晴明】 「彼はもう我々の友達だ。我々は彼と互いの秘密を共有している、我々はもう友達だ。」【小白】 「そうですよ!いつも黙っていたら、これから大変ですよ!話上手で優秀な守護者になれるよう、小白が色々教えてあげます!」【笠雲】 「ふふ……皆、ありがとう。では早速、道を案内しましょう。」【青野】 「首尾はどうだ?」【兵士不見】 「はっ、将軍、森雲家は明日正午に和談に応じると申しました。代わりに平民の受け入れとその安全を要求するとのことです。」【青野】 「将軍はよせ、わしはもう甲冑を脱いだ。戦のことはお前ら若者に任せている。わしのことは……青野さんと呼ぶがいい。」【兵士不見】 「はい、青野さん。」【青野】 「森雲家の平民は数が多い。その多くは戦で家を失った人たちだ。青年は戦場で命を落とし、残されたのは老人子供ばかり、当然受け入れるさ。しかし不見よ、わしの言ったことを、覚えているか。」【兵士不見】 「……」【青野】 「はは、またとぼけるか。まあいい、もう一度言う。何度言ってもわしの立場は変わらぬ、覚悟しておけ。」【青野】 「我々山の民が死んだら、魂がどこに帰るか知っているか?」【兵士不見】 「山に帰り、山岳と共に眠る。」【青野】 「ああ、そうだ。森雲家の初代将軍は、邪術を使う一族の末裔だった。その一族の良からぬ術を使い、本来山岳に帰るべきだった魂を引き抜き、肉体に封じ込めたのではないかと、わしは思っている。あの笠雲という女子、彼女の両親は戦場で悪病に侵され、死んでいたはずだった。しかししばらく経った後、あいつらはわしの前に現れた。調べたところ、笠雲の祖母が彼らを蘇らせたらしい。亡霊が肉体に戻ったのだ。邪術を恐れるわしは、彼らを斬り刻んだ。二度と元に戻ることのないようにな。」【兵士不見】 「……」【青野】 「笠雲はあの将軍の末裔だ、邪術の秘密を知っているはず。森雲家に老人子供がたくさんいるにも関わらず、死者があまり出ていないのは、おかしいと思わないか?彼女のところに生きる屍がどれほどいるのか、想像もつかん。よって、笠雲を排除せねばならん。」【兵士不見】 「彼女を排除すれば、すべて解決なのでしょうか?和談で相手を裏切れば、新たな戦争の火種になります。」【青野】 「ああ、仕方のないことだ。これは戦でしか解決できぬ問題、和談は我々の企みにすぎん。」【兵士不見】 「きっと他に方法が……」【青野】 「いい加減目を覚ませ!!不見、お前はわしの一番お気に入りだ。わしは、青野家や自分がこの先どうなっても構わん。しかしな、有能な者は責任を背負わなければならん。この山ではあまりにも多くのことが起き過ぎた。お前のような者が、人々を明るい未来へ導くのだ。女のせいで、やるべきことを見失うな。」【兵士不見】 「青野さん……」【青野】 「やれやれ。若者に任せると言ったくせに、これは言い過ぎたな。この部屋には庭に出る扉が二つある。自分の行く道は、自分で決めるがいい。」和談の日の正午、笠雲と不見は野営地から戦場の中心に向かった。森雲家の兵士と民が標語を叫び、青野家を圧倒した。【将軍笠雲】 「青野はどこだ。彼がいないのでは、話にならない。」【兵士不見】 「僕は将軍に……青野さんに軍の代表を任された。彼は受け入れの準備で手が離せない。僕が妙なことをしたら、遠慮なく斬ってもらって構わない。」【将軍笠雲】 「……あの時の酒のお礼に、まずは私が一杯飲もう。これが古い方法で醸造された幽思飲だ、貴様のものよりも芳醇な香りがする。「不見」という者が残した製造法だそうだ。貴様と同じ名前だな。」【兵士不見】 「前世の酒を、今世の人に。もう悔いはない、乾杯だ。」【将軍笠雲】 「乾杯。」【神使笠雲】 「不見……」【神使不見】 「笠雲!大丈夫か?天災の後、どこに連れて行かれた?何かされたか?」【神使笠雲】 「私は山で巫女をやらされた。離れることは許されず、ただ神に許しを希っていた。」【神使不見】 「許しだと……ふっ、他人に許しを請うなんて、僕たちが一体何をしたっていうんだ。麓に囚われてなどいなければ、僕が必ず君を救い出すのに!」【笠雲嬢様】 「救い出す?どこにですか?私たちは身分が違いすぎるのです。どこに逃げようと、家の者から逃れることはできません。それに、飢饉が起こっている今、どうやって生きるつもりですか?」【遊牧民不見】 「生きるためには、山岳が息を吹き返さなければだめなのか?君の言う通りだ。逃げるよりも、この時代を変えるべきだ。本に答えがあるはずだ、浮浪者と貴族が手を組むことだって。」【歌女笠雲】 「手を組めば……あの武士たちに勝てるのか?あなたが大名の武士の中では最強だったとしても、やっぱり手を引いてほしい。地獄に落ちるのは私と大名だけで十分。不見、あなたにはきっと、もっと他の生き方があるはず。」【武士不見】 「お前がいない世界で生きるつもりはない。僕はもう決めたんだ。誰であろうと僕の決意を揺らすことも、剣を止めることもできない。」【将軍笠雲】 「私にも私の信念がある。この剣を受けろ、不見!!」【兵士不見】 「うっ!!!」剣の影で、不見は笠雲の攻撃を本能で食い止めた。彼は幽思飲の影響がまだ残るなか、激しい戦いを強いられた。【将軍笠雲】 「不見、降参しろ。和談はただの口実だ。森雲家の兵はとっくにこの地を包囲している。助けは来ない、貴様が生きて帰ることもない。」【兵士不見】 「くそ……」【将軍笠雲】 「後悔してももう遅い。」【兵士不見】 「後悔はしてない、ただ残念だと思ったんだ。お前は身を引くことができたはずなのに、なぜ僕と戦う?」突然、廃墟から青野家の兵が飛び出してきた。森雲家の兵が現れるまで、土の中に身を潜めていたのだ。【将軍笠雲】 「なに!?なぜ青野家の伏兵が?不見……まさか貴様、幽思飲は罠だと知っていて……」【兵士不見】 「笠雲、僕は幽思飲の効能を知っている。仮に知らなくても、警戒はしていた。僕が将軍から受けた命令は、和談ではなく、お前を排除することだからだ。」【将軍笠雲】 「はあ……!!」【将軍笠雲】 「やれ……もう……悔いはない。」【将軍笠雲】 「やっと……貴様の手で……不見、森雲家と私の両親のことを知ったのだな……ああするつもりはなかった……だが多くの人が死んだ……神の意志に従うには、民を犠牲にしなければならないのか……私はどうすればいいのかわからない……だけど誰かに止められるなら、私は貴様に止めてほしかった……」【兵士不見】 「笠雲……」【将軍笠雲】 「もう疲れた……千年の輪廻にも、山神の令にも……平和な時代に……会えたら……よかった……のに………………」【兵士不見】 「約束する。僕が全てを終わらせる。」【将軍笠雲】 「なぜとどめを刺さない……」【兵士不見】 「わからない。僕はお前と共にこの地から出て、全てを終わらせたいだけなんだ。」【将軍笠雲】 「私はもう、助からない。一人で答えを探せ、貴様ならきっとできる。」【兵士不見】 「笠雲……」【将軍笠雲】 「もういいんだ。私のためだと思って、逝かせてくれ。でなければ貴様の仲間は私を見逃してはくれない、今よりもっと酷いことをされるだろう。」【兵士不見】 「…………」【将軍笠雲】 「さようなら、不見。できれば、来世では貴様に会わずに生きたい。」【神楽】 「これが、輪廻が終わる前の最後の人生……前世の記憶と使命を知っても、平和の中で生きる道は見出せなかった。二人からは、悲しみよりも、空虚と疲れが感じられる。」【笠雲】 「真実を知ったからこそ、余計無力に感じるものよ。何も知らなければ、もっと真っ直ぐ進むことができた。私はもう、山岳を守りたいとは言わない。ただ輪廻を終わらせ、苦しみから解放されたい。不見も同じことを思っているはず。」【晴明】 「良縁が禍の元に成り下がったか。この呪いが、これほどの重い枷だとは。はあ。」【源博雅】 「俺はなかなか別れろとは言わないが、お前たちの場合は別れたほうがいいかもな。だがお前たちの魂は元々一つだったから、惹かれ合うのが定め……俺もどうすればいいのかさっぱりだ!」【小白】 「千年以上続いた悩みですから、簡単に解決できるものじゃないですよ。あ……笠雲さんが、光っています!どういうことですか!セイメイ様!」【千歳】 「霊脈が覚醒をはじめ、笠雲の魂に応えた。いよいよ、最終段階……」【笠雲】 「そう。この上が八合目。厳寒の地であり、山岳で霊力が最も純粋な場所でもある。やっと彼に会える。」【神楽】 「!!彼に会えるの?」【源博雅】 「おいおいおい、そんなことができるのか?二つの魂が同じ体に宿ってるんじゃないのか?どうすれば会えるんだ?」【晴明】 「霊力が十分であれば、笠雲が一時的に肉体から離脱することは可能だ。多くの登山者が山頂に登った後、「霊体離脱」を経験したのは、大量の霊力が体内で凝縮したからだ。地域によって諸説あるが、注意すべきは、体の弱い者は莫大な霊力の影響を受けるから、下山後に長時間の休息が必要であるということだ。」【源博雅】 「俺たちなら、その心配は不要だろう。」【小白】 「……博雅様はさっき風邪を引いてませんでしたか?そう言えば、八百比丘尼様は?長生きしている分、八百比丘尼様こそが最強の陰陽師なのかもしれませんね。」【千歳】 「なに?彼女と一緒だったのか?」【小白】 「そうですよ!八百比丘尼様をどこに隠したんですか?!」【千歳】 「いやいや、そんなことはしない。彼女とは古い付き合いだ。よくこの山を訪れていた。毎回山頂まで登るんだ。今回も挨拶した後、八合目を目指して進んで行ったんだ。ろくに話をする暇もなかった!」【晴明】 「なのに彼女は、この山に来たことはないと誤魔化した……彼女が言っていた古い友人とは……はやく八合目に向かって、八百比丘尼と合流するぞ。」 |
十合目
十合目ストーリー |
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八合目から十合目の間、険しい山道が孔雀の羽に覆われていた。羽の霊力と不見岳の体が共鳴し、彼の意識を呼び戻した。目覚めた不見岳が羽織を広げ、皆を連れてあっという間に雪に覆われた山頂に到達した。【小白】 「早い……!!さっき山道も、これくらい楽だったらよかったのに!」【不見岳】 「君たちの仲間の霊力が、縄のように山頂から垂れ下がっていた。僕の神力で縄のもう一端をつかめば、空間を跳躍することができる。」【神楽】 「八百比丘尼が残してくれた贈り物ね。でも……八百比丘尼はどこ?」【不見岳】 「於菊虫、座ってくれ。」不見岳が羽織から一冊の本を取り出し、呪文を唱え、霊力を於菊虫に送りこんでいる。【於菊虫】 「これは……」【不見岳】 「山頂に近づくほど、書の霊力が溢れていく。木剣と書庫の鍵を君に託す。選択権は君にある。決して諦めるな。」【於菊虫】 「うん……!」【不見岳】 「ふん……!」【千歳】 「おい、どうかしたか?」【於菊虫】 「山神様!?」【不見岳】 「う……!!!」【千歳】 「大丈夫か!?」不見岳が急に倒れ、霊力が彼の体から流出し、白銀の世界で緑の網が展開される。【晴明】 「不見岳、大丈夫か?」【源博雅】 「山神の霊力が漏れている。どういうことだ……」【晴明】 「笠雲か。」【千歳】 「笠雲!?どこにいる?わしには見えぬぞ。」【不見岳】 「彼女の魂は僕から離れた……山岳の核となる場所へ……うっ……彼女は一体……なにを……」【晴明】 「霊力の流れを見るに、彼女は山神の力を山岳の霊脈に持ち込もうとしているようだ。君の体内の呪いと一緒にな。彼女は君の代わりに霊脈を変え、呪いの苦しみを背負うつもりだ。」【不見岳】 「彼女は肉体のない魂、無理やり霊脈を変えれば消滅してしまう。彼女一人では無理だ……」不見岳がかろうじて立ち上がると、突然現れた亡霊たちが彼の前に立ちはだかった。草木と土から伸びた鬼手が、亡霊たちの足を止めた。【晴明】 「皆気をつけろ……」【源博雅】 「くそ……大丈夫か神楽!」【神楽】 「うん……なんとか……」【五兵衛】 「……」【清平刃】 「……」【明鑑】 「……」【不見岳】 「なぜだ……君たちは何年も昏睡していたのに、今さら僕を止めに来たのか?退くんだ!!」【明鑑】 「ふん、この山はお前だけのものではない。我々がお前の言いなりになる必要はないだろう?」【清平刃】 「お前が裏切ったことを、俺たちは決して許さない。大名様と俺は、これ以上お前を先に進ませないと決めた。前世ではお前を止められなかった、だから今世では必ずお前を止めねばならない。」【不見岳】 「くっ……一体何をするつもりだ……」【清平刃】 「何を言っても無駄だ。」【五兵衛】 「まだ分からないのか?不見。お前は賢い。少し仄めかしただけですぐ理解するやつだと思っていたが、山神になって、自分で考えられなくなったのか?考えてみろ、なぜ俺たちがお前の邪魔をするのか。」【不見岳】 「う……君たちは……笠雲と一緒に……」【五兵衛】 「ああ、お前のおかげで俺は、この世界を救うという願いを持つようになり、己の生きる意味を見つけた。復讐を果たした後、この願いを叶えるために長い間死物狂いに努力して、ついに武士の時代を迎えたんだ。しかし、魂となり山に戻り、時代が変わっていくとともに、お前と笠雲が延々と生まれ変わるのを見ながら、その時考えていた「救世」は後代への呪いになっているのではないかと気づいた。」【明鑑】 「山は神だけのものではない。お前が自分勝手に笠雲や我々を目覚めさせた以上、我々にも選択の自由があるはずだ。お前はこれだけのことをしたが、我々がお前の計画を乱すかもしれないとは考えなかったのか?我々もこの山を愛しているとは考えなかったのか?」【清平刃】 「その小娘の力だけでは、霊脈を変えることはできない。山の中で眠っている亡霊の力を集めれば、できなくはないか?武士たちは「英雄」となることに興味がある、故に共に笠雲を手伝うと決めた。お前はもうこれほど長く生きているのだ、このまま生き続けるのも悪くない。」【不見岳】 「……君たちはもう覚悟ができてるみたいだね。この情景は、当時彼女が魂を捧げ、雲の上に行ってしまった時のようだ。最後の人生では、僕は二十年遅れて生まれた。僕の前世が残した古書をもとに、彼女は十合目への道を築き、己を犠牲することで、僕たちの縁と輪廻転生を断ち切った。彼女と共に来た以上、彼女が自分で全てを背負うところをただもう一度見て、僕だけ生きていくなんてことはありえない。」不見岳は全ての力を注いで、ただの山道を幻の天に続く道へと変化させた。不思議な空間が十合目にゆっくりと広がっていった。これを見て、亡霊はすぐに彼に向かって駆けていった。赤い光がちらついたかと思うと、赤い目をした白狐が山頂で鳴いていた。【白蔵主】 「(グルルル……)」【不見岳】 「小白……」【白蔵主】 「セイメイ様、小白がこうすることに、セイメイ様は賛成してくれますか?」【晴明】 「我々の友人が困っている。手伝わない道理はないだろう?行ってこい……」【五兵衛】 「どこから来た狐だ、くそ。」【清平刃】 「こいつは手強わそうだ……」【明鑑】 「遥か遠くの夢山に、強大な妖力を持つ白狐がいると聞いたことがある。あの小さな白い犬の正体は、夢山の主だったのか。」【白蔵主】 「不見岳、この山の名を名乗る以上、最後の結末はあなた自身が記すべきです。彼らは小白が食い止めますから、あなたはあなたの望むことをしてください。シャーッ……」白蔵主が不見岳の背後を守り、亡霊たちを皆撃退した。一瞬で、その情景が空に浮き、天に続く道が廊に繋がり、何人も触れられない山神の領域が完成した。【白蔵主】 「行ってください。」【不見岳】 「ああ。」彼はすぐにあの静かな空間に入った。不見岳が山の霊脈に飛び込むと、皆を縛っていた亡霊と鬼の手が消えた。山頂は、とても純然とした風景になった。霊脈の中、神使の力が合流し、古山神が徐々に目覚めた。【不見岳】 「お久しぶりです。……小白から「名為呪」について聞きました。長い間、不見岳と名乗り、あなた様のためここをお守りしていました。ですが今日、名前と記憶、山を守る呪いを、全てお返しします。あなた様からいただいた全ての力をお返しします。僕が神隠しに遭えば、人々が僕を見つけることはもう二度とありません。「山神」に関する記憶だけが残ります。全てが正しい方向に進みます。笠雲も、蘇ります……なぜそんなことを?僕たち二人のうち一人しか生き残れないのなら、僕の代わりに生き続けてもらいたい。僕はもともと山頂にある雲石ですが、世の中には苦しみが多く、山神と名乗り、人々を助けていました。人々はよく「我が人生に一片の悔いなし」と言います。僕は何千年もの間、何度も輪廻転生を繰り返してきましたが、悔いが残ったことは一度もありません。ですが、僕も疲れました。呪いによって、麻痺しました。僕の物語にも、終着点が必要です。あなた様と笠雲の復活を終着点とすることができれば、僕は満足です。……最後に、言い残すことはあるか?千歳は大きくなって、食欲も旺盛になりました。忘れずに餌をあげてください。わかった。山頂に植えた桜は、もう枯れてしまいました。その種は土とともに山の麓に流れ着き、美しい桜の森になりました。桜をご覧になりたければ、麓へどうぞ。わかった。於菊虫という名前の妖怪がいます。彼女は僕の友人で、本を食べる習性があります……分かった。彼女の世話を見よう。他には?それから……このままではきりがないですから、ここまでにしておきます。そうか。あなた様が僕に与えてくださった全てに、とても感謝しています。さようなら、山神様。」山頂の騒々しい風が徐々に静まっていく。黒い姿が皆の目の前を通り過ぎたが、誰もそれに気づかなかった。【白蔵主】 「セイメイ様、山神様は?」【晴明】 「彼は自ら望んで、噴火口に飛び込んだ。霊脈も、天羽々斬もそこにある。笠雲の力があれば、最初の目的を達成することができるはずだ。」【白蔵主】 「見てください、先程の天に続く道がもう消えています。行って様子を確認しましょう。」晴明一行は、噴火口の近くに向かった。熱い溶岩の隙間に、青緑色の霊脈で築いた巨大な結界があった。それは紗となり、山の生命を覆っていた。晴明たちもその結界に守られ、身の周りがかすかに輝いていた。【晴明】 「ありがとう、山神様。これで、溶岩を心配する必要がなくなった。噴火口に落ちた天羽々斬を詳しく調査できる。」【源博雅】 「これは神剣か……山の中に隠されていて、まだ少し距離があるが、強い圧迫感がある。これほど強い神器を作れるのは、神だけだ。」【晴明】 「邪神の力を封印できる神器ということは、現世からしてみれば、強大な力を持っているはずだ。私はその剣の周辺が気になる。」晴明は神剣の周囲の結晶に触れようとしたが、何にも触ることができなかった。【晴明】 「神剣自体に刃こぼれや汚れは全くなく、よく守られている。だが、周りの薄い空気から奇妙な結晶が形成されている。そして天羽々斬に近くなるほど、結晶の亀裂が深くなる。この様子は、尋常ではない。」【源博雅】 「天羽々斬が山の空気を切り裂いたのか?まさか……」【晴明】 「ああ、神剣が目覚めた理由が何かあるはずだ。だから山神様が急いで山の霊脈を再起させ、生命を守るための結界を築いた。だとすると、我々はちょうどいい時に来た。小白の夢山の力がなければ、山神様はすぐ行動できなかったはずだ。天羽々斬の痕跡から推測すると、八岐大蛇は不見岳に現れはしなくても、陰で彼の計画を進めているのだろう。」【源博雅】 「計画……一体どんな計画なんだ……俺たちはどうすればいい?」【神楽】 「誰か八百比丘尼を見なかった?十合目まで登って、山頂から探したけど、見つからなかった。」【晴明】 「ああ……彼女には何か別の用事があり、そこに我々に割り込んで欲しくはないが、心配もさせたくないから、十合目に行くための術式を残してくれたのだろう。山を下りよう。」【源博雅】 「もう行くのか?」【晴明】 「天羽々斬の状態はすでに把握した、戻って準備を始めよう。八百比丘尼は「旧友」に会った後、きっと我々の所へ戻ってくる。ここは凍えるほど寒い、山の麓で待とう。」【神楽】 「わかった。」【源博雅】 「お前がそう言うなら、行くか!」十合目の向こう側では、八百比丘尼の姿、そして彼女の足元で蠢く……生き物が、雲霧に遮られていた。生き物とはいえ、八百比丘尼自身もよく理解できていない。頭部を見る限り、もともとは数匹の凶悪な蛇魔だったのだろうとなんとか判断できる。何かの事故に遭い、今の不気味な肉塊の姿になったのかもしれない。【蛇魔】 「……八……百比丘……尼……」【八百比丘尼】 「話せるなんて、少し驚きました。お久しぶりです、「旧友」。」【蛇魔】 「は……はは……お前もまだ生きていたか……少し……驚いた……お前たちは……あの……山神を……見たか……」【八百比丘尼】 「前世であなたたちに呪われた、孤独な守護者のことですか?晴明さんたちは、もう会われましたよ。もちろん、ここに隠されていた天羽々斬も。」【蛇魔】 「ちっ……我々はもともと人間を利用して混乱を引き起こすことで……神使の力を使い果たし、貪欲な人間を山に誘い込むつもりだった……数千年経っても……あいつはこの山を諦めていなかったんだな……そして……山神のやつは……くそ……くそ……!!」【八百比丘尼】 「あなたたちが今の姿になったのも、彼のおかげなのでしょう。山の麓の桜が見事に咲いていると聞き、先程噴火口から山の中を眺めると、ぼんやりと骸骨のようなものが見えました。山を破壊しようとする人が、消える理由は何でしょうか?そして桜の森の養分になる理由は?」【蛇魔】 「知っているくせに……」【八百比丘尼】 「しかし、彼はどうやってあなたたちを捕まえたのですか?」【蛇魔】 「……あいつらが輪廻転生を終える前に……我々は古代の山神が残した目くらましを突破しようとしていた……八岐大蛇様に、ここに来るようにお知らせしたが……しかし、八岐大蛇様はずっと返事をくださらなかった……その後、神使が輪廻を断ち切り、神力が山神に戻った……あいつは呪いの源……山林の中に隠れていた……我々に気づいた……そして山の生き物たちを使い……我々を狩ろうと……」【八百比丘尼】 「そうでしたか。」【蛇魔】 「ふん……八岐大蛇様は邪神だぞ……計画を遅らせることはできても、阻止することはできない……八岐大蛇様が本気で動けば……この場所を見つけることも難しくない……」【八百比丘尼】 「八岐大蛇の計画とは何なのですか?」【蛇魔】 「知らない……我々も気にしない……八岐大蛇様の仰る任務を完遂することだけ……他のことは、知っていても教えぬ……」【八百比丘尼】 「山神様は情報を得るため、あなたたちをここに囚えたのだと思っていましたが。」【蛇魔】 「ふん……山神は復讐のために、こんな悪辣な術をかけた……我々は十合目に囚われ……人間からは見えないところで……毎日毎日苦しめられていた……ふ……はははは……こんな方法で……我々が許しを請うと思ったか……!!はははははははは……」蛇魔のその狂った笑い声が突然止んだ。八百比丘尼が法杖で肉塊を貫き、彼らの命を終わらせた。【八百比丘尼】 「どうやら……価値がある情報は得られないようですね。山神様には申し訳ありませんが、彼らを残しておくことは、災禍でしかありません。八岐大蛇の計画が何かはまだ分かりませんが、危険を冒すわけにはいきません。今回の旅では、もう「旧友」に会えたので、心残りはなくなりました。あら、晴明さんたちはもう山を下りたようですね。では、この旅もここで終わりにしましょう。残雪の枝が落ち、澄んだ空は見えず、春宵はまだ何年も続く。緑の芽が奥に伏せ、百花に明月を見る。」数日後……【不見岳】 「千歳、麓にいる晴明たちからの手紙だ。僕を平安京に招待したいって。きちんとした格好で行くべきだよね?」【千歳】 「多くの民が山に祈りを捧げている。山神様は先にそっちの様子を確かめるべきでは。」【不見岳】 「ん?どれどれ。」【十兵衛】 「山神様!石田のやつが、うちの庭の木をまた切ろうとしています!このままじゃ裏山の木は全部切られてしまいます!今日こそ懲らしめてやらないと!!」【不見岳】 「なるほど、それなら木に結界を張っておこう。山の村にはぞれぞれ仕来りがある。彼らの仕来りによれば、無断で木を伐採しようとした石田には謹慎処分二十日の処罰を与えるべきだ。山林には鳥たちが住んでいて、十兵衛の生業にも関わっている。その伐採は多くの被害をもたらす。石田はそれを知っていながら罪を犯した、謹慎処分は十日延長する。我が命令を、石田の罪を村の長老に伝えなさい。彼らはきっと公正にこの件を処理するでしょう。」【十兵衛】 「……山神様よりお言葉を賜りました!山神様よりお言葉を賜りました!」【千歳】 「わしはどう説得しようか丸一日考えていたのに、たった一言で解決したのか?」【不見岳】 「罪を犯した以上、罰を免れることはできない。適切な罰を下さなければ、事態はかえって悪化するかもしれない。次は……」【お清】 「山神様、最近いつも人々が我が主の家の門を塞いでいます。お願いです、やつらを追い払っていただけませんか?何馬鹿なことを……お前の主はもう家にいないじゃねえかよ。留守だと!?馬鹿な……なぜそんなことに……今は一体どこに?山神様が謹慎処分を下し、彼を洞窟にぶち込んだらしい。上に立つ者が民のことを考えなくてどうする。そんなやつには、お仕置が必要だ。それに、お前は部下として主を諌めるべきだろう。忠言耳に逆らうって言うだろ?何も言わなければ却って主を害するぞ。私は……」【不見岳】 「この件は昨日既に解決したね。次は誰かな……」【百野】 「山神様……母の遺体は……」【不見岳】 「その件なら知っている。山に陰陽の理を破った陰陽師が隠れ住んでいた。彼らを蠱惑する蛇魔は、既に仲間の手によって退治された。僕も犯人を山から追放し、君のお母さんにも安らかな眠りを与えた。」【百野】 「うっ……すみません……」【不見岳】 「謝ることはない。辛くなった時は、いつでも僕に会いにおいで。君がその辛さを乗り越えるまで、付き合うよ。」【百野】 「山神様……ありがとうございます……」……半日も経たないうちに、山の全ての祈念は、不見岳によって一つ残らず片付けられた。【千歳】 「は、はやい……」【不見岳】 「どうだ、千歳?まだ何か僕にできることはあるかい?」【千歳】 「も、もうない……わしの長年の頭痛も、おかげであっという間に治った……」【不見岳】 「それはよかった。山の民に何かあれば、どんな場所でも、いついかなる時でも、僕は必ず彼らの願いに応える。善は急げだ、早く準備を済ませて、麓にいる晴明たちに会いに行こう。」【千歳】 「はあ……もし神使がこんな風に山を管理することができたなら、手間が省けるだろうに。」【不見岳】 「……何を言ってるんだ。「彼ら」は僕の大切な家族だよ。あの時、人間の感情のおかげで、彼らは山の中で互いを見守ることができた。感情というのは、時に人を突き動かすこともあれば、時に人を邪魔することもある。人々が動揺するように煽り、世の中で足掻き生きることを促す。ともあれ、山の神も戻ったことだし、今後は共にこの地を守っていこう。不見岳の物語は、この時代でも続いていく。」 |
雅聞楽ストーリー
醸思壺
醸思壺ストーリー |
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山腹に沿って建てられたその村の人々は、山神を崇拝している。千年前、突然起きた災いによって破壊された不見岳を見て、山神様はもういないと人々はため息をつき、悲しみに暮れた。 ところがある日、村に二人の子供が生まれ、山が一夜にして奇跡的に蘇った。人々はその日生まれた子供を神使と見なし、彼らが代々不見岳を守るようにと、二人の子供を「不見」「笠雲」と名付けた。この二人の神使は、山神と人間を繋げてくれる存在だと人々は言った。 しかし、災いの原因となった邪神の呪いは山中に潜んでいた。二人の神使が結婚式を挙げたその日、神使たちの結婚を阻止するため、一瞬にして呪いが蔓延した。これを見た人々は、災いを防ぐためには、二人の神使は別々に山に仕える必要があると言った。 幼い頃から共に育った二人の神使が再会することはなかった。 思念が溢れ、喉が渇けば、山の露を欲する。やがて彼は、山の声を聞くことができるようになった。 |
雲毫
雲毫ストーリー |
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時が経ち、世界が変わった。過去の自然災害に言及する者は少なくなった。不見岳を守る神使のことも記憶の彼方に葬られた。豪商は肥沃な東岸に住み、西岸には無数の難民がいた。不見という少年は貧しい西岸で生まれ、飢えによって命を落とす直前に、東岸の豪商の娘である笠雲に助けられた。笠雲は自身の「雲毫」という名の筆を彼に贈った。出自の全く異なる二人は、互いの理想が非常に似通っていることに気がついた。不見は人々から尊敬されている浪人と共に橋を架け、医学書を編集し、西岸の人々により希望に満ちた未来を創造することを誓った。夢の中に現れ続ける結婚の儀式と顔がよく見えない少女のために、幻想と記憶を区別できる秘薬の開発に勤しみ、それを思魂飲と名付けようと考えていた。 己の理想を実現し、笠雲との約束を果たすため、不見は各地を旅し、貴族に橋の建設を支援するよう呼びかけていた。しかし十里橋が完成したその日、呪いが再び現れた。 偏見をなくすことはできても、不見と笠雲が結ばれる日は永遠に訪れない。 墨で汚れた雲豪は十里橋の下に沈み、跡形もなく消えた。 |
扇
扇ストーリー |
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十里橋は山の下に静かに架けられている。長い月日を経て、橋を架けた者の名前はとうに忘れ去られてしまった。 初めてここに来た歌女は、大名の武士に虐げられているところを、同じく大名の武士である不見に助けられた。 歌女に無名の短刀を与え、立ち向かうための方法を教え、さらに伝説の英雄「笠雲」についても言及した。不見は長い間、この正義の英雄に憧れていた。 数ヶ月後、大名に同行していた不見は再び歌女を見かけた。歌女は笠雲と名乗り、次の踊りで庶民を虐げる大名を刺そうと企てていた。以前と違い、目が鋭かった。自分がずっと探していた笠雲は、目の前にいる彼女かもしれないと不見は思った。 暗殺の日、不見が笠雲の手を握ると、握りしめた手の間に呪いが広がった。 刀剣の光の中、かつて笠雲の手の中で踊っていた扇子が風と共に落ちてきた。 |
背斬
背斬ストーリー |
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大名の死後、彼の配下にいた武士は次々と旗を掲げ、何世代にもわたって争いを続け、山岳地帯の領土を取り合っていた。 多くの勢力の中で、笠雲のる森雲家と不見の青野家は、ことさら犬猿の仲だった。古書に記録されている思魂飲を飲んだ不見は、すべての真相を理解した。不見と笠雲の前世での別離、今生での敵対は、すべて二人の間の呪いのせいだということ。またこの呪いは、数千年間の争いの源でもある。戦争を終わらせ、永遠の輪廻を終わらせる希望を、不見はついに見たようだ。 しかし、呪いは源に過ぎず、時代の戦火はより混沌とした欲望と力と混ざり合い、見えない力が不見と笠雲に剣を互いに向けるように仕向ける。 まるで定められた運命であるかのように、相手の心臓に突き刺さった鋭い刃が大切な人の血で染まり「背斬」と呼ばれる名刀となった。 |
山屏
山屏ストーリー |
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ついに山岳間の争いが終わり、かつて山岳間で盛んに興っては落ちぶれた武士の勢力も、次々と姿を消した。不見岳の麓では、再び平和な村が栄えていた。神使の伝説はもう過去のものになったが、人々は変わらず山に祈る。そして伝説にあるように、特別な日に生まれた子供を「不見」と名付け、山での儀式を執り行う役を与えた。 不見は夢で繰り返し見た鮮やかな光景を放念できず醸造された思魂飲を持って、彼に呼びかけ続けるあの山へと向かっていた。 過去の出来事がすべて、彼の頭に蘇った。呪いと穢れが彼の体に浸透していく。以前もそうであったように、彼が笠雲のそばに戻るのを防ごうとしているのか。しかしそれでも、彼は前進し続ける。 一方不見岳の奧には、神剣が残っている。神剣は古の昔から変わらないが、笠雲はもう空の雲となり、姿を消した。その神剣に封印された邪神の力は、穢れによって山の霊体を崩壊させようと、長い間この山岳を侵食し続けている。 何百回もの輪廻転生の間、この呪いによって引き起こされた苦痛はどれほど長いものだっただろうか。そしてこの山の草木は、こんなにも懐かしい。 不見はすべての呪いと穢れを体内に取り込んだ。足元には霊体を洗い清める溶岩が流れている。最後に空の笠雲を見つめ、飛び降りた。 数百年の記憶と無数の幻影が一瞬にして集まり、倒れた霊体を包み込み、四方に散った。その日人々は、不見岳の雲霧の中で端子が泳いでいるような幻を見た。 この時から、何千年もの間不見岳を離れていた神がこの山に再び誕生した。空高く浮かぶ笠雲を眺め、己の霊体で山を侵食した穢れを洗い清め、山と神剣の安定と平和を今日までずっと守り続けている。 |
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