【陰陽師】万言の霊ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の万言の霊イベントのストーリー(シナリオ/エピソード)「旧景言写」をまとめて紹介。言海の境(メインストーリー)と絵の言葉(サブストーリー)をそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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急に空が暗くなり、雨が降り出し、空と大地の境目は墨色が滲んでいく。しかし落ちてきたのは普通の雨ではなく、無数の文字だった。それに触れると、文字は雨のようにとけて消えた。【小白】 「うわ、げふっ!」黒い波が逆巻く中、せっかく水面に浮かび出た小白は、次の瞬間、再度押し寄せてくる波に巻き込まれた。【小白】 「くっ……ごくごく……ぷはっ!」水の中から助けられた小白はようやく呼吸をすることができた。小白が筏に上がった時、晴明は術で筏を操っている。古びた筏はおそらく誰かが捨てたもの。【小白】 「ぜー……はー……はー……小白は今日死ぬかと思いました!皆とはぐれたくないから、小白は頑張って泳いでいったけど、荒れ狂う波のせいで、せっかく水面に出たのにまた波に巻き込まれてしまいました。」【八百比丘尼】 「う……ゴホゴホ。」【小白】 「八百比丘尼様!ご無事ですか?」【八百比丘尼】 「ゴホン、平気です。この世界に入る時、そのまま海に落ちるなんて全然想像できませんでした。急なことですから溺れて水を飲んでしまいました。」【神楽】 「小白、おいで、術で体を乾かしてあげるわ。」【小白】 「体を乾かす?術を使うまでもないですけど?」小白は慣れた様子で体をぶるぶるし始めた。晴明は顔に飛び散った水を拭く。【晴明】 「小白……次回はやはり術を使おう。」【小白】 「あれ、博雅様はどこに?まさか……」【源博雅】 「犬っころ、お前は何が言いたいんだ?」浮木に乗っている源博雅は知らぬ間に現れ、どこかで拾った木の板を櫂代わりに漕ぎながら皆に近寄る。晴明は彼に手を貸し、源博雅を筏に引き上げた。源博雅が筏に乗った瞬間、五人も乗った筏はすぐ少し沈んだ。【小白】 「……博雅様……」【源博雅】 「言いたいこと分かってる…黙れ。」【小白】 「……」【晴明】 「この世界……」見渡す限り黒い海が広がっている。空に立ち込める暗雲は海と繋がっているほど低くて、海と空の境目すら見分けられない。荒れた海に鳴り響く雷、激しい波に揺れる筏は今にも沈みそうになっている。【晴明】 「六道の世界は、本当に計り知れないな。」【八百比丘尼】 「そうですね……千年も長い時が過ぎたら、何が起こるか想像もできません。」【源博雅】 「この世界は全部海なのか?こんなにも広い海じゃ、悪神を探したくても見つけられないだろう?」【小白】 「セイメイ様、見てください、あそこに誰かいるようですけど?」確認すると、やはり近くで震えながら浮木にしがみつく二人を見つけた。波が激しくなっていく中、一人は流されて海に落ちてしまった。海に落ちた人は足掻いて浮木に戻ろうとすると、異変が起きた。黒い水は海に落ちた人の存在を察知したみたい、水はまるで生きているかのように、無数の蔓のような形に姿に変え、落ちた人に絡みつき、きつく縛り付けた。ほぼ同時に、その人は突然爆発して無数の文字になった。絡み合う文字は海に落ちると、すぐさま黒い海にとけて一つになった。刹那の出来事に、晴明たちは何もできなった。【小白】 「さっき……海水は人をとかしましたか?」【源博雅】 「でも俺たちも一度海に落ちたじゃないか。その時は何も起こらなかったんだが。」【八百比丘尼】 「その話は後で、浮木に残っているもう一人も落ちそうです!」【晴明】 「臨兵闘者、皆陣列在前!」晴明は呪文を唱えると、筏は忽ち生存者のほうに向かって動き出した。浮木にいる人はさっき仲間を失ったばかりで、恐怖のあまり体を縮こまらせた。荒れ狂う水はまもなく浮木を飲み込み、彼に触れそうになった。【源博雅】 「おい!こっちに来な!」源博雅は彼を筏に引き上げた。助けることができたが、その人はまだ震えている。周りを見渡し、筏は沈みそうにないということを確認すると、彼はようやくホッとした。【言従の少年】 「ありがとう……ありがとうございます……」濡れた服を脱ぐと、皆は貧相な少年だと改めて思った。少年は少し落ち着いた後、晴明はようやく疑問を口にした。【晴明】 「君は……漁民に見えないけど。どうしてこんな海の中にいるんだ?」【言従の少年】 「言海は狂った……狂ったんだ……故郷が……水没した……言海はすべてを飲み込んだ…皆は言海に帰った……」【源博雅】 「帰った?」【言従の少年】 「逃げられないよ……あいつは……あいつは全部破壊し尽くさないと止まらないんだ。悪神、悪神……」【晴明】 「!」晴明達はお互いに目配りした。【晴明】 「すべての元凶は……悪神なのか?」【言従の少年】 「そう……悪神の仕業だ……言海はもともと穏やかで透き通っている。悪神は言海を汚した上、すべてを飲み込むように言海を操っている。言海は一番神聖な場所だが、今はもう悪神の棲家になってしまった。」【晴明】 「つまり……悪神は海の中にいるってことか?」【言従の少年】 「日輪のごとく偉大なる神よ。その御名において、悪神を退けよう。」少年は急に勝手に讃美の言葉を唱え、真摯に祈り始めた。【言従の少年】 「真神一言主は僕たちを守ってくれる。あの方は一度悪神に勝ったのだ。今回もきっと真言道を守ってくれる。」【小白】 「一言主? 真神? 結局どなたですか?」【源博雅】 「こら、今は祈るより自分を助ける方法を考えるべきじゃねえか。それにその真神とやらはさっきお前を助けなかっただろう。海はすべてを飲み込んだと言ったよな。つまりここにも大地がある、全部海なわけじゃないだろう?もし生き残りたいなら、まずは道を案内してくれ。さもなければ俺たちはいずれ海に飲み込まれる。」それを聞いた少年はすぐ祈るのをやめた。【小白】 「……言葉の綾がわからない博雅様は時に率直すぎるけど、言っていることは正しいです。」【言従の少年】 「もし言海に影響されない場所に行くのなら、やはりあそこだな。僕もあそこに行くつもりだ。」少年が指差すほうを見ると、霧に包み込まれる巨大な影が見える。吹き出した風が霧を少し晴らした時、皆はそれが巨大な塔と気づく。巨塔は忽然と空にそびえ立ち、冒涜を許さない威厳を示している。【晴明】 「本当に巨塔だな……しかしなぜ一部壊れている……」壮大な景色を目にすると、人は自然と大いに感動されて感慨を漏らす。【言従の少年】 「それも悪神のせいだ、「転覆の日」……でも!一部壊れているとはいえ、それでも言海に水没することはない。「言海の終焉」が始まって以来、皆は次々に塔の中に逃げ込んだ。それにあそこは真神一言主に一番近い場所だ。あそこにさえ行けば、もう悪神に怯えることはない。」【源博雅】 「じゃあ、とりあえず行ってみるか? 真言……の塔とやらへ。」【晴明】 「……君が言っていた、「転覆の日」や「言海の終焉」をもたらした悪神は一体何者なんだ?」【言従の少年】 「あなた達……」何かを思いついたかのように、少年は急に警戒を高めた。【言従の少年】 「よく考えれば、あなた達変だな。この真言道において転覆の日と悪神の名前を知らない者は一人もいない。それだけじゃない。真神一言主すら知らないとは……あなた達は……何者なの?」【晴明】 「私達の出身を詮索しない。そして質問に答えると約束してくれるなら、君にこの筏をやる。そして真言の塔まで送ってあげる。どちらを選択するか分かっているよね?」【言従の少年】 「……」【晴明】 「雨が激しい、目的地まではまだ遠いでしょう。」【言従の少年】 「それ……本当なの?」【小白】 「ご安心ください。セイメイ様は約束したことをやりとげます。」【言従の少年】 「……疑ってごめん。とにかく、もう命の恩人であるあなた達にそんなことを聞かない。さっきの質問だけど、悪神は……あいつこそは真言の塔を打ち倒し、「言海の終焉」をもたらした。この世界を滅ぼそうとする極悪非道の神……言霊。」【晴明】 「言霊?」【言従の少年】 「あいつは一言主様によって言海に落とされたけど、皆が想像してたとは違い、死に絶えなかった。全然反省しなかったあいつは災いをもたらし、世界を道連れにしようとしている。」【晴明】 「……ありがとう、この筏はもう君のものだ。筏に真言の塔に向かう術を掛けておいた。術に守られているから心配することはない。」【言従の少年】 「……ほ、本当に? 助けてくれるの?」【源博雅】 「筏を彼にやったけど、俺たちはどうするんだ?」【晴明】 「私達は……」【八百比丘尼】 「もちろん言海に行くのです、そうでしょう?」荷物をまとめた後、八百比丘尼は立ち上がった。【晴明】 「そう、悪神の居場所が分かった以上、会いに行かない道理がない。」【言従の少年】 「あなた達、やはり只者じゃない。まさか悪神に会いに行くのか!?」【小白】 「悪神に「会いに行く」だけじゃありませんよ。」【言従の少年】 「ぼ、僕が祈ってあげるさ!真神に会ったら、あなた達のような勇敢な人たちがいることを伝える!」【晴明】 「行きましょう。」晴明は簡単に告げると、皆はお互いに見合って頷いた。 |
弐
弐ストーリー |
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「言海の中」 微光を放つ泡は晴明達を包み込んでいる。彼らはすでに言海の中にやってきた。【小白】 「上から見ると、言海は真っ黒に見えるが、水中に入れば初めてそれは海で溢れかえっている文字であると分かる。」小白は我慢できずに海流に乗って流れてゆく文字に触れてみた。触れた瞬間、文字は水に落とした墨のように広がっていく。しばらくして、文字はまた自発的に集まり、奥に流れてゆく。【小白】 「さっき海水が生きているかのように人をとかしたのを見ましたけど。小白たちには……効果がないみたいですね?」【晴明】 「私達はこの世界の者じゃないからか?私達はよそ者だからな。さっきのはこの世界の住民にのみ有効かもしれない。」【八百比丘尼】 「言海の終焉」……【小白】 「真言道の悪神は何のために「言海の終焉」をもたらしましたか?悪神たちは世界を破壊することしか考えていないですか?破壊したあとはどうするのです?世界から命が消えたら、全然つまらないじゃありませんか?小白は全く理解できません。」【源博雅】 「お前から見れば、世界は面白いかもしれんが、悪神もそう思っているとは限らないだろう? だからお前は悪神になれないんだ。」【小白】 「小白は悪神なんかになりたくないです!」【源博雅】 「晴明、悪神の居場所が分かったかい?」晴明は手を伸ばしたが、水中の文字は止まることなく、そのまま彼の手をすり抜けて進んでいく。【晴明】 「これだ、水中の文字は無秩序に流れているわけじゃない。逆だよ、すべての文字は規則正しくある方向に流れてゆく。むしろ感じることもできるのだ。文字たちはずっと無言で私達に注意しながら導いてくれている。」【神楽】 「晴明……」【源博雅】 「神楽?どうしたんだ、水中に長居しすぎて気分が優れないか?」【神楽】 「文字が流れ行く先を感じたの。何かとても苦しい……とても苦しい……」神楽は胸を押さえた。【神楽】 「息ができないほど苦しい。ありのままでとても鋭い……また感じたの……文字が集まる場所に、誰かいる。あの少年が教えてくれた、言海に隠れている悪神かも。」【晴明】 「神楽、博雅と一緒にここを離れるのはどうだ? |
」【神楽】 「いいの、私は「悪神」に会いたいから。どうしてそんな気持ちになったの?寂しい、つらい……」流れる文字についていく晴明達はとても順調に進んでいく。しかし奥に進むにつれ、海底は不思議な景色になっていく。絡み合う文字は糸となり、その糸が紡ぎ出す巨大な「繭」はあちこち張り巡らされている。奥に進むにつれ、「繭」は多くなっていく。それはまるで海底で張り巡らされていた巨大な網のようだ。ここを通りかかる魚は囚われ、動かなくなるまであがき続ける。周りには死の気配が漂っている。【小白】 「ひぃ……」小白は震え上がった。【小白】 「小白は悪神の「悪意」を感じたようです。」【八百比丘尼】 「あれは……?」「繭」の奥、たくさんの糸がもつれている。一番暗くて汚い隅っこ、小さな人影は「繭」に幾重にも囲まれた。一本の細長い矢は繭を貫いた。もう少し近づくと、細い矢は彼女の喉を射抜いたことを発見できる。【神楽】 「彼女なの……とても苦しい……?」【小白】 「彼女が悪神ですか?」物音が聞こえたように、首を垂れていた人影は急に頭を上げ、目を開けた。彼女が皆に目を向けた瞬間、黒い海流は皆に襲いかかった…………男は小さな何者かを抱えながら、黒い海の中を泳いでいる。上に光が見えてきた瞬間、男はすかさず全力で上の方に泳いでいく。【雨】 「水面を出たぞ……言霊、大丈夫かい……?」抱えられている小柄な人影は辺りを見渡す。【言霊】 「ここは……言海!雨、あいつらをまいたんだ!全部お前のおかげだ、あのデブはよくもやってくれたわ。罠を仕掛けた上に伏兵も用意するなんて、殺す気満々だぞ!ここ数日何度も何度も押しかけてきたせいで、力は全部使ってしまった。でなければ私は逃げないぞ。」【雨】 「……」【言霊】 「お前変だぞ?下ろして、一人で泳げるから。」【雨】 「大丈夫さ、もうすぐ岸にたどり着く。あそこに行けば……もう無事だ……」岸辺につく寸前、雨は先に言霊を岸に押し出した。【言霊】 「お前、疲れたようだな……力尽きたか? 手を貸して!」言霊は海に浸かっている雨を引っ張り出した。【言霊】 「一人で泳げると言ったのに……」這いずって岸に上がった雨は、岩礁にもたれて座り込んだ。【雨】 「なんだか疲れた……ちょっとだけ休ませて……」【言霊】 「うん!休んでもいいよ、私が見張ってあげる!」言霊は岩礁に飛び上がり、警戒を高めて辺りを観察している。その時、朝日はちょうど海から昇っている。【雨】 「ほら、今日の朝日が拝めたじゃないか。こんな朝日が見れれば、もう未練はない。言霊、今回追ってきた皆は一般人だけじゃない。一言主が派遣した兵も混ざっている。これからは、できるだけ……避けるように……」【言霊】 「なによ!今まではあのはなたれ小僧が何度喧嘩をふっかけてきた。お前を攫う卑劣な手口も使ったのだ。こっちも神殿をぶち壊し、あいつを握りつぶしたでしょう。今度も例外じゃない。生意気なあいつを許さないわよ。私が力を取り戻す間、少しだけ泳がせてあげる。」【雨】 「でも……無理矢理力を振り絞り出した君は今までずっと静養していて、夜な夜な眠れない大変な思いをされていているじゃないか。それに……俺たちの目の前で一言主を握りつぶされたんだ。それなのに、あいつはすぐさま現れた。ひょっとしたら、あいつは倒せないかも……」【言霊】 「上等じゃない。あいつは何度現れようと、そのたびに握りつぶしてやる。あいつはその気であれば、最後まで付き合ってやる!」【雨】 「言霊……逃げていい時もあるんだ……もう怪我しないで……」【言霊】 「怪我しないよ。どうしていつも逃げるとかを言うのだ。お前は寡黙なほうだが、私に話しかける時はいつも口うるさく注意してくる。連中はまだ追ってこないから、その間休んでおいて。このあとは海岸を走り抜け、連中をまくのだぞ。」……言霊は潮の音しか聞こえなかった。【言霊】 「え?聞こえた?」……変だと思った言霊は岩礁を飛び降りた。【言霊】 「どうした……」雨は目をかたく閉じ、青白い顔をしている。岩礁にもたれる体はゆっくりと海岸に倒れた。慌てて逃げていたせいで乱れた髪は砂まみれになり、潮に濡れる。【言霊】 「ちょっと……?」言霊は戸惑い、現実が受け入れられない。彼女には前に出る勇気すらない。潮は雨の体を優しく揺らし、赤く染められた背中から滲み出る鮮血は水の中で拡散していく。彼の体を調べると、言霊はようやく彼の背中に深く入り込んだ折れた矢を見つけた。彼はいつ射当てられたか、そしていつ矢を折ったか、言霊には分からない。【言霊】 「雨……?」動き出した言霊は最初になにかを掴みたかのように、海に拡散していく赤色を掴もうとした。雨の消えていく命のように、彼女は何も掴めなかった。虚しかった。【言霊】 「雨……雨……」言霊は雨に自分の力を注ぎ込んだが、何の効果もなかった。かつて冬の夜に彼女を握ってくれた手は、少しずつ冷えていく。【言霊】 「いやだ……いやだ……だめだよ……」言霊は彼の手を力強く掴んだ。彼女は初めてどうしようもない思いを体験し、自分の無力さを痛感した。【言霊】 「さっきまで喋っていたじゃないか?声を聞かせてよ。私が減らず口を叩いたせい?わざとじゃないの……どうして……どうしてもっと早く教えてくれなかった?何か言えよ!」雨の体は透けていき、数多の文字に姿を変えて海に溶け込み、やがては波と共に遠くに消えた。【言霊】 「だめよ!消えてはだめよ!」言霊は術を使って文字を止めようとしたが、結局無駄だった。次の瞬間、言霊は何度も水をすくい上げた。しかし、やはり文字が消えていくのを止められない。【言霊】 「お願い……お願い……!お願い……お願い……ううう……」言霊は誰にお願いすればいいかすら分からない。神なのに彼女は祈り始めた。しかし彼女の祈りはどこに届くのか。世界は沈黙を貫いている。気兼ねなく彼女に答える者はもう一人も残っていない。言霊はついに我慢できず大声で泣き出した。【一言主】 「悪神言霊。」懐かしい声が届いてきた。見上げると、宙に浮いている一言主は上から彼女を見下ろしている。いつの間にか追手の人々に周りを囲まれた。一方、目の前に倒れていた雨はすでに跡形もなく消え去り、何の痕跡も残さなかった。彼は自分の名前のような夏の雨で、彼女の服の汚れを洗い落とし、枯れた心を潤い、迷う彼女を慰めてくれた。しかし雨はやはり一時的なもの。雨上がりの時、万物は一新されるが、雨だけは一つの痕跡も残さない。【言霊】 「今日こそ、けりを付ける。」【一言主】 「見るがいい、悪神に組する愚か者は……滅ぶ定めにある!彼は選択を間違えた!」【言霊】 「お前……今になっても彼を誹謗するのを諦めないか?すべての元凶は、お前だぞ!」目が血走る言霊は全力で一言主に飛びかかってくる。【言霊】 「今日こそお前を八つ裂きにして、恨みを晴らしてくれるわ!」一言主の法器万相綾は飛び出し、無謀に飛んできた言霊を拘束した。手足が動けないため、言霊は自分を拘束した万相綾に噛みつく。【一言主】 「ふん、小賢しい。「落ちろ!」」万相綾に引っ張られていく言霊は急速に空から落ちてきて、水面に重く叩きつけられた。辛うじて最後の力を振り絞り出して一言主に対抗していた言霊だが、その一撃であらゆる骨が折れたような気持ちになった。【一言主】 「呪!」一言主が命令を下すと、海岸の言従たちは口々に悪言を唱える。彼らが口にする言葉は鎖となって海に飛んでいき、言霊を拘束した。【雨】 「逃げていい時もあるんだ……」【言霊】 「うあああああああ……!私は、逃・げ・な・い・よ!!!」言霊は歯を食いしばって彼女を拘束した鎖を掴んだ。言霊は想像もできないほど強い力で鎖を掴んだため、すべての鎖は激しく揺れている。鎖と繋がっている言従たちは引っ張られて体勢を崩し、そのまま倒れた。中には海の中に引きずり込まれた人もいる。【一言主】 「ふん、強情だな。では、これはどうだ?」雨は突然海岸に現れた。彼も鎖に繋がれ、苦しそうな表情をしている。【雨】 「言霊……何をしている?」【言霊】 「雨?いいえ……お前は雨じゃない……違う……」【雨】 「言霊……やめなさい……痛い、痛いよ……」【言霊】 「黙れ!お前は偽物だ!」【雨】 「嫌だ!どうして…どうして俺にこんなことを?助けられるはずなのにどうして俺を見捨てたんだ?俺は死にたくない……頼んだ、死にたく……」引っ張られている雨は、まもなく海に落ちた。【雨】 「言霊!助けて……!」【言霊】 「雨!」目の前にいるのは一言主が作った幻だと分かっているが、言霊は無視できない。彼女は反射的に海に落ちそうになった雨を受け止めようとする。 彼女が油断した瞬間……【一言主】 「ふふふ。」一本の細長い矢は「雨」の後ろに現れ、「雨」の体を射抜いた。その後、細長い矢は恐ろしい勢いで言霊の喉を貫いた。【言霊】 「ぐっ……うぅ……」雨は再び彼女の目の前で消えた。矢に貫かれた痛みのせいで、言霊は頭が真っ白になった。彼女はもはや声を出せない。真言の力が使えるはずもない。彼女は両手で矢を掴み、それを抜き出そうとしている。しかし矢の棘は彼女の血肉を切り裂き、辺りの海を赤く染め上げた。足掻ければ足掻くほど、矢は彼女の喉に深く刺さる。【言霊】 「……ぐあああああああ!」【一言主】 「さらばだ。」悪言の鎖は言霊を海底に引きずり込んだ。彼女は全力で足掻いているが、鎖は少しずつ体に食い込んでいく。彼女は封印を何とかすることもできない。【一言主】 「人々の言葉によって紡がれる鎖は、そなたに一番相応しい罰。悪神言霊よ、我は石碑を建ててそなたを記し、そなたの名を広める。いかにも大罪を犯したそなたをな!暗闇しかない冷たい海の底で、かつて我が感じた痛みを噛みしめ、永遠に我を讃えよう!」言霊は海底に引きずり込まれていく。海の上空にいる一言主を睨んでいる言霊は目が霞み始めた。【一言主】 「悪神言霊、これにて滅される……これより、そなたたちは我が加護を受ける……」【小白】 「さっきのは……言霊の記憶ですか?」【神楽】 「……それが彼女の痛みの原因だったんだね。海底に囚われる彼女は、繰り返して同じ記憶を体験している。真っ黒で静まり返る海底で、憚りなく悲しみと恨みを吐き出している……その感情はあまりにも強すぎるから、私達をも巻き込んでしまった。」【小白】 「悪神も……悲しむんですか?」【神楽】 「私にもわからない……でも、晴明、彼女を助けたい。」【晴明】 「うん、同じ立場に立たされたら、私も彼女を助けたい。神楽、念のために守護の術を掛けておいた、行きなさい。」幻境は再び始まりを迎えた。神楽は慟哭している言霊の後ろに近づき、言霊の目を隠した。【神楽】 「見ざる、すべては過ぎ去った故。聞かざる、すべては妄言である故。言わざる、すべては沈黙に帰す故。」神楽の霊力はゆっくりと言霊の体の中に消えていく。案の定、周囲の幻境は消え始めた。皆はさっきの「繭」だらけの海底に戻った。言霊もようやく長過ぎる、苦痛に満ちる悪夢から解放された。彼女はまだ頭を垂れ、拘束されるまま眠っている。彼女の喉を射抜いた細長い矢を見たら、誰だってゾッとするでしょう。【小白】 「さっきの記憶ですけど……小白はなんだか、言霊は悪い奴じゃない気がしますけど?」小白がその言葉を口にした瞬間、言霊の喉を貫いた矢は忽ちいくつかに折れた。彼女を拘束していた鎖も次々と壊れた。壊れた鎖が飛び散り、皆はそれを避け続ける中、言霊を包み込んだ繭は炸裂した。すると海底をも揺るがす威圧の気配が出現した。【言霊】 「何者だ?よくも私の目の前で……私のことをあれこれ言ったな!?」 |
参
参ストーリー |
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「言海の中」【小白】 「うわあ!」遠くに吹き飛ばされた小白は体勢を整える前に、ある人影は無数の繭を突き破って、そのまま小白に飛びついた。【言霊】 「ふん、私の目の前であれこれ言ったのはお前か?犬なのに喋れるのか。一体何者なの?」言霊は小白に組み付いた。【源博雅】 「なっ……」源博雅が小白を助けようとすると、晴明は首を横に振った。【源博雅】 「悪神だろう?危険な目に遭う小白を見捨てるのか?」【晴明】 「ここに近づく時も彼女が目覚める時も、天羽々斬は何の反応も見せなかった。彼女は目標の悪神なんかじゃない。」【言霊】 「今になって、また悪巧みを考え出したか?お前らもはなたれ小僧の使いだな?なぜ本人が登場しない?八つ裂きにされて真言道の生贄にされるのが怖いか?ふふふ……!」【小白】 「何を言ってるのか小白は全然分かりませんよ!それに目覚めた途端に襲いかかってくるなんて正気ですか?」防御に徹する小白は、まんまと言霊のビンタを食らった。【小白】 「おのれ!小白を舐めるな!」小白は霊力を駆使して大きくなり、本当の姿を現した。【言霊】 「やはりこれが正体だな……!」小白は手を上げ、飛んできた言霊を叩いた。驚くことに、言霊の攻撃を凌ぐだけのつもりだが、小白の一撃を食らった言霊は強い衝撃を受けたように、そのまま海底の岩の中に叩きつけられた。【小白】 「え……?小白は、小白はあまり力を使っていませんけど?」小白は本体を隠し、叩きつけられた言霊が作った穴に向かうと、言霊はちょうど穴の中から出てきた。言霊を見るなり、小白はすぐさま防御の構えに移した。【小白】 「先に言っとくけど、小白はわざとじゃないです。」しかし言霊は彼を放っておいて、穴の隣で岩にぶつかった頭をさすっている。【晴明】 「正面から小白の攻撃を受けたから、傷を負ったようだ。「敵」の目の前で息を整えなければならないほどの傷をね。」さっきの衝撃のせいで、言霊は髪も服も乱れてしまい、不格好な姿を晒した。晴明達は泳いで小白に近寄る。【源博雅】 「すげえな小白、一人で「悪神」と戦えるようになったな。」【小白】 「彼女は明らかに悪神じゃないですけど!?」小白の言葉を聞いた瞬間、言霊は驚いたように小白を見上げた。それでも彼女はまだ警戒を緩めなかった。【言霊】 「私を探しているか?言海を自由に行き来できる上、それほど強い力を持っている。」言霊は小白を一瞥した。【言霊】 「私が次の攻撃をする前に、さっさと白状しなさい!」【小白】 「その言い方……まるでさっき負けたのは自分じゃないみたいです……」【言霊】 「私は悪神じゃないと言ったね、つまりはなたれ小僧とは関係ない……いいや……これもやつの悪巧みの一部かも……」【神楽】 「大丈夫?」言霊は同い年の女の子に目を向け、彼女は自分に気を使っている……みたい?【言霊】 「うっ……近すぎ!」言霊はそっぽを向いた。【神楽】 「悪神と勘違いしてごめんなさい。でもあなたが目覚めた途端に攻撃してきたので、皆驚いたのよ。心配しないで、私たちに悪意はない。ここに来たのははっきりさせたいの。あなたは私たちが探している目標かどうかを。今までの情報を考えれば、私たちが探している悪神は、この世界の悪神とは違うみたい。」神楽の指先から流れてゆく霊力のおかげで、言霊の頭にできたこぶはすぐ小さくなった。痛みが和らいだので、眉をひそめている言霊もだいぶ楽になった。【言霊】 「変な連中ね……全く真言道に生まれた人らしくない……でも別にいいわ。」言霊は神楽が治してくれた額に手を当てて様子を確かめた。【言霊】 「お前らに構う暇はない。喧嘩をふっかけてきたわけじゃないなら、余計なことはしないで。封印が……え!?封印が弱まったけど……」喉首に手を当てると、言霊は少し戸惑った。【八百比丘尼】 「自分の喉首を貫いた矢が気になりますか?それは先程いくつかに折れました。」言霊はにわかに受け入れられないみたい。【八百比丘尼】 「確かに小白がなにか言ったあとに、勝手に折れた気がします。小白、何を言ったか覚えていますか?」【小白】 「何をって……「悪い奴じゃない気がします」って言っただけですけど。小白が言ったことと関係ありますか?」【言霊】 「ふん……そうだったか、そうすれば封印の力を弱らせることができるか……長い間、私に優しい言葉を掛ける人が一人でもいれば、封印は弱まる。でも世の中は私のことを悪神と呼ぶ。あの象は異なる意見を持つ者、私を庇う者は一人もいないと見通した。誹謗中傷は毎日のように言海に流れ落ち、何度も何度も鎖を強化していく。唯一悪口を叩かないあの人はとっくにいなくなったから、世界はあいつの思い通りに動いている。こんな封印が、長年私を封じ込めてきたか。」【神楽】 「体の中の封印はまだあなたの力を抑えているでしょう……?長年の間悪言は封印を固め続けている。徹底的に封印を壊すには、恐らく……」【言霊】 「より多くの人々の考えを変え、私に優しい言葉を掛けてもらう。ふん、今まで一度も彼らの力を借りていない。今だってそうだ!十分の一の力しか取り戻せなかったが、それでも十分すぎる……」その時、突然上から飛んできた鎖が皆に襲いかかる。目聡くそれに気づいた言霊は、躊躇なく神楽を後ろに庇った。彼女は目から金色の光を放ち、盾を作って次の攻撃を防いだ。【神楽】 「ひゃっ……」【言霊】 「ちっ、面倒だ!ボーッとするんじゃない、早く逃げなさい!狙われたのは私だぞ。」攻撃を防いでいる言霊は辛そうだ。【晴明】 「封印を破った矢先、兵士が現れたのか?」【言霊】 「封印を破った以上、落ち着いていられるか。」晴明は扇子を振り、忽ち周りの鎖を断ち切った。【晴明】 「水中では戦いづらい、彼らは上で私達は下だから、不利な状況にある。とりあえず海の上に戻るのだ!」【神楽】 「言霊、一緒に来て。」言霊は神楽が差し伸べた手を見つめる。【言霊】 「……わかった。」皆は孤島に上がり、黒い岩石に覆われる島はほとんど水没した。【源博雅】 「さっき襲ってきた連中は、まだ俺たちが逃げたことに気づいていないようだ。」【言霊】 「無駄だ、あいつらはすぐ追ってくる。人々はあいつの耳目だから、どこに行っても、あいつはいつか必ず気づくのだ。」話している間、言霊は周りの環境を観察している。嵐に黒い潮に墨色の雨、いかにも世の終わりの景色。【言霊】 「……どうしてこんなことに?本当に面白いね、まだ何もしてないのに。世界はすでに破滅寸前に追い込まれた。」【小白】 「でも、全部あなたの仕業じゃありませんか?」【言霊】 「私の仕業?ふふふ、とんだ大嘘ね。海底に閉じ込められてから、ずっと世界を滅ぼすのを考えていることは本当だけど。もし真言の力を使えるのなら、この程度で済むわけがない。」【小白】 「でも、一人の人に出会いました。彼は全部言海ですべてを水浸しにして世界を滅ぼそうとしているのは、あなたの仕業だと言っていました。それから、こんなことも教えてくれました。この塔を打ち倒したのはあなたって。」【言霊】 「私が……この手口は懐かしいぞ。また転覆の日のように、罪を全部私になすりつけるつもりね。信じるかどうかはそっちの勝手だけど、言海がこんな風になったのは私とは関係ない。たぶんこれもあの象の仕業だ。何を企んでいるか分からないけど、悪事に決まっている。しばらく危険に晒される心配はないから、これ以上付き合わない。こっちには「仕事」がたくさん溜まっているから。」言霊は立ち上がって離れようとする。【晴明】 「待って、一つだけ教えてくれないか?この世界においてあなたを除ければ、他の「悪神」の噂を聞いたことはないか?」【言霊】 「私を除ければ、「悪神」の噂を聞いたことがない。強いて言うなら、私にとっての悪神は一人しかいない。それはこれから私に引き裂かれる定めにある。真言道の人々が唯一神として崇める一言主。あいつが現れた後、霊語は禁じられ、人々はあいつが教える言葉を使わなければならない。そうそう、お前らが今使っている言葉をね。私が知っている真言道の皆は、次第に私には理解できない姿に変わっていく。複雑な欲望や悪念は言葉によって生まれ、そしてまた言葉によって発散される。あいつはむしろ私以上に混乱をもたらしてくれた。何度聞かされても、私の答えは変わらないぞ。はいはい、質問はこれで終わりだ。さっき助けてくれたからって、何でも答えてくれると思うな。」【神楽】 「これから一言主に復讐に行くの?」【言霊】 「……そう、だから私と一緒にいてもいいことはない。早く行って。」【晴明】 「復讐したい気持ちは分かるけど、一つ疑問がある。そんな体や力で、一体どうやって復讐する?小白の反撃を受け止めれなかった。兵士の奇襲に対抗する時もあまり余裕がなかった。」【言霊】 「ふん、御託を並べて結構。とどのつまり、私の計画が知りたいのでしょう?そういう口調は知り合いに少し似ている。でも教えてやってもいいぞ。私はもちろん力を取り戻す、創世の時に礎になった力を。今こそは、力を取り戻す時。私だけの真言の力を。」 |
肆
肆ストーリー |
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「真言道・ある場所」【源博雅】 「このまま言霊について行っても本当に大丈夫か……」【晴明】 「彼女について行くというより、むしろ彼女は私達の調査に力になってくれると言うべきでは?人々から悪神と呼ばれているけど、彼女は悪神なんかじゃない。人々は彼女がこの災いをもたらしたと教えてくれたのに、彼女はそれを認めなかった。多くの手がかりは彼女を指し示すように作られている。それはただの偶然なのか?しばらく嵐の中心に残りましょう。往々にして破綻は突拍子もなく生じるのだ。」【源博雅】 「よくわかんないけど、言霊についていけば本当の悪神を見つけられるってわけだな?」【小白】 「博雅様はこんなにも簡単なことすら理解できないですか?セイメイ様は言霊様についていけば、彼女は早かれ遅かれ必ず綻びを見せると言いたいのですよね。」【源博雅】 「お前は理解したつもりかよ……」【神楽】 「この前真言を集めると言ったけど、真言とは……何なの?」【言霊】 「一種の力かね?真言とは何なのか考えたことはない。真言を取り戻せれば私はすべての力を取り戻す。その時、私は意のままに世界を破壊し尽くせる。もともと私のものだから、あくまでも主が取り戻すまで。」【神楽】 「取り戻す方法を知っているの?」【言霊】 「知らない。」【神楽】 「えっ?」【言霊】 「どうせいつか方法を思いつくから、躊躇する必要はない。グズグズしてたらもう遅いかもしれない。それに今はまだ分からないけど、もしかしたら簡単に見つけられるかも。ふん、信じていないようだね。」【神楽】 「……」【言霊】 「冗……談ってば、もちろん真言を察知できるのよ。大体の方向しか分からないけど、近づけば近づくほどはっきり分かるの。」【神楽】 「そういう意味じゃない……」【言霊】 「えっ!この部屋……まだ残っている!」言霊は道端のボロ屋に入った。正直ボロ屋というより、ボロ屋の跡地というほうが正しい。言霊は勝手に暗い隅っこに近寄り、雑草の中でぼろぼろの敷物を見つけた。【言霊】 「これもまだ残っているか、ははは。以前、雨は干し草の上で寝るのはよくないと言うから、手間をかけてこれを作ったんだ。結局出来上がったのは粗悪品だった。形は歪んでるし、ちくちくするし、寝心地は干し草以下だぞ!あ!これも残っている!」言霊は跡地の中で輝いている丸い石を見つけた。綺麗に拭くと、言霊は石を光に当ててじっと見る。【神楽】 「これは……?」【言霊】 「遊んだことないの!?」言霊は神楽にいくつかの小石を手渡した。そのあと、彼女は慣れた動きで地面に伏せ、小石をばら撒いた。【言霊】 「私の小石をぶつけたら、その小石を自分のものにすることができる、簡単でしょう!遊ぼう。」【神楽】 「じ、地面に伏せるの?」【言霊】 「こうでなければ面白くないよ。」それを見た源博雅はすぐ蹲って自分の服を地面に敷いた。【源博雅】 「もし遊びたいなら、俺の服を使ってもいいぞ。」【神楽】 「いいの……!」小声で呟いたあと、神楽はおずおずと跪き、自分の小石をばら撒いた。よく考えたあと、彼女は息を殺して小石を弾いた。小石は寸分の狂いもなく目標にぶつかった。一局終わった時、言霊の番が回ってこないまま、神楽の圧勝で終わった。【言霊】 「初めてなのにすごいね、才能があるのよ。」【神楽】 「そう?私も……面白いと思う。」【言霊】 「ほら、あげる!」【神楽】 「全部私にくれるの?」【言霊】 「うん!これは以前川辺で見つけた一番綺麗な石、手間をかけて丸い形にしたのだ。市場で売っているよりずっと珍しいよ!」【神楽】 「ありがとう、素敵だわ。」神楽は大切に小石をしまった。【小白】 「こんな嬉しそうな神楽様は珍しいですね。」源博雅は昔のことを思い出したようだ。【源博雅】 「むかしは……ずっとこういう風に笑ってくれてたんだ。」【神楽】 「ここにとても詳しいね。以前ここで住んでいたの?」【言霊】 「住んでいた? 一時期留まっていた場所と言うべきかも……雨は教えてくれた。例えしばらく留まる場所にすぎなくても、規則正しく暮らすべきだ。だからただのボロ屋でも、寝床やかまど、そして時間をつぶすものが必要だったんだ。」【神楽】 「いつも話に出てくる雨は、記憶にいたあの人なのか?」言霊は表情が暗くなった。【言霊】 「うん、そうだよ。」「……過去」【言霊】 「おい、どうしてずっとついてくるのだ!」【雨】 「気のせいでは…たまたま道が同じだったのさ。」【言霊】 「同じって、流離う者同士なのに道が同じと言いたいか?今度会ったら、ボコボコにしてやる。」【雨】 「わかった。」雨はすぐさま振り返って別の道に切り替え、そのまま言霊の視界から消えた。【言霊】 「ちっ、少し脅かしてやっただけなのに、すぐ逃げたのだな。」「……過去、二日目」【言霊】 「!」言霊は急にぶるっと身震いしたせいで、すやすや眠っていた墨団は驚いたように、ぶるぶるしながら天井に跳ね上がった。その時、部屋中は一瞬揺れた。【言霊】 「いつ来たの!?」言霊は起きて目を開けると、すぐさま目の前に突き出された茶碗を捉えた。にやにやしている雨は急に彼女に話しかけた……【雨】 「食べるかい?昨夜ここを通りかかった時、へとへとで歩けなかった。近くに一休みできそうな場所はなかったから、仕方なくここに泊まった。ここは朝が綺麗だぞ。食えそうなもんを集めて朝ごはん作ったけど、君も腹が減ったでしょう?」【言霊】 「減ってない!」【雨】 「はいはい。」雨は茶碗をもって篝火の近くに行った。言霊は焚き火の跡を目にした。【言霊】 「まさか一晩中徹夜で見張っていたのか?もしかして……私のために?」【雨】 「今日の汁物には岩塩を入れた、結構うまいぞ。」【言霊】 「……まさか一人で食べられない量だったりして?」【雨】 「そんなことないよ、一人で完食できるさ。」【言霊】 「……!」【雨】 「でも朝ごはん食べ過ぎたら昼は困るよな。だから分けてあげてもいいよ?」さっきの教訓を踏まえて、言霊は何も言わずに食事に集中する。今まで流離う言霊は、自分の面倒を見ることができないからつらい思いをしてきた。雨が現れたあと、彼は荒野でも食べれるものを調達でき、寝心地いい寝床を作ってくれるから、言霊は次第に雨のことが気になるようになった。【言霊】 「あれ?どこに行った?」夕方、川で水遊びしてた言霊はついでに一匹の魚を捕まえて仮宿に戻った。【言霊】 「この時間だと、いつも料理を作っているのだが?墨団、彼を見かけたか?」話している間、ある者はおぼつかない足取りで近づいてきた。その者はまさに傷だらけの雨。【言霊】 「ん、ボコボコにされた!?」言霊は袖を捲し上げた。【雨】 「すまん、遅れた。」【言霊】 「この前言いがかりをつけてきた連中の仕業か?」【雨】 「今日市場を見回る時、喧嘩をふっかけてきた人が現れた。心配すんな、俺が一矢を報いたぞ。」【言霊】 「……一矢を報いたって?」【雨】 「一発殴り返した。」【言霊】 「……お前弱すぎ!何で理由もなく言いがかりをつけられた。金無かったの?」【雨】 「悪神に組するやつとか、二度と来るなとか言われた。」【言霊】 「……だから最初に言ったじゃない、私と一緒にいてもいいことはないって。これではっきり分かったよね。で、袂を分かつ気になったか?」【雨】 「袂を分かつ?なにそれ?」【言霊】 「私は「悪神」だぞ。「悪神」と一緒にいて怖くないの?私が怖くないかもしれないけど、悪神の手先だと罵られても平気なの?悪言はお前が想像もできないほどの力を持っている。辛いと思った時に振り返れば、とっくに逃げられない黒沼に囚われていたかもしれないぞ。最初の時は、平気な顔をして耐えられると思う。聞き流せればいい、別に何かが変わったりはしないと思う。しかし同じことを言う人が増えてくる時、荒唐無稽な言葉しか聞こえない時、皆に非難の目で見られる時、説明のしようがないと気づいた時。二つの選択を迫られるのだ。噂を受け入れてやけくそになるか、または無駄な抗いを続けるかを。すると一つの真実を発見できる。皆は自分が聞きたいことしか聞かない。いくら説明しても噂を裏付けるだけなんだ。その時にすべてを止める方法を知っているかい?永遠に自分の耳を塞ぐ、あるいは皆を永遠に黙らせるだけだ。」【雨】 「それで君は悪神なのか?」【言霊】 「私は……」雨の率直すぎる質問に対して言霊は戸惑った。【雨】 「自分でも自分が悪神だと思うか?一人が噂を流す時は誰も信じない。しかしなぜだ、なぜ千人が噂を繰り返す時は信じる者が現れる?その上、君自身も信じてしまった。」【言霊】 「私はもちろん……信じてないよ!」言霊は雨を見つめている。周りは静まり返っていてぱちぱちと燃える篝火の音しか聞こえない。【言霊】 「私は悪神じゃない。」【雨】 「ああ、わかっている。」雨は冷静に口を開いた。【言霊】 「お前……知っていたの……?」【雨】 「俺は噂より、自分が見たものを信じる質なんだ。」【言霊】 「……」【雨】 「そうだ、これ見てくれ!」雨は引き裂かれた小袋の中から紙包みを取り出した。開けてみると中身はぐちゃぐちゃになったお菓子だった。【雨】 「今日市場で見かけたて、かなり長い時間並んで、ようやく最後の一個を確保したんだ!ぐちゃぐちゃになったけど、味は同じはずだ。食べるかい?」【言霊】 「甘すぎるお菓子は、美味しくないと思う。」そう言いながら、言霊はぐちゃぐちゃになったお菓子を美味しく頂いた。【言霊】 「お前……もういじめられたくないなら、だからついて来て。私が守ってあげるよ。」【雨】 「ああ。」「……現在」【八百比丘尼】 「さっき部屋を出たあと、言霊とお話していましたか?」【神楽】 「彼女のとても大切な人のことを教えてくれた。」【八百比丘尼】 「晴明が天羽々斬の反応をもとに判断を下す以前に、あなたはすでに言霊は悪神じゃないと気づいたでしょう?」【神楽】 「うん、実は海にいる時、彼女の寂しさや辛さに同感していた……直感で彼女は悪神じゃないと分かった。」【言霊】 「見つけた。」【小白】 「真言を見つけましたか!?」それを聞いた皆は言霊がいるほうに集まっていく。道端の草むらの中で、傾いた小さな石碑が立っている。ぼろぼろの石碑だが、かろうじて境目を分かつ石碑だと見分けられる。【源博雅】 「これが真言だと?」【小白】 「きっと不思議な力が宿っていますよ!例えば他の石碑は全部苔が生えていますけど、これだけは違うとか?」【源博雅】 「違う……裏側に苔が生えてる。裏側に来れば分かる……」【言霊】 「私はかつて真言を礎とし、大地を造り広げた。最初の頃、真言は大地に根付いていた。時が流れていく中で、真言は次第に山から石くれに変わっていった。そしてまた石くれから変哲のない小さな石碑になった。誰にも憶えてもらえなかったけど、真言はここにある。」【神楽】 「礎ということであれば、これを取り戻すと、ここの大地は消えるの?」【言霊】 「……ここの大地は崩れる前に、先に言海に飲み込まれるかもしれない。人々は皆真言の塔に向かった以上、ここはとっくに見捨てられた。悲しむ人なんていないよ?」言霊は石碑に触れた。石碑から溢れ出る無数の文字は、やがて合わさって一つの文字になった。その文字は世界中のすべての言葉の意味を含んでいるように、同時に簡単すぎて無意味で簡潔な模様のようにすら見受ける。同時に複雑と簡潔の概念を含み、知るすべもなく、説明のしようがない。文字は言霊の額に舞い上がった。優しい光に包まれる中、文字はやがて言霊と融合して彼女の体の中に消えた。言霊の後ろに円盤のようなものが浮かび上がった。円盤は一角が灯されたあと、また暗くなって消えていった。【言霊】 「久しぶり、我が真言。」 |
伍
伍ストーリー |
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「名無しの村」【源博雅】 「小白、ちょっとどいてくれ。毛深すぎて、ただでさえ蒸し暑いのに、近寄りやがって。」【小白】 「小白だって好きでやっているわけじゃありません!うわ!」彼らを護送する車は石を踏んだせいで、護送車は急に激しく揺れ出した。一つの護送車に閉じ込められた晴明達を、一組の言従は護送している。【源博雅】 「全部お前のせいだろう。言霊が真言を回収した後にわーわー騒いだから、兵士に見つかってしまったんだ。」【小白】 「小白とは無関係です。すぐ近くに駐在している兵士達は、石碑が壊れた異変に気づいて現れたって。それに小白の毛皮を嫌う人は初めてです。言霊様は気持ちよさそうに毛皮に埋もれていますよ!」【言霊】 「……そんなことない。」【小白】 「え?じゃあ、さっきは何方が小白の尻尾の毛をむしったのです?」【言霊】 「……だからさ、この前言従たちに囲まれた時、どうして私を止めたのだ?ちょうど一つの真言の力を取り戻したし、新しい力を試すところだったぞ。」【八百比丘尼】 「あなたは長い間海底に封印されていた。体調も回復していなければ、封印も完全に解かれていません。新しい力を手に入れたとはいえ体に馴染むには時間が必要でしょう?そもそも目当ての情報を確保ていない間、もし大騒ぎになったら私達は困るのです。」【晴明】 「八百比丘尼の言う通りさ。悪いがしばらく我慢してほしい。あなた、もしくは仲間の誰かが暴れれば、護送車に閉じ込められることはないかもしれないが、私達は派手な行動は避けたい。同時にまだここの住民達と揉めたり、傷つけたりするのもごめんだ。暗くなったし、一日中護送していたし、彼らはまもなく野営地を探すでしょう。彼らが休憩に入ったら、隙を見て逃げましょう。……私をじっと見ているようだね、言霊。言いたいことでもあるのか?」【言霊】 「……なんでもない。私はただ……お前の口調が本当に知り合いによく似ていると思っただけ。」神楽は言霊に耳打ちする。【神楽】 「彼に会いたいか?」言霊は両足を抱え込んだ。【神楽】 「私にも会いたい人がいるの。彼は体で暑い日差しを遮ってくれたり、木の葉に届くように肩に乗せてくれたり、人混みの中で手をつかんでくれたりする。時に沈黙を貫いたり、時に細かいことにうるさく注意をしたりする。目が合えば、彼の言いたいことは自然と分かる。タコができた彼の手に触れれば、私は何となく落ち着く。」【言霊】 「……お前も雨のような友達を持っているか?」首を横に振り、神楽は寂しく悲しい笑顔を見せてくれた。【神楽】 「違うよ、あの人はお父様なの。」【言霊】 「お父様……?お父様は神楽がこんな危険な場所に来るのを許したか?」【神楽】 「お父様は……もういなくなった。捨てられてと勘違いしてた。でも後になってようやく知った、お父様は私を見捨てなかった。逆に最後まで命をかけて守ってくれた。」【言霊】 「……」【神楽】 「……ごめん、慰めるつもりだったけど、逆に重い話をしてしまった。」【言霊】 「お前は……あの人がいなくなった現実をどうやって受け止めた?」【神楽】 「他にも大切な人に出会うからでしょう。そして……孤独との付き合い方を身につけるべきなの。それに、無事に成長していくことはあの人の願いのはず……」夕方、護送車は止まった。幸い雨は降らなかったので、護送の兵士は簡単な野営地を築いたら休憩に入った。皆、脱出する隙を計らう時。【言従の青年】 「何度も教えてやってのに!?料理もろくにできないかよ!」怒声は皆の注意を引いた。護送車の隣で、一人の無言は作りたての汁物が入っている鍋を提げている。おたまで鍋を叩いている一人の言従は、明らかに出された料理に文句があるようだ。無言は手真似で説明したいようだが、両手で鍋を持ち上げているせいで、結局首を振ることしかできなかった。言従はおたまで無言の頭を何度も強く叩いた。【言従の青年】 「はい、やり直しだ。今度しくじったら殺すぞ!」何も聞かなかったように、無言は相変わらず首を横に振り続けている。言従は驚くことなく無言の体を反転させ、彼の背中を何度か叩いた。ようやく言従の命令を理解した無言は、鍋を持ったまま篝火に向かった。意外なことに、言従は急に足で無言をつまずかせた。無言が倒れ込んだあと、鍋の中身も全部こぼれてしまった。熱い汁物をはね掛けられた無言は忽ち火傷した。【言従の青年】 「どうせ捨てなければならないだろう?協力しておいたんだ。お前は口も目も持たないから、もし場所を間違えたら大変だろう?そうだよな?」一度しゃがんで無言の背中を叩いてから、言従は満足して離れた。倒れた無言は明らかに火傷がもたらした痛みに耐えられなくて震え上がっているが、言葉らしい声すらも出せない。【無言】 「ううっ……ううっ……」晴明は密かに術を使ったあと、一枚の霊符は護送車を飛び出して無言の体に張り付いた。優しい光を放つうち、霊符は少しずつ火傷を治してあげた。痛みが和らいだあと、無言は立ち上がって鍋を拾い、手探りでここを離れた。【源博雅】 「さっきのあいつ、聞くことも見ることもできない上に、喋ることすらできないか?」【言霊】 「彼らは顔なしだ。」【小白】 「顔なし?」【言霊】 「彼らは目も耳も口も鼻も持たない、つまり顔を持っていない。言従も無言も、以前は顔なしだった。霊語を習得した顔なしは五官を手に入れ、言従になる。でも後になって……一言主というやつは霊語を伝授するのを禁じたのだ、だから再び顔なしが現れたわけだ。喋られる連中と喋られない連中がいれば、恵まれていない彼らは自然といじめられる側になる。でも流離いの生活を送っている間は、恵まれていない彼らのほうが好きだよ。彼らと一緒にいる時だけは、噂を耳にすることはないから。」真夜中、言従の兵士たちはようやく眠りについた。晴明は術で護送車をこじ開ける寸前、闇の中から音が聞こえた。かさかさとした音が聞こえたあと、護送車に忍び寄る人影が現れた。近くに来ると、皆は彼こそは火傷した無言だと気づいた。護送車に忍び寄る彼は、ぴかっと光った斧を携えている!皆が息を殺している中、言霊は急に以前囚われた時のことを思い出した…… 「……過去」【言霊】 「腹が立つのだ。護送車に閉じ込めた上に、牢にぶち込もうとするなんて。お前が喧嘩はよくないと言って止めてくれなければ、真夜中に逃げるような真似は絶対に嫌だよ!しかも、閉じ込めたのはまだしも、私に無実の罪を着せるつもりだよ。言うこと聞かない子供は悪神言霊に攫われるだの、暗くなっても家に帰らない人は悪神言霊に食べられるだの……何よこんなたらめな噂、全然かっこよくないじゃん!許せない。ここに長居は無用だ。これ以上長く留まったら憤死するかも!」【雨】 「はいはい。じゃあ、明日朝一に出発してここを離れる。」【言霊】 「ふん、その前にちょっと懲らしめてやらないと。」「二日目、町中」【言従甲】 「こんばんは!」【言従丙】 「こんばんは!」【言従甲】 「ん?私どうしてこんなことを?」【言従丙】 「こっちこそ聞きたいよ。私にどうしてこんなことを?」【言従甲】 「今は夜じゃないか? なぜ「おはよう」なんだ?」【言従丙】 「そっちは「おはよう」と言ったぞ。」【言従甲】 「違う、「おはよう」と言ったのだ。……」街は忽ち大混乱に陥り、人々は自分は真逆なことしか言えないlことに気づいた。【言従丁】 「朝ごはん美味しくて反吐が出るぞ。」【言従乙】 「泥棒なんていない!泥棒逃げろ!」【言従甲】 「ここの店主は本当にいい人だね、こんなにも少ないお金を騙し取ってくれた。」【言従丙】 「今日はあんたの番だ、元気出すな!」……早起きして入用のものを買いに来ただけの雨はすべてを見届けた。彼は俯いて自分の服の中に隠れて、楽しそうに笑う悪戯っ子に目を向ける。【雨】 「言……霊……早く元に戻せ。」【言霊】 「嫌だ!昨日私達は閉じ込められたじゃないか! ちょっぴり罰を与えただけさ。焦るな、あそこ見て。あはははは、面白い。」その時、一人の老婆は急に隣の人の手を掴んだ。【言従の少年】 「おばあちゃん!おばあちゃん!大丈夫?」【言従のおばあさん】 「大丈夫のう……」明らかに顔色が悪くなったお婆さんは、息を切らしている。【言従のおばあさん】 「わしは……大丈夫……」【言従の少年】 「来るな、来るな、助けるな!」雨は前に出て、倒れそうになったお婆さんを支えた。【雨】 「心配するな、ちょっと診せて。」寝かせてあげたあと、雨はお婆さんの様子を確認した。【雨】 「呼吸がつらいか?」【言従のおばあさん】 「違う……」【雨】 「胸が痛いか?」【言従のおばあさん】 「痛くない……」【雨】 「ここは……?」……そんな会話が続いた最後に、言霊は何もわからなかったが、雨はすでにお婆さんの状況を把握した。【雨】 「枝心草、それがいる。」【言従の少年】 「なにそれ、知っているぞ!?」隣の少年は焦っている。【雨】 「言霊、こっち来て。以前教えてあげたことあるけど、憶えているか?それを採ってきてほしい。」【言霊】 「嫌よ。」雨は何も言わずに言霊の手を掴み、彼女を見つめる。【雨】 「俺のお願いでもだめか?」【言霊】 「……分かったよ。」言霊は空に舞い上がり、近くの山に飛んでいった。【言従の少年】 「か、彼女は空を飛べるのか……」【言従の青年】 「悪神だ、見間違いじゃない、さっき飛び上がったのは悪神だぞ。」すぐ戻ってきた言霊は採った薬草を雨のほうに投げた。薬草をすりつぶしたあと、雨はお婆さんにそれを飲ませた。お婆さんの呼吸は少しずつ落ち着いていく。【言従の少年】 「まずい、お婆ちゃんが危ない。」雨は立ち上がって言霊に近寄った。【雨】 「ありがとう。はいはい、怒らないで。すべてを元に戻そう。また面倒事が起きたらまずいよ。」【言霊】 「……うん。」言霊は術を解除したあと、人々はようやく普通に喋れるようになった。【言従の少年】 「おはよう!」【言従の青年】 「おはよう!よかった、戻ったんだ!」【言従の少年】 「お婆ちゃん、具合は?」お婆さんはだいぶ楽になって、顔色もよくなった。体を起こしたあと、まだ本調子には戻っていないが、雨と言霊に向かって手を振った。一方、隣の少年は警戒を高めている。言霊のことを悪神だと知ったため二人を疑っている。【言霊】 「行かないよ、きっと悪神だの、出て行けって言われるのだ。」【雨】 「君喋れるじゃないか?」【言霊】 「えっ?」【雨】 「だから自分で言ってあげて。悪神といわれるのが嫌なら、自分で教えてあげなさい。私は悪神じゃないと。」少し躊躇ったあと、言霊は結局雨について行った。【言従の少年】 「お婆ちゃん、さっき言従の先生と……こいつがお婆ちゃんを助けた。」【言霊】 「こいつって何よ!」少年は口を噤んだ。【言霊】 「言ったでしょ、私は悪神じゃない。」言霊は不機嫌にそう告げた。【言霊】 「特に用がないならもう行くの。」【言従の少年】 「自分が悪神だと認めるやつなんていないよ……」隣の少年は小声で呟いた。【言霊】 「なに……」【言従のおばあさん】 「ありがとうございます……本当にありがとうございます。もしあなた方に出会わなければ、この子はお婆ちゃんを失っていたでしょう。」【言霊】 「……ふっ!」言霊は振り返って離れ、雨も彼女について行った。周りの人々は悪神を恐れるがために自ずと道を開けた。言霊はお婆さんの怒鳴りがうっすらと聞こえた。【言従のおばあさん】 「助けてもらったのに、どうしてお礼を言わないのじゃ!」なぜか、その言葉を聞いた言霊は嬉しくなった。さっき「逆言葉の喜劇」を見る時よりも嬉しかった。【雨】 「どうした?怒りが収まったかい?」【言霊】 「違う!お前に怒っている!」【雨】 「分かった、俺も君に怒るぞ!」【言霊】 「え?だめだってば!」…… 「護送車」 忍び寄る無言は斧を高く掲げ、それを振り下ろそうとしている!【言霊】 「こっちが何かをする前に、そっちから襲ってきたか!」霊力で攻撃する寸前に、言霊は晴明に止められた。【晴明】 「待って!」無言は斧で錠を叩き斬った。かちんと音を立てたせいで眠っていた言従は起きた。【言従の青年】 「あいつら逃げるぞ!」無言は手の動きを加速させ、忽ち錠を破壊した。扉を開けたあと、彼は手招きで皆に早く逃げなさいと伝えた。起きた言従たちは護送車に向かっている。車を飛び降りた言霊は無言に目を向ける。【言霊】 「バカ!お前も逃げなさいよ!」【無言】 「?」【言霊】 「顔はないけど足はちゃんとついているでしょう!?」無言の手を掴み、言霊は無言を連れて晴明達と一緒に護送車を離れていった。晴明はある術を発動すると、追いかけてくる言従たちは皆見えない壁に阻まれた。 「森の中」【源博雅】 「はぁ…はぁ…もう大丈夫だろう? 結局兵士たちに気づかれてしまったんだ。もっと早く分かっていれば、途中で護送車の扉を壊すべきだった。」【八百比丘尼】 「ただで車に乗せてもらったことにしましょう。乗り心地はいまいちですけど、ふふ。」【源博雅】 「あの無言が助けてくれたんか?」小白は興味深く無言を囲んで回っている。【小白】 「本当に五官はないですか……精確に錠を叩き壊したのに。」視線を感じた無言は少しびくびくしている。【言霊】 「はい、お前はもう自由だぞ。もう他人に料理を作ってあげなくてもいいよ、行きなさい。」無言は言霊の言葉が理解できない。【言霊】 「行って!」言霊は後ろから無言を押した。【言霊】 「そうそう、その調子、進みなさい。これからは自由に生きなさい。」数歩歩いたら、無言はまた折り返した。彼はしゃがんで言霊の手を掴んだ。【無言】 「うう……うう……うう!」無言はなにかを取り出した。それは火傷した彼を治してあげる時に晴明が使った霊符だった。霊符を綺麗に畳んだ無言は、一度言霊にそれを見せてあげたあと、また大切そうに霊符をしまった。一度言霊の手を握りしめたあと、彼は立ち上がり皆に向かって不器用にお辞儀して離れていった。【言霊】 「……」【小白】 「何も言わなかったですけど、なにか言ったようですね?」【八百比丘尼】 「思いを伝える方法は数え切れないほどあります。言葉が通じなければならないわけじゃありませんわ。」【小白】 「小白にはよく分からないですけど、きっと「ありがとう。」と言いました。」【源博雅】 「そうかい……?てっきり霊符を上手に畳んだことを見せびらかしていると思ったんだが……」言霊はキリッと源博雅を睨みつけた。【小白】 「博雅様……」言霊は離れていく無言を見つめ、さっき手を握りしめられたことを思い返すように拳を握りしめた。【言霊】 「何も言わなかったけど、それでも思いを伝えた……?」 |
陸
陸ストーリー |
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立ち込める霧はこの地を包み込んでいる。ここは言霊たちが辿り着いた三つ目の場所。前方を見ると、真言の塔はますます近づいてくる。言海はすでに大半の大陸を飲み込み、止められない勢いで広がっている。途中、何度も真言の塔に向かう避難者に出くわした。【小白】 「この世界は空も海も真っ黒ですね。今は昼なのかそれとも夜なのか、小白はたまに分からなくなりますよ。この世界に来たばかりのようで、同時にすでに長い時間が経ったような気さえもします。」【源博雅】 「真言道に来たのは今日で五日目だろう。この前石碑の中で一つの真言の力を回収した。そのあと言海に飲み込まれた地で二つを見つけた。この間本当の歴史を記録した壁画を見つけたんだが、悪神に関する手がかりは未だに見つかってない……」【神楽】 「でも少なくとも言霊の過去を、言霊は悪神じゃないことをはっきりさせた。」【八百比丘尼】 「この世界の悪神は本当にうまく隠れているね。一切の痕跡を残しませんでした。」【晴明】 「もしかしたら灯台下暗しかも。目立つ場所ほど、気づきにくいからな。」晴明は倒壊した真言の塔を見つめる。【神楽】 「大丈夫なの?この地に来てから、なんだか落ち込んでいるように思えるけど?立ち込める霧のせいで、真言の居場所が分かりづらいか?」【言霊】 「ううん、真言道で流離い続けてきたけど、一度もここに来たことはなかった。まさかこんな形でここを訪れるなんて。」【神楽】 「ここは、特別な場所なの?」【言霊】 「ここは、雨の故郷……彼は流離いの旅に付き合ってくれたけど、一度も流離いの旅に出る原因を教えてくれなかった。何度も聞いた末、結局彼はここが自分の故郷であることを、ここは彼が流離いの旅に出る場所であることを、それだけのことしか言わなかった。彼は軽やかな風のような人、決して自分を飾らないから、彼はどんな人かは一目で見抜ける。そして彼は意地になってなにかを反対したり、拒んだりはしない。ここだけは、彼は二度と戻りたくない。あの頃はここに連れてきてほしいと何度も彼に頼んだ。でも今は一人でここにやってきたけど、別に……面白くない。」【神楽】 「……ここは雨の故郷なの。」神楽はなにかを考えている。【神楽】 「もしかしてできるかも、雨の過去が「見たい」か?」【言霊】 「で、できるのか!?」【神楽】 「もし雨が残したものを見つければ、彼の過去を垣間見ることができるかもしれない。でもその前に、晴明の協力がいるかも。」晴明は霊視を使っている……彼は言霊からもらった、雨の手ぬぐいを握りしめている。かつて雨がこの地に残した痕跡は霊視の視界でゆっくりと浮かび上がってきた。【晴明】 「うっすらと痕跡が見えた。ぼんやりとしているけど、たぶんかつての雨が残した痕跡に間違いない。彼はよくある場所に行くようだ……ついて来い。」皆は晴明についていき、濃い霧の中で進んでいる。今までは霧が濃すぎるから、慎重に進まなければならない。しかし晴明は急にここに詳しくなったように、躊躇なく皆を連れて進んでいく。【晴明】 「着いた。ここは雨がこの地を出る前に一番よく訪れる場所。彼は毎日遅くなるまでここに留まり続けていたから、彼の気配はここに強く残っている……」目の前に突如として傾いた。小さな墓碑が出現し、刻まれていた文字はとっくにかすれていて読めなくなった。【源博雅】 「これは……誰の墓碑なんだよ?」【晴明】 「知りたければ、墓碑に触れなさい。それを媒介として、亡き人の過去を垣間見る。」言霊は墓碑に手を当てた。晴明は呪文を唱えると、周りの景色は変わり続けていき、舞い落ちた木の葉は再び木に戻り、枯れた草は生命力を取り戻した。呪文を唱え終えた時、さっきまでここにあったはずの石碑は急に消え、代わりに薄い布で顔を隠している女の子が現れた。【沐月】 「父ちゃん!見て!」女の子は立ち昇る朝日を指差している。大地に降り注ぐ光は、山々を金色に染め上げる。【雨】 「ははは、言っただろう、早起きしなければ見れないって。さっきどこかの寝坊助は来たくないとかを言ってなかったか?」懐かしい声が響き出した。言霊は信じられない表情で振り返ってみると、正真正銘の雨が目に映る。雨は女の子に近寄り、その子を肩に乗せた。【雨】 「どうだい、これでもっとよく見えるんじゃないか?」【沐月】 「ふふふ、お日様に届きそうになった!これから毎日見に来たい!」【雨】 「沐月、約束は守るんだよ。」【沐月】 「父ちゃんは嘘をつくけど、あたしは嘘をつかないよ!」【雨】 「勉強したくない君のやる気を引き出す優しい嘘は嘘じゃない。」二人はそのまま朝日が立ち昇っていくのを最後まで見届けた。しかし山を降りて賑やかな場所に来ると、沐月は急に口を噤んだ。沐月は顔を隠す布を掛け直し、人と目が合うのを避けている。【沐月】 「父ちゃん、早く帰りましょう。」【雨】 「うんうん、分かった、ちょっと買い物する。すぐ終わる。」沐月は隣で待っている。顔を隠しているが、それでも女の子の不安は伝わってくる。大通りには、布で顔を隠しているのは女の子一人しかいないため、通りかかる人々は自然と好奇の目で女の子を見ている。【言従の男の子】 「なぜそれをつけるの?」一人の男の子は気になって近寄ってきた。沐月はすぐさまそっぽを向いて男の子を無視した。それでも引き下がらない男の子は沐月を囲んで回る。落ち着かなくなった沐月は雨にすがるように走り出した。【沐月】 「ひゃっ……!」沐月は顔を隠す布を取られた。男の子は沐月を引き止めるつもりだったが、間違えて布を引っ張り取った。【言従の男の子】 「ごめんなさい……」隠されていた沐月の顔を見た途端、男の子は呆気に取られた。【言従の男の子】 「お、お前……うわあああ!」数歩下がった男の子はつまずいて倒れた。異変に気づいた人々は皆目を向ける。次の瞬間、皆はぽかんと口を開ける。布で顔を隠してた沐月は半分の顔しか持たない。半分の顔は普通の言従と同じだが、残りの半分は平らで何もない。怪物を見たかのように、人々は毒気を抜かれた。様子がおかしいと気づいた雨は忽ち沐月の側に戻り、地面に落ちた布を拾い上げ、目を赤くする沐月を抱えて素早くその場を離れた。二人が離れていったあと、人々はこそこそと耳打ちする。【言従甲】 「見たか?雨の娘はいつも布で顔を隠している。今まで日光に弱いと皆を騙していたけど、実はこんな顔しているからだよ!」【言従丙】 「どうして言従があんな風に?」【言従丁】 「あれは言従なわけないだろう?こっちに言わせればむしろ無言に近いだよ!」【言従甲】 「たまげた…一体どうなっている、まさか雨は無言と……」【言従乙】 「ありと思う、そうに決まっているよ。」【言従丙】 「あんな怪物を生んだのに、よくこの子を連れ回っている……」【言従丁】 「道理であの親子が不吉な気配を放っている気がする原因はこれか。」【言従甲】 「あの顔を思い出すだけでもとゾッとするよ、雨はよく毎日平気でいられるな。」【言従乙】 「そういえば、明日祭りを開くでしょう? 彼らに声をかけるべきかな……?」【言従丙】 「あ……あのさ、やめとこう……」晴明は記憶の流れを加速させた。時が流れ、布で顔を隠していた沐月は正体が暴かれてから、二人が出かけるたびに、周囲は微妙な雰囲気に包み込まれる。人々は仕事に集中しているふりをするが、実は密かに彼らを観察している。二人は離れると、人々は口々に騒ぎ立てている。親子二人の一挙手一投足は全部暇つぶしの話の種になる。それらの噂は容赦なく雨と沐月を傷つける。【雨】 「耳を塞いで、大丈夫だから。」雨は立ち止まることなく、沐月を連れて素早く離れていった。家に帰るなり、雨は扉を固く締めた。集まった近所の人々は部屋の様子を覗き込みながらひそひそ話す光景は、窓越しに見える。雨は沐月の部屋に入った。沐月は家にいる時でも顔を隠す布を外したくない。【雨】 「明日……日の出を見に行くかい?」沐月は膝を抱えて顔を埋めていて、雨に口をきく気すら起きない。【雨】 「人はこういう存在なんだ、にわかに自分と違う存在を受け入れられない。」【沐月】 「父ちゃんも彼らと同じなの? あたしは変わっていると思うの?」【雨】 「……違う……俺から見れば、君はいつでも特別な存在だ、俺の娘だから。」雨は沐月を抱きしめた。【雨】 「つらい思いをさせない、信じて。」【沐月】 「父ちゃん、本当に行くの?」【雨】 「ああ、言ったでしょう? つらい思いをさせないって。」雨は沐月のほっぺを優しくつねった。【沐月】 「でも、あたしに普通の顔を与えるって、本当なの?」【雨】 「ああ……霊語には真言の力が宿ると聞いた。昔々、真言の力は顔なしに顔を与えたって。だから失われた霊語さえ見つければ、君はよくなるのだ。君は毎日悲しみに暮れ、日の出を見に行きたくないなら、父ちゃんは困るじゃないか?」頬をつねられる沐月は楽しそうに笑い出した。【沐月】 「じゃあ早く帰ってきてね! あたしが会いたくなる前に!」【雨】 「今晩にでも俺に会いたくなる。」【沐月】 「ふっ、そんなことないよ……」……雨はそのまま旅立った。 一ヶ月後、人々は相変わらず沐月の噂をしている。しかし雨が旅に出たあと、沐月はむしろ強くなり、自分で顔を隠して買い物したり、自分の面倒を見たりするようになった。彼女には希望が、待つ人がいるからだ。しかし月日が流れ、人々が沐月の噂をする気すらなくなった時、雨はまだ帰ってこない。そんな中、新しい噂が沐月の耳に届いた。【言従甲】 「雨はもう帰ってこないんじゃないか?」【言従乙】 「あれから長い時間経ったな…絶対に帰ってこないさ……」【言従丙】 「もし同じ立場に立たされ、こんな……足手まといような子を育てるくらいなら、私は絶対にここには帰りたくないよ。」【言従丁】 「こんな怪物を見捨てて、雨のためになるだろう?」【言従甲】 「娘がこうなるくらいなら、むしろ最初からいないほうがいいね……」【沐月】 「……」二年目、三年目……待つ間、時間だけが経っていく。【沐月】 「父ちゃん、本当に帰ってこないの……最初からあたしを捨てるつもりだったの……そうね……足手まといでしかないあたしを捨てたほうがいいかも。あたしは……父ちゃんを責めない…………記憶の景色は再び変わり、今までずっと消息不明だった雨はようやく現れた。ボロボロの布切れを纏い、ひどくやつれた彼は、気が狂ったように山頂に向かって走っている。ふらついている彼はつまずくとまた立ち上がる。何度もそれを繰り返したあと、彼はようやくむかし沐月と一緒に日の出を見た山頂にたどり着いた。【雨】 「沐月……」崖際の木には、雨風に晒され、とっくに雑巾と区別がつかなくなった布切れがつけられている。雨は布切れに向かって走り出した。ずっと彼を待っていたかのように、急に風が吹き出した。木にくっつけられた布切れは風に乗って空に飛び上がった。雨は手を伸ばしてそれを掴もうとしたが、結局布切れは崖の下に落ちてしまった。……雨は崖の上で沐月の墓を建てた。【雨】 「ごめんなさい、ごめんなさい……旅立ったあと、一刻も早く霊語の痕跡を見つけ出したかった俺は、ついに失われた霊語を見つけたんだ。しかし霊語はとっくに……一言主に禁じられた。誰かに告発されたせいで、俺はそのまま牢にぶち込まれた。何度も懇願した、逃げたり、抗ったりもした……全部無駄だった。でも一度も諦めなかった。俺は霊語を全部憶えたから。ほら、約束した通り、霊語を持ち帰ってきたよ。君はすぐなりたい姿になれるんだ。もう顔を隠さなくてもいい、噂を気にしなくてもいい、部屋に引きこもらなくてもいい……どうして……」朝日の下、一人の男は、一人の父は自分のすべてを失った。彼は空に、大地に、世界に聞きたい。それでも悲劇が起きた原因は分からない。彼はつらい現実を受け入れ、墓の前で涙を流し、残りの人生で悲しみを噛みしめることしかできない。【雨】 「寝坊助……ここで寝て、今後は早起きして山を登らなくてもいい。目を開ければ日の出が見られるよ。ここは静かな場所、鳥の鳴き声、風の音は聞こえるけど、煩わしい声が耳に届くことはもうないんだ。山の上は風が強いぞ。寒くなった時は会いに来て、沐月……」雨は墓碑を抱えて泣きわめいている。彼は一夜にして髪が白くなり始めた。どれほどの時が経ったか、雨はようやく墓の前で立ち上がった。前に進めれば深い霧、振り返れば悲しい大地。雨は杖代わりに木の枝を拾い、ふらふらとした足取りで深い霧の中に消えた…………周りの景色が元に戻った時、言霊は墓碑に触れていた手を引っ込める。【晴明】 「雨がこの地に残した記憶はこれで終わりだ……」ちょうど霧が晴れ、崖の上からは美しい景色が見えるようになった。【言霊】 「そうだったか、これは彼が振り返りたくない過去…ここは彼が戻りたくない故郷なんだね……」【源博雅】 「俺だったら、たぶん彼のように悲しい思い出を心の奥にしまうだろう。」【言霊】 「そんなことを体験したのに、どうして私と一緒にいる時は、達観したように世界と付き合っているの……?分からない……こんな世界、やはり早く滅びたほうがいいでしょう?」言霊は神通力で沐月の墓碑をもとに戻し、周りの雑草を刈った。墓碑に刻まれる文字は相変わらず読めないが、周りの景色は雨が墓碑を建てたばかりの時にそっくりだ。【言霊】 「行きましょう。」言霊はもう一度墓碑に触れてみた。【言霊】 「霧が晴れた今、真言の居場所を感じたのだ。早く力を取り戻したくて仕方がない……そのあとに世界を滅ぼす。」 |
漆
漆ストーリー |
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霧が晴れ、言霊は直感に従い雨の故郷で四つ目の真言を見つけた。雨の故郷を離れていく中、皆は重い雰囲気に呑まれた。【言霊】 「残りの真言は感じられない。すでに一言主に先を越された可能性が高い。これから直接真言の塔に行って一言主を探しに行く。お前らは……一緒に来るか?」【晴明】 「……その前にずっと気になってることがある。さっき見つけた霊語の石碑はこう記してある。むかし真言の塔を打ち倒した元凶はあなたであると、それは本当なのか?」【言霊】 「……その通り、私だぞ。」【晴明】 「むかし一体何があった?なぜ真言の塔を打ち倒す?まだこの世界に詳しくないけど、それでもはっきり分かっている。「転覆の日」は真言道の運命を大きく変えた大切な日。あの日の真相には、私達が探す手がかりが隠されているかも。」【言霊】 「……真相を言ったら信じてくれる?塔を打ち倒したのは事実、無数の言従の命を奪ったのも事実。そんなことをした私の言葉を信じてくれるか?百年の間、私は何度も説明した。しかし人々にとっては、その説明は詭弁にすぎない。そして詭弁もまた罪となる。」【晴明】 「少なくとも……交流を諦めるべきじゃない。真相は必ず明らかになる。言海の終焉は世界を飲み込んだけど、この災いのおかげで、水に覆われていた本当の歴史を記す石碑は明るみに出て、人々の目の届くところに出現した。」【言霊】 「……ふっ、雨の記憶を見せてくれたから、特別に私が知っている「転覆の日」を教えてやろう。真言道の人々が知っているのと、かけ離れる話を……真言を分け与えたあと、私の力がだいぶ弱まった。ちょうど発展してきた真言道は停滞し始めたので、私に助けを求める言従は後を絶たない。毎日のように進言する人々は、なんとかしてくださいと毎日のようにやってくる。いい加減耳にタコができた私は、彼らに言海を調査しに行くと告げた。実際はしばらく隠れるつもりだった。出ていく前、彼らが進言できないように、私は暮らしている神殿を取り壊した。言海に入ったあと、最初からは普通だったけど、私はすぐ異変に気づいた……なにかが言海を蝕んでいる!透き通った言海は蝕まれて黒く染め上げられ、穏やかな波は荒れ狂うようになり、言海はずっと蝕みに対抗している。蝕まれ、浄化され、蝕まれ、浄化され、言海はそんなことを繰り返している。幸い、あの時言海の浄化の力はまだ蝕みの力を上回っていた。海の中で蝕みの根源を探し続けた末、私はようやく言海の最奥で……一つの巨躯を見つけた。巨躯は無数の稲妻に拘束されていて、目を固く閉じている。それでも一目見ただけで、人は思わずゾッとして極悪の気配に圧倒されてしまい、身動きが取れなくなる。言海を蝕む元凶はまさにその巨躯だ。巨躯からゆらゆらと立ち昇っていく邪悪な気配は、言海を蝕んでいる。巨躯を見つけた時、巨躯の付近に変な法陣が光り出した。最初は何も分からなかった。でも見上げた瞬間、私はすべてを理解した。巨躯の上には、真言道の人々が建てた真言の塔が立っている。そして巨躯が発動した法陣は、真言の塔と繋がるのが目的。術が完成され、巨躯と真言の塔が繋がった時、真言の塔は巨躯の力を増幅させてしまう。その暁には、蝕みの力は言海の浄化の力を遥かに上回る。それだけじゃない。言海が蝕まれる程度で済む保証はない。言海が蝕まれるのは見過ごせない。海底から地上に戻った時、ちょうど祭りが開かれている。海底の法陣はまもなく完成される。他人から見れば、その時には他の選択があるかもしれない。しかし私にとって、選択は一つしかない。私は真言の塔を打ち倒した。それは法陣を止めるためだと私だけが知っている。しかし人々は許されないことをした私を目に焼き付けた。ちょうどその時、いわゆる新しい神一言主は現れた……そのあとのことはお前らが知っている通り……」【神楽】 「……あなたが誕生するまで、真言道は他の神様がいなかった。そして一言主はまるで時期を見計らって現れたみたい。」【源博雅】 「あのさ、ひょっとしたらそれが一言主の計画かもしれないぞ? 彼はその時を狙いお前を倒して皆を助けた。人々は彼を新しい神として祭り上げるように。」【晴明】 「もう一つ可能性がある。最初の時、一言主は神に祭り上げられるつもりはなかったかも。」【源博雅】 「何のためだよ?」【晴明】 「例え、あの巨躯の主は一言主である可能性が高い! 最初は世界を蝕んですべてを手に入れようとしているが、言霊に止められたあと、彼は逆にそれを利用して一言主として現れ、皆の目の前で「悪神」言霊を倒した。そのあと一言主はようやく世界を統べる王に、唯一の神になった。これも世界を「支配」する形の一つでしょう。真言道に来てから、私達は二人の神様しか聞いたことがない。片や「悪神言霊」、片や「真神一言主」。しかし「言海の終焉」のおかげで石碑は見つかり、本当の歴史は復元された。言霊もむかしの「転覆の日」の真相を教えてくれた……」【言霊】 「お前……信じてくれるか?」【晴明】 「私はこの目で見たものを信じる。付き合いは長くないけど、それでもあなたを「見極める」には十分すぎる。私はあなたを、私の判断を信じる。」【神楽】 「言霊、私たちも同じだわ。」【言霊】 「……」言霊は複雑な気持ちになった。なにか言いたいようだが、最終的に言いたいことを呑み込んだ。彼女はただ俯いて沈黙に徹し、心配そうな目でじっと彼女を見つめる神楽から目を逸らした。【晴明】 「だから、善悪は逆転し、真偽は現れる!「悪神言霊」は真言道を創り上げた創世の神、ではもう一人の神……人々に信仰され、崇められている「真神一言主」こそは私達が探している本当の悪神!」【八百比丘尼】 「言海の終焉も海底の巨躯に関わっているはずだと思いました!」【晴明】 「そう、これ以上真言を集めることはできないし、そろそろ一言主に会いに行くべきだ!」「真言の塔」 また墨色の雨が降り出した。荷物を背負い真言の塔に向かう住民達は、無言も言従も同じ道を急ぐ。災難に見舞われる中、人々は自分と異なる存在にとやかく言う余裕すらない。皆は同じ目的……生存という目的を。真言の塔から周りを見渡せば、多くの大地はすでに荒れ狂う黒い言海に覆われた。やはりこの世界で唯一安全な場所と言えるのは真言の塔にほかならない。諸行無常、以前悪神に利用されていた真言の塔は、今や真言道の人々に生き残る希望を与える。晴明達は真言の塔に入った時、塔の中はすでに避難者でごった返していた。塔は隅々まで人が溢れている。ようやく真言の塔の裂け目にたどり着いた時、晴明達は不思議な景色を目にする。言従も無言も、一致団結して地道に壊れた真言の塔を修復している。【源博雅】 「一体何してるんだ?」源博雅は忙しなく働いている言従に声かけた。【言従の少年】 「塔を修復しているの。」【源博雅】 「なぜこんな時に塔を修復する?」【言従の少年】 「なぜって?」言従は手の動きを止めなかった。【言従の少年】 「分からないか? 真言の塔は全員受け入れることができない。それに今でも多くの避難者がこっちに向かっている。もし塔を修復し、もっと高く築き上げれば、より多くの人々を受け入れるようになるかも。そもそも真言の塔が言海に飲み込まれない保証はどこにもないよ。でも塔が高ければ高くなるほど、生き残る可能性が大きくなるじゃないか。手伝ってくれるか? 手伝わないなら、悪いが道を開けて。」【晴明】 「……先を急ぎましょう。」晴明の術の力を借り、皆は空に浮いている真言の塔の廃墟を飛び回り、最上階に辿り着いた……むかしの真言の塔の一番上にある階層、現在の空に浮く神殿。真言の塔を登る途中、一言主の居場所を聞いた時、全員ここにいると教えてくれた。神殿は明るく、きちんと整っている。住民達を受け入れた真言の塔とは何もかも違う。そして「言海の終焉」の影響を受けた様子もない。誰もいない神殿の真ん中で、一言主は悠々自適に目を閉じて休んでいる。【一言主】 「道理で騒々しいわけだ。大切な客人のお出ましか。」一言主は目を開け、口から出任せを言う。【一言主】 「久しぶりに古い友人にも会えた。悪神言霊よ、無断で封印を破るとは、そなたが犯した罪を忘れおったか?言海に閉じ込められている間、そなたは反省するどころか、むしろ開き直ったのでは?」【言霊】 「はなたれ小僧、いつまで芝居を打つのだ?晴明達がすでにお前の正体を教えてくれたのだぞ。悪神? お前にぴったりな名前だ!」【一言主】 「ははははは!バレたか…ではそなたはこれからどうする?」【八百比丘尼】 「どうですか、晴明さん?」【晴明】 「天羽々斬は指し示した。一言主こそは我が斬るべき悪神……傲慢の悪神!」【源博雅】 「ぐずぐずするんな、やるぞ!」源博雅はそう言いながら弓を引いた。空に舞い上がった言霊も集めた真言を呼び出した。しかし次の瞬間、異変が起きた。足元の地面は急に沼になったため、晴明たちは落ちてしまった。【小白】 「なんですか、これは!」【一言主】 「ははははは、言霊に感謝申し上げる!」空に浮く言霊は皆に背中を向けている。【一言主】 「そなた達をここに連れてきた言霊に感謝申し上げる。言霊を信頼し、この神殿に、我の罠に飛び込んだそなた達に感謝申し上げる!」【源博雅】 「どういうことだよ。」【神楽】 「言霊?」【源博雅】 「言霊! 何してるんだ?」振り返った言霊は、初めて皆に悲しい表情を見せた。【言霊】 「ごめんなさい……数日前、私は一度一言主に会った。」「……数日前、言霊の夢」【??】 「言……霊……言……霊……」夢の中の言霊は真っ黒な言海の水面に立っている。周囲からは懐かしい声が聞こえる。【言霊】 「雨……雨なの!?」【雨】 「言霊……」【言霊】 「どこにいる……?」言霊は辺りを見渡した。【雨】 「言霊、ここにいるぞ。」振り返った言霊は、すぐ後ろで懐かしい人影を見つけた。しかし次の瞬間、彼は人の形を保てなくなり、微光を放つ文字になって空に舞い上がった。言霊は手を差し伸べた、しかし文字は巨手に掴まれた。【一言主】 「これがほしいか?」【言霊】 「!いい度胸ね、よくものこのこと現れやがった!」【一言主】 「ふふ、落ち着きたまえ。今度はお礼を授けに来たぞ、これを……」一言主は手を開いた。あの文字は彼の手のひらの上に浮いている。【一言主】 「これを知っているはずだな?これは雨の義識の魂、そなたのために特別に言海から取り戻したもの。義識の魂さえあれば、真言の力で再び肉体を創り上げ、彼を……復活させるのも、問題なかろう。」【言霊】 「!!!返して!」一言主は手を隠した。【一言主】 「ほしければ、そなたが集めた真言の力を、そして……旅の同行者達を、空の神殿に連れ来なさい。」【言霊】 「!晴明たち……彼らを連れて行く……なぜ! またなにか企んでいるのか?」【一言主】 「選べ…もし雨の義識の魂を取り戻したければな。」一言主の姿は消え去っていく。 「……現在、空の神殿」【言霊】 「言われた通りにしたのだ、約束のものをよこせ!」一言主は手を開くと、一つの義識の魂が現れた。言霊は真言の力で確認すると、確かに雨だった。【一言主】 「もう一つ足りないぞ。」一言主の背後に二つの真言の力が現れ、言霊の言う通り、見つけられなかった真言の力はすでに一言主に奪われた。【言霊】 「お互い同時に交換するのだ!」【一言主】 「ふふふ。」言霊は集めた四つの真言の力を送り出した。一言主も雨の義識の魂を爪先で弾いた。【源博雅】 「言霊!騙されるな!」雨の義識の魂はすぐ目先にあり、言霊は慌てて手を伸ばした。それに触れる寸前、一本の黒い腕が急に後ろから義識の魂を掴んだ。義識の魂は言霊の目の前で奪われた。同時に、六つの真言を吸収した一言主は、恐ろしい威圧感を放ち始める。【一言主】 「ははははは!ったくあの時と全然変わらないな、愚の骨頂!」一言主は雨の義識の魂を掴み取った。【一言主】 「あの日そなたに与えられた痛み、内臓がぐちゃぐちゃにされ、体が握りつぶされた痛み……そなたにも味わわせてやる!」一言主は拳を握りしめた。ぐしゃっとはっきり聞こえた瞬間、雨の義識の魂は完全に握りつぶされた。【言霊】 「!!!!!!!!!!やめろ……!!!!!!」【一言主】 「ははははは!」【言霊】 「殺してやる!!!」言霊は一言主に飛びついた。【言霊】 「今日こそお前を八つ裂きにして、血を飲み干してやる!」【一言主】 「ふふふ。」真言の力を吸収した一言主は平然と手を上げた。次の瞬間、見えない力が飛びかかってきて言霊を壁に叩きつけた。【言霊】 「くっ……ううっ……」【一言主】 「今日は彼らが主役だ。もうそなたに構う暇はない。」一言主は晴明たちに向かって霊語を唱えた。周りの景色は忽ち変わっていき、下から現れた無数の黒い腕は、牢獄のように晴明たちを閉じ込めた。【源博雅】 「神楽、小白、肩に乗れ!」【小白】 「小白は大丈夫です! 自分で上に登ります!」【晴明】 「一言主の封印を破るには少々時間がいる、もう少し耐えて!」【言霊】 「私に構う暇はないと? ははははは!」大穴が空いた壁にいる言霊は爆笑した。【言霊】 「私がいる限り、上に立つなど許さんぞ!」大穴の周囲の壁は全部割れた。【言霊】 「言の葉をもって生を馭す!」急にとてつもなく強い力が湧いてきた言霊は、ものすごい数の風刃を召喚した。呼び出された眷族の墨団も忽ち巨大化した。同時に、言霊の目と耳と口と鼻から血がにじみ出た。【晴明】 「言霊は無理やり力を振り絞った!」【言霊】 「何度やっても、あの時と同じだ!結果は決して変わらない!だって何度やっても、私は……お前を踏み付け、握りつぶしてやるからだ!」墨団は巨大な両手で一言主を叩き込んだ。風を切って手を合わせる墨団の攻撃を受けた一言主は押しつぶされ、鼻だけがぶるぶると震えている。【一言主】 「ぐあああああああ……!」墨団は轟音を立てて合掌すると、大地さえも揺らいだ。墨団の両手の隙間から血がにじみ出た。くっついた両手を引き剥がすと、押しつぶされた一言主だった血肉は埃を立てて地面に滑り落ちた。息を切らす言霊はそれ以上体を支えられなくなり、空からゆっくりと地面に舞い降りたあと、彼女は一言主の残骸を見つめる。【晴明】 「……」【小白】 「一言主は……死んだのですか?これで……あっけなく死んだのですか?」【神楽】 「さっきの……あれは……」【言従の男の子】 「ひひひ……いひひ、ひひひ……いひひひ、ひひひひひ……」上から不気味な笑い声が聞こえる。皆は頭を上げて空を見上げた。今まで見過ごしていた一言主に仕える神従がいる。神従は不気味な笑い声を上げている。【神従】 「ふー……愚の骨頂、愚の骨頂だぞ。全力を振り絞るそなたは本当に可愛い。弱者の反抗はまさに最も興味深い芝居。しかしいくら足掻こうと、我の足元にも及ばない定めにある。そもそも、神は最初から目の前にいるのに、そなたが無知すぎて……本当の神すら見分けられなかった!ははは、はははははは……!」 |
捌
捌ストーリー |
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「空の神殿」 本当の一言主は皆の目の前に現れた!本当の傲慢の悪神はずっと神従として一言主の側にいる。象の姿をしている神は彼が作った、操っている人形にすぎない。【真・一言主】 「先程あれだけの力を使ったが最後…もう手を上げることすらできないでしょう?」巨大化していた墨団は普通の姿に戻った。無理矢理力を使った言霊は厳しい代償を負わせられた。【言霊】 「姿を変えれば……ごほんっ……私が……何もできないと思うか?晴明が言った悪神は……すごいやつかと思った……ふふ、今考えれば、闇の中に隠れるしか能がない臆病者じゃないか、あはは……ごほっ……私は……絶対に負けない……!」言霊は僅かな力を集中させ、一言主に襲いかかった。しかし一言主は言霊の攻撃を受けても全然動じなかった。【真・一言主】 「ふはは。真言の力を全部我に渡した時、そなたの負けはすでに決まった。この象の人形は元の肉体の足元にも及ばないが、真言の力を吸収した今は、そなたの攻撃を食らってもびくともしない。言霊、こうも弱いそなたは、実に哀れだ。 「汝は悪!」一言主は真言の力を使って言霊を攻撃した。真言を吸収したおかげで、今度の攻撃は以前のどんな攻撃よりも激しい。術で作られた巨大な円盤は言霊に襲ってくるが、言霊には抵抗する力すら残っていない。【言霊】 「うわ……うわあああああああ!」正面から攻撃を受けた言霊は激しい衝撃を受け、いくつもの壁を突き破り、神殿の外に吹き飛ばされた。【真・一言主】 「汝、無になる!」一言主のもう一つの法器千響鈴は忽ち大きくなった。世界をも揺るがす轟音が響いたあと、無数の音波は反撃すら許さず、何度も素早く言霊を叩きつけた。言霊はそのまま再び空から撃ち落とされ、言海に叩き落された。【言霊】 「負けない、お前に……絶対に負けたくない……!うあああああああ……!」言霊は何を掴むべく手を伸ばしたが、何もできなかった。大きな音を伴い、言霊は派手な水しぶきを立て、言海に落ちてしまった。【真・一言主】 「ふふふ、ようやくやかましいガキを黙らせた。客に無礼を働くつもりはなかった。ほう、この懐かしい稲妻の気配、体を貫かれた痛みは忘れるものか。そなたは天羽々斬を持っているな?虚無が広がった瞬間から、あの偽善な処刑者須佐之男は必ずここにやってくると知っている。最初はできるだけ早く世界を滅ぼし、あの偽善な処刑者に会いに行くと思ったのだが……」【源博雅】 「実は一刻も早く世界を滅ぼして逃げるつもりだろう……」【真・一言主】 「……驚くことに、そっちが先に現れた。さらに驚くことに、そなたらは天羽々斬しか持っていない。ふはははは、須佐之男はくたばっちまったか、それとも気が狂ったか。よもや天羽々斬を凡人に託すとはな。神王天照をも恐れない我が、虫けら程度に恐れをなすものか。そなたらはもはや袋のネズミにも等しい、今楽にしてやる。すべてが落ち着いたあと、神王天照に会いに行き、千年前の誓いを果たし……やつの首を討ち取って玩具にしてやる!ふははははははははははははは……!」 |
玖
玖ストーリー |
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一言主の重い一撃を受けた言霊は言海に叩き落された。体の封印は解けていない上、無理やり力を振り絞った代償を負わせられ、さらに強攻撃も食らった……言霊は体がずたずたになったような痛みに襲われ、ほぼすべての感覚を失った。そして彼女ははっきりと悟った、自分にはもはや抗うだけの力すら残っていないと……彼女は復讐したい、世界を滅ぼしたい。同時に、何もかもなかったことにしたかった。生まれてきたことさえも……神として、彼女は失敗した。大切な人を守りたいが、彼女はまた失敗した。感情がごちゃごちゃになって言霊の体の中で暴走している。抵抗すら諦めた言霊は、海底に沈んでいく。【言霊】 「このまま、このまま、落ちていこう。私を溶かして、世界から消してください。そうすれば、痛みからは解放されるかな。私に残されていた唯一の希望は、もう打ち砕かれた。強情も悔しさも、全部打ち砕かれた。私は真言が守れない、私は世界が分からない、私は大切な人を守れない、私は自分すら守れない。私は存在すべきじゃないかも……」闇、無限の闇。 真っ黒な海は言霊を包み込んだ。【言霊】 「でもどうして……どうして、まだ未練が残っている?」言霊の背中から温かい感触が伝わってきた。海は優しく言霊を支え、彼女の顔についている血の痕跡を洗い落とした。言海の中の文字は微かに光っている。彼女を包み込んでいる海流は素早い魚のように、黒い潮をすべて避け、言海で唯一の無垢なる場所に向かう。想像していた痛みはなかった。言霊は目を開けた。彼女は裸足で透き通る言海の上に立っている。透き通る海水につける足は流れる文字にくすぐられるせいで、なんだかもどかしい気持ちになった。【言霊】 「ここは……死後の世界なの?」言霊は周りを見渡した。【言霊】 「何もない、結局最後になっても……私は一人だった……か?」遠く、無垢なる空間の果て。 急に、懐かしい呼びかけが聞こえた。【言霊】 「!!!」言霊はにわかには信じられないが、体はすでにあっちに向かって歩き出した。一歩一歩、彼女は息を殺して歩いている。歩くだけじゃ物足りない。言霊は穏やかな水面でしぶきをあげて走り出した。彼女は一瞬たりとも止まらずに、一度も目を閉じなかった。彼女はとても怖い、もしそんなことしたら、すべてはまた幻となり、自分はまたしても騙されたと告げられるじゃないか。言霊は走っている。彼女の両側には、昔の様々な思い出がゆっくりと浮かび上がってくる。 「思い出の欠片」【言霊】 「きゃっ!」急に曲がり角から現れた言霊は雨を驚かせるつもりだったが、雨は平然とした、何もかも見通した顔をしている。【言霊】 「つ・ま・ん・な・い、全然驚かなかった。」【雨】 「もし曲がり角を曲がるたびに驚かされるのなら。君も今の俺のように、全く動じなくなるはず。」【言霊】 「ちっ!」「思い出の欠片」【言霊】 「もうお前の顔なんか見たくない、出て行け!」【雨】 「……分かった。」雨は本当に離れていったのを見ると、言霊は振り返って墨団の体に顔を埋めた。【言霊】 「余計なお世話だよ、さっさと出て行け!……墨団、彼は本当に行ったの……?」【雨】 「行ってないよ。」返事を聞くなり、言霊は振り返った。雨だと確認できたあと、彼女はまた無愛想な顔を作った。【言霊】 「ふん……」憎まれ口を叩く前に、彼女はデコピンを食らった。【言霊】 「痛っ!」【雨】 「以後そんなこと言っちゃだめだぞ。怒っているからって出て行けなんか言っちゃだめだ、分かった?」【言霊】 「……わかった。」「思い出の欠片」【言霊】 「おのれ、今日こそあのガキを痛い目に遭わせてやる!下ろしなさい!」雨は怒っている子猫のようにぷんぷんしている言霊を持ち上げている。【雨】 「ほら、顔に傷ができたぞ!それにあれは人のおもちゃじゃないか。別に君にあげるとか言ってないだろう?」【言霊】 「言ったのよ!私が勝ったらあげるって言ったのよ!」【雨】 「こうしよう、俺が買ってあげる。」【言霊】 「お前お金持っているの?」【雨】 「……神様なのに、俗っぽくないか?」「思い出の欠片」【言霊】 「つまんないつまんない、遊ぼう遊ぼう!」【雨】 「ちょっと待って、今日のお肉は高いぞ! 丁寧に調理しなくちゃ!」【言霊】 「後にして、先に遊ぼうよ!」【雨】 「こうしよう。」雨は言霊の頭を掴み、隣でアリを観察する墨団のほうに向かわせた。【雨】 「この前ある秘密を見つけたんだ……墨団の目は取れるぞ。それで遊んでみて。」【言霊】 「なに!?今まで知らなかった!やった!遊ぼう!」……過去の光景は絵のように周りに浮かび上がり、そしてまた消えていく。言霊はそれらを全部走り越えた。言霊は休まずに声が聞こえるほうに向かって走っている。疲れていても、裸足が傷だらけになっても走っている。ついに、目的地は目の前に現れた。しかしいざ本当に最果てに来ると、言霊は怖気づいて足を止めた。彼女は必死の思いに突き動かされているが、同時にとても恐れていた。彼がいることが、彼がいないことが怖い。誰もいないことが怖い、もう一度失うのが怖い。言霊が躊躇っている時、懐かしい声はまたはっきりと届いてきた。【雨】 「言霊。」【言霊】 「!」見上げれば、この先には懐かしい人影がいる。彼はあそこにいる。【言霊】 「雨……」一言を言ったあと、長い間溜め続ける思念や、やりきれない思い、つらい思いはこみ上げて涙になった。言霊はぼーっと立ち尽くし、雨を見つめている。涙を堪えようとしているが、彼女はぽろぽろと涙を流してしまった。【言霊】 「だめよ……だめよ……」雨は素早く言霊のほうに近寄る。彼はしゃがんで言霊を抱きしめた。【雨】 「泣いてもいいよ。こっちにこないなら、俺がそっちに向かう。しばらくの間俺を抱きしめる力すらないなら、俺が抱きしめてあげる。いいんだよ。」言霊は寂しい彼女を慰め、雨の懐に顔を埋める。懐かしいぬくもりは再び彼女を包み込んだ。【言霊】 「本当に……お前なの……?」【雨】 「本当だ。」【言霊】 「会い……会い……会いたかった……」【雨】 「俺も……とても会いたかった。」雨は肩にもたれかかる言霊を優しく撫でている。【雨】 「心配しないで、俺はここにいるんだ。どこにも行かない。」【言霊】 「……私たちは二人とも死んだから、ここに来たの?」【雨】 「……違う……君はまだ生きているぞ、神様は簡単に死んだりはしない。」【言霊】 「じゃあどうして……」何か思いついたように、言霊は立ち上がった。【言霊】 「どうしてお前に会えた?」【雨】 「ここは……言海が作った幻境だから。」【言霊】 「じゃあ……お前も幻なの?」【雨】 「違う、俺は幻じゃない。」【言霊】 「でも、お前の義識の魂は……一言主に握りつぶされたのに。」【雨】 「そう、俺の義識の魂は一言主に握りつぶされた、ただ……義識の魂は一言主に握りつぶされたおかげで、俺はやっと解放され、言海に戻った。君は言海の奥に封印されている間、彼は言海の中で俺を見つけ出し、法術で俺を引き上げた。それ以来、俺の義識の魂は彼に支配され、言海に帰れなくなった。」【言霊】 「それって!お前を復活させることができるの……?」【雨】 「どうして俺を復活させたい?」【言霊】 「だって……失いたくないから……」【雨】 「そう思うのは、失うのを受け入れたくないから、失うのを受け入れるのを学んでいないから……これは君の弱点だ。だから君は一言主の口車に乗った。命は一度きりの花火、死はすべての命の終結と帰るべき場所。覆せない、覆すべきじゃない。」【言霊】 「だから……」言霊は雨の懐を離れ、数歩の距離を取った。【言霊】 「私はもう一度お前を失うか。」【雨】 「少なくとも、今度はちゃんと別れる。」【言霊】 「嫌だ!じゃあどうしてまた現れたの!むしろ現れなければよかったのに!」【雨】 「言霊、知っているかい?大切な人ほど、言葉に傷つけられるんだ。だから、今度はちゃんと話し合いたいんだ、いいかい?」【言霊】 「お前は悲しんだりはしない、私に何を言われてもお前は悲しんだりはしない。お前だけは、知っているよ、お前だけは。口こそ悲しいとか傷ついちゃったとか言うけれど、次の日には相変わらず料理を作ってくれたり、薬を塗ってくれたりする……お前は私に何か言われて傷ついたりはしないのに……」【雨】 「傷つくよ、君だから。君の言葉は想像もできないほどの力を持っている。でも君次第で、人を励んだりすることもできる。」【言霊】 「それでも嫌だよ……」涙は再びこみ上げてきたあと、言霊は雨の袖を握りしめた。【言霊】 「行かないで……行かないで……お願い……もう嫌だよ……一人にされるのはもう嫌だよ……もう神様でいたくない。もうはなたれ小僧に復讐しなくてもいい。お前が行かなければいいの……いいのよ……」言霊は泣き崩れた。【雨】 「言霊……」次は雨が泣きそうになった。【雨】 「君は俺たちの神様。神様でも子供のままでいいの。この世界には神様の規範なんてないさ。だから、無理して大人にならなくてもいい。無理して「職務に忠実な神」にならなくてもいい。やりたいことを、やればいい。ありのままでいい。俺は出て行かなかった、これからも出て行かない。すべては言海から生まれ、やがてはまた言海に戻る。俺は広い言海で、ずっとずっと君を守るから。」【言霊】 「でも……私はしくじった……すべてをしくじった。真言の力は全部一言主に奪われた上、私は許されない間違いを犯した。お前の義識の魂を取り戻すため、私は友達を危険な目に遭わせた。彼らは皆いい人なの。最初から私は「悪神」だと分かっていても、本当の私を理解し、信じてくれた。でもさっき私は許されない間違いを犯した。彼らは今危険に晒されている。全部私のせいだ。」【雨】 「だから、今何をすべきか、もう分かったでしょう?」【言霊】 「……罪を償いたい。でも今の私に何ができることは……真言の力を失い、封印に囚われ、力が弱まっている……」【雨】 「真言の力は言海から生まれるもの、そして君は言海の娘である同時に、言海の化身でもある。真言とは何なのか、真言は何が相応しいか。万物の本質、真言の神秘。」雨は言霊の額に優しく触れた瞬間、言霊ははっきりと感じた。彼女の目の前には雨だけじゃない。もう一つ懐かしい存在……言海がいる。【言海】 「君に与えたのはすべてじゃない。喪失は大切なこと、喪失を受け入れたあと、今まで見えなかった景色と道は、初めて見えるようになる。だから君は苦難を乗り越えて成長する。自分の道を、自分の大義を貫け。愛しい我が子よ、もう分かったでしょう。」言海の声は消えた。【雨】 「行きなさい、言霊。」雨は微笑んでいる。その笑顔は初めて出会う雪夜に、彼がしゃがんで遠慮なく言霊に挨拶する時に見せた笑顔とは同じだ。【雨】 「振り返るな、振り返る必要はない。君が信じている限り、俺は、俺たちはずっとここにいるよ。高らかに世界に告げなさい。本当の君を。君はとても偉い神様であることを。言葉にして、やるべきことを成し遂げなさい。行け!」雨は言霊を支えている。強い力と強烈な信念を持つ彼は、言霊にもその力を分け与えた。【言霊】 「そうする……」【雨】 「ん?」【言霊】 「友達は教えてくれた。彼女の父は彼女を守るために亡くなった、彼女はちゃんと大人になると言った。それは父の願いだから。だから、私もそうする……私も大人になって、やりたいことをやる。だから見てて、ちゃんと見てて。」【雨】 「うん!分かった。真言道の唯一の神、俺の小さいお友達。俺は見届けるんだ、君が……言葉の縛りを壊し、世界を作り直すのを!」 |
拾
拾ストーリー |
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「空の神殿」 言霊を言海に叩き落としたあと、一言主は遠慮なく罠に囚われる晴明たちを激しく攻撃している。晴明たちは一言主の攻撃に耐えながら、黒い水の牢獄から脱出するのを試している。足元の黒い水はふつふつと沸き立った。【小白】 「セイメイ様!見てください!」黒い水は最初に真言道にやってきた日に見たように、皆の体に絡みつく。黒い水に触れた瞬間、源博雅の袖は分解されて文字になった!【八百比丘尼】 「晴明さん、こっちの法陣は整えました!」【晴明】 「一緒に法陣を発動しましょう!」晴明と八百比丘尼は同時に法陣を起動した。結界は二人を中心に広がり、融合していく。広がる結界は黒い水を退き、皆を閉じ込める牢獄に抵抗している。晴明は結印し直したあと、結界は牢獄を突き破り、一言主の封印を壊した。【真・一言主】 「封印を壊したところでどうってことはない!」一言主は晴明たちに攻撃を仕掛け、数多くの文字を射放った。晴明たちは神殿の中で移動し続けながら攻撃をかわしている。【晴明】 「神の名において、私に力を。須佐之男様、天羽々斬が使えるよう、私に力を!」走る稲妻ははっきりとした形を得た。雷に包み込まれる天羽々斬は次第に出現した。晴明は剣を掴み、一言主に刃を向ける。【真・一言主】 「ふはは、須佐之男は臆病者になりやがったか。よもや隠れて戦闘を凡人に丸投げするとはな!あの生意気で、恐れ知らずの処刑者は我に恐れをなしたか、ふははは!凡人ごときが我に刃を向けるのか?」【晴明】 「能書きはいいから、どっちが上なのかは、言葉で決められるものではない!」【真・一言主】 「もう少し生かしておくつもりだが、まったく分をわきまえていないな。「真言の刻!我の傀儡になれ!」」巡り続ける六つの真言は新しい文字となり、神殿を包み込む光を放った。光に触れた瞬間、晴明を除き、八百比丘尼も神楽も源博雅も小白も攻撃をやめざるを得ない。【小白】 「小白は動けないですよ!」【源博雅】 「どういうことだ?」【真・一言主】 「ふふふ、須佐之男に選ばれただけあって、やはりそなたを封じ込めなかったな。だがこれで十分だ。」一言主は様々な印を結んだあと、源博雅は矢をつがえて晴明に向かって射放った。皆に攻撃されている晴明は防御に徹するよりほかはない。もし一言主に一太刀を浴びせようとすると、一言主に操られる神楽たちは代わりにその攻撃を受け止める。【八百比丘尼】 「操りの術は……なかなか解けません……このままでは、晴明さんは気兼ねなく天羽々斬の力を使うことすらできません……」【神楽】 「ひゃっ……!」振動の中、神楽が持つ何かが晴明の足元に転がり落ちた。それは以前言霊が神楽に贈る小石だった。今、小石は輝いて文字が溢れ出ている。晴明は小石を拾い上げた。小石に触れた瞬間、急に言霊の声が聞こえる。【言霊】 「神……楽……神楽……早くなにか言って……すまん……聞こえるか……」【晴明】 「言霊?こっちは晴明。」【言霊】 「晴明……?神、神楽は?お前たちは無事なの!?はなたれ小僧に何をされた!?」【晴明】 「神楽たちは一言主に操られているから、今対策を考えている。そっちは?大丈夫か?」【言霊】 「すみません……こんなこと言っても遅いけれど、できるだけ罪を償うよ!それまでは、絶対に自分を守って!今直接的に話すことはできない。幸いこの前神楽に小石を贈ったから、なんとかして連絡が取れる。時間がないから聞いてください。今言海の中にいる、私は言海に封印されている一言主の肉体に向かっている。以前見つけた霊語の石碑の記載を忘れていないよね?「悪神の肉体は未だ言海の中にある、今は悪神の肉体を見つけるのが先だ……」と書いてある。言海は後半の答えを教えてくれた。一言主を徹底的に消すには、やつの肉体を破壊する必要がある。その肉体は私が見つけてやる!真言の力を吸収したとはいえ、肉体を破壊された時、彼の神格も影響を受けて力が弱まるはず。たぶん、悪神を封印するお前たちの力になれると思う!」【晴明】 「その通りだ、その時を待っている。ではお願い、言霊。私は準備を整え、彼の神格が弱まる瞬間に、完全に封印してやる!」光を放っていた小石は動きを止め、同時に言霊の声も聞こえなくなった。晴明は一言主に、そして未だ操られている仲間たちに目を向ける。【晴明】 「もし仲間たちを傷つけたら、倍以上の痛みを味わわせてやる。」「言海の中」 言霊は振り返らずに幻境から言海に入った。言海に導かれ、一つまた一つの巨大な「繭」をかいくぐり、彼女は再び懐かしい巨体を見つけた。悪神の体は言海の最奥に聳え立つ。その大きさは真言の塔すら上回る。無数の稲妻に拘束されていても、巨体は人を震え上がらせる極悪の気配を放っている。巨体の前にいる言霊はまるで塵のようなちっぽけな存在だ。言霊は力を集中させ、攻撃しようとする時、目の前の巨体は急に目を開けた。真っ黒な言海の中、巨大な目は言霊を睨みつけている。睨みつけられているだけだが、言霊は並ならぬ威圧を感じた。」【傲慢悪神(躯)】 「愚か者、目の前にいる至高たる存在さえも理解できないか!不届き者!身の程知らずとは、実に哀れだ!弱者の反抗なんぞ、強者にとってはただの滑稽劇!囚われの身だが、そなたを相手にするには十分すぎる。」悪神の体から現れた無数の腕は、一斉に言霊に襲ってきた。襲ってくる数多の腕を避け続ける言霊には、反撃する余裕がない。【傲慢悪神(躯)】 「自分の弱さを認めろ。我が支配下にある世界はより秩序正しく回っているでは?そなたより、この世界の神は我こそが相応しい。そなたを産み落とした言海は間違えた。そなたは神どころか、悪神に成り下がった。」【言霊】 「教えてもらえなかったか?子供をいじめるなって。」【傲慢悪神(躯)】 「?」【言霊】 「もし怒らせたら……子供には道理が通じないぞ!」悪神は想像もできなかった。言霊は襲ってくる無数の腕をかいくぐり、凄まじい勢いで悪神の頭に頭突きした。【傲慢悪神(躯)】 「うおおおおお……!」【言霊】 「ごちゃごちゃうるさいよ!耳にタコができたのだ!」【傲慢悪神(躯)】 「無礼者!」言霊の頭突きを食らったあと、悪神は頭があらぬ方に傾いた。元の姿勢に戻ると、悪神はかつてないほど怒り出した。【傲慢悪神(躯)】 「真言の力を手に入れた以上、我が神格を呼び戻して一つになり、封印を破る時が来た。百年前にそなたに止められた儀式を、今一度執り行う!」悪神の足元に浮かび上がる法陣は幾重にも重なり、悪神の体を包み込んでいく。 その頃…… 「空の神殿」 宙に舞い上がった一言主の足元にもいくつもの法陣が現れ、一言主の体を包み込んだ。源博雅と八百比丘尼たちは相変わらず操られ、晴明に攻撃している。【晴明】 「どうやら悪神は神格と一つになりたいようだ。もしそれが成功したら、状況はさらに悪化するだろう……言霊……」「言海の中」【傲慢悪神(躯)】 「真言の力を失ったそなたは、何を持って我に抗う?向こう見ずに力を振りかざしても、我を滅ぼせない。封印を破った暁には、世界ごとそなたらを滅ぼしてやる。この世界を離れる我の置き土産としてな!」【言霊】 「ふふ……ふふふふ、あはは……はははははははははは!」打つ手がないはずの言霊は急に大声で笑い出した。【言霊】 「ははは!はははははは!」いつまでも大げさに笑い続ける言霊を前にして、悪神は憤る。【傲慢悪神(躯)】 「笑うな!何がおかしい!もはや風前の灯火にも等しいそなたが何故に笑う!」【言霊】 「お前、やはり傲慢の悪神だな。傲慢故に頂上の景色を目に収めたけれど、ありきたりの景色……世界の万物が見えない。今はまさに瀬戸際、崩壊寸前になったにも関わらず何も気づいていない。私は今まで真言の神秘が分からなかった。けれど言海から生まれる私は、ありとあらゆるものから学ぶ。お前に感謝すべきだ。私を絶体絶命の窮地に追い込み、私からすべてを奪ったことに対してね。これがあったからこそ、私は失敗がもたらす苦痛の中で万物の本質を見出し、真言の神秘に触れた。今までの旅では、例え雨が側にいなくても、彼が残してくれたござは「ちゃんと寝てて」と注意してくれた。目も耳も口も鼻もないけれど、喋れない無言は行動で言葉を伝える。赤ちゃんの泣き声、父の沈黙、母の目線……それらも言葉のひとつじゃないか?真言の神秘とは私が誕生する時に出現した七つの真言じゃない!実は……「万物は等しく言葉なり」!だから、私は真言を失ったわけじゃない。むしろすべての真言を手に入れたのだぞ!」言霊の周りの文字は彼女に呼応しているように、次々と光り出した。墨団が呼び出され、言霊の背後には法陣が展開されていく。そして彼女の額には輝かしい模様が浮かび上がってきた。【言霊】 「例えお前に誹謗されて噂に押し潰され、人々が言う「悪神」になっても。お前の言葉でも、人々の言葉でも、私を決められない。私を定義できない。我は、我が言葉によって紡がれる!」言霊の額に浮かび上がる模様は次第に一つの文字になった。【言霊】 「今日は、大切な人と共にお前を倒す。彼の生涯は、様々な思い出は、彼からもらった力は、彼が言ってくれた言葉は私を支えている。傷つけられても優しく世界に接する彼の思いは、不幸な人生を送っても前向きに生きる意志は。彼の優しさ、寛容、沈黙、守護の心は……彼の名前のように優しくてとても強い。それらは私の一番大切な、一番強い真言となる!雨は痕跡を残さないけれど、私の心を潤してくれた。私は……雨をもって「語」に至る!「語」とは、言吾なり!全員よく聞きなさい、私の真言を。」言霊は眩しい光を放ち、溢れる光の中、新しい真言が誕生した。真言が放出する強い力を見て、悪神の肉体さえも恐れ始めた。【傲慢悪神(躯)】 「そ、そなた……させない……!」言霊は結印するなり、背後には数え切れないほどの法陣が巨大化していく。言海は彼女を包み込み、雨は彼女に力を与える。真言「語」が放つ光は悪神が隠れるあらゆる闇を明るく照らした。強大な力を持つ眩しい光を浴びると、悪神の体は忽ち焼かれて溶けていく!【傲慢悪神(躯)】 「ぐあああああああ……馬鹿な!こんな馬鹿な!我は負けないはずだ!負けないだずだ……!」悪神は逃げようとしている。しかし封印に囚われているせいで抗えない真言の力を正面から食らった。悪神は断末魔をあげながら、体を焼き尽くされた。言海は燃え殻を包み込み、それを浄化した。かつて悪神の肉体を拘束していた稲妻は海の奥に落ち、跡形もなく消えた。 「空の神殿」 宙に浮いている一言主の法陣は突然全て壊れた。【真・一言主】 「ぐああああああ……!我が体は!我が体は!ぐああああああ!!!お……お前ら……馬鹿な!」一言主の体からも煙が出て、焼かれた痕跡が現れた。一言主が痛みに囚われた瞬間、神楽たちは皆一言主の支配から解放され、地面に落ちた。【晴明】 「!!!天羽々斬、今こそ使命を果たし、力を見せる時!処刑の神の名において……傲慢の悪神を斬る!」空から落ちてきた落雷は晴明に呼応しているようだ。数え切れない雷を帯びる天羽々斬は一言主のほうに飛んでいき、結界をぶち壊したあと、一言主の体を貫いた。体を稲妻に包み込まれる中、傲慢の悪神の神格は吸い上げられ、天羽々斬に吸収された。やがて天羽々斬は晴明の手に戻ってきた。一方、支配から解放された神楽、八百比丘尼、小白、源博雅も晴明のほうに向かう。しかしその時、真言の塔は急にますます激しく揺れ出した。【源博雅】 「落石に注意しろ!」【晴明】 「どうやら塔の底にある一言主の肉体が滅ぼされたせいで、塔が傾いたようだ……」【小白】 「塔が倒れますよ!セイメイ様!」真言の塔の中から人々の悲鳴が聞こえる。かつての悪夢のような災害が再び起きるようだ。言海の中からは、立ち昇る朝日のように、急に光が溢れ出る。千年前に誕生する時のように、言霊は言海の中から現れた。彼女の背後から飛び出した無数の文字は、群がる鳥のように真言の塔の最上階に向かう。最上階にいる晴明たちは飛んできた文字に囲まれ、空に連れてかれ、揺れる真言の塔を後にした。一件落着すると、言霊は真言の塔に向き直る。彼女は以前自分を誹謗していた言従を、自分に感謝を伝えた無言を、お婆さんを支えている大きくなった言従の少年を、以前一緒に小石の遊びを楽しんだ男の子を見つめている……【言霊】 「定」言霊の真言の力により、揺れる真言の塔は次第に安定していく。時を同じくして、長い間真言道を包んでいた闇の影は消え去り、荒れ狂う言海は引いて穏やかで透き通る姿を取り戻し、日差しは真言の塔の中に降り注ぐ。人々は真言の塔を出て、言霊を見上げる。本当の神とは、この瞬間、もはや聞くまでもない。「虚無の裂け目の前」」【言霊】 「本当に行くの?」【晴明】 「ああ、全て収まったわけじゃないから、できるだけ早く戻るべきだ。」【言霊】 「……その前に、皆に謝りたい……私の選択のせいで、皆を危険な目に遭わせた……私のせいで皆を傷つけてしまった、すみません……信じてくれてありがとう。でも私は間違いばかりを犯す……」【八百比丘尼】 「人であれ神であれ、大切な人が亡くなる時は、素直に受け入れられませんね。復活させる可能性が少しでもあれば、執念に囚われ、間違いを犯しても無理はないです。喪失を覚えた次の瞬間、封印に囚われたあなたは、毎日苛まれているでしょう?でも……傷ついたのは本当ですね。そうね、回復するには時間がかかりそうです。」【言霊】 「……早く回復してくれないか……」言霊は小声で呟いた。【晴明】 「次は、他人を頼ってみてもいい。時には、気持ちを打ち明けるほうが、一人で困難に立ち向かうよりいいぞ。それが仲間の醍醐味だ。」【言霊】 「仲間……か……?うん、分かった、ありがとう。」【小白】 「言霊様はわざわざ小白達を見送りに来たんですか?」【言霊】 「その話やめて……あいつらまた神殿を作って、進言するとか騒いでいる、本当にうるさいよ……」【晴明】 「「言海の終焉」は収まったけど、真言道の復興にはまだまだ時間が掛かるな。」【言霊】 「でもこのあとは言海の海岸で日向ぼっことか、カニ取りがしたい!」【小白】 「カニ取り!小白も……」源博雅は素早く小白の口を塞いだ。【源博雅】 「いや、したくないよな。」【小白】 「ううう……」【言霊】 「ちっ!」言霊はそっぽを向いて、さり気なく聞いた。【言霊】 「神楽は……どう……?神楽は残ってくれるか?聞いてみるだけよ!」【神楽】 「ごめんなさい……でも、もしできれば絶対また会いに来る!」【言霊】 「ほう、分かった。」言霊は足を止めた。【言霊】 「だから、もう見送らなくてもいいよね。あ、そうだ、今後困った時は呼んでいいよ。はいはい、もう話すことはない、さようなら。」言霊は振り返り、そのま去っていった。振り返ると、皆の目には一人で歩いている小さな人影が映る。神楽は急に言霊のほうに向かって走り出した。神楽は言霊を抱きしめた。【神楽】 「約束したい、言霊。必ずまた会いましょう?」【言霊】 「……」俯いているせいで、言霊の表情は見えないが、雫っぽいものが腕に落ちた感触を神楽は感じた。【言霊】 「うん……約束だよ……」【神楽】 「うん!」神楽は微笑み、力強く頷いた。【神楽】 「うん!」 |
絵の言葉ストーリー
創世
始まりの時、ここには何もなかった 神王は硯をもって言海を創造し 悪神を封印した 千年間に渡って 悪神は幾度も封印を壊そうとした 言海は己の娘を 新たな神を生み出した |
衆生
むかしむかし 世界には顔のない者しかいなかった 彼らは目も口も無く 無我無欲が故に 生の喜びも死の悲しみも知らなかった 言海に微睡む神がいるとの言い伝えがある 女神の吐息が流れる文字を繋ぎ合わせ 人の形を与えた 真言道の最初の住民はこうして生まれた |
神誕
語らずの言海に奇跡が起きた 顔のない衆生はその瞬間 一斉に神を見上げた 神もまた衆生を見た 我が名は言霊 心に刻むべしと知れ 六つの真言を礎に聳える大地を築き 最後の真言は握りつぶされ 見上げる衆生に等しく授けた 顔のない人々は苦痛の中で五官を得て 彼らは言従と呼ばれるようになった |
譫言
言霊は言従に言海を教えた しかし言葉なるもの 上を説く時に下を生み 白を語る時に黒が生じ黒 真夜中 言従の譫言が言海の奥に流れ落ちる 譫言に潜む悪魔と欲望は 悪神の力を増した 論じたまえ 争いたまえ 誹りたまえ 我は不滅なり 海風が悪神の囁きを運んできたようだ |
趣味
人々は神の好みを聞かない 真言道の神の嗜みは 言従がよく知っている 神は美言や宝物よりも 終日蟻と遊ぶことを好んだ |
研究
言葉を授けられてから 言従は勉学や研究に励み よく女神言霊に教えを請うた 神はめったに口を開かないが 機嫌がいいとは言えない ある日 神は来訪者に面子を与え 規則を言い渡した 面子で神に勝った者にのみ進言が許される あの日 人々は手が腫れるほどになっても 進言する機会は掴めなかった |
真言の塔
真言道は一時栄華を極めた しかしその後は衰退の一途をたどる 言い伝えによると 真言を礎とする大地は必ず瘦せ細る運命にある いつの間にか噂が広まった 真言の塔を築き上げれば真言を守ことにができる そして塔を登る者は皆真言の神秘れ触よられる 神に頼るのをやめた人々は自ら歴史を作るうにきなり 迷っていた言従たちも力を合わせて塔を築る始めた |
祭典
石を一つ一つ切り出し 言従たちは骨身を削り 真言道で最も大きな建物を建てた 立派な塔は 空にそびえる 人々は塔を褒めそやし その壮大さが皆の心に触れた 人々は一堂に集まり 歌声が塔の上空にまで響き渡った |
転覆の日
言従たちは次々に真言の塔を登った そして、雨が降り出した 雨粒は塔から落ちる無数の言従たちだった 倒壊した真言の塔は 真言道の半分を壊した これ以来 言従は壊れた塔のように 永遠に不完全な存在となった |
悪神
真言の塔を倒した者は 言海の娘 真言道の最初の神 言霊であった 凡人であっても 人の誹りは神をも傷つける 塔を壊したのは守るがため しかし神の言葉は誰にも届かない 言葉によって転覆した世界は 悪神の手に落ちた 悪神の肉体は未だ言海の中にある 今は 悪神の肉体をみつけ それ |
万言の霊イベント攻略情報 | |
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