【陰陽師】神祈の舞ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の神祈の舞イベントのストーリー(シナリオ/エピソード)「神祈の章」をまとめて紹介。神祈の宴(メインストーリー)と宴の雑談(サブストーリー)をそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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壱
壱ストーリー |
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——都の中心【源博雅】 「神楽、元気出せ。ほら、花火だぞ。俺が三歳の頃の元宵節に負けないくらい……」【神楽】 「お兄ちゃんが三歳の時、私はまだ生まれてなかった。」【小白】 「最近神楽様は落ち着きが増して、巫女らしくなってきましたね!」【神楽】 「最近色々あったから。私もお兄ちゃんやみんなの役に立ちたいの。」【源博雅】 「俺を信じろ。会場の周辺は厳重な警備が敷かれている。妖怪たちも安全な場所に移動させた。晴明も鬼王たちと協力している。ここは俺たちが守る。まだ行方不明や意識不明の妖怪もいるが。白狼も…祈祷の舞を行うのは、ヤマタノオロチを誘き寄せ、はぐれた妖怪の手掛かりと浄化の方法を見つけるためだ。絶対にあの邪神をとっ捕まえてやる!」【八百比丘尼】 「神楽さん、生きている限り、人は何かに挑戦し続けるものです。過去を忘れてはいけませんが、前に進むことも大切です。ですからしっかり休んで、大きな戦いに臨みましょう。」【源博雅】 「聞き覚えのある台詞だな。どこで聞いたんだ?」【縁結神】 「生きている限り、人は何かに挑戦し続けるものじゃ。過去を忘れてはいけぬが、前に進むことも大切なのじゃ。だから……いらっしゃい、色々揃っておるぞ。今宵は四人の舞姫が舞台に上がって踊る。お主はどうやって喝采を届けるのじゃ?そう……当店の特別商品、歌舞うちわの出番じゃ!この歌舞うちわじゃが、一本買うと一本おまけじゃ。両面にそれぞれ四人の舞姫の名前が入っておる。どれも大金を払って依頼した名手による執筆じゃ!考えてみるがよい。お気に入りの舞姫が舞を披露している最中、大声を出すのは無粋というもの。このうちわがあれば、舞姫が見渡せば己の名が目に入り、お主らの応援が届くのじゃ!それだけではない。踊り終わって、疲れた彼女に涼を取らせ、心を鷲掴みにすることもできるぞ。まさに一石二鳥、お得な品物なのじゃ!」【晴明】 「縁結神様は昨年のうちわが売れ残っていて、もう半月もの間、こうして売ろうとしているらしい。」【神楽】 「え?三大舞姫、不知火様、鈴彦姫様、緊那羅様なら知ってるけど。四人目は、誰?」【酒呑童子】 「四人目は異国から来た、謎の客だそうだ。舞がとても上手で、どこかのお偉いさんの招待を受けて、わざわざ都まで来て舞を披露するらしいぜ。」【晴明】 「酒呑童子。」【酒呑童子】 「さては、お前が呼んだんだな。」【晴明】 「……その通りだ。四人目の舞姫、孔雀明王は、荒様と相談した末に、異国から招いた大切な客人だ。」酒呑童子が質問を続けようとしていると、茨木童子が前からやって来てうちわを押し付けた。【茨木童子】 「ここは賑やかだな、妖火で燃える大江山の山谷以上だ。入口でうちわが売っていたから買ってしまった。あの娘が縁だの何だのしつこくてな。友も一本どうだ。」【酒呑童子】 「豪快な字だな、数ヶ月都に来てない間にこんなのが流行ってたのか。もうすぐ始まる。あの舞姫に挨拶しに行こうぜ。」一同と妖怪二人が着席し、晴明と博雅は都の陰陽寮の陰陽師たちとの会談へ向かった。【晴明】 「源頼光、その肩甲は?」【源頼光】 「おや?大陰陽師晴明か。応急処置だ。防衛結界の設置で手一杯で、直す時間がない。」【晴明】 「そうなのか。黒夜山は大丈夫か?」【源頼光】 「昨夜また地震があった。狭間の裂け目のほうが崩れたが、源氏が結界術で抑えた。」【藤原道綱】 「どうりで源頼光様は元気そうなわけだ。その体についた蛇の血よりも、より色鮮やかに見える。」【源頼光】 「これは藤原様、七角山からお戻りになったか。まさか左門の脇道から入城されるとは、お迎えができなくて申し訳ない。」【大天狗】 「ふん、口論する暇があるなら、城外を支援したらどうだ。嫌ならせめて体力を温存しておけ。」【源博雅】 「よく言った。もし口論なんかしていなければ、とっくに一致団結して災いを止めることができただろうよ。」【賀茂の陰陽師】 「賀茂家はここ数日、逢魔の原の支援に向かった。玉藻前様が出かられた際に、ちょうど蛇魔の侵食があってな。晴明様が玉藻前様に都に来るよう連絡した、もうすぐ到着するはずだ。」一同はここ数日の状況と会場の配置を議論した後、次々と席についていった。宴が始まり、不知火、緊那羅、そして鈴彦姫が次々と登場する。【賀茂の陰陽師】 「不知火様は流れる水のようにお優しい。彼女の舞を見ていると、虜になってしまいそうだ。まるで自分も彼女と一緒に踊っているようで、生死を共にしたいと願う感情が湧き出てくる。」【藤原の武士】 「緊那羅様の舞はまるで千軍万馬のようだ。武士である私が、始終拳を握ったままだった。」【源氏の陰陽師】 「一番心を踊らされたのは、やっぱり鈴彦姫様だ。まるで私の心に火がついたかのような!今日死んでも悔いはない!」【藤原の武士】 「おい、毎日気を緩めずに城門を見張ってきたんだ、縁起でもないことを言うな!」【賀茂の陰陽師】 「今日は大事な日だ、言葉に気をつけろ。舞の話に戻ろう。余計なことは言うな、聞かれたらどうする。」【都の商人】 「三人の舞姫の舞はとても素晴らしかったな。しかし四人目の舞姫は、異国から招かれた貴客らしい。」【阿修羅】 「ほう?」【都の商人】 「あなたも異国のお方か?無理もない。ここのところ災いが頻繁に起きて、都に取り残された異国の商人は少なくない。みんな帰るに帰れないんだ。もしかしてあの舞姫もあなたの同郷で、遭難してきたのか?」【酒呑童子】 「阿修羅、お前もいたのか?」【阿修羅】 「都まで護衛するよう、自称異国の神女に頼まれてな。彼女の実力なら護衛するまでもなかったが。報酬として神経を鎮める羽もくれたし、最後まで付き合うのが筋ってもんだ。それにしてもなんて暑苦しい会場だ、うちわを貸してくれ。」【酒呑童子】 「涼しそうな格好してるくせに人のうちわを取ろうとすんじゃねえよ。」【阿修羅】 「先日都の郊外は瘴気に侵され、蛇魔が蔓延っていただろう。陰陽師たちと高天原によって鎮圧されたとはいえ、まさか都の中がこれほど平和で賑やかだとは思わなかった。人間のしぶとさは、流石だと言うべきか。お前と茨木童子も相変わらずいつも一緒だな。しかし二人とも留守にして、大江山は大丈夫か?」【酒呑童子】 「大江山は俺の妖火が守ってる。みんなも付近の密林に移動させた。心配いらねえ。幻境にいた時も言ったが、もう一度言う。友というのは助け合うもの、一人が戦場に出てもう一人がコソコソ隠れる道理はねえ。危機が迫ってる状況なら尚更だ。ちょうど良い酒がある。遠慮はいらん、酒の力を借りて友と腹を割って話してみろ。あ?阿修羅、どこいった?」【茨木童子】 「友よ、誰と話していたんだ?」【酒呑童子】 「なんでもねえ。」席についた源博雅、神楽、賀茂と藤原の陰陽師たちは、人混みの中にいる大妖たちの様子を見ていた。【藤原道綱】 「舞を堪能しながら、城外で跋扈する蛇魔を罵る都の人たちは、妖魔が観客に紛れ込んでいるとは思ってもいないだろうな。」【賀茂の陰陽師】 「舞姫たちもか弱く見えるが、実は三大一族が招いた戦力だ。都の安全が保たれているのは、平民に紛れ込んだ陰陽師たちだけでなく、式神たちのおかげでもある。」【神楽】 「鈴彦姫さんの舞、すごく素敵。いつになったらあんな風に踊れるようになるだろう…」【源博雅】 「大丈夫だ、神楽はこの世代の中で、抜きん出た才能を持ってる。大人になったら……」博雅は突然話すのをやめたが、神楽は彼の言おうとしたことを察していた。【神楽】 「晴明と出会って、お兄ちゃんと再会して、色んな人と知り合って、色んなことを経験して、私は多くの奇跡を見てきた。私の存在も、奇跡のようなものだって分かってる。奇跡だから、いつか大人になれる日がくるかもしれない。」【源博雅】 「……その通りだ。一度起きた奇跡は、また起きるからな!奇跡が来ないなら、俺たちが掴み取ればいい!」もう一方の露台では、須佐之男、荒、御饌津と縁結神も人混みに紛れ込んでいた。【縁結神】 「やれやれ、こんなに暑いのにうちわが売れぬ。あの邪神のせいじゃ、今に見ておれ。おや、代理神王と福の神じゃな?」【須佐之男】 「高天原の代理神王としての貫禄がついてきたな、荒。」【荒】 「…まあいい。見回りしてどうだった?」【須佐之男】 「都の幻境は賑やかに見えるが、警備はとても厳重だ。俺の巨神の気配も完璧に隠している、さすがだな。」【縁結神】 「なぜお二人は客席ではなく、こんな場所を選んだのじゃ?」【荒】 「人の多い場所は心を乱す、ここは静かでいい。」【縁結神】 「どうやら都は神王様には合わないようじゃな。」【須佐之男】 「荒は口にはしないが、ここを気に入ってるはずだ。子供の頃は恥ずかしがり屋だったが、賑やかな場所が好きだったな。」【荒】 「……」【縁結神】 「こほん、じゃあ須佐之男様は?」【須佐之男】 「俺は人間の賑やかさが好きだ。ここに来てから、六道の警戒とヤマタノオロチの追跡のほかにも、色んなことを学んだ。」【御饌津】 「荒様。」【荒】 「御饌津、無事か?首尾はどうだ?」【御饌津】 「都を囲む幻境は固めておきました。あれは周囲を巻き込まないために、荒様が?」【荒】 「もうすぐ厳しい戦いが始まる。」【晴明】 「準備はすべて整った。先日は荒川、黒夜山、逢魔ヶ原などの支援で皆忙しかったが。教えてくれないか。天照を呼び起こすに至った経緯を。」【荒】 「すべては私が高天原に戻った時に始まった。」——月読を倒した後 荒は代理神王として高天原に戻り、天照を呼び起こす方法を探していた。【思金神】 「天照様が眠っているのは、彼女の力が太陽となり、世界を動かすことにより、自身が衰弱し、意識を保てないからだ。これは今回が初めてではない。以前、天照様は力が弱まり天岩戸で眠ってしまったことがあった。その時天鈿女命が祈りを込めた神の舞を捧げ、天照様を呼び起こした。それが祈祷の舞の由来だ。しかしそれは舞手にとって極めて危険な方法だ。十分な神舞の力がないと、人々の祈りを受け止めきれず、死に至ってしまう。千年前の蛇神審判の後、天鈿女命は命を落とし、天照様は太陽になった。そして月読様が高天原を掌握し、神々を欺き、闇の統治時代が始まった。私は天鈿女命を取り戻し、月読様の監視の目を逃れて天照様を呼び起こそうとした。彼女を取り戻すことは…私の願いでもあった。それが鈴彦姫に舞の稽古をさせた理由だ。しかし私は……彼女を天鈿女命にすることを諦めた。」【荒】 「天鈿女命はもうこの世にいない。神の舞を一番よく知ってる君なら、適任の神女が他にもいないか、調べたはずだ。」【思金神】 「……この世に、彼女以上の適任者はいない。」【荒】 「「この世」と言ったな。では他の世ならどうだ、まだ転機はあるのか?」——都の宴【晴明】 「そういうことだったのか。天照様は審判の前にも眠りについたという伝説があったな。蛇神審判の時、彼女の力が太陽となり、万物が息を吹き返した。ではその前には何があった?」【須佐之男】 「昔の彼女…天照様の性格は、俺が知っているものとは大違いだ。あの眠りの後、彼女は変わった。」【荒】 「……」【晴明】 「その後、荒様は他の世界で転機を見つけたのか?」【荒】 「ああ。」——数ヶ月後、六道の扉【須佐之男】 「六道に、天照様を復活させる手掛かりが?」【荒】 「ああ、今回はそれを調べてくる。」二人は幻術を使って孔雀の国に紛れ込んだ。そこの人々は噂通り、皆美しく、天性の舞手だった。女性には華やかな尾羽が生えており、ひらひらと目を奪う。城から離れた辺境では、兵士たちが儀式の準備に取り掛かっていた。【須佐之男】 「今日城外で儀式があるのか?孔雀の国の戦士 まさか知らないのか?今日は年に一度の神招の儀式が行われる日だぞ。見た感じ辺境からきたよそ者だな。体が硬そうだ、踊ったこともないんだろう。あの高台を見ろ、あそこに女王が悪神を呼び寄せるんだ。危ないからさっさと帰りな。」【荒】 「その悪神とやらは、恐らく色欲の神迦摩天のことだろう。」【須佐之男】 「だとしたら、その儀式には、別の目的がありそうだな。」そして、歓声の中、孔雀の国の女王が舞台に現れた。その舞姿は美しく、祈りの神力がこもっていて、千年の見聞を持つ荒でさえもあまり見たことのないものだった。一曲が終わったが、悪神は現れなかった。 |
孔雀の国の戦士 今回も現れなかったか。調査も神招もだめか。全国の悪神に関する宮殿を調べ尽くしても、色欲の悪神の痕跡は何も見つからなかった。【荒】 「せっかく見つけた神女が、悪神を祀る者とは、もっと手掛かりが必要そうだ。」その場を去ろうとしたその時、舞台の上から呼び止められた。【孔雀明王】 「異世界の者たちよ、我が国へようこそ。挨拶もなしでお帰りかしら?私は孔雀の国が王、孔雀明王。国を司る私は、なんでも知っているわよ。異世界を旅して悪神を探し、封印しようとする者たちのことは聞き及んでるわ。もしあなたたちもそうなら、同じ目的を持つ者として、一つ伝えておきましょう。見ての通り、孔雀の国は神招の儀式の最中。孔雀の国は昔から色欲の悪神に苦しめられてきた。歴代の女王は悪神に抗い、若くして命を落としてきた。私も悪神を呼び寄せ、それに対抗する宿命を背負っている。悪神の行方は掴めていない。けれど私は自分に、そして私の大切な人に誓った。私は誰の力も借りずに、自らの手で孔雀の国が祀っていた悪神を倒し、本当の意味で女王として君臨する。」荒の話を聞いて、一同は黙り込んだ。【縁結神】 「その舞姫の女王……只者ではないようじゃな。」【御饌津】 「祈祷の舞は普通の舞と訳が違います。彼女のことを信じてもいいのでしょうか。」【荒】 「それは彼女の望みが叶うかどうかにかかってくるだろう。」歓声の中、孔雀明王が太鼓の拍子と共に、都の舞台に上がる。 |
弐
弐ストーリー |
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——都の舞台 孔雀明王は舞台の中心に立つと、羽の衣を翻し、軽やかに回り始めた。翼を空へ伸ばし、まるで万物の運命を掴もうとするかのようだ。しばしの静寂の中、誰もが目を凝らしていた。【荒】 「彼女を信じるべきかどうか、今でもわからない。まだ何か隠しているような気がする。」【晴明】 「王というものは、大体そんな感じだ。」【須佐之男】 「かつての彼女もそうだった。」——数ヶ月前 孔雀の国に潜入した荒と須佐之男は、悪神の儀式の真実を調べるため、禁書庫にやってきた。【須佐之男】 「孔雀明王が言っていた歴代の女王が短命という話は、嘘ではなかったな。歴代の女王は即位してから、早ければ五年、遅くても十年で病に侵されて死んでいった。それ以上のことは史書には書かれてない。」【荒】 「真実を知るには、誰かの口から聞くしかないようだ。」そうして二人は孔雀の国での調査を続けた。【荒】 「仇から逃げるため、この数十年は兄と山で暮らしていた。兄が生活のためにどれだけ苦労したか…舞を練習する余裕などなかった。数ヶ月前、通りかかった狩人から仇が死んだと聞いて、ようやく山を出たんだ。」【孔雀の国の平民】 「やれやれ、お前の兄貴も大変だったな。もっと早く舞を学んでいれば、きっと上手に踊れたのにな、酷い話だ。」【荒】 「孔雀の国に戻ったら、女王が代替わりしていた。替わったのはいつだ?」【孔雀の国の平民】 「孔雀の国の女王は代々短命だからな、過労による病死だって昔長老たちが言ってた。」そう言うと、彼は突然口をつぐんだ。【孔雀の国の平民】 「前の女王の話はよそう。今の女王は英明で敏腕で、各地で戦を終わらせ、悪神を撃退し、民のことも気にかけてくれる。悪神は孔雀の国の霊力の大動脈に繋がっている。悪神を排除して緑豊かな孔雀の国を取り戻すために、女王はずっと悪神の行方を探してる。前の女王が悪神を蠱惑したせいで、国のあちこちが悪神の被害を受けた。彼女が身を挺さなかったら、今の孔雀の国はなかった……」【荒】 「つまり彼女が女王の座を手に入れたのは、「長老」たちを蹴り落としたからか?」一同が何も言わないでいると、茶店の片隅からとある女性が出て行った。女性が路地に向かっていると、空から降りてきた者が彼女の行手を塞いだ。女性は銀針を取り出し、攻撃を仕掛けたが防がれた。【須佐之男】 「君が女王の手先だということはわかっている。女王に今日の無礼を詫びておいてくれ。他人の口からは言えないこともあるかもしれない。なら直接当事者に聞けばいい、そうだろう?」【舞姫】 「誤解です。お二人に事実を知られたくないのではなく、これ以上聞くに堪えなかっただけです。」女性の声はかすれていた。【舞姫】 「孔雀の国は古来悪神を祀り、婚姻を結んできました。女王は長老たちが悪神に捧げる生贄だったのです。しかし民は長老たちに騙され、悪神の悪行を、鳳凰様に押し付けたのです。今の孔雀明王は、先代の女王鳳凰様の妹なんです。先代の女王は神宮に行き、悪神と婚姻を結びました。その後悪神は牙を剥き、災いをもたらしました。長老たちは責任を先代女王に負わせ、それを隠蔽するために、当時王女だった孔雀明王を下僕して監禁しようとしました。孔雀明王は当時お若かったにも関わらず、しっかりとした考えをお持ちでした。長老に屈したと見せかけて、舞姫を集めました。数年後、貴族の舞踊団を率いて、名を全国に轟かせるようになりました。彼女が戻った日、どうやって悪神の機嫌をとるかについて悩んでいた長老たちは、早速彼女を召喚しました。」【荒】 「彼女が率いていた舞姫は、本物の舞姫ではないのか?」【舞姫】 「私もその中の一人でした。」彼女は面紗を取って、首の傷痕を見せた。【舞姫】 「私は女王様の護衛でした。長老たちは私を奴隷として売り、余計な問題が起きないよう、私の喉を潰したのですが、女王様が私を助けてくれました。その後、女王様は私たちを連れて舞台に立ちました。仇に舞を見せている最中に、私たちは女王様の命令に従い、共に戦って仇を取りました。私は針で彼らの喉を潰しました。四肢の経脈が断たれるまで、悲鳴をあげられた者はいませんでした。」舞姫は微笑むと、突然二人に向かって毒針を飛ばした。毒針は空中で紫色の煙になった。煙が散った時、彼女はもう屋根の上にいた。【舞姫】 「悪神を封印しにきたのであれば、自分で答えを探せと女王様は仰っていました。」そう言い終わると、彼女は姿を消した。【荒】 「孔雀明王、思ったより一筋縄ではいかないな。」町から離れた砂漠で、二人はやっと廃れた色欲悪神の宮殿を見つけた。荒が星で内部を照らした。真ん中にあったのは、悪神の一人、迦摩天の石像だった。周囲には迦摩天の偉業を讃える壁書きがある。須佐之男が天羽々斬を召喚して、悪神の痕跡を探る。宙に浮かび前後に回転する剣は、反応がないわけではないが、戸惑っているように見える。【須佐之男】 「ここに来た時からそうだ。わずかに悪神の気配があって、天羽々斬も何度も反応しているが、源がわからない。色欲の神の本体は蠍で、砂嵐を操る力を持つ。この砂漠の世界と一体化していると言っても過言ではない。砂に隠れているとしたら、孔雀明王がやつを見つけられないのも納得だ。」【荒】 「そういうことなら、宮殿の砂を媒介にすれば、星海で悪神について何か手がかりを得られるかもしれない。」荒が星海の幻境を召喚して宮殿を覆った。悪神の神像と壁書きが海水に映り、流光になった。しばらくして、悪神の宮殿での出来事が映し出された……【迦摩天】 「汝か。」【神堕オロチ】 「千年ぶりでも一目で分かるとは、嬉しいものだな。」【迦摩天】 「汝は変わっていないな、どんな手を使って封印を破ったのやら。ここに来たということは、他の悪神のところにも?」【神堕オロチ】 「謙遜することはない。お前が一人目かもしれないぞ?」【迦摩天】 「……はははは!本当に相変わらずだな。悪神に会うたびに同じことを言っているんじゃないだろうな?まあいい、吾が何人目だろうが、協力者が何人いようが、お前の話に乗るつもりはない。あの世界は吾を捨てた。故に吾も躊躇なくその世界を捨てることができる。この世界での吾は、孔雀の国に祀られる神、災いをもたらす悪神。吾こそがここの支配者、万物の源。蛇神よ、昔のよしみに免じて、ここから出る手助けをしよう。しかし今回は、汝についていくことはない。」【神堕オロチ】 「面白い。新しい牢獄に長い間閉じ込められて、愛着が湧いてきたわけか。」【迦摩天】 「吾の気は変わらない。」【神堕オロチ】 「確かにお前は変わった。神獄を脱獄する時、お前たちは何でも言うことを聞いてくれたのに、今は皆、自分の考えがある。あの時と違って……お前には妻もいるしな。」それを聞いた色欲の神は、面白い冗談を聞いたように大いに笑った。【迦摩天】 「蛇神、長い間牢獄に閉じ込められて忘れてしまったかもしれないが、吾は色欲を司る迦摩天、妻などただの食料に過ぎない……」【神堕オロチ】 「ならば、この地に拘る理由はなんだ?まさか千年の時を経て、色欲の神であるお前が……美色に蠱惑されたとでも?」それを聞いた色欲の神が一瞬の隙を見せた。それと同時に、ヤマタノオロチが彼に呪いの烙印を押した。悪神は逃れようとしたが、ヤマタノオロチが変身した蛇が大口を開け、一気に彼を呑み込んだ。ヤマタノオロチが人の姿に戻ると、悪神の姿は消えていた。【神堕オロチ】 「実に残念だ。しかし、世界の霊脈と繋がった悪神か。お気に入りの世界と共に、我が新世界の餌食になるがいい。」映像が急に途切れた。【荒】 「これで、悪神の行方がわかったな。早く対処しないと、この世界が崩壊するのも、時間の問題だ。」——孔雀明王の宮殿 荒と須佐之男が孔雀明王の謁見を受けた。二人は悪神の行方の調査結果と、ヤマタノオロチのことを話した。【孔雀明王】 「そういうことなら、悪神が行方不明になったにも関わらず、我が国の霊力が吸われ続けていたのも頷ける。ふん、勝てば官軍負ければ賊軍。ヤマタノオロチは今どこに?」【荒】 「時空の隙間にいる。」【孔雀明王】 「悪神がいなくなってから、私は緑の大地を取り戻すために、災いと疫病を鎮めてきた。災いは終わらせることができ、疫病は治療することができるけれど。子供が生まれないことだけは、どうしようもできなかった。色欲の神、皮肉なものね。やつが残した呪いなのか、それとも……」最後の言葉は彼女にしか聞こえなかった。しばらくして、彼女は微笑んだ。【孔雀明王】 「二人が全てを打ち明けてくれた以上、私も腹を割って話すわ。二人が悪神を見つけてくれたら、私は必ずやつを葬り、霊脈を元に戻し、孔雀の国の息を吹き返してみせる。この孔雀明王できることがあれば、なんなりと。」【荒】 「ならば祈祷の舞を頼みたい。千年の眠りについた太陽の女神、天照様を呼び起こすために。」——数ヶ月後、虚無の海の奥深く【荒】 「星海から得た情報によると、ヤマタノオロチはこの海域に潜んでいるらしい。もともとは月海へ逃げるかと推測していた。我が師月読が復活した後、ヤマタノオロチは同じやり口で、蛇魔に意識を移して月海に現れた。しかし、月読は彼を拒否した。先生は…過去の執念を捨てたようだ。」【須佐之男】 「堕落の神力が濃くなっている。ここに潜むヤマタノオロチは、逃げられないほどの重傷を負ってるはずだ。真実がどうなのか、彼を見つけて確かめよう。」須佐之男が風雷を召喚して虚無の海を割った。荒が星々を召喚する。無数の目が押し寄せてくるようだ。星の夜に雷鳴が轟き、闇に包まれていた死の海を何度も照らした。【荒】 「さっきから、ヤマタノオロチの気配の源に変化はない。彼はすぐそこにいる。畳み掛ければ……」【須佐之男】 「気をつけろ。」雷光に照らされた海に波が起こり、静かだった死の海に鱗が光る。突然、光る鱗が海から飛び出すと、漆黒の巨蛇が現れ、二人に襲いかかった。咄嗟に須佐之男が雷槍を持って、その場に結界を張る。【須佐之男】 「荒、下がれ!」【荒】 「後ろにも蛇魔がいる、囲まれたか。」【須佐之男】 「あれはヤマタノオロチの蛇魔ではない。」巨蛇は稲妻に沿って上ると、稲妻を呑み込んでしまった。その全身が雷光を纏い、須佐之男の鎧に似た光を放つ。須佐之男が正面から巨蛇の首を切り裂くと、蛇の体が海に落ちた。しばしの静寂の後、海から無数の蛇尾が伸びてきて、二人を後方から襲おうとしたが、星々と雷電に打ち砕かれた。海から湧き出る蛇魔が後を絶たないのを見て、二人は光を消した。雷鳴がおさまり、星々が消えていく。蛇の群れは躊躇いを見せ、しばらく徘徊した後、海に戻っていった。【須佐之男】 「やつらは命を取りにきたのではなく、光が嫌いなだけか。光が嫌なら、何故自分の中に取り込む?」【荒】 「蛇魔の目的はさておき、この海にいる限り、虚無の力は無尽蔵だ。やつらを徹底的に倒すことはできない。しかし君の言う通りだ。あれはヤマタノオロチの蛇魔ではない。さっき、ヤマタノオロチの気配が全盛期よりもさらに数倍強くなった瞬間があった。その後…彼の気配がこの海域から完全に消えた。」二人は虚無の海を去った。【須佐之男】 「案ずるな、手掛かりはある。巨蛇に襲われた時、蛇の腹部に変な印があった。何の印か知ってるか?」須佐之男が雷で印の模様を作った。【荒】 「これは……ヤマタノオロチが色欲の神に打ち込んだ烙印か?千年間見聞を広げてきたが、似たような印は見たことがない。」【須佐之男】 「俺は見たことがある。」【荒】 「ほう?」【須佐之男】 「天羽々斬に封印されていた五人の悪神の体にあった印だ。まるで所有権を見せつけられているようだった。しかし千年前、彼らの身にあんなものはなかった。あれを残したのが蛇魔の主だとしたら……」【荒】 「どうやら、相手は始祖級の至高神のようだな。」【須佐之男】 「虚無の海の至高神……」そう言うと、須佐之男は漆黒の海を眺めて考え込んだが、それ以上何も言わなかった。都に戻った荒は、晴明を訪ねた。その後すぐ、祈神の儀が始まり、異国の舞姫孔雀明王が舞台に上がった。孔雀明王が裸足で身を支え、時に回転し、時に俯く。そして力を抜かれたかのように目を細め、展開していた尾羽がゆっくりと垂れていく。心を躍らせた一曲が終わり、観客席から雷鳴のような拍手が湧き上がった。晴明は舞台裏で待っていた。舞台から降りてきた孔雀明王と目が合う。【孔雀明王】 「話は彼らから聞いたようね、あなたと二人で話したいことがあるわ。」——その頃、遥か彼方の虚無の海【????】 「世間の万物は、それぞれ異なる姿で生まれながらも、互いに惹かれ合う。」【伊邪那美】 「水を泳ぐ魚は空を飛ぶ鳥を眺め、鳥は蝶になる夢を見る。形のある身体、形のない魂、執着する必要などない。」【神堕オロチ】 「これぞ歌舞の素晴らしいところだ。人が創造した歌舞で、人は鳥にも、遊魚にもなれる。時には人間から神になったり、妖怪になったり。まるで夢のようだ。これが人の世の醍醐味、私が夢中になる所以。」【伊邪那美】 「あなたはそんな夢を欲しているのか?」【神堕オロチ】 「人にとって、神は手の届かない存在、まさに夢のようなもの。きっと夢の中で、あなたになった者もいるだろう。」【伊邪那美】 「しかし私から破滅の力を手に入れた者はいない。たとえ一瞬でもな。」【神堕オロチ】 「もちろんそれは不可能だ。破滅の女神は唯一無二、完璧な存在なのだから。たとえ嘘の夢の中でも、あなたから何一つ奪うことはできない。ただの拙劣な真似事に過ぎない。しかし夢にも色んな形がある……自分の手で罪の果実をもぎとるほど、素晴らしいことはないだろう?」 |
参
参ストーリー |
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——都の中心【小白】 「セイメイ様!見てください、あそこはとても賑やかですね!」近くの屋台には長蛇の列ができている。縁結神の屋台だ。【縁結神】 「あれ?やっとの思いで手に入れた霊語の絵本が見つからぬ。それに、春惜の国の花の種はどこじゃ?」忙しなく動き回る縁結神は、荷物に頭を突っ込んで、全部屋台の上にぶちまけたい気分だった。一方、隣で縁結神の手伝いをする御饌津は余裕綽々で商品を梱包している。【御饌津】 「急がず、順番を守ってください。皆様ご希望の品物をご購入いただけます。」ついに目当てのものを見つけ出した縁結神はそれを高く掲げ、今まで以上の勢いで客を集めている。【縁結神】 「よってらっしゃいみてらっしゃい、これは香行域の特別な香炉じゃ。精神を落ち着かせる効果……ではなく、見たい夢を見ることができるのじゃ!決して損はさせぬぞ。どれもここでしか買えぬ特別な品物じゃ!四人の舞姫様の紙人形もあるぞ。これは今日しか買えぬ特別記念品じゃ。」【藤原陰陽師】 「うーん……見たことのないものばかりだな。最近懐が寒いけど、一つだけなら……」【賀茂の陰陽師】 「冷やかしならさっさとどいてくれ、他の人が待っている。」【縁結神】 「みなさん……わあ、危ないのう、屋台にぶつかるところじゃった……」誰かに見られていることに気づいた御饌津が顔を上げると、晴明の姿が目に入った。【御饌津】 「晴明様?何かお探しですか?縁結神に言って一つ取っておきましょうか。」【晴明】 「ありがとう、だが大丈夫だ。他の場所に比べてとても賑やかだから、ちょっと寄ってみたんだ。売上は順調に伸びているようだな。」【御饌津】 「ええ、四人の舞姫様が舞台に上がった後、様子を見に来た陰陽師たちが増えたので、商売も繁盛します。」【??】 「これ、これ、あとこれも……ああもう、全部買いますから、まとめて包んでください。」【縁結神】 「はいはい!少々お待ちを、今すぐお包みします。」【小白】 「太っ腹な異国のお客様ですね。孔雀明王様関連の商品を、一つ残さず買うなんて。」その時、異国の女性は晴明一同に気づいたようで、そのまま近寄ってきてお辞儀をした。【翠】 「晴明様ですよね?私は孔雀明王様に仕える護衛、翠と申します。実は晴明様を探しに来ました。こほん……ですがどこを探しても見つけられなかったので、ここに来てみたのです。」【晴明】 「そうか。私の何の用だろう?」【翠】 「女王様は、相談したいことがあると仰っていました。私と一緒に来ていただけませんか?あ、そうそう、女王様はできれば二人きりでお会いしたいとも仰っていました。」【晴明】 「……そういうことなら、小白、須佐之男様たちと一緒に結界の見回りに行ってくれ。」【小白】 「セイメイ様……」【晴明】 「心配するな、すぐ戻ってくる。」【小白】 「はい……」【晴明】 「一つ聞きたい。孔雀の国から平安京にお越しになった後、孔雀明王様の体調はいかがだろうか。ここ数日は一歩も外に出られなかったと聞いたが。」【翠】 「包み隠さずお話しすると、近頃女王様は精神的に疲れていらして、我々も心配しているのです。女王様のような偉大な方は、もう二度と孔雀の国に現れないかもしれません。ですから私は、どんなに些細なことであっても見逃すわけにはいきません……今日晴明様を探していたのも、女王様がこの地で邪気に侵されてしまったのではないか、確かめたかったからです。」【晴明】 「女王様は誘いに応じて来てくださった。我々も全力でお守りしよう。」【翠】 「では晴明様、どうぞ中へお入りください。私はここで女王様のお呼びを待ちます。」中に入ると、晴明は真っ先に、部屋中にいい香りが漂っていることに気がついた。垂れ下がる帷越しに、美しい女性の人影がぼんやりと見えている。しかし美しい人影とは裏腹に、ちょきちょきとよく響く鋭い鋏の音が聞こえる。晴明は帷の前で足を止めた。【晴明】 「孔雀明王様、ご体調が優れないと聞いたが、何かお手伝いできることはないだろうか。」【孔雀明王】 「ふふ……」鈴を転がすような声が聞こえると、孔雀明王は帷の中から華奢な手を伸ばし、砂漠の花を晴明に見せた。【晴明】 「これ……は?」晴明が花を受け取る。【孔雀明王】 「これは孔雀の国から持ってきた砂漠の花。水の少ない砂漠にしか生えない、健気に咲く花よ。」突然吹き出した風が帷を押し開けた。鋏を持つ孔雀明王の姿が目に入る。彼女の笑顔は砂漠の薔薇のようにとても美しい。しかし鋭い鋏に、思わず恐怖を感じる。【晴明】 「……ありがとうございます。」適当に机上に鋏を置くと、孔雀明王は耳にかかっていた髪をまとめ直した。【孔雀明王】 「でもね……健気に咲くだけじゃないの。綺麗だけれど、この花は死に至る猛毒を隠している。」【晴明】 「……!」【孔雀明王】 「心配しないで、毒を持つ棘はさっき全部剪定したから。晴明様に贈るものだもの。」【晴明】 「女王様がお呼びだと聞いたが、用件は何だ?」【孔雀明王】 「用件?それはね、晴明様に「教えてほしい」ことがあるの。この前、平安京に来るよう誘ってくれた時、必ず身の安全を守ると約束してくれたでしょう。でも今、私は見ての通り、邪気に侵されているの。」羽衣を脱ぐと、孔雀明王の鎖骨の下方には、汚れた邪気が漂っていた。【孔雀明王】 「晴明様は、どうやって私に償うべきかしら?」晴明は落ち着いた様子で呪文を唱え、霊符を燃やした。すると霊符は数多くの呪言となり、孔雀明王のほうに飛んでいった。【晴明】 「孔雀明王様、不躾だが、あなたも隠している事があるはずだ。そもそも孔雀明王様の満開の舞は厄払いの力を備えている。並の邪気では、御身に近づくことすらできないだろう。つまりその邪気は、おそらく平安京のものではなく、むしろ……御身によるものだろう。」【孔雀明王】 「晴明様は、私が邪悪だと言いたいのかしら?」【晴明】 「そういうわけではない。孔雀明王様が罹った、邪心の火こそが悪なのだ。おそらくそれは孔雀明王様が自分にかけた呪いだろう。未解消の執念、執念の蟠りは往々にして人を惑わす魔になるものだ。」【孔雀明王】 「……さすがは平安京一の陰陽師。ならば私と一つ、賭けをしましょう!私の心の魔を見つけてくれたら、一つだけ願いを叶えてあげる。できなければ、残念だけど、祈祷の舞は延期せざるを得ないかもしれない。どうかしら?晴明様、平安京の守護者のあなたなら、この程度の試練は朝飯前でしょう。」【晴明】 「先程言った通り、何があろうと必ず御身を、孔雀明王様の身の安全をお守りしよう。あなたの要望であれば、もちろん引き受ける。とはいえ邪心の火はすぐ解決できるものではない。もし可能なら、いつも持ち歩いているものを一つ貸してくれないか。術を使うのに必要なんだ。」【孔雀明王】 「そんな面倒なことはいいのよ、晴明様。」孔雀明王は晴明に向かって手を差し伸べた。返事の代わりに頷いたあと、晴明は礼儀正しく孔雀明王の手を掴んだ。孔雀明王の手に触れた瞬間、骨まで凍えそうな寒さが伝わってきた。」【晴明】 「ずっと邪心の火に対抗していたようだな。しかしこのまま消耗し続ければ、じきに邪心の火の悪影響を受けてしまう。」【孔雀明王】 「本当に……あなたに隠し事はできないわね、晴明様。」孔雀明王はようやく少し気が楽になったようだ。彼女の体に、いくつもの恐ろしい傷跡が浮かび上がってきた。鎖骨の下にある恐ろしい傷跡が、一番目立っている。【晴明】 「……!」【孔雀明王】 「どこを見ているの?晴明様。 」【晴明】 「すまない、私は……」急に目眩に襲われたせいで、晴明は目がかすみ、女王の顔もはっきり見えなくなってきた。 【孔雀明王】 「あ、そうだ、言い忘れていたわ。砂漠の花の毒の棘は剪定したけれど、催眠効果を持つ花粉を取り除くのを忘れたみたい。でも心配いらないわ……」孔雀明王がふらつく晴明を支える。【孔雀明王】 「疲れが溜まっているあなたへの、贈り物だと思って。」晴明は術で体に入り込んだ花粉を取り除きたかったが、いかんせん体に力が入らない。【孔雀明王】 「最初から、安神香は効用を発揮し続けているのよ……」孔雀明王が晴明の顔を優しくなでる。きっといい夢が見れる……何もわからない中、ふと目覚めた晴明は、細長くて暗い洞窟の中にいた。【晴明】 「さっきまで孔雀明王と話していて、うっかり彼女の策にはまったが、ここは彼女が作り出した幻境なのか、それとも……とりあえず、彼女の心の魔を探してみよう。」洞窟の奥にわずかな光が見える。そこからかすかに鼻歌が聞こえてくる。光を抜けた晴明は、ある宮殿に足を踏み入れた。広々とした客間に月明かりが降り注いでいる。純白の羽衣をまとった鳳凰が月明かりを浴びながら、もう一人の小柄な孔雀に手取り足取り舞を教えている。回り翻る衣、月明かりを浴びたきらびやかな羽衣は光を反射していて、きらきらと光っている。【白】 「青、少し休まない?もうずっと練習しているわ。その足……きっと痛いでしょう。 」【青】 「大丈夫!全然痛くない。今日はせっかく姉様が舞の練習に付き合ってくれてるから、もう少し練習したい。もう少しだけ……」【白】 「舞の練習に打ち込むだけの青より、私はこうして甘える青のほうがいいと思うけれど。 」【青】 「満開の舞を習得できれば、姉様と、皆と同じ尾羽が生えてくるかもしれない。」言っているうちに、青の表情が少し暗くなってきた。この時ようやくはっきりと見えた。彼女は尾羽が不完全で、足が歪な形をしている。 【白】 「尾羽が生えてこなくてもいいじゃない。あなたが私の一番可愛い妹であることには変わりないんだから。」白は青の頬をつまむと、無理やり彼女の口角を上げた。【白】 「ほら、可愛い。」【青】 「またからかって!」【白】 「からかったんじゃないよ、私は元気いっぱいの青が見たいだけ。」白は青に柔らかい羽衣を羽織らせた。【白】 「これは私の尾羽で紡いだ孔雀羽衣よ、着てみて。これで、あなたも綺麗な孔雀舞が踊れる。いつも本を読むばっかりじゃなくて、たまには外に出てみんなと遊んでね。みんな、きっと青を受け入れてくれるよ。」【青】 「姉様…… 」【白】 「あなたが頑張っているのは知ってる。私がいなくても、一度も練習を怠らなかった。満開の舞に宿る力がきっと治してくれるよ、きっとね……」それを聞いた青は俯いて、長い間考えに耽った。そして着ていた羽衣を脱ぎ、綺麗に畳んだ。【青】 「姉様の羽衣は一時的に私の劣等感をごまかせるかもしれない。でも現実は何も変わらない。 姉様、私は守られるだけの孔雀にはなりたくない。姉様にできることは、私にもできるはず。いつか私も姉様のように、眩しい綺麗な姿で皆の前に現れる。その時、私は姉様の側で、姉様を守る資格を手に入れる。」白は優しく青を抱きしめ、彼女の額に口づけした。【大長老】 「白の女王様、祈りの時間です、どうぞこちらへ。」【白】 「青、あなたもそろそろ休みなさい。眠れなかったら書庫で本を読めばいい。私を待たなくていいから。」月の初めはいつも、白の女王は長老に導かれて、謎の祈りの儀式に参加する。儀式の詳細は、白の女王と長老を除けば、誰も知らない。儀式が終わったあと、白の女王は毎回疲れ切った様子で帰ってくる。青は姉様にどんな儀式なのか聞いたが、女王は何も言わずにただ眉をひそめ、珍しく不愉快そうな顔を見せた。【大長老】 「王女様、あれは聖なる儀式、神への献身でございます。女王は少しお疲れなだけ、なにも心配いりません。」【青】 「でも……」【大長老】 「足と尾羽の病を治すことだけを、姉上のように美しい舞を踊ることだけを考えていてください。その他のことは考えなくてもいいのです。」姉を待つ夜、青はいつも地下書庫に来る。書庫の隅っこには、彼女だけの特等席がある。彼女は本の世界に浸り、古の象形文字が描き出す孔雀の国に夢中になる。本を通じて、彼女は孔雀の国の成り立ちを知っていく—— 「千年前、ここは荒れ果てた、砂に覆われた大地だった。砂を追い払った孔雀神は、種を植え、緑地をもたらした。」 「この緑地こそが最初の孔雀の国である。孔雀の国の人々は舞が得意で、舞の不思議な力で厄を払うことができた。」 「しかし、孔雀神が亡くなったあと、すべては変わった。孔雀神の死を境に、緑は砂嵐に侵され、何も芽生えなくなった。」 「それ以来、文明は衰退の一途をたどり、孔雀の国の霊力も減り続けていた。緑地を奪われ、人々は存続の危機にさらされていた。」 「その後——新たな神が降臨し、婚姻の契約を結んだ。おかげで侵食の速度はようやく少し落ちた。」 「かろうじて残ったいくつかの壊れた遺跡や遺物だけが、あの時代を証明している。」 「白の女王は過去の文献や遺物の修復に心血を注いでいるが、孔雀の国が繁栄を極めた時代を取り戻すことはできないだろう。」【青】 「本の記録を除けば、私は夢の中でしか繁栄を極めた孔雀の国を見たことがない。あの時代には、一体どんな美しい景色が広がっていたの?孔雀神って、一体どんな人なんだろう?孔雀神は孔雀の国のために全力を尽くし、一生をかけて無限に湧いてくる砂嵐に抗い続け、やがて力尽きて亡くなったと本には書かれている。私も孔雀神のような、偉大な英雄になれるかな……ううん、やっぱり無理。孔雀神はきっと凛々しくて、綺麗な尾羽を持つすごい孔雀だもん。私とは全然違う……こんな願い、もし人に知られたら、きっと馬鹿にされる……長老が言ってたみたいに……足と尾羽の病を治して、美しい舞を踊るべきなんだ……そろそろ帰ろう、もっと現実的なことを考えないと。」青は杖を取り、高い椅子から降りようとする。しかし急に椅子が揺れたせいで、彼女は転げ落ちてしまった。膝に激痛が走る。高い椅子はよく揺れるから、青は椅子の下に紙切れを敷いておいた。しかし確認してみると、紙切れはすでに消えていた。だからさっき、椅子は急に揺れたのだった。【晴明】 「大丈夫か……?」隣で一部始終を見ていた晴明は、思わず女の子に手を差し伸べた。女の子は顔を上げて、変な服を着た男を観察する。【青】 「あなたは……もしかして、書庫のお化け?」【晴明】 「お化け?」【青】 「うん!姉様が言ってたの。書庫の古文書には、命と霊力が宿ってるって。だから、あなたはきっと、古文書のお化け。だって変な服を着ているもの。それは繁栄を極めた時代の装いかしら?」【晴明】 「繁栄を極めた時代?何だそれは……」【青】 「私にもわからない、でもあなたを知っているような気がする。」女の子を立たせると、包帯をぐるぐるに巻いた女の子の脚からは血が滲んでいた。晴明の視線に気づいた女の子は、血がついた脚を不格好な尾羽の中に隠した。【晴明】 「靴はどうした?血が出ているうえに、裸足で冷たい石床を歩くなんて。」【青】 「靴は……誰かに隠されたんだと思う。私が使うものはいつも隠されるの。でも、もう慣れたから…… もちろん、あなたみたいな書庫のお化けに隠された可能性もあるよ。隠す理由は、そうだなぁ、私の注意を引きたいんじゃないかな。」【晴明】 「私の靴は少し大きすぎるかもしれないが、とりあえず履いてくれ。」【青】 「大丈夫……冷たい床を歩く時だけ、感覚の鈍い脚でも感じることができるの。その時だけは、床の存在を感じることができる。」青は晴明の手を開くと、指で何か書いた。すると、晴明の手のひらには見たことのない金色の文字が出現した。【晴明】 「これは……?」【青】 「私の名前で、青って読むの。芽生える草木の活力を示す色だよ。友達になれて嬉しい。」【晴明】 「……私もだ。」そう言った瞬間、急に地面が激しく揺れ出した。本棚が倒れ、ものすごい数の本が立て続けに地面に落ちる。その揺れは、世の終わりかと思えるほど激しい。【晴明】 「危ない!!」晴明は青を庇い、呪文を唱えたが、その時彼は陰陽道が使えないことに気づかされた。時を同じくして、地面に裂け目が出現した。裂け目はどんどん大きくなり、書庫は丸ごと裂け目に呑み込まれた。逃げ場のない晴明と青は、一緒に深淵に墜ちた。 |
肆
肆ストーリー |
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目を開けると、晴明は泉の中にいた。周囲の水には怪しい赤い花が漂っている。女の子が隣でしゃがみ込み、彼を見つめている。 【青】 「気がついた?お化けさん。 」【晴明】 (ここは……さっきの書庫と同じ気配を感じるが、書庫よりもさらにおかしい。まさかここは、孔雀明王が用意した幻境なのか?)その時、遠くに砂嵐が出現した。荒ぶる砂嵐が通り抜けると、世界の境目が崩壊し始めた。 【青】 「やっぱり追ってきた!お化けさん、一緒に逃げよう。 」【晴明】 「誰が追ってきたんだ? 」【青】 「あの中には、彼女が一番恐れている真相が隠されてるの。 」女の子は有無を言わさず晴明の手を掴み、共に蛍の光を反射している泉に落ちた。泉に落ちたあと、しばらく静けさが続いた。晴明の耳元で、ある優しそうな女性の声が響く。【孔雀明王】 「私は十分強くなって、彼女の側にいてあげたい。でも不完全な体が治った時、この日を迎えた時、私は導き、光を照らしてくれる星を失ってしまった。愛する姉様は色欲の神に嫁ぎ、神を惑わし、国家に反旗を翻す災いの女王になった。そして私も王女ではなくなり、悲しみと怒りを隠して、貴族に仕える舞姫になった。」——長老の議事堂【大長老】 「色欲の神は何度も孔雀の国に攻めてきた。女王の務めを果たせなかった、色欲の神を喜ばせなかったお前の姉のせいだ。今までの女王は皆、務めを果たしてきたというのに。お前の行いではないが、神を惑わし国を裏切った白の女王は、民の怒りを買ったのだ。悪く思うな、襲撃を受けて家族を失った民を慰めるにはこうするしかないのだ。」【青】 「長老の皆様の慈悲深さには、心から感謝しております。白の女王は私の家族ですが、国を裏切った罪は許されません。姉の代わりに罪を償いたいと思います。長老のために舞姫たちを集めておきました。今こそ練習の成果を見せる時です。近いうちに旅の準備を済ませ、色欲の神に舞を捧げるつもりです。必ずや色欲の神のお考えを変え、孔雀の国を守っていただきます。」【大長老】 「姉よりも分別があるようだな。そうだ、お前は知らないかもしれないが、こんなこともあった。先日、あちこちで征税の車隊を襲う盗賊が現れた。おかげで甚大な被害が出た。なにやら……お前に仕えていた侍女がその盗賊と関わりがあるらしく、その女を逮捕して尋問している。何か知らないか?」【青】 「初耳です。もし本当に罪を犯したのなら、厳しく罰せられても仕方ありません。」【大長老】 「一応信じてやろう。お前が集めた舞姫たちが、本当に役立つことを期待している。期待を裏切るようなら、例え本当にお前とは無関係だとしても、もう誰も信じないだろう。」【青】 「お言葉を肝に銘じてまいります。」——孔雀の国の町 議事堂を離れたあと、青は顔に薄い布をつけ、町中に入った。【孔雀の国の平民】 「畑がいよいよ収穫だって時に、色欲の神の砂嵐のせいで台無しにされちまった。このままだと庇護税が払えないぞ。」【孔雀の国の舞姫】 「もう、そんな話もういいよ。うちが飼っていた家畜だって、空に飛ばされて、ずたずたに切り裂かれた。仕方ないのよ。白の女王が神を惑わし、孔雀の国に災いをもたらすように焚き付けたから、こんなことになった。」【孔雀の国の平民】 「その妹は巻き添えを食らい、貴族に奉仕する舞姫になったらしいぞ、いい気味だ。もしあいつに会ったら、絶対酷い目に遭わせてやる……」【孔雀の国の舞姫】 「ただでさえ緑地は侵食されていて、日に日に生活が厳しくなっていくのに、お金を捻出して庇護税を払わなければならないなんて。しかも払えなければ娘は連れ去られる。もう、本当にどうしたらいいのか。」【孔雀の国の平民】 「本当にお金が払えないなら、翠さんに頼んでみろ。娘を大切にな、連れ去られたが最後、二度と戻ってこないぞ。」【青】 「庇護税……」青が小声で呟く。【青】 「どうせ長老たちが考え出した新しいやり口でしょう。もし貴族に税金を払うことで本当に守ってもらえるなら、孔雀の国が度重なる災いに襲われることはないはずでしょう?本当に狂ってる。」【??】 「この祝福の首飾りはいくら?」【青】 「たくさん種類があるから、もしよければ場所を変えましょう。」青と共に誰もいない場所に移動すると、その客は顔を隠していた帽子をとった。」【翠】 「あなたの侍女のこと、本当にごめんなさい。彼女は連中に捕まってしまった。」【青】 「その話ならもう知ってる、あまり自分を責めないで。でも予想外のことが起きた今、早めに計画を進めるべきかもしれない。その時になったら、手伝ってほしいの。私が宴で混乱を引き起こしたあと、隙を見て彼女を助けて。」【翠】 「わかった!でも……青、姉を助けたい気持ちは分かるけど、一度計画を実行したが最後、もう後戻りはできないよ。覚悟は決めた?」【青】 「翠、今の私は何も持っていない。だから失うことも怖くない。私が賭けられるものは、自分の未来だけだから。それと交換に、私が望む変化を掴み取ってみせる。孔雀の国は代々色欲の神に女王を捧げて講和してきた。これが唯一の方法だなんて、断言できるの?私たちはしきたりに縛られ続けてきた。でも、変われない理由はないでしょう?幼い頃の私は、自分が世界を変えられるなんて信じられなかった。でも今は、私はそう信じてるし、信じなければならない。あなたが心配なら、このまま手を引いてもいい。私がすべての罪を引き受ける、あなたに迷惑はかけない。」【翠】 「怖いから聞いたわけじゃないの。家族を失い、人生のどん底に突き落とされ、重罪を犯して長老から賞金をかけられた私を……あなたは匿ってくれて、兵士たちをごまかしてくれた。そのあと、征税の車隊を襲う方法まで考えてくれた。あなたの言った通りに、奪ったお金は貧しい人々に分け与えた。例え皆によく思われていなくても、あなたは縁の下の力持ちに徹して皆を助けてる。私にとっては、あなたは本当の英雄なの。そして同時に私の……友人でもある。計画を実行したらもう引き返せない。悪辣な貴族を相手にすると同時に、強くて正体不明の色欲の神に抗うなんて、奇跡が起きない限り……あなたのことが、心配で仕方ないの。」【青】 「知ってる?以前の私は化け物と呼ばれていたの。でもくだらない噂を乗り越えて、私はこうしてここにいる。今更、昔の自分よりも臆病になるはずないでしょう?」翠は黙り込み、微苦笑を浮かべて青を見つめている。【翠】 「約束して、無事に戻ってくるって。」【青】 「……うん!」——宴の会場 雷雨の夜、青は舞姫たちを連れて舞台に上がり、長老たちに舞を捧げた。鳴り交わす雷鳴と音楽に合わせ、青は羽衣をなびかせてぐるぐると回転している。動きの一つ一つがとても美しい。しかし青の目には、度肝を抜かれた人々が映っている。【青】 「雷鳴の嘆きと鎮魂の舞に溺れなさい。あなたたちの死は孔雀の国に未来をもたらす。」羽を広げる孔雀のように、回転し続ける青は羽衣の下に隠していた毒針を放つ。さっきまで舞を楽しんでた長老たちは、例外なく悲鳴をあげて逃げ回る。【青】 「あなたたちの屍は、人々が未来に向かう道を築く。叫ぶがいい、怒るがいい!雨はすべてを洗い流す。夜明けの時、孔雀の国は新たな太陽を迎える。そしてあなたたちは、一人残らず闇夜の中に葬られる。」足掻けば足掻くほど、毒が早く回る。偉そうにしていた長老たちは今、見苦しい姿で青の足元にひれ伏している。空を切り裂く稲妻が、窓を通して宮殿を明るく照らした。青は片時も舞をやめなかった。狂ったように踊り続ける中、血しぶきが彼女の衣の裾を赤く染める。彼女は血の宴に狂い咲きする砂漠の花のようにも見える。【翠】 「青!」翠は閉ざされていた扉をこじ開け、中に入った。【翠】 「青!そろそろ行かなきゃ!天窓を利用して脱出した者がいる。衛兵が向かっているから、ここはもうすぐ囲まれる!」青の耳には届かない。舞い踊る彼女は孔雀の炎を起こした。復讐の炎はあちこちに転がる「薪」をのみ込み、激しく燃え盛っていく。燃え盛る炎が青と翠を隔てる。青は自ら炎の奥へと入っていく。【翠】 「青!何をするつもり!?」【青】 「翠、あなたも知っているでしょう。長老の勢力を根絶やしにすることはできない。殺戮の罪を背負う者がいる。でなければ、この件は収まらない。あなたたちを巻き込む訳にはいかない。だから一番適切なのは、私。あなたの知っている青は、殺戮の罪を犯した舞姫は、今夜ここで死ななければならない。」青は燃える松明を拾い、翠に背を向けると、自分の顔にそれを押し当てた。【翠】 「やめて!青——!」鳴り響く叫び声が、晴明を呼び起こした。さっき見たすべては幻のように消え去ったものの、未だにかすかに焦げた匂いが漂っている。 ——その頃、平安京【小白】 「油揚げは本当に美味しいですね。でもこれ以上食べるわけには……」【神楽】 「小白も宴の秩序を守ったらどうかな。ついでに舞姫様たちに、お手伝いできることはないか聞いてみて。」小白が周囲を見渡すと、舞台の近くに猫の腹を撫でる緊那羅がいた。猫は満足したようにごろごろと喉を鳴らす。【小白】 「緊那羅様、ようやく見つけました!あれ?何方の猫でしょう、顔が変ですね。まるで煤がついているみたいです。」【ニャンニャン】 「煤だと?無礼者、変なのはそっちだ。」【小白】 「さっき美味しい油揚げを食べて気分がいいので、今回だけは特別に許してあげましょう。でも次は許しませんよ!」【ニャンニャン】 「お嬢さん、なでなでが上手ですね。そうそう、そこです、もう少しなでなでしてください。」目の前の猫は頭を下げ、緊那羅の手にすりすりしている。【緊那羅】 「猫ちゃん、さっきからずっとついてきているけれど、お腹がすいたのかしら?」【ニャンニャン】 「美しいお嬢さん、さっき舞台上にいるあなたを見て、一目惚れしました。もしよければ、付き合ってくれませんか?」【小白】 「こんな厚顔無恥な猫、小白は初めて見ましたよ!」【緊那羅】 「付き合い?あ、わかった。ちょうど厳島にいる皆にあげるお土産を考えていたの。一緒に来てくれる?」【ニャンニャン】 「美しいお嬢さんにお供できて、光栄です。」【小白】 「待ってください!小白も行きます。(この変わった猫、なんだかいけ好かない感じです。緊那羅様は小白が守ります!)」【ニャンニャン】 「そういえば、緊那羅さん、さっき舞台上で披露された舞は、とても美しくて、印象深かったです。」【緊那羅】 「あれは御饌津様に教わった舞よ。実は私は舞よりも、演奏のほうが得意なの。」【ニャンニャン】 「実は初心者だなんて、信じられません。でもあの舞には思いが宿っていて、人々に神々しい印象を与えました。あなたにはきっと舞の才能がありますね。あんな特別な舞を踊れるなんて、一体どんな練習をしてきたのですか?」【小白】 「すごく詳しく聞きますね。舞を学びたいんですか?」【ニャンニャン】 「まったく風情がわからないな、私と美しいお嬢さんの間に割り込むな。こんなことも分からないのか?美人の機嫌を取るには、まず彼女の得意な話題を振るんだ。」【緊那羅】 「以前姉さんが言ってた、喧嘩するほど仲がいいって。あなたたちはきっと、いい友達になれるわ。」【藤原陰陽師】 「緊那羅様、お探しの物を買ってきました!全て揃ったと思いますが、ご確認を。」【緊那羅】 「あ、ありがとう。ちょっと見せて……えっと……これは命兄さんにあげる詩集、これは光兄さんにあげる絵本、これは律姉さんにあげるかんざし、これは和姉さんにあげる白粉、これは雁おじいさんにあげるお茶……うん、全部合ってる!お土産をあげたら……みんな、喜んでくれるかしら?」【ニャンニャン】 「緊那羅さんちは大所帯ですね、あなたはきっと愛されて育ったのでしょう。いつか緊那羅さんのご家族に会いに行きたいです!」【小白】 「緊那羅様とは今日知り合ったばかりの関係なのに、もう家族に会いたいと思ってるんですか……」【緊那羅】 「……その通りだわ、私はとても幸せだった。昔は……私を大切にしてくれる家族がたくさんいた。でも……私が見たもの、体験したこと、皆にも教えてあげたいな……皆は厳島を守っていた英雄、私の自慢の家族なの。」【ニャンニャン】 「すみません、嫌なことを思い出させてしまったようです。お詫びとして、私にできることであれば、何なりとお申し付けください。」【緊那羅】 「いいの、思い出を大切に心にしまっている限り、皆はずっと側にいてくれるから。私の舞は特別だと言ってくれたでしょう。舞は人の気持ちを伝えていると思うの。そして私にとって、一番大切なのは家族を守ることなんじゃないかしら。」【ニャンニャン】 「なるほど、緊那羅さんは本当に主に似ています。主も大切なものを守るために、傷だらけになったことがあります。」【小白】 「主?やっぱり飼い猫でしたか。そういえば見た目が平安京の猫とは全然違いますね。まさかその主って……」【ニャンニャン】 「主が誰かって?孔雀の国の最も美しい孔雀の女王、孔雀明王様に決まっているだろう。」【小白】 「孔雀明王様の飼い猫が、こんな性格だなんて!」 |
伍
伍ストーリー |
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——幻境の中 晴明の目に映る景色は再び賑やかな町に変わった。孔雀の国の人々が通りかかる大通りは、なにやら騒がしい。【晴明】 「周りの景色はまた変わった、今度の旅はどのくらい続くのか。」【孔雀の国の舞姫】 「聞いた? この前宴の会場が火事になって、多くの長老が巻き込まれ、悲惨な死に方をしたって!」【孔雀の国の平民】 「空高く昇った煙のことか、そりゃ城中に知れ渡ったじゃねえか!犯人はかつての青の王女、なんとかして逃げおおせた長老達の話によれば、殺戮の罪を犯した青の王女は、自分にも火をつけ、焼死したそうだ。そりゃ災いの女王を姉に持つ人とはいえ、こんなことになるとは嘆かわしいな。しかし長老達があんな目に遭って、本当にいい気味だ。俺たちは大変な生活を送っているのに、連中は見て見ぬふりして享楽に耽る。」【孔雀の国の舞姫】 「そういえば、最近貴族の連中は大人しく地下宮殿に引きこもっていて、滅多に外に出てこない。近頃ぽっつり現れた、仮面をかぶっている神女様を恐れているんじゃないか。」【孔雀の国の平民】 「神女様か、そういえばこの前砂嵐が起きた時、あの方は砂嵐を追い払ってくれたおかげで、うちの畑は被害が出なかった。あの方が長老議事堂の屋根裏に現れ、長老の一番お気に入りの彫像を打ち壊したのを見たんだ。空に打ち上げられた花火は、忘れられないほど綺麗だった。面白いことに、その夜、元老院は大人数の兵を送り込んで神女様を捕縛しようとした。しかし期待とは裏腹に、逆に長老の金庫をぶち壊され、金目のものを全て持ち去られた。皆言っているよ、空から落ちてきた銭貨は、実は神女様の恵みって。」【孔雀の国の舞姫】 「しっ、声が大きい。この件に触れるのは長老に禁じられている。衛兵達に聞かれたらまずいよ。」【晴明】 「すみません、ある人を探していて、名は確か翠。彼女を知りませんか?」晴明の言葉を聞いたあと、二人はお互いを見合い、複雑な表情を見せた。【孔雀の国の舞姫】 「何を言っているかしら、忙しいので失礼します。」【孔雀の国の平民】 「翠さんを探している? ならばついてこい、居場所は知っている。」男は晴明を大通りから人気の少ない路地裏に連れてきた。【晴明】 「翠さんは本当にこんな辺鄙なところに住んでいるか?」【孔雀の国の平民】 「なんだ、ようやく気づいたか?」武器を持って現れた人々は晴明を囲み、敵意をあらわにしている。【晴明】 「勘違いだと思う。」【孔雀の国の平民】 「口を開けば翠さんに会いたい、こりゃ企みがあるに違いない、どうせ上が遣わした犬だろう?翠さんは城下町の英雄なんだ。悪神の襲撃を受けたあと、翠さんはいつも真っ先に皆に物資を配り、秩序を守ってくれる。上の貴族はいろいろと理由を託けて血税を搾り取る。税金を払わなければ、女は無理やり連れ去られ、二度と戻れなくなる。男は奴隷にされ、孔雀の国を攻め続ける色欲の神のために神碑を建てなければならない。心優しい翠さんが助けてくれなかったら、うちの娘も連れ去られ、酷い目に遭っただろう。とにかく、誰だか知らねえが、翠さんに危害を加えるやつは、俺たちは絶対に許さねえぞ。」【晴明】 「君達と争うつもりはない、どうしても信じてくれないならば、今すぐ出ていく。」晴明が言い終わった瞬間、急に空模様が変わった。突然出現した砂嵐は、周りのすべてを呑み込んでいく。【孔雀の国の平民】 「色欲の神だ……色欲の神が現れたんだ!」人々が悲鳴を上げる中、暗雲の中に出現した巨大な鬼目は、上から孔雀の国を見下ろしている。その場にいる人々は慌てふためいて隠れられる場所を探している。空に現れた鬼目は見開くと、忽ち数え切れないほどの砂の刃は空から落ち、隣の大樹は一瞬にして真っ二つに切り裂かれた。案内の男はつまずき、砂の刃に襲われそうになった。晴明は素早く男を立たせ、鋭い砂の刃から助け、一緒に洞窟の中に逃げ込んだ。 ——洞窟の中【孔雀の国の平民】 「お前……なんで助けた。」【晴明】 「言ったはずだ、君達は勘違いしている。」【孔雀の国の平民】 「ありがとう……ってことはやっぱり判断を早まったか。この前翠さんに同じこと言われたのに、すまん……」【晴明】 「気にするな、皆無事であればいい。空に現れたあれが色欲の神なのか?」【孔雀の国の平民】 「ああ、まったく……家にいる妻と娘はちゃんと穴蔵に隠れたかどうか…無事だといいんだが。 |
」心配で気が気でない男は、汚れた服の袖で涙を拭い、明らかに色んなつらい思いをして疲れ切っている。【孔雀の国の平民】 「今日の襲撃は本当に危なかった…襲撃が収まったあと、また皆に会いたい……何も知らないようだな、ってことはよそ者か。最近色欲の神の襲撃は頻発になっている。色欲の神は毎回孔雀の国の真ん中に砂の槍を打ち込む。中央区域は貴族の縄張り、最初は長老も数人が襲われて亡くなった。でも貴族達はすぐに対策を見つけた。地下で豪華な宮殿を建ててそこに引っ越した連中は、襲撃などなんともないが、城下町のボロ屋は毎回巻き添えを食ってしまう。」【晴明】 「なるほど、しかし君達はどうやって襲撃を凌いできた?」【孔雀の国の平民】 「皆家の下に穴蔵を掘ってある。襲撃があると、穴蔵に入って我慢するのだ。それでも、襲撃が収まった頃、穴蔵から出てみりゃ、すべては砂にのみ込まれるんだ。飼っている家畜も、苦労して耕した畑もな。それだけじゃない、俺たちは多額の税金を払わなきゃいけないんだ。上の連中はいつものように新たな税金を押し付けてくる。庇護税も、連中が考え出した税金の一つ。本来果たさなきゃいけない務めを利用して血税を搾り取ってるんだ。税金はほとんど貴族どもの肥やしになった。残りのはした金は神碑の建設費用に注ぎ込まれる。想像もできないだろうが、孔雀の国のあちこちにある神碑は、全て色欲の神のために建てられたもんだ。笑えるよな、孔雀の国を襲う色欲の神のために神碑を建てるなんて、ははは。あんなもん、できれば全部ぶち壊したいよ。」男は悔しくて文句を垂れている。【孔雀の国の平民】 「悔しいが、誰もいない隅っこじゃなきゃこんなことを言う勇気もないんだ。」【晴明】 「あまり落ち込むな、孔雀の国はいつか必ず変化を迎える。」【孔雀の国の平民】 「そうだといいな。襲撃が収まったら、翠さんのところに案内してあげる。お前は悪い奴じゃないってわかったから。」【晴明】 「ありがとう。」その時、近くの市場から叫びが届いた。【孔雀の国の平民】 「見ろ、なんだあれは!」一人の凛々しい神女は砂丘の上で舞を踊っている。彼女は舞の力を操り、羽衣をなびかせて落ちてくる砂の刃を吹き消した。【孔雀神女】 「圧政を敷く貴族に天より舞い落ちる災い、誇るべき孔雀の国は変わり果て、絶滅の寸前に追い込まれる。人々を脅かし、恐怖を植え付けたのは、民草を見下ろす神にほかならない。」次の瞬間、羽の刃を手に取り素早く動き出した彼女は、自分よりずっと大きい色欲神碑に向かって剣を振り下ろす。雷鳴のような轟音が響くと、巨大な神碑は砕けて普段の石塊になった。 砕けた神碑の下、一筋の光は土の中から現れて神女を包み込む。【孔雀神女】 「これより、災害や神の罰を恐れなくてもいい。私、この孔雀明王は人々の恐怖を打ち倒し、暗黒の時代を終わらせる。」風になびく孔雀羽衣を着ている神女は、空に向かって剣を高く掲げる。空に巣食う暗雲や砂は吹き払われ、日差しは久しぶりに人々に降り注いだ。晴明は砂丘の上にいる神女を見ている。仮面は彼女の顔を隠しているが、鋭い眼差しだけは隠せない。人々に紛れ込んでいる翠も涙ぐみながら、砂丘の上にいる神女を見つめている。 ——貴族の議事堂【貴族の部下】 「長老、近頃孔雀明王と名乗る神女が現れました。その女は民を惑わし、神碑を壊しています。」【大長老】 「まだ捕らえておらんか?」【貴族の部下】 「……その女は神出鬼没で、目くらましの術まで使って逃げています。とはいえ、増援したので、近いうちに捕縛できると思います!」【大長老】 「ふん、孔雀明王、舞姫如きが大層な名前をつけたな、そんなに民を味方につけたいか。」【貴族の部下】 「長老、ご心配なく、神女と語るペテン師なら、対策はいくらでも用意できます。やつの正体さえ明かせば、あの女は我々にひれ伏すしかありません。」【大長老】 「わしも鬼じゃないから、大人しく非を認めて心を入れ替えるならば、もう一度だけ機会をやろう。神女を演じ続けても構わない、ただし、言うことを聞かない人形はいらない。」【貴族の部下】 「お任せください、長老。」——城下町【翠】 「あなたのことは聞いた、仲間を助けてくれたことに感謝する。だが、一つだけ解せないことがある。どうして私が孔雀明王を知っていると?」翠は晴明の目をまっすぐに見つめ、刀の鞘を握りしめた。【晴明】 「皆はあなたは城下町の英雄だと言っている。目的が同じであれば、何らかの関わりを持っているじゃないかと思っただけ。正直に言うと、そんなあなた達に憧れているので、ぜひ仲間に加えてほしい。」【翠】 「頭がいいね。でも私達の本当の仕事を知っているでしょう? 上の連中が気に食わない「違法なこと」ばかりだぞ。もし神女様に会いたいなら、何をすべきか分かっているよね。」【晴明】 「もちろん。」——神女宮、夜【翠】 「孔雀明王様、変な装いの男は面会を求めています。輸送隊に入れた後、何度も見事な功績を収めています。その男をご存知ですか?」【孔雀神女】 「変な装いの男? 知らないと思う。」【翠】 「でしたら、追い出すべきですか?」【孔雀神女】 「いえ、このままでいい。今は、一人でも多くの協力者がいる。長老は使者を遣わした、降伏しろって。そうすれば、今までのことをなかったことにしてくれるみたい。私はこのまま神女として贅沢な生活を送れる。」【翠】 「えっと……その条件をのむのか?」【孔雀神女】 「ありえないでしょう?」孔雀明王はろうそくに手紙を当てて燃やし、彼女の目に映る炎は激しく燃えている。【孔雀神女】 「降伏すべきは、そっちだよ。」——その頃、平安京 緊那羅と別れてまもなく、小白の隣にいた顔に煤がついている猫は消えた。消える前はよくも逢瀬を台無しにしてくれたとか、小白と距離を置くべきとかを言った。【小白】 「小白だってそんな変な猫の側にいてあげるのはまっぴらごめんだよ。次は、他の舞姫様のところに行ってみましょう。小白にお手伝いできることはありますかね。あ!不知火様です!あれ?あの懐かしい後ろ姿……」近くで、知り合いの猫が紫陽花を咥えながら、不知火の側でうろうろしている。【ニャンニャン】 「優雅なお嬢ちゃん、その舞は本当に美しくて、印象深いです。この近くに住んでいますか? もしよければお名前を教えてくれませんか?」【不知火】 「……」不知火は何も言わなかったが、最後は花を受け取った。【不知火】 「面白い猫ね、ありがとう。」【小白】 「不知火様、あいつに構わないで。小白にお手伝いできることはありませんか?」【不知火】 「ありがとう、でも今のところはないわ。」【ニャンニャン】 「不知火さんが舞台上で見せてくれた舞に虜にされました。どうすれば不知火さんのように一風変わった、同時にとても自然な舞が踊れるでしょう?」【小白】 「またそれを……」【不知火】 「一時期「特徴」を悩んだことがあるわよ。でもあとで気づいた、舞の特徴はね、動きだけじゃない。もし「特徴」に拘るなら、逆に足枷をかけられたように、自分を抑えることになる。求めても手に入らないくらいなら、いっそう諦めて。ふっと振り返ってみれば、足枷はもう消えたかも。」【ニャンニャン】 「蘊蓄がある言葉ですね。お嬢ちゃんの想い人が羨ましい、一体どうすればお嬢ちゃんに気に入ってもらえるでしょう。」【不知火】 「想い人は、他人じゃなきゃだめなの?私の舞は、自分に捧げるもの。」【ニャンニャン】 「うーん……教えていただきありがとうございます、本当に勉強になりました。」【小白】 「本当にわかったかな?」【ニャンニャン】 「もちろん、不知火さんの舞は自然な印象が強いので、自由の心を持つ者の舞じゃないかと。」【不知火】 「暗くなってきた、お喋りに付き合ってくれてありがとう、そろそろ戻るべきだわ。」【ニャンニャン】 「優雅な不知火さん、またね。明日もここでお待ちします!」【小白】 「何だと、また来るって? 早くここを離れろ!」【不知火】 「……たまに平安京に来るのも、悪くないね。」 |
陸
陸ストーリー |
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——幻境の中、城下町 目を開けると、知らない天窓と異国風の装飾は晴明の目に映る。翠は住所として、平民区の下にある倉庫を手配してくれた。ここは半分地下にある。天窓のおかげで中には日差しが漏れている。こんな住所でも普通の人なら羨ましいと思う。何せここは砂嵐やいつ降り掛かってきてもおかしくない災いの心配をしなくてもいい。翠の仲間になってから、晴明は昼夜逆転の生活を送っている。晴明はたまに、ここは幻境かそれとも現実かをわからなくなることがある。【孔雀の国の戦士】 「調査の末、長老の方々を手に掛け、殺戮の業を犯した舞姫——青孔雀は火事から生き残ったことは判明した。これは現場で見つかった犯人の尾羽、手配の懸賞金として百金を用意した。有用な情報を提供できれば報奨金もやぶさかでない!」【孔雀の国の舞姫】 「百金も! 長老達は奮発しているな。」【孔雀の国の平民】 「しかしこの尾羽は妙に見覚えがある…どこで見たっけ。」【晴明】 「……」——神女の神殿 |
」【翠】 「近頃城下町は変な病が流行っています。患者は体中に黒い腫れ物が出現し、やがては硬化して変死を遂げます。貴族の連中は変な病も、火事から生き残った青孔雀が、騒乱を引き起こすために散布したと言い張っています。手配で見せたあの尾羽も、あなたを指し示しています。連中はもう冷静でいられないでしょう。捕縛も講和も失敗したから、あなたと民との仲を割ろうとしています。」【孔雀神女】 「別に珍しいことじゃないわ、姉様の時も同じ手を使ったじゃないか? 病にかかった人にはもう会ったの。変な病というより、むしろ呪いをかけられたと言うべき。少なくとも厄払いができる私の舞は、呪いを和らげることができる。黒石病にかかった人を見つけたら、ここに連れてきてください。必ず皆を治してみる。」【翠】 「うん、でも私の知っている長老達は、きっとこの件を利用して言いがかりをつけてくるのです。」【孔雀神女】 「満開の舞の力はもう、うまく操れるようになった。色欲の神の神碑も着実に破壊している。舞台は整ったし、そろそろ開演の準備をしなくちゃ。相手の出方を見るより——」孔雀神女は羽の扇で翠の鞘をなぞってみた。」【孔雀神女】 「先手を打つべきだわ。 」——城下町、市場【孔雀の国の平民】 「神女を悪く言う噂は増えてきた。神女が病を治してくれるのは、皆を買収するためだと言う人もいる。その正体は殺戮の罪を犯し、病を散布する青孔雀だから。」【孔雀の国の舞姫】 「孔雀明王様は人々を守ってくださる神女だよ。青孔雀と一緒にしないでくれる?」【孔雀の国の平民】 「こっちだって信じてねえよ。でもよ、孔雀明王様は一度も仮面を外さなかっただろう。神女なのにどうして顔を隠すんだ、お前だって気になるよな?」【孔雀の国の舞姫】 「そうかもしれないけれど……」【孔雀の国の平民】 「しっ!神女のお出ましだ!」【孔雀神女】 「近頃噂が広がり、私の正体に疑問を抱くようになった人がいるので、皆さんをここに呼び集めた次第です。この件において、まず皆さんに謝らなければなりません。私が犯した間違いは、今まで長老に忠誠を誓い命令を従わなかったことです。」羽の剣は、人ごみの中にいるある者に向けられた。輿の中にいる長老は、刃を向けられても傲慢に笑った。【大長老】 「世の中には、貪欲で分不相応な野望を抱える者は多々いる。神の声が聞こえると言い張る詐欺師は、毎年数百人も処刑される。ただし、孔雀明王様は正真正銘の神女だと信じている。なぜならば人々はみんな言っているんだ、神通力を持つ神女は人々を守り、病を治してくれた。だから、孔雀の国の未来のため、孔雀明王様に願いを申し上げる。どうか不格好な仮面を外し、皆に本当の顔を見せてください。そうすれば人々も疑念が晴れ、喜んで仕えてくれるだろう。」騒ぎ出した人々は、舞台上にいる孔雀明王を見つめ、仮面の下に隠される顔を想像している。【晴明】 「皆さん、聞いてください。今まで神女様が守ってくださるのを、我々は見届けてきました。根も葉もない噂を信じ込み、神女様を疑うのはさすがに感心できません。黒石病にかかった人を忌み避ける中、神女様は自ら患者のもとを訪れました。自ら薬を作る上、霊力を使い、精神を擦り減らしても病を和らげてくれました。人を買収したい程度の気持ちならば、ここまでする理由はありません。神女様の正体は、仮面の下に隠される顔とは関係ありません。人々を守りたいと切に願う者こそは、我々の神女様です。目の前にいる神女様は、まさにそう願っています。」【孔雀神女】 「……!」【大長老】 「ふん、「神女」に惑わされた者は少なからずいるようだな。神女様、そこまで人心掌握が得意ならば、さぞや我々の想像を遥かに超える力をお持ちでしょう。」【貴族の使者】 「そうに決まっています。なぜならば神女様は神碑を壊したんだ。全く罰とかを恐れていません。色欲の神なんぞも、眼中にないでしょう。」貴族が言い終わった次の瞬間、晴れていた空は急に暗雲が立ち込め、砂嵐に覆い隠された。空に浮かび上がる数多の鬼目は、舞台上にいる孔雀明王を見下ろしている。【孔雀の国の舞姫】 「色欲の神だ……色欲の神がまた現れた……」現場は大混乱に落ち、人々は我が先に逃げ始めた。【大長老】 「孔雀明王よ、正体を晒せ。もし逃げれば、民はお前のもとを去る。しかしもし残れば、お前は必ず降り掛かってくる砂の槍に引き裂かれる。例え運良く生き残っても、砂嵐に襲われては仮面は必ず壊れる。正体が晒される時、お前は殺戮の大罪を犯した罪人になる。」空に出現した数え切れないほどの巨大な砂槍は、孔雀明王を狙い定めた。舞台上の神女は逃げなかった。むしろ晴明に目配せを送った。【孔雀神女】 「お化けさん、皆さんを避難させて。」【晴明】 「ああ、任せて。」空から落ちてくる砂槍は、たくさんの塵を巻き上げた。孔雀明王は逃げなかった。彼女は落ちてくる砂の槍を踏み台にして空高く登り、先手を決め込んで色欲の神の目に向かって羽の矢を放った。空に現れる巨手は何度も襲ってきたが、孔雀明王は素早く攻撃をかわした。悪神は砂の槍を操り逃げまどう地上の民を襲い始める。雲の上にいる色欲の神を一度睨みつけたあと、逃げまどう人々に一瞥して、孔雀明王はやがて地面に降り立った。砂の槍は増える一方だが、それでも孔雀明王は逃げなかった。荒ぶる砂嵐の中で満開の舞を捧げると、羽衣は強風を呼び出し落ちてくる砂の槍を吹き壊した。槍の欠片は何度も肌を切り裂き、彼女に多くの傷を与えた。それでも、彼女は舞をやめなかった。強固なる羽の結界を展開した彼女は、皆を守ってくれた。【孔雀神女】 「孔雀神よ、色欲神碑をすべて壊しました。今まであなた様の遺体は神碑の下で眠り続けていますが、今こそ目覚めの時です!満開の舞を捧げまつる、どうかこの大地に残してくださった守護の力を私に!」荒ぶる砂嵐は勢いを増し、羽の結界はひび割れ始めた。羽の結界が壊れる寸前、砕けた色欲神碑の下から現れた光は、孔雀明王を包み込む。光集いし刹那、金色の波紋は雲を切り裂く。雲の上にいる色欲の神は眩しい光に恐れをなしてどこかに消えた。時を同じくして、動きが止まった砂の刃はまた砂に戻った。舞台の中央に、孔雀明王は立っている。さっきの攻撃は彼女の仮面を壊した。大きく広げられた羽に宿る孔雀神火は燃え盛っている。奇跡としか思えない光景は人々を震撼させる。【大長老】 「そんな……ばかな……顔まで変わったのか……」【孔雀明王】 「この顔が見たいでしょう?実はずっと感謝している。私からすべてを奪ったけれど、以前の私は無理やり笑顔を作り、長老の機嫌を取っていた。私からすべてを奪い、人生を台無しにしてくれたおかげで。私は何もかも投げ捨て、こうしてここに立つことができた、全部長老のおかげだ。」【大長老】 「誰か、こいつを……」長老はなんとかして冷静を保ち衛兵を呼んだ。しかし近くの衛兵達は悪神が現れた時にはとっくに逃げていた。【孔雀明王】 「愛しい長老よ、あなた達の時代は幕が下りた。孔雀の国の民よ、貴族の命令を従わざるを得ない人も含んで、私はこれからも皆を守ってあげます。これより、孔雀の国はもう色欲の神に供物を捧げない。もう悪神にひれ伏して講和する我々ではない。この孔雀明王、王の代わりに孔雀の国を守り、必ず色欲の悪神を討ち滅してみせます。亡くなった家族や友人のため、我らが仇敵、色欲の悪神に復讐せよ。私は皆と共にいます!」———平安京 不知火と別れた小白は、引き続き町を見回る。【小白】 「まあまあ順調でしたね、変な猫に出会ったのを除けば。待て、あれは……」案の定、鈴彦姫の隣ではしゃぎ回る懐かしい姿が目に入った。【ニャンニャン】 「情熱なお嬢ちゃん、舞台上で見せてくれた情熱で奔放的な舞は私を虜にしました。もうあの舞を忘れられません。お一人ですか? もしよければ一緒にお散歩しませんか?」【鈴彦姫】 「え、猫が喋った? 珍しいね。」【ニャンニャン】 「情熱なお嬢ちゃんは褒めてくれました、ちょっと恥ずかしいですね。」【小白】 「明らかにそういう意味じゃないでしょう……鈴彦姫様、見た目に騙されてはだめですよ。実はこいつは善良な猫ではありません。そういえば、鈴彦姫様、小白にお手伝いできることはありますか?」【鈴彦姫】 「あたしに聞いているのか?今はないよ、これからは祈祷の舞の練習に集中したい。何せもうすぐ天照様を呼び覚ますのよ。なんだか、胸騒ぎがする。」【小白】 「胸騒ぎ?鈴彦姫様みたいな優れる舞者でも舞台に上がる時は緊張するんですか?」【鈴彦姫】 「本来祈祷の舞はあたしの務め、使命だけれど、あたしは一度自分の使命を諦めた。」【ニャンニャン】 「鈴彦姫様は使命を諦めたのには、きっと事情があるのでしょう?」【鈴彦姫】 「天鈿女命として覚醒し、神力を取り戻す方法は、雪山一族を犠牲にすると知った時、あたしは怖気づいた。天鈿女命として覚醒するのは、あたしの務め、雪山一族を守りたいのはあたしの私欲。でもあたしは務めを選ばなかった……」【ニャンニャン】 「鈴彦姫さん、その選択は間違いだと思っていません。何を選んでも相応の対価を払わなければなりません。こういう時は、自分の気持ちに素直になるべきです。そうすれば少なくとも悪夢を見ないで済むのです。自分に素直になったからこそ、そんな情熱で奔放な舞が踊れるのです。」【小白】 「あれれ、珍しく正論言っている!」【ニャンニャン】 「それに今回は主、孔雀明王様が協力してくれます、何も心配いりません。」【鈴彦姫】 「正直、以前神宮に閉じ込められていた時、人の世の賑やかな花火はとても羨ましかった、何もかも冷たい神宮とは全然違うから。慰めてくれてありがとう、気が楽になった。すべて収まった頃、天鈿女命の務めから解放される時、あたしはもっと自由に舞を踊れるじゃないか!」【ニャンニャン】 「鈴彦姫さん、もし寂しいと思ったら、いつでも声をかけてください。一緒に砂漠で星空を眺めたり、緑地の隣で篝火をつけたりしませんか。叶えたいお願いがあれば、何でも教えて。今度鈴彦姫さんの自由の舞を見るのを楽しみにしています。」【小白】 「待て、話が逸れてないか?」【鈴彦姫】 「面白い、真っ直ぐなのは嫌いじゃない。もし無事に天照様を呼び覚ますことができれば、その誘いを考えてあげてもいいよ。」【ニャンニャン】 「期待しています。ついでに、趣味を、そして住所を教えて……」小白はすかさず猫に閉口させ、力ずくで別の場所に連れ去った。【小白】 「鈴彦姫様、もう練習に集中してもいいですよ。これ以上お邪魔したら悪いですよ!やれやれ…舞姫様達の舞を全部調べたね。そんなに逢瀬しかたっか、それとも舞を学びたいか?」【ニャンニャン】 「それはね……何を隠そう、最近、主は新たな舞を考えている。ひらめきがなかったから、今でもどんな舞にすればいいのかすら決まってない。先程他の舞姫達から、それぞれ守護の舞、自由の舞、本心の舞を教わった。これだけの種類があれば、主も必ずひらめいて、より美しい舞を考え出せるはず。」【小白】 「つまり、あなたがやったことは全て孔雀明王様のため? 別に美人の気を引くつもりはないか?」【ニャンニャン】 「モテすぎるのも一種の罪。今までしつこく追ってきたけど、自分の気持ちに嘘をつきたくない。いつでも、私の愛する人は主ほかならない。」【小白】 「よくも臆せずにそんなことを……」【ニャンニャン】 「何で臆するのか? 私は実は真面目で一筋なんだから、絶対に惚れないでね。」屋根裏に飛び上がったニャンニャンは、小白に向かって一度片目をつぶると、そのまま離れた。 |
漆
漆ストーリー |
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——幻境の中、女王の宮殿【翠】 「孔雀明王様、家を失った民の救助と国に忠誠を誓う兵士の再編成は完了しました。皆は次の命令を待っています。残りの長老は、始末しておきますか?」【孔雀女王】 「いいの、権力や財産を押収して更生を促すよ。彼らにとって、これは死よりも辛い罰。」【翠】 「一つだけ解せないことがあります。悪神は我々の守護神を取って代わり、孔雀の国で悪逆の限りを尽くしたのに、真相を知っている大長老は、どうして一度も本気で抵抗しなかったのでしょう?」【孔雀女王】 「彼らの祖先は、最初に色欲の神に降伏し、色欲の神の力を笠に着て孔雀の国を手に入れ、権力を握ったのだから。だから、彼らは孔雀の国から霊力を吸い取る色欲の神に対しては見て見ぬふりをする。そして孔雀の国の女王は、最初から操り人形で、一時の平和を求める大長老が捧げた生贄でしかない。これからは…… 」その時扉が開き、入ってきた兵士達は、女王に敬礼をする。【孔雀女王】 「皆、色欲の神は際限なく孔雀の国の霊力を吸い取るせいで、人々は苦しい生活を強いられている。決めた、先手を取り色欲の神を打つ。この戦いは、先手を確保しなければならない。前哨部隊は悪神がいる砂漠神宮に潜り込み、宮殿を内部から破壊して、増援のために有利な環境を作る。勇気を持つ者に前哨部隊に参加してほしい、隠すつもりはない。前哨部隊は危険な目に晒される可能性が大きい。だから私も前哨部隊に参加する。他にも前哨部隊に参加する者がいるか?」孔雀明王は剣を握り締め、皆の返事を待っている。【晴明】 「孔雀明王様、私に参加させてください。」晴明が最初に応募したあと、残りの兵士達も入隊を志願した。【孔雀女王】 「全員決意したね。孔雀の国は必ずや悪神を討ち滅ぼし、繁栄を取り戻せる!」【晴明】 (孔雀明王の邪心の火の源に近づいているようだな)———監禁塔 閉ざされている薄暗い塔の中。【大長老】 「はー、孔雀明王様は監獄に来れるほど暇だったか。勝てば官軍、負けた者を活かす必要はあるのか?」【孔雀女王】 「できれば、無意味な犠牲を出したくない。それに今のあなたは脅威にすらならない。」【大長老】 「どうやら白の女王とは違い、今の女王は慈悲深い方みたいだな。」【孔雀女王】 「それはどういう意味?」【大長老】 「知っているぞ。今まで、お前は何度もこっそりとあの捨てられた寝殿を訪れた。例えあの女がとっくにいなくなったとしても。」一人で冷めきった暖炉の前に腰を下ろすのは、素敵な過去を思い返しているか?【孔雀女王】 「全部見たか?」【大長老】 「ああ、例えお前が自分の気持ちを抑え込み、一度も他人に教えなかったとしても。わしだけは知っているぞ。お前を突き動かし、命をかけても孔雀の国を変えたい原因は、どうせあの女だろう?何を期待している? なんとしても助けたい姉は潔白で純潔な人だと本気で思ってないよな?」【孔雀女王】 「……」【大長老】 「祈りの儀式とやらが気になるのでは? 月の初め、白の女王は一度も怠らなかったあの謎の儀式が。」【孔雀女王】 「その儀式は、色欲の神と同調するあなた達が、闇の術を研究する場所でしょう。」【大長老】 「ふふふ、そうだとしても、わしは夢でも神の力を手に入れたい。しかし皮肉なことに、色欲の神にはただの手駒、ただの道具しか思われてない。」大長老は足の甲を見せてくれた。それは黒い痼がみっちり並んでいて、反吐が出るほど醜い。【大長老】 「力を求め、神の使いになりたいと懇願した。しかしこんなものしかもらえなかった。一方、お前の姉は、見た目がいいからって、たやすく色欲の神の寵愛を手に入れた。あの時は羨ましすぎて狂いそうだった。あれだけ努力して神を喜ばせてみたわしは、結局取るに足りない術しか得られなかった。」【孔雀女王】 「以前流行っていた黒石病は、あなたが散布したでしょう。」【大長老】 「それがどうしたんだ? わしは神の恵みを皆に分け与えたいだけだ。ははは、諸行無常、貴族の支配を覆したってどうにもならない。お前を導き、光を分け与えた星は落ちる。実に楽しみだな、お前ら姉妹二人の末路が。」【孔雀女王】 「……」——夜 薄暗い月明かりを浴びながら、皆は砂漠神宮の付近に待ち伏せる。おかしなことに、まるで「お客」が来るのを知っているかのように、神宮は明かりをつけ、扉が開いている。それに気づくと、孔雀明王は隠れるのを諦め、そのまま神宮に入った。神殿の中、一人の猛々しい大柄な男は気だるそうに玉座に座り、現れた孔雀明王を見つめている。【迦摩天】 「待っていたぞ、孔雀明王様。この前汝の舞を目にしてから、その美しい姿はどうしても忘れられない。だから、花束を用意し、下僕に愛の詩を伝えとも命じた。それらは届いたか。」【孔雀明王】 「花束って、人の皮を使って作られたあれか?」【迦摩天】 「そうとも、汝に送る血肉の花には、例外なく我の愛情が宿っている。」【孔雀明王】 「恥って言葉が知らないの?」【迦摩天】 「汝は我を知らない。女王様、我は紛うことなき色欲の神だが、誰よりも純粋で真摯なる愛を求めている。我が憧れる究極の愛は、即ち血肉の融合となる。我は望んでいる、汝が我の一部になることを。お互いの呼吸を、脈動を感じ、同じ心臓の鼓動を分かち合おう。汝の美しい目、なめらかな髪、艶かしい唇、すべての美しさは、最も美しい時間に止まり、我だけのものになる。」【孔雀明王】 「褒めてくれてありがとう。でも今日はね、あなたの命を絶つために来た。」【迦摩天】 「ちょうど同じことを考えてた。一緒に黄泉に赴こう、女王様。」【孔雀明王】 「誘ってくれて嬉しい。でも黄泉に赴くなら、あなた一人で十分だわ。」孔雀明王は色欲の神の両目を狙い定め、数え切れないほどの矢を放った。色欲の神の後ろで蠢く砂はなだれ込んできた。一方、孔雀明王は羽を広げて砂を防ぐ。砂が地面に落ちた瞬間、神宮は全て変わり、昔の景色は今一度再現されていく。懐かしい人影は目に映った、それは白の女王だった。この時、彼女は悪神の向かいの席に座っている。明かりに明るく照らされる机には、美味しそうな料理が置いている。【迦摩天】 「愛しい女王様よ、これは我が用意した晩餐。最近食欲がないと聞いたが、きっとこの前使った脚肉がまずかっただろう。だから今度は新鮮な内臓を一緒に素敵な晩餐を楽しもう。」【鳳凰】 「この食材は……」【迦摩天】 「食材?それはもちろん——先代の女王様だよ。あ、すまん、気にすんな。我が本当に愛しているのは、いつでも汝だよ、愛しい白の女王。で、どうするつもりだ、汝の気持ちが知りたい。」【鳳凰】 「私もあなたを愛しています、我が王よ。」鳳凰はお肉を綺麗に切り、優雅に口に入れた。まるでこの世で一番美味しい料理を楽しんでいるみたい。【鳳凰】 「とても……美味しいです、我が王よ。」【迦摩天】 「そうかな?我から見れば先代の女王もこの程度のもんだ、まったく味気無い。汝と比べると、まったく話にならない。」【鳳凰】 「……それは私への告白と受け取ってもいいかしら?」【迦摩天】 「ははは、愛しい妻よ、汝は初めての素直に向き合ってくれる、我を恐れない女だ。汝は他の女のように、我を知った瞬間、震え上がるかと思ってた。我の足元にひれ伏し、涙を流して許しを請うかと想像してた。」【鳳凰】 「うふふ、そんなことないでしょう、あなたは私の愛しい夫ですもの。あなたに私のすべてを捧げます。ご存知でしょう、私はあなたに憧れている、そしてあなたは私を選んでくれた。これはもう運命ではありませんか。ですから、どんな人でも私は受け入れ、愛を捧げるのです。」【迦摩天】 「愛しい妻よ、世の中で本当に我を理解し、受け入れる女よ、言ってみろ。汝の願いはなんだ?」【鳳凰】 「嬉しいです、愛しい夫よ。実は打ち明けたいこと、そして協力してほしいことがあります。」【迦摩天】 「ほう?それは?」【鳳凰】 「代わりに、孔雀の国を攻め落として……」景色はそこで途切れ、後ろに現れた迦摩天は、嘲笑を浮かべる。【孔雀女王】 「……そ、そんなのありえない、白の女王をどこに隠した?」【迦摩天】 「見ただろう、それでも、真相を受け入れたくないか?それが汝の姉の願いだ。ただし、もし我の愛を受け入れるのなら、白の女王を愛しているように、汝を愛してやる。そうすれば、姉と再会できるじゃないか?」【孔雀女王】 「ふざけるな、必ず姉を見つけ出して見せる。彼女を隠したならば、この神宮をひっくり返すだけ。彼女を食ったのなら、お前の腹を切り裂くまで。」【迦摩天】 「はははは!滾ってきた。しかし、神宮に足を踏み入れた時、汝はすでに追い詰められたも同然。」この瞬間、迦摩天の神宮は肉色の壁に姿を変え、孔雀明王に迫ってくる。不敵な笑みを浮かべたあと、意外なことに、孔雀明王は一本の羽になって地面に舞い落ちた。本当の孔雀明王は外側で、神宮の変化を観察している。」【孔雀女王】 「矢を放て!」飛び舞う孔雀神火は矢に塗り付けた燃料に火をつけた。爆発音が響き続ける中、砂のように流れる神殿は何度も爆破された。神火に当てられた色欲の神は痛みを我慢できずに正体を現し、砂嵐で人々を襲おうとする。」【晴明】 「皆離れて、一箇所に集まるな!」気ままに砂嵐を引き起こした迦摩天は急に背中が痛いと感じた。砂嵐をくぐり抜けた孔雀明王は、ひらりと彼の背中に舞い降り、剣を甲羅の中に深く刺し込んだ。迦摩天は孔雀明王を振り落としてみたが、身軽な彼女を振り落とすどころか、むしろ逆に甲羅をこじ開けられ、そのまま肉を敵の攻撃に晒した。孔雀神火は甲羅をくぐり抜け、無防備になった肉をぽつぽつと焼いている。」【孔雀女王】 「焼け焦げた匂いかと思ってたけれど、まさか肉を焼くのようないい匂いがするとはね。」神火は剣を伝って迦摩天の体に入り込み、彼の内臓を燃やしている。怒り狂う迦摩天は今まで以上の勢いで再び空を覆い隠す砂嵐を呼び起こし、その場から逃げようとする。」【孔雀女王】 「私と一緒に黄泉に赴くじゃなかったの? どこに行く気なの?」【迦摩天】 「ふん、この前傷を負い神力を消耗しなかったら、この程度の攻撃などどうということはない。白の女王に会いたいだろう?その思いに免じ、願いを叶えてやろう!」迦摩天が言い終わった瞬間、孔雀明王は後ろに誰かがいると気づいた。振り返ってみると、それは白の女王だった。【孔雀女王】 「姉……様!うっ……」白の女王は無表情のまま、凶器で孔雀明王の胸を貫いた。彼女は幻のように透けていき、同時に汚れた煙に包み込まれた。【迦摩天】 「実に感動的な再会じゃないか。さらばだ、女王様。傷が治った時、必ずまた会いに来るよ。」青は落ち続けている、一方、迦摩天は白の女王に手を差し伸べた。姉様が迦摩天の手を取り、一緒に遠くに消えたのを青は見た。大きく開いた羽衣は落下速度を落としてくれたおかげで、孔雀明王は軽やかな羽のように地面に舞い降りる。上の様子に気づいた晴明は、落ちてくる孔雀明王を受け止めた。」【孔雀女王】 「姉様、どうして……」さっきまで揺るがなかった決意は崩れたみたい、孔雀明王はぼうっとしている。一方、貫かれた胸倉は、汚れた邪気が漂っている。その瞬間、晴明は孔雀明王が邪心の火に侵される理由を、彼女が怖がっているものを悟った。同じ瞬間、世界は再び激しく揺れ出し、砕けた鏡のように崩壊していく。目の前には、孔雀明王は泥沼に囚われている。鋭い棘に縛られているせいで、手足は血が滲んでいて、傷口は邪気が漂っている。近くにいる白の女王と迦摩天の幻影は重なり、融合している。」【白の女王幻影】 「妹よ、あなたは私を恐れている。会いたいけれど、会うのを恐れている。残酷な真相をすべて知った時、あなたはどうやって私に向き合うかしら?」【白女王】 「信じている私には裏の顔があると気づいた時、きっと辛かったでしょう? あなたがそうなりたいと願う人は、実は追いかけるべき目標じゃないかもしれない。」【迦摩天幻影】 「すべてをかけたのに、結局、知りたくもない答えを手に入れるとはな。」まるで旅に出て、帰り道が分からなくなった旅人みたいじゃねえか。汝に孔雀の国に革命をもたらし、我を殺そうとしている。すべては愛しい姉様のためだろう?【白の女王幻影】 「妹よ、私をも刃に掛けるのか?私の体を貫いて羽衣を赤く染め上げるの?憶えているかしら、月明かりを浴びて舞を踊る時、私の側で守ってくれると言ったでしょう。」恍惚としている孔雀明王は泥に呑まれ、沼の奥に落ちていく。【晴明】 「青!」久しぶりに本当の名前を呼ばれたので、孔雀明王はわずかに動いた。【晴明】 「よく見てください、あれはあなたの姉様ではありません!あなたが恐れるものは分かった。あなたは愛する人を恐れていて、自分の気持ちに素直になれません。」【孔雀明王】 「……おっしゃる通りだわ、晴明様。私は頑張って彼女の後ろ姿を追いかけてて、何度もつまずいて、何度も立ち上がった。彼女のために、私はこの国を変えたいと思った。しかし最終的に、彼女も私を邪魔していると気付かされた。幼い頃、尾羽が不完全なせいで、歩くことすらままならなかった。その時は姉様が苦労して、満開の舞の残本を修復してくれた。舞を手取り足取り教えてくれたおかげで、足と尾羽はやっと治った。満開の舞を練習する時はつらい思いしかない。でも姉様と一緒に練習する時だけ、少し楽になる。書庫の古文書も、全部姉様が修復したもの、以前の私は古文書を紐解き、本の世界に浸っていた。姉様がいたからこそ、今の私がある。孔雀の国の王として、民の期待に応えるため、私は躊躇せずに冷静な判断をするべきだった。でも……私は彼女に向き合う勇気すら持ってない。不甲斐ない自分がとても憎い。」【晴明】 「あなたは他でもなんでもありません、あなたは孔雀明王、同時に青でもあります。そして白の女王の妹であることも永遠に変わりません。今まで、あなたは孔雀の国のために抗っています。自分の気持ちを抑え込み、皆の前で強がっている。しかしこのままでは、いつか必ず背負うものに押し潰されます。」【迦摩天幻影】 「足掻けば足掻くほどつらくなる。いっそう何もかも忘れて、我と一緒に堕ち、楽しいことも、辛いことも、絶望した思いも、悲しい思いも、全部なくなるんだ。」執念の魔は拘束されている孔雀明王におびただしい数の砂の刃を投げ飛ばした。その時、一人の幼い女の子が現れ、彼女の代わりにすべての攻撃を引き受けた。【孔雀明王】 「青!」【青】 「ずっとあなたに憧れていて、あなたはおとぎ話に出てくる英雄みたいで、私なんかが想像すらできない存在。あなたになりたいなんて一度も思わなかった。あなたが色んなものを捨てざるを得ないのは知っている。あなたはそんなことを求めていない、だから辛い気分にさせる。でもそれこそが人生じゃないか、時につらい選択をしなければならない。でも信じている。強い心を持つ舞姫なら、どんな事故が起きようと、きっと躊躇なく踊り続けると思う。違う? だから、自分の気持ちに素直になって選択をするのよ。」言い終わった瞬間、傷ついた幼い青は、体が透け消え始めた。執念は再び白の女王に化け、孔雀明王に向かって手を広げる。【白の女王幻影】 「おいで、私の懐で眠りについて。あなたを慰めて、つらいことから解放してあげるわよ。」しかし白の女王の下半身には、恐ろしい巨口が浮かび上がってきた。孔雀明王は姉様の幻影をまっすぐに見つめ、彼女との思い出を、優しさを、抱擁を、言葉を思い返している。昔の自分は確かにそれに溺れたかった。やがて、茨を振りほどいて高く飛び上がった孔雀明王は、襲ってくる執念の魔に向かって羽の剣を振り下ろした。執念は忽ち塵となって消えた。【孔雀明王】 「私は逃げないよ。もし彼女が本当に悪神の味方になったのなら、私が必ず取り戻してみせる。しかし彼女は言うことを聞かず、悪神に組するのを諦めなければ、この手で引導を渡す。彼女の命を絶ったあと、私は強く抱きしめてあげ、目を閉じてあげ、歌を聞かせてあげる。何であれ、彼女は私の姉様、私が大切にしていた姉様だから。これが答えなんだ、私はもう迷わない、旅の結末を迎えよう。」——平安京 寝台の上で目覚めた晴明は、ずきずきするこめかみを押しながら、長い夢を見た気がした。彼が目覚めたのを確認すると、隣にいた孔雀明王は微笑んだ。【孔雀明王】 「晴明様。ありがとう、呼び覚ましてくれて。」 |
捌
捌ストーリー |
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数日後、平安京には祈念の力が満ち、特別な祈りの力が流れていた。ここ数日城を守っていた兵士と陰陽師たちは不思議な力に癒やされ、疲れも不安も吹き飛んだ。【源氏の武士】 「家族が俺たちを待っている。」【賀茂の陰陽師】 「もうすぐだ、必ずまた会える。」平安京の中心にある舞台は飾り直され、祭りに参加していた舞姫と式神も全員出て行き、演奏者も全員入れ替わった。須佐之男と荒は幻術を使って人混みに紛れている。舞台の上で、数日間にわたって踊り続けた二人の神女は、疲れるどころか一層元気になっていた。【孔雀明王】 「これだけたくさん祈念の力が集まるなんて、太陽の女神は大人気のようね。これから、祈念の力を太陽の中に注ぎ込む。」【鈴彦姫】 「孔雀ちゃん、ここからが本番だ。準備はいい?」【孔雀明王】 「もちろんよ。そっちこそ、目が回って私の尾羽を踏んだりしないように気をつけてね。」【鈴彦姫】 「あはは、心配いらないよ。例え目が回っても、あんたの尾羽を傷つけるようなへまはしない!」鼓の音が再び鳴り響く時、二人は本番の祈祷の舞を踊り始めた。舞と共に、溢れる祈念の力が舞台の中央に押し寄せてくる。炎を裾に纏った鈴彦姫と尾羽を光らせた孔雀明王が、二人同時に神楽鈴を掲げる—— 集いし祈念の力が太陽に注ぎ込まれ、人々は眩しい光に包み込まれた。太陽の薄い外殻ごしに、眠る女神の姿が見える。【須佐之男】 「(天照様は、数千年の間、一度も離れなかった。)みんな下がれ、空中に何か現れた!」【神啓荒】 「結界を強化し、舞台を守れ。」眩しい光が収まると、数十匹の黒い巨蛇が空から落ちてきた。巨蛇は激しく舞台にぶつかったかと思うと、周囲から襲ってきた。舞台は一瞬にして蛇の群れに囲まれた。【神啓荒】 「星羅雲布!」幻境結界を展開した荒が、星海で舞台を囲む。幻境に隠れていた源氏の鬼兵部も同時に現れて刀を振り下ろし、敵に無数の傷を負わせて巨蛇を撃退した。【源頼光】 「おや?蛇の毒血が土を侵食している。さては地下から結界を突破する魂胆だな。」【八百比丘尼】 「ふふ、地下まで結界を広げなければならないようですね。」【晴明】 「博雅、三本の矢で術陣を地下に打ち込め!神楽、地下にも結界を展開するぞ!」それを聞いた源博雅は高台に跳び上がると弓を構えた。矢をつがえ、結界の楔を土の中に打ち込む。しかし蛇の群れはまだ強化されていない反対側に押しかけ、素早く地下に潜り込んだ。」【源博雅】 「神楽、晴明!あっちは任せるぞ!」【御饌津】 「私に任せて!」次の瞬間、御饌津が放った破魔の矢が風を切り、反対側の楔も舞台の地下に打ち込まれた。土を侵食した毒血が、舞台の真ん中の隙間から湧いてくる。瞬く間に、舞台は毒蛇がひしめく地獄になった。しかし二人の舞姫は驚く様子もなく、毒蛇に囲まれても舞を続けている。【孔雀明王】 「鈴彦姫、火を!」尾羽を広げた孔雀明王は、無数の毒針を放ち、毒蛇を釘付けにした。【鈴彦姫】 「しっかり掴んで!飛ぶよ!」二人は互いを掴んだまま、空を舞う鳥のように高く昇っていく。二人の足元に出現した神火が、毒蛇を灰に変えた。祈念の力が二人の腕を伝って太陽に注ぎ込まれていく。突然、まだ死に絶えていなかった蛇の群れが跳び上がり、祈念の力の奔流に汚れた堕落の力を混入させると、そのまま天照に飛んでいった。」【神啓荒】 「させるか。」光の奔流よりも速い星々が、空から蛇の群れを撃ち落とした。しかしその瞬間、人の顔を持つ巨蛇が突如現れ、光の奔流を一口で呑み込んだ。それでは飽き足らないと言わんばかりに、すぐさま他の祈念の力の奔流を追いかけていく。【神啓荒】 「大蛇神。」【晴明】 「大蛇神はもう討伐したはず、なぜまた現れた?これは幻術か?」【燼天玉藻前】 「幻術かどうか、試せばすぐ分かる。」【晴明】 「玉藻前?お前も来たのか。」【燼天玉藻前】 「晴明、私は賀茂家から便りを受け取ったのだ。ふん、私の逢魔の原に手を出す者は、討ち果たすまでだ。」玉藻前の背後に数台の朧車が現れた。大妖怪たちが朧車に飛び乗り、迅雷のごとく大蛇神を追いかける。しかしまっすぐに太陽に向かい、目標に巻き付いた大蛇神は、太陽を絞め殺そうとした。眠っている天照は辛そうな様子で、無意識にあがき始めたが、やがてその純白の姿は蛇の影に覆い隠された。【神堕オロチ】 「私をもてなすために、これほど豪勢な宴を用意したのか?」ついに巨蛇の頭上に降り立ったヤマタノオロチが、一同を見下ろす。【神堕オロチ】 「しかし、やはり何か物足りないな?」次の瞬間、雷鳴が轟き、荒ぶる稲妻が大蛇神の頭に向かって落ちてきた。それを見たヤマタノオロチは愉快そうに微笑むと、蛇魔を短剣に変えて、正面から稲妻を迎撃した。【須佐之男】 「ヤマタノオロチ。」【神堕オロチ】 「須佐之男。」瞬く間に、雷撃を食らった大蛇神は体勢を崩し、倒れそうになった。しびれた巨蛇はついに太陽を解放し、雲の上から舞台の近くに落ちた。その瞬間、大地をも揺るがす激震が起きた。太陽の中にいる天照はようやく巨蛇の魔の手から解放され、穏やかな眠りを取り戻した。須佐之男が心配そうに地面を見やる。一方で、赤黒い瘴気を漂わせたヤマタノオロチが、未知の力を操り須佐之男に襲いかかる。【須佐之男】 「今度はどこの神を味方につけたんだ?」【神堕オロチ】 「味方だと?下にいるあれのことか?」地面に倒れ込んだ大蛇神の、高く盛り上がった腹の部分が突然蠢き始めた。しばらくして、不気味で青い巨蠍がその鋏で蛇の腹を切り裂いて現れた——【神啓荒】 「あれは、色欲の悪神……」蠍が蛇の腹の中からゆっくりと這い出てきた。しかし全体像が見えたその時、その尾は毒針ではなく、両足を切断された白衣の女であることがわかった。両足を切断された傷だらけの女は、もはや巨蠍の一部となり、恐ろしい怪物と化していた。【孔雀明王】 「……!姉様!」【神堕オロチ】 「我が愛しい悪神たちは、その意志とは関係なく、皆我が手中にある。しかしお前たちの舞姫は……感動的な再会を果たした今、いつまでお前たちの舞に付き合ってくれるだろうか?」【須佐之男】 「蛇神、相変わらず悪趣味だな。」【神堕オロチ】 「奇遇だな、処刑人のお前も全然変わっていないぞ。」二人は空の上で激戦を繰り広げている。須佐之男の雷槍が何度もヤマタノオロチの胸を切り裂きそうになる。一方、ヤマタノオロチは攻撃をかわしながら力を集めている。赤黒い瘴気を手の中に集中させると、彼は突然地面を指差した。瞬く間に、空をも覆い隠す蛇魔の大群が、地上にいる人々を襲い始めた。危機一髪で須佐之男が急降下し、雷霆の盾を呼び出して皆を守る結界を展開した。蛇魔はすぐさま彼に矛先を向けた。【神堕オロチ】 「他人を助ける前に、まずは自分の身の安全を守るべきではないのか?」須佐之男は稲妻のように眩しい光を放つと、一瞬にして周囲の蛇魔を灰に変えた。【須佐之男】 「ヤマタノオロチ、お前は本当に度し難いやつだ。」それを聞いて、ヤマタノオロチは笑った。黒い堕落の力が天照を包み込んだせいで、太陽の光は消える寸前の蝋燭のように暗くなっていく。【神堕オロチ】 「度し難い者なら、他にいると思うが。」——破損した舞台の下 皆は撤退を始めたが、孔雀明王だけはどうしても舞台を離れようとしない。」【鈴彦姫】 「早く行くよ、孔雀ちゃん。あれはもうあんたの姉様じゃない!」【孔雀明王】 「姉様、目を覚まして!私、私よ!」【鳳凰】 「この声……あなたは……青、愛しい青、会いたかった……ずっと、もう一度会いたかった……もう一度踊りたい、一緒に暮らしたい……」そう口にした白の女王の目が、うつろになっていく。何か思いついたようで、蛇に囲まれながら、巨蠍を操って踊り始めた。その舞はとても美しかった。思わず息を殺したくなるほどの悲しい美しさは、永遠に失われた過去を偲んでいるようだ。【賀茂の陰陽師】 「美しい……」【藤原陰陽師】 「も、もう少し近づきたい……」惑わされた陰陽師たちが、次から次へと蛇の大群の中に踏み入れていく。蛇の大群は間髪入れずに彼らに食らいついた。【鳳凰】 「一緒に帰りたかった、一緒に踊りたかった。一番の願いは、あなたと一緒に——」鳳凰は目から紫色の光を放ち、恐ろしい笑顔を浮かべる。【鳳凰】 「——私たちをいたぶり、裏切る者を皆殺しにしたい!」孔雀明王が呆気に取られた瞬間、ようやく会えた姉は突然彼女に向かって毒針を放った。【晴明】 「孔雀明王様!」【鈴彦姫】 「孔雀ちゃん、危ない!」追い詰められた孔雀明王が羽を飛ばして迎撃しようとした時、突然出現した闇がすべてを呑み込んだ。気がつくと、彼女は蓮でできた船の上にいた。【帝釈天】 「白の女王は幻術に長けている。あの場にいた陰陽師たちを魅了しただけでなく、彼女と色欲の悪神の姿を隠すために光をも遮断した。そこで、私は幻術の中にもう一つの幻境を作った。こうすれば、私たちには彼女が見えないが、同時に彼女も私たちを見つけられない。しかしいつまでも通じる手ではない。なぜならば——」その時、千本以上の毒針が正面から二人を襲ってきた。攻撃を受けて、蓮の船は闇の中に消えた。帝釈天が幻境を維持している間に、孔雀明王は毒針を放って敵の毒針を撃ち落とした。しかし攻撃を防ぎきれなかったせいで一撃を食らってしまった。【孔雀明王】 「敵の攻撃範囲が広すぎる。方向がわからなくても、当てることができてしまう。私も同じ技を使えるけれど、闇の中には幻術に惑わされた人々がいる。こんな卑怯な手、姉様が使うはずはないのに……」【帝釈天】 「悪神は卑怯だからな。やめる気がないようなら、一旦勝たせてやろう。」闇雲に放たれた毒針がありとあらゆる方向から襲いかかる。闇の中に出現したいくつもの蓮が、毒針攻撃を受けて転がる死体に姿を変える。二人が乗っていた蓮の船も、血だまりの中に倒れる孔雀明王の姿になった。それを目にした悪神は、予想通り攻撃を中止した。闇の中で正体を現した悪神が、黙って死体に近寄ってくる。時を同じくして、幻境に巻き込まれた人々も次々と蓮の幻影の下から這い出してきた。帝釈天は彼らの気配を隠し、白蓮で導いている。【帝釈天】 「先に幻境を脱出するんだ、悪神は私に任せてくれ。」意外なことに、孔雀明王の死体を目にした白の女王は突然苦しそうにもがき始めた。まるで狂ったかのように、巨蠍の尾から自分自身を切り落とそうとしている。【鳳凰】 「いや……いやだ、離せ、悪魔め!死になさい……全員死になさい!」気が狂った鳳凰は、何の兆しもなく突然幻境の構造を変えた。周囲の空間が崩壊し、中心へと圧縮されていく。巨蠍も闇雲に毒針を射出し始めた。撤退する人々が巻き込まれる寸前で、帝釈天はすかさず霊神体を呼び出し崩壊していく幻境を支えた。【孔雀明王】 「こっちよ!」【帝釈天】 「これは……」間一髪で突然幻境に現れた一本の真っ黒な触手が、二人を庇って毒針攻撃を受け止めた。【孔雀明王】 「敵か味方か?」【帝釈天】 「……味方だ。」【神啓荒】 「しっかり掴め。」次の瞬間、星海が闇を切り裂き、悪神の幻境を完全に破壊した。星々が夜空を、闇の最果てで踊る白の女王を照らした。【神啓荒】 「今だ。」【孔雀明王】 「私の羽を追って!」【神啓荒】 「隕星!」孔雀明王が巨蠍に向かって鋭い尾羽を放った。尾羽に追いつくと、流星は尾羽と一つになり、浄化の神力が宿る毒針となった。浄化の力を持つ毒針は敵の関節の隙間に当たり、そのまま外殻を貫いた。次の瞬間、毒針は次々に巨蠍の体内で爆発した。体の中からの攻撃を受けた巨蠍は、苦しそうにもだえ始めた。同時に尾の部分にいる鳳凰も苦しそうに眉をひそめた。【鳳凰】 「青、青……どうしてこんなことを?あなたも彼らと同じなの?まさかあなたも、私が国を裏切った悪女だと信じているの?」泣き崩れる白の女王を前にして、孔雀明王は戸惑った。【孔雀明王】 「違う……彼らの話なんて、私は一度も信じなかった。」【神啓荒】 「危ない。」巨蠍は幻境のあちこちに毒針を仕込んでいた。白の女王が泣き崩れたその瞬間、毒針は一斉に彼らに襲いかかった—— ——その頃、太陽の近くの空須佐之男が身を挺して太陽を庇った。【須佐之男】 「雷盾。」際限なく発生する稲妻が、太陽を包み込み、守っている。同時に紡ぎ出された巨大な雷の網が、結界の代わりに蛇の大群と人々を隔てた。しかし無限にいる蛇魔もまた、太陽を囲んで食らいつき、毒で雷を打ち消している。【神堕オロチ】 「千年前からずっと思っていた。処刑神と名乗ってはいるが、お前は何よりも守ることを優先する。果たしてお前は役割を間違えたのか?それとも守るべき者を間違えたのか?天照直々に処刑の神に任命されたのに、その両手は処刑のためにあるくせに、人々のためなどと、ふざけたことを——」最後の言葉を口にする前に、突然巨大な槍に下から襲われたヤマタノオロチは、素早く後ろに下がった。須佐之男は再び巨大な化身を呼び出した。巨神は太陽を持ち上げると、蛇の大群をことごとく引き裂き、あっという間に敵を一掃した。【須佐之男】 「お前のおかげで思い出した。」彼の背後では、金色の巨神が太陽を高く掲げ、ヤマタノオロチを睨みつけている。【須佐之男】 「この腕は、守るためにある。そしてまた、殺すこともできる——」刹那の間に、須佐之男は金色の稲妻を纏うと、ヤマタノオロチに襲いかかった。稲妻の隙間を駆けるヤマタノオロチは、時に蛇魔を呼び出して攻撃を防ぎながら上へと昇っていく。蛇剣を持った彼がとうとう太陽の正面にやってきた時、突然現れた雷槍が彼の攻撃を防いだ。突如現れてヤマタノオロチの体を貫いた雷槍は、彼を巨神の手の中に釘付けにした。【須佐之男】 「この世界の未来のために、相手が誰であろうと、俺は必ず処刑を貫く。 |
」痛みに苦しむヤマタノオロチは目を開け、頭上にいる天照を見つめる。胸を貫いた雷槍を抜こうと試みたものの、それは微動だにせず、彼は思わず笑った。【神堕オロチ】 「つまり、勝利はお前にとって容易いものなのだな。」その時、星海を操る荒からの連絡の星が須佐之男の側に現れた。【神啓荒】 「これまで不利な状況に追い込まれるたびに、ヤマタノオロチは必ず罠を仕掛けてきた。今回は違うという保証はない。あの怪しい呪いの烙印のことを覚えているか?」【須佐之男】 「ああ、あの烙印はヤマタノオロチの協力者と何らかの関係があるものだろう。まずはヤマタノオロチを捕縛し、ここで見張っておく。色欲の神は任せた。」【神啓荒】 「千年経って、ようやく忠告を聞き入れてくれるようになったか。」【須佐之男】 「なんだその根拠のない皮肉は?今まで一度でも君の忠告を無下にしたことがあったか?」【神啓荒】 「そうだな、それでも危険を顧みることはなかったが。」——破損した舞台の下 荒が再び闇に目を向ける。【神啓荒】 「君の姉は気が狂ったように、自らの命を削って幻境の構造を変え続けている。星海の輝きさえも、彼女の幻術に遮断されてしまった。」【孔雀明王】 「姉様の気配は完全に消えてはいない。」【神啓荒】 「ほう?」【孔雀明王】 「私たちは幼い頃に舞姫として選ばれ、孔雀の国の繁栄のために悪神に命を捧げる使命を背負ってきた。物心がついた時から、私は舞の練習に打ち込んできた。だからどんなに離れていても、悪神の気配を見過ごすことはない。それに幼い頃からずっと姉様と暮らしていたから、例え五感を失っても、私は彼女のもとに帰ることができる。」【神啓荒】 「星海は遮断されたが、輝きを失くしたわけではない。そもそも星々の輝きは現実ではなく、より高次元の「未来」にある。もし無限に広がる闇の中で悪神の気配を、姉の気配を感じ取れるなら、現在を通じて、「未来」にいる彼らに目を向けてみるといい。」【孔雀明王】 「「未来」に目を向ける?一体どうやって……?」【神啓荒】 「君の場合、彼女の運命の旋律を感じればいいはずだ。いわゆる運命とは、過去から未来へと流れてゆく奔流のこと。」【孔雀明王】 「過去……」孔雀明王は目を閉じ、姉と過ごした楽しい時間を思い返す。彼女の姉は、腰に手を当てている。一方、幼い自分は姉の足を踏み、そのまま姉に導かれている。初春に体を伸ばす花のように、彼女は闇の中でおもむろに踊り出した。【鳳凰】 「一歩、また一歩……旋律に合わせて、神の声に耳をすますの。青、聞こえた?あれは風に揺れる麦の穂の音、咲き乱れる花の音、水と大地の音。すべては神の声、私たちが守っている故郷の音よ。聞こえたかしら?」【青】 「私……そんなに遠くの音は聞こえないし、遠くにいる神様に触れることもできない。でも聞こえた音もある……」幼い青孔雀は、目を閉じて笑顔を浮かべると、そのまま姉に抱きついた。【青】 「私が聞いたのは——」【孔雀明王】 「私が聞いたのは、姉様の……心臓の鼓動——」恐ろしい形相をした白の女王が、闇の中に現れた。その鋭い爪が、孔雀明王の目の前に迫る。しかし、この未来を見通した尾羽が、その攻撃よりも早く巨蠍の殻を貫き、そのまま蠍の尾のほうに飛んでいった—— 悪神の硬い外殻は粉々に砕け、無限に広がる闇もひび割れ始めた。次の瞬間、風の音、水の音、星の輝き、そのすべてが閉鎖された静かな世界に入り込み、内部から世界を壊していった。漆黒の幻境が、世界の足元で轟音を立てて崩れていく——【孔雀明王】 「色欲の神、私はもう幻境に囚われたりしない。過去は恋しく思うけれど、過去に留まりはしない。すべてを失った私は、背後の奈落に呑み込まれないためには、前に進み続けるしかない。そして今、私は奈落となる。あなたを呑み込んで、葬り去ってあげる。」 |
玖
玖ストーリー |
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【孔雀明王】 「姉様、必ず呼び覚まして、色欲の神の魔の手から解放してあげる。待ってて。」戦いに負けた色欲の悪神は、外殻が砕けて倒れる中、無意識に白の女王を庇い皆の攻撃を受け止めた。【迦摩天】 「……ごほっ……白。」最後にもう一度か弱き白の女王を守ろうとしたが、その前に力尽きて倒れた。爆発が引き起こした火花を追いかけて現れた孔雀明王は、目の前に広がる光景を見た—— かつて美貌を誇り、美しく舞い踊った白の女王は見る影もなく、歪で不完全な怪物になってしまった。血まみれの彼女は、両足の代わりに切られた蠍の尾を使い、蠢き、あがいている。目覚めた白の女王は、いくらか自我を取り戻したようだ。目の前にいるのが誰なのかわかった時、彼女は嬉しそうな表情を見せた。【鳳凰】 「青、どうしてここに?どうやって長老たちから逃げてきたの?」孔雀明王の額を撫でる彼女の喜びは、徐々に戸惑いへと変わっていった。【鳳凰】 「いつの間に……こんなに大きくなったの?」孔雀明王は彼女の手を掴むと、力強く握りしめた。【孔雀明王】 「姉様、私たちが別れてから、もう七年過ぎたのよ……」【鳳凰】 「七年……七年か……道理で美人になったわけね、一瞬分からなかったわ。」【孔雀明王】 「姉様、どうして……」【鳳凰】 「十数年前、即位の時、私は婚姻の秘密を、色欲の神が代々の女王の力を吸い取る悪神であることを知った。長老は真相を知りながらも、各地で女王の候補者を選び、孔雀の国に奉仕するとかこつけて、悪神に命を捧げるよう命じていた……彼らこそが本当の悪神よ。彼らの心に巣食う悪が、何千年もの間、孔雀の国を支配し続けてきた。そして悪神の毒は、いよいよ孔雀の国のすべてを侵した。土、作物、人の心、すべて悪神の支配下に入った。本当の悪を絶つために、私は神宮に嫁ぎ、自分の気持ちに嘘をついて迦摩天を夫にした。迦摩天が無防備になった時に、奇襲を仕掛けたわ。手間をかけて準備した幻術だったけれど、本当に効くとは思っていなかった。それはあくまでも、私は今まで彼に殺された女王たちとは違うと伝えるためにすぎなかった。」——数年前、悪神の宮殿【迦摩天】 「……面白い女だ、幻術に長けた女を見るのはいつ以来か。どれだけ努力をしても、結局生きながらえることはできないのだ。」【鳳凰】 「最初から、生きて帰れるとは思っていません。」【迦摩天】 「ほう?」【鳳凰】 「あら、迦摩天様は少し自惚れていらっしゃるのでは?あなたの手に落ちるよりも恐ろしいことなど、ないとお思いですか?ご存知ですか?孔雀の国において、色欲の神はもはや名ばかりの神に過ぎません。権力を握る長老たちは、どんな悪辣な手段も厭いません。この点に関しては、迦摩天様はその足元にも及ばないでしょう。」【迦摩天】 「美しいだけの玩具のくせに、大層なことを言うな。」【鳳凰】 「玩具ですか?ですが迦摩天様、長老たちから見れば、迦摩天様も玩具に過ぎません。力をもらえなかったことで、彼らは逆恨みして、迦摩天様を排除する方法を見つけたのです。それだけでなく、家族を利用して私を脅し、迦摩天様を始末しろと命じました。」最初、迦摩天は彼女の言葉を信じなかった。彼女を宮殿に閉じ込めると、彼は傷つけたり、癒やしたりしてあらゆる刑罰を試みた。しかし何度繰り返しても、女王の心は折れなかった。【迦摩天】 「本当に面白い女だ、どれだけ刑罰を受けても同じことを言い続ける。どうやら老いぼれどもに罰を与える必要があるようだ。」【鳳凰】 「孔雀の国の実権を取り戻したくはありませんか?私は長老たちの隠れ家を、城を守る守備軍の拠点を知っています。」【迦摩天】 「名ばかりの女王に甘んじる汝ではなかろう。汝もまた欲しているのだろう……唯一無二の権力者の座を。しかし、汝が長老たち以上に吾に尽くすという保証がどこにある?ならば、吾と契約を結ぶのだ。吾が死ねば、汝も最期を迎える。」それを聞いた白の女王は、顔色一つ変えずに指の腹を噛み破ると、迦摩天に手を差し伸べた。【迦摩天】 「我が妻よ、こうも安々と残酷な決断を下すとは、一体どんな地獄を経験してきたのか。」【鳳凰】 「私は地獄を体験したわけではありません……むしろこの世で一番素敵なことを経験したのです……おかげで国の頂点に、迦摩天様の前に立つことができました。」【迦摩天】 「それは何だ?」【鳳凰】 「……」その後、白の女王と手を組んだ迦摩天は、何度も長老たちの領地を襲撃し、その勢力を削り続けた。数年後、長老の半分以上はすでに命を落としていた。女王の座は空いたまま、国中は不穏な気配が漂っていた。その時、孔雀の国中に名を轟かす神女に関する報告が届いた。その正体を知った白の女王は居ても立っても居られなくなり、ついには悪神に懇願した。【鳳凰】 「我が愛しき夫よ、あなたは孔雀神女のことをよく思っていないと聞きました。彼女との交渉はどうか私に任せてください。必ずや御身の前にひれ伏すよう説得してみせます。」【迦摩天】 「余計なことはしなくていい。神女とやらのために頭を悩ます必要はない。やつを殺すことなど容易いことだ。」【鳳凰】 「そうですね、迦摩天様にできないことはありません。お怒りが収まらないようでしたら、私が舞を捧げましょう。」ひらひらと舞いながら幻境を展開した鳳凰は、迦摩天に不意打ちをかけた。鋭い羽が彼の胸を切り裂き、もう少しでその首を切り落としそうになった。迦摩天が鳳凰を止めた瞬間、幻境は忽ち消えた。【迦摩天】 「汝の幻術はまた上達したな。このまま精進し続ければ、いつしか吾にも見抜けなくなるかもしれない。しかし残念だが、神女とやらのせいで隙だらけだ。吾を裏切ればどうなるか、わかっているな。吾は汝の国を焼け野原に変え、汝も、汝の妹も葬ってやる。」【鳳凰】 「我が愛しき夫よ、偉大なる神であるあなたが、この程度のいたずらに本気を出すのですか?それに、この数年間それなりに力を分け与えていただきました。まずはその力を取り戻す必要があるのでは?契約を結びましょう。我がすべてをあなたに捧げ、我が血肉はあなたの糧となります。あなたと一つになり、永遠にその毒にもだえ続けることを誓います。ただし、私が音を上げない限り、孔雀の国を呑み込むことはできません。こんな契約は、いかがでしょう?」【迦摩天】 「はは、面白い。苦痛に歪む汝の顔が楽しみだ。そのための方法ならいくらでもある。その時、果たして汝はまだそう言っていられるだろうか?ただし、一つ条件を加える。汝が降伏した暁には、吾は孔雀の国を、そして汝の一番大切な者をも喰らい尽くしてやる。」——破壊された舞台の下 息も絶え絶えになった白の女王は、近くの灰に目を向けた。【鳳凰】 「数年後、私と一つになった悪神は、孔雀の国に攻め入ろうとしていた。そんな時、突然現れたヤマタノオロチが私たちを喰った。結局私が立てた計画には、何の意味もなかった……」【孔雀明王】 「違う、もし姉様が悪神をけしかけていなければ、長老たちの勢力は衰えたりしなかった。私の計画もうまくいかなかった……」白の女王が孔雀明王の腕を力強く掴む。【鳳凰】 「やったの?」【孔雀明王】 「ええ。」それを聞いて、白の女王は心から安心した。力が抜けた彼女は、孔雀明王に抱かれて、最後の抱擁を楽しんでいる。【鳳凰】 「あなたはもう女王なのよ、みっともない姿を……見せてはいけない。そして私は、先代の女王だから……こんな無様な姿を晒してはいけない。」孔雀明王が素早く涙を拭く。【孔雀明王】 「姉様の言う通り、孔雀の国の女王は古くから、美しい舞が誇りだった。女王でいる限り、民が敬う国王の名に恥じぬ振る舞いをしなくてはいけない。女王は国のために、万物のために舞い、踊る。そして最後の時だけは、自分のために踊る。先代の女王——鳳凰様、汝の波乱に満ちた人生に舞を捧げる!」鳳凰のもう半分しか残っていない体を抱きしめる孔雀明王は、姉の体を隠すため、己のきらびやかな羽衣を羽織らせた。彼女は幼い頃に舞を教えてくれた姉を真似て、蛇の屍が転がる舞台の上で、ゆったりと厳かに舞い踊る。白の女王は子供の頃のように彼女に寄り添いながら、拍子に合わせて失った尾羽を揺らしている。二人は心に刻み込まれた舞を踊りながら、二人しか知らない古の歌を口ずさむ……【鳳凰】 「これが私たちの最後の舞……私が最初に、そして最後にあなたに伝える舞……忘れないで、あなたは国を統べる者、人々が憧れる偶像、女王だということを。でも私の妹であることも、まごうことなき真実。舞姫ではないあなたは、誰にも属さない。あなたは、私の自由な妹、私の…………自由の夢。」【孔雀明王】 「約束する。私は自分を貫いて、孔雀の国を平和な国に変え、すべての舞を新しい未来を迎えるためのものにしてみせる。」舞台の近くにいる人々は、二人の女王の別れに感動していた。【鈴彦姫】 「あんたは……?」【阿修羅】 「舞台上のあの人に借りがあってな。心配するな、手を出すつもりはない。しかしあの巨蠍の呪いは……何やら懐かしい気配を帯びているようだ……」【御饌津】 「晴明様、そろそろ最後の悪神を封印しましょう。」それを聞いて我に返ると、晴明は頷いた。【晴明】 「そうだな。」晴明が天羽々斬を呼び出す。その時、巨蠍の体が透明になったかと思うと、その腹部にある呪いの烙印が突然眩しい光の奔流となり、天羽々斬に向かって飛んでいった。【神啓荒】 「晴明、やめろ——」——その頃、太陽の近くの空 ヤマタノオロチは金色の巨神の手の中に釘付けになっている。須佐之男は稲妻を呼ぶと、それを金色の鎖に変えた。しかし何度も地上の人々の様子を覗いていたヤマタノオロチは、晴明が天羽々斬を取り出したのを見て、謎めいた微笑みを浮かべた—— 巨蠍の腹部にある呪いの烙印が、突然怪しく光り出した。次の瞬間、いくつもの天羽々斬が抜かれた。刀身に呪いの烙印が浮かび上がった天羽々斬は、何かを探すかのように振動し続けている。 一方、須佐之男が作った稲妻の鎖も、赤黒い蛇魔と化した。同時に、彼の手に集う荒ぶる赤い稲妻は、恐ろしい威力の、荒々しい雷霆となった。集い続ける稲妻は暴走し、巨大な赤い雷槍を形作った。突然放たれた赤い雷槍は、巨神の手を振り解き、太陽に襲いかかる。須佐之男はすぐに右手に金色の鎖を作る。一瞬で雷槍に追いついた鎖は、太陽に刺さる前にそれを縛り付け、動きを封じた。ヤマタノオロチはその機を逃さず拘束から逃れた。雷槍を掴み、腐敗の力を発動すると、槍は獰猛な蛇魔となって須佐之男に襲いかかった。【須佐之男】 「姑息な手を。」【神堕オロチ】 「須佐之男よ、今のお前はもう処刑人などではない。血の匂いを嗅ぎ、本性を現した獣だ。今も鮮血の味を欲している。」そう言うと、ヤマタノオロチは巨神の体のすぐ側を急降下した。須佐之男もすかさずその後を追う。赤黒い稲妻が何度も蛇神を撃ち落とそうとしたが、力が暴走しているせいで回避されてしまった。それを見た須佐之男が加速して、ヤマタノオロチを追いかける。しかし突然足を止めたヤマタノオロチは、唐突に振り返ると、槍で須佐之男を突いた。須佐之男は間一髪で、暴走している左手で槍を受け止め、腐敗した槍に左肩を貫かせ、その激痛を利用して暴走した力を抑え込んだ。見上げると、笑みを浮かべるヤマタノオロチと目が合った。【神堕オロチ】 「「神器は処刑の神の骨を芯とする」。それがどの骨か、ずっと考えていた。」槍先が須佐之男の骨の隙間に入り込む。一度槍を回して簡単に抜けないようにすると、ヤマタノオロチは須佐之男を巨神に叩きつけた。【神堕オロチ】 「神は並ならぬ回復力を備えているものだが、その中でもお前はすば抜けている。あの時えぐり出された骨も、すでに生えているだろう。しかしつまるところ、それが骨であることは、天羽々斬がお前の一部である事実は変わらない。六悪神がかつて天照の一部であったように、私がかつて虚無の海の一部であったように。善悪が混ざる時、隔てることのできない純粋な魂が初めて誕生するように、どこに逃げようと、それは必ずお前を見つけ出す。そう、まさに今のように。天羽々斬は、妖魔はもちろん、神々を含む、数え切れないほどの命を処刑してきた。そして今、罪はすべて元の場所に戻った——それはお前の新たな骨となり、お前のすべてを塗り替えようとしている。」そう言うと、彼は槍の柄を握りしめ、須佐之男の左肩にさらに深く刺した。【神堕オロチ】 「処刑の神よ、罪を認めるか?」ヤマタノオロチが腐敗した雷槍を抜くと、瞬く間に、須佐之男の左肩から腐敗した血が噴き出した。【神堕オロチ】 「天羽々斬を作った時、天照は教えてくれたか?すべての殺業は、やがてお前に返ってくると。滅びの女神のお気に入りのものを横取りするとは、須佐之男、お前は本当に度し難い。今こそ、お前が侵した罪を思い知らせてやる!」須佐之男が赤黒い堕神の血で血まみれになると、禍々しい力は赤黒い蛇の大群へと姿を変え、須佐之男の金色の体を完全に包み込んだ。 ——破壊された舞台の下 地上にいる人面の巨蛇が再び蠢き始めた。突然口を大きく開いた巨蛇が、人々に激突する。祈祷の舞を捧げる舞台は重圧に耐えられなくなり、巨蛇に押し潰された。間一髪で、孔雀明王は羽を飛ばして結界の四角を繋ぎ留めた。【孔雀明王】 「いけない、さっきの怪しい烙印のせいで、巨蛇がまた蘇った。」【鈴彦姫】 「もう少し耐えて!」鈴彦姫は舞台だった廃墟に飛び乗り、七支刀を利用して舞台を支えた。巨蛇の腹部から噴き出す毒血が無数の蛇に化け、すでに限界を迎えた結界を破壊した。【縁結神】 「早く乗るのじゃ!」地面すれすれを飛んできた朧車が生存者を乗せていく。しかし少し進むと、朧車は急に空中で止まった。蛇の大群が互いの尾に噛みつき、朧車に絡みついている。【燼天玉藻前】 「焚天九尾。」妖力が生み出した狐が蛇の大群に切り込み、瞬く間に周囲を火の海に変えた。蛇の大群は朧車への攻撃を諦めたものの、次の瞬間、びっしりと建ち並ぶ民家に火事を蔓延させるため、動き出した。大惨事が起きる寸前、突然現れた刀が蛇の大群を一掃し、まもなく民家に蔓延しようとしていた火を消した。」【鬼切】 「危なかった。」駆けつけた援軍の鬼兵部は、城を中心に二つ目の結界を縮小し、結界を突き破ろうとする巨蛇を閉じ込めた。【藤原道綱】 「晴明様の策に従って、念のためにもう一つの結界を用意しておいてよかった。」【神啓荒】 「短期決戦で大蛇神を倒す。そうすれば烙印の影響を最小限に食い止められる。」次々に空から落ちてきた流星が、蠢く大蛇神にぶつかり、その動きを封じ込めた。 ——太陽の近くの空 荒々しい雷鳴は鋭い刃のように、須佐之男を覆い隠す蛇の大群を切り裂いた。するとその隙間から、嵐が噴き出した。蛇の腹から尾まで、広範囲にわたって稲妻が炸裂した。まだ動いている巨蛇の心臓を掴んで現れた須佐之男は血まみれで、全身が赤く染まっていた。黒い蛇血を空に巻き上げたせいで、真っ黒な嵐になった嵐は、須佐之男を中心に駆け巡っている。一方、嵐の中心にいる彼の目は、狂気に満ちていた。漆黒の嵐は結界のように、須佐之男と人々を、未だに巨神の手の中で眠り続けている太陽を完全に隔離した。【晴明】 「須佐之男様!」【須佐之男】 「来るな。」【神啓荒】 「須佐之男、悪神を封印した時に浮かび上がった烙印は、ヤマタノオロチが天羽々斬に残した印、そして君にかけた呪いだ……しかし悪神はまだ全員封印されてはいない。だからこの術は未だに完成していない。一刻も早くヤマタノオロチを止めるんだ——」彼が言葉を言い終わらぬうちに、須佐之男の手足にはめられた枷が壊れて空に舞い上がった。次の瞬間、それらは矢のごとくヤマタノオロチめがけて飛んでいった。【須佐之男】 「くたばれ。」【神堕オロチ】 「そうとも、それこそがお前の帰結、お前の定められし結末だ。私を追いかけ、渇望し、喜ばせろ。」そう言っているうちに、すでに目の前に迫ってきた須佐之男がまっすぐに彼の首を狙う。ヤマタノオロチは宙返りして攻撃をかわしたが、次は腹を蹴られ、巨神に叩きつけられた。攻撃をかわすだけでも精一杯だというのに、ヤマタノオロチはむしろ楽しそうに、不敵に笑っている。まるですべてが彼の予想通りだと言わんばかりだ。須佐之男が再び近くまで迫ってきたので、ヤマタノオロチは慌てて近くの蛇魔と入れ替わった。次の瞬間、蛇魔は心臓を抉り出されていた。まだ動いている蛇魔の心臓を握りつぶした須佐之男は、妙に落ち着いていて、冷たい表情をしている。【神堕オロチ】 「そう、それこそが真のお前だ。」須佐之男は何度も必殺技を繰り出したが、ヤマタノオロチは己に化けた蛇魔を呼び出し、蛇魔の中に紛れている本当の彼を探す須佐之男を笑みを浮かべながら見ていた。そして彼は、天照の側にやってきた。蝕まれた太陽の外殻は、もはや侵入者を拒まない。邪神はいとも容易く太陽を守る結界を突破した。ヤマタノオロチは親しそうに天照に近寄ると、彼女の髪を優しく撫で始めた。【神堕オロチ】 「女神天照よ、眠っている時は、いつもより素直だな。今のお前は、頑なになって切り離された憐れな分身たちを拒んだり、残酷に慈悲のない判決を言い渡したり、独断で人々の選択に干渉したりしない。今、分身たちの力を感じただけなのに、お前はすぐに懐いてくれた。むしろこっちが戸惑うほどだ。ならば、私の帰還を迎える役は、お前が適任だろう。」天照の側にいるヤマタノオロチを見た須佐之男は何も言わずに突進し、一突きで彼の心臓を抉り出した。しかしそれもまた身代わりの蛇魔だった。天照から離れたヤマタノオロチが、瘴気を操り始めた。赤黒い瘴気に包み込まれた天照は、人形のようにぎこちなく動いた。【神堕オロチ】 「決死の思いで彼女を救おうとしているのに、肝心の本人は感謝することもなく、いつまで経っても目覚めない。一方、高天原の殺戮の刃たるお前は、天照のために処刑を行っている。しかしその殺業は、いずれお前の罪となる。自分だけは異なる結末を迎えると、一体なぜそう思う?」【須佐之男】 「王の気高さは、選択によって決まる。俺の結末は、俺が決める。もし俺が己の殺業によって堕神になるとしたら、ヤマタノオロチ、お前の堕落は、節操なく罪人を許すことにある、お前自身も含んでな。」【神堕オロチ】 「実に面白い。お前は天照を守るためだと言い張るが、前にも言ったように、お前と私は似た者同士だ。お前は仕えるべき神を、歩むべき道を間違えた。私が正しい道へと導いてやる。お前は思う存分処刑し、断罪するがいい。今、私は最高に滾っている。この痛快この上ない気持ちは、お前にも伝わったか?私のように、身も心も自由になれたか?」無数の漆黒の稲妻が夜空を切り裂いた。大気をも揺るがす雷鳴は、世界を滅ぼそうとしているかのように荒々しい。稲妻は一度にすべての蛇魔を呑み込んだ。黒焦げの死体が次から次へと地面に落ちていく。【神堕オロチ】 「お前は何度も見ただろう?私が世界を滅ぼし、天照を殺し、お前の愛する人々を最も憎い存在に変えるのを。それでも言い切れるのか?お前は私に殺意を抱いていない、殺業に溺れてはいないと。お前の行いはすべて、人々のためだと言い切れるのか?そうやって、お前の罪を、人々に押し付ける気か?」それを聞いた須佐之男は、ただ冷たい表情で彼を睨みつけるだけで、質問に急いで答えようとはしなかった。彼の背後では、金色の目を持つ巨神が太陽越しに、冷静にヤマタノオロチを見つめている。【須佐之男】 「もし俺が殺戮に溺れたら、それは殺戮に溺れたかったからだ。故に、人々に罪はない。罪は俺にある。」荒ぶる雷霆の中、力が無限に湧いてくる須佐之男は、漆黒の嵐を操り平安京の上空を席巻した。空を切り裂く黒い稲妻が、空中に巨大な割れ目をいくつも残した。赤黒い雷槍が空高く舞い上がり、彼の手の中に戻った。振動しながら行き来する天羽々斬は、命令を待つ血に飢えた獣のようだ。【神堕オロチ】 「さっきお前に追いかけられている間、お前は自分こそがこの場を支配していて、私は逃げ惑うことしかできないのだと思っていただろうが、お前が引き起こした嵐のおかげで、私は太陽を蝕む血霧結界を設置することができた。これほど広い範囲に血の霧を散布できたのは、須佐之男、全部お前の自惚れのおかげだ。」【須佐之男】 「ふん、結界だろうが、血の霧だろうが——ぶち壊すまでだ!」言ったそばから、雷雲を従えた強風が吹き出した。血の霧に触れた瞬間、風は雷鳴を轟かし、すぐさま暴雨を召喚して血の霧を洗い落とした。一方、須佐之男は右手で突然槍を掲げると、容赦なく傷だらけの左腕を貫いた。堕神の力に侵された左肩甲骨が砕ける。須佐之男は槍を回して左腕の半分の骨を抉り出すと、腐血が体外に流れ出た。槍から振り落とされた腐血は、ようやく元の金色に戻っていた。【須佐之男】 「これは霧ではなく、俺にかけた呪いを加速させる毒だ。ここには結界も設置されてないし、霧もお前がよく使う目眩ましの術にすぎない。本当の狙いは、俺にかけた呪いをごまかすことだろう。」毒霧が晴れた瞬間、雷雲もまた消えた。槍を構えた須佐之男は、まっすぐにヤマタノオロチを見つめている。そして金色の巨神も再び太陽を高く掲げ、両手で太陽を守っている。【神堕オロチ】 「残念だ。もう少しで、お前は呪いに乗っ取られ、その手で太陽を撃ち落とし、太陽の女神と共に落ちるところだった。何度も情けをかけてやっているのに、その都度拒絶するのだな。」【須佐之男】 「お前はよく言ってたな、この世で最も称賛に値するのは命のあがきに他ならないと。なのに、俺の話になると、そのあがきすらも見届けてくれないのか?」【神堕オロチ】 「命は儚きもので、同時に変化に富んでいる。ただし、お前は違う。どうしても見届けてほしいなら、最後の情けをかけ、お前に答えを示そう。」【須佐之男】 「よく言ってくれた。俺が探し求める答えは、すぐ目の前にある。それは人の世のために抗い続ける神、そして互いのために尽くす人々だ。彼らは俺の戦士であり、俺の友人でもある。いつも世界を救うのは、その世界の住民に他ならない。彼らを見つけた俺はもう、見失うことはない。」ヤマタノオロチが蛇の大群を呼び出すと、須佐之男は稲妻を召喚した。血の海から空に昇る蛇の大群と、空から落ちる稲妻が途中でぶつかって激突する。黒い妖気と金色の神力が炸裂し、血しぶきが飛び散る。血しぶきを踏み台にして、須佐之男が素早くヤマタノオロチに迫っていく。次の瞬間、蛇神は短剣で攻撃を受け止め、袖の中にいる蛇魔を雷槍に絡ませた。須佐之男が躊躇った瞬間、ヤマタノオロチが上から剣を振り下ろしたが、須佐之男はすかさず雷槍を手放して攻撃をかわした。ヤマタノオロチは畳み掛けるように次の攻撃を発動し、数匹の蛇をけしかけて敵の両足に絡ませた。敵の動きが止まった一瞬を狙い、ヤマタノオロチは首をめがけて剣を振るった。しかし攻撃が当たるより先に、腹部に激痛が走った。拘束から逃れ須佐之男の召喚に応えた雷槍が、背後から彼の体を貫いていた。状況を確認するなり、ヤマタノオロチは後ずさって雷槍から逃れようとしたが、須佐之男は機を逃さずに詰め寄ってきた。【神堕オロチ】 「お前……」【須佐之男】 「今度こそ、逃さない。」——破壊された舞台の下 朧車から降り注ぐ狐火や妖火、神火、孔雀羽が、大蛇神の動きをすべて封じ込めた。【孔雀明王】 「一人目の悪神に勝った私に、他の悪神に負ける理由はない。孔雀の国の力を、今こそ見せてあげる。」【鈴彦姫】 「あたしの七支刀を蛇に汚させはしないよ!」根を下ろした蓮が、人知れずに巨蛇の体に絡みつく。時を同じくして、脆そうだがとても強靭な赤い糸も巨蛇に絡みついた。【帝釈天】 「それは……」【縁結神】 「大したものではないのじゃがな、気に入ったのなら買うこともできるぞ。これは独身の者や記憶を失った者によく効く赤い糸じゃ。」【孔雀明王】 「どうやら今日の舞は、まだまだ終わらないようね。」二人の足元では、妖火、神火、狐火、三色の炎が燃え盛っている。そして蓮、赤い糸、血肉の欠片、様々な物が二人の周りに転がっている。【孔雀明王】 「みんな、もう一度道を切り開いて!」【鈴彦姫】 「みんな、もう一度音楽を奏でて!」朧車に乗った妖怪たちが祈祷の舞の旋律に合わせて陣太鼓を打ち鳴らし、大妖怪たちに続いて蘇った大蛇神に向かっていく。陰陽師たちも呪文を唱え、何度も結界を強化する。二人の目の前で巨蛇が顔を高く上げると、次の瞬間には皆の攻撃を喰らっていた。人々の頭上、激戦を繰り広げる須佐之男とヤマタノオロチの頭上、雲の上にいる巨神の頭上、その高く掲げる腕の中で眠っている太陽は、眩しい光を放っている——【鈴彦姫&孔雀明王】 「神様、どうか私たちの祈りを聞いてください!これは大空の歌、大地の吐息。神の民が、神の帰還を求める祈り!」 |
拾
拾ストーリー |
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皆の総攻撃を喰らい、大蛇神は倒れた。祈祷の舞の力は絶え間なく太陽に注ぎ込まれている。しかし天照を囲むヤマタノオロチの赤黒い瘴気は、最後の牢獄であるかのように、眠る女神を拘束している。【神堕オロチ】 「新世界を降臨させたら、高天原の神王をこの世から消し、神々の法則を完全に無にする。その時、浮世には罪がはびこり、衆生は法に縛られない自由を手に入れるだろう。」次の瞬間、槍に貫かれたヤマタノオロチは堕神の力を集め、不動の構えをとった須佐之男に急襲を仕掛けた。雷槍を抜いた須佐之男は、槍に染み付いた蛇血を振り落とすと、今度は正面から迎え打つ。 |
拾壱
拾ストーリー |
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【神堕オロチ】 「思う存分追いかけ、探し求めるがいい。殺戮こそが、お前の救いなのだ。」【須佐之男】 「いつまで隠れているつもりだ?」【神堕オロチ】 「私は隠れてなどいない。目の前にいるのに、お前が私を見ないのだ。お前はいつもそうだが、私はとっくにお前を見抜いている。お前の友人たちは、今のお前を目にしたら、一体どう思うだろうな。」握りつぶした蛇魔が晴明に化けたので、須佐之男はヤマタノオロチの首を絞めた。しかしヤマタノオロチだった者は、倒れながらまた姿を変え、神楽になった。 |
」【神楽】 「皆を守るって……約束したのに……」彼を囲んで無遠慮に哄笑するヤマタノオロチの幻影は、老若男女に、天照に、荒に、陰陽師たちに、彼の知っている人々に化けた。【天照】 「須佐之男……よもやあなたは……」須佐之男が恐ろしい唸り声を上げると、彼の召喚に応じた雷や稲妻は幾千もの戦馬に姿を変えた。いななきながら空を駆け抜け、怒涛の如く彼に突進していく。空を駆けて現れた幾千もの戦馬は、崩れた山のように須佐之男に押し寄せていく。稲妻となった戦馬が、鋭い爪を生やした彼の右手に絡みついた。雷がひしめく蛇を一掃し、それらを全て灰に変えた。【須佐之男】 「罪も世界も、俺が全部背負ってやる——」雷の閃光が走り出したその瞬間に、須佐之男の右腕がヤマタノオロチの左胸を貫いた。稲妻がヤマタノオロチと黒い蛇の大群を呑み込む。雷に包まれた世界が血色に染め上げられていく中、ヤマタノオロチはただめまいを覚えた。しばしの沈黙のあと、赤い世界に雷鳴が轟いた。血色が褪せると、闇の中に無表情の須佐之男が現れた—— とっくに臨界点に達した嵐の結界は、これ以上稲妻の力に耐えられなくなり、音を立てて砕けた。無数の雷に貫かれたヤマタノオロチが重傷を負った時、須佐之男の周囲を漂う毒々しい堕神の力が太陽のほうに拡散していった。その瞬間、空から星々が降り注いできた。【晴明】 「須佐之男様。」時を同じくして、いくつもの呪符が結びつけられた矢が放たれた。炸裂し、太陽を中心にいくつかの結界を展開する。【御饌津】 「皆危ない、離れて!」【神啓荒】 「目を覚ませ、須佐之男。それは本当の君ではない。」静かで神秘的な星海が、この世の全てを包み込んだ。【神啓荒】 「我が友、我が先導者は、悪意に心を委ねる暴漢ではない。彼はこの世で、この星海で、最も眩しい雷光だ。」波立つ海に呼び起こされた須佐之男は、水に濡れた髪をかきあげ、無限に広がる星空を見上げる。空を彩る星々や、さざなみが立つ海を見て、彼は一瞬茫然とした。周囲で戦っている人々を目に捉えると、須佐之男の周りを漂う赤黒い瘴気は、徐々に抑制され、消え始めた。【須佐之男】 「荒の言う通りだ。俺は彼の友であり、また危険を顧みずに戦っている人々の友だ。俺は人々のために道を切り開く先駆者であり、同時に皆を支える後援者でもある。」重傷を負ったヤマタノオロチがじきに拘束を破り、巨神から飛び降りようとしているのを見て、須佐之男は一歩前に出ると、落ちていく彼に稲妻の鎖をかけた。あと数寸で地面に触れようという時に、ヤマタノオロチは捕縛された。須佐之男が天照を抱き抱え、太陽の女神を安全な結界の内部に移動させた。空をも覆い隠す星海や雷光、陰陽術によって紡がれた巨大な網が、眩しい光を放ちながら、ヤマタノオロチのほうに落ちていく。【晴明】 「ヤマタノオロチ、大蛇神が討たれた時から、お前の敗北はすでに決まっていた。」鎖に繋がれ地上に落ちたヤマタノオロチは、目の前にいる人々を見た。【神堕オロチ】 「古来より、霧を讃える言葉は数え切れないほどあった。その理由が分かるか?人々は詳しく知りたいとは思わない。曖昧な部分があるから、美しいと褒めそやし、善と讚称する。こう考えたことはないか?もし天照がその身から悪神を切り落とさなければ、様々な悲劇は回避できていたかもしれないと。」【晴明】 「人々は真相を目にしても、見て見ぬふりをするかもしれない。光を恐れ、遠くに留まるかもしれない。それでも永遠に、真相と真実に憧れ、真理を独り占めすることに憧れる。憧れあってこその恐れだ。持たざる者は失うことを恐れない。真相や真理に関しても、同じことが言える。」【神堕オロチ】 「ほう?ならば、私も天照にならって、己の罪を捨ててみよう。」そう言い捨てると、ヤマタノオロチの体は突然細かくひび割れ、噴火寸前の火山の如く、大量の黒い瘴気を放ち始めた。亀裂だらけの体は、腐敗の力をいつ噴き出してもおかしくない——【神堕オロチ】 「この世に何が起きるのか、お前たちに見せてやろう。」【神楽】 「ヤマタノオロチは何をしようとしてるの?」【縁結神】 「まずい、ヤマタノオロチが正体を現そうとしておるぞ!」【源博雅】 「あいつの正体は蛇じゃないのか?」【八百比丘尼】 「いいえ、それはあくまでも人間界にいる時の擬態に過ぎません。」【孔雀明王】 「こんな恐ろしい力、初めて見る。」【神啓荒】 「ヤマタノオロチの正体は彼の力の源だ。彼が神として象徴する力、そして虚無の海の鍵。千年前の審判の前、私は星海の予言を通じて、審判で正体を現したヤマタノオロチがもたらす災いを見た—— 罪の汚れが世界中を侵食し、やがて世界に滅びをもたらす。」【小白】 「じゃあどうすれば止められるんですか?!」【須佐之男】 「天羽々斬!」須佐之男の召喚に応じ、六振りの天羽々斬がヤマタノオロチの周りに出現した。しかしその時、ヤマタノオロチは軽やかに宙に舞い上がり、怪しい光を放ち始めた。【神堕オロチ】 「天照は自身の罪を切り落とし、神々の王となったのに、私ではだめなのか?須佐之男、お前は悪を切り落とした後の私に顔を合わせる勇気がないのか?私の罪の重さに怯えているのか?真相に、真実に憧れると嘯いたのに、私の真相に、私の心に秘められた真実に、処刑の神は怯えているのか?」須佐之男は何も答えなかった。血まみれの彼は、全力で天羽々斬を操りながら、ヤマタノオロチを追い詰める。何度か攻撃を避けたが、限界を迎えたヤマタノオロチは、とうとう右腕に攻撃を受け、地面に倒れた。次の瞬間、六振りの天羽々斬が同時に彼を貫いた。しばらくすると、彼の体に浮かび上がったひび割れは消え去り、怪しい光も収まった。封印されたヤマタノオロチは空の上にある太陽を見上げた。雲の晴れた空は、澄み渡っている。巨神の手の中にある太陽が、またゆっくりと空に昇っていく。蛇魔の瘴気から解放された太陽は再び眩しい光を放ち始めた。眩しい光の中、聖なる女神が姿を現した。白衣をまとった天照はゆっくりと目を開け、足元に広がる世界と衆生に目を向ける。その瞬間、優しそうだが無表情な彼女が、何かを懐かしむような表情を見せた。光と雲が彼女の足元で階段となる。風は露を揺るがし、森や海や山を吹き抜け、全てを美しい景色の一部に変える。万物は息を殺して待っている。女神が平安京に降り立った瞬間、燃え盛る炎も吹き荒ぶ風も収まり、あらゆる邪悪はたちまち姿を消した。代わりに百花が咲き乱れる。光が降り注ぐと、人々の傷はたちどころに治癒し、心に巣食う不安もどこかに飛んでいった。周囲を見渡すと、人混みの中で星海を操り皆を守っている荒と、血まみれになっても片時も自分の側を離れなかった須佐之男が、天照の目に映った。」【天照】 「須佐之男、荒、待たせました。」須佐之男は何も言わずに片膝をつき、帰還した女神を迎える。人々に囲まれている荒も少し頭を下げ、女神にお辞儀をする。三人は流れるような動きで挨拶を交わした。まるで千年間の別離が嘘であるかのように息ぴったりで、互いを信頼し合っていた。やがて、天照は天羽々斬に封印され、身動きが取れなくなったヤマタノオロチに目を向けた。【天照】 「あなたのことも……待たせたようですね。」【神堕オロチ】 「天照よ、千年ぶりだな。そこにいるのは、万物に息吹を吹き込む女神か、罪を生み出した悪魔か?」【天照】 「千年の間眠っていましたが、ついにこの日が訪れました。私たち三人が千年後のこの時代で再会を果たしたのは、全て運命の導きです。」そう言うと、天照は太陽があったほうを見上げた。そこにある神力で作られた薄い外殻は、暗くなっている。ヤマタノオロチが正体を現そうとした影響を受け、力を失ってしまったそれは、もはや赤黒い瘴気を防ぐことができなかった。【神啓荒】 「やはり世界の運命は、星海の予言通りに動いている……「陰陽の均衡が崩れる時、世に現れし虚無の鍵、世界創造の始まりにて封印されし扉を開く。太陽の女神の輝きにより闇を払わん。」だが我々はヤマタノオロチが正体を現そうとしていたのを止めた。だから扉は完全に開かなかった。代わりに——」人々の注目を浴びる太陽は、やがて赤黒い円環に変わった。それはまるで、空に出現した鍵穴のようだ。その小さい鍵穴を通して、人間界は世界の外側と繋がってしまった。虚無の海の潮音、そして海潮音に混ざったかすかな笑い声が平安京に届いた。【神堕オロチ】 「計画通りでないことも多々あるが、やはり来てくれたか。あの方を世界の内側に降臨させる方法を見つけるために、私は様々な方法を試した。だから「この世界」は「特別なもの」になった。」【須佐之男】 「お前が人間界で幾度も人々を惑わして戦乱を引き起こし、審判儀式を執り行い陰陽の均衡を乱したのは、この時のためか。」【神堕オロチ】 「均衡が保たれた世界は、あの方が降臨するのに相応しくない。今のような乱世は罪が蔓延り、どこもかしこも屍山血河と化している。そして人々は、あろうことか、度重なる滅びや災いに慣れ、何も感じなくなったどころか、それを受け入れ、「あの方」が神であることも受け入れた。しかし残念なことに、舞台は整っても、あの方を召喚するのに必要な器は中々手に入らなかった。もともと器として悪神を使う計画だったが、お前たちに計画を邪魔された。だから天照をあの方の器にしようとしたが、それも叶わなかった。ならば、私が力ずくでこの世界と虚無の海を繋ぎ、この身をもってあの方を召喚する鍵になるしかない——」【晴明】 「邪神ともあろうものが、正体を現し、深手を負ってまでそうするのか。」【神堕オロチ】 「しかし晴明、お前たちは悪神を封印した。それはあの方にとっても、一つの封印に当たる。」【晴明】 「あの方というのは……」がらんとした空洞から潮水が溢れ出し、瘴気が漂い漏れる。ほとばしる神力は真っ黒な色をしているが、同時に僅かな輝きを放っている。星々を呑み込んだ泥水のような深淵は、過去に滅びた全ての世界の輝きに包まれている。【神堕オロチ】 「あの方は、この世で最も素晴らしい女神だ。空洞の中に出現した目が詰め寄ってきて、やがてその穴を完全に塞いだ。巨大で不気味な目は、獲物を見つめる猫のように余裕綽々で、興味津々といった様子で世界を見下ろしている。」【天照】 「ついに現れましたか、何千年も前からずっとこの時を待っていました。伊邪那美。」【伊邪那美】 「これが狭い穴を通して法螺貝の正体を覗く、組み合わされた鏡で万華鏡を覗く人間の快楽か?何万年も虚無の海で過ごし、数多の世界を滅ぼした私は、今になって初めてまもなく滅びる世界がどれだけ美しいものかを知った。道理でヤマタノオロチが道楽に耽るわけだ。私は今日とても気分がいい、あなたたちに神の感謝を授けよう。もうすぐ、私は自らこの世界に降臨し、世界が滅びる最高の一時を見届ける。この世界は特別に、私が直々に滅ぼしてやろう。私を讚え、愛しなさい。そうすれば情けをかけてあげよう。私の指先で、永遠の安息に溺れるがいい。」【天照】 「万物は形作られた時から、滅びる運命にあります。生を授けられた万物は、やがて死ぬ日を迎えます。滅びと死は罪ではなく、命の一部なのです。虚無の海に御座すあなたも、また創世の神であることには変わりません。しかし今、私の民はあなたがもたらす災いに苦しみもだえ、私の目覚めを祈っていました。そして私は人々の祈りに応え、こうしてあなたの前に現れました。闇の女神よ、この場にて、光の女神天照が判決を下します——この世に降臨するなら、人の世に踏み入れた瞬間に、あなたは罪人に、衆生の敵に、神々の恥になるでしょう。その時、私は必ず——あなたに審判を下します。」——夜、晴明たちは庭院に戻った 滅びの女神が現れたあと、陰陽師たちは再び都で結界を設置し始めた。天照と荒は一旦高天原に戻ったが、須佐之男と高天原の神軍は人々を守るために現世に駐在している。一方、ヤマタノオロチは拘束され、牢に収容された。鬼王たちはそれぞれの領地に戻り、まもなく現れる滅びの女神との戦いに備えている。【孔雀明王】 「晴明様、私も帰って孔雀の国の霊脈を修復しなければ。修復が済み次第、できるだけ早く戻ってきて、災難に立ち向かうあなたを手伝うわ。」【晴明】 「今回天照様を呼び覚ますのに協力してくれて、感謝している。姉上の件については、本当に残念だ。」【孔雀明王】 「姉様は……取り戻せなかったけれど、これでいいのかもしれない。姉様が残した白い羽根を持ち帰って、民には白の女王は悪神を討ち、冠婚葬祭までも神に支配されていた孔雀の国は過去に葬り去ったと伝える。もちろん、帰る前に、一つだけあなたの願いを叶えてあげる。私にできることなら、なんでも。」【晴明】 「この前の賭けのことか?気にしないでくれ、あれはもともと私の務めだ。」【孔雀明王】 「……邪心の火を見つけて、呼び覚ましてくれてありがとう。無意識に優しさを差し出すあなたは、本当に魅力的ね。でも、晴明様、一つ告白したいことがあるの。」【晴明】 「告白?」【孔雀明王】 「あなたが寝ている間に、私もあなたの記憶に入った。」【晴明】 「何か見たのか?」【孔雀明王】 「秘密!」【晴明】 「……!」【孔雀明王】 「あまり力になれないけれど、この青い羽根には精神を安定させる効果があるから、身につけていて。もうなくさないでね。私は信じてる。しばしの別れは、素敵な再会のためにあるって。あなたのために祈るわ、私のお化けさん。」【晴明】 「ありがとう、青。」 |
宴の雑談ストーリー
壱
壱ストーリー |
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【陰陽師】 「会場が盛り上がっている。さすがは名を馳せた舞姫が集う宴だ。四人目の舞姫は異国から来たらしい。」【神啓荒】 「いいぞ。」【陰陽師】 「荒様…私はただ見回りに来ただけです。……ついでに四人目の舞姫の情報を集めていました。」【神啓荒】 「あの舞姫が知ったら、喜ぶだろう。彼女は遥か遠くの砂漠の国からやってきた。その国の者たちは、皆踊りに長けている。」【陰陽師】 「機会があったた、ぜひ行ってみたいですね。」 |
弐
弐ストーリー |
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【陰陽師】 「晴明様、今日は何か異常はないですか?」【晴明】 「皆それぞれの持ち場についている。何か起きたらすぐに知らせが届くはずだ。」【陰陽師】 「近くにいる皆も花見、蹴鞠、金魚すくい……をしているように見せかけて、見張りをしています。」【晴明】 「周到だな。会場周りの警戒は皆に任せた。」【陰陽師】 「あの異国の舞姫に人員の手配する必要は?」【晴明】 「大丈夫だ、彼女の部屋の近くで博雅たちが弓の技術を競っている。」【陰陽師】 「博雅さんの弓さばき!私も見に行きたい……いや……今すぐ支援を!」【晴明】 「皆がいてくれれば、心強い。」【陰陽師】 「で、ではあの舞姫の護衛は……」【晴明】 「彼女なら心配無用だ。」 |
参
参ストーリー |
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【神楽】 「お疲れ様、あそこに涼しい飲み物がある、ご自由にどうぞ。」【陰陽師】 「ありがとう。美しい舞が見られるのなら、暑さくらいどうってことないさ。」【神楽】 「この舞……」【源博雅】 「神楽、どうかしたか?」【神楽】 「ううん……昔、神楽舞を練習していた頃のことを思い出しただけ。祈祷の舞は、自分の姿勢や表情を通じて、神様に祈りを伝えるもの。巫女たちが踊る姿は、優雅で神々しい。今思い返せば、心を表すあの舞、姿勢は同じだったけど、みんな表情は違っていた。」【陰陽師】 「巫女たちの心、本当の望みが違ったからか?」【神楽】 「同じではなかったけど、どれも良いものだったと思う。」 |
肆
肆ストーリー |
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【陰陽師】 「比丘尼様は何でもご存じだと皆言っています。」【八尾比丘尼】 「ありがとうございます。」【陰陽師】 「宴が開かれて数日経ちましたが、比丘尼様は孔雀の国に関する噂を耳にしたことはありますか?孔雀の国は王から民まで、誰もが踊りに長けているそうです。そこではどんな宴が開かれるのでしょう。」【八尾比丘尼】 「噂の歌舞と言えば、別の伝説を知っています。海の果てには永生の海があります。そこにこのような宴はありませんが、美しい歌声を持つ鮫人がたくさんいます。人間が海貝に鮫人の歌声を閉じ込めて、都で話題になったこともありました。」【陰陽師】 「比丘尼様、まるでその目で見てきたかのようですね。」【八尾比丘尼】 「ふふ、どうでしょうね。」 |
伍
伍ストーリー |
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【陰陽師】 「ここ数日は順調に過ごせたが、今後どうなるだろう。」【須佐之男】 「ヤマタノオロチが来るだろう。祈禱の舞の結果がどうであれ、万全の準備をしなければならない。俺も全力で力を貸す。」【陰陽師】 「表向きは宴、実際は戦闘に向けての準備ですね……すべてが終わったら、須佐之男様、本当の宴を開きましょう。」【須佐之男】 「……はい。」【陰陽師】 「賑やかな都を思うと、わくわくしてきます。特に夜市がある時は、人通りが絶えません。」【須佐之男】 「彼女が目覚めたら、朝市になるだろう。」【陰陽師】 「今何か仰いましたか?」【須佐之男】 「いや。」 |
陸
陸ストーリー |
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【陰陽師】 「ここにうちわが売られていると聞いたのだが。」【縁結神】 「遅かったのう、今は蛍が入った提灯を売っておる。一つどうじゃ?」【陰陽師】 「涼をとれない提灯なんか、買ってどうするんだ?」【縁結神】 「これは舞姫を応援するための特別な道具なのじゃ。舞を鑑賞していて、灯が消える演出があったら、この提灯を持って舞姫の名前を叫ぶのじゃ。そうするとじゃな、舞姫は人混みの中でお主の蛍火を真っ先に見つけることができるのじゃ。舞姫と視線を交わす好機がそこにある、素晴らしいじゃろう!」【陰陽師】 「一理あるな……」【縁結神】 (万が一が売れなくても、蛍を出して人を集めれば、何とかなるじゃろう……その時はまたうちわを売りさばくのじゃ!) |
漆
漆ストーリー |
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【陰陽師】 「き……緊張する!」【孔雀明王】 「そこの陰陽師、もっとこっちに来なさい。」【陰陽師】 「こほん、失礼……」【孔雀明王】 「平民は安全な場所に移動させたけど、陰陽師たちから家族の話をたくさん聞いた。あなたはどうなの?」【陰陽師】 「心強い仲間が都を守っている、心配はいらない。」【孔雀明王】 「そう固くならないで、仲間や家族を守るためよ。私があなたに合う舞を教えてあげる。」【陰陽師】 「え……わわ、私は霊符の書きすぎて、肩が凝っていて、踊れないんだ……」【孔雀明王】 「どうしてそんなに顔が赤いの?晴明とも踊ったわよ。」【陰陽師】 「顔が赤いのは、暑いからだ!晴明が踊るなんて、信じがたいな……」【孔雀明王】 「さあ、霊符を投げて。小型の武器を投げるのと同じ要領でいいわ。」【陰陽師】 「ちょっと待ってくれ……私は孔雀の国の神様の話を聞きに来たはず……」【孔雀明王】 「ふふふ、安心なさい、冗談よ。」 |
神祈の舞イベント攻略情報 | ||
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木の宝箱 |
第二段階の攻略情報 | ||
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恋色の茨道 |
極悪非道 |
万欲の庭 |