【陰陽師】永久の鯨唄ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の永久の鯨唄ベントのストーリー「潮騒の岸辺(シナリオ/エピソード)」をまとめて紹介。章ごとにストーリーをそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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日没の潮汐の里ストーリー
メインストーリー
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【晴明】 「千姫……千姫……」遠くから自分の名を呼びかける声が聞こえたような気がして、千姫は目を開いた。激しい頭痛に襲われ、視界がぐらりと揺れる。それでも辛うじて見えたのは、平安京の大陰陽師・晴明と船乗りの格好をした少女の姿だった。【千姫】 「あなた達……どうしてここに……?待って、海貝の戟は?」ハッとなって、千姫は慌てて辺りを見渡した。幸い、海貝の戟はすぐ傍に落ちていたが、その光は明らかに弱くなっていた。【湍津姫】 「ねぇ、大名士さんが言ってた女王ってこの人なんでしょ?あたし達と同じくらい事情がわかってないって顔してるけど、本当にこの氷を溶かしてくれるの?」【晴明】 「そう急かすな。目覚めたばかりで、まだ意識が混濁しているのかもしれない。」千姫は海貝の戟を下ろし、顔を上げた。指先から伝わってくる感触のおかげで、彼女は少しずつ冷静を取り戻していく。つい先ほどまでさざ波が立っていた海は、いつの間にか一面の氷に覆われていた。その昔、永生の海は一度緩やかに凍てついたことがあったが、今回はほぼ一瞬のことだったようだ。絶え間なく膨張するつららは鋭い刃のように、永生の海をいくつかに引き裂いている。押し寄せる浪は氷の壁となり、その上にちりばめられた宝石は銀色の光を反射する水しぶきだ。息を呑むほど美しい景色だが、それを口にすることは許されない。なぜならこの巨大な氷像は、凍えて動けなくなった魚たちの最期も捉えていたからだ。【千姫】 「一つだけ質問させて。あなた達は……どうしてここにいるの?」【晴明】 「それは……」「数日前」 明け方、「黄金の爪号」は波に揺らされながら、穏やかな海を航行していた。「金色の夜明け前」の余韻はまだ残っていたが、ほとんどの船員は疲労に負け、横になっていた。甲板に晴明と瀧が立つ。【晴明】 「閑かなり、明け方の海、波来たる。」【瀧】 「海の民ではないのに、よくご存知ですね……海は気まぐれだということを。」【晴明】 「あなたも海が怖いのか?」【瀧】 「いいえ?いくら気まぐれと言えど、掴みどころのない人間の心に比べてはマシなほうでしょう。明け方の海は何度見ても飽きません。穏やかな朝陽は光で我々の目を眩ませることも、過度な熱情で困らせてくるようなこともしませんからね。朝日に輝く海は、言うならば飼い馴らされた獣です。星空よりも静かな波を立たせ、金貨よりも眩しい日差しを反射する……」【晴明】 「しかし、一見長閑な波の下には無数の秘密が隠されている。あなたはそこに強く惹かれたのだろう?」【瀧】 「ふふ……あなたは実に良き知己です。」そんな悠長な会話をしばらく楽しんだ、その直後のことだった。突如として風が立ち、「黄金の爪号」が急激に揺れ動きだしたのだ。数分前まで晴れ渡っていた青空には暗雲が立ち込め、程なくして嵐が吹き荒れた。逆巻く波が船に押し寄せる。巨大な船体を誇る「黄金の爪号」だが、荒れ狂う海と比べれば取るに足らないちっぽけな存在に過ぎない。船尾でうたた寝していた湍津姫も、危うく波に巻き込まれかけた。船の下にいた金タコが、すかさず海に落ちそうになった彼女を甲板の上まで引き上げていなければ、今頃大変なことになっていただろう。【湍津姫】 「お頭!……って、そういえばお頭はいないんだった。瀧兄さん、見て!あれって海獣?」【瀧】 「海獣だって?そんな可愛いものじゃない!」瀧は足早に舵のほうに向かった。」【瀧】 「皆の者!命が惜しければ、何かに掴まれ!絶対に離すな!」そう言って彼が大きく舵を切ると、船は急角度で進行方向を変え、甲板に置かれていた財宝も次々と海に振り落とされた。しかし財宝に構っている余裕などなく、船員は皆近くで見つけたそれぞれの「命綱」にしがみつき、必死に体勢を整えていた。日差しが少ない中、「黄金の爪号」が突如として現れた巨大な何かをかすめた刹那、その正体もついに明らかになった――天を貫く勢いで成長を遂げ続けている、大きなつららだ。どこからともなく出現した無数の障害物にぶつからないよう、瀧は一心不乱に舵を取り、つららの隙間を縫うように進んだ。【白容裔】 「瀧、このままだとぶつかってしまうよ。」【瀧】 「船は絶対に沈ませません。」晴明も出し惜しみなく術で船を守っているが、大きな助けになっているとは言えない。そんな時、瀧に操られた船は形成中のつららに衝突し、氷の斜面を突破した。船首が天を仰ぎ、今に高く飛び出そうとしたその刹那――【湍津姫】 「うわあぁぁ、飛ぶ!飛ん――あれ?」船は途端に止まり、船にいた全員が慣性で前によろめいた。状況を把握すべく、一番乗りで船を降りた湍津姫が目にしたのは、船尾と金タコがつららの中に閉じ込められている光景だった。【湍津姫】 「金タコ?金タコ!大丈夫!?」湍津姫は慌ててつららを叩いたが、返事はない。【白容裔】 「沈みはしなかったけれど、動けもしなくなったね。」【瀧】 「……とにかく、氷を壊せるか試してみましょう。」「黄金の爪号」の船員達はあれこれ試したが、効果はどれもいまいちだった。【晴明】 「無駄に力を使うべきではない。いかんせんつららが大きすぎて、簡単には壊せないだろう。それに、力業を働こうものなら、金タコや「黄金の爪号」に傷をつけてしまう可能性がある。今しがた調べてみたところ、金タコの命に別状はないようだが、このままだと……」【湍津姫】 「そんなの嫌だよ!大名士さんってすごい人なんでしょ!?金タコを助けられる方法だって、きっと――」【晴明】 「ここは……永生の海だ。」晴明は表情を引き締めた。【晴明】 「この異変の原因を知り得る者は、恐らく一人しかいない……」【千姫】 「そう……それでここに来たってわけね。」【晴明】 「実に恐ろしい天変地異だった。永生の海に、何か異変が起きているのではないか?近頃は変事も頻発している。それと何か関係しているのなら、見過ごすわけにはいかないのだ。彼女は湍津姫。「黄金の爪号」を助けるために、私がここにお呼びした。」【千姫】 「確かにあなたの言う通り、この永生の海では奇妙なことが起きている……でも、長話をしている暇はないんじゃないかしら。」千姫が海貝の戟を掲げると、中から光が溢れ、氷の中に消えていった。【千姫】 「残り僅かな潮汐の力で、氷の拡散を遅らせたわ。」【晴明】 「そういえば先ほど、君はどこかに向かっていたようだが……」【千姫】 「ええ。行こうとしていたのよ——秘蔵の間に。」【晴明】 「秘蔵の間?」【湍津姫】 「あっ、それ知ってる!船長の手帳で読んだことあるもん。永生の海に眠るすべての財宝が隠された、女王にしか分からない場所だって!」【晴明】 「永生の海がこのような有様になったことと、何か関係があるのだな?」【千姫】 「一度永生の海を救い、海貝の戟に認めてもらった私は、潮汐の力が使えるようになった。でも、あの時はあくまで氷を溶かしただけで、問題の根源は解決していない。女王になってからは、これからどうするべきか毎日のように考えていたわ。そして数日前、氷封の力が急激に強まったと同時に、ついにその力の源をはっきり感じ取ることができたの。だから、すべての始まりに近づこうと気配を辿り、あと一歩で真相が掴めるというときに……「こんなこと」になってしまった。」【湍津姫】 「じゃあ、その氷封の源ってやつを見つけられれば、金タコは助かるんだね?だったら勿体ぶってないで、早く秘蔵の間の場所を教えてよ!」【千姫】 「見ての通り、さっきの天変地異で永生の海は大きく変わった。秘蔵の間はもう、元の位置から消えているわ。目下の急務は、秘蔵の間への道をもう一度探し出すことよ。」【湍津姫】 「あたしも行く!急ごう!」【晴明】 「私もお供しよう。何かできることがあるかもしれない。」【千姫】 「危険な旅になるでしょうけれど、それでもついてくると言うのなら、好きにして頂戴。忠告はしたから。」 |
マップ上の会話
マップ上の会話 |
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【湍津姫】 「あの子、なんで一人で法螺貝を吹き鳴らしてるんだろ?」【化鯨】 「母上、一体どこへ向かわれたのですか?戻ってきてください……一人は嫌でございます。」【ふふ】 「ふふたちの声が聞こえてないみたい。」【晴明】 「化鯨?どうしてここに?」【化鯨】 「陰陽師?覚えてる……母上の魂を取り戻してくれた人だ。あの時、この法螺貝に宿った母上の魂はもう僕の傍を離れないって言ってくれたけど……最近、母上の声がまるで聞こえなくなって……母上は、またどこかに行ってしまったのか?」【晴明】 「なるほど、事情は把握した。それを見せてくれ。(神楽がいないから、精度の高い霊媒の術は使えない。しかし、法螺貝に宿っているはずの魂の気配が薄れているのも事実だ。この手のことは、やはり八百比丘尼に聞くべきか……)」晴明は法螺貝を化鯨に返した。【晴明】 「すまないが、今の私にはっきりとした原因は突き止められない。それより、この海域は危険すぎる。すぐにでも安全な場所に移動するんだ。困っているのであれば、平安京にいる神楽と八百比丘尼を訪ねるといい。あの二人なら、君の力になれる方法を知っているかもしれない。」【化鯨】 「神楽……八百比丘尼……神楽……八百比丘尼……母上は、きっと大丈夫だよな……」【晴明】 「彼には現実を受け入れる強い心を持ってほしくて、法螺貝に母の魂を宿らせたんだが……あの様子だと、むしろ依存しているように見える。良かれと思ってやったことが裏目に出てしまったか……」【千姫】 「まあ、反省しているの?大陰陽師様ともあろうお方が?」【晴明】 「……」 【湍津姫】 「ほえ~!大変なことがあったけど、いざ中に入ってみると壮観だなぁ……時間があれば、もっと徹底的に探索してたのに。あれ?この先で何かが凍ってる……あっ、まさか宝箱!?こんなに早くお宝に出会えるなんて、今日はツイてるかも!でも、ほとんど氷に覆われてて開かないや。」【千姫】 「これは永生の海の「玉手箱」よ。海底に埋もれていたはずだけど、さっきの天変地異に打ち上げられたのね。氷封の影響を受け、潮汐の力が弱まっているとはいえ、これくらいの大きさの氷なら簡単に溶かせるわ。試してみましょう。」 【湍津姫】 「……なんか、永生の海って変わってるね。こんな立派な宝箱に普通のものを入れるなんて。」【千姫】 「あら。こういう「普通のもの」に、命を助けられることだってあるのよ?だから、万全を期していろんなところに実用的な「変化」をもたらしておいたの。いざ何かあった時に、しかるべき効果を発揮してくれると信じて。」【晴明】 「しかし、先の天変地異はあの「黄金の爪号」ですら巻き込んだのだから、永生の海では多くの人魚が被害を受けたんじゃないのか?」【千姫】 「突如として起きる異変も、永遠とも思えるほどの長い氷封も、皆何度も経験しているわ。少しでも可能性が残っていれば、彼らは自力で困難を乗り越えようとするでしょう。」 【晴明】 「この地で氷漬けにされた生き物は、ほとんどクラゲのようだな。」【千姫】 「昔はこんなにいなかったのだけど、氷封が解除され、永生の海が常春の国になってからは、多くのクラゲが越してきてね。中でもここが彼らにとって一番快適な住処だったから、気づいたらクラゲの里になってたの。」【湍津姫】 「こういう話をする時だけ、難しい顔をしないんだね。」【千姫】 「私なんかより、もっとクラゲたちに気を配ったら?」【湍津姫】 「なんで?ふにゃふにゃしてるし、全然怖くないじゃん。」【千姫】 「ふにゃふにゃ……?そうね。でも、クラゲが吐いた糊状のものに触れれば、体がガッチガチになるわよ。」【湍津姫】 「大名士さん、あたしケンカ売られてない?」【晴明】 「……」【千姫】 「異変のせいでクラゲたちは神経を張り詰めているから、無差別に糊状のものを吐くかもしれないわ。油断しないで。」 半透明の、糊状の繭の表面に人影が浮かび上がっている。【千姫】 「これは……クラゲが吐いたものだわ。中に閉じ込められているのは……人魚!?」 【男性鮫人】 「助け……て……くだ……」【千姫】 「大丈夫?安心して、邪魔なものは全部取り除いたから。」【男性鮫人】 「……千姫様?千姫様ではございませんか!閉じ込められた時はもう駄目かと思いましたよ……千姫様が鍛錬を怠ってはいけないと日頃より諭してくれていただけでなく、緊急時の避難案内図まで用意してくださったおかげで、なんとか無事に逃げ切れたんです。」【千姫】 「あなた一人で?」【男性鮫人】 「いえ、仲間も一緒でした!」人魚は慌てて周囲を見渡した。【男性鮫人】 「ですが、部屋から逃げ出した途端、クラゲの群れに出くわして……それではぐれてしまったんです。女王様、どうか仲間たちを探してやってはくれませんか?」【千姫】 「わかった。後のことは私に任せて、あなたはとりあえず安全な場所で待ってて。はぐれた人魚たちも、きっとこの近くにいるはず。悪いけれど、捜索を手伝ってくれる?」 【千姫】 「ここにも囚われたクラゲがいるわね。人魚を探すついでに、この子たちのことも助けてあげましょう。」 【千姫】 「ここにはいないみたい。他の場所をあたってみましょうか。」 【湍津姫】 「難しい顔してるけど、まさかクラゲが苦手なの?」【晴明】 「永生の海の民が苦しんでいるから、心を痛めているのだ。湍津姫も、金タコのことが心配でここにいるんだろう?」【湍津姫】 「それもそっか。じゃあ、さっそくこの子を救出しよう。」 【湍津姫】 「ああもう、時間が勿体ないよ!あんた達みたいに何でもかんでも助けてたら、金タコどころかあたしまで凍え死んじゃうんだけど!それに、あれはもう小さい命じゃないじゃん!あたし達の手なんか借りなくたって、きっとなんとかなるよ。そんなことより、もっと急ぐべきことがあるでしょ!」 【千姫】 「……いいえ。やっぱり、囚われた人魚たちの捜索が先よ。」 【千姫】 「私は、永生の海の皆を等しく助けてあげたいの。女王の責務は、生涯をかけて皆を守ることだから。」 【湍津姫】 「このシャチちゃん、面白いね!今回の事件が解決したら、あたし達の船に来る?美味しいもの、い~っぱいあるよ!ちぇ、なにそれ。ここに残りたいって言うの?」【晴明】 「いや、違うな。どうやら私たちに伝えたいことがあるようだ。」【千姫】 「言いたいことがあるのなら、行動で示しなさい。」 【湍津姫】 「永生の海の生き物の挨拶って……独特なんだね。この前会った、有無を言わさず「黄金の爪号」にぶつかってきた海獣を思い出すよ。それにしても、つららに突撃してどうするの?こんなことしたって埒が明かないのに。」【晴明】 「この先に道があるんだろう。私にはわかる。」【湍津姫】 「えぇー!どこを見たってつららしかないじゃん。迷子になってもいいの?一秒でも早く助けてあげたいんでしょ?」 助けられた人魚の少女は戸惑っているのか、両手を確かめてから、ゆっくりと凍えた体を動かした。やがて感覚を取り戻した後、彼女はようやく千姫達に目を向け――【鮫人小女孩】 「あなたは……」と呟くと、忽ち眉をひそめ、千姫を睨みつけた。嫌悪と、憎しみに満ちた目で。【湍津姫】 「大丈夫?」と、少女に声をかけてみる湍津姫。しかし返事はなかった。少女は素早く一同から距離をとり、再び千姫に複雑な眼差しを投げると、つららの迷宮の中へと潜り込んだ。【千姫】 「……」【湍津姫】 「何あれ!何も言わずに行っちゃったよ?近くに家族がいるようには見えなかったし、なんで一人でこんなとこにいたんだろ。」それを聞いた千姫は、何かを思い出したように瞬きをした。【晴明】 「こういう時、子供は普段よりも危険な目に遭いやすい。」【千姫】 「手早く問題を解決すればいいだけの話よ。あの子が、危険な目に遭う前にね。」 【湍津姫】 「見て見て!またあったよ、宝箱!ここに来た甲斐があったね!」【千姫】 「これはシャチからのお礼ね。ありがとう。」千姫に頭を撫でられると、シャチは嬉しそうに宙返りをした。【シャチ】 「キュイ!キューイ!」 【男性鮫人】 「……た、助かった!」【千姫】 「ここはもう安全よ。まだ体が弱っているでしょうから、しばらく休んでいきなさい。それと、あなたのお友達も無事だわ。下であなたを待っている。」【男性鮫人】 「あ、ありがとうございます、女王様……!なんとお礼を申し上げればよいか……私達はもう大丈夫です!他にも助けを必要としている仲間がいるでしょう。皆のことも、どうかお願いいたします。」千姫は優しく頷いた。【千姫】 「心配しないで、必ず平和を取り戻すから。今は傷を治すことに集中しなさい。何か言いたげね。」【晴明】 「変わったな、と思っただけだ。永生の海も、千姫も。」【千姫】 「……その台詞、八百比丘尼の口から聞いた方がしっくりくるわ。」 【湍津姫】 「あのさ……どうしてクラゲはこの大きい「糊状の何か」を囲んでぐるぐるしてるの?」【男性鮫人】 「さあ、なぜでしょう……ここに逃げてきた時は、まだなかったはずなのですが。」【千姫】 「海にいわれのない出来事なんてないわ。クラゲにも自分なりの理由があるはず。分からないのなら、潮汐に聞いてみましょう。」(千姫は海貝の戟を使い、クラゲに絡みついた糊状のものを取り除いた) 【湍津姫】 「うわ~……このクラゲ、金タコと同じくらい大きいや。」【千姫】 「永生の海の守護霊だもの。人魚が現れる前から存在していたとも言われているわ。今でもその言葉や行動の意味は完全に判明していないけれど、永生の海に害することは絶対にしない。」【湍津姫】 「じゃあ、ほんとに金タコにそっくりなんだね。金タコも「黄金の爪号」を守ってくれてるし。」【晴明】 「守護霊なのであれば、ここに閉じ込められたのも何らかの危機を止めるためだったんじゃないか?」【千姫】 「ええ、体を張って氷の侵食を防いでいたのよ。だから被害はこれ以上拡大しなかった。ここに逃げ込んだ人魚達のためにも、時間を稼いでくれたわ。でも、ここのクラゲたちは皆恐怖に怯えていた。そんな彼らを宥めようとしたところを、うっかり閉じ込められてしまったのね。」【晴明】 「君は……クラゲの言葉が分かるのか?」【千姫】 「どうかしら。さあ、怪我した他の生き物たちの救助を急ぎましょう。とりあえず、広くて安全な場所に移してあげるべきね。」【晴明】 「ああ。先に進むのは、彼らをちゃんと避難させてからだな。」 一同が話していると、一瞬何者かの影が過り、千姫に襲い掛かった。【晴明】 「千姫、危ない!」冷たい光がギラリと輝く。敵が何かしらの刃物を持っていることは、疑うまでもない。誰もが一瞬息を呑んだ刹那、千姫は身を翻しながら攻撃をいなし、同時に近づいてきた人影の勢いに乗じて宙でぐるんと一回転させた。ダン、と大きな音を立て、犯人が氷面に叩きつけられる。その場にいた一同は目を見張った。【湍津姫】 「……人魚?」千姫に近づかれる前に、人魚の少女は素早く立ち上がりながら後ずさり、背後の暗闇に消えていった。【湍津姫】 「どういうこと?どうして急に突っかかってきたの?「黄金の爪号」も大変だけど、永生の海に来てからは驚かされてばっかだ……ある意味勉強になったよ。」【晴明】 「知り合いか?」千姫は首を横に振った。【千姫】 「いいえ……」【晴明】 「本気で殺しに来ていたが。」【千姫】 「……例え海のことは知っていても、全部の人魚に詳しいわけじゃない。でも、人魚が理由もなくあんなことをするとは思えない。理由は分からないけれど、今度あの子に聞いてみるわ。今は、とにかく皆を安全な場所に連れて行かないと。次の地域に行く前に、皆の安全を確保しておきたいの。」【晴明】 「ああ、そうだな。ひとまず安全な場所を探そう。」 一同が話していると、一瞬何者かの影が過り、千姫に襲い掛かった。【晴明】 「千姫、危ない!」【千姫】 「下がってて!」攻撃をかわした千姫は、宙に飛び上がった人影を軽々と受け止め、ゆっくり氷の上に降ろした。その場にいた一同は目を見張った。【湍津姫】 「……人魚?」傷一つも負わなかった少女は、訝し気な目で千姫を見つめている。【千姫】 「大丈夫?」千姫に近づかれる前に、人魚の少女は素早く立ち上がりながら後ずさり、背後の暗闇に消えていった。【湍津姫】 「何か落としてったみたいだよ。」千姫が拾い上げると、それは少女が持っていた匕首の鞘だった。 【男性鮫人】 「家から逃げ出せなかった仲間は他にもいるのでしょうか。心配です……少し落ち着いたら、また皆と一緒に戻って確認してみます。 |
【男性鮫人】 「全部壊された……何も残ってない……いや……女王様さえいれば、すべて取り返せる。落ち込んでなどいられない。今は女王様に何をしてあげられるかを考えるべきだ!」 【湍津姫】 「あそこで何かが凍ってるみたいだよ。」【千姫】 「永生の海の民ではないわね。嫌なよそ者の気配がするわ……」 【??】 「愚者は予言を解き、賢者は予言に従う。氷解けは救いにならず。これ一の予言なり。」【晴明】 「!」【千姫】 「その顔……あれが誰なのかを知っているみたいね。」【晴明】 「すまない、千姫……わざと隠していたわけではない。初めてこの異様な気配を感じたのは、数ヶ月前のことだった。あのような鴉が現れた場所には、必ず常識に反することが起きる。とにかく、これからはより慎重に動こう。」 【晴明】 「!」【千姫】 「その顔……このよそ者のことを知っているの?」【晴明】 「千姫様、わざと隠していたわけではない。数ヶ月前、馴染みのない気配を感じた。烏が現れた場所では、必ず常識では説明できないことが起きる。とにかく、これからはより慎重に動こう。」 |
語らぬ深海の雪ストーリー
メインストーリー
語らぬ深海の雪ストーリー |
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拠点を立ち上げ、周囲に複数の術をかけた千姫と晴明は、屈強な若者たちにその場を守らせ、永生の海の住民を一か所に集めていた。【千姫】 「こういう時こそ気をつけないと。一番隙を突かれやすい時期だから、油断できないわ。負傷者の状況確認も忘れずに。見つけた薬草は全部拠点に持って帰ってきたから、簡単な手当てならできるでしょう……」【ふふ】 「女王様、少し休んでください。女王様疲れてる、ふふ、分かる。」【衛兵麻衣子】 「女王様、お話しいただいたことは全て記録しています。」【湍津姫】 「ふー、やっと完成した。この小屋はね、さっきみたいな天変地異が起きても壊れないの。はいはい、海獣たち、中に入って。ほら、あたしが持ってきた食べ物よ。少しくらいなら食べていいけど、全部はだめ。後で瀧に怒られちゃうから。」【千姫】 「ありがとう。」【湍津姫】 「お礼の言葉はいらないけど、海獣たちを連れて帰ってもいい?金タコも喜ぶと思うの。それにここ、危ないし。」【千姫】 「……」【ふふ】 「ここ、危なくない。ふふ、ここにいたい。ふふ、永生の海が大好き。」【湍津姫】 「やっぱり分かってないみたいね。このままだと、いつか凍えて死ぬのに。」【ふふ】 「ふふ、分からない。」【湍津姫】 「ここは一段落ついたし、まだ「黄金の爪号」の皆が待ってる。先に進もう。」【千姫】 「そうね。」【衛兵麻衣子】 「女王様、先日から氷結の源のことでお忙しく、ずっと休まれていません。ここからは我々に任せていただけませんか?」【千姫】 「私なら大丈夫。あなたたちは私の指示通り、拠点を守りなさい。」【衛兵麻衣子】 「はっ!」【湍津姫】 「心配で仕方がないのに、つれないことを言うのね。瀧兄さんにそっくり。」【千姫】 「そんな人、知らないわ。これが私のやり方なの。」【湍津姫】 「あたしと金タコが一度も喧嘩したことない理由、知ってる?」【千姫】 「その金タコとやらも、知らないわ。」【湍津姫】 「あたしたちは、いつだって嘘偽りなく本音を言うの。」【千姫】 「それが言いたかったの?別に私に聞く必要はなかったんじゃ……」【湍津姫】 「考えたことない?誰かを守ろうとしても、その相手が何も知らなかったら、相手はあたしを頼ってくれる?さっきみたいに一人で全てを背負い込もうとすると、逆に誤解されちゃうかもしれない。大事なのは助け合うことよ。」【千姫】 「あなたが言ってた「瀧兄さん」もそう思ってるの?」【湍津姫】 「あの人?ふっ!「黄金の爪号」の皆がいなかったら、物語に出てくる物憂げな貴公子みたいに、憂鬱な気分のまま死んでいくでしょうね。」【千姫】 「「感傷の春秋」って言いたいのね。」【湍津姫】 「永生の海にも春と秋があるの?」【千姫】 「大事なのはそこじゃないけど……まあいいわ、とにかく出発しましょう。」 |
マップ上の会話
マップ上の会話 |
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【湍津姫】 「……ここ、他の場所よりも被害が大きかったみたい。禍々しい気配がする。まるで夜中に穏やかな海を航行していたら、巨大な海妖怪に後をつけられていた時みたい。姿こそ見えないけど、狙われてるってはっきり感じる。静まり返ってて、波の音しか聞こえないけど、皆分かってるの。それは嵐の前の静けさに過ぎないって……」【ふふ】 「ふふ、怖い、それ以上言わないで……」湍津姫の後ろから、白と橙色が混ざった何かが突然現れて、小さな手で自分の耳を塞いだ。」【千姫】 「ふふ?どうしてついてきたの?」【湍津姫】 「ええ!どこから出てきたのよ、ずっとあたしの背中にくっついてたの?」【ふふ】 「ふふ、女王様が心配。ふふが、守ってあげる。」【晴明】 「今更送り返すわけにはいかない、とりあえず連れて行こう。何かあったら、私が守ってみせる。」【千姫】 「その必要はないわ。私がふふを、皆を守るから……」【晴明】 「ああ、分かっている。」【湍津姫】 「あそこにいるの、また凍ったクラゲ?」 【湍津姫】 「クラゲがクラゲを、あ、じゃなくて、タコを助けた。」【章魚】 「@¥%@¥…………&@¥」【湍津姫】 「何て言ってるの?」タコが触手で湍津姫の頬を叩いた。【湍津姫】 「うわ!いやあああ!放して、放さなかったら殴るよ!」湍津姫の感情を感じ取ったかのように、タコが触手を振り回す。【千姫】 「気をつけて。このタコ、なんだかおかしい。」 【湍津姫】 「クラゲがクラゲを、あ、じゃなくて、タコを助けた。」【章魚】 「@¥%@¥…………&@¥」【湍津姫】 「何て言ってるの?」タコが触手で湍津姫の頬を叩いた。【湍津姫】 「うわ!いやあああ!放して、放さなかったら殴るよ!」湍津姫の感情を感じ取ったかのように、タコが触手を振り回す。【千姫】 「気をつけて。このタコ、なんだかおかしい。」 【千姫】 「予想通りね。何かの影響を受けておかしくなったみたい。」【湍津姫】 「今は正気を取り戻したみたいだけど?」【千姫】 「戦闘中に、潮汐の力で癒やしてあげたの。でも……何が原因なのかは、まだ分からない。」【章魚】 「@#¥¥%¥%……#¥#¥%@」【湍津姫】 「なんで自分の頭を叩いてるの?」湍津姫も手を伸ばしてタコの頭を叩いてみる。するとタコは突然、全ての触手を振り回し始めた。周囲に渦が出現し、巻き込まれた湍津姫は宙に舞い上がった。千姫が彼女を助けようとしたその時——【晴明】 「待て、タコは湍津姫を上に送ろうとしているようだ。」晴明が言った通り、湍津姫は渦を利用して高台に着地した。少しして、湍津姫が高台の上から顔を出す。【湍津姫】 「おーい——早く上がって来て!き、金タコによく似たタコがいる!でも様子がおかしいの!」【千姫】 「金タコ?」【晴明】 「そういうことなら、我々も行ってみよう。」 【湍津姫】 「やっと来た!この子を見て。あんたたちを待ってる間にもう一度確認したの。あたしの可愛い金タコに似ているけど、このタコは……ちょっと強面なの。」【千姫】 「この子、タコじゃなくて、永生の海の守護霊よ。私たちの認知に合わせて、姿を変えているだけ……でも、どうしてこんな風に……だめだわ、もっと近くで確認しないと。」【章魚守護霊】 「止める、止める……」【晴明】 「誰か怪我をしていないか?」【千姫】 「どうして?」【晴明】 「……血の匂いがする。」千姫が注意深く匂いを嗅ぐ。【千姫】 「本当ね。でもこれは……人魚の血の匂いだわ。他にも誰かいるみたい。」【晴明】 「私が探してみよう。」霊視の力を使った晴明は、すぐに傍のサンゴの下に隠れている何者かを発見した。【晴明】 「急急如律令!」晴明の術が、その場所に飛んで行く。悲鳴が聞こえた後、見覚えのある人物が現れた。【湍津姫】 「またあんたね!」【千姫】 「血の匂い……怪我をしているの?」【鮫人女孩】 「偽善者め、近寄るな。」【千姫】 「……何か誤解しているようだけど、まずは手当てしないと。」【鮫人女孩】 「その力で傷を癒やすなんてまっぴらごめんよ。」【湍津姫】 「随分嫌われてるみたいね。」【晴明】 「千姫、油断するな、相手はまだ匕首を持っている。」【千姫】 「女王は民を恐れたりなんかしないわ。」 【千姫】 「それに匕首で攻撃するにしても、それだけの力がないと。」【鮫人女孩】 「……死んで!」人魚の女の子が匕首を振り下ろす。それと同時に、傍のタコの守護霊が突然暴れ出した。蛟竜のように舞う触手が少女の体に絡みつくと、ギシギシと音を立てながらきつく締め付けた。危機一髪のところで、千姫が少女の身の周りに防壁を召喚した。【晴明】 「落ち着け!あやつが攻撃を仕掛けてきたのは、彼女の行動を脅威と捉えているからだ。それに、不安定さも増している。無暗に動けばやつの逆鱗に触れ、少女を傷つけてしまうだろう。」【千姫】 「……わかっているわ。でも、黙って見てるなんてできない。」【湍津姫】 「さっき、潮汐の力で下のタコを癒したでしょ?こいつも相当イカれちゃってるみたいだし、同じ手を使えば――」【千姫】 「無理よ。氷封の影響を受けた今、あの巨体を止められる力は残っていないの。」【晴明】 「そういえば、このエリアの生物はある種の影響でこうなったと言っていたな?」【千姫】 「ええ、そうだけど……もしかして、その影響を取り除けと?」【晴明】 「ああ。」【千姫】 「……わかった。今はそれが最善策でしょうね。あの防壁なら、もうしばらくは持ち堪えてくれるはず。最初のタコとはほんの一瞬しか接触できなかったから、この異常を引き起こした原因ははっきりしなかったけれど……守護霊に近づいたことで、少しだけ明らかになったわ。この子は、有害な物質に傷つけられたのよ。」【晴明】 「有害物質?ならば、まずはそれが何かを究明するところからだな。」【千姫】 「ええ。この辺りにどこかおかしな場所はないか、みんなで確認してみましょう。」 【湍津姫】 「永生の海って、人魚もいれば魚人もいるんだね。雰囲気がこう、独特っていうか。」【晴明】 「海坊主?なぜこんなところに……」【海坊主】 「貴様ら、さっさと岸に戻らんか!」【湍津姫】 「その顔で怒られてもなぁ。」【ふふ】 「まさかどさくさに紛れて、外敵を永生の海から追い払おうとしてる?」【晴明】 「安心しろ、根は悪くないやつだ。ただ、まずは頭を冷やしてやらねば。」 【晴明】 「どうだ、海坊主。少しは落ち着いたか?」【海坊主】 「陰陽師……?セ、セイメイ様!?」【晴明】 「ああ、私だ。君はなぜここに?」【海坊主】 「近頃、海が妙にざわついとったもんじゃから、あちこち見て回っていたのじゃ。そしたら、この海域にたどり着いた途端、良からぬ気配を感じた。それでこの辺りの漁師を脅して帰らせていたんじゃが、人の忠告をまるで聞かぬ頑固者もおってな……やむを得ず、あれこれと手を尽くしていたというわけじゃよ。」【千姫】 「私が来たからには、もう大丈夫よ。あなたも、早く永生の海から立ち去ることね。」【湍津姫】 「「ここは危ないから、大した用もない奴はさっさとどっか行け」ってさ。」【海坊主】 「それはいかん!まだ呼び戻せておらぬ漁師が1人おる。そもそも、わしはそいつを探しにここに来たんじゃ。着いてすぐ頭がぼーっとしだして、その後の事はよく覚えとらんが。」海坊主の言葉を聞いた千姫はふと何かに気づき、身をかがめて珊瑚の柱に触れた。【千姫】 「珊瑚よ!珊瑚が有害な物質を放出しているわ。この海域で育った珊瑚は、海の中にいる間は基本無害だけれど……急に環境が変わったせいで、取り乱してしまったのかも。幸い、この程度なら私にも対処できる。」千姫が潮汐の力を呼び起こすと、潮汐がしなやかに珊瑚の柱を包み込んだ。変化が訪れたのは一瞬だった。【湍津姫】 「すごい、効いてるよ!ここに来てからなんとなく頭にモヤがかかってたんだけど、それが一気に晴れたって感じ!」【千姫】 「あとは珊瑚の柱を浄化すれば、この海域の生き物たちも少しずつ正気を取り戻してくれるでしょう。」【晴明】 「聞いての通り、ここは危険だ。海坊主、君はすぐにこの海域から立ち去り、海に出ようとする漁師たちを止めに行ってはくれないか?先ほど言っていた漁師は、私が代わりに探してやろう。」【海坊主】 「それはありがたい!では、わしは外回りの巡回に戻るとするかの。おっと、そういえば毒を取り除いてくれたお礼がまだじゃったな。改めて感謝するぞ。それはそうと、この辺りで漁師を探していたら、こんな落とし物を見つけたんじゃ。悪いが、これも頼めるか?」 【晴明】 「どうやら、海坊主が探していたのはあの漁師のようだな。」【漁民】 「ぎょ、魚人だ!この海域に魚人が住んでるって伝説は本当だったのか!」【千姫】 「大げさね。すぐに立ち去らせましょう。」【漁民】 「な、なんだおめえら?魚王が見つかんねえうちは、どこへも行かねえぞ!」【湍津姫】 「おじさん、頭おかしいんじゃない?周りをよく見てみなよ。命も危ないってのに、まだそんなこと言ってるの?」【漁民】 「近寄るな!魚王は俺のもんだ!」漁師は誰も近づかせまいと言わんばかりに銛を振りかざした。【湍津姫】 「バッカみたい。もう放っとこ?」【千姫】 「人間を救う義理なんて端からないわ。彼自身、命は惜しまないと言っているのだから、ここで時間を無駄にする理由はないわね。」【晴明】 「待ってくれ、1つ頼みがある。確かに海坊主と約束したのは私だが、彼を同行させてはくれないか?魚王が見つかれば、自分から去っていくだろう。どうかその寛大な心で、私の頼みを許してほしい。」【千姫】 「こんな事で寛大かどうか決めつけないで。私は構ってられないから、彼の安全はあなたが責任を持つのよ。」 【男性鮫人】 「あんたたち、どうやって登ってきたんだ?」晴明一行を見るや否や、人魚は救いの神に縋りつくように飛びついて来た。【湍津姫】 「ちょっと、失礼ね。この人はあんた達の女王様なんでしょ?」【男性鮫人】 「お願いだ、下に行かせてくれ……」あろうことか、人魚は千姫を押しのけようとしている。【ふふ】 「ふふ!どけ。女王様に触るな!」ふふはしなやかな身体で千姫の前に立ちはだかり、人魚を弾いた。人魚の背中に張られた千姫の防壁が、吹き飛んでいった人魚を優しく受け止める。【湍津姫】 「おぉ~。小さいのに、結構弾力があるんだね。」人魚は少し落ち着いたものの、首を垂れたまま放心している様子だ。【男性鮫人】 「こわい、こわすぎる……もう、こんな場所で待つのはごめんだ……あの乱流に触れれば、一瞬で命を奪われる……永生の海は煉獄に変わってしまったんだ。早くここから離れないと……」【ふふ】 「そんなのでたらめだ!ふふ!永生の海を悪く言うな!」【千姫】 「いいのよ、ふふ。」【男性鮫人】 「悪く言うだって?ここの惨状は見えているだろう!「始まりの約束」はなくなったんだ。これ以上ここを守ってたって、何の意味もないんだよ!」【千姫】 「……立ち去りたいのなら、好きにしなさい。人魚から自由を奪った覚えなんてないわ。ここから北西に向かえば、兵士たちに空けるよう指示してある道がある。」人魚は驚いて顔を上げ、千姫をちらりと見てから身を翻し、千姫たちが起こした流れに飛び込んだ。【湍津姫】 「行かせてよかったの?」【千姫】 「ええ。どんなに小さな水しぶきにも、それぞれに適した居場所があるもの。それに、水しぶきが1滴なくなったところで、ここが永生の海であることに変わりはないでしょう。さあ、このまま進むわよ。まだまだ浄化が必要な珊瑚はたくさんあるわ。」 【漁夫】 「こ……これが魚王……?」念願の魚王を目の前にするも、漁師に喜びの表情はなかった。【漁夫】 「こ、こいつ……息してねえじゃねえか……」【湍津姫】 「何、その顔。これが欲しかったんでしょ?」【漁夫】 「持って帰らねえと!」ハッと我に返った漁師はさっそく魚王を抱き上げようとしたが、あまりの重さに何度も躓いてしまう。【湍津姫】 「やめときなよ、骨折り損だから。道具もなしに、こんな大きな魚をどうやって持ち帰る気?」【漁夫】 「でも、運ばないわけには……運ばないわけには……」漁師は憑りつかれたようにブツブツとその一言を繰り返しながら、執拗に魚王に腕を回している。【湍津姫】 「あ~あ、海坊主が言ってた通りだったね。いくら欲深いからって、普通ここまでするかな?こんなことなら、助けなきゃよかった。」【晴明】 「……いや。思うに、彼は魚王を獲物として見ていないようだ……」【千姫】 「魚王は我ら永生の海の民よ。彼を連れ去ろうというものなら、私を倒していきなさい。」【漁夫】 「漁師は魚を獲るんだ。昔からずっとそうして来た。俺は魚を捕まえたいだけなのに、どうして理由が必要なんだ?」【千姫】 「なら、質問に答えて。永生の海には魚がごまんといるのに、なぜその一匹にこだわるの?」【漁夫】 「なぜって、こいつが他の魚と違うからだよ!俺たちの漁船が嵐に遭ったあの年、俺以外の仲間は全滅した。腹が空いて甲板の上に倒れてたところを、この魚王が現れたのさ。こいつは俺を待っていたんだ。俺の命が尽きてから、腹の足しにしようとしていたんだろう。だから俺は戦った。こいつと三日三晩、船が岸に流れ着くまで。その日から、俺はこいつを捕まえると誓った。俺が受けた苦しみを返してやるってな。こいつを追うんなら波だって、嵐だって怖くねえ。俺と戦う勇気のある魚は、こいつだけだった。今日、海が荒れ始めた時も、俺はこいつを追いかけていた。逃げていくこいつを、俺は後ろから……後ろから……いや、こいつは俺を連れて逃げていたのか……?」【千姫】 「……わかったわ。この魚は持って行きなさい。」【晴明】 「魚王は見つかった。もう引き返しても良いな?」【漁夫】 「……ああ。こいつを連れていくよ。」【晴明】 「海坊主との約束だ。手を貸してやろう。」晴明が魚王に術を施すと、魚王の巨体は徐々に縮まり、終いには手のひらの大きさになった。【晴明】 「長くはもたない。陰陽道の効果が切れる前に、早くここから立ち去るんだ。」【漁夫】 「ありがとう……」漁師は魚王と共にその場を後にした。【湍津姫】 「あの男、一番欲しかったものを手に入れたはずなのに、まるで魂を引っこ抜かれたみたいだったね。変なの。」【晴明】 「彼が追っていたのは魚王そのものではなく、魚王から与えてもらったものなのかもしれないな。」【湍津姫】 「何それ、意味わかんない!ほんと、そういうとこ白容裔によく似てるよね。」【千姫】 「さあ、先を急ぎましょう。」 【ふふ】 「ふふ、珊瑚の柱をきれいに浄化した。」【湍津姫】 「うぇ~、黄金の爪号の大掃除より大変だったかも!あの時はまだ、瀧の見えないとこでサボれたもん。」【千姫】 「守護霊のもとへ戻りましょう。すでに自我を取り戻しているはずよ。」 巨大なタコに化けていた守護霊は、いつの間にか元の姿に戻っていた。【湍津姫】 「やっぱり今の姿が一番かわいいや。金タコにそっくりだし。それにしても、珊瑚の影響を受けた他の生き物たちは気を失ってただけなのに、どうしてここのタコはこんなことになってたの?」【千姫】 「彼らが自ら毒素を吸収したからよ。ほとんどの影響を受け持ったから、他の生き物よりも症状が重かったの。」【湍津姫】 「じゃあ、彼らがここを守ってたんだね。あ~、聞けば聞くほど連れて帰りたくなってきた。」千姫が一歩前に出て、守護霊に近づく。【千姫】 「永生の海の守護霊よ。民のために力を尽くしてくれてありがとう。」千姫が守護霊に手を伸ばすと、守護霊も同じように触手を伸ばし、千姫の手にそっとのせた。【章魚守護霊】 「……前に進めよ……いつでも……我らは共に……」 【千姫】 「どう?守護霊のもとで、少しは冷静になれた?もう気づいているんでしょう?あなたに私を傷つけることはできないと。よければ、私を襲った理由を教えてくれる?」【鮫人女孩】 「あんたのせいで、父さんと母さんは命を落とした……」【千姫】 「何ですって?」【鮫人女孩】 「あんたが「始まり約束」を破ったから、父さんは外敵との戦争で死んだ。その悲しみから立ち直ろうとした母さんは永生の海を離れたけど、結局異国の海で病に倒れた。」【湍津姫】 「えっ、それも女王様のせいになるの?」【鮫人女孩】 「当たり前でしょ。「始まりの約束」があったら、こんな事にはならなかったんだよ。だから、全部あんたが悪いんだ。」【千姫】 「……これはあなたの落とし物?」千姫が取り出した物を見た少女の表情がゆるむ。【湍津姫】 「これを見つけるのに、あたし達がどんだけ苦労したと思う?あちこち探し回ったんだよ。どうせ荷物をうっかり落として、波に流されたんだろうけどさ――」【鮫人女孩】 「これ、母の形見……」【千姫】 「お母様の名前は……ひょっとして、雪語?」【鮫人女孩】 「ど、どうしてそれを?」【千姫】 「これを見て、昔私の衛兵だった雪語のことを思い出したの。気配りができる真面目な子で、いつも助けられていたわ。でも、ある日突然辞めてしまった……あなた、名前は?」【鮫人女孩】 「……未語。」【未語】 「衛兵だったなんて知らなかった。でも、どうして辞めたの?」【千姫】 「当時の私も理解できなかったけれど……今ならわかるわ。」千姫は少女を見つめる。【鮫人女孩】 「あ、あたし?」【千姫】 「お母様のとった選択、あなたならわかるでしょう。娘と共に永生の海を離れ、広い世界を見た後も、彼女は日々、失った痛みに苦しみ、のたうっていたかしら?私は、そうは思えない。彼女は、あなたを見つめる時と同じくらい柔らかい眼差しで、この世界を見つめていたはずよ。」【鮫人女孩】 「……」【千姫】 「日が暮れても、くらげの光や月明りの下で祈りを胸にこの髪飾りを作ったあなたのお母様は、あなたが憎しみを抱えて生きていくことを望んでいない。」【鮫人女孩】 「よくそんな事が言えるわね……母さんでもないくせに!」【千姫】 「彼女は娘を過去のしがらみから解放してやりたくて、外の世界を見せた――なのに、あなたはそんな彼女の思いを踏みにじった。」【鮫人女孩】 「あ……あたしは……」【湍津姫】 「ねぇ、ふふ……あんた達の女王様、言ってることは正しいかもだけど、もうちょっと言葉を選んだ方がいいと思わない……?」【千姫】 「これはあなたに返すわね。でも、その前に雪語……あなたのお母様のために祈らせて。」【鮫人女孩】 「祈る?……今更何を?」【千姫】 「永生の海の亡霊は皆、いずれここに戻って来る。この形見を媒介に、彼女が安寧の地の潮汐に帰れるよう、祈りを捧げたいの。同意がなくても祈らせてもらうわ。かつて私の衛兵だったわけだし、永生の海の民でもあるのだから。」 【鮫人女孩】 「……お母さん。お母さんなの?」少女は光の柱に飛びついたが、期待していた温もりには触れられなかった。【千姫】 「ちゃんとお別れしなさい。」【鮫人女孩】 「お母さん、行かないで。ううう……」【鮫人の母親】 「……未語、ごめんなさい。でも、死は終わりじゃない。あなたはこれからも、私が残したたくさんのものに少しずつ気づいていくことでしょう。どんな時も、これだけは忘れないで。私も、お父さんも……心からあなたを愛していると……さようなら、私の可愛い子。さようなら。」 【晴明】 「この区域の脅威も去ったことだし、ひとまず彼女を連れて野営地に戻ろう。この先には、今まで以上の危険が待ち構えているかもしれない。その前に物資を補給し、準備を整えておくのが最善策だ。」【湍津姫】 「あたしは一気に終わらせたいけど、大名士さんの言葉にも一理あると思う。ま、要するに瀧もよく言ってるアレだね――「性急な行動は失敗を招く」ってやつ。」【千姫】 「そうね。ひとまず野営地に戻って休みましょう。」 【千姫】 「どう?守護霊のもとで、少しは冷静になれた?もう気づいているんでしょう?あなたに私を傷つけることはできないと。よければ、私を襲った理由を教えてくれる?」【鮫人女孩】 「あんたのせいで、父さんと母さんは命を落とした……」【千姫】 「何ですって?」【鮫人女孩】 「あんたが「始まり約束」を破ったから、父さんは外敵との戦争で死んだ。その悲しみから立ち直ろうとした母さんは永生の海を離れたけど、結局異国の海で病に倒れた。」【湍津姫】 「えっ、それも女王様のせいになるの?」【鮫人女孩】 「当たり前でしょ。「始まりの約束」があったら、こんな事にはならなかったんだよ。だから、全部あんたが悪いんだ。」【千姫】 「……これはあなたの落とし物?」千姫が取り出した物を見た少女はさらに顔を顰めた。【鮫人女孩】 「返して!」【湍津姫】 「これを見つけるのに、あたし達がどんだけ苦労したと思う?あちこち探し回ったんだよ。どうせ荷物をうっかり落として、波に流されたんだろうけどさ――」【鮫人女孩】 「あんた達には関係ない!」【千姫】 「日が暮れても、くらげの光や月明りの下で祈りを胸にこの髪飾りを作ったあなたのお母様は、あなたが憎しみを抱えて生きていくことを望んでいない。」【鮫人女孩】 「よくそんな事が言えるわね……母さんでもないくせに!」【千姫】 「何故かはわからないけれど、この髪飾りを眺めていると、なんとなく彼女の気持ちを感じ取ることができるの。」【鮫人女孩】 「あんたが何て言おうと、あたしの考えは変わらない。今のあたしには無理かもしれないけど、いつか全部の報いを受けさせてやるから。」少女は強くそう言い切ると、すべての荷物を引っ提げてその場を後にした。【湍津姫】 「あの子、ああやって消えるのが好きなのかな。」【ふふ】 「ふふ、さっきの表情、怖かった……」【晴明】 「「宣戦布告」をされても尚、彼女のことが心配なんだな。」【千姫】 「……」【晴明】 「案ずるな。あの娘の後をつけるよう、紙人形に私の術を施してある。少なくとも、これで命にかかわるような危険には遭わずに済むだろう。だが、今後の道をどう歩むのかは、すべて彼女次第だ。」【千姫】 「さすがは八百比丘尼お墨付きの陰陽師様。抜かりないのね。」【晴明】 「褒め言葉なのか皮肉なのか、よくわからないな。」【千姫】 「ご自由に解釈してもらって構わないわ。」【晴明】 「この区域の脅威も去ったことだし、ひとまず彼女を連れて野営地に戻ろう。この先には、今まで以上の危険が待ち構えているかもしれない。その前に物資を補給し、準備を整えておくのが最善策だ。」【湍津姫】 「あたしは一気に終わらせたいけど、大名士さんの言葉にも一理あると思う。ま、要するに瀧もよく言ってるアレだね――「性急な行動は失敗を招く」ってやつ。」【千姫】 「そうね。ひとまず野営地に戻って休みましょう。」 目の前の華奢な妖怪の少女は弱々しい肩を小刻みに震わせているが、拳を握り締め、懸命に勇気を振り絞っていた。【海の蝶】 「ど、どいてください!さもないと……」【湍津姫】 「わっ、可愛い妖怪ちゃんだ。」【ふふ】 「ふふも思った!親近感湧く!」【千姫】 「あなた……永生の海の民ではないわね?」顔を上げた少女はまだ少しぼんやりしていたが、千姫らに悪意がないことを察したのか、恐る恐る口を開いた。【海の蝶】 「あなた方も私と同じように、この場所にとじ込められ、帰れないのですか?」【湍津姫】 「いや、あたし達はここの住人っていうか……あっ、間違えた。住んでるのはこの人たちだった。」【海の蝶】 「そ、うですか……」妖怪の少女はがっかりした様子で再び頭を下げた。【千姫】 「あなた、家はどこ?」【海の蝶】 「それが……よく覚えていなくて……ただ、暖かくて明るい場所だったことは覚えています。光があふれていて、すごくきれいで……」【湍津姫】 「名前はなんていうの?」【海の蝶】 「私は……海の蝶と申します。ここから遠く離れた場所から来ました。冷たい海の中をずっと泳いでいたら、キラキラ光る物を見つけて……自分の家だと勘違いして近づいたら、さらに冷たい氷に触れ、気づけば意識を失っていたんです。再び目を開けた頃にはもう、ここに閉じ込められていました。幸い、珊瑚の枝は落としませんでしたが……」【ふふ】 「自分の家が思い出せないなら、ここに残る?今は……こんな感じになってるけど、すぐ元に戻るから。暖かくて、心地いい場所に。」ふふがやや大げさな身振り手振りをしてみせた。【海の蝶】 「私は……自分の家の場所を忘れたわけではありません。ただ、時間をかけて見つけなければならないだけです。それに、私の帰りを待っている人もいますし。絶対に、戻らないと。」【千姫】 「じゃあ、どの方向に向かえばいいのかはわかっているのね?」【海の蝶】 「恐らく……あちらです。少しずつ近づいているとは思うのですが……」そう言って、海の蝶は珊瑚の枝である方向を指し示した。【海の蝶】 「向こうに行くには、どうやらクラゲの助けが要るようでして。けれど、どうやって頼めばいいかわからず、ここで立ち往生していたんです……」【千姫】 「クラゲ?それなら、私が呼び覚ましてきてあげるわ。一人でここにいては危ないから、あなたもついてきて。みんなで安全を確認してから出発すること、いいわね?」【海の蝶】 「あ……ありがとうございます!」海の蝶は両目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに笑った。 【千姫】 「これで下の足場に降りれるようになったわ。あそこから向かうのが一番安全なはずよ。」 【湍津姫】 「霧がかかってるけど、一人で大丈夫?あんた、見るからに危なっかしいし……」【海の蝶】 「大丈夫です。少しでも早く家に戻らないといけないので……こ、これにて失礼いたします。皆さん、本当にありがとうございました!」【千姫】 「待って。この蛍光の玉を持っていって。外にも人魚はたくさんいるの。危ない目に遭ったり、助けが必要な時は、この蛍光の玉を使うといいわ。この光を見た人魚たちは、きっと全力で助けてくれるはずよ。」【海の蝶】 「そんなに貴重な物を……?ほ、本当によろしいのですか?」【千姫】 「……私、妹がいたのよ。小さい頃にはぐれてしまったけれど。あの子が独りで世界を彷徨っていた時も、あなたみたいに自分の家を探し続けていたのかしら。もし、あの頃の彼女に誰かが救いの手を差し伸べていたら、家に帰れていたかもしれないのに……だから、これは私のためだと思って受け取ってちょうだい。さあ、早く行って。大事な家族が待っているんでしょう?」【海の蝶】 「わ、わかりました。ありがとうございます。これ、大切にします。」【千姫】 「ええ。」【海の蝶】 「さようなら!あ……あなた方のことは忘れません!」【湍津姫】 「フフッ、気を付けてね――」【ふふ】 「ふふ、珊瑚の柱をきれいに浄化した。」【湍津姫】 「うぇ~、黄金の爪号の大掃除より大変だったかも!あの時はまだ、瀧の見えないとこでサボれたもん。」【千姫】 「守護霊のもとへ戻りましょう。すでに自我を取り戻しているはずよ。」 【湍津姫】 「あの子、ああやって消えるのが好きなのかな。」【ふふ】 「ふふ、さっきの表情、怖かった……」【晴明】 「「宣戦布告」をされても尚、彼女のことが心配なんだな。」【千姫】 「……」【晴明】 「案ずるな。あの娘の後をつけるよう、紙人形に私の術を施してある。少なくとも、これで命にかかわるような危険には遭わずに済むだろう。だが、今後の道をどう歩むのかは、すべて彼女次第だ。」【千姫】 「さすがは八百比丘尼お墨付きの陰陽師様。抜かりないのね。」【晴明】 「褒め言葉なのか皮肉なのか、よくわからないな。」【千姫】 「ご自由に解釈してもらって構わないわ。」【晴明】 「この区域の脅威も去ったことだし、ひとまず囚われた人魚たちを連れて野営地に戻ろう。この先には、今まで以上の危険が待ち構えているかもしれない。その前に物資を補給し、準備を整えておくのが最善策だ。」【湍津姫】 「あたしは一気に終わらせたいけど、大名士さんの言葉にも一理あると思う。ま、要するに瀧もよく言ってるアレだね――「性急な行動は失敗を招く」ってやつ。」【千姫】 「そうね。ひとまず野営地に戻って休みましょう。」 【湍津姫】 「永生の海って、人魚もいれば魚人もいるんだね。雰囲気がこう、独特っていうか。」【晴明】 「海坊主?なぜこんなところに……」【湍津姫】 「その顔で怒られてもなぁ。」【ふふ】 「まさかどさくさに紛れて、外敵を永生の海から追い払おうとしてる?」【晴明】 「安心しろ、根は悪くないやつだ。ただ、まずは頭を冷やしてやらねば。」【海坊主】 「近頃、海が妙にざわついとったもんじゃから、あちこち見て回っていたのじゃ。そしたら、この海域にたどり着いた途端、良からぬ気配を感じた。それでこの辺りの漁師を脅して帰らせていたんじゃが、人の忠告をまるで聞かぬ頑固者もおってな……やむを得ず、あれこれと手を尽くしていたというわけじゃよ。」【千姫】 「私が来たからには、もう大丈夫よ。あなたも、早く永生の海から立ち去ることね。」【湍津姫】 「「ここは危ないから、大した用もない奴はさっさとどっか行け」ってさ。」【海坊主】 「それはいかん!まだ呼び戻せておらぬ漁師が1人おる。そもそも、わしはそいつを探しにここに来たんじゃ。着いてすぐ頭がぼーっとしだして、その後の事はよく覚えとらんが。」海坊主の言葉を聞いた千姫はふと何かに気づき、身をかがめて珊瑚の柱に触れた。【千姫】 「珊瑚よ!珊瑚が有害な物質を放出しているわ。この海域で育った珊瑚は、海の中にいる間は基本無害だけれど……急に環境が変わったせいで、取り乱してしまったのかも。幸い、この程度なら私にも対処できる。」千姫が潮汐の力を呼び起こすと、潮汐がしなやかに珊瑚の柱を包み込んだ。変化が訪れたのは一瞬だった。【湍津姫】 「すごい、効いてるよ!ここに来てからなんとなく頭にモヤがかかってたんだけど、それが一気に晴れたって感じ!」【千姫】 「あとは珊瑚の柱を浄化すれば、この海域の生き物たちも少しずつ正気を取り戻してくれるでしょう。」【晴明】 「聞いての通り、ここは危険だ。海坊主、君はすぐにこの海域から立ち去り、海に出ようとする漁師たちを止めに行ってはくれないか?先ほど言っていた漁師は、私が代わりに探してやろう。」【海坊主】 「それはありがたい!では、わしは外回りの巡回に戻るとするかの。おっと、そういえば毒を取り除いてくれたお礼がまだじゃったな。改めて感謝するぞ。それはそうと、この辺りで漁師を探していたら、こんな落とし物を見つけたんじゃ。悪いが、これも頼めるか?」 【湍津姫】 「人間じゃん。なんでこんなとこにいるんだろ?」【漁民】 「ぎょ、魚人だ!この海域に魚人が住んでるって伝説は本当だったのか!」【千姫】 「大げさね。すぐに立ち去らせましょう。」【漁民】 「な、なんだおめえら?魚王が見つかんねえうちは、どこへも行かねえぞ!」【湍津姫】 「おじさん、頭おかしいんじゃない?周りをよく見てみなよ。命も危ないってのに、まだそんなこと言ってるの?」【漁民】 「近寄るな!魚王は俺のもんだ!」漁師は誰も近づかせまいと言わんばかりに銛を振りかざした。【湍津姫】 「バッカみたい。もう放っとこ?」【晴明】 「様子がおかしいな。」【千姫】 「ええ。何らかの影響で理性を失っているとしか……」しばらく目を伏せて考え込んでいた千姫は、ふと何かに気づいたのか、身をかがめて珊瑚の柱に触れた。【千姫】 「珊瑚よ!珊瑚が有害な物質を放出しているわ。この海域で育った珊瑚は、海の中にいる間は基本無害だけれど……急に環境が変わったせいで、取り乱してしまったのかも。幸い、この程度なら私にも対処できる。」千姫が潮汐の力を呼び起こすと、潮汐がしなやかに珊瑚の柱を包み込んだ。変化が訪れたのは一瞬だった。【湍津姫】 「すごい、効いてるよ!ここに来てからなんとなく頭にモヤがかかってたんだけど、それが一気に晴れたって感じ!」【千姫】 「あとは珊瑚の柱を浄化すれば、この海域の生き物たちも少しずつ正気を取り戻してくれるでしょう。この漁師に関しては……人間を救う義理なんて、私には端からないわ。彼自身、命は惜しまないと言っているのだから、ここで時間を無駄にする理由はないわね。」【晴明】 「待ってくれ、1つ頼みがある。放っておけば、彼は一人で危険な場所に行きかねない。彼を同行させてはくれないか?魚王が見つかれば、自分から去っていくだろう。」【千姫】 「……好きにして。私は構ってられないから、彼の安全はあなたが責任を持つのよ。」 【湍津姫】 「このタコ、あんまり良くなってないみたいだよ?」【千姫】 「浄化した珊瑚の数が足りないのかもしれないわ。両脇の珊瑚の柱も片付けてしまいましょう。」【湍津姫】 「ふぅん。りょーかい。」 【晴明】 「どうだ、海坊主。少しは落ち着いたか?」【海坊主】 「陰陽師……?セ、セイメイ様!?」【晴明】 「ああ、私だ。君はなぜここに?」【海坊主】 「近頃、海が妙にざわついとったもんじゃから、あちこち見て回っていたのじゃ。そしたら、この海域にたどり着いた途端、良からぬ気配を感じた。それでこの辺りの漁師を脅して帰らせていたんじゃが、人の忠告をまるで聞かぬ頑固者もおってな……やむを得ず、あれこれと手を尽くしていたというわけじゃよ。」【千姫】 「私が来たからには、もう大丈夫よ。あなたも、早く永生の海から立ち去ることね。」【湍津姫】 「「ここは危ないから、大した用もない奴はさっさとどっか行け」ってさ。」【海坊主】 「それはいかん!まだ呼び戻せておらぬ漁師が1人おる。そもそも、わしはそいつを探しにここに来たんじゃ。着いてすぐ頭がぼーっとしだして、その後の事はよく覚えとらんが。」【晴明】 「君が言っていた漁師は彼か?」【海坊主】 「おお、いかにも!おい、貴様!さっさとここから立ち去らんか!さもないと痛い目に遭うぞ!」【漁民】 「魚王を見つけるまでは絶対に離れねえ!」【晴明】 「海坊主、ここは危険だ。君はすぐにこの海域から立ち去り、海に出ようとする漁師たちを止めに行ってはくれないか?彼は……彼が無事に魚王を見つけられるまで、私がそばにいてやろう。」【海坊主】 「それはありがたい!では、わしは外回りの巡回に戻るとするかの。おっと、そういえば毒を取り除いてくれたお礼がまだじゃったな。改めて感謝するぞ。それはそうと、この辺りで漁師を探していたら、こんな落とし物を見つけたんじゃ。悪いが、これも頼めるか?」 【晴明】 「恵比寿?なぜお前がここに?」【惠比寿】 「金の斧……銀の斧……?お主の願いは何じゃ……さあ、全部ワシに教えておくれ……」【湍津姫】 「なになに、願いを叶える福の神なの?やったぁ~っ、お宝ちょ~だい!」【惠比寿】 「なんじゃ?良く聞こえんのう。」【千姫】 「この辺りの影響で耳が遠くなっているのかしら。私が治してあげるわ。」千姫は潮汐の力を使った。【惠比寿】 「ダメじゃ……まだアレを見つけておらぬうちは……」【晴明】 「見つける?何かを探しに来たのか?」【惠比寿】 「笠をかぶった坊主じゃよ。寺を建てたいからと、ワシを将棋に誘ってくれてのう。しかし気が付いたら、ワシの鯉のぼりが消えておったのじゃ!あやつが持ち去ったに違いない。」【晴明】 「つまり、その男を追いかけて永生の海に来たと?」【惠比寿】 「いかにも。じゃが、ここはどういうわけか、随分と様子が変わったな。……ん?はて、ワシは前にもここに来たことがあったのか?」【湍津姫】 「ダメだ、完全に耄碌してる!」【千姫】 「探し物は、私が見つけてきてあげるわ。」【惠比寿】 「おお、それはありがたい……急いでおるわけではないからな、ゆっくりでも構わんよ。娘さんは純粋な心の持ち主と見た。ワシがこれまで見てきた人間は、揃いも揃って底知れぬ欲を持っておった――金、権力、永遠の命……欲が深いほど、人間は呪いの渦に飲まれやすい。じゃが、お主は呪いを打ち破る者のようじゃな。」 【千姫】 「何故かはわからないけれど、この髪飾りを眺めていると、なんとなく彼女の気持ちを感じ取ることができるの。」【鮫人女孩】 「あんたが何て言おうと、あたしの考えは変わらない。今のあたしには無理かもしれないけど、いつか全部の報いを受けさせてやるから。」 |
海霧に隠れる月ストーリー
メインストーリー
海霧に隠れる月ストーリー |
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【衛兵麻衣子】 「女王様!拠点の位置を拡散しましたところ、情報を受け取ったほとんどの人魚が避難に参りました。女王様より頂いた指示通り、永生の海周辺の防御を固め、拠点の近くにも警備隊を置いております。海は次第に秩序を取り戻しつつありますので、ご心配ないかと。」【千姫】 「「次第に」では遅いでしょう?拠点の外で待っている仲間たちは待てないのよ。さらに人手を増やし、警備を強化しなさい。最後まで油断せず、各々の責務に専念して。」【衛兵麻衣子】 「はっ……」衛兵は頭を下げ、その場を後にした。【湍津姫】 「相変わらず手厳しいねぇ。」【晴明】 「何か思うところがあるのか、千姫。」【千姫】 「ええ。これまでの出来事は皆、偶然じゃない気がするの。この永生の海には今、私の知らない気配が漂っている。どこかに敵が潜んでいるようで、気味が悪いわ。」【晴明】 「私も同感だ……」【千姫】 「旅を続けましょう。」 |
マップ上の会話
マップ上の会話 |
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【湍津姫】 「さっきまで何もなかったのに、急につららが現れたんだけど!?」【千姫】 「氷封の進行が速まっただけでなく、力も増していってるみたいね。けれど、秘蔵の間はもうすぐそこよ。私にはわかる。」【湍津姫】 「そんなこと言われても、閉じ込められちゃってるしなぁ。う~ん……いっそのこと、穴でも掘って地下から行くとか?」【晴明】 「しっ、静かに。千姫に考える時間を与えてくれ。」 【千姫】 「間違いない、秘蔵の間は目と鼻の先にあるわ。」【湍津姫】 「目と鼻の先って……まさかこの氷の壁の向こうとか言い出さないよね?」【千姫】 「氷の壁の向こうよ。」【湍津姫】 「えぇ~……思いっきり塞がれてるけど、どうすればいいの?」【千姫】 「私に任せて。」千姫は潮汐の力を発動したが、氷の壁はびくともしない。それどころか、むしろ千姫自身が苦しそうにうめき声を漏らした。【千姫】 「くっ……」【晴明】 「大丈夫か?」【ふふ】 「ふふ!女王様!」【晴明】 「ただでさえ潮汐の力が弱まっているのだ。無理やり使おうとするな。他の方法を探そう。」 【湍津姫】 「この子もここに閉じ込められたのかな。残念……頭がこんなにつるつるじゃなければ、あたし達の代わりに穴を掘ってくれたかもしれないのに。寒いよね?お腹も空いてるんじゃない?」【千姫】 「……さっき手に入れた食料があるわ。」【湍津姫】 「おぉ~、そうだった!はい、お食べ。腹が減っては、いざという時に走れないよ。」シャチの子供は貰ったものをその場で平らげ、お礼を言うように千姫の周りをぐるりと一周回ると、力をためてつららにぶつかり、氷を砕いた。【湍津姫】 「うわぁっ、すごい!あの頭はああやって使うのが正解だったんだ!」【千姫】 「食べ物をもらったお礼に、助けてくれたのね。」【シャチ】 「キュー!」落ち着きなく泳ぎ回るシャチの子供を見て、千姫は腰を低くし、その背中を優しくさすってあげた。【千姫】 「どうしたの?」【シャチ】 「キューイ!フー!キュー!」【千姫】 「……本当?」【シャチ】 「キューイ!」【湍津姫】 「なになに、なんて?」【千姫】 「道を塞いでいる氷の壁を壊してくれるそうよ。」【湍津姫】 「はぇ?このちびっこが?」【晴明】 「湍津姫、最後まで話を聞いてやれ。」【千姫】 「でも今はお腹が減って、力が弱まっている。だから、食べ物がほしいと言っているわ。」【湍津姫】 「食べ物?見つかるかな、こんなとこで……」【晴明】 「とにかく探してみよう。」 【男性鮫人】 「今生きることは苦痛でしかない。どうか安らかに眠ってくれ……全部を忘れ、もう二度と戻ってくるな。本物の楽園に行くんだぞ……」【ふふ】 「ふふ……何の話?……なんだか怖い。」【湍津姫】 「あんた達、まだここにいたの?近くに女王様が作った拠点があるよ。あそこは今のとこ安全だから、早く行きなよ。」優しく忠告してくれた湍津姫を、人魚達はただ冷たく睨み返した。【千姫】 「その祈りは誰に?」千姫の声を聞くと、彼らを束ねる長らしき人魚が顔を上げた。【男性鮫人】 「亡くなった者と、もうじき亡くなる者に。」【千姫】 「「もうじき亡くなる者」……?……この辺りは危険だわ。案内してあげるから、ひとまず安全な場所に移りなさい。」【男性鮫人】 「……帰ってください。儀式の邪魔です。」人魚達は千姫を無視し、再び頭を下げた。【湍津姫】 「何あれ、感じ悪い!しつこく髪を噛んでくるピカピカの魚より不気味なんだけど!」【晴明】 「この近くには他の人魚もいるはずだ。シャチにあげられる食料を探しながら、話を聞いて回ろう。」【千姫】 「……」 【男性鮫人】 「今生きることは苦痛でしかない。どうか安らかに眠ってくれ……全部を忘れ、もう二度と戻ってくるな。本物の楽園に行くんだぞ……」 【千姫】 「あの——」【鮫人拓也】 「ちゃんと帰ってくるのか?それはいつになる……どうして行ってしまったんだ……こんなはずじゃなかったのに……」【湍津姫】 「どうしたの?顔が真っ青だよ。魂でも抜けた?」【鮫人拓也】 「君達は……女王様!?どうして――いや、そうか……この状況だしな。女王様に会えてもおかしくはないのか……すみません、お見苦しい姿をお見せして。」【湍津姫】 「気が動転してたみたいだけど、何かあった?」【鮫人拓也】 「こうなってしまった以上、素直に打ち明けましょう。僕は……ここから出て行きたいんです。」【千姫】 「近くに拠点を作ったわ。あそこに行けば安全よ。」【鮫人拓也】 「……いえ。永生の海から、という意味です。」【湍津姫】 「ん?じゃあ、こんなとこでウロウロしてないで、さっさと出ていけばいいじゃん。まさか、外が怖いの?」【鮫人拓也】 「……」【湍津姫】 「図星かぁ。」【千姫】 「その様子だと、自分の意志で決めたわけではないみたいね。」【鮫人拓也】 「君達は……シャチが食べられるものを探しているんですよね。でしたら、ちょうどいいかもしれません。仮の宿に荷物を預けていたのですが、そこへ向かう道を妖怪に阻まれてしまって。もし僕の荷物を持ってきてくださるのなら、食料をお譲りいたしますよ。ああ、それと……あの場所は少々独特なので、気をつけてくださいね。」【湍津姫】 「独特って?」【鮫人拓也】 「ええ。仮の宿とはいえ、美しくなければなりませんので、氷で飾っておいたのです。ですので、氷を見かけても絶対に壊さないでください。」【湍津姫】 「今のシャチじゃ、絶対に無理だよ!」【晴明】 「何かいい方法はないか、他を当たってみよう。」 【鮫人千慧】 「はぁ……深呼吸しないと……あの子ならきっと……きっと無事だから……」【千姫】 「大丈夫?怪我人かしら?」【鮫人慎吾】 「もし怪我したのなら、それもあんたのせいよ!」【千姫】 「……」【ふふ】 「ひっ、ひえぇ……」【鮫人千慧】 「……ごめんなさい。いろんなことがあったので、少し混乱していて……ご無礼をお許しください。」【千姫】 「いいのよ。困っていることがあれば、私に教えて。可能な限り力を貸すわ。それと、もう一つ聞きたいことがあるの。この近くにシャチが食べられそうなものはない?」【鮫人千慧】 「本当に、お願いしてもよろしいのですか?」【千姫】 「ええ。」【鮫人千慧】 「天変地異が起きた時、私達にとって大切な海獣の子供とはぐれてしまったんです。あの子を探してきていただくことは可能でしょうか?」【千姫】 「もちろん。少し時間を頂戴。」 【千姫】 「あなたが探していたのは、この子?」千姫が連れてきた海獣を見るなり、女人魚は表情を緩め、優しい笑顔を見せた。【鮫人千慧】 「そうです、この子です!ありがとうございます、女王様……!」【鮫人慎吾】 「どれどれ……おお、間違いない!いつも我が子の傍にいてくれた海獣だ!」【鮫人千慧】 「女王様、あの……この子を見つけた場所に、小さい男の子はいませんでしたか?」【千姫】 「それは……見かけなかったわ。」【鮫人千慧】 「……そう、ですか……」【千姫】 「……もしかして、子供ともはぐれたの?」【鮫人慎吾】 「はぐれた?はぐれただけなら良いんだがな。大人でさえ、あのような天変地異を生き抜くのは困難なのに……」【鮫人千慧】 「縁起でもないこと言わないで!」【鮫人慎吾】 「なんだよ、縁起って。そもそも、全部この女王様のせいなんだろう?皆がこいつをちやほやするから、いい気になってあんなことを……」【千姫】 「言いたいことがあるのなら、もっとはっきり言いなさい。」【男性鮫人】 「あんたが「始まりの誓約」を破らなかったら、俺の子は怖い目に遭わなくて済んだし、どんな怪我を負っても潮汐が癒してくれた。それどころか、この災いすら起こらなかったかもしれない。永生の海はあんたの非道に罰を下したんだよ!」【ふふ】 「ふふ!根拠もないことを!女王様、この災いとは関係ない!」【千姫】 「なるほど。「始まりの誓約」を破った私に不満を抱えていたから、あなた達はここに集まっていると。」【鮫人千慧】 「……女王様、どうか彼のご無礼を許してあげてください。これは約束の品です。息子はシャチが大好きなので、いつも餌を常備していました。誰かがこれを必要としているのなら、喜んでお譲りしましょう。私から言えることは、以上です。それでは……」【千姫】 「……わかった。餌はもらっておくわね。」 【千姫】 「これ、あなたの荷物?」【鮫人拓也】 「……ああ、まさか本当に持ってきてくれたとは。」【湍津姫】 「はぁ?持ってこいって言ったのはあんたじゃん。なに、実はそんなに欲しくなかったってわけ?」【鮫人拓也】 「ついに出発の時が来たのだと悟っただけですよ。」【晴明】 「君の心は今、憧憬と恐怖を同時に抱いている。それ故に葛藤しているのだろう。」【鮫人拓也】 「ええ、仰る通りです。僕は昔から笑い者にされてきました。中途半端な性格のせいで、大切な人にまで見放され……」【千姫】 「見放された?誰に?」【鮫人拓也】 「もうご存知かと思いますが、ここに集まっている人魚達は皆、女王様に不満を抱えています。僕がここにいるのも、女王様が原因です……僕にはかつて、愛し合っていた恋人がいました。情熱的で、前向きで、一番の願いは外の世界を旅して、いろんな景色を堪能することだと……彼女はそう言っていました。なので、「始まりの誓約」が消えた後、彼女はすぐに永生の海を出ると決めたのです。」【湍津姫】 「どうして一緒に出ていかなかったの?」【鮫人拓也】 「「始まりの誓約」の影響で、男の人魚は生まれつき体が弱かったんです。永遠の命を失う可能性など、それまでは一度も考えたことがありませんでした。加護を失えば、治らない傷をつけられる可能性もでてくる。そうすれば僕は……確実に死ぬでしょう。死という概念すらなかった僕にとっては、ひどく恐ろしいことです。永生の海を出るということは、危険な目に遭いやすいという意味でもありますので。臆病者だと笑われても構いません。それでも僕は、予測できない変化と死が途方もなく怖い……」【千姫】 「私に「始まりの誓約」を取り戻してほしいの?」【鮫人拓也】 「もし取り戻せるのなら、人魚は簡単に永生の海を出られなくなります。そうすれば、恋人も……帰ってくるかもしれません。」【千姫】 「私に言わせれば、あなたは臆病者ではなく、ただの自分本位な人だわ。」【鮫人拓也】 「……」【千姫】 「変化を受け入れたくないから、恋人にも変わってほしくない。彼女を呼び戻すために「始まりの誓約」を利用したいのであれば、それは愛ではなく、束縛よ。その顔、本当は自分でもわかっていたのでしょう?」【男性鮫人】 「……ははっ。」拓也は自嘲するような薄笑いを浮かべた。【鮫人拓也】 「そうですよ、わかっていますとも。ただ醜い自分から目を背ける口実が欲しかっただけです。」【千姫】 「荷物はもう渡したわ。これから恋人に会いに行くかどうかは、自分で決めて頂戴。」【鮫人拓也】 「……」【千姫】 「シャチに氷の壁を壊してもらうには、まだまだ食料が足りないみたいね。引き続き探しに行きましょう。」【鮫人拓也】 「お待ちください!」【千姫】 「まだ何か?」【鮫人拓也】 「……ありがとうございました。もし気になることがあれば、この地の長——貴之を訪ねてみてください。ここのことに明るい彼なら、力になってくれるかもしれません。」【千姫】 「わかったわ。ありがとう。」 【千姫】 「ここの状況は大方把握したわ。あなた達が拠点に行きたくない理由も、ここに集まっている理由も。けれど、私はとやかく言うつもりはないし、弁明するつもりもない。時間がすべてを証明してくれると信じているから。でも、あなた達がこの永生の海にいる限り、永生の海の一員であることに変わりはない。だから、今は永生の海の一員として協力をお願い。氷封の拡散を止めたいから、氷の壁を壊すのに手を貸して頂戴。」【貴之】 「……女王様のお力になれる人魚は、ここではなく、あそこにいます。」貴之は淡々とそう言うと、中心に聳え立つサンゴの柱を指差した。恐ろしい氷の棘に絡まれたそれは、ひどく不穏な気配を漂わせている。【千姫】 「サンゴの柱の上に人魚が?それじゃあ、さっきの儀式は……」【貴之】 「彼らのために、祈りを捧げていました。」【千姫】 「これは一体、どういう状況なの?」【貴之】 「氷の棘に閉じ込められた上、凍ってしまっているんです。このままでは確実に死ぬでしょう。あらゆる手を使いましたが、すべて徒労に終わりました。故に、こうして彼らの苦痛が和らぐよう祈っていたのですよ。」【千姫】 「氷の棘……今まで集めた食べ物をシャチに与えましょう。元気を取り戻したその子なら、この氷の棘も壊せるはず。」 【晴明】 「長らく氷の中に閉じ込められていた挙句、怪我まで負っているな……術で簡単な手当てをしてやった。もうしばらくすれば動けるようになるだろう。」【千姫】 「……判断が早いのね。自分でやるつもりだったのに。」【晴明】 「湍津姫、金タコのことが心配か?」【湍津姫】 「そんなこと、聞くまでもないでしょ。あの子、いつまで持つかな……」【晴明】 「瀧と白容裔がついているのだから、きっと大丈夫だ。彼らへの信頼は、私よりも君の方が厚いからな。」【湍津姫】 「それはそう。」【鮫人木村】 「ケホッ、ゴホッ!」ひどく咳き込みながら、人魚達が目を覚ます。【鮫人香子】 「……た、助かったの?」【晴明】 「ああ。君たちの女王が近くの氷の棘を壊したんだ。」【鮫人香子】 「女王様……?女王様がここにいらしたのですか……?」【千姫】 「まだ本調子じゃないから、無理して喋らなくてもいいわ。とりあえず、私の話を聞いて。さっき、貴之と話をしたら、ここにシャチに詳しい人魚がいると教えてくれたの。どなたかしら?今、シャチに与えられる食料がどうしても必要なのよ。」男の人魚が震えながら手をあげた。【鮫人木村】 「わ、私だと思います。昔、鯨の飼育で糊口をしのいでいたので、餌なら持っています。」【千姫】 「ありがとう、助かるわ!」【鮫人香子】 「こちらこそ……お助けいただき、ありがとうございました。」【千姫】 「具合が良くなるまでは、しばらくここに残りなさい。貴之に、あとで迎人を遣すように言っておくから。」 【千姫】 「人魚達は助かったのだから、もう祈らなくてもいいわよね?」【貴之】 「……何はともあれ、ありがとうございました。」【千姫】 「私のことは信用ならないだろうし、嫌われているだろうけれど、忠告だけはさせて。ここは危険だから、一刻も早く拠点に行きなさい。」【貴之】 「……それだけですか?罰は?」千姫は質問に答えることなく身を翻し、数歩進んだ先で再び足を止めた。【千姫】 「昔の私みたいに信念を貫くその姿勢は、賞賛に値すると思ってる。それに、あなた達全員の理解と支持を得ようだなんて、そんな贅沢なことは望んでいないの。ただ、私はこの永生の海のために、私自身のために、常に最善を尽くしてきたつもりよ。言ったでしょう。時間がいずれ、すべてを証明してくれると……」 【湍津姫】 「本当にできると思ってるの?こんな、シャチの子供に?」【ふふ】 「ふふ!このシャチ、もう子供じゃない!」【千姫】 「もちろん、この子だけに頼るつもりはないわ。私も、潮汐の力で背中を押してあげるもの。晴明様も力を貸してくださる?」【晴明】 「言われなくてもそのつもりだ。」【千姫】 「それでは、さっそく始めましょう!」 【湍津姫】 「中に鯨が囚われてたから、あんな大きな壁になってたんだね!」【千姫】 「あの鯨も永生の海の守護霊よ。突然押し寄せてきた波を止めるために飛び出したら、氷の壁の中に囚われてしまったのね。ありがとう……」鯨の守護霊は聳える氷山の周りを優雅に一周した。大空に響き渡る、生きとし生ける者すべてに呼びかけるような鯨の歌声が、永生の海の民に力と勇気を分け与えていく。やがて鯨の守護霊が水柱を噴き出すと、それは一同の行く手を阻む氷山を見る見るうちに溶かした。その先に現れたのは、氷に覆われていた洞窟だった。【鯨魚守護霊】 「進み続けてください……どんなことが待っていようと……」【湍津姫】 「やった、鯨が道を切り拓いてくれたよ!もう待ってられない、早く行こう!」【千姫】 「ええ!」 【湍津姫】 「あれ?別の道も開いてるね。あっちにも行ってみない?」【千姫】 「さっきまでつららに塞がれていた道だわ。」【湍津姫】 「向こうでもシャチの餌が見つかるかもよ。」【千姫】 「そうね。今のうちにより多くの食料を確保しておきましょう。」 |
荒ぶる波濤ストーリー
荒ぶる波濤ストーリー |
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秘蔵の間へと通ずる道は、容易には通れない。さらに奇妙なのは、奥に進めば進むほど、秘蔵の間の気配が少しずつ弱まっていることだ。【晴明】 「この地にかけられた術が乱れているようだな。」【千姫】 「ええ。秘蔵の間を隠すために、代々の女王は結界を強化し続けてきたのだけれど、先ほどの激震で結界が壊れ、術が絡み合って混乱をきたしたのでしょう。」【晴明】 「秘蔵の間はただですら未知に包まれた場所だ。乱れた術が何の影響をもたらすかもわからない今、用心するに越したことはないだろう。」【湍津姫】 「そう?あたしは足の疲れ以外、別に何も感じてないけど。ねぇ、もうすぐ着くって話じゃなかったの?あ~あ、船さえあればこんな長距離歩かなくても済んだのに!揺れる甲板が恋しいよぉ……ここは平らだし、安定してるし……居心地最悪。」【ふふ】 「ふふも荒々しい波が恋しい……」【晴明】 「ようやく開けた場所に出たことだし、少し休憩していかないか。出発してから、ずいぶん長い時間歩き続けていたからな。」【千姫】 「ええ、そうね。」千姫は頷き、一同から少し離れた隅に腰を下ろした。本来であれば、岸に打ち寄せる波の音が聞こえてくるはずだが、今はしんと静まり返っており、水しぶきも氷となって宙に浮かんでいる。そんな静寂が降り注ぐ中、千姫は遠い彼方へと思いを馳せた……【晴明】 「大丈夫だ、きっと元通りになる。」【千姫】 「どうして断言できるの、異邦者。」【晴明】 「永生の海には優秀な女王がいるからな。」【千姫】 「お世辞はいいわ。ちゃんと八百比丘尼から話を聞いているのなら、その手は通用しないってことくらいわかっているでしょうに。」【晴明】 「自分のことが信じられなくなったのか?」【千姫】 「……あなた、やっぱり変よ。遠回しにしかものを言わないのかと思いきや、急に無遠慮になるし。けれど、同じ言葉でも、あなたが言うと妙に信憑性があるのよね……」【晴明】 「それほどでもないが。」【千姫】 「別に褒めてないわ。」【晴明】 「前の地域を出てから、ずっと難しい顔をしているな。」【千姫】 「あなたと八百比丘尼は無言で観察に徹し、すべての状況を把握してから心の中で反芻するような人間だけど、私は違う。鈴は……鈴も、私と同じ……」独り言めいた最後の呟きは誰の耳に留まることもなく、風の中へと消えていった。【晴明】 「ん?」【千姫】 「なんでもない。どうせ答えはもうわかっているんでしょう?だから、いちいち私を試すようなことはしなくてもいいわ。あなたの「観察力」はもう、嫌というほど見せてもらってるから。」【晴明】 「……私が今まで出会ってきた人間の中には、絶対的な武力による支配を行う者も、等しく光を分け与える者も、自身を顧みずに皆を団結させる者も、迷いを抱えながら務めを果たす者もいた。皆それぞれ異なる道を歩んではいるが、同じ揺るぎない意志を持つ同志だ。」【千姫】 「言葉が漠然としすぎよ。」【晴明】 「そうか。それは恐らく、「揺るぎなさ」という言葉への理解が違うからだろう。」ようやく興味が湧いてきたのか、千姫は晴明に向き直り、質問を口にした。【千姫】 「じゃあ、その違いとやらを教えて。」【晴明】 「君が思う「揺るぎなさ」とは、簡単には実現できない、壮絶な努力と諦めない心を必要とする目標に拘ることだ。君はそういった「揺るぎなさ」にしか価値を見出せないし、努力を伴わない「揺るぎなさ」は失敗したも同然だと思っているのではないか?」【千姫】 「それは私だけじゃなくて、世界の共通認識でしょう?」【晴明】 「では、私の理解も聞いてくれ。私が思うに、「揺るぎなさ」を持つということは、何かを捨てるということだ。」【千姫】 「捨てる?」【晴明】 「道は百以上とあるが、君はその内の一つしか選ばなかった。頂上へと一歩ずつ近づいていく過程は、他の道の景色を、他の道に実る果実を捨てる過程でもある。」【千姫】 「……面白い観点ね。」【晴明】 「目にしたものすべてを手に入れることは難しい。「二兎を追う者は一兎をも得ず」とも言うからな。」【千姫】 「言いたいことはわかるけど——」千姫は何か言おうとして、また言葉を飲み込んだ。【千姫】 「……確かにあなたは八百比丘尼の友人だけれど、私からすれば赤の他人にも等しい。」【晴明】 「しかし、時には赤の他人にしか言えないこともあるだろう。」【千姫】 「気持ちを打ち明けるなんて、弱者のすることよ。」【晴明】 「いかにも。今の汝は弱者ではないとでも言いたいのか?」その一言を聞いた千姫は、ようやく違和感の正体に気づいた。【千姫】 「あなたは……誰?晴明では……ないわね?」湍津姫が足を延ばしているはずの方角を横目で確認するも、仲間たちの姿はなかった。問いを投げかけられた晴明は、相変わらず眉一つ動かさずに千姫を見つめている。が、彼が彼女の知っている晴明ではないことは明白だ。【千姫】 「まずい……少し油断しただけで、結界に隙をつかれたんだわ。」試しに湍津姫達の名を呼んでみたが、返事は返ってこなかった。【晴明】 「汝らがここに囚われた理由は、秘蔵の間に立ち入る資格がないからだ。出口のない迷宮を永遠に彷徨うがいい。永生の海の安寧を脅かす者は、しかる罰を受けるであろう。」【千姫】 「傀儡の分際で、私を追い出すの?」千姫がそう言うや否や、晴明の体が突然ぐらりと歪んだ。何かが視界を掠めたかのように、男の顔に歪な線が現れては消えていく。【晴明】 「千……千姫……」これは明らかにさっきの「偽物」が発した声ではない。【千姫】 「やめなさい!彼の姿でそんな言葉を吐くなんて……目障りだわ!」ゴウッ、と猛々しい風が起きたと同時に千姫の術が「偽物の晴明」の体を貫くと、「偽物の晴明」は煙のように消えた。「偽物の晴明」を片付けた千姫は、ようやく周りを観察する余裕ができた。氷の壁を壊して先に進んだ時までは、まだ何ともなかったはずだ。この地域は他よりもだいぶ複雑に入り組んでいるため、一同は進むべき道を探すのに手間取っていた。しかしいざ深部に入ると、結界の影響を受け、千姫は秘蔵の間の気配が明らかに薄れていることに気づいた。【千姫】 「恐らく罠にかかったのは、ここに入ってすぐのこと……道理で歩いても歩いても目的地にたどり着けなかったわけだわ。他の皆も同じ、それぞれ別の空間に囚われているのかしら……どうせ私達を分断して、一人ずつ潰す魂胆なのでしょうけど……皆が各々自力で窮地を脱せると信じましょう。いくら完璧な結界であっても、綻びは必ずどこかにある。それを探し出さないと。」どこまでも続く道を、千姫はひたすら進み続ける。すると程なくして、彼女はいくつかの異常を鋭く見抜いた。【千姫】 「この程度のもので、よく私を閉じ込めた気になってたわね。」無の世界に甲高く鳴り響いたのは、潮汐の力が結界の弱点を撃つ音だった。結界に入った罅が大きくなるにつれ、千姫は感覚が冴えていき、自分にかけられた負の影響が弱まっていると感じた。いくつかの綻びをついた後、最後の悪あがきの如く結界は急激に強まり、千姫の肩にずしりと重みがのしかかる。【千姫】 「私の動きを封じる気?でも……これくらい、どうってことないわ。手札はこれだけじゃないでしょう。かかってきなさい。」その時だった。千姫の挑発に反応したかのように、まるで訴えかけるような、ひどく悲し気な人魚の声が耳に入ってきた。【千姫】 「人魚?まさか……」目を凝らすと、道の先には一人の人魚の姿があった。彼女は地面に跪いており、何かを胸に抱えている。状況に慣れてきた千姫は、一目でそれが幻だと見抜いた。【女性鮫人】 「……いない。いなくなった。私の……私の子。」青ざめた顔を上げた人魚の両目は絶望に満ちていた。その懐に抱えられていたのは――死体だ。幻だと分かっていても、彼女の顔を見た千姫は一瞬固まった。【千姫】 「あなた——」しかし、息つく間も与えまいと言わんばかりに、その人魚は千姫が瞬きを挟んだ隙に消え、今度は背後からうめき声が聞こえてきた。【鮫人戦士】 「た……助けてくだ……」振り向くと、突如として視界に映りこんできたのは、破壊し尽くされた永生の海の変わり果てた景色だった。穏やかだった海面は炎と煙に襲われ、戦士達は血まみれになって倒れている。戦いの最中で体の一部を失った彼らの血は、海を赤く染め上げていた。宙に木霊する悲鳴と唸り、隅々を埋め尽くす苦痛と絶望。生存者は奇跡を呼び起こすべく祈りを捧げるも、やがて波に呑み込まれていく。【千姫】 「……」深い霧が立ち込める。ただでさえ辺りは荒涼としているのに、冷たい月明かりを浴びた地面が青白い光を反射している。【千姫】 「誰!?」突然足首を掴まれ、咄嗟に下を向くと、千姫は自分が無数のつららの上に立っていることに気づいた。氷でできた一本一本の透き通った柱の中には、永生の海の民が閉じ込められていた。つららに残る爪痕は、皆が懸命にこの状況で唯一しがみつけるもの――千姫に手を伸ばしたことのある証拠だ。差し伸べられてきた手を見て、千姫は思わず息を呑んだ。胸が押しつぶされたように苦しく、呼吸すらままならない。【千姫】 「この景色……どうして……」次の瞬間、繁栄を極めた永生の海は色褪せ、寂しさと静けさに包まれた。全ての命が、ここで消滅したのだ。【千姫】 「どうしてこんなことに……」【鮫人】 「さようなら、女王様。」一人荷物を背負いこんだ人魚は、出ていく前にもう一度だけ千姫に振り返ると、覚悟を決めたように海に飛び込み、遠くへと消えていった。【千姫】 「行かないで……」伸ばされた手も虚しく、目の前の景色は素早く切り替わり、千姫はいつの間にか玉座に座らされていた。波の音も、人の声も、何一つ聞こえない永生の海が、ただただ目前に広がっている。【???】 「これはあなたが選んだ、あなたが永生の海にもたらした未来よ。」【千姫】 「誰?」突如として視界の端に映り込んだのは、見慣れた姿だった。【千姫(幻象)】 「永生の海を守ると誓ったあなたは、何をしてきたの?」【千姫】 「……」【千姫(幻象)】 「どうして皆の代わりに選んだの?どうしてあなたが選んだの?」【千姫】 「永生の真相は罪だった。人魚はたとえ陽の光を浴びれたとしても、闇に囚われていることに変わりはないわ。この海域から出られないことが、彼らにとっての「闇」……」【千姫(幻象)】 「強者は生き延び、弱者は淘汰される。永生の海で守られてきた理には、ちゃんと理由がある。なのにあなたは無知な稚児のように、永生の海の理を破った。ええ、たしかにあなたは松明に火を点けたかもしれない。でも、それが世界中を明るく照す光だと思い込んでいるのなら、見当違いも甚だしいわね。」【千姫】 「私は……母上の一挙手一投足を思い返しながら、自分にできることを精一杯やってきた。でも、良き女王とは何かを教えてくれる人は、もうどこにもいない……」【千姫(幻象)】 「だからこそ、あなたのせいで人魚は苦しんでいる。永生の海を栄えさせるなんて、あなたの稚拙な妄想にすぎない。」【千姫】 「いいえ……」雑念を払おうと、千姫は目を閉じた。【千姫】 「あなたは私を惑わす幻。感情に訴えて、私をここに閉じ込めるつもりだわ。」【千姫(幻象)】 「いいえ、私はあなた自身よ。」【千姫】 「絶対に、秘蔵の間を探し出すと決めたの。邪魔しないで――」深く息を吸い込んで、瞼を開く。暗闇の中、彼女は結界の最後の綻びを見つけた。【千姫】 「消えなさい。」耳障りな音が鳴り止むと、懐かしい顔が千姫の視界に飛び込んだ。【晴明】 「千姫、無事か?私も、ついさっき結界を破ったところだ。今助けてやろうと思っていたのだが……」【千姫】 「……」【晴明】 「……顔色が悪いな。何かあったのか?」【千姫】 「ふふと湍津姫は?」【晴明】 「先程、結界から連れ戻してやった。向こうで休んでいる。」【ふふ】 「女王様!ふふ、もう会えないかと思った!」【湍津姫】 「大袈裟だなぁ。ちゃんとあたしが責任もって守ってあげてたじゃん。」【ふふ】 「違う!ふふを非常食にするって言った!」【湍津姫】 「あんたが落ち込んでたから、励ましてやろうと思ったんだよ!ああ、悲しい。それで?あたし達はまだ進むの、進まないの?秘蔵の間って、結局どこにあるのさ?こんなことなら、船長の手帳をもっと読み込んどけばよかった……」【千姫】 「もういいわ。今までは入り口を見つけることに気を取られ、「門」という概念に拘りすぎていた……けれど、「門」は先に続く道の象徴でしかないから、空に、岩壁に、地下に現れてもおかしくない。」 そう言いながら千姫が術を発動すると、一同の足元から不思議な光が溢れ出た。程なくして地面に浮かび上がったのは、光る丸い法陣だった。模様の合間を泳ぐように流れている不思議な符文は、代々の女王に強化された名残りだろうか。」【湍津姫】 「おっ、ついに!でも、これ……どうやって入ればいいの?」【千姫】 「隣に中枢があるでしょう。あれを起動すれば、秘蔵の門は開くはずよ。」 【湍津姫】 「全部起動したけど……何も起こんないね。まだ何か足りないとか?」【晴明】 「手筈通りに進めたはずだが、門を開くには、まだ何らかの力が必要らしいな。法陣に描かれているこれは――」【千姫】 「水しぶき、動物、植物……海で最もよく見かけられるものよ。これらの模様が表してることと言えば……」その時、空から懐かしい鳴き声が聞こえ、一同は一斉に空を見上げた。【湍津姫】 「これまで助けた守護霊だ!手伝いに来てくれたのかな?」優雅に風を切る守護霊たちがふわりと法陣の上空に留まると、法陣から溢れ出た光が触手のように守護霊たちの肉体に絡みついていく。【湍津姫】 「なんだか……おかしくない?」【晴明】 「守護霊が生命力を吸収されている……秘蔵の門を起動させる力は生命力だったのか!」【湍津姫】 「ど、どうしよう!?このままだと守護霊たちが――」【守護霊たち】 「千姫、先に進みなさい……これは我々にできる、唯一のこと……永生の海を……守るのです……」【千姫】 「……ええ、約束するわ。永生の海を、そして——皆を守ると。」 【千姫】 「王たる者、民が傷つくのを見過ごすことはできないわ。女王として、この命を捧げます――この門を開くのです!」【湍津姫】 「わぁっ、開いたよ!」【晴明】 「この気配は……気をつけろ!」【千姫】 「これは……!皆、危ない!」【???】 「ふはははは!やっと……そなたと会うことができた。」 |
終わらない潮汐の唄ストーリー
終わらない潮汐の唄ストーリー |
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【???】 「始まりにしては悪くない。」【千姫】 「これは……」秘蔵の間から、死の気配を帯びた寒い風が吹き抜けてくる。息を吐くたびに、皆の周りに新しい氷が形成されていく。冷たい死の気配が亡霊のように取り憑き、魂まで凍えてしまいそうだ。その瞬間、皆動けなくなり、その者を見つめることしかできない。【???】 「潮汐は教えてくれたわ、永生の海に人魚の女王が現れたと。それはそなたのことでしょう——千姫。」【千姫】 「あなたは……」【???】 「「人魚の母、始まりの鮫竜」。永生の海の創造者にして、海原の貝戟の最初の主。今更、そんなことを聞くのか?」【千姫】 「まさか……永生の海の初代女王様?「始まりの誓約」を結んだ人?」【初代女王】 「そうだ。まだ跪かないのか?」千姫はにわかに信じ難い気持ちで前を見る。【千姫】 「初代女王様は遠い昔に亡くなられた。こんなこと、ありえない。」息ができなくなりそうなほど圧力をかけられても、千姫はまっすぐに始まりの女王を見つめ返す。【千姫】 「氷結の源は——あなただったのね!あなたが潮汐を、ずっと凍らせてきた。永生の海の女王だった人が、どうしてこんなことを?」【初代女王】 「そなたのせいだ。そなたの無謀な行動のせいで、永生の海が代償を払うことになった。己の行いを償え。」 【千姫】 「ううっ……」容赦ない一撃を受けた千姫は、もはや自身の体を支えることもできず、地面に崩れ落ちた。【初代女王】 「鮫竜の力を感じたか?これこそが血筋の違い、わらわとそなたとの違いよ。死に物狂いで、実に不憫だな。鮫竜であれば容易くできることも、そなたには壮絶な努力が必要だ。そしてそれだけ努力しても、大した成果は出ない。」【千姫】 「私は一度だって……!」【初代女王】 「永生の海の皆を目にしても、そんなことはないと言えるか?苦しみ、死んでいく命を見るがいい。本来であれば、苦しむ必要のなかった命だ。そなたの選択に、彼らは感謝したか?彼らは一度もそなたを恨まなかったか?」【千姫】 「……」【初代女王】 「女王と名乗るそなたは、永生の海を破滅へと導く。そなたが幻境で見たものは、そなたが永生の海にもたらす未来だ。人魚が絶滅し、永生の海は滅び、死の静寂に覆われる。世界から人魚が消え去り、永生の海は忘れ去られる。」【千姫】 「そうはならない。」【初代女王】 「もうそうなっているというのに?」【千姫】 「永生が良きことであるなら、どうしてあなたはそんな姿に?」【初代女王】 「……ふふ、頑固者よ。ならば全てを捧げるがいい!全ての命をこの身に捧げよ。わらわが力を取り戻した暁、再び永生の海を立て直す。」初代女王が口を開け、そっと息を吐く。死の気配に満ちた息に触れた場所は、忽ち氷に覆われてしまう。逃げられなかった魚はその瞬間に動きが止まり、命を失う。【ふふ】 「ふふ、怖い!」【湍津姫】 「こっちにおいで、ふふ!」【千姫】 「晴明、皆を守って!」【初代女王】 「悪あがきを。」千姫は初代女王に向き合い、潮汐を呼び出す。【千姫】 「あなたが何をしようと、必ず止めて見せるわ。」【初代女王】 「愚か者め、そなたにわらわは止められぬ。」言ったそばから、初代女王は凄まじい死の気配を放ち、周囲を濁流へと変えた。千姫は結界を張り、死の気配に対抗している。【千姫】 「もし死の気配が暴走して、永生の海に入り込んだら……私がやらなければ……海原の貝戟、私に力を!共に死の気配を止めるのです!」【ふふ】 「せ、千姫様、一体何を?」【晴明】 「彼女は……海原の貝戟で死の気配を吸収している。」海原の貝戟が絶大な破壊力を持つ死の気配を吸収している。同時に千姫は、想像を絶する痛みに襲われた。初代女王が手を上げ、そっと拳を握り締める。死の気配を吸収しすぎた海原の貝戟に、最初の割れ目が現れた。次の瞬間、海原の貝戟は砕け、その欠片が千姫に深手を負わせた。【千姫】 「海原の……貝戟が……!」【初代女王】 「人魚の分際で鮫竜に成りすますとは。そろそろくだらない物まねを終わらせてやろう。」初代女王が手を振ると、膨大な力が千姫に襲いかかった。打ち付けられた千姫はいくつもの氷の壁を壊し、冷たい海に落ちていく。 【初代女王】 「全ては、永生の海のために……昔人魚に降りかかった災難がどんなものだったか、そなたには想像もできないだろう。人魚の血筋が永遠に受け継がれ、二度と迫害されずに済むよう、人魚を強くしたかった……ははは……」初代女王の体がただれていく。喉にも影響が及んだのか、その声がおかしくなる。【初代女王】 「わらわは——間違っていたというのか?」初代女王は咳き込み、腐った血をたくさん吐いた。【盈虚千姫】 「あの時、あなたは正しかった。でもその後、永生に拘りすぎたがゆえに、他者の生命力を吸収する悪行にも手を染めることになった。私の推測が正しければ、あなたが今の姿になったのは、生命力を吸収しすぎて、超えてはいけない「限界」を超えたせい。体には限界がある。限界を超えて生命力を吸い込むと、別の永遠に陥る。体は衰亡し続けるのに、生命力は溢れ続ける。それこそが、永遠の死!そんな姿になってしまったあなたは己の意思とは関係なく、死の気配を放ち続ける。そして死の気配に触れると、潮汐は凍えてしまう。永生の海のためだと言うけれど、あなたは不幸をもたらしている。あなたは永生の末路を教えてくれた。あなたのおかげで、私は迷わず選ぶことができた。」【初代女王】 「ふふ、わらわは一度も死んだことがない。棺に入れられてから、次第に目を覚ましていった。わらわは死を待っていたが、この体は不死身になってしまった。長い年月を、腐った体と共に生きてきた。月明かりは見えず、鳥の囀りも聞こえない。そしてある日、待つことを諦めた。わらわは死ねぬ。ならば、生きよう、生きてやろう。潮汐の生命力を少しずつ吸収し、体を治した……いつか、必ず回復し、永遠の死を乗り越えられると信じて。そなたが勝手に新しい誓約を結び、人魚の涙を贈ったりしなければ、こんな事態にはならなかった……今、古き誓約を断ち切ったその手で、わらわの永遠の死を断ち切るのだ。わらわはもう……疲れた。」【盈虚千姫】 「あなたが永生の海のために行ったこと全てに、感謝を申し上げます。皆、あなたの功績を忘れないでしょう。それこそが新たな永生です。さようなら。」【初代女王】 「ふふ、さようなら、新しい……女王……」潮汐が初代女王の体を優しく包み込み、渦のように上っていく。数えきれない泡の中に、星のように眩しい光を放つ鱗が見える。潮汐が止まると、初代女王は跡形なく消えていた。一方、空からは白い雪が振り始めた。【盈虚千姫】 「これは……命が残した光。」 |
空から降る夜ストーリー
空から降る夜ストーリー |
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【晴明】 「氷結の力が弱まっている。」【湍津姫】 「ってことは、金タコは助かったの?」【盈虚千姫】 「潮汐の力を使って、金タコを助けるわ。」【湍津姫】 「よかった!」新たな海原の貝戟を振るうと、千姫はより優しく強い力を感じた。【盈虚千姫】 「今こそ私の約束を果たし、永生の海を取り戻します。潮汐よ、私に力を!永生の海よ、目覚めるのです——」氷に閉じ込められた潮汐が、千姫と共鳴している。氷が揺れ、次第にひび割れていく。海水が氷を突破し、水しぶきを上げて美しい光を反射する。押し寄せる海水の中心に佇む千姫は、潮汐の生命力を感じている。氷が溶け、人魚達が千姫の側に集まってくる。【衛兵麻衣子】 「氷は消えました!」【鮫人香子】 「よかった、本当によかった。これで全て元通りね!」【鮫人木村】 「きっと女王様が永生の海を救ってくださると、ずっと信じていました。」【鮫人慎吾】 「永生の海はもう……凍ったりしないの?よかった……うう……」【鮫人千慧】 「泣かないの!危険が消えたのなら、急いであの子を探そう。きっとどこかで待ってるはず。」【鮫人慎吾】 「うん!」【鮫人千慧】 「あれ……?あれは……何?」人魚達が空を見上げる。空に垂れ込める暗雲が蠢き、生きた巨獣のように迫ってくる。【盈虚千姫】 「一体……あれは……」砕けた氷が空に舞い上がり、一つ一つが組み合わさると、次第に永生の海の形になった。しばらくして、永生の海は二つになった。上にあるのは氷像の永生の海、下にあるのは本来の永生の海。暗雲が不安を呼び、喜びにわいていた永生の海の人々に暗い影を落とした。 【鮫人】 「女王様、助けて——」人魚達は上空から伸びてきた霧の手を避けながら、四方に逃げていく。しかし、逃げても無駄だった。どこに隠れようと、最後には必ず捕まってしまう。霧の手は俊敏な鳥のように、永生の海を飛び回っている。霧の手に捕まった人は、何かを告げられたように、苦痛に満ちた顔が次第に安堵の表情に変わっていく。しばらくして、人魚の動きが止まり、その場には無機質な彫像が残る。霧の手に触れると、人魚だけでなく、鳥獣も草木も命を失い、ただの彫像に変えられてしまう。永生の海が、色褪せていく。【晴明】 「「刻世命」……」【盈虚千姫】 「知ってるの!?」【晴明】 「この前言っただろう。鴉が現れた場所には、必ず常識に反することが起きる、と。「刻世命」という名は、事件を調査していた時に見つけた手がかりだ。三尾の狐の幻境で見た後ろ姿に似ている。しかし話を聞いてみるまで何とも言えない。確信できないことばかりだ……」【盈虚千姫】 「確信できるかどうかはともかく、今永生の海に危害をもたらしたのは紛れもない事実よ。」【鮫人拓也】 「女王様——助けてください!」【湍津姫】 「この前一緒に荷物を探してあげた人魚だ!」千姫が動くよりも早く、走ってきた男の人魚は黒い霧に呑み込まれ、千姫に手を伸ばした姿勢のまま動かなくなってしまった。【盈虚千姫】 「!!!」 逃げ惑っていた永生の海の人々が足を止め、空に響く歌に耳を傾ける。それは鯨を呼ぶ歌声だ。冷静さを取り戻した人魚達が、千姫と共に歌い始める。人魚の歌が永生の海に響き渡り、空に鯨の群れが現れた。鯨が鳴くと、地上を襲う霧の手が減っていく。千姫が一番大きい鯨の上に立ち、軍を統べるように、鋭い刃のように、優雅で凛々しい姿を見せる。風に髪をなびかせて、揺るぎない覚悟を目に宿らせ、霧に射抜くような眼差しを向ける。【鮫人】 「海原を征く戦鯨だ!災いが起きて以来、二度と姿を見せなかったのに!道標だ、千姫様が、新しい道標になった!」【盈虚千姫】 「私に力を貸してください!共に永生の海を守るのです!」千姫が鯨の群れを連れて霧に切り込み、黒い手を破壊した。さっきまで逃げ惑っていた人魚達が、千姫の周りに集まり、防衛線を敷く。【衛兵麻衣子】 「女王様の命令に従いましょう。混乱しなければ、負ける理由などありません。」人魚達はきちんと隊列を組んでいる。【晴明】 「様子がおかしい。」【湍津姫】 「大名士さん、言いたいことがあるならはっきり言って。この二日間で、一年分の冒険をした気がする。これ以上何かあったら耐えられないかも。冒険家にだって休憩は必要なんだから!」【晴明】 「鯨の数だ。」【湍津姫】 「あれ……さっきより減ったみたい。」【晴明】 「しかし暗雲と霧の手の数は減っていない。千姫は「刻世命」に接近できていない。」戦線が長くなるにつれ、鯨の被害が拡大していく。【盈虚千姫】 「もう少し……」千姫は全力で勝利を掴もうとしているが、鯨の劣勢はもう覆せなかった。空にいる男は落ち着き払った様子で鎚を振るい、宙に浮かぶ永生の海の氷像を改造している。【盈虚千姫】 「一体何者なの?永生の海に何をするつもり?」【「刻世命」】 「人々を救いに来た。全てを受け入れるがいい。」大量の霧の手が出現し、空をも覆い隠す。それが重なり、より大きい手に姿を変え、千姫に襲いかかる。【盈虚千姫】 「平気よ。正面から、術で破壊してやる!」千姫が鯨を操り、巨手に向かって突進する。【鯨群】 「ここからは女王様お一人で……再び女王様に召喚され、人魚の歌が聞けて、とても嬉しかった……」かしらの鯨が千姫を振り落とし、残りの鯨達を連れて敵に突進する。【盈虚千姫】 「あなた達……」鯨の群れに突き破られた巨手は、また霧に姿を変えた。しかし攻撃は止まらなかった。人魚に別れを告げるように鳴くと、鯨達は空に浮く氷像に向かって突進した。氷像の一角が欠け、霧の手の攻撃は止まった。空から落ちてきた鯨が、盛大に水しぶきを上げて永生の海に沈んでいく。一つの死から、数多の命が生まれる。鯨の体に無数のサンゴが生えていく。 人魚達の悲鳴は止むことを知らない。鯨達と共に、人魚の希望が消えた。【盈虚千姫】 「永生の海は、氷結から解放されたばかりなのに……ここで終わらせる訳にはいかない……きっとあるはず、私にできることが……きっと……」【晴明】 「この陣の力は尋常じゃない、すぐに破れるものではなさそうだ!」【盈虚千姫】 「この海で最も尊き命よ。永生の海の女王が希う。潮騒が止まない限り、この歌声はどこまでも響き渡るでしょう!どうか私に力を貸して!」 |
盛衰の流転ストーリー
盛衰の流転ストーリー |
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巨体で綺麗な弧線を描きながら、鯨達が空から落ちてくる。水に入る瞬間、盛大な水しぶきがあがる。荒れ狂う波濤は巨人のように、猛々しく咆哮している。水しぶきが見えなくなった瞬間、無数のサンゴが生えてくる。魚が水面を跳ね、鳥が囀り始める。一つの死から、数多の命が生まれる。【盈虚千姫】 「鯨は女王と共に征く臣下。いかなる時でも、いかなる場所でも。女王が呼びかければ、鯨は必ず駆けつける。何があっても、鯨は必ず身を挺して戦場に赴く。勝利のために、女王のために、永生の海のために、信念を貫く。永生の海の民は皆、そんな信念を抱いている。」千姫の声が震えている。目の前の景色を見つめる彼女は、胸が張り裂けそうなほどの悲しみに襲われている。災いに見舞われた時、鯨は体を張って最後の防衛線を敷いた。サンゴや雪に姿を変えた鯨は命を守る最後の砦のように、優しく海を庇う。鯨は自らの命を犠牲に最後の盾を作り上げ、永生の海に最後の守護を残した。【鯨群】 「我々はこの命をもって、守護の誓いを果たしました。女王様……永生の海と共に……生きるのです……」悲壮な決意を目の前にして、人魚達は泣くのをやめた。人魚達は目を閉じて、鯨が残した最後の痕跡をなぞりながら、彼らに敬意を捧げる。その瞬間、人魚はもう一度鯨の呼吸を、鯨が生きた証を感じた。【盈虚千姫】 「永生の海の誇り高き戦士達よ、あなた達が永生の海のために全てを尽くしたこと、その勇気と決意は、潮汐に永遠に刻まれました。あなた達は海の記憶に残り、永生の海の守護者、そして魂となるでしょう。」【晴明】 「千姫、もう時間がない!敵の攻撃は激しく、掴みどころがないうえに、私達の戦力が足りない。長引けば長引くほど不利になる!私の力でしばらくの間はなんとかなるが、一刻も早く対策を見つけなければ!」【盈虚千姫】 「……」【湍津姬】 「あたし達、もしかして今日ここで死ぬの?こいつら、手強い海獣よりもずっと手強いんだけど。瀧、早く助けなさいよ!」【晴明】 「永生の海の女王として全員助けたい気持ちは分かるが、現状を見るに希望は極めて薄い。」【盈虚千姫】 「言われなくても、分かってる。それに今、はっきり分かったの。」「昔」【千姫】 「絶対に行ってはだめ。鮫竜の血を引くあなたが死んだら……一体誰が永生の海を救うの?」【鈴鹿御前】 「安心しろ、一人も諦めるつもりはない。」【千姫】 「!!!」【八百比丘尼】 「血筋と務めは関係ありません。皆を守りたいという純粋な願いが、彼女を強くしているのです。優しいあなたも同じはず、初心を忘れないでください。力とは、何かを証明するためではなく、守るためにあるのです。」目を閉じて記憶を辿った千姫は、一歩前に出た。【盈虚千姫】 「千姫としての私は、絶対に諦めず、最後まで戦い続ける。でも、女王としての私は——」 ……………… ……………… 暗雲が晴れた瞬間、まるで夜明けが悪夢を追い払ったように、何も起きなかったかのように、永生の海は静寂を取り戻した。千姫が切り拓いた道を通って、晴明は永生の海の人々を安全な場所に連れてきた。異変を感じた人々が振り返り、永生の海の方を向く。【鮫人】 「女王様が時間を稼いでくれた……戻らないと、まだ女王様が……」【晴明】 「落ち着いてください。」晴明が永生の海の方に向かって術を発動する。さっきの法陣は消えたようだ……術は干渉を受けなかった……【???】 「晴明!」懐かしい声だった。それは額に汗が浮かび、衣服が乱れた鈴鹿御前と蠍女の声だった。【晴明】 「鈴鹿御前?もう来たのか。知らせを受け取った後、すぐに旅立ったんだな。」【鈴鹿御前】 「ここは……一体何があった?」信じられないといった様子で、鈴鹿御前が辺りを見渡す。【鈴鹿御前】 「千姫は?」【晴明】 「……ついて来てくれ。」晴明達は来た道を戻り、何事もなかったように、静寂に包まれた永生の海に戻った。死のような静寂の中、一行は千姫を見つけた。【鈴鹿御前】 「どうして……こんな……ことに……」彼女の前にあるのは、永生の海の民を守るため、敵に対抗する姿勢のまま、最後の瞬間に時が止まった千姫だった。鈴鹿御前が前に出てそっと千姫に触れる。その瞬間、彼女は誰かの心の声を聞いた。 【「刻世命」】 「未知を前にして、福音の降臨とは裏腹に、人々は恐怖に戦いている」【鮫人】 「千姫様!どうかあなた様もご一緒に!」【盈虚千姫】 「私の同胞達よ、不屈なる永生の海の意志をどうか忘れずに一族の魂と共に、ここで起きた物語を、どうか世界中に広めてほしいこの海には生きることを諦めなかった種族がいたことを、ここが美しい常春の海域だったことをね人魚が種として生き続けること、それこそが永生の海にとっての「永生」母上、これが私がたどり着いた答えです…」 【盈虚千姫】 「もし叶うなら、鈴みたいに楽しく生きて、それでいて、誰一人として見捨てない強さがほしいな。でも、今は——母上、私はこの選択を後悔しません。「正解の道は存在しない。女王が歩いたからこそ、それが正しい道になる。」」【晴明】 「千姫、何を……」【盈虚千姫】 「急げ、皆を連れて逃げなさい!」 |
空に映る海原ストーリー
空に映る海原ストーリー |
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「永生の海が陥落した翌日」 永生の海の全ての命は奪われ、無機質な石像へと変えられた。しかしよく見ると、石像とは明らかに材質が違った。近づけば、心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。まるでその場に抜け殻を残して、魂だけが他の場所に行ったかのようだった。生き残った人魚達は戦場を片付けている。皆無言で、廃墟の中を入念に掃除している。【衛兵麻衣子】 「先に壊れたところを直して、使える物を一箇所に集めましょう……」疲れを感じる声だったが、麻衣子は手を止めなかった。衛兵達は昨日から休みなく働いており、混乱した状況の中で秩序を立て直そうとしている。【晴明】 「負傷者を休ませておいた。私の術で痛みは和らいでいるはずだが、今後の手当てを頼む。」【衛兵麻衣子】 「永生の海の客人の手を煩わせてしまい、本当に申し訳ありません。見回りに行った者達が間もなく戻ります。交代が終わり次第、負傷者の様子を見に行きます。ご迷惑をおかけして本当にすみません。」【晴明】 「永生の海は大変な状況にある、遠慮は無用だ。」【衛兵麻衣子】 「それでは……お言葉に甘えて失礼します、まだ見回りに行けていない海域があるので……」【晴明】 「体に気をつけて。」荒れ果てた永生の海を見て、晴明の心は不安でいっぱいだった。【晴明】 「(三尾の狐のところで、現実世界と「心界」の変化を初めて見た。「心界」が札に吸収されると、その場には空っぽの形だけが残る。しかしあの時は、極めて狭い範囲しか影響を受けていなかった。「黄金の爪号」でも、決して広大ではなかった。今思えば、「刻世命」の狙いは小型の「心界」ではないはずだ。あれは実験のようなものだろう。彼の目的は、別の何かだ……だが理解に苦しむ。なぜこんな短時間で、これほど広範囲に影響を及ぼすことができるようになったんだ?このような術と力は、短期間では手に入れられないはずだ。恐らく、私達が調査している間に、彼はどこかで何らかの条件を満たし、力を強化したのだろう。)」【ふふ】 「陰陽師さん……湍津姫はもういないの?」【晴明】 「ふふか……ああ、湍津姫にも居場所がある。彼女はそこに帰ったんだ。ふふに渡してくれと言われて、これを預かっている。海は広いが、いつか必ずまた会えるから、それまで自分を守れと言っていた。」【ふふ】 「これは……小さな鎧?」【晴明】 「鎧を着て、自分を守れということだろう。湍津姫は手芸が得意だから、彼女が作ったものかもしれない。」【ふふ】 「ふふ……」「少し前」【瀧】 「氷結が解除された瞬間、私達はおそらく真っ先に「異常」を発見しました。またあの人がいました。危険だと知らせに行きたいところでしたが、黒い巨手に道を塞がれました。そのうえ永生の海は目に見えない結界に囲まれ、外界と隔てられていました。申し訳ありません……こんなことになったのに、私は何もできませんでした。」【晴明】 「いや、瀧達も精一杯頑張ってくれた。」【瀧】 「私達はもう行かなければなりません。金タコが傷を負ってしましました。そして損傷した「黄金の爪号」の修復は「冥深海角」の者にしか頼めません。そして曖昧な情報も届いたのですが、どうやら私達の船長に関することのようで。」【晴明】 「湍津姫は大丈夫か?」【瀧】 「つきっきりで金タコを看病していて、心配で食事も喉を通らないようです。ですがご心配なく、私達がついていますから。これは彼女から預かったものです、「ふふ」という方に渡してください。本当に、私達と一緒に来ませんか?」【晴明】 「全ての悩みがなくなれば、この船の一員になるのもいいかもしれない。だが、今はだめだ。」【瀧】 「「黄金の爪号」はいつでもあなたを歓迎しますよ。居場所が必要になったら、いつでも船員としていらしてください。また会いましょう。」【晴明】 「ああ、また。」「黄金の爪号」が遠くに消えていく。突然慌ただしい物音がしたかと思うと、次の瞬間、湍津姫が手すりから身を乗り出すようにして、大きく手を振っていた。【湍津姫】 「晴明さん、また会おうね——」……【晴明】 「湍津姫にもやるべき大切なことがある。だからここにはいられない。」【ふふ】 「ふふ……女王様に会いたい……」【晴明】 「……女王様はずっとふふの側にいるはずだ。鈴鹿御前は……まだ女王様のところにいるのか?」【ふふ】 「うん、ずっとあそこにいる……」 【鈴鹿御前】 「……「永生の海は私が守る」と、いつも言っていたな。私は私の故郷を、あなたはあなたの故郷を守るのだと……だから、目を覚ませ。」鈴鹿御前が千姫にそっと額を寄せる。海原の貝戟の力を使っていないにも関わらず、辺りの氷が次第に溶けていく。女王の呼び掛けに応えるように、押し寄せる潮汐が二人を包み込む。【ふふ】 「鮫竜が潮汐を呼んでる……」長い時が過ぎたが、鈴鹿御前はいまだに千姫の体に生命力と力を注ぎ続けている。しかし千姫からは、まだ何の反応もなかった。【蠍女】 「主人!これ以上力を消耗させてはいけません!」【晴明】 「鈴鹿御前、やめておけ。そんなことしても力を消耗するだけだ。」【鈴鹿御前】 「彼女なら、絶対に諦めないはずだ。」鈴鹿御前がそう言った途端、千姫の体が弱々しい光を放ち始めた。【晴明】 「これは——!」どういうことか、晴明が持つ「霊狐の札」も同じ光を放っている。晴明は札を取り出した。光を失っていたはずの札から溢れ出る弱々しい光が、次第に千姫の体に入り込んでいく。光が全て千姫の体に入ると、札は使命を果たしたように、跡形なく消えた。千姫が放つ光がどんどん眩しくなっている—— 【鈴鹿御前】 「千姫……?」【盈虚千姫】 「……………………うう…………鈴?ど……どうして……ここに?」【鈴鹿御前】 「晴明からの知らせを受け取るなり、急いで来たのだ。」【盈虚千姫】 「……そんなに焦った顔して、もしかして泣いてたの?」【鈴鹿御前】 「あなたがもう目覚めないかと思うと、気が気ではなかった。」【盈虚千姫】 「……もう泣かないで。あなたに泣かれたら、慰めなきゃいけないじゃない。」【衛兵麻衣子】 「女王様?女王様がお目覚めになりました!」【ふふ】 「ふふ、女王様!女王様!ふふ、会いたかった。」それを聞いて、人魚達が千姫の側に集まってきた。【盈虚千姫】 「みんな……無事?」【衛兵麻衣子】 「永生の海は……変わり果てた姿になってしまいましたが、皆は無事です。今は復興作業に専念しています。」千姫が歩き出したので、人々は素早く道を開けた。【鈴鹿御前】 「さっき目覚めたばかりだろう、気をつけろ。」【盈虚千姫】 「……大丈夫よ。」千姫はゆっくりと歩を進め、なんとか高台に近づいていく。【盈虚千姫】 「永生の海……」千姫は最愛の故郷を、守り抜くと誓った場所を、繁栄を取り戻したいと願った地を眺める。【盈虚千姫】 「私は——「刻世命」がどこに隠れていようと、必ず彼を見つけ出します。あの男に然るべき代償を払わせ、永生の海を元に戻します!この命が果てるまで、諦めません。」千姫が民を見る。彼女の揺るぎなき眼差しは炎の如く、人魚の心を凍らせていた氷を溶かした。人魚達は女王に応え、氷を破って朝日を迎えた潮汐のように歓声を上げる。 【鈴鹿御前】 「少しは元気になったか?」【盈虚千姫】 「もうだいぶ良くなったわ。」【鈴鹿御前】 「あなたも私のように、故郷を失うことになるとは。」【盈虚千姫】 「人魚がいる限り、故郷は失われないわ。……以前の私なら、しばらく迷っていたかもしれない。でも、永生の末路が分かった今、私の選択は……永生の海の未来にとって、間違っていなかったと思える。」【鈴鹿御前】 「もう一度私と「より良き王になる」ということについて、話し合うか?」【盈虚千姫】 「私はもう、私なりの答えにたどり着いたわ。やっぱり、答えは自分で見つけないとね。」【鈴鹿御前】 「これからは、もう話し合う必要はなさそうだな。」【盈虚千姫】 「……話し合うべき問題があったら、話し合ってもいいけど……」【鈴鹿御前】 「はははは、あなたも変わったな。」【盈虚千姫】 「私は昔からこうよ。あなたは一緒にいる時間が少ないから、私のことを誤解してるだけ。」【鈴鹿御前】 「疲れて迷っていても、あなたは民に必要されている。そしてあなたは、民が絶望に囚われることを望まない。だから悲しみに暮れる暇もなく、あなたは民に伝えなくてはならない。例えどれほど辛いことが起きても、彼らは一人ではないと。彼らには揺るぎない信念を持つ、勇敢な女王が、共に戦う戦友がいると。あなたは再び彼らに希望という火種を与え、不安と恐怖を追い払った。「あなたなら、きっと大丈夫だ。」この言葉をもう一度あなたに贈ろう。なぜ何も言わない?」【盈虚千姫】 「……急に話し始めたと思ったら、人を褒め称えるの、やめてもらえない?」【晴明】 「千姫、一つ聞きたいことがある。教えてくれないか、「彫像」に変えられていた間、一体何があったのか。」【盈虚千姫】 「情報がほしいのね?」【晴明】 「ああ。もし「心界」の情報をもっと把握することができれば、次の「刻世命」との戦いで、勝ち目が高くなるかもしれない。」【盈虚千姫】 「断片的で曖昧な記憶しかないけど、私が知っていることは全部教えてあげる。それと、これも言っておくわ。体が言うことを聞かなくなる時、私は術で自我を封印したの。そして最後、私を助けるために、あなたは「刻世命」に全力の一撃を放った。それに、鈴の力も幻境に囚われていた私をずっと導いてくれていた。あなた達のおかげで、私にかけられた「刻世命」の術は完全に効果を発揮できなかったと思う。だからこそ隙を見つけて「彫像」にされるのを免れることができた。」【晴明】 「つまり、もし「彫像」にされていたら、元に戻れなかったかもしれない、ということか?」【盈虚千姫】 「わからない、人によって違うかもしれないから。「彫像」にされるのを止められるかどうかは、周囲の人の助けだけじゃなくて、自分の力にもかかってくるかもしれない。「彫像」状態だった間、私が体験して、この目で見たのは——」千姫の語りと共に、一同の前に不思議な光景が展開されていく…… |
奔流が帰る場所ストーリー
奔流が帰る場所ストーリー |
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千姫が目を開ける。 鳥が穏やかな水面をかすめるようにして飛んでいき、風が頬を撫でる。岩礁に押し寄せる波から、調和の取れた共鳴を感じる。岩礁にもたれた千姫は、どれくらい寝ていただろうと考える。【衛兵】 「女王様?お目覚めになりましたか。今日は穏やかな風が吹いますし、良い夢を見られたようですね。」【盈虚千姫】 「……私……どれくらい寝ていたの?」【衛兵】 「ほんの少しですよ。女王様は未処理の仕事が気がかりなので、少しだけ微睡んでおられました。」【盈虚千姫】 「少しだけ……?」【衛兵】 「はい。ここ数日、女王様は新しい交易路の仕事がお忙しく、全く休まれていませんでした。時間はまだ余裕がありますが、女王様は皆のことを考えて、早めに終わらせようとされていたのです。お体を心配した皆が、一休みなさってくださいと進言したのです。それでも女王様は寝殿には戻らないと仰り、この岩礁でお休みになられました。」【盈虚千姫】 「永生の海は……氷結されなかったの?」【衛兵】 「氷……結、ですか?悪い夢でも見られましたか?あなた様が女王になられてから、永生の海は平和そのものです。災いには一度も見舞われていませんよ。」【盈虚千姫】 「夢……だったのかしら……」【衛兵】 「最近、疲れが溜まっていたのではないですか?もう少し休まれてはどうでしょう?今の永生の海は平和そのものですし、ご無理なさらないでください。それに我が軍の戦力は圧倒的です。以前と違い、永生の海に侵攻してくる者はもういないかと。」千姫の目に穏やかな夕方が映る。これは繁栄を極めた永生の海の普通の一日だ。【盈虚千姫】 「違う、ここは永生の海じゃない。」【衛兵】 「え?……ここは永生の海ですよ?」千姫は海に飛び込み、青い水の中を素早く駆け巡る。永生の海の宮殿と人魚の住処は全て海の中にある。聳える建築が煌びやかに輝き、荘厳な雰囲気を漂わせている。辺りを行き交う人魚達は喜びを分かち合い、幸せそうに笑っている。女王を見るなり、皆口々に挨拶する。千姫に親しみを感じていることが伝わってくる。【鮫人甲】 「女王様はどうなされたのだろう?お急ぎのようだけど。」【鮫人乙】 「また何かいい考えを思いついたのかも。」【鮫人甲】 「まあそれはさておき、深海に採集しに行く件だけど、いつ行こうか?」【鮫人乙】 「深海って、あそこには恐ろしい海獣がいるのに?」【鮫人甲】 「海獣?そ……そ……そ……」人魚は何かに干渉され、絶えず時間を巻き戻されているようだ。【鮫人甲】 「海……獣……そんな言葉聞いたことないけど、なんのこと?」【鮫人乙】 「私……私……私……、そんなこと……言った?聞き間違いじゃないかな。」【鮫人甲】 「……うん……聞き間違いだ!準備ができたら出発しよう!楽しみだな、大量に収穫するぞ!」それを見た千姫は、ますます不審に思う。【盈虚千姫】 「この永生の海は素敵だけど、「素敵すぎる」わ。まるで私の理想に基づいて構築された世界みたい。」見知らぬ何かを見るように、千姫は目の前の景色を眺める。【盈虚千姫】 「ここは素敵で、目覚めたくない夢みたいだけど、私の本当の故郷——永生の海ではないわ。ここから出ないと。」そう言った途端に、千姫の体から何かの力が湧いてきた。体から溢れ出た力は、ゆらゆらとある方向に向かう。導かれるままに進むと、すぐに千姫は裂け目のような場所を見つけた。千姫は躊躇なく裂け目の中に向かっていく。しかし裂け目に近づいた途端、中から馴染み深い死の気配が流れ出してきた。【盈虚千姫】 「これは——!」引き裂かれた絵のように、死の気配によって塗り替えられた世界は、一瞬にして異なる姿になった。千姫はよく知る姿を、再び現れた初代女王を見上げる。【初代女王】 「どういうつもりだ?人魚に永生の海から出ていく許可を与えたあげく、自分も永生の海を捨て、一人で出ていくのか?」【盈虚千姫】 「捨てるんじゃない――私は、本当の永生の海に帰りたいの!」 初代女王の体が崩れ落ちる。 死の気配が消えた瞬間、再び千姫の足元から新しい死の気配が湧き出した。またよく知る声が聞こえる。【初代女王】 「どういうつもりだ?人魚に永生の海から出ていく許可を与えたあげく、自分も永生の海を捨て、一人で出ていくのか?ここを出たいなら、先にわらわを倒すのだ。」【盈虚千姫】 「!!!つまり、これは試練なのね?ここを出るのを諦めるまで戦闘を繰り返して、私をここに閉じ込めるの?この試練、他の人には通用するかもしれないけれど、この千姫には通用しないわ!」 |
響き渡る人魚の唄ストーリー
響き渡る人魚の唄ストーリー |
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幻境は突然崩壊し、眩しい光が走る。千姫はゆっくりと目を開け、懐かしい寝殿を見た。懐かしい家具に優しい明かり、ここは彼女の思い出が詰まった場所で、最も居心地の良い場所でもある。【??】 「千、起きた?」【盈虚千姫】 「……は、母上?」【鈴姫】 「やっと起きた。」【盈虚千姫】 「鈴もいる……?」【鮫人族女王】 「千、疲れすぎたのね。あなた、ずっと寝ていたのよ。私も鈴も、心配していたの。」【盈虚千姫】 「どうして……どうしてここに……」【鈴姫】 「寝ぼけたの?ここにいるに決まってるでしょう。あなたは長い間寝ていた。もう少しで、お医者さんを呼びに行かされるところだった。」【鮫人族女王】 「おやめなさい、鈴。千は起きたばかりだから、まだ寝ぼけているのよ。見せてごらん。どこか具合が悪いところはない?」優しく撫でられ、千姫は思わず甘えたくなった。彼女は我慢できずに母上の懐に顔を深く、深く埋める。【鮫人族女王】 「岩礁で倒れたあなたを、鈴が見つけて、連れて帰ってきてくれたのよ。またあそこに行って、潮汐を呼び出す練習をしてたんでしょう。」【盈虚千姫】 「母上……」【鮫人族女王】 「人は生まれながらにして、その運命は既に決まっている。あなたと鈴は違うのよ……千、あなたはもっと良い人生を送ることができる。私も、そう望んでいるの。」どれだけ幸せでも、これは幻にすぎない。彼女を牢獄に入れための罠だと、千姫はもう気づいていた。【盈虚千姫】 「母上、もう一度抱きしめて。この世界は、あまりにも完璧すぎる。ここは私が望んだ世界。災いが起こらなかった、鈴が行方不明にならなかった、母上が襲われなかった世界。この世界は、ありえたはずの別の未来。」【鈴姫】 「ここはあなたが望んだ世界なんかじゃない、これが現実。私が一緒に困難を乗り越えてあげる。もう潮汐で怪我をしなくてもいい、一緒に永生の海を守るの。」【鮫人族女王】 「鈴が鮫竜としての務めを果たすから、千は自分の得意なことをすればいい。あなた達がいる限り、永生の海の繁栄はいつまでも続く。」【鈴姫】 「そうよ。私達二人なら、きっとなんだってできる。永生の海を覆すようなことだって。」【鮫人族女王】 「千、どうして泣いてるの?悪い夢でも見たの?」【盈虚千姫】 「悪い夢であってほしかった。母上を失ったのも、悪い夢だったらよかったのに。」【鮫人族女王】 「できることなら絶対に、私はあなた達の側を離れないわ。ここに、私の大切な二人のお姫様がいるのだもの。」【盈虚千姫】 「母上……私がたどり着いた選択は、正しい女王の選択でしたか?」【鮫人族女王】 「……」【盈虚千姫】 「いいえ……もう母上に教えていただく必要はありません。自分で選んだ時から、もう他の人の意見を聞く必要はなくなりました。とても寂しかった、そんな時期もありました……女王としての正しい道を教えてくれる母上も、一緒に困難を乗り越えてくれる鈴もいませんでした。霧の中を進んでいるような気がしていました。でも、本当は、私自身が光だったのです。」【鮫人族女王】 「つまり、ここから出ていくのね?」【盈虚千姫】 「はい。」【鮫人族女王】 「一番の願いが叶ったのに、それでも出ていくの?でもたしかに、それでこそ私のお姫様ね。私はあなたに憂いのない人生を送ってほしかった。例えそれが普通の人生だとしても。だけど、やっぱり千は、先に進むことを諦めないのね。疲れた時は休みにおいで。でもあなたの自由は奪わない。だから、自分自身の光を追い求めなさい。ただこれだけはずっと変わらない。何があっても、ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと寝て、楽しい時は笑って、悲しい時は泣きなさい。一人で闇の中にいてはいけない。どんな時も太陽の方を向いて、光を追うのよ。これは、母としてのお願い。」【盈虚千姫】 「……約束します、母上。」【鮫人族女王】 「行ってらっしゃい。」【盈虚千姫】 「さようなら、母上。さようなら……鈴。」【晴明】 「……」【盈虚千姫】 「これが、「彫像」状態だった間に起きたこと。すごく具体的で個人的なことだったから、人それぞれ体験することは違うんだと思う。外界からの助けがなければ、あそこが幻境だと見抜けなかったかもしれないし、裂け目も見つけられなかったかもしれない。この身をもって体験したからこそ、絶対に「刻世命」を見つけ出さないといけないと思うの。この幻境を破る方法は、彼が一番よく知っているから。」【晴明】 「教えてくれてありがとう。確かに、今はできるだけ早く「刻世命」を見つけ出し、全てを明らかにすべきだ。」【鈴鹿御前】 「永生の海はこんなことになってしまったし、ひとまず私と鈴鹿山に来ないか?」【盈虚千姫】 「永生の海がこんなことになってしまったからこそ、できることなら復興しないと。まだ試してもいないし、結果がどうなるか分からないのに、簡単に諦めたりしないわ。」【鈴鹿御前】 「ならば次にどうするか考える時が来たら、私の提案を思い出してくれ。永生の海で起きたことは、このまま鈴鹿山の皆に伝え、警戒を強めるよう周知しておく。それと、晴明、永生の海の異変を各地に知らせるべきだと思う。「刻世命」の狙いは、永生の海だけではないかもしれない。」【晴明】 「ああ、そのつもりだ。」【盈虚千姫】 「皆にお願いがあるの。もし「刻世命」について何か分かったら、すぐに教えてほしい。」【鈴鹿御前】 「頼まれなくても、私は「刻世命」探しを手伝うつもりだ。待つだけでは後手に回ってしまう。先手必勝と言うだろう。永生の海で起きた災いが、いつ我が身に降りかかってもおかしくない。「刻世命」を野放しにはできない。永生の海のことは、心配するな。助けが必要なら、いつでも声をかけてくれ。」【盈虚千姫】 「ありがとう……鈴…………永生の海をこんな風にしたあいつに、必ず代償を払わせてやる。」千姫がそう言うと—— 「彫像」にされた一部の永生の海が、呼吸しているかのように弱々しい光を放ち始めた。千姫は人魚の歌を低吟し、「彫像」に変えられた永生の海の万物に祈りを捧げる。命からがら生き延びた人魚達も、女王に倣って人魚の歌を歌い始めた。それは何かを偲ぶような悲しい歌だ。しかし同時に活力あふれる朝日や不屈の精神を想起させる。永生の海は甚大な被害を受けたが、人魚達はより強い繋がりを手にした。未来を迎える覚悟を決めた彼らは、もう恐れない。そしてその未来は、自分達で掴むのだ。 |
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