【陰陽師】福神巡礼ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の福神巡礼ベントのストーリー「古言逸聞(シナリオ/エピソード)」をまとめて紹介。章ごとにストーリーをそれぞれ分けて記載しているので参考にどうぞ。
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【壱】暁が告げる物語ストーリー
暁が告げる物語ストーリー |
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晴天の荒川で、恵比寿と海坊主が釣りをしている。【恵比寿】 「魚も賢いのう、一日中待っておるのに全く釣れぬ。」【海坊主】 「恵比寿様、餌をつけていないからでは?」【恵比寿】 「ほほほ、餌がなくても釣られる魚もいるのじゃ。」【海坊主】 「はは、今日も釣れそうにないな。とはいえ、こうして風や日差しを堪能するだけでも、なかなか楽しいな。」【恵比寿】 「釣りの醍醐味は精神力を鍛えることにあるのじゃ。海坊主も分かってきたようじゃの。」一人の黒髪の少年が駆け寄ってくる。【大黒天】 「恵比寿兄ちゃん!」【恵比寿】 「あれ?」少年が恵比寿に勢いよく抱きついたせいで、二人は川に落ちてしまった。【海坊主】 「恵比寿様!」格闘の末、恵比寿と海坊主は少年を川から引き上げた。【大黒天】 「ゲホッ、ゲホゲホ!」【恵比寿】 「少年、大丈夫かの?」【大黒天】 「うわああ!」突然泣き出した少年を前に、恵比寿と海坊主はどうすればいいか分からない。【大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、やっと見つけた!」【恵比寿】 「少年、さっきから恵比寿兄ちゃんと言っておるが、以前どこかで会ったかのう?」【大黒天】 「え!恵比寿兄ちゃん、忘れちゃったの?大黒天だよ!」何か思いついた様子で、大黒天が手で涙を拭う。【大黒天】 「無理もないか。もう百年経つし、恵比寿兄ちゃんもおじいちゃんになっちゃったし。忘れるのも……無理ない……忘れられてたまるか!!」大黒天が恵比寿の襟を掴んで揺さぶる。【大黒天】 「何度も一緒に困難を乗り越えてきたじゃないか!恵比寿兄さんが忘れるわけない!冗談なんでしょ!?今度は騙されないぞ!早く思い出してよ!」恵比寿は体を激しく揺さぶられ、今にも意識を失いそうだ。【海坊主】 「早く恵比寿様を離さんか!」海坊主が慌てて二人を引き離す。【恵比寿】 「ああ……うっ……し……死ぬかと思うた……」【大黒天】 「すまない……」恵比寿の笏を見て、大黒天が目を見開く。【大黒天】 「あ!それは昔、恵比寿兄ちゃんのために俺が作った笏!ははは!証拠を見つけたよ!これで白を切っても無駄だ!」【恵比寿】 「うむむ……この笏は確かに昔から持っておるものじゃが、お主が作ってくれたのか?」【大黒天】 「そうだよ、七福神って書いてあるでしょ?」【恵比寿】 「七福神……」恵比寿が思いに耽る。彼にとって、「七福神」は片時も忘れたことはないが、どうすることもできない悩みだった。遥か彼方、もう一つの荒川で、恵比寿と大黒天は海妖を退治していた。ひとまず危機は去ったが、いつまた襲ってきてもおかしくはない。【暁日恵比寿】 「大黒、荒川はずっとこの調子だったのか?」【大黒天】 「はい、ここは長い間海妖に平和を脅かされています。私たちは荒川の妖怪たちと力を合わせて、なんとか敵に対抗してきました。しかし努力も虚しく、海妖は無限に湧き出てきます。」【鯉の精】 「恵比寿様!大黒天様!」【大黒天】 「河童と鯉の精か。大丈夫、しばらく海妖は出てこないはずです。」【河童】 「ふん、いっぱい出てきても、まとめてボコボコにしてやりますよ、ははは!」【鯉の精】 「もう、またそんなこと言って!」【河童】 「なんですか?僕と腕試ししたいんですか?」【鯉の精】 「ふふ、荒川で生きていく厳しさを教えてあげましょう!」【暁日恵比寿】 「喧嘩しないで、これ以上怪我人が増えたら困るよ。」【大黒天】 「はは、大丈夫です。しょっちゅう口喧嘩していますが、二人は実は仲がいいんですよ。」【暁日恵比寿】 「そうなのか……」【大黒天】 「恵比寿兄さん、兄さんは霊力を使いすぎました。神社に戻ってお休みするのがよろしいでしょう。」恵比寿は呪われたような薄暗い空を眺める。【暁日恵比寿】 「もう少し、この世界を知りたかったな。」【大黒天】 「大丈夫ですよ、明日またお付き合いします。」【暁日恵比寿】 「うむ。」二人が廃れた神社に戻ると、女の子が神社の前に立っていた。恵比寿を見るなり、嬉しそうに近寄ってくる。【子供】 「福神様!」【暁日恵比寿】 「ああ……何か用か?」【子供】 「福神様!お父さんがもうすぐ長い船旅に出るんです、どうか福運を授けてください!」女の子が錆ついた銭を恵比寿に捧げる。【子供】 「これは私が頑張って貯めたお金です、受け取ってください!」恵比寿が返事をするよりも先に、怒りをあらわにした村人がやってきた。【村人】 「道子!何をしてるんだ?」【子供】 「お父さん!福神様にお祈りしてたの!」【村人】 「何が福神様だ!この神様は人に福運を与えてはくれない!一緒に家に帰るぞ!」そう言うと村人は女の子を引きずっていく。【暁日恵比寿】 「ここ数日は海に出ないほうがいい。穏やかそうに見えるけど、もうすぐ嵐が来るから。」男は礼を言うかわりに、冷ややかに笑った。」【大黒天】 「恵比寿兄さん、気にしないでください。悪天候が続いたせいで、畑が不作で皆気が立ってるんです。」【暁日恵比寿】 「平気だ、中に入ろう。」神社に戻った後、大黒天が部屋でお茶をいれている間、恵比寿は乾いた池の底を埋め尽くす銭貨を眺めていた。【暁日恵比寿】 「ここは見知らぬ危険な世界。何がどうなっているのか、さっぱり分からない。運命は神様に託さないほうがいい。神様も重大な問題を抱えているかもしれないから。」恵比寿が錆ついた銭貨をそっと池に投げ入れる。【暁日恵比寿】 「福運を授けてあげられなくて、ごめんね。」真夜中、荒川の妖怪たちが集まり、大黒天が語る七福神の話に耳を傾けていた。【聆海金魚姫】 「つまり、毎日零時を過ぎるとその日の記憶を失うから、金魚ジジイを見つけるのに百年かかったってこと?」【大黒天】 「うん。記憶だけじゃない、体の時間も巻き戻されるんだ。だから百年過ぎても、ちっとも成長しなかった!」【河童】 「とはいえ、どれだけ遠い道のりでも、百年もかかるとは思えないけど。」【大黒天】 「実は……俺はよく道に迷うんだ……」【恵比寿】 「不思議じゃな、確かにわしには大黒天に関する記憶がない。」【大黒天】 「七福神の記憶ならあるでしょ!」【鯉の精】 「七福神?」【海坊主】 「福運を司る七柱の神と言われている。世に名を轟かせていた時期があり、七福神を祀る神社もたくさん建てられた。しかし今ではすっかり鳴りを潜め、その行方も分からなくなっている。」【鯉の精】 「つまり金魚おじいちゃんも、七福神の一員だったの?」【椒図】 「私も同じ質問をしたことがあります。私が荒川に来た時、金魚おじいちゃんはもうここに住んでいました。」【聆海金魚姫】 「金魚ジジイ、自分の過去についてあまり話したくないみたいだけど、教えてくれない?」恵比寿が困った顔をする。【恵比寿】 「隠しているわけではないのじゃ。ただ、どこから話せば良いか分からなくての。わしは……ここの住民ではないようじゃ。」【聆海金魚姫】 「ここって……荒川のこと?」【恵比寿】 「いや、この世界そのものじゃ。」困惑した皆は、静かに恵比寿の説明を待つ。【恵比寿】 「わしの記憶にある最初の世界は、常に嵐や悪天候、疫病に脅かされておった……しかしある日目覚めたら、世界が突然様変わりして、穏やかで活気溢れる世界になっていたのじゃ。夢ではないかと疑ったが、夢にしてはあまりにも出来すぎている。その時、七福神と書いてある笏を見つけたのじゃ。わしのものではなかったが、なんとなく大切なものである気がして、肌身離さず保管しておくことにした。稀に七福神の一人じゃと言われるし、福賜りする力も確かに備えておる。じゃが七福神という言葉には、全く覚えがない。元々流離の身であるわしには、頼れる知人もおらぬ。そのまま旅を続けながら、面白い新世界を探索した。福運を必要とする人々に精一杯福を授けたが、貪欲で足を知らぬ者が後を絶たなかった。次第にわしは人々に応えられなくなっていったのじゃ。その後、わしは人里を離れ、川の流れを辿りやがて荒川に住み着いた。じゃから、同じ名前を持ってはおるが、おそらく……大黒天、お主が探しているのは、わしではないはずじゃ。」【大黒天】 「違う!」【恵比寿】 「あれ?」【大黒天】 「名前や笏だけじゃない!金魚おじいちゃんと恵比寿兄ちゃんは、気配もそっくりなんだ!金魚おじいちゃんが七福神の一員じゃないなら……恵比寿兄ちゃんは一体どこにいるんだ?」【恵比寿】 「何か誤解があるようじゃ。夜が明けたら、一緒に方法を考えよう。」急に何かに気がついたように、大黒天が焦り出した。【大黒天】 「あ!もうこんな時間……もうすぐ零時だ!手帳、手帳!」大黒天が袖の中からしわくちゃの手帳を取り出す。【大黒天】 「ああ!しまった!水に落としたせいで、字が読めなくなってる!」【恵比寿】 「あれは?」【大黒天】 「これは大切なことを記録する手帳なんだ。荒川にたどり着けたのも、全部手帳のおかげさ。これがなければ、この百年間の記憶が消えてしまう!」【恵比寿】 「慌てるでない。幸い、これまでのことをさっきわしらに話してくれたじゃろう。」【大黒天】 「そういえばそうだ……」それを聞いて、大黒天は少し安堵した。【大黒天】 「金魚おじいちゃん、明日……さっき話したことを、また全部俺に教えてください!」【恵比寿】 「うむ、七福神の仲間を探しておることも、大人になれぬということも、全部憶えておるぞ!」零時になり、大黒天の目から一瞬光が消えた。そしてすぐにまた光が戻る。【大黒天】 「うっ……あれ!こ、ここはどこ?君たちは誰?」【恵比寿】 「ここは荒川じゃ。心配はいらぬ、これから全部説明してやるからの。」【大黒天】 「恵比寿兄ちゃん?どうして……そんな姿に!?」聆海金魚姫と恵比寿が設置した法陣の中に、大黒天が立っている。【大黒天】 「えっと……これ、本当に効くのか?」【聆海金魚姫】 「零時を過ぎる時、あなたの体には呪いのような瘴気が出現した。きっとそれが、時を巻き戻ってしまう原因。」【恵比寿】 「金魚姫のお嬢ちゃん、福運で呪いを浄化するには、わし一人の力では無理じゃろう。力を貸してくれ。」【聆海金魚姫】 「うん。金魚ジジイ、始めて。」【恵比寿】 「心は浄化され邪魔は祓われる、運に乗りて我らの身を守りたまえ……」恵比寿が呪文を唱えると共に、清き福運の光が大黒天を包み込む。しかし次の瞬間、その体から大量の瘴気が溢れ出してきた。瘴気に侵された福運は、制御を失い恵比寿を攻撃した。予想外の攻撃に、恵比寿は転んでしまった。【聆海金魚姫】 「金魚ジジイ!」聆海金魚姫が恵比寿を助け起こす。術が中断され、瘴気が再び大黒天の体に入り込む。【大黒天】 「恵比寿兄ちゃん!」【恵比寿】 「大丈夫じゃ……油断しておったが、敵は手強いようじゃの。」【大黒天】 「恵比寿兄ちゃんが怪我しなくてよかった!」【聆海金魚姫】 「私たちの力だけでは、呪いを解除できないみたい。」【恵比寿】 「そうじゃな……しかし、分かったこともある!呪いと対抗した時、同じ呪いをかけられたもう一人の存在を感知したのじゃ!」【大黒天】 「もう一人?」【恵比寿】 「もしかしたら、他の七福神かもしれぬな?あるいは、お主が探しておった……恵比寿兄ちゃんか。」【大黒天】 「え?もう一人の恵比寿兄ちゃん?」【聆海金魚姫】 「大黒天、その人に呼びかけてみて。相手が応えてくれれば、呪いを解除しやすくなるかも。」【大黒天】 「そう言われても、どうすればいいか分からないよ。」【聆海金魚姫】 「教えてあげるから大丈夫。私は一度も成功しなかったけど、試してみても損はないよ。」【大黒天】 「はい!」大黒天は聆海金魚姫に教わった通りに呼びかけてみたが、相手からの返事はなかった。その時、どこからともなく現れた弱々しい福運が、法陣の中に入ってきた。大黒天の思いが、ついに相手に届いたようだ。 |
【弐】光溢れる出会いストーリー
光溢れる出会いストーリー |
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若き恵比寿と年老いた大黒天が空間の裂け目を通り、もう一つの世界から荒川にやってきた。不思議な再会を果たした一同は、ただ驚くばかりだった。【恵比寿】 「あ…」【年老いた大黒天】 「ここは?」【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん!召喚できた!」【暁日恵比寿】 「大黒?僕……元の世界に戻ってきたのか?」【若き大黒天】 「元の世界って?今までどこにいたんだよ!」裂け目が渦巻き、危険な気配を漂わせている。【暁日恵比寿】 「説明は後だ、裂け目から何か出てきた! |
」裂け目を通って現れた数匹の海妖が、新しい世界を見渡している。【海妖】 「ぐおお!!」【年老いた大黒天】 「海妖です、私たちを追ってここに!」【恵比寿】 「荒川の皆!気をつけるのじゃ!」海妖たちが散らばって川に入ろうとする。聆海金魚姫は荒川の仲間を率いて、海妖の行動を封じた。しかし裂け目からは、海妖が次々にやってくる。海妖は撃退されたが、別の世界からやってきた金魚姫は戸惑いを隠せない。」【金魚姫】 「た、助けてくれてありがとう。」【聆海金魚姫】 「あなた……どこから来たの?」【金魚姫】 「どこって……私はずっと荒川に住んでるけど。あ!河童の兄さんと鯉の精さんもいる、よかった!」【鯉の精】 「それは……」鯉の精と河童が何と言えばいいか分からず困っていると、少年の姿の恵比寿がやってきた。【暁日恵比寿】 「一時的に裂け目を封印しておいた。皆何が起こっているか分からないようだし、一旦落ち着いて手元の情報を分析しよう。」一同は集まって情報を共有し、若き恵比寿が事の経緯を推測する。【暁日恵比寿】 「どうやら、あの裂け目によって、二つの世界が繋がってしまったみたいだ。僕と大黒と金魚姫は、もう一つの世界からやってきた。」【若き大黒天】 「え?俺も?」【暁日恵比寿】 「いや、今言った大黒は、おじいさんの方……」【年老いた大黒天】 「おじいさん?恵比寿兄さんにそう呼ばれるのは初めてですね……変な感じです。」【恵比寿】 「ほほほ、紛らわしいのう。新しい呼び方を考えよう。お主は大黒天おじいちゃん、わしは金魚おじいちゃん。お若い二人は、大黒天くんと恵比寿くんでどうじゃ?」【若き大黒天】 「大黒天くん?」【暁日恵比寿】 「恵比寿くん?」【年老いた大黒天】 「はは、ぴったりの名前ですね。」【聆海金魚姫】 「確かにその方が便利ね。」【暁日恵比寿】 「異議がないようなら、とりあえずこれで。」【聆海金魚姫】 「恵比寿くん、これはあなたたちが開いた裂け目なの?」【暁日恵比寿】 「そうじゃない。でも、僕が呼びかけに応えた後に裂け目が出現したことは事実だ。」【若き大黒天】 「分かった!きっと召喚の術がうまく発動したんだ!」【暁日恵比寿】 「召喚の術?」【恵比寿】 「お主と大黒天くんには強い呪いがかかっている。お主たちの時間を巻き戻しているのは、呪いの力に他ならない。」【暁日恵比寿】 「大黒、いつから時間が巻き戻るようになったか、覚えてるか?」【若き大黒天】 「うーん……西主寺で祈りを捧げていた時に、何かの力によって引き離されたことは覚えてる。その日から……」【暁日恵比寿】 「祈り?」若き恵比寿は閃き、記憶の欠片を組み合わせて真相の大枠を見抜いた。【暁日恵比寿】 「何を祈ったんだ?」【若き大黒天】 「「恵比寿兄ちゃんと一緒に立派な大人になりたい」って……あっ!もしかしてこれが原因?」大黒天の答えは若き恵比寿の推測の裏付けとなったが、彼の不安はますます大きくなるばかりだった。【暁日恵比寿】 「西主寺には祈りを覆す、強力な力を持った禍津神がいるはずだ。もしかしたらあの時……調査に行くよりも前に、禍津神は僕たちが祈るように仕掛けていたのかもしれない。それで皆それぞれ異なる被害を被ったのかも。」【若き大黒天】 「なるほど!でも俺の願いは他の七福神とは無関係だ。他の皆は無事なのか?」【恵比寿】 「恵比寿くんがもう一つの世界に送り込まれたのもそれが原因なのじゃろうか?」【年老いた大黒天】 「そうですね。恵比寿兄さんは、何を祈ったんですか?」若き恵比寿は考えに考えた末、嘘をついた。【暁日恵比寿】 「僕は……何も祈らなかった。」【若き大黒天】 「ん?嘘でしょ?」【暁日恵比寿】 「うるさい。原因はさておき、禍津神と関係がある以上……十分な福運を集めれば、呪いは解けるはずだ。安全、平和、健康、富……そして切なる祈りは、大量の福運を生み出す。人々が幸せに暮らす賑やかな町には、きっとたくさん福運がある。」【恵比寿】 「賑やかな町と言えば、やはり平安京じゃろう。何人か知り合いもおるし、わしが案内しよう。」【若き大黒天】 「やった!ありがとう、金魚おじいちゃん!」【年老いた大黒天】 「この世界の町はどんな感じなんでしょう?楽しみですね。」【若き大黒天】 「きっと面白いものがたくさんあるよね!」【暁日恵比寿】 「おい、遊びに行くわけじゃないぞ。」【恵比寿】 「おや、おや……」若き恵比寿が聆海金魚姫に目を向ける。【暁日恵比寿】 「こちらの方は……お名前を伺っても?」もう一つの世界からやってきた金魚姫も好奇心に突き動かされ、聆海金魚姫に目を向ける。【聆海金魚姫】 「私は……荒川の聆海姫。」【暁日恵比寿】 「聆海姫さん、さっきの海妖は僕たちが退治したけど、裂け目の向こう側には、こっちの世界に手を出そうと目論んでいる海妖がまだたくさんいる。暫くの間、裂け目を見守っていてもらえないか?大黒の呪いが浄化できたら、何とかして必ず裂け目を閉じるから。」【聆海金魚姫】 「大黒天くんが召喚の術を使った時、私も協力したし、責任なら私にもある。ご心配なく。海妖につけ込む隙を与えないように、しっかり見回って、一匹たりとも見逃さないから。」【暁日恵比寿】 「ありがとうございます!」若き恵比寿たちがその場を去ると、荒川の妖怪たちは金魚姫の側に集まり、大人しい彼女を観察した。【聆海金魚姫】 「一緒に行かないの?町はとても賑やかよ。」【金魚姫】 「いいの、人の多い場所は苦手だから。聆海姫さん、ここに残ってもいい?」【聆海金魚姫】 「あなたさえ良ければ、ずっとここにいてもいいよ。」【金魚姫】 「はい!」【鯉の精】 「あなたは海妖に追われて、裂け目に迷い込んだの?」【金魚姫】 「そうなの……道理でここの鯉の精さんと河童の兄さんは私を知らないわけだ!」【河童】 「大丈夫だよ、これからよろしくね。」【金魚姫】 「ふふ……私が知ってる河童の兄さんは、こんな優しい言葉はかけてくれないけど。」【河童】 「ええ、そっちの世界の僕は、あんまり優しくないの?」【金魚姫】 「ううん!なんていうか……もっと活発で勇敢なの!あ、えっと!こっちの世界の河童の兄さんが活発でも勇敢でもないってことじゃなくて、えっと……ごめんなさい……また失礼なこと言っちゃった……」【鯉の精】 「大丈夫よ、誰も責めたりしないから!」【聆海金魚姫】 「……ははっ。」椒図と海坊主は、そう遠くない場所から彼らを静かに観察している。」【椒図】 「あんな風に笑う金魚姫を見るのは久しぶりですね。でも、どうして正体を隠すのでしょう?」【海坊主】 「成長には重すぎる代償が伴う。あの時失ってしまった純真を、彼女は守りたいのではないだろうか。もう一人の自分に会うというのはどんなものか、恐らくそれは当人にしか分からない。」【椒図】 「そうですね。そういうことでしたら、一緒に聆海姫さんの秘密を守ってあげましょう。」座敷童子に町に案内され、二人の少年は楽しそうにあちこちの屋台を見て回っている。【暁日恵比寿】 「大黒、節制って言葉を知ってるか?あんまり簡単に……」【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、これ食べてみて!」【暁日恵比寿】 「これはなんだ……美味いな!」【若き大黒天】 「ははは、やっぱり恵比寿兄ちゃんのほうが食いしん坊だね!」【暁日恵比寿】 「仕方ないだろ、百年もの間、美味しいものを食べられなかったんだから。」【招福座敷童子】 「飴細工さんの屋台はあっちだよ、早く行こう!」二人の老人はゆっくり最後尾を歩いている。賑やかな町並みに、老いた大黒天は圧倒されている。【年老いた大黒天】 「おお、実に賑やかな町ですね。これが恵比寿兄さんの世界ですか?」【恵比寿】 「そうじゃよ。そっちの世界はどんな様子なんじゃ?」【年老いた大黒天】 「もっと荒れていて、危険な場所です。福運を集めるだけでも大変ですよ。」【恵比寿】 「なかなか大変そうじゃな。それでは、暇な時は何をしておるのだ?」【年老いた大黒天】 「羽根を伸ばしますね。一番の気晴らしは、恵比寿兄さんと釣りに行くことです。」【恵比寿】 「わしも釣りは好きじゃ。荒川に戻ったら、一番よく釣れる場所に案内してあげよう。」【年老いた大黒天】 「はは、お茶菓子を用意しますよ。」【恵比寿】 「大黒天おじいちゃんは、恵比寿くんと一緒に住んでおるのか?」【年老いた大黒天】 「はい、もう一つの世界の、荒川の近くにある神社の中に住んでいます。もう廃れている神社ですけど、長時間留守にすると、やっぱり心配になりますね。」【恵比寿】 「無理もない、家とはそういうものじゃ。」【年老いた大黒天】 「ははは、もし機会があれば、ぜひお越しください。」【恵比寿】 「ほほほ、それは光栄の至りじゃ!」【年老いた大黒天】 「実は……さっきから、気になることがあるんです。もしここが恵比寿兄さんの元の世界なのだとしたら、金魚おじいちゃんと合わせて恵比寿が二人、同時に存在していることになりませんか?」【恵比寿】 「あの……」前方から届いた大声が、二人の会話を遮った。【家臣】 「旦那様が、代々伝わってきた宝物をなくしてしまいました!取り戻してくれた人には、報酬をはずみましょう!」【暁日恵比寿】 「報酬をはずむって?面白い。」【若き大黒天】 「わくわくしてきたな!」【招福座敷童子】 「人助けはいいことだけど、福運を集めに来たんだよね?こんなことに時間を割いてていいの?」【暁日恵比寿】 「お金にも福運が含まれてるんだ。もちろん、努力して稼いだお金に限るけどね。少し待ってて。」依頼を引き受けた若き恵比寿は、家臣の案内のもと大名に会いに行った。大名は値踏みするような目で若き恵比寿を観察し、傲慢な言葉を放った。【大名】 「連中は何を考えておるのだ?こんな子供を連れてきて、ふざけた真似を。」【暁日恵比寿】 「まあまあ、落ち着いてください。もちろん推薦されるだけの理由はありますよ。」若き恵比寿の金魚が、数枚の銭貨が入った泡を吹き出す。若き恵比寿が指を鳴らすと同時に、泡は二つになり、銭貨も二倍になった。片方の泡が大名の目の前に飛んでいき、突然割れた後、中の銭貨が大名の手の中に落ちた。【大名】 「なんだ?銭をよこして、なんのつもりだ?」【暁日恵比寿】 「持ち主に返しただけです、安心して受け取ってください。」何かを悟ったように、大名は素早く財布を確認する。するとやはり、財布の中は空になっていた。【大名】 「神通力の使い手が、なぜこの程度の報酬に興味を持つのだ?」【暁日恵比寿】 「財は正しき手立てによって成すべき、これは譲れない信念なのです。それで、今回の件は僕にお任せくださいますか?」大名が若き恵比寿にお茶を出すよう家臣に目配せをする。【大名】 「実のところ、何かを盗まれるのは初めてではないのだ。これまで盗まれたのはせいぜい金や金目の物くらいだったから、あまり気にしていなかった。しかし今回は違う。代々伝わってきた宝物が盗まれたのだ、絶対に取り戻してやる!居場所を失った流れ者の仕業かと睨んでいたが、ある家臣が盗賊が出入りするのを見かけたと言うのだ。はっきりとは見えなかったが、僧侶笠のようなものを被っていたそうだ。おそらく鉄鼠という名前の妖だろう!多くの人からお金を騙し取ってきた鉄鼠なら、盗賊のようなことをしていても不思議ではない。だがやつは行方がつかめないときた。実に不愉快!我が一族に代々伝わってきた宝物を取り戻してくれた暁には、褒美を取らせよう!」【暁日恵比寿】 「お金に汚い妖か……分かりました、吉報をお待ちください。」若き恵比寿は仲間と相談し、分かれて行動することにした。【暁日恵比寿】 「というわけで、お金をたくさん騙し取った鉄鼠という妖の金運は、上がっているに違いない。まずは僕が霊力を使って、お金がたくさん隠されていそうな場所を占いであぶり出す。きっと出てくる場所は一つではないと思う。大黒天おじいちゃんと大黒天くんにも、一緒に現場に来てほしい。」【年老いた大黒天】 「最善を尽くすまでだ。」【若き大黒天】 「喧嘩……もとい、悪者退治なら得意だ!」【暁日恵比寿】 「それと、盗まれた宝物は、どこかに隠されているか転売されているはずだ。座敷童子、金魚おじいちゃん、町の知り合いに宝物のことを聞いて、できるだけ情報を集めてほしい。」【招福座敷童子】 「任せて、この辺りの小妖たちにも手伝わせるよ!」【恵比寿】 「ほほほ、やる気が出てきたぞい!」【暁日恵比寿】 「それじゃ始めよう、皆に福運がありますように。」若き恵比寿たちがその場を去ると、恵比寿おじいちゃんは笑顔を作るのをやめた。【恵比寿】 「ほほ……」【招福座敷童子】 「恵比寿じいさん、何か悩みがあるようだけど、どうしたの?」【恵比寿】 「おや、心配させてすまんの。わしはただ……もしわしがこっちの世界の者ではないとしたら、どうすればいいのかと考えておったのじゃ。」【招福座敷童子】 「え?でも私たちが出会ってからずっと、恵比寿じいさんはこの世界にいたじゃない。それに例え本当にそうだとしても、悩むことないよ!」【恵比寿】 「あれ?」【招福座敷童子】 「私も、金魚姫さんも、そして荒川の皆も、恵比寿じいさんのことを家族だと思ってるから。」そう言いながら、座敷童子は拳を握りしめる。【招福座敷童子】 「恵比寿じいさんを追い出そうとする人が現れたら、私が懲らしめてやるから!だから、あんまり変なことを考えないで!」【恵比寿】 「ほほほ、それもそうじゃな。ありがとう、座敷童子。早く皆に宝物のことを聞きに行こう。」【招福座敷童子】 「はい!」 |
【参】恵みに満ちた巡礼ストーリー
恵みに満ちた巡礼ストーリー |
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若き恵比寿は術で鉄鼠の居場所を占い、郊外のある廃寺を見つけた。調査を行うと、案の定お金がたくさん出てきた。【鉄鼠】 「誰や?なにわいの銭に触っとんねん!」【暁日恵比寿】 「君が鉄鼠か?正確には君のお金じゃないよね。大名から聞いたよ、全部騙し取ったお金でしょ。」【鉄鼠】 「あの大名の手先か?ふん、わいはちょっと銭を騙し取っただけやのに、無実の罪を着せられたんや!代々伝わってきた宝物をわいに盗まれたとあちこちで言いふらされて、町に行くこともできんくなってしもた!」【若き大黒天】 「ってことは、君が盗んだわけじゃないのか?」【鉄鼠】 「もちろんや。わいは銭が好きやけど、さすがに犯罪に手を染めたりはせえへん。」【年老いた大黒天】 「信ぴょう性が薄いですね。調べたところによると、騙されたのは大名だけではないようです。」【鉄鼠】 「ぜ、全部合意の上でもらった銭や!そもそも、わいは私欲のために銭を貯めとるわけやない、お寺を建てるためや。」鉄鼠が己の悲しい過去を感情的に語り始める。【若き大黒天】 「ううう……なんてかわいそうなんだ。」【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん、私たちが持っているお金を全部、彼にあげましょう!」【暁日恵比寿】 「君たち……彼の話が本当かどうかも分からないのに。」【若き大黒天】 「え?嘘だったのか!」【暁日恵比寿】 「全部嘘ではないはずだ。少なくとも、快楽のために湯水の如くお金を使うような人ではなさそうだね。でなきゃ、貧乏臭さを感じたりはしないと思う。」【鉄鼠】 「信頼してもろたけど、素直に喜べへんな……」【暁日恵比寿】 「お寺を建てるのなら、これだけお金があれば十分だろう。どうして工事が始まっていないんだ?」【鉄鼠】 「実は……わいの依頼を受けてくれる人が見つからへんねん。」【年老いた大黒天】 「大名が睨みを利かせているのですか?」【鉄鼠】 「それだけやない……」【暁日恵比寿】 「騙された人が多すぎて、もう誰も信じてくれないんだろう。」【鉄鼠】 「もう少し歯に衣着せてほしいとこやけど……」【暁日恵比寿】 「まあいい、行こうか。」【鉄鼠】 「え?お主ら……わいの銭はええんか?」【暁日恵比寿】 「僕たちが受けたのは、宝物を取り戻せって依頼だけだ。犯人が君じゃないなら、ここに留まる必要はない。」町に戻った三人は、宝物について聞き込みを続けている。【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、鉄鼠の話は本当だと思うか?」【暁日恵比寿】 「分からない。でも詐欺や窃盗で得たお金では、人を幸せにすることはできないよ。」【年老いた大黒天】 「徳を積む方法はたくさんあります。お寺を建てるために悪いことをしていては、本末転倒です。」若き恵比寿の金魚が突然げっぷをして、福運の泡を一つ吐き出した。若き恵比寿がその泡を持ち上げ、精神を集中させて霊力を注ぎ込む。【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、何してるの?」【暁日恵比寿】 「もうすぐ零時になる。重要なことを泡に記録しておかないと、明日になったら全部忘れてしまうから。」【若き大黒天】 「便利だね!俺はずっと手帳に書き込んでたよ。俺にも泡を貸して!」【暁日恵比寿】 「金魚おじいちゃんから聞いたよ。君の手帳は川に落ちて、文字が読めなくなっちゃったって。まったくドジなんだから。荒川にたどり着くのに、百年かかったわけだ。」【若き大黒天】 「わざとじゃないんだけど……」若き恵比寿に叩かれて、金魚は泡をもう一つ吐き出した。【暁日恵比寿】 「どうぞ。記録を残したい時は、精神を集中させるんだ。」【若き大黒天】 「わあ!うーん、何を記録しようかな。座敷童子が美味しいものをたくさん食べさせてくれた。特に飴細工さんのお菓子が美味しかったな。また明日も食べたいな!」【暁日恵比寿】 「泡に記録できることには限りがある、どうでもいいことは書き込むな!」【若き大黒天】 「大切なことは、どうせ恵比寿兄ちゃんが記録するでしょ?後で俺に教えてよ!」【暁日恵比寿】 「こいつ...仕方ない。些細なことでも大切な思い出には違いないし、忘れたらもったいないよね。」少年たちのやり取りを見て、年老いた大黒天は嬉しくなったが、同時にふと喪失感を感じた。【恵比寿】 「恵比寿くん、大黒天くん、大黒天おじいちゃん、いい知らせじゃ!」【年老いた大黒天】 「金魚おじいちゃん、座敷童子、宝物は見つかりましたか?」【招福座敷童子】 「へへ、宝物じゃないけど、手がかりを見つけたよ!磁器蛙なら、宝物のありかを知っているかもしれない。でも……簡単には教えてくれないと思う。」【暁日恵比寿】 「磁器蛙ってどんな人?」【恵比寿】 「あやつは博打が趣味じゃ。」【暁日恵比寿】 「博打か……うーん。」建物が入り組んだ袋小路を通り抜け、若き恵比寿がとある隠れ家に入っていく。【暁日恵比寿】 「すみません、ここは磁器蛙さんの工房ですか?」【磁器蛙】 「新顔か、珍しいな。俺に何の用ゲロ?」【暁日恵比寿】 「金運に恵まれている磁器蛙さんは、このところずっと勝ち続けているのでしょう?」若き恵比寿が机に銭袋を置くのを見ても、磁器蛙は落ち着き払っている。【磁器蛙】 「大名の依頼を受けたと聞いたゲロ。宝物の情報がほしいんだゲロ?俺は億万長者ではないが、金で買収されたりしないゲロ。なめるなゲロ!」【暁日恵比寿】 「誤解です。ご高名はかねがね伺っております。今日は一つ、勝負をお願いしたく。机の上の銭は賭け金です。少し付き合ってもらえませんか?僕が負けたら、この銭袋は差し上げます。僕が勝ったら、宝物について知っていることを教えてください。」【磁器蛙】 「ぬはは、面白い。挑まれて断る俺ではないゲロ。」二人はサイコロが入った入れ物を振り、勢いよく机に叩きつける。【磁器蛙】 「若造、後悔したか?今ならまだ間に合うゲロ。負けを認めるなら、お金は半分だけもらうゲロ。」【暁日恵比寿】 「結構です、開けてください。」勝負は決まった。磁器蛙の出目は、四。若き恵比寿の出目は、三。」【磁器蛙】 「おやおや、僅かな差で負けるとは、惜しいゲロね。お金はもらうゲロ。」若き恵比寿が二つ目の銭袋を取り出す。【暁日恵比寿】 「続けてください。」【磁器蛙】 「おや?これは賢明な判断じゃないゲロよ。」【暁日恵比寿】 「ご忠告感謝します。でもどうしても宝物についての手がかりが必要なんです。」二人はまたサイコロを振る。勝負は決まった。磁器蛙の出目は、五。若き恵比寿の出目は、一。」【磁器蛙】 「残念ゲロね、また俺の勝ちゲロ。」若き恵比寿が三つ目の銭袋を取り出す。【暁日恵比寿】 「続けてください。」【磁器蛙】 「太っ腹すぎるゲロ。もしや……この銭袋は見かけ倒しの幻ゲロか?」【暁日恵比寿】 「ご心配なく、僕はズルしたりしませんよ。磁器蛙さんもそうであってくださいね。」【磁器蛙】 「も、もちろんゲロ!(くそ、イカサマしたことがバレたか?いや、俺はそんなヘマはしないゲロ。落ち着け、相手はただのガキゲロ。)」勝負はまだまだ続く。勝負は決まった。磁器蛙の出目は、四。若き恵比寿の出目は、二。【磁器蛙】 「ぬはは、今日は財運の神が味方してくれているゲロ!どうだ、まだ続けるゲロか?」【暁日恵比寿】 「お金はもうなくなりました。でも磁器蛙さん、あなたのイカサマを見抜きましたよ!」【磁器蛙】 「なっ、なに?クソガキ、いい加減なことを言うなゲロ!証拠だ、証拠を出せゲロ!」【暁日恵比寿】 「落ち着いてください。次は証拠を掴んでみせましょう。」【磁器蛙】 「ぬはは、だがもう賭け金がないはずゲロ?」【暁日恵比寿】 「お金はないけど、他のものを賭けることはできます。」【磁器蛙】 「ほう?言ってみるゲロ。」【暁日恵比寿】 「磁器蛙さんは大名に追われ、何度も工房を押収され、最後には人気のない袋小路に引っ越さざるを得なくなったと聞きました。だから、僕を辱めるためなら、磁器蛙さんはイカサマすることも厭わないのでしょう。」磁器蛙は押し黙る。【暁日恵比寿】 「しかし、残念ですが、僕と大名は雇われの関係ではありません。もうひと勝負しませんか?僕が負けたら、磁器蛙さんの代わりに大名を懲らしめましょう。」【磁器蛙】 「ふん、悪くないが、それだけじゃ足りないゲロ。貴様が負けたら、押収した工房を全部返すゲロ!」【暁日恵比寿】 「そんな無理難題を……仕方ない、約束しましょう。磁器蛙さんは条件を追加したのですから、僕も条件を追加してもいいですよね?」【磁器蛙】 「当たり前ゲロ、でなきゃ面白くないゲロ。」【暁日恵比寿】 「ふふ、ありがとうございます。そうだ、条件を追加する前に、磁器蛙さんに伝えておくことがあります。磁器蛙さんと雨女さんはお知り合いですよね?磁器蛙さんに会いに来る前に、僕は雨女さんを大名の屋敷に招待したんです。」磁器蛙が突然机を力強く叩く。これまでの冷静の様子とは打って変わって、狼狽している。【磁器蛙】 「雨女に指一本でも触れたら……絶対に許さんゲロ!」【暁日恵比寿】 「ははは、心配しないでください。勝負が終われば、雨女さんは自由です。磁器蛙さん、観客が何人か増えても問題ないですよね?」若き恵比寿が手を叩くと、二人の大黒天が扉を壊して入ってきて、磁器蛙の背後に立った。【暁日恵比寿】 「これから、僕が追加する条件を言います。よく聞いてください。僕が負けたら、平安京から大名を追い出します。磁器蛙さんが負けたら、雨女さんのことは諦めてください。二度と会うことは許されません!」【磁器蛙】 「ちょっと!!」磁器蛙は怒り心頭に発したが、無闇に暴れるわけにはいかない。【暁日恵比寿】 「始めましょう。」他に選択肢のない磁器蛙は、サイコロを振るしかなかった。【暁日恵比寿】 「一応注意しておきましょう。イカサマしたら、その時点で負けになります。磁器蛙さん、小細工しないでくださいね。皆が見ていますよ。」磁器蛙は額に汗を浮かべる。今まであった覇気はすっかり消え失せた。【磁器蛙】 「(イカサマするゲロ?しないゲロ?確実に勝つためなら……やっぱりイカサマするしかないゲロ!だが危険過ぎるゲロ!もしバレたら……別に正々堂々勝負しても、必ず負けるわけじゃない……そうゲロ!今まで俺は運に恵まれてきたゲロ!)」勝負は決まった。二人の運命は入れ物の中に隠されている。【磁器蛙】 「あ、開けるゲロ!」【暁日恵比寿】 「磁器蛙さん、さっき……僕はイカサマしました。」【磁器蛙】 「なんじゃと!?」【暁日恵比寿】 「実のところ、僕もイカサマするのが得意なんです。磁器蛙さんには敵わないから、今まで実力がバレないように爪を隠していました。ついさっき、磁器蛙さんが雨女さんのことで気が散っていた時に、隙を見つけました。」【磁器蛙】 「約束ゲロ、イカサマしたやつはその時点で負けゲロ!」【暁日恵比寿】 「ふふ、その通りです。しかし、証拠はありますか?」【磁器蛙】 「貴様……!!」【暁日恵比寿】 「絆を諦め、赤の他人になる磁器蛙さんと雨女さんの様子を見てみたいですね。きっと面白いですよ。」磁器蛙は完全に闘志を失い、地面に座り込んだ。【磁器蛙】 「雨女には、手を出さないでくれゲロ……」【暁日恵比寿】 「やれやれ、悪者だと思われているようですね。言ったはずですよ、僕は雨女さんを招待しただけです。では、磁器蛙さんにも機会をあげましょう。もし負けを認めてくれるなら、磁器蛙さんと雨女さんには手を出さないと約束します。宝物の手がかりさえ教えてくれればね。」【磁器蛙】 「本当ゲロか!?」【暁日恵比寿】 「ええ、ここに来たのもあくまで宝物のためですから。」藁にも縋る思いの磁器蛙は、若き恵比寿の目的を見分けられるだけの精神力は、もはや持っていなかった。【磁器蛙】 「俺の負けゲロ!負けたゲロ!」【暁日恵比寿】 「賢明な判断です。勝負はもう決まりましたが、本来の結果を確認してみましょう。」勝負は決まった。磁器蛙の出目は、六。若き恵比寿の出目は、一。【磁器蛙】 「ゲロ?」【暁日恵比寿】 「やはり運は雨女さんを大切に思う磁器蛙さんの味方をしていたようですね。ありがとうございました。」【磁器蛙】 「だがさっき……」【暁日恵比寿】 「イカサマなんてできませんよ。ただのハッタリです。お許しください。」【磁器蛙】 「じゃあ雨女は……」【暁日恵比寿】 「ご心配なく、雨女さんにはお会いしていません。」磁器蛙は怒るのではなく、安堵していた。【磁器蛙】 「ふう……てっきり……雨女との絆を諦めなければならないと思ったゲロ。」【暁日恵比寿】 「人生を運に任せるなんて、本当に愚かなことだと、磁器蛙さんは誰よりもよく分かっているはずです。約束通り、宝物のありかを教えてください。」【磁器蛙】 「ゲロ……宝物は盗人神が盗んだゲロ。郊外の流れ者の溜まり場に住んでいる彼は、盗んだお金で貧しい人々を助けるいい妖ゲロ。だが大名に雇われているあんたに、彼は会わないと思うゲロ。」【暁日恵比寿】 「ありがとうございます。会えるかどうかは、行ってみなければ分かりません。」一行は流れ者の溜まり場にやってきた。ここには居場所を失った人々が集まり、悪臭を漂わせている。あちこちに痩せて骨張り、病にかかった子供たちがいる。子供たちは壊れた屋敷に隠れながら、顔だけ出してよそ者たちを観察する。辺り一帯を見回った後、若き恵比寿たちは盗人神や宝物についての聞き込みを諦め、町に戻ることにした。大名は戻ってきた若き恵比寿を喜々として迎えた。【大名】 「どうだ?宝物は取り戻せたか?」【暁日恵比寿】 「まだ取り戻せてはいませんが、犯人は見つかりました。」【大名】 「ほう?やはり鉄鼠という妖だっただろう?」【暁日恵比寿】 「いいえ、犯人は、あなた様です。」【大名】 「なんじゃと!?」【暁日恵比寿】 「流れ者たちを捕まえて、牢獄に入れたと聞きました。」【大名】 「連中はろくに仕事もせず、よく強盗をして隊商から金品を奪う。見せしめとして数人を牢獄に入れたまでだ!」【暁日恵比寿】 「生きるのに困っていなければ、皆強盗なんかしないはずです。ご存知でしたか?消えた宝物は、昔貧しい人々が感謝を込めてあなたのご先祖様のために作ったものだと。ご先祖様がそれを家宝にしたのは、子孫代々慈悲を施し、民のために尽くしてほしいと願ったからです。なのに郊外は居場所を失った流れ者の溜まり場になっています。ご先祖様は、皆の怨念に驚いて目を覚ましたのです。ご先祖様の怒りによって宝物は消えたのです。いくら探したところで、見つからないでしょう。今後家内安全は望めないでしょう。それどころか、一族が衰退して……」それを聞いて、大名は冷や汗をかいた。【大名】 「皆を困らせるつもりはなかったのだ。今後は寛大に処すよう注意する。どうか先祖の怒りを鎮めてくれ!」【暁日恵比寿】 「できないわけではありませんが、あなた次第です。」【大名】 「良かろう。しかし……金が目的なのではないだろうな?」【暁日恵比寿】 「はは。まずは、牢獄に入れられた人々を解放してください。次に、流れ者の溜まり場にお寺を建て、皆で祈りを捧げてご先祖様の怒りを鎮めてください。それと、今回無実の罪を着せられた鉄鼠は、根に持っているかもしれません。僕が知る限り、彼も徳を積むためにお金を集めています。鉄鼠に寺を任せれば、きっと役目を全うしてくれるでしょう。」それを聞いて、大名の疑念はようやく晴れた。【大名】 「最初の二つは問題なかろう。しかし鉄鼠が言っていることが本当なのかどうか、それだけが心配だ。」【暁日恵比寿】 「でしたらやはり鉄鼠を仲間にするべきでしょう。側に置けば、鉄鼠も好き勝手しなくなるはずです。」【大名】 「分かった。では宝物は……」【暁日恵比寿】 「近いうちに返ってきますよ。」若き恵比寿は廃寺を訪れ、鉄鼠にありのままを伝えた。【鉄鼠】 「なんやて?大名がわいの指名手配を取り消した上に、寺を建てるのを手伝ってくれるやて?」【暁日恵比寿】 「その通り、これであなたの願いは叶います。ただし、あなたに騙された人々に文句を言われないように、寺院は大名の名義で建てますが、いいですか?」【鉄鼠】 「それは別に構わへんで。銭はお主にやるわ。もしわいを騙してたって分かったら、地の果てまで追いかけたるからな!」【暁日恵比寿】 「ははは、寺院は流れ者の溜まり場に建てられる予定です。進捗確認はいつでもどうぞ。(簡単にお金をくれた。鉄鼠は僕が思っていたよりも、ずっと純真なのかもしれない。)」【鉄鼠】 「(これからは大名の名の下に悪者たちをからかうことができるんやな、わはは。)」若き恵比寿は一人で流れ者の溜まり場を訪れ、目立つ場所に机をおいた。そして誰もいない、向かい側の席にもお茶を出した。さっきから鋭い視線を向けられていることに、彼は気づいていた。【暁日恵比寿】 「お金持ちから盗んだ金品を分け与えて、人々に歓迎されていると聞いた。でもそれはまずいんじゃないか?盗品を買ってくれる人がいるかどうかはさておいても、牢獄に入れられた人々や鉄鼠のような無関係の人を巻き込んでしまう可能性がある。窃盗は疑いや騒乱を招く。最終的には官僚が下々に圧力をかけ、人々は落ち着いて暮らすことができなくなる。「盗人にも仁義あり」だそうだが、それは机上の空論だろう。」若き恵比寿はお茶を呷る。【暁日恵比寿】 「現状を打破する策があるんだ。耳を貸してくれないか?」黒い影が横切り、向かい側の茶碗は忽ち空になった。茶碗はいまだに揺れている。それを見て、恵比寿は満足げに笑った。【暁日恵比寿】 「大名はもう説得した。寺院を建てれば、ここは賑やかになり、辺り一帯の商売も繁盛するはずだ。食べ物でも衣服でも、小さな屋台さえあれば、皆自力で稼げるようになる。ただ残念ながら、大名と流れ者たちの間には確執がある。そのせいで皆、寺院を建てることに反対してる。今日になってもまだ、大工たちは仕事を始められない。」若き恵比寿は、鉄鼠からもらった大きな銭袋を机の上に置いた。【暁日恵比寿】 「これはほんの気持ちだ。これがあれば、しばらくの間生計を立てることも、小さな商売を始めることもできる。働いてお金を稼ぎ、幸せに暮らすことができる。悪い話ではないはずだ。両者の関係を修復し、幸せな未来を実現するためには、大名の信頼を得なければいけない。そこで盗人神さんに協力してほしいんだ。盗人神さんが大名から借りていた宝物を、僕に代わりに返させてくれないか?」辺りが急に静まり返る。そよ風が砂を巻き上げ、若き恵比寿は目をこする。再び目を開けた時、銭袋は消えていた。代わりにそこには、探していた宝物が置かれていた。若き恵比寿は茶碗を掲げてお茶を飲み干す。【暁日恵比寿】 「ありがとう。」盗人神が仲を取り持ってくれたおかげで、人々は寺院の建設に反対しなくなり、付近で屋台を出していた。福神様が現れたと聞いた町の人々は、一斉にお参りに来た。わずか数日で、流れ者の溜まり場だった場所には、活気が溢れていた。大名は豪華な報酬を用意したが、若き恵比寿は銭貨一枚しか受け取らなかった。その銭貨と、周囲に満ち満ちている福運を泡の中に溜める。この期間、年寄りの恵比寿はお参りに来る人々に、自分の霊力を込めた御守を毎日配っていた。【暁日恵比寿】 「金魚おじいちゃん、福運は気軽に他人にあげるもんじゃないよ。」【恵比寿】 「ついついのう……いいのじゃ!皆善良な人じゃからな!」【暁日恵比寿】 「そういう意味じゃなくて。危険な目に遭ったら、どうやって身近な人を守るんだ?」【招福座敷童子】 「こら!お客さんでも、恵比寿じいさんに失礼なことを言うのは許さないよ!」【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、今回は兄ちゃんが悪いよ。早く金魚おじいちゃんに謝って!」【暁日恵比寿】 「えっ、ごめん。別に金魚おじいちゃんを責めるつもりはなかったんだ。皆やり方はそれぞれだよね、僕が悪かった。」【恵比寿】 「いやいや、恵比寿くんが言ったことは正論じゃ。」【年老いた大黒天】 「皆さん、お茶菓子を用意しましたよ。今日はたい焼きもあります!」【暁日恵比寿】 「今行く!」【村人】 「福神様!私の願いも聞いてください!福神様!長時間並んで、やっともうすぐ俺の番になったのに!」【暁日恵比寿】 「福神は他にもいるでしょ?他の福神のところに行けばいい。神にも休息は必要なんだ!ああ、急に目眩がして、倒れそうだ……今すぐお菓子を食べないと……」【村人】 「嘘つけ!!」忙しい一日を終え、若き恵比寿は人々が絵馬に託した願いを一つ一つ確認する。【恵比寿】 「ほほほ、口では嫌だと言いながらも、恵比寿くんは真面目に仕事をしておるようじゃな。」【暁日恵比寿】 「暇だから適当に見てただけだよ。金魚おじいちゃんは、皆と一緒に町に行かなかったの?」【恵比寿】 「年寄りは疲れやすいのじゃ。座敷童子がついておるから、問題ない。」恵比寿おじいちゃんの体が一瞬透けてまた元通りに戻るのを、若き恵比寿は見た気がした。【恵比寿】 「恵比寿くん、急に顔色が……どこか具合が悪いのか?」【暁日恵比寿】 「いや……何でもない……」若き恵比寿は福運の泡を呼び出し、恵比寿おじいちゃんの金魚に食べさせる。【恵比寿】 「これは?」【暁日恵比寿】 「あっちの世界に戻ったら……もう会えないかもしれない。この泡の中には僕の福運が入ってる。心配しないで、お腹を壊したりはしないから!」【恵比寿】 「恵比寿くんは……あっちの世界に戻るつもりか?」若き恵比寿が珍しく心配そうな顔をする。【暁日恵比寿】 「あっちの世界にはまだ、やらなきゃいけないことがあるから……もし僕が戻って来なかったら、大黒のこと、よろしくお願いします。」【恵比寿】 「その件、大黒天くんは知っておるのか?」【暁日恵比寿】 「いや……どう話せばいいのか、分からなくて。」【恵比寿】 「お主らはせっかく再会できたのに、また離れ離れになったら、大黒天くんは悲しむぞ!」【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん!金魚おじいちゃん!ただいま!」若き恵比寿と年老いた恵比寿が、ぴたりと話すのをやめる。【若き大黒天】 「見て見て!花火をたくさん買ったんだ!」【年老いた大黒天】 「大黒天くんは皆のために怒りの石距を慰めたんですよ。若い頃の私にそっくりでした!」【若き大黒天】 「えへへ。大人になったら、俺も大黒天おじいちゃんみたいな立派なひげを生やそうかな!」【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん、福運集めはいかがでしたか?」【暁日恵比寿】 「もう十分集まった、明日荒川に戻ろう。」【若き大黒天】 「よかった!」【招福座敷童子】 「恵比寿じいさん、私も行きたい。最近荒川の皆に会ってないし!」【恵比寿】 「ほほほ、良いぞい。」 |
【肆】静かな夜の別れストーリー
静かな夜の別れストーリー |
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静まり返った真夜中、十分な福運を集めて荒川に戻る途中で、一行はとある森で休憩していた。若き大黒天の叫びに、皆飛び起きる。【若き大黒天】 「大変だ!大黒天おじいちゃんがいない!」座敷童子が寝惚け眼をこする。【招福座敷童子】 「うう……大黒天おじいちゃんは寝ずの番を買って出たんじゃなかったっけ?お花を摘みに行ったとか?」【暁日恵比寿】 「おかしい、福運を宿した泡も消えている。」【恵比寿】 「おや?もしや何か危険なことに巻き込まれたのじゃろうか?早く助けねば!」【招福座敷童子】 「落ち着いて。人探しなら、ダルマたちが得意だよ!」座敷童子が呼び出したダルマが四方八方に消えていった。しばらくして、ダルマたちは逆の方向から戻ってきた。【招福座敷童子】 「え?どういうこと?」【若き大黒天】 「俺も行ってみる!」若き大黒天が前に向かって走り出した。すると一周回ったかのように、彼は後ろから戻ってきた。【若き大黒天】 「あれ?俺たち、ここに閉じ込められたのか! |
」若き恵比寿が周囲を念入りに調べる。【暁日恵比寿】 「何者かが結界を設置したみたいだ。ここで待ってて、ちょっと行ってくる。」【恵比寿】 「一人では危険じゃ!」【暁日恵比寿】 「大丈夫。勝手に他の場所に行かないでね、僕も遠くには行かないから。」【若き大黒天】 「分かった、きっと恵比寿兄さんも俺たちみたいにすぐここに戻ってくるよ。」若き恵比寿は森に入り、夜闇に消えていった。年老いた大黒天が、福運の泡を抱えて崖縁に立っている。月明かりを浴びるその姿は、どこか寂しそうに見える。若き恵比寿が森の中から出てきた。対面した二人は、全く驚いていないようだ。【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん、来てくれましたか。」【暁日恵比寿】 「結界を設置して、僕にだけ手がかりを残すなんて、内緒話でもしたいのか?」【年老いた大黒天】 「今日町を回っていた時、大黒天くんが言ったんです……私の体が一瞬消えた、と。私は全く気づきませんでしたが。よく考えてみれば、同じ世界に大黒天が二人もいるのはおかしいですよね?この世界の者ではない以上、無理矢理ここにい続けても、いつかは消えてしまうのでしょう。しかし、ここは恵比寿兄さんの元の世界、恵比寿兄さんは消えたりしません。つまり……恵比寿兄さんは私とは一緒に帰らない、そうでしょう?」【暁日恵比寿】 「大黒天おじいちゃん、僕は……」【年老いた大黒天】 「この世界に来てから、私のことを大黒ではなく、大黒天おじいちゃんと呼ぶようになりましたね。兄さんの記憶の中の大黒は、最初から私ではなかったんです。」年老いた大黒天は若き恵比寿の返事を待ったが、恵比寿は言い訳すらしなかった。【年老いた大黒天】 「そうですよ、恵比寿兄さんにとって、私は一日前に出会ったばかりの人でしかありません。でも、私には恵比寿兄さんとの百年間の思い出があるんです!ずっと側にいたのは私なのに……どうして私たちの世界を捨てるのですか?」【暁日恵比寿】 「あっちの世界を捨てたりはしない。大黒天くんの呪いを解いたら、君と一緒に帰る。」【年老いた大黒天】 「ははは、恵比寿兄さんはいつも皆を幸せにしようとしますね。でも……全員を幸せにできないこともあります。本当にそれでいいんですか?」【暁日恵比寿】 「ああ、僕を信じてほしい。」【年老いた大黒天】 「でしたら、もう一度皆の前でさっきの話をしてください。」結界は解除された。いつの間にか、若き大黒天たちは若き恵比寿の背後に立っていた。【若き大黒天】 「恵比寿兄さん!大黒天おじいちゃん!やっと見つけた!どうした?」【年老いた大黒天】 「私と一緒に帰るのか、こっちの世界に残るのか。選んでください。」【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん?」考えに考えた末、若き恵比寿は重々しく口を開く。【暁日恵比寿】 「僕は……あっちの世界に戻る。」【恵比寿】 「恵比寿くん……」若き大黒天は何か言おうとしたが、結局何も言えなかった。彼は拳を握りしめ、その場から逃げ出した。【暁日恵比寿】 「大黒!!」若き恵比寿が素早く追いかける。【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん、裂け目でお待ちしています。」若き恵比寿は一瞬躊躇ったが、彼は引き続き若き大黒天を追いかけた。年老いた大黒天は福運の泡を抱えて崖を飛び降り、どこかに消えた。【恵比寿】 「座敷童子よ、荒川に戻って金魚姫のお嬢ちゃんに事情を伝えておいてくれぬか。お若い二人を見つけ次第、わしもそっちに行く!」【招福座敷童子】 「分かった!」山ですぐに迷子になった若き大黒天に追いつき、若き恵比寿は息を吐く。【暁日恵比寿】 「そっちじゃないよ。」【若き大黒天】 「ほっとけ!」【暁日恵比寿】 「そんな様子の君を放っておけるわけないだろう!」【若き大黒天】 「行くと決めたなら、さっさと行けよ!恵比寿兄ちゃんがいなくても、必ず皆を見つけ出すさ!名前だってこれからは六福神にすればいいんだ!」若き恵比寿は若き大黒天の側に来たが、そのまま無視されている。【暁日恵比寿】 「本当は、西主寺で……僕も祈ったんだ。「皆とずっと一緒にいたい」って。」【若き大黒天】 「……なに?」若き大黒天は頭を掻きながら、事情を把握しようとしている。【若き大黒天】 「待って待って!それで、その願いのせいで、恵比寿兄ちゃんはもう一つの世界に送られたのか?金魚おじいちゃんも……代わりにこっちに送られてきたのか?」【暁日恵比寿】 「楽観的な考えだね。それよりも可能性が高いのは……あっちの世界は、僕の祈りの反動で誕生したって考えだ。だから、僕が戻らないと、あっちの世界は……消えてしまうかもしれない。」若き大黒天が額に汗を浮かべ、信じられないと言わんばかりに目を見張る。【若き大黒天】 「金魚おじいちゃんも大黒天おじいちゃんも……消えてしまうのか!?」【暁日恵比寿】 「そんなこと、君も起きてほしくないよね。」【若き大黒天】 「もちろんよ!でも……恵比寿兄ちゃんと離れ離れになるのも嫌だ!どうすれば……そうだ、俺もあっちの世界に行けばいいんだ!」【暁日恵比寿】 「一つの世界に同じ人が二人いることは許されない。僕も金魚おじいちゃんが一瞬消えたのを見たんだ。」【若き大黒天】 「じゃあ……大黒天おじいちゃんに聞いてみるよ。俺と役割を交換してくれるかも。」そう言いながら歩き出した若き大黒天は、若き恵比寿に止められた。【暁日恵比寿】 「俺の話を聞け!こっちの世界に戻って君と会った瞬間に、体内の瘴気が消えていくのを感じた。恐らく、「仲間に会えない」呪いはもう解けたはずだ!」【若き大黒天】 「それは、いいことじゃないのか?」【暁日恵比寿】 「バカ!あっちの世界が……完全に消えてしまうかもしれないんだぞ!」【若き大黒天】 「若き大黒天はその場で立ち尽くす。」【暁日恵比寿】 「だから君と一緒に危険を犯すことはできない。君は残って他の仲間を助けるんだ。」【若き大黒天】 「それじゃ……恵比寿兄ちゃんはあっちの世界と一緒に消えちゃうの?」【暁日恵比寿】 「消えたりしないさ。絶対とは言い切れないけど、僕はずっとあっちの世界を救う準備をしてきたから。約束する、僕は消えたりしない。」【若き大黒天】 「嘘つき!嘘をつく時、恵比寿兄ちゃんは「約束する」って言うんだ!」【暁日恵比寿】 「今度は本当だ。」若き大黒天が素早く涙を拭う。【若き大黒天】 「それなら、俺を置いて一人で行く理由がないだろ!危険な目に遭っても、俺は平気だ!一緒に行くか一緒に残るか、どっちかだ!」その時、若き恵比寿の金魚が突然げっぷをした。間もなく零時になる。相手を説得できないことは、二人とも分かっている。故に誰かが一歩譲らなければならない。【暁日恵比寿】 「分かった、一緒に連れて行くよ。」零時になった。【若き大黒天】 「あれ……ここはどこ?恵比寿兄ちゃん……俺たちどうしてここに?」若き恵比寿は一人で泡に記録された情報を読んでいる。【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、何か言ってよ!」若き恵比寿は押し黙り、事情が分からない若き大黒天をじっと見つめている。時が経ち、彼はようやくいつも通りの笑顔を作った。【暁日恵比寿】 「行こう、ゆっくり説明するよ。」穏やかな夕日に照らされ、聆海金魚姫は普段通り見回りしながら、荒川を散策している。彼女の背後の金魚姫は、お茶目に大股で歩き、聆海金魚姫が残した足跡を踏みながら進んでいる。【聆海金魚姫】 「鯉の精さんと一緒に遊びに行かなかったの?」金魚姫は力いっぱい頭を横に振る。【金魚姫】 「聆海姫さんと一緒に見回りがしたかったから。これからは……私も荒川を守りたい!」【聆海金魚姫】 「すごいね、以前の私はそんな覚悟は持ってなかった。」【金魚姫】 「以前の聆海姫さん?」【聆海金魚姫】 「うん。あの頃の私は、世界征服のことで頭がいっぱいだった。」【金魚姫】 「世界征服!?かっこいい!それで、世界征服できたの?」【聆海金魚姫】 「ふふ、そんなに簡単にできることじゃないよ。でも……あの人の旅路を辿って、色んな場所に行った。もし機会があったら、あなたも勇気を出して、広い世界に触れるといい。」【金魚姫】 「あの人とは?」【聆海金魚姫】 「荒川の英雄。」【金魚姫】 「私も彼に会える?」【聆海金魚姫】 「彼は今、ここにはいないの。もしかしたら……どこかで道に迷ったのかもしれない。皆、彼の帰りを待ってる。」【金魚姫】 「じゃあきっとその人も、頑張って帰り道を探してるね。」【聆海金魚姫】 「うん。彼が戻ってくるまで、荒川は私たちが必ず守り抜く。」【金魚姫】 「もしもう一度その英雄に会えたら、聆海姫さんは何て言うつもり?当ててあげる!私だったら、自慢できることを全部話すかな。きっと褒めてもらえるから!」聆海金魚姫は真剣に考えている。【聆海金魚姫】 「「おかえり」って言うかな。」【金魚姫】 「え?それだけ?」【聆海金魚姫】 「うん、それだけで十分。もしかしたら……びっくりしすぎて、何も言えないかもしれないけど。」そう遠くない場所から、風車に乗った座敷童子が急いでこちらに向かってくる。【招福座敷童子】 「金魚姫さん!」【聆海金魚姫】 「座敷童子?」【招福座敷童子】 「大黒天おじいちゃんを見かけなかった?」【聆海金魚姫】 「見てないけど、どうしたの?」【招福座敷童子】 「早く裂け目のほうに、移動しながら説明するから!」裂け目の前に立つ年老いた大黒天の体がまた、少しの間透けていた。前回よりも時間が長くなっているようだ。彼は福運の泡を使って、封印を解こうとしている。【聆海金魚姫】 「大黒天おじいちゃん、ちょっと待って!」【年老いた大黒天】 「聆海姫さん、裂け目の向こう側でお待ちしていますと、恵比寿兄さんに伝えてください。」泡が眩しい光を放つ。封印が解かれ、二つの世界は再び繋がった。裂け目から荒波が吹き出した。予想外のことに、年老いた大黒天は流れに巻き込まれ、気を失ってしまった。福運の泡が大黒天の手から落ち、荒波と同時に現れた海妖がそれを拾う。【海妖】 「ぐおお!!」【聆海金魚姫】 「座敷童子、福運でしばらく裂け目を封印できない?」【招福座敷童子】 「やってみる!」【聆海金魚姫】 「金魚姫、大黒天おじいちゃんの手当てを!」【金魚姫】 「分かった!」聆海金魚姫と座敷童子の協力のもと、裂け目から溢れ出る洪水が次第に収まっていく。しかし福運の泡の力を吸収した海妖は、巨大化して力を増している。海妖が裂け目のほうに向かっていく。裂け目を拡大させ、こっちの世界により多くの海妖を招き入れるつもりだ。駆けつけた荒川の妖怪たちが、戦いに加わった。【聆海金魚姫】 「荒川は皆が全力を尽くして守ってる、好き勝手に蹂躙できると思わないで!」【海坊主】 「大いなる波浪よ!」【河童】 「聞け、大河の怒りを!」【鯉の精】 「泡泡の壁!」その場に駆けつけた若き恵比寿が、海妖が福運を吸収するのを止める。一致団結した荒川の皆の攻撃を受け、海妖は撤退せざるを得なかった。洪水が引いた後、年老いた大黒天はゆっくりと目を開けた。【暁日恵比寿】 「大黒、起きたか?」【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん……」【暁日恵比寿】 「無事で何よりだ、無理しなくていいぞ。」体を起こし、災いに見舞われた荒川で修繕工事に励む皆を見て、年老いた大黒天は強い罪悪感に襲われた。【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん、もう一緒に帰れなんて無理は言いません……どうぞこっちに残ってください。裂け目を開いた時に見たんです……私たちの世界は今まさに、崩壊しようとしていました!」【暁日恵比寿】 「だからこそ、帰らなければならない。」【年老いた大黒天】 「死地だと分かっていて、なぜ向かうのです……」【暁日恵比寿】 「あそこは僕たちが百年間暮らしていた世界だ。このまま放っておくわけにはいかない。今まで大黒の気持ちに気づかなくてごめんね。時間が巻き戻る呪いが解けたら、二人で帰ろう。」【年老いた大黒天】 「だが……」【暁日恵比寿】 「大丈夫!福運は尽きていない。希望を捨てるな。」【年老いた大黒天】 「すみません……疑念や不安に突き動かされて、取り返しがつかないことをしてしまうところでした。呪いが解けるように、私も協力します!」儀式の後、二人の少年は肩を並べて荒川を見つめている。その側では仲間たちが息を殺して結果を待っている。零時を過ぎた途端、若き大黒天が最初に振り返った。【若き大黒天】 「こっちは金魚おじいちゃん……こっちは大黒天おじいちゃん……こっちは座敷童子……こっちは金魚姫さん……忘れてない!忘れてないぞ!」【年老いた大黒天】 「呪いは解けました!」【恵比寿】 「ほほほ!」皆が一斉に歓声を上げた。若き恵比寿の側に戻った若き大黒天は、急に泣きそうになった。【若き大黒天】 「恵比寿兄さん……」【暁日恵比寿】 「僕たちの時間が、また動き出した。」【若き大黒天】 「うん!一緒に大人になろう!」百年止まっていた命は、時間と共に再び動き出した。新しい出会いが彼らを待っている。そして、別れも。 |
【伍】寿福導く未来ストーリー
寿福導く未来ストーリー |
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花火はあっという間に終わった。光に溢れていた荒川が、再び静まり返る。異なる世界の人々が裂け目の前に集まっている。年老いた大黒天が皆に深々と頭を下げる。【年老いた大黒天】 「軽率な行動を取って、危うく荒川に災いをもたらすところでした。本当に申し訳ありません!」【恵比寿】 「ほほほ、洪水のおかげで荒川は川底まで洗われた。綺麗になってよかったのう。今度会った時は、一緒に釣りに行こう。」【年老いた大黒天】 「金魚のお爺さん…」【聆海金魚姫】 「大黒天おじいちゃんが淹れてくれるお茶、すごく美味しかった。機会があったら、また遊びにきてね。」【年老いた大黒天】 「ありがとうございます。」金魚姫が走ってきて、聆海金魚姫に抱きつく。【金魚姫】 「金魚姫お姉さん、お疲れ様。」【聆海金魚姫】 「え?あなた、いつから……」金魚姫は恥ずかしがって、再び年老いた大黒天の側に戻っていく。【金魚姫】 「金魚姫お姉さん、私ももっと勇気が持てるようになったら、世界征服の夢を抱いてもいい?」聆海金魚姫は昔の、無邪気だった頃の自分を見ているような気がした。【聆海金魚姫】 「夢が叶ったら、私にも教えてね。」【金魚姫】 「はい!」【鯉の精】 「金魚姫、これは椒図さんと一緒に作った手拭いよ。あなたにあげる。」【金魚姫】 「わあ!綺麗!」【河童】 「僕も贈り物を用意したんだ。受け取って!」子供たちの笑い声のおかげで、別れの悲しみはいくらか薄らいだ。しかし若き恵比寿の表情を、年老いた大黒天は見逃さなかった。【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さん、本当に皆に言わないつもりですか?大黒天くんにも?」【暁日恵比寿】 「うん、大黒に知られたら、戻れなくなる……幸い呪いは解けたんだ。」【年老いた大黒天】 「そうですか……少なくとも、今回はちゃんとお別れをしたほうがいいですよ。」それ以上若き恵比寿を催促することなく、年老いた大黒天は何も言わずに金魚姫を連れて裂け目に足を踏み入れた。不確かな未来を目の前にして、足が鉛のように重い若き恵比寿は、何度も考えた末に口を開いた。【暁日恵比寿】 「大黒、元気でな!道が分からないなら、一人で知らない場所に行くなよ。」【若き大黒天】 「大丈夫だよ、恵比寿兄ちゃんについていけば問題ない。」【暁日恵比寿】 「真面目に聞け!僕だっていつも側にいるとは限らない!」【若き大黒天】 「なんで怒ってるんだ……忘れ物を取りに行くだけって言ったよね?別に戻ってこないわけじゃないんでしょ。」若き恵比寿は、言いかけた言葉を言うのをやめた。彼は分かっている。一度決めた以上、ちゃんと最後まで貫くべきだ。しかし、覚悟を決めていたのは、彼一人ではなかった。【恵比寿】 「大黒、すまんの、ちょいと我慢するのじゃ。」【若き大黒天】 「なんだと?」年老いた恵比寿が突然神力を使って若き大黒天を攻撃する。不意打ちを食らった若き大黒天が、驚きを隠せない顔で底が見えない荒川に落ちる。若き恵比寿が若き大黒天を岸に連れ戻した時、年老いた恵比寿はもう裂け目の中に消えそうになっていた。近寄ってくる荒川の皆を、年老いた恵比寿が大声で怒鳴る。【恵比寿】 「来ちゃいかん!」【招福座敷童子】 「恵比寿じいさん?」【暁日恵比寿】 「早く戻れ!あっちの世界は……」【恵比寿】 「知っておる!あの夜のお前と大黒の喧嘩を、わしは全部聞いておったんじゃ……こっちの世界には、大切な人がたくさんおる。じゃが……そろそろ本当の主に返さねばならん。」【聆海金魚姫】 「金魚ジジイ!」裂け目は完全に塞がり、二つの世界を繋いでいた痕跡は跡形もなく消えた。年老いた恵比寿が残した福運の泡が、ゆっくりと二人の目の前に飛んでくる。【恵比寿】 「ほほほ、大黒、若きわしよ、急な別れになってしまいすまぬのう。落ち葉は根に帰るという言葉の通り、年をとると、故郷に帰ってみたくなるものなんじゃ。これはわしが決めた道だから、お前たちが自分を責める必要はない。これも何かの縁というもの、二人一緒に立派な大人になってくれることを願っているよ。」泡が座敷童子の手の中に落ちる。【恵比寿】 「そして座敷童子よ、お前にはかつて幸運とは責任であると教えてやったことがあるじゃろう。だがわしはな、お前の答えが最も気に入っているぞ。一番の幸せは、家族と一緒にいられること、と。お前も立派な福の神じゃ、これからは胸を張って頑張るんじゃぞ!」泡が聆海金魚姫の手の中に落ちる。【恵比寿】 「それから、金魚姫のお嬢ちゃんにも礼を言いたい。荒川が危機に陥った時、お前が勇敢に立ち向かってくれたおかげで、落ち込んでいたわしらはたくさんの勇気をもらった。あの時のお嬢ちゃんの背中を見ていると、わしもこれで諦めちゃいけないと思った。本当によく頑張った。荒川の英雄はきっといつか帰ってくると、わしは信じているぞ!あと、これからは寒い季節に川のほとりで考え事をするのはやめるように。もし風邪でも引くようなことがあったら、わしは心配じゃからな……あと、河童くん、鯉の精のお嬢ちゃん、椒図のお嬢ちゃん……荒川の皆……わしを心配することはない……わしはただ遠くへ旅立っただけじゃ。わしが荒川で立てた鯉のぼりがはためく限り……わしはいつか突然そこに姿を現すぞ!いくら遠く離れていても、わしは皆のおじいちゃんであることに変わりはない。これからもずっと、皆のことを見守っているぞ。それじゃ、またいつか会おう、ほほほ。泡は消えた。呪いの原因と、入れ替わった運命。若き恵比寿は、全ての真相を皆に話した。【若き大黒天】 「あっちの世界は崩壊しているのか?ってことは、あっちに戻った皆は……」【鯉の精】 「い、嫌だ!金魚おじいちゃん、死なないで!大黒天おじいちゃんにも、あっちの世界の金魚姫にも生きていてほしい……」【聆海金魚姫】 「もう一度裂け目を開く方法はないの?どんなに難しくても、私たちは諦めないよ!」【暁日恵比寿】 「間に合わないわ。」【聆海金魚姫】 「本当に何もできないの!?」【暁日恵比寿】 「あっちの世界は、呪いのせいで崩壊している。全てを止められるとしたら、それは福運にしかできない!」若き恵比寿は神力を集中させ、遥か彼方に呼びかける。【暁日恵比寿】 「どうなるかはまだ分からないけど、希望を残しておいたんだ!」もう一つの世界で、荒川の皆は周辺の村の人々を救出していた。しかし努力も虚しく、世界は洪水と瘴気に呑み込まれていく。年老いた恵比寿の金魚が突然げっぷをして、福運の泡を一つ吐き出した。【年老いた大黒天】 「恵比寿兄さんの福運の泡?どうしてここに?」【恵比寿】 「うーん……思い出した、この前恵比寿くんがわしの金魚に食べさせたんじゃ!」泡が眩しい光を放ちながら遠くに飛んでいく。【恵比寿】 「ついていくぞい!」福運は無事に彼方に届いただろうか?皆が結果を待ちわびている。若き恵比寿の表情が晴れ、笑みが浮かんだ。荒川では、鯉のぼりがはためいている。」崩壊が止まり、福運に満ちた世界は晴れ渡っていた。せっかくの良い天気に、年老いた恵比寿と大黒天はしばらく神社を出て、小さな冒険をすることにした。【恵比寿】 「この世界の皆はどんな様子じゃろうか?早く会ってみたいものじゃのう!座敷童子が夢を追うのはいつからでも遅くないと言っておった。わしらもこの世界で七福神を結成しよう!」【年老いた大黒天】 「えっと…」【恵比寿】 「どうした?」【年老いた大黒天】 「正直驚きましたよ。金魚おじいちゃんはきっと落ち込むだろうと思っていましたから。」【恵比寿】 「ほほほ、遠い場所にいる皆のことは恋しいがのう。いつか必ず、あっちの世界に戻る方法を見つけてやるぞい。「一期一会」とはよく言ったものじゃ。こっちの世界に来た以上、新しい出会いも大切にしなくてはのう。命は別れや喪失を繰り返すもの。今一緒にいるこの時間を大切にするのじゃ!行くぞ、大黒。荒川の皆に挨拶をしたら、次は釣りじゃ。」【年老いた大黒天】 「今、大黒と……?」【恵比寿】 「そうじゃ、わしのほうが年上じゃからな。この世界の大黒天は一人だけじゃ。大黒天おじいちゃんと呼ぶ必要もないじゃろう。」【年老いた大黒天】 「ははは、そうですね……ではよろしくお願いします、恵比寿兄さん。」【恵比寿】 「ほほほ!」【年老いた大黒天】 「兄さん……あっちの世界にいる彼らにも、また会えるでしょうか?」【恵比寿】 「きっとまた会えるじゃろう、福運が消えない限りな!」若き恵比寿と若き大黒天は荒川の皆に別れを告げ、新しい旅に出た。しばらくして、ダルマたちが座敷童子の荷物を運んできて、荒川はまた賑やかになった。【招福座敷童子】 「気をつけて、こっちは皆への贈り物だから、壊さないでね!」【聆海金魚姫】 「座敷童子、どういうこと?」【招福座敷童子】 「金魚姫さん!ごめん、前もって言うのを忘れてた……あはは。」座敷童子はバツが悪そうに舌を出す。【招福座敷童子】 「恵比寿じいさんが荒川のことをたくさん教えてくれたんだ。私、家族みたいに仲がいいのが大好きなの!唐突過ぎるかもしれないけど、あの……しばらくここに住んでもいい?」【聆海金魚姫】 「一緒に荒川を守ってくれてありがとう。これからは、ここを自分の家だと思ってね。」【招福座敷童子】 「やった!じゃあ、あの!他の友達も誘っていい?」【聆海金魚姫】 「うん、鯉の精さんも河童さんもきっと喜ぶよ。」山を越えた二人の少年が後ろを振り返る。荒川の景色はとっくに見えなくなっていた。【若き大黒天】 「恵比寿兄ちゃん、これからどこに行く?西主寺に戻って禍津神をやっつけるか、それとも先に仲間たちを探す?」【暁日恵比寿】 「どうしようかな……人々を引き付ける「和の福」を司るのは大黒だから、君が決めたほうがいいかもしれないよ。」【若き大黒天】 「えへへ、俺ってそんなにすごいのか?」【暁日恵比寿】 「そういえば、金魚姫から聞いたよ。僕を見つけ出すために、大黒が術を発動するのに協力したって。でも術は失敗に終わるはずだった。その時、術に謎の福運が紛れ込んだおかげで、君の呼びかけは僕に届いたんだ。」【若き大黒天】 「謎の福運?」【暁日恵比寿】 「うん、覚えてないのか?それもそうだな、あの日の記憶も巻き戻されたはずだ。もしかしたら……七福神の仲間が密かに助けてくれたのかもしれない。」【若き大黒天】 「恵比寿兄さん……あっちの世界にいる皆にも、また会えるかな?」【暁日恵比寿】 「きっとまた会えるじゃろう、福運が消えない限りな!」【???】 「ふう、良かった。でも呪いを解くのに百年もかかるなんて。本当にもどかしかった!恵比寿、大黒天……お願い……早く見つけて……」 |
全章節視聴報酬
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