【陰陽師】楓火葉宴ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の楓火葉宴イベントのストーリー(シナリオ/エピソード)をまとめて紹介。メインストーリー(枝)と欠片ストーリー(葉)のそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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メインストーリー(枝)
壱
壱ストーリー |
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紅葉林の中、草木は悉く枯れ果てている。木々は枝がひどく歪んでいて、互いに絡み合っている。この地の土は何かに汚染されたようで、黒くて汚くなってしまった。泥沼のような湿った柔らかい土に足を踏み入れると、微かに不快な臭いが鼻に残る。【小白】 「うう、この土はべとべとで気持ち悪いです…セイメイ様達はどうして平気でいられるのですか?」【源博雅】 「それよりさ……この旅長すぎるだろ!」【小白】 「博雅様とセイメイ様は何も説明せずに出かけると言いましたけど、まさかこの林を散歩しに来ましたか?それとも、何かすごい計画を立てて…小白と神楽様達に教えてくれませんか…」【源博雅】 「変な当てずっぽうをやめろ。先日晴明は紅葉からの手紙を頂いた。紅葉林で結婚式を挙げるから晴明に招待状を出した。」【小白】 「結婚式か、紅葉様はどの方とご結婚されるのでしょうか?」【源博雅】 「晴明と。」【小白】 「晴明とって…せ、セイメイ様が結婚!?」【晴明】 「彼をからかうのはそこまでだ。この前ヤマタノオロチとの戦いで、紅葉は傷を負ってしまった。しかしその直後に冥土に異変が起きたため彼女に詳しいことを聞く時間がなかった。今回紅葉林に来たのは、六道の扉が開かれたことによって各地にどんな影響をもたらすかを調査するためだが、同時に紅葉を見舞いに来たとも言える。」【小白】 「そ、そうですね、冗談に決まっていますね…」【源博雅】 「またこの木か!間違いがない、この前のあの木と同じだ。俺達はずっと同じ道を通っている。」【晴明】 「うん、さっきから観察してたが、ほぼ気配を感知できない。ここにはたぶんある術を掛けられたのだろう。ただし、ここは瘴気が濃いため、術の気配はうまく隠されている。とはいえ、陣眼さえ見付けてそれを破壊するまでの話だ。」【源博雅】 「ここはやけに広い、どうやって探すんだよ?」【晴明】 「もう一度一周回ってみましょう。」晴明達はもう一度進み始めた。【晴明】 「たぶん…ここだ。」【小白】 「ここ?陣眼はここにありますか?どれどれ、うう…小白には何も見えませんでしたけど?」【源博雅】 「無駄骨を折るんじゃない、ここはやはり晴明に任せるんだ。」【晴明】 「円を描く時、一つの点によって始まって、また同じ点に戻ってくる。完璧な円でも、首尾を繋ぐ二つの点が必要となる。そして他と違い、首尾は即ち……重なるところである。首尾を完璧に重ねたければ、首尾という二つの点の形、大きさ、位置が一致していないとだめなんだ。ここの術も同じ…二つの木は形が限りなく似ているから完璧な円が作れる。しかし、影は決して嘘をつかない。」晴明は呪文を唱え、霊符を投げ捨てた。【小白】 「影…!分かりました、この木は二つの影があります!」【晴明】 「首尾は断たれ、二つに分けられたあと、出口は現れた。」霊符が木に飛び掛かった瞬間、枝の裂ける音が聞こえ、その木は高さの違う二つの木に分裂した。【晴明】 「あとは気をつけて二つの木の中を通れればいい。」密林の奥、光も次第に弱くなるため周りはますます暗く、薄気味悪くなる。【源博雅】 「……!なんだかここの木の枝は生きているような気がする。目を離すと近づいてくるみたい。」【晴明】 「やはり鋭い。六道の扉が開かれ、虚無が蔓延る故、私達の世界は異界に蝕まれている。法則が揺らいだため、均衡を保っていた陰陽も次第に乱れていく。紅葉林に起きている変化は、世界の変化の氷山の一角みたいなものだ…ここは陰陽が乱れたから、生の限界も既に曖昧になった。木、石、土、川…今まで私達が「命を持たない」と考えているものは…おそらく陰陽が乱れるにつれ、本来以上の霊力、妖力を持つようになったんじゃないか。だから、これ以上「命を持たない」と決め込むのは間違いじゃないか。彼達は既に動物に近い「生き物」になったかもしれない。自分の意志や心を持つと、自然と協力や防衛という概念を身につける。とにかく、ここの木々を刺激しないように気をつけましょう。」話の最中、いくつかの葉っぱは矢の如く晴明のほうに飛んできた。しかし晴明は術を使うと、葉っぱは狙いを外し、隣の木に突き刺さった。突如一体の小妖が飛んできた。しかし二人の前に逃げ込む前、一本の木の枝が小妖の首に締め付き、逃げられなくなった。【小妖】 「た、助けて!」源博雅が矢を放ち、木の枝を射抜いたおかげで、小妖は再び地面に落ちた。そしてさらに多くの木の枝が現れた。陰の中で、邪気に汚染された二匹の妖怪は、獲物を睨みつける。【晴明】 「博雅、小白!」【源博雅】 「心配すんな、俺の矢は木の枝よりずっと速いぞ!」【小白】 「小白がお手伝いします、セイメイ様!」……晴明達は力合わせて悪妖を撃退し、逃走を図る小妖を助けた。【小妖】 「晴明様…お助けいただき、誠にありがとうございます。」【晴明】 「君は…紅葉に仕える従者じゃないか?以前紅葉林に誘われた時に、案内してくれたのは君でしょう。」【紅葉の従者】 「はい、仰る通りです。あの時は紅葉様のご命令に従い、晴明様を紅葉様のいるところにご案内いたしました。」【晴明】 「君の主は今どこにいる?」【紅葉の従者】 「実を言うと…少し前、ご主人様は消息不明になりました。」【晴明】 「最近起きたことを詳しく聞かせてくれないか?」【紅葉の従者】 「最初は普段通りだったのですが…林の中に怪しい邪気が漂うようになってから異変が起き、多くの妖怪や生物は次第に理性を失ってしまいました…」「少し前、紅葉林の中…」【鬼女紅葉】 「醜い命よ、晴明様を独り占めするまで、何者も私を止められない…」悪妖は何も聞こえなかったみたい。食欲に突き動かされて紅葉に襲ってきた。その途中でも、悪妖は地面に涎を垂らし続けている。【鬼女紅葉】 「ふふふ、来て、こっちに来て…」悪妖は近づき、衰弱している紅葉を掴み高く持ち上げた。【鬼女紅葉】 「ふふふ……燃えるような紅葉を感じなさい!」悪妖を囲んで舞い上がる無数の紅葉は、鋭い刃にも劣らない。間もなくして、悪妖の体には様々な傷口が現れた。【悪妖】 「ぐあああ……!」痛みを感じた悪妖は思わず手を放した。紅葉はその隙を突いて力を絞り出し、一枚の紅葉を悪妖の目の中に差しこんだ。そして悪妖は倒れ込んだ。しかし力が尽きた紅葉も同時に倒れ込んだ。【鬼女紅葉】 「まさかここまで追い詰められるとは…この体は、直に消えるじゃないか…このまま終わるの…いいえ…まだ…手に入れるものがあるわよ…」紅葉は残りわずかな力を絞り出し、悪妖のほうに這い寄った。彼女は体を起こし、地面に倒れている悪妖に向かい、おもむろに手を差し伸べた。ごく、ごく…楓のような色は、彼女の指先と濡れ羽色の髪を染め上げた。しかし紅葉は止める様子もなく、ただありきたりの料理を味わうように食べ続けている。【鬼女紅葉】 「もう二度とこんなことをしないと、晴明様と約束したのに。今日はあなたたちのせいで仕方なく約束を破ってしまった…私が力を取り戻した暁には、絶対にあなたたちのような悪妖を許さないわ…晴明様……」紅葉が地面に舞い落ちた時、紅葉は優しく口元を拭いた。彼女は見上げて、体に入り込む新しい力に酔いしれる。 「数日後」【鬼女紅葉】 「やっと静かになった、本当に鬱陶しかった。あいつらのせいで晴明様との約束を破ってしまった…ちゃんと私の一部になったね。いくら残っていても、私は平気よ、ふふふ…一体どこに隠れているでしょう?」【紅葉の従者】 「ご主人様…ご無事ですか?お体はより早く腐敗しているようですが…少し休憩しましょう、このままだと……」紅葉はすかさず従者を掴んだ。【鬼女紅葉】 「喧しい、あなたも私に…」紅葉の体に黒い模様が現れ始めた。色白な肌には次第にまだらができた。彼女の眼差しはこれまでと違い、深淵と邪気に侵された淀みが映っている。【紅葉の従者】 「ご…ご主人様…お顔が!」【鬼女紅葉】 「…うっ…くっ…」従者を手放したあと、痛みは次々と彼女に襲ってくる。信じられない思いで顔に触れてみると、腐ってゆく肌の感触がする。抜け続ける肌を元の場所に戻そうとする彼女だが、結局は空回りだった。【鬼女紅葉】 「いや…いやあ!そんな、どうして…」【紅葉の従者】 「ご主人様、ご無事ですか?」【鬼女紅葉】 「見ないで!」【紅葉の従者】 「ご主人様…」【鬼女紅葉】 「…行って。私に近づくな!遠くへ遠くへ…離れなさい。」【紅葉の従者】 「……これは最後に紅葉様に会った時のことです。紅葉様に追い出されたあと、ずっと探していたましたが、どうしても行方が分かりませんでした。あの時紅葉様は…あんな態度を取ったけど、私には分かります。紅葉様は私を食らい散らすことを恐れているから、私を追い出したのです。紅葉様は強い意志を持つお方です。悪妖を取り込んでせいで、体はおびただしい邪気に侵されて…その調子だと、紅葉様は恐らく…悪妖に成り下がってしまいます。晴明様、紅葉様のことが心配です…どうか、どうか紅葉様を助けてあげてください!」【晴明】 「力を取り戻し、自分を守るため、紅葉は最近ずっと悪妖を取り込んでいるのか……もっと早くここに来るべきだった。冥土の旅に、虚無を調べることに、いかに多くの時間をかけたことか。蛇魔との戦いの中で、紅葉は私達が想像してた以上の深手を負った。あの時もう少し彼女の傷を気にとどめていたら…」【小白】 「セイメイ様、これ以上自分を責めないでください。あの時六道の扉が開かれたせいで、誰もが慌てふためいていました。例え十人セイメイ様がいても、注意が行き届かないこともあります。でも、小白には一つだけよく分からないことがあります。紅葉様は以前にも妖怪を取り込んだ体験がありますけど、どうして今までは平気だったのに、今回は大変なことになったのですか?」【晴明】 「恐らく、原因は悪神が育てた六道の邪気にあるんじゃないか。悪妖は邪気を浴びて発狂してしまった。その体は邪悪な力が満ちている。対策を取らない、際限なくその力と接触し、取り込んだら必ずその力に影響されてしまう。紅葉のやり方では、最終的にその力を制御できないどころか、自我を失う危険が生じかねない。」【源博雅】 「仮に紅葉が悪妖に堕ちたら、彼女の性格と精神力を考えると、なんだか嫌な予感がする…俺達でも彼女の側近の従者でも彼女を見つけられない今、これからはどうすんだよ?」【晴明】 「ここに来る途中に見たでしょう。紅葉林はあらゆる面で邪気の影響を受けている。紅葉林のような広い場所をこうも早く侵食できたと考える。やはり鍵となるのはこの林の…霊脈である。あそこは紅葉林の中で最も霊力に満ちる場所で、林の多くの生霊たちが集まる地でもある。悪妖達は本能的に生き物を狩りたがる故、自然と霊脈に押し掛けてくる。そのせいで短い間に霊脈にはたくさんの悪妖と邪気が出現した。だから他のどんな場所よりもひどく侵食されている。そして霊脈は汚染さ、邪気は著しい速度で紅葉林中に蔓延した。」【源博雅】 「霊脈はどうこうと長話を聞かされたけど…紅葉と関係あるの?」【晴明】 「忘れたか、紅葉は今悪妖の力に気を取られている。悪妖が集まるところであれば、彼女の行く先になっても全然おかしくない。」【源博雅】 「だから、うーん…そこの君、霊脈の居場所を知らないか?」【紅葉の従者】 「霊脈…昔から紅葉林で暮らしていますけど、そんな場所があるなんて、全然知りませんでした。紅葉林で最長寿の妖怪に聞いてみたら何か分かるかもしれません。しかし、今のところ紅葉林の妖怪はもし狂っていなければ、とっくにどこかに逃げましたけど。例え聞きたくても、相手はそんな都合よく現れますか…」【晴明】 「いいや。今度は妖怪に聞くのではなく、この林で一番古い木に聞くべきだ。」【源博雅】 「木に聞くだと?」 |
弐
弐ストーリー |
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晴明達は、引き続き奥へと進んでいく。静かな紅葉林の中、奥へ行けば行くほど、邪気に侵食された痕跡がよりはっきりと残されている。黒い泥沼の上の草木は、悉く枯れてしまった。林の中は濃い霧が漂っていて、万物は生気を失っている。聞こえるのは木の枝や落ち葉を踏む音だけで、鳥の鳴き声は一度も聞こえなかった。【源博雅】 「やっぱりわからない。さっき言ってた「この林で一番古い木に聞くべきだ」ってどういう意味だ?木と話せるのか?」【晴明】 「さっき紅葉の従者と話した時、彼女は紅葉林で一番歳を取っている妖怪に聞いてみるべきだと言っていただろう?しかし実のところ、妖怪が紅葉林に棲みつく前から、この森は既に存在していた。一本の木でも森を成せる。この森はただ一本の木からできているのかもしれない。そして一番古い木は、この森の起源に当たる。霊脈は往々にしてそういうところにある。」【小白】 「でも、ここの木は妖怪よりもずっと多いですよ……一体どうやって探したらいいんでしょう?」【紅葉の従者】 「そういうことでしたら、心当たりがあります……晴明様、私について来てください。」更に奥へと進んだ晴明達は、遠くに一本の楓の古木を見つけた。まだだいぶ離れているが、その楓の古木はやけに目立っている。【源博雅】 「他の楓の木はほとんど枯れたのに、目の前のこの木は、少なくとも見た感じ枯れる気配はないな。」【紅葉の従者】 「この楓の古木は毎年、秋になると一番最初に赤く染まり、冬になると一番最後に葉が落ちます。」【小白】 「この木が霊脈ですか?空に聳える大樹を想像していましたが、どうやら違うようですね。他の木が枯れていなければ、見つからなかったでしょう。」【晴明】 「その土地にとって、霊脈は大切な場所だ。見つかりにくいに越したことはない。」【源博雅】 「霊脈の近くには悪妖が集まってくるもんだが、ここに近づけば近づくほど、悪妖が少なくなってるぞ?」楓の古木の方から、儚く微かな歌声が聞こえてきた。遠くまで響く美しい旋律に、皆引きつけられた。【紅葉の従者】 「これは紅葉様の声です!」【小白】 「……木の下に誰か座っているようです。」【晴明】 「紅葉だ……」近づいてみて、晴明達はようやく気づいた。楓の古木には葉が生い茂り、その葉はやけに赤い。しかし地下に張り巡らされている根の部分は、既に汚染されていて、まるで黒い動脈のようにこの森の生気を吸収している。楓の木の下に広がるのは、紅葉の赤い絨毯だ。木の上から、白い帳が垂れている。儚い帳の中、紅葉は化粧台の前に座り、丁寧に化粧を施している。彼女の肌には恐ろしい空洞があり、何かに侵食されたようだ。【小白】 「紅葉様のお体、まるで腐敗してるみたいです……」声に気づいた紅葉は手の動きを止め、何かを警戒するように振り向いた。しかし晴明に気づいた途端、彼女はすぐに情熱的な眼差しを送った。【鬼女紅葉】 「晴明様!来てくれたのね。もう少しかかるかと思ったけど、手紙を受け取ってすぐに駆けつけてくれたのね。まさか晴明様も私に会いたくてたまらなかったなんて、ふふふ。でも、もう少し待って。今日はもう少し綺麗にしたいの。だって、今日は大切な日だもの。全ては晴明様のため、ふふふふ……」紅葉は相変わらず化粧台の前で化粧をしている。しかしどれだけ化粧をしても、彼女の腐敗の痕跡を隠すことはできない。【晴明】 「紅葉……まさか近くの悪妖は全部紅葉が……?」【鬼女紅葉】 「悪妖?ふふ……ええ、たくさん食ったわ。あいつらが悪いのよ。何度も宴の準備の邪魔をしに来たの。晴明様に招待状を送ってから、わくわくしながらずっと準備していたの……ふふふふ……私達の結婚式の準備を。」【小白】 「え!結婚式の話は本当だったんですか!?でもこんな場所じゃ、全く結婚式らしくないですね……いや、そこじゃないですよね!セイメイ様、本当に紅葉様と結婚式を挙げるんですか?神楽様達はまだ何もご存知ないですよ……」【源博雅】 「なんでお前が晴明より興奮してるんだ。」【晴明】 「……結婚式のことはさておき……紅葉、悪妖を何体食べたのかは知らないが……このままでは、邪気に侵され、体の腐敗は加速する一方だ……」【鬼女紅葉】 「晴明様は、私の心配をしてくれてるの?食べなかったら、食べられてしまうわ。もし私があいつらの餌食になったら、晴明様は悲しむでしょう?晴明様に会うために、私は暗い泥沼の中で足掻き続けて、やっとの思いでここまで来たのよ。虫に噛まれる以上の痛みが、私の体の隅々を走ってる。でも私はずっと我慢して、晴明様を待っている。結婚式を挙げれば、永遠に一緒にいられる。もう待つ必要も、我慢する必要もない。だからわざわざこの地を選んだ。ここは私達が初めて出会い、初めて互いの名前を知った場所。」そう言いながら化粧台の前で立ち上がった紅葉は、不気味な足取りで晴明に近寄っていく。【鬼女紅葉】 「晴明様……晴明……」紅葉が少しずつ迫ってくる。【鬼女紅葉】 「晴明様と一緒にいられるなら、どんな形でもいいわ……永遠に一緒に……」危険だと察した小白は、前に出て晴明を庇った。【小白】 「これ以上セイメイ様に近づくことは許しません!」【鬼女紅葉】 「退いて!」操られた楓の葉が小白に襲いかかる。勢いよく飛んできた楓の葉は、晴明が扇子を振ると、たちまち別の方向に吹き飛ばされた。晴明は小白の肩に手を置き、後ろに隠れるようにと合図した。晴明の行動を見て、紅葉は刺激されたようだ。【鬼女紅葉】 「彼を守るなんて……晴明様はあまりにも多くの人のことを気にかけている……だったら、皆いなくなればいい!」【源博雅】 「この女、狂ってる!晴明!」紅葉が手を挙げると、地面の楓の葉が風と共に舞い上がった。楓の葉は風の中で回転しながら加速していく。ついには白刃にも負けない凶器となった。周囲の木の枝は例外なく切られてしまったので、嵐の中心にいる晴明達は、次々と襲ってくる楓の葉から身を守ることに集中するしかなかった。【源博雅】 「おいおい、こんなにも強い力を持っているのか……」【晴明】 「悪妖を呑み込み、邪気を吸収し続けた結果、一時的に強い力を手に入れたようだが、このままだと彼女は……」【小白】 「うわ、小白のしっぽが!危なかった、危うく切られるところでした!」【晴明】 「紅葉、もうその力を使うのはよせ……このままだと意識まで徹底的に操られてしまう!」聞こえないふりをして、紅葉は不意を突き、木の枝を操って源博雅の手首と小白の足に絡ませた。【源博雅】 「くそっ!」【鬼女紅葉】 「ふふふ……あははは……!」二本の鋭い木の枝が、源博雅と小白に向かって飛んできた。晴明が間髪入れずに霊符を投げ、木の枝を打ち落とした。しかし驚くことに、背後から何本もの茨が晴明へと襲いかかった。狂気に囚われた紅葉は、もはや晴明が分からないようだ。素早く術を使って茨の攻撃を防ぐと、晴明は呪文を唱え、霊符で紅葉を拘束した。【晴明】 「紅葉は敵味方を区別できなくなっている。ここは危険だ、どこか安全な場所に隠れていなさい。」【紅葉の従者】 「晴明様……紅葉様をお願いします!」きつく縛られた紅葉の体から、黒い霧が立ちのぼり始めた。彼女は痛みに顔を歪ませ、狂気に囚われたり、正気に戻ったりしている。【鬼女紅葉】 「どうして約束してくれないの?これが私の唯一の願いなのに……最後の饗宴の中で、結婚式を挙げて……素敵な契約を結んで、互いに真摯な愛を捧げ合うの。私は長い間ずっと待っていた、この時のために。ずっと一緒よ、永遠に、晴明……」【晴明】 「そういう願いなら、申し訳ないが約束はできない……!」結界を張った晴明は、紅葉の手を掴むと、苦しむ彼女を結界の中に引き込んだ。すると木の枝は攻撃をやめ、普通の木に戻った。【鬼女紅葉】 「晴明様……」【晴明】 「紅葉……この結界の中にいれば、暴走している力は抑制され、腐敗の進行は減速する。少し意識がはっきりしただろう?」【鬼女紅葉】 「ふふ、晴明様ったら、さっき私が言ったことは妄言だと思ってるの……?私と結婚したくないなら、このまま私を始末してちょうだい……せめて、晴明様の手で……」【晴明】 「いや……そんなことはしない。」【鬼女紅葉】 「では晴明様は、私が朽ち果てるのを見届けるおつもり?」【晴明】 「腐敗が原因なのだから、我々が腐敗の根源を絶つ。」【鬼女紅葉】 「根源?」【晴明】 「仮に力に呑み込まれなくても、紅葉の体はゆっくりと腐敗していく。悪妖を取り込むことで、一時的に力は回復したが、同時に悪妖の邪気を吸収してしまった。邪気が集い、暴走したことで、腐敗が加速した。それだけでなく、さらにここの霊脈と繋がり、紅葉林を全て侵食した。邪気を抑えるには、腐敗の根源、その「源」を見つけ、排除する必要がある。そうすれば、紅葉の問題を解決できるだけでなく、邪気と霊脈との繋がりを断ち、霊脈の自浄を促して紅葉林を元の姿に戻すことも可能になる。」【鬼女紅葉】 「腐敗の原因なんて、私にも分からないのに、晴明様はどうやって見つけるつもりなの?」【晴明】 「記憶だ。全ての答えは記憶の中に隠されている。」【鬼女紅葉】 「私の……記憶……?」【晴明】 「そうだ。私からの勝手な頼みだと思ってくれてもいい……私と共に記憶の中に入って、腐敗の根源を探そう。紅葉、私の手を握ってくれるか?」晴明が紅葉に手を差し伸べる。傷口を広げ、白日の下に晒すような願いに、紅葉は笑みをこぼした。それはとても美しい笑顔だった。心を溶かす甘い言葉を聞いた時や、待ち望んでいた誘いを受けた時に見せるような笑顔だった。【鬼女紅葉】 「結婚式を挙げる夫婦は、互いをよく知り、生死を共にする契りを交わす。晴明様は、私の記憶の中に入りたいと仰った。つまり結婚を申し込んでくれたってことよね?……断るわけがないでしょう?」 |
参
参ストーリー |
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紅葉が晴明の手を握る。晴明が霊符を発動させると、地面に法陣が出現した。周囲は次第に暗くなり、一同は闇に包まれた。……【小白】 「セイメイ様……!博雅様……!小白は少しの間ぼうっとしただけなのに……」小白の近くに一筋の光が現れた。闇の中、晴明の体が徐々にはっきりしていく。彼の手の中にある霊符が燃え尽きると、周囲の闇は消え、氷に覆われた世界が広がった。辺りは一面の銀世界で、雪の積もった木の枝は地面に触れそうなくらい、低く垂れている。【小白】 「セイメイ様!小白はてっきり、はぐれてしまったのかと思いましたよ!」【源博雅】 「記憶の世界を展開したのか……今の紅葉林は邪気が漂っていて、記憶の外の世界は危険に晒されている。突然こうして中に入って……何だか、お前は時に俺以上に無謀な行動を起こすんだな……」【鬼女紅葉】 「あなたに何が分かるの?晴明様は私を助けるために私の記憶の中に入ってきたのよ。危険だと知っていて、躊躇なく行動に移した。たまに見せる無謀な一面は、かえって魅力的に見えるわ、ふふふ。」【小白】 「(正気を取り戻してから、紅葉様はまた小白には理解できないことを言うようになりました……)」この時、一組の親子が手をつないで晴明達の前を横切った。その親子は、晴明達には気づかなかったようだ。」【小白】 「あれ、彼女達には小白達が見えないんですか?」【晴明】 「記憶とは、過去に既に起きたことだ。この世界の人々は、あくまでも過去の軌跡を再現しているだけなんだ。我々がここの人々に干渉することはできない。そして彼らが我々に反応することもない。でなければ「軌跡」「記憶」ではなくなってしまう。」【鬼女紅葉】 「早速子供の頃の記憶を選んだのね。この頃の私は……まだ純粋だった……ふふふ。」【晴明】 「……この頃の記憶が、いささか特別だと感じたからな。とにかく、まずは彼女達について行こう。」【紅葉の母】 「もうすぐよ、紅葉。橋さえ渡れば、私達はここを出られる。」【幼い頃の紅葉】 「出る?母上、私達はどこに行くの?早く帰らなきゃ、父上に怒られちゃう。」【紅葉の母】 「もうあの人の話はしないで!……ごめんね。あなたも大きくなったら、きっと分かるわ。」【幼い頃の紅葉】 「明日の朝は礼儀作法の授業があるの。行かなかったら、きっと父上はお怒りに……」【紅葉の母】 「大丈夫よ。これから先、彼があなたを罰することはないわ……」一本の長い矢が、寒い風を切って二人の足元に突き刺さった。振り返ると、幼い紅葉の目には、従者を従えた父の姿が映った。【幼い頃の紅葉】 「父上!他にもたくさんの人が……」【紅葉の母】 「もう気づかれてしまうなんて……もう無理なのかしら……いいえ、絶対にあなたをあの人に渡すわけにはいかないわ。」馬を走らせる紅葉の父は何かを叫んでいるようだが、よく聞こえなかった。【紅葉の母】 「とにかく、あそこに戻ってはだめ。」紅葉の母は幼い紅葉を連れて走り、橋に辿り着いた。突然、また矢が放たれた。しかしその矢は、足元の地面ではなく、紅葉の母の胸を貫いた。【紅葉の母】 「うっ!」おぼつかない足取りで、彼女は橋の手すりにぶつかった。源博雅は彼女を支えようとしたが、失敗に終わった。紅葉の母は冷たい川の中に落ち、瞬く間に激流に巻き込まれた。突然の出来事に、幼い紅葉はただそこに立ち尽くした。そう遠くない場所で、馬に乗った紅葉の父が弓をしまった。【源博雅】 「くそ、俺達はこのまま見ていることしかできないのか!妻に向かって弓を引くなど……弓道の恥だ。」【晴明】 「……すまない、紅葉……君にもう一度この出来事を経験させてしまった。母上は……」【鬼女紅葉】 「晴明様ったら、どうして謝るの?私の記憶に入ってもいいって、私が言ったのよ。だから私は恥ずかしがったり、隠したりなんかしないわ。晴明様が見たいなら、気が済むまで見て。私を救うためなんでしょう?私の過去に触れれば触れるほど、私への愛も湧いてくるかもしれないわよ。どうしてそんな申し訳なさそうな目で私を見るの?ああ、この記憶のせい?確かに母はこうしてこの世を去った。でも所詮、幼い頃の出来事だもの。正直、記憶を見るまで、母の顔を忘れていたわ……悲しむべきかしら?でも、私はもう……そんな気持ちは忘れたみたいね……」橋の上で泣き続ける幼い紅葉が次第にぼやけていく。雪が消え、周囲は再び暗くなった。いつの間にか、周囲の景色は薄暗い部屋の中に変化した。突然扉が開かれ、父親について部屋に入ってきた幼い紅葉の顔には、まだ涙の跡が残っている。幼い紅葉はいつまでも泣いている。そして紅葉の父親は、黙って彼女を見つめている。長い沈黙の後、彼はようやく口を開いた。【紅葉の父】 「お前の母上は……不届き者に襲われ、川に落ちた。」聞き間違えたのではないかと、幼い紅葉は頭を上げた。彼女の眼差しは驚愕と困惑に満ちている。【幼い頃の紅葉】 「父上……父上が……!」【紅葉の父】 「紅葉!」幼い紅葉の声は、怒鳴りに遮られた。【紅葉の父】 「私は妻を失ったばかりだというのに、娘まで狂気に囚われ、譫言を言うようになったのか?」【幼い頃の紅葉】 「そんな……」【紅葉の父】 「その一言がどんな影響をもたらすか、考えたことはあるか?人の命を奪った者は、代償を払わねばならない。私を殺すつもりか?」【幼い頃の紅葉】 「父上を殺すなんて、そんな……」【紅葉の父】 「ならば嘘をつくな。」【幼い頃の紅葉】 「嘘……(私は嘘を言っているの……?でも私、はっきり覚えてる……)」【紅葉の父】 「お前はもう母親を失った。父親まで失いたくはないだろう?」【幼い頃の紅葉】 「はい……」【紅葉の父】 「もし私がいなくなればどうなるか、考えたことはあるか?」幼い紅葉は心をぎゅっと締め付けられた。【紅葉の父】 「お前は全てを失う。誰にも頼ることができず、誰にも気にかけてもらえない。皆にどう思われているか、忘れたのか?今、私はこの世の中で、唯一お前を愛している人間だ。」【幼い頃の紅葉】 「(父上がいなくなったら、私は……一人ぼっちになる。)」【紅葉の父】 「私はお前の全てなんだ。」【幼い頃の紅葉】 「(私には、父上だけしか……)父上……」幼い紅葉が父親に懇願するような目を向ける。【幼い頃の紅葉】 「父上は絶対に紅葉を見捨てない?ずっと……」父親は彼女を抱きしめた。【紅葉の父】 「……もちろんだ。」【晴明】 「……」【源博雅】 「罰から逃れるために、子供の捨てられるのではないかという恐怖を利用したんだな。卑怯なやつだ。妻に向けて矢を放った時から、そうするつもりだったんだろう。何が父親だ、卑劣なやつめ。」【晴明】 「子供は親を選ぶことができない……愛情の中で育つ者もいれば、親のせいで不幸な人生を辿る者もいる。」【鬼女紅葉】 「晴明様は私の不幸を嘆いてくれているの?同情は愛情へと繋がる道への最初の一歩よ。でも……捨てられるのを恐れることは、別に悪くないでしょう?あの時の私は、誰かに愛されたいだけの、ただの子供だったの。今でも、一人ぼっちになるのは嫌なの……晴明様。あの男は一つだけ正しいことを言っていた。彼を除けば、私を気にかける人は誰もいなかった。彼が重視していたのは、私ではなくて、私から得られるものだったけれど。ああ、思い出したわ。この頃から、私は彼に操られるようになって、臆病になっていった……」【小白】 「……腐敗の根源は、紅葉様の父上なんですか?」【晴明】 「……肝心な何かがまだ欠けているようだ。私見だが、恐らくここは紅葉の記憶の最奥ではないだろう。誰であろうと、自分の記憶が覗かれるのは嫌なはずだ。知られたくないことは、往々にしてうまく隠されている。恐らく、真の「根源」を見つけ出すには、さらに奥へと進む必要があるだろう。紅葉。」晴明が紅葉に手を差し伸べた。【鬼女紅葉】 「ふふ、喜んで、晴明様。」 |
肆
肆ストーリー |
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【ガキ大将】 「狙いは定まったか?三、二、一、撃て!」楓の木の上に止まって羽を休めていた烏は、驚いて羽ばたこうとしたが、もう間に合わなかった。石礫が烏を襲った。均衡を保てなくなった烏が、木の上から落ち葉の中に落ちてくる。少年達は皆はしゃぎ、拍手をした。【源博雅】 「これがさらに奥の記憶なのか?」【小白】 「烏が撃ち落とされてしまいました!」【鬼女紅葉】 「ああ……この子は私の「昔なじみ」よ。まだ「生きて」いた頃の姿を見るのは、久しぶりね……」【ガキ大将】 「楽勝じゃねえか。もっと手間がかかるかと思ったが、この鳥は本当に馬鹿だな。」【子分甲】 「数日前から目星をつけていたんだ。この鳥は毎日この木に止まる。」【子分乙】 「ここに巣でも作るつもりか?」【ガキ大将】 「あ!飛んだぞ、逃げる気だ!早く捕まえろ!」【子分乙】 「どこに行くつもりだ?」地面に落ちた烏は羽ばたきしながら、少年達の足元で逃げ惑っている。隙をついて舞い上がろうとした烏は、上から翼を力強く踏み付けられた。烏が凄まじい鳴き声を上げた。【ガキ大将】 「うるさい。」一人の少年が烏の頭を踏み付け、烏は叫びたくても叫べなくなった。【小白】 「ひどいですね……」【鬼女紅葉】 「あと少しで、私があの子を助ける。私というのは、昔の私ね……」紅葉の言った通り、しばらくして、少女の姿の紅葉が近くに現れた。この光景を目にした彼女は唖然とし、少年達の方に向かって走り出した。しかし彼女は少年達を止めるのではなく、少し躊躇してから、隣で様子を見ることを選んだ。【子分甲】 「?」【ガキ大将】 「何しに来た?」【紅葉】 「……(私ったら、どうして来てしまったの……来るべきじゃなかった。でもあの子の命が危ない……どうして?そう思うとすごく悲しくなる。)」【子分乙】 「なんだ?昨日、宴で褒められたから、調子に乗って自慢しに来たのか?」【紅葉】 「そんな……」【ガキ大将】 「そのやり方は老いぼれ達にしか通じねえぞ。あんな演技をするなんて、どうせ前から準備してたんだろ?」【紅葉】 「あの……」【ガキ大将】 「そもそもこの時間は、授業があるはずだろ?お前の父親は授業の予定をぎっしり詰め込んでいただろう、朝から晩までな。お前ら一家もよくやるよなあ、そんなに目立ちたいのか?ああなるほど、お前、授業をすっぽかしたんだろう、へへ。父親に告げ口してやろうか?」少年達は大笑いしたが、少女の紅葉は絶望した。【紅葉】 「(父上、もし父上に知られたら……)」【子分乙】 「なんだお前、一緒に遊びたいのか?」【子分甲】 「え?嫌だよ。うちの人がいつも言ってる、この子は不吉な子なんだって!そのせいで母親も死んじまったって。裏でこっそり俺達を呪っているかもしれない……今だって、呪いをかけるために走ってきたのかもしれない。」【子分乙】 「ははは、臆病者め、びびるなよ!おい、聞いたか?お前、呪いをかけに来たのか?お前の母親にしたように?」【紅葉】 「違う!母上は夜道で山賊に襲われ……」【子分甲】 「はいはい、それはただの言い訳ってことぐらい、誰でも知ってるぞ。まさか嘘をついているうちに、自分でも何が本当かわからなくなったのか?」【紅葉】 「う、嘘なんか……」【子分甲】 「あ、この烏め!また逃げようとしてる!」【ガキ大将】 「そうだ、一体何しに来たんだよ?用がねえなら、引っ込んでろ。邪魔すんなよ?」【紅葉】 「……(私、何しに来たの?烏を助けに来た……のよね。でも……本当にそうするべきなの……?もし余計なことをしたと……父上に知られたら。そうよね、どうしてあの子を助けなければいけないの?やりたいからやるというのは愚かなことだと、父上に言われたのに……これ以上、父上を失望させるわけには……)」少女は背を向けると、黙って離れた。少年達が容赦なく、もがき逃げようとしている烏をいじめる。しばらくして、烏は足掻くことをやめ、地面に倒れ込んだ。一人の少年が木の枝で烏をつついた。何の反応もないことを確認すると、彼らは満足した様子でその場を離れた。誰もいなくなると、少女の紅葉がひょっこりと現れた。彼女は足早に烏に近づき、地面に倒れている烏を抱えた。しかしいくら触っても、烏は反応しなかった。【鬼女紅葉】 「……?」【晴明】 「さっきの記憶に、何かおかしなところがあったか?」【鬼女紅葉】 「これは私の記憶じゃない。あの時、私は彼らを止めたわ。父上に叱られるのは怖かったけど、私はそのまま離れるほど臆病じゃなかった。どうしてこんな偽りの記憶が?」【晴明】 「偽りか……」周囲の景色がいつの間にか変化した。突然叫び声が響き渡り、皆そこに目を向けた。【紅葉】 「あっ!」【ガキ大将】 「噂の人形ってこれのことか?」【子分乙】 「変な人形だな、本当に不吉なものだったりして。」【ガキ大将】 「うえ、気味が悪い、お前にやる!」【子分甲】 「いらないよ!そういうのが一番苦手なんだ。」【紅葉】 「返して!」【ガキ大将】 「ははは、ほら……受け取りな!」【子分乙】 「ケチケチすんなよ、少し遊ぶだけさ。すぐ返してやるから、一々大声を出すな。」数人の使用人たちが彼らを見て、こそこそ話している。少女は男の子達を追いかけるのをやめ、黙ってその場に立ち尽くした。【紅葉】 「返して……人形を返して……お願い……」【ガキ大将】 「わかった、返してやるよ。」ガキ大将は人形を地面に投げ捨てた。【紅葉】 「!」ガキ大将が容赦なく人形を踏みつける。【鬼女紅葉】 「違う!これは、私の記憶じゃない!目の前で人形をあんな風にされて、我慢できる私ではないもの!だってあの人形は……晴明様、これが私の記憶だと仰ったけど、嘘よね?晴明様、何か隠してるの?あの時、黒い方の晴明様が私を騙したように?」【晴明】 「紅葉……ここで見た記憶と紅葉の記憶に齟齬がある理由は、私にも分からない。でも、私は決して何かを企んでいるわけではない。信じてくれ。」【鬼女紅葉】 「……ふふ、晴明様にそんな真摯な顔をされたら、断れないでしょう?もちろん晴明様を信じているわ。」【小白】 「さすがセイメイ様です……」大地が突然揺れ始めた。何かが砕ける音がして、周囲の景色に細いひびが現れた。ひび割れを通して、紫色の霧が絶え間なく侵入してくる。【源博雅】 「邪気はこの記憶の世界にも侵入できるのか!?まさか、外の結界が破られたのか?」【晴明】 「いや、結界に異常があれば、私はすぐにそれに気づく。これは……紅葉が集めた邪気が、暴走し始めたんだ。邪気は記憶をも侵食している。」【源博雅】 「もし記憶が全て侵食されたら……彼女にとっても、俺達にとっても、まずいことになるよな?」【晴明】 「……」【源博雅】 「記憶の世界を出るか?」【晴明】 「希望はまだ残っている。邪気が紅葉を完全に侵食してしまう前に……より奥の記憶に入り、「根源」を見つける。」【源博雅】 「……分かった!」邪気が氾濫する津波のように、晴明達に向かって押し寄せて来た。【晴明】 「紅葉!」邪気に巻き込まれる前に、紅葉は晴明の手を掴んだ。紫色の霧は、さっきの記憶を全て呑み込んだ。地面に投げ捨てられた人形も例外ではなかった。人形の真っ白な布は次第に朽ち果て、最後には泥となり、闇に溶け込んだ。 |
伍
伍ストーリー |
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【小白】 「危ないですね……危うく邪気に呑み込まれるところでした。ここは……また庭院ですか?」【源博雅】 「よく見ろ、同じ場所だが、同じ時間じゃない。」庭院の中は、一見以前の記憶と同じように見えるが、装飾には明らかに年季が入り、庭院に生えている木もずいぶん大きくなっていた。屋敷の中はとても賑やかで、たくさんの人が行き来している。人々は何かの準備をしているようだが、会話の内容は途切れ途切れでしか聞こえない。」【召使い甲】 「結婚式……」【召使い乙】 「その時が来たら、旦那様の出世は確実ですね!」【召使い丙】 「本当にいい縁談を見つけました。」紅葉の父と身分の高そうな人物が上座に座り、愉快そうに言葉を交わしている。その隣に座っている紅葉は、微笑みを浮かべている。【紅葉の父】 「この縁談が決まれば、我々はより親密な関係になることができる。」【中納言様】 「愚息が年頃になってから、ずっと嫁を探していたが、なかなか決まらなかった。あなたがこの話を持ってきてくれたおかげで、長年の悩みが解消された。以前からご令嬢は別嬪さんで、礼儀を弁えていると聞いていたが、今日会ってみて、百聞は一見に如かずという道理を改めて痛感した。愚息も大変喜んでいる。」【紅葉の父】 「愚女は休むことなく、素晴らしい方々から教育を受けて育ちました。ご安心を。愚女ならば、きっと幅広い分野で令息の力となるでしょう。」【中納言様】 「ははははは、子供達だけでなく、我々もちゃんと互いを「助け」なければな。」【紅葉の父】 「もちろん、ははは……」紅葉の父が笑いながら、紅葉に目配せする。紅葉は頷くと、皆に断りを入れて席を外した。婚約者を探すべく、紅葉は中庭に来た。途中で、紅葉は召使い達のひそひそ話を耳にした。【召使い丙】 「すごいよ、旦那様は。まさか中納言様とも繋がりを持つなんて。」【召使い甲】 「なんだよそれ、旦那様だって中納言様に劣らないぞ。中納言様も馬鹿じゃあるまいし、自分の利益にならなければ、今回の縁談を認めたりはしないだろう。」【召使い乙】 「旦那様は、まさに今日という日のために、お嬢様を育ててきたんだな。」……【小白】 「さらに深層にある記憶は、紅葉様の結婚式の記憶ですか?(結婚式の話は本当だったんですね。記憶の中の結婚式ですけど。)セイメイ様、これでもう三つ目の記憶ですけど、これが一番奥に隠されていた記憶ですか?まさかまだ四つ目、五つ目、六つ目の記憶が存在してるんじゃ……邪気の侵食がさらに深刻に、速くなってきています。心配です……」【鬼女紅葉】 「記憶はここまでよ。私の腐敗はこの日から始まったの。でも少し滑稽ね。これが一番奥に隠されていた記憶?別に隠すべき秘密だなんて、一度も思ったことないのに。私の人生で、この日が一番痛快だった。この日、私はやっと、私のやり方で彼に逆らうことができた。」中庭の楓の木の下、一人の男が扇子を手に夜の庭院を楽しんでいる。紅葉が彼に近寄っていく。【婚約者】 「この庭院からは、雅な趣を感じる。」【紅葉】 「父上はいつも趣を大切にしていて、普段から私にも勉強や手入れをさせているの。」【婚約者】 「当たり前だろう、お前はそのために生まれてきたんだから。」【紅葉】 「え……」男は薄笑いを浮かべた。【婚約者】 「その初々しさは嫌いではないが、私には賢妻が必要だ。お前がしてきた「勉強」と「手入れ」は、全てこの日のため、私のような地位の高い男に嫁ぐためだろう?我が一族と繋がりを持つために、お前は様々な代償を払ってきたのだろう?だから私の前ではとぼけなくてもいい。」【紅葉】 「(私はこんな人に嫁ぐの……?)はい。」【婚約者】 「我々はそれぞれの一族のために結ばれたに過ぎない。今後、お前は求められることだけをしていればいい。良い妻として振る舞え。我が一族の顔に泥を塗るようなことはするな。私を縛り付けるようなこともするな。そうすれば我々は良い関係を築けるだろう。」【紅葉】 「……わかった、そうするわ。」【婚約者】 「少し物足りないな。てっきり「ひどい!」と言ったり、泣いて逃げたりするかと思っていたが。こんなことを言われても、お前は怒らないのか?」【紅葉】 「(怒る?今は……怒るべき時なの?父上は私がそんな感情を持つことを許してくれなかった。)」紅葉は落ち着いた顔をしている。【紅葉】 「賢妻としてあなたを補佐する、これは父上が望むことでもある。父上と約束した……」【婚約者】 「ああ、そういうことか。父親のことを信頼しているようだな。ならばお前は、我々の関係は一時的なものだと、そしてそれはずいぶん前から決められていたことだと知っているか?」【紅葉】 「!父上は一度もそんなこと……(一時的なものって、どういう意味?)どうして……」【婚約者】 「教えてやってもいい。お前の父が官職に就き、我々が金銭問題を解決した暁には、この関係はなかったことになる。そして親族は私のためにより良い妻を探す。何せ我が一族の地位に見合う妻でなければ、役に立たないからな。別に不思議な話ではないだろう。これが我々の生き方だ。」【紅葉】 「(父上は最初からそのつもりで?私に黙って、こんな取引を……?生き方……父上はその後私がどうなるか、一度でも考えてくれたの?)」【婚約者】 「そういえば、こっちを説得するために、彼はこうも言っていたぞ……「目的さえ達成できれば、紅葉はどうなってもいい。人に知られないように、人前に出させないようにすればいいのだから。」つまり、死んでいようがいまいが、かまわないということだ。」【紅葉】 「父上が……そんなことを言っていたの?(私はいつも父上の言いつけを守ってきた。でも父上にとって、私はどうでもいい存在なの……?)」【婚約者】 「哀れだな。」【紅葉】 「(私の父上なのに、私の父親なのに。私を抱きしめて、絶対に私を見捨てはしないと言ったのに。全部嘘なの?決して叶わない、彼に愛されることは決して叶わない……)」【婚約者】 「まあ、これはお前の父親の考えに過ぎない。私の妻でいる間、私に逆らうことがなければ、傍に置いてやってもいいぞ。」【紅葉】 「……それはつまり、あなたの意志に従って生きるということ?」【婚約者】 「そうだ、今までのお前の生き方と同じだろう?他人に依存し、お前にとって有益な「意見」に従う。」【紅葉】 「意見……そうね、ふふふ……ふふ……相手の聞きたいことを口にして、相手の思惑通りに行動するの?ははは……はははは……皆、同じなのね!」……中庭の楓の木の下、先ほど扇子を手にした男が楓の葉の中に倒れている。彼の胸を覆い隠す楓の葉の隙間から見え隠れする匕首が、残酷な光を放つ。紅葉が楓のように美しく微笑んでいる。召使いの叫びで人が集まってくる。その光景を目にした人々は、皆驚愕した。【小白】 「!」【鬼女紅葉】 「ふふ、愚かな男ね。尊大な口調でそんなでたらめを言うなら、少し教訓を与えてあげないとね。彼はきっと、こんなことになるなんて思わなかったでしょう。いいえ、彼だけじゃない。誰も予想できなかったでしょうね。沈黙を貫き、人形のようだった私が、こんなことをするなんて。今でもあの日の気持ちを鮮明に思い返すことができる。」【源博雅】 「だが、命を奪うのはさすがに……」【鬼女紅葉】 「さすがに、何?ふふ、晴明様はどう思う?」【晴明】 「……物事に白黒つけることはできない。物事の定義は、是非だけで構築されているわけではない。申し訳ないが、私はこの記憶を評価できない。事件の当事者でない者は、当事者の気持ちを理解することはできない。だからどんな立場であっても、それを評価することはあまり適切ではないだろう。」【小白】 「……小白は少しわかる気がします。ただでさえ父親に支配されて生きてきた紅葉様が、未来の夫にあんなことを言われたんです。支配される人生が永遠に続き、誰からも大切にされることなく、利用され続けると。それに気づき、絶望に陥った人がどんなことをしたとしても、不思議ではありません。」【源博雅】 「(犬っころも、時には難しいことを考えるんだな。)そうだな、さっきの発言は忘れてくれ。」【小白】 「これが最後の記憶なんですよね。セイメイ様、腐敗の「根源」は分かりましたか?」【晴明】 「……何か、違和感がある。」【源博雅】 「晴明、見ろ……!」空が引き裂かれ、空の裂け目からなだれこむ邪気が、瀑布のように流れ落ちてくる。【源博雅】 「邪気がこんなにも早く記憶を侵食してくるとは!ここの記憶ももう長くは持たないだろう。一体どこに逃げればいい?」【晴明】 「とにかく邪気から逃げることだ。まだ侵食されていない記憶の中に一先ず隠れるとしよう。」晴明は紅葉の手を握り、今まで通り術を使った。しかし何の変化も起きず、他の記憶に入ることができなかった。【晴明】 「……」【源博雅】 「術が発動しなかったのか?」【晴明】 「この記憶は……何かがおかしい……」空から降る邪気は地面をすぐに埋め尽くし、晴明達に押し寄せて来る。晴明が霊符を使って邪気を食い止める。彼らの立っている場所を除き、他の場所は全て紫色の霧に呑み込まれた。周囲には、赤い目を持つ人々が次々と現れ、晴明達を見つめている。【源博雅】 「邪気は記憶の中の人間まで操れるのか……」【晴明】 「博雅、気をつけろ!」ある人影が気味の悪い動きで源博雅に向かって走ってくる。源博雅が放った矢を受けると、人影は邪気へと戻り、周囲に融け込んだ。人影が次から次へと襲ってくる。【源博雅】 「強くはないが、数が多すぎる!晴明、まだ脱出できないのか?」【小白】 「小白はもう周囲がよく見えません。セイメイ様、何を探してるんですか?」【晴明】 「隙だ。……!こんなにも明らかなのに、どうして気づかなかったのだろう。あの楓の木だ!」【源博雅】 「なに!?」【晴明】 「今はまだ夏だ。しかし楓の木はもう赤く染まっている。目くらましの術と同じだ。この記憶は「仮想」の記憶、あるいは「作られた」記憶と呼ぶべきものだろう。だから不自然なところがある!我々は惑わされ、偽りの記憶の中に囚われている。偽りの記憶の中でいくら探しても、当然腐敗の「根源」は見つからない。」晴明は呪文を唱えると、楓の木に向かって霊符を飛ばした。一瞬にして火が立ち昇り、楓の木は炎に包まれた。楓の木が崩れ落ちた瞬間、炎の中に新しい楓の木が現れた。火が消えると、そこには全く同じ楓の木があった。唯一の違いは、葉がまだ赤く染まっていないことだ。一行は新しい庭院の中に立っている。さっきまで存在していた空の裂け目も完全に消えた。【晴明】 「こここそが本当の、一番奥の記憶だ。」 |
陸
陸ストーリー |
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夜が更け、風の音がやけに大きく聞こえる。庭院にいる夏虫が鳴き、紅葉が銀色の月光を浴びる。【婚約者】 「……お、お前……何をした!?」紅葉が顔を上げると、恐ろしい傷口が彼女の口元から頬まで続いていた。精巧な匕首が地面に落ちている。竹の影が、赤い痕跡を隠す。」【召使い甲】 「お嬢様、さっき物音が聞こえましたが、何かありましたか?お嬢様の……お……お顔が?うわあああ……お嬢様……お嬢様が……誰か来てくれ!」【客人】 「何があった?」【侍従】 「何を騒いでいる?」【召使い丙】 「庭の方で何かあったようです……」騒動の後、人々は庭院に集まった。【召使い乙】 「そんな……」【婚約者】 「この女が突然匕首を取り出し、自分の顔を切りつけた……私は何もしていない……」紅葉の父が人混みをかき分ける。【紅葉の父】 「何があった?お前に切りつけたのは誰だ?言え、誰だ!」【紅葉】 「ふふ……ふふふ……」【紅葉の父】 「お……お前か?お前が自分の顔を切ったのか?誰の……誰の許しを得てそうしたんだ!よりによって今日という日に……お前は私の未来を潰すつもりか?この役立たずめ!」彼は地面に倒れている紅葉を起こすと、その体を揺らした。紅葉は反抗するそぶりもなく、父にされるがままに揺れている。【紅葉の父】 「どうして……なぜだ!」【紅葉】 「ふふふ……はははは……ははははは……」笑い声が庭院中に響き渡る。部屋の中、事情を知らない楽師達がまだ演奏を続けている。笑い声に音楽が混ざり、不気味な何かへと変わっていく。【源博雅】 「……他者ではなく、己を傷つけたか……己を傷つけるという方法で反抗したんだな……」【小白】 「小白はもう見ていられません……」【鬼女紅葉】 「これが……私の記憶?これが私の……本当の記憶なの?」古い傷をえぐられたかのように、彼女は突然晒された傷口を見て動揺を隠し切れなくなった。【鬼女紅葉】 「そんなはず……ない。」【晴明】 「……」【鬼女紅葉】 「どうしてこれが本当の記憶だと言い切れるの?」【晴明】 「……さっきの記憶の中で、私の術は発動しなかった。偽りの記憶に対して、術は発動できないからだ。つまりさっきの記憶は偽りで、本当の記憶を隠すために存在していた……」【鬼女紅葉】 「隠す?そんな、ありえない……」【晴明】 「……真相とはこういうものだ。」【鬼女紅葉】 「真相?これが「真相」だとしたら。私は結局、一度も反抗しなかったことになる。一度も自分の欲望に身を任せたり、心の赴くままに生きたりしてないことになる。私は過去を捨てたんだと思っていたけれど、実は自分を欺いていただけなの?私が妖怪になって手に入れた「自由」も、「やりたいことをやる」というのも、全て嘘の上に成り立っていたの?これが「真相」だったら、あまりにも悲しすぎるわ。ふふふ……私に、これが真相だと信じてほしい?」【晴明】 「受け入れられないかもしれないが、おそらくこれが腐敗の「根源」だ。」【鬼女紅葉】 「……腐敗の……「根源」?…!」紫色の霧から生まれた十数本の蔓が突然紅葉の背後に現れ、彼女の体をきつく縛った。【小白】 「邪気です!」晴明は術を使おうとしたが、蔓が手に絡みついた。何とか蔓から逃れた時、紅葉は既に邪気に呑み込まれていた。」【源博雅】 「この記憶もじきに侵食されるだろう。」晴明は霊力を込めた二枚の霊符を、それぞれ小白と源博雅に手渡した。【晴明】 「……私は紅葉を連れ戻しに行く。その間この霊符が守ってくれる!」【源博雅】 「……わかった!」晴明が紅葉を呑み込んだ邪気の中に入ると、その中は果てのない闇だった。漂う邪気は、強い霊力を持つ晴明を恐れ、近づいてこない。晴明は闇の中を進んでいく。空中に、様々な記憶の欠片が漂っている。記憶の欠片を避けて進むと、晴明はようやく跪座している紅葉を見つけた。彼女はもう蔓の束縛から解放されていた。【鬼女紅葉】 「……もうそれ以上言わないで……黙って……」紅葉の傍に来ると、晴明は彼女の前にいる人々に気がついた。父親、母親、召使い、婚約者、悪戯好きな少年……彼女の記憶に登場した人々が、何も言わずに彼女を見つめている。【晴明】 「紅葉。」紅葉は顔を上げなかった。【晴明】 「紅葉、大丈夫か?邪気の侵食が異常に早い。今の記憶の世界はとても危険だ。」【鬼女紅葉】 「私が悪いの?」【晴明】 「……なに?」【鬼女紅葉】 「どうして皆、私を責め続けるの?」【晴明】 「(どうやら邪気は記憶を利用して彼女を攻撃し、動揺させているようだ……)さっき見たものは過去にすぎない。彼らはもう何もできない。」【鬼女紅葉】 「いくら待っても、いくら追い求めても、私は一度も愛を手に入れることができなかった。」【晴明】 「……待てば、他人を優先することになる。そして追い求めれば、自分のことが見えなくなる。愛だけを見つめていた紅葉の心と目の中に、己の姿はなかった。紅葉は自分を愛していたか?」紅葉が晴明を見上げる。【晴明】 「紅葉、我々がずっと探していた「根源」、腐敗の原因は、おそらくもう見つかった。」【鬼女紅葉】 「……さっきの「真相」と関係があるの?」【晴明】 「本当かどうかはさておき、腐敗に関わっているのは確かだ。記憶の中では、烏を、人形を助けたことになっている。しかし本当の記憶では、紅葉は父親の言いつけを守って何もしなかった。記憶の中では、婚約者を殺め、父に反抗したことになっている。しかし実のところ、反抗を示すために、紅葉は自分を傷つけた。紅葉の肉体は世の中や一族、父親に縛られている。でもその心はその真逆のことに憧れている。肉体と心が長い間食い違っている。それゆえ、体と心が離反する。偽りの記憶が出現したのは、心の中の「偽りの記憶」が過去に起きた「本当の記憶」を隠したからだ。」【鬼女紅葉】 「その言葉の裏に隠れているのは、私への指摘?晴明様も、私が間違っていると思うの?」【晴明】 「……そんな風には思わない。むしろ……この全てを引き起こしたのは、一族の名誉を利用して紅葉を脅迫した……紅葉の父親、ひいてはこの世のしきたりだ。」【鬼女紅葉】 「…………体と心の離反が、腐敗をもたらすの?体と心が離反している人なんて、探せばいくらでもいるわよ。一度たりとも自分の心に背いたことはないなんて、誰が言い切れるの?どうして彼らは腐敗しないの?」【晴明】 「紅葉の妖力のせいかもしれない。紅葉は願いにより生まれた。本来、その力は己の願いを叶えるために使われるべきだ。しかしこれまでずっと、その願いに背いた行動をしてきた。体がその力を制御できなくなり、こうして腐敗が起きてしまった。」【鬼女紅葉】 「私の願い……私が本当にやりたいこと……」目の前で紅葉を責めていた人々が次々と向きを変え、去っていく。【晴明】 「過去を、自分を受け入れるんだ。臆病な自分も、欺かれた自分も、そして激しく愛し、追い求める自分も、全て受け入れるんだ……身心合一、そうすれば腐敗の「根源」を排除できる。」【鬼女紅葉】 「身心合一……」紅葉は少し釈然としたようだった。しかし次の瞬間、彼女の顔には悲しみと諦めの表情が浮かんだ。【鬼女紅葉】 「でも……もう遅いでしょう?」紅葉の周囲から邪気が溢れてくる。彼女の体が、肉眼でも視認できるほどの早さで再び腐敗していく。晴明は小白と源博雅が焦って彼を呼ぶ声を聞いた気がした。【晴明】 「(侵食を抑える術が無効になった。やはり邪気の侵食に一歩遅れたか……)」【鬼女紅葉】 「邪気はとっくに私の体を深く侵食した。これはもう変えられない。いくら晴明様でも、もうどうしようもないでしょう……」【晴明】 「……」周囲の邪気がますます濃くなっている。邪気は何度も晴明を侵食しようと試みたが、その度に強い霊力に恐れをなして諦めた。小白と源博雅が、ますます焦って呼びかける。【鬼女紅葉】 「でも、徹底的に腐敗しきる前に、こうして晴明様と一緒にいられた……なんだか、初めて出会った時に戻ったみたいね。」紅葉は楽しい思い出に耽っているようだ。彼女の目には、晴明の姿が映っている。【鬼女紅葉】 「あの時のように、私が醜くなってしまう前に、ここから去って……この子も連れていって。」紅葉は紅葉の人形を晴明に手渡し、晴明はそれを受け取った。彼女の手の中から無数の楓の葉が出現し、晴明を囲んで旋回する。その隙間から、晴明は紅葉がすっきりとした表情で笑うのを見た。【晴明】 「待て……!」さっきまで旋回していた楓の葉が地面に落ちると、周囲の景色は暗闇から紅葉林へと変化した。楓の葉が舞い落ちる中、小白と源博雅も紅葉林に現れた。【小白】 「急にたくさんの葉が……霊符も役に立たなくなりました……」【源博雅】 「晴明、いつの間に戻ってきたんだ?違う、ここは……俺達は記憶の世界を出たのか?」【晴明】 「紅葉は……彼女は我々を記憶の世界から送り出してくれた。」【小白】 「紅葉様は?」【晴明】 「……彼女は深く侵食されていて、腐敗を止めることはできなかった……」【小白】 「つまり……」【晴明】 「「根源」は既に見つかった。しかし「根源」を排除できるかどうかは、彼女次第だ……」晴明が展開した結界の外側では、いつの間にか多くの悪妖が幾重にも結界を囲んでいた。食欲を隠すつもりは毛頭ない、飢えた目の悪妖達が、絶え間なく結界を攻撃している。数十本の木の根が結界の上空に止まっている。十分に力を蓄えた後、木の根は一瞬で結界を突き破った。突き破られた結界はゆっくりと消えていく。晴明達と悪妖を隔てる最後の障害物が失われていく。 |
漆
漆ストーリー |
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結界が完全に消えた瞬間、待ちくたびれた悪妖達は一斉に襲い掛かってきた。【源博雅】 「ここの的は数が多い上に、全部動いている。弓術の練習にはうってつけだ。」【晴明】 「博雅、後ろだ!」【小白】 「そっちは小白にお任せください!」【晴明】 「(紅葉……今どうなっている……)」「記憶の世界の中……」 晴明達を記憶の世界の外に送り出した後、紅葉は邪気が漂う暗闇の中で跪いていた。彼女の肌にある斑が広がり、やがて他の斑と繋がった。【鬼女紅葉】 「(私の肉と骨が融けているのでしょう……もう腐敗がもたらす痛みには慣れたと思っていたけれど……)」彼女の前に立っていた人々は、一人を除いて皆消え去った。そこには相変わらず彼女を見つめている父親がいる。突然、父親の後ろから、彼女を呼ぶ声が聞こえた……【鬼女紅葉】 「(誰?誰が私を呼んでいるの?とても懐かしい声。晴明様達が、まだここにいるの?)」紅葉はよろよろと立ち上がった。その時、そこに立っていた彼女の父親が突然口を開いた。【紅葉の父】 「私のために、お前はそんなことをするべきではない。私がお前にどれだけの期待を寄せていると思う?この世の中で、お前のことを大切に思っているのは私だけだ。出て行ってはいけない……」紅葉は何も聞こえなかったかのように、彼女を呼ぶ声の方に向かう。すれ違った瞬間に、父親の声は途絶えた。父親の体が消え去ると、その後ろに一筋の光が見えた。紅葉はその光の中に入った。吹雪が紅葉の髪を巻き上げる。彼女は体力を消耗した母親と、幼い自分が走っている光景を目にした。【紅葉の母】 「もうすぐ……ここから出られる。」【鬼女紅葉】 「(母上……)」紅葉は吹雪に逆らって、一生懸命に彼女達に近づこうとする。雪の上に赤い足跡が残る。それは腐敗した彼女の体が残した痕跡だ。【紅葉の母】 「これからはもう、あの人に縛られない。」一本の矢が紅葉の母に向かって飛んでくる。同時に、鋭い刃のような楓の葉も放たれた。空中でぶつかった瞬間、楓の葉は矢を真っ二つに割った。【鬼女紅葉】 「そうね、ここを出ましょう。」無理矢理力を使ったせいで、紅葉を侵す腐敗はより一層ひどくなった。何も知らずに橋を渡った紅葉の母と幼い紅葉は、事前に手配されていた馬車に乗った。後ろの紅葉の父がどれほど怒声をあげても、もはや無意味な雑音でしかない。馬車が遠ざかり、この記憶も崩壊が始まった。二つに割れた矢が徐々に楓の葉へと変化し、紅葉の体内に入った。前方から父親の怒鳴りが聞こえる。紅葉は雪の世界から薄暗い部屋に入った。【紅葉の父】 「ならば嘘をつくな!」【幼い頃の紅葉】 「私、私は嘘をついては……」紅葉の父はまだ何か言おうとしていたが、楓の葉に貫かれ、幻のように消え去った。【鬼女紅葉】 「嘘をついたのは、私じゃない。」紅葉の葉が紙障子を突き破ると、光が一瞬にして薄暗い部屋を照らした。幼い紅葉が泣くのをやめ、光の下に来ると、彼女の体は記憶と共に消え始めた。こぼれ落ちた彼女の涙が空中を漂う。やがて集まって一枚の楓の葉になると、紅葉の体に入り込んだ。少年たちの甲高い笑い声が紅葉の耳に届いた。周囲は既に裏庭の林になっていた。」【ガキ大将】 「逃がすな!撃て、撃て!撃つんだ、はははは!」無数の烏が召喚に従うように、木の上から降り立った。くちばしが目玉をつつく。烏達の宝物がもう一つ増えた。」【鬼女紅葉】 「うふふ、あなた達も痛みを感じ、泣き喚くことができるのかしら?」小さな烏が彼女の手の中で一枚の楓の葉になり、彼女の体内に入り込んだ。前方で、数人の少年が紅葉の人形を投げ合っている。少女の紅葉はそれを止めることができない。紅葉はぼろぼろになった体を引きずり、よろよろと非力な少女の方へと向かう。【鬼女紅葉】 「あの子を助けてあげなきゃ。」紅葉は前に進んでいく。同時に想像を絶する痛みが彼女を苦しめる。それでも彼女には、少女に伝えたいことがある……【鬼女紅葉】 「してはいけないことなんて一つもないの。愚かかどうか気にする必要もないわ。」紅葉は楓の葉を呼び出し、手のようにして少女の紅葉を背後から押した。少女の紅葉はようやく心を決め、少年達の方へ走り出した。少年を突き倒すと、彼女は紅葉の人形を拾い上げ、嬉しそうに抱きしめた。人形は徐々に楓の葉へと変化し、紅葉の体内に入った。【鬼女紅葉】 「(ここまでかしら?)」ぼろぼろになった彼女の体は、もうこれ以上進めない。彼女の体に落ちる竹の影が揺らめいている。彼女の目には、匕首を振りかざし己を傷つける姿が映る。紅葉は最後の力を振り絞って、匕首を持つ「彼女」の手を掴んだ。【紅葉】 「私はもう操られたくない。」【鬼女紅葉】 「ならば抗え。」【紅葉】 「私はもう縛られたくない。」【鬼女紅葉】 「では打ち砕け。」部屋の中の音楽が庭院まで届き、美しい旋律が彼女達を包み込んだ。【鬼女紅葉】 「必要とされたい、愛されたい。その前に、「私」を確立させなければ。私を不幸にする人、私を愛さない人、彼らこそが本当の諸悪の根源なの。罰を受けるべきは彼らよ。」「彼女」はゆっくり微笑んだ。楓の葉はまだ赤くないが、空は既に赤かった。「彼女」の服は飛んできた温かい何かに染められて、まるで楓の葉で織りなされた服のようになった。客人達の悲鳴と「彼女」の釈然とした笑い声が新しい旋律を奏でる。紅葉はついに「紅葉」の中に倒れ込んだ。【鬼女紅葉】 「今……いよいよ終わりを迎えるのね?今の私は、ようやく心と体が一つになったわ……ふふ……それなら、新しい渇望を抱く時、私は最期を迎える。もっと……もっと……」侵食された紅葉の体に開いた空洞から、彼女の心が放つ弱い光が見える。朽ち果てるはずの心は、これまでに彼女の体に入った楓の葉に包み込まれ、癒えていく。地に落ちた匕首も一枚の楓の葉となり、紅葉の腐敗した心にくっついた。過去の無数の自分が、紅葉の心を作り直している。その心はゆっくりと、彼女の腐敗した体から抜け出そうとする…………」【小白】 「セイメイ様、見てください!」金色の光の中、楓の葉に包まれた心が、古い楓の木の場所に現れた。【晴明】 「紅葉……」その心が地に落ちようとした時、晴明は霊力を使って扇子を振り、風を起こした。そよ風に巻き上げられた紅葉の心を、無数の楓の葉が囲んで旋回している。時を同じくして、晴明が紅葉から受け取った紅葉の人形の中から、何かが殻を破ろうとしていた。【小白】 「うわ!紅葉の人形が破れました!」骨の烏が空に舞い上がり、紅葉の人形はかつて烏を縛っていた白い布となった。骨の烏は旋回し、自分の心を舞い踊る楓の葉の中に投げ入れた。すると紅葉の心臓が鼓動し始めた。空を覆い隠す楓の葉の中、心を依代とし、楓を体とし、紅葉の体が作り直される。【源博雅】 「なんて妖力だ。悪妖どもが恐怖に震えて逃げ出したぞ……」生まれ変わった紅葉が地面に降り立ち、目を開けた。骨の烏は旋回して紅葉の傍まで飛んでくると、翼で紅葉を優しく叩いた。【心狩鬼女紅葉】 「あなたも……殻を破ったのね。」骨の烏は舞い上がり、古い楓の木を囲んで旋回し続ける。その黒い根は次第に色褪せていく。木の幹から金色の流れが迸り、木の根を伝って森の土壌の中に注ぎ込む。霊脈からの力を得た枯れ木が、息を吹き返していく。一本、また一本と、木々に紅葉が咲いた。瞬く間に、赤く染まっていく。紅葉の黒髪が次第に色褪せ、白く染まった。晴明達が生まれ変わった紅葉に近づく。【心狩鬼女紅葉】 「晴明。ああ、髪が。力を使いすぎたみたいね。でも晴明と同じ髪色なら、悪くないわね、ふふ。」【晴明】 「もう執念を乗り越え、腐敗から逃れられたようだな。」【心狩鬼女紅葉】 「先ほど晴明が言った通りよ。心身が離反しているなら……体を捨てればいい。そうすれば、もう食い違うことはない。決して離反しなくなる。自分の記憶と向き合うよう私を記憶の世界に連れて行ったのは、晴明はとっくに本当の解決法を見つけていたからでしょう?何も企んでいないと言っていたけれど、これは立派な企みよ。でも、こういう企みは、好きよ。」【晴明】 「……紅葉のおかげで、紅葉林は元に戻った。しかし六道の扉が開かれた今、その影響はまだ拡大し続けている。今後紅葉林はまた、侵食されるかもしれない。」【心狩鬼女紅葉】 「私が今回みたいに、悪妖を食い散らかして、己を見失わないか心配なの?ふふ、晴明はいつになったら素直に私のことが心配だって言ってくれるのかしらね。」【晴明】 「何せ今の我々は、誰も未来を見通せない。」【心狩鬼女紅葉】 「もう一度私を封印する?「後顧の憂いのない」ように。それとも、私と結婚式を挙げて、私を永遠に「縛り付ける」?」【小白】 「だめです!セイメイ様にはまだ仕事がたくさん残っています。六道の扉の危機が、まだ人々を脅かしています。」【晴明】 「小白の言う通りだ、私はそんな約束はできない。都の人々が危機に晒されている。私にも貫きたい大義、そしてやりたいことが残っている。」【心狩鬼女紅葉】 「いいでしょう。束縛から解放されて、私にもやりたいことがたくさんあるもの。もし徹底的に封印を解いてくれたら、今日は……これ以上「お邪魔」しないわよ、ふふふふ。」【晴明】 「……分かった、封印を解こう。」【源博雅】 「晴明……!」晴明が呪文を唱えると、かつて紅葉を縛っていた封印の術が彼女の体から浮かび上がり、やがて空の中に消えた。【晴明】 「これで紅葉は、やりたいことをやり、行きたい場所に行ける。」紅葉は、まるで自由な楓の葉のように、骨の烏に乗り、飛び立った。【心狩鬼女紅葉】 「自由気ままに、心の赴くままに生きる。私は長い間それを忘れていた。今こそ、この願いを成就する時ね。晴明、また今度ね……」紅葉の笑い声が風の中に消えていく。【源博雅】 「封印を解いてよかったのか?」【晴明】 「ああ。彼女が私を信じているように、私も彼女を信じてみようと思う。」「数日後……」 骨の烏が庭院に飛んできて、晴明の机の上に一通の手紙を置いた。晴明が手紙を開く。「私達の結婚式をまだ挙げていないこと、忘れないでね、晴明。」何かを予見したように、晴明は額に手を当て、少々困った顔を見せた。 「昔……」【紅葉の父】 「手を出せ!」紅葉の父は怒鳴り、戒尺を取り出した。幼い紅葉は筆を置き、手を差し伸べた。戒尺に強く叩かれ、彼女の手は赤く腫れた。幼い紅葉は手を引き、何も言わずに机の下で腫れた手を撫でる。烏の鳴き声が聞こえる。それは慰めのようだった。紅葉が窓の外を眺めると、垣根の外を出ている枝に立つ烏もまた、頭をかしげて彼女を見ている。紅葉の目線に気づいた烏は、突然羽ばたき、紅葉の窓辺を掠ってからまた木の上に戻った。おどけてみせてくれた烏を見て、紅葉は思わず微笑んだ。同じ日、彼女は願い事をした。【心狩鬼女紅葉】 「いつか、自由気ままに、心の赴くままに生きたい。今、願いを成就する時が来た。」 |
欠片ストーリー(葉)
流言
流言ストーリー |
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私の夫は、長い間留守だった。ぼろぼろの布切れを纏って帰ってきた時、一枚の紅葉を私に手渡し、それを粉にして食べなさいと言った。しばらくして、子供を授かることはできないと言われてきた私が身ごもったので、一族や周りの人々は大変驚いた。噂も、その頃から流れ始めた。人々は、私が身ごもっているのは災いをもたらす妖魔の子ではないかと疑った……時々、私自身も動揺した……\nそんな噂の中で、我が子は生まれ、育った……数年経った、ある日の午後。私は彼女に、噂は怖いかと聞いてみた。幼い彼女は、私の袖を力強く掴んだ……「噂は全然怖くない。でも母上が噂を信じるのが怖い。」私は深く恥じ入った。もし私まで噂に耳を傾け、彼女を遠ざけるようになったら、一体誰が彼女を愛してくれるだろう。あの日、私は心を決めた。例え噂が本当だとしても、例え彼女が妖魔になっても、彼女が寂しくないように、私は必ず彼女の傍にいる…… |
想起
想起ストーリー |
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俺はこの屋敷に仕える御者だ。奥様とお嬢様の外出担当として一役買っている。出かける時、お嬢様はいつも微笑みを湛えている。はっきりとは憶えていないが、ある日を境に、奥様は姿を見せなくなった。そして同じころから、お嬢様の笑顔も次第に消えていった。お嬢様はめったに出かけなくなった。たまに外出しても、旦那様が必ず一緒だった。あまりにも気まずい雰囲気だったから、俺は我慢できずに冗談を飛ばした。お嬢様はくすりと笑ったが、俺には作り笑いだと分かった。お嬢様はもうすぐお嫁に行くから、もうお嬢様のために手綱を取ることはないだろうと俺は思った。そんな予想とは裏腹に、ほどなくして俺は再びお嬢様のために車を走らせることができた。しかし目的地は嫁入り先ではなく、紅葉林だった。紅葉林に捨てられたお嬢様は、もう一度だけ冗談を聞かせてほしいと言った。俺は焦って下手な冗談を口にしてしまったが、お嬢様はとても嬉しそうに笑った。俺には分かった。お嬢様は心の底から笑っていた。 |
受贈
受贈ストーリー |
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貴族の家に生まれたのは、本来人々が羨むほどの好運だった。しかし次男であったうえに、母上の身分も低かったから、父上は一度たりとも僕を見てくれなかった。幼い頃、僕はそんな日々を過ごした。一族が衰退しだすと、僕は父上からさらにひどい仕打ちを受けた。他人に蔑まれる人生など、あってたまるもんか!僕はやつらを踏みにじる。やつらは僕を仰ぎ、畏れる。そんな人生こそが僕に相応しい。だから僕は手間をかけて、高官の娘と結婚した。そして祈祷を使って、子供も手に入れた。父親になった僕は、その子を育てることに心血を注いだ。この子は将来、必ず僕に利益をもたらしてくれると知っていたから。そうでなければ、この子の存在意義すら怪しくなるだろう? |
紅葉の人形
紅葉の人形ストーリー |
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瀕死の烏を抱えて、私は部屋に戻った。もう飛ぶことはできないだろう……烏を真っ白な布の上に置くと、私は綿や藁を持って来て、それを使って「服」を作ってあげた。最後に真っ白な布で包み込み、黄色い飾りをつける。こうして私は、私だけの人形を手に入れた。私は嬉しさのあまり、長い間その人形を抱きしめ、その温もりを貪っていた。「これからは、ずっと一緒よ……」名前はどうしましょう?紅葉林から連れて帰ってきたから……紅葉の人形にしましょう。 |
祈祷
祈祷ストーリー |
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今日友達のところに遊びに行く時、変なじいさんを見かけた。ぼろぼろの服を着て、ずっと何か呟いている。僕を見た途端、じいさんは遠慮する素振りもなく、身振り手振りで水をくれと要求してきた。かわいそうだったから、僕は井戸に行って水を汲んであげた。鉢を受け取ると、じいさんは「神力を以て、水を賜ってくださるお方に感謝します。」と呟いて「ごくごく」音を立てて水を飲み干した。どういうことだろう、それは僕が汲んだ水だけど。僕に鉢を返すと、お礼の一つも言わずに、じいさんはまた、村近くの山に行くなどと呟き始めた。あとで友達が教えてくれた。あのじいさんはかつて名をとどろかせた貴族で、娘の紅葉も別嬪さんだったそうだ。しかし詳細はよくわからないが、娘は急に病死してしまい、一族は衰退の一途を辿り、あんな姿になったらしい。そして山に行きたいのは、若い頃、山の魔物とある約束をしたからだって……まあ、あくまでも噂だから、本当かどうか誰にも分からないさ。 |
意味
意味ストーリー |
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私は元々紅葉林に暮らしている、名もなき妖怪の一人にすぎない。自分がなぜ生まれてきたのかすら忘れたので、当然存在意義なんかもありゃしない。毎日だらだらと、当てもなく紅葉林をほっつき歩いていた。彼女……私の主に出会うまでは。彼女は紅葉よりも美しく、その情熱は火よりも熱い。彼女は意味のないことを頭に入れたりはしない。ただただほしいものを目指して進んでいる。決して止まらないし、決して後悔しない。まるで赤く染まる紅葉のように、自由に生きている。その自由な美しさに、私は震撼させられた。私は惹かれてしまった。だから私は彼女に仕えると決めた。最初、彼女は私を食べると脅かしてきたけれど、そんなことはしなかった。彼女についていけば、いつの日か、私も自分の存在意義を見つけることができるかもしれない。 |
偏愛
偏愛ストーリー |
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そうね、私の知っている晴明様は、今黒と白の二人になったわ。あんなに優しい人でも悩みを抱えるのね。自分を二人に分かたねば耐えられないほど苦しい悩みを。でも晴明様は、初めて会った時と同じ、優しいお方よ。そして黒晴明様は、私達が出会った時の記憶を持っている。二人の晴明様をそれぞれ別人のように扱う人もいるけれど、私から見れば、二人共「晴明様」なの。唯一の違いは、昔愛していた「一人」のお方が、今は「二人」になったということね。 |
変質
変質ストーリー |
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俺は紅葉林近くの村に住んでいる。村の老人は昔から、紅葉林には人食い女の妖が棲みついているから、近づいてはならないと言い続けてきた。だから皆、遠回りになっても必ず紅葉林を避ける。その後「六道」とかいうものが始まったせいで、土は汚染され、作物は全て干上がってしまった。しかし元々汚染されていた紅葉林は、いつの間にか回復していた。腹を満たすため、村の人々は仕方なく紅葉林に入り、食えるものを探し始めた。最初は誰もがひやひやしていた。しかし日が経っても妖怪など現れなかったので、皆は次第に警戒を緩めた。そして俺は、最初からそんな話は信じていなかった。大方村の人を戒める作り話だろう。降りかかった夜露を払い落とし、提灯を持って紅葉林を進む俺は、村の人々から「失敬」したものを背負っている。紅葉林を出たら、いい場所を見つけて、この金を使って……考えに耽っていると、突然頭上から声がした。「夜なのに騒がしいわね。どうやったらあなたは静かになってくれるかしら……ふふふふ……」 |
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