【陰陽師】月燼夜宴ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の月燼夜宴イベントのストーリー(シナリオ/エピソード)「絵空事」をまとめて紹介。あらすじとメインストーリーをそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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あらすじ
あらすじ |
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嘘の世界で目覚めた晴明は、蘇った月読の幻影に出会った。この世界に溺れる人々を呼び起こすために、彼は仕方なく悪神となり、世界征服の旅を始めていた。嘘の世界で、晴明は最初の「支配者」、偽りの八百比丘尼に出会った。追月神は次第に、今の世界に疑問を抱くようになった。嘘の世界で目覚め、城主になった源博雅は仲間を探すつもりだったが、どういうわけか晴明と勝負することになった。晴明は嘘の世界に溺れた人々に周囲の異常に気づかせ、自ら失われた記憶を取り戻させることに決めた。晴明たちは三つ目の地、子供しかいない町にやってきた。そこでは懐かしい顔の人形たちが、彼らを待っていた。晴明は須佐之男の人形に知っていることを全て打ち明け、その地に三日留まり、「子供たち」を呼び起こす方法を探した。「童歌幻夢の里」を出て、晴明は最後の地にたどり着いた。そこは現世の平安京によく似た町だった。しかしその城主は……城主ヤマタノオロチを見つけた後、晴明と追月神は無数の人形に囲まれた。月読が再び現れ、最後の戦いが訪れようとしていた。溢れる光が崩壊していく嘘の世界に囚われた人々を呼び起こし、闇からの脱出を導いてくれた。晴明が嘘の世界に残した痕跡を通じて、真実の力が集い、月読女神は再誕を果たした。最後の戦いで、二人の月読の体は滅び、二度目の死を迎えた。しかし、本当にそうなのだろうか?特別な新年の特別な夢だということにしておこうか、英雄くん。 |
第一章ストーリー
第一章 |
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仮の話をしましょう。もし、ある日目覚めたら、急に世界中が敵になっている。あなたは「滅ぼされるべき存在」になったとします。世界の敵とされ、説明することもできない。その時あなたはどうしますか?これから起きることは、旅の合間の一休みだと思ってください。これはあくまでも小さな、人畜無害な挿話です。夢の夜宴を心ゆくまでお楽しみください、平安京の英雄くん……騒々しい声が聞こえ、火薬の匂いと血腥い匂いが恍惚としている晴明を呼び起こした。【晴明】 「ここは……どこだ?さっきまで町の中にいたはずだが、突然眠ってしまったのか……?神楽は……?」【陰陽師のような人】 「悪神晴明!貴様を討伐する!!」【晴明】 「?」【陰陽師のような人】 「今度こそ逃さんぞ!!!貴様の世界を滅ぼす計画は、必ず破綻する!大人しく正義に裁かれろ!」【晴明】 「……?この死屍累累の戦場は、一体どこだ?周囲の景色から推測するに、平安京の近くではないだろう。彼らが言う「悪神」とは……?」後ろを振り返ると、晴明は人間と妖怪で構成された軍勢を見た。完全武装した軍勢が、自分の居場所に向け進軍している。急に何かを思いついた晴明は、霊視を使った。目の前の軍勢を構成する多くの人々と妖怪の頭には怪しい光が見える。光を辿って見上げると、空から垂らされた無数の糸が目に映った。晴明は気づいた。人々の中に、多くの操り人形が隠れている。進軍している人々の中で、一人だけ佇んでいる者がいる。周囲に馴染んでおらず、世界中の全ては自分とは関係ないという顔をしているその人物を、晴明はよく知っている。【月読】 「久しぶりだな、平安京の英雄くん。」【晴明】 「!!!お前は……」晴明が反応する前に、風を切る矢が飛んできた。集結した軍勢は晴明に迫り、攻撃を仕掛ける。霊符で矢を受け止めた晴明は、人々との会話を試みた。【晴明】 「待ってくれ、これはきっと何かの勘違いだ。私は……」【陰陽師のような人】 「気をつけろ!やつがまた妖術を使うぞ!!耳を貸すな!噂によれば、やつの言葉に耳を傾けた人は否応なしに惑わされ、やつに操られるらしい!」【晴明】 「待ってくれ!私は……」防御に徹していては、押しかけてくる人々を止められない。晴明は気づいたんだ。この人々は本気で、「晴明を倒そう」という思いで戦っている。誰も傷つけたくない晴明は、仕方なく霊符で人々の動きを止め、なんとか話し合おうとする。しかし逆上している人々は、彼の言うことを聞こうともしない。【???】 「下がって!」【晴明】 「あなたは……」【???】 「話は後で、今はとにかくここを離る!あなたも勝手に動かないで!」空から鼓の音が聞こえたかと思うと、金色の光が降り注ぎ、人々と晴明を隔てた。陰陽師の格好をした人々は足を止め、信じられないというように突如現れた少女を見つめる。【陰陽師のような人】 「……追月神様?守護神たるあなた様が、なぜ悪神を庇うのです!?」【晴明】 「追月神?あなたは追月神なのか?」追月神と呼ばれる少女は、晴明の知っている追月神とは異なる姿をしていた。彼女は人々の質問を無視し、そのまま晴明を連れて崖を飛び降りた。【流光追月神】 「ここなら、彼らは追ってこない。」【晴明】 「ああ……」【流光追月神】 「なぜそんな顔をするのだ?勘違いしないでほしい、あなたを庇うつもりはない。この世を守り、秩序を維持する神として、あなたの行動を見張る責任がある。あなたと争って信者たちが傷つくのは嫌だったから、ここに連れてきただけ。世界を滅ぼそうとする悪神への警戒は緩めない。」【晴明】 「……それは。」【流光追月神】 「変だな、残酷非道な悪神晴明らしくない。さっきも人々に手を出さなかった。近頃信者たちは、悪神晴明は記憶を失い、悪をなさなくなったという噂でもちきりだが、本当なのか?まさか、本当に記憶を失ったのか?」【晴明】 「……とりあえず、そういうことにしておいてくれ。(一体どういうことだ?町の中にいたところから、記憶が途切れている。神楽と共に新年の食材を買いに行ったはずだが、目覚めたらここに来ていた。霊力で調べた結果、ここは現世と何の違いもないようだ。少なくとも一目で見抜ける夢や幻境の類ではない。さっき人混みの中で見かけたあの人物は、紛れなく以前勝負した嘘の悪神だった。蘇ったのか?あいにく今は手元に天羽々斬がない。体の傷は問題ないだろうが……早く須佐之男様と荒様に知らせなければ。ここは嘘の悪神が作り出した特殊な幻境の可能性が大きい。さっきの人混みの中には、頭に糸がついていて、己の意志を持たない者が大勢いた……彼らは操られる人形なのか?そしてどうやら、私のことを悪神と呼んでいるようだ。この世界には「悪神晴明」がいるのか?追月神には糸がついていない。霊力の特徴をみるに、彼女は確かに私の知っている追月神だ。しかしどうしてこんな姿に、そしてなぜ……)あなたは……えっと、追月神様?おっしゃる通り、私は確かに記憶を失った。自分が「悪神」だという記憶はない。私に悪意はない。人を傷つけたりもしない。この世界のことを、そして、私のことを教えて欲しい。」【流光追月神】 「「この世界」?妙な言い方だ。他の世界があるとでも?」【晴明】 「私の記憶によれば、私は平安京の極普通の陰陽師だ。いつも人々の幸せな生活を守るために動いている。「悪神」には程遠く、世界を滅ぼそうなどと企むはずもない。先程崖上で目覚めた時には、もう人々に囲まれていた。私にとって、目の前の全ては私の記憶とは真逆のものだ。まさに「他の世界」というしかない。」【流光追月神】 「それが悪神の言い訳か?いや、その目、たしかに悪逆無道な悪神には見えぬ。わかった。私は世界に危害を加えようとする悪者を見逃さない。でももし本当に無実なのであれば、私が全力であなたを守ってあげる。(なんだか、この人の気配は少し懐かしい。さっきから頭が痛い……うう、神として誕生してから、一度も痛みを感じたことはなかったのに、どうしてこんな……痛い!)こほんっ、まずは自己紹介だ。あなたの反応を見るに、私のことを知っているようだが。追月神と呼ぶといい。私は衆生を守護し、世界の秩序を守る神だ。」【晴明】 「……」【流光追月神】 「そしてあなたは、多くの邪悪な妖怪を総括し、世界を滅ぼそうとする大悪神晴明。少なくともあなたの顔は、信者たちが言ってた悪神晴明と同じだ。悪神の出現によって、人々は平和な生活を失った。悪神の圧迫に耐えかねた勇敢な人々は軍を集結し、悪神を討伐する戦いに身を投じた。今、討伐は大詰めを迎え、邪悪な妖怪たちは最後の足掻きを始めている。」【晴明】 「…………」【流光追月神】 「本来神である私が割り込むべきではなかった。しかし皆が追い込まれて共倒れになるのを見ているわけにもいかず、今こうしている。……ちょっと、聞いてる?」【晴明】 「すまない。すぐには……受け入れられない。」【流光追月神】 「あなたの気持ちは知らないけど、少なくとも、私にとって、そしてここで暮らしている皆にとって、「晴明」とはそういう存在だ。これは世界に刻まれた歴史、この世界の規則……世の中に、晴明という悪神がいる。神は人々の生活に直接干渉すべきではない。だからあなたを誰もいないこの場所に連れてきた。……なにか言いたいようだな。」【晴明】 「私からすれば、無実の罪で討伐されるのは納得できない。私は恥ずべきことは何もしていないし、無実の罪を弁解する必要もない。今はまだ状況を把握しきれずに、戸惑っている。だが、大体のことは見えてきた……(幻境の人々は皆同じ考えを抱いている……この悪意に満ちた精神支配は、さしずめさっき見かけた嘘の悪神の仕業だろう。先程の追月神の話も少しおかしい。自分が世界の最初の神だと思っている彼女が、なぜ「規則」という世界そのものにしっくりこない言葉を使った?)」物音が聞こえたので、晴明は頭を上げて音のする方を確認した。するとそこには、数匹の傷だらけの妖怪がいた。妖怪たちが向かってきたので、晴明は霊符を握りしめ、戦いに備えるべく霊力を集めた。晴明が行動する前に、妖怪たちは急に「ドスン」と重い音を立てて膝をついた。妖怪たちは、熱狂的な目で晴明を仰ぎ、見つめている。【晴明】 「?」【悪妖】 「晴明様!!やっと見つけました!やはり偉大なる悪神晴明が、人間なんかに討ち滅ぼされるはずがありません!!待ち伏せする人間どもの包囲網から命からがら逃れてきたのは俺たちだけです。他の仲間は……全員倒されました!この方は……神を手懐けて部下にしたのですか?さすがです!」【流光追月神】 「私は誰の部下でもない!私は……」追月神の説明を無視して、悪妖たちは跪いたまま晴明に近寄り、彼の服の裾を掴んで勝手に喚き立て始めた。【悪妖】 「晴明様、我らが偉大なる破滅の悪神よ、どうか俺たちを導き、世界征服を成し遂げてください!晴明様のためならば、俺たちは喜んで命を、心臓を捧げます!!全てを晴明様に捧げろ!!」【晴明】 「…………いやいや、体は大事にするべきだ。君たちは……とりあえず立つんだ。」【流光追月神】 「悪神ではないだと?やはり嘘か!記憶を失ったなどと言っていたが、あれも嘘だろう!」【晴明】 「違う。彼らのことは知らない。」突然場違いな笑い声が聞こえたが、晴明はすでにそれを予想していたかのように、いつの間にか皆の側に現れた者に目を向けた。【月読】 「申し訳ない、晴明様の興を削いでしまいましたか?……ふふ、こほん、失礼しました。」【晴明】 「やはりお前か。」【月読】 「覚えていただいているとは、光栄です。そう警戒しないでください。私には悪意がありません。晴明様に何かしたりもしませんから、そんな顔はよしてください。初めてお会いした時は、あまりにも慌ただし過ぎました。せっかく奇妙な世界で再会できたのです、今度は仲良くしませんか?」【晴明】 「……また何か企んでいるのか?かつて月海を召喚して平安京を水没させようとし、蛇神と共に世界を滅ぼす計画を立てたお前に、悪意がなかったと?」晴明は妖怪たちに掴まれていた服の裾を引っ張り出すと、体中に霊力を走らせた。霊力を込めた霊符が放たれたが、そのまま月読の体を掠めて素通りした。幻に触れたかのように、何の痕跡も残らなかった。【晴明】 「幻影か?君たちは下がっていろ、こいつは危険だ!」慟哭をやめて我に返った悪妖たちは、戦闘態勢の晴明を見た後、笑顔を浮かべてその場に立っている月読の方に目を向けた。【悪妖】 「お前……わかったぞ、さては悪神晴明様の部下になり、世界を滅ぼす偉業に加わりたいんだな?しかし晴明様の部下になりたいというなら、無礼は許さんぞ!そうだそうだ!その態度が気に食わない。」【月読】 「なるほど、態度がいけなかったんですね。詳しく教えていただけませんか?」【流光追月神】 「待って、そもそもあなた、誰?神である私でも、正体を見抜けない……あなたも他の世界から来たのか?目的は?」【悪妖】 「新入り、今後は俺が兄貴になってやる。いいか、晴明様の部下になるには、まず態度に気をつけなければいけない。例えば……お前弱そうだな、どうせ戦闘は苦手だろう。今後は俺たちについてきな、絶対に強くしてやる!」【流光追月神】 「悪妖の残党たちめ、人を傷つけるような真似はこの私が決して許さない!神の目の前で、悪びれる様子もなく、世界を滅ぼすなどと……」【悪妖】 「晴明様、関係のないやつは放っておきましょう。まずは俺たちの領地を取り戻すんです!俺たちは皆、晴明様のご帰還を待っています!」【晴明】 「…………」【月読】 「ん?」目覚めてから今までのことをもう一度顧みた晴明は、再び目の前のごった返す景色に目を向けた。平伏している晴明の部下と名乗る悪妖に、様変わりして、記憶を失っているかもしれない、悪妖たちを叱る追月神……そして笑顔を絶やさない幻影として現れた、隣で頭を傾げて自分の返事を待っているかのような嘘の悪神。晴明はゆっくりと手の中の霊符をしまい、ため息を吐いた。」【晴明】 「嘘の悪神、お前は……」周囲の妖怪たちが「悪神」という言葉を聞いた途端に興奮し始めたのに気づいて、晴明は残りの言葉を呑み込んだ。【月読】 「この不思議な世界では、悪神という名を持つ存在は私ではないようですね。私はどう呼ばれても構いませんが、平安京の英雄くんが悪神と呼ばれているのは、実に嘆かわしいものです。」【晴明】 「構わない。私は後ろめたいことは何もしていない。根拠なくそう呼ばれても、私の本質は変わらない。お前の望み通り、話し合おうか。」【月読】 「ふふ、光栄です。」様々な思惑を抱えた一行は、周囲を調査している陰陽師の軍勢を避け、一時的に森に留まった。突然現れた「妖怪の子分」たちをなだめてから、追月神に自分には悪意がないと何度も説明し、晴明はようやく落ち着いて話をする時間ができた。【月読】 「突然ここで目覚めても、変わらず冷静でいられるとは。さらに先入観を捨てて悪神である私と会話をするとは、さすがですね。」【晴明】 「お世辞はけっこうだ。お前のしたことは、何一つ忘れていない。だが今は、現在の状況に関する情報が必要だ。」【月読】 「喜んでお教えしましょうと言いたいところですが、残念ながら私が知っていることもあまりないのです。単刀直入に言うと。あなたをこの世界に連れ込んだのは、間違いなく私です。この世界、そして私は、あなたを必要としています。」【晴明】 「…………真面目な回答を期待していたが、どうやら気が早かったようだ。」【月読】 「嘘を司る悪神と言えども、嘘しか口にしないわけではありません。そんな風に思われると、いくら私でも傷つきます。私の知っていることを全てお教えするので、ご自身で嘘か真か検証してください。それに、神格を砕かれ、天羽々斬に封印された私がここにいる理由については、大体予想がつきませんか?」【晴明】 「嘘と真は、表裏一体のものだ。互いに依存しあっている。」【月読】 「その通り。世の中に真実があるかぎり、それに相反する偽りもまた不滅です。だから私は、死にたくても死ねないのです。世界の無数の嘘が廃れた月海に集い、次第に形を得て、私に幻影の形を与えて蘇らせてくれました。残念ながら、あなたと外の現世にとって、私と月海は「偽り」、存在すべきではありません。ですので外の世界と交流することもできません。」【晴明】 「それが、我々がいるこの世界とどう関わっているんだ?」【月読】 「さっき言った通り、無数の嘘は月海に集っています。現在の世界は、人々の絡み合う嘘によって構成されています。自発的に集う嘘はより多くの嘘を生み出し、人々をここに誘って溺れさせています。あなたたちに破られ、死より帰ってきた今、私は「善なる」悪神として生きると決意しました。人々が次々と嘘の世界に溺れるのを見て、善良なる私は、そのままにしておけませんでした。しかし私はただの幻影で、何もできない。だからあなたが人々を助けられるように、全ての力を使ってあなたをここに召喚しました。」【晴明】 「…………」【月読】 「あなたが来る前に、少しこの世界のことを調べてみました。ここで暮らす人々の意識は、現実世界の体と繋がっています。この世界は、皆が同時に見ている夢だと言ってもいいかもしれません。もし強引に夢から呼び起こしたり、夢を壊したりしたら、現実にいる彼らの魂を傷つけてしまう可能性もあります。ああ怖い、怖い。慎重派のあなたは、きっとそんな大胆なことはなさらないでしょうが。」【晴明】 「(つまりここにいる人々は全員、人質だということか?)頭に細い糸がついている人形たちは、お前が操っているのか?」【月読】 「やはり見抜かれましたか。ご存知のはずです。あの戦いを経て、子供たちも私も、一人残らず命を落としました。月海で蘇った後、私は子供たちを創り直そうと考えました。一度落ちた星は空に戻ることはできませんが、運命の糸で操ることはできます。あの子たちのために、人形の体を作ってあげました。しかし……かわいそうに、多くの子供たちは、この嘘の世界に巻き込まれてしまいました。平安京を救う英雄くんは、人々を助けると同時に、私の世間知らずの星の子たちも助けてくださるでしょう。」【晴明】 「……さっき言ったことは全て、お前の嘘だろう。(現時点では、彼との直接的な衝突は避けるべきだ。彼の目的がわかるまで、とりあえず周囲を調べてみよう。)だが、過去の罪を裁くことよりも、今はここの皆を助けることのほうが重要だ。仮にお前が言ったように、私はお前にこの世界に連れてこられたのだとしよう。ならば、お前はもう人々を助ける方法を知っているのか?」【月読】 「あくまでも推測ですが。この世界には要となる四つの区域があり、それぞれ「支配者」が治めています。彼らを倒し、この世界を支配することができれば、人々は目覚めるはずです。もしよければ、案内役として同行してもよろしいでしょうか?これは何の力も持たない私にできる、唯一のことなのです。同行させてください。英雄くんとお話しながら、その旅路をこの目で見たいのです。ところで、あなたの「部下たち」はどうしましょう?」【晴明】 「(追月神をここに置いていく訳にはいかない。彼女の記憶を呼び起こせたら、嘘の世界が存在する理由とここから脱出する方法に近づけるかもしれない。ここを探索しながら、外と連絡を取る方法を考えるしかないな。しかし彼が言う、各区域の「支配者」を倒すというのは……罠か、それともこの選択を避けさせるための詐術か?傷はまだ治っていない。それに彼に触れる方法も未だにわからない。臨機応変に対応していくしかないか。)では……頼む。」内容を一部伏せながらも状況を一同に説明すると、追月神は一緒に行くと決めた。悪妖たちは「世界征服」の意欲を示した晴明に感心していた。晴明は最初の区域に向かって進み始めた。目的地に近づくにつれ、周囲の森は冷たく、荒れ果てていき、木々と大地も色褪せていった。最終的に、周囲の全ては色褪せ、黒と白、そして曖昧な灰色しか残らなかった。区域中が白い氷に覆われている。【月読】 「ここが最初の目的地です。ここは「時の止まる森」と呼ばれています。言い伝えによれば、ここでは時間が止まり、万物が色褪せてしまいます。」【晴明】 「追月神、この場所を知っているか?」【流光追月神】 「私は……こほん、目覚めてからずっと、世界を守る神であり続けてきたが、私の役目は世界を見回ることではない。だから……」【月読】 「おや、神とは世間知らずな存在なのでしょうか?しかし、世界のことを知らずに、一体どうやって人々を守るのでしょう?そういえば、あなたはいつ神になったのですか?」【流光追月神】 「そ、それはあなたたちが聞いていいことではない。」【月読】 「そうでしたか、これは失礼しました。」【流光追月神】 「(「神になった」……私はいつ神になった?どうして今まで疑問に思わなかった?記憶が……消えた!私は神なのに……私は追月神、私は神……ち、違う……私は一体誰だ?この感覚、懐かしい……私は、何度も自分に同じことを聞いているのか?!私の記憶は消えた。でも強烈な直感が告げている。目の前の悪神晴明が、問題を解決する鍵となる。)うっ、頭が痛い!」【晴明】 「大丈夫か?」【流光追月神】 「大丈夫だ……こちらの……えっと、案内人さん、説明を続けて。」【月読】 「ふふふ、いいでしょう。言い伝えによれば、この地の支配者は自分自身とこの区域の時間を止めたそうです。永遠に憧れ、死を恐れる者にとっては、ここは安息の地になりますね。人々はこの地の支配者を、支配者「八百比丘尼」と呼びます。」【晴明】 「…………この前の嘘の世界の起源の話だが、私は全く信じていない。でも一つだけ確信していることがある。この悪意に満ちた嘘の世界が現れたことに、必ずお前が関係している!」【月読】 「何の話でしょうか、よくわかりませんね。さて、共に愉快に進みましょう。「悪神晴明」の世界征服の旅を始めるのです!」 |
第二章ストーリー
第二章 |
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氷の中で笑い続ける少女を、晴明は黙って見つめている。【偽・八百比丘尼】 「悪神晴明、ようやく来ましたね。あなたは必ず私の領地に侵入してくるだろうと思っていました!ふふ、あなたにこの止まった時間を解き放つことができるでしょうか?」【晴明】 「…………」【月読】 「これは実にすごいですね。」【流光追月神】 「私は……彼女を知らないはず。でもなぜか、今の言動は彼女らしくないと感じる……」【晴明】 「こんな無意味な演出、一体誰が喜ぶんだ?」【月読】 「私です。」【悪妖】 「行きましょう、晴明様!俺たちも一緒に戦います。」【晴明】 「その必要はない。」少し前…… 「時の止まる森」に入った晴明たちは、雪の世界で暮らす人々に出会った。霊視で確認して、晴明はほとんどの人は頭に糸がついていないことに気づいた。ここにいる人形はごく少数だ。まるで周囲の氷のように、ここで暮らす人々の性格は冷たく、突然現れた晴明たちに何の反応も見せなかった。人々は周囲の環境と一つになったようで、話かけられなければ行動しなかった。注意して見なければ、彼らを景色の一部だと思って見過ごしてもおかしくないだろう。住民たちはその場に佇み、何かを考えているようで、何も考えていないようで、石像のように沈黙を貫いていた。【流光追月神】 「氷の世界なのに、全然寒くないな。ここは静かすぎる。音や色が全て、周囲の世界に呑み込まれそうだ。」【晴明】 「さっき住民たちと話したが、ここで暮らしている人々は喜びも悲しみも知らない。そしてこの静かさを気に入っている。嘘の神、お前は以前、この世界の人々は現実世界と何らかの関係を持っていると言ったな。」【流光追月神】 「神……」【晴明】 「追月神、紹介しよう。彼は……私との付き合いが長い、悪神だ。(そしておそらく彼こそが、嘘の世界を創り出し、追月神の記憶を消し去り、無数の人々をここに引きずり込んだ黒幕だろう。)」【流光追月神】 「「外の世界」……か?」【月読】 「ええ、でもこの世界のほうが、嘘と偽りを司る悪神に相応しいかもしれません。それで、何をお知りになりたいのでしょう?私が知っていることなら、必ずお答えします。」【晴明】 「もしお前が言った通りに、現実世界の人々が自ら嘘の世界に逃げ込み、己が信じたい「嘘」を築き上げたのなら。ならば、ここで暮らしている人々が望むものは、平穏だけではないはずだ。」【流光追月神】 「嘘の世界……(もし晴明の言う通り、ここが現実世界に基づいて作られた嘘であり、夢であるなら、世界の守護神たる私は、外の世界では…………思い出せない。けれど、あの笑顔の案内人からは、懐かしい気配を感じる。)人々は様々な願いを抱えている。乱世の中で、平穏を求める可能性もあるのではないか?」晴明は銀色の世界を見渡す。佇む人々の体には雪が積もっていて、その姿は真っ白な木々にも似ている。【晴明】 「止まった時……人々は不老不死に憧れ、死を恐れるがゆえに、自分のために嘘をついた。死を経験したことのない者は、死から逃れるために嘘をついたりしない。彼らは必ず生に期待し、憧れるものだ。しかし世界が彼らに与えたのは、死んでいるのと変わらないような永遠の命だった。」【流光追月神】 「永遠の命。彼らは静かすぎる色のない地で、考え続けている。こんな色褪せた、感情を持たない生が、本当の生だと言えるのだろうか?無限の時間を手に入れたのに、なぜここに留まり、一日中思考しているのだ?やれることはたくさんあるのに。」【月読】 「もう全て試したのではないでしょうか。限りある生命が永遠の命を持つ者の気持ちを推し量ることはできません。ちっぽけな虫が、人のような長い命を持つことを想像できないのと同じです。願いが叶った先に、待ち構えるのは永遠の幸せではなく、永久に続く虚しさかもしれません。さっき、やれることはたくさんあるのにと言いましたね。仮に、全ての最果てにたどり着いたとして、君の色は、鮮やかなままでいられますか?」【流光追月神】 「嘘が見せた結末は、彼らが本当に望んだものではない。このような抜け出せない状況に陥ったとしても、それは彼らのせいではない。だが、嘘のせいにするのも違う。こう考えると、こんな形で叶った願いは、むしろ……願いに溺れるべきではないと忠告しているようだな?こんなことをした者は、一体何を考えているのか……」【月読】 「ええ、一体何を考えているのでしょうね?」【晴明】 (この世界に入ってからずっと思っていたが、この世界は本当に不条理なことに満ちている。世界が動くためには、安定した規則、そして合理的に存在する万物が必要だ。しかしこの世界は、白々しく、暴かれるために存在している嘘のようだ追月神も自身の「不条理」に気づいたのだろう。だから神という立場に拘らず、「悪神」の私と共に行動している。以前戦った時、彼はより気づかれにくく、引きずり込まれた者に無限の苦痛を与える幻境を作ることができていた。もしこれが彼の作ったものだとしたら、なぜこんな拙いものを?まさか彼の言っている事は本当なのか?ここは彼が作った世界ではなく、自然と現れた世界なのか?はたまた、彼はわざと、暴かれるために存在する嘘を築き上げたのか?)【流光追月神】 「ここで考えていても仕方がない。案内人の言う通り、ここの支配者に直接会いに行こう。ここの雰囲気は、あまり好きではない……彼らに近づくだけでも、虚しさと感覚の麻痺が伝染りそうな気がする。(私の直感が告げている。進み続け、この世界でより多く痕跡を残せ、と。そうすれば、私は自分の記憶を取り戻すことができるはずだ。私はここに残りたいと思っていた。そして、やるべきことがあったことは覚えている。でもやるべきこととは一体何だ?私は一体誰だ?そして世界は今どうなっている……?だが、目の前の晴明を、信じてやってもいいだろう。)」【月読】 「我々の晴明様が支配者を倒し、ここを征服すれば、この場所の時間は再び動き出し、人々を呼び起こすことができるでしょう。」【晴明】 「……嘘の悪神がそう言うのなら、この後はきっとすごいことになるのだろう。」真っ白な森には長時間留まらず、晴明たちは住民に教えてもらった方向に進み、この区域を統べる支配者の居場所を見つけた。氷に覆われた海辺で、一人の綺麗な女の子が、すでに何もかも見通したかのように、笑顔で晴明たちのほうに振り返った。しかしその笑顔は操られる人形が無理やり見せたような、ぎこちなくて不気味な笑顔だった。話をかけようとした晴明も、思わず足を止めた。晴明は女の子の頭のほうに目を向けた。そこには空の上、世界の果てにも通じていそうな、ピンと張った糸があった。【晴明】 「八百比丘尼……?(いや、あれは生者の表情ではない。近くの住民たちとも違う。つまり操り人形か?もし全てが月読の仕業なのだとしたら、こういったわかりやすい違いは罠である可能性が高い……もし八百比丘尼も私のようにこの世界に引きずり込まれて、魂だけがこの人形に宿っているのなら。これまでの月読の催促は、私に早く手を出させるためか?私は霊視ができると、月読は知っている。私がこれは罠だと気づくのも彼の想定内だろう。逆に考えれば、もしかして……)」晴明が眉をひそめて考え込むのを見て、追月神は小さくため息をついた。【流光追月神】 「晴明?大丈夫か?」【晴明】 「……大丈夫だ。」【月読】 「心優しい英雄くんには仲間に手を出すことなどできない、なので躊躇われているのでしょう。ですがご安心ください……私の名にかけて、目の前のこの方は絶対にあなたのお仲間ではありません。」【晴明】 「……」【流光追月神】 「嘘の神の名にかけて、自分は絶対に嘘をついていないと言いたいのか?」【偽・八百比丘尼】 「悪神晴明、ようやく来ましたね。早く止まってしまった私の時間を終わらせてください。私に解脱を!!!」【晴明】 「ここの支配者が八百比丘尼と呼ばれていると知った時点で、こんなことになるのではないかと睨んでいた。」【偽・八百比丘尼】 「私はあなたに出会うため、あなたに永遠の命を討ち滅ぼされるためだけに、支配者になったのです。さあ、私を倒してください!時間の外側にある世界は、もう私のものではなくなりました。より多くの人々がこの牢獄に入るぐらいなら、私はあなたの手によって解脱に導かれたい。さあ、全てを終わらせてください。あはははは……」【晴明】 「……確かにこんなことになるのではないかと睨んではいたが……こうも拙いものまねは、さすがに予想外だ。」【月読】 「面白くありませんか?」大声で笑う女の子を見つめながら、晴明は霊符を飛ばした。言霊・縛が女の子の頭上の霊力の糸を避け、笑っている彼女を止める。晴明が前に出ようとした時、囚われた「八百比丘尼」は自分を縛り付けている鎖を壊そうと足掻き始めた。「ごきっ」という音が聞こえて、晴明が反応する間もなく、自分で首をねじ折った偽りの八百比丘尼が倒れた。」【晴明】 「な、なぜ……」【悪妖】 「さすが晴明様です!」【流光追月神】 「黙りなさい!」白い光が現れ、地面に倒れた「八百比丘尼」の体が溶け始めた。そして再び集まると、それはやがて顔を持たない白髪の人形へと姿を変えた。人形の体は夜空に似ているが、青色の中には似つかわしくない真っ赤な色が混ざっている。晴明はその人形の姿を知っていた。」【晴明】 「星の子か。月読、お前はこの子を……」【月読】 「気づかれてしまいましたか。」【晴明】 「最初から、誤魔化そうなどと思っていないだろう。 |
」晴明の眼差しをまっすぐに受け止めた月読は、倒れている星の子の人形に向かって手招きした。すると一人で立ち上がった人形が、服の裾を持ち上げて晴明に向かってお辞儀をした。晴明は気づいた。人形は星の子と同じ顔をしているが、もう以前のような凛々しい神威はない。人形の今の気配は、悪神の眷属そのものだ。」【星を歌う者】 「…………」【月読】 「これこそ私が言ってた、我が子のために創り出した新しい体です。彼らはもう星々の子ではない。星明かりを映す体は、濁ってしまいました。囚われた子供として、運命のためにつらい思いをするより……自我を消し、嘘を讃える人形になったほうが、よほどいいでしょう?もっと早くこうすればよかったですね。もっと早く彼らに無知を授け、もがいても手に入らない苦しみから守ってあげるべきでした。しかしこの子たちがあなたの仲間に成りすまし、嘘の世界の「支配者」になったことについては、勘違いしないでください。それは私とは関係ありません。」【晴明】 「白々しい嘘はやめろ、そんなものには誰も耳を貸さない。」【月読】 「いいえ、最後まで言わせてください。あなたに嘘だと思われても、言葉を口にした瞬間、「真実」になる可能性が少しだけ生まれます。あなたが一瞬躊躇い、すぐに霊力を込めた霊符を飛ばさなかっただけでも、私の勝利ですよ。」【晴明】 「……ならば続けてくれ。」【月読】 「ご想像の通り、これから出会うであろう区域の支配者は、全て我が子が成りすましているものです。しかし彼らが持っている力は、本物ですよ。彼らが支配する区域には、無数の人々の嘘と希望が集っていますから。絶望や苦痛から生まれる無数の嘘を背負うと、普通の人形も強い霊力を手に入れることができます。願いが集い、「神」に似た存在を生み出すのです。あなたもそれをご存知のはず。」【晴明】 「偽りの月……」【月読】 「その通り。嘘の世界は生まれたばかりの我が子たちを巻き込んだ上、彼らに役割を与え、いわゆる「支配者」を演じさせています。私の力では精々少し影響を与える程度で、彼らを操ることはできません。なぜあなたの仲間の姿をしているかについては……あなたたちは人間に近い姿をされていますが、人々に「神」に近い存在と思われているのではないでしょうか。人々は苦しみの中でもがき、我慢できずに嘘へと逃げ込みましたが、それでもあなたたちを尊敬していて、あなたたちのことを支配者と先導者だと思っているのでしょう。実に愛おしく、くだらない感情です。」【晴明】 「人々の気持ち、そして我々に与えられた期待は、他人が勝手に評価していいものではない。」【月読】 「お怒りですか?死を迎えるのはあなたの仲間の姿をした人形にすぎませんが、やはり怒りを感じますか。あなたはとどめを刺すのに躊躇するのではないかと推測していたので、こちらはその痛みを分担したい一心でした。本当に失礼しました、今後はやめておきますね。これからはあなたの決断にお任せします。よろしいでしょうか?」【晴明】 「これ以上無駄話をするつもりはない。」【月読】 「怒らないでください。誓います、私はただただこの世界でのあなたの旅を見ていたいだけです。全く悪意はありません。」さっきの出来事に驚いた追月神はようやく我に返り、笑顔を絶やさない月読を睨み始めた。一方、月読の言葉を聞いて、晴明はより多くの疑問と違和感を覚えた。【晴明】 「旅?そういうことか。自分とこの世界との関係を誤魔化すつもりはないようだな。このでたらめで矛盾だらけの世界を創り出したお前は、一体何を見たいんだ?」【月読】 「もちろん、善と悪の対決です。片や人々の願いや期待を背負う四人の「支配者」、片や人々を幻夢から助け出す「世界を滅ぼす悪神」。あなたは世界を滅ぼしているように見えて、実は嘘の世界に囚われた人々を救っているのです。筋の通った物語ではありませんか。現実世界で無数の期待を背負っているあなたなら、「悪神」の役をこなすことなど、造作もないでしょう。私は、あなたがこの地の人々を呼び起こした後に、我が子を連れてここから出ていきたいだけです。そのついでに、あなたの全ての経験と選択を見ておきましょう。」呆れて物も言えない晴明はため息をついた。月読が饒舌に並べた言い訳は全て、嘘としか思えない。【流光追月神】 「救い……もしここにいる人々が、救いを求めていないとしたら?私は今記憶が混乱しているから、あなたたちは他の世界からやってきたのだと一旦は信じよう。だが……あなたたちは、真実の姿を知っているから、ここは嘘だと判断した。だが目覚めていなかった以前の私にとって、そしてここで暮らしている人々にとって、目の前の世界こそが「真実」だ。つまり、人々を呼び起こすことは、世界を滅ぼすこと!」【晴明】 「ああ、あなたの言う通りかもしれない。だからさっきの「八百比丘尼」は解脱を望んでいたが、私はとどめを刺さなかった。追月神、迷いを抱えているのなら、私と共に旅を続けなさい。」【流光追月神】 「晴明、あなたは私を知っている、そうだろう?今ここにいる「私」とは違う、本当の私を。」【晴明】 「ああ。だがそれはあくまでも、私が知っているあなただ。一旦信じたい記憶も疑いたい記憶も置いておいて、自分の目と足で答えを探すといい。」【流光追月神】 「わかった。これからどうするつもりだ?」【晴明】 「とりあえず進もう、私も他の場所の状況を知りたい。あなたがさっき言った「人々を呼び起こすことは、世界を滅ぼすこと」という点についてだが。最初から彼に言われた通りにするつもりはない。そして選択を強いられる状況で慌てて答えを出すつもりもない。私を窮地に追い込んだ黒幕は、きっと私に慌てて答えを出してほしいはずだ。」隣の月読は晴明の言葉の含蓄を理解できなかったかのように、相変わらず笑顔を湛えている。【晴明】 「嘘という名を持つ悪神よ、有意義な答えを得ることは期待できないが、それでももう一度聞きたい。私がこうすることで、ここの人々を傷つけることになるのか?」【月読】 「信頼いただいているようで、光栄です。こうも真面目に聞かれたら、私も答えるしかありません……私には本当に悪意がありません。その他のことについては……何とも言えません。」【流光追月神】 「なぜそれほど回りくどいことをするのだ?互いの気持ちをはっきり言って、さっさと問題を解決すればいいだろう?どうしても互いを疑わなければならないのか?そんな言い方をしなければならないのか?」【月読】 「しかし、嘘の悪神が何を言おうと信じてもらえません。そうでしょう?今でも、晴明様はさっきの説明を信じておられないでしょう。」【晴明】 「私がお前を信じない理由を、お前は知っているはずだ。」【月読】 「ふふふふ……」【悪妖】 「……えっと……晴明様、話は終わりましたか?晴明様はここの支配者になられました。そろそろ次の区域に向かうべきなのでは!」【晴明】 「焦る必要はない。ここの住民たちと話してみようと思う。」【悪妖】 「あれ……その、晴明様の大いなる力で直接屈服させないのですか?そうですよ、思案に耽る氷のような連中に、晴明様の威厳を思い知らせてやりましょう!」周囲を見渡し、吹雪の中に隠れている人々を見ながら、晴明は勝手についてきた「妖怪の子分」の空っぽの、糸がついていない頭に目を向けた。何か決意したかのように、晴明は深呼吸して息を吐いた。」【晴明】 「……君たち、よく聞け。これからも私に仕え、悪神晴明の一番の部下になりたいなら、覚えておきなさい……真に強い「悪神」になるには、人に礼儀正しく接するべきだ。」【月読】 「?」【晴明】 「武力で人々に恐怖を植え付けることは最善の支配ではない。公正に人に接し、人に認めてもらうべきだ。それすらできないのなら、もう私についてくるな。「悪神晴明」はそんな部下などいらない。」【悪妖】 「せ、晴明様!!!!!ごもっともです!素晴らしいです!さすがです!俺は晴明様の教えを実践し、一生お供して、晴明様が世界を支配する日を見届けます!」【流光追月神】 「……本当に悪神になるのか?」【月読】 「これはこれは……」【晴明】 「これでいいんだ。追月神、次の区域に向かう前に、まずはここの住民に話を聞いてみよう。「支配者」を失った彼らの時間は、再び動き出したはずだ。もっと手がかりを見つけられるかもしれない。」【悪妖】 「晴明様…………大変です!!他の町の人々が、軍を集結してここに攻めてきました!やつらの城主は、「悪神晴明」を討伐すると宣言しています!」【晴明】 「……その首領は、誰だ?だいたい予想はつくが。」【悪妖】 「乱暴で邪悪な将軍です、名は「源博雅」と言います!」 |
第三章ストーリー
第三章 |
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眠っていた黒髪の少年は、戦いの物音で目を覚ました。どうせ小白がふざけてるんだろう。怒りと共に目を開けると、見知らぬ部屋が目に映った。【源博雅】 「?俺のこの格好はなんだ??」【侍従】 「博雅様!お目覚めですか!早く今日の戦闘を始めましょう!!」【源博雅】 「はあ?」【武士】 「城主様、今日こそ俺たちの試合を見に来てください。昨日首を切られた仇を、絶対に打つんだ!」【源博雅】 「何を言って……ここはどこだ?この感じ、以前幻境に囚われた時に似ている……どういうことだ、寝ていたらわけのわからない幻境に引きずり込まれたのか?しかも子供になったのか?敵に襲われたか?なんで俺なんだ?普通に考えて、敵は一番先に晴明を狙うはずだろう!!?俺はなんだかよくわからないが、なにかの手違いで手柄を立てて事件を解決する役割のはずだが?」【侍従】 「あの……ご無事でしょうか?」【源博雅】 「あ、ああ……こほん、さっき、俺のことを何と呼んだ?」【侍従】 「「城主様」ですが?あなた様はこの城の主で、一番強いお方ですので、城主様とお呼びしています。」【源博雅】 「そう、そうそう、俺は城主だ。その、お前、俺が誰なのか、そしてここがどこの城なのか、説明してくれ。」【侍従】 「は、はい!!」突然現れた部下たちの説明を聞いて、彼は状況を少し把握することができた。自分はこの区域を統べる城主であり、ここには戦いを愛する人々が集まっている。彼らはここで凶暴な欲望をむき出しにし、純粋な暴力と快楽を楽しんでいる。ここの一番強い存在として、彼は人々を完全に治癒する能力を持っている。例え前日に深手を負っても、すっかり元通りにすることができる。ここには四つの区域があり、異なる支配者が治めている。異なる地では、人々の生き様も違うらしい。【源博雅】 「どうして目覚めたら城主になっていたのかはわからないが、確かに霊力は無限に湧いてくる気がする……どう考えてもここは、現実を元に作られた幻境だ。今最も重要なのは幻境を探索し、ここに引きずり込まれた者が他にいないか確認することだ。おい、お前……」【侍従】 「はっ!」【源博雅】 「人を探している。一人は黒髪の女の子、淡い色の服を着ていて、傘をさしてる。すごく可愛い。もう一人黒髪の女がいる。いつも杖を持っていて、予言したりする。性格は見た目よりも成熟している。それから、見つけられる可能性が最も高いやつだ。名は晴明、白髪で青い服を着ていて、扇子を持っていることが多い。部下たちに通達し、全員で探せ。」俯いて少年になった自分の体を見て、言葉を付け足す。【源博雅】 「……白髪の少年の姿の可能性もある。扇子は、おそらく持っているだろう。(城主と呼ばれているんだ、少しくらい城主の威厳を示してもいいだろう。)これは城主の命令だ、全力で探せと伝えろ。」【侍従】 「晴明……!!!!ほ、本当ですか?」【源博雅】 「本当も何もない。俺は人を探しているんだ。なにを興奮している?」【侍従】 「良かった、ずっとこの日を待っていたのです!ご安心ください、我々は必ずや全力を尽くして城主様に勝利を捧げます!」【源博雅】 「勝利?何の話だ?別に勝負するわけじゃ……」【侍従】 「はい、わかっています!勝負ではありません、勝負にはなりません。城主様はごゆっくりお休みください。あとは全部俺たちに任せてください!」【源博雅】 「あ?ああ。そうだ、もし見つけたら、ちゃんともてなせ。粗相がないように。彼は……そうだな、俺たちの大切な客人だ。」【侍従】 「わかっております!必ず手厚く「おもてなし」致します!!!」慌ただしい武士の背中を見て、赤い服を纏った黒髪の少年は困惑気味で頭を掻く。【源博雅】 「見た目と違って、ここのやつらは結構熱心だな……」その後、彼は頻繁に城を離れて周囲を探索した。仲間の情報を手に入れ、ここから脱出する方法を見つけるために。彼の知らないところで、「城主様のために悪神晴明を探せ」という命令が、乱暴で戦を好む住民たちに知れ渡った。【悪妖】 「聞いたか?城主様自ら、悪神晴明を討伐するらしいぞ!なに?俺はこの間、彼を見つけたら「ちゃんともてなせ」と仰ったと聞いたぞ。」【武士】 「同じ意味さ!皆が注目している中で、自ら悪神晴明の首を切り落とすつもりなんだ!」晴明の行方がわかった時には、城中の住民たちは皆「城主様は大軍を集結して悪神晴明を討伐し、その領地を全て奪う」という話を深く信じていた。【源博雅】 「行方がわかったのなら、早く馬車を用意して出発しよう。」【侍従】 「すでに軍は集結しております。城主様のご命令で、町中の人々が一斉に出征できます!」【源博雅】 「大掛かりすぎないか?」【侍従】 「大掛かりでなければなりません!!!」【源博雅】 「……まあいいか。とりあえず、出発だ。」大軍が襲ってくるという情報が届いた後、村の住民を巻き込まないように、晴明は伝書の霊符を残し、「妖怪の子分」に村を守るように命じた。そして彼は素早く村から出ていった。【流光追月神】 「これから起きることは、だいたい予想できる。」【晴明】 「……月読、これもお前の計画なのか?まあいい、もう答えなくてもいい。」【月読】 「少しだけ、手配したことは認めます。何はともあれ、少なくともあなたに助けられ、彼らの止まった時間は再び動き出しました。放って置いても問題ありません。」【晴明】 「私もそう思っていたところだ。だがお前に言われると、また誘導されて罠にかかったのではないかと疑いたくなる。」【月読】 「どうやら私は徹底的に嫌われているみたいですね。」【流光追月神】 「……月読。自分のこともあまりわからない私には、他のことを考える余裕などない。それでも、やはり聞きたい……なぜいつもそんな風にしているのだ?笑顔といい、言葉といい、わざとらしい雰囲気を醸し出している。まるで他人を困らせて、敬遠されようとしているかのようだ。」【月読】 「……ほう。」【流光追月神】 「こほん、あなたが何か企んでいる悪い人だということはわかっている。だが今はこうして同行しているのだ、あなたの掴みどころのない言葉で晴明が疑心暗鬼になるのは困る。」【月読】 「ええ、いいでしょう。しかしあなたが聞きたい「なぜか」については……しばらく答えを控えさせていただきます。何せ、嘘の悪神なので、本当のことばかりを口にするわけにもいきません。私の言う事は、全て観客の独り言だと思ってください。」【晴明】 「観客……」【月読】 「英雄くん、今は私のことを考えている場合ではありませんよ。ほら……」晴明たちの目の前で、武装した人々と妖怪たちが対峙している。血腥い匂いと乱暴な妖気を感じた月読は、思わず眉をひそめた。【月読】 「お仲間の、文武両道に優れた博雅様が会いに来てくださったようです。」【晴明】 「……望むところだ。」晴明は大勢の先頭に立つ城主「源博雅」に目を向けた。同じく少年の姿をしている彼は、やけに美しい鎧を纏い、馬に乗りながら、弓矢を持って晴明たちを眺めている。「源博雅」がこの前の八百比丘尼よりも豊かな表情をしていることに気づいて、晴明は月読のほうを見やった。しかし月読の笑顔からは有意義な情報は得られなかった。【晴明】 「大勢で来ても無駄だ。無関係の人々を巻き込みたくない。追月神、援護してくれ。」【流光追月神】 「わかった。」【月読】 「頑張ってください。」【流光追月神】 「あなたは手伝わないの!?」【月読】 「私はただの幻影に過ぎない。か弱き存在で、戦いには向いていません。」【流光追月神】 「…………」一度姿を消した後、月読は戦場から離れた空き地に現れ、余裕を感じさせる顔で、包囲された晴明と追月神を観察している。晴明はそんな彼を無視し、次々に霊符を飛ばす。だがあくまでも人々を拘束するだけで、頭に糸がついている人形たちも傷つけはしなかった。一方、空高く飛び上がった追月神は光を放ち、晴明のために、邪悪な城主「源博雅」へと通じる道を切り開いた。軍馬に乗った「源博雅」は晴明の行動に驚いたようだ。我に返ると、どういうわけか、彼は弓を投げ捨てた。手を振ろうとした瞬間、彼の手は光に射られた。側に現れた追月神は、突然以前月読が言っていた「人々は晴明に期待を寄せている」という言葉を思い出した。【流光追月神】 「ふん!暴虐の城主源博雅、今日あなたを倒した者を覚えておけ!彼こそは……」【月読】 「彼こそは……」【流光追月神】 「悪神晴明!!!」【晴明】 「……」月読が好機を逃さずに拍手している中、「源博雅」が乗っている馬の足元に霊符の法陣が浮かび上がり、鎖が現れて彼をきつく縛った。今度は、相手が鎖を利用して自害しないように、晴明は特別に霊符に強い霊力を込めた。周囲の人々が騒ぎ出す。戦いがこうも早く終わるとは、誰も予想していなかった。【晴明】 「追月神、今後このような芝居がかった言い方で名乗るのはやめてくれ。こほん、皆、失礼。君たちを傷つけるつもりはない。ただ少し今の状況について聞きたい。」晴明は鎖に縛られて落馬した「源博雅」を見た。困惑していた彼の表情が怒りに変わっていく。その表情は、とても人形には見えないほど生き生きとしていた。【晴明】 「君は……」晴明は無言で霊視で確認し、複雑な表情で地面に倒れている少年を見つめた。【源博雅】 「ゴホゴホ、ゴホ……晴明……お前、何のつもりだ!?みんなを見つけるために、俺は色々な方法を試した……どうして数日会わないうちに、悪神になったんだ!?」 |
第四章ストーリー
第四章 |
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紆余曲折の末、晴明は「源博雅」と合流した。一行は城主「源博雅」と共に、彼が治める町にやってきた。途中、少年は目覚めてからの出来事を晴明に説明し、「激戦享楽の城」で一旦休憩するよう晴明たちを誘った。【源博雅】 「そもそも、こんな変な名前一体誰がつけたんだ?この俺でも、その名前を口にするのは少し恥ずかしい。」【月読】 「英雄くん、どうして私の方を見るのですか?」【源博雅】 「……あっ!ずっと何も言わないから、お前がいることを忘れるところだった!嘘の悪神、てめえ!全部お前の仕業だろうが!」【月読】 「でも私は本当に、何も知りませんよ。それに、ご覧ください。私は今でも幻影を維持するだけで精一杯です。」黒髪の少年は拳を繰り出した。しかし空気に当たったかのようにそのまますり抜けてしまい、均衡を保てなくなった少年は転んだ。晴明は複雑な顔で、目の前で起きていることを見ている。【侍従】 「!!!城主様を狙う刺客か!」【源博雅】 「いや、大丈夫だ、下がっていろ。ふん、どうせまた何か企んでいるのだろうが、今は見逃してやろう。晴明、本当にこいつに言われた通りに、ここの人々を呼び起こすのか?ひょっとしたら、ここはただの幻境で、俺たちを除く全員、星の子が化けているのかもしれないぞ。俺たちをからかうためにな。」【晴明】 「私は……私は月読の話を信じたわけではない。自ら観察して判断を下した。今まで私は二つの区域を巡り、ここで暮らしている多くの住民を観察してきた。ここの……住民に、多少なりとも記憶が残っているのは、ほぼ間違いないだろう。」追月神に目を向けると、晴明は少し間をおいてから続きの言葉を口にした。【晴明】 「だが、彼らは自ら記憶を捨て、嘘の世界の歪んだ記憶を受け入れた。つまり、彼らは自分の信じたい現実で、元の記憶を上書きしたんだ。」【流光追月神】 「…………」【晴明】 「だから、各区域の「支配者」を倒し、ここを完全に治めた暁には、私に無理やり呼び起こされるのではなく、人々が自ら目覚めるような方法を試したい。今のところ、この世界に入った後、外の世界にある体がどうなっているのかは不明だ。」【流光追月神】 「もし誰かが素直に白状してくれたら、手間が省けるのだがな。」【源博雅】 「そうだ!この世界に入ったはいいが、外の俺はどうなってる?まさか消えてないだろうな?」晴明はしばらく何も言わずに彼を見つめていた。月読は諦めたようにため息をつき、自分は無実だと言わんばかりに頭を横に振った。【月読】 「私はまだ月海の中にいます。外の世界にとってはまだ「存在していない」ので、平安京の人々に手を出すことはできません。それに、偉大なる高天原の武神、須佐之男は、相変わらず彼の神格であなたたちを守っている。そうでしょう?」【晴明】 「これ以上手がかりないなら、考えても意味がない。ここの「支配者」は君だ、我々は人々を呼び起こす方法さえ見つければいい。ここの人々について、何か知らないか?」【源博雅】 「彼らのことか……ここの人々には、お前の言う「信じたい現実で自分を騙す」様子は見られない。ここで暮らしている人々は、毎日戦いのことを考えている。彼らは戦闘を楽しみ、弱肉強食を唯一の信条とし、道徳などというものは度外視している。だからここに来てから、俺はあまり城の中にいなかった。こんなやつらが、現実の辛さに耐えきれず、嘘に逃げ込んだりするか?」【月読】 「それはどうでしょうね。時に、人が一番やりたいと思うことは、彼らが「やってはいけない」とはっきり自覚していることかもしれません。しかしそれが禁忌だからこそ、人は惹きつけられてしまう、そうでしょう?」【晴明】 「禁忌……」【月読】 「英雄くんは、なかなか理解しにくいでしょう。あなたは道徳というものを一番大切にしている、そうでしょう?高潔で眩しいあなたには、陰鬱で邪悪な欲望はきっと理解できないでしょう。あなたたち人間、そして天照も、嘘と偽りを罪と見なし、嘘の神は嘘しか口にしないと思っている。しかし実のところ、「嘘」こそ最も真実を示すものなのです。」雑談しているように見えた月読が、さり気なく追月神を一瞥する。【月読】 「人々は自分を騙す。自分にないもののために……これが真実ではないなら、真実とは一体何なのでしょう?」【晴明】 「……そうだな。」少年の体の、眉をひそめている「城主」を見て、晴明は少し躊躇った後に口を開いた。【晴明】 「これがお前の質問の答えかもしれない。ここに集い、暴虐な欲望を剥き出しにしている人々は、現実では真逆の生き方をしているのかもしれない。彼らは悪というものをよく知りながら、悪に憧れているが、その欲望は常に抑えておくしかない……だから、ここにやって来たのだろう。」【月読】 「まさか私たちの英雄くんにもそんなご経験が?善悪をはっきり区別できるにも関わらず、徹底的に堕落して、悪意に身を任せたいと思うことが?はたまた追月神、君は、あなたは心の底から何かを恨んだり、道徳の束縛から解き放たれたいと思ったりしたことはありませんか?」【源博雅】 「…………」【月読】 「認めてもいいのですよ、全て仕方のないことです。誰にも知られず、誰にも見られていなければ、ありのままの自分をさらけ出してもいいのです。ふふ、規則の外の存在を認めなければ、それらの存在は消えるとでも?」【源博雅】 「……お前みたいに予言ができるやつらの言うことは、わかりづらくて仕方がない。」【月読】 「そうですか?」【源博雅】 「晴明、はっきり言ってくれ。ここの人々を呼び起こすには、どうすればいいと思う?」【晴明】 「……確かに一つ方法を思いついたが、博雅、君はつらい思いをするかもしれない。」【源博雅】 「いいんだよ、お前の力になれるなら!」【晴明】 「ここの人々が戦いや道徳に背くことを通じて暴虐な欲望を満たし、「享楽」を目指しているのなら……存分に戦わせる。それと同時に、全く楽しめないようにすればいい。」【流光追月神】 「え?」【月読】 「ふふふ……」【源博雅】 「戦わせる?誰と誰が……俺か!?」【晴明】 「ああ。博雅、君は今でもこの区域の「支配者」だ。この嘘の世界の「規則」のもとでは、君はきっと戦闘においてここで最も強い存在だ。だから君が何度も何度も彼らと戦い、そして打ち負かすんだ。彼らは敗北の苦しみを味わい続ける。」【源博雅】 「それは本当に意味があるのか?」【流光追月神】 「いや、違う。もしあなたの言う通り、ここの人々が欲望を満たしたいと思っているのなら、つらい目に遭ったら、また別の嘘で自分を騙せばいいのではないか?いや……それも違うような……」【晴明】 「その通り。それが嘘の世界の「規則」の抜け穴だ。時の止まった人々のことを考えれば、結論を出すのは難しくない。もしここが人々の願いを全て叶えてくれる本当の楽土なら、永遠の命を望む彼らがあのような思案に暮れた状態にはならないだろう。」【流光追月神】 「永遠の命を望む者は「生きる」ことだけを望んでいるわけではない。生きる上でたくさんのことを望んでいるはず。しかし世界は彼らの願いを歪ませた。」【晴明】 「ここは優しい夢の国なんかじゃない。歪んだ嘘で人々を騙し、操る幻境なんだ。ここにやってきた人々は記憶を失ったのではなく、「過去を思い出す」ことを忘れてしまったんだ。」【流光追月神】 「……まるで、人が自分は夢を見ていると気づいた途端に、目を覚ますように。」【晴明】 「恐らく嘘の世界を築き上げた者は、あまり誤魔化そうとは思っていなかったのだろう。あるいは、嘘が暴かれるのを望んでいるのかもしれない。」【月読】 「論理的な推理、さすがですね。告白しましょう。嘘の世界は端から、客人をここに留まらせるつもりはありません。そして「永遠不滅」の嘘を築き上げる力もありません。太陽ですら、永遠ではないのですから。果たしてこの世に、真の永遠など存在するのでしょうか?ふふ、英雄くん、続けてください。」【晴明】 「私は人々に選んでほしい。世界が強引に隠した彼らの記憶を呼び起こし、ここの住民たちに伝えるべきことを全て伝え、その上で選んでほしい。そのため、彼らに自ら足掻き、探してもらいたい。……だから、博雅、しばらくここに残り、住民たちと戦い続けてくれないか。」【源博雅】 「あいつらが飽きるまで、か?」【晴明】 「彼らが辛いと感じ、嘘から目覚めたいと思うようになるまで。」【源博雅】 「戦い続ければ、今までは楽しかったことも辛いと思うようになるかもしれないな…………だが、最後まで正気を保たねばならない俺はどうなる?」【晴明】 「頑張ってくれ。」【流光追月神】 「頑張れ!」【月読】 「頑張ってください!」晴明の計らいにより、「城主様」はしばらくこの地に残り、住民たちを呼び起こすために戦い続けることになった。晴明たち三人は、次の区域に向けて出発した。【月読】 「本当に予想外でした。」【晴明】 「お前にも予想外だと思うことがあるのか?」【月読】 「もちろんです。あなたがそんな方法を提案することも、そして仲間にそんな風に接することも、全て予想外でした。」【晴明】 「……この前お前が言ったように、一瞬だけ悪の側面に身を委ねたということにしておこう。私はただの人だ。人々に期待されていて、その期待は裏切りたくない。しかしそれは、私が聖人君子だということではない。」【月読】 「私から見れば、あなたは正に「聖人君子」ですよ。目の前で起きることに優しすぎて、やや甘すぎる嫌いすらあります。」【晴明】 「ならばお前はどうだ?」【月読】 「え?自ら私に話しかけるなんて、珍しいですね。」【晴明】 「ここの全てを手配し、「観客」と名乗るお前は、一体何が見たい?」【月読】 「その答えは、まだ秘密にさせてください。約束しましょう、旅が終わる時、あなたは必ずそれを知ると。」【晴明】 「……」【流光追月神】 「すまない、晴明、待たせた。城の中で迷子になって、やっと戻ってくることができた。出発しよう。」【晴明】 「大丈夫か?休憩が必要か?力が安定していないようだが。」【流光追月神】 「平気だ。」【晴明】 「やはりこの前の話を気にしているのか?あくまでも私の体験談だが、人は皆自分なりの「闇」を抱えている。思い出したくない過去や、辛かったこと。逃げたいと思うのが普通だ。しかし自分の口にできない「闇」に向き合い、それを認めてこそ、それを乗り越えることができる。ここを離れれば、あなたも思い出すだろう。仮に忘れてしまっても問題ない。皆が代わりに覚えている。月読、嘘の神よ、お前も同じだ。」【月読】 「…………感動してしまいました。「闇」との付き合いについてのお話は、実に勉強になりました。どうやらあの「黒晴明」とも仲が良いようですね?」【晴明】 「そういうことではないが……」晴明たちの逃避と嘘の話を聞いて、ほとんどの記憶を思い出した追月神は、皆から離れて、誰もいない隅っこにやってきた。自分が妖怪であること。認められ、肯定されるために、他の神の神社を乗っ取ったこと……思い上がって分不相応な願いを引き受け、暴れる悪妖を止められなかったこと。そのせいで、何の罪もない女将さんを死なせてしまったこと。【流光追月神】 「……もしも何も知らなければ、何もなかったかのように振る舞っていられた。しかし知ってしまった以上、そうはいかない……もう逃げてはいられない。ここから出たら……彼女に会いに行こう。でも「ここでのやるべきこと」を思い出すまで、もう少し時間がほしい。そうだ、もしをここから出ていくのなら、先に残しておかなければ……」晴明一行が去った後、城主の命令が下され、すぐに執行された。「本日より、城の者は毎日城主と一回勝負しなければならない。城主が敗れるまで、戦いは終わらない。」最初は、好戦的な乱暴者たちは我先にと試合に挑み、少年の姿の城主に打ちのめされていった。しばらくして、自ら勝負に挑んでくる者は減った。ほとんどの勝負が、城主が自ら出歩き、人を見つけた次第に始めたものだ。何度も何度も敗北を繰り返すと、人々は隠れたり、その場から去ったりするようになった。しかし強き城主には敵わず、彼らは戦闘と敗北を繰り返さざるをえなかった。【源博雅】 「今日はこれで終わりだ!お前ら!鍛錬が足りないぞ!このままではだめだ!!それでもさぼる気か?一度鏡で自分の姿を確認してこい!」またしてもわずか半日程度で城の住民を一人残らず打ちのめした少年城主は、皆に囲まれながら、従者から茶を受け取った。さっきの言葉がきっかけで、彼はここに来て長い時間が経ったが、まだ少年姿の自分をよく見ていなかったことに気づいた。なぜか突然少し恐怖を感じた彼は、鏡の前に立ち、鏡の中の自分の姿を……黒髪に赤い瞳の、容姿端麗な少年の姿を見つめる。源博雅を知っている人なら必ず、出会った瞬間に気づくだろう。彼は正に少年時代の源博雅だ……頭上の細い糸を除けば。【源博雅】 「糸……?これは……何だ?」一度鏡に触れたあと、彼は手を伸ばして頭上にある糸を掴もうとした、しかし冷たい何かに触れた感触が伝わってきた。【月読】 「賢い子だね、ようやく気づいたか?」【源博雅】 「お前は……あなた様は……月読様。」【月読】 「あの陰陽師は騙せなかったが、それでもよくやってくれた。真面目に自分の役割をこなして、君は本当にいい子だ。私の月海に戻り、安らかな夢に帰るがいい。」【源博雅】 「はい、月読様。」月読は人形と手を繋いでその場でぐるりと一周回った。その後人形は、多かれ少なかれ記憶を呼び起こされた城の人々を残して、光玉となって消えた。そこから立ち去ろうという時に、彼は突然何かを思い出したように空を見上げた。空から垂れる糸は、すでに人形と共に消えていた。冷たい眼差しが頭上の偽りの空に向けられる。世界の外の存在を見ているようでもあり、この世界を傍観する星々を見ているようでもあった。【月読】 「あなたのことも騙せたでしょうか?ふふふふ、嘘の神として、とても光栄です。」 |
第五章ストーリー
第五章 |
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「源博雅」と別れた後、晴明たちは引き続き次の目的地に向かった。しばらくすると、彼らは桜が咲き乱れる森にやってきた。夕焼けの茜色の空が永遠に続き、咲き乱れる花々のおかげで甘い匂いが漂っている。追月神がぴくっと耳を動かすと、遠くから歌や音楽が聞こえてきた。【流光追月神】 「この先に町がある。この場所は博雅の町とは違うようだ……いい匂いがする。月読、案内役はもうやめるのか?」道中、追月神はすでに、記憶を取り戻し、本当の自分自身と、過去の出来事を思い出したことを晴明に打ち明けた。しかしどうやってこの世界に来たかは相変わらずわからないままだ。追月神が本当の自分をほとんど取り戻したので、晴明は彼女に嘘の悪神の過去、今の世界に関する推測や、人形の住民たちのことについて教えた。【月読】 「この先の町の、「支配者」に関して、お二人はもうお察しでしょう。住民たちはこの町を「童歌幻夢の里」と呼んでいます。名前の通り、ここは子供たちの楽園です。」【晴明】 「子供……」【流光追月神】 「もしあなたの言う通り、ここが人々が嘘を使って築き上げた理想郷なら、ここには大人になりたくない子供が集まっているのか?成長は未知だ。ゆえに恐れ、逃避を望むのか?本当にそれだけなのか……?」【晴明】 「とりあえず行ってみよう。」彼らは遠くから町を眺める。霊視ができる晴明は、ぎっしり並んでいる糸がほぼ茜色の空を覆い隠しているのを見た……あそこの人形の数は、他の場所が比べ物にならないほど、圧倒的に多い。【男の子】 「わあ、新しいお客さんだ!」【女の子】 「高い!背が高い!帽子の人!」【晴明】 「……君たち、ここの「支配者」を知らないか?彼女の居場所を教えてくれないか?」【男の子】 「知りたいなら、僕の「下僕遊び」に付き合って!僕の言うことを何でも聞いて!」【女の子】 「あたしに聞いてるんだから、あたしと遊ぶの。」【晴明】 「すまない。私は他に用がある、彼女の居場所を教えて欲しい。」【女の子】 「意地悪!!悪い人!」【男の子】 「どうして僕の言うことを聞かないんだ!僕の言うことを聞け!許せない……ううううう……そしてそこの、灰色の兎!その鼓、叩かせて!」【流光追月神】 「灰色の兎って……」【晴明】 「話にならないな。他のところに行ってみようか……」晴明たちがそこから立ち去ろうするのに気づくと、周囲を走り回っていた子供たちが一斉に集まってきた。遠くで音がした後に現れた巨大な人形が何体も、子供たちの命令に従い、踊りながら迫ってくる。途中、人形たちはまた子供たちの命令に従って人形同士で争い、互いの腕や首をちぎって無数のゴミくずを撒き散らした。 |
」【星を歌う者】 「……痛い。」【流光追月神】 「人形が、喋った!?」【月読】 「喋った……?」【流光追月神】 「どうしてあなたまで驚くんだ?!」【月読】 「いや、ここにいるのは我が子ではありません。どうやらここの子供たちは、星の子に倣っておもちゃを作ったようですね。」【流光追月神】 「おもちゃが……痛いと言うのか?あっ!」地面に散らばった人形の欠片のほうに飛んでいった追月神は、それを元に戻そうとしたが、人形の関節から赤い液体が滲み出ているのに気がついた。【流光追月神】 「血……?これはおもちゃではなく……生きている人なのか!?生きている人をおもちゃにする子供がいるなんて!しっかりして、必ず助けてあげるから……」【晴明】 「この世界で死んだら、どうなる?」【月読】 「私にもわかりません。夢から目覚め、ぼんやりと悪夢を見たなと思うだけかもしれません。しかし、そうでなければ……二度と目覚められなくなるかもしれませんね。私をそんな目で見ないでください。私には悪気がないと言ったでしょう。人を傷つけたりしませんよ。」【流光追月神】 「ああ……」追月神が妖力で「生きた人形」を助けようとしていると、人形が突然暴れだして子供たちのところに飛んでいった。光がさして、人形は子供の姿になった。【女の子】 「あははは、面白かった!今度は君たちの番よ!」【流光追月神】 「……平気なのか?体は痛くないか?」【女の子】 「痛い?痛いってなに?それより、お姉ちゃん、一緒に遊ぼうよ!」【流光追月神】 「どうやら平気のようだな。」【晴明】 「ここの子供たちは、人間の子供の特徴が誇張されている。気ままに暴れ、他人に服従を強いる。何も知らないから、楽しい以外の気持ちを感じられない。知るがゆえに苦しむ。無知であることは幸福だ……ということか?」晴明がこれからどうすべきかと考えていると、背後から少し懐かしい少年の声が届いた。その声は、喧嘩している子供たちを止めた。声の主は金髪金眼の少年だった。晴明は彼の頭上の細い糸を見逃さなかった。【見覚えのある人形の少年】 「大丈夫か?久しぶりに新しいお客さんが来たから、子供たちははしゃぎすぎたようだ。いつも仲良くするように教えているが、聞く耳を持たない。毎日叱ってばかりいるわけにもいかないから、仕方なく見過ごしてる。」【晴明】 「…………」【流光追月神】 「その顔……」【月読】 「ふふん。」【晴明】 「幼い姿で現れた八百比丘尼と博雅の人形を目にした時に、気づくべきだった……これもお前のくだらない遊びか?」【見覚えのある人形の少年】 「?」【月読】 「まずは中に入ってみませんか?」【見覚えのある人形の少年】 「新しい客人よ、俺が案内する。」目の前の少年は須佐之男に似ていた。頭上の糸は彼が人形であることを示している。しかし豊かな表情ができる彼は、人形というよりも生きている少年に似ていた。ただ、晴明は高天原の武神のこんな自然体な姿と表情をあまり見たことがなかった。平安京の人々に優しく接する時でも、やはり彼は独特な余裕を持っていた。それは誰も無視できない神の威厳だ。一方、須佐之男に似ている少年は、むちゃくちゃな子供の町で、見慣れない笑顔を湛え、遥々やってきた客人に案内を申し出た。【晴明】 「では頼もう。」【流光追月神】 「晴明……この人も、人形か?だが見た目は……」【晴明】 「私の推測が正しければ、彼は高天原の神、少年時代の須佐之男の見た目を象って作られた人形だ。」【流光追月神】 「ええ……」後ろにいる月読を一瞥した後、追月神は思わず眉をひそめた。【流光追月神】 「彼は一体何を考えているのだ……」【晴明】 「この世界で目覚めてから、私はずっとその問題について考えている。」【流光追月神】 「答えは見つかった?」【晴明】 「……はあ。答えは、考えないことだ。彼の目的と動機を考えるな。仮に彼に話を聞いても、誤解するよう誘導する答えが返ってくるだけだ。」【月読】 「聞こえていますよ。ただの人形ですし、英雄くんは見抜けるでしょう。月海で目覚めた後、暇を持て余していたので、嘘の世界をより面白くするために、私はたくさん研究したのです。」【流光追月神】 「なんだと!この前は、星の子のために来たなどと言い訳していたのに。ここはやはりあなたが創った世界なのか……晴明、今のうちにこのまま彼を倒して…………もう、どうせこの世界を創った時にすでにこうなることを予想して、何らかの準備をしているはず。この怒り、そしてどうしようもない気持ち……これが嘘の悪神なのか?」【月読】 「お褒めに預かり光栄です。」少年時代の須佐之男に似た人形は、彼らの言葉の意味が理解できないようで、興味深そうに彼らを見ている。彼に案内されて町の中に入った晴明は、目の前の人形をこっそり観察していた……表情、動き、喋り方。あらゆる特徴が、操られる人形よりも、生きている人に近いことを示している。【見覚えのある人形の少年】 「俺たちの「支配者」に会いたいなら、こっちだ。町は少し散らかっている、足元に注意してくれ。ん?俺のことか?俺は町の普通の住民で、ここの秩序を守りながら、子供たちの面倒を見ている。ここは他にも多くの人々が暮らしている。ゆっくりしていってくれ、自由にやりたいことをやればいい。」晴明は複雑な顔で目の前の「須佐之男」を見ている。爽やかな笑顔で自己紹介している彼に対し、晴明は急にどうすればいいのかわからなくなった。一方、背後の月読は、彼が作った人形だというのに、その言葉と晴明の反応を見て、楽しそうに笑っている。しかし彼はすぐ笑うのをやめた。【冷静な人形の少年】 「来てくれたか。新しい客人が来ることはすでに予言していた。ご苦労だった、ここからは私に任せてくれ。」【流光追月神】 「もしかして……荒様……?」【晴明】 「嘘の世界をより面白くするために色々準備をしたという話は、どうやら嘘ではないようだな。」【月読】 「はは。」晴明たちの前に現れたのは、狩衣を着た長髪の無表情な少年だった。彼も晴明たちがよく知る、もう一人の神の少年時代の姿をしていた。【冷静な人形の少年】 「私はここの「支配者」様の世話をする者、同時にここの予言の神でもある。客人よ、彼女はすでに待っている。最近外界からの噂がよく届く。悪神晴明はすでに二つの地を征服し、まもなくここに来る、と。悪神一行とは君たちのことだろう。」【流光追月神】 「……それは。」【晴明】 「噂の「悪神晴明」とは確かに私のこと。しかし信じてほしい、我々に悪意はない。」【冷静な人形の少年】 「わかっている、もう星々の導きを得た。だからこうしてここで待っていたのだ。」人形の荒は後ろの一行に目を向け、複雑な顔の追月神、眉をひそめる晴明、そして手で口を隠しながら笑う月読を順に見ると、そのまま目をそらした。【冷静な人形の少年】 「予言にいなかった客人がいる。」【月読】 「私はこの地に迷い込んだ名も無き旅人です、お気になさらず。」【流光追月神】 (この地に迷い込んだ黒幕の間違いじゃ……)【冷静な人形の少年】 「ああ、分かった。行こう、あまり彼女と離れていたくない。」街道を通り抜ける中、晴明はより多くの人形を目にした。人形の子供たちは皆本当に生きているかのように、それぞれの生活を送っていた。子供の人形の中に、晴明は色々な「荒」と「須佐之男」を見つけた。しかしこの旅では奇天烈なことをたくさん見てきたので、彼はもはや驚かなかった。しかし相変わらず、目の前の全てに疑いの目を向けていた。前を歩く案内人に気を使い、追月神と晴明は少し後ろを歩いている。追月神が興味津々に周囲の人々を眺める。【流光追月神】 「わあ……こ、これが全部人形なのか?平安京にいた時は、須佐之男に会うことはなかったが、彼は高天原の武神だろう……あなた……一体どんな気持ちでこの人形を作ったの……」【月読】 「面白いでしょう?」町の真ん中に近づくほど、人間の数が減り、人形の数が増えていく。その中には同じ顔を持ち、様々な服を着ている少年時代の荒と須佐之男がいる。賢そうな須佐之男が帳簿を確認している。太い三毛猫を枕代わりに使う須佐之男は、野良猫に囲まれて中で昼寝している。子供たちの中で楽しそうにガキ大将をやっている須佐之男もいる……同時に、彼らは様々な少年時代の荒の人形を見つけた。彼らは街道付近の空き地で真面目に星図を描いたり、本屋を管理したり、他の子供たちに授業をしたりしている……少年姿の彼らは、頭上には空から垂れる糸があるが、本当に生きているかのように生き生きとした表情だった。彼らはまるで神ではなく、ただの人として自分なりの生活を送っていた。案内役の荒は周囲のことを気にもとめない。しかしこの不思議で幸せそうな光景を見て、晴明と追月神はますますわからなくなってきた。【月読】 「お二人は、なぜそんな顔を?」【晴明】 「……私はただただ解せない。もし以前我々と争った嘘の神がこんなにも人情味のある神で、弟子や同僚を大切にしていたのなら、どうして……」【月読】 「英雄くんは先入観に囚われていますね。私はいつも彼らを大切にしていますよ?大切な人、嫌悪、愛情、恨み。それらの感情は別に矛盾していません。そうでしょう?」【晴明】 「……」【月読】 「なぜこんなことをするのか、お聞きになりたいようですね?ご安心ください、今度は嘘はつきません。ご想像のとおり、太陽の女神がついた嘘の罪の化身たる私は、本当に死ぬことはありえません。そして今度蘇ってからは、彼らの……あなたたちの存在があるので、純粋な「嘘の悪神」になることもできません。私が目覚める度に、運命からの贈り物が届くのです。」【流光追月神】 「……自分の役割のことか?」【月読】 「最初に天照に呼び起こされた時、私は自分は真実と対なる嘘の罪であると知りました。二度目に目覚めた時、私は予言の神という役割を与えられました。三度目は……「以前の月読」として蘇ったのです。人間は運命の軌跡に沿い、僅かな百年を過ごします。運命の奔流の中ではちっぽけすぎて取るに足りない存在ですが、それでもちゃんと始まりと終わりを備えています。一方、私は……ふふ、その場に留まることしかできません。しかし須佐之男と荒は違います。彼らは神の体、運命の位を持っていますが、普通の人のように成長し、変化します。しかしいくら変わっても、定められた「神」という役割からは逃げられない。だからその身には、神としての未来と可能性の延長線が現れる。しかし、知りたくはありませんか?もし彼らが神ではないなら、もし彼らがどんな存在にでもなれるのなら……我らが高天原の偉大なる二柱の神は、一体どんな姿に成長するのでしょう?」【晴明】 「つまり、この人形たちはその実験か。」【月読】 「ただの気まぐれです。確かにこの世界には、私に操られている人形がたくさんいます。しかしここの人形たちは違います。あの二人だけではありません、ここで暮らしている全ての人形は、ただただ作られ、外見や性格を与えられただけです。その後の全ての可能性と方向性は、全て彼らのもの、彼らだけのものです。偽りはやはり偽りにすぎません。それでも……偽りの人形が舞台上で演目を披露した後、観客が得た喜びは、紛れのない真実です。こんな普通の生活を送っている彼らを見て、英雄くんですら、知らないうちに少しずつ警戒するのをやめ、疑うことをおやめになったのではないですか?」【晴明】 「ああ、わかった。もしさっきの告白で私の警戒を解けると思ったのなら、すまないがお前を失望させることになる。私のやるべきことは変わらない。」【月読】 「全く油断されていませんね、英雄くん。わかりました。」先導して道案内している荒の人形は、ずっと黙って彼らを待っている。話が終わったことに気づくと、彼は振り返り、招待するような姿勢になる。【冷静な人形の少年】 「ここだ。」【晴明】 「君は……そうだな、何と呼べばいい?」【冷静な人形の少年】 「我々にとって、名前など何の意味もない。」【流光追月神】 「だが我々は外から来た客人だ。名前が分からないと、きっと不便だ。」【冷静な人形の少年】 「一理ある。これも客をもてなす礼儀作法の一部だろう。名前は……」【晴明】 「君と顔が瓜二つの人を知っている。もしよければ、しばらく「荒」と呼んでもいいだろうか?」【月読】 「……」【冷静な人形の少年】 「わかった、問題ない。」【「荒」】 「では中へ。」晴明たちがこの区域の「支配者」の部屋に入ると、案の定、幼い神楽の姿の人形が正座して、彼らを待っていた。」【偽・神楽】 「私がここの、えっと、支配者。あなたが、噂の悪神晴明?予言によると、あなたは……あなたは私を殺して、そして世界を滅ぼすの?町の皆が傷つくのは嫌だから、こうして私のところに通した。神楽はずっといい子で、頑張ってみんなの面倒を見てる。ここのみんなも幸せな生活を送ってる。……神楽を殺さないで?」晴明と追月神は非難の目で月読を睨みつけた。しかし彼は涼しい顔で瞬きして、晴明に向かって「どうぞ」と身振りで示した。【晴明】 「はあ……神楽、怖がらなくていい。君を傷つけたりはしない。私は誰も傷つけない。噂とは異なるが、私はここで暮らしている人々を救いたいんだ。神楽、協力してくれないか?」目の前の幼い神楽がただの人形だと知っていても、やはり晴明は優しい声で話し掛け、しゃがんで彼女に手を差し伸べた。幼い神楽は小さく頷き、立ち上がろうとする。その時、隣にいた荒の人形が突然動き出し、晴明と幼い神楽の人形を突き飛ばした。稲妻を纏った雷の槍が、凄まじい勢いで晴明がさっきまでいた場所に刺さった。【流光追月神】 「あなたはさっきの……いいえ、違う……」【晴明】 「……須佐之男様?」【「須佐之男」】 「悪神、お前の口車には乗らないぞ!」金色の瞳を持つ少年が窓から屋内に入ってきた。雷の力が彼の髪を逆立てている。一旦周囲を見渡してから、彼は晴明を睨みつけた。細い糸が空から落ちてきて、少年の雷を纏った頭に絡みつくのを、晴明は見ていた。【晴明】 「月読、お前の茶番はいつまで続くんだ……」【月読】 「私は面白いと思いますが。そうは思いませんか?」 |
第六章ストーリー
第六章 |
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この世界で様々なことを体験した晴明は、目の前にもう一人の「須佐之男」が現れても、あまり驚かなかった。【晴明】 「予言の神と名乗る少年時代の荒に出会った後、薄々気づいた。」【流光追月神】 「そんなに彼らに会いたいのなら直接会いに行けばいいだろう。少なくとも、ここで人形を作って我々をからかうよりずっといい……」【月読】 「まさか、今起きていることのほうが面白いですよ。」【晴明】 「はあ……君は……お名前を伺っても?」【「須佐之男」】 「俺は悪神を倒すために存在する処刑の神、悪神たる貴様に名乗る必要はない。」【晴明】 「わかった。えっと、処刑の神。確かに私は噂の「悪神晴明」だ。しかし処刑の前に、少し時間をくれ。君たちに伝えたいことがある。それを聞いたら、君は、考えを改めるかもしれない。」【「須佐之男」】 「またしても自己弁護の言い訳か?今まで人々を散々苦しませてきたのは、貴様ではないと言うのか?」【晴明】 「確かに私ではない。少なくとも君の目の前にいる私ではない。」【「荒」】 「…………」【月読】 「おや、教えるんですか?」月読と追月神の困惑の眼差しの中、晴明は目の前にいる三体の人形に彼が知る全てを打ち明けた。自分の正体、世界の真相、住民たちの由来……そして、「彼ら三人が作られた人形であること」。【「荒」】 「なるほど。」【偽・神楽】 「えっと、記憶、住民……神楽は支配者になる運命……嘘……よくわからない。」【「須佐之男」】 「…………」【「荒」】 「わかった、信じよう。」【流光追月神】 「これほど不思議なことをたくさん聞かされて、にわかに信じられるものか?」【「荒」】 「私は以前から頭上の空を疑い、時に自分の誕生を疑問に思っていた。でも今までは筋の通る説明が見つからなかった。星々は私に答えをくれる。明確で、疑う余地のない未来をくれる。しかし、運命は本当に定められていて、変えられないものなのだろうか?もしこの空すら偽物で、誰かに作られたものだったとしたら、説明がつく。」【月読】 「……ふっ。」【晴明】 (荒様を象って作られた人形だが、やはり天命を見定めるあの人だ。)【「須佐之男」】 「俺たちにこんなことを教えて、一体何のつもりだ?あの二つの領地に侵入したことは正しかったと証明したいのか?今までの罪を許し、これから犯すであろう罪を見逃せと言いたいのか?」【晴明】 「いや。我々はここに三日留まり、できるだけここの住民と話してみて、「子供たち」を呼び起こす方法を探す。その間、「処刑の神」として私を監視し、見定めてほしい。私が噂通り、人々に災いをもたらす悪神であるかどうか。知っていることは全て話した。そのかわりに、私を信じてほしい。」【「須佐之男」】 「他にもたくさん、より有利な説明があるにも関わらず、君は最も不思議な話を選んだな。」【晴明】 「私にとって、「この世界が嘘であること」は真実だからだ。私はあくまでも知っていることを話しただけだ。信じるかどうかは、君たちが決めればいい。」【偽・神楽】 「神楽は信じたい!晴明お兄ちゃんは言ったよね。他の場所、他の世界からここに迷い込んだ人がいる。ここは、彼らの居場所じゃない。彼らはここに囚われていて、帰り道がわからない……彼らにもきっと、帰りを待つ家族がいるはず。みんなを呼び起こして、記憶を取り戻せば、家に帰れるかも。でもさっきの話、私が人形だとかいう話は……まだよくわからないけど……でも神楽が言うこと、することは、全部神楽が自分で決めたことだと思う!」【晴明】 「神楽……ありがとう。」【「須佐之男」】 「わかった。君たちを観察しよう。」三体の人形に世界の真相を伝えた後、晴明たちは神楽がいる部屋を出て、子供たちがはしゃいでいる街道にやってきた。【月読】 「驚きました。」【晴明】 「ここで何が起きるのか、お前は予め知っていたはずだが。それでも驚くのか?」【月読】 「もちろんです。英雄くんはいつも私の予想を超えていきます。全ての真相を彼らに伝え、己を見定める権利を人形に与えました。その言葉は、自我を持たない人形と、人形たちを裏から操る私にしか伝わっていないかもしれませんよ。甘すぎると言うべきでしょうか、それとも自信があると言うべきでしょうか。」【晴明】 「お前を信じたいからだ。」【月読】 「……?」【晴明】 「お前自身ではなく、以前お前が言った……「全ての選択と可能性を彼らに委ねた」という言葉を信じたいんだ。嘘の神、お前は言葉や幻を利用して嘘を紡ぎ出すのが得意だが……少なくとも、この町に入ってから、「荒」と「須佐之男」が送る人生を見ている時の、お前の表情は嘘ではなかった。仮に他に何かを企んでいたとしても、彼らの人形を利用しているとは考えられない。お前はここの人形たちを操らない。彼らの思い、考え、選択、言動は、全て彼らのものだ。」【月読】 「わかりました、私の負けです。」【晴明】 「嘘が暴かれることは、敗北ではない。」【月読】 「嘘の神にとって、このように見抜かれることはある種の敗北です。」【流光追月神】 「でも月読にとっては、そうではない。」月読と晴明の会話をずっと黙って聞いていた追月神が、突然話に割り込んだ。少し驚いた二人が彼女に振り向く。」【流光追月神】 「例え嘘が暴かれても、あくまでも自己欺瞞の皮が剥がれただけだろう。時に、人は嘘と真実との違いを目にした時、だめな自分を目にした時に……本当にほしいものに気づく。」【月読】 「ん?なぜそんな目で私を見るのです?」【流光追月神】 「な、何でもない。こほん、私たちをここに閉じ込めた黒幕はあなただと知っているが。共に旅をして、長い付き合いになって、あなたが時々変なことを言うのにも慣れた。それに、私自身も……神と名乗っていた妖怪だから、少し思ったことがある。」【月読】 「……?」【流光追月神】 「ここでは、他の区域のような不愉快な歪みは感じなかった。心血を注いでこの区域を創り、様々な人形たちに自由も与えた。気にかけていない振りなどしなくてもいい。嘘の神も、たまには素直になるべきだ。でなければ……友達がいなくなるぞ!」【月読】 「以前は子供たちに各種知識や思想を教える側でしたが、まさか教わる側になるとは。ふふ、その一風変わった「気遣い」に感謝します。」【流光追月神】 「気遣いではない……さあ、ここの住民に話を聞きに行こう。早く彼らを呼び起こす方法を見つけないと。月読、あなたは……私たちを誘導するのはやめてくれ。」【月読】 「わかりました。」晴明たちは「童歌幻夢の里」に三日間留まり、ここに囚われ、子供の姿になった人々と話し、彼らを呼び起こす方法を探した。しかしここの人々は精神が未熟で、自己中心的だ。会話すらまともにできず、彼ら自らが目覚めることを望むしかなかった。三日目がまもなく終わろうとしている頃、追月神は自分が最初に記憶を取り戻した時のことを思い出した。【流光追月神】 「晴明、一つ可能性を思いついた。ふさわしいかはわからないが。」【晴明】 「どんな可能性だ?」【流光追月神】 「まだこの世界、そして自分の記憶に疑問を抱いていなかった頃のことを思い出した。あの頃は、全てがぼんやりとしていた。あの時の私は夢を見ているようで、自分が何をしているのか知っているけれど、体を意のままに動かせなかった。あなたに、「この世界の人ではない」よそ者に出会うまでは。そんな違和感のおかげで私は体の支配権を取り戻し、ひいては自分で考えるようになり、やがて記憶を取り戻した。そう考えると、子供たちを他の場所に連れて行けば、その「違和感」を利用できるかもしれない。考えてみて。この世界を創り、あなたの旅路を手配した「誰か」は、きっとあなたにこの世界の規則通りに動いてほしいと思っている。だからわざわざ異なる区域にそれぞれの特徴を与えて、分け隔てた。なぜ区域を分けなければならない?もし別の区域に行くことが可能になれば、異なる区域の人は異なる嘘に騙されているから、互いに矛盾し合う嘘が、彼らを呼び起こす鍵になるかもしれない。」【晴明】 「私も似たようなことを考えていた。子供たちにとって、成長は自分で決めることではない。ほとんどの場合、周囲の環境によって前に押し出される。しかしここは彼らにとって、最も快適な場所だ。我々は彼らに、自ら世界に疑問を抱くようになってほしい。目や耳を塞いだ子供たちには、懐かしい場所を離れるだけでも十分だろう。」【流光追月神】 「少し残酷かもしれないが……ずっと考えていた。嘘に逃げ込んだ人々を呼び起こすことは、本当に正しいのか……それでも、やっぱり諦めたくない。子供になった彼らも、自分が惑わされているのか、あるいは自分の意志でこんなことをしているのか、はっきり自覚すべきだ。そのうえで、選べばいい。あくまでも私が考え出した方法にすぎないけれど。それでも……あの黒幕に聞いて、意味のない言葉が返ってくるより、ずっといいだろう。」【月読】 「私が言う言葉には、ちゃんと意味がありますよ。」【晴明】 「そうだな、わかった……とにかく神楽たちに会いに行こう。」 【晴明】 「神楽。」【偽・神楽】 「晴明お兄ちゃん!」【晴明】 「(ここを出た後も、この件は博雅には伏せておこう。)約束の三日が過ぎた。処刑の神、判断は下したか?」【「須佐之男」】 「ああ。この三日ではっきりわかった。悪神と呼ばれているが、君は邪悪な者ではない。嘘の世界と人形の話は、まだ完全に信じてはいないが。君はもう俺が狙う目標ではなくなった。」【晴明】 「信じてくれてありがとう。」【「荒」】 「君たちはもう決めたようだな。」【晴明】 「ああ。我々はこのままここを離れ、次の区域に向かう。そして、頼みがある。ここの住民を、他の区域に連れて行ってほしい。すでに私の支配下にある……こほん、「領地」なら、どこでもいい。懐かしい環境を離れて自分の世界以外の人々に出会えば、子供たちは「成長を強いられる」はずだ。」【「荒」】 「「強いられる」。彼らにとってとても残酷なことだとしても、君はそれを望むのか?」【晴明】 「ああ。」【「荒」】 「わかった。神楽、いいか?」【偽・神楽】 「うん!……えっと、晴明お兄ちゃんと追月神お姉ちゃんは、もう行くの?もう半日くらいここに残って、神楽と遊ぼうよ?」幼い神楽の人形が立ち上がり、片手で少年荒の手を、片手で少年須佐之男の手を掴んで、追月神のところまで走ってきた。彼女はどっちの手を離すべきか、しばらく考えていた。どっちを離すのも嫌で、迷っているようだ。その時、追月神が自ら手を差し伸べ、幼い神楽を抱き上げた。隣にいた晴明と月読は、追月神が幼い神楽の手を繋いで走り出し、残りの二人が諦めたようについて行くのを見届けた。【月読】 「ご覧ください。偽りの世界でも、偽りの人でも、嘘偽りのない感情が芽生えてきます。私は嘘をついていません。彼らを創った時、私はその原型の性格しか与えませんでした。それからの全ては、彼らの選択です。自分の体を持っていて、なりたい人になる。人形と生きている人とで、一体何が違いますか?英雄くん、今なら、私には悪意がないと信じてもらえるでしょう?」【晴明】 「……そうだな。」【月読】 「構いませんよ、もう少しここにいましょう。前方はもう終点の近くです。あそこは私があなたのために用意した、最後の舞台です。嘘の神の名にかけて、しばらくここに留まっても不都合なことは起きないと約束します。ちょうど新年です、英雄くんにもお休みが必要でしょう?」【晴明】 「もしこの世界に引きずり込まれていなかったら、私はちゃんと休めていたが。」【月読】 「ふふ、それはいけませんよ。」賑やかな町の中、人々が騒いでいる。新年が訪れ、皆幸せそうな笑顔だ。町の真ん中にある立派な庭院の中で、青い服を着た陰陽師の人形が地面に倒れた。その目の前にはもう一人、白髪の人形が彼を見下ろして笑っている。それを見て、白髪の人形の後ろにいた多くの信奉者たちが騒ぎ出し、興奮気味で勝者の名前を叫んでいる。【???】 「安心していい。災いは祓われた。これより、この地の平和と幸せは約束される。苦難は消え去り、正義がこの地に降臨する!我が名を高らかに叫べ、私はお前たちに永遠の幸せを授ける。」勝利した白髪の人形が人々に向かって腕を振り上げた。彼が持つ蛇の目が夜闇の中で輝いている。しかしその表情はとても拙く、ぎこちない。もし生きている者がこの地に迷い込んだら、すぐに稚拙な人形の芝居だと気づくだろう。空から垂れる無数の糸に操られる人形たちは、自分たちのぎこちなさに気づかない。彼らは一斉に勝者の名を叫び、悪神が倒され、救世主が現れたことを祝う。「ヤマタノオロチ様!!」「ヤマタノオロチ様に祝福を!」「ヤマタノオロチ様こそが、我々の救世主だ!」賛美歌が夜空に響き渡り、新年の二日目が訪れたことを祝う音楽となった。【月読】 「ぷっ……こほん。失礼しました。」【「荒」】 「どうした?」【流光追月神】 「また何か悪いことを企んでいるのか?どうして笑っている?」【月読】 「ふふふふ……何でもありません。楽しいことを目にしただけです。願わくば、ここを出た後も、旧友の親切な挨拶がありませんように。」 |
第七章ストーリー
第七章 |
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「童歌幻夢の里」の住民を呼び起こす方法を確立させた後、晴明と追月神は幼い神楽に最後の別れを告げた。追月神は幼い神楽の人形とすっかり仲良くなり、もう半日留まることになった。神楽は彼女と手を繋ぎ、町中を駆け回っている。月読と晴明は、傍らでその幸せな光景を見ていた。だがその場の全員が知っている。本当に生きている晴明と追月神も、幻影の月読も、あるいは子供たちの姿をしていた三体の人形も、全員が知っている。この一瞬の幸せは、嘘の上に築かれていると。【月読】 「人々を嘘から呼び起こすことについて、英雄くんはどう思われますか?何と言っても、私はこういった形で、あなたに「世界を滅ぼす」ことを強いていますから。」【晴明】 「私にとって、皆を呼び起こすことは私の務めだ。」【月読】 「呼び起こす。連れ出すではなく?」【晴明】 「ああ。」【月読】 「その務めというものは、一体誰に与えられたのですか?」【晴明】 「私自身だ。私は様々な方法で彼らを呼び起こそうとした。それは私自身がそうしたかったからだ。彼らの中には目覚めた後にもう一度全てを忘れたいと望む者、あるいは彼らを呼び起こした私を恨む者がいるだろう。それでも私はそうしたい。」【月読】 「なるほど、あなたは「世界を滅ぼす」罪を背負ってでも、自分が信じることを貫くんですね。もし平安京に生まれた半妖だと知らなければ、私は勘違いしていたかもしれません。あなたこそが神、あるいは聖人ではないかと。」【晴明】 「……それは嘘の神なりの皮肉か?」【月読】 「私が口にすることは全ては、褒め言葉として受け取っていただいてもいいですよ。」月読はそれ以上何も言わず、晴明のように黙って目の前にいる四人の姿を眺めていた。【月読】 「これが、気の合う仲間と共に、困難を乗り越えた時の気持ちでしょうか?本当に不思議なものです。」【晴明】 「気の合う仲間は、互いに真摯に接する。」【月読】 「しかし人はいつも隠し事をします。」【晴明】 「……この世界で目覚めてから、私はずっと自分が体験したことの裏に隠された意味について考えている。この世界を創った存在、つまりお前には、一体どんな目的があるのか?お前は世界の「規則」から逸する、ただの幻影だ。人々の嘘と憧れをことごとく受け入れ、それを実現する。この世界に緩い秩序と規則が生まれるのを許した。そして規則が確立された時、私に関する「認知」を植え付けた。この締まりのない秩序と一目で見抜ける嘘に、一体何の意味があるのか?お前は我々と主に行動して、一体何が見たい?」【月読】 「英雄くんはそんなに真面目に考えていらっしゃったんですね。深く考えなくてもいいのです。悪神という名で呼ばれ、あなたたちとは複雑な過去も共有していますが、今度蘇った私の行いは……ただただ面白がっているだけの可能性もあるでしょう?」【晴明】 「誰も、荒様の記憶の中に存在する「月読」も、それだけの理由では動かない。」【月読】 「英雄くん、あなたは半妖でしょう?平安京の伝説の陰陽師であるあなたは、私から見れば、あるいは神々から見れば…………刹那的で、無知な存在です。私にも、自分が悪神であることに気づかず、人の世と高天原を守ることに徹した時期がありました。それは善なる傲慢でした。人間はか弱く、儚く、無知で、私が守るべき存在でした。生まれた時から、限界はすでに定められています。人は人にしかなれない。「時の止まる森」で話したのと同じことです。止まった時間を体験していない者には永遠の命というものが理解できません。だから、今の私の気持ちは、あるいは変化と呼ぶべきものは、あなた、そしてあなたのような人間には理解できません。」【晴明】 「…………」【月読】 「疑ったことはないでしょうか。あなたの目の前に現れた私は、本当に昔の「月読」なのかと。世の中の嘘のおかげで体は作り直せたけれど、相変わらず過去の記憶を持ってはいるけれど、一度討滅された痕跡は消えない……あるいは再び自我を手に入れる過程の中で、以前のような強烈な感情は、さめてしまったかもしれませんよ?」月読が小さく手を上げると、道端の落ち葉が舞った。一匹の小さな虫が落ち葉の縁で蠢いている。彼は虫を拾い上げ、虫が自分の指先で蠢くのを許した。【月読】 「想像してみてください。この虫の生涯の目標はおそらく、葉脈に沿ってこの葉の最果てにたどり着くことでしょう。しかしある日目覚めたら、葉っぱも、土地も、方向すら消えてしまっている。この虫はどうなるでしょう……この虫はまだ、以前の虫のままなのでしょうか?」記憶を失って目覚めたばかりの頃の気持ちを思い出した晴明は、何も答えなかった。目の前の月読は、都で戦った時と比べて、姿も、言動も、気質も、全てが微妙に違っている。彼は手を差し伸べて月読の手の中から虫を受け取り、再び地面に逃した。【月読】 「このような白々しい嘘の世界を創る理由が理解できないとおっしゃいましたが、もしかしたら……私は単に疲れていて、一休みして、今のような時間を楽しみたいだけかもしれませんよ?何と言っても、今の私は燃え尽きた余燼のようです。例え灰の中にまだ幾ばくか熱い火が残っていても。もう一度燃え盛ることはもう叶いません。嘘の神の告白は、あなたの質問の答えになっていましたか?」【晴明】 「……わかった。」【月読】 「私との談話より、あの甘い子に注意してあげるべきではないでしょうか。例え人形たちに平等に接していても、嘘との付き合いが長くなると、暴かれる時にはやはり長く続く痛みと遺憾に囚われます。かつての我が子たちは、乱雑で生命力が溢れる浮世に惑わされました。予言というものは本来、離れれば離れるほどよく見えるようになるものです。その中にいれば、浮世に惑わされ、何も見えなくなるでしょう。」【晴明】 「見えなくなるものもあるが、それと同時にたくさん得るものがある。知っているか……荒様は、平安京にいる時は、友人と共に、「女子会」という集まりに参加している。」【月読】 「……?」【晴明】 「きっと、浮世への思いと愛しい気持ちを捨てなかったから、今の彼がいるのだろう。お前が何のためにあれほど多くの人形を創ったのかは分からないが、様々な経験をしたお前が次に彼と再会する時、もしかしたら……」【月読】 「冗談はやめてください。高天原の信者たちのことを考えても、高天原の神王が悪神と関係を持つなど、あってはなりません。」【神启荒】 「本当にそう思うのですか?」【月読】 「…………!……英雄くん、あなたは本当に幻術が得意ですね。」晴明が幻術で作り出した姿は消えた。一方、月読は相変わらず微笑んでいる。【晴明】 「私はこの世界で、お前に悪神の名を与えられた。悪神である以上、時には幻術で人を惑わし、そのすきにつけ込むのも、自然なことだろう。私に話があると言い出したのはそっちだ。ちょうど半日休みで、時間がある。良い機会だ。」【月読】 「ふふふふ、さすがです。」【「荒」】 「何の話をしている?さっきのあの影は誰だ?」【晴明】 「我々に何か用か?」【「荒」】 「神楽も晴明とお別れがしたいそうだ。」【月読】 「なるほど。奇遇ですね、さっきちょうどその話をしていたところです。神楽ちゃんは誰とお別れするのが一番嫌なのでしょうね?追月神お姉ちゃんか、それとも晴明お兄ちゃんか。」【晴明】 「…………」【「荒」】 「君たちが現れたおかげで、我々は無知ではなくなった。人形であることは、神楽にとってはどうでもいいことだ。あるいは彼女はまだその意味すら理解できないのかもしれない。それでも君は彼女に全てを打ち明けた。彼女は君の気持ちを汲み取った。だから、晴明とお別れすることが、一番嫌なんだと思う。」【晴明】 (真面目に先程の月読の問いに答えたか……作られた人形とはいえ、真面目な性格をしているところは、確かに荒様に似ている。)少年荒の人形は、相変わらず無表情なままdあった。問いに真面目な答えを返されたので、少し驚いた月読は少しぼんやりしていたが、再び笑い出した。【月読】 「では君は、追月神お姉ちゃんと晴明お兄ちゃん、どっちとお別れするのがもっと嫌なのですか?」【「荒」】 「その選択肢には、君は含まれていないのか?」【月読】 「…………いいでしょう、私も含めてください。」【「荒」】 「晴明だ。 |
」いつの間にか耳をそばだてて彼らの話しを聞いていた追月神は、口元を隠して笑い出した。晴明は困ったように眉をひそめ、お別れするために神楽のところに向かった。予想通りの答えを得たかのように、月読は手を差し伸べて荒の人形の頭をなでようとした。幻影の手がそのまま人形の額をすり抜けるのを見て、笑い出した彼は振り返って離れた。」【月読】 「ふふふ……ではとりあえず、さようならですね。」【「荒」】 「……?」少年の姿の人形はその場に立ち尽くし、目の前の皆の後ろ姿を見ている。少し躊躇った後、彼は手を伸ばして、自分の頭を叩いてみた。彼の手は空に通じている、触れられない細い糸をすり抜けた。人形は少し不思議に思った。星々の予言に一度も現れなかったこの人は、自分を見ているようで、一度も自分を見ていないようでもあった。晴明たちは引き続き、次の区域に向かって出発した。驚いたことに、境界線を越える寸前、月読は晴明に辞意を表明した。【月読】 「この体は弱すぎて、維持できなくなりました。しばらく失礼させていただきます。ご安心ください、あなたとの再会を楽しみにしています。」瞬く間に、晴明の目の前にいた月読は消えた。前方で道を調べていた追月神は、晴明の異変に気づき、素早く戻ってきた。【流光追月神】 「どうした?月読はどこへ行った?」【晴明】 「彼は、体が維持できなくなったから、これからの旅路は無理だと言って、いなくなった。」【流光追月神】 「……信じられない。あなたは知らないかもしれないが、実は、少しずつ自分のことを思い出した後、私は色々な方法で彼を攻撃してみた。でも……全てそのまますり抜けてしまった。いつも私たちについてきた月読は、決して触れられない幻影だった。」【晴明】 「ああ、確かに。私の陰陽道も、あるいはこの世界の力も、彼には届かない。だからこそ、今までは彼の同行を断れなかった。」【流光追月神】 「そう考えると、彼は自分からいなくなり、私たちは彼の監視の目から逃れることができた。つまり、これはいいことだ。彼こそが真の黒幕なのだから。「黒幕」なのに、ずっと舞台上にいるなんて、どう考えてもおかしいだろう。この前彼と話していたようだったが、何の話をしていた?」【晴明】 「少し探りを入れてみた。」【流光追月神】 「探り……?まさか、あなたに探りを入れられて、弱点がばれたから逃げたのか?一体どんな探りだ?」【晴明】 「私は知りたい。彼は我々が知っているあの「月読」なのか。それとも彼の言う通り……蘇って記憶が曖昧になった嘘の神なのか。(あの時聞いた告白は、一体どこまで本当なんだ?)なんでもない、気にするな。とりあえず前に進もう。」二つの区域の境界線を越えた瞬間、二人は周囲から押し寄せてくる強大な妖気を感じた。濁った霧が立ちこめるここでは、普通の人間なら立っているだけでも困難だろう。一筋の金色の光が霧が立ちこめる空を切り裂き、道を切り開いた。【流光追月神】 「早く行こう。ここは……何かよくない気がする。声が聞こえた……あそこ!」【晴明】 「今までの経験に基づいて考えれば、ここを支配する者は「晴明」のはず。しかし私はこうしてここにいる。ではあの「支配者」は月読の人形なのか、それとも……」【流光追月神】 「晴明!」【晴明】 「今行く。」霧深い荒野をしばらく歩くと、二人は城門の前に来た。目の前の町は皆が知っている平安京と同じだが、立ち込める霧がここの異常をほのめかしている。中に入ると、荒野とは全く違う光景が目に映った。【流光追月神】 「……平安京?」【晴明】 「外に立ち込める妖気を除けば、ここは……現世の平安京によく似ている。」【流光追月神】 「他の区域は強烈な特徴で区別できるが、ここは……普通すぎる。嘘の世界では、普通すぎるのもまた一種の異常なのかもしれない。」晴明たちが霧に包まれた町に入ると、親切な人々が彼らをもてなし始めた。お礼を言った後、晴明たちは町の中心に向かう。【晴明】 「町の作りも平安京とあまり変わらない。やはりか。嘘の世界の四つの区域を創る時、月読は私と仲間、四人の特徴を参考にしたようだ。」【流光追月神】 「特徴……」【晴明】 「時が止まった八百比丘尼、戦いや挑戦を愛する博雅、子供のまま、永遠に大人にならない神楽……」【流光追月神】 「そして、平安京の晴明。」【晴明】 「いくらなんでも、平安京を「晴明」の特徴にするとは、ひどいな。今の私がいるのは、平安京の皆の助けがあってのことだ。これでは因果が逆になってしまう。追月神、一つ頼みたいことがある。人々は無数の願いを抱えている、もし逃避したい人々が全員この世界にやってくるのなら、たかが四つの区域に収まるはずがない。ここの境目がどこにあるのか知りたい。」【流光追月神】 「わかった。」追月神の後ろにある小鼓が前に飛び出す。小鼓と庇を代わる代わる踏みつけ、やがて屋根裏に飛び上がった彼女は高い場所から平安京中を眺めた。【流光追月神】 「だめだ。あなたの推測通り、果てが見えない。」【晴明】 「ならば、まずここの住民に聞いてみよう。この区域の「支配者」の居場所について、何か情報を引き出せるといいが。」二人は懐かしい街道を歩いていく。嘘の世界で数日過ごした晴明は再び懐かしい場所に帰ってきたが、彼の心は落ち着くどころか、より一層警戒を強めていた。【流光追月神】 「月読がいた時は、いつも変なことを言って私たちを怒らせたけど、少し安心できた。今、彼はいなくなったけど、これから罠にかからないか、彼がまた何か企んでいないか、考えずにはいられない。」【晴明】 「彼が何を考えているのか推測しても、時間を無駄に費やすだけだ。行こう、街道に出れば、人がたくさんいる。」晴明たちが住民に話しかけるまでもなく、親切そうなおじさんが晴明に声をかけてきた。【優しいおじさん】 「お二人は外から来たのだろう?新顔は久しぶりだ。泊まる場所はあるか?ないなら俺んちに来な。俺も女房も暇だから、客人をもてなすのが大好きなんだ。自慢じゃないが、女房が作る汁物は美味いぞ。青年、そしてお嬢ちゃん、遠慮しないで、俺んちに来るといい。」親切なおじさんはすでに晴明の服の裾を掴み、彼を引っ張りながら自分の家に帰ろうとしている。【優しいおじさん】 「外は危険だが、幸いあんたらはここに辿り着いた。最近物騒なんだよ。噂の悪神が再び現れたらしい。悪神はいくつかの村や町を滅ぼしたらしい。生き残りは一人もいないそうだ!」【晴明】 (その悪神というのは、おそらく私のことだが……)【優しいおじさん】 「だが心配するな、俺たちの城主様は、悪神よりもずっと強い!あんたらは知らないだろうが、実はな、あの泣く子も黙る悪神は、名前は何だったか……晴明、か?やつはもともとここの城主なんだ。悪神の支配下にある日々は本当に辛かった。人々を脅かす瘴気や洪水だらけで、悪神の部下の妖怪たちがあちこちで人を傷つけた。」【流光追月神】 「そんなことがあったのか?」【晴明】 「…………」【優しいおじさん】 「だが全ては、新しい城主様が来て解決したんだ!新しい城主様が、悪神晴明を追い払ってくれた!城主様に守られて、みんな幸せな日々を送っている。」【晴明】 (だから最初に目覚めた時、「部下」たちが領地を取り戻すなどと騒いでいたのか。回り回って本当に彼らの要望を叶えてあげることになるとは。)【流光追月神】 「おじさん、新しい城主は誰で、今どこにいるか知っているか?」【優しいおじさん】 「俺らの城主様は内気な人なんだ。いつも部屋の中で事務処理をしていて、滅多に出かけたりしない。でも一度だけ会ったことがある。彼はいつも無表情で、あまり話さない。まだ若いのに白髪だ。それと足も不自由だから、いつもとぼとぼと歩いている。」【晴明】 (話を聞く限り、彼もおそらく人形だろう。月読は一体誰を象ってその人形を作ったのか。)【流光追月神】 「城主の名前は?」【優しいおじさん】 「名前は、たしか、なんだったか……ああ、「ヤマタノオロチ」だ。安心していい。善良で聡明なヤマタノオロチ様は、俺らを守ってくれるんだ。あんたらも信者になるといい。」【晴明】 「……遠慮しておこう。」静かな月海の廃墟で、月読はゆっくりと目を開け、背後の触手を使って体を起こし、目の前の「舞台」に目を向けた。触手に持ち上げられた精巧な紙舞台が、光のない月海の中で浮き沈みしている。舞台の中央を、二体の小さな人形が歩いている。小さな舞台の真上、丸い月の中心に一つの目が見える。その目は舞台にいる人々を見下ろし、等しく冷たい眼差しを送っている。無数の光玉が舞い上がり、月の中に集う。光が集うにつれて、舞台は揺れ始めた。舞台の背景が変わり続けるのを興味津々に眺めていた月読は、青い狩衣を着ている人形を指で突いた。真実の象徴である霊力が迸り、月読はびくっと体を震わせた。再び頭を上げた時、彼の顔には多くのひび割れが現れていた。しかし彼は気にすることなく、傷が少しずつ治るのを待っている。【月読】 「君たちがその世界に残した痕跡は、やがて全て嘘の養分となる。いよいよ終わりだ。楽しんでくれたかな?それでは、物語の二人の英雄に敵対する、「黒幕」を登場させよう!」 |
第八章ストーリー
第八章 |
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親切な男の誘いを断りきれず、晴明たちは仕方なく彼の家にやってきた。途中、二人は「賢明な城主ヤマタノオロチ」に支配されている町をよく観察し、男から聞いた話をまとめ、少しずつここの状況を把握した。この場所には名前がなく、住民ですら町の大きさも、住民の数も知らない。城壁を境に、外には妖気が立ちこめている。しかし町の中の人々は生活に困っていない。強盗や盗みなどの犯罪は一度も起こったことがない。ここで暮らしている人々は、悪神晴明を倒したヤマタノオロチを守護神と見なし、善良で賢明な城主がいるから、幸せに暮らせると言っている。【流光追月神】 「……この世界から逸する私たちだけに嫌がらせする嘘、か。きっとわざとだろう。」男に礼を言い、夕食の誘いを断ると、晴明たちは彼から得た情報をもとに、直接「ヤマタノオロチ」がいる場所に行くと決めた。途中、少しぼんやりした表情の追月神は、晴明に月読について聞いた。【流光追月神】 「私は、今まで月読を知らなかった。晴明、彼はどんな人だったんだ?以前平安京に降りかかった災いも、彼の仕業なのか?あの時の私は……ん?あの時、私は何をしていた?」【晴明】 「おそらく、あなたはまだ最後の記憶を取り戻していないのだろう。もしかしたら、それはあなたがこの世界にいる理由でもあるかもしれない。月読については……ほぼ確信できた。彼は間違いなく、以前平安京で我々と争っていた、あの「月読」だ。今回再会して、彼は自分に悪意はない、今度は私の敵ではないと何度も強く主張した。」【流光追月神】 「最初、彼は星の子のためにこの世界にやってきたと言っていた。だがその後の言動を考えれば……彼は自分と嘘の世界との繋がりを隠そうとすらしていない。」【晴明】 「嘘は何かを隠すためにある。しかし彼は嘘そのものだ。だから彼が善意を示した時、私はまずその言葉自体を疑った。「彼は相変わらず我々に対して悪意がある。」、「彼は我々に仇なす計画を隠している。」、こんな風に考えずにはいられない。」【流光追月神】 「しかし、彼のことだ……その言葉自体が、何らかの目くらましかもしれない。」【晴明】 「つまり、彼が何度もそれを強く主張したのは、我々をその言葉の信憑性を考えることに集中させ、他のことに集中できないようにしていると思うのか?その可能性は否めない。ここでの嘘は、ある具体的な言葉ではなく、彼が何度も過去とは違うと言い張ることそのものだ。そう考えれば、我々の敵になるかどうかについて、彼は一度も気にしていないのかもしれない……彼にとって、それは一番どうでもいいことなのかもしれないな。」【流光追月神】 「ううん……何が真実なんだ?まあいい、考えるだけ時間の無駄だ。行こう、あの「ヤマタノオロチ」に会いに。でもその前に、ちょっと回り道して、あっちに行ってもいいか?」【晴明】 「また町に、守護の力が宿った鼓を置いていくのか?」【流光追月神】 「知っていたのか!?」【晴明】 「今まで、それぞれの区域で、あなたはしばらく行方をくらませた。そして再び戻ってきた時、その力はとても不安定な状態になっている。」【流光追月神】 「記憶を取り戻す前の私は、この世界の守り神だったから。この世界にはたくさんの人々が暮らしている。例え自己欺瞞の夢に溺れているとしても、彼らは生きた人間だ。もし最後に月読と戦うことになったら、みんなを呼び起こす方法が分からないうちは、できるだけ巻き込みたくない。いくら偽りだとはいえ、やっぱり彼らは私の信者だ。」【晴明】 「ああ。では回り道をしよう。私も守護結界を設置する。」町の通りで準備を済ますと、晴明たちは城主がいる屋敷にやってきた。従者に案内され、彼らはぎこちない動きで、不自然な表情の人形のヤマタノオロチと面会した。【晴明】 「……」【流光追月神】 「邪神をこの地を守る善良で賢明な城主に祭り上げ、晴明を悪逆非道な悪神に貶める……笑えない冗談だ。ヤマタノオロチ本人も想像できないだろう。嘘の世界では、自分がこんな存在になっているとは。」【偽・ヤマタノオロチ】 「ふん……悪神晴明、勢いを盛り返してきたか?この日が訪れることはすでに予想していた。私は今一度お前を倒し、人の世に平和をもたらす!」二人の目の前で、ヤマタノオロチにそっくりの人形が彼らを睨みつけている。義憤に燃えるその表情は、晴明は今まで一度も見たことがないものだった。【晴明】 「ゴホゴホゴホ!嘘の神の悪趣味はだいたい予想できていたとはいえ、いざ自分の目で見ると、やはり……受け止めきれないな。」【流光追月神】 「…………この人形、攻撃していいか?」【晴明】 「とりあえず、こっちから攻撃するのは控えよう。」【流光追月神】 「晴明、あなたはこの前、月読とヤマタノオロチは共に高天原を覆し、世界を滅ぼす計画を練り上げたと言っていたが……嘘の世界でこんな人形を作ったうえに、こんな役割と台詞を与えるなんて……彼らは本当に盟友なのか?不倶戴天の怨敵ではなく?それとも……悪神というものは、こんな特殊な方法で親睦を示すのか?神の考えることは、本当に理解し難い。」【晴明】 「二人がどういう関係なのかは、私もよくわからない。だが彼らが……神々を代表するかと言われたら、それは違うだろう。」晴明たちが彼の言葉に返事しないのを見て、人形のヤマタノオロチは突然晴明に飛びかかり、何度も拳を繰り出した。【流光追月神】 「危ない!」【晴明】 「…………」晴明の手の中の霊符が彼の体を明るく照らす。八百比丘尼の人形との戦闘での過ちを繰り返さないよう、彼は攻撃しなかった。【偽・ヤマタノオロチ】 「…………」がたがたという音が聞こえた後、晴明の前に飛んできた人形は突然動きを止め、意識を失ったかのように倒れた。【流光追月神】 「終わったのか?」【晴明】 「こんなに手応えがないなんて、きっと何か裏がある。」【陰陽師のような人】 「さっき大きな音が聞こえたけど、何事だ?じょ……城主様!!お、お前ら!城主様に一体何をしたんだ!城主様はどこに?」【晴明】 「落ち着いて、これが君たちの「城主」だ。彼は生きた人間ではなく、操られている人形だ。ここは……」【陰陽師のような人】 「お……お前は!白髪に青い狩衣、悪神晴明か!?うわああ……悪神晴明が再び現れた!やつが城主様を殺したんだ!みんな早く逃げろ!!」【流光追月神】 「……どうすればいい?一旦離れるべきか?」【晴明】 「住民と揉め事を起こすのは控えたほうがいい。ここには人形ではない人々がたくさん暮らしている。一旦離れよう。」【流光追月神】 「声が聞こえた……もう、遅いかも。」慌ただしい足音が響き渡り、引き戸を蹴り倒すと、武器を持った人々が部屋の中になだれ込んできた。太刀を持っている人もいるし、箒や鍋を持っている人もいる。人々は涙を流し、激怒して晴明を睨みつけている。【武士】 「なぜ城主様を殺した?!報復しに……復讐しに来たんだろう!?俺たちの町がお前の領地だった場所にあるから、復讐しに来たんだな!」【男性】 「共犯者、やつには共犯者がいるぞ!子供がいるやつは後ろに下がれ!」【女性】 「城主様がいなければ、私たちは幸せに暮らすことができない、あんた……この悪神、どうして私たちの生活をむちゃくちゃにするの!出ていけ!!私たちの町から出ていけ!!」晴明は霊視を使い、人々の頭上を見た。驚いたことに、全員生きている人間で、月読に操られている人形ではなかった。【晴明】 「彼らの強烈すぎる感情は、やはりおかしい。」【流光追月神】 「催眠術か、あるいはとうの昔にこっそり暗示をかけられたか。発動条件は城主がいなくなることだろう。」町の通りから絶え間なく泣き声が聞こえてくる。優しかった住民たちは、別人になったかのように、一斉に「悪神晴明」を非難し始めた。突然人ごみから、女が晴明にぶつかってきた。躱そうとしたが、女が足を踏み外して窓から落ちるかもしれないと思い、受け止めるしかなかった。次々に人がやってくる。彼らはまるで正気を失ったかのように、掴んだものを引っ張ったり、ぶつけたりしている。追月神が光の矢を放って止めようとしたが、彼らは何もなかったかのように押し寄せてくる。【晴明】 「失礼……」迸った霊力が障壁となり、追月神と晴明を発狂した人々から切り離した。しかし障壁にも声を遮断することはできない。無数の罵りと泣き叫ぶ声が、追月神の耳に押し寄せる。【流光追月神】 「この泣き声……その悲しみは本物だ。ここで暮らしている人々は、城主の死を悲しんでいる。……そして、私たちを憎んでいる。彼らを起こしたことは、間違いだったのか?」【晴明】 「追月神!感情にとらわれるな。自分を疑ってはならない。この世界を見てきたあなたなら、この地の、ここで暮らしている人々のあるべき姿をよく知っているはずだ。人々の望みと、苦しみから遠ざかろうとする気持ちが、捻じ曲げられ利用されているんだ。」晴明は襲ってくる人を傷つけぬよう、霊力の力加減を調整しながら、障壁を維持している。二人は障壁に囲まれ、身動きが取れない。【晴明】 「月読は私のことを都の英雄と呼ぶが、私は誰よりもわかっている……私は他の人々と同じだ。ただやりたいことをやっているだけだ。「正義」というのも、私がずっとやりたかったことが、世間でいうところの正義だったに過ぎない。起こしたければ起こせばいい。たとえ彼らを苦しませることになるとしても。」【流光追月神】 「たとえ彼らを苦しませることになるとしても、か……たとえ恨まれても、傲慢、偽善と言われても……私は彼らを目覚めさせる!そう……私はそのために、戻ってきたんだ!!!」金色の光が炸裂する。その力は光の眩しさにそぐわず、優しいものだった。人々に光が降り注ぎ、優しく強い力が流れていく。人々の騒動を鎮め、安らかな眠りへと誘う。【晴明】 「追月神……」【流光追月神】 「思い出したんだ。私は輪廻に閉じ込められていた。晴明、あなたのおかげで、私は抜け出すことができた!」【晴明】 「輪廻……」ここで話をするのは場違いだと思い、追月神は地面に落ちたヤマタノオロチの人形を拾い上げ、晴明を引っ張って窓から屋根に飛び上がった。眩しい金色の光が消えていき、興奮していた人たちは眠りについた。晴明が町を眺めると、遠くではまだ祭りが行われていた。【流光追月神】 「私は……最初からこの世界に惹かれていたのかもしれない。あの時、私は苦しみと無力さに苛まれ、逃げようとしていた。」【晴明】 「この世界があなたの望みに応え、あなたを本物の神にしたのか?」【流光追月神】 「そうだ。そう、あの時の私は妖怪の身分を捨てて、神になれば苦しみはなくなると思っていた。」【晴明】 「輪廻と言っていたな……最後には、夢から目覚めることができたのか?」【流光追月神】 「うん、その通り。目覚めると……月が見えた!完全に目が覚めて、留まることを拒否した時、私は銀の月と話していた。」【晴明】 「月読……」【流光追月神】 「月読なのか?もっと優しい人に思えたが……いつまでも虚無の嘘に浸るのは嫌だった私は、月の誘いを断った。しかし……私が立ち去ろうとした時、他にも閉じ込められている人がたくさんいることに気づいた。彼らを昔の自分と重ねてしまい、起こして助けようと思った……月読の言うことにも正しい部分はあるが、絶対ではない。逃げようとするのは普通のことだ。しかし……それは決して人々を誘い込み、溺れさせていい理由にはならない!差し伸べる手、そばにいてくれる人がいれば、支え合っていれば、苦痛から解放される時だってある。」【晴明】 「あなたが今……ここにいるということは、あなたは残ることを選んだのか?」【流光追月神】 「そうだ。」追月神は屋根に立ったまま町を見下ろしている。追月神はもう望みを叶えるために月の羽姫を喚ぶ、自分勝手な彼女ではないと、晴明は悟った。【流光追月神】 「た、大した理由はない。私がいなくなったら、信者たちは崇める「神様」を失う。ここに誘い込まれる者がいるかもしれない。神と崇められたからには、その期待に応えなければならない。それに、一度目覚めることができた私なら、次も嘘から抜け出せるはず……それくらいの自信はあった。」【晴明】 「追月神、ありがとう。」【流光追月神】 「急になんだ?とりあえず、目の前の問題を解決しないと。」【晴明】 「問題は二つある。どうやってここの人たちを起こすか。そしてどうやってこの世界を創った黒幕を倒すか。」【月読】 「ゆえに、英雄は二人必要なんだ。」いつの間にか、賑やかな声が収まっていき、町が静まり返った。晴明と追月神は互いに目配せし、警戒態勢をとった。【偽・ヤマタノオロチ】 「…………」彼らが持ち出した人形から歌声が聞こえてくる。かすれた声で、聞いた人を混乱させる。一度はいなくなった月読が空中に現れた。これまでと違い、彼は灰色で寂しい円月に座っていた。円月が砕け、断面から寝顔が見える。それは女神月読だと、晴明にはわかった。【月読】 「また会えたね。」晴明の横にいたヤマタノオロチの人形が光る。光が消えた時、人形は星の子の人形に変わっていた。遠くの市場では、人ごみに紛れ込んだ人形たちが目覚め、手を繋いで踊り始めた。【星を歌う者】 「~~~~~」【月読】 「宴会はもうすぐお開きだ。私と共に、嘘の世界の最果てへ。この茶番劇はもうすぐ終わりを迎える。嘘の最果てで全てを打ち明けよう。」星の子たちが同時に踊りをやめ、月読の方に向かって頭を下げた。たった一瞬で、晴明と追月神の目の前の世界は色褪せ、町の家々や通りが琉璃になり、星のくずとなって砕け散った。世界は灰色になった。嘘の最果てへようこそ。 |
第九章ストーリー
第九章 |
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外界と遮断された月海で、月読は目を閉じ、自分の神像に寄りかかった。二人の役者が目の前の舞台に揃い、結末へのきっかけを待っている。結晶の音が聞こえてくる。彼は目を開け、月海で一つの体が徐々に凝結していくのを見ている。それは彼の半身、月読女神の体だった。【月読】 「顔を見るのはいつぶりだろう。」【月読女神】 「…………」【月読】 「天羽々斬の封印のせいで、半身とはいえ、「私」と直接話すことは叶わないな。我々の英雄くんが三つの六道の世界を行き来して、三悪神を封印したそうだね。封印されし悪神同士、「あなた」には天羽々斬の中で彼らと仲良くしていてほしいな。」【月読女神】 「…………」【月読】 「ふふふ、それは無理な相談かな。「君」は昔からあの子を見ていて、今は大きく成長している。体の再造が終わったら、現実世界で彼女に会いに行ってやるといい。」【月読女神】 「…………」【月読】 「二人の主人公の物語が幕を閉じようとしている。悪党よ、目覚めの時だ。」一瞬で、晴明たちがいた町が崩壊し、実体のない結晶のくずになった。瞬きの後、彼らは灰色の荒野にいた。「時の止まる森」が万物の時が凝縮した一瞬だとすれば、ここは時間そのものが存在しない領域である。時間も、命も、色もない。真実を映し出すものがないと、嘘の終着点は空っぽになる。先ほど現れた月読が再び姿を消した。晴明が目を開けると、目の前には小道、後ろには光があった。二人が試すと、小道は歩けることがわかった。そして光からは町の賑やかな音が聞こえる。元の嘘の世界とつながっているようだ。【晴明】 「進めるのは目の前の一本道だけか。それ以外の方向は見ることは可能だが、破壊できない障壁が妨げになっていて通れない。」【流光追月神】 「障壁……かかってこい、と言ってるようなものだな……」【晴明】 「嘘の最果てで待っていると言っていたな。この何もない空間、嘘の最果てと名付けられているのも頷ける。」【晴明】 「行こう。」【流光追月神】 「…………ごめんなさい。私は……戻る。月読と戦うことよりも、私は嘘の世界にいる人々のほうが心配だ。月読が現れた時に見た崩壊が真実だとしたら、元の世界は崩壊しているかもしれない。あの子たちも、記憶が戻って戸惑っている人たちも、傷つくかもしれない。」【晴明】 「わかった。私も一緒に……」晴明が言い終える前に、追月神は彼を小道に押し出して、光の前に立っていた。【流光追月神】 「きっとこの先が、嘘の世界の中核だ。人々の安全は私に任せて、あなたは月読を倒して。それでこそ、共に戦う英雄らしいだろう?私はこの世界を守る神なんだ。たまには頼ればいい!」【晴明】 「わかった、くれぐれも気をつけて。」晴明は迷わずに小道を駆け抜け、追月神は光の中に飛び込んだ。神とは一体どんな存在なのか?追月神はずっと考えていた。妖怪である自分と、天上にいる神との違いは何なのか?彼女は虚栄と自慢に溺れたり、正気に戻っても苦しみや後悔に押しつぶされそうになったりした。だから、少なくとも今この瞬間は、後悔したくないと思った。【流光追月神】 「この期に及んでできるかどうか心配するなんて……まだまだ未熟だな、私は。自信満々で生まれ変わったふりをして、晴明に強がったことを言って。本当は怖いのに。昔、失敗したから。」追月神は、月読が晴明のことを「平安京の英雄くん」と呼んでいたことを思い出した。【流光追月神】 「とっくにわかっていた、世の中には物語の英雄のような人がいると。……才能があって、頼れる仲間がいて、やがて物語に出てくる敵を倒す。物語の英雄が羨ましかった。物語の中で一度や二度しか出てこない人たちの結末を知りたいと思うこともあった。結局……英雄に憧れ、神に成りすました妖怪が、本物の神に見破られ、虚栄のせいで取り返しがつかない過ちを犯した。」光を踏むと、彼女は嘘の最果てから嘘の世界に戻った。目に入ったのは混乱を極めた光景だった。空と地面が割れ、かろうじて成り立っていた世界が完全に崩壊していく。世界の崩壊に直面した人たちは記憶を取り戻しつつあったが、どうすることもできない。一部の人は砕けた空に気づかず、いまだに嘘の中にいる。この地での体験、出会った人々を思い出して、ここは決して良い夢を見せるための理想郷などではないことを、彼女は確信した。【流光追月神】 「嘘の世界が消えても、目を覚まさない人はどうなる……?永遠に、目覚めないのか?」追月神が屋根に飛び上がり、町を見下ろす。他の町や村に置いてあった太鼓が起動し、かろうじて太鼓の音を打ち鳴らした。【流光追月神】 「物語の脇役も……人々に注目される神や英雄になれるのか?」運命は一度答えをくれた。それは「なれない」だった。彼女はその溝を越えようと、他の神の神社を乗っ取ってまで、精いっぱいの努力をした。できるだけのことをして「上面」だけは神を維持してきたが、稲荷神に問い詰められるとすぐにバレてしまった。あの時、彼女はなんとなく理解した。なぜ一部の人の結末が、物語に書かれないのか。それは主人公と悪役を除いて、物語に登場するほとんどの人は、書く価値のある結末を持ち合わせていないからだ。【流光追月神】 「……私は。私はいやだ!!!神も妖怪も、どうでもいい。私は最初から、みんなの願いを叶えてあげて、みんなを笑顔にしたいだけだ!」追月神は空から落ちる欠片を踏み台にし、飛んで回る。無数の金色の光が地面に落ちていく。嘘の世界にいる人たちは思わず金色の流れ星を見上げた。奇跡のような力が、心のざわめきと不安を和らげ、人々を安心させる。静止した時間が光に破られ、血の匂いが消える。子供が泣く止む。夜はもう怖くない……【流光追月神】 「逃げてもいい、怖がってもいい。さあ、光について行こう。ゆっくりでいいから。ここから、出よう?外には、本物の現実の中には、きっと嘘よりも素敵なものがある。見つけられなくても……うん!そんな時は、私も一緒に探そう!」【流光追月神】 「ふう…………力を使い切っても、短時間しか維持できない。やはり本物の神にはほど遠いな。うう、頭がくらくらする……ここはどこだ?鳥居?そうか……神だった頃に住んでいた神社か。荒廃していなかったのか。」転びそうになった追月神は、誰かに支えられた。振り返ると、神だった頃にそばにいた従者だった。【流光追月神】 「あ……あなた、まだいたの??私にはもう、あなたが本物か人形かを見分ける力はない。あなたが人形ではなく、自分の意思を持っているなら……目を覚まして!ここにあるものは全て嘘なんだ!」従者は黙って、彼女を支えながら歩いていく。二人は山頂の神社にたどり着いた。追月神は崖に座り、遠くの町を眺め、ここで経験したことを思い出す。【流光追月神】 「ケホケホ……はじめは神社で神をやっていた。人々の願いを叶え、讃えられ、感謝された。その後……災いが増えていって。その時、あなたが私に気づかせてくれた。私はみんなが思うような無私で神聖な神ではないと。……そして、目覚めの時がきた。私は月の問いに答え、ここに残ると決めた。そして、晴明と出会った。」「あなた様は月に願いました。ここを去る機会を諦め、ここに残って、みんなと一緒にここから出ると。代償として、月はあなた様の記憶を奪いました。何度も。」……従者はこう答えた。【流光追月神】 「……何度も?つまり……晴明がこの世界に来る前に、私は何度も目を覚まし、そして残ることを選んだのか?なぜだ?あ……私一人では、自力で目覚めるのが精一杯。他の人たちを起こすことなんてできない。やはり、「英雄くん」には叶わないな。待て。ということは……月読はすべて知っていたのか!私のことも、なぜ私がここにいるのかも……それだけじゃない、彼は何度も私の記憶を奪っていたのか!……くそっ。どうりで初めて会った時、彼が何かを暗示しているように思えたわけだ。それでも一応……彼に助けられたことになるのか。ここから出たら、彼の神社に行って感謝を伝えようか……悪神にも神社があるのか?ゴホッ……どうやら、限界のようだ。これで大体わかった。最後の問いだ。あなたは一体何だ?嘘の世界が崩壊したのに、なぜあなたはまだここにいる?」「私はあなた様が願った嘘の一部なのです。」従者は答えた。「人形として、あなた様の嘘によってこの世界に存在し、あなた様に期待されて。」【流光追月神】 「私の期待?」「あなた様は嘘に逃げようとしていた。しかし嘘に溺れるのが怖かった。だから私が生まれたのです。あなた様を起こすために。」【流光追月神】 「そうだったのか、ありがとう。私を待っていてくれて。この世界は消える、お別れだ。最後に仮面を外して素顔を見せてくれないか?」人形の従者がそっとうさぎの仮面を外すと、隠されていた素顔が見えた。赤い瞳、白と金色の短い髪、口角には小さなほくろ。嘘によって作られた人形とはいえ、追月神は驚きを隠せなかった。仮面が外された瞬間、嘘が暴露し、人形の体は金色の光となって消え、地面に水晶が散らばった。追月神がその一粒を拾い上げ、目に当てて嘘の世界を見る。【流光追月神】 「そうか……あの時の叱責を、私は重く受け止めていたのか。今の私に、信者たちは失望しないでいてくれるだろうか?空を舞う姿は、少しだけ、本物の神様のようだっただろう?」世界は静かに崩壊し、誰も答えなかった。追月神が耳を澄ますと、安堵の溜息が聞こえた。水晶を通して見上げると、黙ったままの金色の月が目に映った。彼女は月に見つめられながら、徐々に意識を失い、彼女のいるべき世界、本物の世界に戻った。【晴明】 「この音は……嘘の世界が崩壊している。追月神……彼女はやりたいことを成し遂げ、なりたい人になった。私も彼女の期待に応えなければ。姿を現したらどうだ、嘘の悪神。」【月読】 「ふふふ、もちろんです。一つお伺いしたいことが。さっき口された、追月神とは、誰のことですか?これまで、ずっと一人で旅されてきたでしょう?」【晴明】 「…………」【月読】 「嘘の世界での記憶と体験は、本物と言えるのでしょうか?」 |
第十章ストーリー
第十章 |
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嘘の最果てには何もない。晴明は静まり返った荒野に立ち、目の前の月読を見つめている。【晴明】 「月読、また人を惑わすための芝居か?」【月読】 「まさか、事実を述べたに過ぎませんよ。一度記憶を失ったあなたなら、わかっているはずです。記憶がどれだけ曖昧な存在なのか。強い力など必要ありません。今の私でも十分です。ほんの少しの誘導、意見、あるいは疑問だけで、記憶をひっくり返すことができる。仲間に出会ったことが妄想ではないという確信は?」【晴明】 「すでに起きたことは、なくならない。全ての人の記憶が変えられたとしても、世界がそれに関連する因果を覚えている。」【月読】 「因果ですか?では、こういうのはどうでしょう?」古傷を抱えたまま、数日走り回った晴明は相当無理をしていた。月読の悪神の力に満ちた幻境に、対処する余裕はなかった。その時、晴明は薄々気づいた。嘘の悪神は、とっくに力を取り戻しているかもしれない。【晴明】 「私は…………」目の前が真っ暗になり、晴明は再び眠りについた。そして、聞き慣れた騒がしい声で目が覚めた。【陰陽師のような人】 「悪神晴明!貴様を討伐する!!」【晴明】 「これは……」一瞬、晴明の頭に無数のぼやけた場面が浮かび上がった。それらは彼の実際の体験ではなく、彼の記憶とは異なる他の可能性である。包囲されて重傷を負った自分、追月神が現れず崖から落ちる自分、悪神を恐れる村人に拒絶された自分。彼が経験したこととは、似て非なるものだった。そんな中、「悪神」という名の影響が加速し、晴明の優しさと忍耐が周囲に伝わらず、むしろ悪意の蔓延に拍車をかけた。最後には、人々は彼自身よりも彼の名を恐れ、世のすべての罪を悪神のせいにした。このいくつかの場面で、彼は誰にも出会わなかった。追月神にも、仲間の姿をした人形にも。彼は一人だった。【晴明】 「……ゴホ、ゴホゴホ!」【月読】 「失礼失礼、怪我をされているんでしたね。数え切れないほどの困難を乗り越えてここまでたどり着くとは、実に感服しました。興奮のあまり、幻境の加減を忘れてしまいました。この旅の途中、あなたは何度も私の目的について問われましたね。あなたにとってここは嘘と虚偽、だからこそ自分と矛盾する身分を笑い飛ばすことができるのです。しかし、興味はありませんか?自分が晴明ではなかったら、名門の出身ではなかったら、才能がある大陰陽師ではなかったら、仲間や式神たちに出会わなかったら……どこにでもいる普通の妖怪だったら、貧乏な家に生まれた才能のない人だったら。一体何を経験したでしょう。そしてここに立つことはできたでしょうか?世の中に強い意志を持つ人はごまんといて、彼らは大きなことを成し遂げることができます。天照様もその一人です。しかしその高みに到達できたのは、ただ自分の意志の力があったからであり、運命とはまったく関係がないと言えるでしょうか?人生の終焉までの旅を、道と捉えるとしましょう。あなたの出発点は、ここです。天照様はここかもしれません。嘘の世界に留まり続ける人は、ここ……」月読がそっと手を振ると、星々がつながって、いくつかの軌跡になり、お互いに交差した。そのうちのひとつは、あまりに細く曲がりくねっており、光が消えてしまいそうだ。【月読】 「夜空に見える星は、ほんの一部にすぎません。ほとんどの人の光は、空の束縛から逃れることさえできない。それを思うたび……聖人や神が落ちぶれ、世の悪意に満ちた穢れに染まる姿がどんなものか、見たくてたまらなくなります。」【晴明】 「月読、嘘の神。お前が言うそれは、お前が望む私か?それとも昔の自分か?」【月読】 「…………」【晴明】 「現実に生きる人にとって、そんな仮説は無意味だ。嘘は所詮嘘、多くの「可能性」はもう変えようがない。運命の奔流は一方向にしか流れないからこそ、壮観で美しい。」【月読】 「……あなたらしいですね。では、議論はここまでにしましょう。虚ろな存在と消滅について語るよりも、簡単で単純な娯楽を楽しみましょう。」【晴明】 「娯楽だと?」【月読】 「平安京の英雄くん、戦いは得意でしょう?」そう言い終わると、月読は立ち上がり、乾いた宝石のような円月が昇っていくのを眺めた。遠くから無数の光が飛んできて、空に集う。円月の断面が輝きを増し、中の顔が僅かに動く。まつげを微かになびかせ、目をゆっくりと開ける。その目は月読と見つめ合う。半身同士で何を語っているのかは、誰にもわからない。一瞬で、円月が炸裂した。煙が晴れると、月読女神がゆっくりと姿を現した。【晴明】 「……月読女神。ありえない。天羽々斬は……!!!お前の目的は、力を得て、天羽々斬の外でもう一人の「月読女神」を創ることだったのか?」【月読】 「それはあくまでついでです。主な目的は、都の英雄くんがこの世界で旅する様子を楽しむことですよ。」【晴明】 「嘘の世界での……旅……そうだったのか。なぜお前の行動が矛盾だらけなのか、ずっと考えていた。お前はこの世界に悪意の「規則」を創った。だが規則を維持する気はなく、我々の反応を見て楽しんでいただけだった。我々がこの世界に溺れている人々を起こそうとしていた時、お前は止めるどころか、喜んで見ていた。信頼を得ることは困難だと知りながら、それでも同行した...最初に出会った時、自分は人々の嘘によって生まれ変わったのだとお前は言っていた。それは真実でもあり、嘘でもある。お前が真実の反対側、虚偽であるとすれば、現実の中にいる我々にとって、お前がいる月海は「存在しない」虚無になる。」晴明は言葉を整理しているのか、しばし沈黙した。【晴明】 「嘘の神であるお前に本当に必要なのは、月海に溺れた自己欺瞞の「虚偽」ではなく、「真実」だ!それこそが尽きぬ力の源だ。」【月読】 「まったくその通り、さすがです。私はただ半身を作り直したかっただけ。月海を離れる気はありません。その願いの結末は、あなたがこの世界で目覚めた瞬間から決まっていました。あなたは都の英雄くん、優しく頼もしい陰陽師様です。もし現実の中で苦しんでいる人たちが、目の前で嘘の罠にはまっていたら……」【晴明】 「私は、この世界に残る。彼らを助け出すために。」【月読】 「あなたは嘘の世界で旅をし、変わり続けました。それこそが私が必要とするものです。世界は偽物、でもあなたのようなよそ者が、偽物を「真実」に変えることができました。今あなたは旅の終着点にいます。そしてここには、条件を満たすためのあらゆるものが集っています。それぞれの人生と記憶を持つ住民たち、独特の規則、そしてよそから来た旅人に変えられた世界……あなたが何度も行った場所に、似ていると思いませんか?」【晴明】 「六道の世界か。天照が悪神をそれぞれの六道世界に封じ込めたという。都に現れた七人目の悪神、お前だけは六道世界に封じ込められなかった。お前は人々の嘘を利用し、自分だけの世界を創った!」【月読】 「あなたの親切な協力のおかげで、新しい世界が誕生し、私は半身を作り直す力を得られました。ふふ、それだけではなく、面白いものも見せていただきましたね。月海は退屈なのです。楽しみの一つや二つ、あってもいいでしょう?こんな世界がなかったら、あなたの庭院にお邪魔することすら叶わなかったでしょう。」【晴明】 「……そんな理由で。」【月読】 「私のかつての盟友ヤマタノオロチは、世界の終着点を求め、世界の終焉を見届けたいと願いました。生まれ変わった嘘の神は、世界を観察するために世界の新生を見届けました。理にかなっているでしょう?ご安心ください。今の私は月海を離れるつもりはありません。人々の嘘で創られた城にいるだけで十分です。月海は穏やかですが、一日中自分自身とにらめっこしているのは、寂しすぎます。」【晴明】 「…………」【月読女神】 「ふふ、どうやら、出る幕はないみたいね。」【月読】 「これは失礼、もう一人の「私」も既に目覚めていたことを忘れていた。」【月読女神】 「二人楽しんでいるようだったから、仕方がないかと。」【月読】 「とんでもない。「私」を作り直すために、元々弱っていた私は力を使い果たした。物語の結末として、新生を得た悪神として、我々の英雄と運命の一戦を交えようではないか。」【月読女神】 「一度死んでいたくせに、「私」は相変わらずわがままね。」【月読】 「それは心外だ。「あなた」はまだ悪の一面を見せていないだけだろう。この舞台はもう一人の「私」に委ねさせてもらおう。」【月読女神】 「どうやら、これからも舞台を用意してほしいと、「私」に頼まなくてはいけないようね。」【月読】 「ふふ、今の「私」は野心を失った嘘の悪神。そんなに期待されては困るな。」【月読女神】 「ふふ、「私」が野心を失った嘘の悪神だからこそ、嘘を世に告げる必要があるのよ。かかってきなさい、以前「私」を倒した陰陽師。これは生死を賭けた戦いではなく、過去に別れを告げ、新生を祝う儀式なの。戦いの閃光と現世の花火で、今宵の最後を飾るとしましょう。」 |
第十一章ストーリー
第十一章 |
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水晶が砕け、月読女神は倒れた。彼女の言う通り、これは生死を賭けた戦いではなかった。なぜ月読と月読女神はわざと倒されるのか、晴明はその理由がわからない。円月が砕け、嘘の世界が完全に崩壊する。晴明が空虚な世界に取り残された彼を見ると、その顔には無数のヒビが入っていた。【月読】 「こんな姿を見られてしまうとは。気にしないでください、これはあなたのせいではありません。」【晴明】 「お前は……目的は達成したのに、なぜこの戦いを?」月読の顔のヒビが広がっていき、結晶が蔓延し、結晶の触手が徐々に光を失っていく。【月読】 「それはもちろん……ゲホ……物語においては、めでたい結末が最も合理的だからです。私が倒されず、嘘の世界の権限があなたに譲渡されなけば、自分の意思で残った人たちは永遠に目覚めません。最初に……言っていたはずえす、今回私はあなたの敵ではないと。私は人の嘘を受け止め、安息と安らぎを与えます。しかし嘘は所詮嘘であり、真実の存在を知った瞬間に存在意義をなくしてしまいます。悪神に惑わされた人々が、英雄の助けによって、幻を打ち破り、新たな人生へと歩み始めます。あなたにとって、人々にとって、私にとって、それこそがめでたい結末なのです。」【晴明】 「追月神は……」【月読】 「ふふ、彼女は良い子です。運命は良い子を見捨てたりしません。彼女の祈りは太陽と真実には届かなくても、夜と嘘には届いていた。夜と嘘は彼女の願いを受け止め、彼女を見守り続けている。運命の舞台に上がり、英雄と共に世を救うのです。素敵な夢ではありませんか?」【晴明】 「なぜだ。お前は一体……」【月読】 「しーっ……その質問に対しては、沈黙が私の答えです。私は答えたくありませんし、これ以上嘘をつきたくもありません。ここでお別れです、平安京の英雄くん。もし誰かに聞かれたら、その時はどうか……ほんの少し、罪を犯してください…………嘘の罪を。」突然現れ、そして勝手なことばかりした嘘の神は、晴明の前で消滅した。晴明は結局、彼の行動を理解できなかった。月読は晴明の嘘の世界での旅を「真実」と呼んだ。しかし世界が崩壊すれば、真実も消えてしまう。目の前が真っ暗になり、再び眠りにつくまで、晴明は考えていた。先ほどの言葉は、真か嘘か?【神楽】 「晴明!目が覚めたのね!」【晴明】 「私は……一体?」【神楽】 「覚えてない?買い出しの途中で、急に倒れたの!」【小白】 「小白は傷が悪化したのかもしれないと思って、とても心配したんですよ。幸いただの過労でした。須佐之男様にも診ていただきましたが、しっかり休めば大丈夫だそうです。」【晴明】 「……ああ、そうか。」【須佐之男】 「大丈夫か?頭痛はないか?」【晴明】 「いや、大丈夫だ。」【須佐之男】 「なぜそんな風に俺を見るんだ?」【晴明】 「いや。もう夜か……私は半日寝ていたのか?」【小白】 「いいえ、二日寝ていましたよ。ちょうどよかったです、一緒に夕飯を食べましょう。セイメイ様。歩けますか?ご馳走を用意しています。」【晴明】 「ああ、ただ……まだ少し疲れがある。」【神楽】 「晴明、夢を見てたの?寝ている間、ずっと眉をひそめて、時々よくわからないことを言ってた。」【晴明】 「いいや、夢を見てはいない。」【神啓荒】 「起きた時には見た夢を忘れていても、時間が経つと思い出すことも珍しくない。」【須佐之男】 「荒、来たか。ちょうど食事の準備ができたところだ。」【小白】 「荒様はさすが高天原の代理神王だけあって、忙しそうですね。セイメイ様も目覚められたことですし、みんなで食べましょう!」晴明はぼんやりしたまま額をこすり、嘘の世界で経験したことを思い返す。【晴明】 (夢……か?ん?これは?)枕の横から扇子を取り出し、開くと痕跡があった。それは水から析出した結晶のように見える。結晶の形が変化し、やがて文字になった。「あけましておめでとう。嘘の世界はいつでもあなたを歓迎しますよ。」【晴明】 (月読……やはり最後の言葉も嘘だったか。彼は生きている!別れ際の悲しい挨拶はおそらく、気づかれずに脱出の幻術を展開するための撹乱だったのだろう。この事は、須佐之男様と荒様にお伝えしなければ。)扇子をたたみ、寝室を出た晴明は荒と鉢合わせた。荒は料理を作るように頼まれていた。彼の後ろには、星々とご飯茶碗と箸が浮かんでいた。晴明が口を開こうとすると、荒は頷いた。【神啓荒】 「先日、月海が封鎖され、この世から完全に消えた。星占いによると、「存在しないはず」の者が戻ってくるらしい。」【晴明】 「ああ、私もそのことについて話したかった。だが今回……彼に悪意はないようだ。とりあえず今は英気を養っておこう。」晴明と荒が食卓に目をやると、みんなが騒がしく夕飯の支度をしていた。【神啓荒】 「星海では、存在しない世界を覗くことは難しい。何が起こったのかわからないが。とにかく、よく休むといい。」茶碗と箸をみんなのところへ運んでいく荒を見て、晴明は黙り込んだ。「何があった?」夢から覚めても、夢の中の出来事についてわからないことは多い。晴明のこれまでの短い人生の中で、今年の新年は一番特別で……一番疲れる新年だった。【神楽】 「晴明?」【小白】 「セイメイ様!早く!」【須佐之男】 「どうかしたか? |
」【晴明】 「いや。今行く!」これはこれで悪くない。晴明にとって、みんながそばにいてに、共に過去を祝い、未来を迎えることができれば……その年は、これまでもそうであったように、平和で楽しい一年になる。 |
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