【陰陽師】蠢く蛇影ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の蠢く蛇影イベントのストーリー(シナリオ/エピソード)をまとめて紹介。
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蠢く蛇影ストーリー一覧
壱
壱ストーリー |
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——虚無の海の奥深く 世界の外側、森羅万象の最果てには、永久に涸れることのない虚無の海が広がっている。そこには無数の世界が浮かんでいる。星々の如く数多の世界は、時に津波のように荒ぶったり、時に揺りかごのように優しく揺れたりしている。無限に広がる海面に、ヤマタノオロチが眠っている。深手を負ったヤマタノオロチは、この地でずっと傷を癒やしていた。その間も、彼の意識は人の世に潜む蛇魔に宿り、世界の発展を観察し続けていた。【神堕オロチ】 「人々は喜怒哀楽を持つが、虚無はそれを持たない。しかし虚無の浪は、まるで己の意志を持っているかのようだ。気まぐれな海を操っているのは、一体何者だ?私か?」目を固く閉じた蛇神は、生まれる前に、あの殻の中で見た夢を思い出しているようだ。【神堕オロチ】 「いや。私はこの海に産み落とされた一粒の雫にすぎない。長い間流離い続けながら、ただ一つの世界を探し続けていた。ようやく夜空に輝く星を見つけて以来、目を逸らさずにその星の変化を見つめ続けてきた。世界よ、次の浪が来るまでに、一体どんな輝きを見せてくれる?」彼は蛇魔の目を通じて、須佐之男と荒の協力を得た晴明が、月読と六道の四人の悪神を封印するのを見た。【神堕オロチ】 「月読、持国天、野椎神、魔羅王、一言主……晴明、お前は本当に面白い。一見無欲に見えるが、実は多くの欲望を隠し持っている。須佐之男は……相変わらず虚無の海で暴れているか。」雷鳴が立て続けにヤマタノオロチがいる海面に届く。稲妻の光と星々が長き夜を明るく照らし、夜明けがまもなく来ると告げているようだ。【神堕オロチ】 「須佐之男め、もう私の居場所を突き止めたか……ごほっ……新たな「神王」の協力を得ただけのことはあるな。今回、お前たちは世界にどんな嵐を呼び起こす?」この時、感慨を漏らした蛇神はようやく少し目を開け、気まぐれな浪の真の源に目をやった——【神堕オロチ】 「私は生まれてからずっと、あなたの血肉が生み出した海で流離い続けてきた。人々と共に浮き沈みを繰り返してきたが、今ようやく、刹那の雷光のおかげであなたの顔を拝むことができた。」沈黙が続いたあと、海の向こう側からはっきりしない声が届いた。【???】 「蛇神、あなたの目に映る私はどんな姿をしている?」雷光が照らす海面に、女神の巨躯が浮かび上がる。美しい体つきの、白魚のように透き通った肌を持つ女神は、気だるそうに海に横たわっている。その艶めかしさと神々しさは筆舌に尽くしがたい。普通の人なら一目で虜になってしまい、彼女に近づき、愛を語りたいがために、わが身をかえりみずに海に溺れてしまうだろう。しかし海水の中に隠れた残り半分の顔は、とても醜い。その腐った顔からは、絶え間なく血肉が剥がれ落ちている。水に浸かった女神の髪は無数の大蛇になっている。蛇の群れが、うじのように蠢きながら腐肉を貪る。腹いっぱい食った大蛇は血色の海に潜り、地獄のような光景を見せている。目の前の神々しい地獄を見て、蛇神は賛嘆する。【神堕オロチ】 「死と滅びの神、伊邪那美——あなたこそが、この世で最も素晴らしい女神だ。ある者は私はこの海で誕生したのだと言っていたが、今考えればあながち間違っていないかもしれない。私と伊邪那美様は、図らずも少し似ている……」それを聞いて伊邪那美は笑った。彼女が微かにあごを上げると、髪が化した数々の大蛇が一斉に体を起こした。無数の大蛇は主にならってヤマタノオロチを見つめる。【伊邪那美】 「衆生は生を、そして死を讃える。死を眺める人々は、死の静けさを、そして死の素晴らしさを褒めそやす。しかしいざ本当に死に際になると——私の懐の中で足掻きながら、恨み辛みを述べる。」蛇の髪が優しくヤマタノオロチの顔に触れると、彼は顔を上げて、女神と見つめ合った。【伊邪那美】 「ヤマタノオロチ、あなたは確かに私に少し似ている。けれどいつも人の世にいるあなたは、人々により似ている。」【神堕オロチ】 「そうか?私はもう人の世から伊邪那美様の側に戻った。そしてやはり、伊邪那美様こそが最も素晴らしい女神だと思っている。」【伊邪那美】 「もしかしたら……それはただ、我々の間にまだ距離があるというだけかもしれない。心配はいらない。すぐに、我々の距離は十分に、十分に近くなる……互いを区別できないほど、近く……」女神の唇がゆっくりとヤマタノオロチに近づいてくる。触れ合った瞬間、人の世を千年間流離ってきた邪神は虚無に戻り、彼女の体の中に帰った。刹那の間に、海に浮かぶいくつかの世界は、女神が髪を触って引き起こした荒波に呑み込まれ、沈みそうになった—— ——しかしまた奇跡的に助かり、やがて水面に出た。唇が重なる寸前、ヤマタノオロチは手を伸ばして女神の唇を遮った。【神堕オロチ】 「滅びの女神よ、あなたの抱擁に溺れる者は数え切れないほどいるだろう。神とて例外ではない。彼らは伊邪那美様の熱い眼差しに溶け、伊邪那美様と一つになる。しかし悠久の時の中、私のように生きとし生けるものに伊邪那美様の真の姿を拝ませてやりたいと思った者が、他にいただろうか。私がいなくなったあと、伊邪那美様がまた悠久の時の中で、たった一人この海で寂しさを味わい続けると思うと、どうしても耐えられない。だから——」ヤマタノオロチが女神の手の甲に口づけする。【神堕オロチ】 「待っていてほしい、この牢獄たる封印の外で、我々が再会を果たす時を。」それを聞いた伊邪那美は簡単に髪をまとめると、また気だるそうに横たわった。海に戻った蛇が泳ぎ回るのを見て、彼女は指で蛇をいじり始めた。その光景はまるで髪を弄ぶ湯上がりの女神のようだ。【伊邪那美】 「千年の時の中、あなたは人の世で色々学んできた。しかしその代償として、鱗はほとんど剥がれ落ちてしまった。」【神堕オロチ】 「ふふ、それであなたに覚えていただけたのなら、千年努力した甲斐があったというものだ。」【伊邪那美】 「覚える?私は死と滅びの神、森羅万象はやがて私に滅ぼされる。蛇神、死に覚えられたいのなら、何をすべきかはわかっているだろう。」【神堕オロチ】 「黄泉の国を鎮圧する伊邪那岐の封印を破壊し、伊邪那美様を人の世に降臨させるため、私はあなたの魂の器——七悪神を用意した。須佐之男が時を越えて現れるよりも早く、私は六道の扉に入り、彼ら全員に会った。もちろん目的は彼らに伊邪那美様の呪いの烙印をつけ、伊邪那美様が再び降臨する時の架け橋にすること……しかし彼らのうち五人が封印された今、器を利用して伊邪那美様を降臨させることはもはや不可能だ。とはいえ、悪神は封印されたが、同時に呪いも天羽々斬に注ぎ込まれた。いつか何かの役に立つはずだ。それに、晴明と須佐之男もすべての悪神を封印することはできない——残りの二人は、もうどこにもいないからだ。六道の扉を通じて六人の旧友を訪れてみたが、二人に断られて、私はとても悲しかった。なので、強引に二人に呪いの烙印をつけたあと、つい——彼らがどんな味なのか、試したくなってしまった。」それを聞いた伊邪那美は、ようやく少し興味が湧いたようだ。【伊邪那美】 「天照の罪の分身は、一体どんな味だった?」【神堕オロチ】 「あれはまるで——へどろのようだった。だがあの二人の悔しそうな悲鳴は今でも体の中でこだましている。後味は悪くない。」一瞬にして興が醒めた伊邪那美は、海水の中に戻った。水に入る時にはまた無数の波しぶきを飛ばし、人々の運命をかき乱した。【伊邪那美】 「やはりあなたは命を愛している。それが変わらない限り、死の味は永遠に分からない。」【神堕オロチ】 「まさか。私が最後まで見届ければ、私がいる限り、彼らが忘れられることはない。」【伊邪那美】 「ほう?しかしあなたとて儚い存在にすぎない。いくら私でも、いつかはあなたのような邪神を生み落としたことを忘れるだろう。聞いたことがある。伊邪那岐はあの子に、永遠に忘れないと約束したと。だから彼はかつての記憶を守るために、黄泉の国を封印していた。まさか、あなたも同じ約束を望むのか?」【神堕オロチ】 「そんなことは望まない。この生涯で見たもの、聞いたもの、考えたもの、嘆いたもの、手折った花は、全部私だけのもの。それは例え伊邪那美様であっても、奪えないものだ。」【伊邪那美】 「数多の運命は我が指先から生じたさざなみにすぎない。あなたも例外ではない。」【神堕オロチ】 「では私の運命は、伊邪那美様を驚嘆させ、喜ばせただろうか?」伊邪那美は黙った。一方で、ヤマタノオロチは笑い出した。【神堕オロチ】 「しかし滅びの女神よ、あなたの運命は私を驚嘆させ、喜ばせてくれたぞ。いつしかあなたも滅びの運命を辿るだろう。その時、私は必ず大きく目を開けて、あなたの最期をしかと目に焼き付ける。」それを聞いた女神は少し楽しくなって笑みをこぼした。【伊邪那美】 「安心するがいい、蛇神。滅びの神は死なない。滅びは永遠に消えない。黄泉の国の封印が破壊され、私が自由を手に入れた暁には、必ず天照を滅ぼし、世界を完全な虚無に戻す。万物が終焉を迎え、あなたを含むすべての命が死に絶える日、私はありとあらゆるものを跡形もなく消してやろう。されどそれは天照を、あなたたちを憎んでいるからではない。それは……」その時、雷鳴の轟音が女神の語りを遮った。興が醒めた女神は蛇がひしめく海水を掻き乱した。鮮血の怒涛がいくつかの世界を呑み込み、女神の怒りを表す。【伊邪那美】 「風情がわからないのか、白けるな。ヤマタノオロチ、なぜここが見つかった?」【神堕オロチ】 「あの戦いのあと、私はずっとこの場所でただ傷を癒やしていた。しかし高天原はしつこく追いかけてきて、この場所を突き止めた。ここが見つかったのは、蛇魔に意識を移して月読に会いに行った時、あの二人に気づかれたからだろう。」【伊邪那美】 「ふふ、ここまで来た以上、手ぶらで帰させるわけにはいかない。」伊邪那美が髪を一房むしり取ると、それは無数の大蛇となって海に飛び込み、須佐之男と荒がいる方に向かった。【伊邪那美】 「そうだ、あなたにも礼をあげよう。」伊邪那美が顔の近くにいた大蛇神を一口なめると、真っ黒な瘴気がヤマタノオロチの体内に入り込んだ。新しい力を手に入れた途端、重傷を負ったはずのヤマタノオロチは全快し、赤黒い凄まじい瘴気を放ち始めた。鱗がすべて剥がれ落ち、あらわになった傷一つない体は、殻を破って生まれてきたばかりのような神々しさをまとっている。【神堕オロチ】 「果たして衆生は覚えてもらえるのだろうか、そして私は忘れられるのだろうか……死の女神よ、滅びは本当に世界の終わりなのか?実は新しい時代の始まりなのではないのか?もしかしたら、最後の最後に誰かに覚えていてほしいと思うのは、あなたかもしれない。」生まれ変わった体をよく観察したあと、ヤマタノオロチは意味ありげな笑顔を浮かべた。虚無の海に足をつけて海水を飛ばし、漆黒の海水を服に変える。【神堕オロチ】 「万物の邪念より生まれし私は、万物の終焉を衣とするべきだろう。新しい体はこれまでのものとは違う。桁外れの強さを備えながらも、気配を隠すのに長けている。今までの「友人たち」でも、もう簡単には私を見つけられないだろう。ならばこの世界で、新たな力を試してみよう。」——平安京の辺境で、大地が揺れ動いている【晴明】 「あれは?」須佐之男の巨大な化身が再び光を放ち、金色の巨神が都を包み込んだ。【藤原陰陽師】 「報告です!荒川の守備軍が蛇の大群に襲われ、護送していた商隊は壊滅しました。負傷者を収容する拠点もほぼ全壊しています。どうか速やかに援軍を!」【晴明】 「黒夜山はどうなっている?」【賀茂の陰陽師】 「報告は次々に届いています。しかし須佐之男様が荒川に向かっているので、なんとかなるでしょう。」——荒川の辺境【須佐之男】 「ついてこい、一旦平安京に避難だ。」【難民の村人】 「蛇だ!水の中に蛇が!」【難民の漁師】 「船に乗るな!」危機一髪で、ある者が船を留めていた縄を切り落とした。いくつかの船は川の中に流されると、忽ち転覆した。船に隠れていた蛇の群れが一斉に動き出す。蛇の大群は岸に向かっていたが、岸に上がる寸前に雷に打たれ灰となった。次の瞬間、雷は金色の糸で紡がれた網へと姿を変え、人々を囲った。【須佐之男】 「結界に入れ!」そう言うと、須佐之男は皆を守る稲妻を呼び出した。金色の稲妻の鎧をまとった彼は、毒蛇がひしめく森に向かって槍を構える。槍の先に金色の光が現れた瞬間、放たれた稲妻が破竹の勢いで森を切り裂き、一本の道を作り上げた。【須佐之男】 「行け、あとは俺に任せろ。」突然現れた巨蛇が人々の前に立ちはだかり、その尾で薙ぎ払おうとする。稲妻の網が攻撃を受け止める。巨蛇は体勢を立て直すと林の中ではぐれていた子供に襲いかかり、水中に引きずり込んだ。【弥助】 「助けて!」川に飛び込んだ須佐之男は、巨蛇に噛まれながらも子供を救い出した。【須佐之男】 「この子を頼む。」巨蛇が隙を見て須佐之男に噛みつく。【神啓荒】 「隕星。」雨の如く落ちてきた星々は、すべて巨蛇の急所に当たった。巨蛇はやがて倒れ、動かなくなった。大勢の神使いを連れて現れた荒は、須佐之男に手を伸ばし、もう一方の手で弥助を受け止めた。【須佐之男】 「平安京はどうなっている?」【神啓荒】 「平安京は無事だ。高天原の神軍は君の命令通りに都の郊外に駐在している。被災者たちを平安京の郊外まで案内してから、改めて話し合おう。」——晴明の庭院 須佐之男と荒が平安京に戻った時にはすでに、だいぶ時間が経っていた。【晴明】 「平安京は一旦安全になったが、周辺の黒夜山や荒川、逢魔の原などの地域は一夜にして汚染されてしまった。陰陽寮の協力を仰ぎたいと手紙を出しておいた。各地は今、神軍や神使いによって守られている。とはいえ、いざ妖怪や村人たちを避難させようとすると、やはり甚大な被害が出た。蛇の大群の攻撃を受けたからではなく、蛇魔の汚れの力のせいだが。」【神楽】 「まだ回復していないのに、また災いに見舞われるなんて……」【須佐之男】 「今度の蛇魔の妖力はヤマタノオロチのものに似ているが、手口はかなり違う。以前の蛇魔からは神出鬼没な印象を受けたが、今日現れた蛇の大群は直接急所を襲ってきた。恐らく、ヤマタノオロチはまた新たな協力者を見つけたのだろう。」【小白】 「……今更ヤマタノオロチに協力する人なんているんでしょうか?」【須佐之男】 「この世界にはいないかもな。だが世界の外になら、馬が合う者もいるかもしれない。」【小白】 「ヤマタノオロチと馬が合う人ですか……」【晴明】 「荒様、星海でヤマタノオロチの動きを掴めませんか?」【神啓荒】 「それなのだが、私と須佐之男は虚無の海の奥でヤマタノオロチを見つけ出し、今度こそ捕まえられると確信していた。しかし虚無の海から突如として無数の巨蛇が現れた。巨蛇を倒すと、ヤマタノオロチの気配は完全に消えていた。そのあと、ある特別な力がヤマタノオロチを追跡していた星海を遮断したせいで、星海を利用して彼の居場所を探すことはできなくなった。運命は僅かな違いから大きく変わるもの。しかし横から割り込んで彼を助ける者が現れた。正体はわからないが、只者ではない。」【須佐之男】 「そう、ヤマタノオロチは再び現世に降臨した。そして彼を助けたのは、滅多に姿を見せない高位の神だろう。特別な力を手に入れた彼を見失った以上、一刻も早く彼の居場所を突き止め、先手を打たなければならない。」【神啓荒】 「しかしもし彼が強力な後ろ盾を、伊邪那岐様にも負けないような者の協力を得たのなら。 計画を立ててから捕まえなければ。無闇に動くと、より多くの地が彼らの力によって汚される恐れがある。」【神楽】 「こんな時、浄化の力を持つ人がいればいいのに……」【神啓荒】 「不可能な話ではない。」【神楽】 「え?」【須佐之男】 「君たちが六道の扉に入って悪神を探している間、俺と荒は天照様を呼び覚ます方法を模索していた。」【神啓荒】 「我々だけではない。この千年間、思金神もずっと天鈿女命を呼び戻す方法を探していた。神女の舞で太陽の女神を呼び起こすためにな。」【須佐之男】 「言い伝えによれば、天照様が天岩戸で眠りに落ちた時、天鈿女命は祈祷の舞を捧げて天照様を呼び起こし、大地に降り注ぐ輝きを取り戻したそうだ。」【神啓荒】 「しかし鈴彦姫は未だ神力が完全に回復していない。だが一人では足りないなら、二人ではどうだろう?」【神楽】 「鈴彦姫様と同等の神力を持つ神女を見つけたの?」須佐之男が荒を見やると、荒は晴明の方を向いた。少し躊躇ったあと、晴明は頷いた。【晴明】 「近い内に彼女を誘い、天照様を呼び覚ます儀式を執り行うつもりだ。それが神楽を会議に呼んだ理由でもある。その神女様は高天原の民ではなく、異国の人なんだ。神楽には巫女として彼女を導き、神に捧げる舞を伝授してほしい。」【神楽】 「皆の力になれるなら、神楽、全力で頑張る。」【須佐之男】 「神に捧げる舞は特別なものだ。舞に必要な巫女の祈りの力はきっとヤマタノオロチに狙われる。つまり、この儀式の本当の狙いは二つある。一つは天照様を呼び覚ますこと、もう一つはヤマタノオロチを誘き出すことだ。」【神楽】 「え?」【須佐之男】 「ヤマタノオロチに協力する高位の神の正体はわからない。しかし自ら表に出てこないことを考えれば。きっと何らかの制限を受けていて、手が出せないのだろう。」【神啓荒】 「だから今のうちに、なるべく早くヤマタノオロチからその高位の神の情報を得たい。ヤマタノオロチを捕えることができれば、その高位の神の企みも潰えるはず。」【須佐之男】 「しかしヤマタノオロチが現れるからには、万全を期さなければならない。おそらく激戦は避けられない。神に捧げる舞の儀式を執り行う場所は、都から離れた無人地帯にする。その時、俺と荒、鈴彦姫及び例の神女の四人は、舞を舞う者になりすまして祈祷の儀式を執り行う。もしヤマタノオロチが現れたら、全力でやつを捕縛してみせる。」【晴明】 「計画自体は問題ないが、その場合、十分な祈念を集めるのに、おそらく数ヶ月はかかるだろう。協力者を得たヤマタノオロチは、僅かな時間で各地を汚染してしまう。我々に残された時間は多くない。いっそのこと——平安京で儀式を執り行おう。」【神楽】 「……晴明、どうして?」【須佐之男】 「……だめだ、都は儀式を執り行うのにはうってつけの場所だが、民に甚大な被害が及ぶ。」【晴明】 「今朝、私は陰陽寮と各一族に連絡し、都の民を安全な郊外に避難させてほしいと頼んでおいた。数日後には、都には各一族に所属する陰陽師と武士しか残っていないはずだ。」【須佐之男】 「道理で庭院に引きこもっていたわけだ。都に入った者を逃さないために、幻境の結界を用意していたのだろう?」【晴明】 「ああ。各地からの報告が届いた時から、民を避難させ、平安京を戦場にするための準備をしていた。祈りの地は戦場とは違う。祈りの力を集めるには、やはり人が大勢いる地に限る。しかしまさか、こんな時にも役に立つとは。もし近いうちに民を避難させ、守護結界となる幻境を用意することができれば。神に捧げる舞のために、踊りを得意とする強い式神からの協力を得たい。そして陰陽師三家の陰陽師たちには観衆になってもらう。そうすればより早く必要な力を集められる。天照様を呼び覚ますにしろ、ヤマタノオロチを誘き出すにしろ、今の状況を打開する策になる。」【神啓荒】 「さすがは都の大陰陽師というべきか。」【須佐之男】 「いいだろう、俺と荒も結界の強化を手伝おう。戦闘を結界の中に抑えるんだ。晴明、陰陽師と舞を舞う者に伝えてくれ。危険なことが起きたら、まずは自分を守るようにと。この須佐之男が、全力で皆を守ると誓おう。」【晴明】 「ああ。異論がなければ、祈祷の舞を捧げるのは都で決まりだ。」【晴明】 「明日は祈祷の舞のことについて、皆に知らせるよう私から陰陽寮に連絡しておく。」【須佐之男】 「実は、もう一つ教えておきたいことがある。天羽々斬で悪神を浄化する時、謎の呪いの烙印を見つけた。悪神には様々な呪いが伴うだろうが、これだけは違った。呪いと言うより、所有物に烙印をつけたといったほうが正確かもしれない。」【神啓荒】 「虚無の海で突然襲ってきた巨蛇にも、同じ烙印があった。なにか裏がありそうだ。」【晴明】 「須佐之男様、今後の調査のために、どんな烙印だったのか絵に描いてもらえないだろうか。陰陽寮にも協力してもらっているが、私自身も各地を訪れヤマタノオロチに関する手がかりを探したい。」【神啓荒】 「晴明、各地は今神使いに守られているが、それでも気をつけたほうがいい。」 |
弐
弐ストーリー |
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昨日、逢魔の原では頻りに雨が降っていた。すると、空にまるで切り裂かれたような巨大な裂け目が出現した。汚れの力が瀑布のように裂け目から流れ出て、赤黒い瘴気が忽ち空をまるごと覆い隠した。恐ろしい汚れの力は虫の大群のように一瞬にして逢魔の原を汚した。大地は穢土に変わり、無数の妖怪が死んだ。報告が届くなり陰陽寮はすぐさま陰陽師たちを派遣し、代理神王も援軍の神使いたちを手配した。汚れの拡散は食い止められたが、この地に巣食う汚れは、一両日で浄化できるものではない。【源博雅】 「晴明、俺は昨日都の郊外で避難して来た弱い妖怪たちを保護した。彼らに逢魔の原に残った一族の状況を調べてほしいと頼まれたんだ。」【晴明】 「汚染の状況を考えれば、調査は難しいだろう。しかしできるだけのことはやってみよう。」汚された地に入った晴明は、未だに生存者を見つけられていなかった。しかし意外にも、彼はある石塊の下で、汚された目玉を見つけた。晴明は陰陽道の術を使って、その目玉が見た光景を再現した—— 汚れに満ちた逢魔の原を進む隊列が見える。それは雪童子と百目鬼が指揮を取る隊列だった。雪童子は吹雪の結界を作り、汚れから皆を守っている。蛙式神たちが雪童子にぴったりとくっついている。結界を離れたが最後、汚れに呑み込まれて燃えてしまう。【百目鬼】 「まさかあなたに助けてもらうことになるなんて、ありがとうございます……」【雪童子】 「お礼はいいから、僕の代わりに「雪走」を玉藻前に返しておいて。」雪童子は腰に差していた雪走を、百目鬼に手渡した。【百目鬼】 「え?どうして……」【雪童子】 「ここで別れよう。この妖刀にはみんなを守るだけの浄化の力がある。この刀があれば、君たちはきっと無事に平安京に辿りつける。」【百目鬼】 「じゃあ、あなたは?」振り返って押し寄せる赤黒い瘴気を見ると、雪童子はため息をついた。【雪童子】 「僕はみんなのために汚れを食い止める。君たちは撤退に集中すればいい。」【百目鬼】 「汚れに呑み込まれたら体が燃えてしまう、あなたも知っているでしょう? 」【雪童子】 「僕はもともとただの雪だるまなんだ。冬に生まれた僕は、春になったら消えるべきだった。雪走を彼に渡せば、刀の力を最大限に引き出せるかもしれない。お願いだ、僕の代わりにこの刀を玉藻前に届けて。」【百目鬼】 「嫌です、まるでもう二度と会えないみたいに言わないで!」【雪童子】 「心配しないで、僕は吹雪の力を持っているから耐えられる。すぐに追いつくから……」雪童子が背中を向けようとした時、百目鬼が突然雪童子を掴み、鬼目で彼を見つめ始めた。雪童子は意識を吸い込まれたかのように、気を失った。【百目鬼】 「ふん、刀は自分で届ければいいでしょう。こんな下手な嘘が私に通じるとでも?」【荒川蛙】 「ゲロ!百目鬼様、何をするおつもりです!?」【百目鬼】 「あなたたち、雪走を持って、このガキを玉藻前様のところに連れて行きなさい。私は残って汚れを食い止める。玉藻前様のためだとしても、このガキに借りを作りたくない。」【一目連蛙】 「ゲロ!いけません。我々はこのガキを見捨てるほうが、まだ納得できます。」【百目鬼】 「行けと言ったら行きなさい、私の命令に逆らうの?!」その時、百目鬼の腕が汚れに呑み込まれ、ただれ始めた。腕がただれる百目鬼を見て、蛙式神たちはしばらくためらったあと、雪走と雪童子と共にその場を去った。振り返って空をも覆う汚れを目に収めた後、百目鬼は結界を張った。雪走の加護を失い、彼女の体は燃え始めた。それでも、彼女は一秒でも長く持ちこたえようとした。そうすれば、彼らはもっと遠くに逃げられるから。【百目鬼】 「目玉は目に映ったすべてを記録する。それがすべて、美しい思い出でありますように……」蛇の大群のように蠢く赤黒い瘴気がやがて結界を突き破り、百目鬼を完全に呑み込むと、映像はそこで途切れた。晴明は記憶の中から目覚めた。【晴明】 「百目鬼、これはあなたが残してくれた情報なのか?百目鬼はもう逢魔の原にはいない、が……」晴明は手の中の目玉に目を向ける。【晴明】 「目玉から、まだ彼女の気配を感じる。汚れに呑み込まれはしたが、どうやら彼女はまだ生きているようだ。百目鬼を呑み込んだ汚れの力は、彼女を他の場所に連れて行った。」晴明は霊符を一枚燃やし、蛇魔の死体を焼却すると、逢魔の原で犠牲になった妖怪たちに祈りを捧げた。 |
参
参ストーリー |
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黒夜山にやってきた晴明は、そこを守っている源氏の陰陽師から黒夜山はほぼ一夜にして汚れの力に乗っ取られたと聞かされた。汚れは燃え盛る山火の如く、ほとんどの森を焼き尽くした。黒夜山に棲む妖怪たちは汚れに影響され、殺戮しか知らない悪鬼になってしまった。今、陰陽師たちは支援に来た高天原の神軍と共に、汚れの拡散を食い止める結界の設置に取り掛かっている。【晴明】 「妖怪たちの変貌は、ある力の影響のようだ。」【源博雅】 「悪鬼どもが「古き神はまもなく目覚める」とか呟いていたぞ……」【晴明】 「まずはここで何が起きたのか調べてみよう。」晴明は汚された森の祭壇に術をかけた。いくつかの映像が彼の意識に入り込む。それは汚された黒夜山、殺し合う悪鬼が彷徨う地。地獄のような場所に、髪喰いの姿が現れた。彼は自分の目をこすり続けている。目に血がにじみ、隣の煙々羅が彼を止める。【髪喰い】 「姉さん、僕の怪我は変異した悪鬼によるものだ。僕もすぐに感染するだろう。例えここを出ることができても、どこにも受け入れてもらえない。」【煙々羅】 「あんたは私の弟よ、ここを出る時は一緒に出るからね。」【髪喰い】 「姉さん、僕の顔、今どうなってる?」【煙々羅】 「私の弟は世界一の美男子よ、今更聞くまでもないでしょう。」【髪喰い】 「じゃあどうして川に近づかせてくれないの?」髪喰いは煙々羅を押しのけて川にやってきた。水面を見つめても、水面に映る光景がよく見えない。ゆっくりと顔を撫で回す。ひび割れに触れた時、一番大切にしてきた美貌を失ったことに気づいた。煙々羅がやってきて、髪喰いを抱きしめる。【煙々羅】 「大丈夫。平安京に行けば、晴明がきっと浄化してくれる。」【髪喰い】 「いやだ!晴明様にこの醜い姿を見せるくらいなら、ここで死んだほうがましだよ……」煙々羅は煙を吹きかけて髪喰いの顔を隠した。【煙々羅】 「これで大丈夫、これで誰にも見せずに済む。」その時、近くの草むらからかさかさと音がして、小さな妖怪が顔を出した。【煙々羅】 「誰?……避難していた皆とはぐれたの?」【小妖】 「うん……あなたたちも?一緒に行きませんか?大勢でいた方が、襲われる可能性が少しでも低くなるはず……」【煙々羅】 「でも……」【髪喰い】 「一緒に行こう、みんなで……」三人がしばらく進むと、低い唸り声が聞こえた。煙々羅は小さな妖怪と目が見えない髪喰いを残し、一人で状況を調べに行った。一時間後、傷を負った煙々羅が戻ってきた。【煙々羅】 「悪鬼はもういないわ、先を急ぐわよ。」姉に返事をすることなく、髪喰いは彼女に背を向けたまま、泥の上で膝をついている。彼はがつがつと、一房の髪を貪っていた。【煙々羅】 「何してるの?! 」【髪喰い】 「ふふ……姉さん、僕はあの妖怪を食ったんだよ。美貌を取り戻すには、こうするしかないでしょ?」【煙々羅】 「あんた!」ふらふらと立ち上がった髪喰いの目からは、血が流れている。【髪喰い】 「姉さん、僕はもう怪物になったんだ。このまま僕の側にいたら、いつか僕は姉さんも食ってしまうよ。姉さんだって、指折りの美人だもの。」髪喰いは爪を立て、妖気を頼りに煙々羅に近づいて行く。しかし煙々羅にかわされ、髪喰いは転んでしまった。【煙々羅】 「そんな下手な演技で私を騙せると思ったの?あんたはあの妖怪を食ってなんかいない。森の中で彼の足跡を見つけたわ、あんたが脅かしたんでしょう。」呆れた煙々羅は髪喰いに歩み寄り支えようとしたが、髪喰いに突き飛ばされた。【髪喰い】 「一体どうすれば僕から離れてくれるんだ!僕の側に残っても、いつか悪鬼に喰われるだけだ。姉さんに僕の痛みは理解できない……醜くなった僕は、死んだも同然なんだ……」煙々羅は髪喰いの手を掴むと、自分の顔を触らせた。顔に触れた瞬間、髪喰いは震え上がった。彼が触れたその顔も、あちこちがひび割れていた。【髪喰い】 「姉さん、いつの間に……」【煙々羅】 「馬鹿ね、これで私もあんたと同じよ。だからもうそんなこと言わないで。」煙々羅が髪喰いを支える。真っ黒な空の下、手を繋いだ二人は漆黒の深淵に呑み込まれていく。映像が途切れ、晴明は我に返った。さっきの汚れの力は、蛇神の力に似ていたが、やはり何かが違う。意識をも蝕む滅びの力は、古の呪文を想起させる。【晴明】 「煙々羅と髪喰いの気配は、黒夜山には残っていない。彼らも百目鬼のように、汚れの力に呑み込まれたあと、どこかに連れて行かれたようだ。ヤマタノオロチ、お前がどこにいようと、どれほど強い力を手に入れようと、我々は必ずお前を見つけ出す。」 |
肆
肆ストーリー |
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大江山は麓まで汚され、鬼王酒吞童子はほとんどの鬼を連れて安全な場所に避難した。一方、茨木童子たちは拡散する汚れを食い止めに行った。晴明は茨木童子に会うなり、大江山の麓で調査を始めた。近くの山に建てられた監視塔にいる山童は、上の空で石槌を抱えている。数日前、汚れた黒い瘴気が大江山に出現してから、彼は鬼王の命令を受けて他の妖怪たちと裏山を守っていた。【星熊童子】 「はあ、また物騒な世の中になった。話を聞く限り、すでにいくつもの地が汚され、腐敗した悪鬼が現れたようだ。ここは酒呑童子と茨木童子が設置した結界に守られているから、他の場所に比べたら、だいぶましだ。」【山童】 「裏山は俺がちゃんと監視しているだろうが。なんでわざわざこっちに来た?」【星熊童子】 「最近、あんたがずっと浮かない顔してるからだろ。」【山童】 「実は……ある人のことが心配なんだ。でも、俺はその人の名前すら知らねぇ……」【星熊童子】 「顔が赤くなったぞ、まさか女か?」【山童】 「……」【星熊童子】 「教えろよ、その女とはどうやって知り合った?」【山童】 「この前、鬼王様が兵士にするための強靭な鬼を集めていた。俺も応募してみたが、どうやら向いていねぇらしい。それで裏山を守れとこの監視塔に派遣された。選ばれなくて当然だとは思っていたが、やはり落ち込んだ。だから樹皮に愚痴を刻んで、桜の木の下に埋めたんだ。」【星熊童子】 「それで?」【山童】 「その後でまた桜の木の下に来てみると、土が掘り返された痕跡があった。掘ってみたら、例の樹皮は消えていた。誰かが竹に返信を書いて慰めてくれたんだ。それで、顔も知らない友達とやり取りを始めた。彼女はいつも励ましてくれる。裏山を監視するのも立派な仕事だから、元気を出してと言ってくれた。彼女からもらう竹片からは、いつも竹のいい匂いがする。」【星熊童子】 「そういうことなら、彼女は大江山の妖怪である可能性が高いな。桜の木の下で、彼女が来るのを待てばいいんじゃねえか?」【山童】 「ほら、今は裏山を監視してるから、なかなか時間が作れねぇんだ。それにもう長い間、返信もない。この近くに悪鬼がたくさん現れたと聞いたから、彼女のことが心配になって……」【星熊童子】 「ならこうしよう。この後、おいらは見回りの天邪鬼たちに酒をやって、桜の木の辺りの様子を気に留めておくように頼んでみる。運が良ければ、あんたの思い人の無事がわかるかもしれねぇ。」【山童】 「感謝する。これは俺が翠石で作った腕輪だ。もし彼女に会えたら、代わりにこれを渡してほしい。そして……物騒だから気をつけるように伝えてくれ。」【星熊童子】 「お安いご用だ、おいらに任せろ!」少し時間が経った後…… 星熊童子が山童から預かった腕輪を持って監視塔にやってきた。【山童】 「彼女には会えたのか?」【星熊童子】 「こほん、会えたには会えたんだが……」【山童】 「そうか……贈り物はいらねぇか。」【星熊童子】 「いや、そうじゃない。ただ、少し猛々しい人だったから、あんたには相応しくないかも……」【山童】 「猛々しくてもいいじゃなぇか。誰だったのか教えてくれ、後で直接でお礼が言いたい。」【星熊童子】 「仕方ねえな。あんたの思い人は、大江山の鬼将茨木童子だ!驚くだろうから、あんたに言うつもりはなかったんだが。」【山童】 「え——?何だと、茨木童子様だと!?鬼将様が、俺に返事を……」【晴明】 「こほん……茨木童子に呼ばれて、汚れの力の調査に来たのだが。何か手がかりはないか?」【星熊童子】 「わ、晴明様!せっかくここまで来たんだ、一杯飲まねえか?」【山童】 「晴明様は仕事のために来てくれたんだ。酒なんてのは、汚れを浄化した後に気が済むまで飲め。汚れについては、妖怪の意識を蝕むということしか知らない。裏山を監視していると、たまに麓を歩く汚れをまとったやつを見かけることがある。あいつらは互いを喰って蝕まれていく、本当に恐ろしいぞ。幸い大江山は結界に守られているが、そうでなければ大江山の皆も危険な目に遭っていただろう。」【晴明】 「黒夜山とはほぼ同じ状況だな。どうやらその強い力は、生き物の精神を崩壊させることができるようだ。」【星熊童子】 「やれやれ、本当に恐ろしいな。鬼たちを連れて平安京の郊外に避難するか。山童、あんたは残るのか?」【山童】 「後片付けする者が必要だろう、それに裏山を監視するのも立派な仕事だぜ。」【星熊童子】 「おっ、元気が出たか?それでこそいつもの山童だな!」山童は耳まで赤くなり、気まずそうに頭を掻いた。 |
伍
伍ストーリー |
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晴明と博雅は荒川にやってきた。荒川の汚れは陰陽師と高天原の神軍によって抑えられている。民はすでに安全な地に移動した。晴明がしゃがんで川水をすくうと、蛇の囁きが聞こえ、耐え難い汚れの気配を感じた。しかし同時にある純粋な聖なる力も彼の手の中に流れ込んで汚れを抑えている。まるで汚れの力を荒川の川底に封じ込めようとするかのように。目を閉じて純粋な力に意識を集中すると、いくつかの映像が晴明の頭になだれ込んできた。汚された荒川流域の中、ある水妖の隊列がゆっくりと移動しながら、汚されていない川上へと向かっている。水妖たちは疲れ切った顔をしている。彼らは恐ろしい災いに見舞われた。汚れの力が荒川の上空に赤黒い霧を引き起こし、水の中に潜む蛇の大群が水中に毒液を吐いた。金魚姫が先頭に立ち、水妖を導いている。【水妖甲】 「聞いたか?多くの妖怪の縄張りがまるで神罰を受けたみたいに汚れに呑み込まれたらしい。皆恐ろしい怪物に成り下がり、殺戮を繰り返している。」【水妖乙】 「はあ、みんな無事でいてくれればいいが。もし荒川の主がいたら……故郷を離れずに済んだかもしれない。」金魚姫は遠くに思いを馳せ、荒川の守護者と再会する。彼は黄昏の彼岸にいる。どれだけ呼びかけても、彼は決して振り返らない。【水妖甲】 「金魚姫様、もし蛇の大群に追いつかれたら、このままだと全滅する恐れがあります。汚れに侵された水妖はここに置いていきましょう。今はできるだけ早く川上に行かなければ……」【聆海金魚姫】 「だめ、荒川の民は一人残さず連れていく。皆を見捨てるわけにはいかない。」その時、近くの海面から叫び声が聞こえてきた。恐ろしい蛇の大群が、こちらに向かっている。【水妖】 「化け物どもめ、本当に追いついてきやがった!」【聆海金魚姫】 「よく聞いて。私があいつらを抑えて時間を稼ぐから、その間に荒川の民を川上まで連れていきなさい。」襲ってくる怪物の大群を前に、金魚姫はかつての英雄のように、今まで守ってきたすべてを目に収める。次の瞬間、彼女の目の前に荒波が出現した。【聆海金魚姫】 「荒川の主にとって一番大切なのは名前じゃなくて、守ること。私はちゃんと覚えてる、片時も忘れなかった。」逆巻く荒波が岩礁にぶつかりこだまする。まるでかつての英雄が、彼女を鼓舞しているかのようだ。【聆海金魚姫】 「私が生きている限り、ここは絶対に通さない。」金魚の船に乗った金魚姫は、嵐と荒波を従えて蛇の大群に攻撃を仕掛けた。巨蛇が彼女の体に噛みついたが、金魚姫は痛みをこらえて戦っている。戦闘は長く続いた。最後、傷だらけの体を引きずり荒波を呼び出した金魚姫は、蛇の大群と共に荒川に沈んでいった。激流に沈んだ金魚姫は、再び黄昏の彼岸にいる荒川の主を見た。振り返った荒川の主は誇らしい顔で金魚姫に手を伸ばす。この時、金魚姫はようやく光を掴んだ。彼女もまた、光の力に守られている。時を同じくして、都の陰陽師と高天原の援軍が駆けつけ、彼女と周辺水域の人々を助けた。思い出はそこで途切れた。晴明が目を開けた時、荒川はとっくに穏やかになっていた。【源博雅】 「晴明、何か手がかりは見つかったか?」【晴明】 「荒川の霊もこの水域を守っていると感じた。しかし汚された水域では、蛇の呟きが聞こえた。おそらく「破滅の力にひれ伏し、至高なる女神に血肉を捧げよ」と言っていた。」【源博雅】 「至高なる女神?」【晴明】 「恐らく蛇神はまたどこかで新しい力を手に入れたのだろう。そしてその新しい力は、至高なる女神と関係があるはずだ。」 |
陸
陸ストーリー |
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七角山は瘴気に覆われ、森は静寂に包まれている。一目連と山風は結界を作り、七角山の妖怪たちをその中に保護した。蛍草と白狼は傷を負い、気を失った。白狼は汚れに侵されてしまった。一方、蛍草は深い眠りに落ち、いくら呼びかけても目覚めない。晴明が重傷の蛍草の側でしゃがむ。蛍草は小さなたんぽぽの種を握っている。蛍草の手中の種を手に取ると、晴明はそれを握りしめて目を閉じた。この時、ぼんやりとした映像が見え始めた。【蛍草】 「白狼さん、この前弓道を教えてもらってから、私ずっと練習してるの。今度また練習を見に来てくれる?」【白狼】 「そうだな、この森の見回りが終わったら見に行こう。」【蛍草】 「やったぁ!」突然、二人の目の前に瘴気を漂わせる巨大な樹妖が現れた。樹妖は二人を見つけた途端、蔓で攻撃してきた。白狼は破魔の弓を引き、樹妖を射当てた。怪我をした樹妖は、おぼつかない足取りで蛍草のほうへ逃げていく。【白狼】 「蛍草!今だ!」【蛍草】 「怖いよぉ、こ、来ないで!」蛍草は樹妖に向かってたんぽぽを振りかざす。ドンという音と共に、巨大な樹妖は塵を巻き上げて倒れた。【蛍草】 「白狼さん、さっきは本当に怖かったよぉ。白狼さんが側にいてくれてよかった。」蛍草は白狼に抱きつくと、その懐に顔を埋めた。白狼が優しく蛍草の背中を叩いて慰める。その時、倒れた樹妖が急に鋭い蔓を飛ばして蛍草を襲った。【白狼】 「危ない!」鋭い蔓は蛍草を突き飛ばした白狼の肩に刺さった。【蛍草】 「白狼さん!」蛍草はすぐに破魔矢で蔓を切り落とした。傷から漂う黒い瘴気に、白狼が辛そうに顔を歪める。【蛍草】 「この傷、大変!一目連様のところに行って、診てもらおう!」蛍草は白狼を背負うと、七角山にある一目連の神社に向かって走り出した。途中、蛍草は七角山周辺の異変を実感した。周囲の森は汚され、木々は枯れ、自然の力が見る見るうちに弱まっていく。二人は一目連の神社にやってきたが、一目連は留守だった。神社の周辺は一目連の結界に守られているが、結界の外にある森はほぼ枯れ果てていた。【蛍草】 「白狼さん、見た?七角山に一体何が……」しかし背後の白狼からは何の返事もなかった。蛍草が振り返ると、白狼はとっくに気を失っていて、傷口からは赤黒い瘴気が溢れ出していた。【蛍草】 「白狼さん、白狼さん!」蛍草は何度も何度も呼びかけたが、白狼を呼び覚ますことはできなかった。【古籠火】 「蛍草!白狼!大丈夫か?!」【蛍草】 「白狼さんが……樹妖に襲われて……一目連様はどこ?白狼さんを助けて!」白狼の様子を確認すると、古籠火はどうしようもないと言わんばかりに頭を横に振り、神社の隣の大樹を指差した。大樹の下には、瘴気に侵されて昏睡状態になった妖怪たちがずらりと並んでいた。【古籠火】 「皆七角山の妖怪だ。森の大部分は汚れの力に汚染されてしまった。一目連様は森の結界を補強しながら、皆を連れて安全な場所に避難している。」【蛍草】 「うう……このままここで待つしかないの?」【古籠火】 「おいらは一目連様の命令で、ここを守りながら、昏睡状態になった妖怪たちの面倒を見ている。一目連様たちが出発する前、シシオは何度も一族の伝説について話し、森を浄化できる秘法があるかもしれないと言っていた……シシオが本当に希望を見つけてくれるといいんだが。」眠っている白狼を見て、蛍草は決意したようだ。【蛍草】 「蛍草はもう皆の後ろで守ってもらうばかりの浮草でいたくない。蛍草だって皆の役に立ちたい……」【古籠火】 「蛍草……」蛍草はたんぽぽの種を高く掲げ、呪文を唱え始めた。【蛍草】 「春のたんぽぽよ!皆に息吹を分け与えて!」蛍草は自分の浄化の力を使おうとしている。【古籠火】 「蛍草、何してる!このままじゃ、お前の体が持たないぞ!」【蛍草】 「少しでもいいから、蛍草も皆の苦しみを背負いたいの。」【古籠火】 「蛍草!!」ついに体力を消耗しきった蛍草はその場に倒れ、集中させていた霊力も消えてしまった。彼女の試みは失敗に終わった。映像はそこで途切れた。小さなたんぽぽの種は、すべてを記録していた。【晴明】 「蛍草、あなたは十分に頑張った。しばらく休むといい。」【源博雅】 「晴明、何か感じたのか?」【晴明】 「皆を襲った汚れの力は、逢魔の原や黒夜山、大江山、荒川などの地域で見つかった。この力の根源はヤマタノオロチにある。」【源博雅】 「短期間でこれだけの地域を汚すとは。まさかヤマタノオロチは新しい協力者を見つけたのか?」【晴明】 「とりあえず、手に入れた情報を陰陽寮に報告しよう。」 |
漆
漆ストーリー |
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——数日後、晴明の庭院 晴明と博雅が周辺地域の調査を終わらせた頃、陰陽師三家は都の真ん中に巨大な舞台を設置していた。【源博雅】 「晴明、こんな緊急時に踊る舞とは、一体どんな舞なんだ?普通の民も兵士の家族たちも、都から避難しただろう。厳重に警備するべきじゃないのか?ヤマタノオロチが奇襲を仕掛けた場合の対策は、用意したのか?ここ数日、何度も聞いたがそのたびにごまかされるぜ……まあいい、お前の種明かしを楽しみにしているさ。」【晴明】 「この前頼んだことだが、用意は整ったか?」【源博雅】 「もちろんだ。陰陽寮から緊那羅と不知火に連絡しておいた。鈴彦姫ももう都に戻ってきている。舞を踊る祭壇も用意できた。ほとんどの陰陽師と兵士たちが、普通の民になりすまして舞を見に来る。まだもったいぶるのか?そろそろ教えてくれてもいいだろう。お前が見つけた異国の客人とは、一体何者なんだ?」【晴明】 「彼女は舞姫で、神女であり、同時に一国を統べる王でもある。だから彼女を迎えるには、一人用の舞台ではだめなんだ。祈りに応えて現れる神は、祭りのために、舞のために礼を捧げる。」 |
捌
捌ストーリー |
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この前平安京の人々は、汚れた紫色の煙が海の彼方の空に昇るのを見た。平安京は逢魔の原を浄化すべく陰陽師を派遣したが、今逢魔の原は完全な焦土となり、あちこちに妖怪の死体が転がっている。汚れの拡散は食い止められたが、この地に巣食う汚れは、一両日で浄化できるものではない。【源博雅】 「晴明、最近逢魔の原から逃げてきた妖怪をたくさん保護しただろう。彼らの多くは家族や友達とはぐれてしまった。調査を行う俺たちに、生存者がいるかどうか確認してほしいそうだ。」【晴明】 「逢魔の原の汚れの規模を考えれば、生存者がいる可能性はかなり低いだろう。しかしできるだけのことはやってみよう。」汚された地に入った晴明は、一人の生存者も見つけられなかった。しかし意外にも、彼はある石塊の下で、干からびた目玉を見つけた。何かを感じた晴明は霊視を発動した。やがて、目玉に映った景色が晴明の頭の中に入り込んできた。彼は汚れに満ちた地獄のような逢魔の原と、その汚れた地を進む隊列を見た。それは雪童子と百目鬼が指揮を取る隊列だった。雪童子の周囲の清き霧が、汚れの力に対抗している。【一目連蛙】 「ゲロ!空に現れた巨大な紫色のキノコ雲を見たゲロ?」【荒蛙】 「ゲロ!急に爆発したキノコ雲のことか?あれが何なのかわかるやつはいるか?とにかく、早く平安京に行って玉藻前様に報告しなければならない。案内をよろしくお願いします、雪童子様!ゲロ!」【一目連蛙】 「雪童子様?今まではガキと呼んでたじゃないか!ゲロ!」【荒蛙】 「バカ!声が大きい。今は彼を頼るしかないゲロ。案内してもらえなかったら、蛙式神たちは全員焼き蛙になるゲロ!」【雪童子】 「言っていること、全部聞こえたよ……」【一目連蛙】 「ゲロ?ゲロ?(聞こえないゲロ)」体温を下げるために、蛙式神たちは雪童子にぴったりとくっついている。雪童子の結界を離れたが最後、汚れに呑み込まれて燃えてしまう。【百目鬼】 「まさかあなたに助けてもらう日がくるなんて。とにかく、ありがとうございます……」【雪童子】 「お礼はいい、僕はもともと感情を持たない雪だるまだ。自我を手に入れ、こんな姿になったのは全部玉藻前様の妖刀、雪走のおかげだよ。今も妖刀が持つ浄化の力で、なんとか汚れを防いでいる。」【百目鬼】 「あら、話が分かるようですね。なら一応友達になってあげましょう。」【雪童子】 「ありがとう……」【百目鬼】 「実は以前、あなたの噂を聞いたことがある……玉藻前様の怒りが、あなたの恩人だった二人の老人を、災いに巻き込んで死なせたって……」【雪童子】 「……」【百目鬼】 「とはいえ!その後、玉藻前様は晴明様に協力し、何度も平安京を守り、より多くの人を助けました。だから……だから……」【雪童子】 「分かっている。できれば、僕の代わりに「雪走」を玉藻前様に返しておいて。」雪童子は腰に差していた雪走を、百目鬼に手渡した。【百目鬼】 「え?どうして……」【雪童子】 「ここで別れよう。」【荒蛙】 「ゲロ?どういうことゲロ?蛙たちを平安京に連れて行かないのか!?本当に器の小さいガキゲロ!」【一目連蛙】 「心が氷でできているから、感情がないんだゲロ!本当に見損なったゲロ!」【雪童子】 「この妖刀にはみんなを守るだけの浄化の力がある。この刀があれば、君たちはきっと無事に平安京に辿りつける。」【百目鬼】 「刀を私たちに渡したら、あなたはどうなるの!?」振り返って再び押し寄せてくる汚れた煙をみると、雪童子はため息をついた。【雪童子】 「僕はここでみんなのために汚れを食い止める。君たちは撤退に集中すればいい。」【百目鬼】 「馬鹿じゃない?!汚れに呑み込まれて体が燃えてしまう妖怪の最期を見たでしょう?それに雪走を私たちに渡すなんて、そんなに死にたい!?」【雪童子】 「僕はもともとただの雪だるまなんだ。冬に生まれた僕は、春になったら消えるべきだった。心優しい玉藻前様のおかげで、僕は幾度も春を迎えることができた。雪走を玉藻前様に返したい。玉藻前様が使ってこそ、この刀は全力を発揮できる。僕は信じてる。雪走を使えば、玉藻前様は平安京でより多くの人々を守れるって。だから僕の代わりに、刀を玉藻前様に届けてくれ。一生のお願いだ。」【百目鬼】 「嫌です、まるでもう二度と会えないみたいに言わないで!」【雪童子】 「ごめん、言い方が悪かった。誤解させたみたいだ。心配しないで、僕は清浄の力を持っているからしばらくは耐えられる。すぐに追いつくから……」背中を向けていた雪童子は百目鬼の一撃で気を失い、雪の中に倒れた。【百目鬼】 「ふん、刀は自分で届ければいいでしょう。こんな下手な嘘が私に通じるとでも?」【荒蛙】 「ゲロ!百目鬼様、何をするおつもりです!?」【百目鬼】 「あなたたち、雪走を持って、このガキを平安京に連れて行きなさい。私は残って汚れを食い止める。私だって一応玉藻前様の部下、このガキに借りを作りたくない。」【一目連蛙】 「ゲロ!いけません。我々はこのガキを見捨てるほうが、まだ納得できます。」【百目鬼】 「行けと言ったら行きなさい、私の命令に逆らうの?!」百目鬼が拳を振り上げる。彼女の腕からは、汚れた紫色の煙が漂っていた。瞳孔が赤くなり、両目がただれる百目鬼を見て、蛙式神たちは雪走と雪童子と共にその場を去るしかなかった。振り返って空をも覆う汚れを目に収めた後、百目鬼は結界を張った。雪走の加護を失った百目鬼は、全身の皮膚が汚れに蝕まれ、ただれていく。百目鬼と呼ばれる彼女だが、もう何も見えない。それでも、彼女は一秒でも長く持ちこたえようとした。そうすれば、彼らはもっと遠くに逃げられるから。【百目鬼】 「人の目は生前のすべてを記録する。私が死んだ時、その記録がすべて美しい思い出でありますように……」映像はそこで途切れた。我に返った時、晴明が持っていた目玉は塵となって消えた。」【晴明】 「百目鬼、これはあなたが残してくれた情報なのか……」災いをもたらす黒幕の正体を、晴明はすでに見破った。蛇魔が描かれた霊符を一枚燃やすと、逢魔の原で犠牲になった妖怪たちに祈りを捧げた。 |