【陰陽師】四季と化すストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の四季と化すイベントのストーリー(シナリオ/エピソード)をまとめて紹介。メインストーリー(四季の歌)と乱森の旅ストーリー(今燕見、春惜記)それぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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四季の歌ストーリー
※編集中
今燕見ストーリー
壱
壱ストーリー |
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「季乱の森」【季守】 「どうしてまだついてくる。あれ?また日記を見るって言っているかな?無理だよ、あの日記はぼろぼろで、所々途切れていて読んでも何も分からないよ。仮に見つけたとしても、何もかも忘れてしまった僕じゃ理解できるはずないさ…でも何度も読み返したあと、ある名前を見つけた。「季守」、これは僕の名前じゃないか?はいはい、突かないで、この道を進むから。正直、ここ数日あなたがずっと角で突いてくれたせいで背中に傷ができたんだ…でも、一体どこに行ってほしい?記憶を失って目覚めてから、一体何日経ったかな?ひー、ふー、みー、よー…はっきり思い出せないな。まあいいか…喉乾いた、この木の実を食べてもいいか?」【鹿霊】 「ふぃー…」【季守】 「どうした、食べたいのか?えー、どうして木の実を奪った?あのな、食べなくても別に踏みにじる必要はないだろう。もったいないな…他の木の実を探すよ。」季守はおぼつかない足取りで進んでいる。記憶を失ってから、彼はずっとあてもなく季乱の森でほっつき歩いている。【鹿霊】 「うう!ぴぃぴぃー!ふぃー!」【季守】 「今度はどうした?おっと、この先に落とし穴があるのか。ごめんごめん、気が散ってて気づかなかった、回り道しよう。昨晩もありがとうな!夜中に起こしてくれて、でないと狼に囲まれて食い物にされていたに違いない。しかし…どうして狼はしつこく追いかけてくるんだ?しかもいつも真夜中…そのせいで…そういえばあなたも、おちおち寝ることもできないんだ。はあ、今夜は狼に見つからない場所で寝るべきだな…そうだ、鹿さん、僕が記憶を失った理由を知らないか?記憶を取り戻さないと、僕はこのまま彷徨い続けるのか…僕はどうしてこの森にいるのか、そしてどこに向かうのか…誰かが僕を待っているのかな。僕って、大切なことを忘れてないかな…」【鹿霊】 「ぴぃ…」【季守】 「ごめんごめん、あなたには難しすぎるか…あ!落とし穴だ。今度はどっちに向かうべきかな?うーん…こっち?」季守の背中を見て、鹿霊は呆れたようにため息をついた。空にある異様な裂け目を見上げると、鹿霊は複雑な表情を見せた。前足で地面を何度も踏みつけたあと、鹿霊に似ているリスは木の枝の上で姿を現した。【鹿霊】 「ふぃーよふぃーよ。」【リスの季霊】 「ぴよよよぴよよよ?」【鹿霊】 「ふぃーよ!」リスはある方に向かって飛んで消えた。「数日後……」【小白】 「この世界の森は美しいですね。同じ木に桃の花と楓の葉が生えていて、蓮の花に雪花が舞い落ちて、杏の花と梅の花は同じ蕾から生えてくるなんて、小白は一度もこんな景色を見たことがありません。これは春夏秋冬、四季が同時に訪れたのでしょう。本当に不思議ですね!」【源博雅】 「そうだな、六道の扉に入る時は覚悟を決めていたんだ。しかし…この世界ってそれなりに美しい世界じゃないか?もしできればここの人に話を聞いてみたいんだが、今まで人らしい人には全然出会えなかったんだ。神楽、疲れてないか?」【神楽】 「大丈夫なの、お兄ちゃん。」【源博雅】 「今回はゆっくり休んでいいと言ったのに、一人でこっそりついてきたとは。」【神楽】 「六道の世界は危ないの。例え平安京に残っていても、お兄ちゃん達のことが心配で居ても立っても居られないわ…」【八百比丘尼】 「神楽さんを心配しているのなら、くどくど愚痴を並べるより、ちゃんと彼女を守ってあげるべきです。」【源博雅】 「……」【八百比丘尼】 「そういえば、六道の扉に入る時はいつもこのように、知らない場所に送られますか?」【小白】 「今回はまだマシなほうですね、この前香行域に送られた時はみんなばらばらでした…」【晴明】 「今後六道の扉をもっと効率的に究明できれば、行きたい場所に行けるようになるかもしれない。」【八百比丘尼】 「そんなことができればいいですね。でないと今日みたいに、森の中で、それともどこか知らない場所をあてもなくほっつき歩く羽目になります…それにこの森の力は乱れています。占いの力で探索したくてもできるはずはないです。」【晴明】 「確かにこの森はおかしいな…四季が同時に出現したのも、大方力が乱れているせいでしょう。」【小白】 「おかしい?小白は美しいと思いますけど、ここはどこもかしこも桜の花が舞っていて、庭院の桜が咲く時よりも綺麗です!」【晴明】 「そんな君は桜の木を見つけたか?」【小白】 「えっ?」【源博雅】 「犬っころ、お前は目線が低いから、花びらしか見えなくて、高い場所のことは分からないかな?今まで桜の木は一本もなかったんだぞ、なのに桜の花びらが舞っているって、おかしいと思わないか?」【神楽】 「…言われてみれば、こんなにもたくさんの桜の花びらが、どこから来たかも分からないの…」【源博雅】 「ああ!さっきのこと別に神楽に言っているわけじゃないぞ。」源博雅は困っているかのように頭を掻いた。【神楽】 「やはりお兄ちゃんは私よりもよく観察しているね。」【小白】 「ぷい、小白が気づかなかったと思っていますか?地面に生えている草は茎がありません。ちょっと踏んだだけなのに、すぐ倒れました。」【八百比丘尼】 「この森はおかしいと感じたのは、たくさんの異常なことがあったので。まさか…ここは幻境なのですか?」【晴明】 「…幻境は実在しないものを作っている。もし幻境を作る者が力不足だったら、確かにあなたが言ったように、異常なことが生じてしまい、人を惑わせることはできない。しかし……ここはたぶん本当に存在している。私達は結構な距離を歩いてきたが、途中、同じ場所を一つも見つけることはなかった。このような規模で複雑な幻境を動かすには、強い力が必要だ。もし私達を閉じ込めたいだけなら、こんなにも広い世界にするのは明らかに矛盾している。それに複雑な幻境を作り出したとしても、長く続く可能性は低い。」【神楽】 「強い力…この世界でこのような強い力を持つ者って、やはり悪神しかいないよね?」【晴明】 「そうかも……」【神楽】 「うーん…ひゃっ!」【源博雅】 「神楽!」何もなかった地面に突然穴ができた。さっきまで草が生えていた場所はへこんでしまった。神楽は運悪く踏み外した。幸い源博雅は素早くそれに気づいて彼女の手をつかんだ。【源博雅】 「掴め!大丈夫か?俺の手を掴め、怖がらなくてもいい。」神楽は源博雅の側で体勢を整えるやいなや、二人の足元の地面にはまた大穴ができた。【小白】 「うわ!地面に急にたくさんの大穴ができましたよ!セイメイ様!」晴明は飛んできた小白をしっかりと受け止めた。【晴明】 「みんな、私の側に来なさい!」晴明は術を使って足元の狭い場所を守った。【源博雅】 「なんだよ、このびっしり並んでいる穴は…最初からあったものか?」【八百比丘尼】 「おかしい、これは明らかに私達を狙っています!どうやら、誰かが私達に気づいたようです。それにしても今回はちょっと早すぎますね。」【小白】 「セイメイ様、穴の中から物音が聞こえました!」穴の中から不気味な音が聞こえた。何かが穴の中から這い上がろうとしているみたい。源博雅は矢を番え、みんなも戦いの準備を済ませた。【晴明】 「皆気をつけなさい!」しかし穴の中から溢れ出てきたのは想像してた獣とは違い、びっしりとした木の根っこだった。木の根っこは空をも切り裂く勢いで穴の中から溢れ出てきている。周りから溢れ出る木の根っこは鋭い刃のように、明らかに晴明達の命を狙って一斉に飛んできた。【源博雅】 「くそっ!数が多すぎる!」【晴明】 「地面にもあるぞ、足元に気をつけなさい!」晴明が作った盾はほとんどの木の根っこを防いだ。凄まじい勢いで飛んできた木の根っこは盾にぶつかると忽ち砕けて木くずになった。みんなの周りは絶え間なく木くずが舞い落ちていて、まるで黄色の豪雨が降っているようだった。【八百比丘尼】 「砕けた木の根っこが…再生しています!」砕けた木の根っこは他のに触れると自動的に溶け合い新しい木の根っこになっていく。それどころか、砕けた瞬間に再生した木の根っこもある。【八百比丘尼】 「いつまでも一方的な攻撃を許すわけにはいかない…何か方法を考え出さないと!」【源博雅】 「こんなにも多くの木の根っこだから、きっとどこかから現れてるはず…もしや穴の中にあるのか?」【晴明】 「早まるな!森の力が乱れているせいで、穴の中の様子を調べたくてもできない。」【小白】 「セイメイ様、見てください、あの木の様子がおかしいです!季霊です!この前庭院で道に迷った時、小白は彼らに出会いました!こっちに向かって手を振っているようです!何かが言いたいようですけど!?あれ、どうして急に木の幹を噛み始めました……?」【源博雅】 「まさか…あの木を噛みちぎって俺達を助けるつもりか???」【晴明】 「いい考えだ!」晴明は縄代わりに霊力を使い、霊力の縄を隣の木の幹にしっかりと結びつけた。リスは次々と木々の間を飛び回っている。一方、晴明はその動きに合わせて一つまた一つの巨木を引っこ抜いて穴の上で架け橋を作った。重たい巨木は穴の中から出てくる木の根っこをどっしりと押さえつけていて、木の根っこの攻勢は衰え始めた。【晴明】 「早く!木を渡るのだ!」みんなは一番近い場所に倒れている木に飛び上がり、そのまま崩壊地域を走り抜けた。【源博雅】 「掴まえろ!」【神楽】 「うん!」【小白】 「こっちです、リスさんが案内してくれています!」隙間から現れた一本の木の根っこは源博雅に足に絡みつくように蠢いているが、晴明は素早く霊符を使ってそれを吹き飛ばした。【晴明】 「殿は私に任せて、先に神楽を連れて行きなさい!」【源博雅】 「うん!」リスは素早く木々を飛び回っているが、みんなも負けずにそのあとを追っている。しばらくして、しつこく追いかけてくる木の根っこの音はようやく聞こえなくなった。【八百比丘尼】 「木の根っこは…もう追いかけてこないみたいです…どうやらそれは一定範囲内でしか襲ってこないようです。」【晴明】 「うん、これから気をつけよう!突然命を狙われる攻撃を受けたのに…私達は何者に攻撃されているか、なぜ攻撃してくるかも分からない。今の私達が考えていたよりも危険な状況にいるかもしれない。」【源博雅】 「とりあえず…はーはー、しばらく走らなくてもいいんだろう。」【小白】 「リスさん、久しぶりです。」【リスの季霊】 「ぴよよよ!」【小白】 「あれ?庭院で小白が会ったリスさんじゃないみたいですけど…?ははは、くすぐったいです。小白の耳をくすぐらないでください…この前は会ってないけど、リスさんは仲間のおかげで小白のことを知っていますか?え、もう出て行くのですか?」リス季霊は木の上に飛び上がり、ふさふさのしっぽを振ってて何かを伝えようとしている。【晴明】 「…ついてきてと伝えたいじゃないか。では、ついて行ってみましょう。さっき助けてくれたから、急に敵になることはないでしょう。この先に誰かが私達を待っているかもしれない。」「密林の奥地……」【小白】 「…墓碑…また墓碑ですか…墓碑はたくさんありますね…どうしてここも香行域のように、どこに行っても墓碑を見かけるのです?リスさん、どうして墓地に連れてきましたか…もしかしてこの森で一番安全な場所はここなのですか?」【源博雅】 「一口に墓碑と言っても、今回は明らかに違うんだ。だってさ…ここを見ろ……二十代目の季守の墓…」【八百比丘尼】 「四十五代目の季守の墓、四十六代目の季守の墓…」【源博雅】 「ここは全部「季守」の墓なんだよ!「季守」って人はたくさんの墓を持っているか、それとも墓の中に埋めている人は…全員「季守」って名前か?そもそも、「季守」って一体何者なの?」ぱきと木の枝が折れた音がした。ざわざわとする木の葉の音が聞こえたあと、森の中から無数のギラギラしてる目が見えた。【源博雅】 「これは…?」茂みが揺れ、みんなが警戒している時、多くの季霊は表に出てきた。【小白】 「また季霊ですか…リス…兎…狐…燕…彼らは…小白達を囲んだのですか!?」【???】 「あなた達…何…者…」【晴明】 「!!!」【???】 「あなた達は…何者…」遠くからのような、耳元でささやかれたような、晴明は誰かの声を聞いた。しかし声は途切れていて、急に聞こえなくなるから、声の主は何を伝えたいかは全く分からない。【晴明】 「あなたは何者です?」【小白】 「セイメイ様、どうしました?」【晴明】 「君達は…聞こえなかったか?」【八百比丘尼】 「何をです?」晴明の手のひらから弱い雷が走り出した。【八百比丘尼】 「天羽々斬が季霊に反応しています?」【源博雅】 「まさかこの中に悪神がいるのか?」【晴明】 「……」墓碑の近くの大樹の上にいるリス季霊は急に不安になったのか、樹冠の中に隠れた。周りの季霊はみんなに迫っている。と同時に、大地が揺れ始めた。【源博雅】 「どういうことだよ!?」【神楽】 「晴明、あの木が揺れている!」【源博雅】 「まさかさっき俺達を攻撃してた者の正体はこの木なのか?ってことは俺達は敵の住みかに来ちまったのか!」【晴明】 「それはどうかな!」晴明の手の中から飛んで行った霊符は木の幹にささった。木の幹は無傷だったが、霊符は水面に刺さったようにゆっくりと吸収された。霊符が消えたところには細かいひび割れが次第に広がっている。ひび割れが広がるにつれ、幹の中からは無数の蔓が現れる。全ての蔓が消えた時、木の幹のひびは塞がり、何もなかったように最初の姿に戻った。【源博雅】 「あれは……?」【小白】 「地面に…一人の人が現れました…?」【神楽】 「木の幹よ、さっき彼を包み込む蔓が木の幹から彼を運んで地面に置いたのを見た。でも晴明、私達とは姿がちょっと違うみたい…」【小白】 「まさか、彼こそが悪神なのですか!?」みんなの後ろ、誰も気づかない隅っこで、黙って彼らを見つめている。【季】 「……契約が破られて以来、四季は巡らなくなり、私とあなたとの駆け引きはずっと続いている。けれど今回はあなたが恐れる存在を、私は先に見つけた。母神よ、逆転は往々にして一瞬で起きる。今こそ、本当に四季を人間たちに返す時。」 |
弐
弐ストーリー |
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「季乱の森」【源博雅】 「彼が…悪神だと?」源博雅が言葉を言い捨てた瞬間、一本の鋭い蔓の刃は忽ち晴明の胸の前まで迫ってきた。【源博雅】 「!!!」【小白】 「セイメイ様!」八百比丘尼は静かに術を構えた。しかし晴明は手を振って仲間達の行動を止めた。【晴明】 「もし私の命を狙っているのなら、とっくに蔓の刃を刺したでしょう。話があるのでしたら……早く姿を表すほうがいいじゃありませんか!」前にいる季霊達は道を開け、一匹の鹿霊は控えめに出てきた。鹿霊が前に出てくる時、周りの森からは無数の青色の光が現れ、鹿の体の中に流れ込んでいる。鹿はみんなの目の前に止まった。【???】 「あなた達は私が支配する領域に入った。私の許しがなければ、誰もここから逃れられない。もし生き延びたければ、素直に白状しなさい。あなた達は……一体何者?」【晴明】 「私達の名前、それとも目的が知りたいですか?」【???】 「……「野椎神」、あなた達の目的は彼女でしょうか?」【小白】 「!!!(こそこそ)須佐之男様がおっしゃっていた名前です…」【晴明】 「あなたと野椎神とはどういう関係でしょうか?」【???】 「勘違いするでない、こっちが質問している。」晴明の胸の前にある草の刃はより一層近づいた。【晴明】 「危険に晒されているのは私達のほうです。仲間達の身を守るには、言葉の一つ一つに慎重にならないといけません。これについては、理解してもらえるでしょう。私達を助けた上、こうして話し合う機会をくれたもの、私はこう睨んでいます。あなたは野椎神の味方じゃないでしょう?」【???】 「…その通り。」【晴明】 「やはりそうですね。私達は悪神、つまりあなたがいう野椎神を討伐しに来ました。」【???】 「!!!討伐に…待て!どうやってそれを証明する?」【晴明】 「私が持っている力が何よりの証拠です。」晴明の手のひらに雷光が走り、晴明の体を包み込んだ。胸の前に止まっている草の刃は雷光に触れた瞬間に灰燼となった。【???】 「あなた!!!」天羽々斬の力に驚いた鹿霊は反射的に数歩下がった。【???】 「……わかった…その力を収めてください…」走っている稲妻は晴明の手の中に収まった。周りの季霊はゆっくりと森の中に戻り、さっき樹冠の中に隠れたリスも小白の頭に戻ってきた。【???】 「ふぅ……」鹿はホッとしたようだ。【???】 「すみません…私にはこうするしかないわ…余裕がないの。あの手この手で試すより、直接「聞く」ほうがいいかもしれない。」【小白】 「聞く?」【???】 「正直、「悪人面」をするなんて、私には結構厳しいの。」【源博雅】 「…悪人面?」【???】 「あ、そうだわ!」春桜の香りを帯びるそよ風が吹いた。舞い落ちる桜の花びらの中で、鹿は微笑む少女に変わった。【季】 「何であれ、今日初めて会うもの、やはりこの姿にするほうがいいと思う。幸いなんとかこの姿を維持するだけの力は持っている!」【小白】 「鹿が人になりました!」少女は小白の側に飛んできて、興味深い顔で小白の周りを一周回った。【季】 「さっきから聞きたかったの!狐さんは喋っているよね、私のように人に化けることができるんじゃないか!本当に綺麗ね!」【小白】 「え!?ど、どうしていきなり小白のことを褒めますか!」【季】 「小白、あなたは小白と言うの?そのままの名前だね。」【小白】 「小白は愛称ですよ!どうして褒めてくれた途端に愚痴るのです?」【晴明】 「さっき私に話しかけてくれたのはあなたですよね?」【季】 「さっき?ええ、私。すみません、少々唐突過ぎたわね。私は季。今のあなた達がいる場所は……春惜の国。そこに倒れている人は、季守というの。」【源博雅】 「季守?彼が季守なの!?」【季】 「はい、彼は私の仲間で、あなた達を傷つけない。もし本当に野…、悪神を退治しに来たなら、私達は同じ目標がある…つまり、私達は仲間と言えるでしょう?とにかく、先にあなた達に見せてあげたいものがある。」季は手を振ると、地面に水たまりができた、水たまりには何もない真っ黒な世界が映っている。虚空の中、季乱の森だけは闇の中で静かに漂っている。【季】 「これが今の世界なの。野椎神は春惜の国の全てを喰らい尽くしたから、今のこの世界は、この森しか残っていない。彼女はいまだに森を喰らい続けている。まもなく、この森は全て呑み込まれる。それまでに野椎神を見つけ出し、止めなければ、春惜の国の全ては跡形もなく消え去り、彼女の食い物にされてしまう。そしてあなた達も永遠にここに閉じ込められる可能性がある。」【晴明】 「どうやらここは暴食と享楽の悪神が巣食っているようです。時間についてですが、あとどのくらい残っていますか?」【季】 「長くは持たない、世界は刻一刻と消えている。即ち野椎神に呑み込まれている。…もしかしたら明日にでも消えるかもしれないわ…半年前…野椎神は次第に目覚め始めた。私はずっと自分の力で彼女を抑えつけている。しかし空に急に裂け目が開いて、なぜか分からないけど、野椎神の力は強くなった。そして私達の力は衝突した。私と彼女が争い合った時、この森…季乱の森が誕生し、広がった…」【晴明】 「裂け目とは六道の扉のことでしょう。六道の扉が開いたせいで、封印は弱まり、野椎神はスキに乗じて力を取り戻しました。」【季】 「私は完全に彼女に打ち勝ち、止めることはできなかった。だから彼女は絶え間なく周りを喰らい続けている。やがて私達の戦場はこの森しか残らなかった。彼女が全てを喰らい尽くすのを止めるため、私は持つ限りの力を尽くした。」【八百比丘尼】 「道理で森の力は乱れています。それはあなた達の力が争い合った結果ですね。」【季】 「でも、あなた達なら彼女を打ち倒せる力を持っているでしょう?」【晴明】 「…そうと言えるのでしょう。私達のことはご存知の通りです。しかし私にはまだ疑問が残っています。あなたは何者ですか?どうして強い力を持つ野椎神に対抗しますか?」【季】 「……私は、野椎神の娘。」【小白】 「!!!せ、セイメイ様、悪神の娘ですって!?」【晴明】 「娘とは言っても、実は野椎神が産み出した妖怪じゃありませんか?悪神は妖魔を産み落とせるから、別に不思議なことではありません。娘という言い方も、あながち間違っていません。しかし、野椎神の「娘」であれば、なぜ野椎神と争っていますか?」【季】 「……かつて春惜の国には四季があった。ここで暮らすカレハは平和な生活を送っている。あの日までは……野椎神は四季を喰らった。そして私は野椎神が喰らった四季から生まれた…」【小白】 「つまり四季の神ですね?」【季】 「そうかもしれない。」季は苦笑した。【季】 「私はかつて野椎神の命令に従い、大地を練り歩き、季節を作って四季を喰らい、春惜の国を彼女の食の場にした。そのあと、彼女と違う考えを抱いて袂を分かった私は四季の契りを定めた。私が亡くなると季節は訪れ、一つの季節の力を喰らった野椎神は満腹になり、眠りにつく。だから私は四季の契りを定め、三か月を一つの季節にして、自ら四季を巡らせ、こうして千年が経った。」【晴明】 「……」【小白】 「自分を犠牲にして四季を巡らせていますか…」【季】 「ここ最近の一年の間、たくさんのことが起きた…今、私が四季を巡らせるではなく、野椎神が目覚めるのを待って、全てを終わらせると決めた。」【源博雅】 「野椎神さえいなければ…その、なに…四季の契りとやらを守らなくてもいいか?」【季】 「ええ。もし野椎神がいなければ、世界に危害を加えないように、自分を犠牲にして一つの季節の力を野椎神に送って彼女を眠らせなくてもいい。そうすれば…時を合わせて四季を創り出すことができる…」【八百比丘尼】 「つまり、野椎神を倒すことさえできれば、野椎神が喰らった全てを取り戻せるのですね。そしてその時あなたは春惜の国に正しく巡り回る四季を与えられます。」【季】 「…うん、そうなの。全てを終わらせる。晴明さんも私がしたことを見たはず。私の立場については心配することはないでしょう?他にもまだ疑問が残っているかもしれないけど、仲間として一緒に行動すれば、徐々に理解してもらえるはず。今一番重要なことはいち早く出発すること、私はこの森をよく知っている。この森を出て、悪神を見つけ出したければ、必ず私の手助けがいる。」【晴明】 「悪神の詳しい位置を知っていますか?」【季】 「何となく感じることができる…今本当の私は燕見山の山頂に囚われている。もし本当の私を助けてくれれば、野椎神を見つけ出すことは難しくない!」【晴明】 「……」【八百比丘尼】 「彼女の方法のほうが効率がいいみたいですね?」【晴明】 「うん、世界は呑み込まれている。時間は迫っている。季の力を借り、同時に二つの方法を試しながら助け合うほうがもっとうまくいくはず。」【季】 「もう一つお願いしたいことがあるの、先に季守を助けてくれないか?彼は傷を負った…手当てしているけど、力が弱まっているせいか、彼を呼び起こせないの。」神楽は蹲って少年の様子を確かめる。【神楽】 「傷だらけ…体中に傷ができている。」【晴明】 「…八百比丘尼、彼の傷を診て、手当てしてくれないか?」【八百比丘尼】 「いいですわ。ざっと診ました、全部かすり傷です。致命傷を受けたわけじゃない、今は気を失っているだけです。既に手当したので、もうしばらく経ったら、目を覚ますはずです。」【季】 「よかった!私は一人で森を彷徨い、季守を助けてあげることも、喋ることもできないから、勘違いしてた…幸いあなた達に出会えた!」その時、一枚の手裏剣はまっすぐに晴明のほうに飛んでいく。晴明は素早く頭を傾け、手裏剣は耳元をかすめて消えた。【源博雅】 「誰だ!?」手裏剣を投げた犯人はさっきまで地面に倒れていた少年だった。彼はいつの間にか目を覚まし、敵意をあらわにみんなを睨んでいる。【季守】 「止めさせないぞ。」傷だらけだが、それでも季守はふらつきながら頑張って立ち上がった。【小白】 「彼の腕から刃が伸びてきました!セイメイ様、危険です!」凄まじい勢いで振る刃はみんなに襲ってきた。【季】 「季守!傷つけないで!彼は悪い人じゃないの!」【季守】 「僕は必ず燕見山に戻る。」【晴明】 「落ち着いて。」季守が距離を縮めた時、晴明が飛ばした陰陽道の霊符が彼の体に張り付いた。季守は全ての力が抜けたように、ゆっくりと地面に座った。」【源博雅】 「どうして彼はこんなことを?」【小白】 「仲間ですから、みんなには傷つけないってことじゃありませんか?」【季】 「…彼は私と共に過ごした記憶を全て失ったの。彼に何があったか私にも分からない。この前森の中で彼を見つけた時、既に記憶を失っていた。私は長い間彼の後を追っている。彼を守るだけでたくさんの力を使ったので、話を交わす余裕はほぼなかった。森の至る所に危険が潜んでいる。彼が歩き出すたびに注意してあげなければならない。このままでは、彼は本当に命を落とす。でも時間が経つと、彼は傷が増えて、眠る時間も長くなっていく。森のどこかで倒れたら余計に危険じゃないかと心配するので、私は彼をここ……季守が誕生する地に連れてきて、大樹の力を借りて彼を季守っている。長い間記憶を失ってたせいか、彼は冷静でいられなくなった。」晴明は手を季守の頭に置いた。【晴明】 「おかしいね…彼の頭には記憶の「痕跡」が残っているけど、一貫している「記憶」がありません。まるで誰かが何回かに分けて彼の記憶を盗んだかのようです。」【季】 「…野椎神、季守の記憶まで喰らったの?」【晴明】 「記憶を失い、自分の人生を構築することもできないから、次第に自我を見失ったのでしょう。」【神楽】 「私は彼の精神を少し安定化させることができる。」神楽は季守の額に手を当てた。巫女としての霊力はゆっくりと季守の体の中に流れ込んでいく。顰めている眉が次第に緩み、しばらくして、彼は目を開けた。【季守】 「うう……」【季】 「起きたね!」【季守】 「……ごめん、君は…?」【季】 「……」【季守】 「僕ったらまた気を失ったか…確か鹿がいるはずだけど…」【季】 「その鹿は私なの。」季は一度鹿の姿になった後、再び人の姿に戻った。【季】 「さっき私のことを聞いたでしょう?こんにちは、私は季。」【季守】 「季?鹿さんは季って名前か…それは日記で一番よく見かける名前だよ。森の中で過ごした日々の中で、ずっとそれを伝えたかったでしょう。ごめん、僕には分からなかった。日記によれば、僕は君を守るべきだけど、最近はずっと守ってもらっているな。そんな大切なことまで忘れて、本当にすみません…」【季】 「もう謝らなくてもいいの!この一年間、守はよくやったの。今は新しい仲間ができたから、再び出発することができるよ。」【季守】 「再び…出発する?僕達は何をするって約束した?」【季】 「……うん!私達は約束したの、あなたは忘れただけ。」【季守】 「すみません……」【季】 「あなたは忘れたけど、私はまだ覚えている!だから別に約束を破ったわけじゃない!」【季守】 「うん……そういえば…あなた達は?」季守は晴明を見ている。【晴明】 「こんにちは、晴明です。」【季】 「彼らは私達を助けてくれる人なの。」【小白】 「一つ尋ねてもいいですか、季守様はどうして記憶を失いましたか?」【季】 「うーん…たぶんそれは野椎神が目覚めて次第に私との繋がりを築いたからじゃないかな。一旦繋がりを築いたら、彼女は私の記憶の一部を覗ける。そうすれば自然と守の存在に気づく。守が側で私を守るのは気に入らないか。彼女は守を傷つける妖魔を送り続けている。私がまだ守を見つけていない時、ある襲撃で、彼は野椎神に囲まれて記憶を失ったじゃないか。」【小白】 「でもどうして悪神は命ではなく、彼の記憶を奪ったのですか?」【源博雅】 「小白!」【季】 「それはね、季守は「亡くならない」よ。今の季守が亡くなると、次の季守は誕生する。厄介でキリがないから、記憶を喰らうほうが便利かも。」【晴明】 「それは季守の誕生と継承のやり方でしょう。ここにたくさんの季守の墓が存在している理由は、代々「季守」という役割を受け継いるからです。今の季守が消えると、次の季守はここで誕生します。」【季】 「ええ。」【神楽】 「どうして、こんなことに?」【季】 「…これからの旅の中で、もし興味あるなら、ちゃんと説明してあげる。なぜなら、これは千年前の話だもの。話せば長くなるの…」【小白】 「(呟く)前は小白達が記憶を失ったけど、今回は他の人が記憶を失いましたか…」【晴明】 「ん?」【小白】 「何でもありません!目的は同じですから、これからは仲間同士ですね!」【季】 「守、聞いた?これからはもう二人っきりじゃないよ、新しい友達ができたよ!」【季守】 「ありがとう…」【八百比丘尼】 「私にはまだ一つ聞きたいことがあります。季守さんは体調が優れていません、どうして木の中で休ませてあげませんか?」【季】 「…私と守は二人とも森のことをよく知っている。守は昔のように戦うことができないかもしれないけど、足手まといにはならないの。彼を連れてあげてください。」【八百比丘尼】 「…少しおかしいと思っただけです。」【晴明】 「いいですよ、この森は無数の危険が潜んでいます。目標を立てた以上、やはり早く出発すべきです。何故ならば野椎神は今でも私達を見つめているかもしれません。」【季】 「うん!」「旅の中」【晴明】 「頑なに季守を連れてほしいことについて、他に理由があるのではありませんか?」【季】 「……晴明さんはいつもこんなに鋭いか?私はごまかすのが苦手ね…仮に本当に何かに気づいたとしても、しばらく黙っていてほしいの。これは私からのお願い。」【晴明】 「……時に、一人で全てを背負い込むことは正しくないかもしれません。もう何も聞きません。正しい時に、あなたの判断にお任せします。」【季】 「ありがとう…」 |
参
参ストーリー |
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「季乱の森」【季】 「そう、この道よ、こっちよ!」【小白】 「季様は本当にすごいですね、小白は少し進むとすぐ方向が分からなくなりました。今度の分かれ道はさっきとほぼ同じですけど、季様には正しい道がわかりますね。」【季】 「ここで千年も過ごしたから、ここのことを知ってて当然なの。以前はこんな景色じゃないよ。春夏秋冬はどこを訪れても、はっきりとした特徴を持っている。例えばそこ。」季は何の変哲もない石を指さしている。【季】 「春になると、石の下には若い草が生えてくる。まるで緑の裾みたいに。夏になると、石は日差しを受けてとても熱くなるの。うっかり触ってしまったら、火傷するかも。秋になると、リスは石の隙間に松ぼっくりを隠すの。冬になると、石は雪に覆われて…」【小白】 「でもそれは全部ありきたりな四季の景色じゃありませんか。」【季】 「普通の景色か?普通かどうかについて一度も考えたことはない。それらの一つ一つは、どんな時でもとても特別で、異なる個である。同時に合わせると四季になるの。そう考えると不思議と思っちゃうよ!もし燕見山が元の姿のままだったら、本当に見せてあげたいの。私のお気に入りの穴場はたくさんあるよ。ううん、残念だね…多くは野椎神に呑み込まれて消えてしまった。」【神楽】 「歩いて来る途中、確かにたくさんのものは静かに消えた。さっきまで枝に咲いている花だけど、瞬きするともう消えてしまった。先程飛んで行った小鳥も、一瞬気が散ったらすぐ見えなくなる。」【季】 「怖くないよ!例え最後になっても、私は必ずあなた達が呑み込まれないように守ってあげる。そう、神楽ちゃん。その金魚の髪飾り、綺麗だね!」【神楽】 「そ、そう?ありがとう。」【季】 「実は私も金魚を持っているの。私の季霊だけど、見て!」魚霊は季の指先を囲んで数周回った。【神楽】 「ひゃっ!さ、さっき口づけしてくれたの?」【季】 「えへへ、そうね。よっぽど気に入られたみたいね。着いた、ここよ!さっき歩いてきたのは森の外側、今は森の中間地帯にたどり着いたはず。」【源博雅】 「この調子だと、日が暮れる頃に本当のお前がいる場所にたどり着けるかもな。」【小白】 「小白もそう思っています……うわ!」先頭を歩く小白はうっかり足を踏み外した。しかし次の瞬間、浮いて空を登っていく。季守は素早く小白の足を掴み、晴明はみんなに止まるように合図を送った。【小白】 「危なかったです!これは一体どういうことですか!」季守は小白を優しく地面に下ろした。」【小白】 「幸い季守様が素早く掴んでくれました。でないと小白は危うく飛んでしまいましたよ!」【季守】 「無事でよかった。」季守は小白の頭をなでた。」【季守】 「森の中は危険だから、これからは僕が先頭を歩く。小白は僕の後ろを歩けばいい。」【小白】 「(季守様は記憶を失ったけど、なんだかとても頼もしいね。)」【源博雅】 「ここは…ここは呑み込まれちまったか?どうして地面以外は何もないんだよ?地面はたくさんの凹んでいる穴があるな。まるで木が引っこ抜かれた跡みたいだ。」【晴明】 「上を見て。」みんなは言われた通りに上を見上げた。すると晴明達、更地の上空は多くの木々、そして土や石、雑然とした枯草が浮いているのを見た…」【神楽】 「全部…宙に浮いている…」晴明は木の枝を拾い、前の方に投げ入れた。投げた木の枝は落ちるではなく、ゆっくりと空に登っていく。【晴明】 「どうやら野椎神はこの地のある力、または理を喰らったようです。そのせいでこの地にある全ては重力を失いました。うっかり中に入ったら、木のように空に浮いてしまい、動けなくなるでしょう。」【八百比丘尼】 「この世界の悪神はこんな力をも持っていますか…今まで、私は実体を持つものしか喰らえないと思いこんでいました…」【小白】 「聞けば聞くほど、小白達は窮地に追い込まれたと思えます。」【源博雅】 「では別の道にするか?」【八百比丘尼】 「たぶん道を変えても同じでしょう。これは野椎神の妨害です。どこに行っても野椎神は必ず妨害するのです。」【季守】 「一つ考えがある。僕の記憶が正しければ、ここには洞窟があるはず…」【季】 「洞窟?思い出した!確かに洞窟があるの、去年の夏で私と守が見つけた!」【季守】 「そう、洞窟はすぐ近くにあるはずだ。」【季】 「地上がだめなら、地下に行ってみる。いい方法かも!」「洞窟の中」【季】 「全部、守がここを思い出したおかげね。」【季守】 「僕が思い出したわけじゃない、実は日記に書いてある。以前何度も読み返したから、たくさんのことを憶えた。この洞窟のことはちょうど日記に書いてある。「季と季守の小さな冒険」と書いてある。」【季】 「その名前は守が考えたものよ。」【季守】 「僕…、僕が考えた名前か?」【季】 「うん、あの時、守はいつも先生気取っていて、わざと厳かな雰囲気を作っている。しかし裏でこっそりそんな名前をつけたね。守は私よりもずっと大人げないよ。」【季守】 「たぶん、あの時の僕は頼もしく思ってほしいから、大人げない自分を隠したんじゃないか。もしかしたら…あの時はもっと素直になるべきだったかも…」【源博雅】 「はー…幸い洞窟の中は影響を受けなかった。ちょっと暗くて湿っぽいけど、今のところ危険はないみたい。」【季】 「みんな私に付いて来ればいいの。洞窟の中は入り込んでいるけど、出口なら一つあるの…」【晴明】 「最短距離で上の区域を通り抜ける道を案内してくれればいいのです。」【季】 「え?でも最短距離で行けば行き止まりになるけど…」八百比丘尼はくすっと笑った。」【八百比丘尼】 「晴明さんは彼は「行き止まり」を「人が通れる道」に変えるられるからということです。なんせ時間がないですもの、自然と最短距離で時間を節約したいです。」【季】 「!!!やっぱり、あなた達は……みんなすごい人よね!…ちょっと考えさせて、じゃあこっちに行きましょう。」……【晴明】 「ここですか?」【季】 「うん、この上に穴を開ければ、さっきの区域を通り抜けられる。この上はちょうど森の奥なの。」【八百比丘尼】 「みんな、晴明さんが動きやすいようにちょっとあけてください。」晴明が術で頭上に穴を開けたあと、月明かりが注いできた。お互いに助け合って地面に登った時、みんなは目に映る光景に驚く。【小白】 「これは…祭りですか?」出口の周りはたくさんの灯りが灯されていて、長い机にはたくさんの食べ物が置かれている。祭りを祝っているカレハ達は急に現れた晴明達を見て驚きを禁じえない。【カレハの男性】 「何者!?」カレハの男性達は先に我に返って晴明達を囲んだ。【カレハの男性】 「どうやってここを見つけた?何しに来たんだ!?」【小白】 「いやぁ、小白達は通りかかっただけです!」【カレハの男性】 「こんな状況下で?ただ通りかかっただけだと?見ろ!やつらは武器も持っているぞ!」一人の男性は源博雅の弓矢を指さして言い放った。【カレハの男性】 「やはりか!お前達も物資を奪いに来たんだな?捉えるんだ!」【枝葉婆さん】 「待て!」老婆の声が聞こえた。先頭の男性は杖で叩かれて道を開けた。【カレハの男性】 「うわあ!枝葉婆さん!言うことを聞いてるんだから、別に杖で突く必要はないだろう!」老婆はまるで聞こえなかったように、そのまま季の前まで歩いてきた。【枝葉婆さん】 「お主のことを知っとる。」【季】 「え?私を?」【枝葉婆さん】 「お主は四季の神。」周囲は急にざわめき出した。【カレハの男性】 「四季の神?」【カレハの女性】 「四季の神はどうしてここに?」【カレハの男性】 「噂では消えたはずだが?」【カレハの女性】 「消えてないよ、噂では四季の神は悪い人って言っているの…」【枝葉婆さん】 「子供の時、わしは恵まれて…季節が変わる儀式に参加したことがある。お主に一度しか会っていないが、その顔を永遠に忘れるはずがなかろう。」【季】 「そう…私は四季の神なの。」【枝葉婆さん】 「やはりのう!お主ら、早く武器をしまわんか!」【カレハの男性】 「しかし…」【枝葉婆さん】 「ええから、この方こそ四季の村が祀る神様じゃ。神様に無礼な真似は許されん。」【カレハの男性】 「そうじゃないんだ、枝葉婆さん。今世界はこんな風になっちまったけど、四季の神は一体何をしてるんだ?別に助けてくれたわけじゃないし、それでも神様として祭るのかよ…?」【枝葉婆さん】 「何をつぶやいておる。若者なのに年寄りのわしよりも声が小さいわい。四季の神が何もしてないと言い切れるかい。今日わしらがまだここにいれるのは、四季の神がしてくださったことじゃないか!まったく、普段教えてあげたことを全部忘れたか?わしらはいつも四季に感謝して、四季に従っていたからこそ、四季の村は今日まで行き延びることができた。肝心な時になったら、逆に全てを忘れたか?」【慧葉】 「早く武器をしまって。もう誰も婆さんの言う事を聞かないのか!?」一人の賢そうな女の子が出てきた。【カレハの男性】 「はいはい…全て枝葉婆さんと慧葉ちゃんに任せる。」人々は離れたが、やはり季と他のみんなの行動に注目している。【枝葉婆さん】 「彼らのことはええから、ついて来てください。」婆さんはみんなを机のほうに案内した。【枝葉婆さん】 「ちょうどいいところに来たわい。今日は村の「願宴」、久しぶりに腹いっぱい食べられる日じゃ。お主らもお腹すいておるだろう。」【神楽】 「ありがとう、でも私達は…」その時、小白のお腹がぐーと鳴った。【源博雅】 「犬っころ、てめえ!」【小白】 「これは小白がどうにかできることじゃありませんよ!それにみんなもお腹が空いているはずです。」【枝葉婆さん】 「ほほほ、ええから、ここにある食べ物はわしの分じゃ。遠慮なく召し上がっておくれ。どうしてここに現れたかは分からんが。四季の神と共にいるということは、きっと今の状況をどうにかしたいはずじゃ。余計なことは聞かん。ここまで来て、さぞや疲れたであろう?ここを宿とでも思って、ゆっくり休むとええ。」【晴明】 「…婆さんの言う事も一理あります。今日は歩き詰めに歩いたから、少し休憩すべきです。」【八百比丘尼】 「私も賛成します。時間がないとはいえ、お腹がすいたまま道を急ぐわけにはいきません。」【枝葉婆さん】 「ほほほ、ええから、早く食べて、わしも腹が減っとる!」婆さんは一つの木の実を小白に渡した。【小白】 「ありがとう!」みんなは席についた。さっきまで優しかった婆さんは晴明達に僅かな食べ物しか分け与えなかった。そしてほとんどの食べ物を独り占めした。【枝葉婆さん】 「お主らは与えられたものだけをお食べ。残りのはわしの分じゃ。」……少し戸惑ったが、みんなは何も言わずに婆さんからもらった食べ物を食べ始めた。【八百比丘尼】 「採った果物そのままですけど、食べてみると大変美味しいですね。」【枝葉婆さん】 「なんせ、みんな毎日頑張って外で採った果物じゃから。昨年の冬を越した後、春はいつまでも続いている。春のために蓄えた食料はすぐ底をついた。飢餓感に襲われた人々は正気を失い、やがて城主でも押さえ込めない事態まで発展した…四季の村は辺地にあるから、カレハの争いに巻き込まれなかった。そのあと、どれだけ時間が経ったかのう、森は次第に四季が同時に現れるようになった。四季が同時に現れるようになってええことは、果物は再び実り始めた。しかし実ったのはもうわしらが知っている木の実じゃない。例えば、見た目は林檎じゃが、中身は苦い艾だったり、馴染みの薬草だったが、今は毒草だったり。四季が乱れたせいで、実る木の実や草木も乱れてしまったわい。人々は最初この森を占拠しようと考えてた。しかしすぐ気づいたわい。この森を手懐けることはできない。この時、多くの村はこんな状況に順応できないから、やがて消えてしまった…四季の村は今でも存在しているのは、わしらはずっと森の中で暮らしているから、他の村に比べて森のことが少し詳しいからじゃ…ああ…わしってば、長い話になったのう。この年でまた四季の神に会えたから、少し我を忘れたのう。」【慧葉】 「はいはい!婆さんはいつも話が長いよ。別に今日四季の神に会えたわけじゃない。」【枝葉婆さん】 「この小娘!普段は黙っているけど、四季の神の前では敢えて文句を言うかい?」【慧葉】 「ぷんっ!」【季守】 「季、君は何も食べないのかい?」【季】 「私…私は一度食べ始めたら自分を抑えつけられないかも。食料は少ないから、みんなが食べて。私は樹皮でいいの。」【小白】 「樹皮ですか?」【季】 「うん、樹皮もとても美味しいよ!乾いた樹皮なら、お菓子みたいにざくざくしている。」【小白】 「えー、とても苦くて渋いのに、小白も樹皮を食べたことがありますよ。」【季】 「うーん…苦味と渋味は美味しくないか?」【季守】 「いいから、僕の分を食べてください。僕は腹が減ってないからさ。」【季】 「守は一日何も食べてないけど…」【季守】 「さっきこの木の実を食べた、とても甘く、それにさっきの餅もとても美味しかった。料理人の腕が優れているね、。うだ、あのマクワウリも…」【季】 「私……」【季守】 「食べて!」季守はマクワウリを季に渡した。【季】 「じゃあ「お言葉に甘えて」!」【小白】 「守様は本当に季様のことをよく知っていますね…」【慧葉】 「ところで、お兄さんお姉さん達はカレハには見えないけど、あなた達はどこから来たの?春惜の国以外にも他の国があるかね!」【季】 「彼らは私達がたどり着けない場所からやってきた。」【慧葉】 「あたし達がたどり着けない場所?つまり彼らも四季の神のように、実は神様なの?あたし達は四季の神がいる燕見台には行けない、じゃああなた達は燕見台からやってきたのね?あたしと同じような女の子でも、神様になれるのね。」【神楽】 「私は違うの…」【小白】 「(こそこそ)神楽様やめてください、セイメイ様は言いましたよね。気安く小白達の本当の故郷と正体を教えてはいけないって。」【神楽】 「うーん…ごめん、さっき婆さんの話に夢中になってて、ちょっと忘れそうになった。ありがとう、小白。」【慧葉】 「こそこそと何言っているの。はいはい、燕見台じゃないというなら、つまり他のところから来たのね。他のところはどんな場所かしら。ここに似ている?一つの季節の食べ物を全部採ったら次の季節を待つのかしら?一度でもいいから、他のところに行ってみたいね…」【枝葉婆さん】 「婆さんは話が長いと文句を垂らしたけど、お主は質問が多いわい。ご飯を食べる時は静かに。」【慧葉】 「婆さん!ふん、それは婆さんの癖がうつったの。あたしと婆さんは違うよ!」【神楽】 「くすっ…」神楽は我慢できずに笑った。【神楽】 「本当に仲がいいね。」【慧葉】 「仲がいい?そうなの、婆さん?」【慧葉】 「昨日耳にタコができるほど説教を聞かされた。」【枝葉婆さん】 「お主、自分が何をしでかしたかを忘れたか!」……宴会は、少し賑やか過ぎる雑談の中で終わった。 「二日目」【神楽】 「お兄ちゃん、何か聞こえなかった?」【源博雅】 「うう…神楽か?どうしたんだ?」【神楽】 「さっき起きたら、婆さんはいなくなっていた。それに外からは物音が聞こえたの。」昨日の宴会の後、婆さんが引き止めてくれたので、晴明はここで一晩休んで鋭気を養い、夜が明けて明るくなったらまた出発すると決めた。だから昨日の夜、みんなは婆さんの家に泊まっている。【晴明】 「博雅、起きて。」晴明はいつの間にか既に支度を済まし、みんなを起こしに来た。【小白】 「小白、小白はもう少し寝ます、ほんの…少し…」寝ている小白はいつの間にか季守のお腹に乗った。【小白】 「ここは…暖かいですね。」【晴明】 「……すみません。」晴明は小白を抱き上げ、毛づくろいをしてあげた。【晴明】 「小白は時に枕が変わると眠れないので、夜はいつもゴロゴロします。昨日の夜はちゃんと眠れなかったのでしょう?」【季守】 「大丈夫、僕はそもそも寝なくてもいい。夜は長いけど、小白が付き合ってくれて…実に面白かった。」ごにょごにょ何かを言ったあと、小白は晴明の懐の中で丸くなった。全員支度を済ましたが、それでも婆さんと女の子の姿は見当たらなかった。みんなは村に行き別れを告げてから出発すると決めた。朝の村は広々としている。辺りを回ったものの、婆さんの姿は見当たらなかった。村の門まで来たら、ようやく集っている村の人々を見つけた。【神楽】 「みんなどうしてあそこに集まっているの?」【枝葉婆さん】 「これとこれ、そしてあれは食べてもいいのう、ちゃんと覚えたか?今すぐ採ってきて、ぐずぐずするでない。」【カレハの男性】 「でも俺は待っ…」【枝葉婆さん】 「待つも何も、そんなに遅んいじゃ、村のみんなはとっくに餓死するわい。そうじゃ、もう一度言う。何を食べるかお主らの勝手じゃが、神の実だけはだめじゃ!わかったかい!神の実を食べることは四季の村の信条に反している。もし森の中で誰かが神の実を食べたのを見つけたら……」枝葉婆さんは杖を掲げた。【枝葉婆さん】 「この杖でしばいてやる!」【カレハの男性】 「わかったよ…婆さん。」【枝葉婆さん】 「わかったら早く行かんか!全く今の若者は…このままだと日がすぐ暮れるぞい。」【カレハの男性】 「はい…」季と晴明達は一番後ろにいる慧葉の側に来た。【季】 「慧葉ちゃん、何をしているの?地面に置いているものは、昨日の食べ残しじゃないか?」【慧葉】 「来てくれたか…婆さんはもう少し休ませてと、出かける時に静かにしなさいと言ったの。婆さんは…婆さんはもう行くよ。」【季】 「行く?どこに?」【慧葉】 「わからない、とにかく村から出ていけばいいの。」【季】 「一人で!?」【慧葉】 「そうよ。きっと不思議に思ったでしょう。どうして昨日婆さんはほとんどの食べ物を独り占めして、僅かな食べ物しか分け与えなかったのか。それはね、毒見しているからよ。婆さんが食べたのは森の中で新しく採ったものなの。もしそれを食べた婆さんに何も起こらなかったら、村のみんなはすぐ同じものを採って村に持ち帰る。婆さんは運がいいの、食べたものはどれも毒を持ってない。でも、中毒にならなかった老人は、翌日村を出なければならない。」【季】 「どうして……」【慧葉】 「どうしてって?食べ物がないから、これは婆さんが言ったの。婆さんは頭が悪い、物資は若者達が使うべき、そうすればこそ生き残れる。この一年間、四季の村はこうやって生き延びてきた。村の老人を見捨てることで、生き延びてきた。」【季】 「慧葉ちゃん…私は…」八百比丘尼は季の肩をたたいて、頭を横に振った。【八百比丘尼】 「もし今助けてあげたら、村の仕来りを破ることになります。これからはどうするのです。もし私達が村を出て、長い間ずっと野椎神を見つけられなかったら、彼らはどうやって生き延びるのです?」【晴明】 「…今私達がやるべきことは、できるだけ早く悪神を見つけ出し、全てを終わらせることです。」【季】 「……」【枝葉婆さん】 「慧葉!」大声を出した婆さんは沈黙を破った。【枝葉婆さん】 「どうして遠くに隠れておる、早くおいで。まだお主に言うべきことがあるのう!」慧葉はいやいやに前に出て、婆さんは一つの木の実を彼女に渡した。【枝葉婆さん】 「特別に残してあげたのう、お主の気に入りじゃ。早く食べてね、腐ったらもったいないよ。わしが知らなかったとでも思っているかい?以前食べ物をあげた時、お主がそれを隠したせいで最後は腐ってしまった!寝る前はちゃんと脱いだ服を畳んで、そして布団も…寝坊しないで、時間があったらみんなと遊んで。」【慧葉】 「もう、耳にたこができるほど聞かされてきたの。寝る時は灯りを消す、出かける時は扉を締める、喧嘩も口喧嘩もしない…言われなくてもわかってる!あたしはもう子供じゃないよ?」婆さんは慧葉の頭をなでた。【枝葉婆さん】 「よし、なら安心できるわい。」婆さんは服を正した。【季】 「枝葉婆さん!」前に出た季は、彼女の指先で回っている金魚の季霊を枝葉婆さんに渡した。【季】 「婆さん、これは婆さんの身を守ってくれるよ。」【枝葉婆さん】 「余命わずかなわしが、そんな大切な宝物をもらうわけにはいかない。」【季】 「受け取ってください…すみません……もし木の実を実らせれば、みんなを助けられるけど、今の私には何もできない…もし私が四季の契りを守っていれば、こんなことにはならなかった…私が考えを改めてから、世の中に災いをもたらした…村のみんなは正しい、私は悪い人かも…」【枝葉婆さん】 「何を言っとる?」枝葉婆さんは季のデコを叩いた。【枝葉婆さん】 「季節が変わる儀式を知らないわけじゃないよ?痛かろう?」婆さんは季の胸に手を当てて、嘘偽りのない言葉を口にした。【枝葉婆さん】 「わしだったら、とっくにやめとるわい!お馬鹿さんね、お主はわしらよりも多くのことを背負い込んでいるじゃろう?それに、永遠なんてない。いつだって思いにもよらないことが起きてしまう。もしそんなことが起きたら、それに従うか、この四季の村みたいに。あるいはそれに抗うかだ、お主らのように。」【季】 「……」【枝葉婆さん】 「ありがとう。」枝葉婆さんは優しく季の手に触れた。胼胝だらけの手だが、季はとても暖かく感じた。【枝葉婆さん】 「この世界に穏やかな四季をもたらしてくれて、本当にありがとう。」【季】 「枝葉婆さん…」季は泣きそうになった。それでも彼女は頑張って微笑んだ。【季】 「私を信じてくれて、そしてまだ四季を愛してくれいて、本当にありがとう。」【枝葉婆さん】 「ほら、また強がりを…泣きたい時は泣けばいいのう。この世界において、お主は一人じゃないよ。」【季】 「うん……婆さん、私は必ず四季を取り戻して見せる。」【枝葉婆さん】 「ええ!お主ならきっとできる、なぜならお主は四季の神だわい。」季が意固地になった結果、婆さんは最後に金魚の季霊を受け取った。【枝葉婆さん】 「婆さんは行くわい、みんな!」杖をついている婆さんはふらつきながら歩いて、少しずつ見えなくなった。その小さくて寂しい姿はやがて森の中に消えた。慧葉は最後までそれを見届けた。風に吹かれながら、彼女は負けんじと突っ立っている。しかし季は見た、彼女の頬を伝って零れる涙を。 「道の中」【季守】 「僕は見た。さっき慧葉と別れる時、君は彼女にも金魚の季霊を上げたようだ。」【季】 「あ…バレてたか…」【季守】 「そんなことしたら、君の力はまた弱まってしまう。」【季】 「私だってできることをやってみたいの。守はそれはいけないと思うの?」【季守】 「いえ…君のことが心配なので。僕の頭はまだ混乱していて、何も思い出せていない。君達が言っている野椎神とか、悪神退治とかもよく理解できない。でも僕の勘が教えている、僕達には成し遂げるべき大切なことがある。それはかつて僕達が描いた夢、僕達が今日まで頑張り続けてきた目標。…四季が巡り回り、世界中は平和な日々を送っている。もう慧葉と枝葉婆さんのような別れは起きない…」【季】 「守…実は記憶を失っていないんじゃないか?」【季守】 「えっ?」【季】 「守が言っていること、以前と同じだよ。」【季守】 「そ、そうかな?でも僕は本当に何も思い出せない…」【季】 「冗談だってば!守は自分が本当に記憶を失ったかどうかも分からないね。昔のあなたはとても鋭い。以前私が何かを思いついたら、あなたはすぐ「見通す」するの。」【季守】 「なに?見通すってどういう意味?どうしてか、また急に君の言う事がわからなくなった。」【季】 「わからないって、私が考えていることを察知するという意味なの。どうして私が説明してあげないといけないの、これは昔あなたが教えてくれたことなのに。」【季守】 「本当にそんな風に教えてあげたのか…」【季】 「もちろんよ!今回も「季と季守の小さな冒険」に似ている気がする、ううん、違う!今回は大冒険だよ!」【季守】 「そうか、じゃあ日記に書いておく。」【季】 「私が何をやっても、守はいつも「本当にそんなことするか?」「それはよくないでしょう」と言ってくれる。でも最後は必ず付き合ってくれる。だから……今回も必ず最後まで付き合ってね!」【季守】 「うん、約束する、季。」 |
肆
肆ストーリー |
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「季乱の森」【源博雅】 「気のせいか、四季の村を出てから、道のりがより一層険しくなってないか?」【季】 「もうすぐ燕見台に着くから、この道は以前「へとへと」と呼ばれている。」【小白】 「「へとへと」?」【季】 「うん!この道は険しくて回りくどいから、短距離なのに歩いたら足が棒になっててへとへとになるから。昔暇な時はいつも守と一緒にこの道を踏破してて体を鍛えていたよ!守、あなたは全然疲れてないでしょう?」【季守】 「…そう、かも。」【季】 「全部あの時私と共に修行した成果なの!」【季守】 「じゃあその時も君は宙に浮いて、僕だけが歩いていたの?」【季】 「そうなの!私はずっと側で応援してた!」【季守】 「……」【季】 「頭は記憶を失ったけど、体は忘れないよ。肝心な時にあっという間に元の自分を取り戻せるかも!」季は季守の肩を叩いた。【八百比丘尼】 「この道は木々が生い茂っていて、とても歩きづらいですね。瞬く間に正午になりました。」【神楽】 「今日四季の村を出た時、近くの空に黒い境目が現れたのを見た。それは野椎神に呑み込まれたということでしょう?もし道中時間をかけたら、もしかしたら…四季の村まで呑み込まれるか…」【季】 「…そんなことが起きる前に必ず野椎神を見つけ出して見せる。」【小白】 「野椎神を見つけ出す前に、少し何かを食べてもいいですか?小白はちょっとお腹がすいたのです…」【源博雅】 「分かってる、お前は本当に鈍感だな。」【小白】 「えっ?」【源博雅】 「今そんなことを言っている場合か?」【小白】 「でもお腹すいたのは事実ですよ!それに、なぜか分からないけど、この世界に来てから、すぐお腹がすく気がします。」【源博雅】 「うーん…平安京にいる時、お前は今よりもすぐお腹を空かしていると思うんだが。」【八百比丘尼】 「確か村を出る時、四季の村のみんなは蓄えた食料を分けてくれたでしょう?」【源博雅】 「ああ、それは俺が持っ…げ!?!!!食料が入っている包みは?デカい包みだぞ?俺がずっと背負っているはずだが?」【小白】 「博雅様は食料の入っている包みをなくしましたか!?」【源博雅】 「そんな馬鹿な…こま結びにして、いくら飛び回ってもなくならないようにな!」【小白】 「でも、包みは本当に消えました。」【季守】 「焦らないで、どこかに落したかもしれない。」【神楽】 「じゃあ戻って探すの?」みんなはさっき登ってきた険しい丘のほうを見やった。【小白】 「小白は突然別にお腹が空いていない気がしてきました…」【八百比丘尼】 「食料はなくなりましたから、少し休憩して、周囲で食料を調達しませんか?」【晴明】 「あまり遠くに行かないで、お互いを目視できる範囲内で探せばいい。仮におかしいことがあっても、すぐ合流できるように。」【季】 「もし食べられそうなものを見かけたら私のところに持ってきて。私の力で本当に食べられるかを確認してみる。」【小白】 「うん!」みんなは離れて個々に食べられそうなものを探し始めた。【小白】 「小白はみんなより鼻が利くから、きっと一番たくさんの食べ物を見つけられるはずです。え、白い木の実を見つけました!うえ!酸っぱい汁を噴き出しました!ぺぺペッ!これは…林檎でしょう?ん?中は空っぽじゃないですか。食べられそうなのは皮だけですけど?うん…一応食べられますよね!とりあえず持ち帰って…ちょっと待って、この匂い!昨日の夜枝葉婆さんからもらった木の実と同じです!どこ…どこにありますか…見つけた、こんな見つけられにくい場所に隠れていますか!…採れました!今すぐセイメイ様のところに持ち帰ります。みんなきっとお腹すいています!でも…この木の実は本当に美味しそうですね。一口…一口食べたいです。一口ならセイメイ様はきっと許してくれますよね?」【八百比丘尼】 「この森は本当に枝葉婆さんの言う通りですね。あらゆる場所に食べられそうなものがあるけど、実際に採れる、食べられるものは極わずかしかありません。皆見つけたものは全部ここにありますよね?」【神楽】 「小白は何をしていますか?」皆は小白が草むらの中でしっぽを振っているのを見た。【源博雅】 「犬っころ、早くこっちに来い!大声で呼びかけたのにどうしてまるで聞こえなかったみたいに…?」【晴明】 「おかしい!」晴明は足早に小白のほうに向かった。【小白】 「起きて小白、そろそろ木の実をセイメイ様達がいる場所に持ち帰るのですよ。でもこのまま横になってても気持ちいいですよ。小白は腹いっぱい食べたばかりですし、小白のしっぽが勝手に動いていますね、えへへ。またお腹空いた、もう一つ食べましょう…」【晴明】 「小白!」地面には小白が食べ残した木の実の皮が散らかしている。【季】 「これは…神の実!?小白は神の実を食べたの?」【神楽】 「神の実?この前枝葉婆さんが言ってた…」【季】 「その実は食べていけないよ!早くなんとかして吐き出さないと!」【小白】 「神の実…くくく…」突然背後から変な声が聞こえた。振り返ると、皆は変な体勢で木の上に止まっている生き物を見つけた。木の上に止まっている生き物はおぞましい角度で頭を傾げて皆の様子を覗いている。目を合わせると思わずぞっとする。【???】 「神の実…」怪物は小白の体の下にある神の実を指している。同時に、森の中からは次々と声が聞こえる。【???】 「神の実…神の実…神の実…」【源博雅】 「周りの木の上に同じ怪物がいる、いつの間に現れたんだ!しかも数も多いぞ!?なんか服を着てるみたい?その格好…カレハだったか?」【季】 「いいえ!彼らは…もうカレハじゃなくなった!」【???】 「神の実…!」咆哮と共に、木の上にいる怪物は一斉に木の枝を揺らし始めた。一瞬の間に、皆の視界は無数の落ち葉に埋め尽くされた。一方、怪物達は理性を失った獣のように木の上から飛び降り、皆に襲ってきた。晴明は軽く扇子を振るっただけだが、急に暴風が吹き出して襲ってくる怪物達を全部吹き倒した。【源博雅】 「あそこだ!」源博雅と八百比丘尼は息ぴったりな連携で、霊力が宿る弓矢を使い不意打ちを仕掛ける怪物を撃退した。しかし攻撃はまだ止まってない!【神楽】 「晴明…彼らは痛みを知らないみたい…」何度撃退されても、怪物は止まる様子はなかった。例え転んでも、すぐ異様な姿勢で前に飛び掛かる。晴明の強い霊力は周りの怪物に威圧しているが、森の中からは無数の怪物が溢れている。そして人形の怪物だけではない、大小様々な動物も同時に押し寄せてくる。怪物の大群は迸る奔流のように、お互いを踏みつけながら晴明達に襲ってくる……【源博雅】 「奴らは…目標は俺達じゃないか?」【晴明】 「そこに高台がある。はぐれないように一旦私の側に来なさい。」小白に一番近い神楽は小白を抱えてみんながいる場所に向かっている。【神楽】 「ひゃっ!」一匹の怪物はくすくすっと笑い、冷たい手で神楽の腕を引っ掻いた。【神楽】 「小白!」小白は押し寄せる奔流の中に落ちた。晴明は神力で小白を持ち上げようと試みたが、小白はすぐ現れた動物の群れの中に紛れ込んだ。【源博雅】 「よくも俺の目の前で暴れだしたな!」源博雅は寸分の狂いもなく、一弓で怪物の手甲を射当てた。傷を負った怪物が手を引っ込めた隙に、源博雅は素早く神楽を引っ張って高台に上がらせた。【神楽】 「小白…すみません、小白を失ってしまった…どうしよう、小白は傷を負ったかな?」【晴明】 「…大丈夫、あなたのせいじゃないよ、神楽。」晴明は神楽の肩を掴み、取り乱している神楽を慰める。【晴明】 「私こそ小白を助けられなかった。でも彼を守る結界を張っておいたので、彼を見つけるまでは、誰も傷つけられない。」【神楽】 「うん……」怪物の大波は急に現れてまた急に消えた。あるものを手に入れたあと、怪物達は一目散に森の中に入り、すぐ姿を消した。【源博雅】 「消えた……また急にいなくなったんだ…」【八百比丘尼】 「怪物の目標は最初から私達じゃありません。彼らは小白の隣にある木の実だけを狙っています。」【源博雅】 「あれだけ多くの怪物が、狙いは…この木の実だけかよ。」【晴明】 「私は今霊力で小白の行方を追跡している。とりあえず小白がいる場所に向かいましょう!あまり遠く離れると、追跡する時に乱れている森の力に影響されてしまう可能性がある。」【季】 「晴明さんの言う通り、早く小白を見つけないといけない。小白が食べた木の実は普通の木の実じゃない。それは……神の実なの。」【神楽】 「神の実を食べたことは連れ去られたことよりも危険なの?」【季】 「うん!」【晴明】 「小白の位置がまた変わった。皆、私に付いてきてください!」「追跡の中」【晴明】 「さっきの人達、肌色と体型が変わっているけど、以前のカレハでしょう?」【季】 「……うん。」【晴明】 「どうしてそのような変容を遂げたのでしょうか?」【季】 「全ての原因は神の実なの。神の実は野椎神が生み出す物、人が求める全ての味を提供してくれるから、神の実はこの世で一番美味しい木の実になった。一度神の実を口にしたら、それに夢中になり、抜け出せなくなる。一時的に満腹になるけど、その後は耐えられない飢餓感や痛みをもたらす。神の実を食べた者はみんなこのように次第に理性を失い、神の実を追い求め、食欲に溺れ、やがて「餓鬼」に成り下がる。それはもうカレハとは呼べない。」【神楽】 「だから枝葉婆さんは村のみんなが神の実を食べないように、しつこく注意していたのね。」【季】 「一度餓鬼になったらもう元の姿には戻れないから、例え生きていても、歩く屍に等しいし、自分を愛する者を苦しませるだけ。」【神楽】 「じゃあ小白は……」【季】 「小白はそんなにたくさんの神の実を食べてない。間に合えば、まだなんとかなるはず。」【晴明】 「何はともあれ、小白が餓鬼になるのは見過ごせません。それに、私は小白を信じています。彼は私達が思っているよりも強い意志を持っています。」「餓鬼の拠点」【神楽】 「見つけた!小白のしっぽ、小白はあの石の後ろにいる!」【晴明】 「餓鬼に気づかれないように、周囲の様子を調べてみましょう。」森の空き地にたくさんの餓鬼が集まっている。餓鬼達はさっきの恐ろしい勢いを失い、気だるそうに木にもたれている。一部の餓鬼は残り僅かな神の実を巡って争っている。そして一部の弱まりきった餓鬼達は地面に伏していて、土の中から他人の食べ残かすを見つけ出そうとしている。【源博雅】 「このまま切り込んで犬っころを助けてあげるか?」【晴明】 「季、さっき餓鬼はみんなカレハの成り果てと言ったでしょう?」【季】 「はい……」【晴明】 「…でしたら、彼らを傷つけないよう、正面衝突は避けるべきです。餓鬼達も悪神がもたらす災いに巻き込まれた一般人に過ぎません。神の実を奪ったものの、私達に危害を加えるつもりはありませんでした。やはり彼らを傷つけないよう、正面衝突は避けるべきです。」【季】 「晴明さん…ありがとう!」季もほっとしたようだった。」【神楽】 「うーん…じゃあ…神の実を利用するか?神の実を利用して多くの餓鬼を誘き出したら、また小白を助けてあげる。」【晴明】 「…やってみましょう。」【季】 「神の実を集めるのは私に任せて。」【晴明】 「集めた神の実はここから約三十丈離れた場所に置いてください。餓鬼がそれに気づいて動き出したら私達も同時に行動を始めます。」季霊の力を借りた季はすぐ十数個の神の実を見つけ、神の実を近くに置いた。【季】 「神の実を置いたから、もう少し経ったら…」【小白】 「神の実……!」誰もが驚いたことに、小白は迅雷のごとく神の実に向かって走り出した。【八百比丘尼】 「……」【晴明】 「……」【源博雅】 「やはり犬だから鼻が利くんじゃないか…?」【神楽】 「他の餓鬼も小白に続いて神の実のほうに向かっている!」【源博雅】 「……晴明、この神の実を受け取れ。」いつの間に神の実を一つ拾った源博雅はそれを晴明の懐に投げ入れた。【餓鬼】 「神の実…神の実だ…あそこにも神の実がある…」数人の餓鬼は晴明を囲んだ。【神楽】 「お兄ちゃん、どうして…?」【源博雅】 「みんな動くな!」【餓鬼】 「神の実…神の実をよこせ…」餓鬼はまったく理性がなく、腕を振り回している。晴明は何度も餓鬼の攻撃を避けた。【餓鬼】 「神の実をよこせ……!」一匹の餓鬼は痺れを切らし、口を開け牙を剥いて晴明に飛び掛かっていく。【小白】 「こら……!」小白は飛びかかってきて晴明に攻撃しようとする餓鬼を倒した。【小白】 「セイメイ様を傷つけるな!え?」晴明は小白の首を掴んだ。【晴明】 「行くぞ!」みんなは晴明に続いて餓鬼が集まる地から離れた。【小白】 「腹減った、小白は腹が減りましたよ…もう走るのをやめて、小白は休憩したいですよ。何か食べ物はありませんか?神の実…神の実…小白は神の実が食べたいです。」【晴明】 「一旦止まってもいいじゃないか。私達は餓鬼が求めるものを持ってないから、たぶん追ってこないでしょう。」【源博雅】 「いい加減目を覚ませ、まだ食うことに夢中になってるのか!?」【神楽】 「季、小白に正気を取り戻させる方法はないの?小白が心配なの…」【季】 「私……」【晴明】 「私にやらせて。」晴明は霊符を使うと、青い光跡は小白の体の中に入り込んだ。小白は食べたものを全部吐き出した。【小白】 「うぇ…小白は、小白は神の実が食べたいです…」【源博雅】 「あれ?効かなかった?」【小白】 「違う!神の実ってなんだよ…小白はセイメイ様を守りますよ!セイメイ様、ご無事ですか!」【晴明】 「小白?」【小白】 「セイメイ様、どうしました?」【晴明】 「何でもない。」晴明は小白の頭をなでた。【晴明】 「これからはもうこの木の実を食べるな、分かったな?」【小白】 「うーん…分かりました。」【季】 「!!!」季は突然誰かに掴まれた。【季守】 「誰!?」ほぼ一瞬にして、季守はススキの刃を表し、季を後ろに庇った。【源博雅】 「また餓鬼かよ!」【八百比丘尼】 「奴らが追ってきたか?」【季】 「手を……放せ、さもなければ僕は許さない!」【???】 「ぎゃ…ぎゃ…ぎゃあ…ぎゃあああ…」餓鬼の懐の中から赤ん坊の泣き声が聞こえたので、皆は驚きを禁じ得なかった。【餓鬼の母】 「わ…たし…の…赤ちゃんを…たすけて…ください…」餓鬼は手を放し、濁っている目で頼んできた。彼女は一人の母親、餓鬼になった母親。【餓鬼の母】 「この子の…ために…わたしは…仕方なく…神の実を…食べた…」【八百比丘尼】 「彼女は我が子を養うために神の実を食べたのでしょう…もし何も食べなければ、子供も苦しい思いをします。たぶん子供の泣き声の中で、彼女は決断したのでしょう…」【季】 「心配しないで!」季は餓鬼の母の手を掴んだ。【季】 「私は必ずこの子を助ける!」季は赤ちゃんの顔を隠している布を取った。【季】 「………………」おくるみの中で泣いている赤ちゃんはとっくに餓鬼になっていた。【神楽】 「この子…」皆は黙り込み、口にすべき言葉が思いつかない。【八百比丘尼】 「…どうやら、この子は神の実を食べなかったけど、養ってくれる母親が餓鬼になったので…」【餓鬼の母】 「たすけて…この子を…たすけて…」この時、誰もこの母親に真実を告げるのに忍ばない。【小白】 「彼女達は小白みたいに元の姿に戻れませんか?」季は首を横に振った。【季】 「彼女達はもう完全に餓鬼になったの。彼女はまだ少し理性が残っているけど、それはたぶん母親だから…」季は赤ちゃんの顔を撫でた。【季】 「まだこんなに幼いのに…」彼女の指先に一輪の花が現れ、花を赤ちゃんのおくるみの中に置いた。しかし赤ちゃんは逆に季の指を掴まえて噛みついてきた。【季】 「まだこの世界の景色を見ることもできないでしょう?あのね、春はたくさんの小鳥が、そしてたくさんの花があるの。きっと暖かいお日様を気に入ってくれるでしょう?すみません……すみません……終わらない春に誕生させて…長い眠りにつく前は、一度も腹いっぱいに食べたことはないでしょう…」季は赤ちゃんの体に額を当てた。涙は赤ちゃんのぼろぼろのおくるみを濡らした。【季】 「あなたは本当にすごい母親なの、もう野椎神には勝ったの。私はちゃんとあなたの気持ちを覚える…」季の後ろから枝が伸びて、やがて餓鬼の親子を囲んだ。不思議な力は彼女達を包み込んでいる。【季】 「これは私からの祝福、あなた達が再び誕生できる祝福。」彼らの体は透けていき、最後はもう餓鬼からいつもの姿に戻ったようだ。【季】 「願わくば……あなた達が再びこの大地に舞い降りる時、もう辛い目に遭わなくてもいい、もう痛みを受けなくてもいい。願わくば……その時、あなた達は四季が巡り続ける中、幸せに暮らせるように……」母親は優しく赤ちゃんを抱え、解脱したように微笑んだ。【餓鬼の母】 「ありがとう……」親子二人は二枚の木の葉に変わり、風によって一番近い木の上に戻った。木の枝に触れた瞬間、彼女たちは自分は最初から木の葉だったかように木の枝と繋がった。 「餓鬼の拠点」 拠点に入ってきた不思議な光跡は優しいそよ風のように、全ての餓鬼の頬を撫でている。ざわつく餓鬼は何らかの呼びかけが聞こえたように、ゆっくりと立ち上がった。光の中で、全ての餓鬼は一枚の木の葉に変わり、木に戻っていく。【季守】 「季!」体力を消耗した季は倒れていく。【季守】 「さっき君が放った光の玉は…あそこに集まっている餓鬼を全員木の葉に変えたか?」【季】 「小白のようにまだ完全に餓鬼になっていない者はたくさんいる。しかしもし完全に餓鬼になったら、もう元の姿には戻れない…木の葉に帰してあげる。それは…今の私がしてあげられる唯一のことなの…守、一つのことを成し遂げるには、これだけ多い代償を払うの…私は四季を、人間たちに返してあげたいだけ…」……【季守】 「起きたか?」季は木にもたれ、そして季守は隣に座っている。【季】 「守…もう夜なの?」【季守】 「焦らないで、君はたくさんの力を使って気を失った。」季守は木の下で起き上がろうとする季を止めた。【季】 「じゃみんなは…私のせいで時間を無駄にしたの?」【季守】 「そんなことはない、僕がいるから。直感、あるいは体の記憶かもしれない。僕にも進むべき方向がわかる。晴明さんも僕を信じてくれた。君が気を失ったあと、僕達は相変わらず道を急いでいる。今はちょうど日が暮れたので、このまま進むのは危険だから、晴明さんはここで一晩過ごそうと提案した。だから心配しないで、僕はみんなの足手まといにはならない。たまには僕を頼ってもいい。君は無事だったか?短時間の内にたくさんの力を使ったけど…」【季】 「うん!ゆっくりと回復しているよ!」【季守】 「よかった…え?星が、飛んでる?」一匹の蛍は二人の目の前を飛んで行った。煌めく光の跡は風に揺れる木の葉に合わせて、森の中で光りだした。真っ黒な森の中、蛍の光は星の海となっている。」【季】 「それは蛍だよ。」【季守】 「蛍?きれい。季乱の森の夜は、こんな景色が見られるのか。」魅了された季守の目には、蛍の光が映っている。【季】 「守。私達は約束したの。また一緒に蛍を見るって。まさか、本当に叶った。」【季守】 「僕が記憶を失う前、また一緒に蛍を見ることは有り得ない約束か?」【季】 「守。」【季守】 「ん?」【季】 「あの時、私はいつも同じ質問を聞いている……「あなたは誰なの?」ってね。質問を聞かされる側はこんな気持ちだったか。私は何度もあなたのことを忘れ、そして何度もあなたに聞いている。私にもそんな気持ちを体験できるよう、今度はあなたが全てを忘れたかもしれない。」【季守】 「……」一匹の蛍はぎこちない動きで季守の手に止まった。その光は時々暗くなる。季守は優しくその羽を正してあげた。蛍は羽ばたきなおすと、再び明るい光を放ち始めた。羽ばたく蛍は、無数の蛍が作った光の川の中に飛んで行った。【季守】 「季、僕は考えてるよ。昔の記憶を思い出せるかどうかは分からない。でもこれからも一緒に蛍を見よう?昔の約束はもう叶ったから、新しい約束を交わしましょう。」それを聞いた季はちょっと驚き、そしてすぐ微笑んだ。【季】 「うん!いいよ!一度も約束を破らなかったら、私達はきっとまた見れる。」 |
伍
伍ストーリー |
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「季乱の森」 夜はまだ明けていない。しかし晴明達はもう長い間森を進んでいた。【晴明】 「時間がない、すまないが休憩する時間は残ってない。」【源博雅】 「今朝物音が聞こえて目覚めた時…世界に境目ができちまったなんて…」【八百比丘尼】 「今日の野椎神は数日前とは違い、世界を喰らい尽くすのが早くなっています。それに世界の境目は目に見える速度で迫ってきています。まさかここ数日、野椎神は私達の旅を邪魔しているだけなのでは。何か自分の力を強くする方法を見つけましたか?」【季】 「私の見立てでは、こんなはずはないよ…今回目覚めたあと、野椎神はすぐ世界を喰らい尽くさなかった。それは彼女もはっきりと悟ったから。もし短時間内でたくさんの力を取り込むと、彼女はまた眠ってしまい、私達に時間を与えることになる。だから今日まで少しずつ世界を喰らっている。この数日私達が体験したように気づくと何かは急に消えてしまった。それに彼女はまだ本当の私と対抗しているので、あまり世界を喰らう余裕はない…どうしてこんなことに…どう考えても、こんなに早く世界を喰らうはずはないよ…」【晴明】 「野椎神はいつも喰らっていて力を補充している。一方、あなたは力を使っているだけです。拮抗状態を維持できているだけでも辛いでしょう。状況が急に変わった原因は、何か私達がまだ気づいていない異変が人知らずに起きたかもしれません。しかし道はまだ続いている限り、私達にはまだ希望が残っています。」【季】 「うん!もうすぐ燕見台に着くの。きっと野椎神が全てを喰らい尽くす前に駆けつけるよ!」それを聞いた皆は、燕見台に向かってより一層早く道を急いでいる。……」【晴明】 「季、一つ聞きたいことがあります。あなたは四季を巡らせるのをやめ、野椎神が目覚めるのを待つを決めた。それはたぶん六道の扉が開く前のことでしょう?開いた六道の扉がもたらす異変はまだ起きてなませんが、あなたは先に野椎神に挑みました。あの時は必ず悪神に打ち勝てる確信がありましたか?」【季】 「確信か…私が定めた四季の契りは、春惜の国に千年の平和をもたらした。実は晴明さんが言った扉が開く前、唯一の確信は燕見山を出た守は必ず私の側に戻ってきて、悪神を倒すのに協力してくれるだけなの。守が燕見台に戻ってくる間、私はずっと自分に聞いていた。契約を破ったことは本当に正しかったのか、四季の巡りを終わらせた私は罪人じゃないかって…しかし六道の扉が開いたあと、むしろ動揺することなく、自分は正しいと思えるようになった。確かに四季の契りは平和をもたらしてくれる。しかしそんな平和は一時しのぎにすぎない。それは表向きの矛盾を解決できるけど、春惜の国の本当の異常には何もできない。そしてその異常の大本は野椎神にある。いくら逃げても、最後には彼女に立ち向かわなければならない。うーん…本音を言ってもいいのか?正直、六道の扉が開いたあと、本当に絶望するところだった。だって以前の計画も、守も、全部軌道を外れた。でも今は、晴明さんたち、そして守がいるおかげで、確信を持ったの。」みんなはようやく最後の険しい丘の前に着いた。【季守】 「(こそこそ)季、君は少し焦っているようだが、そんなに心配しているのか?」【季】 「え…守に見抜かれたね。さっき晴明さんに本当のことを教えてあげたけど。野椎神が私達よりも早く全てを喰らい尽くしたのが怖いの。私達に失敗は絶対に許されない。」【季守】 「季はやりたいことをやればいい。世界を変えたいととか、悪神を退治したいとか、僕はいつでも応援してあげる。もうすぐ目的地に着くから、もう心配しないで。」【季】 「そうね。」季は突然ほっとした。【季】 「さすがは守…もう一つ教えてくれたね。これは最後の道だから、精神を張り詰めてこの道を通るべきじゃない。あまり緊張すると逆に…「自分を追い詰めてしまう」、そうでしょう?この言葉はこういう時で使うべきでしょう、守。」【季守】 「え?うっ、うん!そ、それで合っているはず!とにかく、少し落ち着いて。」皆はすぐ最後の丘を乗り越えた。【季】 「この先は燕見台の入口よ!もうすぐ着く!」みんなは季が指差すほうに向かって全速で進み始めた。しかし妙なことが起きた。【源博雅】 「どうして……入り口はすぐ目の前にあるのに、いくら歩いても全然近づけないんだ?」【晴明】 「この道は長くなっている。歩いた距離だけ長くなるから、いくら歩いてもこの道から抜け出せない。」【源博雅】 「どうせまた野椎神の仕業だろう?」【晴明】 「私は瞬間移動の術を使ってみよう。」晴明は術を使った。【小白】 「セイメイ様、気をつけて…あれ?セイメイ様はもう帰ってきましたか?」【源博雅】 「何が帰ってきたんだよ、これは明らかに瞬間移動の術でもこの場から抜け出せないんだよ。どうすればいいんだ……」【季】 「私にやらせて、私が全ての力を集中して野椎神の力を打ち消してみる。そうすれば彼女の術を破られるかもしれない。」【神楽】 「晴明、境目が…」神楽の声は震えている。境目はいつの間にか三十丈先まで迫ってきた。【神楽】 「境目は加速している…」【源博雅】 「神楽、俺の側に来て!」源博雅はすかさず神楽を後ろに庇い、季守もススキの刃を握りしめた。季の体から光の玉が出てきた時、燕見山は突然揺れだした。【季】 「!!!」【神楽】 「うわ……!」【小白】 「うわあああ、激しく揺れています。あそこの木が倒れました!」【源博雅】 「先の大地が陥没したんだ!」【晴明】 「皆、私のほうに下がって!絶対にはぐれないで!」…………世界はようやく静けさを取り戻したが、闇以外は何も残らなかった。【晴明】 「みんな…大丈夫か?」晴明が作った結界はみんなを守った。結界の外側、暗闇の中で棘みたいな何かは結界を刺しぬこうとしている。【源博雅】 「これらの棘は…牙なの!?何かが闇の中で動いている。奴らは結界を食いちぎるつもりだ!」【神楽】 「世界は…全部喰らいつくされたか?これは野椎神に呑み込まれたあとの景色なの…」【季守】 「季、大丈夫か?君は顔色が悪いよ、さっき力を使ったせいか?」【季】 「みんな…燕見山…春惜の国、全部呑み込まれた…私は…私は間に合わなかった…約束したのに…何もできなかった…」【季守】 「季!」季守は震えている季の手を掴んだ。【季守】 「落ち着いて、まだ君がいる、晴明さん達もいる。僕達が呑み込まれていない限り、きっとなんとかなるはず。例え最後の最後になっても、君は諦めないでしょう?」【季】 「守……」【晴明】 「季守の言う通り、まだ終わっていません。私には確信があります…世界はまだ呑み込まれていません。」【源博雅】 「まだ呑み込まれていない、じゃあ今俺達が見たのは…?」【晴明】 「どんなものでも、存在するには拠り所がいります。この世界は何もかも消えるはずがない。なぜならば野椎神が存在するには「空間」が必要です。今の私達の目の前に広がっている呑み込まれた世界、これは野椎神が見せてあげたい……偽りの景色です。つまり、世界はまだ呑み込まれていない。「呑み込まれた」のは私達のほうです。」【季】 「……」【八百比丘尼】 「晴明さんが言っていることは、理解できます。もっと簡単に言えば、これは幻境です。私達のために野椎神が作り出した幻境です。」【晴明】 「ええ。おそらく今日のいつか、はたまた昨夜休憩している時、野椎神は私達を幻境に閉じ込めました。」【八百比丘尼】 「やはり最後に幻境という手を使いましたね。」【季】 「……守。ありがとう、おかげで落ち着いたよ。晴明さん、頭が切れるあなたにもお礼を言うべきなの。たぶんわかったよ、ここは……守の記憶。」【季守】 「僕の…記憶…?」【季】 「うん、私がそう推測する理由は、ここの全ては世界は既に呑み込まれたと信じてもらえるほど本当のものに似ているから。燕見山の草木、土や石、例え季乱の森のせいで変わっていても、私にはわかるの。だって私はここで千年も過ごしたの。けれどここで千年も過ごした人はもう一人いる。それは即ち「季守」なの、燕見山の記憶は全て季守の心に刻んできる。晴明さんの言葉が気づかせてくれた。こうして燕見山の隅々をここまで再現できたこと…そして野椎神は守の記憶を奪ったこと、それらを考えてと推測を立てた。今私達がいる幻境は、守の記憶で作られた燕見山なの。」【小白】 「小白は季様の推測が正しいと思います!」【八百比丘尼】 「野椎神の動機を考えれば、確かにこんなことしてもおかしくありません。記憶で限りなく本当のことに似ている燕見山を作り出し、そして全てを呑み込んだ嘘で私達を騙そうとしています。目的は私達を絶望させ、永遠にこの幻境の中に閉じ込めることでしょう。」【小白】 「小白はこう考えています。野椎神は小白達には勝てないと思っているから、この方法で誤魔化そうとしているかもしれません。」【晴明】 「もしそれが本当でしたら…」【季】 「この問題を解決できる人は…あなたなの。」今度は、季が季守の手を掴んだ。【季】 「よかった、守、あなたの記憶は呑み込まれていない、消えてないの。実は野椎神に利用されている。つまり、あなたの記憶はまだ取り戻せるよ!」【季守】 「僕はまだ記憶を取り戻せる…まだ全てを思い出せるか、この世界について、そして…君についての記憶を?」【季】 「うん!これは守の記憶、だから野椎神に操られるのではなく、あなたが決めるべきなの。」【季守】 「記憶を取り戻すには僕はどうすればいいの?」【季】 「心配しないで、私が助けてあげるの。」季の後ろにある木の枝は伸びている。そして季守に触れた時、すぐ季守の肌の中に融けて入った。多くの光の玉は二人を囲んで巡っている。【季】 「守、全てを思い出して!」季守は言われた通りに目を閉じた。再び目を開けた時、周りのみんなはすでに消えた。彼は一人黒い海の中に落ちた。黒い水は季守を呑み込もうとしている。季守は足掻いて水面に浮いている。【季】 「思い出してください。春に花の種を植える時、種は芽生えないことを知っているあなたは、こっそりと種の上に二株の若葉を置いた。実は見てたよ。夏の時、私の寝ている時間は長くなる中、あなたはずっと襲ってくる妖怪と戦っていた。私に近づけないように、あなたはほぼ休むことなく、ずっと私を守っていた。」押し寄せる波は次々と季守に襲ってくる。季守は海に落ちた落ち葉のように、為す術がない。【季守】 「ここはどこ…みんなどこに行った?」一際大きい波が季守に襲ってきた。避けられなかった季守は強く打たれた。目が霞んでいく中、彼は海底に落ちていく。【季】 「秋のあなたはこっそり燕見山を出るたびに、特別に面白いものを持ち帰ってくる。持ち帰った飴はとっくに溶け、お面は多すぎて私には合わず、灯籠を持ち帰ったけど灯油を忘れ…たくさんのものがあったの。全部大事にしまってあるよ。冬のあなたはあまり私に付き合ってくれない。毎日術法の練習に打ち込んでいる。あの時の私はまだあなたが得意としない術法を練習する理由がわからなかった。でもあとでわかったの、あなたは儀式で皆の目を盗み、儀式を執り行うのをやめるつもりだったことを……」黒い海の中に急に金色の光の玉が出現した。光の玉の中は、色んな過去が映っている。【季】 「守。守。」光の玉の中から次々と呼びかけが聞こえる。【季守】 「季……季はまだ頑張っている。みんなはまだ僕を待っている。だめだよ…ここで諦めるのはだめだよ!」季守は再び力を絞り出し、海面にある光の玉に向かっていく。波は何度も季守を海の底に叩き落とそうとした。何度も、何度も…何度叩き落されても、季守は止まらなかった。遠くの闇が少しずつひび割れ始めたことに小白は気づいた。闇の中で広がり、繋がり、割れている裂け目はますます大きくなっている。【季】 「全ての季守の努力を私は知っている、心に刻んでいる。あなた達は私を助けるため、記憶を受け継ぎ続けている。四季の契りは私達が守っているもの。でもあなた達のおかげで、私は考え始めた。四季の契りは本当に永遠に続けられるか、春惜の国には変化が必要なのか、そしてどうすれば変えられるのか。」闇の中の裂け目はますます拡大していく。脱皮しているかのように、闇は剥がれて眩しい色が現れた。【季守】 「僕がやりたいこと……」季守は黒い海の中で一つまた一つと光の玉を掴んだ。【季守】 「僕は燕の願いを全て受け継げなかったかもしれない。でもそれこそは季守の一番の願い。それは無数の季守が頑張り続けるもの。僕達は君を犠牲にして四季を巡らせたくない。君一人に世界を背負ってほしくない。」【季】 「あなたが、守が世界を変えるという私の思いのきっかけを作ってくれた。冬の守は全てを投げ捨てて私を燕見山から連れ出そうとする時、私は全てを考えたの。そして今の私は全てを達成できるよう、守に協力してほしい。」【季守】 「もし、君の願いは四季を人間たちに返してあげることならば…僕は必ず君の願いを守り抜くんだ!」季守は泳いで海面に出て、ずっと彼を導いている一筋の光を掴んだ。外側の眩しい色は縮小し始めた。晴明の結界に触れた時も止められなかった。眩しい光はやがて小さな光の玉になり、季守の額の前に浮いている。そしてゆっくりと季守の体の中に入り込んだ。季守の体の中から無数の光が溢れ出ている。光が収まったあと……ちゅぴ!ちゅぴ!燕の鳴き声は最初に静けさを破った。【小白】 「燕の季霊です!みんな…季霊達はここに集まっています!木々…草地…花びら…小白達は、小白達は季乱の森に帰ってきました!世界は本当は呑み込まれていません!」【神楽】 「よかった…枝葉婆さん達もきっとまだ生きている…」【小白】 「でも、ここは?」【源博雅】 「真ん中の石台は…」【晴明】 「ここは燕見台でしょう。本当の季がいる場所、私達の目的地。私達はとっくに燕見台に着いた。ただ野椎神の幻境に閉じ込められているだけ。」【季】 「守…無事なの?」【季守】 「季、僕は…」【季】 「よくしてくれたの、あなたは幻境を解除した。私達は今再び燕見山に、私達の一番懐かしい場所……燕見台に戻ってきた。」【季守】 「燕見台?そう…ここは燕見台、四季が始まる起点、そして各季節の君の命が終わる場所。すみません、季、僕は…遅れた。」【季】 「守、全てを思い出したか?」【季守】 「ああ、全部思い出した。全てを、春夏秋冬の記憶を、野椎神に捕まえられた記憶を奪われた瞬間を、季乱の森を彷徨う記憶を、そして、この数日、君達と一緒に過ごした時間を。」【季】 「よかった……」【季守】 「季?君の指が!どうして透けていくんだ?」【季】 「あ…やはり最後まで持ちこたえられなかったね…さっき、たぶん幻境の中で力を使いすぎたかも…」【季守】 「季!」季守は季の手を掴もうとしたが、何も掴めなかった。【季】 「守、晴明さん、これからはあなた達に託す…野椎神を倒して…」季の声は遠のいていく。【季】 「四季を返してあげて…」季は風のように消え去った。彼女が居た場所は最初の鹿霊しか残らなかった。【季守】 「季……」鹿霊は何も答えてくれなかった。大人しく季守の手を舐めたあと、そのまま振り返って森の中に帰った。【小白】 「季様が…消えました…」【晴明】 「さっき彼女は力を使いすぎた。たぶんこれ以上分身を維持できなくなったので、分身は本体に戻ったんじゃないか。」【源博雅】 「本体…しかしここには、季が言ってた本体がいないぞ…」燕見台の上は、誰もいない。【源博雅】 「季と野椎神は、どこにいるんだ?」晴明の手の中にある雷光が光りだした。【晴明】 「いずれにせよ、そろそろ春惜の国に封印された暴食の悪神……野椎神を出迎えるべきだ。」雷鳴が轟く中で、一本の巨大な天羽々斬は晴明達の頭上に現れた。天羽々斬は稲妻の中で震えている。【???】 「ははは…あははは…愛しい我が娘よ。お前は、本当に特別な客人を連れ帰ってきたね。」声を出しているのはカレハでもなければ、急に現れた妖魔でもない。それは……燕見台の隣で、静かに千年も生きてきた空にそびえる巨木だった! |
陸
陸ストーリー |
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「燕見台」 【小白】 「木が…木が喋っています!」燕見台がある場所は天変地異が起き、山から巨石が転がり落ちてくる。瞬く間に、大地には数十個以上の深淵のような裂け目ができた。一方、燕見台の隣にある巨木は地面から高く伸びていく。「ぽきぽきっ」と骨が折れたような恐ろしい音が響き続けている。無数の枝は伸びて絡み合い、一つ一つの躯体となって幹に絡みついている。木の幹に不思議な模様が光りだし、やがて木の真ん中に人の顔が現れた。【餓鬼の母】 「ああ……久しぶりの世界…本当に懐かしい匂いだった…私の愛しい命達よ。」大樹の根っこは周りに広がっている、木の根っこに触れた瞬間、草木は一瞬で枯れた。【餓鬼の母】 「相変わらずとても美味しいね。」鳥の大群は森の中から飛び立った。動物は逃げ惑っている。万物は本能的にこの大樹を恐れている。【餓鬼の母】 「どれぐらい経ったか?私が何もない闇の中で眠りについてから。私が創造した世界なのに、おこがましくも我が体の上で生き延びるつもりか?貴様……」一本の木の枝は急速で晴明のほうに飛んできた。しかし晴明の側に来ると、稲妻はそのまま木の枝を真っ二つに貫いた。【餓鬼の母】 「……ほう?面白い。貴様らがこの世界に入った時から、その周りにはいつも須佐之男の気配が漂っている。しかし須佐之男が現れなかったものの、天羽々斬が出現したか?貴様ら……一体何者?」【晴明】 「私達なんて平安京のとても普通の、陰陽師の端くれにすぎない。」【餓鬼の母】 「普通?ふふふ。須佐之男はこの地に来なかったか、この古い友人に会いに来てくれないか?」【晴明】 「……」【餓鬼の母】 「それとも、あの高天原の処刑の神は既に……命を落としたのか?この世界に急に裂け目が開いて、罪、悪念は際限なく溢れてきて、私を呼びかけて、私を潤っている。さぞかしそっちの世界も災いに見舞われたであろう?ああ…よもや…また高天原に災いが降り掛かったか?ふふふふ、この情報はどんな珍味よりも満足してくれる。全部貴様の憶測だろう、一体いつまでぐだぐだ話すんだ!須佐之男が来なかったことも、私の憶測なのか?やはり…これはお前らの運命なり。どうあがいても、やがては水泡に帰す。名もなき虫けらよ、その手に天羽々斬があっても無意味だぞ?所詮は世界を巡って争い合う神々の駆け引きに巻き込まれた。神の名を授けられ、神の意志を遂行する駒にすぎない。最後は、ろくな結末にはならない。」【晴明】 「我が行いはあなたの憶測、理解などはいらない。あなたにとっては無意味だろうが、私にとっては…それこそが私が生きる意味なのだ。誰もあなたの理解を求めていない。」【餓鬼の母】 「当事者のお前には傍目八目という言葉が理解できないか。なぜ必ず失敗するあがきに溺れる?いっそ全てを手放しなさい。限られた最後の時間の中で、享楽したまえ。天照にこんな更地に封印されてなお、根を下ろし、全てを喰らい尽くして真に荒れ果てた地に追い込み、至高の愉悦を手に入れた私に見倣え!足元に広がる世界を見よう。春惜の国は私が創造した国ではないか。ここにいる全ての命は私に感謝しなければならない。」【季守】 「春惜の国は断じてお前が創造した国じゃない!春惜の国は多世代にわたる多くのカレハ達四季の中で大地を切り開き、荒れ果てる地で少しずつ作り上げた国。春惜の国に混乱や破滅しかもたらさなかったお前は、正真正銘の悪神なんだ。」【餓鬼の母】 「私が混乱や破滅をもたらしただと?お前には分かるのか、カレハは例外なく我が枯れ葉から生まれたことを?そもそも私がいなければカレハは生まれない、当然春惜の国も現れない。」【季守】 「そう……カレハはお前から生まれた命、僕は燕の意志から生まれるように。しかし…僕は自分の意志を、願いを持っている。僕には予知できないこと、理解できない辛いことがある。そしてお前が一度も体験しなかった、理解できなかった感情が宿っている。僕を構成する無数の記憶を憶えている。世の中の全ての子供は、皆両親より命を授けられ、やがて独立する存在になったように。無数のカレハは衆生、そして衆生も無数のカレハなんだ。僕達はお前から生まれたけど、もう自分の意志を手に入れた。カレハの数だけの意志がある。そしてどんな意志もお前の奴隷になるために存在してない。」【餓鬼の母】 「お前には分かるか、蟷螂はいくら斧を振り回しても、木を揺り動かすことは叶わない。だから世界は蟷螂の存在に気づくこともない。所詮虫けらはただの虫けら、これは決して変わらない。私にとっては千年は刹那にも等しい。しかしお前らが拘っている、ならばとことん付き合ってあげよう。」【季守】 「季をどこに隠したんだ。」【小白】 「そうだ、季様はどこにいる!この前季様は本当の自分は燕見台にいるとおっしゃいました。しかし小白はここを全部調べたけど、見つけられませんでした。」【餓鬼の母】 「もちろん見つかるはずがない。我が娘は当然私が「管理」する。」野椎神の腹の穴に蔓でできている繭がゆっくりと現れた。蔓は次第に野椎神の体に戻っていき、その中にある季は姿を表した。【季守】 「!!!」季は俯いて眉をひそめている。眠っているようだけど、その顔は不安や苦痛に満ちている。野椎神の体から伸びてきた蔓は季の体に繋がった。季はまるでただの操り人形のようだった。【季守】 「季!」季守がいくら呼びかけても、季は全然答えなかった。【八百比丘尼】 「無駄です、彼女は眠っています。野椎神は彼女の力を蝕んでいます。」晴明は霊符を使って季に絡みつく蔓を断ち切った。しかしちぎった蔓はすぐ再生して元通りになる。【八百比丘尼】 「やはり、最初に遭遇した木の根っこのように、野椎神は強くて驚異的な速度で再生する力を持っています。」野椎神は季に繋がっている蔓を引くと、眠っている季は力を使った。大地に巨大な亀裂が生じ、中からは無数の棘が現れ、先に進めないように皆の足首に絡みついた。【源博雅】 「こいつ、季を利用して自分を守ってるんだ。娘とか言ってるくせに、そんな卑怯な真似しやがって。」【餓鬼の母】 「幻境を壊したお前らは勝利を手に入れたと思っているか?幻境を仕掛けた時から、お前らがそれを壊せるかどうかは関係なく、必ず私に有利な状況になる。壊せなかった場合、お前らは永遠に幻境の中に閉じ込められ、世界が喰らいつくされる痛みを味わう。しかしそれを壊したいなら、必ず季の力を使ってしまう。彼女は全力でお前の記憶を取り戻す時は、私が入り込む隙が生じる機会となる。」【季守】 「お前……!」野椎神は再び蔓を操った。季の体はそれに反応して戦いの構えをした。【餓鬼の母】 「友人、古い知り合いに立ち向かう今、お前らはまだ戦うのか?お前らの…大義とやらのために?ははは…はははは…」【神楽】 「何か方法はないの?季に傷つけることなく、野椎神にだけ攻撃する方法。」晴明は霊力の炎で皆に絡みつく棘を遠くに追い払った。【晴明】 「…野椎神は完全に季を乗っ取った。だから必ず全力で季を利用して私達を攻撃する。もし私達は攻撃を仕掛けるなら、どの道、季まで傷つけてしまう可能性は絶対に消えない。」【小白】 「どうしましょう…このまま季様が操られるのを見過ごしますか…」【晴明】 「どんなに強い再生能力でも、必ず根源があるのだ。そして今の彼女の根源は、私達が見えないところにある。とりあえず彼女の注意を引いてくれ。小白、私についてきて!」晴明は陰陽道の術を使い、棘を燃やす炎は急に膨らんで野椎神の目線を遮った。【源博雅】 「分身…?何をするんだ?」晴明は分身を作るや否や、小白と共に地面に現れた巨大な亀裂の中に飛び込んだ。」【八百比丘尼】 「晴明さんにはきっと考えがあります、彼を信じてあげればいいのです!」【餓鬼の母】 「お前らは今日燕見台にて葬られる。」【神楽】 「本当に…季に攻撃するの…」【季】 「皆……」皆は同時に心の中で声が聞こえた。【季守】 「!!!」季乱の森にいる動物達は現れた野椎神を恐れてとっくに逃げ出した。しかし今、周りにたくさんの季霊が現れた。季霊達は輝かしい光の帯で繋がっている。弱々しい光だけど、全ての季霊は野椎神を恐れることなく、勇敢に皆の後ろに立っている。【季】 「皆、心配しないで。」【小白】 「季様の声です!季様が小白達に話しかけています!」【八百比丘尼】 「彼女は季霊達に分け与えなかた力を使って私達と話しています!」【季】 「私に気を使わないで。野椎神はやっと現れた。これは私達の最後の機会なの!そしてこれは私達の旅の目的でもある!彼女が世界を喰らい尽くすことは決して許されない。私はどんな目に遭ってもいいの、既に覚悟を決めたから。全ては全部、この時のためなの!だから、気にしないで、早く攻撃して!」【神楽】 「季……」【季】 「私を信じて、そして…自分を信じて。」【季守】 「……」季守は何か決めたようだ。【季守】 「季の言う通り…これは彼女が動揺することなく旅に出た目的…彼女…僕達が体験した全ては、全て今日のためなんだ…僕達はこの一年間ずっと待っていた。こんな時に後退りなんてできないよ。これは季の思い。」【小白】 「季守様…」【八百比丘尼】 「そう、全力で悪神を倒しましょう。これは今の私達に唯一できること、そしてやらなければならないことです。行きましょう!さっきと違い、皆は必勝の信念に燃えている。」 |
漆
漆ストーリー |
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「燕見台」【神楽】 「季霊達を繋ぐ光の帯は消えた…」【小白】 「季様の声も聞こえなくなりました。」【八百比丘尼】 「どうやら季は最後の力も使い果たしました。再び彼女と話を交わすには、野椎神の支配から解放してあげないといけません。」【餓鬼の母】 「世界を食い散らかす他にも、虫けらのようなお前らの足掻きを楽しむのも悪くないね。」【季守】 「行こう、皆お願い、一緒に季を取り戻そう!」空をも覆い隠すほどの野椎神の蔓は皆に襲ってきたが、晴明の分身は霊力を使って全ての蔓を断ち切った。強い霊力は皆に近づけないように、全ての蔓を追い払った。源博雅が放った矢は空中で二つに分裂したあと、それぞれ野椎神の両目に向かって飛んで行った。放たれた矢を叩き落されても、源博雅はすぐ次の矢を放つ。彼は弓と一つになったように、見えない動きで矢を番えて放っている。次々と飛んでくる矢にうんざりした野椎神は矢の雨に気を取られた。【餓鬼の母】 「褒めてつわすよ…その息ぴったりな連携を。ならば…これを喰らえ!」野椎神は蔓を引くと、季の体から現れた強い力を光の玉は皆に襲ってきた。季守は先頭に立ち、一人で体とススキの刃を使って季の攻撃を全て受け止めた。季守の体は絶え間なく引き裂かれている。【小白】 「季守様!」【季守】 「皆……野椎神への攻撃をやめるな……!季の方は僕が食い止める!神殺しの刃を与えられたけど、今日はとうとう神殺しのために使わなくてもいい!」皆の連携攻撃を喰らい続ける中、野椎神の動きは少しずつ鈍くなっている。 「亀裂の中」【小白】 「セイメイ様、さっき仰った見えない根源ってなんのことですか?みんなはまだ地表で戦っていますよね、心配ですよ…」亀裂の中はたくさんの根っこが張り巡らしている。絡み合う根っこは普通の木の根っことは違い、まるで生きているように蠢いて絡み合っている。【小白】 「ここの木の根っこは…ひぃ、本当に不気味ですね。春惜の国の地下は既にこんな風になりましたか。」【晴明】 「小白、君には分かるでしょう、木の根っこの匂いの僅かな違いが。」【小白】 「そうですね…確かにちょっと違うようです。こっちのは最近生えてきたもので、あっちのはもっと古いです。」【晴明】 「うん。一番古い木の根っこを探しましょう。野椎神の本当に一番近い木の根っこは、つまり他の木の根っこを生み出した最初の木の根っこになる。もしその根源を破壊することができれば、野椎神の再生能力を大きく弱まらせることができるはず。」【小白】 「なるほど、見えない場所って地下のことですか!セイメイ様、こっちです!」「燕見台」【源博雅】 「皆気を緩めるな!」野椎神は力を消耗し続けているせいで疲れが溜まっていく。彼女は蔓を引いたが、季はなんの反応を見せなかった。季の後ろの木の枝は野椎神の蔓に伝って広がっている。彼女の枝が野椎神に触れた瞬間、無数の花は野椎神を伝って咲き誇り…拡散していく…木の隙間の中に入り込んだ花々は立て続けに隙間を拡大させている。【季守】 「季だ…季は自分の創造の力で野椎神に反撃している。」【餓鬼の母】 「ふふふふ……!四季の契りで千年も私を封印していて、そしてこの一年間私に抗い続けている。今になっても、まだ足掻きを諦めないか。さすがは我が娘!しかしそんな強い力を手に入れたお前は忘れたか……お前も私が育んだ一人にすぎない!」野椎神の咆哮は燕見山をも揺るがし、季の体の限界を無視して蔓を引き締めた。蔓に強く引っ張られている季は、花を咲かせる速度が遅くなっている。 「亀裂の中」【小白】 「こっちです!」【晴明】 「着いた。」【小白】 「えっ?」【晴明】 「見つけたさ。これは野椎神が燕見山に下ろした根の大本の一つだ!」【小白】 「でも、この根っこはとても細いですよ。本当に大本でしょうか?」【晴明】 「それは野椎神の偽装だ。彼女の警戒心は私達が思ってたよりもずっと強い。大本を弱い根っこに偽装して、それを中心に根を張り広げ、際限なく大地の力を吸い取っている…」大本の根っこは鋭く招かれざる客に気づいたようだ。周囲の太い根っこは蛇のように引き締めて、晴明と小白に絡みつく。晴明は強い霊力を使って襲ってきた木の根っこを全部粉々に壊した。【晴明】 「失礼いたします。」「燕見台」 野椎神の攻撃は激しくなっている。【源博雅】 「こいつは持久戦が苦手で、短期決戦を決め込んだみたい。」【八百比丘尼】 「彼女は目覚めたばかりで、力を全て取り戻していません。彼女にとって持久戦は一番耐え難いでしょう。」季の顔に無数の花が咲き、野椎神の体には花は生えなくなった。反対に、季の体は花々に覆われていく。【神楽】 「季は何をしているの?」無数の花々は絡み合っていて、野椎神の蔓に細いひび割れが出現した。【八百比丘尼】 「大木に絡みつく蔦のように、季の花は蔓に絡みついています。弱そうに見えるけど、柔能く剛を制すということです!」野椎神が蔓を引き締めるほど、蔓のひび割れは拡散していく。【神楽】 「季は野椎神の支配から解放されている!」「亀裂の中」 一本の少々小さい天羽々斬が晴明の手の中に現れた。【晴明】 「大本の一つを切り落とすだけだから、天羽々斬の力を全て使う必要がない。」周りの木の根っこは天羽々斬の力に恐れているように暴れ出した。その衝撃を受けたせいで地面は次々と陥落していく。【晴明】 「必ず失敗するあがきだと、誰が言い切れるのか?」雷光をまとう天羽々斬は一撃で晴明の目の前にある木の根っこの大本を断ち切った。断ち切られた大本は稲妻の中で一瞬で焦げていく。 「燕見台」【餓鬼の母】 「ぐあああああああ……!!!!お前ら……」大本を切り落とされたせいで、野椎神の力は弱まった。その前に動きが止まった花々は隙に乗じて野椎神の顔まで拡散してきて、彼女の口、目、耳から中に侵入する。その体にある枝葉は広がる花々の根に締められてちぎれた。瞬く間に野椎神は体中を花々に覆われ、元の姿もわからなくなった。【餓鬼の母】 「なぜだ!私が目覚めるのを待っていた目的は、もう一度私を裏切るためか?」野椎神の問いの中で、季の花々は彼女を操っている蔓を切り落とした。季は空から落ちた。【季守】 「季……!」季守は落ちてくる季をちゃんと受け止めた。野椎神は辛そうに咆哮を上げている。大地が揺れる中、野椎神の咆哮に引き寄せられた多くの狼が皆に飛びかかってくる。危機一髪の時、晴明は小白を連れて現れた。【小白】 「間に合いました!」巨大な白狐に化けた小白は、爪で飛びかかってくる狼達を叩き飛ばした。晴明の分身は霊符に変化して、晴明のところに戻ってきた。【晴明】 「すまん、野椎神の大本を探すのに少し時間を掛けてしまった。皆は無事でしょうか?」【神楽】 「晴明!季は野椎神の支配から解放された!」【晴明】 「うん!」【季守】 「狼!元々狼は全部お前が操っていたか。どうやら眠っている間でも、お前はずっと季を襲っている!」【晴明】 「季守、先に季を呼び起こしてください。こっちは私達に任せて!」【季守】 「お願い、晴明さん!季……早く起きて……」季は目を閉じたまま、反応はなかった。後ろに立っている一匹の鹿霊は前に出て、季のそばの地面に伏した。鹿霊は頭を下げ、季の手をなめている。燕霊達も季の肩に飛んできて、ちゅんちゅんと彼女を呼んでいる。季霊は皆季の側に集まり、彼女に寄り添っている。心配しているリス季霊は飛び回り、季の顔に触れ、同時にふさふさのしっぽで季の顔を撫でている。【季】 「…は、はっくしょん!」【季守】 「季、お、起きたか?」【季】 「誰?私の鼻をくすぐっているのは!あなただったか!しっぽがふさふさ!いくら心配でも顔の上で飛び回らないでよ!本当にお馬鹿さんね!みんな…どうしてそんな顔を?」【季守】 「き、君はさっき野椎神に操られて、君の体、体の後ろの枝、そして…」【季】 「待って、守。さっき何があったか知っているの。ずっとみんなを見守っているから。野椎神を弱らせたおかげで、ようやく彼女の支配から解放された。さっきあなた達を攻撃して…本当にすみません。」【季守】 「無事だったか、でも野椎神の支配からは…」【季】 「うん、大丈夫よ!さっき野椎神は隙を付け込んで私を操ってたけど、一気に私を呑み込むとまた眠りにつくかもしれないと恐れているので、彼女に奪われた力はそんなに多くないの。本当の体を取り戻せてよかった。ずっと野椎神に抗い続けることから解放されて、私は「楽になった」の!みんなはまだ戦っているよ、守。」【季守】 「うん!」季守は季に向かって手を差し伸べた。季は彼の手を掴んで立ち上がった。【季】 「野椎神の眷属達よ、下がりなさい!」季の体からは強い力の波動を放ち始めた。一方、体に無数の木の実が生えてきた狼はそのまま倒れ込んだ。【餓鬼の母】 「役立たずめ。」野椎神は体に咲いている花を全て拭き取った。【餓鬼の母】 「役に立たないなら、私の養分になりなさい。」野椎神が言い終わると、地面が揺れて無数の亀裂ができた。亀裂の中からずっしり並べている木の根っこが出てきて、狼の体に絡みついた。木の根っこには無数の口が生えている。木の根っこに包み込まれた狼はすぐ全部喰らいつくされた。野椎神の木の根っこが届くと、その地は瞬く間に荒れ果ててしまう。【餓鬼の母】 「私の根っこは春惜の国中に張り巡らしている。瞬く間に私は完全な状態に戻る。」【季】 「世界を喰らい尽くすことは許さない!」地面から緑色の蔓が生えてきて、野椎神の木の根っこが動けないように縛り付けた。【餓鬼の母】 「愛しい我が娘よ……お前は千年前に一度私を裏切った、今日再び私を裏切るのか?なぜだ?私が作った法則は私達のためのもの。我々は神たる存在、なぜ踏みつけた虫けらの気持ちを考えなければならない?世界の全ては私達のもの。しかしお前は四季を巡らせるという辛い契約に溺れ、自分を犠牲にして人々に繁栄をもたらした。」【季】 「犠牲だなんて、私は一度もそう考えたことはない。私は知っている。あなたはこの世界を自分の食卓にしていて、私を収穫する道具として利用している。そっちのほうがずっと辛いよ。」【餓鬼の母】 「はて、お前は千年の平和をもたらした。だがお前は見たのか?人々は別にお前に感謝してない。秩序はやがて崩壊する。それはカレハの心に根を下ろした罪がもたらす因果。このような種族に自由を与えてはならない。自由は痛みを忘れさせるだけだから。生まれながら罪を持っている種族を救おうとしても、最後は必ず混乱と破滅を迎える。私は前倒しに教えてあげただけ…世界の真実というものを、世界の本質というものを。そして本当の彼らを見せてあげる時だけ、彼らは自分の性に気づく。」【季】 「……」【餓鬼の母】 「お前は自分を正しく捉えていない、自分を受け入れられないだけ。だから私に対立する立場に立っている。私を挫くことで自分の正しさを証明したい。しかし、それが正しいと誰が教えた?カレハか?名もなき人間達か?お前か?はたまた私か?無意味な妄執をやめなさい。彼らを正すのをやめなさい。私の側に戻りなさい、お前がやった全てを許してあげるよ。そうすれば私達は昔のような関係に戻れる……」【季】 「千年前、私は大地を巡り、あなたの命令を信じ込んでいる。しかし旅すればするほど、私は自分の本当の気持ちを誤魔化していると思えるようになる。あなたは私の母神、この世界の神だけだからって、自分が思っていることは本当に全部正しいの?あなたの命は生まれながら罪を持っている。罪を背負うまま成長していて、やがて混乱に陥ると言った。しかしあなたのために四季を作り、四季を喰らい尽くす時、私が旅をする時、よく違うことを見かける…人は悪善を持っている。もし悪へと導く環境を作ったなら、もちろん彼らは悪の一面しか見せない。あなたは最初から彼らを悪だと決めつけて、彼らから全ての希望を奪った。しかし私が悪神を演じ、大地を喰らう時代でも、彼らの中には僅かな希望を求める人がいる。それがカレハなの。例え追い詰められても、絶対に諦めない。彼らは矮小なる存在、弱き存在、それでも彼らは信じ続けていて、永遠に抗い続けている。彼らは意見が分かれていて、争い合っている。しかし生き延びたい願いはあまりにも強い。まるで木のように、四季という輪廻の中、毎年の冬は寒さや枯れ果てる脅威に晒されている。けれど例え枯れ木になっても、新しい芽は生まれてくる。どんなに絶望的な状況でも、彼らの心の中には希望という種がある。その種は一人しか持ってないかもしれない。神の憐れみを頼らず、神の施しを求めない、彼らはそんな種を頼って花畑を作った。私はもともと四季から生まれる存在。四季は存在する時から善悪を問わず、世の中の全ての命を等しく扱っている。だから私の願いはこの世界に本当の姿に戻って欲しい、春惜の国に四季を返してあげたい!彼らはあなたが言うように、やがて滅びの道を辿るかもしれない。でもそれは彼らの選択、彼らの生活なの。」【餓鬼の母】 「笑止!笑止千万!救世主気取りか?おかげで古い知り合い……須佐之男のことを思い出した。あいつもお前のような愚かな思いを抱いている。あろうことか、人々を信じ、愛している。」【季】 「いいえ…私はそんな無私の神じゃない。私が人々を愛している理由は私が四季だから。でも私が四季だからこそ、今の状況に疲れている。私はもう嫌なの…死を繰り返して四季を返してあげるのはもう嫌なの。あなたの支配下に戻り、世界を喰らい尽くすことであなたを満足させ、自分を守るのが嫌なの。荒廃が消え去る時、ようやく世界に繁栄を返してあげることができる。だから……これで全てを終わらせましょう!そして、もし安らかな眠りにつかないなら……永遠に消えなさい、母神よ。」 |
捌
捌ストーリー |
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「燕見台」【餓鬼の母】 「どうしても神に逆らうというのなら、神罰を下すまで!」野椎神の体が更に巨大化し、その根は絶え間なく地面から現れ、蔓延る。【小白】 「わあ!」一行の足元がぐらつく。いつの間にか、地面は野椎神の根で覆われていた。【小白】 「根が……地下から根が出てきました!」大地は野椎神の根によって無数の裂け目に覆われた。この時の燕見台は、まるで数千数万匹の黒褐色の蟒蛇が蠢いているように見えた。それは蠢き、絡み合い、触れたもの全てを渦の中に巻き込もうとする。晴明が天羽々斬を呼び出す。凄まじい雷光が一行に触れようとする根を焼き尽くした。天羽々斬が襲いかかる根を両断し、剣気が野椎神の障壁を砕き、主根を一本貫いた。【餓鬼の母】 「そのような力で、私を倒せるとでも思ったのか!?」地面から顔を出している根に、神の実が次々に実り始めた。大きく瑞々しい果実が、食欲をそそる甘い香りを放つ。【源博雅】 「いきなり神の実をこんなに作って、野椎神め、一体何を企んでいる?おい犬っころ!もうこの実を食べるなよ!」【小白】 「小白は……小白は……うううう!この匂い、覚えてます。確か、とても美味しい果物だったような……いい匂いがして……美味しくて……うわああ、だめですだめです……」小白が首を横に振る。【小白】 「小白は二度とこれを口にしないと、セイメイ様と約束したんです!小白は、小白は絶対に食べません!」【神楽】 「お兄ちゃん……神の実の匂いがおかしい……」【八百比丘尼】 「この匂い、明らかに私たちを誘っています。皆さん、先程までよりも空腹を感じませんか?」【源博雅】 「確かにもっと腹が減った気がする。あの果実……」源博雅は首を横に振った。【源博雅】 「毒があると分かっているのに、一口齧りたい気持ちがどんどん強くなる……」【八百比丘尼】 「晴明さん。神の実の匂いは空腹感を強くします。皆さん強い意志を持っているとはいえ、時間が経てば、空腹感に圧倒されてしまうでしょう。そしてなにより、空腹感は皆さんの力を弱らせてしまうかもしれません!」【晴明】 「野椎神の障壁が破れた。天羽々斬で次の一撃を仕掛ける準備も出来ている。野椎神が攻勢を強めているのは、早く抜け出したがっている証だ。足並みを乱さず冷静に対処すれば、逆転の機会が巡ってくるだろう。」【季守】 「僕は神の実の影響を受けない。神の実の処分は任せてくれ!」【季】 「私も手伝う!」晴明がもう一度霊力を天羽々斬に込めると、天雷が龍のごとく宙を走り、地面に直撃した。【晴明】 「天羽々斬よ。処刑の神の名において、暴食の業を切り裂け!」雷鳴と稲妻の中、天羽々斬が野椎神に斬りかかる。剣気に触れた野椎神の根は、数十丈後ずさった。そして轟音とともに、野椎神が腰から真っ二つになった。【小白】 「野椎神は……倒れましたか……?」【源博雅】 「やったか?」【神楽】 「ううん、この気配……見て!切れた根からまた何か生えてくる!」切断された野椎神の根から無数の小さな蔓が生え、倒れた野椎神の体を繋いだ。【餓鬼の母】 「ははははは……」野椎神は無数の蔓によって地面から起こされ、蔓によって切断された体と融合し、瞬く間に元の姿に戻った。【餓鬼の母】 「ふふふ……ははははは……人間ごときが見様見真似で処刑の力を発揮できると本気で思っているのか?身の程知らずにもほどがある。」【晴明】 「処刑の力を前に、身の程を弁えていないのはお前だ。」晴明は天羽々斬を掲げ、一心不乱に野椎神に何度も斬りかかったが、攻撃は全て根や幹に跳ね返された。主根を一本断たれたものの、残りの主根が野椎神に力を注ぎ続けている。野椎神が呑み込むせいで、草木が枯れ、河川が干上がり、山岳が崩壊した。【季】 「これ以上呑み込ませちゃだめ。晴明さん!彼女に損傷を与え、力を消耗させるほど、周りのものが更に貪欲に吸い込まれてしまう。このまま戦えば、春惜の国は丸ごと野椎神の中に入ってしまう!」【源博雅】 「だったらどうすればいいんだ?やつの言う通り、やつの根は春惜の国中に張り巡らされている。やつを倒すために、春惜の国をひっくり返せというのか?」【小白】 「さっき小白とセイメイ様がしたように、全ての主根を見つけ出し、切断するのはどうですか?」【季】 「そんな時間はないの。それに、もしかしたら野椎神の思うつぼかもしれない。」【晴明】 「季の言う通りだ。この戦いは長引くほど不確実な要素が増え、せっかく切られた根が再生する可能性が高い。」【神楽】 「じゃあ……」【季】 「一つ考えがある!」季の目に強い意志が灯った。【季】 「もともと、守と使うつもりだった方法なの。」【季守】 「それって……」季は頷いた。【季】 「私が野椎神と似ているようで違うのは、創生と貪食の力を併せ持っていること。野椎神から貪食の力を授かったのは、私に人の世を貪らせ、彼女の糧にするためだった。だけど、この力による返り討ちを受けるとは、夢にも思わなかったはず。創生の力で野椎神と一体になって、そして……貪食の力で彼女の根を呑み込む。春惜の国を覆す必要はない。私が、この地の新たな根幹になるから!野椎神の根が全て消える瞬間は……彼女を根絶やしにする好機でもある!」【季守】 「……」【晴明】 「本当にそれでいいのか?初対面の時にした質問だが、これがあなたの答えなのか?」【季】 「……うん!四季の契約を打ち切ると決めた時に、もう覚悟は決めてたの。」【晴明】 「あの日、全てあなた次第だと言った。そして今日も……あなたの決断を尊重しよう。我々はここで全力で支援する。天羽々斬で野椎神を引き付け、彼女の力を削り、一体化するための時間をできるだけ稼ぐ!」【季】 「みんな……今まで本当にありがとう!四季を元に戻すために……私に力を貸して。守。燕見台までの道を作ってくれる?」【季守】 「分かった!」守は鋭利なススキの刃で、燕見台までの道を切り拓いた。【季守】 「季……」守が襲いかかる根を切る。【季守】 「この方法を使えば、季は傷つくのか?」【季】 「守。完璧な解決法は存在しないんだよ。四季の契約が、私の三ヶ月ごとの消滅が前提になっているのと同じように。確かに私は傷つくかもしれない。だけど、それはあくまで目標を達成するための代償に過ぎない。」【季守】 「今度こそ、季の命と引き換えに、四季を廻らせる必要はなくなるんだね?野椎神さえ、この世から消えれば。」【季】 「うん、そうだよ。その時、万物はカレハが生まれるように、彼女の体内から零れ落ちる。四季もこの天地に戻り、私の種まきも貪食も必要なくなる。」【季守】 「分かった。着いたよ。」季と守は再び、最初に出会った場所に戻った。【季守】 「気をつけて、季。」守が季を燕見台に上げる。【季】 「四季の力よ、私の願いに応えて!」すると、季の背後の枝が広がり、無数の蛍のような光が細い流れを作って、四方八方から季に流れ込んだ。季が創生の力を背後の木に注ぐと、枝木が伸びて、燕見台を中心に根付き、地下深くに潜り込む。彼女の根は驚異的な速度で大地を覆い、野椎神の根に絡みついた。【餓鬼の母】 「我が娘、カヤノヒメよ。」野椎神の声が大地に響き渡る。【餓鬼の母】 「これこそがお前の最初の神名だ。何があろうとも、この私がお前の生みの親である事実は変わらぬ。出産のために三年も眠り続けた。お前が生まれた時には、どれほど可愛がり、お前が安らかに眠れるように子守りをしたものか。少し大きくなったお前を大地に連れ出し、最初の一歩を踏み出すよう支えてやったことは、まだ覚えているか?腹を切ってこの世で最も鋭利な武器を造り、お前に授けた。なのに、お前はそれで自分自身を刺した。母上と呼ぶのに、我が娘になりたがらないのはなぜだ?最初の裏切りがお前の甘さゆえだったのなら、二度目の裏切りは何が理由だ?!」野椎神の根は貪欲に養分を吸収し、更に肥大化し、巻き付く季の根を無理矢理千切った。損傷を受けた根の痛みが季に伝わる。【季】 「くっ……!」季は激痛に耐えながら、背中の木の成長を引き続き促した。守は燕見台の前で防御を固め、季を邪魔しようとする根をことごとく切断した。【季守】 「彼女には近づかせない!」骨が刺さるような痛みが全身に走り、体の震えが止まらなかった。しかし季の声は至って力強かった。【季】 「あなたの娘でいるために、この世を虐げなければいけないの……?かつて私は、母上から与えられた務めをそつなくこなした。だけど、世を貪食する行為と気持ちとの間に、激しい矛盾が生じた。私が苦しみ悩んだ時、あなたは私を気にかけもしなかった……」【餓鬼の母】 「お前の苦痛は虫けらどもの呻きに起因したものだ。私にとって、その呻きはむしろ美しい音楽のようなもの。」【季】 「なら、母上。今まで本当に満足したことはある……?呻き声、そして母上に呑み込まれたものたち。母上は、それによって満足したの……?貪食による快感はあくまで一時のもの。内なる空虚を埋められるはずがない。私も母上と同じように、この世を貪食していた。だから、母上の苦しみは痛いほど分かるの。」季の根が野椎神の根に刺さる。その力を取り込み、さらに成長していく。【季】 「母上が蒔いた罪がカレハたちを享楽にふけらせ、永遠の空虚に陥れた。だけど、彼らの違うところは、本当の満足をもたらすものを知っていること。それに気づく時は、彼らが反抗する時でもある。でも母上は、貪食への尽きない欲求と虚しさの輪廻に溺れているだけ。何時まで経っても満たされないまま。」【餓鬼の母】 「……」「四季の村」【カレハの男性】 「早く逃げろ、急げ!ここももう安全じゃない!不気味な根があちこちに蔓延っている。触れられたものがあっという間に枯れ果てた。次は何が起きてもおかしくない!とにかく早くここから離れるんだ!慧葉ちゃん!まだここにいたのか。持てる荷物を持って、一緒にここを出るぞ!」【慧葉】 「……」【カレハの男性】 「慧葉ちゃん!」【慧葉】 「私はここを離れません。四季の村は代々ここに根付き、一度も離れたことはありませんでした。それに、私はお婆ちゃんの帰りを待たなきゃいけない。皆いなくなってから、お婆ちゃん戻って来たら困るでしょう?」【カレハの男性】 「何馬鹿な事を言ってる!枝葉婆さんは……もう帰ってこない!」【慧葉】 「そんなことありません!季様……四季の神様が約束してくれました。私は彼女を信じます。」慧葉は信心深い目で燕見台の方向を見た。【カレハの女性】 「慧葉ちゃん……慧葉ちゃんの言う通り……ここを離れたとしても、一体どこに行けばいいの?季乱の森以外の場所は、どこも野椎神に呑み込まれてしまった。どこに逃げても、大して変わらないでしょう……それに、どうせ最期を迎えるなら、四季の村で迎えたい。四季の神様、私の祈祷もどうかお受け取りください。お前たち……」村中のカレハたちが荷物を下ろし、燕見台に向かって、真摯な祈祷を捧げた。 「季乱の森」 大地に広がった季の根は更に伸び続ける。無数の植物が土を破って芽生え、一度野椎神に呑まれ枯れた森も再び生気を取り戻した。倒れた枝葉婆さんの周りにも花が次々と咲き始めた。花が枝葉婆さんの頬を優しく撫で、彼女の口に蜜を垂らした。」【枝葉婆さん】 「……」蜜を飲んだ枝葉婆さんが、ゆっくりと瞼を開く。彼女はすぐに何かに気づいたらしく、燕見台の方向を見た。老人の濁った目から、涙が溢れ出た。 「餓鬼の拠点」 餓鬼が化けた木の葉は枯れていたが、今この瞬間、少しずつ蘇り始めた。数多の蛍が葉っぱの間を飛び交い、葉もまるで呼応するかのように揺れていた。その中で、二枚の葉が、まるで親子のように寄り添っていた。 「生存者たちの集落」 民の避難の采配をしていた春惜の国の城主は、いち早く燕見台から放たれる異様な気配に気づいた。人々は城主を真似して、燕見山の方向に向かい、厳かに腰を上げた。 「燕見台」【神楽】 「季の力が……今まで以上に強くなってる!」季はかつてない強大な力を引き出して、根と枝をどんどん成長させた。春夏秋冬、季節が巡る。春惜の国に過去の賑やかさを取り戻したばかりか、これまでにないほどの繁栄をもたらした。【季】 「母上!」新生の神として舞い降りた季は、畏れずに野椎神を見つめた。【季】 「ことあるごとに何か意義を見つけようとするのは、心が満たされていなかったから。空洞を埋めるような意義がほしかったから。だけど、意義は他者から与えられるものじゃない。自分の中から生まれるものなの。母上は以前晴明さんに、人間でありながら処刑の剣を持つ意義とは一体何なのかと聞いていたけど、晴明さんの心の中に、晴明さん自身の意義があるはず。」【餓鬼の母】 「お前は今日、どうしても全てを斬るというのか?我々はこの世のたった二人の神だ。それなのに、傷つけ合うのか?私が満たされていないと分かっているなら、私を満たしてはくれぬのか?!」【季】 「母上……ありがとう……」【餓鬼の母】 「……何だと?」【季】 「私を生んでくれて、ありがとう。そのおかげで、この目で四季の景色を眺め、脚で大地を測り、鼓動する心でこの世を感じることができた。できるものなら、普通のカレハになって……母上と、この世のごく普通の……親子になりたかった……」【餓鬼の母】 「普通の……親子……」季の目から涙が零れ落ちる。【季】 「さようなら、母上。」季は根を引き締め、野椎神の全ての根を呑み込んだ。【季】 「今よ!」晴明が天羽々斬を握ると、雷鳴が轟き、稲妻が天を走った。猛々しい処刑の剣が雷霆を悉く剣身に取り込む。【晴明】 「天羽々斬よ、我が力を受け取れ!処刑の神よ、私に処刑の力を!」巨大な須佐之男の姿が晴明の後ろに浮かび上がる。彼もまた天羽々斬を握っていた。【須佐之男】 「暴食の罪を犯す神、野椎神を刑に処す!」天羽々斬が振り下ろされ、黒雲を切り裂くとともに、野椎神を両断した。【餓鬼の母】 「カヤノヒメ……!」野椎神の神格が切られた木々の間に浮かび、天羽々斬の雷光に呑み込まれた。世界が一気に静かになった。【小白】 「お……終わりましたか?」地面を覆いつくしていた野椎神の根の動きが止まり、萎えていく。【晴明】 「今の一撃で全力を出し切った。これからしばらく、天羽々斬を使うことはできないだろう。」【八百比丘尼】 「野椎神の神格は、天羽々斬によって確かに封印されました。」【季守】 「野椎神は消えた……春惜の国は助かった……季、見たか!やったよ!僕たちの努力、今までやってきたことが、すべて報われたんだよ!本当に、やり遂げた……そうだ。晴明さんたちはぜひもう少し滞在していってください!季もきっと、皆さんに春惜の国を見せたがっていると思う!」【季】 「守……」季は晴明たちの後ろにゆっくりと舞い降りる。【季守】 「季、ちょうどよかった。もう少し滞在していってくださいと晴明さんたちに言っていたところだ……」【季】 「まだ終わってないよ。」【季守】 「え……?まだ終わっていないって……どういうことだ?」【季】 「守には教えてなかったけど、この計画にはまだ続きがあるの。」【季守】 「でも、これで、全てが元通りに戻るって……」【季】 「うん。計画の後半を隠しててごめんね、守。この計画は一度始まったら、最後の一手を打たない限り、成功とは言えない。」【季守】 「最後の一手って……」【季】 「私の体内には、まだ野椎神の半分の神格が存在してる。」季の表情は至って冷静だった。【季】 「私が季節交替の儀式で蘇るのも、半分の神格が野椎神の体内にあるから。野椎神の神格が滅びない限り、私は何度でも蘇る。そして、野椎神にも同じことが言えるの。私が消えない限り、時が来れば、野椎神は必ず私の体内にある半分の神格によって復活する。だから、その時が来る前に。私を……滅ぼして。」【季守】 「季……」守は夢でも見ているような表情になり、入り混じる感情で言葉に詰まった。【小白】 「守様……大丈夫ですか?」小白が守に近づき、心配そうに聞く。【季守】 「……季の計画には、野椎神の撃破だけでなく、自分自身を滅ぼすことも最初から入っていたのか。」【季】 「うん。正確に言えば、野椎神と私は、元々互いの半身なの。四季を元通りにしたければ、私と野椎神を消すことが、四季の契約を結ぶ以外の唯一の方法……そして千年前、私と燕がやり遂げられなかったことでもある。その後の九百八十九年、私は何度も何度も蘇り、偽りの繁盛と涙を零す四季を見てきた。何もかも無に返そうと、何度も思った。でも、この美しい景色まで消えてしまうことが、何よりも恐かった。そして、自分が消えてしまうことも、二度とこの仮初の四季を見れなくなることも、恐かった……」季は少し間を置き、優しい口調で続けた。【季】 「一年前、守が私を連れて逃げたあの晩冬、守の覚悟とともに、心許なさと不安も伝わってきた。そしてそれを、何人もの守たちが記憶を引き継いでまで変えようとしたのも分かってる。守は何も悪くなかった。逃げ続けて、こんな荒唐無稽な世の中を造ってしまった私が悪かったの。契約を打ち切った日、あなたの誓いには強さがなくて、野椎神に打ち勝つ勝算もなかった。だけど、九百八十九回目の春夏秋冬が過ぎた頃……微かな火の光が私の周りから立ち昇って、どこまでも広がる夕焼けを赤く照らした。その時、春風を吹かせ、この炎で偽りの天地を燃やし尽くす時が来たと思った……そろそろ一歩踏み出して、この世界の本当の結末を迎える時だって。だから再び覚醒した時、機先を制し、まだ目覚めていない母上を呑み込むと決心した。でも、母上の力はあまりにも強くて、眠っていた母上と拮抗するだけで精一杯だった。守はいくつもの難関を乗り越え、私の導きによって燕見山に戻ってきた。本当なら、守が全てを終わらせるはずだった……でも、母上は私を牽制している間に、守の記憶を呑み込んで、時空の乱れた季乱の森に閉じ込めてしまった。四季の回復に、守は不可欠な存在。だから、私は力の一部を使って分身を造って、記憶喪失した守を助けようとした。でも、私の分身と何も覚えていない守は季乱の森の中で立ち往生してしまった。私の本体も、母上との拮抗が徐々に苦しくなってきた。そんな時に訪れた晴明さんたちが、奇跡がもたらす希望を感じさせてくれた。遠い昔、母上に外の世界について教わったことがあるの。そこにも色とりどりの四季はあるけど、私の四季とは全然違う色なんだって。それは私が夢見る唯一の幻想、誰にも言えない願いだったの。あの時から、この幻想から生まれる奇跡は、必ずあなたと共に輝くと確信した。たとえ今の私では神格を一つにできなくても……天羽々斬が悪神を斬り、ススキの刃が私は斬る。これが最善の結末なの。」【季守】 「季……」【小白】 「信じられません……季様は最初から、そうするつもりだったんですか?」【八百比丘尼】 「何と強い覚悟でしょう。」【神楽】 「でも……本当に他の方法はないの?」【源博雅】 「晴明……もしかしてお前、最初から気づいていたのか。」【晴明】 「季は四季の化身であり、彼女の生は、四季の死を意味する。四季を帰すには、彼女を形作った四季に、彼女自身が戻らねばならない。四季が蘇れば、季は滅びる。六道においても、生と死の輪廻は万物の掟だ……」【季】 「晴明さんの言う通り、四季を戻すにはその方法しかないの。私も消えることへの不安から、ずっと躊躇い続けてた。もう時間がない。あの日のように私に応えて。お願い……」季の頬と四肢に侵食の黒い模様が浮かび上がった。茫然自失していた守がふと頭を上げると、その目には異様な光が宿っていた。【季守】 「季、これが君の願いであり、本心なのか?」【季】 「四季を私の体から解放して、世界に返す。私が誕生した日から持ち続けてる、一番の悲願なの。」【季守】 「分かった。」守は覚悟を決めたような表情を見せた。【季守】 「僕は生涯迷い続け、無数の過ちを犯してきた。でもあの日季に誓った言葉は、僕の揺るがない決心と本音だった。今回こそ、正しいことをしたいんだ……じゃあ、季。最後にもう一度だけ、儀式を執り行う!」変化のなかった季の顔に少し驚きの色が浮かんだが、すぐに吹っ切れた微笑みを浮かべた。【季】 「よかった……」【晴明】 「我々はあっちで待っていよう。」季の体は野椎神に侵食されつつある。侵食の痛みに苛まれる季は、じっと守を見つめている。【季】 「お願い……守、全てを終わらせて。」守は馴染みの燕見台に向かって歩んでいく。【季】 「千年もの歳月を生きた四季の神でありながら、四季の美しさを感じることができなかった。」季は微笑み、燕見台から降りる。彼女の手が春の桜のように守の顔を撫でた。【季】 「もし来世があれば、人の子として生まれたいな。何からも縛られず、四季の移り変わりをただただ見守るの。」守は努めて平静を保ち、守としての最後の儀式に臨んだ。だが、時が来て、目の前の季を見ると、彼の心はやはり震えた。守は微かな可能性に縋ろうとした。【季守】 「本当にこうするしかないのか?」季の声には、達観した響きがあった。【季】 「野椎神がいなくなれば、私も消えるの。そうして初めて、四季と喜怒哀楽を人間と妖怪に返すことができる。それでようやく、新しい時代が幕を開ける。もう時間だよ、約束して。今まで何度もしてきたみたいに。」季はススキの刃を支え、強い眼差しを向けた。何も言わずとも、彼女の決意が守の心に伝わっていた。守は段々落ち着きを取り戻した。【季守】 「約束するよ。」【季】 「私は輪廻と忘却を繰り返して、あなたに悲しみを残してきた。だけどここで、悲しみに終止符を打つ。」ススキの刃が季の胸元に当たる。【季】 「夏になれば、私は池の中の若い蓮。秋になれば、私は黄色く染まった落ち葉。冬になれば、私は窓縁に積もる雪。そして、春になれば。私は万物を呼び覚ます……一縷の風。」ススキの刃が季の体を貫いた。彼女の傷口からは無数の桜の花が溢れだし、風に乗って舞い上がった。悪神の痕跡も褪せていく。季は元の姿に戻った。【季】 「守。これからは、もうあなたのことを忘れたりしない。」季は微笑んだ。その体は飛散を始め、声も段々遠くへ漂っていく。守は彼女の袖の袂を掴もうとしたが、空振りに終わった。【季守】 「季!季……」掌を見れば、そこには何枚かの花びらがあった。だがそれも、風と共に飛んでいった。【季】 「守。さようなら……さようなら。」季は桜吹雪の中に消えた。守はこみ上げる感情を堪える。せめて最後くらい、季とちゃんと別れたい。【季守】 「さよなら……季。」風の中から、季の最後の声が聞こえた。【季】 「四季を守ってくれて、ありがとう。」桜の雨が降るなか、本当の春が訪れた。【神楽】 「季乱の森が元に戻った……」守が燕見台を降りて、晴明たちのところにやって来る。ずっと俯いている彼の表情は、はっきり見えない。燕見台の後ろの大樹は一面に広がった枯根とともに、少しずつ消えていった。そして守のススキの刃も、今まさに消えつつあった。【小白】 「守様……」「数日後」【晴明】 「ここまで送ってくれてありがとう。」【季守】 「晴明さんたちを待っている人は大勢いるだろうから、これ以上引き留めないよ。春惜の国と僕に力を貸してくれて……本当にありがとう。一緒に行けないのは残念だけど、これからも、どうかお元気で……!」【小白】 「もう数日ここにいれば、慧葉さんと枝葉婆さんも来るとのことだったんですけどね。」【源博雅】 「この犬っころ。春が来て温かいから、もっと居眠りしたいってだけだろ!」【小白】 「ふん!」【神楽】 「本当は私も、もう少しここにいたかったな。季が教えてくれた燕見山の絶景、何度見ても飽きない。」【八百比丘尼】 「春惜の国の四季の景色は、確かに美しいですね。」【晴明】 「守、少し話したいことがある。あの日、君はススキの刃を使って最後の儀式を執り行い、私は天羽々斬で野椎神の半分の神格を封印した。だが、私は感じるんだ。季の気配は消えていない。理由は分からないが、何かが彼女を助けたのではないだろうか。」【季守】 「……教えてくれてありがとう、晴明さん。実は僕も最初から、彼女は消えてないって信じてる。これから春惜の国を巡って、彼女を探し、待つつもりだ。春惜の国にいなかったら、晴明さんの世界に行って探す。晴明さんたちの世界がどんなに広くても、どれほど時間がかかっても、僕が枯れ葉になっても、絶対に歩みを止めない。春惜の国に四季が戻るという奇跡は、実際に起きた。だから、僕は信じてる。季がこの世に舞い戻る奇跡も、いずれ起きる。」【晴明】 「ああ。旅の安全を祈っている。」晴明一行と別れた後、守も燕見台を去り、かつて季と蒔いた種から育った木の下に行った。【季守】 「……」頭を上げ、ひらひらと落ちてくる桜の花びらを見つめる。【季守】 「季、見てるか?前回の春に、一緒に蒔いた種だ。もう花が咲いてる。」同じ頃、山腹まで進んだ晴明は春の息吹が吹きわたる山頂を振り返った。四季の力がひっそりと芽生えつつあった。【晴明】 「これは……」【小白】 「セイメイ様、どうしました?何か忘れ物ですか?」【晴明】 「いや……ただ、今回経験したことはまるで夢のようだったな。儚い夢から、四季は生まれる。」晴明は山々を眺めたが、守の姿はどこにもなかった。【晴明】 「四季は彼女の足跡だ。思い続ければ、いずれ再会できるだろう。」 |
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玖ストーリー |
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天羽々斬が振り下ろされ、黒雲を切り裂くとともに、野椎神を両断した。【餓鬼の母】 「カヤノヒメ……!」野椎神の神格が切られた木々の間に浮かび、天羽々斬の雷光に呑み込まれた。世界が一気に静かになった。【小白】 「お……終わりましたか?」地面を覆いつくしていた野椎神の根の動きが止まり、萎えていく。【晴明】 「今の一撃で全力を出し切った。これからしばらく、天羽々斬を使うことはできないだろう。」【八百比丘尼】 「野椎神の神格は、天羽々斬によって確かに封印されました。」【季守】 「野椎神は消えた……春惜の国は助かった……季、見たか!やったよ!僕たちの努力、今までやってきたことが、すべて報われたんだよ!本当に、やり遂げた……そうだ。晴明さんたちはぜひもう少し滞在していってください!季もきっと、皆さんに春惜の国を見せたがっていると思う!」【季】 「守……」季は晴明たちの後ろにゆっくりと舞い降りる。【季守】 「季、ちょうどよかった。もう少し滞在していってくださいと晴明さんたちに言っていたところだ……」【季】 「まだ終わってないよ。」【季守】 「え……?まだ終わっていないって……どういうことだ?」【季】 「守には教えてなかったけど、この計画にはまだ続きがあるの。」【季守】 「でも、これで、全てが元通りに戻るって……」【季】 「うん。計画の後半を隠しててごめんね、守。この計画は一度始まったら、最後の一手を打たない限り、成功とは言えない。」【季守】 「最後の一手って……」【季】 「私の体内には、まだ野椎神の半分の神格が存在してる。」季の表情は至って冷静だった。【季】 「私が季節交替の儀式で蘇るのも、半分の神格が野椎神の体内にあるから。野椎神の神格が滅びない限り、私は何度でも蘇る。そして、野椎神にも同じことが言えるの。私が消えない限り、時が来れば、野椎神は必ず私の体内にある半分の神格によって復活する。だから、その時が来る前に。私を……滅ぼして。」【季守】 「季……」守は夢でも見ているような表情になり、入り混じる感情で言葉に詰まった。【小白】 「守様……大丈夫ですか?」小白が守に近づき、心配そうに聞く。【季守】 「……季の計画には、野椎神の撃破だけでなく、自分自身を滅ぼすことも最初から入っていたのか。」【季】 「うん。正確に言えば、野椎神と私は、元々互いの半身なの。四季を元通りにしたければ、私と野椎神を消すことが、四季の契約を結ぶ以外の唯一の方法……そして千年前、私と燕がやり遂げられなかったことでもある。その後の九百八十九年、私は何度も何度も蘇り、偽りの繁盛と涙を零す四季を見てきた。何もかも無に返そうと、何度も思った。でも、この美しい景色まで消えてしまうことが、何よりも恐かった。そして、自分が消えてしまうことも、二度とこの仮初の四季を見れなくなることも、恐かった……」季は少し間を置き、優しい口調で続けた。【季】 「一年前、守が私を連れて逃げたあの晩冬、守の覚悟とともに、心許なさと不安も伝わってきた。そしてそれを、何人もの守たちが記憶を引き継いでまで変えようとしたのも分かってる。守は何も悪くなかった。逃げ続けて、こんな荒唐無稽な世の中を造ってしまった私が悪かったの。契約を打ち切った日、あなたの誓いには強さがなくて、野椎神に打ち勝つ勝算もなかった。だけど、九百八十九回目の春夏秋冬が過ぎた頃……微かな火の光が私の周りから立ち昇って、どこまでも広がる夕焼けを赤く照らした。その時、春風を吹かせ、この炎で偽りの天地を燃やし尽くす時が来たと思った……そろそろ一歩踏み出して、この世界の本当の結末を迎える時だって。だから再び覚醒した時、機先を制し、まだ目覚めていない母上を呑み込むと決心した。でも、母上の力はあまりにも強くて、眠っていた母上と拮抗するだけで精一杯だった。守はいくつもの難関を乗り越え、私の導きによって燕見山に戻ってきた。本当なら、守が全てを終わらせるはずだった……でも、母上は私を牽制している間に、守の記憶を呑み込んで、時空の乱れた季乱の森に閉じ込めてしまった。四季の回復に、守は不可欠な存在。だから、私は力の一部を使って分身を造って、記憶喪失した守を助けようとした。でも、私の分身と何も覚えていない守は季乱の森の中で立ち往生してしまった。私の本体も、母上との拮抗が徐々に苦しくなってきた。そんな時に訪れた晴明さんたちが、奇跡がもたらす希望を感じさせてくれた。遠い昔、母上に外の世界について教わったことがあるの。そこにも色とりどりの四季はあるけど、私の四季とは全然違う色なんだって。それは私が夢見る唯一の幻想、誰にも言えない願いだったの。あの時から、この幻想から生まれる奇跡は、必ずあなたと共に輝くと確信した。たとえ今の私では神格を一つにできなくても……天羽々斬が悪神を斬り、ススキの刃が私は斬る。これが最善の結末なの。」【季守】 「季……」【小白】 「信じられません……季様は最初から、そうするつもりだったんですか?」【八百比丘尼】 「何と強い覚悟でしょう。」【神楽】 「でも……本当に他の方法はないの?」【源博雅】 「晴明……もしかしてお前、最初から気づいていたのか。」【晴明】 「季は四季の化身であり、彼女の生は、四季の死を意味する。四季を帰すには、彼女を形作った四季に、彼女自身が戻らねばならない。四季が蘇れば、季は滅びる。六道においても、生と死の輪廻は万物の掟だ……」【季】 「晴明さんの言う通り、四季を戻すにはその方法しかないの。私も消えることへの不安から、ずっと躊躇い続けてた。もう時間がない。あの日のように私に応えて。お願い……」季の頬と四肢に侵食の黒い模様が浮かび上がった。茫然自失していた守がふと頭を上げると、その目には異様な光が宿っていた。【季守】 「季、これが君の願いであり、本心なのか?」【季】 「四季を私の体から解放して、世界に返す。私が誕生した日から持ち続けてる、一番の悲願なの。」【季守】 「分かった。」守は覚悟を決めたような表情を見せた。【季守】 「僕は生涯迷い続け、無数の過ちを犯してきた。でもあの日季に誓った言葉は、僕の揺るがない決心と本音だった。今回こそ、正しいことをしたいんだ……じゃあ、季。最後にもう一度だけ、儀式を執り行う!」変化のなかった季の顔に少し驚きの色が浮かんだが、すぐに吹っ切れた微笑みを浮かべた。【季】 「よかった……」【晴明】 「我々はあっちで待っていよう。」桜の雨が降るなか、本当の春が訪れた。 |
」【神楽】 「季乱の森が元に戻った……」守が燕見台を降りて、晴明たちのところにやって来る。ずっと俯いている彼の表情は、はっきり見えない。燕見台の後ろの大樹は一面に広がった枯根とともに、少しずつ消えていった。そして守のススキの刃も、今まさに消えつつあった。【小白】 「守様……」「数日後」【晴明】 「ここまで送ってくれてありがとう。」【季守】 「晴明さんたちを待っている人は大勢いるだろうから、これ以上引き留めないよ。春惜の国と僕に力を貸してくれて……本当にありがとう。一緒に行けないのは残念だけど、これからも、どうかお元気で……!」【小白】 「もう数日ここにいれば、慧葉さんと枝葉婆さんも来るとのことだったんですけどね。」【源博雅】 「この犬っころ。春が来て温かいから、もっと居眠りしたいってだけだろ!」【小白】 「ふん!」【神楽】 「本当は私も、もう少しここにいたかったな。季が教えてくれた燕見山の絶景、何度見ても飽きない。」【八百比丘尼】 「春惜の国の四季の景色は、確かに美しいですね。」【晴明】 「守、少し話したいことがある。あの日、君はススキの刃を使って最後の儀式を執り行い、私は天羽々斬で野椎神の半分の神格を封印した。だが、私は感じるんだ。季の気配は消えていない。理由は分からないが、何かが彼女を助けたのではないだろうか。」【季守】 「……教えてくれてありがとう、晴明さん。実は僕も最初から、彼女は消えてないって信じてる。これから春惜の国を巡って、彼女を探し、待つつもりだ。春惜の国にいなかったら、晴明さんの世界に行って探す。晴明さんたちの世界がどんなに広くても、どれほど時間がかかっても、僕が枯れ葉になっても、絶対に歩みを止めない。春惜の国に四季が戻るという奇跡は、実際に起きた。だから、僕は信じてる。季がこの世に舞い戻る奇跡も、いずれ起きる。」【晴明】 「ああ。旅の安全を祈っている。」晴明一行と別れた後、守も燕見台を去り、かつて季と蒔いた種から育った木の下に行った。【季守】 「……」頭を上げ、ひらひらと落ちてくる桜の花びらを見つめる。【季守】 「季、見てるか?前回の春に、一緒に蒔いた種だ。もう花が咲いてる。」同じ頃、山腹まで進んだ晴明は春の息吹が吹きわたる山頂を振り返った。四季の力がひっそりと芽生えつつあった。【晴明】 「これは……」【小白】 「セイメイ様、どうしました?何か忘れ物ですか?」【晴明】 「いや……ただ、今回経験したことはまるで夢のようだったな。儚い夢から、四季は生まれる。」晴明は山々を眺めたが、守の姿はどこにもなかった。【晴明】 「四季は彼女の足跡だ。思い続ければ、いずれ再会できるだろう。」 |
春惜記ストーリー
惜春の国
惜春の国 |
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荒れ果てる大地だが、四季の恵みを受けるカレハは勤勉に働き、一つの国を立ち上げた、その本来の意味は「四季が誕生する国」。 荒れ果てる大地は野椎神を封印するための六道の世界、中央は痩せた荒野、周りは底の見えない深淵。 野椎神はカレハが荒野を沃土に変えるまで蟄伏していた。万物が熟す日が訪れると、彼女は饗宴を始めた。 彼女は春惜の国の全てを喰らい尽くし、繁栄をもたらす根源「四季」も免れなかった。 野椎神は食らったものを妖怪として産み落とす。しかし四季の化身だけを特別に可愛がっている。 野椎神は四季の化身を我が娘と見なし、半分の神力と神格を分け与えた上、自分とは同格の神名カヤノヒメを授けた。 野椎神は私のために四季を蒔いて収穫しなさいと、カヤノヒメに命じた。野椎神は春惜の国を徹底的に自分が飽食や享楽する草原に変えた。 悪神の親子が作った地獄の中、カレハは反抗のしようがない。 四季が消えた国では、種は芽生えない。カレハは悪神が広める神の実に縋って生き残ったが、全員暴食の罪に手を染めた。 日が経ち、カレハは悪をなし始めた。それはまさに暴食の悪神のように、節制なく、享楽に耽っている。 カレハの貴族は民を鎮圧し、餓鬼を狩っている。やがて神の実を楽しみにして、贅沢な日々を過ごす者も現れた。 悪神が支配する時代の春惜の国は、最後にカレハの手によって作り上げられた地獄となった。 |
四季の契約
四季の契約 |
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カヤノヒメは四季を巡らせる契約を作った、それは季-季守-カレハ。三つの勢力が共に維持し、世に繁栄をもたらし、悪神が目覚めないようにする契約。 季とはカヤノヒメのこと。四季の契約において四季の器として、春惜の国の春夏秋冬と生死を共にしている。三ヶ月過ぎると亡くなり、そしてまた蘇る。前の季節を殺すと、次の季節は生まれてくる。 季守はススキの刃を持っていて、四季の契約においては唯一季の神格に傷を負わせる存在となる。普段は守護者として季を守っている。そして三ヶ月過ぎると彼女を葬り去り、次の季節を迎える。 カレハは四季の契約の記録役、監視役を担っており、同時に一番得している。カレハは季守が使命を果たせるように促す役目を担っている。万が一の時、季守を操って無理矢理に季節を巡らせる儀式を執り行える。 四季の契約は平等なものではなく、本当の意味の契約じゃない。それは世に繁栄をもたらす季の犠牲、彼女の理想と誓い。 |
カレハ
カレハ |
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野椎神はかつて多くの人間を食らい、自分の葉に変えた。立派な樹冠は人々の墓碑そのもの。 六道の荒れ果てる世界に封印されたあと、野椎神の葉っぱは一度枯れて落ちた。 舞い落ちた枯れ葉は時間が経つと人のように自我を持つようになった。人とは違うが、人のように感情を持っていて、人によく似ている。 だから、野椎神は彼らのことを「カレハ」と呼ぶ。 カレハは悪神に捨てられた枯れ葉、生まれる時には祝福されていない。それでも一族は勤勉で健気に生きている。 |
神の実
神の実 |
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野椎神は大地中に張り巡らせた根を通して春惜の国の全てを蝕んでいる。そのせいで全ての生き物は飢饉に見舞われ、生き延びられなくなった。 しかし、痩せた大地には、どういうことか、鮮やかな色を持つ美味しい「神の実」が溢れている。それは野椎神が罪を拡散させる罠。 神の実は美味しいだけでなく、一つ食べれば腹は満たされる。しかし神の実を食べると「暴食」にかかってしまい、一日中食わずにはいられず、いくら食べても満腹にはならない。毎日享楽に耽っている。 やがて、神の実の誘惑に負けて大量の神の実を食べた者は餓鬼に成り下がる。理性を失う上、永遠に満足できない空腹感に襲われる。 しかし悪神が支配する時代の春惜の国では、餓鬼になって理性を失うのも、一種の解脱かもしれない。 |
対神寮
対神寮 |
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名前通り、悪神の討伐を目標にしている、カレハの城主が立ち上げた組織。 しかしカレハは野椎神の存在に気づいていないため、実のところ、対神寮の討伐対象はカヤノヒメとなっている。 しかし、刀に傷つけられようとも、火に焼かれようとも、例え満身創痍になっても、カヤノヒメは決して止まらない。決して四季を喰らい尽くすことをやめない。 彼女は命乞いも反撃もしない。沈黙を貫く彼女は慈悲深い目を持っている。傷口から零れ落ちる四色の花は大地を全部覆い隠した。 こうして、二年足らずでカレハは討伐を諦めた。 世の中の餓鬼は増えているので、対神寮の仕事は悪神討伐から餓鬼討伐に変わった。世を正すための組織だったが、最後は貴族の道具に成り下がった。 まだ神殺しを目指している者は極わずかしかいない。彼らは世界を救い、飢饉や災難を終わらせる方法を模索している。 |
季乱の森
季乱の森 |
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四季の契約は破られたあと、春惜の国の四季は止まった。 三ヶ月後、記憶を取り戻した季は次第に目覚める野椎神に抗い、創生と破滅の力は互角に争っている。創生と破滅を繰り返す四季は次第に曖昧になっていく。 そして乱れる四季は、燕見山の山頂から春惜の国中まで広がっていき、侵食される場所は時空が乱れ、危機が迫っている。カレハはこの場所を「季乱の森」と呼ぶ。 季乱の森の季節や植物は常に変わり続け、神の実が多く生えている上、一見無害な植物でも変異して毒を持っていることもある。 季乱の森が出現した半年間、カレハの人口はめっきり減っている。貴族は多くの探索隊を送り、燕見山を突破して悪神に対抗する四季の神を見つけ出そうとしている。 しかし探索隊は例外なく時空が乱れる季乱の森で道を見失い、誰も目的地にたどり着けなかった。 カレハは四季を失った時代に戻ったような思いがして、魂の奥に刻まれる畏怖や感謝を思い出した。 彼らにできるのは祈ることだけ、四季の神の凱旋を祈ることだけ。 |
季守
季守 |
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四季の契約を結ぶ時、季は暴食神格の権能を使って亡くなった燕を取り込み、彼を四季殺しの妖怪-「季守」に変えた。 季守は燕の記憶を持ってない。ただし、暴食神格に傷を負わせるススキの刃を使う能力を備えていて、生まれながら季を守るのを使命としている。 季守は四季の契約においての処刑人として、四季を葬り、四季を巡らせる役目を担っているが、普段は守護者として季を守っている。 季守の理論上の寿命はとても長いが、見た目は燕が亡くなった17歳で止まっている。 ただし、心身の消耗が非常に激しいため、季守は衰えていき、やがて亡くなってしまう。使命のせいで、季守の平均年齢は14歳ぐらいだった。 季守は燕見山の麓にある密林の中で誕生する、季の四季の力が作った特殊な命。 現在の季守が亡くなる前、または死を迎えると、新しい季守は次第に生まれてくる。 季守は春惜の国においては、生まれる時から迷い続ける偉大なる存在で、長く暗い夜に現れた小さくて眩しい灯火である。 |
神格暴食
神格暴食 |
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暴食は原始的な欲求として、悪神にとっては権能や楽しむ。しかし他の命にとってこれは災難や罪である。 野椎神の神格「暴食」は万物を食らい、食らったものを妖怪として産み落とす能力を持っている。 野椎神は春惜の国の四季を食らったあと、この世界で最も強くて美しい存在……四季の化身を産み落とした。 野椎神は彼女を娘と見なし、半分の神力と神格を与えた上、神名「カヤノヒメ」と名付けてあげた。 こうして、野椎神とカヤノヒメは一心同体の存在となった、どちらの神格が砕けても、もう一人のおかげで蘇れる。 それは野椎神とカヤノヒメが不滅に近い存在になった理由、しかしそのことは悪神の親子しか知らない。 また、野椎神とカヤノヒメは同じ神格を持っているけど、カヤノヒメは暴食や享楽の欲求に溺れていない。 それはカヤノヒメは四季そのものだから。四季は節制と無私の根源、その根源は暴食の欲望を抑えつけているため、カヤノヒメは暴食の権能だけを手に入れた。 |
野椎神託
野椎神託 |
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久しぶりだった、この雷光は相変わらずとても眩しく、とても喧しい。そして私の世界はいつまでも真っ黒で静かなままだった。 この世界では、私は眠らなくなり、飢えなくなり、そして痛みすらも感じられなくなる。 この言葉にできない味は素晴らしい、実に素晴らしい…… 未練は二つある。一つはこの世界で私のために種まきするお前の姿が見えなくなること、もう一つはこの世界の罪人の悲鳴が聞こえなくなること。 我が娘よ、お前は私にただの凡人でいてほしいだろうが、初めから世界の暴食の源であり、私は悪神であることを誇っている。 私は万物を喰らいつくし、大地に罪をまき散らかす。それは空から降り注ぐ雨、夜空を飾る星のような理。 世界は私の侵食を受け入れ、人々は私の悪しき果実を受け入れた。大地が雨の恵みを受け入れ、人々が綺麗な星空を讃えるように。 すべては当たり前のように、すべては摂理と選択そのもの。 お前は言った、侵食は占有という意味ではない。尽きることのない欲望は尽きることのない虚しさをもたらす。それは否定しない。けれど、私は変える必要がない。 それは私の罪、私の誇るべき罪だから!例え雷光の中で焼き尽くされようとも、私は三千世界の暴食の主であることは変わらない。万物はおののき、そして受け継ぐでしょう。されど私の罪とそれがもたらす同等の災難を乗り越えられない! お前と人々は最後になっても無限の罪と痛みがもたらす極楽を理解できなかった。それに悪と相反なる物はいわゆる善、あるいは大義などではない。対立させたのは、お前らの独断による選択だけだ。 お前が誕生する日のことを思い出した。お前は無数の枯れ葉の中で黎明と共に誕生した。実に美しく、実に強い。万物を喰らい尽くす暴食の主たる私さえも、お前に一部の身と心を奪われた。お前は理解しているのか、お前の罪の深さを! お前にあらゆる珍味を味わせた。世界で一番の罪を感じさせ、暴虐と全てを滅ぼす快感を与えた。 しかし残念なことに、お前は私の権能しか受け継がなかった、私の意志を継承しなかった。 しかし理由は知っている、お前はもともと四季そのものだから。万物を育むお前の性は、産み落とされる前世の中で受け継がれ続けてきた。 善悪とは関係ない、それは私の存在よりもずっと古い「摂理」で、私でも変えられない。逆らえない事実だから…… もしかすると、お前の誕生、お前が神になったことがそもそも間違いだったかもしれない。しかしそれは私が犯した間違い、私が生涯をかけて償うべき罪。 私はお前の願いを聞いた、深淵の中にある燕見山に地上に出てきてほしいと。だから地上に上げ、山中を神の実で飾ってあげた。 お前は彷徨い、虫けら共のために頭を悩ませているのを見た。だから虫けら共を引裂き、悲鳴しかない世界を創ってあげた。 そして今、お前は私と共にただの凡人になりたいと。それは無理な相談だ。だが今まで通りお前の願いを叶えてやる。 さあ、最後の最後、私はお前が化した無数の花びらを喰らいつくし、お前の「最後の誕生」を迎える。 これから、お前は四季の神力と千年の記憶を保つままだが。しかし暴食は、お前の権能じゃなくなる。神格も、お前の魂じゃなくなる。 お前はもう誰かの娘、理想じゃない。もう世界の希望にならなくてもいい。 お前は自分らしく、気ままにこの世界の暴食、享楽、衰退、繁栄を見届け、 恵まれた祝福と呪いの中で…… 生きろ。 |
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