【陰陽師】海国「山海の戦篇」ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の海国「山海の戦篇」のストーリー(シナリオ)をまとめて紹介。大江山の戦や鬼王酒呑童子の追憶絵巻や、イベントのストーリーも記載しているので参考にどうぞ。
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大江山の戦
庭院
【晴明】 「近頃都には、異常な気配が漂っている。海国の大軍は神出鬼没で、陸地のあちこちで暴れている。大軍は幾つかの小隊に分かれて上陸し、肝心な目標を隠そうとしている。だが、大嶽丸の計画はいっそう明晰になっている。その計画が達成される前に、彼を阻止せねばならない。」【小白】 「セイメイ様、「日輪の城」で見つかった鏡と、玉藻前様が残してくれたもう一つの鏡は…こういう時に役立ってくれるのでしょうか?」【晴明】 「ああ、その鏡こそが、大嶽丸を阻止できる重要な道具となるだろう。ただ、この神器を使うには、十分な力でそれを目覚めさせなければならない。」【小白】 「目覚めさせる、ですか?」【晴明】 「この神器の名は「雲外鏡」といい、物を造る器だ。それに必要な力は……少なくとも海国の大軍に劣らぬほどの力だ。われわれに残された時間もう少ない。」【小白】 「セイメイ様はどうやってその力を集めるのですか?」【晴明】 「仲間たちの協力が必要だ。大嶽丸が来るまでに、必ず機会は訪れる。この前、私は都を留守にしていたが、あらかじめ都の状況を見張るように式神たちに命じた。そろそろ、皆が戻ってくるところだ。」【白狼】 「晴明様!」【晴明】 「白狼、戻ってきたな。」【白狼】 「お久しぶりです、晴明様。晴明様がいない間、色んなことがありました。やはり全ては晴明様の予想通りです。話せば長くなります。ですが私が急いでここに来たのは、もっと重要なことを伝えなくてはならないからです。少し前、私が黒夜山で見張っていた時、源家の大軍が「黄泉の塔」の砦を守備していることに気づきました。彼らは一部の兵力を大江山の東北部に派遣していました。」【小白】 「え?!こんな時に、源家はまた大江山を鎮圧するんですか?」【晴明】 「大江山の東北部か。そこは玉藻前の逢魔の原だ……小白、白狼、今すぐ「黄泉の塔」の砦に向かおう。間もなく大きな災いが起きるだろう。おそらく荒川、七角山、逢魔の原などの地に起こされた災いと同じものではない。早く酒呑童子に伝えなくてはならない。ついでに神器にいくらか力を集めることができるかもしれない。」【白狼】 「急ぎましょう、晴明様。」 |
地図上
【白狼】 「晴明様、ここが「黄泉の塔」の砦です。」【小白】 「はあ……はあ、ようやく、ようやく間に合いましたね!前方の数万人の軍隊は、まさか全部源氏の武士なのでしょうか?」【晴明】 「「黄泉の塔」の砦は、源氏が大江山前線で建てた拠点だという。——兵器の製造と保管に使われる。私の推測が間違っていなければ、ごく一部の武士を除いて、その軍隊のほとんどは源氏の妖怪兵器で構成されている。」【小白】 「妖怪兵器の数量がこんなにも増えているとは……一体なにを企んでいるんでしょうか?」【晴明】 「妖怪兵器は、かつて源頼光がヤマタノオロチの制御に反抗するために作った力だ。どうやら今は源氏の戦力となったようだな。」【源氏武士】 「晴明様、ご無沙汰しております。まさか、あなた様も今日ここにいらっしゃるとは。」【晴明】 「源氏の家主に用事があるんだ。」【源氏武士】 「私についてきてください。」 |
黄泉の塔
【源氏陰陽師】 「頼光様、源氏の前軍は海国の前哨隊を粛清しています。昨日、偵察兵が情報を持ち帰ってきた。海国の主力軍は近日中に鬼原の北側から大江山前線に上陸します。「鬼兵部」は既に支度を整えて出発を待っています。後詰軍も昨夜集まりました。」【源頼光】 「伝令せよ!大江山から京都への要所をすべて封鎖し、海国には一歩たりとも踏み込ませるな。「鬼兵部」、配列せよ!」【鬼兵部】 「はっ。」巨大な夕陽がまるで烈火のごとく、遠くまで輝く光芒を映しだしている。千人以上の妖怪兵器が黄泉の塔の砦からついている。妖兵の鎧は高く輝く太陽の光を反射し、隊列が1本の映日長剣のように威風堂々と前へ進み、大江山の奥地にまっすぐへと向かっている。大勢の軍隊がふもとに近づいてくる。源頼光は最前列の軍馬に乗り、手の中の太刀を高く掲げている【源頼光】 「今は本当なら日が暮れている頃だが、空の色は海のように深い。どうやら海寇がもうすぐやって来るようだ。」【源氏陰陽師】 「海妖が大陸でも、こんなに素早いとは。」【源頼光】 「あいつらの中には潮汐を操れる術士がいる。この海寇どもは急いで大江山を攻落しようとしている。」【源氏陰陽師】 「大陸の視線を妨害するために、海国はいくつかの小隊を送り出しましたが。主力軍団大嶽丸の上陸点によると、最初の荒川から、七角山、黒夜山——そして、玉藻前の領地の逢魔の原や、今回の大江山。ーー行軍の道順はちょうど都の周りの五つの点を回って、五芒星の陣形に並んでいます。」【源頼光】 「その通り、陣形の中心に都がある。あの海寇は都を目標として何かの計画を実行している。この前、藤原、賀茂家と相談し、あらゆる陥落の地を捜査した。しかし、大嶽丸の計画に関する手がかりはなかなか見つからなかった。たった一つわかったことは、あの地はどこも虐殺され、焼き尽くされ、人々は塗炭の苦しみに陥った。このような無意味で勝手気ままな殺戮は、普通の戦略によるものではない。」【源氏陰陽師】 「もしかして……」【源頼光】 「海国が血祭りを行っているのか。」【源氏陰陽師】 「妖怪が妖怪の血で!?」【源頼光】 「鬼族の間の殺し合いは人間にとって、実際は良いことだが。都の存亡が脅かされるなら、我々源氏は必ずや先頭に立ち戦って、海寇を消してやる。」【晴明】 「源頼光、都を守るなら、大江山と手を組んで、海国の進攻を撃退しよう。私の推測も同じだ。今度、大嶽丸の目標は大江山のどこかだと思う。私たちにはこの最後の機会が必要だ。そして、彼が仕掛けた法陣を見つける。」【源頼光】 「やはり、お前も海寇血祭は陣術のために行ったものだと疑っていたのか。私と「大陰陽師」晴明の考えは大体同じだ。」【晴明】 「この前、私は昔の書籍を調べて、やっと陣術に関するごくわずかな手がかりを見つけ出した。大嶽丸が血祭を執行した法陣については、なぜまったく手がかりが見つからないのだろう。」【源頼光】 「もしかして、奴の「八尺瓊勾玉」に関わりが?」【晴明】 「昔の書籍の記録によると、各神器はそれぞれ一つの世界の法則を把握しているらしい。もしかすると、この力こそが法陣を隠してしまったのかもしれない。」【源頼光】 「これは海寇の切り札だ。肝心なときでなければ、決して使わないだろう。」【晴明】 「血祭陣術のために、彼は必ずその力を使う。」【源頼光】 「どうやら持久戦の準備ができたようだな、晴明。」【晴明】 「源頼光、お前がここに兵士を配置したのは、海国をせき止めたいだけなのか?」【源頼光】 「大江山が最後の陣点である以上、海寇の主力軍は必ず全員出動するだろう。大江山の有利な地形で包囲討伐し、粛慎しようと思っている。」【源氏武士】 「源頼光様、海国の前哨隊が黄泉の塔の砦までやって来ています!」【源頼光】 「先陣部隊を増やし、やつらをここで倒し、絶対にこの京畿防衛線を守り抜け!」【源氏武士】 「はっ!」【晴明】 「海妖がもうすぐ来る。私は先に妖怪と人間を疎開させるが、その後すぐに作戦に加わる。」【源頼光】 「「大陰陽師」の協力が得られるとは、源氏は幸運だ。合戦前の準備はしっかり行ってくれ、晴明。源氏の蔵兵閣をしばらく貸してやる。」──大江山一方 |
【茨木童子】 「ふもとでびっしりと並んでいるものは、人間の軍隊か?待て……あの旗には源氏の家紋がある。鈴鹿山の海賊だけでも散々振り回されたんだぞ。まさかこの人間どもも一緒に来たとはな!まさかこの虫けらどもはこの機に乗じて大江山を攻め落とそうとしているのか?」【酒呑童子】 「何吠えてるんだ、茨木童子?お?源氏の旗か。朝っぱらからふもとに兵を仕掛けていたが、入ってくる気配がまったくないようだ。一体何を企んでいる?」【茨木童子】 「数ヶ月前、俺たちは鬼切と共に「黄泉の塔」拠点を攻めたから、きっと忌々しい源氏はまだ根に持ってるに違いない。わが友よ、私は今すぐ山を下りてあの虫けらどもを握りつぶして来る!」【酒呑童子】 「待て、茨木童子。ここ数日間、海妖が絶え間なくふもとの鬼原で騒ぎを引き起こしている。今日は風に漂う海の匂いが非常に濃いが、きっとあの鈴鹿山の鬼船が来るに違いない。今戦いを始めると、海妖を有利な立ち位置に立たせることになってしまうかもしれない。源頼光のやつが一体何を企んでいるのか、見てみるほうがいいと思うぜ。大江山の地形は有利だから、あらかじめ百鬼たちに戦闘準備をさせておこう。」【茨木童子】 「さすが親友だ、冷静沈着!言っていることはもっともだ。今すぐ百鬼たちに知らせに行く。そういえば、鬼切をずいぶん長い間見ていないな。」【酒呑童子】 「この前会ったとき、あいつの身体には憎しみと壊滅の雰囲気が漂っていて、状況はあまりよくなさそうだった。あいつは頭が固すぎるんだ。この戦いに巻き込まれないのもそれはそれでいいだろう。」 |
源氏藏兵閣
【源頼光】 「「大陰陽師」の協力を得られるとは、源氏は感激極まりない。合戦前の準備はしっかり行うのだ。軍備とえば、もっとも重要なのは兵器だ。どの兵器が一番強いと?兵器は種類が多く、強弱で分けることはできない。自分に合うかどうかだけだ。侍として、私に最も合うのは刀だな。武士道は死を求めるもの。戦場では、命を刀に託す覚悟を持たなければならない。刀と合一すれば、心は恐れを感じぬ。志を決めれば、勝敗にこだわらず、生死を顧みず、過去を振り返らぬ。この心は千万の刀よりも強い。あなたにはその覚悟はあるか?」 |
修羅戦場
【源頼光】 「もっとも鋭い刃は、百鬼を斬ってこそ磨き上げられるもの。生を欲するものは必ず死して、死を欲するものは必ず生きる。命を惜しんで死を嫌うものは、武士ではない。ここで武者の修行をせよ。あなたはますます強くなるだろう。」 |
鬼原戦場
【源氏陰陽師】 「」地平線の果てに、ぼんやりと漂う紺碧の色はまるで海の息吹だ。あらゆる所に満ちあふれる妖気がはげしい勢いで通り過ぎ、黒い波へと変わった。荒波の上に、数本のむき出した牙模様の鬼船の帆柱がのぞいている。波をかき分けて出ると、潮音がどこまでも広がっていく。大嶽丸と海鳴は荒波の頂上にある船の頭に佇み、数万人の海妖が海にのぼる妖気の上に立ち、雷のような太鼓の音が響き渡る。【大嶽丸】 「やっと着いたな、最後の血祭の地。ふるさとに戻るまであと少しだ。俺はこの手で大江山の鬼王を倒す。」【海鳴】 「……若様、大江山の地形は守りやすく、攻めにくいものです。ましてや都の源氏が協戦していますから、恐らくさらに強引に攻めることは困難でしょう。わしがこの前たてた計画で今回の血祭を実行してください。」【大嶽丸】 「……しかし、あの計画を使うなら、くれぐれも慎重に。俺はより多くの戦力をあの時のために残しておきます。この戦いでは、俺が先生を補佐します!」【海鳴】 「若様、鈴鹿山の伝説を完成するために、英気を養って気力を蓄えてください。実際に鬼王を打ち負かすのは彼ら自身になります。」【小白】 「うわ!あ……あれは!海妖が水の流れに乗って素早く大江山渓谷に攻め込んでいます。」【晴明】 「潮汐の術で大軍を波に乗せることができるから、大陸でもそのような高速なスピードが出せるわけだね。」【源氏武士】 「源頼光様、海国の主力軍が既に鬼原戦場のあらゆる場所に上陸しました!」【源頼光】 「ちょうど良い。海寇の身体を使って、新しく鍛えた妖兵の刃を立てよう。「鬼兵部」、鋒矢陣形に並んで、突撃の準備だ!」【鬼兵部】 「はっ。」源頼光が抜刀すると、後ろの妖兵も全員抜刀した。刃を鬼船の方法に指し、殺し合いの声と刀が鳴る音が空まで響き渡った。鬼兵部が矢印の形に並び、難攻不落の強い身体で海寇を渓谷の中で包囲討伐した。神機兵が一斉に数万本の矢を放ち、海妖を射殺する。海国の鬼船は前後から敵に攻撃されているようだ。前方には大江山の鉄の壁があり、後方には「鬼兵部」の鋼の壁がある。源氏の妖兵たちは次々と刀を鞘から抜く。弓から放たれる鋭い矢の軍が鬼船に向かって駆けて行く。【源頼光】 「海寇の妖血でこの大江山の谷を満たすとしよう。」【晴明】 「小白、白狼、共に戦いに参加し、平原にいる小妖たちの疎開を優先しろ。」【小白】 「セイメイ様、小白が皆様をお守りします!」【白狼】 「はい、晴明様!」【晴明】 「行くぞ!」──大江山一方【茨木童子】 「鈴鹿山め、やはり来たな。幸い友の話を聞いて、百鬼たちの応戦の準備をしておいた。この鬼王酒吞童子の大江山を挑発しようとする海賊には、十分な対価を支払ってもらおう!」【酒呑童子】 「ちっ、鬼船が来た途端に、海風の匂いが生臭くなったぜ。俺様の酒すら嫌な臭いになった。どうやら、源氏は大江山を敵を誘うための餌にしたな。大嶽丸が攻めて来ると同時に包囲討伐しようと企んだ。地形の利点を利用して海妖を撃破したいのか?」【茨木童子】 「友よ、くれぐれも油断するな。人間の間には「カマキリがセミを捕らえ、ヒワがその後ろにいる」ということわざがある。鈴鹿山の海賊であれ、源氏の人間であれ、いずれも悪だくみを抱えているやつらだ。」【酒呑童子】 「そういえば、荒川と黒夜山は一体どうなったんだ。」【茨木童子】 「……荒川と黒夜山だけではなく、私は山のふもとでも、逢魔ヶ原と七角山から逃げて来た妖怪に会ったことがある。鈴鹿山は大量の兵力を持ってきただけではなく、彼らの中には人間のように狡猾な謀士もいるらしい。大嶽丸を長とし、鬼船を操り都の周りで乱暴残虐な行為をする。」【酒呑童子】 「海国の妖怪は一体、何を企んでいる。この都の妖怪を全て敵に回したいのか?」【茨木童子】 「今の鬼族はもともと首領がいないから、まったく団結していない。緩くなった途端に、他の種族にいじめられるか、虐殺されてしまう。一人の強者に導かれる必要がある。それはーー」【酒呑童子】 「うん?あれは?」【茨木童子】 「な、なに?」【鬼切】 「鬼船が山頂に着いたぞ。お前らは、なぜまだ無防備なんだ!」【酒呑童子】 「鬼切!」【茨木童子】 「お前、なぜ来た。」【酒呑童子】 「誰が無防備かはっきり言え。何も言わずに勝手に何か月も行方不明になったやつに言われたくないぜ!」【鬼切】 「「黄泉の塔」の戦いが終わった後、俺はずっと源頼光の行方を調査していた。ついこの間、あいつの行方をはっきりわかった。まさかあいつの後を追って、手を出さないうちに……一緒に大江山に来てしまうとは。そして、ここが海国の鬼船に包囲攻撃されているのを見かけた。鬼原にはたくさんの海妖がいるが、平原の乱闘に加えて、俺が地形に詳しくなければ、ここまで潜行することはなかなかできなかっただろう。」【茨木童子】 「つまりお前は、私たちを助けに来たのか?」【鬼切】 「かつて、お前らから借りたものを返しにきただけだ。」【酒呑童子】 「お前は俺たちにどんな借りがある?」【鬼切】 「……ふん。まあいい。無駄にできる時間はほとんど残っていない。」【茨木童子】 「鈴鹿山は本当に自分勝手だ。友よ、大江山の実力を見せてやろう!」【酒呑童子】 「大嶽丸が何を企んでいるのかはわかんねぇが、こんなにも堂々と船を山頂に漕ぎつけるなんて、実に大胆だな。鬼の衆、俺様と共に出撃だ。」【茨木童子】 「友よ、今すぐ共に敵を倒しに行こう!」【鬼切】 「あの二人は本当に元気だな。一瞬で逃げられた。ゲホ、ゲホゲホ……俺の体はまだ耐えられるはずだ。償っていない罪、果たしていない復讐、すべてを返すまで、俺は絶対に倒れない。」 |
鬼原前線
【茨木童子】 「いくら殺しても、海妖は絶え間なく現れてくる。おのれ、鈴鹿山は一体どれだけの兵力を連れてきたのだ!」【酒呑童子】 「焦りすぎだ、茨木童子。鈴鹿山の兵士一人ずつの力はさほど強くない、しかし多くの海妖が集結すれば厄介だ。これはきっと持久戦になる。力を温存し、心を乱すな。」【茨木童子】 「友よ、お前さえそばに居てくれれば、私の力は無限大だ!」【酒呑童子】 「ふ、ならば今日は誰がより多く殺せるか、勝負しようじゃないか。」【茨木童子】 「友と勝負できるのは勿論光栄だ、しかし鈴鹿山以外に、源氏もこちらを狙っているのが心配だ。」【酒呑童子】 「源氏が鈴鹿山を包囲している、なら今のうちに海国軍団を奴らの陣形に追いやろう。先に血で染まった道を切り開こう。源氏は大江山を利用している、俺達もそれを借りて反撃しよう。」【茨木童子】 「流石だ友よ、冷静沈着で、その実力は群を抜いている。私の剛拳で鬼王に道を切り開いてやろう!」茨木童子はまるで煉獄の悪鬼の如く、海国の大軍へ突撃する。彼の体を纏う鬼気は激しく、戦意はまるで鋭い刀のように、その手を力強く地面に叩き込む。巨大な地獄の鬼手が地面を貫き大勢の海妖を粉砕し、膨大な鬼気は一瞬で鬼船をひっくり返した。鬼船と海妖は「鬼兵部」の陣形の中に落ち、妖兵の鋭い剣により即座に貫かれた。【茨木童子】 「憎き鈴鹿山め、こうして源氏と共に滅してやろう!」──源氏側【源氏武士】 「源頼光様、海国の主力軍団は来た方向に撤退をはじめました、鬼原の北側です!」【源頼光】 「ふ、大江山は手伝わないと思っていたが。そういうことであれば、私達も谷へ向かい共に海寇を挟み込もう。」【源氏武士】 「はっ!」──海国側【大嶽丸】 「なに?大江大と源氏が共に鬼船を包囲していて、形勢はあまり良くないだと。このままだと、先生の計画を実行できなくなる。源氏妖兵部隊が東の京畿防衛線を塞いだし、西に面する大江山の林地の地形は複雑だが、どうやら妖怪の防衛はほとんどないようだ。久次良、君は一小隊を引き連れて西の林地に迂回し、なんとか先生を山まで護送してくれ。林地の中は仕掛けだらけである可能性が高いが、七人岬に鬼船を動かさせ、谷の中部で援護を行え。」【久次良】 「はっ、若様!」【大嶽丸】 「私が大江山と源氏の全攻撃を防ぐ!」──源氏側【源氏武士】 「源頼光様、海国の主力軍団は来た方向に撤退をはじめました、鬼原の北側です!」【源頼光】 「これで撤退か?」【晴明】 「我らが同時に包囲したからとは言え、海国らしくない。」【源頼光】 「私達の追撃を誘っているのか?撤退した主将は誰だ?」【源氏武士】 「大嶽丸です。」【源頼光】 「虎堂に入らずんば虎子を獲ず、たとえ罠だとしても、海国の主を討ち取るべきだ。「鬼兵部」は進攻に長けている、私が主力である大嶽丸を引きつけよう。奴を生け捕りにすれば、血祭の陣を見つけることができる。」【晴明】 「大嶽丸と彼の「八尺瓊勾玉」が私達の目標だ。しかし海国は応戦が得意で、必ず奥の手を残す、誰かが伏兵の痕跡を調査する必要がある。」【白狼】 「晴明様、私は高地に忍び込んで海国の伏兵の偵察を行い、時が熟せば奴らを射殺できます。」【晴明】 「では頼むぞ、白狼。」【源頼光】 「晴明、そう言えば、大嶽丸の側にいる海鳴を気にかけたことはあるか?」【晴明】 「海鳴は大嶽丸の部下だが、大嶽丸は奴をとても尊重している。今に至るまでの戦闘で、彼はまだ手を出していないようだ。」【源頼光】 「あいつからなんだか懐かしい匂いがするんだ。」【晴明】 「懐かしい……結界術か?彼は陰陽師なのか?いや……彼は結界術が得意な妖怪だ。」【源頼光】 「海鳴以外にも海国の兵士もいつもと違う。奴らの戦い方は勇猛で、意志は統一されていて、死を恐れない。しかし軍隊の士気がなく、まるで死んでいるかのようだ。」【晴明】 「以前荒川にいた時も、妖怪が人間の武士のように団結するなどと、私も海国の軍隊の状態に疑いを持っていた。待て、まさか……!」──大江山一方【酒呑童子】 「ん?大嶽丸の奴、なんで撤退を始めたんだ?」【茨木童子】 「奴め、まだどんな策略を隠している。」【鬼切】 「私が鬼原の潜伏から戻ってきたとき、大嶽丸の側に謎の術士の存在を確認した。源氏にいた時、私は陰陽術の対策について修行していた。奴の妖気は少し様子がおかしい、まるで妖怪でなく、結界師のようだ。」【酒呑童子】 「鈴鹿山に関する噂は常に鬼船と財に関することばかりだが。しかし、あの術士に関して、俺様も聞いたことはある……噂によると、鈴鹿山に海鳴と言う名の老人がいて、奴は太古の海の如く深い知恵を持ち、全てを知っていると。その者は「鈴鹿山の頭脳」と称されている。お前が見たのは恐らくそいつだろう、確かに警戒する必要がある。賊を滅するのならまずは頭からだ、大嶽丸も早く捕獲するぞ。」【茨木童子】 「友よ、待ってくれ!」【鬼切】 「あの海鳴と言う名の術士は危険だ、血の契約が疼いている、これは不穏な予兆の表れだ。本体の刀の状態が常に弱り続けている……これも海国の強力な瘴気が原因か?しかし、大したことではない、私はまだ戦える。源頼光の野郎は以前私をはめて黄泉の境地に閉じ込めたが、その結界により刀身の瘴気の毒を浄化できた。しかし、「黄泉の塔」で記した手がかりは確かなことだ。私達は必ず源頼光の計画を阻む。鬼の領域に逆転の術を使う……想像もできない……」 |
峡谷
【酒呑童子】 「大嶽丸はまだ鬼原の北側に撤退し続けている。奴は一体何をしたいんだ?このまま引き続ければ、大江山から離れることになるぞ。」【茨木童子】 「鈴鹿山はずる賢い、何処かに伏兵を配置している可能性が極めて高い。」【酒呑童子】 「例え伏兵がいても、あんな危険分子を大江山に野放しにする訳にはいかない。面倒くさい奴だ。待て、前にいるのは……!」【茨木童子】 「友よ、気を付けろ!」大嶽丸が鬼船前方まで撤退する時、多くの鬼船が突然波を起こして大江山に流れ込んできた。そして大江山の百鬼と源氏の妖兵の陣形を全て崩した。終わりの見えない津波は一瞬で大江山前の平原を呑み込み、鬼原は海原となった。【大嶽丸】 「私はこの時を待っていた。大江山も、故郷のような場所となった。これで海国は全力を発揮できる。陸地の妖怪よ、もし故郷を大事にできないのであれば、私が略奪しよう!」【茨木童子】 「ゴホッ、ゴホ……友よ、無事か!忌々しい鈴鹿山はやはり仕掛けてきた、幸いなことに私の鬼手の力で水の勢いは止めることができた。」【酒呑童子】 「俺様は無事だ。鈴鹿山の海妖は朝潮を操作し、平原を一瞬で海原に変える、どうやら嘘ではなかったようだ。しかし、百鬼は恐らく俺たちほど幸運ではないだろう。」【茨木童子】 「あの鬼船から流れ出た妖波は、どうやら普通の海水ではないようだな。海水は鬼原に流れ込み、この場を沼地に変えた。大江山の鬼も、源氏の妖兵も、皆深くはまってしまった。」【酒呑童子】 「チッ、この海水はまるで蔓のように絡まりついて動くことができない。鬼族ですら動けない、全身に甲冑をつけている人間なら尚更だ。」【茨木童子】 「大江山の妖怪が水中戦闘を苦手とするのとは裏腹に、海妖はまるで水を得た魚のようだ。まさか鈴鹿山は人間よりも狡猾だったとは!」【鬼切】 「酒呑童子、茨木童子、ようやく見つけたぞ。大嶽丸は海妖を引き連れて谷に奇襲を仕掛けた。奴らは妖怪と人間を一人ずつ水の中に引きずり込んで殺している。」【酒呑童子】 「谷付近は大江山妖怪の住処だ、急いで向かうぞ。」【茨木童子】 「もしこの絡みつく海水がなければ、とっくに鬼手の力で突撃している。」【鬼切】 「大口を叩くのは後にしろ、海妖達が包囲してくるぞ。」【海妖】 「大江山の妖怪よ、水中に入れば手も足も出ないのか?」【茨木童子】 「実に腹立たしい奴らだ!」【酒呑童子】 「俺様がこんなにも喧嘩したい気持ちになったのは久しぶりだ。酒を飲むのは、奴らを始末してからだな。そうだろう、茨木童子?」【茨木童子】 「友が酒を飲みたいのなら、私は何時でも付き合うぞ!今はこの邪魔者たちを始末しよう!」【鬼切】 「海妖に反撃しながら、同時に山の上に移動しよう。陸上なら水中よりは行動しやすい。」──源氏側【小白】 「セイメイ様!セイメイ様!セイメイ様、ご無事ですか?」【晴明】 「小白、私は無事だ。先程、鬼船が津波を起こした時、私はすでに防御結界を展開していた。ただ結界の範囲には限りがある、それに長くは持たない。一刻も早く水中の人間と妖怪を救わなければ。」【源頼光】 「妖兵は水を恐れない、海中でも自由に行動できる。「鬼兵部」を水中の移動手段として、支援しよう。」【小白】 「あれ、妖怪兵器は防水ですか?」【源氏陰陽師】 「以前海妖の戦い方を偵察した後、頼光様は妖兵の製造技術を改良しました。現在、妖兵は両用できるようになり、水中でも陸のように行動することができます。」【小白】 「そこまで全能なのですか?!」【源頼光】 「いや、彼らは意識のないただの道具だ。」【小白】 「う……先鋒って言うべきじゃないですか、それでも恐ろしいですよ。」【晴明】 「一刻も早く山峡の中部に向かおう、大嶽丸はそこで海妖と共に虐殺を行っている。これ以上好き勝手させるわけにはいかない!」 |
丹波高地
【酒呑童子】 「道中無数の海妖を殺してきたが、きりが無いな。」【茨木童子】 「この鬱陶しい海水から、何時になったら抜けられるのだ……殺戮を続けても私の怒りはおさまらない!」【鬼切】 「動きはいつもより遅いが、鬼王が地形に詳しくて助かった。もうじき谷の中部にある高地に着く。う……これは、血の契約が共鳴しているのか?この気配は……!」【酒呑童子】 「今度はどうしたんだ?ん?前にいる奴ら……あの紋章は!」【茨木童子】 「フン、源氏の人間らか。待て、よりによってあの忌々しい陰陽師——源頼光か?!」【酒呑童子】 「源氏の陰陽師だ、晴明もいる!」【鬼切】 「……」【晴明】 「酒呑童子、ようやくお前たちを見つけた。」【源頼光】 「これもなにかの縁だな。」【茨木童子】 「あの海賊どものせいで、今日の私は気分が悪い。今こいつに会ったせいで、私の怒りは頂天に達したぞ!」【小白】 「そっ、それは…… |
この雰囲気、どうして小白は大嶽丸侵入よりも恐ろしいと思うんでしょう……?!うわぁぁぁぁ!!鬼切、鬼切が源頼光に斬りかかってきました!!」【鬼切】 「この野郎……!はぁ……殺してやる!源頼光!!」【源頼光】 「久しぶりだな、鬼切。お前の剣は相変わらず苛立っていて、何もかも隠そうとしないな。」【小白】 「源頼光は容易く鬼切の攻撃を交わしました!」【鬼切】 「くそ!おのれ……」【小白】 「わぁぁぁぁぁぁぁ!後ちょっとで、小白のしっぽが斬られるところでした!うぅ!セイメイ様、助けてください!」【酒呑童子】 「鬼切、落ち着け、今は争っている時じゃねぇ。」【茨木童子】 「友よ、今手を出さずに何時出すのだ!」【酒呑童子】 「茨木童子、貴様も少し冷静になれ!」【茨木童子】 「酒呑童子、今回は何を言われようと、私は冷静さを保てんぞ!源氏の陰陽師、今日がお前らの命日となる!降臨せよ!!地獄の鬼手!!!」【源頼光】 「フッ、遅い。」【鬼切】 「この野郎、なめるな!鬼瞬影!」【源頼光】 「怒りに囚われているものなど、全身隙だらけだ。」【小白】 「うぅぅぅぅぅぅぅぅ!こんな時に、火に油を注がないでくださいよ!」【晴明】 「お前たち——全!員!やめろ!!!言霊・縛——!」【小白】 「あ!セ、セイメイ様が結界でみんなを引き離しました!うぅぅぅぅ!危なかったです!」【晴明】 「お前達が争いをやめるまで、私はこの呪術を解かない!少しは冷静になれ!」【茨木童子】 「くそ、晴明!貴様も源氏の肩を持つのか!」【鬼切】 「ゴホッ、ゴホ…晴明!」【酒呑童子】 「このヤンチャ小僧ども、いい加減やめねぇか!」晴明と酒呑童子の介入により、混戦になりかけた者たちはようやく引き離された。【小白】 「ふぅ……ふぅ、ようやく止まりましたね……さっきは本当に怖かったです!」【晴明】 「皆落ち着いたのであれば、今急ぐべきは目の前にいる海国の大軍だ。」【源頼光】 「ここで一秒でも無駄にすれば、海寇はより一層有利になる。こんな無意味な戦いは、ここで終わりだ。」【小白】 「聞いているともっともなんですが……あなたもさっきはやり返してたじゃないですか……!」【酒呑童子】 「おい、源頼光。お前と俺には拭い去れない深い恨みがあるが、大敵がいる今、お前を殺す暇などない。このまま膠着していては、誰にも勝ち目がない。」【源頼光】 「鬼王、まさか私と取引したいのか?」【酒呑童子】 「どうやら、お前も鈴鹿山と戦いに来たようだな。お前は妖兵を操るが、大江山の地脈は複雑で、山の中に多くの仕掛けがある。鬼原はすでに海水で沈んだ、海国を山上まで誘導して殺す必要がある。ここは俺の縄張りだ、地形なら一番良く知っている。同盟を組んでやり返してやろうじゃねぇか。」【小白】 「なんですって、小白の聞き間違えじゃないですよね?!大江山が源氏を同盟に誘うなんて?!」【晴明】 「感情を抑え、流れに乗じることができる、それでこそ鬼王の器だ。(恐らく酒呑童子は徐々に鬼王の意識を回復している)」【源頼光】 「フッ……流石は「前鬼王」だ。鬼兵共よ、私に従え!」【小白】 「え!源頼光も賛成するんですか!」源氏は水中の妖兵を一列に並べ船とする。人間の侍、陰陽師と大江山の妖怪は共に妖兵の上に立つ。【酒呑童子】 「大江山を布陣の餌にするだけでなく、こうもあっさりと賛成した、本当に掴み所がないやつだ。勿論、俺様はそれでもお前が大嫌いだ。」【源頼光】 「お互い様だ、私と鬼王は同じことをしているに過ぎない。」【晴明】 「(源頼光の考えが掴めない、彼が裏でどんな計画を立てているのかわからない。)しかし今、一方は都、もう一方は大江山。昔犬猿の仲だった人間と鬼族は、お互いの大切な物のため、一時的に和解する。」【源頼光】 「人間はとても微弱であるが、目標を達成するため、決して己の力の鍛錬を諦めない。全てを賭けることもいとわない。都と人間のため、私は選択をした、決して後悔はしない。」【茨木童子】 「貴様、話していることはご立派だな。だが源氏が妖兵で策を講じると、大江山は劣勢に陥る。」【晴明】 「私も完全に源氏を信じているわけではないが、都の現状は危険きわまりない。少し考えてみれば、何をするべきか分かるはずだ。」【鬼切】 「君たちが心配する必要はない。私がこいつを見張っている。私が傍にいる限り、彼が陰陽道を使用すると血の契りの感知を触発する。もし何か違和感を感じれば、私は即座に彼を始末する。」【源頼光】 「確かに悪くない考えだ。」【鬼切】 「何を笑っている?血の契りを結んだのは自業自得だ!」【小白】 「だいぶ安全に感じられるようにはなりましたが、源頼光の前でこんなことを話しても本当に大丈夫なのでしょうか……?」【晴明】 「(血の契りの力は未知数、私も注意するべきだ。)」【酒呑童子】 「よし、もう喧嘩し終えただろ。海妖が包囲してきた、ここに長居することはできないぞ。このクソ野郎ども、怒りをぶちまけたいのなら、鈴鹿山に向けろ!」【茨木童子】 「親友がそう言うのなら、私もしばらく源氏と休戦しよう。この鬱陶しい海妖どもを始末したら、決着をつける。」【鬼切】 「私とこいつの間には、まだ決着をつけていない怨念がある。」【源頼光】 「既に同盟を組んだのなら、私たちも続けて兵力を二手に分けて、海寇を山の前の高地で挟み込もう。先に囲んで後で攻撃、なるべく大嶽丸を生け捕りにする。」【酒呑童子】 「回りくどい、今この雑魚どもを、一網打尽にしよう!」 |
北山
【大嶽丸】 「先生が言う潮汐術はやはり効果抜群だ。大江山の妖怪は強いが、水中での戦闘には慣れていないから、私たちの奇襲に反抗することは難しいだろう。しかし、源氏の兵器には注意しなければならない……残念ながら大江山と源氏の意志は分裂し、すでに互いに殺し合い始めた。先生の計画さえ成功すれば、この場を攻略し最後の血祭を執行できるだろう。海族は妖浪で通信でき、山林の中にも多くの仕掛があるが、先生の知略さえも一一攻略すれば、彼の進度もかなり順調だ。あれは……?何かが高速で攻撃を仕掛けてきた!」【酒呑童子】 「本当に勝手気ままだな!」海妖たちは前方の水面で、鬼瓢箪で空に浮かび、悍ましい狂気を漂わせ、妖力で作られた攻勢が勢いよく向かってくる。大嶽丸は素早く八尺瓊勾剣を掲げ、真正面から攻撃を防いだ。【大嶽丸】 「危ない!」【酒呑童子】 「この力は……「八尺瓊の勾玉」か?貴様が海妖の首領大嶽丸だな?」【大嶽丸】 「ふん、その調子付いた赤髪、鬼王酒吞童子だろう。頭を切り落とされた伝説はみな知っている。」【茨木童子】 「何だと!」【酒呑童子】 「海国首領が全兵を動かしたにもかかわらず、頭を切り落とされた残兵すら片付けれないことは無いよな。俺様の領地で決闘する勇気はあるか!」【大嶽丸】 「なら私が鬼王の頭をもう一度切り落としてやろう!」【茨木童子】 「薄汚い海賊風情が、酒呑童子の髪一本でも触れる事ができると思うな。死にたくなければさっさと巣に戻れ!」【大嶽丸】 「何の強みもないのに、死にに来るとは。茨木童子のもう一本の腕も、私が切り落とそう。」【酒呑童子】 「かかって来い、この野郎!」【大嶽丸】 「今日が貴様の死期だ!」【源頼光】 「ふ、今日は海寇の死期だ。行くぞ、鬼切。」周りの者は風の様な影しか見えず、まるで死を告げる夜鴉の群れが通ったかのようだった。白と黒の影が海妖の群れへ攻め込むのだけが見える。次の瞬間、膨大な海妖の群れはバラバラに切り裂かれ、無数の血と肉塊が水の中へ落ちる。【鬼切】 「源頼光、お前の命令は必要ない、私は自ら動く!」【海妖】 「なにがあった……!?何故陸の妖怪たちが我らの後方へ回り込んだ?奴らは何時から水中でこんなにも早く動くことができるようになったのだ?」【大嶽丸】 「あれは……妖怪兵器!妖怪と人間が妖兵を船として水中で行軍するとは。大江山と源氏は、まさか同盟を結んだのか?」【源頼光】 「その通りだ。全てはお前が見た通り、残念ながら既に手遅れだ。」【大嶽丸】 「ふん、まさかな、犬猿の仲だった大江山と源氏が、共に敵に立ち向かうとは。鬼王が先ほどわざと挑発したのは、私をこの高地に引き込むためだったというわけか。」【酒呑童子】 「俺様たちは既に多くの雑兵を片付けた、お前の油断の代価を払うんだな。」【大嶽丸】 「私はそう簡単には怒らない。鈴鹿山の民よ、私と共に北へ撤退するぞ!」【茨木童子】 「何?!海賊の本性は変わらんな、首領としての気迫がまるでない!」【酒呑童子】 「まずい!一刻も早く大嶽丸を生け捕りにしなければ。」【源頼光】 「海寇は人間の兵法と戦略に長けている、撤退する度に何かしらの計画がある。前方に必ず罠がある。」【酒呑童子】 「奴らは準備してきている、大江山もそれに従って、先ずは包囲してやろう。」【鬼切】 「待て。大嶽丸は、傍に海鳴と久次良を連れていない。奴らは長い間現れていないようだ。」【晴明】 「確かに、あの海国の術士の気配は既に感知できなくなってきた。まさか大嶽丸が派遣した伏兵は彼らなのか?」【源頼光】 「海国軍の異常によると、「鈴鹿山の頭脳」の伝説も。海鳴の能力は相当危険だ。」【小白】 「う、危険とは一体何を指しているんですか?」【源頼光】 「最も恐ろしいのは外にいる敵ばかりではない。我々の傍、そして心の奥底にある物だ。そのことは理解しているだろう、晴明よ。」【晴明】 「戦場で千を超える敵をも打ち勝つ強者であっても、己の心に打ち勝てる保証はない。」【小白】 「……なんだか鳥肌が立ちます。」【晴明】 「私たちは今すぐ白狼と連絡を取らなければ。」──海国側【大嶽丸】 「話はここまでで良いだろう。まさか、大江山と源氏が同盟を結ぶとは。しかし、少し唆せば、あのような脆弱な友誼は崩壊するだろう。ここからは、先生次第だ。」 |
崖を追う
【茨木童子】 「大嶽丸を追撃する道中、多くの海妖を撃退してきた。」【酒呑童子】 「先ほど、俺様と源氏は共に奴らを山の高地に引き寄せた。妖浪はその様子を見て、伏兵に一網打尽を命令した。 この策略の成果は迅速だ。元々怒り狂っていた雑兵共は我ら鬼族に葬られ、鮮血は海を赤く染めた。」【晴明】 「鈴鹿山海水の妖気の影響によるものかもしれないが、白狼と連絡を取ることが困難だ。私達はすぐに海国の伏兵の痕跡を見つける必要がある。海鳴と久次良の行き先は、非常に怪しい。大嶽丸が荒川に上陸してから、海鳴は未だに手を出していない。この点が非常に怪しい。」【鬼切】 「恐らく奴こそ海国の真の切り札だ。最も肝心な時に力を使用するだろう。」【晴明】 「数回手合わせしたが、大嶽丸も血祭の陣を使用する形跡はない。海国には恐らくまだ他の計画がある。」【源頼光】 「晴明、海鳴は本当にまだ手を出していないと思うか?」【晴明】 「それはつまり……!」【源頼光】 「思考を逆転してみろ。例えば、海鳴が最初に彼の能力を使った場合。海妖の意志は統一されているにも関わらず、士気がまるでないのは彼が原因かもしれない。奴は、常にある精神上の力を使用しており、海妖の戦闘を鼓舞し制御している。海国の異常も説明できる、何故なら奴は「鈴鹿山の頭脳」だからだ。」【酒呑童子】 「つまり、海鳴の奴は鈴鹿山の海妖を制御していると?」【晴明】 「このように他人の精神を制御する手段は、とても似ている。」【源頼光】 「どうやら、我々は同じ者を思いついたようだ。」【晴明】 「……都に新しい試練をもたらすと、「彼」は以前話していた。」【鬼切】 「此処は既に大江山の最北端だ、大嶽丸が引き続き撤退すると、全軍大江山の辺境から撤退することになる。」【茨木童子】 「まさか、奴は逃げようとしているのか?」【源頼光】 「ありえない。海妖たちは自殺するように進攻した、まるで生きて鈴鹿山に戻る気がないようだ。」鬼原の上の水域は死体が千里を埋め尽くし、妖血が海原を赤く染めた。大江山前の夕日は、何時からか悪兆の赤き月を映していた。【酒呑童子】 「なんだか嫌な予感がする。……」【茨木童子】 「友よ、どうかしたか?まさか、さっきの戦闘で負傷したのか?」【酒呑童子】 「くっ、頭が突然痛くなってきた!この赤い月は俺様の記憶の中にあるあの夜と同じだ……耳からもジジジと音がする。」 |
崖→丹波山腰
【酒呑童子】 「耳鳴りか……?違う……この音は……津波だ!」【小白】 「うわああ!!!あ、あれは!!」高さ百メートルの津波が突如現れ、まるで千軍万馬かのように、大江山の山頂を埋め尽くし、空の赤い月をも覆いつくす。そして、巨大な津波の頂点に鈴鹿山の鬼船があり、その船頭に立っているのは海鳴である。【酒呑童子】 「しまった!」【茨木童子】 「これは……海鳴が召喚した津波か?!」【小白】 「うぅうあぁぁぁぁぁ!小白たちはこのまま津波に飲み込まれてしまうんですか!」【晴明】 「源頼光、一緒に結界を張って津波を防ぐぞ。」【源頼光】 「お前は東を守れ、私は西だ!」【鬼切】 「津波に流されないように、皆集まれ!」【酒呑童子】 「クソ、油断してたぜ!結界も間に合わないかもしれない……皆の者、よく聞け!俺様からの最後の命令だ—— 俺様からの最後の命令は—— 山頂の「鬼王座」に集合しろ!」 |
鬼王門
【小白】 「セイメイ様!セイメイ様!セイメイ様、起きてください!」【晴明】 「う……小白……?」【小白】 「セイメイ様、ようやく起きてくれました!うううぅ……ここもすぐに海水で埋め尽くされます、急いで山頂に向かいましょう!」【晴明】 「小白、怪我でもしたのか?」【小白】 「津波の時、セイメイ様は結界で皆を守り、霊力を使い果たしました。だから、今回は小白がセイメイ様を守る番です。」【晴明】 「ありがとう、小白。私が治療してあげよう。」【小白】 「いえ、ここは危険すぎます、大嶽丸は海妖たちを連れて山腰で捜索を開始し、溺れた人と妖怪を追撃しています……津波は過ぎましたが、海水の水位は絶えず上昇しています。小白は結界で気配を断ちました、海妖は暫く小白たちを見つけられないでしょう。でもすぐにここから離れなければ、でないと海水の水位が上がって来ます。」【晴明】 「覚えてる、津波が来た時、酒呑童子が山頂の「鬼王座」に集合するようにと言ったことを。今、天を翻し地を覆す海水が大江山を飲み込んだ。大江山の妖怪と人間の軍隊は……恐らく九死に一生だろう。」【小白】 「海国……何故思うがままに侵略を行うのでしょうか……」【白狼】 「晴明様、ようやく見つけました!」【晴明】 「白狼?」【白狼】 「本当に申し訳ありません、津波が来る前、私は山の中で海鳴を尾行していましたが、彼は大江山の全ての仕掛けを突破してしまいました。私は戻って晴明様と連絡を取りたかったのですが、周囲に突如霧が蔓延し、下山する道がどうしても見つかりませんでした。そこで私は海鳴と共に山地の高い場所まで来て、彼を射殺しようとしました。しかし……その時、彼はまるで私の行動を予想したかのように、妖浪を操作して私を襲い、私は気を失ってしまいました……私が目覚めた時、すでに手遅れになっていました……」【晴明】 「これはお前の問題ではない、白狼。私たちも海国がこのような手段で大江山を攻撃するとは、予想できなかった。」【小白】 「セイメイ様、「鬼王座」は恐らく大江山で最も安全な場所でしょう。今すぐ向かいましょう!」【晴明】 「いや。私たちは大嶽丸を探さなければ。」【小白】 「ええ!しかし……セイメイ様はまだ回復していないじゃないですか。」【晴明】 「あの妖怪や武士たちを無駄死にさせるわけにはいかない。私は大嶽丸を追う、今この時こそ、彼が血祭を行う絶好の時期だ。私は何が何でも最後の法陣を見なければ、それでこそ「雲外鏡」が役に立つ。これは私たちの最後の機会でもある。」──源氏側【鬼切】 「ゴホッ、ゴホ…...う……こ、ここは……?」【源頼光】 「起きたか。」【鬼切】 「源……頼光!」【源頼光】 「鈴鹿山は陽動で撤退を行い、海鳴は津波を召喚し大江山を水没させた。水没後、私たちは晴明と酒呑童子一行とはぐれた。思い出したか?」【鬼切】 「……私たちは今どこに?」【源頼光】 「大江山の中腹辺りだ。」【鬼切】 「大江山、まさか既に海に沈められたのか……ぐう、おのれ……!脚力が無い鬼兵は恐らく皆海に巻き込まれただろう、無事だといいのだが。」【源頼光】 「こんな時も妖怪の心配か?先に自分の心配をするんだな。契約が破られ、本体の刀の加護が無いままだと、鬼族の瘴気はだんだん命を侵食するだろう。しかし、黄泉の結界はこの瘴気を浄化できる。」【鬼切】 「また私を利用する気か……!私を霊刀に変え、同族を虐殺させるつもりか!この十年間の、全てが偽りだ!」【源頼光】 「お前が認めたのは私の理想と正義だ。源氏のために戦えるのは、お前の栄誉だ。お前は私の最も大切で、最も誇らしい刀だ。これは偽りではない。」【鬼切】 「あの夜、私は源氏を血祭にしお前を殺そうとした、それでお前にも同じ苦しみを与えられると思った。しかし、それもお前が傀儡を使って計画した茶番に過ぎなかった。お前が言ったことは、何が真実で、何か偽りか、私には少しも分からない。私はもうお前を信じないぞ、源頼光!」【源頼光】 「鬼切。お前を征服するなど、俺にとっては容易いことだ。いつの日か、お前の覚悟が「最強の刃」の境界に達したら、お前と生死の決戦をしてやろう。作られたその日から、お前の命はすでに鬼切とい名の刃と一つになっていた。しかし奴は今妖気に侵され、かろうじて生き長らえている。」【鬼切】 「そうだ、この惨めに地を這いつくばる命を支えているものは、恨みの他ない。この恨みが存在する限り、俺はくたばったりはしない。かかってこい、俺と戦え、源頼光!!」【源頼光】 「この意志……燃え尽きた刃の魂が再び燃え上がろうとしているのか?面白い。一体何がお前を磨き上げた?苦しみ?憎しみ?違うな……ならば見せてもらおう!」【鬼切】 「ハハハハハ…!それだ、それを望んでいた!俺はこの苦しみを求めていたのだ!死ね――!!」──大江山側【海妖】 「クシシ、大江戸山の妖怪め、こうも簡単に本性を現したとは。」【酒呑童子】 「魚かエビか知らんが、まとめてかかってこい!片っ端からぶっ潰してやる!」【海妖】 「この妖気……大江山の鬼王だ、早く逃ろ!!」【酒呑童子】 「ちっ、とんだ役立たずだな。この海水、不味いな……ゲホッ……ようやく雑魚どもを始末したかと思ったら、海水に噎せて気持ち悪りぃ。茨木童子の野郎、まだ戻ってこないのか。ちっ、何かあったんじゃないだろうな。」【茨木童子】 「友よ、戻ってきたぞ!友の言った通り、俺は地獄の腕を召喚して下水のあたりを調査したが……やはり水底は海国の水牢獄になっていた。水底には大量の海妖が潜んでいる。危険に満ちているに違いない。」【酒呑童子】 「海鳴の奴が直接津波を召喚して大江山を呑み込むとは思わなかったな。連中はここを陥落させるためなら手段を選ばない。大江山の最も高いところが「鬼王座」だ、周りには鬼火が燃え上がっている。入口の元栓は谷の底にある。何があっても水の底に降りて、元栓を開かねぇと。」【茨木童子】 「友よ、鬼王座の元栓の位置を覚えているか?」【酒呑童子】 「俺様は大江山の鬼王だ。」【茨木童子】 「ならば友よ、大江山の起源に関する伝説も覚えているな?」【酒呑童子】 「何だそれは?」【茨木童子】 「……大江山、かつては丹波山と呼ばれていた。ここは鬼の領域の入口であり、人間界と妖界の境界線にある。人間と妖怪はここで殺し合っていた。悪鬼は人間を食べ、人間もまた悪鬼を切る。その繰り返しだった。鬼の領域内には平原がなく、山と深淵しか存在しなかった。聳え立つ山々は刃のように鋭くて険しい。山の下の深淵には、尽きることのない妖火が燃え上がっていた。悪鬼たちは刃のような林の中で殺し合い、お互いを貪っていた。あるとてつもなく強い妖怪がここに来るまでは——その妖怪は悪鬼と戦い続け、鬼域の最深部に到達すると、相応しい相手に出会った。鬼域の最高峰に、天に届くほど高い石の巨人がおり、山頂に立っても巨人の体の果ては見えなかった。妖怪は石の巨人と七晩戦い、やっと巨人を屈させた。彼は巨人に自分の王座となれと命じた。敗北した石の巨人は丹波山の北側に身を伏せ、山々を繋ぎ、山脈に化した。その強大な妖怪は千丈の高さを持つ妖火を放ち、丹波山を大江山に名を改め、神人仏妖に戦を挑んだ。私はそのために、大江山に来たのだ。そやつを倒すために。」【酒呑童子】 「そんなにすごいのか。俺様もその妖怪と戦ってみたいな。」【茨木童子】 「たしかに、私でも敵わなかった強者だった。だが友なら、きっとあいつに勝てるだろう。」──源氏側【鬼切】 「ハァハァ、ハァハァ……ハァハァ……痛っ!」【源頼光】 「たしかにすべての技が要所を狙っていたが、残念だ……あなたは怒りを隠せない。すぐに見破られてしまう。」【鬼切】 「このやろう……!おのれ!死ね!!一緒に死ぬがよい!!」【源頼光】 「ふっ!」【海妖1】 「へへ、災いが来るというのに、陸の人類と妖怪がまだ殺し合ってる。本当に愚かだね。」【海妖2】 「はぐれたこの二人をやっちまえ!」【海妖3】 「スス……大江山と源氏の内輪揉めに乗じて、背後から襲おう!」【海妖1】 「愚かな人間め、死ね!」【鬼切】 「ふん、貴様が先だ!」【海妖1】 「な……なぜ……うあああ………ああああ!」【鬼切】 「こいつに死んでほしいが、お前らに殺させるわけにはいかない。やつは俺の獲物だ。」【海妖3】 「うぅ……あああああ!」【源頼光】 「鬼切、前にも言ったはずだ。攻撃する時は、背後に注意しろとな。」【海妖3】 「ぐ、見つかって……がぁ……あ……」【源頼光】 「海寇は海に帰れ!」海妖に包囲され、鬼切と源頼光は互いに戦い続けながら、不意打ちを企む海妖軍団を倒していた。戦いの最中に、二人は共に刀を引き、向きを変え、過去のように背中を合わせ殺戮を始めた。【鬼切】 「俺とこいつの決闘を、邪魔するな!」【海妖2】 「わあああああ!逃げ、逃げろ!」【源頼光】 「ちっとも変わらんな。」【鬼切】 「なんだと!ぐっ――俺に何をした?」【源頼光】 「刀をもっと鋭くしただけだ。山頂の「鬼王座」には罠があるかもしれない。すぐに向かうべきではない。では、達者でな。」【鬼切】 「待て!一瞬で消えてしまった……油断した。何をするかわからん奴を逃がしてしまった!これは……刃が、回復している?なめてるのか、おのれ!くそっ……!俺が殺すまで、絶対に死ぬな!」──海国側【大嶽丸】 「海鳴先生、さすが俺の尊敬する先輩だ。この地獄のような情景はまるであの日の鈴鹿山だ。やつらの今の心情も、あのときの鈴鹿山の妖怪と同じだろう。悲惨なものだ……」【海鳴】 「若様、大江山の妖怪を同情しているのですか?」【大嶽丸】 「……彼らを見て、かつて鈴鹿山で起きたことを思い出した。あの完全に汚された海と、海の中でもがく鈴鹿山の民を。そこで俺はわかったのだ。俺にはやらなければならないことがあると。」【海鳴】 「若様、まさか……」【大嶽丸】 「鈴鹿山の民のためにも、決して大江山を許さん!先生は鬼王座に残っていろ。俺が最後の血祭に行ってくる。」【海鳴】 「……そのような覚悟があれば、あなたはきっと鈴鹿山の真の伝説になれるでしょう。」──大江山側【酒呑童子】 「どうやら、顔が揃ったようだな。」【鬼切】 「いや、たった俺たち三人が「鬼王座」に着いたというべきだろう。」【茨木童子】 「大江山の鬼どもと源氏の妖兵も一部たどり着いた。だが、妖怪たちの状態は予想よりひどいものだ。」【鬼切】 「まずは「鬼王座」の奥に行ってみよう。海国が罠を仕掛けたかもしれない。」【酒呑童子】 「ああ!」【茨木童子】 「前のあれは……友よ、気を付けろ!」【鬼切】 「しまった!地面から突然海水の牢屋が突き出してきた。……囚われたぞ!」 |
鬼王の座①
【茨木童子】 「「鬼王座」は大江山で一番高いところだ。海水が上がれば、百鬼は必ずここに来る。おのれ鈴鹿山、ここで結界の罠を仕掛けていたとは!津波を起こして大江山を襲ったのも、この時のためだったのだな。くっ……この結界もおそらくただの牢獄ではない……友よ、くれぐれも気を付け――」【酒呑童子】 「うあああああ!!」【茨木童子】 「なに?!!鬼切……?!お前は何を!!」鬼切は刀を握り酒呑童子の首に切りかかった。酒呑童子は避けきれず、首が斬り落とされてしまった。首を失った体はに二三回震え、倒れた。茨木童子の体は血に赤く染められた。【茨木童子】 「これは……どういうことだ?!」【酒呑童子】 「………逃げ……ろ……」【茨木童子】 「……………………………………………………友よ……!!!源氏が退治に来たとき、私はここにおらず、友の傍に居てやれなかった…今はこの大江山に、友のすぐ傍に居るというのに、またしても役に立てなかったというのか!羅生門の前で必死に戦った記憶も、首を持って連日逃げ続けた時の動揺も、友の体を修復するときの苦痛も……すべて無駄だったというのか?まさか……?そんなはずは……?!失った右腕も、使い果たした妖力も、すべては私の愚かさのせいだったのだな!まったく無意味だった!最愛の友が、すぐ傍で首を切られてしまったのだぞ!………………」【鬼切】 「源氏の正義のために、大江山の妖怪はみんな死ぬがよい!」【茨木童子】 「やはりか……!鬼切……貴様!最初から疑っていたぞ……貴様と、あの陰陽師の源頼光を!お前らは同じ穴の狢だと!飼い犬はいつまで経っても飼い犬なのか!」【鬼切】 「ご主人様の理念は崇高なものだ、お前ら妖怪が理解できるものではない。茨木童子、酒呑童子と一緒に地獄に堕ちろ!」【茨木童子】 「許さん……許さん!!!酒呑童子よ、たとえ私が無力であろうと、おまえを再び救えなくとも、決して一人で死なせはせん。たとえ今日この牢屋の結界から抜け出せなくとも、お前ら全員を酒呑童子の道連れにしてくれる!死ね!鬼切!」【酒呑童子】 「ゲホッ……ゲホ………ぐうっ……がはっ……なにが起きた……?俺様は死んだのか?あの血溜まりに倒れている体は……俺様のものか?首が刎ねられているとは、あの夜と同じだ。待てよ……なぜ俺はこんなところで死んだんだ?少し油断しただけで、こんな様になったのか?悔しい……俺はまだ、死ねない。大江山、百鬼の衆、救えなかった奴と、晴らせなかった仇も…………俺は……立つのだ!ぐう……痛い……ゲホッ……くそ、駄目なのか……?」【大嶽丸】 「フ、大江山の鬼王も、この程度か!首を刎ねられ、倒れ、地に伏して死を待つだけとは。」【酒呑童子】 「貴様……大嶽丸、おのれ……!」【茨木童子】 「鬼切、酒呑童子の仇を必ず打つ!!」【鬼切】 「源頼光!出てこい!なぜ俺と戦わない!」【酒呑童子】 「向こうにいるのは……茨木童子?……鬼切?あの二人は……何を……?なぜ幻影と戦っているのだ?幻影……?!このすべては、幻影だったのか……そうだ!あの術者……海鳴!水牢幻境……精神支配……俺たちが感じているのは、すべて海鳴の野郎の幻術だ!ただ、この肉体の痛みと心の苦痛はまるで現実に起きているようだ……あの野郎の力は、人の心の弱点を具現化することか?ゲホッ、茨木童子と鬼切の野郎を呼び覚まさないと!ここでしくじってはならん。ゴホ……ゴホ……うああああ!くっ!立てん、くそ!なんだ……これは……痛い!首が切られた時の苦痛をもう一度味わえっていうのか?箱の中に首が置かれ、車輪が回る音と、刀がぶつかる音、そして叫び声が……血だらけの鬼の手……妖力が燃える音……鈴の音……鈴の音。……………………………………俺様は死ななかった。あいつは、この俺を救ったのだ。なるほど、俺はあの約束を忘れていた……くそ、立たなければ!こんな嘘っぱちの死でこの酒呑童子を捕らえられると思うのか?この命はお前らが弄べるものではない!」【亡霊妖怪幻影】 「酒呑童子、行くな!恨い!恨いぞ!!酒に溺れる鬼王め!よくもおまえの民を死なせたな!酒呑童子、地獄へ来い!お前は鬼王にふさわしくない!」【酒呑童子】 「これが幻術だと知っていても……奴らの言うこともまた事実。俺様は、大江山を守れなかった。」【大嶽丸】 「ふん、これで終わりか?下らん。」【酒呑童子】 「悪いな、みんな。俺様は今夜、やらねばならんことがある!夜が過ぎたら、新しい酒を開け、お前らを送ってやるからな!鈴鹿山の主、出てこい!」【大嶽丸】 「よくぞ来た、大江山の鬼王!これでこそ、俺に倒される価値がある!」【酒呑童子】 「かかってこい!大嶽丸!」──源氏側【源頼光】 「そこにいるのは誰だ?姿を現せ!」【晴明】 「源頼光、この谷で何をしている?」【源頼光】 「お前か、晴明。こそこそ後をつけておいて、私にそれを聞くのか?」【小白】 「セイメイ様はそんなことしていません!大嶽丸を追ってここにきたんですよ。あなたに出会えるとは思いませんでした。」【晴明】 「呪術で大嶽丸の気配を追っていたのだが、ここで気配が切れた。」【源頼光】 「なら、我らの目的は同じだ。悪い知らせがある。我々は一歩遅れた。大嶽丸は既にここで血祭の陣術を施した。」【小白】 「何だって?!」【晴明】 「この谷に描かれているのは、海国の法陣か?」【源頼光】 「先刻、私がここにたどり着いたとき、彼はすでに呪術を完成し、八尺瓊勾剣で付近の空間を切り裂いていた。彼は裂いた空間の間隙に飛び込み、姿を消したのだ。」【晴明】 「「八尺瓊勾玉」の力はやはり空間転送だったか。」【源頼光】 「あいつは十中八九、山頂の「鬼王座」に向かっている。」【晴明】 「海水が上がり続ければ、妖怪はもちろん大江山で一番高いところ――「鬼王座」に向かうだろう。」【源頼光】 「これこそ海寇がよく使う手段だ。まず奇襲を仕掛け、事前に用意した罠に我々を誘い込む。同じ手口には、二度と乗らないがな。」【晴明】 「もし大嶽丸が「鬼王座」に向かったのなら、海鳴もそこにいるかもしれない。彼の精神支配の能力はとても危険だ。この谷に来る途中も既に感じ始めていた。彼の幻術は大江山に影響している。私の目には心の闇と、陰陽分離の記憶が絶えずに浮かんでくる。――心魔幻境。古典でこの呪術を見たことがある。施術した相手の意識を読み取り、さらに相手の最も恐れることを具現化できる。とうに失われたといわれているが、まさか鈴鹿山に使用されるとは。この手の邪道は解呪方法を見つけることが難しい。」【源頼光】 「海寇術師の能力では、精神力が遥かに強い陰陽師を操ることはできない。人はそれぞれ弱点を持っている。その弱点は心の奥底に潜む恐怖に由来するものだ。この私にも当然、避けられず、変えられないものはある。」【小白】 「鬼神さえ恐れを感じるあなたのような人でも……怖いものがあるんですか?」【源頼光】 「狐火が京都に降りかかったあの夜、町は死と火の臭いに満たされていた。あの臭いが私の記憶から離れたことはなかった。その火の海の中で、幼い私は災いの源の絶とうとしたが、その力はなかった。あの廃墟の上に、一本の刀だけが、私を災いから守ってくれた。」【小白】 「その刀はまさか……」【晴明】 「今は冷静だが、当時はさぞや心が苦しかったろう。」【源頼光】 「苦痛であろうとなかろうと、この記憶の唯一の価値は、私にあることを教えてくれたことだ。絶対的な力だけが真実。それ以外は何の意味もない。弱点を力に変えるか、恐怖の中で死を待つか、その選択をするのは己の意志だ。我が目的のために、たとえ成功の見込みがほんの僅かしかなくとも、私は躊躇なく実行する。」【晴明】 「確かに、こんな災いの中では、恐怖はいとも簡単に広まってしまう。だが、勇気も同じだ。どうやら、これが心魔幻境を解くカギのようだ。」【源頼光】 「海鳴に挑むのなら、奴が好む手段を、奴にも味わせてやるといい。」【晴明】 「鬼王座に向かう前に、まずは大嶽丸が残した法陣を処理せねば。なるほど、海国は空間神器の力で陣術に生贄を捧げた。以前調査した場所から何の痕跡も見つからなかったのも、これが原因だったのか。神器の作用で、この陣術を消すことはできない。だが、弱めることはできる。時間が経つと法陣は神器によって空間に隠されてしまう。急がねばな。」 |
鬼王の座②(大嶽丸HP50%)
【鬼切】 「くっ……逃げるな!待ちやがれ!力を出し切っても、前方の背中に追いつくことはできなかった。俺の努力がまだ足りないのか?なぜあの背中は俺の刀の前に現れ続ける?なぞ俺が刀を降ると消えてしまうのだ?やめろ!やめ……やめろ!見えない鎖が俺の手足を縛り付ける。いくらもがいても、刀を振り回し殺戮し続ける自分を止めることはできなかった。屍の山と化した大江山の果てに現れたのは、すべて思い通りだと言いたげな奴の笑顔だった。俺はすべての力を振り絞って切りかかったが、無駄だった。この両手に染まった血も、俺を縛り付ける罪も……手にある刀、刀を握りしめる手、この体、この名前……このすべては、お前が作り出したものだ!源頼光、どこに居やがる!なぜ俺と戦わない!」【亡霊妖怪】 「恥知らずめ!俺たちは全部お前の裏切りのせいで死んだのだ。この罪をどうやって償うつもりだ!妖怪のくせに、人間の臭いがしやがる。人間でもない、妖怪でもない、なり損ないの裏切り者が!お前が盗んだものをすべて返せ!」【鬼切】 「その通りだ……この刀を握る鬼の手も、辛うじて生き長らえているこの命も、すべて俺のものではない。この世で、俺にあるのは憎しみだけだ。罪を償うまで、俺はここで立ち止まるわけにはいかない。………………………………この音は……水……?いや、これは……血の契りか?まさか……さっき俺が見たのは、すべて幻覚だというのか……?血の契りが……ある方向へと流れている……ここから特別な妖気を感じる。すべてが明らかになったな。まさか、この妖気は――この結界を操る張本人を見つけたぞ。鬼瞬影!」【海鳴】 「……」【鬼切】 「勘が当たったようだな。」【海鳴】 「源氏の刀よ、わしの居場所を先に突き止めたのははやりお主か。反陰陽道の訓練を受けたお主だ、それも当然のことだろう。」【鬼切】 「どこでそれを知った?」【海鳴】 「お主が知る必要はない。このわしを見つけたとしても、もう手遅れだ。過去は、お主が乗り越えられない心の魔だ。この新月を持つ刃――お主の本体だろう。これを折れば、どうなると思う?」黒い海水のような妖気が結界の隙間に差し込まれた鬼切の刀に絡み上げると、刀身に亀裂が生じ始めた。【鬼切】 「くっ……この痛み!まるで火に焼かれたような……!だが、俺の憎しみと比べれば、こんな痛みなどどうということはない!(たとえ滅ぼされても……!この身を差し出すことで、みんなを救えるのなら!)」鬼切が刀に一層力を入れると、結界の切れ目がますます広がっていった。彼はなにも恐れず、命を引き換えに幻境を打ち破ろうとした。【鬼切】 「俺はこの時を望んでいたのだ。この身が砕かれるほどの痛みと、この烈火に焼かれるほどの決意を!己の罪を償う、この機会を!借りはこれですべて返すぞ!死ね!!!!!!!!」鬼切の決意に驚き、海鳴は思わず一歩を退いた。この瞬間をもって、結界はついに破れる。轟き音と共に、幻境は砕けた。鬼切の刃も欠片に砕け、海に落ちていった。【鬼切】 「ゲホッ……ゴホ…………………………………………俺は……海の中で燃えている……?鬼の手も、体も、刀も、すべてが砕けていく……俺の手にあるべきでない物はすべて、俺から去っていく。しかし……なぜ……海に飲み込まれた瞬間、俺は思わず刀を握りしめたのだ。命の終点を前に、俺は悔しさを感じたのか。それは血の契りのように長く、それよりも熱く、ぶつかった一瞬で消えていった。」──大江山一方【晴明】 「「八尺瓊勾玉」の力がこれほどとは。大量な霊力を消耗したというのに、やはりこの法陣を消せない。」【小白】 「あぁ、セイメイ様、法陣が今にも消えそうですよ!」【晴明】 「これを弱めるために、我々は既に最善の努力を尽くした。」【源頼光】 「どうやら、他の神器の力も借りねばならんようだな。」【晴明】 「……」【源頼光】 「!」百丈の向こうから爆音が伝わり、谷もその影響を受け、表面が少し崩れた。【源頼光】 「この波動は、鬼王座の結界が打ち破られたのか?」【晴明】 「海鳴の水牢を破った?一体誰が?」【源頼光】 「ぐっ……」【晴明】 「源頼光……どうした?」【小白】 「これは……血?いつ怪我をしたんですか?」【晴明】 「我々も鬼王座に急ぐぞ。何かとんでもないことが起きたのかもしれない。」【酒呑童子】 「なんだ、あのでっかい音は?水牢結界が爆発したのか?!この俺様がかかった幻術も、一緒に解かれたのか……!海鳴の幻境が完全に砕け散ったようだな。待てよ、あいつは……鬼切か……なぜ消えようとしている?これはどういうことだ!」【大嶽丸】 「酒呑童子、こんな時によそ見か!」大嶽丸は混乱を乗じて襲い掛かってきた。刀が振り下ろされたが、彼の技を止めたのは茨木童子だった。鬼切が消えると、鬼手は元の持ち主の元へ戻ってきた。両手を取り戻した茨木童子が絶大な妖気を発し、加勢してきた。【酒呑童子】 「おせえぞ、どんだけ待たせる気だ。」【茨木童子】 「あとで酒でお詫びをしよう、わが友よ。」【酒呑童子】 「その前に、まずこの厄介な連中たちをさっさと片付けようぜ!」【茨木童子】 「私の手がようやく戻ってきた。この海賊どもに地獄の手の真の力を見せてやろう!」【大嶽丸】 「酒呑童子、てめえの相手は俺だぞ!!」【酒呑童子】 「ここは任せたぞ、茨木童子。俺様はあの大嶽丸と決着をつけてくる。」【大嶽丸】 「さぁ、こい!!大江山の鬼王!!」【酒呑童子】 「もってけ、もってけ!俺様が持っているものを全部持っていくがいい!大江山を守ることができれば、たとえこの身が灰燼に還されようと悔いはない!胸の中に炎が燃え上がったようだ。怒り、悔しさ、後悔、すべてが俺様の魂を焦がしている。それに比べ、すべてに終止符を打とうとする意志の方が一層強く燃えている。この無尽の業火は、俺様の動揺を食い尽くしてくれよう!この決意の炎にすべてを差し出すのだ!俺様の邪魔をする奴は、この炎で燃やし尽くしてやろうぞ!」大嶽丸は八尺瓊勾剣を持って飛び上がり、酒呑童子に切りかかった。酒呑童子は片手で刃を止め、もう片方の手で刀を持つ大嶽丸の両手を握りしめ、一捻りし、大嶽丸を体の前に引っ張ってきた。【鬼王酒呑童子】 「俺様が全力を出したのだ、光栄に思え。」【大嶽丸】 「ふん!もう一度戦え!酒呑童子!」【鬼王酒呑童子】 「幻境だろうと、結界だろうと、鈴鹿山だろうと、俺様にとってはどうでもいい!俺様の背中には大江山の幾千万の鬼どもが付いている。今生きているやつも、死んでいるやつもな。俺様が負ける?負けてたまるものか。」烈火が酒呑童子の体から湧き出し、結界の中の海水を追い払った。大江山の谷に鬼王の妖火が、長年を隔てて再び燃え上がった。妖火は素早く拡散していき、大江山のところどころを覆った。炎は山を包囲した海水を突破し、海底から天を突き破り、黒い妖波をすべて燃え尽くした。【大嶽丸】 「どういうことだ?!水中の海妖と鬼船が、全部妖火に燃やされただと……?鈴鹿山の民、今すぐ退け、妖火から離れろ!」【海妖】 「うっ……うあああ………痛い、痛い……………あああああ!!!殺せ……殺せ!!」【大嶽丸】 「なぜ攻撃をやめない?!そんな犠牲は必要ない。戦いの目的はすでに果たしたのだ!」【海鳴】 「……はははははは…………」【大嶽丸】 「先生……?」【海鳴】 「はははははははははははははは!!!そいつらを囲め!殺せ!」海鳴は狂ったように笑い出し、妖力を暴走させ、戦場にいる海妖軍団もその影響を受けた。撤退しようとしていた海妖は発狂し、酒呑童子と茨木童子を囲んで、敵味方構わず殺しを繰り返した【茨木童子】 「海鳴の奴はどうしたのだ?!」【鬼王酒呑童子】 「奴の心魔幻境は破られた。おそらく心の魔に囚われ、発狂したんだろう。面倒なことになったぜ。鬼切の刃の断片はまだ奴の妖気の中に残っている。」【晴明】 「やっと「鬼王座」に付いたな。」【小白】 「ハァハァ……ハァハァ……小白の足がちぎれそうです!心魔幻境は解けられたようですが、状況はかなり厳しいみたいですね……酒呑童子と茨木童子は海妖の群れに囲まれています。海妖たちは狂ったようにお互いを攻撃し続けているようです。あれ?!なぜ大江山の妖怪も殺し合いをしているのですか?幻境はもう解けたはずじゃ…?」【晴明】 「酒呑童子の妖気が、以前とは違う……まさか、彼は鬼王の意識を取り戻したのか?茨木童子の手も元に戻っている。深刻な状況になったようだ。心魔幻境は確かに消えたが、心の魔を操っていた術者が飲み込まれ、幻術に囚われてしまった。海鳴の精神支配の能力は周囲に影響を与えている。」【小白】 「お待ちください、セイメイ様!海鳴の周りの海水妖気にある、あの折れた刃は鬼切ですか……?」【晴明】 「鬼切の刃が折れ、鬼の手も茨木童子の元へ戻った……まさか、鬼切が……酒呑童子らが無暗に動けないのは、このためだったか。鬼切の刃を一刻でも早く取り戻さねば。海鳴が彼を完全に滅ぼす前に。」【源頼光】 「貪欲な奴だ、自分の同胞さえ支配するとはな。」【小白】 「あぁ!源頼光が突然海鳴の隣に現れましたよ!彼は海鳴と話しているのでしょうか?一体いつから?」【晴明】 「彼が一足先に駆けつけたのも、鬼切の状況に気づいたからなのか?」【鬼王酒呑童子】 「源頼光の野郎……!」【源頼光】 「海妖術士がどれほど強くても、陰陽師には敵わない。おまえには才能があるが、人間の意思を操ることはできないようだ。残念だな。」【海鳴】 「……源氏、お主がわしの支配から逃れられたからと言って、それで安全だとでも思っているのか?たとえお主を支配できなくても、わしはお主の今の意思と記憶を読み取れる。やはり、兵器はお主がもっとも気に入っているものだ。ここの妖兵どもにお主の体を千切りにしてあげようか?」【源頼光】 「ふ、我々源氏には数千の妖兵がいる。度胸があるならかかってこい。」【海鳴】 「人間だけは、一人も逃さないぞ!」発狂した海鳴は鬼王座にいる大勢の妖兵に結界を展開し、支配しようとした。数百の妖兵は素早く集い、漆黒の甲冑は幾重の鉄の壁のように、源頼光を囲んだ。【小白】 「うわわ!妖兵たちが全員源頼光に刃を向けていますよ、大変です!」【源頼光】 「読心術は強いが、飲み込まれる恐れがある。身体が壊されても回復できるが、心が呑み込まれると、もう救いようがない。その支配がいつまで続くか、見せてもらおうか。」海鳴は何かを唸って、妖兵に源頼光を襲うよう命じた。【海鳴】 「深淵を見つめる者は、深淵に見つめられるのだ……奴の首を取ってこい!」その瞬間、数百の妖兵は刀を振り下ろした。しかし、その刃は海鳴の胸を貫いた。【海鳴】 「う!!ゴホッ、ゴホ…う……なぜ……どうして……?」刃に背後から刺し貫かれた胸を見て、海鳴は信じ切れない表情を浮かばせた。彼に支配されていた源氏の妖兵は手中の刃を捻って引っ張り出すと、海鳴の胸から大量の血が噴き出した。【小白】 「うあああああ!これ、これはどういうことですか?!」【源頼光】 「愚か者よ!兵器である以上、お前に支配されるような意志を持っているとでも思ったか?」【晴明】 「さっきから気付いていた。妖兵の妖気は海鳴の影響を受けていなかった。妖怪兵器はもとより意志がない故、支配できないのだ。すべては源頼光の偽装だ。通常なら、海鳴は気づくだろう。しかし、彼は心の魔に呑み込まれ、狂気に囚われていた。」【源頼光】 「鬼王座にいる数百の海妖と妖兵を操っていたからな、妖気などに気を配る余裕はなかっただろう。海鳴は読心術にすべてを賭けてきた。だが私には数千の妖兵がいる。彼は己の欲深さに足を掬われたのだ。」【海鳴】 「源氏、まさかこれほど冷酷とは……私は見えたぞ……お主は……なるほど……お主は……………………!」【大嶽丸】 「先生!!!」大嶽丸は妖兵を切り続け、海鳴を救い出した。法術は完全に解かれ、波は退き、折れた刃は黒い波から地面に落ち、綺麗な音を発した。源頼光は頭を下げ、刀を拾い上げた。その刀は月を映すほど無垢だった。【源頼光】 「言ったはずだ、武人の誉れはもっとも誇り高き戦で戦死することだと。光が頂点に達した瞬間、命が散っていく。しかし、ここはあなたの誇り高き戦場ではない…鬼切、あなたの覚悟なら、もっと鋭い刀になるべきだった。刀が鳴り命が散る。死から新たな命が生まれる。ここで折れることは許せぬぞ。」 |
鬼王の座③(大嶽丸HP10%)
【鬼王酒呑童子】 「大嶽丸、おまえの負けだ。」【大嶽丸】 「ちっ!まだだ……まだ決着はついていないぞ!ふふ……ははは……ハ……ハハ……ハハハハハハハハハ……まだ……まだまだだ!酒呑童子!すべては終わっていない!!!この大嶽丸は都に攻め入ることを決めたときから、生きて海に戻れるとは思っていないからな!酒呑童子、来い!もう一度勝負しろ!!!八尺瓊勾剣よ!おまえの真の力を見せてみろ——!!!」【茨木童子】 「な、なに?!こやつの力は、暴走したようだ……!」【小白】 「うっ……なんて強い威圧感なのでしょう……小白はうまく息ができません……!」【源頼光】 「すぐにこやつをなんとかせねば。やつは「八尺瓊勾玉」の力を絶えずに吸収している。」【晴明】 「酒呑童子に力を貸そう!」【鬼王酒呑童子】 「かかってこい!鈴鹿山の主!」 |
鬼王の座④(戦闘勝利)
黒い波が去り、妖火は天を貫く。濃い霧は烈火に駆逐され、白い月が再び姿を現したが、再び血の色に染められた。【鬼王酒呑童子】 「俺様の大江山が、暁の前の最後の月光に照らされ、ようやく本当の姿を現したな。」【小白】 「うわ!向こうの山が、突然動き出しましたよ!セイメイ様、あれ……あれは一体……?!」地面は激しく震動し、巨大な石が動いているような爆音の中で、大江山北側の山が移動し始めた。鬼王座にいるすべての人と妖怪は争いを忘れ、目を凝らしてこの異変を見守った。山は徐々に動き、無数の巨石と泥を振り落とした。天地を割くような巨大な音を発した後、山はなんと人間の形となった。南の山の頂上の鬼王座に座っている酒呑童子に向けて、彼は身を起こした。巨大な石の顔が現れた。それは土と石で刻まれた荒い顔だった。【山岳神】 「鬼王よ。」【鬼王酒呑童子】 「あぁ、俺だ。」【茨木童子】 「……これは!」【鬼王酒呑童子】 「茨木童子、慌てるな。」【山岳神】 「あなたと会うのは百年ぶりだ。目覚めたばかりだが、もう別れの時のようだ。わしの余命はもとよりほんの僅かしか残っていない。今夜の戦いで体が崩れ、夜が明ければ塵となるだろう。あなたの力をすべて返そう。鬼族の運命はあなたに託したぞ。鬼王、さらばだ。」【鬼王酒呑童子】 「待て……!」このとき、太陽は東から登り、白い光は血月を覆い被った。石の巨人に生じた亀裂は、やがて全身に広がった。光が大江山の谷を照らした瞬間、山はすぐに灰燼と化した。【鬼王酒呑童子】 「この力……強い妖気が俺様の体を満たしている!」【小白】 「うわ!谷の鬼王妖火が、さらに高く燃え上がりましたよ!」【鬼王酒呑童子】 「山岳神。この大江山で最も長く付き合っていた奴と、このような形で永遠の別れを迎えるとは。」【茨木童子】 「友よ……鬼瓢箪が……!」【小白】 「これは……!酒呑童子の瓢箪が妖力の影響を受けて変化しました。」【大嶽丸】 「先生……先生、大丈夫か!!くそっ、この妖火は先生の回復の邪魔を……大江山の鬼王、いつかこの勝負の決着をつけに来るぞ!先生、帰ろう。全軍撤退!」大嶽丸は海鳴を抱き上げ、八尺瓊勾剣で空中に空間を切り裂いた。彼はその挟間に飛び込み、一瞬のうちに挟間と共に消えた。大江山の麓にある海国の鬼船も、帆を揚げて撤退した。【茨木童子】 「おのれ!また海賊どもを逃がしてしまった!」【晴明】 「海国は一時的に撤退しただけだ。奴らの次の目標は都だろう。」【源頼光】 「都は人と妖怪が住まう大江山と違って、丸腰の民しかおらぬ。」【小白】 「どうしましょう、セイメイ様!」【晴明】 「山岳神が力を発した時、雲外鏡も変化した。雲外鏡が山岳神の力によって目覚めたのだろう。」【小白】 「えぇ?!」【晴明】 「必要な力を手に入れた。これで、「雲外鏡」は「八尺瓊勾玉」に対抗できる。だが、その前に……山岳神が崩れたということは、鬼域への入り口も開いたことを意味する。誰かが対処しなければならない。」【源頼光】 「お前らは「鬼兵部」と神機閣を連れて「黄泉の塔」に残れ。鬼域の動向を見張っていろ。」【源氏陰陽師】 「はい、源頼光様。」【源頼光】 「それと、刀鍛冶の素材集めに兵を出せ。」【源氏陰陽師】 「はい。」【小白】 「それは、何をする気ですか?」【源頼光】 「鬼切の刀を鍛え直す。」【小白】 「き…鍛え直す?!」【晴明】 「鬼切は刀の憑神だ。もしその本体を鍛え直せるなら、彼の体も元に戻れるかもしれない。ただ、新しく鍛治するより、鍛え直すことはさらに難しい。もちろん、これも時間との争いだ。」【源頼光】 「晴明、酒呑童子、今日のことはこれで一件落着だ。いずれまた会おう。」【茨木童子】 「貴様、待て!」【鬼王酒呑童子】 「茨木童子。奴らのことは、奴らに解決させよう。我々は、もっと重要なことをやらなければならない。鬼域はもちろんだが、あの大嶽丸がこのまま引き下がるとは思えん。大江山を水攻めした恨み、必ず晴らしてやる。」【茨木童子】 「それより、友よ、体は大丈夫なのか?」【鬼王酒呑童子】 「俺様は絶好調だ。これまでの間、苦労を掛けたな。」【茨木童子】 「今となっては、私にはもう悔いることはない……ただ、友が失ってしまった力を惜しく思う。」【鬼王酒呑童子】 「もう失ってしまったものは、俺様も気にしていない。今持っているものの方が大事だからな。」【小白】 「セイメイ様!小白たちも海国の対策を練るために、早く都に戻りましょうか?」【晴明】 「すべては陰陽二面がある。たしかに、大嶽丸は最後の法陣を完成した。だが、大江山と源氏の連合軍の攻撃で、海国は七割の主力部隊を失った。我々も「雲外鏡」の力を呼び覚ました。対策はある。行こう。」 |
鬼王酒呑童子追憶絵巻
世渡り
私はどこから来たのかって? この山にはこの道しかないのだ、当然山頂から来た。 お主がこの山頂にある霊廟を訪ねてきたということは、神の子の噂を聞いて化度を頼みに来たのだろう。残念なことに、神廟ならまだあるが、神の子はとっくにおらん。 運命に逆らったお主だ、命もそう長くない。 情けに過ぎないが、ある物語を教えてやろう。 言い伝えによると、都の東方面には山々が延々と続いており、そこは一年中春のように温かく、まるで万物が空から降りてくるように生命が眩く咲き輝いているため、その名を伊吹という。愚かで純朴な山の民は神山として奉り、村の行事や節句になる度お経を唱えていた。もしかしたらそのお経は本当に山脈を辿り、天の果てまで届いていたやもしれない。 ある日、僧侶が山廟の門を開け中に入ると、そこには一人の少年が立っていた。まだ幼い姿をしていたが、只者ならぬ気品を具えており、文才に優れ、叫び声は忽ち天候を変え、一歩踏み出せば千里の距離を跨ぐことができた。 僧侶は酷く驚き、これは伊吹神山の神の子に違いないと思った。そして彼らは父も母もいない、天地の谷川から生まれた少年を山頂の神廟に祀り、日々信徒の供奉を受けさせた。ただ神の子のお経を一節聞くためだけに、参拝者の列は山の道に沿って渓流まで続いていた。 絶えず解命を求めて訪ねてくる見知らぬ人々を前に、神の子は不満の一つも言わずお経を唱え、彼らの代わりに無常である天命に生の道を乞うた。参拝者は願いが叶うと山を降りるが、山頂に残された執念と怨念は気高い神の子と共に、仏像の足元で成人へと育っていった。 |
帰途
世の中の万物は盛りに達した後、必ず衰えていく運命にある。それから長い月日が経ち、仏堂の鐘も斑になり、鳴らせても往昔の韻律は無く、僧侶たちも歳を取り、廟の屋根からは雨水がダラダラと垂れるようになった。だが、神の子だけは変わらず少年の姿のまま、参拝者のためにお経を唱えては、仏像の顔から剥がれ落ちる漆皮を数えていた。神や仏は無盡の法力を持つと言うが、そうでもないらしい。 時は流れ、繁栄していた時代は乱世へと移り変わり、戦乱の中で平民は故郷を失い、参拝者の悩みも徐々に変わっていった──生活の中で起きていた些細なことから故郷を見捨てた話に、権力や地位に対する不満から生と死の別れ話に。千里も続く軍の列、山と草原に満遍なく刺された戦の旗、そして凄まじい勢いで海へと流れていく血の入り混じった川水。その怨念や苦痛は神の子の手足に纏わりつくが、神の子が持つ数珠と背後の仏像に怯え、まるで囚われた獣のように為す術もなく、ただ日々彼の横に居座り、世の者が訴える尽きることのない苦難と共に成長していくだけだった。 神の子はお経で人々を慰め続けるも、心のどこかでは天命に疑問を抱いていた。魔と仏は一念の間、彼は鬼道へと堕ちた。 彼の心は無垢のまま、純粋に信じ、そして綺麗に失われた。彼は最も純粋な悪鬼の道を探ろうと、無数の山と川を越え、人間界と鬼界が交差する土地だと言われている都の西の丹波山にたった一人で向かったのだ。 |
本能
丹波山は確かに危険に満ちていた。その空気は瘴気に塗れ、悪鬼が蔓延り、人と鬼が昼も夜も殺し合い、まさに終わりのない殺戮が延々と繰り返されていた。神の子は阻む者を殺しながら深くへ進んだ。次第にその腕も上がっていき、彼に敗れた屍がそこら中に転がっていった。谷の奥深くまで進むと、人間界のように広くて果てのない鬼族の域が見えてきた。そこには峻険な峰や深淵が続いており、峰はまるで刃のように鋭く、深淵は燃え上がる妖火で底が見えない。妖や鬼がその中で戦い、互いを飲み込んでいる。ここには弱肉強食以外なんの戒律も存在しない。実に痛快だ。 彼は本能のまま鬼の衆に加わり、鬼族の様子に変貌し、心の中で何度も咀嚼した究極の悪鬼の道を追いかけた。小鬼たちは誰も彼の相手ではなかった。そう経たないうちに彼は飽きてしまい、鬼道も所詮こんなものかと考えた。その瞬間、雲をも突き抜ける高い峰が突如揺れ動き、巨人の形を現した。 その峰は鬼の域で最も強大な悪鬼が化したものであり、その身体は山のように大きく、歩くと地面が震え、一口で湖を飲み込み、村を餌食にしていた。その天地の間を歩く姿が山のようである為、山岳神と呼ばれていたそうだ。 神の子は嬉しそうに隣の山頂まで飛び上がり、山岳神を挑発した。山岳神の姿は雲の上まで続いており、たとえ山頂に立っていてもその体の天辺は見えない。ただ、雲の隙間から巨大な手が降りかかってきたかと思うと、拳は地面へと叩きつけられ、その瞬間大地に亀裂ができ、鬼たちは一斉に逃げ散った。ただ神の子だけが拳を鳴らしながら、落石の間を飛び回っていた。 |
悪戦
その壮大な戦いは鬼界の山を崩し、人間界の大地に罅を入れ、両界が交差する丹波山を半分滅ぼした。周辺の川は流れを変え、山脈は地層がずれ、幾つかの高い峰が一瞬で百里先に飛ばされたため、天と地が造り直されたと言っても過言ではなかった。 山岳神は次から次へと拳を落とし、音が雷のように轟き、天地が崩れ、この両界の境目で、両界を粉々に打ち砕く勢いだった。 だがこの悪戦は殺戮を追い求める神の子にとって、ただの遊戯でしかなかった。彼は漲る快感を感じながら、わざと山岳神に拳で自分を追わせた。身体が重くて機敏に動けない山岳神をその場で何度か回転させ、再び最初に挑発していた峰の頂点に戻った。峰は刀のように雲を突き抜けているが、彼の足取りは軽く、たったの二、三回で山頂に辿り着き、山岳神の拳を待っていた。 山岳神は彼が避けようとしていないことに気付き、力を込めて拳を振るった。腕の動きで起きた風は観戦している百匹以上の小鬼を巻き入れ、彼らは空中で円を描きながら悲鳴を上げ、谷の底へと落ち、刹那の間で妖火に焼かれて灰となった。 |
征服
その拳が今にも神の子に命中しようとした瞬間、烈風を切っていた動きは唐突に止まり、神の子は髪を少し乱した。 彼は山頂で笑みを浮かべ、微動だにしていなかった。 その時、山岳神が足場にしていた山の麓で、石の拳によって残された痕から数丈の幅がある罅が生まれた。無数の罅は山中を目掛けて割れていき、やがて山の中心に集まり、山岳神の重さに耐えきれなくなった山が崩壊した。このままでは、山岳神も底知れない火の海へと堕ち、他の妖鬼と共に灰となってしまう。 だが、神の子は肌身離さず持っていた念珠を取り出し、今まで何千万回も口にしてきたお経を唱えた。形の無いお経は金の糸となり、巨大な山岳神を蛹のように重ねて包み、燃え上がる妖火の真上で束縛した。 火の舌に舐められつつも、お経の檻が落ちることはなかった。 身動きが取れなくなった山岳神は負けを認めざるを得なかった。 神の子は大声で笑った。 「お前を俺様の王座にしてやろう。」 |
鬼王
「神道を悟った者は神龕に座り、仏道を悟った者は蓮花の上に座る。今日の俺様は鬼道を悟ったのだ、当然敗北者の生身を踏み台に登り詰め、鬼王座を作り上げねばならん。」 「鬼王よ、我は重傷を負った。傷が癒え、再び目を覚ました時に、もう一度勝負を頼むぞ。」 敗北した山岳神は身を伏せ、大戦で滅ぼされた丹波山の南を繋ぐ高山となり、再び人間界と鬼界を遮断した。 そうして神の子は新しい丹波山を拠点とし、一番高い峰まで登ると、鬼の衆に自分の鬼王座を建てるよう命令を下した。鬼の衆は彼の勇敢さを讃え、彼を百鬼の王と称し、いずれそれは後世を震わせる丹波山の鬼王──酒呑童子となった。 ここまで話しても、お主は信じていないだろう。人の心は愚かで鈍く、特に自分を欺くことを好む。今日は伊吹山の神の子に会えなくても、いつかは丹波山の鬼王酒呑童子に出くわすかもしれん。 私は誰かって? お主と同じ、天に逆らってまで運命を変えようと──鬼王酒呑童子を復興させたいと思っている者に過ぎない。 |