【陰陽師】「永生の海」ストーリーまとめ
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『陰陽師』の「永生の海」のストーリー(シナリオ)をまとめて紹介。
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永生の章
旧海の約束
旧海の約束ストーリー |
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【八百比丘尼】 「私の記憶によれば、永生の海は海の果てにある、浪と共に眠る楽園です。綺麗な月光と美しい歌声が絶えない、伝説にある、夢を紡ぐ場所です。」【鈴鹿御前】 「あなたの記憶?」【八百比丘尼】 「沿海地方の村に伝わる美しい伝説です、私はそういうところをたくさん訪れました。海の向こう側を眺める時、人々はいつも奇妙な幻想を作るものです。その幻想が本当かどうかに関わらず、幻想は生まれた瞬間に、既に幸福をもたらしたのでしょう。」【鈴鹿御前】 「なるほど。私の血に刻まれた…あの誕生の地の景色は、あやふやになり続けている。でも、私はまだあの夢の歌を覚えている。あの歌が描く故郷は、このような荒れ果てた場所ではない。八百比丘尼、慎重に行動しよう。」【八百比丘尼】 「はい。」鬼船が永生の海に入った途端、角笛の音が聞こえた。【八百比丘尼】 「あら、侵入者と勘違いされたようです。」【鈴鹿御前】 「私たちは永生の海と取引しに来た、とりあえず様子見だ。」【???】 「勝手に永生の海に侵入した不埒者、罰を受ける準備はできたか。(その姿、まさか…)」【鈴鹿御前】 「(彼女はこっちを見ている?)悪意はありません、ただ…」【???】 「消えろ、永生の海はあなたが入っていい場所ではない。」【八百比丘尼】 「どうやら「友好交流」は避けられないようですね。」【鈴鹿御前】 「ああ、仕方ない。海妖同士の礼儀で挨拶しようか。」【八百比丘尼】 「私は人間の占い師に過ぎないので、海妖同士の礼儀は全然分かりません。鈴鹿御前様、私はここで応援しています。」激戦の中、鬼船は永生の海の縄張りから離脱した。鮫人はそれ以上攻めることなく、ただ守りに徹した。【???】 「ふん、この程度の力しかないのに、永生の海に侵入するつもりか?たとえ今の状態になっても、永生の海は誰でも入っていい場所ではない。」【八百比丘尼】 「霧が出た。ここの地形は複雑で、気づきにくい暗礁が多い。一旦下がって様子を見ましょう。」【鈴鹿御前】 「相手があれほど威圧的な態度を取るとは思わなかった…」【八百比丘尼】 「ふふ、あの傲慢な態度から見ると、彼女は鮫人の中でも地位の高い人かもしれませんね。もしかしたら、鮫人のお姫様なのかもしれません。」【鈴鹿御前】 「では彼女たちの女王は、きっとそれ以上に話の通じない人だ。八百比丘尼、教えてくれ、この取引の切り札は何にすればいい?」【八百比丘尼】 「「鈴鹿御前様」の誠意はどうでしょう、きっと彼女に一番効くと思います。」【鈴鹿御前】 「誠意か…そう簡単にはいかないようだな。」悩む鈴鹿御前を見て、占い師は微笑みを見せた。夜が明けると、なんと鮫人の従者が招待状を届けに来た。【召使い丙】 「お二方、女王様のお呼びです。船をここに停めてください、女王様のところまでご案内いたします。」【鈴鹿御前】 「一晩たっただけで状況がひっくり返った、さすが鮫人の女王だ。」【八百比丘尼】 「全て鈴鹿御前様の体に流れる血のおかげですね。」【鈴鹿御前】 「例えこの血の因縁がなくても、私は必ず相手をこの取引に引きずり込むさ。」【八百比丘尼】 「鈴鹿御前様はいつでも自信に溢れていますね。何も恐れず、ただ前に進む、それこそが鈴鹿御前様でしょう。」鈴鹿御前と八百比丘尼は女王の玉座の前に来た。【鮫人族女王】 「二人は遥々ここに来る途中、さぞ無理難題をたくさん乗り越え、疲れたでしょう。まずはお座りなさい。昔話をする前に、海月屋の料理を楽しみましょう。ご覧のとおり、永生の海はかつてのような繁栄を極めてはいないけれど、客をもてなす礼儀はちゃんと憶えています。特にあなた、我が姫、鈴姫よ。数百年の時間はあっという間に過ぎた、あなたは立派に成長しましたね。」【鈴鹿御前】 「何を言っている?私は鈴鹿御前、鈴鹿山のかつての主だが。私は確かに鮫人の血を引いているが、「鈴姫」という名前には覚えがない。」【鮫人族女王】 「私が間違えるわけがない、我が子よ。自分の尻尾を見なさい、他の鮫人のものとは違うでしょう?それこそが鮫竜の証。」【鈴鹿御前】 「?!」【鮫人族女王】 「あなたは永生の海を出た時、まだ言葉もうまく話せない子供だった。」【鈴鹿御前】 「知っているのか…私の昔の記憶を?」【鮫人族女王】 「あなたはここで生まれたけれど、ここで育ったことはない。あなたはあの災害の中、永生の海を出たから。面白くない話はもういいでしょう、今はただ再会を喜び祝いましょう。」【鈴鹿御前】 「…」【鮫人族女王】 「その容姿端麗な人間は、お友達?美貌が有名な鮫人の中でも、それほどの美貌を持つ者は珍しい。」【八百比丘尼】 「恐れ多い言葉です。私はただ鈴鹿御前様について永生の海に来た、一人の占い師に過ぎません。占星術を少しかじっていますから、鈴鹿御前様がここに来るのを手伝うことができたのです。」宴の中、しなやかで美しい姿の鮫人達が出入りして、酒を運んだり、歌ったり舞ったりしている。【鈴鹿御前】 「ここまで来て、女性の鮫人しか見かけなかったようだが、まさか…」【鮫人族女王】 「当然、美しい鮫人にのみ客人の前に現れることが許されている。」【鈴鹿御前】 「そういう意味ではない、私が知りたいのは…」【八百比丘尼】 「鈴鹿御前様は、何のためにここに来たのかお忘れのようですね。」【鈴鹿御前】 「ああ、鮫人の女王様よ、私は取引しに来たのだ。永生の海を出た以上、私はもう昔のあの「鈴姫」ではない。私の出身は考慮しないでくれ。私は平等な取引がしたい。」【鮫人族女王】 「そこまで言うなら、申してみよ。子供の願いを叶えるのも、母親の責任だ。」【鈴鹿御前】 「私がここに来たのは、ある鏡を浄化できる力と、私の家族の新しい体にできるものを探すためだ。」【鮫人族女王】 「ほう?永生の海の力が必要とは、一体どんな鏡だ?」【鈴鹿御前】 「この鏡の欠片だ。」【鮫人族女王】 「雲外鏡か、そのような神器は確かに珍しい。鏡を浄化するのに潮汐の力が必要だ。あなたが探す新しい体にできるものも、潮汐を使って秘蔵の扉を開ければ手に入れることができる。しかし、この凍ってしまった海域を見たでしょう。あなたが去った後に起きた災害が、私と潮汐との契約を奪った。衰えていく私には、もう潮汐の力を使うことができない。潮汐の加護を失った永生の海は少しずつ凍っていき、やがて今の姿になってしまった。潮汐を継ぐ資格を持っているのは「鮫竜」だけ。つまりあなたしかいないのです、我が愛しい姫よ。潮汐は主を失い、永生の海に散らばった。潮汐は新たな女王が現れ、この氷に閉ざされた海を蘇らせるのを待っている。」【鈴鹿御前】 「私と永生の海の絆は既に失われた。例え潮汐の力を取り戻しても、新たな女王にはなれない。…私の家族が私の帰りを待っている。」【鮫人族女王】 「本当に薄情ね、鈴姫。まあいい、子供の反抗はいつも嘆かわしいもの。私はもう一度潮汐と契約する術を見つけた。潮汐で満たしたこの「海貝の戟」を、再び私の玉座の前に持ち帰った時、取引は完成される。これでどう?」【鈴鹿御前】 「二言はない。」【???】 「母上、お目にかかります。よそ者が母上の眠りを邪魔するなんて!今すぐこの無礼者達を追い出す。」【鮫人族女王】 「千、彼女達を呼んだのは私だ。彼女は鈴姫、あなたの妹だ、長い間会っていなかったでしょう。」【千姫】 「母上、私の妹は既にあの災害で亡くなった。」【鮫人族女王】 「千、素直になれないのがあなたの悪い癖よ。この海域が完全に沈没する前に、鮫竜が再び戻り、新たな希望をもたらした。彼女は永生の海を救う。鈴姫…いや、やはり「鈴鹿御前」と呼ぼう。鈴鹿御前、「海貝の戟」を抜き、あなたが鮫竜の姫であることを証明しなさい。そうすれば取引が正式に始まる。」【千姫】 「ふん、この正体不明のやつは綺麗な尻尾を持っているけれど、私の妹に成りすますことはできない。私は彼女を認めない。」【鈴鹿御前】 「あなたが認めるかどうかは関係ない。私は「海貝の戟」を抜き、取引を完成させる。」【八百比丘尼】 「「海貝の戟」に認めてもらうのは、少し難しいようですね、鈴鹿御前様。」【鈴鹿御前】 「諦めるものか…」【千姫】 「そんな?!海貝の戟が彼女に答えた、まさか彼女は本当に「鈴姫」なのか…」【鮫人族女王】 「よろしい。海貝の戟の中の潮汐は既にあなたを受け入れた、鈴鹿御前。千、自分のなすべきことを知っているでしょう。彼女たちを導き、散らばった潮汐を集めなさい。」【千姫】 「…分かった、今度こそ決して母上の期待を裏切らない。」【八百比丘尼】 「まさか急に女王様の玉座から、遠く離れた海域に送られたなんて。」【千姫】 「遊離状態の潮汐の力はある程度海域を歪ませる。ここは比較的航海に向いている海域だ。あなたは潮汐をまだうまく使いこなせない、まずは慣れるんだ。」【鈴鹿御前】 「しかし一体どうやって、散らばった潮汐を探すのだ?」【千姫】 「海貝の戟にはまだ少しだけ潮汐が残っている、それがあれば潮汐を共鳴させることができる。潮汐の呼び掛けに耳を傾け、声を辿っていけば自然と潮汐を見つけられる。高貴な鮫竜の姫にできる?永生の海を捨てたやつが、のこのこと戻って来て、「英雄」気取りでこの海域を救うのか。」【鈴鹿御前】 「これはお互いのためになる公正な取引だ、私はあなた達の「英雄」にはならない。」【千姫】 「それはどうかな。あの氷結の災害もあなたが企んだものかもしれない。あの災害の中で消えたのはあなただけだ。」【鈴鹿御前】 「あの災害と私とは無関係だと誓おう。私の記憶の中の永生の海は、氷に閉ざされた海ではない。深海にのみ舞落ちる雪は、軽やかで、綺麗なものだ。故郷を救うのはあなた達だ、あなた達にしかあなた達を救うことはできない。」【千姫】 「深海の雪…ふん、一度だけ信じよう。女王の命令に従い、私はあなた達が潮汐を集めるのに協力する。潮汐の声が聞こえないなら、永生の海の魚群に祈りなさい。永生の海の魚群は、私達が進むべき方向へ導いてくれる。この先に浮かんでいるのは「玉手箱」だ。荒ぶる潮汐は、深海に隠されている玉手箱もたくさん運んできた。中には鮫人の宝物が隠されている。玉手箱は主の意志に応じて形を変化させ、たくさんのものを収納できる。もし他の玉手箱を見つけたら、私のところに届けなさい。同じ価値を持つ物品でお礼をする。」【鈴鹿御前】 「その箱について、どこかで聞いたことがあるような?」【八百比丘尼】 「鈴鹿山で出会ったあの神出鬼没の海亀少年が、同じようなものを持っていましたね。」【鈴鹿御前】 「あのうるさいやつか、彼もここに来たことがあるのか?」【千姫】 「永生の海が栄えた時代、数知れぬ妖怪と人間が永生の海を慕ってここを訪れた。誰かが玉手箱を一つ二つ持ち帰っていても、おかしくはない。…まあいい、今は雑談をしている場合ではない。」【鈴鹿御前】 「分かった分かった、とりあえずあの箱を拾いに行こう。この海域で私達の船を動かすのは少し難しいようだ。それに飛ぶこともできないのか?」【千姫】 「わかりきったことだ、潮汐があなたを拒んでいる。」【鈴鹿御前】 「私だけにしかできないと言っていたではないか…」【千姫】 「ふん、無礼者。」【八百比丘尼】 「この「玉手箱」は開けてもいいのか?」【千姫】 「うーん…たまに悪戯して、中に海妖を隠す鮫人もいる。玉手箱を開けたら、その人は丸呑みにされてしまう。そういうことも珍しくない。」【八百比丘尼】 「人の世に伝わる伝説では、玉手箱の中には「時間」が入っています。玉手箱を開けたら皺苦茶な老人になるのです。」【千姫】 「時間なんてものは、箱に入れることはできないだろう。もしくは人間なりの例えなのかもしれないな?人間は感傷的になって、過ぎ去った時間を嘆くことがあると聞いた。でも永生の海にとって、時間は無意味なものだ。ここの鮫人は衰えることも死ぬこともない。」【鈴鹿御前】 「中身は普通に真珠なんかであってほしいですね。鮫人の歌声を入れるのも悪くない、鈴鹿山の皆は気に入ると思う。」【八百比丘尼】 「月の明るい夜に、鮫人と漁民が合奏する、少し懐かしいですね。」【千姫】 「それは人間を蠱惑する歌声だ。こっちを見るな、私はそんな歌を歌ったことはない。」【鈴鹿御前】 「この魚達はなぜ急にざわめきだしたんだ?千姫!」【千姫】 「近くの「海霊」の影響だ。」【鈴鹿御前】 「海霊?守り神のような名前だが。」【千姫】 「「海霊」は死者の思念、同時に永生の残骸でもある。ほとんどの海霊は自分の元々の姿を忘れてしまったから、他の生き物または器具の形を借りて世に現れる。かつて永生の海には本当の死が存在しなかった。この海域は永生の祝福に守られていた。潮汐が制御を失った後、祝福の力が弱まった。命が消耗される速度が回復力を超えた時、死が訪れる。亡くなった亡霊は潮汐の中に帰り、引き続きこの海域を守る。潮汐が制御を失ったことにより、亡霊は帰る場所を失った。それらは海原を彷徨った。漂う思念が集まって、やがて「海霊」になった。海霊は少しずつ物語を記録した思念体になった。それは自分こそが主人公であるように、かつて起きた物語を語っている。海貝の戟が持つ潮汐の力の中に帰らせることでのみ、それらに安息を与えられる。夢の中で永遠の眠りにつき、潮汐と一つになれば、もう孤独を感じることはない。」【鈴鹿御前】 「何だか悲しい物語だな。」【千姫】 「「人は生まれながらにして、その運命は既に決まっている。」これが永生の海の運命だ。まずは様子を見に行こう、あの寂しい海霊はまだ潮汐に帰るのを待っている。」【迷える海霊】 「あたしの家、あたしの家、あたしの家はどこなの…家に帰る道が見つからないよ、お姉さん、あたしを家まで送ってくれる?あの日は大雨が降って、お母さんの泣き声と、潮汐の泣き声が聞こえた。あたしを外に連れ出した使用人に、隠れてお姉さんが迎えに来るまで待ててと言われたけど…夜は怖いよ、雨の音と泣き声しか聞こえない…お母さんはどうしたの?お姉さんはどうしてまだ迎えに来ないの?雷が落ちた、怖い、でも誰もいない…どうすればいいの…家に帰れないよ…お母さんとお姉さんがきっと心配してる。あたしが帰るのを待ってる…」【千姫】 「…お姉さんが迎えに来たよ。」【鈴鹿御前】 「怖がらないで、家に連れて行ってあげる。千姫、どうすれば彼女を潮汐に帰らせることができる?」【千姫】 「潮汐に祈りを捧げ、儀式の戦いを乗り越え、海霊の思念を継ぎ、海霊と約束するのだ。」【八百比丘尼】 「戦いで意志を示すのか?鮫人の儀式は伝説のように美しいわけではないのだな。」【迷える海霊】 「あたしを家まで連れて帰ってくれるの?」【鈴鹿御前】 「ええ!必ず家まで連れて帰る!」【千姫】 「(潮汐の力…いつだって、眩しい。)」【迷える海霊】 「ありがとう、お姉さん。」海霊は一筋の光となり、海貝の戟の潮汐の中に消えた。【千姫】 「まだまだ見習いの段階だけど、筋は悪くない。」【鈴鹿御前】 「まさか褒めてくれるなんて、案外悪い人ではないんだな。」【千姫】 「あなたを褒めるつもりはない、ただ評価しただけだ。」【八百比丘尼】 「あの海霊の代わりにお礼を言っているのでしょう、もう少し素直になったほうが可愛いですよ。」【千姫】 「…余計なことを!」【鈴鹿御前】 「ん?おかしい、何だか海貝の戟が重くなったようだ。違う、私の体力が失われて…この力を使うのに、こんなにも大量の体力が持っていかれるとは、予想外だった。まるで生命力が吸収されたようだ。」【千姫】 「疲れた。この先が「汐語の海岸」だ。あそこは結界に守られていて潮汐の影響を心配せず休めるし海月屋の料理も素早く届くし物資も補充できるし本当に一石三鳥のいい場所だ。」【鈴鹿御前】 「…八百比丘尼、理解したか?私はちょっと気が散っていた。」【八百比丘尼】 「千姫様は汐語の海岸で休もうと私達を誘っていますよ。ふふ、面白い旅になりそうですね。」 |
座礁の夢
座礁の夢ストーリー |
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【千姫】 「今の風向きは航海に適している、出発しよう。」【八百比丘尼】 「この海域の静けさは、まるで嵐の前の静けさのようですね。魚群がまた騒ぎ出しました。」【鈴鹿御前】 「魚群が進む先で、音が消えた?」【千姫】 「浪の音、海鳥の羽音、風の音、全部どこかに消えた。音は連続してではなく、断続的に消えている。」【鈴鹿御前】 「本当に嫌な感じがする。まるで自分が何の痕跡も残さずに、既にこの世からいなくなったようだ。」【八百比丘尼】 「何の声も聞こえない、何の返事もない、これがいわゆる寂しさでしょう。しかしこの感じ、まるで何かが呼吸しているようだ。」【鈴鹿御前】 「「声」を奪わなければ生きられないのか?」【八百比丘尼】 「生きるとは他の生き物と資源を奪い合うことです。誰もが、一生懸命生きています。」【千姫】 「魚群が道を見付けた、海霊と何か関係があるかもしれない。少し遠回りしよう。魚群の導きがなければ、潮汐の力の所在地にたどり着くのは難しい。もし途中で「汐語の海岸」に戻りたければ、私の力を使って転送陣を開放するといい。」【鈴鹿御前】 「狭くて長い海岸線に鯨が千頭以上座礁してしまった。衰え切った彼らの身に、一体なにがあった?海水が押し寄せてきて、鯨達の体を全部覆い隠しても、鯨達は一匹も海に戻らなかった。これも海霊なのか?音がまた消えた。」【八百比丘尼】 「この鯨達が呼吸する時、海域の全ての音は呑み込まれてしまう。」【鱗の群れ】 「声が…私達を導いている歌声が…歌声が聞こえなくなった…」【鈴鹿御前】 「彼らは歌声を探している。」【千姫】 「ここの鯨達は、かつて女王と共に海を征服した臣下だ。災害が起きた後、衰えていく女王は既に歌うことを諦めた。」【鈴鹿御前】 「歌う?」【千姫】 「永生の海では時間と命は無意味なものだけれど、「約束」だけは無意味なものじゃない。女王が「約束の歌」を歌う時、潮汐が祝福をもたらし、鯨の群れが天を翔け、朝日は永遠に沈むことがない。女王の歌を失ったが故に、鯨達は失われた歌声と共に座礁したのでしょう。」【八百比丘尼】 「これは主に仕える武士と同じだ。主が死ぬと言えば臣下も同時に生きる意味を失う。本当に悲しい光景だ。歌声こそが彼らの命の唯一の道標、道標を失った彼らは生きることにさえ迷いを覚えた。」【鱗の群れ】 「我らの女王よ…もう一度「約束の歌」を歌ってください…永生の海の歌声…」【鈴鹿御前】 「約束する、私は必ず失われた歌声を取り戻す。鯨の群れは潮汐に戻った、ただ一匹を除いて。」【千姫】 「たまにこういうこともあるよ。執念が深すぎる海霊はずっと、物語の中にある自分だけの宝物を見つめている。約束が果たされるまで、彼はどこにも行ったりしない。一度潮汐に戻ったら、物語は消え、自我を保てなくなる。残されたのは、「永生の海を守る」という約束を果たすことだけだ。」【鈴鹿御前】 「あなたの約束は何なのか、教えてくれないか?」【名無しの鯨】 「私は待っている…彼女の歌声を…長い時の中で、彼女の歌声だけが私の心を慰める潮になる。私の友人、彼女は私の声に潜む喜び、苦痛、無念を理解できる。私達が出会った場所で、私と合奏しよう。私は次第に死に近づき、間もなく潮汐になるが、友を一人にすることができない。私は彼女の唯一の観衆だから。」【千姫】 「お互いが唯一の友なのか。ついてきて、私はその寂しがりの友達がどこにいるか知ってる。彼女も鮫人だけど、内気な彼女は他の鮫人に話しかけることすらできない。ある日から、彼女は突然頑固な石になったかのように、ずっと海岸に佇んでいる。どうやらこれが彼女の約束のようだ。」【孤独な人魚】 「(かすれて声にならない音を出した)」【八百比丘尼】 「この子の目は、既に光を失った。」【千姫】 「目が見えないからこそ、普通の人よりも「声」が理解できるのだろうか。あなたの喉はもはや歌うことすらできないけれど、潮汐ならあなたの声を取り戻せる。」【鈴鹿御前】 「これでいいはず。私はあの鯨から依頼を受けた、彼女はあなたの歌声を聞きたがっている。」【孤独な人魚】 「あ…あ…ああ…声が戻ってきた、本当にありがとうございます!」【千姫】 「…歌うことは著しくあなたの生命力を消耗する。今の永生の海にはもう、あなたの生命力を素早く回復することができない。」【鈴鹿御前】 「千姫?なぜ今までそれを黙っていた!」【千姫】 「鈴鹿御前、これは彼女たちの約束だ。」【孤独な人魚】 「私は歌う。私の歌声が聞こえなければ、私の友人はきっとどこかに隠れて涙を流す。彼女はきっと涙を流し続けて、どこかで一人で死を迎える…私と彼女は一族に捨てられた存在だ。女王のような美しい旋律を歌えない鮫人は、馬鹿にされる。天を翔けることができない鯨も馬鹿にされる、それが私達なのだ。私のかすれた歌は彼女の光、深海の闇をも追い払える。彼女の深き悲鳴は私の慰め、寒夜の寂しさをも追い払える。」【千姫】 「ならば歌え、自身を証明するまで。あなたの歌声を聞いたら、彼女は約束を果たしに来る。」想像していた綺麗な歌声ではないが、鮫人は「約束の歌」を歌い始めた。海と空の狭間から鯨の鳴き声が聞こえ、微かな光が雲を照らし、歌声はいつまでも続く。【名無しの鯨】 「我が友よ…」【千姫】 「あなたの代わりに彼女の歌を見届ける。」【鈴鹿御前】 「…」【名無しの鯨】 「約束した、私の代わりに、あなたが彼女の歌を聞き、彼女の歌声を守る。」【鈴鹿御前】 「千姫。」【千姫】 「言いたいことがあるならはっきり言え。」【鈴鹿御前】 「どうして黙っていた、彼女はまだ生きている鮫人だ!彼女はまだ救うことができる、また最初からやり直せる!なぜ彼女に死ぬまで歌い続けさせるんだ!」【千姫】 「あの生きる意味すらないあり方が正しいと言えるか?あなたも彼女の状態を見たでしょう。」【鈴鹿御前】 「生きることに意味は必要か?それが生き物の本能だ。私は頑張って生きる、そして私の目の前では一人も死なせない。生きているからこそ出会い、再会し、喜び、泣くことができる。自分のために生きられないなら、他人のために生き続けなさい。他人のために生き続けることができないなら、新しい友達を作れ。」【千姫】 「この世には生きることよりも重要なことがある。永生の海は終わりのない時間、永遠の命の象徴、全ては永劫の中で朽ち果てる。毎日が昨日の繰り返し、生きているのはこの衰えることのない体だけ。この手で自分の何かの未練を掴まないと、自分の存在の意味を見届けた価値を残さないと、生きることは無意味なものに成り下がる。潮汐の祝福を失ってからの数百年、永生の鮫人は永生でなくなった。彼女たちの命は、最後の瞬間が訪れる前に、一生懸命自分の痕跡を残そうとしている。故に、私は彼女を止めない、これは彼女が持つ選択の権利だ。これは彼女の運命であり、彼女が自分を証明する唯一の方法だ。彼女は歌の中で死ぬ、そして自分の友が既に死んだ現実を永遠に知ることはない。彼女にとって、これこそが一番の優しさだ。八百比丘尼、人間の占い師、あなたが我が同族の肉を食べ、偽りの「永生」を手に入れたことを知っている。あなたは死を拒み、死を恐れるか?普通の鮫人の肉を食べても永生ではなく、強い生命力しか手に入れられないと知っていても。」【八百比丘尼】 「どうやら晴明さんの術式でも、本物の鮫人の目の前では真実を誤魔化すことができないようですね。長すぎる命は終わりのない暗闇に似ている、灯りがなければ、すぐ「死ぬ」ことになるでしょう。寂しさほど人を狂わせるものはありません。かつて私は永生を恐ろしい呪いだと思っていました。周りの人間は私を妖怪と見做し、一人また一人と私のそばを離れていったのです。私が生きることは、他の人にとっては何の価値もない。私もこのような寂しさと悲しさには耐えられない。だから私はいつも自身を生贄にして、普通の人が耐えられない呪いを背負い、死を、生きる価値を手に入れたいのです。最後までも死ぬことはできませんでしたが、今の私はようやく、生きることに期待を抱かせてくれる存在を見つけました。千姫様の言う通りです。自らの手で灯りを持ってこそ、自分がまだ生きていると証明できます。例えこの灯りに、命を燃やされることになっても。」【鈴鹿御前】 「あなた達は全員、「永生」に囚われる哀れな存在。」【千姫】 「人は誰しも自分の出身を選べない、私達が永生の海に生まれた時から、運命は既に決まっている。」【鈴鹿御前】 「この悲しい運命を打破しようと考えたことはないのか?」【千姫】 「あの時、私は決めたのだ。」【鈴鹿御前】 「何を?」【千姫】 「この海域の潮汐の力が現れた。魚群が正しい方向へ導いてくれた。」【鈴鹿御前】 「また話を逸らすのか!」【八百比丘尼】 「彼女はまだ答えを教えたくない、ということなのでしょう。」【鈴鹿御前】 「じゃあいつになったら教えてくれるんだ?」【八百比丘尼】 「きっともうすぐです、そんな予感がします。」【潮汐の力】 「女王となる者よ。「約束の歌」を歌って、私と約束を交わすのだ。」【鈴鹿御前】 「私はあなた達の女王にはならない、ただ女王の代わりに取引しに来ただけだ。認めたくはないが、この歌の旋律は既に頭の中で再生されている。」【千姫】 「潮汐に捧げる「約束の歌」には対価が必要だ。」【鈴鹿御前】 「どんな対価だ?」【潮汐の力】 「「声」だ、私に声を捧げなさい、女王となる者よ。あなたは歌っている間に少しずつ声を失う。あなたの誠意と決心を試す儀式の戦いを乗り越え、私との約束を果たせ。」【鈴鹿御前】 「わかった。」【潮汐の力】 「ではあなたはどんな約束をしたいのだ?」【鈴鹿御前】 「それは女王か千姫に選択してもらおう。」【千姫】 「あなたの選択しか認められぬ。」【鈴鹿御前】 「おい、潮汐の意志。私は千姫が選択したいものを選択する、これでいいか?」【千姫】 「あなた…」【鈴鹿御前】 「故郷を救うのはあなた達だ、あなた達にしかあなた達を救うことはできない。今回の事件で、確信が深まった。」【潮汐の力】 「ふふ、あなたの選択である限り、どんな約束でも成立する。」【千姫】 「潮汐の力は既に海貝の戟の中に入った。」【鈴鹿御前】 「私は話せるのか?儀式の戦いさえ乗り越えれば、声を取り戻すことができるのか。」【千姫】 「ふん、挑戦できるのは一回だけ、あなたは運が良かったに過ぎない。」【鈴鹿御前】 「あの新たな約束は…千姫、あなたは何を選んだ?」【千姫】 「私は選択していない。今の私はただ、あなたが集めた潮汐の力を母上に届けたいだけだ。」【鈴鹿御前】 「まあいい、話したくなったら教えてくれ。空がまた暗くなった、あの海岸に戻って休もう。」日が暮れていき、千姫は岩礁の隣で仮眠をとった。夢の中の彼女は小声でなにか呟き、名のわからない歌を口遊んだ。【八百比丘尼】 「あら、お眠りの邪魔をしてしまいましたか。あなたは法螺貝の中には誰かの人生が入っていると教えくれました。私はずっと、過去の囁きを聞いてみたいと思っています。」【千姫】 「持って行くがいい、聞こえるのは異なる旋律だけだ。鮫人の歌声こそが、彼女の人生だ。」【八百比丘尼】 「この中にはあなたの法螺貝も混ざっているの?」【千姫】 「昔私はある法螺貝に向かって話したことがある。その法螺貝は既に波に乗って、遠くに消えた。八百比丘尼、あなたからは懐かしい気配を感じる。あなたとあの鮫人も、同じく「約束」を交わしたのでしょう。」【八百比丘尼】 「とてもわがままな約束ですね。私もつい最近その約束を思い出したばかりです。」【千姫】 「うーん…深海の雪を見たことはあるか?私はかつて死んだ大鯨の骸骨に座って、海に降る白いのを見たことがある。年寄りの鮫人に教えられた。あの「雪」は命の残光だと。彼らは死んだけれど、それでもまだ生きている命に恵みを与えていると。深海は寒いところなのに、あの雪だけは柔らかくて、暖かい。深海で上を見上げても、空も太陽も見えない。歌うことだけ、歌うことだけが自分はまだ生きていると実感させてくれる。」千姫は話しながら、再び眠りに落ちた。【鈴鹿御前】 「あら?また眠ってしまいましたか、まだ相談したいことがあるのですが。」【八百比丘尼】 「鈴鹿御前様も「深海の雪」について話していたことがあるようですが、それは一体何なのでしょう?」【鈴鹿御前】 「ああ、あれか。私はたまに夢に見るんだ。深海にある墓地と降り注ぐ雪、そして幼い歌声を。それが一体何なのか私にも分からない、私の子供の時の記憶かもしれない。雪は柔らかくて、同時に深海の唯一の光でもある。歌声には愛と憧れが満ち溢れている、しかしそれはより深い絶望に由来するものだ。私は歌声の出どころを探したいが、その時歌声は必ず止まり、同時に私も夢から覚めてしまう。少しずつその夢のことを忘れたのだと思っていたが、永生の海に来てからは再びあの夢を見るようになった。あの歌声は、一体誰のものなのか…」【八百比丘尼】 「そうでしたか、皆それぞれ奇妙な夢を見ていますね。」 |
月沈の廃墟
月沈の廃墟ストーリー |
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【八百比丘尼】 「この海域は戦争で破壊された廃墟のようですね。潮の音が重くて、呼吸の音も重くて。目に映るのは楼閣の残骸ばかりです。」【千姫】 「ここは永生の海が外敵と戦う前線に当たる海域だ。悪さを働く怨霊がまだ残っている。魚群はできるだけ私達が戦闘や罠に巻き込まれないように導いてくれる。私がここに足を踏み入れるのも久しぶりだ。」【鈴鹿御前】 「激しい戦いが起きたようですね。」【千姫】 「もちろんだ、女王が衰えていくだけではなく、鮫竜も行方不明になった。永生の海を守れただけでも奇跡と言える。」【鈴鹿御前】 「でもこの奇跡もあなたが起こしたもの、そうでしょう。」【千姫】 「…行こう。」【鈴鹿御前】 「気をつけろ、怨霊がこっちに押しかけて来た!」【千姫】 「ふん、一度打ち負かされたのに、まだ永生の海で悪さを働く気か。ここは私に任せて。」【八百比丘尼】 「くれぐれも油断なさらないで、千姫様。」【千姫】 「あなた達は先に魚群と行くといい。私はこの過去の残骸達を打ち砕く。いつになっても、永生の海はあなた達が暴れていい場所ではない。」【鈴鹿御前】 「馬鹿なことをするな。」【千姫】 「ただ家の前に落ちた落ち葉を掃除するだけだ。」【鈴鹿御前】 「歌声が聞こえた。あの廃墟の後ろで、海霊が歌っている。まだ未熟な、拙い歌声…私の夢の中と似ている。」【八百比丘尼】 「子供の歌声はいつも単純なもの。彼女が抱える悩みに触れられるのは、幸せなことだ。大人になって、現実の残酷さを思い知らされたら、弱点と悔しさがたくさん現れる。」【鈴鹿御前】 「私の子供の時…あの記憶は既に消えた、過ぎた時間は戻らない。でも今の私になったことに、悔いはない。」【八百比丘尼】 「あなたは、過去に縛られない人ですね。」幼い鮫人は岩礁に座って、夢中になって歌っている。彼女が歌い続けていると、すぐに夜が訪れ、月の光を浴びて全てはあやふやになった。【幼い鮫人】 「うんうん、今度はうまく真似できた。子供の頃の千姫様は、きっとこうして歌っていたに違いない!私は彼女の物語を皆に伝える!そう、それだけが私の一生の願い。」【鈴鹿御前】 「「千姫」と言ったか?」【幼い鮫人】 「お姉さんはあたしの声が聞こえるんだね!人と話すのはすごく久しぶり!聞いて、聞いて。あたしは全ての鮫人と、通りかかった旅人に伝えるよ。あたしが大好きな千姫様の物語を。」【鈴鹿御前】 「うん、教えて。」【幼い鮫人】 「ここだけの話だよ。幼い時の千姫様はね、鮫竜の血を引いていないから、皆からよそ者扱いされていたんだ。色んな噂をされても、千姫様は負けを認めなかった。鮫人である彼女は女王にはなれないけど、それでも彼女は先頭に立って永生の海を守っている。傷だらけになっても歌うことを諦めない、あたしはそんな勇気がほしい、自分を誇れる鮫人になりたい。あたしは彼女になりたい!だからあたしはここで彼女を真似して歌ってるの。そうすれば千姫様にもっと近づくことができるから。あたしの足元の岩礁は不思議な力を持ってるんだよ。幼い千姫様も、ここで「約束の歌」を歌ってた。もし鮫人が潮汐に女王の力を願って「約束の歌」を歌ったとしたら、それは決して許されないことだ。そんな資格を、女王になる資格を持っているのは鮫竜だけだから。だから女王になってこの海域を守りたい千姫様が「約束の歌」を歌うたびに、潮汐の刃で傷だらけになる。でもここでなら、傷つけられることはないよ、潮汐からは何の返事もないけど。この岩礁には、必ず何か秘密があるんだと思う!あたしはこの岩礁を守るよ!」【鈴鹿御前】 「あなたのような理解者がいると知れば、彼女はきっと喜ぶ。」【八百比丘尼】 「千姫はそろそろ怨霊を始末して、私達と合流するはずだ。」【幼い鮫人】 「千姫様がここに来るの?あああたし、まだ贈り物も用意していないよ!う…思い出した…あの日私は小夜草を採るために…結界の外まで出て…戻れなくなってしまった…頭が痛い…」【鈴鹿御前】 「…これがあなたの物語なのか。」【幼い鮫人】 「千姫様はいつも最も深い深海で、真っ暗なところで眠る。あたしは光る小夜草を彼女に贈りたい、そうすれば深海でも光が見えて、怖くないから。お姉さん、あたしの代わりにこの小夜草を千姫様に贈ってくれる?小夜草は隠してあるの、あそこにあるよ…」小夜草を集めた後、ちょうど戻って来た千姫に出会った。【千姫】 「これは小夜草。永生の海の一番遠い辺境に生えるはずだけど、どうしてあなた達がそれを持ってるの?」【鈴鹿御前】 「これはある海霊からあなたへの贈り物だ、とりあえず見なかったことにしてくれ。」【幼い鮫人】 「千姫様!」【千姫】 「ああ、あなたの声が聞こえる。なぜその姿で…それは幼い時の私ではないか?」【幼い鮫人】 「あたしは千姫様のような、美しい鮫人の姫になりたいの。この深海を照らす小夜草を、千姫様に贈ります!」【千姫】 「あなたは…まさかあの時の鮫人?凍結が起きた後、永生の海の力が弱まり、外敵はその隙をついて攻めてきた。慌てた私達は、小規模な防御結界しか配置できなかった。あなたは小夜草を採るために結界を出た、そして私が報告を受けた時には既に…すまない。」【幼い鮫人】 「ううん、結界を出ると決めたのはあたし、それはあたしの願い。弱いあたしは皆を守る力にはなれないけど、せめてこの思いを伝えたくて。どうか笑って、千姫様。あたしはあなたの笑顔を守りたいの。」【千姫】 「ああ。」【幼い鮫人】 「あたしと約束して、いつでも笑顔を忘れないって。いつだって、例え困難に、絶望に、悲しさに直面しても、千姫様なら必ず乗り越えられる。」【千姫】 「ああ。」海霊は最後に笑って千姫と別れの挨拶をすると、一筋の光になり、海貝の戟の潮汐の中に飛び込んだ。【千姫】 「お馬鹿さん。」【鈴鹿御前】 「あなたは…泣いているのか?」【八百比丘尼】 「こういう時は見なかった振りをすべきよ、鈴鹿御前様。」【千姫】 「私はただ自分の弱さを憎んでいる。母上の言う通りだ、人は生まれながらにして、その運命は既に決まっている。もしあの時永生の海を守ったのが鮫竜であるあなただったら、こんなに重い対価を払わなくてよかったのかもしれない。」【八百比丘尼】 「運命の軌跡はやがて合流し一つの川となるもの、例えあの時残ったのが鮫竜だったとしても、何も変わらないかもしれません。」【千姫】 「私を慰めているのか、八百比丘尼。」【鈴鹿御前】 「私にあなたよりも上手くできたかは定かではない、ここはあなたの故郷だ。」【千姫】 「ふん、慰めなら結構。」【鈴鹿御前】 「…随分早く立ち直ったな。」【千姫】 「潮汐の力が現れた、早く行こう。」【潮汐の力】 「女王となる者よ。「約束の歌」を歌って、私と約束を交わすのだ。」【鈴鹿御前】 「私はどんな対価を払えばいい?」【潮汐の力】 「他人の命の重さを背負い、苦痛の中、先へと進むのだ。」【鈴鹿御前】 「かかってこい、背負う覚悟なら、既にできている。」【潮汐の力】 「ではあなたはどんな約束をしたいのだ?」【鈴鹿御前】 「私が彼女達の代わりに未来を決めるわけにはいかない。この約束は千姫にしか選択できないものだ。」【千姫】 「…」【潮汐の力】 「望みどおり、新たな約束をしよう。」【鈴鹿御前】 「今度は随分楽になったようだ。」【八百比丘尼】 「実は千姫様は、ずっとあなたが払う対価の一部を肩代わりしています。」【千姫】 「彼女が選択する権利を私に譲ってくれたから、私はようやく対価を払う資格を手に入れたんだ。鮫竜の血は本当に便利だな。」【鈴鹿御前】 「ああ、どうやら約束は本当に果たされたみたいだな。」夜、鈴鹿御前が船を降りると、彼女を待っていた八百比丘尼に遭遇した。【八百比丘尼】 「まさか鈴鹿御前様にも、夜遊び癖があるとは思いませんでした。」【鈴鹿御前】 「は?何が夜遊びだ…私はちょっと外で散歩していただけだ。」【八百比丘尼】 「なるほど、ついでに本物かと見間違う岩礁も作ったのですね。」【鈴鹿御前】 「この件は内緒にしてくれ。千姫を慕う海霊が潮汐に帰った後、あの岩礁も消えた。彼女の話によると、千姫にとって、あの岩礁は何か特別な意味を持っているはずだ。どうしてあそこで歌うなら拒まれないのでしょう?」【八百比丘尼】 「それなら、ただ岩礁を作るだけじゃ足りませんよ。誰かがあそこに気付かれにくい結界を設置して、千姫様を守っていたのです。」【鈴鹿御前】 「それができるのは、鮫人の女王ぐらいだろう?凍結が起きた後、女王が衰弱し、結界が消えて、岩礁は戦乱の中で破壊されてしまった。千姫も二度とここで歌うことはなかった。」【八百比丘尼】 「こういうことは本人にしか分からないでしょう。」【鈴鹿御前】 「しかし私には、それが真実だとは思えない。私が見た女王は、千姫にとても冷たい眼差しを向けていた。彼女がそんなことをする人だとは思えない。」【八百比丘尼】 「何か事情があるのかもしれません。子供を愛していない親なんてこの世にいませんから。」【鈴鹿御前】 「ああ、私は家族の絆が人を強くすると信じたい。その絆は、生死すら乗り越えられる。女王と千姫の秘密は、彼女達自身に任せよう。私はただ取引をしているだけだ。…私はもう永生の海の「鈴姫」ではないのだから。」海岸の向こう側で、千姫が小夜草を抱えている。【千姫】 「鮫人を守る、それは私の鮫人の姫としての使命だ。例えどんな選択をしても…それが最終的に鮫人の未来を守ることになるなら。これが正しいのか?鈴鹿御前だったら、絶対に反論する。もし鈴だったら…鈴は強い力を持っている。彼女になら皆を守ることができる。小夜草…深海を照らす光か。とても優しい光だ。ごめんね、あなたを生かしてあげられなくて。」 |
迷霧追跡
迷霧追跡ストーリー |
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【鈴鹿御前】 「この先は霧が立ち込めていて、時々歌声が聞こえるけれど、それは鮫人の住む場所なのか?」【千姫】 「かつてそこは、鮫人の眠る場所だった。元々深海にあった墓地は、暴走した潮汐に海上まで流されて、ここが危険な禁足地になってしまった。鮫人達はそれ以来、女王の命令に従い、この地を訪れなくなった。墓地を守る霊獣は今でも忠実に役目を果たしているから、墓地が破壊される心配はない。潮汐の力を取り戻したら、女王も命令を撤回するだろう。もし雨が降ったら、ここの霧はより一層濃くなる。」【待つ鮫人】 「大海の旅人よ、どうか立ち止まって私の歌を聞いてください。」【鈴鹿御前】 「この歌声…」【待つ鮫人】 「私は以前永生の海を離れて、外の世界で旅をしたことがある。」【千姫】 「永生の海を離れたら、鮫人は「永生」を失う。永生の海を離れる鮫人は、「最初の約束」を裏切ることになる。」【待つ鮫人】 「ああ、私の命は消えていっている。傷は少しずつ治らなくなり、外見も老人のそれに近づいている。しかしそれがどうした?この短く浪漫が溢れる旅の中で、私の歌は新しい出会いをもたらしてくれた。私は永生の海に存在しなかった景色と出会った。緑の竹に鶴の鳴き声、雪山に朝日、温泉に紅葉…そして生涯をかけて探し求めるもののために、命を捧げる挫けぬ心に。短い命だけが、咲き誇る美しさを持つことができる。それは永生の鮫人が手に入れられないものだ。私はその美しい景色を堪能し、鮫人の歌に取り込んだ。旅人達は私が編み出した夢に酔いしれた。彼らは私の歌が描き出す美しさを愛している。帰ることも忘れて、夜な夜な歌を楽しんでいる。私の命の最後の残光は歌声の中で消えていくけど、私の歌声だけは確かに彼らの心の中に残る。この夜が明ける時、私の魂は永生の海に帰る。今までは、一族の人々に外の世界の美しさを伝えられないと思っていたけれど。しかし今海霊となった私は、あなた達にこの話を伝えることができる。これで私は満足できる。私の歌は、より広い世界を描いている。約束して。この美しい景色を、永生の海から離れることのない我が同胞たちに伝えてくれると。」【千姫】 「お帰り、あなたの選択を尊重するよ。」【鈴鹿御前】 「もし永生の海の鮫人が本当に永生なら、どうして墓地が存在するのだ?」【八百比丘尼】 「異常の裏には、きっと何か秘密が隠されています。しかし、千姫様は私達に教えてくれるでしょうか。」【千姫】 「…別に隠さなければならないほどのものじゃない。潮汐が制御不能になった後、永生の祝福が弱まり、鮫人の生命力の消耗される速度が回復できる限度を追い抜く時、死が訪れる。」【鈴鹿御前】 「こうなる前はどうだった?」【千姫】 「永生の海を離れた鮫人は、最初の約束を裏切ったが故に死ぬことになる。鮫人が死んだら、どこにいようと、魂は必ず永生の海に帰り、引き続きこの海域を守る。永生の海の海域を離れた途端に、多くの鮫人は著しく老化して、死んでしまう。幼い鮫人なら少しだけ長く生き長らえるけど。それでも、ほんの少しだけ。永生の力を失った彼女達は、簡単に殺される。ましてや人魚の肉を食べたら永生になれるなんて、とんだ大嘘。時折、鮫人の遺体が流されて帰ってくる。すると皆その遺体を墓地に埋葬する。一種の戒めと記念として。一部の鮫人はそういう人達を先駆者として慕い、彼女達が自由とより広い世界を求める精神を称え続ける。一部の鮫人は平和な日常を捨てて、自ら死ぬことを選んだ彼女たちを愚の骨頂だと思っている。」【八百比丘尼】 「か弱い鮫人、強き鮫人、一体どっちが真実なのか。」【鈴鹿御前】 「永生の海に永遠に縛られる鮫人…」【千姫】 「ねえ、その安っぽい同情は捨てて。鮫人には他人の憐みなど必要ない。」【鈴鹿御前】 「…」【千姫】 「雨だ。すぐに霧がここまで広がってくる。」【鈴鹿御前】 「このじっとりした雨、何だか嫌なものが現れる気がする。」【??】 「[……………………]」【鈴鹿御前】 「父上、父上なのですか?行ってはだめだ!怨霊達に魂を引き裂かれる…」【??】 「[……………………]」【千姫】 「うるさい。」千姫の声のせいで、鈴鹿御前は目を覚ました。【鈴鹿御前】 「霧の中で父上の声が聞こえた。父上はもう連れ戻したのに…」【千姫】 「あなたは亡霊達の影響で、心に潜む恐怖を見ただけだ。」【八百比丘尼】 「千姫様はあまり影響されていないようですね。」【千姫】 「鮫竜は鮫人よりも影響を受けやすい。彼女たちには亡霊の囁きが理解できるから。私は何度もここに来たから、それなりに抵抗できる。ここの霧は人を迷わせる。幻境がいくつも重なっている。以前はこんな場所じゃなかった。」【八百比丘尼】 「それなら、お互いに気を付けないと。もし誰かが幻覚を見始めたら、他の人が助けることができる。霧は益々濃くなっていく、周りにいる人もほぼ見えなくなってきた…」【鈴鹿御前】 「晴明?晴明の姿が見えたようだ、なぜ彼が永生の海に?」【八百比丘尼】 「晴明さんはいつも予想外のことをしますね。」【千姫】 「あの狩衣を着た人間の男か?私にも見えたから、幻覚ではないと思う。私達の知らないうちに永生の海に入ったと考えると、只者ではない。」【鈴鹿御前】 「早く追いかけて様子を確認するか。」海上から低い悲鳴が聞こえた後、霧の中に巨大な影が現れてもがき続けている。暴雨が無慈悲に降り注ぐ。雨に打たれる音の中、浪が荒ぶる中、鈴鹿御前は潮汐の力を駆使して船を守っている。【千姫】 「墓地を守る霊獣が倒された、やはりあの男の狙いは永生の海だ。永生の海を傷つける者は、誰であろうと決して許さない!」【晴明】 「待ってください…」【八百比丘尼】 「晴明さん、晴明さんがなさったことについて、説明してください。」【晴明】 「八百比丘尼、いいところに現れた。これが私があなた達を追うために派遣したもう一つの紙人形だ。永生の海に入ってから私は謎の力に影響され、あなた達とはぐれてしまった。たまたまここに迷い込んだら、あの大蛇に攻撃されたから、仕方なく一時的に追放しただけだ。あの謎の力は私を拒んでいるようだ、紙人形の力の消耗が異常に早い。これからのことはお願いできるか?八百比丘尼。永生の海は私達が思ってたよりも手ごわいかもしれない。」【八百比丘尼】 「てっきり私を探しに来たのだと思いましたよ、晴明さん。」【晴明】 「うん…なぜそう思うんだ?疲れているようだな、八百比丘尼。」【八百比丘尼】 「何でもありません、ここは私に任せてください。どうやら既に私達の約束を忘れたご様子ね。」【晴明】 「約束?」その言葉と同時に、晴明は薄っぺらい紙人形に変化した。海面に落ち、次第に遠のいていく。【八百比丘尼】 「本当に絶好の機会ですね。」【千姫】 「あなた達は…どんな約束をした?」【八百比丘尼】 「彼と約束しました、彼が私の永生を終わらせると。」【千姫】 「…あなたは既に自分が、本当の永生ではないと分かっている。あなたが食べたのは普通の人魚の肉に過ぎない。」【八百比丘尼】 「そうですね、だからこの約束もただの約束になってしまうかもしれません。」【千姫】 「悲しむ必要はない、あの男は別に強そうでもない。彼は一時的に霊獣を撃退しただけだ、殺してはいない。」千姫が言い終わると同時に、霧の中に大蛇の影が再び現れた。【八百比丘尼】 「しかしさっきのは「本当の彼」ではありません。」【鈴鹿御前】 「晴明は最近よく私達の後をつけているが、彼は一体何が目的だ?」【八百比丘尼】 「うーん、彼にははなから特別な目的なんてないのかもしれません。あちこちを回って問題を解決するのが、彼の本職とも言えるでしょう。」【鈴鹿御前】 「都で出会った彼とは、何か違うようだ。」【八百比丘尼】 「分身の術は彼の意志しか継げないので、違うと思うのも自然なことです。」【鈴鹿御前】 「ああ、そうなのか。」【千姫】 「何を隠した、八百比丘尼?」【八百比丘尼】 「何も隠していません、気のせいですよ。」【千姫】 「おかしい、墓を守る霊獣が生まれ変わった後、その力が弱くなった。墓地の奥で何か異変が起きたのかもしれない、調べてみなければ。」【鈴鹿御前】 「一緒に調べよう。」【千姫】 「異変の原因はこの渦だ。ここで作動している術式…」【鈴鹿御前】 「海貝の戟の潮汐が荒くなった。」【千姫】 「潮汐を逆転させる術式、もし潮汐の加護を失っていなければ、この術式は簡単に完成できるものじゃない。」【鈴鹿御前】 「可能性はただ一つ、鮫人は…」【千姫】 「ありえない。永生の海の鮫人は、決して裏切ったりしない。」【八百比丘尼】 「最後にこの術式が形になるとき、潮汐の力そのものを自分のものにする。」【千姫】 「ふん、小細工を。この術式は化け物を生み出せるかもしれないが、すぐに損害を与えるには至らない。とりあえず離れよう、後で鮫人に始末させる。潮汐の力さえ取り戻せば、これは自然と消える。この海域の潮汐の力は、墓碑が並ぶ場所にある。」【潮汐の力】 「女王となる者よ。「約束の歌」を歌って、私と約束を交わすのだ。」【鈴鹿御前】 「私はどんな対価を払えばいい?」【潮汐の力】 「亡霊の囁きを聞き、亡霊の揺り籠になれ。」【鈴鹿御前】 「わかった。」【潮汐の力】 「望みどおり、新たな約束をしよう。」【鈴鹿御前】 「亡霊の囁きに囲まれると、まるで自分が自分じゃなくなっていくようだ。」【千姫】 「鮫竜もこの程度か。…まずは戻って休もう。」【鈴鹿御前】 「一つだけ聞いてもいいか?「最初の約束」とは何だ、どうして永生の海では「約束」だけが無意味なものではないのだ?」【千姫】 「かつてこの果ての海に、一つの約束があった。鮫人の女王は一族の者と約束を交わした。鮫人がこの海域を出ない限り、彼女たちに真の死が訪れることはない。女王の涙が真珠となり、その約束の証となった。鮫人の涙は永生の海の一番奥の秘蔵の間に眠っている。秘蔵の扉を開けことができるのは、鍵となる潮汐だけだ。その涙は祝福されていて、無限の生命力を持つ。そして潮汐を通じて全ての鮫人に生命力を送っている。こうして鮫人達は、永生の祝福を手に入れた。祝福を送り続けることができるのは、潮汐を駆使できる女王だけだ。だから女王が力を失った今、永生の海からは間もなく永生が失われる。」【鈴鹿御前】 「秘蔵の間…女王様が取引に出した宝物とは、まさか鮫人の涙なのか?」【千姫】 「私にもよく分からない。しかし鮫人の涙がなくなれば、永生の海は永生を失う。母上が言ってたのは別の宝物かもしれない。秘蔵の間には、私すら知らないものがたくさんある。そこは女王しか入れない場所だ。」【鈴鹿御前】 「どうやら最後の最後にしか答えを教えてもらえそうにないな。」鈴鹿御前が去った後、千姫は考えに耽った。【千姫】 「潮汐を逆転させる術式、永生の海の凍結、この二つの事件の間には何か関係があるのかもしれない。永生の海を裏切る鮫人…その目的は一体何?あの永生の海を出て、短い命を選んだ鮫人…緑の竹に鶴の鳴き声、雪山に朝日、温泉に紅葉…」海岸の向こう側で、八百比丘尼は氷に閉ざされた海域を眺めている。【八百比丘尼】 「私とあなたの約束は、今にも終わりを迎えようとしている。来たるべき別れだけれど、何だか名残惜しいね。この後、あなたに後悔は残させない。そして私は…新たな旅に出る。あなたの夢は、もうすぐ終わる。」 |
最後の日
最後の日ストーリー |
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【鈴鹿御前】 「この海域には雷が所々に潜んでいる。雷の中での航海か、我が鈴鹿山の舵取りにとってはお茶の子さいさいだ。」【八百比丘尼】 「落雷をよく観察してみろ、何か規則があるようだ。自然の雷に規則なんてありえない、きっと誰かの習慣だろう。」【千姫】 「前方で、誰かが雷を追っている。鮫人か?見たことのない顔だ…」【鈴鹿御前】 「とりあえ追いかけてみよう!舵を切るぞ、気をつけろ!」【千姫】 「(彼女を止めなければ。)」【鈴鹿御前】 「おい!千姫何をする!そのまま突っ込むと落雷に打たれる…ちっ、間に合わない!」慌てて、鈴鹿御前は海貝の戟を千姫に投げた。海貝の戟は千姫の身に落ちるところだった雷を食い止めたが、千姫が海貝の戟を受け止めようとすると拒否され、感電したかのような傷を負った。【千姫】 「あなた…」【鈴鹿御前】 「避けろ!二つ目の雷が来るぞ!最初から気づいていた。あなたは他の人の命を軽んじると同時に、自分の命も軽んじている。どうしてそんな危険なことをする?」【千姫】 「このぐらいでは死なない。忘れるな、私も「永生」の祝福を受けた鮫人の姫だ。私は普通の鮫人よりも強い。例え潮汐の祝福がなくても、私の命はそう簡単に消えたりしない。先に雷を追いかける鮫人の目的地に着く、そのほうが止めやすい。」【鈴鹿御前】 「あなたに無茶はさせない。自分を傷つけたいなら、私から見えないところに行け。あなたは言っていた、永生の海はもうあの歌を歌う鮫人の生命力を回復できないと。」【千姫】 「それは彼女が「約束の歌」を歌っているから。約束の歌は一種の誓約であり、すべての約束に意味を与える。異なる鮫人が歌う約束の歌はそれぞれ違うものだ。唯一の共通点として、自分の「信念と決意」を証明するために、大量の生命力を捧げなければならない。永生の鮫人はこういう風に約束をする。あなたが潮汐の力の試練に挑む時も同じく約束の歌を歌い、生命力を捧げる。ただ鮫竜の生命力は鮫人よりも強いから、場合によっては、鮫竜はその対価に気付かないことすらある。それが鮫竜に生まれた幸運、生まれつきの才能だ。一方、弱い鮫人はそれ以上の努力をし、対価を払ってこそ、ようやく大切なものを守ることができる。」【鈴鹿御前】 「あなたは弱い人だとは思わない。」【千姫】 「…雷が落ちるぞ、一旦避けよう。」【雷を追いかける鮫人】 「千姫様!千姫様は、私達を連れて撤退するのですね!」【千姫】 「撤退?ここの撤退はとっくに終わったはずだ、命令が届かなかったか?」【雷を追いかける鮫人】 「私と暮雨はずっと待っていました。雷雨で天候があまりにも悪くて、私達は拠点に戻れませんでした。永生の海に侵入してきたやつらは、私達と一緒にいた鮫人を全員殺しました。防御の結界は、凍結された時から既に作動していません。敵に見つからないように、私達は珊瑚に隠れて、敵がいなくなった後にこっそりと拠点に戻るつもりでした。しかし、暮雨は急に歌声が、雷の中から歌声が聞こえると言い出して、雷の方へ行ってしまいました。私は彼女の後を追ったのですが、結局見失ってしまいました。彼女は消えたのです!千姫様、どうか暮雨を連れ戻してください!」【千姫】 「…それは既に百年も前のことだ、あなたはずっと過去の時間に生きている。氷が初めて永生の海を侵食した時に、外敵がその隙に乗じて攻めてきた戦争はもう終わった。私は一族の者を安全区域までに撤退させたが、あなたは…あなたは彼らと一緒にここを離れなかった。暮雨、その名前と顔…そうだったか。」【鈴鹿御前】 「うん、あなたはここで私達の吉報を待っていて。」【千姫】 「おい…できない約束は、口にしないほうがいい。」【鈴鹿御前】 「暮雨の海霊は近くにいる。」【八百比丘尼】 「この落雷も彼女が落としたものだろう、尋常ならぬ怨念を感じる。あの鮫人は気付かなかった、雷が彼女を狙っていることに。彼女の背中には雷に打たれた痕跡がある、しかし微かな永生の力がすぐにその傷を治した。雷の威力は彼女に苦痛を与えると同時に、彼女を死なせない程度に制御されている…これはわざとやっているんだ。」【千姫】 「あなた達は、さっき私を止めたことを後悔する。時に真実と偽りが混ざった嘘のほうが優しく、真相を知らないほうが幸せなこともある。」【暮雨】 「秋時…秋時…秋時…裏切者め…雷の中で罪を償え…この苦しみは永遠に消えない…」【鈴鹿御前】 「この海霊は、「秋時」が彼女を裏切ったと言っている。」【八百比丘尼】 「「秋時」って、さっき雷を追いかけていた鮫人のことでしょう。」【千姫】 「ああ。」【暮雨】 「私と約束を交わし、この恨みを受け継ぐために来たのか…恨めしい…あの臆病者は、自分が生き残るために、私を見捨てた…あの雷の日を忘れられない…臆病な弱虫、秋時…私の死はあいつに幸せをもたらした…」【鈴鹿御前】 「あなたが言う秋時は、ずっと自分を騙して、あなたを失ったあの日に生きている。何かわけがあるのかもしれない、あなたは彼女を信じるべきだ。」【暮雨】 「そうか?ならば私の怒りを鎮め、私を潮汐に帰らせてみせて。私の代わりにあの狡賢いやつが、一生罪の中で生きるよう見張っていて。」【鈴鹿御前】 「分かった、あなたはそろそろ眠りにつくべきだ。」【千姫】 「(この余裕のある優しさ…おこがましい鮫竜は、全然変わらない。)」【鈴鹿御前】 「本当に強烈な恨みを持つ声、頭が割れそうだ。」【雷を追いかける鮫人】 「雷は消えました…私にはもう彼女の歌声が聞こえません。」【鈴鹿御前】 「そろそろ私達に真実を教えるべきだろう、あの日一体何が起きた。海霊になっても、暮雨が最後まで持っていたのはあなたへの恨みだけだ。」【雷を追いかける鮫人】 「彼女は私を恨んでいるのか…背中が痛い…雷が消えて、彼女も消えた。違う、私は彼女が死ぬ姿を見た。私が弱いから!私が弱いから彼女を死なせたのです!」【千姫】 「あなたの弱さだけじゃない、あなたの欲望もだ。彼女はあなたと生涯を誓った人でしょう、ああいう恨みは珍しくない。」【鈴鹿御前】 「永生の海はそうだったの?!」【八百比丘尼】 「ここでは人間の仕来りを守る必要がありません。」【雷を追いかける鮫人】 「その通り…全ては私の一時の気の迷いです…彼女を失ってから、私はようやく自分が愚かなことをしたと気付きました。私はあの最後の日に、彼女と共に死ぬべきだったのかもしれません。彼女を失う苦しみに耐えられない私は、偽りの過去に生きて、命まで奪うことのない雷で、自分を罰することしかできない。」【鈴鹿御前】 「事実に向き合うのだ。あなたはこの罪を背負い、新しい人生を始めるべきだ。それこそがあなたがすべきことだ。逃げても現実は変わらない、それはただの自己満足だ。」【千姫】 「もしあなたがやり直すと決めたのなら、私は迎えの鮫人を手配する。」【雷を追いかける鮫人】 「この姿で戻るのは…」【千姫】 「安心しなさい、あなた達のことを誰にも言わない。名前を変えるのもいい。あるいは「暮雨」という名前を使って生きていくのも悪くない。その名前は常にあなたを戒めることができる。あなたがしたことを思い出させ、同時にあなたが生きていく支えにもなる。」【雷を追いかける鮫人】 「私は…私は自分の弱さへの恨みと、愛する人を死なせた罪と共に生きていきます。私は彼女の幸せを奪いました、私は彼女として生きていくべきです。彼女の代わりに…永生の海が再び繁栄を取り戻す日を見届けます。千姫様、私はあなた達のために祈ります。」鮫人の姿は段々遠くへ消えていった。【千姫】 「弱い鮫人はそれ以上の努力をし、それ以上の対価を払う必要がある。秋時がこの道を選んだのも仕方のないことだ。私はその気持ちが理解できる。」【鈴鹿御前】 「ならば強くなれ、愛する人を守るために、家族を守るために。」【八百比丘尼】 「皆がそんな強い人にはなれるわけではないよ。私はむしろ弱い人のほうが面白いと思う。彼女達は運命に抗い続け、微力ながら逆転することを夢見る、そのほうが奇跡が起こりやすい。物語は全部こう語っているじゃないか、強者はいつか弱者に打ち負かされ、宝物を全て奪われる。奪われた者はまた弱者となり、強者を打ち負かす次の存在となる。何度も何度も繰り返す、本当に面白いね。」【鈴鹿御前】 「しかし私は決して負けない、私には失敗する理由がない。」【千姫】 「それは楽しみだ。潮汐の力はこの先にある。」【潮汐の力】 「女王となる者よ。「約束の歌」を歌って、私と約束を交わすのだ。」【鈴鹿御前】 「私はどんな対価を払えばいい?」【潮汐の力】 「愛する人を失う、命を失い続ける苦痛に耐えることだ。」【鈴鹿御前】 「そんなのお安い御用だ、既に体験している。」【潮汐の力】 「ではあなたはどんな約束をしたいのだ?」【千姫】 「この頭が空っぽの馬鹿、まさかまた…」【鈴鹿御前】 「千姫に選ばせろ。」【千姫】 「…」【八百比丘尼】 「ほう?既にお互いに慣れたようだな。」【千姫】 「誰が彼女なんかに…」【潮汐の力】 「望みどおり、新たな約束をしよう。」【鈴鹿御前】 「幸い大したことなく、今回の試練も無事に乗り越えることができた。」【八百比丘尼】 「潮汐の愛が恨みに変化した時は、危なかった。」【千姫】 「幸い大したことにはならなかった。歴代の継承者の中でも、あのような見苦しい姿を見せるのはあなたぐらいだろう。「約束の歌」もとても下手で、あなたの長所なんか鮫竜の血を引いているということだけだ。」【鈴鹿御前】 「おい、聞き捨てならないな!」【千姫】 「あなたに聞かせるために言ったの。」千姫と鈴鹿御前がじゃれあう中、八百比丘尼は船をこいで海岸に戻った。夜、夢から覚めた鈴鹿御前は、海岸近くに来た。【凛】 「お姉さん。」【鈴鹿御前】 「凛?どうしてまだ現れるのだ…」【凛】 「お姉さんには凛が必要だから、凛が現れて話しかけるんじゃないかな。」【鈴鹿御前】 「海霊は秘密が多すぎるな。凛にお姉さんのお姉さんのことを教えてくれない?彼女はどんな人だったの?私のお姉さん…女王は千姫が私の姉だと言っていたが、彼女は私のことを認めたくないようだ。私にもあまり実感がないがな。」【凛】 「うーん、凛のお姉さんはとても頑固な鮫人だよ。彼女は強くて優しい、そして美しい人。お姉さんはあたしに話しかけないけど、いつもあたしを見守っている。あたしは深海の隅っこに隠れて、彼女が歌うのを盗み聞きして、彼女の歌声を聞きながら眠るの。彼女はずっと、お母さんは彼女のことが嫌いだと思ってるけど、実は違うんだ。彼女は十分に立派な人。彼女は凛が持っていない強さを備えている。夜が明けた、凛はそろそろ戻って眠るべきだ。夜が終わる頃、凛はお姉さんから離れた。あの夜がいつまでも終わらないでいてほしかった…凛とお姉さんの最後の日…」【鈴鹿御前】 「おやすみ、凛。あなたの夜はとても長い。」海岸の向こう側で、八百比丘尼が千姫と話している。【八百比丘尼】 「法螺貝の物語はやはり面白いですね。鮫人達も人間のように偽りの幻想をたくさん抱えている。陸には飛べる爬虫類がたくさん存在し、鮫人の涙を集めることが趣味な妖怪もいて、山の中で流れる水は緑色、氷は自分で燃える…これらは全て偽りのものが混じっていますね。」【千姫】 「外の世界はどんな世界なの?鮫人は永生の海を離れられない。永生の海を離れた途端にすぐに衰え、死を迎える。もしあなたが言ったように、生きるために他人のものを奪わなければならないのなら、そうすることは正しいでしょうか?」【八百比丘尼】 「自分にとって正しいければ、あらゆる手段を使って生きることは、恥ずかしいことではないと思う。では私が外の世界のことを話してみましょう。千姫様はきっと良い聞き手でいらっしゃると思います。荒果てた神社と自分を燃やし続ける妖怪の話、賑やかで光が溢れる街の話、凶神の封印の上に建てられた人間の町の話、どれが聞きたいですか?」【千姫】 「物語を語るのはあなただから、あなたの好きな話から始めよう。」【八百比丘尼】 「では凶神の封印の上に建てられた人間の町の話をしましょう。この物語はとても長くなります、私の命が終わる時までに、物語の結末を見届けられるかわかりません。」 |
支える物
支える物ストーリー |
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【千姫】 「「人は生まれながらにして、その運命は既に決まっている。」じゃあ私の運命は…この世には、いくら努力してもできないことがたくさんある。永遠の命、永遠の努力、永遠の失敗…永生の海はまさにこういう場所だった。かつて栄華を極めた故郷が氷に閉ざされるのを、永生だった命が永遠の死になるのを見た。これは私のために作り出された機会だと思っていたけれど。女王である母上が潮汐の力を制御できないせいで、永生の海は氷に閉ざされてしまった。唯一鮫竜の血を引く鈴も、行方不明になった。鮫人の姫である私は、永生の海を守れる唯一の希望。でもこの希望は同時に絶望でもある。私がいくら「約束の歌」を歌っても、海貝の戟と潮汐は決して、鮫人の血を引く私を認めてくれない。私は狂った氷が永生の海を呑み込むのを、黙って見ていることしかできない。でも今、鈴がまた戻って来た。彼女は当然のように、難なく海貝の戟を抜いて、まだその中に残る潮汐の力を馴らした。彼女は再び、自分が尊き血を引いていることを証明した。女王になって、永生の海を救えるのは鮫竜だけ。私は彼女を憎んでいる、彼女に嫉妬している…そうかもしれない。」【鮫人族女王】 「「千姫、諦めなさい。これはあなたが持つべき運命ではなかった。」」【千姫】 「母上は…もう私を見てくれない。」船が波に打たれてよろめく中、千姫の夢は遠のいていく【八百比丘尼】 「千姫様?」【千姫】 「母上…行かないで…」【鈴鹿御前】 「どうしたの?女王と離れてから時間はあまり経っていないが、もう彼女のことが恋しくなったのか?」【千姫】 「何でもない、ただ悪夢を見ただけ。最後の潮汐は凍結された海域にある、案内する。」【鮫人召使い丁】 「千姫様。」【千姫】 「うん、私は先に用事を片付ける。鈴鹿御前、八百比丘尼、一旦鮫人の住居に留まっていて。海月屋の最上級の料理を届けるように言っておく。」【鈴鹿御前】 「どうして急に…」【八百比丘尼】 「行きましょう、鈴鹿御前様。」千姫が鮫人の従者と共に去り、ある場所に向かう途中。【鮫人召使い丁】 「あまり落ち着かないようですね。潮汐の力を集める件は順調なはずだと思いますが。」【千姫】 「私はこれからのことを考えている。緑の竹に鶴の鳴き声、雪山に朝日、温泉に紅葉…あなたは外の世界の美しい景色を、見に行きたいと思ったことはないか?永生の海の変わらぬ景色に、もう飽きたとは思わないか。もし永生の海を離れたら、鮫人は永生の祝福を失い、著しく老化して死ぬ。」【鮫人召使い丁】 「外の世界にはある虫がいると聞いた、その虫は生涯火を追い求める。虫が火に近づくと、火で焼けて死ぬ。しかしそれでもその虫は、進んで火の中に飛び込む。永生は多くの鮫人から、命の意味を探し求めることを奪ったのかもしれない。千姫様も生涯に一度の、死の美しさを追い求めたいですか?あの…墓地で眠る鮫人達のように。」【千姫】 「私の進むべき道はとっくに決まった。」【鮫人召使い戌】 「千姫様、今度もまた…鈴姫様がもう戻られました、千姫様はもうこういうことをする必要はないのです。鮫竜の膨大たる生命力のほうが、ずっとふさわしい…」【鮫人召使い丁】 「諦める千姫様ではありません。」【千姫】 「…鈴は…彼女は昔の記憶を失った。彼女は戻ったけれど、永生の海の鈴姫はもう帰らない。ああいうやつがいくら綺麗な言葉を並べても、永生の海を彼女に託すわけにはいかない。せめて…私にできる範囲だけでも、私がやらなければならない。私は決して、永生の海を裏切ったりしない。」千姫は鮫人達を氷漬けにした氷を撫でている。こういう時にだけ、彼女はあの傲慢な鮫人の姫ではなくなり、珍しく優しい顔を見せる。【千姫】 「もう少し頑張って、氷はもうすぐ融けるから。私はずっとそばにいる、このまだ終わらない悪夢の中で。」氷から溢れ出た、冷たさと恐怖を持つ「汚れ」が黒い泥のように広がり、鮫人を捕える悪夢となった。【鮫人召使い丁】 「千姫様…今回も、悪夢から目覚められますように。」夢は広がり、誰もが夢に落ちてしまった。【鈴鹿御前】 「この「刺身の竜」は本当に美味しいな。」【八百比丘尼】 「占いの結果に、新しい変化が現れたようです。千姫様の星は、闇に覆われました。」鈴鹿御前の足元の氷が急に割れたせいで、彼女達は氷の中に落ちてしまった。彼女達と一緒に落ちてきたのは、一筋の疾走する火の光だ。【八百比丘尼】 「まさか私の袖の中のこの羽で、本当にあなた様をここに呼び出せるとは思いませんでした、鳳凰火様。」【鈴鹿御前】 「鳳凰の火種、自分を燃やし続ける妖怪…」【鳳凰火】 「また会えましたね、八百比丘尼。あなたの心に二つの炎が見えます。一つは私達が朱雀門で別れた時のように、微かに燃えています。もう一つの炎は、今にも自分の全てを燃やしてしまいたいといった様子です。この氷に閉ざされた海に、燃え続ける夢があると感じます。そこがあなた達が向かうべき場所です。私が力を貸しましょう。私も、誰かの心を温めるために炎を燃やしてみたいのです。八百比丘尼、もし平安京に戻れたら、鳳凰林にいる私に会いに来なさい。夢の火種はもうすぐ燃え尽きそうです、早く行きなさい。」鳳凰の火種は炎となり、遥か大空へと飛んで消えた。【八百比丘尼】 「鳳凰火様の力は既に消えました。この羽にはまだ少しだけ熱が残っています。私がここに来る前に、鳳凰林の神社はもうほぼ誰も訪れない場所になってしまいました。最後の供え物は私が作った鏡餅です。私はそろそろあの神社の様子を見に行くべきです、もしまだ機会があればですが。」【鈴鹿御前】 「燃える夢、それは千姫と鮫人のことか?」【八百比丘尼】 「あの子の命の火が弱まっているのを感じます、早くしないと…」【鈴鹿御前】 「あの子?」【八百比丘尼】 「行きましょう、鈴鹿御前様。」氷に閉ざされた地脈をたどって前に進むと、鈴鹿御前と八百比丘尼は祭壇が設けられた氷の洞窟についた。【鈴鹿御前】 「ここの鮫人達はどうしたの?」鮫人達は隅っこで丸くなり、寒さに震えている。彼女たちの目は強く閉じていて、まるで悪夢を見ているようだ。千姫だけが祭壇の真ん中に跪いて、今にも氷の刃を胸に刺そうとしている。八百比丘尼が杖を持ち上げ彼女が持っている氷の刃を振り落とし、鈴鹿御前がすぐさま祭壇に飛び上がった。【鈴鹿御前】 「千姫?!何をしているんだ!自分を犠牲にしても大丈夫などと馬鹿げたことをまた言うのか?!」【千姫】 「…」千姫の目は暗く、ただ鈴鹿御前を見つめている。【八百比丘尼】 「彼女はある邪悪な力に蝕まれたようです。鈴鹿御前様、どうかあなたのお力で彼女を呼び起こしてください。」【千姫】 「「鮫竜よ。」「知っているか、永遠の命はいつも同じ永遠の悪夢を繰り返している。」「それはいくら頑張っても、決して実現しない夢だ。」「失敗したらやり直すだけだ。何度も何度も。私には、諦めることを許してくれる優しさは、一度も与えられなかった。」「もし私にできなかったら、もし私が自分を犠牲にすることさえできなかったら…」」【鈴鹿御前】 「あなたが本気でこれ以上自分を犠牲にしたいと言うのなら、私が先にここであなたを倒す。あなたを動けない状態にする。」【千姫】 「「あなたは弱さ故の辛さを知らないだろう。」「弱い鮫人が生き残りたいなら、もっと大きな対価を払わなければならない。」「鮫竜の加護を失った永生の海には、悪夢しかなかった。」「鮫竜に容易くできること…」「もし私が…私の犠牲が永生の海を救えるなら…」「私は必ずそうする。」」【鈴鹿御前】 「ふざけたことを言うな!」【千姫】 「「もし私が…私の犠牲が永生の海を救えるなら…」「私は必ずそうする。」」千姫の目は、次第に光を取り戻した。彼女は話しながら、地面に落ちた氷の刃を拾って、それを力一杯に自分の胸に刺した。【千姫】 「潮汐が私に応じないと言うなら…今をもって私の命を全て捧げる、だから本物の鮫竜に応じなさい!」【鈴鹿御前】 「馬鹿、やめろ!」【千姫】 「私は永生の海の鮫人の姫だ。永生の海を守るために生まれた。これは私の義務であり、私の選択だ…何度でも、私の意志は変わらない、消えない。」【八百比丘尼】 「千…」祭壇にある法陣が眩しく光り始めた。千姫の意識は遠のいていくが、それでも彼女はまっすぐに前を見ている。最後の潮汐の力が、ついに現れた。祭壇の下、海潮が荒ぶる中、潮汐の力が現れた。【潮汐の力】 「女王となる者よ。「約束の歌」を歌って、私と約束を交わすのだ。」【鈴鹿御前】 「くそっ!私はこの悲劇を終わらせる!目の前にいる人さえ守れのないなら、こんな力などいらない!私はこの悲劇を終わらせる!」【潮汐の力】 「望みどおり、新たな約束をしよう。」【鈴鹿御前】 「千姫?千姫?まだ生きているか?」【八百比丘尼】 「私が千姫様の傷を癒してみましょう。回復するのには、まだ時間がかかりそうです。」【鮫人召使い】 「千姫様…」【鈴鹿御前】 「ここで一体何があった?千姫はなぜこんな姿になった?」【鮫人召使い】 「永生の海の凍結が広がり始めた後、一部の鮫人は氷に侵されて永遠の眠りにつきました。彼女達の寂しい悪夢が縺れて、「汚れ」となりました。周期的に「汚れ」を祓わなければ、彼女達はすぐ夢の中で本当に死んでしまいます。千姫様はこの祭壇を通じて鮫人の悪夢の中に入り、お祓いの儀式を行っていました。でもその時彼女も汚れに影響され、心の中の恐怖と弱さが表に出てしまったのです。もし自分の意志で目覚めることができなければ、悪夢の中で自分を殺すことになってしまいます…もし儀式を行うのが鮫竜なら、鮫竜の力は容易く汚れを祓うことができます…しかし千姫様は誰も信じていません、彼女が信じているのは自分だけです。鈴姫様、千姫様をお願いします。汚れを祓った後、千姫様はまたして自分の生命力を代償として潮汐を召喚しました。彼女が持つ永生の力は今…とても弱々しいものになっています。」【鈴鹿御前】 「分かった。海貝の戟が持つ潮汐の力で、彼女を回復させてみる。」【八百比丘尼】 「本当に頑固な子…まずは汐語の海岸に戻りましょう。そこには千姫様の大好きな海潮の音があります。そうすれば彼女の夢から苦しみは消えるでしょう。」千姫が目覚めた時は、既に星が煌めく夜だった。【鈴鹿御前】 「目が覚めたか?」【千姫】 「…」【鈴鹿御前】 「えっと、その…潮汐の力はもう全部取り戻した、明日になったら女王のところに帰れる。永生の海の凍結は、もうすぐ終わる。私は…私達が初めて出会った、あの凛と言う海霊のことをまだ憶えているか?」【千姫】 「凛?」【鈴鹿御前】 「彼女はあなたの「妹」かもしれない。いや、きっと彼女は、昔の「鈴姫」が残した思念に違いない。私にはその記憶がなかった。彼女は私の過去の記憶を記録した海霊だ。かつてあなたは鈴姫に法螺を贈った。鈴姫は法螺に潮汐を入れて、思念を打ち明けた。鈴姫が去った時、法螺を落としていった。思念は潮汐の力を借り、法螺を依り代にして、新たな命を生み出した。彼女は大海を彷徨い、永生の海が凍結された後に死んで、海霊となった。「鈴姫」。彼女はその思いをお姉さんに伝えたい。彼女はあなた…強くて美しいお姉さんを慕っていた。」【千姫】 「鈴…以前、私は海貝の戟の前で「約束の歌」を歌ったことがあった。怒り狂った潮汐が私を引き裂こうとした時、鈴は前に出て私を庇った。眩しすぎるよ…今になっても、まだ眩しいよね、鮫竜。私には、あなたを恨むことすらできなかった…」【鈴鹿御前】 「あなたに「鈴姫」を返すことはできないけど、「親友」になることはできる。お望みならば、私のことを「鈴」と呼んでもいい。」【千姫】 「ふん、私の妹はとっくに帰った。」【鈴鹿御前】 「え?」【千姫】 「今のあなたは「鈴鹿御前」。それも悪くない。「鈴」と呼んでほしいなら、まずは私のことを「お姉さん」と呼びなさい。」【鈴鹿御前】 「…」【八百比丘尼】 「お二人は、何か面白いことでも話しているのですか?」【鈴鹿御前】 「八百比丘尼、なぜあなたが海貝の戟を持っているんだ?」【八百比丘尼】 「海貝の戟があの場所に置き去りにされたのを見たので、波に流されたら大変だと心配して持ち帰ったのです。」【千姫】 「八百比丘尼、海貝の戟はあなたを拒んでいない。」【八百比丘尼】 「私だって、少し有名な陰陽師ですよ。潮汐の力こそ使えませんが、神器を触っても大丈夫な陰陽術ぐらいは、心得ていますよ?お二人は早く休まないと、夜が明けますよ。」【鈴鹿御前】 「明日はいよいよ女王のところに戻る。永生の海も必ず無事に蘇る。心配しないで、千姫。」【千姫】 「ふん、別に心配などしていない。」【八百比丘尼】 「お休みなさい、どうかお二人の夢が安らかなものでありますように。」千姫の夢の中、彼女は幼い時の姿になって、海潮が満ちた岩礁のそばで歌っている。【千姫】 「母上…今回は私、よくできたでしょう?緑の竹に鶴の鳴き声、雪山に朝日、温泉に紅葉…母上もそんな景色が見たいと思う?もしかしたら、母上が衰えたのも、永生の海を出て罰を受けたのかもしれない…永生の海の外の世界、火に向かって飛ぶ虫、墓地の中の死体…凍結が終わったら、私が皆にあの歌を届ける。もし皆が離れたいと思うなら…その時、私は…」 |
汐夢の約束
汐夢の約束ストーリー |
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【八百比丘尼】 「此度の旅はもうすぐ終わります。私の占いによれば、氷雪も解けます。雪が解けると寒さが増します。この寒さを凌がずに、真の朝日を迎えることはできないでしょう。」【千姫】 「どんな時でも、鮫人達は既に覚悟を決めていると信じている。」【鈴鹿御前】 「あなたもだろう、私にはわかる。」【千姫】 「わがままな選択かもしれないけど……後悔はしない。」【鮫人族女王】 「さすが私の優秀な子供たち。鈴鹿御前、潮汐と海貝の戟を差し出しなさい、あなたとの約束を果たしましょう。さあ、もっと近づいて、顔をよく見せなさい。この数百年、私はずっとあなたのことを思っていた。私の鮫竜の姫、なんて貴い姿。」【千姫】 「(母上……やはりそうだ……みんなが私の努力を認めてくれても、母上だけは……)」【八百比丘尼】 「……」【鈴鹿御前】 「鮫人の女王、約束は果たした。術を発動して潮汐と新たに約束してくれ。永生の海があなたたちを待っている、私の家族も私を待っている。」【鮫人族女王】 「もうすぐ、もうすぐ完成する。」鈴鹿御前が海貝の戟を持って法陣に踏み込むと、潮汐の力と彼女の命が女王に吸い取られていく。【鈴鹿御前】 「…?!この感じ……力が吸い取られてる?!」【千姫】 「母上?何を!このままでは鈴は死んでしまいます!彼女の永生は不完全で、この術式に耐えられません…まさか最初からそのつもりだったのですか……?彼女の命を奪わなければ、永生の海を救うことができないのですか?」【鮫人族女王】 「千、私は言ったはず、弱い鮫人が生きていくためには、重い代償がつきものだと。鮫竜の血がないなら、奪い取って自分のものにするまで。彼女と過ごしていた間、あなたにはいくらでも機会があったはず。結局あなたは……出来損ない姫のまま。捨てるべきものを捨てず、誰かを傷付けることもしない。甘いあなたに一族の女王が務まるわけがないだろう?鮫竜の力だけが、潮汐を操ることができる。ここで諦めて、この力を手に入れなくとも、安心できるのか。」【鈴鹿御前】 「貴様に彼女を評価する資格はない!」【千姫】 「違う……違う……幸せは「奪い取る」ものじゃない……母上、彼女の命を奪ってはなりません。彼女はもう永生の海の者ではないのです!」【鈴鹿御前】 「やめろ、千!」千姫は鈴鹿御前を束縛する法陣を引き裂き、両手は血まみれになった。おかげで術式が中断され、鈴鹿御前は解放された。それと同時に、海貝の戟から不思議な光が放たれて鮫人女王を襲った。女王の顔は額から裂け、別の顔が表に現れた。【鮫人族国王】 「おのれ……!いつの間に術式を?!」【千姫】 「……そんな……あなたは、一体……」【八百比丘尼】 「千姫様……あなたは騙されていたのです。彼女はあなたの母親ではありません。鮫人の雄は、伴侶が亡くなると雌になります。彼は女王を殺害し、その特性を利用して女王に成りすましていたのです。そして本当の女王を失った永生の海は、氷に閉ざされてしまいました。これが、私があの約束から見た真実です。」【千姫】 「あの約束、まさか……」【鮫人族国王】 「ふん、なるほど、女王の記憶と永生の力を受け継いだ人間か。あの夜、私は彼女を殺した。あの時少し情けをかけたせいで彼女はまだ生きているかと思ったが、その後訪れた氷結で彼女の死を確信した。まさかあの孤高な女王が人間如きに助けを乞うなど、思いもよらなかった。ふん、皮肉なものだ。彼女には必死に守りたいものがあったが、同じく永生の海の鮫人である私は、その対象に含まれていなかった。鮫人の女王である彼女は、子を産むと衰弱し、夫を食べて力を回復する必要があった。運が良いのか悪いのか、私がその夫だった。生きるために抗う……私は悪くない!私は生きたいだけだ!ははは、術式を止められたせいで、鈴鹿御前から鮫竜の力を奪いきることはできなかったが、潮汐は既に我が手にある。」【千姫】 「あなたが……あなたが母上を……」【鮫人族国王】 「そうだ。血の定めなどバカバカしい!選ばれなかったからと言って、黙って女王に命を捧げなければいけないのか?ふん、自分の運命は自分で決めるさ。そうだろう、千姫?」【千姫】 「……私は認めない。」【鮫人族国王】 「私の歩んだ道を認めないのか。見ろ、千姫。鮫竜の力さえを奪い取れば、由緒正しい血筋を持たない私でも使えるではないか?女王に代わって永生の海の凍結を終わらせ、民を救えるんだ。それでいいだろう?そなたのことを幼い頃から見ていた、そなたの嫉妬、悔しさ、痛み……全部見てきた。そなたとて、理不尽な運命に逆らうつもりなのだろう?」【千姫】 「あの時、私は決めた。母上に初めて拒絶された時、私は決めた。なんとしてでも、母上に認められて、この海域の真の守護者になると決めた。私は……これが誰かに同情されるような運命だと思っていない、そして……諦めない。」【鈴鹿御前】 「千!海貝の戟に触れてはいけない!私に任せろ、まだ少し潮汐がある…」【千姫】 「これは私が望んだ運命。これ以上、誰も犠牲にしたくない。「約束の歌」よ、私に応えて!潮汐が私を認めてくれなくても、ここに生きる鮫人達、潮汐に帰った海霊達…私たちの永生の海を守るために、私の歌声に応えて!私は諦めない。どんなに絶望しても、私は皆の期待を背負う覚悟を決めた。そしてあなたを…私の母上がいるべき場所から、引きずり下ろしてやる。」潮汐の加護を得た強大な敵に直面し、皆苦戦を強いられる。【鮫人族国王】 「そなたなら理解してくれると思ったが、千姫。抵抗はよせ、そなたの仲間は既にこの強さに圧倒された。強者にひれ伏す、それが弱者の生きる道だ。」【千姫】 「……」【鮫人族国王】 「私は彼女のようにそなたを見捨て、拒絶したりしない。そなたは私と同じ、弱い鮫人だ。そなたは否定するが、そなたは心の底では……私のように、弱者に定められた運命を呪っている。運命には逆らえない。雄の鮫人である私は、この海域で堂々と生きることは叶わない。そなたは鮫人の姫だ。鮫竜の血筋がなければ、真の女王にはなれず、偉大な夢を叶えることもできない。【千姫】 「黙れ、私は諦めない。」【鮫人族国王】 「では一つ秘密を教えよう。悪意に満ちたバカバカしい真実、鮫人族の永生の秘密を。冥土の土産として、そなたの弱い心を突き刺し、私と同じ絶望を味わわせてやる。そなたが守り、大事にしてるもの…未来など存在しない「今」だ。」【千姫】 「あなた……何を言っている?」【鮫人族国王】 「私が民に、災いによって潮汐の力が失われたと嘘をついたように、初代の女王も民を騙していた。「最初の約束」、それは残酷な現実を粉飾した嘘だ。私は女王を殺した後、彼女の残された手札から鮫人の真相を見た。初代の女王は、鮫人一族の生命力を「鮫人の涙」という器に入れている。すでに生まれた鮫人、これから生まれる鮫人、全員の生命力がそれに入っている。鮫人は鮫人の涙と約束をし、生命力を求めて永生となった。しかしそのやり方では、生命力を得るのに時間がかかり過ぎる。だから潮汐の力を媒介にし、さらなる生命力を得て永生に至った。鮫人の歌声は人間を永生の海に誘い込み、生命力を奪う。鮫人が生命力に飢えているからだ。奪われた生命力は潮汐によって鮫人の涙に注入され、新たな永生の力となった。これでわかったか。鮫人が生きていること自体が罪だということが。鮫人の永生は、他人の生命力を消費し続けているのだ。まだ生まれてない鮫人、永生の海に誘い込まれた「客人」、皆が生命力を奪われ、永生の犠牲になった。」【千姫】 「……」【鮫人族国王】 「辛いだろう、そなたが守っている永生の海は、いずれ滅びるのだ。なぜ雄の鮫人は生まれつき弱いのか知っているか?雌と違って、生まれつき欠陥があるせいで、鮫人の涙の生命力をほとんど吸収できないからだ。雄の鮫人は、まるで鮫竜の血筋を持たない姫のように、この海域において期待されない存在なのだ。いや、それ以下だ。だが私は違う。今の私は潮汐の力を操り、大いなる生命力の流れを導くことができる。弱かった私はもういないのだ。潮汐を逆転させる術式を設置したのも私だ。今は永生の力を吸い取っている、私一人のためにな。さぁ、醜い生き方を捨て、覚めることのない夢に身を委ねよう。眠るがいい、我が愛しい千姫。幸せだった時に戻るがいい。母上がそなたを優しく見守る。父上がそなたに花冠を贈る。妹がそなたに寄り添って歌う。」【千姫】 「母上……父上……鈴……」【鮫人族国王】 「皆がそなたを愛してる、そなたは夢を見ていいのだ。」【千姫】 「…違う。これは嘘だ!私は嘘の中で生きたりしない!」【鮫人族国王】 「私から離れれば、そなたはまた酷い目に遭うぞ。」【千姫】 「運命の不公平は憎いけれど、偽りの嘘はもっと憎い。母上が見向きしてくれなくても、父上の愛がなくても、妹が私のことが嫌いだとしても……私の選択はとっくに決まっている。いかなる時でも、私の存在意義は、この海域を守ることだ。その罪を背負い、そして断ち切る。民が望む未来を選んでみせる。未来が枷なら、断ち切る。未来が死なら、受け入れる。未来が自由なら、抱きしめる。でもあなただけは、すべてを壊したあなただけは、絶対に許さない。あなたに民を代表する資格はない。あなたは永生の海を去って死んだ鮫人の遺言に、耳を傾けたりはしない……あなたを倒して、鮫竜の力と潮汐の祝福を奪い返す!私は新たな約束をする…」【鮫人族国王】 「そなたの望み通り、残酷な現実に戻って、決着をつけようではないか。これは弱者である私たちの、運命の戦いだ。そなたが負けたら、私は最後の鮫竜の力を奪い、真の女王になる。……私の負けだ。」【千姫】 「昔あなたは教えてくれた。弱者に感情を抱いてはならない、弱い存在はすぐ消滅するから、と。感情を抱けば、悲しみが増えるだけ。あなたみたいに闇の中でしか生きられない鮫人は、深海で飽きるほど見てきた。でもあなたは知らない。朝陽の下で生きる美しい鮫人も同じだということを。彼女たちも、闇の中で暮らしている。この海域から出られないことが、彼女たちにとっての「闇」。あなたの言う通り、潮汐は祝福をもたらし、そして滅びを招いた。鮫竜の力を受け継いだ者だけが、永生の真実を知っている。鮫竜たちはその悲しみと重みを背負ってきた。それが彼女たちの「闇」。私は鮫竜の血筋を持たないからこそ、この闇を直視できる。 |
だから……私は決めた。血筋と運命に抗い、全身全霊で祈り、守る。」【鮫人族国王】 「千姫よ、新しい女王になれ。そなたは弱さというものを知っている。きっとこの海域を新たな未来へと導いてくれる……長年、私はそなたのことを見ていた……」氷が割れ、鮫人の国王は、彼の黒竜と共に深海に沈んでいく。【鮫人族国王】 「ああ……ようやく……そなたがいる夢の中に、帰ることができる……」【千姫】 「おやすみなさい、私のもう一人の母上。あなたは恐怖の中で自分を見失っていた。私が……鮫人を守る。一人で闇から逃げ出したりしない。皆と一緒に闇を抱きしめる。」【八百比丘尼】 「彼は失敗しました。運命というものはいつも盛大な悲劇で終わってしまうものです。」【鈴鹿御前】 「うん……永生の海の凍結が、酷くなっているようだが?」【千姫】 「潮汐が怒ってる、偽りの女王を呑み込んだ……このままではいけない……」【鈴鹿御前】 「私が……海貝の戟を……操ろう……どうやら鮫竜の血筋だけが……呑み込まれずにすむようだ……馬鹿馬鹿しい……」【千姫】 「私に任せて。」【鈴鹿御前】 「馬鹿を言うな!これ以上潮汐に祈り続ければ、あなたは、あなたは……」【千姫】 「それくらいわかってる。でも今のあなたには無理。たとえあなたでも。あなたは自分の居場所を見つけて、守りたい人もできた……私は、ここを守らなければならない。永生の海を絶対に見捨てたりしない。それが私の生きる理由、私の最後のわがまま!」【鈴鹿御前】 「けど…」【八百比丘尼】 「行かせてあげましょう。彼女のたった一つの夢が、今叶おうとしています。彼女の数百年の宿願、彼女が選んだ人生なのです。」【千姫】 「この時を長い間待ち望んでいた。私は今、人生で一番幸せ。永生の海を守りたい気持ちは、誰にも負けない。母上……見えていますか、もう一度私を認めてくれますか。感じる、潮汐が「新たな約束」を囁いている。私の命を燃やして、この氷を溶かすがいい。そして未来を切り拓け!永生の海よ、目を覚ませ…」鮫人の姫の最後の歌声が響き渡り、永生の海がよみがえる。氷山が崩壊し海に沈む。鯨の群れが空に向かって跳ねる。鮫人が潮汐を追いかけて泳ぐ…朝日が昇り、千姫はまるで自分が幻の沫と化し、深海へ戻ったかのように感じる。彼女は長い夢に落ち、潮のさざ波と夢幻の歌が聞こえる。【鮫人族女王】 「人は生まれながらにして、その運命は既に決まっている。鈴はあなたと違い、彼女にはこの海域を守る使命があるのです。千よ。あなたには、生きることを選んで、より良い人生を送ってほしいのです。」【千姫】 「母上……私は決めました。」八百比丘尼が海岸を一人で歩いてる。千姫はここの潮の音が大好きだった。【八百比丘尼】 「旅は終わりました。あなたの子供たちは立派な姫になり、私はあなたの代わりに最後まで見届けました。鮫竜の鈴姫は潮汐を集め、約束の資格を千姫に譲りました。鮫人の千姫は最後に命を捧げ、新たな約束をし、永生の呪いを断ち切って、鮫人族の未来を取り戻しました。あなたが心配していた姫は、自身の弱さゆえに運命に翻弄されることなく、勇敢に運命に打ち勝ちました。力、才、血筋……人の人生はこれで決まるわけではありません。彼女は黒真珠のように、黒く染まっても輝くことができます。あなたの思った通り、彼女は自分で選びました。我が子を愛していない親なんて、この世にいませんから。私はあなたの思いを彼女に伝えました。彼女が目覚める時、すべてが報われるでしょう。永生の鮫竜は、自ら死を選びました。絆にこのような解釈と渇望を持つことの意味は、おそらく永生の者にしか理解できないでしょう。鈴鹿御前は彼女の弟である大嶽丸のために永生を共有し、あなたは我が子のために静かに死を受け入れました。あの時、偽物の女王に悟られぬよう、あなたは永生の力を私にくださり、私の記憶を封印しました。そしてこの力はあなたの娘の千姫のために使うと、約束を交わしました。あなたが夫の陰謀を知った後にこっそり送り出した鈴姫は、血の因縁によって私と出会いました。その時、記憶の封印が解かされ、私を永生の海へと導いてくれました。あなたが懸念していたように、鮫人の姫の千姫は自分を犠牲にして永生の海を救うことを選びました。いつも彼女のことを拒絶したり、叱ったりしていたけれど、あなたは彼女のことを誰よりも愛していました。私が本来人間であるせいか、永生の力は強大な生命力に変わりました。生命力は千姫を呼び覚ますために使いましたが、私の体にもまだかなり残っています。これは……あなたからの最後の贈り物でしょうか。終わりはまだ先ですが、私の時間は確かに流れ始めました。あなたとの出会いも、きっと運命の導きだったのでしょう。過去に、永生は私にとって最も憎い呪いだと考えていたことがありました。村の人々が私に人魚肉を食べろと言い、飢えが恐怖に勝ちました。何度も何度も、「人魚の肉」をたくさん食べました。最初の頃は「永生」を手にしたのだと思いました。どんな傷でもすぐに治りました。あの日海辺に倒れていたあなたに出会って、あなたの記憶から永生と鮫人の真実を知りました。あの時から、今日のこの結末に向かって、運命の歯車が動き出しました。永生に打ち勝つための「絆」、凶神の封印の上に建てられた人間の町で見た絆。あとは、この羽根も意外な絆でしたね。この旅が終わったら、海月屋の料理を持って帰りましょうか。」潮の音が絶えない、夕暮れの海岸。彼女は微笑むと、その場を去った。千姫は潮汐の力で雲外鏡の欠片を浄化し、海底の祭壇から降りた。【千姫】 「雲外鏡の欠片の浄化には、大量の潮汐の力が必要。潮汐の力が回復するまで……私がここを守る。」【鈴鹿御前】 「あなたなら、きっと大丈夫だ。ここにいると、祭壇は高く遠くに見える。あなたが女王を見上げていた時の気持ちが……少しわかった気がする。」【千姫】 「へえ?私の妹も、人を見上げたりするんだ?」【鈴鹿御前】 「は?この高さだぞ、見上げないと見えないだろう?」【千姫】 「……私はこの雲外鏡の欠片から、嘘の未来を見た。永生の海の永生のような、とんでもない嘘を。あなたを……傷つけるかもしれない。」【鈴鹿御前】 「心配するな、自分の身は自分で守る。」【千姫】 「べつに心配してない!八百比丘尼はまだ?目覚めて以来、彼女を見ていない。お礼を言わないと。」【鈴鹿御前】 「私たちは明日帰航するから、その時に会えるさ。」【千姫】 「鮫人たちに、あなたたちへのお土産を用意させておいた。海月屋の御膳も二人分ある。それにこの生命力を失った「鮫人の涙」も。永生の海は、鮫人の涙の祝福と束縛から解放されたから。持っていって、あなたの家族の魂の依り代になるかもしれない。眠っていた時、皆の祈りが聞こえた。彼女たちは、永生の海を去った鮫人が作った歌を歌っていた。緑の竹に鶴の鳴き声、雪山に朝日、温泉に紅葉……見たことのない景色が、皆の自由に対する思いをかきたてた。鮫人はもう永生に束縛されたくない。新たな約束が交わされた。私が潮汐の認める女王になれたのも、この気持ちのおかげだと思う。永生の呪いを断ち切ることが、女王である私が背負う責任と罪。呪いがなくなった今、雌と雄の間の隔ても消えた。皆で支え合い、未来へと歩んでいく。」【鈴鹿御前】 「あなたが決めたことだ、応援する。鈴姫もな。」【千姫】 「あなたにもう一つ贈り物がある。」【鈴鹿御前】 「これは玉手箱か?」玉手箱を開けると、美しい歌声が流れた。【千姫】 「鮫人の歌の玉手箱。」【鈴鹿御前】 「ついでに……私もあなたに贈り物がある。あなたにとって大切な岩礁を、もとに戻しておいた。」【千姫】 「……これは予想外の喜びね。母上が岩礁に祝福を与えて、私守っていた。でも私は気づかなかった。それがまた戻ってきた。「子供を愛していない親なんてこの世にいない」か……母上に……私の歌が聴こえたら、きっと私のことを誇りに思っているでしょう。鈴鹿御前、また永生の海にいらっしゃい。その時はもっと美しい海を見せてあげる。」【鈴鹿御前】 「自信満々だな。」【千姫】 「私は永生の海の女王だから。永生の海を脅かす存在は私が排除する。……またね、鈴。」千姫は別れを告げて、その場を去った。【鈴鹿御前】 「明日、見送りには来なさそうだな。とにかく、お互い良い結末を迎えることができた。大嶽丸、待たせたな。すぐにあなたたちの所に戻ってくる。」 |
零れの章
汐中の月
汐中の月ストーリー |
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これは憧れについての物語。 私が生まれる前、月の夜に永生の海から鮫人の歌声が聞こえるという伝説があった。 波が海岸に打ち寄せ、そっと私を抱きしめてくれる。 私は願った、月光を潮汐に乗せて最愛の姉に贈りたいと。 私は彼女の歌声に魅せられた。一緒に過ごした時間を、海貝が見届けていた。 不幸が訪れた夜、私だけが取り残された。 私は海を漂流し、約束を胸に秘め、再会の日を待ち続ける。 |
忘れ得ぬ地
忘れ得ぬ地ストーリー |
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なぜ安全な場所に避難しないかって? 年のせいで何処にも行けなくなったからさ。 離れようにも、この地にある記憶に引っ張られて、離れることができないんだ。 今も覚えている、彼女が昨日被った花冠、一昨日口づけした魚、三日前の笑顔…… はぁ、我々永生の鮫人は、絆を頼って孤独感を払拭するしかないんだ。 あちこちが凍り、彼女もいない今、何処へ行けと言うんだ? ここで思い出を抱きながら、凍りついていくとしよう。せめて……彼女のことを覚えているうちに。 |
三つの心の声
三つの心の声ストーリー |
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数百年の間、私はこの美しい見た目で、以前愛した彼女に成りすました。 私は自分の名前を持たない、片隅でひっそり暮らすのが相応しい存在だった。彼女が私を選ぶまでは。 偽りの言葉、偽りの抱擁、偽りの微笑み、私は偽りの中で幸せを見つけた。 真実が明らかになった時、生きる苦境と偽りの愛に向き合うため、私は反抗することを決めた。 私は彼女を殺した。 そして三人の私が誕生した。彼女を愛する私、彼女を憎む私、生き延びることを夢見る弱い私。 全てが私だ。愛、憎しみ、夢によって、完全な私が出来上がった。 |
終わりなき
終わりなきストーリー |
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今日、私もあの場所に行った、永生の海の辺境地。 船がない、客を迎える笛も鳴らない…… 彼女は、困ったら現れると言ったのに…… 海鳥が遠くから飛んできたけれど、彼女からの手紙が届くことはなかった。 彼女が去った時、追いかけるべきだったのか……そうすれば、最後にもう一度会えたのかもしれない。 勇気を出して、彼女に会いに行くべきなのかもしれない。 |
友人の情
友人の情ストーリー |
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海底の最深部には、忘れさられた鮫人が珊瑚群と海藻に住み着いている。 この顔つきの怖い鮫人には、同じく鮫人である綺麗な友人がいる。 客人が永生の海に訪れる時、友人は必ずやってきて、新しい物語を話してくれる。 それは来訪者から聞いた、海の外の話。 新奇な物語は、鮫人の数少ない楽しみである。 もしこの暗い深海を抜け出して、話に出てくる陽のあたる世界に行くことができればどれほどいいだろう。 鮫人はそう思いながらため息をついた。 そんなことより、鮫人は他人の目を気にせず、自分と話をしてくれる友人のことを大切に思っている。 親しい友人がいてくれるだけで、卑しい鮫人は十分幸せだった。 |
目覚めの抱擁
目覚めの抱擁ストーリー |
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寒さが進み、多くの鮫人は眠りに落ちた。 毎日目が覚めると、また鮫人が永眠についたという話が耳に入る。 私は明日も起きることができて、仲間に会えるようにと祈りながら寝ることにした。 目覚めるたび、幼馴染の悠と芊と私は、互いを抱きしめる。 この火がつかない寒冷地では、抱擁だけが寒さを和らげてくれる。 ある日を境に、悠が抱きしめてくれなくなった。 また別の日、芊も抱きしめてくれなくなった。 それでも、私は二人を抱きしめることにした。温かさを感じないまま。 |
銘記の貝
銘記の貝ストーリー |
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以前、私が毎日一番楽しみにしていたことの一つは、妹と一緒に海辺で貝殻を集めることでした。 色とりどりの貝殻を手かごに入れると、思い出も増えていく。 永生貝を見つけたら、海月屋で美味しい料理やかわいい人形と交換できる。 鮫人の名前が刻まれた特別な永生貝がある。秘密の贈り物だそうだ。 ある日、妹の名前が刻まれた永生貝を見つけた。 あの日から、妹に会えなくなった。彼女は遠い場所に行ったと母から聞いた。これが別れの贈り物。 彼女が寂しくないように、私も名前を刻んでおこう。 |
変化の海
変化の海ストーリー |
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たまによそから永生の海に流されてくる物がある。 私はそれを集め、一つの物語として繋げていった。 我々永生の鮫人は、面白いことを探して時間を潰さなければいけない。 正直に言うと、永生の海が凍てついた時、ようやく面白いことが起きたことが、ちょっと嬉しかった。 こうなると、命は貴重になる。永生にうんざりしていた鮫人が、死を怯えるようになった。 何もかも変った。昨日とは大違いだ。 消極的な鮫人、楽観的な鮫人、苦しみながらも楽しんでいる鮫人もいる…… はは、これこそが命の本質だろうか。 |
氷を砕く鮫
氷を砕く鮫ストーリー |
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一、二、三、四、五…… 私は利器を使って氷を叩いている。氷の礫が散らばり、余計寒くなる。 氷が砕けた所にまた氷が形成される。どんなに頑張っても砕ききれない、忌々しい氷。 私の母、私の友人、私のかつての家、私の宝箱も氷の中だ…… 思い出ごと凍結され、変わらず、そして戻れず。 寒い。とても寒い。私も戻れなくなるかもしれない。 |
昔日の宴
昔日の宴ストーリー |
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私は海月屋のしがない料理人だ。 お客さんに美味い料理を用意するのが私の仕事、お客さんの笑顔が私への最高のお返しだ。 よそから永生の海にやってきた多くの者は、この地の素晴らしさを讃えてくれる。 でも変なんだ、客人たちは暫く経ったら居なくなり、船に乗って帰ったという。 氷結されて以来、宴会に来る人が段々少なくなり、来客も完全になくなった。 それでも私は新しい料理を作る。大事なのは変わらないことだ。きっと乗り越えられる。 |
永生の海の主な登場人物
千姫 | 鈴鹿御前 | 八百比丘尼 |
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鮫人族女王 | 潮汐の力 | 迷える海霊 凛 |
鯨の群れ 名無しの鯨 |
孤独な人魚 待つ鮫人 雷を追いかける鮫人 鮫人召使い丁 |
幼い鮫人 |
暮雨 鮫人召使い戌 |
鳳凰火 | 安倍晴明 |
鮫人族国王 | 鮫人族国王 | |
永生の海の攻略記事 | ||
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