【陰陽師】鏡守雲帰ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の鏡守雲帰イベントのストーリー(シナリオ/エピソード)「鏡の追憶」をまとめて紹介。メインストーリー(今昔の鏡)と欠片ストーリー(異聞奇譚)それぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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今昔の鏡ストーリー
山門序章
山門序章ストーリー |
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【晴明】 「山道は険しく、歩きづらいが、真冬に道端に咲く白い椿は本当に美しい。こんな荒れ果てた雪山の中に古い寺院があるとは、誰も思わないだろう。」【八百比丘尼】 「作りを見るに、かなり昔に建てられた寺院のようですね。ここが噂の雪峰寺ですか?」【小白】 「小白は中を探検したくて仕方ありません。」【神楽】 「ここの住職様は、私たちに会ってくれるかな。」【源博雅】 「心配すんな。住職の説得なら、俺に任せとけ。」 |
雪峰寺初参
雪峰寺初参ストーリー |
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ここは混沌とした、光のない空間。炎が燃え盛り、罵詈雑言が聞こえる中を、一人の少女が走っている。そのすぐ後ろには彼女を追いかける巨大な黒い影がある。【少女の八百比丘尼】 「ここはどこ?誰か助けて!」少女は炎の中をよろめきながら走っている。背後の怪物は長い影を落とし、獰猛な笑みを浮かべる。【???】 「もう逃げられないぞ。どこまでも、どこまでも追いかけてやる……」やがて、体力の限界を迎えた少女がつまずいた。恐ろしい黒い影が少しずつ彼女に迫ってくる。恐怖のあまり、少女は悲鳴を上げた。その時、影の中から何者かが飛び出してきた。少年が少女の手を掴む。少年に手を掴まれた瞬間、少女は力を注ぎ込まれたかのように、体が勝手に走り出した。二人は何もない空間を走り抜け、後ろの怪物をまいた。【謎の少年】 「八ちゃん、赤い縄を掴んで、早く登って……」少女の前に一本の赤い縄が現れた。赤い縄の上には狭い出口があり、微かな光が漏れている。赤い縄を掴んだ少女は、振り返って少年の靄がかかった顔を見ようとした。しかしその光景は再び歪み、最後は闇に包み込まれた。はぁ……はっ!悪夢から目を覚ました八百比丘尼は、どうしてこんな変な夢を見たのかわからない。彼女は幼い頃の自分の夢を見た。しかしそれは過去に起きたことの記憶ではなかった。夢の中で自分を助けてくれた少年の顔は、どうしても思い出せない。 雪峰寺僧房 午前八時【神楽】 「八百比丘尼、大丈夫?汗がすごいけど、悪夢でも見た?」【八百比丘尼】 「なんでもありません、ただ少し気分が悪いだけです。」【神楽】 「あ!そうだ、あんこのお菓子を作ったの。食べてみない?以前悪夢を見た時、お兄ちゃんが言ってたの。あんこのお菓子を食べたら、背中を軽く三回叩く。それで邪悪なものを追い払うことができて、悪夢を見なくて済むって。」神楽がくれた箱の中から、八百比丘尼がお菓子を一つ取り出す。口に入れると、甘い味が広がった。【八百比丘尼】 「ありがとうございます、神楽さん。また腕が上がったみたいですね。そういえば、晴明さんたちはもう出かけられました?」【神楽】 「晴明とお兄ちゃんなら、金堂のほうに行った。昨日泊まらせてくれた雪峰寺の住職様と話してるんだと思う。住職様は、私たちがお寺で雲外鏡の記憶を探すのを許してくれるかな。」【八百比丘尼】 「雪峰寺は雲外鏡が誕生した場所、ここはきっと彼らの記憶が残っています。記憶に含まれる思念は、彼らを呼び起こす鍵となるでしょう。晴明さんはきっと住職様を説得できると思います。」【神楽】 「そうだね!私たちも晴明たちのところに行こう。」雪峰寺金堂 午前八時【晴明】 「昨日は急いでいたので、自己紹介もまだでした。私は晴明、彼は博雅と申します。我々は都から来た者で、陰陽道について少し心得ています。昨日は泊まらせていただいて、ありがとうございました。」【聖覚法師】 「おお、都から来られた陰陽師様でしたか。この雪峰寺は辺鄙な場所にあるので、お参りされる方は滅多にありません。昨夜は暗くて月光もなく、寺の前であなたたちを見かけた時は、一瞬妖魔の類かと思いました。」【晴明】 「聖覚様、この寺院はとても広く、かなり昔に建てられたもののようです。どう考えても普通の寺院だとは思えません。だが今まで一度も他の人を見かけませんでした。少し寂しすぎませんか?」【聖覚法師】 「さすが晴明様、鋭いですね。私の調査によれば、ここは間違いなく長い歴史を持つ、千年前から存在する寺院です。」【晴明】 「調査によれば?」【聖覚法師】 「お恥ずかしい話ですが、私も一年前ここに派遣されたばかりのです。どうやら、とある狩人が狩りの最中にたまたま雪山の中でこの寺院を見つけたそうです。長い歴史を持つ寺は、仏法の研究において非常に価値があります。私はこの寺院の調査を命じられました。今後、他にも何人かの僧侶がこの地に派遣される予定です。」【晴明】 「そうですか。聖覚法師様もこの寺院の歴史をご存知ないとは。」【聖覚法師】 「現時点では、ここは長い歴史を持つ寺院だということしか把握できておりません。この地を訪れたということは、もしかしてあなたたちも雪峰寺に興味をお持ちですか?」【源博雅】 「寺院に興味はない。ここに来たのは、大切な仲間を呼び起こしたいからだ。」【聖覚法師】 「仲間、ですか?」【晴明】 「彼らは千年前にこの地で誕生し、神器となりました。我々はこの地で彼らが残した記憶を見つけ出し、再び目覚めさせてあげたいのです。」【聖覚法師】 「そうですか。この雪峰寺でかつて神器が誕生したとは、驚きました。」【源博雅】 「聖覚法師、この寺院を調べさせてくれ。もし神器、雲外鏡が目覚めたら、雪峰寺の過去について教えてくれるかもしれない。そっちにとっても良い話じゃないか?」【聖覚法師】 「確かに、仰るとおりです。一人で調査するよりも……そういうことなら、どうぞご自由に。とはいえ、一つ申し上げておかねばならぬことがあります。」【晴明】 「なんでしょう?」【聖覚法師】 「陰陽道を心得ていていらっしゃるので、邪霊を追い払うこともできるでしょう。しかし、やはり夜中には部屋を出ないほうがいいかと思われます。陰気に侵されるかもしれませんから。」【晴明】 「というと、寺院には怨霊か何かがいるのでしょうか?」【聖覚法師】 「その通りです。この寺院には、なぜか怨霊が集まってきて、夜になると異常なほどに活発になります。私もお祓いすることはできますが、ここの怨霊は祓っても祓ってもきりがありません。まるで何かに引き寄せられているようです。」【源博雅】 「お、怨霊だと?なんで寺院に怨霊が集まるんだ?」【聖覚法師】 「私にも分かりません。しかし金堂の裏に、怪しい石碑があります。石碑がどこからきたのかは、私も把握していません。しかし直感で分かりました、あれは禍々しいものです。怨霊が出現することと何らかの関係があるかもしれません。よければ調べてみてください。」【晴明】 「金堂の裏の石碑か……分かりました。時間があれば、ついでに調査してみます。」【聖覚法師】 「ではよろしくお願いします。私は普段寺の東の庫裏にいますので、何かあればいつでもお声がけください。聖覚法師は二人に向かって一礼すると、その場を去った。」【神楽】 「晴明、お兄ちゃん。さっき住職様が出ていったけど、お話はどうだった?」【源博雅】 「聞くまでもないだろう?もちろん説得できたさ。自由に雪峰寺を調べていいとのことだ!」【八百比丘尼】 「それは何よりです、住職様は話の通じる方のようですね。」【晴明】 「八百比丘尼、雲外鏡の様子はどうだ?彼らに注いだ霊力はまだ残っているか?」【八百比丘尼】 「晴明さん、私たちの生命力と霊力では、彼らの意識が消えないようにするだけで精一杯です。しかしこの方法もついに使えなくなりました。ここに残っている彼らの記憶と思念を一刻も早く見つけ出し、鏡の中に注ぐことができなければ、彼らは永遠に目覚めることができないかもしれません。」【晴明】 「分かった。緊急事態だ、手分けして調査しよう。博雅は私と共に東を調査してくれ。神楽、八百比丘尼と一緒に西を調査してくれるか?もし何か見つけたら、合流して情報を交換しよう。」【神楽】 「わかった。でも晴明、小白のこと、忘れてない?」【源博雅】 「あ!犬っころめ、一体どこに行ったんだ?朝っぱらから興奮して出かけていくのを見たぞ。今頃雪峰寺のどこかで遊びに夢中になってるんじゃないのか。まったく、俺たちは遠足に来たわけじゃないぞ。」【八百比丘尼】 「でしたら、まずは計画通りに調査していきましょう。どこかで小白に会えるかもしれません。」【晴明】 「そうだな。ここは庭院とは違う、小白が厄介事に巻き込まれなければいいが。」【源博雅】 「大丈夫だろう、手分けして動くぞ。小白はどこかで雪遊びでもしてるんじゃないか?」 |
鏡の追憶・壱
鏡の追憶・壱ストーリー |
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午前九時 椿の林付近【神楽】 「鏡がかすかに震えてる。まさかここに、彼らの記憶が残ってるの?」【八百比丘尼】 「何らかの力による導きを感じます。」その瞬間、時空を超えて低い声が聞こえてきた。【雲外鏡・陰】 「僕は何者だ、なぜ生まれてきた?」【八百比丘尼】 「この懐かしい声は、陰の鏡の心の声ですか?」砕けた鏡が光を放つと、目の前の景色が歪み、全く違うものに変わり果てた。池だった場所は平らな大地になり、鐘楼は霧のように消え去った。そして揺らめく竹林と、静寂に包まれた茶屋が現れた。【八百比丘尼】 「ここは昔、竹林だったのですね。鏡が映し出す記憶が、私たちに過去の景色を見せているようです。」竹林の中、幻影が浮かび上がり、徐々に黒髪の少年へと変化した。彼女たちに背を向けた少年は、鏡を見つめている。鏡の中の自分は、長い髪をなびかせる容姿端麗な少年だ。【霊鏡】 「これが僕の姿。」少年が左手を伸ばして鏡に触れると、鏡の中の人影も同調するように右手を伸ばした。突然周囲が暗くなり、かしゃん、かしゃんという音が聞こえてきた。地面が揺れ、まるで地震が起きたようだ。竹林と茶屋は倒れ、砕けてしまった。全てが消えた後、世界は再び静寂に包まれた。幻が変化し、鏡は回転し続けている。現世では出会ったことのない黒髪の少年が、鏡を持って竹林の中に立っている。【少年の空印】 「浮世は汚れている。時々に勤めて払拭して、塵埃をして惹かしむること勿かれ。さすれば明鏡に埃が積もることもない。」静寂の中、鏡中の人が揺れる水から浮かび上がり、鏡面に現れた。【霊鏡】 「塵埃、そして明鏡とはなんだ?埃が積もって何が悪い?」【少年の空印】 「塵埃とは七情の欲念、明鏡は本心の例だ。埃が積もれば、真実が見えなくなる。君は僕の一挙一動を真似している。まさか僕になりたいのか?」【霊鏡】 「なりたい?違うな、強いて言うなら取って代わりたいんだ。」鏡の中の人は再び透き通る水の中に消えた。その目だけが、向こう側にいる空印を見つめている。【少年の空印】 「ふふ、例え僕に取って代わることができても、君はやはり満足できない。君が何者で、何のために存在しているのか、その答えは君の心が持っている。」【霊鏡】 「心?」霊鏡は胸に手を当てた。しかし中は空っぽでとても冷たく、心臓の鼓動も聞こえない。【霊鏡】 「もったいぶるな。僕はどうすれば答えを見つけられる?」【少年の空印】 「自分の存在意義を見つけるには、二つ大切なことがある。一つは記憶だ。それは礎となり、自分が誰なのかを決める。もう一つは、選択だ。」【霊鏡】 「選択とは何だ?僕には分からない。」【少年の空印】 「分からなくてもいい。今の君にはまだ理解できなくても、いつか必ず理解できる。」空印の姿が透け始めた。一筋の光が神楽が持っている砕けた鏡の中に入り、鏡が見せてくれる景色はここで途切れた。【神楽】 「これは陰の鏡の過去?本当に鏡から生まれた思念なんだ……」【八百比丘尼】 「人は鏡を見ている時、鏡を利用して自分自身を認識しています。そして鏡の中の人も同じです。」その時、雪峰寺の上空から小さな雪花が舞い落ち始めた。寺院と白い椿は寂しく、純粋で、とても美しい。【神楽】 「あれ?小白?」神楽が指差すほうを見やると、頭の上に雪が積もった小白が一匹の猿と遊んでいた。二匹は雪の中にたくさんの小さな足跡を残している。【八百比丘尼】 「すぐ近くにいるのに、全然気づきませんでした。雪と小白の毛の色は似ていますから、見過ごしてしまったようです。」【小白】 「ほら、梅の花ですよ。やはり小白の足跡のほうが綺麗でしょう!」【子猿】 「ウキウキ……ウキッ!」【神楽】 「小白、私たちは遠足に来たんじゃないでしょ。雪遊びがいくら楽しくても、今はその時じゃない。」神楽と八百比丘尼に気づくと、猿は警戒して木の上に飛び上がった。同時にウキウキッと声を出して二人を威嚇する。【小白】 「猿さん、怖がらないでください。彼女たちは小白の友達です。悪意はないですよ。」木の後ろから頭を出して彼女たちを観察している猿を見て、神楽は袋の中から朝の残りのお菓子を取り出した。【神楽】 「ごめん、びっくりさせちゃった?これは、お詫び。」神楽が持っている美味しそうなお菓子を見て、猿は少し躊躇ってから、木を降りてお菓子を掻っ攫った。その後再び木を登り、彼女たちに向かって変な顔をすると、猿は森の中に消えた。【神楽】 「反応するまでもなく、全部取られちゃった……」【八百比丘尼】 「どうやら私たちは歓迎されていないようですね。」【小白】 「猿さんは人間が嫌いなだけじゃないでしょうか?この前森の中を通りかかった時、動物捕獲用の罠を見かけました。」【八百比丘尼】 「罠ですか?」【小白】 「はい。詳しいことは聞かないでください。小白は罠を踏んでしまったせいで、木の上に吊るしあげられて、猿さんに助けられたんです。」【神楽】 「ふふ、そうだったの。じゃあお礼を言わないと。」【八百比丘尼】 「小白も一緒に来てください。さっき近くで雲外鏡の一部の思念を見つけました。ここからが小白の腕の見せ所ですよ。」【小白】 「わかりました!小白に任せてください。」 |
鏡の追憶・弐
鏡の追憶・弐ストーリー |
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正午 大庫裏の庭【神楽】 「小白、本当にここなの?」【小白】 「確信はありませんが、小白は鏡を嗅いだ後、何かの導きを得てここに来たんです。小白の第六感は結構当たりますよ!」【八百比丘尼】 「ではここで探してみましょう。」調査の途中で、神楽が持っている鏡が隅にある古い箱を映し出した。すると鏡は共鳴し、再び陰の鏡の心の声が聞こえた。【霊鏡】 「鏡の向こう側の少年を通じて、僕は自我を手に入れた。そして少しずつ人の心を、喜怒哀楽を理解できるようになった。僕は時々考えた。もし彼になることができれば、自分は何者かという悩みから解放されるだろう。そして彼の願いも、僕の願いとなる。」【少年の空印】 「残念なことに、彼は君の側を離れ、山を降りて悟りを求める。今度別れたら、いつ帰ってこれるか分からない。その時、君がいくら鏡の向こう側を覗いても、自分の姿を映し出すことはできない。君は自分の顔を忘れ、幻となる。」陰の鏡の側に現れた少年は、諦めたようにため息をつく。【霊鏡】 「僕の考えを知っているのか。なら、もったいぶらずに教えてくれ。僕はどうすればいい?」【少年の空印】 「道に迷った者を導くのは良いものだ。どんな手を使ってでも、彼を側に置けばいい。彼の一部になることが、君の望みなんだろう?」【霊鏡】 「例え呪いのように、彼をその場に閉じ込めてでも?」【少年の空印】 「例え呪いのように、彼をその場に閉じ込めてでも。」別れの日がいよいよ近づき、少年は霊鏡の異常に気づいた。【小僧】 「霊鏡、ここ数日君は何も言わなかったけど、もしできれば、君の口から別れの祝福を聞きたい。」【霊鏡】 「僕は理解できない。人々の救済は叶わないし、自分も浮世の汚れに染まる可能性がある。どうして一人で、潔白なままでいられないんだ?」【小僧】 「仏法は世の中にあり、世を離れては解脱には至らない。山を降りることは、人々の救済のため、そして自分の生きる意味を探すためでもある。」【霊鏡】 「……分かっている。君はそういう人だから、決めたことを簡単に変えたりはしない。君を止めるつもりはない。もし悟りの境地に至ったら、いつか、苦海にいる僕を助けてほしい。」【小僧】 「うん。いつか、僕は必ずここに戻る。これは僕たちの約束だ。」最後、鏡の中の人は離れる少年の後ろ姿を見て、迷いに囚われた。少年には追い求めるものがある。しかし彼には?【少年の空印】 「君は彼を側に置くことができた、しかし君はそうしなかった。本気で彼の約束を信じているのか?いわゆる「いつか」は、「永遠に叶わない」という意味じゃないのか?」【霊鏡】 「君は相変わらず、人をからかうのが好きだね。」【少年の空印】 「君は僕を、自分の欲望を否定するべきじゃない。」【霊鏡】 「彼の自由を、僕が奪うわけにはいかない。もしこの場に閉じ込めたら、それは彼の修行の邪魔になる。」【少年の空印】 「僕はいつもこの姿のまま。それはこの人が、君に最初の意識を与えたから。そして彼は君の本我の象徴、そうだろう?」陰の鏡は驚いた顔で少年を見つめた。目の前の少年は自分によく似ている。【少年の空印】 「君は分かっている。僕が言っていることは全部、君の心の中に潜んでいるものだ。人生は短い。なぜ本我の願いに従い、目的を果たそうとしないんだ?それが例え、心の中の獣を解き放つことになるとしても。」少年の言葉のせいで心に炎が灯ったようで、彼は苦しんだ。【霊鏡】 「いや、違う。僕は彼の幸せを願っている。彼が欲するものを手に入れることを望んでいる。そのために、僕は心の中に住んでいる獣を抑えつけている。」やがて、少年は消えた。しかし少年はある言葉を残した。【少年の空印】 「心の考えを制御することができるようになり、そして選択した時、君は真に覚醒し始める。」陰の鏡は胸に手を当てた。その時、胸の中から鼓動が聞こえた。ドクン、ドクン……なんて素晴らしい音だろう。陰の鏡の姿は次第に消え去り、光の玉となって神楽が持っている鏡の中に飛び込んだ。【小白】 「その気持ち、小白には分かります!だから小白は、陰の鏡を理解できます。以前小白は美味しそうなものを見かけたらいつも、食べたい、今すぐ食べたいと思っていました!でも今は、そんな考えを抑えられるようになりました。小白は皆が言う食いしん坊じゃなくなりました。」【八百比丘尼】 (なるほど。いわゆる覚醒というのは、心の中の考えを制御できるようになることなのでしょう。どうやら陰の鏡は、この時からさらに成熟したようですね。)【神楽】 「この大切な記憶は、思念をたくさん含んでる。彼らを呼び起こす道のりが、また一歩進んだ。」【小白】 「そういえば、セイメイ様たちの方は順調でしょうか。小白の手伝いなしでは、きっと苦労されているでしょう。」【神楽】 (はあ、お兄ちゃんがいなくてよかった。今の小白の言葉を聞いたら、また喧嘩になりそう。) |
鏡の追憶・参
鏡の追憶・参ストーリー |
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午前九時 鐘楼付近【源博雅】 「晴明、俺が持っている白い鏡がかすかに震えているようだ。ってことは、この辺りに雲外鏡の思念があるのか?」鏡を見つめた晴明は霊符を燃やし、鏡に貼り付けた。霊符が燃え尽きる時、鏡は弱々しい青い光を放った。【晴明】 「雲外鏡が応えてくれたようだ。青い光の導きに従えば、何か見つけられるかもしれない。」その時、鏡が光を放った。共鳴しているかのように、鏡面にさざなみが立ち始めた。彼らが周囲を見渡すと、鏡は拡大し、現実に限りなく近い幻境を作り出した。椿の林が現れ、二つの幻影が次第に人の姿になった。それは陽の鏡と、見たことのない小坊主だった。【小坊主】 「霊童、僕に任せて。薪割、草刈り、米つきなんて、君のような悟りを目指す人がやる仕事じゃない。君は慧根というものを持っているらしい。修行に集中すればいずれは偉い人になる。」【小僧】 「修行は形だけのものじゃない。薪割や草刈りも立派な修行だよ。」【小坊主】 「本当に理解できないな。僕は両親に捨てられたから、生き残るために仕方なく坊主になっただけだ。しかし君のようなやんごとなきお方が、どうして坊主になったんだ?まさか仏様の教えを得て、坊主になると決めたのか?」少年は頭を横に振り、昔を振り返った。過去の記憶が浮かび上がってくる。記憶の中のやつれ、いつも寝込んでいた母の姿が頭の中で蘇った。【男の子】 「母上、母上の病気はきっと治ります。」【母親】 「(頭を横に振る)ゴホゴホ、坊や、心配しないで。人は亡くなったら、極楽浄土に向かい、成仏して永遠の幸せを手に入れることができるらしいの。でもそんな場所、本当にあるのかしら。」【男の子】 「母上、極楽浄土のことは僕には分かりません。しかし生きている間にそんなことを考えても、答えは出てこないと思います。」【母親】 「そうね。私も考えたことがあるの。彼世には本当の極楽浄土はないかもしれない。だってあなたと一緒に過ごした時間は、とても幸せだったから。」【男の子】 「母上の言う通りです。僕にとって、母上の側にいられることが、この上ない幸せです。」【母親】 「でも、もしこの世が浄土なら、なぜ人は無数の苦難や別離に見舞われるのでしょう。どれだけ愛しても、最後には苦痛が待ち構えている。死ぬことは怖くない。でもあなたのことが心配なの。」【小僧】 「それは母上が残してくれた最後の言葉だった。どれだけ愛しても、最後には苦痛が待ち構えている。嬉しい時間はすぐに過ぎ去り、苦痛は未来永劫まで続く。老衰、病気、戦争、災害、そして母上を葬った炎。全てが頭の中で繰り返される。そのせいで僕は心の平和が得られなかった。だから出家することにした。」少年は悲しい表情を見せ、水がめに落ちた椿を掬い上げた。花はいつか舞い落ちるもの、楽しい時間はすぐに過ぎ去る。別離に向き合う時、人は皆無力だ。【小僧】 「人々の心は例外なく牢獄に囚われている。お参りする信者たちも同じだ。経文を唱え、仏様を崇めるのは一時の慰めを手に入れるためだ。それは本当の解脱じゃない。もし苦難に満ちた世の中で人々に救済をもたらす方法を見つけられたら、母上も安心できるかもしれない。」【小坊主】 「そうだったのか。僕が勘違いしてた。君は坐禅が得意と聞いたけど、座禅をしている時の気持ちを教えてくれないか?僕は修行が浅いから、毎日坐禅しても、静寂の境地に至ることができないんだ。もしかしたら向いていないのかもしれない。もしいつか仏様から教えを得ることができたら、もう悔いはないよ……」小坊主と少年の姿が消え、無数の小さな透き通った光の玉になり、博雅が持っている鏡の中に入っていった。【晴明】 「これは陽の鏡の記憶か。鏡が映し出す記憶は、限りなく現実に近いな。陽の鏡の心の声もよく聞こえる。」【源博雅】 「もし俺が記憶を覗かれたら……考えただけでも恥ずかしい。ごほん、別に人に見られたらまずいことをしたわけじゃないぞ。とにかく、最初の記憶を手に入れた。次からはもっと簡単だろう。」【晴明】 (陽の鏡の初心を見て、つい自分の過去を思い出した。昔の自分がいたから、今の私が存在している。そして陰陽師になることは、間違いなく私の最初の夢だった。) |
鏡の追憶・肆
鏡の追憶・肆ストーリー |
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午後三時 僧房付近【源博雅】 「うーん、ここにも雲外鏡の記憶があるのか?」鏡を持った源博雅は手がかりを見過ごさないように、隅々を調べている。ある曲がり角を曲がった時、鏡がようやく弱々しく共鳴し始めた。博雅の耳に、人々の騒々しい声が聞こえてきた。【???】 「霊童よ、助けてくれ。求めるものが得られず、苦しい。霊童よ、私は全てを失った。人生が台無しになったんだ。」【源博雅】 「晴明、何か変な囁きが聞こえなかったか?細々とした声だが、すごく鬱陶しい。」【晴明】 「博雅、後ろを見ろ。」源博雅が振り返ると、長蛇の列が目に映った。正確には老若男女を問わない、幻の隊列だ。隊列の前に行った博雅は、ようやく再び懐かしい白髪の少年を見つけた。人々の悲しみや喜びは様々だ。列を作った人々は霊童に祈りを捧げ、苦痛からの解放を求めている。霊童が彼らの頭に手を置くと、全ての負の感情は消え去り、人々は暖かく、平和な気持ちになる。しかし霊童は知っている。それは一時的なものにすぎず、心の病は治っていない。自分は人々の感情を引き受けただけだ。人々の意識と苦痛が頭の中に入り込む時、霊童は目眩と嫌悪を覚える。さながら毒を盛られた気分だ。それでも、霊童は毎週信者たちに会うことをやめず、彼らの苦痛を追い払う。【青年の空印】 「人の欲望は尽きない。このままだと、君の体は弱る一方だ。」【小僧】 「人の心は牢獄のようだ。衆生は牢獄に閉じ込められ、抜け出すことは叶わない。でも僕は、錠を開ける鍵を探したい。」【青年の空印】 「牢獄は情によって作られている。衆生は情を持ち、情に囚われている。あの老婆を見たか?彼女がここに来た理由を知っているか?」霊童は空印の指差すほうを見た。一人の老婆が杖をつき、とぼとぼと石階を登っている。足腰が弱く、少し登ったら止まって休憩せねばならない。【小僧】 「あの老婆のことは覚えてる。毎日正午になると、彼女は必ずお参りに来て、寺で祈りを捧げるんだ。風の日も、雨の日も。」【青年の空印】 「彼女の息子は軍人になって戦死した。みんなが知っていることだ。しかし彼女は息子がまだ生きていると信じ込んでいて、毎日お参りに来る。息子が早く帰ってこられるように、毎日毎日、何年も祈りを捧げ続けている。君が彼女の代わりに牢獄を解放し、その中から引きずり出して、真実を見せたら、彼女はどうすると思う?」【小僧】 「彼女は動揺し、床に伏せてしまうかもしれない。怒りを僕にぶつける可能性もある。」【青年の空印】 「その通り。時に、真実よりも、人々は嘘を信じたい。疑うよりも、信じることを選びたい。例えそれが嘘だとしても、嘘に生きることになっても。希望を求める信者たちの痛みを和らげることはできても、その心の病を治すことは到底できない。それどころか、彼らは君にもっと依存してしまう。それは解脱じゃない、一時的な逃避行だ。しかし、真の救済を手に入れるには、まず真実に向き合う勇気がいる。でなければその場に留まり、囚われ続けることになる。」【小僧】 「分かってる。自分自身を解脱させることは簡単で、人々に救済をもたらすことはあまりにも難しい。全ては僕の自惚れかもしれない……」霊童は遠くを眺め、少し迷っている。彼の姿はやがて光となり、晴明が持っている鏡の中に差し込んだ。【晴明】 「心の牢獄か、面白い例えだな。牢獄の外にいると思っても、実は牢獄の中にいることもある。牢獄に閉じ込められていたとしても、外の世界の存在を信じるよりはましだと思う人もいる。やはりいついかなる時代でも、真実に直面する勇気は欠かせないな。」【源博雅】 「牢獄だのなんだの、よく分かんねえな。もし俺自身が牢獄の中に閉じ込められていると気づいたら、すぐに暴れて、その牢獄とやらをぶち壊してやる。」【晴明】 「博雅のように真っ直ぐなら、何にも縛られず、落ち込むこともないかもしれないな。」【源博雅】 「無意味に自分を責める暇があるなら、問題を解決する方法を考える。あるいはもう少し酒を飲んだほうがいいかもな。」 |
鏡の追憶・伍
鏡の追憶・伍ストーリー |
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夕刻夜七時 金堂【八百比丘尼】 「ここで強い共鳴反応が起きています。この辺りで間違いありません。」黒い鏡が眩しい光を放ち、壁に何かを映し出している。記憶の中の景色が再び浮かび上がってきた。【???】 「以前君に言ったことがある。自分の存在意義を探すうえで、大切なものは二つある。一つは記憶、もう一つは選択。記憶は自分が誰なのかを決める。そして無数の選択の後、自分が誰になるのかが決まる。」景色は再び変わり、金堂だった場所は禅室になった。禅室の中には誰もいない。壁にかかっている古い鏡は、よく知っている姿を映し出している。【小僧】 「久しぶり、帰ってきたよ。」【霊鏡】 「本当に帰ってきたのか?ずっと待っていた、もう疲れたよ。」【小僧】 「待たせたね。現実の僕は年を取って、体が動かなくなった。でも僕の心と意識は時空越えてここに帰ってきた。君との約束を果たすために。」【霊鏡】 「君が帰ってくる時のことを何度も何度も想像したけど、こうなるとは思わなかった。」【小僧】 「霊鏡。教えてくれ、君の願いは何だ?」【霊鏡】 「今でも僕の心は相変わらず迷いに満ちている。自分が何者なのかわからず、無限の命は僕に終わりのない苦痛をもたらす。僕には目標がなく、存在意義も見つけられなかった。」【小僧】 「霊鏡、存在そのものは意味を持たないものだ。それは心から生まれる。追い求めてはじめて手に入る。」【霊鏡】 「では君は?生きる意味は見つけたか?」【小僧】 「僕は方々を巡り、世界を旅した。君にとって、僕やこの世の人々の命は、刹那のようなものだろう。世の中には享楽に耽り、虚しさを紛らわし、存在意義について考えることを諦めた者もいる。そして重い枷を課せられ、存在意義を考える余裕を持たない者もいる。旅の途中、僕は人に食べ物を恵んでもらった。災害、戦乱に見舞われ、命の危機に瀕したこともあった。僕は旅を通して人々の残酷さと慈悲を、世の無常を知った。その過程で、僕は苦渋の決断を強いられ続けた。そしてその決断のおかげで、僕は追い求めたものにより一層近づくことができた。」【霊鏡】 「そうだったのか。この十数年、ここに残った僕は牢獄に囚われたまま、何も変わらなかった。しかしここを出た君は、本当の成長を手に入れた。」【小僧】 「霊鏡、雪峰寺を出て、浮世で修行しよう。その時、君も無数の苦難を体験し、苦難の中で決断を強いられ続ける。もしかしたら、君はその過程の中で自分の存在意義を見出だせるかもしれない。」【霊鏡】 「ありがとう、霊童。そうしようと思うけど、一つだけお願いがある。この浮世の旅に、付き合ってくれないか?」【小僧】 「苦海にいる君を助けると約束した以上、僕は約束を違えない。今までも、これからも。」少年は微笑み、鏡に向かって手を伸ばした。鏡の中の人影も同調するように手を伸ばし、彼に応える。一筋の光が闇を切り裂き、鏡から溢れ出る。【霊鏡】 「これは僕たちの千年の旅だ。僕はもうあの無知で、心を持たない器物ではない。この旅で、僕は自分の存在意義を探し、僕が誰なのか、その答えを見つけ出す。例えそれが、苦難に満ちた旅だとしても。」【八百比丘尼】 (無限の命、求めても得られぬ存在意義、私と少し似ていますね。百年後、晴明さんや、周囲のみなさんがいなくなった時、私はどうやって生きていけばいいでしょうか。)【神楽】 「あれは!」神楽と八百比丘尼は、壁にかかっている古い鏡が埃を振り落として、眩しい光を放つのを見た。それに伴って、大きな音がした。霊鏡は一筋の光となって、彼女たちの側を通り抜け、雲の上に飛び上がり、彼方の空に消えた。【小白】 「これが雲外鏡の誕生ですか。さすが伝説の神器、格好いいですね!」【神楽】 「雲外鏡はただの器物じゃない。彼らは人間よりも純粋な感情を持ってる。陽の鏡は繊細だけど、恐れを知らない強靭な心を備えてる。陰の鏡は寡黙で、肝心な時はいつも捻くれたことを言うけど、絶対に助けてくれる。」【八百比丘尼】 「この数年、雲外鏡は自らを犠牲にして都を守ってくれまし。私たちが彼を利用したわけではありません。彼自らの選択でした。」【小白】 「雲外鏡は何度も助けてくれました!今度は小白が守ってあげる番です!」夕刻 夜八時 僧房【小白】 「一日中、小白は地面を這いずり回るように、隅々を探し回っていました。今は疲れて、まともに立つこともできません。」【神楽】 「お疲れ様、小白。もしよければ按摩してあげようか?」【小白】 「え!いいんですか?言われてみれば確かに首の辺りが凝っている気がします。あっ、もしよければついでに小白のあごと頭も撫でてもらえませんか?そのあたりは小白は手が届かないので、むず痒いんです。」【神楽】 「ふふ、このあたり?」【小白】 「はい、そこです……気持ちいいです!」満足気な小白が、神楽の足元で楽しそうに転がっている。【八百比丘尼】 (数百年の間、私はずっと一人で流離い続けていました。いつも人と距離を置き、親密な関係を築くことはありませんでした。神楽と小白のような関係を見ると、少し羨ましいですね。)風が吹き、窓がガタガタと音を立てる。外の雪の上に、一つまた一つと足跡が現れた。誰かが重い足取りで僧房に向かっているようだ。【八百比丘尼】 「外が騒がしいですね。晴明さんと博雅さんが戻られたのでしょうか?」【神楽】 「あそこ……見て!」驚いた神楽が窓の方を指している。窓の外では誰かが冷たい目で彼女たちを監視していた。ドン、ドンと音を立てて外にいる者が繰り返し窓を叩くと、紙窓にも手形が浮かび上がった。【小白】 「気をつけてください。小白は匂いで分かりました。外にいるのは人間じゃありません。」【???】 「出ていけ、全員出ていけ!」【八百比丘尼】 「警告でしょうか?私たちは本当に歓迎されていませんね。」八百比丘尼が霊符を一枚燃やして空中に法陣を描き、窓の外に投げた。窓の外の人影は霊符を避け、ゆっくりと離れた。【小白】 「怨霊のようです。どうやら、逃げるつもりのようですね!」【八百比丘尼】 「ひょっとすると、怨霊から雪峰寺の秘密を聞き出せるかもしれません。」八百比丘尼は決心すると、神楽に部屋に残るように言って、一人で怨霊を追いかけた。雪峰寺の夜は風が冷たい。八百比丘尼が放った霊符が怨霊に当たった瞬間、闇の中の人影が振り返った。人影の顔は青白く、その手には赤い痕跡がある。【八百比丘尼】 「鶴丸、あなたですか!?」少年は八百比丘尼を一瞥すると、頭を横に振り、すぐに闇の中に消えた。目の前にいた少年は、幼い頃の幼馴染によく似ていた。しかし本物の鶴丸は数百年前に亡くなったはず。どうして今、こんな姿になったのか。過去のことが頭の中に蘇る。あの時、自分はまだ海辺の漁村に住んでいる普通の女の子にすぎなかった。鶴丸は自分と同じ漁民の子で、二人は大変仲が良かった。一緒に海岸で貝殻を拾ったり、森の中で動物を捕獲する罠を仕掛けたり、採った獲物を皆に分けたりしていた。【鶴丸】 「八ちゃんみたいなお転婆な女の子は、将来お嫁に行けるか怪しいな。近くの村の子供たちはみんな、姉御って呼んでるぞ。」【少女の八百比丘尼】 「ふん、あなたに関係ないでしょ。私はあなたよりも先に結婚して、幸せな家族を築くんだから。可愛い息子と娘を産んで、誰よりも幸せに暮らすの。」【鶴丸】 「ははは、甘いな。僕と賭けをしないか?もし負けても、泣いたりするなよ。」【少女の八百比丘尼】 「なにそれ、私に殴られたいの?」あの頃、彼らはいつも冗談を言い合ったり、じゃれ合ったりしていて過ごしていた。しかしある日、大人たちの漁の手伝いをしていた時、鶴丸は急に咳き込み、たくさんの血を吐いた。その日以来、鶴丸はあまり家を出なくなった。何度か見かけることがあったが、顔色が悪く、人と距離を置くようになっていた。以前とても活発だった彼は、寡黙な少年になり、物憂げな表情を浮かべるようになった。【少女の八百比丘尼】 「鶴丸、あなたの病気はきっと治るよ。約束しよう、病気が治ったら、美味しい料理を振る舞ってあげる!」【鶴丸】 「八ちゃん、人はこの世からいなくなった後、どこに行くの?八ちゃんと冗談を言い合うこともできなくなるなら、ちょっと寂しいな。」【少女の八百比丘尼】 「鶴丸、人はこの世からいなくなった後、みんな同じ場所に行くよ。その時、私たちは必ず、必ずまた会える。」その後、彼は父親に連れられて医者を探す旅に出た。その後のことは分からない。そして自分は、人魚の肉を食べて村で唯一の不老不死の巫女になった。【八百比丘尼】 「時に、無限の命は取り除けない呪いのように、自分を見失わせ、自我を忘れさせるものです。」 |
鏡の追憶・陸
鏡の追憶・陸ストーリー |
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黄昏の時 法堂前【晴明】 「鏡はここでも共鳴している。どうやら法堂の中に入るよう、導かれているようだ。」鏡が放つ青い光が、法堂の扉の奥に差し込んでいる。源博雅が法堂の扉を開けると、埃が宙に舞った。どうやら長い間使われていないようだ。青い光がある場所に差し込むと、すぐさま周りに広がっていった。法堂は一新され、鏡は幻を映し出し始めた。【信衆】 「霊童様、これは遠縁の親戚から受け継いだものです。なにやらよくないものが憑いているようで、それを祓っていただきたいのです。」男は綺麗な簪を取り出した。簪を受け取った少年が確認すると、簪は既に封印されていた。しかしその封印からは、絶え間なく汚れた邪気が溢れ出ている。【小僧】 「この簪の主について、何かご存知でしょうか?」【信衆】 「少しだけ知っています。簪の主は遠縁の親戚の二番目の妻です。彼女は夫の家族から、酷い仕打ちを受けていたようです。ある夜、女性は簪で夫の喉を貫きました。そして妖魔に取り憑かれたかのように、夫の親族を全員殺害しました。最後はこの簪で、自ら命を絶ったそうです。」【小僧】 「なるほど。簪に憑いている怨霊は、生前凄まじい力を持っていたようです。封印しても完全には封じられないほどに。」【信衆】 「この簪を所持した者は、皆苦労していました。本当にどうしようもなく、霊童様に頼むしかありません。どうか簪の邪気を浄化してください。」少年は依頼を受け、男を部屋から出した。簪を撫でると、張り裂けそうな感情が胸に流れ込んできた。自分が誰かの意識の中に入ったようで、精神が恍惚とする。朦朧とする中、少年は自分に背を向けた、血に塗られた女を見た。簪を持つ女は、目の前のばらばらの肉体に、何度も何度も怒りをぶつけている。少年に気づいた女は、手を動かすのをやめた。【女の怨霊】 「ふふふ、みんな私を封印することだけを考えていたけれど、あなたは勇気があるのね。まさか私を解放して、自ら私の意識の中に入ってくるなんて。」【小僧】 「抑え続けるだけでは、問題解決にはなりません。できることなら、あなたの心を救済し、苦痛から解放したいのです。」女は振り返り、真っ赤な目で少年を睨みつける。そして黒い煙に包まれ、怨霊となって襲ってきた。少年は思念で攻撃を防いだものの、不利な状況に追い込まれてしまった。怨霊の持つ簪が、彼の喉のすぐ先で止まっている。【女の怨霊】 「ふふ、本当に皮肉ね。あなたは怨霊ですら助けたいの?もしここで意識を狂気に乗っ取られたら、あなたは狂人になってしまう。そうなっても、まだこんな生意気なことが言えるのかしら!」【小僧】 「人の心を持つ者でしたら、やはり放っておけません。」【女の怨霊】 「人の心?ふふふ、夫の家族全員を殺した私が、まだ人の心を持っていると言うの?」【小僧】 「人の心を持っているからこそ牢獄に囚われ、この地から出られなくなっているのです。あなたがどんな経験をされたのかは分かりません。でも、悲しみと絶望は伝わってきました。あなたは心や感情を持たない者ではありません。」女は悲しみに満ちた笑みを浮かべ、簪で少年の首の皮を切り裂いた。息を切らした少年は、なんとか冷静さを保とうとする。彼は右手を伸ばして浄化の力を集め、女を落ち着かせようとしている。しかし次の瞬間、女は狂ったように叫んだかと思うと、簪で自分の首を貫いた。【小僧】 「待て、何をする!」女の体は震えている。彼女は少年の耳元で囁きながら、傷だらけの腕を見せた。【女の怨霊】 「あなたは可笑しいほど純真ね。まだ本当の悪に出会っていないからって、人の心を買いかぶっちゃだめよ。さもないと、あなたはやがて自分の優しさに閉じ込められてしまう。牢獄の中に閉じ込められていたのに、一度も抗わなかった自分が憎い。ただの身代わりの罪人にすぎない自分が憎い。」そう言い終えると、女の体は少年の前で霧散した。彼女の声だけが、いつまでも響き続けていた。少年は破壊されて、ばらばらになった体に向き直った。それは女の体だった。しかし女の目に映っていたのは……目を覚ました少年は、現世に戻ったことに気づいた。目の前で空印法師と依頼人が正座している。【青年の空印】 「やっと目を覚ましたか。君は一週間座り続けていた。眉をしかめ、汗をかいていたので、なんとかして目覚めさせた。今後はもうこういう危ないものには手を出すな。もし浄化に失敗すれば、君も囚われてしまうぞ。」少年は簪を見た。邪気が祓われた簪に散りばめられた真珠が、微かに輝いている。依頼人に目を向けた少年は、少し躊躇ってから、簪を返した。簪を受け取った男は、嬉しそうに感謝の言葉を口にする。【小僧】 「簪の邪気は祓われました。この簪は、他人に贈るつもりですか?それとも質屋に出すつもりですか?」【信衆】 「まさか、そんなことはしません。一生大切に保管しますよ。」【小僧】 「では……あの夫人は、美人ですか?」男は頭を上げて少年を見ると、不気味な笑みを浮かべた。幻はそこで途切れ、一筋の光が源博雅が持つ鏡の中に入り込む。扇子を力強く握り締めた晴明は、少し怒っているようだ。【源博雅】 「晴明、どうした?どうして急にそんな顔を。」【晴明】 「さっき起きたことに、気づかなかったか?」【源博雅】 「どういう意味だ?陽の鏡の記憶に、何かおかしいところがあったのか?」源博雅を見つめながら、晴明は諦めたように頭を横に振り、何も言わなくなった。 夕刻 夜八時 法堂前 枯山水の庭にやってきた二人は、その中心にある大きな石碑に気づいた。【源博雅】 「これが聖覚法師が言っていた、怪しい石碑じゃないか?風化具合から考えれば、相当昔のものだろう。一体誰が、何のために作ったんだ?」晴明は石碑に手を当てた。すると幻覚でも見たように耳鳴りがして、目が霞んだ。目の前に何体もの怨霊が現れた。怨霊たちはぎこちない動きで石碑の方に行き、参拝している。晴明は思わず霊符を取り出し、怨霊に向かって投げた。すると怨霊は消え、同時に幻覚も見えなくなった。しかしまだ少し目眩がする。晴明はこの石碑について何も知らない。しかし間違いなく、心を惑わす悪しき力が宿っている。そしてこの懐かしい力は、明らかに悪神の力だ。晴明は周囲を見渡す。ここは現世だ。六道の世界ではないのに、なぜ悪神の力を感じたのだろうか。【晴明】 「まさか天照大神に封印される前に、悪神がここに己の力の一部を残したのか?」【源博雅】 「晴明、見ろ!」【源博雅】 「まさか、石碑の下に雲外鏡の記憶があるのか?」晴明は術を使って石碑を攻撃してみたが、石碑はびくともしなかった。晴明は結印し、呪文を唱えながら石碑の四角に符文を描いた。符文から突然青い火柱が四つ立ち上り、四方向に広がっていく。【晴明】 「どうやら、この石碑は地脈によって固定されていて、雪峰寺の四角に繋がっているようだ。石碑を壊すには、先に東西南北にある四つの地脈を潰さねばならない。」【源博雅】 「なるほど、そういうことか。しかしすっかり暗くなったな。そろそろ聖覚法師が言う、怨霊が活発になる時間になるだろう。どうせ地脈の陣眼は消えたりしないんだ、また明日調査しよう。」【晴明】 「ああ、仕方ない。とにかく、帰ったらこのことを神楽たちにも教えてあげよう。」夕刻 夜九時 僧房 僧房に戻った晴明と博雅は八百比丘尼たちと合流し、情報を交換した。【晴明】 「どうやら雲外鏡の記憶は、これでほぼ全部のようだ。最後の記憶は法堂前の石碑の下にあるはずだ。しかし石碑は四つの地脈に繋がっている。寺の四角にある陣眼を破壊しなければ、石碑を動かすことはできない。」【八百比丘尼】 「そうですか。順調にいけば、明日にでも雲外鏡を呼び起こせるかもしれませんね。」【源博雅】 「寺で数週間過ごすことになるかもしれないと覚悟を決めていたが、予想に反して順調に進んだな。」【小白】 「そうなったら、お寺で椿を楽しむのも悪くないですよ。小白は椿の花が咲いている場所を知っています。」【神楽】 「うん、雪峰寺で何日かゆっくりして、休憩してもいいよね。」【晴明】 「では明日の朝、私と八百比丘尼は北の陣眼を壊しに行く。神楽は博雅と共に南の陣眼を潰してくれ。」【源博雅】 「よし、さっさと終わらせるぞ。」午前八時 寺院の北東 【源博雅】 「晴明が言っていた最後の地脈はここだろう。ちょっと離れていろ、俺がやる。」源博雅は弓を引き、地脈に狙いを定め、呪文を唱え始めた。すると弓矢から青い炎が燃え上がった。シュッという音がした後、矢に射抜かれた地脈に火がつき、たちまち燃え尽きた。【神楽】 「私たちが壊すべき陣眼はこれで全部。地脈からの力の供給を失った今なら、あの怪しい石碑を簡単に壊せるはず。」【源博雅】 「ああ、うまくいったな。最後の思念を鏡に納めれば、雲外鏡を呼び起こすこともできるだろう。行こう、神楽。晴明たちと合流するんだ。」その時、一匹の猿が森の中から彼らを覗いていた。神楽と源博雅が振り向き、その場を離れようとした瞬間。猿が突然飛び出してきて、神楽が腰につけていたお守りを奪った。【神楽】 「あっ、お兄ちゃんがくれたお守りが!」木の上に飛び上がった猿は、振り返って二人に向かって変な顔をすると、嘲笑するかのように尻を叩いた。【源博雅】 「こいつ、神楽の物を奪ったうえに、挑発しやがって!捕まえたら、ただじゃおかねえ!」猿は山門から出ていき、森の中に消えた猿を、源博雅が弓を携えて追いかける。【神楽】 「あれ?あれはこの前小白と一緒に遊んでた猿?博雅お兄ちゃん、待って!」源博雅が猿を傷つけるのではないかと心配した神楽も、彼らの後を追った。二人は猿を追いかけて雪峰寺を出た。しかし狡賢い猿は周囲の地理をよく理解しているようで、二人はすぐに見失ってしまった。【源博雅】 「くそ、猿め、なんて速い動きだ。あと少しであいつを……」木に手をついている源博雅は息を切らしている。後を追って現れた神楽が博雅を慰めようとしていると、猿に奪われたお守りが近くの木の枝にぶらさがっているのを見つけた。【源博雅】 「猿め、俺たちをからかっているのか?無駄に走らせやがって!」【神楽】 「大丈夫、少なくともお守りは取り戻せたから。寄り道になっちゃった、早くお寺に帰って晴明たちと合流しよう。」その時、足元の地面が激しく揺れ始めた。源博雅は神楽を抱き寄せ、木の下で彼女を庇った。数十秒が過ぎ、揺れはようやく収まった。【神楽】 「強い地震だったね。晴明たちはまだお寺に残ってる。危ない目に遭ってないかな?」【源博雅】 「あの寺は結構広い。例え建物が倒れても、あの二人の腕なら問題ないだろう。」神楽と源博雅は来た道を引き返した。途中、雪が舞い落ち、強い風が吹くと、源博雅は我慢できずにくしゃみした。【源博雅】 「……」【神楽】 「……」【源博雅】 「神楽、この道で間違いないよな。」【神楽】 「うん、この道のはず。ちゃんと覚えてる。」【源博雅】 「雪峰寺はここにあるはずだよな……」【神楽】 「うん、そのはず……」【源博雅】 「なら、どうして雪峰寺は消えちまったんだ!?」二人は山門前に戻ったものの、目の前には何もなかった。平らな地に雪が積もっている。雪峰寺は最初から存在しなかったかのように消えていた。 |
六道反転
六道反転ストーリー |
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午前八時 法堂前 晴明と八百比丘尼はそれぞれ北西と北東の地脈にある陣眼を壊した後、合流すべく法堂に向かった。そこには何か考え込んでいるように石碑を見つめている聖覚法師がいた。【聖覚法師】 「お二人、昨日はよく眠れましたか?何か異常はありませんか?」【晴明】 「大丈夫です。ただ、一つ気になっていることがあります。この石碑について、聖覚法師はどこまでご存知ですか?」【聖覚法師】 「不吉なものだということしか知りません。石碑に触れると、怨霊が石碑を参拝する幻が見えます。まるで石碑を崇めているようです。」【晴明】 「法師が仰ったことは、昨日私も体験しました。どうやらこの石碑には、怨霊を引き寄せる悪しき力があるようです。」晴明がそう言い終わると、石碑が微かに震え始めた。【晴明】 「博雅と神楽が最後の地脈を壊したようです。おかげで、石碑の力が弱まったのでしょう。」【聖覚法師】 「あなた方は何を……?」【八百比丘尼】 「何を隠そう、私たちは仲間を呼び起こすためにここを訪れました。石碑の下には私たちが集めている最後の思念があります。なので、今日は石碑を動かすつもりです。聖覚法師がお困りになるようなことではないかと思いますが。」聖覚は八百比丘尼が持つ鏡を見る。鏡は既に直されているが、そこには何も映っていない。石碑に近づいた時だけ、鏡はわずかに震える。【聖覚法師】 「この石碑はもとより不吉なものですから、できることならむしろ壊していただきたいです。」【晴明】 「石碑が一体どんなものなのか、その詳細については、改めて調査するつもりです。刻まれている呪文が、特に気になります。」【聖覚法師】 「ああ、呪文については少し知っています。それは、我を信ずる者、極楽浄土に至り、成仏を賜わん、という意味です。」【晴明】 「なるほど。ここに怨霊が集まる原因について、少し考えました。例えば、寺が何らかの事故で一夜にして廃れ、寺の墓地に埋葬された人々の霊が僧侶に供養されず、成仏できなくなった、とか。故に人々の魂はこの地を彷徨い、怨霊になってなお、成仏することを望んでいる。」【聖覚法師】 「一理あります。」【八百比丘尼】 「怨霊が出現する原因について、私も自分なりに考えてみました。聖覚法師、北西の角にある罠をご存知でしょうか?あそこの罠を確認してみました。小型の動物を捕獲することはもちろん可能です。もう少し大きい動物でも問題ありません。例えば……人間です。」【聖覚法師】 「罠?北西と仰いましたが、それは竹林のことですか?それとも椿の林のことですか?誰かが設置した罠かもしれません。寺は長年使われていなかったので、誰かがここに住み着いていたとしても、おかしくはありません。そもそもここはある狩人が見つけた場所、彼が設置した罠だということも十分にありえます。」【八百比丘尼】 「……一つ解せないことがあります。仰った北西の角には竹林などありません。仮にあったとしても、それは千年前、雲外鏡の記憶の中にのみ存在していました。あなたは、今年おいくつですか?」質問を聞いて、聖覚法師はしばらく黙り込んだ。ゆっくりと顔を上げた聖覚法師は、不気味な笑みを浮かべていた。聖覚法師は平手打ちで石碑を壊した。石碑は粉々に砕け、地面が激しく揺れ始めた。一瞬油断した八百比丘尼は、その場につまずいた。懐の中の鏡が引き寄せられるように宙に舞い上がり、雪峰寺の上空で止まった。鏡の片方は雪峰寺を映し出し、もう一方は六道の入口の方を映し出している。【晴明】 「まずい!これは罠だ!」晴明と八百比丘尼の足元に六芒星の結界が浮かび上がり、彼らをその中に閉じ込めた。空模様が変わり、暗雲が立ち込める。すぐに、鏡が空に巨大な金色の渦を映し出した。渦の中には天国の景色が見える。石碑の下に封印されていた数多の怨霊が姿を現した。満足気な笑みを浮かべている。天国に向かって手を差し伸べると、渦の中に舞い上がった。【聖覚法師】 「ふはは、私の代わりに地脈の陣眼を壊してくれたことにお礼を言おう。それだけでなく、神器まで届けてくれた。仏様が私に代わってお主らをもてなしてくださるだろう。」晴明は指に傷を作り、目の前にいる聖覚法師に向かって血を塗った霊符を力いっぱい投げた。腹で霊符を受け止めた聖覚が数歩下がると、操られていた雲外鏡がゆっくりと降りてきた。【小白】 「さっきの地震はなんですか?一通り探しましたけど、神楽様と博雅様の姿は見当たりませんでした。セイメイ様たちはご無事ですか?」遠くから駆けつけた小白は晴明たち、そして空に現れた巨大な金色の渦を見た。【晴明】 「来るな、小白!これは罠だ、雲外鏡を連れて離れろ、できるだけ遠くに行くんだ!」小白は隣で体を起こしている聖覚法師を見た。彼の後ろでは炎を纏った巨大な怪物が牙を剥き、獰悪な顔で小白を睨みつけている。小白は空に飛び上がり、落ちてくる鏡を咥えた。炎を纏った悪神が手を伸ばすと、悪神の手の中から噴き出した黒い炎が小白に襲いかかった。【八百比丘尼】 「小白!早く逃げなさい!」八百比丘尼は晴明を押しのけ、身を挺して悪神の攻撃を受け止めた。【小白】 「八百比丘尼様!」【八百比丘尼】 「ゴホッ、私は不死の巫女です、そう簡単には……」晴明が倒れた八百比丘尼を支えると、彼女は気を失っていた。【晴明】 「八百比丘尼、しっかりしろ!」晴明の手の中に雷光が現れた。天羽々斬を呼び出すつもりだったが、先日季乱の森で悪神に対抗した時に力を消耗しすぎたせいで、召喚できなかった。【魔羅王】 「無駄だ。我は魔羅、本体はここにはない。お前の目の前にいるのは、数千年前我が切り離した一部の意識に過ぎぬ。ようこそ我が国……極楽浄土へ。」状況は極めて不利だ。もし雲外鏡まで悪神の手に落ちたら、それこそ挽回できない事態になってしまう。一度振り返った小白は晴明たちを見ると、涙をこらえ、鏡を咥えたまま逃げ出した。【聖覚法師】 「仏様、神器を追いかけますか?」【魔羅王】 「ふん、焦ることはない。雪峰寺は既に神器の投影により、浄土に送られた。彼らが仮にここから出られたとしても、我が国から逃れることはできない。所詮袋の中の鼠のようなものだ。」晴明は全力で霊力を集め、自分自身と気を失った八百比丘尼を守る結界を作り出した。【魔羅王】 「ほう、我が罠の上で結界を作ったか。さては持久戦に持ち込むつもりだな。よい、我が本体が怨霊たちの怨怒の力を全て吸収し、力を取り戻す時、我は再び降臨する。」【晴明】 「以前からずっと石碑に取り憑いていたのか。道理で中から悪しき力を感じたわけだ。」【魔羅王】 「お前の言う通り、残酷な処刑の神によって六道の中に放り出される前に、我は既に魂を分けて分霊を雪山に隠した。その後、雪峰寺が建てられた。そして我は仏像の中に潜むようになった。分霊は神力こそ持たないが、我の代わりに衆生を監視することができる。我は蛇神の帰還を待ち続けた。蛇神が我のために六道の扉を開く時、本体に戻れると思っていた。残念ながら、最後はやはり憎き処刑の神に計画をかき乱された。しかし、お前たちが協力してくれたおかげで浄土道の入口を開くことができた。」【晴明】 「喜ぶにはまだ早いぞ。例えお前の本体が戻ってきても、私は必ず再び天羽々斬の力を借りて悪神を封印してみせる。浄土道から逃げ出すことができたとしても、須佐之男様は六道の扉の入り口でお前を待っている。だから、もう後がないのはお前の方だ。」【魔羅王】 「計画を見届ける者として、罪に満ちる現し世が我が手中に収まる瞬間を我と共に迎えるがいい。」魔羅王が指を鳴らすと、彼が纏った炎は地面に落ち、無数の炎の怪物を生み出した。正確には燃える怨霊だ。彼らは体が強張り、恍惚としている。まるで自我を持たない操り人形のように、魔羅王の指差す方へと向かっていく。それは小白たちが逃げた方向だ。 その頃…… 雪が積もる枯れ木林の中、一匹の白狐が息を切らしながら走っている。狐が咥える鏡は睡眠時の呼吸のように、時々光を放っている。【白蔵主】 (セイメイ様、八百比丘尼様、雲外鏡を安全な場所に届けたら、小白が必ず助けに行きます。)【火の怨霊】 「……あそこだ!あそこだ!」【白蔵主】 (ああ、見つかってしまいました。)火の怨霊たちが小白に襲いかかる。彼らが手から炎を噴き出すと、小白は盾を作ってそれを防いだ。しかし足首を庇いきれず、その白い毛がたちまち焦げた。痛みに耐えながら包囲網を突破した小白は、高い場所に向かって走っていく。しばらく逃げ続け、小白はようやく追ってくる火の怨霊を全てまくことができた。雪の中には、血が滴っている。小白は鏡を胸に隠し、傷を負った足を引きずって進んでいく。【白蔵主】 「セイメイ様たちと約束したんです。悪神の手に落ちないよう、必ず雲外鏡を守り抜きます。」吹雪が吹く中、足首の傷が凍った。小白の目は霞み、前の道が見えなくなった。しかし追手がいる彼は、足を止めることができない。前方の森の中に、一人の少年が姿を現した。青白い顔に真っ赤な目、彼は間違いなく昨夜八百比丘尼が見た奇妙な怨霊だ。彼はある方向を指し示すと、またゆっくりと消えた。【白蔵主】 「進むべき道を教えてくれているのでしょうか?まさか、あの夜窓を叩いたのも、小白たちに警告するためだったのですか?」少年が指した方に進んだ小白は、洞窟を見つけた。【白蔵主】 「この前通りかかった時には全く気づきませんでした。地震のおかげで入り口を塞いでいた岩がなくなったのでしょうか?とりあえず中に入って、吹雪を凌ぎます。」洞窟の中はとても暗かった。疲れ切っていた小白は、ついに体の限界を迎え、その場に倒れた。それでも、彼はその体でずっと雲外鏡を守っていた。小白の温かい体のもと、鏡から眩しい光が溢れ出し、神器はようやく目覚めた。 午後 三時 洞窟 鏡から人影が浮かび上がった。陽の鏡は長い眠りの中から目覚め、恍惚の中で晴明たちの呼びかけを聞いた。何が起きたのかは分からないが、彼らは焦っているようだ。下を向くと、足首に傷を負い、気を失って倒れている小白の姿が目に映った。陽の鏡は小白の額に手を当てて、小白の意識の中に入った。幻視の中で、陽の鏡は見た。雪峰寺の上空に巨躯を持つ悪神が現れ、怒りと悪意に満ちた顔で自分を睨みつけている。【雲外鏡・陽】 「悪神が降臨したか……まさか雪峰寺は既に六道の中に呑み込まれたのか?」陽の鏡は小白を手当てしてから、洞窟の近くから枯れた草や乾いた木を集め、篝火を起こした。小白が目覚めるのを待っている間、陽の鏡は洞窟を調べ、異常はないか確認することにした。洞窟の奥には枯れ草、そして年季物の蝋燭があった。陽の鏡は蝋燭を一つ灯してから、洞窟の奥に入っていった。洞窟の奥には干からびた数人の遺体があった。遺体は僧侶の服を着ていて、生きていた時のように坐禅の体勢を維持していた。【雲外鏡・陽】 「これが伝説の即身仏か……僕は一度もここを訪れたことがなかったけど、高位の僧侶が涅槃に入る場所だったのか。」陽の鏡は合掌し、遺体に向かって礼をした。その中の一つの遺体が光を放ち、幻影として現れた。【???】 「久しぶり、霊童。やっとこの地に戻ってきたか。」【雲外鏡・陽】 「君は……?」声の主のすっかり老け込んだ顔には見覚えがなかったが、その声はよく知っているものだった。【老年の空印】 「修行を始めた当時も、君は霊童だった。千年過ぎた今、意識で君と再会したけれど、君は昔のままだな。」【雲外鏡・陽】 「空印師匠!空印師匠ですか?!」久しぶりに師匠と再会した陽の鏡は嬉しくなり、この千年間に起きたことを全て空印に伝えた。話を聞いた空印は彼の経験に感嘆し、彼の成長を喜んだ。【老年の空印】 「悟りを求める者は、解脱のために我を忘れる。千年の間に、君は解脱を手に入れたか?」【雲外鏡・陽】 「自分一人を解脱させることは簡単ですが、人々に解脱をもたらすことは困難です。僕は未だに世を救済する方法を模索していますが、相変わらず先が見えません。」【老年の空印】 「ははは、千年の時が過ぎても、君は相変わらず初心を貫いているのか。それはよきことだ。しかしそれが執念になると。君はそれに囚われることになる。」【雲外鏡・陽】 「……分かりました。空印師匠は、なぜ意識だけがここに残っているのですか?千年の間に、雪峰寺に一体何があったのです?どうしてこんな荒れ果てた地になってしまったのですか?」【老年の空印】 「千年前、浮世での八十年に渡る旅の後、雪峰寺に戻った。しかし雪峰寺の扉は閉まっていて、叩いても誰も答えてくれなかった。術で錠を壊し中に入ったものの、その見るに堪えない光景は今でも忘れられない。香炉は倒れ、階段は血で赤く染まっていた。切り裂かれた僧衣と、死体が重なり合っていた。それはまさに地獄のような光景だった。」【雲外鏡・陽】 「僕と霊鏡が出て行った後、雪峰寺にそんな悲劇が起きたのですか?」【老年の空印】 「わしは生臭い悪臭に耐えながら、生き残りがいないか見て回った。法堂の奥で、懐かしい顔、聖覚の顔が目に映った。血で赤く染まった彼は、住職の服を着て、鉈を携えていた。足元には無数の死体が倒れていた。」【雲外鏡・陽】 「聖覚?どうして彼がそんなことを?」記憶の中の彼は、真面目に雑務をこなし、毎日薪割や水汲みに励んでいた。【老年の空印】 「彼がそんなことをした理由は分からない。しかしあの時の彼の不気味な笑顔は、今でも鮮明に思い出せる。」【聖覚法師】 「全ては仏様の導きだ。汝らのような虫けらは、仏様の贔屓が得られない。私だけ、私だけが仏様の教えを授かり、仏様の声を聞いた。寺の主に相応しいのは私だ!」【老年の空印】 「その後、聖覚は自ら命を絶った。しかしわしには分かる。彼の悪に侵された魂は、きっとまだどこかに潜んでいる。」【雲外鏡・陽】 「聖覚はある悪しき力に惑わされたように聞こえます。そうでなければ、普段一緒に暮らしていた皆を殺すような残酷なことはできないはずです。」【老年の空印】 「わしは亡くなった人々を葬ったが、寺には既にたくさんの怨霊が集まり、陰の気が立ち込めていた。だから寺の四角に地脈の力に繋がった陣眼を設置し、ここの怨霊を鎮める鎮魂の石碑を置いた。全てが終わった後、わしはこの洞窟で涅槃に入った。鎮魂の石碑の中には、わしの魂の一部が残っていた。しかしついさっき、石碑が砕けたのを感じた。寺に隠れていた悪しき力が、ようやく正体を現したようだ。」空印がため息をつくと、体が次第に透け始めた。【雲外鏡・陽】 「空印師匠、お体が……!」【老年の空印】 「霊童、わしは生者ではない。君の心の鏡がわしを映し出し、ここに残ったわしの意識を投影しているにすぎない。もう時間だ、わしはやがて無に帰る。よく聞いてくれ。洞窟の奥に隠れた風穴がある。もし危険な目に遭ったら、そこから出るんだ。」そう言い終わった瞬間、空印は陽の鏡の目の前で消え去った。【雲外鏡・陽】 「空印師匠……」陽の鏡が洞窟を出ると、眠っていた小白がゆっくりと目を開けた。残りの鏡も光を放ち、人の姿になった。ついに、陰の鏡も目覚めた。【雲外鏡・陰】 「ここは……どこ?」【小白】 「よかった、二人ともご無事ですね!」【雲外鏡・陽】 「小白、君は一体誰に襲われたんだ?」【小白】 「セイメイ様たちは悪神に囚われてしまいました。小白は、小白は助けに行かねばなりません!」【雲外鏡・陰】 「悪神?」小白は起きたことを全て説明した。陽の鏡は焦りを見せたが、陰の鏡は全く動じなかった。【雲外鏡・陽】 「晴明たちを助け出すために計画を立てよう。僕らは目覚めたばかりで、以前よりも弱いけど、それでも三人の力を合わせれば、きっと解決方法が見つかるはず。」【雲外鏡・陰】 「どんな犠牲を払っても、助けに行くのか?」【雲外鏡・陽】 「もちろん、彼らを見捨てることはできない。」【雲外鏡・陰】 「それなら、これ以上は付き合えない。最初から僕たちは別世界の存在だ。人間である君に対して、僕は意識を持つ鏡でしかない。この千年、君が鏡の中に囚われていたのは、僕のせいだ。」【雲外鏡・陽】 「僕は君と一緒に神器になって、人々を救うと決めたんだ。それは僕自身が望んだことだよ。千年間ずっと側にいてくれた君は、僕にとって、ただの鏡なんかじゃない。」【雲外鏡・陰】 「この苦難に満ちた世界から、人々を救う方法を見つけ出すことが君の願いだ。けれどそれは、僕の願いではない。」陰の鏡は立ち上がり、冷たい表情で陽の鏡から離れた。【雲外鏡・陽】 「陰……」【雲外鏡・陰】 「邪神は僕たちが敵う相手じゃない、肉体を砕かれ、意識を滅ぼされる羽目になるのはごめんだ。だから……ごめん。僕たちはここで別れよう。きっとこれがお互いにとって最善の選択だ。」【雲外鏡・陽】 「陰、君と過ごした千年間は、夢のようだった。それが君の本当の願いなら、僕は君を引き止めたりはしない。」陰の鏡は何も言わずに出口に向かう。遠ざかる陰の後ろ姿は、霧の中に消えていった。洞窟を出た陰の鏡は、一人で雪の中を歩いていた。舞い落ちる雪のせいで、彼の顔はよく見えない。その時、枯れ木林に火の怨霊が数体現れた。硬直した体を引きずり、彼らは一斉に陰の鏡の方に向かってくる。陰の鏡は避ける様子もなく、そのまま真っすぐに怨霊たちに近づく。陰の鏡の側に来ると、火の怨霊たちは全員敬虔な信者のように拝み始めた。陰の鏡は言葉を発さず、ある方向を指し示す。火の怨霊たちは皆立ち上がり、その方向に向かった。それは間違いなく、陽の鏡と小白が隠れている洞窟がある方向だ。 その頃…… 八百比丘尼の側で彼女を守りながら、晴明は周囲を観察していた。八百比丘尼はずっと気絶したままだ。聖覚と悪神の意識はどこかに行ってしまった。周囲には悪神に操られ、彷徨い続ける火の怨霊がいるだけだ。晴明は何度も試した末に、ようやく悪神が設置した罠を解除できた。しかし気絶している八百比丘尼を連れてここを出るには、やはり少し無理がある。その時、森の中から鋭い欠片が飛んできて、彷徨う火の怨霊は一瞬で消えた。霧が晴れると、陰の鏡が晴明たちに近づいてきた。【晴明】 「陰の鏡、無事でよかった。陽の鏡と小白も一緒か?」【雲外鏡・陰】 「彼らが悪神を誘き出してくれたおかげで、僕はここに来ることができました。晴明様、助けに参りました。 |
」【晴明】 「それなら安心だ。結界を解いたら、一緒に対策を練ろう。」その瞬間、空に浮かぶ金色の渦から音が聞こえた。晴明が渦の中心を見る。気のせいか、金色の光の中に、いくつか手形が現れたようだ。【雲外鏡・陰】 「どうしました?晴明様、ここは危険です。悪神がいつ引き返してくるか分かりません。早くをここを離れましょう。」【晴明】 「……わかった。」晴明が手を動かし、呪文を唱えると、結界は消えた。しかし次の瞬間、腹部に激痛が走った。俯くと、晴明の腹にいくつか鋭い欠片が刺さり、刺さったところから血が溢れ出ているのた。その欠片は、陰の鏡が放ったものだった。【雲外鏡・陰】 「素直に言うことを聞いてくれましたね、晴明様。」【晴明】 「うっ……君が不意打ちを仕掛けてくるとは、思ってもみなかった。小白たちのことも、恐らく全て嘘だろう。」【雲外鏡・陰】 「現し世は汚れている。救済は叶わない。滅びを迎えることこそが、現し世の救済だ。人々は救済ではなく、進化を必要としている。」【晴明】 「進化とは、どういうことだ?」【雲外鏡・陰】 「進化とは、肉体を捨て、意識が浄土に向かうこと。人はもとより汚れており、節制も知らずに世のすべてを蝕んでいる。人は全ての混乱の源とも言えるでしょう。人がいなくなれば、この世界は再び平和を取り戻す。」【晴明】 「その進化は、人の命を奪うこととどう違うんだ?」【雲外鏡・陰】 「全く別物です。進化は幸せをもたらす。怨霊たちが金色の渦の中に入る時、皆幸せそうな顔をしているのを見たでしょう?すぐにでも進化させてあげましょう。この素晴らしい体験を、存分に味わってください。」陰の鏡は残酷な笑みを浮かべ、無数の欠片を晴明に向かって放った。 |
鏡の虚実
鏡の虚実ストーリー |
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目覚めた陰の鏡は、法堂の中で眠っていたことに気づいた。立ち上がって扉を開けると、お参りする多くの信者の姿が目に映った。僧侶が経文を唱える声が耳に入ってくる。ここは己の故郷……雪峰寺だ。【雲外鏡・陰】 「僕は、帰ってきたのか?」白い椿が咲き、花が地面を埋め尽くす。寺の線香の匂いを嗅ぐと、陰の鏡はほっとした。一人で寺を見て回り、彼は驚嘆した。千年の時が過ぎても、雪峰寺は相変わらず昔のままだった。【雲外鏡・陰】 「僕がここに帰ってきたということは、陽もきっと帰ってきたはず。僕らはすぐにまた会える。」陰の鏡は寺の中を走り、陽の鏡を探す。ついに、彼は禅室の中で懐かしい姿を見つけた。【雲外鏡・陰】 「陽!無事でよかった。僕のところに帰ってきてくれたんだ。」陽の鏡が振り返り、笑顔で陰の鏡を見つめる。暖かい日差しを浴びる彼は、神々しい神様のようだ。【雲外鏡・陰】 「色んなことがあったけど、僕たちはようやく始まりの地……雪峰寺、僕たちの故郷に帰ってきた。」気持ちが昂ぶった陰の鏡は、ゆっくりと陽の鏡の方に向かう。【???】 「一体誰と話しているんだ、霊鏡よ。」背後からとても懐かしい声が聞こえた。振り返ると、扉の前にいたのは空印だった。しばらくして、驚いた陰の鏡は冷静さを取り戻した。【雲外鏡・陰】 「君は長い間ずっと僕の前に現れなかったのに、どうして今になってまた……」【少年の空印】 「君は迷っているようだ。」【雲外鏡・陰】 「迷っている?僕はすでに雪峰寺に戻った。陽も僕のところに戻ってきてくれた。一体何を迷うことが……」陰の鏡は陽の鏡がいた場所を振り返る。しかし目の前には誰もいない。陽の鏡はここにはいない。【少年の空印】 「自分は何者で、なぜここに来たのか、まだ覚えているか?」【雲外鏡・陰】 「なぜいつもそんなことを聞くんだ。答えが見つからなかったとしても、それがどうした。僕は陽と一緒に故郷に帰れたことに満足してる。」【少年の空印】 「本当は薄々気づいているのだろう。ここは現実の世界ではないと。」【雲外鏡・陰】 「外の世界で傷だらけになるくらいなら、ここに残るのも悪くない。」【少年の空印】 「例え友人たちを、絶望的な危機に晒し続けることになってもか?」【雲外鏡・陰】 「!!それはどういう意味だ?陽たちは今どうなっている?」陰の鏡が疑問を口にした瞬間、禅室は色褪せ、周りの景色が変わり始めた。やがて目の前に洞窟が現れた。洞窟の中に、陽の鏡と小白の姿が浮かび上がる。【雲外鏡・陰】 「陽、無事だったか!」しかし陽の鏡は彼の呼びかけを無視し、足首に傷を負った小白を抱えて洞窟の奥に逃げていく。陰の鏡は驚いた。背後で突然熱風が吹き、振り返ると、体に炎を纏った怨霊が洞窟に向かっていた。陰の鏡は両手を広げて怨霊を止めようと試みたが、怨霊は彼に触れることなくそのまま通り抜けていった。何が起きたのか分からなかったが、陰の鏡は洞窟に入って陽の鏡を追いかけた。しかしいくら叫んでも、彼の声は陽の鏡に届かない。手を伸ばしても、陽の鏡の体に触れることなくそのまますり抜けてしまう。幸い陽の鏡は、小白と共に風穴から洞窟を脱出した。追ってきた火の怨霊は目標を見失ったかのように、その場で彷徨い続けている。陰の鏡は風穴から洞窟を出たが、陽の鏡の姿は見当たらない。寺に戻っても、寺はとっくに荒れ果てていた。信者や僧侶もいない。火の怨霊だけが彷徨っているが、陰の鏡の姿は怨霊たちにも見えないようだ。【雲外鏡・陰】 「やはりこの世界では、僕だけが幻なのか?」【少年の空印】 「なぜ真実である自己を疑う?心の外にあるものは全て泡沫のようなもの、君は周囲のものを疑うべきだ。」【雲外鏡・陰】 「一体何が言いたい?」【少年の空印】 「空に浮かぶ黄金の太陽が見えるか?」空印が指差す方を見て、陰の鏡は驚いた。空に巨大な金色の渦がある。しかし今まで自分はそれに全く気づかなかった。【少年の空印】 「渦が見えるということは、君はもうすぐ本当に目覚めるということだ。」空に浮かぶ金色の渦が次第に暗くなり、周囲の景色が再び変化した。全ては雪峰寺と共に霧のように消え去った。陰の鏡は自分と空印が天上にいると気づいた。金色の渦はすぐ目の前にある。陰の鏡は渦に近づき、渦の彼方を覗いてみる。彼は思わず目を見張った。渦の向こう側には、本物の雪峰寺が映し出されていた。さっき見た景色は渦の鏡面が映し出した幻に過ぎなかった。陰の鏡が渦の鏡面に触れると、無数の意識が頭の中に流れ込み、無数の灰色の人影が浮かび上がってきた。足掻く彼らは怒鳴り、悲しく叫んでいる。目眩を覚え、陰の鏡は思わず手を引っ込める。目眩は少しずつ収まっていった。【少年の空印】 「それは無数の怨霊の意識だ。彼らは金色の渦の中に囚われている。しかし本当の黒幕は、まだ姿を現していない。」再び渦の向こう側を覗いた陰の鏡は、晴明の姿を見つけた。晴明は気絶した八百比丘尼を支えながら、目の前の誰かと話している。しかし晴明の目の前には、どういうことか、自分と瓜二つの誰かがいる。【雲外鏡・陰】 「なぜこんな面妖なことが?まさか……!」しかし彼の呼びかけは、彼方にいる晴明には届かない。陰の鏡は渦の鏡面を叩き、何度も何度も叫んだ。しかし鏡面に触れるたびに、無数の怒号と悲鳴が聞こえる。人々の怒り、罪深い執念が陰の鏡の頭の中になだれ込む。まるで彼を引き裂こうとしているかのようだ。しかし鏡面は全然割れる様子がない。ただいくつか手形がついただけだった。彼は偽物の陰の鏡が晴明に深手を負わせるのを、ただ見ているしかなかった。その時、陽の鏡がようやく駆けつけ、偽物の陰の鏡の暴挙を止めた。【雲外鏡・陽】 「陰、晴明様に何をする気だ?!」【雲外鏡・陰】 「ふん、火の怨霊は本当に役に立たないな。お前を捕まえておくことすらできないのか。大人しくしていれば早めに我が本体に会えるぞ、どうだ?」彼がそう言い終えた瞬間、晴明はこっそり用意していた霊符を放った。霊符が偽物の陰の鏡の胸に当たると、偽物の陰の鏡は跡形もなく消え去った。そして一枚の黒い鏡が地面に落ちた。【雲外鏡・陽】 「やっぱり本物の陰じゃなかった。本物の陰がこんな残酷なことをするはずがない。」黒い欠片を拾い上げた晴明は呪文を唱え、結印して欠片の汚れを浄化した。【晴明】 「この黒い欠片は、陰の鏡の意識の一部だ。魔羅王はこれを蝕んでから、陰の鏡の幻を映し出したんだろう。」恐らく本物の陰の鏡は、既に悪神の手に落ちてしまっている。【雲外鏡・陽】 「どうしてこんなことに。晴明様、やはり先に八百比丘尼を連れてここを抜け出し、どこか見つかりにくい場所に隠れてからまた対策を考えましょう。」彼らが撤退しようとしていると、周囲の森の中の無数の赤い目が彼らを睨みつけながら、ゆっくりと近寄ってきた。【晴明】 「また厄介な連中が現れたようだ。我々はもう囲まれているな。」目の前の火の怨霊は祓っても祓っても尽きることなく、真っ赤な爪を振り回して晴明たちに襲いかかった。金色の渦の向こう側でそれを見ている陰の鏡は、怨霊を止められない。何度鏡面を叩いても、渦の鏡面が割れるどころか、彼の手の甲にヒビが入ってしまった。【少年の空印】 「霊鏡よ、これ以上自分を責めるな。君に渦の鏡面は壊せない。」【雲外鏡・陰】 「彼らが傷つくのを、このまま見ていればいいと言いたいのか?」【少年の空印】 「違う。ただ、この金色の渦は君の体から作られたものだということを、君は知るべきだ。例え今の君にはそれを操ることができなくても、君の意志で影響を与えることができる。」空印の言葉を聞いて、陰の鏡は思案し始めた。次の瞬間、彼は再び鏡面に手を伸ばした。すると灰色の人々が再び現れた。それは苦しみもがく人々の意識だ。彼らは相変わらず陰の鏡を怒鳴りつけ、手を振り回している。【雲外鏡・陰】 「いい加減にしろ、止まれ!」陰の鏡は精神を統一させ、強い意志を込めた声を発した。灰色の人影は、次第に手の動きを止めた。【雲外鏡・陰】 「僕の体の中にいるということは、君たちの主は僕だ!」その瞬間、雪峰寺の全ての怨霊は一斉に動きを止め、その場で悶え始めた。晴明と陽の鏡は急なことに驚き、戸惑った。しかし、それは包囲網を突破するいい機会でもあった。晴明たちは気絶している八百比丘尼を支えて、速やかにその場を離れた。【???】 「ははは、やってくれるじゃないか、陰の鏡よ。目が覚めたら、こんな面白いことになっているとは。」陰の鏡が我に返ると、背後から強い威圧感を感じた。何者かが、巨大な影を落として彼を包み込んだ。自分が凶悪な目に睨みつけられているのを感じた彼は、振り返るのを躊躇った。直感が告げている。背後に現れたのは、真に邪悪な者だ。【魔羅王】 「道具のくせに、我の意志に背いたな。今回は初めてだから許してやろう。どちらにせよ、じきに我がお前の新しい主になるのだ。」【雲外鏡・陰】 「冗談はよせ。僕は主を持たないし、誰かの道具でもない!」魔羅王が手を上げると同時に現れた巨大な火の玉が矢となって、陰の鏡を狙いを定める。【魔羅王】 「どうやらしつけが必要なようだ。灰燼に帰すとまではいかないが、痛い目に遭わせるには十分だろう。」炎を纏った矢が陰の鏡に向けて放たれた。幻影が現れ、彼を突き飛ばすと、代わりにその矢を受け止めた。それは空印だった。空印の体が歪んで消えていく。それを見て呆然としている陰の鏡の気持ちは、言葉で表しようがなかった。【雲外鏡・陰】 「なぜ代わりに矢を受け止めたんだ。どうせ君も、僕が考え出した幻なんだろう。そうだろう!」【少年の空印】 「……」【雲外鏡・陰】 「なぜ答えない……君に聞いているんだ!」【少年の空印】 「……そう思いたいなら、それで構わない。」空印の体は砕け、消えていく。陰の鏡を見つめながら、彼は笑顔で最後の言葉を残した。【少年の空印】 「霊鏡よ、君は誰でもない。誰にもならない。自分の心に従い、自分の主になればいい。」【魔羅王】 「ふん、まさに愚の骨頂、身の程知らずにもほどがある。」陰の鏡は黙って空印が消え去るのを見届けた。その目から、涙がこぼれ落ちた。【魔羅王】 「道具も悲しんだりするのか、笑えるな。お前には新しい名前が必要かもしれぬな。」悪神が陰の鏡に巨大な手を伸ばす。混沌とした力に包み込まれ、陰の鏡は動けなくなった。【魔羅王】 「お前には進化の鏡という名が相応しいだろう。これから、我がお前の新しい主となる。お前を六道から現世に送り出す時、一体どんな光景が待っているだろう。全ての人間の意識が肉体を抜け、立ち昇って鏡の中に入る。天照の愛する世界は荒野になり、地上は我が生み出す火の怨霊で溢れかえる。それはきっと、実に素晴らしい光景だろう。」その頃…… 火の怨霊の追撃から逃れた晴明たちは、一番奥の僧房の中に逃げ込んだ。陽の鏡は霊力を使って、周囲に鏡の迷宮を作り出した。全ての鏡がお互いを映し合い、広がり続ける無限の空間を作っている。中に迷い込めば、鏡の中で道を見失い、永遠に出られなくなる。八百比丘尼を寝かせると、晴明は出血を止めるため、小白の傷ついた足首を手当てした。【晴明】 「すまない、辛い思いをさせた。」【小白】 「小白はセイメイ様の式神ですから、このぐらいの傷はへっちゃらです。小白はセイメイ様のほうが心配です。傷の具合はどうですか?」【晴明】 「安心しろ。かすり傷だ、大したことはない。そうだ。陽の鏡、八百比丘尼は今どうなっている?君の浄化の力で彼女を呼び起こすことはできるか?」【雲外鏡・陽】 「僕は何度も彼女の意識の中に入ろうと試みました。しかしそこには真っ黒で、混沌とた空間しかありません。まるで何かが彼女の意識を封鎖したかのようです。邪悪な力が巣食っているということだけは分かりました。悪神の力かもしれません。」【晴明】 「まずいな。悪神を退治して封印せねば、八百比丘尼を呼び起こすことはできないのだろうか……」【雲外鏡・陽】 「すみません、全部僕が遅れたせいです。まさかこんなことになるなんて。」頭を下げた陽の鏡は、物憂げな顔で手の中の黒い鏡の欠片を見つめている。【晴明】 「君のせいではない。私が油断したせいで、悪神に不意を突かれただけだ。本当の陰の鏡がどこにいるのかは、だいたい予想がつく。」晴明は石碑が壊れる時に空に舞い上がった鏡のことを思い出した。偽物の陰の鏡と対峙した時、金色の渦に微かに手形のような痕跡が現れた。全ての手がかりは、繋がっている。【晴明】 「思い出した。石碑が砕けた時、悪神は真っ先に雲外鏡の力を借りて雪峰寺を映し出し、六道の扉を示した。雪峰寺を浄土道に送り込んだ後、彼は君と陰の鏡を切り離した。聖覚が私の攻撃を受けた時に落とした鏡は、君と汚染された陰の鏡の意識の欠片だった。恐らく本当の陰の鏡はあの時切り離され、空に浮かぶ金色の渦となったのだろう。あの渦は悪神の力で開いた浄土だと思いこんでたが、まさか……」【小白】 「悪神は本当に卑怯ですね。ひょっとしたら悪神の本体も、金色の渦の中に隠れているかもしれません!」【雲外鏡・陽】 「一理あると思います。やはり金堂の上空にある金色の渦を調べてみましょう。陰の鏡を助け出す方法が見つかるかもしれません。」【晴明】 「そうするしかないな。小白、君は怪我しているから、ここに残りなさい。八百比丘尼のことも頼む。」【小白】 「はい、小白にお任せください。セイメイ様もお気をつけて!」【晴明】 「ああ。私と陽の鏡で外を彷徨っている火の怨霊を引きつけるから、鏡の迷宮に守られている君たちは比較的安全なはずだ。」【小白】 「わかりました、セイメイ様。小白はここで待っています。」【雲外鏡・陽】 「うん、行ってくるよ、小白。」晴明と陽の鏡は計画を立て、僧房を出ると、扉の方で彷徨っていた火の怨霊を誘き出した。彼らをある場所に誘導した後に、一網打尽にするつもりだった。計画は最初うまくいったが、途中から火の怨霊は追いかけてこなくなった。【雲外鏡・陽】 「なんだ、どうして急に追いかけてこなくなったんだ?」暗雲が立ち込める雪峰寺の上空から、何かの威圧を感じた。見上げると、晴明と陽の鏡は暗雲の中に現れた赤い目を見つけた。赤い目の主は凶悪な目つきで彼らを睨みつけている…… 午後四時 僧房 小白は大人しく、気絶している八百比丘尼の側に伏している。八百比丘尼は汗をかき、辛そうな顔をしている。【小白】 「本当に辛そうです。セイメイ様が早く悪神を退治してくださればいいのですが。もう陰の鏡を取り戻せたでしょうか?小白は心配です。」パチパチと音がして、足音と、ガヤガヤとした音が近づいてきた。小白は警戒し、総毛立つ。扉の外から人の話し声が聞こえてくる。【???】 「ふん、やはり低能なやつらは何の役にも立てない。いつも阿呆のようにうろうろしているだけだ。鏡の迷宮など、全て壊せばいいだけの話。」小白は音を出さないように息を殺す。この厄介な連中は、今まさに小白たちを探している。【???】 「こんな小賢しい真似が、私に通じると思うか?」ドンという音と共に、鏡は壊れた。ある人影が砕けた鏡の欠片を踏みつけ、ゆっくりと中に入ってくる。彼の背後には火の怨霊が大勢いる。この人こそが、以前晴明たちを騙した聖覚法師だ。【聖覚法師】 「ああ、やっと見つけた。余計な手間を取らせてくれた。何せ怨霊たちは脳味噌が足りないからな。いや違うな、正確には脳味噌がない、か。彼らの頭はここにはないのだから。」小白はなんとか立ち上がると、牙を剥き、唸り声で目の前の人物を威嚇する。【聖覚法師】 「はは、犬一匹しか残らなかったか?しかしお主には何の価値もない、野良犬にも興味はない。ただしお主の後ろにいる不老不死の女は、少しは役に立ってくれるだろう。女を魔羅王様に捧げれば、魔羅王様はきっと神力を取り戻し、六道の扉を開くことができるはずだ。」【白蔵主】 「小白がいる限り、指一本触れさせません!」【聖覚法師】 「まだ吠える余力が残っているか。後でお主の牙を抜いて、皮を一枚ずつ剥がしてやる。お主の悲鳴と号泣は、私にとっては何よりも美しい音楽だ。」小白は白蔵主の姿になり、聖覚に向かって霊力の刃を投げつけた。聖覚は横に避けたあと、小白に一撃を加えた。たった一撃で、小白は吹き飛ばされて壁にぶつかった。埃が舞い落ち、余震が続く。【聖覚法師】 「忘れたか、私には仏様の神力が宿っている。お主のような獣が相手では、全力を使う必要すらない。」小白は口元の血を拭い、なんとか立ち上がったものの、足首の傷が痛み始めたせいで、再び倒れてしまった。【聖覚法師】 「私の時間を無駄にするな、逃げる方法を考えるほうがよっぽど賢明だと思うぞ。そうすれば、一命は取り留められるかもしれない。」【白蔵主】 「小白は逃げも隠れもしません。小白はここに残ります。セイメイ様と約束した通り、小白は最後まで戦い続けます。」【聖覚法師】 「ふん、本当に忠誠心の強い犬だな。この後お主をどうこらしめるか、少し考えてみよう。」聖覚は力を手の中に集め、火の玉を生み出した。そして傷ついた小白に向かって火の玉を飛ばす。小白はいくつかの火の玉を避けたあと、すぐさまに聖覚に飛びかかった。小白は聖覚の腕を噛みちぎろうとしたが、残りの火の玉を全て体に受けてしまった。聖覚が小白の腹を力いっぱい蹴りつける。血を吐き、辛そうに呻いた小白は、体力を消耗しすぎて倒れてしまった。激痛に襲われた小白は体を縮こまらせている。しかしその目はまだ聖覚を睨んでいた。【聖覚法師】 「そう、その呻きだ。昂ぶるじゃないか。初めて人の命を奪った時は、さすがに少しうろたえたが、すぐにその感覚が好きになった。それから収拾がつかなくなってね。以前、私は勘違いしていた。仏様の声を聞き、導きを得たから、こんなことになったのだと。でも後から、少しずつ悟った。全てはただの言い訳にすぎない。私自身が滅びと破滅の象徴なのだ。だからこそ、命を屠る快感に溺れている。全ては私自身の選択だ。ようこそ極楽煉獄へ。本当の悪というものを教えてやろう。」 |
再生の呼びかけ
再生の呼びかけストーリー |
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目覚めた八百比丘尼が、泥の中から体を起こす。水面には女の子の顔が映っている。戸惑う彼女が周囲を見渡すと、そこには多くの墓碑があった。【少女の八百比丘尼】 「私はどうしてここに……そうだ、家に帰らなきゃ。」黄昏の時、日が暮れる中、女の子は田舎道を歩いていく。道には彼女の長い影が落ちている。二人の女性が側を通りかかった時、話の内容が少し聞こえてきた。【女性甲】 「噂を聞いたかい?あの雨の夜、地震が土石流を引き起こしたらしいよ。村ごと埋められたから、生き残りは一人もいないって。」【女性乙】 「恐ろしいねえ、まさか八尾村のことかい?それから数日経ってから、その辺りでうろうろしていた泥妖を見かけた人がいるらしいよ。」【女性甲】 「泥妖って?」【女性乙】 「目以外、全身が泥まみれの怪物らしい。噂では、亡くなった人の怨霊だってさ。」女の子は女性たちを無視し、足早に歩いた。長時間歩いた後、彼女はようやく村の入口の立て看板を見つけた。彼女に気づいた数人の子供が、彼女に向かって手を振っている。女の子は嬉しそうに皆がいるところに向かう。皆は戯れながら、網で木の上にいるカブトムシを捕ろうと言い出した。【友達】 「ねえ、八ちゃん、暗い鬼影の噂を知ってる?」【少女の八百比丘尼】 「暗い鬼影?」【友達】 「うん、暗いところに潜んでるんだって。もしそれに捕まったら、この世から消えて、存在しなかったことになるって。」【少女の八百比丘尼】 「……冗談はやめて。そんな怪物、い、いるわけないよ。」【友達】 「ははは、慌てちゃって、そういうのは苦手だった?」【少女の八百比丘尼】 「そ、そんなことないよ!」【?】 「なぜお前だけ生き残ったんだ、なぜ……」女の子の背後から、低い唸りが聞こえた。しかし振り返っても、そこには誰もいなかった。赤い夕日と、蝉の鳴き声があるだけだった。しかし再び振り返ると、目の前の仲間たちはいなくなっていた。女の子は大声で仲間たちを呼ぶが、誰も答えてくれない。村中を見て回っても、一人も見つけられなかった。日が沈み、空はすっかり暗くなり、雨が降り始めた。【少女の八百比丘尼】 「みんな、どこに行ったの?」女の子は周囲を見渡す。彼女の後ろの影の中に、突然巨大な黒い幻影が現れ、干からびた膿の溜まった手を彼女に近づける。【?】 「自分は不死身であると、いつ気づいた?」振り返った女の子は、ようやく怪物の恐ろしい顔を目にした。泥に覆われた顔と、冷たい眼差し。悲鳴をあげた女の子はすぐに逃げ出し、助けを求めた。しかし走っていると、村は泥水のように崩壊し始め、一つまた一つと墓碑が出現した。本当は、自分はずっとここにいたんだ。墓碑に名前が浮かび上がってきた。どれもよく知っている名前だった。【?】 「なぜ逃げる?皆と一緒にいるのが嫌なのか?終わりのない呪いから解放されることがお前の望みではないのか?」石塊につまずき、女の子は地面に倒れた。彼女は思い出した。あの雨の夜、彼女は一人で土石流の中から這い出たのだった。そう、自分と関係を持った人は、皆酷い目に遭う。まるで呪われているかのように、親しい人々が次々に亡くなるのをずっと見てきた。【?】 「お前を喰わせろ。俺と一つに、皆と一つになれ。」【少女の八百比丘尼】 「そうね。皆もういない。父も、母も、友達も……」女の子は恍惚とした顔で目の前にいる恐ろしい怪物を見て、足掻くことを諦めた。その時、影の中から誰が素早く飛び出した。少年が少女の手を掴む。少年に手を掴まれた瞬間、少女は力を注ぎ込まれたかのように、体が勝手に走り出した。【謎の少年】 「君はここにいるべきじゃない。もしここで自分を見失ったら、永遠に自我をなくしてしまう。」少年は女の子を引っ張り、走った。暗い霧を走り抜けた二人は、恐ろしい怪物をまくことができた。【謎の少年】 「八ちゃん、赤い縄を掴んで、早く登って……」少女の前に一本の赤い縄が現れた。赤い縄の上には狭い出口があり、微かな光が漏れている。赤い縄を掴んだ少女は、振り返って少年の靄がかかった顔を見ようとした。【少女の八百比丘尼】 「あなたは誰?一緒に来ないの?」【謎の少年】 「僕と君は違うんだ。僕は過去に生きる者。君は、未来に生きる者。」その時、あの恐ろしい怪物が少年の後ろに現れ、その口を開けた。【少女の八百比丘尼】 「危ない!後ろ!」振り返り、恐ろしい怪物を目にした少年は、慌てることなく怪物の額を指で突いた。【謎の少年】 「留まれ、永遠の暗闇の中に。」少年がそう吐き捨てると、怪物の体は透けていき、やがて霧のように消えた。少年は女の子の方に向き直った。青白い顔に憔悴した目、それはかつての幼馴染……鶴丸だった。少年の顔を見ていると、女の子は彼と過ごした日々を思い出した。しかし記憶の中の鶴丸と同じ優しい彼を目の前にして、頭を上げる勇気がどうしても出なかった。【少女の八百比丘尼】 「どうして私を助けるの?私は罪深い女なのに。数百年間流離って、私は自分を見失った。この命を絶つためなら、なんだってできる。例え邪悪な邪神と取引してでも。過去から逃げ出し、人の心を捨ててでも。」【鶴丸】 「僕が知っている八ちゃんは優しい子だ。長すぎる命の中で、道に迷うことがあるのは当然だ。生きることも、一つの修行だから。君が振り返るかどうかに関係なく、僕はずっと、君の過去と共にここにいる。だから怖がらないで、そしてもう迷わないで。君は前に行くべきだ。あそこには、君を待っている友人たちがいる。もし申し訳ない気持ちがあるなら、もっと素直に彼らに向き合うべきだよ。」少年の言葉を聞いた女の子は目をうるませ、感謝の言葉を口にする。【少女の八百比丘尼】 「ありがとう……鶴丸。」青白い顔の少年は、微笑んで女の子と別れた。女の子を載せた赤い縄は、光が射す出口に向かう。」【八百比丘尼】 「はぁ……はぁ……」夢から目覚めた八百比丘尼が目を開けると、不動の構えを取る白蔵主の後ろ姿が目に入った。それは大きくはないが、決意溢れる姿だった。真っ白な毛皮は血で赤く染まっている。傷だらけの白蔵主の息は荒かった。【白蔵主】 「小白の目の黒いうちは……近寄ることは許しません……ゲホゲホ。」【八百比丘尼】 「小白、誰があなたをそんな姿にしたのですか?」【白蔵主】 「ケホッ……」小白はついに力尽きて倒れた。袈裟を着た大柄の男がゆっくりと迫ってくる。【八百比丘尼】 「……答えを聞く必要はなさそうですね。」八百比丘尼は険しい顔で顔で聖覚を睨む。彼女の手の中に現れた鳳凰の火から、無数の火の粉が襲いかかる。僧房は爆発し、半分になった。聖覚も、突然生じた衝撃波によって傷を負った。【聖覚法師】 「狂った女だ、こんな狭い空間で、爆発に巻き込まれるのが怖くないか?!」【八百比丘尼】 「どうしました?理解できませんか?不老不死なので、私に怖いものなんてないんですよ。」聖覚の手から放たれた衝撃波が八百比丘尼に向かって飛んでいったが、彼女は素早い動きでそれを避けた。彼女は寸分の狂いもなく、修羅のようにずっと聖覚を睨みつけている。【聖覚法師】 「しつこいな。お主に割く時間はない、仏様が私を呼んでいる。」聖覚が手を振ると、大勢の火の怨霊がやってきて二人を囲んだ。混乱に乗じて、聖覚は影の中に姿をくらませた。なだれ込んできた火の怨霊は、目覚めた八百比丘尼の敵ではなかった。彼女の術によって、火の怨霊は灰燼となり、この世から消え去った。【八百比丘尼】 「残念です、結局逃してしまいました。」八百比丘尼はしゃがんで、小白の傷を確認する。小白は肋骨が数本折れるほどの重傷を負っていた。八百比丘尼が小白の肋骨を継ぎ合わせ、自身の生命力を注ぎ込む。すると小白の傷は次第に塞がっていった。【小白】 「小白は、小白は歩けるようになりました!」【八百比丘尼】 「そうはいっても、傷が落ち着くまでは、激しい運動を控えるべきでしょう。」【小白】 「ありがとうございます、八百比丘尼様。気をつけます!」その時、空から轟音が聞こえてきた。僧房は丸ごと溶けて消えた。八百比丘尼と小白が周囲を見渡すと、雪峰寺は既に跡形もなく消えて、彼らは暗雲の上に立っていた。雲の上を漂う紫の煙が、彼らがいる場所にまで拡散してきた。小白は心に火がついたかのように、焦燥感に駆られて我慢できずに牙を剥いた。【八百比丘尼】 「小白、あの紫の煙はなにか変です。近づかないように!」紫の煙は八百比丘尼の体をも侵食した。彼女は心の奥に棲む何かが咆哮し、暴れ出そうとしているのを感じた。恍惚としていると、鏡が反射した光が彼らを照らした。紫の煙が全て鏡の中に吸い込まれ、ようやく心の平和を取り戻した。【晴明】 「八百比丘尼、無事に目覚めたか。小白もご苦労だった。」晴明が小白に向かって手を広げると、小白は嬉しそうに晴明の懐に飛び込んだ。【雲外鏡・陽】 「小白、八百比丘尼、紫の煙は心を惑わすことができる。僕の鏡は君たちに染み付いた煙を浄化できるけど、あの煙には近づかないほうがいい。」【八百比丘尼】 「わかりました。なにはともあれ、合流できてよかったです。」陽の鏡は手の中の黒い欠片を見て、寂しそうな顔をした。【雲外鏡・陽】 「また陰を取り返せなかった……」【魔羅王】 「彼を探しているのか?」突風が吹き、雲が逆巻き、とてつもなく巨大なものが、金色の渦を掴んで一同の目の前に現れた。【晴明】 「ようやく現れたか、悪神の本体!」雲の中、突然現れた五つの石山が、小白の方に倒れてきた。【小白】 「なんですか、これ!」【晴明】 「小白、これは山ではない。やつの手だ。」石山が崩れる中、小白を抱えた晴明は素早く悪神の手の中から逃げ出した。【魔羅王】 「ふん、身の程知らずめ。浄土道は我に侵食された。生き残ったのはお前たちだけだ。」一筋の眩しい光が空を走り、雷鳴の中で闇を切り裂いた。雷が集い、空から咆哮が聞こえる。しかし雷鳴はすぐに消え、空は再び静けさに包まれた。【晴明】 「まずい、私の力はまだ回復してない。天羽々斬を召喚できるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。」【魔羅王】 「はは、須佐之男の力を召喚するつもりか?我は一度彼に敗れたとはいえ、神はいずれ消え去る定め。彼の足掻きは世界の滅亡を少し先延ばしにしただけだ。人々の呼びかけのおかげで我が新生を得たように、人々の心に宿る憤怒の力が我をここに召喚した。そして我は人々に応え、世界の全てを燃やし尽くして彼らに新たな生を授ける。」【雲外鏡・陽】 「晴明様、僕は感じました。陰は今、金色の渦の中にいます。」【晴明】 「やはりやつは陰の鏡を人質に取っているのか。」【魔羅王】 「どうしたんだ、我の手の中にあるこれが気になるか?これは我の新たな法器、進化の鏡と名付けた。これは人々の命が帰る場所となる。未だに思い通りに操ることはできないが、いずれは我と一つになり、我のために全てを尽くすだろう。」魔羅王の手の中の金色の渦が光を放ち、鏡面に人影が浮かび上がった。それはまさに、囚われた陰の鏡だった。【雲外鏡・陰】 「無駄な期待はやめておけ。例え魂が滅んでも、僕は決して降参しない。」【魔羅王】 「ならば、意識のあるうちに感じておくがいい。自分の手で大切な仲間を傷つけるとはどういうことか!」晴明は陰陽術を発動して龍神を呼び出し、魔羅王の腹を襲うよう命じた。しかし金色の渦を操る魔羅王は、鏡面を使って龍神の力を晴明に向けて反射させた。それに気づいた陽の鏡はすかさず鏡面の盾を展開させ、空から降り注ぐ雷光を受け止めた。霧が立ち昇る中、鏡の盾はたちまち砕け、陽の鏡は血を吐いた。【魔羅王】 「小賢しい術を使ったな。天羽々斬の力を借りることも叶わないのに、陰陽師ごときが我に傷をつけられるとでも?」晴明は傷ついた陽の鏡を支え、霊力を集中させてその場で結界を張った。【魔羅王】 「晴明、お前の結界ごときが、我が再びこの世に降臨するのを止められるとは思ってないだろうな?いつまで悪足掻きするつもりだ?」暗雲の中、炎を纏った巨手が空から降ってきて、晴明の結界を叩く。晴明は星符を描きながら霊力で結界を支える。一方、八百比丘尼も全ての力を解放し、巨手の攻撃を凌ぐ晴明に協力している。二人の額に汗がにじみ出る。晴明の両手は力みすぎたせいで震えている。【雲外鏡・陽】 「このままだと長くは持たない。悪神は君たちが霊力を使うように仕向けている。霊力を使い切ったら、天羽々斬を召喚することはもうできない。」【晴明】 「だが、視点を変えれば、我々もまた悪神に力を消耗させている。悪神が六道の封印を破られない限り、世界の平和は揺るがない。」【魔羅王】 「ははは、晴明よ、例えお前に浮世を助けることができたとしても、人々の心を救うことができるか?そして霊童よ。お前は人々の救済は叶わないと知りながらも、人々を救うことに拘っている。実に傲慢で頑固だ。その執着から解放された今、なぜまだ人々を助けることを諦めない。」【晴明】 「全てはお前の独断と偏見だ!」次の瞬間、晴明は龍神の力を召喚して巨手を攻撃した。金色の光と炎が絡み合い、爆音が轟く。【魔羅王】 「やってくれるじゃないか、晴明。まさかこの攻撃を防ぐとは。しかし今のは我の半分の力だ。次の一撃で跡形もなく消してやる。」【雲外鏡・陰】 「そこまでだ、魔羅王。君の条件を飲もう。僕は君と一つになる、その代わり、僕の仲間を見逃してくれ。」【魔羅王】 「仲間?道具であるお前には仲間などいない。仏である我だけが、お前を導ける。」魔羅王は掌の渦の中にいる陰の鏡を握りしめた。手足に紫の煙が絡みつき、陰の鏡は辛そうに呻く。【雲外鏡・陽】 「やめろ!彼を傷つけるな。一体どうすれば、僕らとの取引に応じる?」【魔羅王】 「いいことを聞いたな。陽の鏡、我と一つになり、我の法器になるのなら、虫けら共を見逃してやってもいい。嫌なら、我が虫けらどもをいたぶるのを見ているがいい。」【八百比丘尼】 「彼の言うことに耳を貸してはいけません。目的さえ達成すれば、悪神は取引のことなど忘れ、何をするかわかりません。」【魔羅王】 「我の意識は雪峰寺で千年の時を過ごした。人の本性などとっくに見抜いている。涅槃も、成仏も、所詮仏法を商売とみなした人々がでっち上げた嘘にすぎない。どうすれば成仏できるのか、成仏したらどこに向かうのか。人々はおのが主張を譲らず、いつも言い争っている。だからいわゆる戒めをもって人々の欲望を抑えつけている。結局は人に成仏という名の枷を課しただけだ。人に現世の苦難と心に潜む怒りを忘れさせ、儚い来世と意味のない解脱を追い求めさせる。笑止、実に不愉快!」【小白】 「あなただって偽りの天国を作って皆を惑わしているじゃありませんか!」【魔羅王】 「逆だ!進化の鏡の中には極楽浄土がない。そこにあるのは押し寄せる苦海と立ち昇る炎だけだ。そこに足を踏み入れた人間は悟りに至り、真相を見抜くはずだ。もとより、現世は苦難と残酷さに満ちている。弱肉強食の世界で生き残りたいなら、心の憤怒と憎悪は欠けてはならない。さもなくば、他の種族の餌食に成り下がる。これこそが、我が人々に指し示した進化の道。」言い終わると、魔羅王は進化の鏡を高く掲げた。神鏡の光のもと、一同は魂が肉体から抜けていくのを感じた。もし晴明が結界を張っていなければ、皆の魂は進化の鏡に吸い込まれていただろう。【雲外鏡・陽】 「魔羅王!やめてくれ。君の条件を飲む。君と一つになろう。でも最後に、もう一度陰に会わせてくれ。」【小白】 「陽の鏡様!あいつは正真正銘の悪神ですよ、惑わされないでください!」【魔羅王】 「悪神?全ての根源は天照だろう?もし彼女が罪を切り離したのなら、彼女こそが諸悪の根源だ!彼女は衆生を縛り付け、偽りの愛で人々の本性を抑えつける。それは何のためだ?彼女の支配を受け入れさせ、衆生を管理しやすくするためだ。陽の鏡よ、見ておけ。我こそが衆生のために牢獄をぶち壊す者だ!」魔羅王が前に向かって手を伸ばし、紫の煙が金色の渦の中心に通じる階段を形作った。【晴明】 「陽の鏡、悪神が言ったことは詭弁だ。憤怒や憎悪は、目的を果たすために使うべきものではない。解脱は存在しないという一言で、やつは修行者が追い求める解脱の境地を否定した。衆生を支配したがっているのは天照ではない。あいつだ。」陽の鏡は少し躊躇ったが、最後にはやはり金色の渦に向かって歩き出した。渦の中、鏡面の向こう側で、息も絶え絶えの陰の鏡が標本のように鏡の中に縛り付けられている。陽の鏡の足音を聞いて、彼はなんとか青白い顔を上げた。再会した二人は、鏡越しに互いを見つめる。心が通じ合っている二人に、言葉はいらない。【雲外鏡・陽】 「陰、僕を信じてる?」【雲外鏡・陰】 「もちろん、何が起きても、僕は君を信じてる。今までも、これからも。」【雲外鏡・陽】 「ごめん、君がもう一度自由を得るには、こうするしかない。」陽の鏡の手の中から、弱々しい雷光を纏った一枚の鏡の欠片が宙に舞い上がった。雷光を見て、陰の鏡の青白い顔に笑みが浮かんだ。【雲外鏡・陰】 「躊躇う必要はない、早く!」その瞬間、陽の鏡が持つ鏡の欠片から眩しい光が迸り出た。それはさっき吸収した龍神の力だった。まばゆい雷光が炸裂する。あまりにも眩しい光を前に、一同は目を閉じざるを得なかった。衝撃波が金色の渦を破壊した。悪神の手の中で爆発した渦が、巨大な雲を生み出す。華奢な人影が雲の上から落ちてくる。一筋の光が、彼が胸に当てて守っている黒い鏡の欠片の中に差し込んだ。【魔羅王】 「面白い、背水の陣というやつか?お前たちがどこまでやれるか見てみようではないか。」墜落の途中で、汚れた力が人知れずに陽の鏡の懐の黒い欠片の中に入り、鏡の中から人影が現れた。陰の鏡の意識だ。顔を上げた陰の鏡は冷たい表情で、すぐに立ち上がると陽の鏡の首を全力で絞め上げた。【雲外鏡・陽】 「ゴホッ、陰、何のつもりだ?」【雲外鏡・陰】 「このくだらない、世界を救う旅はここで終わりだ。砕ける度に、僕の心には怒りが宿り、浮世への憎しみが深まる。大人しく眠れ。次に目を覚ます時、僕らは仏様に導かれ、新生を得るだろう。」目眩と窒息に襲われる中、陽の鏡は浄化の力を集結させてなんとか陰の鏡に触れようとする。浄化の力のおかげで、陰の鏡は自分が仲間を傷つけていることに気づいたようだ。辛そうな表情を浮かべている。【雲外鏡・陽】 「陰、ケホッ、自分が誰かわかるか?いつまであいつに操られてるつもりだ?」陰の鏡は足掻いているが、心の中の炎が彼を惑わす。その時、懐かしい声が再び陰の鏡の頭の中で響き出した。 「霊鏡よ、君は誰でもない。誰にもならない。自分の心に従い、自分の主になればいい。」【雲外鏡・陰】 「僕は、僕は……誰かの操り人形なんかじゃない!」陰の鏡は自分の意志で自我を取り戻し、手を放した。一方、陽の鏡はすかさず浄化の力を陰の鏡の頭の中に注ぎ込み、魔羅王の力を追い出した。やがて、陰の鏡は浄化され、純粋な意識が再び黒い欠片の中に戻った。【魔羅王】 「ふふ、どれだけ優れた浄化の力でも、人々の心に宿る憤怒の炎を鎮めることはできないだろう?」魔羅王の咆哮とともに、雲が逆巻き、彼の体から落ちる火の玉が雲と混じり合う。全ての空間が火の雲に埋め尽くされる。【小白】 「セイメイ様!悪神はまるで狂ったみたいに振る舞っています。全ての空間が、火の雲に埋め尽くされました!」晴明は呪文を唱え結界を強化しながら、烈火の中に紙人形を投げ入れた。陽の鏡が炎に呑み込まれると、炎の中に無数の怨霊が現れた。【???】 「神鏡よ!こうして祭っているのに、なぜ願いを叶えてくれない?神器なのに、なぜ祈りに応えられないんだ。なぜこの程度のこともできないんだ!神鏡は使われるためにある。神力のない道具など意味がない!」人々の執念は無数にあるが、神鏡は一枚しかない。無数の怨霊が炎の中から手を伸ばし、陽の鏡を引っ張り、彼の体を燃やす。それでも、陽の鏡は力を振り絞って前に進む。何があろうと、懐の中の黒い欠片を絶対に安全な場所に届けなければならない。欠片の中には、大切な友人の意識が宿っている。意識が遠のいていく中、彼は煙の中をよろめきながら歩き続けた。一方、懐の中の黒い欠片から水が溢れ出てきた。溢れ出た水は陽の鏡の体を包み込んだ。炎に焼かれる感覚が消え、目の前の景色が再び変わった。赤い色が消え、目の前には真っ白な椿と雪が広がった。廊下にいる自分は、昔と同じ、あの禅室に戻ったようだ。【雲外鏡・陰】 「陽、僕の意識を守ってくれてありがとう。」陰の鏡の儚い姿が側に現れた。【雲外鏡・陽】 「陰!ここは……?」【雲外鏡・陰】 「ここは僕の願いの投影、僕にとっての一番素敵な思い出さ。でも残念なことに、この場所は現世には存在しない。」幻境の椿が頬に舞い落ちる。まるで花期の終わりを告げているようだ。【雲外鏡・陽】 「ここはとても美しい。まるで本当に雪峰寺に戻ったみたいだ。おかげで千年の旅の始まりを思い出したよ。」【雲外鏡・陰】 「うん。旅の間、僕はずっと自分の存在意義を探してた。今ようやく分かったんだ、それは外の世界ではなく、心の中に存在してるって。今までしてきた無数の選択、君と共に体験した思い出と苦難。その全てが僕の存在意味となり、心に痕跡を残した。」【雲外鏡・陽】 「陰……」【雲外鏡・陰】 「僕は何者で、なぜ生まれてきたのか。僕はもう迷わない。」陰の鏡が陽の鏡の背中に手を当てる。雪が顔に触れ、彼の姿は透け始めた。【雲外鏡・陰】 「これが僕の唯一できること、そしてしたいこと。」そう口にした瞬間、微笑む陰の鏡の姿は砕けて風の中に消えた。目の前の雪景色は色褪せ、陰の鏡の意識が宿る黒い欠片が陽の鏡の胸に溶け込んだ。【魔羅王】 「焼き尽くせ!燃え尽くせ!今日お前たちは全員死ぬ。そして陽の鏡のように灰燼となり、我が肉体の一部になる。」【晴明】 「残念だが、それは叶わない!」焦げた紙人形が、晴明の手の中に遠くから戻ってきた。その時、燃え盛る炎の中央に水が溢れ出た。それは無限の水だ。水が溢れ出ると、その地の炎はたちまち収まり、さざ波が立った。無限の水の中から新しい鏡が現れ、反転した世界を映し出す。拡大して続ける鏡面は結界に代わり、落ちてくる火の玉を全部受け止めた。鏡に陽の鏡の姿が映し出された。陰の鏡のような長い髪をなびかせ、左目の下にほくろがある彼は、生まれ変わった後だった。【禅心雲外鏡】 「憤怒は罪を生み出す。果てしない怒りの炎は、やがて我が身をも滅ぼす。」【小白】 「陽の鏡です!でも、何かが違う気がします!」【晴明】 「どうやら、彼も成長したようだ。」火の雲は消え去り、立ち込める霧も晴れた。再び空に現れた悪神は、晴明たちを見下ろしている。【魔羅王】 「雲外鏡、お前の力は我の想像をも超えた。さすがは我が見込んだ法器。」【小白】 「不利な状況に追い込まれたのに、まだしつこく減らず口をたたくんですね!」【魔羅王】 「不利な状況に追い込まれた?はは、我は魔羅、不滅の心魔、我を滅ぼすことは不可能!今から証明してやろう。お前たちの努力は、全て無駄であったと!」 |
破魔誅滅
破魔誅滅ストーリー |
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……雲の上【禅心雲外鏡】 「晴明様、この悪神は非常に手強い敵です。体は大きいですが、通常の攻撃では傷を負わせることができません。天羽々斬を召喚するだけの霊力はお持ちですか?」【晴明】 「精神を統一させて召喚してみたものの、二度失敗してしまった。三回目に成功できるかどうか、私にも分からない。でもできるだけのことはやってみよう。」【禅心雲外鏡】 「では隙を窺いながら、臨機応変にいきましょう。」立ち昇る雲が消え、魔羅王が一同を見下ろす。【魔羅王】 「この世はこのようにできている。頂点に立つ者が、全てを手に入れる。我はかつてあれほど天照を憎み、怒りの炎に燃えていた。我はもともと天照の一部だったが、切り離されて悪神となった。理論上、我はかつて天照の一部だった。ということは、天照が持つ全ては我のものだともいえよう。このような荒れ果てた地に封印されるなど、言語道断!」魔羅王は怒りの炎を纏った拳を繰り出し、煙を生み出しながら晴明たちに襲いかかった。当たった場所には炎が燃え盛る大穴ができた。陽の鏡が皆の目の前で鏡面を展開した。【禅心雲外鏡】 「悪しき業からは悪しき行いが生まれる。君の憤怒はやがて君自身を滅ぼす。」【魔羅王】 「ふふ、ならば、やはり決着をつけるしかない!」魔羅王の体が纏う炎は無数の火の玉になり、手の周りを漂っている。次の瞬間、炎を纏った拳が鏡面にぶつかった。鏡面は一瞬にして無限の水になった。攻撃を受けてさざ波が立ちはしたが、無傷のままだ。魔羅王の拳は水を打ったかのように、なんの変化ももたらさなかった。魔羅王が拳を引こうとすると、水の鏡面は強い吸引力を持つ渦となり、魔羅王の動きを一瞬止めた。【禅心雲外鏡】 「晴明様、今です!」絶好の機会が訪れた。晴明は呪文を唱え、もう一度天羽々斬を召喚しようと試みる。すると空には再び稲妻が走り、雷鳴が轟く。【魔羅王】 「ふっ、また無駄なことを。これで何度目だ?凡人の分際で天羽々斬を操ろうなど、自惚れるな!陽の鏡を倒したら、次はお前だ。二度と剣を握れないように、その両手をへし折ってやる!」魔羅王は力をためてから、陽の鏡の体に向けてもう片方の拳を繰り出した。陽の鏡は水で止めてみたものの、やはり攻撃を喰らってしまった。それでも、陽の鏡は水の渦を維持し、なんとか耐えている。晴明が目を閉じて精神を統一させると、頭の中に光の玉が現れた。晴明は光の玉に霊力を注ぎ込んだ。光の玉は拡散していったが、最後にはやはり消えてしまった。【晴明】 「まずい、またしても霊力を集めることができなかった……どうやら回復するには時間がかかるようだ。しかし今、皆は……もし早々に打開策を見つけることができなければ、どうなってしまうかわからない。」その頃…… ………六道の扉 神楽と源博雅は六道の扉を守る須佐之男に会いに来た。消えた雪峰寺のこと、そして彼らが体験した不思議な出来事の全てを須佐之男に伝えた。【源博雅】 「晴明たちは一体どこに行ったんだ?神隠しってわけじゃないよな!」【須佐之男】 「確かに疑わしいな。彼らは未知の空間に引きずり込まれたのかもしれない。急なことで、彼らも意表を突かれたのだろう。最悪、罠にかかった可能性もある。」【神楽】 「どうしよう!みんながどこにいるのかも分からないなんて。」【須佐之男】 「天羽々斬は互いに共鳴することができる。晴明が持っている天羽々斬の力が弱まっているのを感じた。」【源博雅】 「弱まっている?きっとこの前季乱の森で晴明の霊力を消耗しすぎたせいだ。どうすればいい?このまま手をこまねいているわけにはいかないぞ!」【須佐之男】 「あまり気をもむな。天羽々斬は互いに霊力を分けることができる。俺が持っている天羽々斬の力を補充すれば、晴明が持つ天羽々斬も力が回復するはずだ。」【神楽】 「そういうことね。じゃあ、私たちの力も使って。」神楽、源博雅、須佐之男の三人は、手を重ねて目の前の天羽々斬に霊力を注ぎ込む。 ……雲の上 【晴明】 「天羽々斬が震えている。まさか!」晴明が持つ天羽々斬が光を放ち始めた。空の雷光も、召喚されたかのように、次々と天羽々斬の柄に落ちてくる。【晴明】 「やっと……応えてくれたのか!」力漲る柄が、まばゆい光を放っている。【晴明】 「天羽々斬よ。処刑の神の名において、世の悪を、憤怒の悪神を切り裂け!」雷光を纏った天羽々斬が魔羅王を切り裂く。轟音が轟いた後、魔羅王の体は断ち切られ、霧のように消え去った。【小白】 「よかったです!倒せましたか?」【八百比丘尼】 「いいえ、それほど単純なことではなさそうです……」消え去った霧が再び集い、巨大な魔羅王が皆の目の前に現れた。【魔羅王】 「ふん、言ったはずだ。我は魔羅、不滅の心魔、何度やっても同じこと。お前たちに我を滅ぼすことはできない。全ては無駄な足掻きに過ぎん!」【晴明】 「なぜだ、まさかこれも彼の本体ではないのか?」【禅心雲外鏡】 「いいえ、可能性はもう一つあります。彼の本体は神格を持っていないのかもしれない。」【小白】 「そんなこと、ありえるんですか?もし本体が神格を持っていないのなら、それは一体どこに隠されているんですか!?」陽の鏡は何も言わずに、魔羅王の周りに立ち込める雲を見て、思案し始めた。 ……謎の空間 紫の煙が立ち込める薄暗い空間の中。聖覚は暗い川にかかった橋の上を歩いている。川の中にいる無数の怨霊は、手を振り回し、悲鳴を上げている。その耳障りな音に、聖覚は眉をひそめて足を早める。この怨霊たちは、千年の間に彼が雪峰寺で手にかけた者たちだ。具体的な人数を聞かれても、聖覚は答えられない。【聖覚法師】 「私にここに来るように仰ったのに、なぜ仏様は姿を現さないのでしょう。私はずっと仏様の本体が降臨する光景を拝みたいと願っているのに。」【魔羅の影】 「来い、我が使徒よ、我の元に来るがいい。我はこの道の果てでお前を待っている。そこに達した時、お前は我の本体を拝むことができる。」【聖覚法師】 「仏様、仏様のことをお慕いしております。いつもお導きくださり、苦しみから救ってくださいます。仏様のおかげで、私は偽りの仮面を脱ぎ、本当の自分に向き合うことができました。」【魔羅の影】 「では、今お前は満足しているのか?心の迷いは消えたのか?」【聖覚法師】 「今の私は、過去を断ち切り、本心に向き合っています。しかし、やはりいつも不自由さを感じています。他人の命を奪う時にだけ、自由を求める心が満たされるのです。」【魔羅の影】 「自由だと?話してみろ、お前の理解を。」【聖覚法師】 「仏様、私は我が手に落ちた者たちを、彼らが絶望するまで痛めつけます。彼らは皆私を恐れます。生殺与奪の権を握っている私の慈悲に縋り、許してほしいと懇願します。彼らの命を支配する時、私は真の強者として振る舞うことができます。その時、私は悟ったのです。慈悲も、善良さも、公平も、全ては弱者が強者に求めるものであり、真の強者を縛るために設けられた道徳なのだと。決して世界の真実などではなかったのです。」【魔羅の影】 「ははは、お前の言う通り、世界には秩序が、そして規則がある。それは真実でもなければ、完璧なものでもない。それは天照の世界であり、我々の世界ではない。絶対的な自由を手に入れるには、彼女が定めた規則を破らなければならない。そうして初めて我々の世界を作り出すことが可能になる。それは数千年に渡り、六道の中に囚われ続けた我が求めるものだ。我が使徒よ、真の強者になること、偉大な至高者になること、それは全ての価値を作り直し、新たな秩序を築き、縛られず、絶対的な自由を手に入れるための唯一の方法だ。」【聖覚法師】 「仏様、仰る通りです。真の強者だけが、絶対的な自由を追い求めることができるでしょう。もし私に仏様のような力があれば、浮世に憤怒の種をまき、凡人たちがいがみ合い、殺し合うよう誘導します。力ある者が生き残る、それは良いことです。力なき者は死に絶える、その死に勝るものはありません。」【魔羅の影】 「ははは、よく言った!お前の心の中に燃え盛る炎を感じたぞ。」気づけば、聖覚は既に空間の果てにいた。そこには埃が積もった古い黒岩があり、小柄で干からびた魔羅が岩の中に嵌っていた。魔羅を見て、聖覚は黙った。【魔羅の影】 「我が使徒よ、真の仏を前にして、なぜ拝まない?」【聖覚法師】 「仏様がこんなにも弱々しいお姿だとは、思いもしませんでした。」次の瞬間、聖覚は突然現れた鉈を掴むと、魔羅の胸に刺した。【魔羅の影】 「ゴホッ……何をする!」【聖覚法師】 「仏様にはがっかりしましたよ。仰る通り、真の強者だけが頂点に立つ者となり、絶対的な自由を手に入れることができる。幼い頃、私は戦乱の中、屍の山から這い出し、雪峰寺の一員として育った。これまで、私は多くの命を奪ってきた。それは仏様の導きによってではなく、私の心に従ってのことだ。私は生まれた時から破滅を愛していた。仏様よりも、私のほうが真の強者にふさわしい。仏は我が心にあり、我こそが魔羅である。」その時、聖覚の背後から無数の呻きと罵声が聞こえた。暗い川から這い出た無数の顔の歪んだ怨霊が、聖覚に近寄ってくる。【聖覚法師】 「我の心に宿る言い知れぬ憤怒はこの世界への、世界の不平等へのものだと思っていた。けれど今分かった。我の怒りは、頂点に立つ者が我ではないことに対する恨みだ。なぜ規則を定め、絶対的な自由を手に入れる者が我ではないのだ?」聖覚は言葉を吐き捨てながら、鬼神のように鉈を振り回し、容赦なく怨霊たちを切り裂く。彼の背後で、岩の中の魔羅が消えた。その声だけがまだ響いている。【魔羅の影】 「お前と我の考えていることは同じだ。ついにお前は覚醒し、我と一つになった。数千年前に我のもとを離れた分霊、いや、我が心魂よ!」………雲の上 天羽々斬の雷光をもってしても、悪神を滅ぼすことはできなかった。しかしその時に生じた衝撃波は、一瞬だけ悪神の周りの暗雲を吹き払った。一同は紫の煙によって作られる渦の入り口を目にした。しかし次の瞬間、暗雲が立ち込め、全てはまた雲の中に隠れてしまった。【禅心雲外鏡】 「晴明様、あの紫の煙の渦の中に魔羅王を倒す鍵が隠されている気がします。僕たちがあそこに近づこうとすると、魔羅王は全力を尽くし、形振り構わずに攻撃を仕掛けてきます。」【晴明】 「私もそう思う。どんな手を使っても彼を倒せず、紫の煙の渦がどこに通じているかも分からない。ひたすら天羽々斬を振るうだけでは、無駄に霊力を消耗することになる。適切な時に、適切な場所に致命的な一撃を加える。それができなければ、霊力を使い果たした時、本当に万策尽きることになる。」【八百比丘尼】 「紫の渦は非常に危険です、無闇に中に入ってはいけません。」【禅心雲外鏡】 「わかってる。紫の渦は人の心を惑わす紫の煙で構成されている。もし中に入れば、惑わされ、憤怒に乗っ取られて取り返しのつかないことをしてしまうだろう。でも、浄化の力を持つ僕だけは、なんとかそれに対抗できる。」【小白】 「陽の鏡様、本当に行くんですか?渦の向こう側にあるのは、罠ではないですよね?!」【禅心雲外鏡】 「例え罠だとしても、行くしかない。今の僕らには勝ち目はない。皆は魔羅王の注意を引いてくれ。」魔羅王の攻撃の合間に、皆が魔羅王の注意を引き、陽の鏡は紫の渦の中に潜り込んだ。紫の渦の中の空間は歪んでいて、無数の怨霊が絶え間なく喚き叫んでいる。陽の鏡は心が炎に焼かれるようで、とても辛くなった。頭の中で無数の怒鳴り声が聞こえる。 「怒れ、憎め、このつまらない世界を滅ぼせ!」 陽の鏡は強い意志で悪念に対抗しながら、渦の奥に入っていく。そして渦の突き当りで、彼はよく知っている人影を目にした。それは空印師匠の記憶の中に現れた悪鬼……聖覚だった。【禅心雲外鏡】 「君は聖覚か?いや、その邪気、魔羅王と一つになったか?あるいは、君はもともと数千年前に彼から切り落とされた意識が生み出した化身なのか?」【聖覚法師】 「霊童よ、久しぶりだな。我はもはや聖覚ではない。我は覚醒したのだ。今の我は魔羅の心魂!」【禅心雲外鏡】 「そうか、君こそが魔羅王の生命力の源で、彼を蘇らせ続けているのか。」【魔羅の心魂】 「それがどうした?お前に我を傷つけることはできない。浄土では、全てが我が意志に従う。この世界において、我は絶対的な自由を持つ。この世界の全てのものは我が力となる。」言ったそばから、空間内の全てが歪み始めた。渦の中、紫の煙が触手のように陽の鏡に襲いかかる。触れれば侵食される煙だ。紫の煙の包囲を突破した陽の鏡は、無限の水を鋭い氷に変えて魔羅の心魂を攻撃する。攻撃が当たる寸前に、氷の欠片はかちんと音を立てて地面に落ちた。【魔羅の心魂】 「我のこの守りは、この世界の万物の生命力を集めたものだ。故にお前に我を傷つけることはできない。ここに長くいればいるほど、外にいるお前の仲間たちは危険になる。お前が残した鏡の欠片は、いつまで彼らを守れると思う?」【禅心雲外鏡】 「ご忠告ありがとう、僕はもっと思い切らなければいけないようだね。」陽の鏡は水の流れを辿って紫の煙を通り抜ける。体に紫の煙が染みつき、侵食され傷ができたが、彼は最後に魔羅の心魂の側にたどり着いた。【魔羅の心魂】 「全く懲りないな。我に近づいても、お前が傷つくだけだ!」魔羅の心魂の手の中に紫の煙が集い、旋風のように陽の鏡に襲いかかった。しかし最後には陽の鏡が先に魔羅の心魂に触れた。【禅心雲外鏡】 「場所を変えて戦おう。」【魔羅の心魂】 「我の意識の中に入ってくるとは、面白い。これでお前は我を傷つけられるかもしれない。しかしもし負ければ、お前はもう我の意識から逃れられない。くくっ、一か八かの賭けも嫌いじゃないぞ。」【禅心雲外鏡】 「千年前に雪峰寺で起きた悲劇は、本当に君の仕業か?純真だった君が同胞を虐殺するとは、全く想像できなかった。恨みがあるわけでもなく、むしろ恩人とも言うべき人々に対して、どうしてあんなことをしたんだ。」【魔羅の心魂】 「お前は本当の我を知らない。我は生まれた時から悪と破滅の化身だった。今までは人の世に紛れるために偽りの仮面を被っていたのだ。しかし今の我は偽りの自分を捨て、本我を手に入れた。」【禅心雲外鏡】 「やめておけ。まだ間に合う、宿業に染まる前に引き返すんだ。今の君は仏様の教えに背き、魔の道を歩んでいる。」【魔羅の心魂】 「無駄口は結構だ、我には届かない。お前が言う道徳や倫理など、我にとってはどうでもいいことだ。それは弱者を縛る論理でしかない。我は今までしてきたことを後悔しない、それは我が解脱に至るのに必要な過程だったからだ。神に守られた人々は平和に溺れ、怠惰に生き、守られねばならない弱者に成り下がった。しかし弱肉強食こそが世界の理。残酷な殺し合いの中でのみ、淘汰されない強者が生まれる。例え人々の心を救済できても、それは全く意味のないことだ。心を救われたからといって、残酷な世界で生き残れる保証はどこにもない。」【禅心雲外鏡】 「僕にとっての強者と、君が思う強者は違うみたいだ。そしてそれぞれの目に映る世界もまた違う。人の世に、弱肉強食も殺し合いも必要じゃない。人々は協力し、困難を乗り越え、文化を築く。そして強者も、こういう文化の中で誕生する。真の強者は人々をより輝かしい文明へと導く。物質的にも、精神的にも。」【魔羅の心魂】 「文明など、弱者を守る道具にすぎん。」【禅心雲外鏡】 「でも君のような異質な人を抑えつけることができる。」【魔羅の心魂】 「しかし我の虐殺を止めることはできなかった。」【禅心雲外鏡】 「だから人々は君の行いを唾棄する。」陽の鏡の浄化の水が、魔羅の心魂の紫の煙と衝突する。どちらかが呑み込まれるまで、衝突は終わらない。しかし膠着状態の争いの中で、魔羅の心魂は突然嘲笑った。【魔羅の心魂】 「無意味な足掻きはよせ。今、外にいるお前の仲間たちは一人残らず我の力に蝕まれた。彼らは憤怒に染まり、自我を見失った。今はいがみ合い、殺し合っている。」【禅心雲外鏡】 「なんだと!?」陽の鏡が動揺した瞬間を、魔羅の心魂は見逃さなかった。紫の煙が浄化の守りを突破して、陽の鏡の手足に絡みついた。魔羅の心魂が片手で陽の鏡の首を絞めあげ、陽の鏡は目眩を覚えた。【魔羅の心魂】 「ははは、お前は一つだけ我に似ているところがある。頑固で、自分の道を信じて疑わないところだ。しかし今回の勝負において、お前は絶対的に不利で、我には敵わない。他人のために取り乱したお前の負けだ。憐れな子羊よ、お前の優しさはお前を残酷な地獄へと導くだろう。安心しろ。お前がいなくなった世界では、文明はやがて消え去る。生き残るのは蠢く蛆虫だけだ。」魔羅の心魂は陽の鏡の首を掴んで力を込める。顔は青ざめているが、陽の鏡は足掻くことなく、恐れを知らない微笑みを湛えている。【禅心雲外鏡】 「ゴホゴホ、君には敵わない?君の意識の中に入ったのは、僕一人だけだと思ったか?」【魔羅の心魂】 「何が言いたい?」背後から背筋が凍るような感じがして、馴染みのある、冷たい声が聞こえた。【雲外鏡・陰】 「何か面白いことが聞けるかと期待していたが、外れだ、実にくだらない。永遠に眠るがいい、「蛆虫」!」陰の鏡は魔羅の心魂の後頭部を掴み、強大な浄化の力を注ぎ込んだ。陰の鏡が触れた部位から焦げたような黒い煙が立ち昇り、魔羅の心魂は喚き、叫んだ。 その頃…… 紫の煙に包囲された晴明たちは、強い意志で侵食に対抗していたが、不利な状況にあった。その時、彼らと対峙していた魔羅王が何かを感じたかのように、辛そうな叫び声をあげた。【魔羅王】 「我が心魂よ、お前は我のものだ!他人に侵されることは許さん!」【小白】 「セイメイ様、見てください!渦が消えて、何か表に出てきたようです!」晴明は最後の霊力を使って稲妻を召喚し、天羽々斬の力を呼び出した。轟音が轟いた後、暗雲は雷に切り裂かれ、晴明の手の中に天羽々斬が現れた。【晴明】 「処刑の神よ、我が霊力を捧げます。御身の力をお貸しください、私が最強の一撃を繰り出せるように!」晴明の後ろに須佐之男の法身が浮かび上がり、晴明と共に天羽々斬を掲げた。【晴明】 「憤怒の悪神魔羅王、有罪である故、今より処刑を行う。」空から落ちてきた巨大な稲妻が頭上から魔羅の心魂を貫いた。一瞬にして、魔羅の心魂は滅び、神格は天羽々斬の中に封印された。【魔羅王】 「今までの我の努力は全て無駄になった。これが運命なのか……」魔羅王は自身の心魂と神格が破壊され、体の表面で燃え盛る炎が消えたのを見ていた。力を失った彼には、もはや打つ手がなかった。雷光に襲われる寸前、魔羅王は最後の神力を刃に変えて自分の胸を貫き、自ら命を絶った。【魔羅王】 「それでも、虫けら共に討たれるわけにはいかぬ……」魔羅王の巨大な体は崩壊し、空を舞う塵となった。逆巻く紫の煙も次第に消え去り、世界は再び静寂に包まれた。【八百比丘尼】 「まさかこの悪神が……」【晴明】 「私に斬られることは、彼にとっては耐えられない屈辱だろう。だからこんな最後を選んだに違いない。しかし、少なくとも彼の心魂という神格は既に徹底的に祓われ、天羽々斬の中に封印された。」【小白】 「陽の鏡様、目覚めましたか?やりましたよ!ようやく悪神を封印できました!」【禅心雲外鏡】 「うう……」辛そうにこめかみを押しながら、陽の鏡が目を開けると、目の前には皆の優しい笑顔があった。晴明が陽の鏡に手を差し伸べる。【晴明】 「立てるか?」【禅心雲外鏡】 「うん、大丈夫。」……浄土道 魔羅王がいなくなった浄土道は汚れが消え、暗雲が晴れた。雲の隙間から漏れる日差しが、世界中の景色を明るく照らす。本来の浄土道は、とても美しい。【八百比丘尼】 「本当にお一人で荒れ果てた浄土道に残るのですか?」【禅心雲外鏡】 「はい。千年の旅を経て、僕と陰は心の答えを見つけ、悩みを解消することができた。神鏡の加護があってもなくても、人々は自分の努力で素晴らしい未来を築けると、僕は信じているから。」【晴明】 「心配するな、人々は弱くない。将来未知の災難に見舞われても、我々は必ず助け合い、あらゆる困難を乗り越える。」【小白】 「あなたたちのことは忘れません。どんなに離れていても、心は一緒です!」【禅心雲外鏡】 「うん、僕も。長い旅に付き合ってくれて、本当にありがとう。色々あったけど、僕と陰は辛い思いをして、成長することができた。そして分かったんだ。人々は結局のところ、一人で自分の人生に向き合うしかない。僕は人々を導けるけど、代わりに選択することはできない。僕は荒れ果てた大地で、衆生のために祈り続ける。人々が生きる意味を見つけ、自分を救済できるように。」晴明たちと別れて、全ては幕を下ろした。陽の鏡は一人で枯木の上に座っている。この広々とした世界は、現世と何も変わらない。青い山に清き水、花々が咲き誇る。しかし人の気配はないから、どうしても寂しい。彼は遠くの空に昇る眩しい光を見て、感慨を漏らした。【禅心雲外鏡】 「美しい、まるで日の出のようだ。」【雲外鏡・陰】 「そうだね、とても美しい。」黒髪が風になびく。懐かしい姿が光の先に現れた。陰の鏡は長い髪を耳にかけ、微笑んで陽の鏡を振り返る。【雲外鏡・陰】 「これから一緒に、新しい生活を始めよう。ここで僕たちだけの隠山を築くんだ。」陽の鏡は微笑んで頷いた。その瞬間、眩しい光が陰の鏡の姿を呑み込み、彼は思わず目を閉じた。再び目を開けた時、目の前には誰もいなかった。しかし陰の鏡の言葉は、今でも頭の中で響き続けている。【禅心雲外鏡】 「これから、僕は君で、君は僕だ。僕たちは一つになった、もう寂しくないよ。」陽の鏡は胸に手を当て、熱い鼓動を感じた。 数日後…… ………平安京【神楽】 「須佐之男様、晴明たちはまだ帰ってこないけど、危険な目に遭ってないかな。」【須佐之男】 「心配するな。晴明が持つ天羽々斬からの共鳴が、俺の天羽々斬に伝わっている。彼らはきっと無事だ。」【伊吹】 「心配はいらないにゃん。一緒に焼きたての魚を食べるにゃ、食べ終わる頃には、彼らも帰ってくるかもしれないにゃん。」【源博雅】 「そんなに太ってるのに、まだ食べるのか?はあ、心配でいてもたってもいられない。晴明たち、無事でいてくれ。」【伊吹】 「おい、お前!そんなこと言って、悪びれる様子もなくニャンの魚を横取りするにゃ!」【源博雅】 「人は心配だと食欲が湧くんだ。そんなことも知らないのか?お前がこれ以上太らないように手伝ってやろう。」伊吹と戯れる兄を見て、神楽は諦めたようにため息をついた。その時、須佐之男が優しく神楽の肩を叩いた。【須佐之男】 「神楽、もう心配しなくてもいいようだ。」振り返って須佐之男の指差すほうを見ると、そう遠くない場所に、神楽たちに向かって手を振る懐かしい三人の姿があった。【神楽】 「晴明!八百比丘尼!小白!やっと帰ってきた!」神楽は嬉しそうに三人に駆け寄り、晴明の懐に飛び込んだ。【晴明】 「遅くなった、ただいま。」 |
異聞奇譚ストーリー
猿・友達
猿・友達ストーリー |
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「あの少年は今日も来るのだろうか?」私は木の上でつまらないと思いながら、新しくできた人間の友人を待っている。少年はいつもこの時間に現れ、持ってきたおいしい果物を分けてくれ、椿の木の下で私ととりとめのない話をする。 少年は顔色がすぐれず、ずっと咳き込んでいる。どうやら体が弱っているようだ。少年の故郷はこの地ではない。病を治すため、一時的にここに越してきたようだ。ある日、少年はうれしそうに教えてくれた。医術が得意な僧と出会った。少年の病を治してくれるらしい。私も喜んだ。しかし、あの日以来、少年は椿の木の下にやって来なくなった、二度と。 少年がどこに行ったのか、どこで病を治しているのか分からなかった。あの時までは… |
雪寺・昔話
雪寺・昔話ストーリー |
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雪峰寺は雪山の上に建てられている。千年以上の歴史があるが、いつ建てられたのかは誰も知らない。昔の雪峰寺はにぎわい、毎年参拝に来る檀家が後を絶たなかった。寺の美しい淡色の桜、真っ赤な楓、白い椿が有名で、「花の寺」とも呼ばれる。 うわさによれば、昔、雪峰寺には奇跡が起きたらしい。ある夜、たまたま目を覚ました小坊主に禅室から物音が聞こえる。興味が湧いた小坊主は窓から部屋の中を覗いてみた。誰もいない禅室の中、壁に飾られている古い銅鏡が動き、積もったほこりを振り落とし、眩しい光を放っている。その後、禅室から轟音が聞こえる。眩しい光の中、一筋の光が空を切り裂いて彼方に消えた… その後、奇跡が起きた禅室は、仏をまつる本堂として使われている。麓の檀家たちはこれを聞き、ますます雪峰寺を敬うようになった。 しかしある日、雪峰寺はなぜか急に寺を封じた。山を登る道もふさがれてしまった。月日が流れる中で、雪峰寺の名は聞かれなくなり、人々に忘れ去られていった。 |
雪寺・異聞
雪寺・異聞ストーリー |
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壱:雪峰寺の本堂には仏像がまつられている。夜中に仏像が目を開け、金色の光を放っているのを見た人がいるらしい。檀家たちは全員仏様の思し召しと言っている。 弐:誰もいない廃寺だというのに、なぜか突然、足跡が残っているようだ。雪が積もる日はとくにはっきりしている。その場でうろうろしたような足跡もあるが、ほとんどは本堂の前にある大きい石碑に向かっている。 参:雪峰寺が廃れた数百年の間、辺りの人々に時々、悲鳴や号泣が聞こえていたという。寺の怨霊の祟りと考える人もいる。 肆:数百年の間、雪峰寺の近くでは時々、行方が分からなくなる人が出ていた。行方不明者は老若男女問わずだ。みな「神隠しにあったのだ」と言っている。 |
猿・警告
猿・警告ストーリー |
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今の私は猿として山に住んでいる。ただの猿ではなく、道祖神の使いとして、道に迷った旅人を導いている。 ある日、私は偶然、山の中で廃寺を見つけた。私には分かる。あそこには邪な力が巣食っている。 辺りでは、よく失踪事件が起きるらしい。人々は神隠しだと言っている。だが、私は勘づいた。行方不明事件はきっと寺の邪な力と関係があるのだ。しかし、私は力が弱く、寺の妖魔には敵わない。だからみだりに行動はできない。 ある日、寺の近くでとうの昔に行方不明になった人間の友人の気配を感じた。彼は肉体を失い、邪な力に侵され、怨霊になってしまっていた。私は後悔した、もっと早く気づき、かわいそうな人々に警告を与えていたら、悲劇は起こらなかったかもしれない。だから、わざと雪峰寺の近くに来る旅人の荷物を奪い、麓のほうへと逃げていくのだ。たとえ人々に追い回される羽目になっても、あの怪しい寺には近づいてほしくない。 しかし、私にできることは限られている。もし本当に仏様がいるのなら、寺に囚われた怨霊を救い、成仏させてあげてほしい。 |
聖覚・悟り
聖覚・悟りストーリー |
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物心がついた時から、私はもう両親に捨てられ、雪峰寺で暮らしていた。世の中は終わりのない戦乱や飢饉に見舞われている。生き残れるのは、僧になった者だけかもしれない。 小坊主の時から、私はもう自分の異常に気づいていた。人は落ちていく花を見て感傷的になったり、命が亡くなったことを悲しんだりする。しかし私はそんなことをしない。無意味なことだと思っている。これは無感覚になったというよりも、むしろ生まれながらにして、世界が弱肉強食、適者生存であると気付いていたからだ。しかし私には分かる。この世界で生き残るには、みなと同じように振る舞わねばならない。 私は生まれながら全てを破壊したいという衝動を持っている。心の獣を檻の中に閉じ込めてはいるが、燃えだした炎が消えたことはない。一日一善などの真似ごとをやってみたが、生きる命を殺す時ほどの満足感を感じることはなかった。こうして私は自分を抑え、迷い続けている。 私は仏堂にひざまづき、日々懺悔して仏の許しを乞うている。ある日、仏様はようやく私に答えてくれた。「汝は異なる才能を持っている。何故自分を抑えつけるか。自我を追い求めよ。それ汝の救済の道なり」 仏様の教えのおかげで、私は本当の救済の旅を始めた。 |
聖覚・慈悲
聖覚・慈悲ストーリー |
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悟りには至っていないが、修行を続けている。そして長年修行に励んだ実績が認められ、ついに寺の堂主の一人となった。住職は年をとったので、後継者を選ぶ必要がある。しかし私は出自が悪いから、決して後継者には選ばれない…分かってはいるが、心の中の欲望は抑えきれないほど暴れている。 今日の修行も相変わらず薪割だった。私は目の前にある鉈を見て迷い始めた。鉈を手に取るか、それともあきらめるか?その時、また仏の声が響き出した。 「因果を断たねば、成仏できるものか?」 仏の教えのおかげで私は再び悟った。全てを断ち切った者だけが解脱に至る。 雨の夜、私は鉈を取り、私の「救済」を始めた。断末魔と助けを呼ぶ声は肉体の悲鳴にすぎない。そして寺のみなの霊魂の奥に響くような称賛が聞こえる…私はようやく、自分を偽らず、心の中に閉じ込めていた獣を解放できたのだ。私はあの瞬間、生まれ変わったのだ。 仏は教えてくれた。私は聖なる伝道者、この手によって奪われる命は全て浄土に帰る。仏は慈悲深い…今宵は愚僧がみなに引導を渡そう! |
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