【陰陽師】紅蓮華冕ストーリーまとめ【ネタバレ注意】
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『陰陽師』の紅蓮華冕イベントのストーリー(シナリオ)をまとめて紹介。
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「片羽の記憶」のストーリー
初蓮追憶①ストーリー
初蓮追憶① |
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【帝釈天】 「言い伝えによると、故郷忉利天では、全ての天人の精神は霊神体で繋がっているらしい。」【煉獄茨木童子】 「そんな光景はなかなか想像できないな。」【帝釈天】 「おそらく聖蓮池の中の聖水と蓮のようなものだろう。全ての天人の霊神体は、まるで白蓮のように、忉利天の精神の海で落ち合う。その海は人々の精神世界を繋げていて、天人の思想や精神は極めて統一的らしい。海の中では、皆お互いの考えや魂を読むことができる。それは全ての人々がお互いを理解し、感じ合う理想郷だ。」【煉獄茨木童子】 「だとすると、その海とお前の能力は、似たもののようだな。お前と阿修羅もそうして連携していたようだ。」【帝釈天】 「何せ人と人との意識の違いは、善見城と深淵との違いのように、それこそが矛盾を生み出す源なんだ。出身は違うけれど、私には阿修羅を理解し、感じることができる。しかし残念ながら、天人達が故郷忉利天を離れてから、その精神の海は既に失われたと言われている。故に天人は互いを理解しなくなり、個としての意識が主導権を握った。もし人々が互いのことを理解できたら、対立や戦争は消えるかもしれない。」【煉獄茨木童子】 「帝釈天がいつも聖蓮池に浸かっているのは、故郷のことが恋しいのか?」【阿修羅】 「帝釈天の能力は情報収集に向いているが、同時に大量の意識の欠片を四六時中受け取っている。耳元で絶え間なく数百人の囁きを聞かされたら、いくら聖人でもやけくそになるだろう。彼の目は感知能力を持っているが、水は一部の意識を隔てる障壁になってくれる。」【帝釈天】 「それだけではない。戦いの後は風呂に入りたくなるものだろう?」【煉獄茨木童子】 「風呂なら、やはり温泉がいい。聖蓮池の水は冷たすぎる。」【帝釈天】 「はは、善見城には私達の行きつけの温泉がたくさんある。今度茨木童子や酒呑童子も連れて行こう。」 |
初蓮追憶②ストーリー
初蓮追憶② |
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【煉獄茨木童子】 「気のせいかもしれないが、何だか帝釈天は昨日と違うようだ。」【帝釈天】 「茨木童子の勘は鋭いな、気のせいではないんだ。あなたの直感はとても鋭い。もし天人に生まれていたら、きっと特別な霊神体を持っていたはずだ。昨日、花の手入れをしたんだ。」【煉獄茨木童子】 「身につけている花はただの飾りではないのか?本当に生えてきたのか?」【帝釈天】 「頭のこれは、少し特別だと思わないか。昨日のものは既に摘まれた、これは新しく生えてきたものだ。」【煉獄茨木童子】 「なんだと!」【帝釈天】 「冗談だよ。ははははは、茨木童子は戦う時に勇ましい英姿を見せるが、普段はいつも気を配り、素直で率直だ。酒呑童子はあなたのような友人がいて、本当に幸せだな。」【煉獄茨木童子】 「ふん、当然だ。」【帝釈天】 「では、茨木童子は酒呑童子についてどう思う?」【煉獄茨木童子】 「心が読めるんだろう?なぜわざわざ私に聞く?」【帝釈天】 「心が読めるからこそ、気づいたことがある。例え心の声でも、全てが本当の声だとは限らない。頭の中の意識も自分を騙したり、守ったり、暗示をかけたり、導いたりする。しかし強い人であるほど、固い決意を持っている。」【煉獄茨木童子】 「私と親友は互いに命を預けてもいい仲だ。私は自分が思っているほど彼のことを理解していないかもしれないが、それでも私は彼についていく。彼は私が認めた最強の男、それだけで十分だろう。」【帝釈天】 「どうやら私達の考えは似ているようだ。友人達にとって、大切なのは理解することだけではなく……相手から自分が存在する価値を見出せるかどうかも、とても重要だと思う。」 |
追憶昔話①ストーリー
追憶昔話① |
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【鬼王酒呑童子】 「十天衆は、本当に全然違うな。」【帝釈天】 「それは普通の天人から見れば、十天衆こそが全てを定める法律となるからだ。今の善見城にいる天人は、ほとんどが鬼域で生まれた者だ。だが十天衆は、一族を連れて故郷忉利天を出て鬼域に来た者達だ。十天衆に向けられた信仰は、故郷忉利天への憧れによるものがとても大きい。特に戦乱の世になると、人々の信仰は更に深まっていく。」【鬼王酒呑童子】 「お前はどうだ、お前もそう思うのか?それとも阿修羅みたいに、いつか取って代わるつもりか?」【帝釈天】 「阿修羅は私の一番大切な友人だ、彼の判断は正しいと信じている。」【鬼王酒呑童子】 「もしいつか阿修羅の願いが叶ったら、取って代わるのは彼だろうか、それともお前だろうか?」【帝釈天】 「それはあなたには関係ない。」 |
追憶昔話②ストーリー
追憶昔話② |
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【天人貴族甲】 「市場に人がたくさん集まっているが、何かの祭りか?」【天人貴族乙】 「翼団が帰ってきたから、城の民がそれを迎えに来たんだ。」【天人貴族甲】 「ふん、またあいつらか。町でこんな騒ぎを起こすとは、何様のつもりだ!帝釈天は仮にも貴族の出身だ、どこの馬の骨かもわからない阿修羅なんかの補佐役に甘んじて堪るもんか。」【天人貴族乙】 「民はただ面白がっているだけだ、貴族の子がこんなにも落ちぶれているのに。」【天人貴族甲】 「帝釈天は本当に分からず屋だな。阿修羅は正体が分からないだけてなく、奇妙な霊神体を持っている……何か悪い企みがあるのかもしれない!」【天人貴族乙】 「翼団に阿修羅が加わってから、組織の規模も実力も拡大する一方だ。あいつを甘く見てはいけない。」【天人貴族甲】 「買いかぶりすぎだ、翼団の今までの成果は、全て十天衆の慈悲深さのおかげだ。前線はきついから、そんなえせ軍隊でも威張れるってだけだ。」【天人貴族乙】 「翼団を迎える善見城の民は、皆多かれ少なかれ贈り物を持っている。正規軍にすらない待遇だ。結論を急ぐ必要はない。広場に行って見てみないか?」【天人貴族甲】 「阿修羅は残虐なやつで、刃の如く鋭い霊神体を持っていて、貴族に容赦ないと聞いた。二人で見に行くのは、あまり得策じゃないだろう。」【天人貴族乙】 「そう怖がるなよ。戦場での阿修羅は、確かに鬼神の如く恐ろしいが、普段はそんなに怖くないと聞いたことがある。」【天人貴族甲】 「噂がどうであれ、やつには一歩も近づきたくない!そんなに行きたいなら、一人で行けばいい。」【天人貴族乙】 「……それでは失礼。」 |
望む過去①ストーリー
望む過去① |
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【帝釈天】 「心の共感能力によって、私は精神世界にある意識の欠片を見ることができる。それらの欠片は人々の考え、意識、記憶から生まれたものだ。辛いものもあれば、幸せなものも存在する。悲しみも、喜びも、騙し合いも…この世に存在する種族は全て、同じ感情を持っている。あの意識の欠片は輝いている。何か特別な思念が込められているようだ。この記憶の中で、私は善見城と鬼域との境界で暮らす子供を見た。彼は弱く、ありきたりな生活を送っている。時々他の妖怪にからかわれる。その子供は納得できず、大妖怪達を問いただした。しかし大妖怪達はこう言った。妖怪は力が強いものがえらい、都の人間じゃあるまいし、と。するとその子は思った、人間に生まれていればよかったと。そしてある日、その子はついに人間に化けることができた。彼は遥かな距離を超え、人と鬼が共に暮らす地にやってきた。彼は山を下りて人間の世界に行くために、こっそりと人間の馬車に潜り込んだ。何も知らずに都に連れてこられた彼は、隆盛を極める繁華の城に見惚れた。しかし彼は妖怪であることがばれてしまい、人間に追い回されることになった。その子は思った。大妖怪に騙された、人間も弱い者をいじめるんだ、と。その子が追い詰められた時、一人の少年陰陽師に出会った。慈悲深い少年陰陽師はその子を助けた。こうして二人は友達になった。その意識の欠片の中の記憶は、そこで途切れた。もしかしたら、他の欠片の中で、その記憶の続きを見ることができるかもしれない。」 |
望む過去②ストーリー
望む過去② |
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【天剣刃心鬼切】 「この地の雰囲気は、深淵とは全く別物だ。もし深淵が地獄のような場所だというなら、ここは天国であるかのようだ。日はまだ暮れていないのに、なぜ彼らは皆家の中に戻っていくのでしょう?ん?遠くの屋敷が燃えている、空には黒と金色の妖鳥が……」【源頼光】 「金翅鳥一族は光るものと燃え盛るものが好きなんだ。やつらが天人の村を襲う時は、いつもまず高いところから燃え盛る火の玉を落とす。」【天剣刃心鬼切】 「火の手が強くなっている、先に状況を確認します!」【源頼光】 「うろたえるな。天人達は混乱していない、きっと何か対策があるはずだ。」源頼光がそう言い終わった時、燃える屋敷の中から黒い人影が現れた。恐ろしい触手が空に向かって襲いかかり、数十匹もの金翅鳥の心臓を貫いた。【天剣刃心鬼切】 「なんという残虐な気配……頼光様、何をしているのですか!」鬼切は急に空に浮かぶのを感じた。二人を乗せた巨大な折鶴が、村の上空で止まる。遠くでの虐殺はまだ続いていて、悲鳴が聞こえる。空にいる金翅鳥たちは既に甚大な被害を受けている。【天剣刃心鬼切】 「隠れることのできない空にわざわざ飛んでくるなんて、一体何を考えているんですか!」【源頼光】 「空のほうが、見晴らしがいい。」【天剣刃心鬼切】 「何呑気なことを…もう見つかってしまいましたよ。」さっきまで空で金翅鳥たちを屠っていた触手が向きを変え、折鶴のいる場所に驚くほどの速さで向かってくる。おぞましい触手は雲をも切り裂く刃にも似ている。危機一髪で、鬼切は刀を握りしめて飛び上がった。衝突する寸前に、突然陰陽道の光が現れた。触手は二人をかすめ、折鶴の片翼を貫いた。【天剣刃心鬼切】 「どうして戦わないのですか?」【源頼光】 「行くぞ、鬼切。」【天剣刃心鬼切】 「いきなり訳も分からずに襲われたのに、どうしてその正体を調べないのです?」【源頼光】 「さっきのはおそらく、この辺境にいる天人の戦神……阿修羅だろう。」【天剣刃心鬼切】 「阿修羅?しかしあいつは戦闘中、狂暴で残虐な気配を放っていました。でもあの触手が襲ってきた時、とても優しい精神力がその周りにありました。何か隠していませんか?」【源頼光】 「ほう?どうしてそう思うんだ?」【天剣刃心鬼切】 「鬼域に足を踏み入れてから、俺はよく懐かしい気配を感じます。時々その「精神力」とやらを感じることもあります。」【源頼光】 「今はできるだけ早く善見城に入るべきだ。お前の抱いている疑問は、じきに答えが見つかるだろう。」 |
望む過去③ストーリー
望む過去③ |
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【天人の少年甲】 「最近善見城に池がたくさんできた。池の水は透き通っていて、その中には白蓮も生えている。空っぽだった町より、何倍も綺麗だ。」【天人の少年乙】 「なんだ、知らないの?この蓮の池は帝釈天という貴族が作ったんだ。」【天人の少年甲】 「翼の団を統べて、前線で戦っているあの帝釈天が?戦に慣れた戦士として知っていたが、こんな風流な一面もあるのか。」【天人の少年乙】 「翼の団だからって勘違いしないで、帝釈天様は殺すことしか知らない戦士じゃない。帝釈天様は、蓮の池を作った時にこう仰った。天人一族は絶えない争いを強いられている。もし皆が蓮のように生きれば、きっと余計な災いから逃れられるって。この透き通った水、無垢の象徴たる蓮が、この善見城を罪から守ってくれるんだ。おい、何してるんだ!」【天人の少年甲】 「ちょっと蓮に触ってみたいんだ…」【天人の少年乙】 「この蓮は帝釈天様が手塩にかけて育てた蓮だ、お前みたいに不器用なやつが触ったら、うっかり折れるかもしれないぞ!」【帝釈天】 「大丈夫だ。」【天人の少年乙】 「え?帝釈天様!」【帝釈天】 「ごめん、急に後ろに現れたから、驚かせてしまったね。」【天人の少年乙】 「と……とんでもありません!まさかここでお会いできるなんて。」【帝釈天】 「最近いい天気が続いているから、蓮の様子を見に来た。微かに香る蓮の香りは人々を落ち着かせる。それを嗅ぐと、気分もよくなる。ほら、これをあげるよ。」帝釈天が軽く袖を振ると、瞬く間に、池の中に咲き誇る蓮が何十本も現れた。体にしみわたるような香りは、帝釈天の言った通りに皆の心を落ち着かせた。【帝釈天】 「白蓮が絶えることはない、池の水は罪を洗ってくれる。蓮が好きだったら、遠慮なく摘むといい。」 |
白夜狐影①ストーリー
白夜狐影①ストーリー |
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【帝釈天】 「この意識の欠片は、懐かしい光を持っている。この前見たものと何か関係があるかもしれない。この記憶の中で、少年陰陽師があの子を屋敷の中に隠したのを見た。種族は異なるけれど、彼らは会話を通じて、互いの種族への理解を深めた。その子は少年陰陽師に、大妖怪のことを話した。人間も同じように弱い者をいじめると言い、でもあなたのような優しい人もいる、と付け足した。大妖怪はよく彼をからかうけれど、実はとても優しい。だから人間と妖怪は、たいして違わない。悪事も働くし、善いことをしたりもする。それを聞いた少年陰陽師は、人間と妖怪は共存できないと言った。それを聞いた子供はこう言った。式神になれば、妖怪は人間と共存できると聞いたことがある、だから式神にしてください、と。少年陰陽師は、君みたいな弱い式神はいらない、傷が治ったら家に帰すと言った。子供は頭の中でこう考えていた。今はまだ弱いけれど、いつか大妖怪になる可能性だってあると。子供の傷が治ったあと、二人は強くなってまた会おうと約束した。少年陰陽師は、密かに子供を送り返した。その子供は、人と鬼が共に暮らす地に住んでいる。人間の縄張りでひどい目に遭った後、帰ってきた彼は急に悟った。彼は修行に力を入れ、必ず強くなると誓った。この欠片の中の記憶は、ここまでのようだ。物語の続きは、まだ他の欠片の中に隠れているかもしれない。」 |
白夜狐影②ストーリー
白夜狐影②ストーリー |
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【天剣刃心鬼切】 「長い道のりを経て、ようやく善見城につきました。なぜ楽しそうにしているのですか?」【源頼光】 「せっかくここまで来たんだ、異国の景色を楽しむべきだろう。」【天剣刃心鬼切】 「そうは言っても、どうしてわざわざ侍の服を脱いで、旅人の服に着替えなければならないのですか?」【源頼光】 「いつもこうして正体を隠していたんだ。」【天剣刃心鬼切】 「ずっと町中を見て回っていますが、誰を探しているのか自分でもわからないなんて言わないですよね?」【源頼光】 「お前にとって、これはある再遊だ。」【天剣刃心鬼切】 「……俺も初めてここに来ました。なのにどうして再遊などと?あなたこそ、善見城に入ってから態度がいつもと違いますね。何のあてもなくただ市場を見て回っていますが、もしかして途中で気が変わって、お土産を買って源氏の所に戻ることにしたのですか?」【源頼光】 「一理あるな。」【天剣刃心鬼切】 「……真面目に答えてください!」陽が少しずつ高くなるにつれて、善見城の市場も次第に賑やかになっていく。【天剣刃心鬼切】 「頼光様、どうしていつまでもその宝石を睨んでいるのですか?これは何の変哲もないただの宝石ですよ。」【天人商人】 「適当なことを言うな!これは善見城の外で拾った宝物だ。」【天剣刃心鬼切】 「(いや……この宝石は……まさか、この懐かしい気配は、あの深淵と何か関係があるのか?)この宝石を買いましょう。」【源頼光】 「ほう?」【天人商人】 「十……十倍!十倍の価格ですか!本当に太っ腹なお客様だ!このへんの石を全部持っていっていただいても構いません!」【源頼光】 「いや、これだけで十分だ。」……市場の外、鬼切と源頼光が人気のない酒場で休んでいる。【天剣刃心鬼切】 「これを買ったのは、その気配のせいでしょう。おそらく、この石は深淵の中にあったものです。」【源頼光】 「この気配は精神力によるものだ。何か手がかりが得られるかもしれない。」【天剣刃心鬼切】 「さっき触れた時、確かに共鳴を感じました。」【源頼光】 「穏やかなのは表面だけか、どうやらもっと面白いことが起きそうだな。」 |
白夜狐影③ストーリー
白夜狐影③ストーリー |
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【鬼王酒呑童子】 「阿修羅、もし戦争が終わったら、お前はどうするつもりだ?」【阿修羅】 「どうして急にそんなこと聞くんだ。」【鬼王酒呑童子】 「なに、ただの無駄話だとでも思ってくれ。どうだ、もう一杯飲むか?」【阿修羅】 「もちろん友と共に天人一族を繁栄へと導く。天人の身分を決めるのは出身ではなくなる。この鬼域にある城は、鬼域の中心になる。」【鬼王酒呑童子】 「鬼域の中心?よく言えたものだ。だが、お前の実力をもってすれば、不可能な話ではないだろう。阿修羅、天人一族を繁栄へと導くと言ったな。聞こう、お前は「王」になりたいのか?仮にお前が「王」になったとして、かつて起きた過ちを繰り返さないという保証はどこにあるんだ?」【阿修羅】 「一族の強さは、強者が弱者を守ることに、持つ者が持たざる者に富を分け与えることに、大人が幼き者を守護することにある。「王」の意味と強さは、皆を導く魅力や包容力にある。戦いや略奪に晒されても、平和を求めることを忘れない。殺戮を強いられても、慈悲深い心を失わない。絶体絶命に追い込まれても、胸に希望を抱く根性を持つ。世の中の強弱、美醜、老若、身分の異なる者を全て包容し、皆が笑える世界を作る!」【鬼王酒呑童子】 「よく考えているな。ただの雑談のつもりだったが、重い話になっちまった。」【阿修羅】 「常に戦乱や争いの中で生きていると、こういったことも言いにくいことではなくなる。酒呑童子、この神酒は確かにうまい。もし機会があれば、作り方を教えてもらいたい。」【鬼王酒呑童子】 「俺様の神酒は誰でも作れるもんじゃねえ。だが、お前達の理想が実現したら、いつでも人界と鬼界の狭間にある大江山に来い。」【阿修羅】 「鬼王に直接誘われたら、断るわけにはいかないな。約束だ、いつかまた飲もう。」 |
心友の決ストーリー
心友の決 |
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【翼の団の戦士甲】 「前線は激戦を繰り返している。阿修羅様も軍を率いて先頭に立っているんだ。天人一族の闘神のためなら、例えこの戦いで命を失っても、悔いはない。」【翼の団の戦士乙】 「諦めるな、しっかりしろ!帝釈天様は出ていく前に予備の薬を渡してくれた。今の戦場は確かに危険だが、俺は誰も見捨てない。」【翼の団の戦士甲】 「その強い精神力、まるで帝釈天様のようだ。」【翼の団の戦士乙】 「買い被りすぎだ。人を助けるのが医者の仕事なんだ…それに医術でも、それ以外のことでも、帝釈天様には遠く及ばない。もしできる範囲で何かできたら、来た甲斐があったというものだ。」【翼の団の戦士甲】 「俺も阿修羅様みたい強かったらな……少なくとも、今のように足手まといになることはない。」【翼の団の戦士乙】 「阿修羅様は生まれた時から強さを手にしている。そのうえ帝釈天様のような完璧な補佐役も見つけた。彼らがあってこその翼の団だ。」【翼の団の戦士甲】 「俺が翼の団に入ったばかりの頃、翼の団はまだ今のような大きい組織ではなかった。帝釈天様は皆に優しく接してくれた。逆に阿修羅様は翼の団の紀律を厳しく守っている。新兵が阿修羅様に罰せられるたびに、帝釈天様はこっそりお見舞い代わりに美味しいお菓子を持ってきてくれる。帝釈天様はうまく誤魔化せたと思っているけど、阿修羅様にはバレバレだ。」【翼の団の戦士乙】 「これも翼の団の微笑ましい光景だ。」【翼の団の戦士甲】 「強い霊神体を持っているかどうかや、出身がどうかは関係ない。平和のために戦いさえすれば、翼の団は皆仲間だと認めてくれる。」【翼の団の戦士乙】 「その通りだ。翼の団に入ったことは、何があっても決して後悔しない。俺は力尽きるまでここを守り抜くんだ。「正規軍」みたいに自分の命を惜しむようなまねはしない!」【翼の団の戦士甲】 「阿修羅様が一番嫌いなのは裏切りだ。翼の団に入った天人は、皆自由に離脱できる。ただし、肝心な時に逃げたり、自分の利益のために翼の団を犠牲にしたりしたら…おそらく二度と善見城の太陽を拝むことはできないだろう。そういえば、俺の傷は大分治った。前線に行って、俺よりもっと助けを必要としている負傷者を助けてくれ。」【翼の団の戦士乙】 「分かった。前線が落ち着いたら、また帰ってくる。」【翼の団の戦士甲】 「約束だ、絶対守れよ。」 |
竜巣激戦①ストーリー
竜巣激戦① |
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……深淵の近く【天剣刃心鬼切】 「接戦が続き、金翅鳥が石橋を壊したあと、多くの兵士は深淵に落とされました。」【源頼光】 「焦るな、今はまだその時ではない。」【鬼切】 「ここ最近善見城中を回って観察しましたが、阿修羅と帝釈天との接触は避けています。今日はそろそろ彼らを助けるのではないかと思っていましたが、まだ様子見のつもりですか。翼の団には天人一族の勇士が揃っています。このまま見ているわけにはいきません!術を解いてください!」言葉を放つと、鬼切は強引に術を壊した。深淵に向かった鬼切は、すぐに消えていなくなった。……数日後、迦楼羅との戦いについに勝利した。この時、十天衆の援軍がようやく姿を現した。【天剣刃心鬼切】 「この戦いは十天衆の罠だったのか。」【源頼光】 「竜巣の地形は有利だ。勝てる可能性は低かった。翼の団は甚大な被害を受けたが、少ない人数で勝つことができた。」【天剣刃心鬼切】 「竜巣の戦いは悲惨そのものだ。貴族と名乗る連中は我が身を惜しみ、終わった後で手柄を横取りすることしかできないのか!おかげで嫌な過去を思い出した…頼光様、なぜまだ冷静でいられるのですか?天人一族の争いに興味がないにしても、鬼兵部や源氏の武士達もまだ深淵の近くにいます。」【源頼光】 「我々はただの旅人にすぎない、早まるな。鬼兵部については既に手配した。」【天剣刃心鬼切】 「あなたのように冷静ではいられません。帝釈天に騙された。てっきり貴族という身分を利用して、軍の中で仕事を怠けているとばかり。しかしいざ肝心な時になると…まさか彼のほうが軍の士気を高めてくれるとは。」【源頼光】 「翼の団を作り上げたのは彼だ。阿修羅のことも、彼が仲間に引き入れた。いつも謙虚な振る舞いで、「補佐役」に徹していたが、実は表で見せているほどお人よしではない。」【天剣刃心鬼切】 「用心深いのは、いつものあなたらしいですね。しかし竜巣での帝釈天の振る舞いが、嘘だったとは思えない。仲間のために我が身を惜しまない、共に深淵に落ちることにさえ躊躇はなかった、俺も感動を禁じ得ませんでした。」【源頼光】 「情にもろいのは昔のままだな。彼は一人でここまで長く維持した…確かに…」【天剣刃心鬼切】 「維持した?何を?」【源頼光】 「何でもない。全てきちんとしている、いままで隙を見せたことは一度もない。たまに傍観者という立場に置かれると、面白いことが見える。」 |
竜巣激戦②ストーリー
竜巣激戦②ストーリー |
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【正規軍兵士】 「鬼族め、いくら駆逐してもきりがない!」【悪鬼】 「はははは、こっちは指を動かすだけでお前らを捻りつぶせるぞ。怖いか?戦いは始まったばかりなのに、お前はもう一人になっちまった。お前の仲間は不甲斐ないやつばかりだな!ん?これは…あああああ……この触手、一体どこから……!」【翼団戦士】 「阿修羅様は別の戦場を片付けている。そろそろ仕上げのようだな。翼の団に入る前、天人があそこまで巨大な霊神体を持てるなんて、とても信じられないんだ。しかし阿修羅様のことを考えると、何だか納得できる。」【正規軍兵士】 「す、すごい。そうだ……助けてくれてありがとう。」【翼団戦士】 「礼はいらん、困っている仲間を助けてやっただけだ。」【正規軍兵士】 「はあ。」【翼団戦士】 「お前の仲間は?」【正規軍兵士】 「聞かないでくれ。激しい戦いになりそうだと気づいた途端、すぐ撤退した。」【翼団戦士】 「そんな馬鹿な!」【正規軍兵士】 「前線で命をかけても、十天衆からは極少ない報酬しかもえらないし、撤退するのも無理はない。」【翼団戦士】 「そうだったか……だとすると、十天衆の罪がまた一つ増えた。お前は勇気があって、戦にも慣れている。どうだ、翼の団に入らないか?」【正規軍兵士】 「俺が?翼の団に?しかし阿修羅様や帝釈天様は…」【翼団戦士】 「大丈夫、本気で天人のために戦ってくれれば、阿修羅様もきっと理解してくれる。」【正規軍兵士】 「それが本当だったら、願ってもいないことだが。」【翼団戦士】 「行こう、阿修羅様と帝釈天様はすぐ前にいる、一緒に会いに行こう。」 |
白鳥昔話①ストーリー
白鳥昔話① |
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【帝釈天】 「これまでの二つの意識の欠片の気配を元に、私は最後の欠片を見つけた。物語がどんな結末を迎えるのか、とても興味深い。私は見た。この記憶の始まりは、人と鬼との戦争だった。人界と鬼界との境界には、時々人界を侵す鬼域の悪鬼が現れる。そして悪鬼を討伐しに来る陰陽師もあとを絶たない。あの子供はまだ修行している。もう少し経てば、約束を果たしに都に行けるかもしれない。しかしある日、彼はかつての友人……少年陰陽師と、人と鬼との戦場で出くわしてしまった。残酷な戦争の前では、昔の約束が如何に儚いものであるかが証明されてしまった。それでも、その子供はかつての約束を忘れていなかった。彼は戦争を止めるために、致命的な傷を負った。この記憶はここまでのようだ。物語の結末は、まだ闇の中だ。悲しい結末かもしれないし、また誰かに助けられるのかもしれない。この記憶や意識は偽物で、想像によって構築されたものである可能性も捨てきれない。」 |
白鳥昔話②ストーリー
白鳥昔話② |
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【天人の少年】 「すみません、ここで一番安い食べ物はなんですか?」【商店の主人】 「もしかしてお困りですか?うちの店もあまり余裕がないけれど、できる範囲内で手伝うことはできますよ。」【天人の少年】 「俺は……」【商店の主人】 「言いたくないなら大丈夫。この食べ物は、持って行っても構いません。」【天人の少年】 「この食料にある印は、翼の団のものですか?」【商店の主人】 「なぜそんな質問を?もし無料の食べ物が欲しくないなら、別のところを当たってください。」【天人の少年】 「いいえ、勘違いです!お、俺は翼の団に入って、阿修羅様や帝釈天様の役に立ちたいんです!」【商店の主人】 「若いわりに、とんでもないことを言いますね。しかし米袋すら持ち運べないようでは、戦場に出ても意味がないと思いますが?」【天人の少年】 「今日はだめだとしても、明日はできるようになれるかもしれません。でも、翼の団の食糧なのに、どうして他人に分けるんですか?」【商店の主人】 「見た目と違って、細かいことも見逃しませんね。食料を仕入れる時、帝釈天様はいつも多めにお金を払います。もちろん何度も断りましたが、あの方には勝てませんでした。そして自分に使うより、他人に使うべきだと思いつきました。だから帝釈天様の代わりに、食料を買って、戦争のせいで生活に困っている人に分け与えています。」【天人の少年】 「帝釈天様は本当に特別な貴族だ…」【商店の主人】 「坊主、その心に免じて、数日後帝釈天様が来てくれたら、代わりに翼の団に入りたい旨を伝えてあげます。しかし試験に合格できるかどうかは、保証できませんぞ。」【天人の少年】 「本当ですか!」【商店の主人】 「約束しますよ。」 |
白鳥昔話③ストーリー
白鳥昔話③ |
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【翼団戦士】 「なぜか最近、善見城の付近で多数の蛇が出現している。当番の皆に、気をつけるよう言っておかないと。」【帝釈天】 「どうした?上の空になっているようだが。」【翼団戦士】 「ああ、帝釈天様ですか!ここは拠点の辺境です。どうしてこんな所に。」【帝釈天】 「阿修羅がまだ休んでいるから、彼の代わりに様子を見に来た。翼の団の諸君、連日ここを守ってくれて、ご苦労。使いの者に買ってきてもらった蓮花酥を、後で皆で分けてくれ。」【翼団戦士】 「帝釈天様は相変わらず気配りがお上手ですね。しかし、近日中は外出をお控えになったほうが良いかと。」【帝釈天】 「なぜだ?」【翼団戦士】 「実は近頃、辺境に今まで見たことのないような蛇が多数出現しているのです。くれぐれもお気をつけください。」【帝釈天】 「ありがとう、気をつけよう。長い間外で見張りをしているあなた達こそ、気をつけるべきだ。ほら、そこに白蛇が一匹巣食っている。」【翼団戦士】 「な、何……早く処分しろ!」帝釈天がそっと手を振ると、蛇はするりと去っていった。【翼団戦士】 「帝釈天様……蛇が怖くないんですね……」【帝釈天】 「ふふ、私は害を及ぼさないと、彼らは知っているからな。動物の精神との交流は些か難しいが、彼らは私を感知できる。」【翼団戦士】 「そんな能力を使えるなんて、羨ましい限りです。」【帝釈天】 「くだらない芸当に過ぎない。だいぶ暗くなってきた。私もそろそろ帰らないと。」 |
「昨日の境」のストーリー
宿命の邂逅ストーリー
宿命の邂逅 |
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……鬼域の奥、善見城の近く【煉獄茨木童子】 「くそ、腕の痛みが収まらない……まるで折られたようだ……鬼手の暴走など、いつ振りだろう。目覚めたらここにいた。鬼手が何かに召喚されて、私を連れて来たようだ。あの神の城へ……」茨木童子が遠くを見る。そこにあるのは白銀の城……漆黒の鬼域で、聖なる光が輝く。【煉獄茨木童子】 「事の発端は、鬼王の宴だった。三大鬼王が集う都の宴で、雲外鏡が突然終末を予言した。吸い込まれた都の霊力の行方と、鬼手に残る暴走の精神力の残片……すべては鬼域の天人を指していた。鬼族の未来のため、私は友と鬼域の奥へと向かったが、途中ではぐれてしまった。鬼手の度重なる暴走。自慢の力だったが、今は足手まといだ……いや、鬼手は私を支配しようとしている。だが無駄だ。私の力は私の強さのため、友のため、大江山のためにある。そう簡単に屈するものか!今の手がかりは、遠くにあるあの城だけだ。あそこが天人の居場所に違いない。」神聖なる白銀の城が、山々の頂に立っている。雲の上に浮かぶ天国のように、鬼域の終わりなき動乱を見下ろしている。【煉獄茨木童子】 「何故殺伐とした鬼域の中に、こんな神聖な場所があるんだ?友はかつて、鬼域の中は至る所が烈火と氷に覆われていると言っていた。ここに聳える壮大な城は、鬼族の手によって造られたものだとは思えない。言うなれば、天界から降りてきた聖地のようだ。これが夢ではないなら、可能性はただ一つ……天人の圧倒的な力が、鬼域に存在する。友はあそこへ向かったのだろうか。私を尾行する輩共よ、出て来い!」【藍爪鬼】 「お前はどこから来た?この妖気の匂い、鬼域の者じゃないな。」【翠甲鬼】 「よそ者め、勝手に迦楼羅様の領土に踏み入るな!」【赤潮鬼】 「どこから来た鬼か知らんが、こいつの力とこの鎧は悪くない。捉えて迦楼羅様に献上しよう。」【藍爪鬼】 「ひひひ、一緒にかかれ、ひひ……!」鬼族の大軍が、茨木童子を取り囲む。獲物を狩る悪鬼たちが獣のように唸る。【煉獄茨木童子】 「こいつらは、大規模な軍隊となって動いている。友の言う通りだな。鬼域の者は皆好戦的のようだ。今の鬼手では、長くは戦えない。何とか突破口を見出し、短時間で決着をつけなければ!」十数人の悪鬼をなぎ倒した茨木童子を見て、悪鬼達が警戒し始めた。空から数羽の黒金巨鳥が現れ、茨木童子の弱点を見通したかのように、彼の鬼手を啄む。茨木童子は押されはじめ、黒金巨鳥はますます増えていく。【煉獄茨木童子】 「こいつらは何なんだ?見た目は鴉に似ていて、群れになって襲ってくる。油断すると、鬼手の鎖を狙ってくる。まずい、また鬼手が暴走し始めた……ぐあああ!こうなったら、言うことを聞かぬ厄介な鬼手など、捨ててしまおう!」戦いの中、茨木童子が腕を切り落とそうとする。鬼手が引き裂かれる寸前……【???(帝釈天)】 「やめなさい。」【煉獄茨木童子】 「誰だ?」【???(帝釈天)】 「やめるんだ、茨木童子。」【煉獄茨木童子】 「誰だ?なぜ私の頭の中で話している?」その直後、空から漆黒の巨大な影が降りてきた。いくつかの黒い触手が振り下ろされ、地面に大きな衝撃を与える。地面が割れ、茨木童子を囲む鬼達が蹴散らされた。茨木童子が頭を上げると、黒い影が鬼の群れに突っ込み、鬼神の如く悪鬼たちを薙ぎ倒している。【煉獄茨木童子】 「殺気まみれの黒いやつ、一体何者だ?」【藍爪鬼】 「な、何なんだ、黒い触手?離せ!助けて!ぐああああ……!」【翠甲鬼】 「引き裂かれてしまった!なんて恐ろしい力だ!どうやらここまでのようだ、逃げろ!」【???(阿修羅)】 「ふん……逃げるつもりか?」【金翅鳥甲】 「あああああ!間に合わない!」【???(阿修羅)】 「首を締め付けられて、もがけばもがくほど苦しくなる気分はどうだ?」【金翅鳥甲】 「ぐああ……私に構うな!はやく逃げろ!」【翠甲鬼】 「私を援護しろ!戻って迦楼羅様に報告せねば!あああ!!足が!よくも私の足を!許さん!」【???(阿修羅)】 「逃げれるなら逃げてみろ。」逃げようとした鬼族は、全員触手に引き裂かれた。【???(帝釈天)】 「阿修羅、全員殺すのはだめだ!」【阿修羅】 「面倒くさいな、帝釈天。」【煉獄茨木童子】 「こいつらは一体……」茨木童子の鬼手に一輪の白蓮が咲き、暴走が鎮められた。【煉獄茨木童子】 「どういう事だ、この花は?痛みが吸い取られたかのように、花が咲いた途端、痛みが和らいだ。」白い服を着た人影が茨木童子に近づき、手を差し伸べた。【帝釈天】 「はじめまして、遠くから来た友人、茨木童子よ。私は帝釈天という。」【煉獄茨木童子】 「さっきの花はお前の術だな。私の頭の中で話していたのもお前か。何者だ?なぜ我が名を知っている?」【帝釈天】 「こうして会うのは初めてだが、あなたの事は色々知っている。あなたが探している友人はこの方でしょう。」【鬼王酒呑童子】 「どこから聞いたんだと思うよな?俺が話したんだ。」【煉獄茨木童子】 「……友!」【帝釈天】 「ふふ、友人との再会だ。無理もない。あなた達と同じように、あの黒き闘神は私の友……阿修羅だ。」【煉獄茨木童子】 「阿修羅とはさっきのイカれたやつか?乱暴な戦い方だった。」【鬼王酒呑童子】 「茨木童子、どうして追ってきたんだ。新しくできた酒友に、もっとお前の悪口を言っておけばよかったな。」【煉獄茨木童子】 「なるほど、彼らが新しくできた酒友というわけだな?友に相応しいか試させてもらおう!」【帝釈天】 「……酒は苦手だ。勘弁してくれ。」【煉獄茨木童子】 「酒呑童子の酒友である以上、只者ではあるまい。謙遜するな、戦績を言え!」【帝釈天】 「遠くから来た友人達よ、私の話なら、あとでいくらでもできる。今は目の前の敵に集中しよう……あれ?敵は?しまった、阿修羅……!何人か生かしておけと言ったはずだ。また皆殺しにしたのか!金翅鳥の情報を聞き出せないじゃないか。」【阿修羅】 「まあ落ち着け、一匹生かしておいた。」【金翅鳥甲】 「ううう~~~うう!う~~!」阿修羅が捕虜の金翅鳥を連れてきた。【帝釈天】 「いきいきしているね。」【煉獄茨木童子】 「帝釈天、何を?」【帝釈天】 「見ての通り、読心術で金翅鳥一族の情報を探るんだ。我々は天人一族の城である善見城を守る戦士だ。善見城の侵略を企む強敵がいる。それが迦楼羅が率いる金翅鳥と鬼族の軍隊だ。私は友の阿修羅と共に戦い、数年が経った。私の力は心霊共感だ。戦闘には向かないが、情報偵察や、他の戦士達を遠くから支援するのに向いている。そして阿修羅は天人一族内で最強の能力を持っている。戦場で彼に勝てる者はいない。我が一族に名を馳せる闘神だ。そして私は彼の補佐役だ。」【阿修羅】 「戯けたことを言う。戦になれば俺よりずっと無茶するくせに、補佐役だなどと。」【帝釈天】 「はは、酒はまだなのに、阿修羅はすでに酔っているみたいだ。人の前で私を冷やかすなんて。」【阿修羅】 「お前の傷はまだ癒えていない。なのに勝手に抜け出して。次こんなことをしたら杖刑20回だ。しかし、捕虜に話す気がない以上、お前に頼るしかない。」【帝釈天】 「皆、静かにしてください。」帝釈天が金翅鳥の頭に手を置くと、その手に蓮が咲いた……帝釈天の頭の中に、情報が流れ込む。しかし金翅鳥が口の中に隠していた毒を飲み、一瞬で泡を吹いた。帝釈天も冷や汗をかいている。」【帝釈天】 「……金翅鳥が毒を飲んで自殺しようとしている。ゴホッ……痛い……」【煉獄茨木童子】 「どうした?」【阿修羅】 「おい、帝釈天、大丈夫か。こいつは心霊共感を使う時、相手の五感と同調する。金翅鳥が死ぬ時の苦痛を体験したはずだ。」【帝釈天】 「阿修羅、私は平気だ……ゴホッ……皆……静かに……まだ迦楼羅の情報をつかめていない。瀕死の者の思考を読み取るのには高い集中力が必要だ……邪魔しないでくれ。」その時、数十人の悪鬼が殺到し、皆を取り囲んだ。【大食い猛鬼】 「ひひひ、この村はこの前潰したはずだが、こいつらは生き残りか?」【翠甲鬼】 「上等だ、俺達に会ったが運の尽きだ! |
」【赤潮鬼】 「ははは、殺してやる!」【帝釈天】 「ゴホ、今日は……ついてないな……これでは……間に合わない……」【煉獄茨木童子】 「こいつらのせいでうまく読み取れないのか。」【鬼王酒呑童子】 「次から次へと。茨木童子を助けてくれた借りがある、力を貸そう。」【阿修羅】 「手出し無用だ。俺がやる。」【鬼王酒呑童子】 「強がってる場合か。帝釈天は動けねえし、お前を助けることもできねえ。」【阿修羅】 「直接やり合うと騒々しくなる。彼を邪魔しないためにも、これが最善だ。」一瞬で、何本もの黒い触手が現れる。長い触手が風の如く、そっと悪鬼たちの息を止めた。帝釈天に近づく悪鬼が次々と殺された。悲鳴を上げる隙もなく、触手に喉を貫通される。」【帝釈天】 「ふう……終わった!」【煉獄茨木童子】 「流石だな。」【阿修羅】 「これが俺達のやり方だ。帝釈天が動けなくなっても、俺は側にいる。しかし、恐らくこの辺りの兵士達は、既に俺達に気づいているだろう。迦楼羅に報告されてはまずい、悪鬼を生きて返してはならない。全員殺す。」【帝釈天】 「……阿修羅。」【鬼王酒呑童子】 「(こいつ……)お前らの連携は、確かに素晴らしい。友と肩を並べて戦う以上に気持ちいいことはねえ。そうだろう、茨木童子?」【煉獄茨木童子】 「その通りだ!」【鬼王酒呑童子】 「かかれ!皆殺しだ!」力を合わせて金翅鳥の追手を始末した後、一行は善見城に向かう。……善見城、城内【帝釈天】 「天人の都……善見城へようこそ。ここでしばし休憩しましょう。茨木童子の鬼手が暴走したのは、鬼手に天人の霊神体の欠片が宿っていたからだ。私が取り出したので、じきに回復するでしょう。」【煉獄茨木童子】 「天人の霊神体?」【帝釈天】 「そういえば、まだ話していなかったな。我々天人一族は、精神力で操る霊神体を生まれた時から持っている。それは心と精神の力、我々の魂の源。天人は皆それぞれ異なる霊神体を持っている。強い霊神体は、武器として用いることもある。それは先天的なものだ。私の霊神体がさっき使った蓮は、心霊共感の力を持つ。阿修羅のものは最強の武器で、どんな形にも変えられるらしい。まあ……今のがお気に入りみたいだけれど。霊神体が傷つくか、融合、破裂、あるいは天人が死ぬと、欠片が分離される。鬼手に宿っていた欠片は、亡くなったとある強い天人のものだと思う。」【煉獄茨木童子】 「天人一族は鬼族とはかけ離れた存在だ、なのになぜ鬼域に?」【帝釈天】 「本来天人一族は、忉利天で暮らしていた。しかし統治者が無能だった故、忉利天は零落してしまった。我々の先祖は、忉利天を捨てて鬼域にやってきた。善見城を造り、鬼域の住民となった。鬼域では鬼達が横行跋扈し、戦争なんて日常茶飯事だ。争いは止むことを知らず、今に至った。」【煉獄茨木童子】 「君達のような戦士が居れば、天人が鬼域で領地を得るのも難しくないだろうな。」【阿修羅】 「お前達は鬼族なのに、なぜ天人に肩入れする?」【鬼王酒呑童子】 「鬼族だって一枚岩じゃねえ。鬼として生まれた者もいれば、鬼に成り果てた者もいる。神も仏も例外じゃねえ。鬼に堕ちた者はいくらでもいる。天人の霊神体が鬼族に宿ることもある、天人が鬼に成り下がることがあってもおかしくねえだろう。鬼族にも色々いる。まとまることなんてねえ。唯一の共通点と言えば、力を欲するならず者ってことくらいだ。弱肉強食、世の理だ。もし天人が我が大江山の鬼を皆殺しにしようというなら、そんなことは俺様が決して許さん。」【阿修羅】 「それでも殺すと言ったら?」【鬼王酒呑童子】 「はははは!その時はお前が鬼に堕ちたことを祝ってから倒すさ。」【帝釈天】 「阿修羅、二人は客人だ、それにこれから共に戦う仲間でもある。我々と共に鬼族を討伐してほしい。やつらの最大の拠点、鬼域の深淵にある竜巣城を落とすんだ。あそこが迦楼羅が率いる悪鬼の巣だ。落とせば、天人と鬼族の争いは終わる。今日我々が金翅鳥から得た情報はすでに、天人の正規軍の皆に知らされている。10日以内に決行される。」【煉獄茨木童子】 「なんで俺達が天人の手助けをしなきゃならねえんだ?」【帝釈天】 「私は貴族の生まれだが、正規軍の兵権は十天衆の手にある。」【阿修羅】 「鬼族との戦に対して十天衆は消極的だ。善見城の辺境が落とされても、見て見ぬ振りをしていた。」【帝釈天】 「私達が「翼の団」という民兵団を率いて、辺境の鬼族を撃退し、領地を取り戻した。今阿修羅は翼の団の総帥、天人の闘神であり英雄だ。だが十天衆と翼の団の関係は微妙だ。私達を非難しようとするばかりで、戦いは見過ごされている。千年続いた戦争を終わらせるためには、戦力が必要だ。」【煉獄茨木童子】 「十天衆とは何だ、全く緊張感がない。もしかして、さっき言っていた天人の強者か?」【阿修羅】 「強者なんかじゃない。貴族の身分だけが取り柄の、ただの間抜けどもだ。あいつらのせいで天人は故郷である忉利天を失い、鬼域に落ちた。なのに外敵に妥協し、民の命を顧みず、真の強者を恐れている。腐った十天衆を玉座から引きずり下ろさない限り、天人に繁栄は訪れない。」【鬼王酒呑童子】 「まさに内憂外患だな。そういうことなら、戦が終わらないのも納得できる。本当に勝つためには、内乱をおさめ、貴族を徹底的に潰さなければ。」【阿修羅】 「ああ、鬼族だけでなく、十天衆も片付けるんだ。今まで贅沢三昧してきた貴族の首を、酒杯代わりにしてやる。」【帝釈天】 「阿修羅は用が済んだら私を殺すつもりだったのか。」【阿修羅】 「ん?お前には貴族らしさのかけらもないから、お前の出身を忘れるのも無理はないよな。」【鬼王酒呑童子】 「帝釈天は貴族なのに、なぜ自らこのような苦行に身を投じるんだ?」【帝釈天】 「阿修羅と同じだ。天人一族の未来のためさ。」【煉獄茨木童子】 「ふん、つまらんやつめ。」【帝釈天】 「まあ、貴族だって良いことばかりではないさ。口を慎まない者に対して腹が立っても、我慢していた。」【鬼王酒呑童子】 「大目に見てやれ。人の心を読み取れるお前なら、率直な人のありがたさが良くわかるはずだ。気分を害したのなら、謝る。」【阿修羅】 「まったくだ。戦は偽りを厭わない。嘘をつくのは簡単だが、真心は大切だ。騙していいのは敵だけ。友人なら、全て打ち明けるべきだ。」【帝釈天】 「……友人にだって、隠し事くらいあるさ。逆に友人だからこそ、隠さなければならない事もある。酒呑童子、本当に詫びる気があるなら、私達と共に竜巣を討伐してくれないか。」【鬼王酒呑童子】 「竜巣ってのは、今日茨木童子を襲った鬼族どもの集まる場所か?」【帝釈天】 「その通りだ。竜巣城と善見城は、深淵で隔てられている。深淵こそが、善見城を攻めてきた鬼族の巣だ。周辺の町は略奪され、破壊され、人々が苦しんでいる。迦楼羅が率いる金翅鳥は、優れた飛行能力を持つ。深淵の地形の利もあり、竜巣城は難攻不落となった。二人の協力を得て迦楼羅を倒し、竜巣を落とし、金翅鳥と鬼族を殲滅することができれば。天人の戦争はおさまる。私と阿修羅は城に戻り、十天衆の隙を狙う。」【煉獄茨木童子】 「待て……」【鬼王酒呑童子】 「いいだろう、俺と茨木童子はちょうど暇を持て余してるしな。茨木童子を助けてくれた借りもある。迦楼羅ってやつを倒してやろう。」【帝釈天】 「ありがとう。今日の用は済んだし、二人は翼の団本営で休んでください。私と阿修羅は先に失礼する。」……善見城、翼の団本営【煉獄茨木童子】 「なぜあの二人の頼みに応じた?暇どころか、差し迫った事態のはずだ。他族の争いに関わっている場合か。」【鬼王酒呑童子】 「鬼域に入ってから、霊力の流れが異常だと感じた。流れを辿ってみたら善見城を見つけ、二人に出くわした。阿修羅と帝釈天は、どうやって鬼域深淵を攻めるか議論していたな。都の霊力はあの深淵に流れ込んでいる。あの二人がいなくても、行ってみるつもりだった。」【煉獄茨木童子】 「友なら、同行者は不要だと思うが。」【鬼王酒呑童子】 「便宜上彼らを助けると言っただけだ、お前も来たしな。今までのやり取りを見た感じだと、あの二人の目的は戦争を鎮めるだけじゃねえ。あの二人のどちらかが、霊力を操る張本人かもしれん。」【煉獄茨木童子】 「もしかして阿修羅は、本当に十天衆を殺し、鬼域をおさめる王になろうとしているのか?」【鬼王酒呑童子】 「断言するにはまだ早い。それに、彼の友人も只者じゃねえ。そういえば、善見城は見た目は凄いが、中はどうなってるいるんだろうな。茨木童子、天人一族の酒を飲むのに付き合ってくれ!」【煉獄茨木童子】 「もちろんだ!」 |
初心の翼
……善見城、中心【煉獄茨木童子】 「ここが善見城の中心か?流石は中心部、城外と同じように豪華だ。まさに天神が住む城そのものだな。」【鬼王酒呑童子】 「城というより、廟に近い。櫛比する楼閣が、天を突き抜くようだ。」【帝釈天】 「善見城の中心の一番高い場所が、天人の統治者……十天衆の神殿だ。」【鬼王酒呑童子】 「十天衆……天人の王は十人いるのか?」【帝釈天】 「重要な事柄は十天衆が共同で決めるが、絶対的な決定権を持つのは善法天様だけだ。十天衆の神殿の下にある高地が、貴族の住む場所だ。今、私達はその外側の繁華街にいる。平民はもっと離れた場所で暮らしている。」【煉獄茨木童子】 「ほう?ここが繁華街だと?白い建物ばかりで、平安京とは大違いだ。出歩く人も薄着で、人間が着る複雑な服とも全然違う。」【帝釈天】 「故郷にいた頃の天人は、霊神体の姿のままで、肉体の縛りがなかったらしい。鬼域に来てから受肉し、服を着るようになった。まだ服に慣れていない天人も少なくない。」【煉獄茨木童子】 「鬼族より大胆だとは……!」【帝釈天】 「はは、善見城は一年中春のようだから、皆薄着を好む。」【煉獄茨木童子】 「その酒の肴はなんだ?見たことがないものだ。」【帝釈天】 「この辺りの店は全て、翼の団に物資を供給しているからよく知っている。店に置いてあるものは、あとで私が全て買い取る。茨木童子も酒呑童子も、食べたい物があれば、遠慮はいらない。右端のあの袋以外は。」【鬼王酒呑童子】 「手遅れだ。こいつ、もう食っちまった。」【煉獄茨木童子】 「あああ……!辛い!辛い!!体が焼かれているようだ!天人はこんなものを食べるのか!」【帝釈天】 「いいえ、天人一族が口にするのは、あっさりしたものばかり。これは阿修羅の好物、激辛唐辛子だ。善見城の天人は、その匂いを嗅ぐだけで気絶するかもしれません。」【煉獄茨木童子】 「ああ……辛い!これがあいつの秘密兵器か!ずる賢いやつめ!どうして自分で取りに行かぬのだ!」【帝釈天】 「茨木童子、これを飲んでみて。」【煉獄茨木童子】 「ん?ごくん……これは何だ?甘く冷たい、辛さが和らでいく。」【帝釈天】 「氷砂糖入りの、白きくらげとハスの実のスープだ。毎日一杯飲むと、心が落ち着く。翼の団の軍事は阿修羅に任せている。軍備の整備、一般物資の調達は私が担当している彼が店に来ると、商売もやり辛くなるしね。店主、干し肉・兵糧丸・唐辛子をあるだけ用意してください。あとで取りに来るから。」【鬼王酒呑童子】 「ここにいる人達は皆何一つ不満がないように見える。まるで神の信者のようだ。」【帝釈天】 「鬼族との争いは絶えないけれど、天人は殺戮を好まず、精神調和を信奉する。故郷忉利天では、皆の思想は霊神体によって繋がっていたという言い伝えがある。忉利天の海では、天人の精神世界で人々はお互いのことを感知できる。皆が分かり合えば、争いは起きない。鬼域に堕ちたことも、忉利天が私達に与えた試練だと思っている。天人は望んでいる、死後霊神体が忉利天に戻り、故人と再会できることを。」【鬼王酒呑童子】 「だから建物が高いのか?」【帝釈天】 「ああ、それが私達の信仰だ。」……善見城、十天衆神殿前の広場【阿修羅】 「物は買い揃えたか?」【帝釈天】 「もう兵に城の外に運ばせた。」【阿修羅】 「まあ座れ、良いものが見れるぞ。」十天衆の一人、光明天が徴兵の通告を手に持ち、宮殿から出て行く」【天人の民甲】 「金翅鳥一族への弔いとして、悪鬼が近くの町や村を何度も襲ったらしい。」【天人の民乙】 「金翅鳥は残虐で、魔神を崇拝している。女子供を深淵に投げ落とし、魔神の餌食にすることもあるらしい。」【天人の民丙】 「恐ろしい……十天衆は何をしているんだ!もし翼の団がいなければ……」【光明天】 「静かに!今回の徴兵は、我々十天衆が深淵の竜巣城を落とし、金翅鳥一族を討伐するためのものである。竜巣城には凶暴な鬼王迦楼羅が待ち構えている。鬼族の数は多く、金翅鳥の空中戦力も厄介だ。城内には対天人一族の秘密神器が隠されているという噂もある。故に我々十天衆は今ここで、志有る者を召集する。兵を率いて竜巣城を攻め落とせば、勝敗問わず、手厚い報酬を約束する。」【天人の民乙】 「しかし……今まで竜巣を討伐しに行った兵士で、戻ってきた者は一人もいない。」【天人の民甲】 「迦楼羅の神器とは一体何なんだ?どう対処すればいい?」【天人の民丙】 「今手を挙げたところで、万全な対策がない限り、無駄死にするだけだろう?」【帝釈天】 「光明天様、私に策があります!」【天人の民乙】 「十天衆の前でも堂々としている。この白い装いの方が、翼の団の帝釈天様か?」【帝釈天】 「竜巣の前には深淵を渡る橋があり、飛行能力を持たない鬼兵がそれを使っています。竜巣に攻め入るなら、避けて通れない道です。」【光明天】 「しかし金翅鳥は飛行を得意とする。飛べない鬼族は足手まといに等しい。もしも我が軍が橋から攻め入ろうとすれば、同族の命を捨ててでも、全兵力を以て橋を壊すだろう!」【帝釈天】 「その通りです!橋を渡って攻め入れば、きっと金翅鳥は総力をあげて石橋を壊すでしょう。その時、竜巣城の後ろはがら空きになります。別の道で深淵を越え、本命の主力部隊を後方に待ち伏せさせます。そして一気に撃破するのです!」【光明天】 「そうすれば橋を渡る陽動部隊の犠牲は免れない。一体どこの将校、どこの部隊が引き受けてくれる?」【天人の民乙】 「さ、最初から死ぬつもりでないと……」【天人の民丙】 「主力部隊のために時間を稼ぐ、決死の作戦だ。」人々が議論していると、背の高い男が立ち上がった。」【阿修羅】 「俺が引き受ける。」【天人の民乙】 「誰だこいつ、威勢がいいな。命が惜しくないのか。」【天人の民甲】 「口を慎め、この方は天人の闘神、阿修羅様だぞ。たった数年で、輸送軍だった翼の団を、正規軍にも劣らない軍隊に育てたお方だ。」【天人の民丙】 「正規軍に劣らないどころか、辺境の正規軍はもう何年もずっと士気が低い。とっくに戦意を失っていて、逃げることしかできない。翼の団の足元にも及ばない!これは阿修羅様にしかできない戦いだ。」【光明天】 「お前が噂の阿修羅なのか?」【阿修羅】 「ああ。」【光明天】 「どこの馬の骨か知らんが、勝算はあるのか?なぜお前に任せなければならない?」【阿修羅】 「策を練ったのは俺の親友だ。友に策がある以上、俺も黙っていられない。それに言っていたよな、勝敗問わず、手厚い報酬を約束すると。もし負けても、この話をなかったことにはしないだろう?」【光明天】 「お前が生きて帰ってこられたらの話だ!」【阿修羅】 「つまり、同意したということだな。」【光明天】 「……」【帝釈天】 「光明天様、どうか我々にやらせてください。」【光明天】 「ふん、身の程知らずが。せいぜいやってみるがいい。何日持つか見物だな。」【阿修羅】 「我は阿修羅、友の帝釈天と共に、必ずや金翅鳥を討ち滅ぼさん。善見城の皆、我々の凱旋を待つがいい!」……善見城、翼の団本営。正規軍と協力し竜巣城を攻めることを、阿修羅が翼の団に知らせた。【阿修羅】 「覚悟を決めてくれ。この戦いは、十中八九生きて帰れない。」【翼団兵士甲】 「私の家は深淵の辺境にあった。家族は皆金翅鳥に殺され、帰る場所なんてどこにもない。」【翼団兵士乙】 「どうしても仇を討ちたい。この機会、逃す理由はない!」【翼団部将】 「阿修羅様と帝釈天様のためなら、この命にかえても!」【煉獄茨木童子】 「友はどうする。本当に彼らと共に竜巣城に行くのか?」【鬼王酒呑童子】 「霊力の流失を食い止めるには、深淵は避けて通れねえ。そのためには鬼族と迦楼羅を片付けねえとな。」【阿修羅】 「二人は一緒に来てくれるのか?」【鬼王酒呑童子】 「当たり前だ。」【阿修羅】 「よし、全軍に告げる。いつでも出発できるように準備して、大軍からの知らせを待つ。しかし帝釈天よ、俺達は元々竜巣に攻め入るつもりだったんだ。なぜ十天衆の徴兵に応じた?竜巣城を攻め落とすなら、俺とお前、そして翼の団がいれば十分だ。」【帝釈天】 「阿修羅、戦力であなたに敵う者はいない。翼の団も昔よりずっと強い。背水の一戦だが、勝算はある。」【阿修羅】 「途中で十天衆が邪魔しに来る恐れがあると?」【帝釈天】 「そうだ。やつらが軍を率いて漁夫の利を得たとしたら、私達もただでは済まない。少なくとも、今回は大義名分が立つ。戦争を終わらせ、鬼域を粛清するために、天人は一致団結しなければ。」【阿修羅】 「十天衆が兵を率いて来たら、俺達はその力を借りて、竜巣の兵力を分散させればいい。本当に何か企んでるなら、俺達に大義名分があっても、手段はあるはずだ。まあいい。反逆者の汚名を着せられたとしても、遅かれ早かれやり合う日は来るだろう。帝釈天、あの軟弱者達を排除しない限り、天人に真の未来はない。それができないなら、お前の優しさはただの優柔不断だ。」【帝釈天】 「阿修羅、その日はきっと来る。ケホ……」【阿修羅】 「どうした、帝釈天。」【帝釈天】 「昨日鬼手の中にあった霊神体の欠片を吸収して以来、少し調子がよくないんだ。欠片の影響かもしれない。おかしいな。」【阿修羅】 「ほう。」【帝釈天】 「阿修羅?」【阿修羅】 「なんでもない、今日は早く休め。」……数日後、十天衆神殿【光明天】 「数万人の大軍を召集した。竜巣から西南に百里離れた場所で、霊神体で深淵を渡る橋を造る。お前達二人は軍を率いて竜巣城へ向かい、竜巣橋の向こうにある要塞に駐留しろ。使者を遣わして伝令する。令を受けたら橋で陽動をしかけろ。私が来るまで、半日持ち堪えてくれ。苦戦になるだろう。二人に乾杯だ、健闘を祈る。」【阿修羅】 「貴族の美酒か、普段飲めない絶品だろうな。これは戦死した仲間達と、辺境で無駄死にし、見捨てられた天人の民への弔い酒だ。」阿修羅が盃を持ち上げ、光明天を直視しながら、酒を机にこぼした。」【帝釈天】 「そのとおり。凱旋した暁には、また飲みましょう。」【阿修羅】 「行くぞ、帝釈天。」【光明天】 「こいつら……!」【鬼王酒呑童子】 「終わったか?行ったきりで戻って来ないかと思ったぞ。」【阿修羅】 「あいつらが妙な真似をしたら、俺も遠慮はしないさ。」【鬼王酒呑童子】 「俺と茨木童子に預けたこの物資は、誰かにやるのか?」【阿修羅】 「最近辺境で戦死した戦士の家族に配る食料だ。翼の団の戦士の大半は、鬼族に家族を殺された者達だ。城に住んでいる家族に黙って、帝釈天について軍に入る者もいる。家族がいるのに、見ず知らずの人のために命をかけるのは、大きな勇気が必要だろう。もしまだ家族がいたら、俺にはできないかもしれない。」【鬼王酒呑童子】 「そういえば、帝釈天は善見城の貴族だし、家族もいるのに、いい度胸じゃねえか。」【阿修羅】 「だからこそこいつは俺の友人なんだ、心から敬服している。」【帝釈天】 「買いかぶりすぎだ。ただ家族とうまくいってないだけさ。貴族の家に残っても、変な目で見られてしまう。」【天人貴族甲】 「見て、あれは独立独行の「貴族」、帝釈天じゃないか?」【天人貴族乙】 「またあの血に飢えた鬼神と一緒にいる。やはり彼の兄の言う通り、戦い過ぎて頭がおかしくなったんだろう。」【天人貴族丙】 「彼は独断専行で、貴族の肩書はあれど、一族と仲が悪いようだ。」【天人貴族乙】 「彼の兄だってお情けで身分を残してやっただけ……うわあ!!な、何をする!」【煉獄茨木童子】 「何もしない、ただ気に入らないだけだ。」【天人貴族甲】 「うわああ……こいつら、まさか鬼族か?」【天人貴族丙】 「うわ……あ、あれは阿修羅の黒い触手だ!近寄るな!」【天人貴族乙】 「あ……危ない!!ああ……触手が十天衆の彫像を倒したぞ!」【天人貴族丙】 「逃げろ!阿修羅が鬼族を連れて暴れている!!」【阿修羅】 「あいつらが言っていたことは気にするな。」【帝釈天】 「ありがとう。気にしてなどいないさ……壊した彫像をどう弁償すればいいかってことのほうが気になるからね!」【煉獄茨木童子】 「案ずるな、私達に弁償させる度胸などあるわけがない!」【???(源頼光)】 「大江戸山の妖怪は、どこにいても落ち着きがないな。」【煉獄茨木童子】 「この声、まさか……?」【鬼王酒呑童子】 「源氏の家主は、どこにいても大袈裟だな。」【源頼光】 「こんなに広い鬼域で会えるとは、偶然ではなさそうだ。」【帝釈天】 「この方が茨木童子が言っていた、複雑な服を着た都の人間かな?ふふ、遠くから何人もの客人が善見城に来てくれたようだね。私は善見城の「一般」市民、帝釈天だ。貴殿は?」【煉獄茨木童子】 「源頼光、男なら堂々と名乗るんだ!」【源頼光】 「ほう、善見城の「一般」市民だと?私は都の「何の変哲もない」陰陽師、名乗るほどの者ではない。」【天剣刃心鬼切】 「……」【帝釈天】 「何の変哲もない?その逆じゃないのか。この陰陽師の精神力、侮れないぞ。」【阿修羅】 「人間の身で鬼域深淵の試練をくぐり抜けてきたんだ、謙遜するな。」【帝釈天】 「阿修羅、深淵の試練とは一体?」【阿修羅】 「都から善見城に来るには、深淵は避けては通れない道だ。鬼族はともかく、人間がここまで来るのは珍しい。」【帝釈天】 「そうなのか。」【阿修羅】 「大事なのはこの客人の目的が、俺達と同じかどうかだ。」【源頼光】 「ふっ、着実に目的を達成するために、時には相容れない宿敵と一時的に協力することもあろう。そうだろう、鬼切?」【天剣刃心鬼切】 「それには及ばないさ、源頼光。今回の危機を解決した後のことは、考えてある。」【源頼光】 「ここは信じられないほど、異族の来客を快くもてなしてくれた。招いてくれた人が、手配してくれた違いない。こうして皆に会えたのが、偶然であるはずがない。」【天剣刃心鬼切】 「そういえば、善見城の建物と街並みに見覚えがある気がする。まるで夢を見ているようだ。夢を見ているときは懐かしく感じるが、目が覚めて幻だったと知る。」【帝釈天】 「ここが夢の中だとしたら、夢に迷い込んだのか、それとも私達自身が夢なのか?」【阿修羅】 「夢を作り出した張本人が、夢に閉じ込められているのかもしれない。」【帝釈天】 「はは、今日の阿修羅は大胆なことを言うな。」【源頼光】 「美しい夢は往々にして短いものだ。善見城は美しく、離れがたい場所だな。先に失礼する。行くぞ、鬼切。」【煉獄茨木童子】 「ふん、これが夢なのなら、もうこいつに会うのは御免だ。」【鬼王酒呑童子】 「……」……善見城外、貧民窟【帝釈天】 「ここが貧民窟、身分の低い天人が住む場所だ。意外でしょう、光あふれる善見城にこんな薄暗い場所があるなんて。」【正規軍兵士】 「どけ!城門から離れろ、邪魔だ。」【煉獄茨木童子】 「兵士が平民を鞭で打っている。まるで家畜のような扱いだ。どこに追い出すつもりだ?」【阿修羅】 「十天衆は貧民には善見城にいる資格がないと思ってる。城外に追い出すんだ。」【光明天】 「もうすぐ正午だぞ、貧民はまだ追い出せていないのか?」【正規軍兵士】 「光明天様、申し訳ございません!急がせます!」【貧民甲】 「光明天様!どうか中に入れてください!善法天様……お願いします。妻と子供だけでも中に入れてください。」【貧民乙】 「城外にいれば、妻と子供は悪鬼の餌食になってしまいます!」【光明天】 「自分の卑しい出身を恨むがいい。これ以上善法天様の邪魔をするな。」【善法天】 「城門を閉じろ!」【正規軍兵士】 「はっ、善法天様。」【煉獄茨木童子】 「十天衆め、万死に値する!君達の気持ちはよくわかった。私も見ているだけで頭にきた。」【帝釈天】 「そうだ。私は彼らを救いたい。身分の低い人の運命を変えてあげたいんだ。過去の私は、微々たる力を使って、彼らの苦痛を分かち合うことしかできなかった。今は翼の団がいる。少なくとも、辺境にいる天人のために鬼族の侵略を阻止できる。十天衆を倒した先に、天人一族が救える未来があるのかどうか、私にはわからない。」【阿修羅】 「わからないが、十天衆がいる限り、天人は縛られ続ける。すべての悪党を消したところで、死んだ者は生き返らない。強者達は処刑者の座を争っているに過ぎない。処刑する者には、当然処刑される覚悟がある。」【帝釈天】 「それでも、阿修羅、私はこの全てを変えたい。苦しみと犠牲のない世界を造るんだ。」……善見城外、辺境の村【煉獄茨木童子】 「辺境には小さな村がそこそこあるな。」【帝釈天】 「善見城から追い出された、あるいは他の場所から逃れてきた難民達が作った村だ。生活自体は何とかなるが、辺境の守りが弱く、頻繁に鬼族の襲撃を受けている。なのに十天衆は聞く耳を持たない。代わりに私と阿修羅が辺境と村を守っている。」【天人の村人甲】 「あれは翼の団だ!阿修羅様の翼の団が出征するぞ!」【天人の村人乙】 「英雄阿修羅様!必ず勝ってください!英雄!英雄!阿修羅様、帝釈天様、ご武運を!無事をお祈りします!」【帝釈天】 「ありがとう皆。翼の団、出発だ。」……鬼域平原、進軍の途中【鬼王酒呑童子】 「金銀財宝を得るのは容易い、人心を得るほうが難しい。お前には人の心を読み取る力がある、人を見る目も悪くないだろう。」【煉獄茨木童子】 「帝釈天、私が今何を考えているか当てられるか?」【帝釈天】 「茨木童子は、阿修羅は人気だが、酒呑童子の大江山での人気も引けを取らないと思っている。」【煉獄茨木童子】 「友は意気軒昂だからな。当然だ、読心術を使うまでもない。もう一度私の考えていることを当てられるか?」【帝釈天】 「大江山の美酒のことを考えている。」【煉獄茨木童子】 「もう一回!」【帝釈天】 「明日は白きくらげとハスの実スープが飲みたい。」【煉獄茨木童子】 「……ふん、つまらん。次は阿修羅にしよう。」【阿修羅】 「ん?俺の思考は読み取れないぞ。」【帝釈天】 「阿修羅の霊神体は強大すぎて、読み取れないんだ。しかし、私たちは心を通わせた友人だから、彼の考えくらい手に取るようにわかる。」【煉獄茨木童子】 「言ってみろ。」【帝釈天】 「白きくらげとハスの実スープは、激辛唐辛子を30個は入れないと食べられない。」【阿修羅】 「帝釈天、また砂糖を20個入れてみろ、激辛唐辛子を30個食わせてやる。」【煉獄茨木童子】 「激辛唐辛子……数少ない私の苦手なものだ。」【鬼王酒呑童子】 「阿修羅の霊神体は強すぎると言ったな。霊神体とやらの強さはどうやって判断するんだ?」【帝釈天】 「天人の霊神体は幼い頃に顕現し、天人と共に一生を過す。肉体は滅びても再生できる。しかし霊神体の破壊は死を意味する。霊神体は魂と心の強さを反映し、外在的な力と能力を決める。強い霊神体を持つ天人は、皆に好かれる傾向がある。」【鬼王酒呑童子】 「なるほど、それで貴族と平民を分けるのか?」【帝釈天】 「故郷忉利天が滅び、鬼域に移住する前はそうだった。今の貴族は利己的で臆病で、弱い霊神体を持っている者がほとんどだ。貴族は有名無実になった。」【鬼王酒呑童子】 「お前はどうなんだ?」【帝釈天】 「私の霊神体は、貴族の中でも特に弱い。だから一族に見捨てられた。」【鬼王酒呑童子】 「平民を救うと言いながらも、弱肉強食の法則を認めているようだな?」【帝釈天】 「崇拝の対象がなければ、一族は前へ進めない。頂点に立つ強者こそが、それに相応しい。阿修羅みたいな強者が、出身のせいで埋もれてしまう。どんな時代、どんな種族でも、人々を導くのは人々を救うことのできる強者だ。」【鬼王酒呑童子】 「阿修羅は平民の強者で、お前は貴族の弱者か。なぜ協力し合うことになった?」【阿修羅】 「同じ目的を持っているからだ。帝釈天の能力は戦闘には向いていない。その代わり情報収集と意思疎通に長けている。こいつは貴族の身分を利用して翼の団を立ち上げ、同じ志を持つ若者達を連れて前線の支援をしていた。」【帝釈天】 「話せば長くなる。数年前、あの時の私はただの軍医だった。」……数年前、善見城辺境、戦場の最前線【翼団部将】 「まるで生き地獄だ。見渡す限りの焦土、壊れた壁、焼かれ略奪された村。」【翼団兵士甲】 「全部悪鬼共の仕業だ!くそっ、十天衆の軍隊がもっとしっかりしていれば、ここまで敗退することはなかったのに。そのせいで鬼族が我々の土地を占領し、族人を殺した。」【翼団部将】 「無能で陳腐で臆病な十天衆、正規軍を頼るより我々自身を頼るほうがましだ。この村はもうだめです。ここは諦めて、次の村に行きますか?」【帝釈天】 「だめだ。この村は大きい、まだ生存者がいるかもしれない。一度捜索して、生存者がいないことを確認してから移動しよう。」【翼団部将】 「よし、手分けして捜索するぞ。」【帝釈天】 「……なぜ私は、もっと早く来れなかった?」【翼団兵士乙】 「帝釈天様、自分を責めないでください。こんな惨状だ、襲撃してきた悪鬼の数も多かったはず。早く着いていても、結果は同じだったでしょう。」【帝釈天】 「あなたの言う通りだ。私のような弱者など、その場にいても何もできないだろう。それでも助けたいんだ……苦しみと罪悪が溢れるこの世界で、奇跡を起こしたいんだ。」【翼団兵士甲】 「少なくとも帝釈天様には、辺境の人々を救おうという思いがおありになる。高い地位にいる無能な貴族達よりも、ずっとご立派です!」【翼団兵士乙】 「あなたが弔ってくださっていると知れば、死んだ者達の心も少しは安らぐでしょう。」【帝釈天】 「思い……?力が足りなければ、どんな願いも、ただの空想でしかない。」【翼団兵士甲】 「もし私が、天人一族の伝説の闘神のように強ければ!鬼を皆殺しにして、故郷を取り戻してみせるのに!」【翼団兵士乙】 「私も聞いたことがあります、強い黒き闘神が、辺境に現れたと。」【帝釈天】 「黒き闘神?」【翼団兵士乙】 「漆黒の、どの軍にも属さず一人で戦う強大な戦士です。辺境でしか目撃されていません。霊神体がとんでもなく強く、一騎当千、向かうところ敵なしだと。」【帝釈天】 「もし本当にそれほど強い天人がいるのなら、戦争はとっくに終わっているはず。」【翼団部将】 「帝釈天様、これは絶望した民が創り出した伝説に過ぎません。この村は滅びました。次の村へ向かいましょう。遠くはありませんが、急ぎましょう。もう日が暮れます。夜になると危険が増します。」ドン……【翼団兵士乙】 「うわあああ!」【翼団部将】 「何事だ?!」【翼団兵士甲】 「お、鬼族だ!!鬼族が我々の兵士を襲った!」【翼団部将】 「何だと!待ち伏せされたのか?戦闘に備えろ、急げ!」【藍爪鬼】 「こいつらが天人の部隊か?あっけないな!」【翼団兵士乙】 「鬼族がこんなに!まずい、こいつら毒をばら撒いている。囲まれた!」【翼団部将】 「帝釈天様、お下がりください!あなたの霊神体では戦えません。もし毒にやられたら……」【帝釈天】 「まさ……か……う、動けない……?」【翼団兵士乙】 「助けて!うわああああ!」【帝釈天】 「やめてくれ!仲間を殺さないでくれ!」【藍爪鬼】 「虫けらの分際で何だ、自分の立場をわかっているのか!ははは!お前は殺さない、同類の惨めな死に方を見せてやる!」【帝釈天】 「やめろ!……お願いだ!食料も物資も、全部持っていっていい!彼らを見逃してやってくれ!!」【翼団兵士甲】 「……あああああああ!」【帝釈天】 「さっきまで話をしていた仲間が、今鬼族に殺された……これが弱者の運命なのか?」【藍爪鬼】 「死に際に何をつぶやいている、イカれちまったか?」【帝釈天】 「もっと強い者が、あなたたちを倒しに来るかもしれないとは思わないのか!」【藍爪鬼】 「ほう?仮にそんなやつがいたとしても、そいつはとんでもない悪鬼に違いない!誰も助けに来ない。弱者を救う英雄なんて存在しない!お前の運命は、俺達の手中にある!はははは!」【帝釈天】 「英雄など存在しない?違う、英雄は存在する。今、ここにいないだけだ。どれほど強い英雄なら、人々を救うことができる?どれほど強い英雄なら、戦争を終わらせることができる?」【藍爪鬼】 「うるさい!舌を引っこ抜いてやる!」鋭い爪が帝釈天に向かってきた瞬間、悪鬼は悲鳴も上げずに、バラバラになった。」【帝釈天】 「……これは?!」目の前にいる黒き闘神は、帝釈天が見たことのない凄まじい霊神体を持っていた。六本の赤い触手が鬼族に襲いかかる。彼を包囲していた悪鬼達は、簡単に潰された。」【帝釈天】 「漆黒の姿、一騎当千、彼が噂の闘神なのか?これは死ぬ前の幻覚なのか……それとも本当に奇跡が起きたのか?いや……待て………………おい、皆!気をつけろ!」【翼団兵士甲】 「よかった、助かりました!伝説の闘神が助けてくれ……うわああああ!!!」【翼団兵士乙】 「どういう……ことだ?!あああああ!!!」凶暴な戦士が突然獣のように咆哮し、触手で仲間の胸を貫いた。」【阿修羅】 「美しい悲鳴だ……地獄へ落ちろ……」【翼団兵士甲】 「こ、こいつは英雄なんかじゃない……悪鬼だ……!」【翼団兵士乙】 「まずい!逃げろ!!殺されるぞ!!うわああ!」【翼団兵士甲】 「うわあああああ!こ……ころ……」【帝釈天】 「これは……?!彼の凶暴な精神の影響を受けて、周囲の人々が狂気に陥り、敵味方関係なく殺し合っている。いや、彼は悪鬼じゃない……!あの霊神体……まさしく真の、最強の……天人だ!自分だけでなく、周囲の人々にも影響してしまうほどの霊神体!」苦しみの中、帝釈天は暴走した黒き戦士に向かって這っていく。【帝釈天】 「彼はきっと……真の奇跡……!我が身が滅んだとしても……この奇跡を失うわけにはいかない!」帝釈天は彼自身に突き刺さった触手を掴む。意識の奔流が彼を襲う。」【帝釈天】 「なぜだ……なぜあなたはこんなにも苦しんでいる?やめてくれ……ゲホ!これ以上誰かを、自分を傷つけるな……私はあなたの敵じゃない。正気に戻れ!あなたの苦しみは、私が引き受ける!霊神体ではなく、苦しみで私を貫け。あなたが一人で背負っているものを、私に背負わせてくれ!!」帝釈天の肩を貫いた触手に、温かな蓮花が咲いた。【阿修羅】 「………………………………白い……蓮花?俺の暴走を鎮めた。それがお前の能力か?大したもんだ。」【帝釈天】 「成功してよかった。心配していたんだ、失敗して、あなたを死なせてしまったらどうしようって。」【阿修羅】 「自分が死ぬのは怖くないのか。逆に俺を心配するとは、変わったやつだ。俺は阿修羅だ、お前は?」【帝釈天】 「帝釈天だ。」【阿修羅】 「帝釈天?見かけによらない名前だな。」【帝釈天】 「私はこの周辺で活動している民兵……翼の団の創立者だ。」【阿修羅】 「一人で軍を率いているのか、さては貴族だな?」【帝釈天】 「貴族だった、と言うべきだろう。」【阿修羅】 「本当に変わったやつだ。」……鬼域平原、進軍の途中【帝釈天】 「その後、私は阿修羅を翼の団に誘った。彼は軍の総帥となり、私は軍師、そして彼の右腕となった。私たちの霊神体は、互いのためにある。阿修羅は真の奇跡だ、天人を新しい未来へ導いてくれる。翼の団も積極的に戦場へ向かうようになった。鬼族に占領されていた村を、次々と取り戻した。伝説の闘神も、少しずつ、名が知れ渡る英雄になった。」【阿修羅】 「帝釈天がいなければ、今の俺はいなかった。辺境で一人で戦う戦士のままだったかもしれない。もし誰もが俺のように残虐だったら、俺が終わりのない災いをもたらした時、誰が俺を止めに来るんだ? いずれ世間はお前の価値を知る。お前にも、俺が分からせてやる。」【翼団兵士甲】 「阿修羅様、この先が天人の町……瑠璃城です。」【阿修羅】 「使者を遣わし、瑠璃城に入る。補給して休み、明日の大戦に備える。いや待て、瑠璃城の旗がおかしい。帝釈天。」【帝釈天】 「ああ。霊神体で探ってみる。……………………まずい!瑠璃城は既に鬼族に占領されたようだ。迦楼羅の配下の鬼族部隊らしい。」【煉獄茨木童子】 「何だと!」【阿修羅】 「どうやら、補給の前に、まずは肩慣らしが必要みたいだ。」 |
瑠璃の邂逅
瑠璃の邂逅 |
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」【翼団兵士甲】 「阿修羅様、偵察兵が戻りました。城外でコソコソと道を探している女を見つけました。」【阿修羅】 「道を探している女?連れて来い。」華やかな衣服が乱れた女が、偵察兵に連れられてきた。」【阿修羅】 「お前は何者だ。なぜ瑠璃城の外を徘徊している?」【???(毘瑠璃)】 「…………」【阿修羅】 「黙るのか?俺が口を開かせてやる。」【帝釈天】 「阿修羅、怪しい女を捕まえたと聞いたが。待て、この人は…………阿修羅、彼女を解放してくれ。あなたは毘瑠璃か?」【毘瑠璃】 「あなたは誰?なぜ私のことを?」【帝釈天】 「十数年前、善見城の祭典の時、貴族達は十天衆様の所に集まっていた。私も、父や兄とその場にいた。あなたはもう忘れているかもしれないが、あの時あなたは蘇摩と一緒にいた。」【毘瑠璃】 「十数年前の祭典、確かに姉様と一緒だった……よく覚えているのね。」【阿修羅】 「貴族の方だったのか。」【帝釈天】 「阿修羅、毘瑠璃は瑠璃城の城主だ。瑠璃城には二人の城主がいる。蘇摩と毘瑠璃の二人姉妹、この方が妹の毘瑠璃だ。」【阿修羅】 「城が他族の手に落ちているのに、なぜ城主が城外を徘徊している?もう一人の城主、蘇摩はどこだ?」【毘瑠璃】 「私に質問する前に……まずは名乗ってもらえないかしら。」【阿修羅】 「俺は阿修羅、彼は帝釈天だ。俺達は民兵翼の団を束ねる者だ。十天衆の依頼を受け、鬼王迦楼羅とやつの竜巣城を討伐しにきた。」【毘瑠璃】 「ほ、本当に……?なにか証明できるものはある?」【帝釈天】 「十天衆からの依頼書、そして貴族の印章も持っている。」【毘瑠璃】 「そういうことだったの……」【阿修羅】 「どうした?まさか俺達の名を名乗るやつがいたのか?」【毘瑠璃】 「……そのとおり……翼の団の使者と名乗る者のせいで、鬼族の罠にはまってしまった。数日前の朝、ある天人の小隊が瑠璃城へやってきて、救援を求めた。迦楼羅を討伐する翼の団だと名乗った。金翅鳥の罠にはまったと。やっとの思いで抜け出し、助けを求めにここまで来た。もし翼の団がやられたら、次は瑠璃条だと。だから私と姉様は兵を送った。まさか迦楼羅の詭計だったなんて、夢にも思わなかった。私たちは待ち伏せされた。姉様は私をかばって迦楼羅に攫われ、行方不明になった。」【阿修羅】 「つまり、もう一人の城主は迦楼羅のところに。」【帝釈天】 「蘇摩は名高き戦乙女、迦楼羅に謀られるとは。」【毘瑠璃】 「事態は深刻だと知った私は、急いで瑠璃城に戻った。私達が留守にしている間に、瑠璃城は鬼族に占領されていた……やつらは兵を殺し、民を人質にした。迂闊に手出しできない。私と残存部隊は城外を徘徊することしかできなかった。」【帝釈天】 「なるほど、そういうことなら、今は瑠璃城を取り返すのが先決だ。」【毘瑠璃】 「瑠璃城の陥落は……私のせい。姉様は一人で行くつもりだった。でも私は心配で。私が無理を言って姉様についていったりしなければ、瑠璃城を守れたかもしれない……」【阿修羅】 「あまり気にするな。俺達二人でも敵わなかった相手だ。鬼族の兵はお前ら姉妹より強い。城に残っていたとしても、結果は同じだっただろう。最悪命を失っていたかもしれない。」【毘瑠璃】 「あなたの言う通り、どっちにしても、私は役に立てなかった。私の甘さのせいで姉様が攫われ、城の民を苦しませた……」【帝釈天】 「落ち着いて。私は阿修羅と同じ主将だけど、常に共に出陣している。あなたのおかげで、私たちは城の状況を把握できるようになった。」【毘瑠璃】 「お願い、鬼族の手から瑠璃城を取り戻して!姉様を助けて!その代わり、瑠璃城は今後、翼の団の後ろ盾になる!鬼族は城の天人から抵抗する気力を奪うために、捕虜達に玉醸を飲ませた。早く助けないと、手遅れになる。」【阿修羅】 「玉醸?そんなものを無理やり飲ませたのか。」【毘瑠璃】 「ええ。一時的に兵士の力を増幅させる神薬だと言われているけれど……実際は幻覚を起こすもの。戦士も一般人も、飲むと病的な夢に浸ってしまう。痛みを感じないし、死も恐れない。これが兵士の力が増幅すると言われている所以。玉醸を長期間飲み続けると、霊神体は力を失ってしまう。」【帝釈天】 「…………」【阿修羅】 「瑠璃城が落とされたのはいつだ?」【毘瑠璃】 「もう七日前になる。老人や体の弱い人達はもう限界かもしれない……どうか彼らを助けて!」【阿修羅】 「お前に言われなくても、俺も帝釈天もそのつもりだ。城にいる民を助け、罪を犯した鬼族を粛清する。」【帝釈天】 「我々の兵力では正面突破も可能だが、その場合、鬼族は必ず城の民に危害を加える。」【阿修羅】 「城内から生まれた動乱だったら?」【帝釈天】 「というと?」【阿修羅】 「同じ方法でやり返す。変装して城に紛れ込む。隙をついて頭領を討ち、城門を開ける。平民が逃げたら、翼の団を城内に突入させ、一気にかたをつける。」【帝釈天】 「悪くない策だが、どうやって変装して城に紛れ込む?」【阿修羅】 「俺に考えがある。お前と城主様の協力が必要だ。」【毘瑠璃】 「瑠璃城の民を助けるためなら、どんなことでもしてみせる。」【帝釈天】 「それで、その考えとは?」【阿修羅】 「すぐにわかるさ。そうだ、酒呑童子、お前達の力も貸してほしい。天人の気配を、鬼族の気配に見せかける方法はないか?」【鬼王酒呑童子】 「お安い御用さ、俺様が術をかけてやる。」……少し時間が経った後、瑠璃城外【雷公鬼】 「何者だ?」【阿修羅】 「俺達はこの付近の鬼族だ。善見城の辺境で金銀財宝を手に入れた。日も暮れたし、中で休ませてほしい。」【雷公鬼】 「この城は封鎖されている。他を当たれ!」【阿修羅】 「善見城で珍しい品が手に入った、天人の王家の職人にも造れない珍品だ。磨き上げられた玉や、金と銀はもちろん、瑠璃珠もいくらでもある。一晩泊めてくれるなら、代わりに好きなものをやる。」【雷公鬼】 「たわけが!そんなもので買収されるか!」【翠甲鬼】 「だが瑠璃珠は、なかなか見れない希少品だぞ……」【阿修羅】 「これほどの品だ、城に入れてくれないと、野良の鬼に盗られてしまう。鬼に盗られるより、城の皆がもらってくれたほうがいい。」【金翅鳥甲】 「そうだ、城に入れないと、鬼に盗られてしまう。彼らを城に入れて、俺達がこれを……」【雷公鬼】 「愚か者め!こんな物に買収されて!もし何かあったら、迦楼羅様に言いつけて、お前が隠している金を取り上げるからな!」【阿修羅】 「それと、天人の貴族を二人捕らえた。瑠璃珠ほどではないが、中々の上玉だ、酒のつまみにどうだろう。」【翠甲鬼】 「見せてみろ!」【金翅鳥甲】 「……ん?!こ、これは瑠璃城の城主毘瑠璃だぞ!」【翠甲鬼】 「何日追っても見つけられなかったのに、まさかお前が!」【雷公鬼】 「開け、城門を開け!」皆が重い荷物を城に運び、鬼族に変装した阿修羅が毘瑠璃と帝釈天を運んだ。【鬼族の頭】 「毘瑠璃を捕まえたのはお前か?この女はずる賢い、どうやって生け捕りにした?」【阿修羅】 「俺はただ、運がよかっただけさ。俺はあの時、善見城から出てきた、天人の貴族の占い師を狙っていたんだ。見た感じ身なりがかなり良いし、荷物も少なくない。これは当たりだと思った。機をうかがっているうちに、突然女が助けを求めに現れて、地面に跪いて泣いて騒いだ。それでついでに女も攫ったんだ。」【鬼族の頭】 「瑠璃城の城主が、占い師に助けを乞うのか?その占い師も只者じゃないな?」【阿修羅】 「善見城の辺境で、天人から聞いた話だが、彼には神通力があるらしい。彼は非凡な人物で、予言の力があり、十天衆もこいつに戦況を占ってもらっている。毎回的中するそうだ。十天衆がもっとこいつを信用していれば、とっくに戦争を終わらせていただろう。鬼族など敵ではないはずだ。そんな占い師と女を、金翅鳥様に献上します。」【鬼族の頭】 「本当にそんな神通力があるのか?連れて来い、金翅鳥一族の運勢を占わせよう。次はどこを攻めたらいい?善見城を占領できないだろうか。」阿修羅が縛られた占い師を連れてきて、縄を解いた。【鬼族の頭】 「お前が天域で有名な占い師か?」【帝釈天】 「恐縮です。未来を予測し、良くない運命を避けられるよう、占いをするまでです。あとは占いの舞いができます。場を盛り上げ、盃を通してその人の運命を覗くことができます。」【鬼族の頭】 「そういうことなら、踊ってもらおうか!」【雷公鬼】 「神通力を持つ占い師だと?俺達にも見せろ!」【鬼族の頭】 「さあ、宴だ!」宴会の場で、帝釈天が鬼族の頭目に酒を注ぐ。そして占いの舞いを披露し、徐々に油断させていく。【阿修羅】 「迦楼羅の鬼族の軍隊は戦闘に長けている。天人の城を落とすことなど造作もない。瑠璃城も手に入ったことだし、占いなどせずに、このまま一気に本城まで攻めるべきでは?」【鬼族の頭】 「迦楼羅様もそのつもりだったが、正規軍より手強い民兵が出てきたんだ。頭領の天人は二人いる。阿修羅と帝釈天だ。阿修羅は強大な力の持ち主で、知勇兼備、闘神と言っても過言ではない。迦楼羅様も言っていた、一騎打ちで敵う相手ではないと。帝釈天は融通が利き、人々から敬愛され、偵察と計略を得意とする。我が軍は何度もやつらの罠にはまってしまった。二人の連携を破るのは至難の業だ。」【阿修羅】 「それなら、やつらの弱点を突けばいいのでは?」【鬼族の頭】 「やつらはお互いの力を補い合っていて、つけ入る隙がない。しかし、今はそうでも、今後はどうかな。」【阿修羅】 「ほう?」【鬼族の頭】 「相互補完から、対立関係に変えるのは容易い。いずれ十天衆があいつらを仲違いさせるだろう。お互いのことを信じられなくなった時、貴族である帝釈天と、そうでない阿修羅の連携は、そこで終わるだろう。乱暴な阿修羅は黙っていられないはずだ。迦楼羅様はその日を待っている。遅かれ早かれ、あの二人には行き違いが生じる。」【阿修羅】 「お前はその日まで待てないけどな。」【鬼族の頭】 「何か言ったか?」【阿修羅】 「何も。聞き間違いだろう。ところで、おい、占い師、いつまで踊っているつもりだ。」【帝釈天】 「もう少しで終わります。」【阿修羅】 「よし、こっちに来い。」帝釈天が鬼族頭目と阿修羅の前に来た。」【帝釈天】 「天地の霊気を集め終わり、天の運びが分かりました。あとは最後の一歩です。両手で盃を持ち上げてください。手を放してはいけません。俯いたまま、集中してください。あなたは近々災難に見舞われるでしょう。軍の統帥であるあなたは、人を沢山殺してきたでしょう。このような災難に見舞われても、仕方ありません。あまり気にしないでください。」【鬼族の頭】 「それはいつだ?命に関わるのか?避けられるのか? |
」【帝釈天】
「ふふ……避けられないさ。」【鬼族の頭】
「何?!」【帝釈天】
「なぜなら、あなたは今夜死ぬのだから。」【鬼族の頭】
「う、嘘だ!!」次の瞬間、鬼族頭目の喉は、剣に貫かれた。そして剣はそのまま胸に向かって振り下ろされ、彼は真っ二つになった。【阿修羅】
「嘘じゃない、俺が実現にしたからな。」【金翅鳥甲】
「首領!!」【雷公鬼】
「衛兵!この裏切り者を抑えろ!」【阿修羅】
「裏切り者?それは違うだろう。お前らの仲間になった覚えはないからな。」阿修羅の妖気が消え、代わりに霊神体が現れた。六本の触手が鬼族と金翅鳥に襲いかかる。」【翠甲鬼】
「うわあああ!!!」【雷公鬼】
「殺さないで、殺さないで!俺はただ命令通りにしていただけだ!
」【金翅鳥甲】
「この黒い触手、まさか、お前が……」触手が鬼族の顎を切り落とし、血を吐いた鬼族はこれ以上話すことができなくなった。【阿修羅】
「冥土の土産に俺の名前を教えてやる。俺は阿修羅だ、来世でも忘れるな。」【帝釈天】
「毘瑠璃、地下に行って監禁されている平民を解放してくれ。翼の団と瑠璃城の兵士も、箱から出てきてくれ。」数十人の精兵が、宝箱に偽装した箱から出てきた。」【帝釈天】
「瑠璃城の元衛兵達は、城壁に行って城門を開けてください!残りの者は、私と阿修羅と共に、鬼族を迎え撃つ!酒呑童子、茨木童子、力を貸してください。」【煉獄茨木童子】
「ふん、私に恥をかかせた借り、今返してやる!」【鬼王酒呑童子】
「もう来ちまったし、やってやるよ。だが俺様はお前の部下じゃねえ。つまらなかったら、帰るからな。」【阿修羅】
「翼の団の戦士よ、俺に続け!邪魔する者は容赦なく殺せ!」【翼団兵士甲】
「はっ!」【藍爪鬼】
「こんな強い部隊、どっから湧いてきやがったんだ!太刀打ちできねえ!」【雷公鬼】
「退け!しまった、うわああ!俺の目が!手が!」【金翅鳥甲】
「阿修羅だ!阿修羅が来るぞ!逃げろ!」【藍爪鬼】
「あああ!阿修羅だ!逃げろ!」【阿修羅】
「ははは……叫べ、絶望するがいい!お前らが我が一族を殺し、罪のない一般人を巻き込んだ。一人も逃がさん!今日がお前らの命日だ。」その夜、城にいた鬼族は殲滅された。城門が開かれ、待機していた翼の団が入城した。【毘瑠璃】
「もう安全だから、皆出てきて。」【天人の民甲】
「もう……助からないと思っていた。」【天人の民乙】
「毘瑠璃様のおかげです。」【毘瑠璃】
「私ではなく……そちらの皆さんにお礼を。」【天人の民丙】
「彼らは何者ですか?先頭を歩いている黒き戦士は、誰ですか?」【毘瑠璃】
「彼らが、侵入者から辺境を守っている翼の団。あの黒き戦士は、闘神阿修羅。」……瑠璃城、翼の団の臨時拠点【煉獄茨木童子】
「おい、帝釈天、いい酒をもらったぞ。ん?どうした、勝ったのに浮かない顔だな。」【鬼王酒呑童子】
「困った事でもあるのか?」【帝釈天】
「瑠璃城の守りは薄い。毘瑠璃の怪我も治っていない。また狙われるかもしれない。あとで瑠璃城の民を慰撫してくる。毘瑠璃と瑠璃城を守っていてほしい。」【煉獄茨木童子】
「頼み事をするのも、いい加減にしてくれないか。」【鬼王酒呑童子】
「丁度いい、瑠璃城を回ってみたかったところだ。」【煉獄茨木童子】
「友!」【帝釈天】
「それはよかった、助かる。」【煉獄茨木童子】
「ふん、辛気臭い顔して。酒は譲ってやる。私は友ともっといい酒を探してくる。」【帝釈天】
「ありがとう、茨木童子。」……瑠璃城、翼の団の臨時拠点内【帝釈天】
「いい酒を持ってきた、一緒に飲もうよ。見事な戦いだったのに、黙っていなくなるなんて。らしくないね、阿修羅。」【阿修羅】
「なに、昔を思い出しただけさ。俺が住んでいた村も、瑠璃城と同じように悪鬼に支配されていた。村の人たちは食糧にされるか、人質にされた。女は蘇摩のように攫われ、行方不明になった。」【帝釈天】
「……」【阿修羅】
「あの時の俺には、今のような力はなかった。大事な人が攫われるのを、ただ見ていることしかできなかった。」【帝釈天】
「阿修羅、昨日鬼族のところで見せた占いの舞いだけど、あれはでたらめではないんだ。盃を通して運命を覗く。十中八九当たる。」【阿修羅】
「本当か?ならやってみてくれ。」【帝釈天】
「盃を私に。……………………………………………………(……まさか、二回も?)」【阿修羅】
「もういいのか?」【帝釈天】
「災難はないけれど、運命が劇的に変化する。幸い、助けてくれる人がいる。」【阿修羅】
「ありがとう、帝釈天。しばらく一人にさせてくれ。」……瑠璃城、翼の団の臨時拠点【光明天】
「ここは我々が引き受ける。準備が出来次第、竜巣に向かえ。」【翼団武将】
「いい加減にしろ!装備や補給には困っていないくせに、戦う時は引きこもって、勝ったら手柄を横取りするのか。」【光明天】
「……民兵風情が、誰に向かって口を聞いている!」【正規軍兵士】
「光明天様に無礼は許さんぞ!」【翼団兵士甲】
「くそ!」【帝釈天】
「光明天様の仰るとおりです、我々もできるだけ出発を急いでおります。」【光明天】
「ほう?帝釈天、物分かりがいいな。」【翼団武将】
「帝釈天様……!しかし……」【帝釈天】
「今回翼の団は、十天衆の命を受け瑠璃城を支援しに来ました。同じ天人一族のためなら、誰が鬼族を撃退し、城を取り返そうと、同じことです。光明天様のご指示であれば、我々は従います。ただ……瑠璃城の一件で、翼の団の兵力が消耗しています。数日の休息が必要かと。英気を養い、鬼王迦楼羅との決戦に備えます。」【光明天】
「ふん、いいだろう。お前、最新の補給物資を翼の団に渡せ。彼らを瑠璃城外で駐屯させろ。」【正規軍兵士】
「はっ、光明天様。」【光明天】
「翼の団の補給問題は、この光明天が解決してやった。貴族であるそなたが、我々に助けてもらう日がくるとは。私の元に来い。翼の団は、この光明天が面倒をみてやる。帝釈天、そなたの面倒もな。ははははは!」【帝釈天】
「光明天様、ご冗談を。」【光明天】
「ははは、行くぞ。」光明天は帝釈天をじっと見た後、正規軍を連れて去った。【帝釈天】
「我々も準備しよう。まずは城外で駐屯する。」【翼団兵士甲】
「しかし阿修羅様は……」【帝釈天】
「私が説明する。」【翼団兵士甲】
「違うんです、阿修羅様は一人で出て行かれました。戻って報告しようと思ったら、誰もいませんでした。外の平民の話によると、ある子供の母親が深淵の裂け目に攫われて、阿修羅様が助けに向かったそうです。」【帝釈天】
「何?!」|
無二の友
無二の友 |
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……深淵の裂け目の外【翼団兵士甲】 「阿修羅様を止めようとしたのですが、だめでした。」【翼団兵士乙】 「我々を気絶させ、一人で行ってしまいました。」【帝釈天】 「あなたたちはここにいろ、私が捜しに行く!」【翼団兵士甲】 「帝釈天様、深淵の裂け目は危険です。阿修羅様でも危険なところです、あなたは行ってはいけません!二人共戻って来れなくなったらどうするんですか!」【帝釈天】 「大丈夫だ……私の命をかけてでも、必ず彼を連れ戻す!」真っ黒の深淵の裂け目は、血の匂いと腐臭が漂っている。奥から戦いの音が聞こえてくる。【帝釈天】 「阿修羅!」【阿修羅】 「はは……ふははははは……!」【帝釈天】 「まずい、阿修羅が暴走している。」【翼団兵士甲】 「あれはまさか、魔神か……?!深淵に住む、恐ろしい未知の魔物……あの力は、鬼族の比ではありません……!」【翼団兵士乙】 「だが、今の阿修羅様は魔神よりも恐ろしい。まるで、無慈悲な鬼神……!」【帝釈天】 「暴虐の意識が完全に解き放たれている。魔神に気を取られ、自分が傷だらけになっていることにも気づいていない!このままでは……」【阿修羅】 「……ははははは。」【帝釈天】 「阿修羅!やめろ!私と一緒に戻るんだ。翼の団の皆があなたを待っている……あなたはもう一人ではないんだ!」【魔神】 「鬼族だろうが、天人だろうが、ここに来て生きて帰った者はいない。全員肉の塊になるがいい。」【阿修羅】 「大口を叩けるのは今のうちだ。その口を刺し貫いてやる!」【帝釈天】 「阿修羅!」帝釈天が阿修羅のところへ走っていくと、阿修羅が重い一撃で魔神を撃退した。阿修羅が帝釈天に振り向き、黒い触手が帝釈天に襲いかかる。【帝釈天】 「うあ……ああ……!!」【阿修羅】 「邪魔するやつは、皆死ぬがいい。」【帝釈天】 「阿修羅……ゴホ、ゴホ……正気に戻れ!私は、あなたの敵ではない……!」【阿修羅】 「ははは……ははははは。」触手が帝釈天の腕を貫き、首を締めて持ち上げる。【帝釈天】 「だめだ……今の彼は……何も聞こえていない……があ……!!奇跡を……失うわけには!」【阿修羅】 「この匂い……?この悲鳴……まさに……最高だ!はははは……!」危ういところで、帝釈天が最後の力を振り絞って霊神体を召喚する。蓮花が阿修羅の触手に咲いた。意識の衝突が帝釈天を苦しめる。阿修羅の狂気が洪水のように彼の頭の中に流れ込んでくる。【帝釈天】 「あなたの心を見せてくれ、阿修羅。強きあなたの、怒りの正体を……」……とある天域の辺境の村【天人の少年甲】 「おい!阿修羅だ!まだ霊神体の召喚もできない阿修羅だ。」【天人の少年乙】 「実は鬼族の子供だったりして。」【鬼族の少年甲】 「あんな弱いやつが鬼族なわけねえよ!あいつ父親もいねえじゃん。いてもきっと雑魚だよ!」【少年阿修羅】 「母さん、また弱い天人だってバカにされた。」【阿修羅の母】 「阿修羅、それはあなたが弱いからではないのよ。」【少年阿修羅】 「じゃあなんでこんなことを?」【阿修羅の母】 「あなたが羨ましいのよ。」【少年阿修羅】 「羨ましい?」【阿修羅の母】 「あなたの父親は神様だから。あなたには神の血が流れているの。」【少年阿修羅】 「俺の父親?」【阿修羅の母】 「あなたは神の子よ。神様が私に産ませたの。いつかあなたは、彼らが話しかけることもできないほど、えらくて強い人になるの。彼らがこんなことできるのも、今だけよ。」【少年阿修羅】 「父さんは今どこにいるの?どうしてそばにいてくれないの?」【阿修羅の母】 「神様は忙しいの。いつも前に進んでいるから、子供のために留まることはできないのよ。だからお父さんはあなたを残して、行ってしまったの。」【少年阿修羅】 「いつか父さんに会える?」【阿修羅の母】 「あなたは王になるために生まれてきた。すべての人を超えるわ、お父さんも超えるのよ。その時が来たら、お父さんに会えるわ。でもね、あなたはお父さんよりもずっと強くなれるはずよ。お父さんを置いていくことになるけど、振り返らないで。」【少年阿修羅】 「俺は母さんのことも置いていくの?」【阿修羅の母】 「そうよ。」【少年阿修羅】 「いやだよ、母さんを忘れたくない。」その後、悪鬼が村を襲った。【少年阿修羅】 「母さんを放せ!放せ!」【翠甲鬼】 「ふん!このガキ、噛み付いてきやがった!ぶっ殺す!」【阿修羅の母】 「阿修羅!子供を放してください!狙いは私でしょう?見逃してあげて!」【少年阿修羅】 「母さん!いやだ!母さんに触るな!」【大食い猛鬼】 「ははははは、素敵な親子愛だな、反吐が出る!」【翠甲鬼】 「この女は深淵の魔神様に捧げるつもりだったが……気が変わった。お前の目の前で母親を殺してやる!」【少年阿修羅】 「やめろ!母さんを放せ!」【翠甲鬼】 「絶望したか?何もできないだろう!これが弱者だ!俺様はな、生まれてから一度も、そんな苦痛を味わったことがない!ははははは!」【阿修羅の母】 「あ……ああ!!」【少年阿修羅】 「母さん!!!母さんを放せ!!!ぐああああ!!!」弱者としての絶望と、母を失う恐怖が阿修羅を追い詰めた。危機一髪、六本の触手の霊神体がようやく覚醒し、悪鬼を貫通する……【翠甲鬼】 「うわああああ……!!」【大食い猛鬼】 「ゲホ、がああああ……!バ、バカな……ぐ……あ……」瀕死の悪鬼が叫び声を上げ、倒れた。【少年阿修羅】 「俺……終わった?母さん、母さん!やったよ!ほら!」阿修羅が頭を上げると、悪鬼を貫いた触手が、母の胸を突き刺している光景が目に映った。【阿修羅の母】 「阿……阿修羅……」【少年阿修羅】 「なんで?なんでこんなことに?」【阿修羅の母】 「怖がらないで、阿修羅……あなたは強くなったのよ。」【少年阿修羅】 「母さん、死んじゃだめだ、いかないで……」【阿修羅の母】 「泣かないで……阿修羅、よくできたわね……前へ進むのよ、振り……返らないで。さようなら、私の阿修羅。」血まみれの母親は、阿修羅の腕の中でだんだん冷たくなっていく。【少年阿修羅】 「強者になっても、一番大切なものを守れなかった。絶望と苦しみは、弱者だけのものじゃないのか?」阿修羅の不安定な霊神体が暴走し、周りのすべてを虐殺する。 |
雷公鬼 化け物!この化け物め!放せ!あああ……!【翠甲鬼】 「放してくれ!死にたくない!ああ……!」【阿修羅】 「全て滅びろ……!殺戮と暴虐……最高だ……!」阿修羅の目に映る死体は全て、母親のものに見える。阿修羅は自分の胸を突き刺したが、霊神体がすぐに傷を治した。【帝釈天】 「阿修羅、正気に戻れ!あなたの苦しみは、私が引き受ける!」阿修羅の苦しみと狂気が、霊神体を通じて帝釈天の魂を突き抜けた。【帝釈天】 「……ゲホ、うわあああ……!!この深い絶望、無力であることの苦しみ、他人への失望、自分への憎しみ!私にはわかる。全て、嫌というほどわかる!何度も何度も味わってきた!私が、あなたが言う弱者だから!否定するな、逃げるな、拒絶するな!阿修羅!あなたが言ったんだ、私は弱者じゃないと!」【阿修羅】 「いいや。お前は弱者じゃない、帝釈天。」【帝釈天】 「あなたもだ。一緒に勝とう。」【阿修羅】 「霊神体よ、俺が主だ!命令に従え、再び集まれ!」【帝釈天】 「暗闇の中では身動きが取りづらい。魔神のほうが有利だ。目を閉じて。私が道を照らす。」大怪我した霊神体が再び集まり、阿修羅が目を閉じた。【阿修羅】 「白い蓮花が道になり、暗い深淵を照らした。魔神の動き、意図、すべてわかるぞ。これはお前だけの力だ。」【帝釈天】 「阿修羅、あなたの苦しみは勇気に変わる。そして私はあなたの目となり、盾となる。」【阿修羅】 「帝釈天、必ず勝とう。」【魔神】 「ボロボロな体で、俺に勝てるとでも?無駄な足掻きだ。」【阿修羅】 「お前など、全力を使うまでもない。」【魔神】 「死ね!」【阿修羅】 「お前を倒すのには、今の力で十分だ。」目に見えないほど速い動きで、阿修羅が魔神の攻撃を避ける。高く跳び上がり、魔神の首を叩き斬る。【魔神】 「があああああ……!」魔神の首が切り落とされ、黒い血が噴き出る。首が地面に落ち、醜い巨体が倒れ、大きな音を立てた。【魔神】 「くかかか、あの女どもは食っちまったぜ、俺を殺しても……あの女どもの命は救えない。」【阿修羅】 「彼女達の命を救おうとは思っていない。ここで死んだ冤魂が、俺を呼んでいた。ここまで導いてくれた。俺はただ、邪魔な者を倒すだけだ。」【魔神】 「ははは……お前はいずれ、後悔する……」【帝釈天】 「まずい、阿修羅、深淵の隙間が陥落し始めている!早くここから離れるんだ!」【阿修羅】 「ゲホ、行くぞ、帝釈天!」……数日後【帝釈天】 「阿修羅、やっと目が覚めたか!」【阿修羅】 「魔神、深淵……帝釈天、一体何があった?」【帝釈天】 「魔神を倒した後、あなたは気絶したから、私と翼の団が拠点に運んだ。」【阿修羅】 「どのくらい経った?」【翼団兵士甲】 「阿修羅様は七日間寝ておられました。帝釈天様が、飲まず食わずで徹夜で付き添われていました。霊神体が半壊の状態なので、もう目覚められないかと思っていました。」【翼団兵士乙】 「心魂が重傷だと聞いて、皆もすごく心配していました。帝釈天様が軍をまとめてくださって、翼の団は今も待機しています。」【翼団兵士甲】 「心魂の重傷も治せるなんて、流石は闘神阿修羅様です!」【阿修羅】 「…………(重傷?俺は何も……)お前に怪我をさせてしまったのか?俺の独断専行だった。帝釈天、お前は助けに来るべきではなかった。」【帝釈天】 「いや、私は天人一族の希望を救った。後悔はしていない。」【阿修羅】 「俺が目覚めたと、皆に知らせてくれ!」【翼団兵士甲】 「はっ、阿修羅様!」【阿修羅】 「全員準備しろ、明日出発する!竜巣城へ! |
竜巣の災い
竜巣の災い |
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……鬼域深淵、竜巣深淵前の天人要塞【阿修羅】 「天域と鬼域を隔てる溝……鬼域深淵。深淵には多くの魔神が栖息していて、その強さ故に、このあたりの鬼族に崇拝されている。鬼族は女子供を攫い、深淵に投げ落とし魔神の粮にする。深淵の向こう側に立っているのが、迦楼羅の根城である竜巣城だ。竜巣には数多くの悪鬼と、迦楼羅の空中部隊……金翅鳥一族が待ち受けている。竜巣城に繋がる唯一の道が、要塞の前にある石橋だ。」【煉獄茨木童子】 「名前の通り、まるで鳥の巣のようだな。断崖絶壁に建っている。おまけに金銀財宝で飾ってあるとは、鬱陶しい。」【阿修羅】 「竜巣城の城壁には弓兵と投石機が配置されていて、橋を渡ろうとするとすぐ攻撃されてしまう。金翅鳥の空中部隊も地形を利用し、天人部隊を石橋から突き落とす。」【帝釈天】 「金翅鳥一族は素早くて勇ましく、縄張り意識が強い。竜巣付近の侵入者を激しく攻撃する。やつらの攻撃を凌げる天人部隊はいない。」【煉獄茨木童子】 「それでは、正攻法は不可能だな。翼の団が正面で敵を引き付け、正規軍が後方から叩くのも納得がいく。」【阿修羅】 「酒呑童子はどう思う。もともと深淵を調査しに来たんだろう?」【鬼王酒呑童子】 「二人に出会うまで、深淵の付近を探っていた。地形もよく知らねえからな、あちこち回っていたぜ。こうして見ると、竜巣城の近くの地形は、俺が知ってるのと大分違うな。あの時は霧があったし、俺自身も霧の中にいたしな。」【帝釈天】 「金翅鳥一族は普段空中を飛んでいるから、道路の建設はかなり適当だ。この辺を歩いていたら、道に迷うのも無理はない。」【煉獄茨木童子】 「そういえば、私もこの辺りで道に迷って襲われたな。あの時も霧があって、すぐに方向を見失った。」【鬼王酒呑童子】 「また霧か?偶然じゃねえだろうな。」【帝釈天】 「まさかこの霧に何かあるのか?」【阿修羅】 「誰かがもったいぶって、裏で何か企んでるんだろう。」【帝釈天】 「(……おかしい)」【鬼王酒呑童子】 「いつ仕掛けるんだ?」【帝釈天】 「今は光明天の使者を待っている。光明天の軍隊が配置につき次第、攻撃を仕掛ける。」【鬼王酒呑童子】 「その時は、霧が出ていなきゃいいが。」【翼団兵士甲】 「阿修羅様、帝釈天様、十天衆の使者です!」【十天衆の使者】 「光明天様の命を受け、軍令を伝えに参りました!光明天様は、数万人の大軍を率いて深淵の向こうに渡りました。現在竜巣城の後方に急いで向かっていて、半日以内に到着します。明日朝一番に、正面から陽動攻撃を仕掛けてください。半日持ち堪えてほしい、必ず来ると光明天様は仰っていました!」【帝釈天】 「お疲れ様です。お茶でもお飲みになって、休んでください。」【十天衆の使者】 「いいえ、すぐに戻って報告します。光明天様はこの一戦をとても重視されています。一刻も無駄にできません。」そう言い残し、使者は逃げるように要塞を後にした。帝釈天はいつもの落ち着きを失い、深刻な顔で竜巣城を眺めている。【阿修羅】 「帝釈天、心配するな。明日何が起きようと、俺がお前の安全を保証する。」【帝釈天】 「光明天は信用できない。別の策を用意しておこう、ただ光明天の援軍を待つのはだめだ。阿修羅、私はあなたより、あいつらとの付き合いが長い。翼の団のような民兵はおろか、辺境の正規軍でさえ捨て駒にされる。日が暮れる前に城に辿り着くには、竜巣橋が必要だ。」【阿修羅】 「俺たちが有利になれば、迦楼羅は必ず石橋を壊す。それを阻止するためには、最も速い騎兵を先行させなければ。」【帝釈天】 「では私が騎兵と先行しよう。」【阿修羅】 「いや、背水の陣とはいえ、お前に無駄死にはさせない。明日開戦前に兵を集めてくれ、話がある。」……朝、竜巣深淵前の石橋【阿修羅】 「翼の団の皆、我々はこれから迦楼羅を討伐する!昨日部隊を騎兵、歩兵、盾兵に分けておいた。開戦後、俺が騎兵隊を率いて先陣を切る!橋に着いたら、竜巣の弓兵の攻撃を防ぐための鉄網を張る。次は盾兵、騎兵が網を張った後、霊神体で金翅鳥の空中部隊を防ぐ盾を展開してくれ。後ろの部隊を守り、道を開く。盾兵が橋を渡り始めたら、歩兵は後に続け。できるだけ戦闘を避けろ。橋を渡りきるまで戦力を温存し、竜巣に着いたら直接城門を突破する!」【翼団兵士乙】 「はっ!」【帝釈天】 「阿修羅、騎兵は確かに選り抜きの部隊だが、その役割は一番危険だ。策がうまくいっても、全滅する可能性は大きい……」【阿修羅】 「ああ、騎兵隊の皆、覚悟を決めてくれ。始まったら、後戻りはできない。命をかけて、翼の団の主力部隊を守る。俺が生きている限り、たとえ全員倒れても、俺は橋の向こうに辿り着き、道を確保してみせると約束しよう!」【翼団兵士乙】 「我々の命運は、阿修羅様にお預けします!」【阿修羅】 「俺と共に戦え!」【翼団兵士乙】 「はっ!命にかえても!」【阿修羅】 「皆、橋の向こうで会おう!」阿修羅が馬に乗り、朝の日差しに照らされて出陣した。騎兵隊を率いて、石橋に向かって突撃する。【阿修羅】 「騎兵隊!俺に続け!」【翼団兵士甲】 「進め!進め!金翅鳥どもを倒してやる!」【翼団兵士乙】 「阿修羅様についていきます!」【翠甲鬼】 「何だ?人がこっちに向かってくるぞ!」【雷公鬼】 「命知らずめ、野郎共、矢を放て!」騎兵が橋の真ん中までやって来ると、竜巣城壁には鬼族の弓兵が既に構えていた。無数の矢が放たれ、十数名の騎兵が落とされた。【翼団兵士乙】 「しまった、先頭の騎兵がやられた!」【翼団兵士甲】 「うわあああ!」【翼団兵士乙】 「まずい、阿修羅様の馬にも矢が!」【阿修羅】 「俺に構うな、進め!馬が倒れ、阿修羅が別の馬に乗り換える。馬に飛び乗った阿修羅が、部隊の先頭に追いつく。彼は霊神体を展開し矢の雨を防ぎながら、騎兵を率いて橋のたもとに向かって突き進んでいく。【阿修羅】 「振り返るな!橋柱を守れ!」【翼団兵士乙】 「着いたぞ!皆、持ち堪えるんだ!杭を橋柱に打って、網を張るぞ!」【阿修羅】 「網はどこだ、俺に渡せ!」【翼団兵士甲】 「阿修羅様!こちらです!」【雷公鬼】 「弓兵!先頭のやつを狙え!絶対に落とせ!」【阿修羅】 「ほう?俺に当てようなんざ、三百年早い!」【雷公鬼】 「身の程知らずが!矢を放て!!」阿修羅の六本の触手が馬を覆い、阿修羅に向かって飛んできた矢は全て霊神体が遮った。触手が矢を掴み、向きを変え、城壁の上に向かって数千の矢を放った。」【雷公鬼】 「ああああああ!目が!目がやられた!誰か!」【翼団兵士甲】 「阿修羅様!杭打ちが終わりました!」【翼団兵士乙】 「援護は私が!早く!」【阿修羅】 「橋頭に着いたぞ。全員、鉄網を杭に結びつけて、広げろ!」……要塞側の橋のたもと【帝釈天】 「鉄網が張られている。阿修羅たちが橋頭に着いた!竜巣の弓兵は何とかなりそうだ。まずいぞ、矢が鉄網を通らない。弓兵ではやつらを食い止められない!」【金翅鳥甲】 「衛兵は私に続け、やつらを迎え撃て!橋を渡らせるな!」【帝釈天】 「鉄網が上がった、騎兵隊が向こうに着いたはず。盾兵は前、歩兵は後ろに!全員、私に続け!」【翼団兵士丙】 「盾兵整列!」【翼団武将】 「歩兵整列!」【帝釈天】 「盾兵と歩兵、一列ずつ並べ、いざ橋へ!仲間の犠牲を無駄にするな!」盾兵が霊神体で盾を展開し、歩兵が後に続く。盾兵と歩兵が交差して進み、騎兵が命がけで切り開いた道を進んでいく。【金翅鳥甲】 「全員、飛び降りて迎撃しろ!深追いは禁物だ。飛べない天人一族をそのまま橋から投げ落とせ!」【金翅鳥乙】 「はっ!」金翅鳥の大軍が暗雲のように集まり、翼の団に押し寄せる。【帝釈天】 「歩兵!剣を取れ!剣を上に向け、左右に振れ!金翅鳥の足は鷹の爪の形になっている。掴むところがなければ、深淵に落とすことはできない!」【金翅鳥甲】 「ああ!俺の足が!」【金翅鳥乙】 「天人め!頭を突き刺してやる!掴めないなら蹴れ!蹴り落とせ!」【煉獄茨木童子】 「地獄の手!」【金翅鳥乙】 「うわ!なぜ焔が!翼が焼かれてしまう!」【煉獄茨木童子】 「目障りなやつらめ。邪魔をするなら、この茨木童子が許さん!友!道を開けた。橋を渡り、竜巣の城門を突破しよう!ん?友?なぜ動かない。何かおかしいことでもあるのか?」【鬼王酒呑童子】 「おかしい?いいや、その逆さ。何もかもうまくいっている。うまくいきすぎて……予定通りに動かなかったら、どうなるか、試してみたくなるぜ。」その時、鋭い鳥の鳴き声が響いた。四枚の翼を持ち、黒き宝石のように輝く半人半鳥の怪物が、竜巣城城門から急降下する。【金翅鳥乙】 「迦楼羅様だ!」【翠甲鬼】 「迦楼羅様が直々に参戦してくださった!」【雷公鬼】 「迦楼羅様、天人の軍隊が竜巣を攻めてきています!」【迦楼羅】 「天人の軍隊?」【雷公鬼】 「昨夜から向こう側に駐屯していて、今までの軍隊とは格が違います。要塞警備の交代部隊かと思っていたが、今朝急に橋を渡って攻めてきました。やつらの数は多く、こっち側の兵が押されてしまっています!」迦楼羅が遠くを眺めると、百人ほどの翼の団戦士が橋を渡りきったところだった。阿修羅が橋頭で金翅鳥と戦いを繰り広げ、戦線が城門へ近づいてくる。【迦楼羅】 「橋頭で先陣を切る黒の戦士と、橋で大軍を率いる白の戦士。あの二人が主将だな。あの二人を消せば、軍隊は崩れるはず。あいつ、隙だらけだな。相手してやろう!」その瞬間、阿修羅が重い殺気を感じ、二人の目が合った。迦楼羅が竜巣城から急降下し、鷹のように素早く刀を抜き取った。【阿修羅】 「帝釈天、危ない!」迦楼羅は阿修羅を無視し、真っ直ぐに帝釈天のほうへ翔けてくる。それと同時に、彼の意図に気づいた阿修羅が跳び上がり、迦楼羅の背に跳び乗った。【阿修羅】 「帝釈天には手を出すのに、俺のことは無視か?俺に翼を折られるのが怖いのか?どうりで雑魚に任せっぱなしで、散々呼ばれてようやく出てくる気になったわけだ!」【迦楼羅】 「ははは!地上を這う下賤な天人め、我が翼族は空を翔ける。生まれた時から自由なのだ。屁理屈はそのくらいにしておけ!俺が先に誰を殺そうと、俺の勝手だ!くらえ!」【阿修羅】 「こいつ、俺ではなく、帝釈天を狙っている!そうはさせない。」間一髪で、阿修羅が迦楼羅の手を払った。刀が本来の軌道から外れ、帝釈天の乗っている馬の首を切り落とした。【翼団武将】 「帝釈天様!刀が飛んできます!避けて!」【翼団兵士丙】 「帝釈天様を守れ!しまった!帝釈天様が落馬してしまった!」【帝釈天】 「ゴホッ。阿修羅のおかげで、馬を失っただけで済んだ。」【翼団兵士丙】 「馬の首を完全に切り取られた。恐ろしい力だ……」【帝釈天】 「私は大丈夫だ。阿修羅が迦楼羅を引きつけているうちに、進軍を急げ!金翅鳥は遅れを取っている。この機に乗じれば、我々の勝利だ!」阿修羅と迦楼羅は空中で、迦楼羅は翼、阿修羅は触手を振り回して戦い続けている。四枚の翼と六本の触手、羽根と血が空を舞う。【迦楼羅】 「いい気になるな!天人の偽善者め、我が翼族の縄張りに足を踏み入れたことを後悔させてやる!」【阿修羅】 「迦楼羅?お前が迦楼羅か?」【迦楼羅】 「だったらどうした?今さら気づいたのか!ん?放せ!何をした?」【阿修羅】 「ははははは……翼を縛られる気分はどうだ?翼が四枚あっても、俺の触手には勝てない。翼を縛られた翼族の王か、いい気味だ。」【迦楼羅】 「畜生!この野郎……よくも羽を!やめろ!」【阿修羅】 「絶望したか?ずっと上に立っていた後に、真っ逆さまに闇に墜ちていく気分はどうだ?深淵に投げ落とされた者たちの亡霊が、お前を待っているぞ。」阿修羅を振り切れない迦楼羅は、深淵へ墜ちていく。【迦楼羅】 「放せ!一緒に死ぬつもりか!」【阿修羅】 「一緒に死ぬ?違うな。俺は元々地獄で生まれた化け物だ。死ぬのはお前だけだ、迦楼羅。」【迦楼羅】 「しょ、正気か……!お前らを捻り潰してやる!」迦楼羅が突然金の珠を投げ出した。珠は回転して上昇していく。突然目が開き、金色の瞳から忌々しい光が放たれる。光を浴びた天人兵士の霊神体が力を失った。【翼団武将】 「どういうことだ?霊神体が突然消えたぞ?」【翼団兵士丙】 「盾が消えた、このままではまずい!」【翼団兵士丁】 「まだ半分の兵士が橋を渡りきっていない。帝釈天様も!」【雷公鬼】 「震えるがいい!これが竜巣城の実力!迦楼羅様の神業だ!」【翠甲鬼】 「死ね!卑しい天人共が!」【翼団兵士丙】 「がああああ!」【阿修羅】 「翼の団の霊神体が全部消えただと?」【迦楼羅】 「ふん、もう俺の羽を縛れないな、お前一人で深淵に墜ちるがいい!」唖然としている阿修羅を、迦楼羅が蹴り落とした。阿修羅は霊神体を召喚して石柱を掴もうとしたが、霊神体は現れなかった。間一髪で、橋から差し伸べられた手が阿修羅を掴んだ。【帝釈天】 「阿修羅!私の手を掴め!」【阿修羅】 「悪い、約束したのに。失望させたな。」【帝釈天】 「そんなこと言うな、阿修羅。私はあなたに失望したりなんかしない。今引き上げる。私達と翼の団がいる限り、必ず竜巣城を攻め落とすことができる。」【阿修羅】 「帝釈天、顔色が悪いぞ、どうした?」状況は逆転した。霊神体の力を失った天人兵士が金翅鳥に追い詰められ、突き落とされた。崖から這い上がろうとした者は、迦楼羅に首を落とされた。迦楼羅が首を手に取り、大笑いしながら首のない死体を深淵に蹴り落とした。【迦楼羅】 「命令だ、竜巣の石橋を破壊し、兵団を丸ごと崖の底に落とせ!」【金翅鳥甲】 「はっ!」数十体の金翅鳥が巨大な石を運び、天人兵士に向かって落とした。地が割れるような音と死者の悲鳴が鳴り響き、石橋の橋柱が完全に崩壊した。石橋は数回揺らいだ後、完全に崩壊した。【翼団兵士乙】 「助けて!落ちてしまう!援軍はなぜ来ない?光明天様は言っていた、半日持ち堪えれば、必ず援軍が来ると!」【迦楼羅】 「光明天の援軍?はははははは!この迦楼羅が潰してきた天人部隊は皆、十天衆の援軍を期待していたな!この数百年間、一度も援軍とやらを見たことがない。もし本当に来たら、安心するがいい、あの世で会わせてやる!そして十天衆のやつらを問い詰めるがいい、どうしてくれるんだってな!落ちるがいい!深淵で魔神の食糧になれ!」【翼団兵士甲】 「があああ……!」【阿修羅】 「帝釈天?おい、目を覚ませ!石橋が崩壊してしまった。このままで崖の底に落ちて死んでしまうぞ!石橋が崩壊する時の衝撃で気絶したのか。仕方ない、お前は俺を助けてくれたし、今度は俺の番だ。」部隊が深淵に落ちていく。闇が光を飲み込み、周囲では兵士達の悲鳴が響き渡る。騎兵が使っていた鉄網が阿修羅の目に入った。【阿修羅】 「諦めるにはまだ早い。生きている者は、鉄網に掴まれ!」阿修羅が刀を投げ、鉄網の片側を崖に固定した。そして短剣を投げ、鉄網のもう片側も固定した。横に広がった鉄網が落ちていく兵士を救ったが、阿修羅はそれに間に合わなかった。【翼団兵士甲】 「阿修羅様!」【阿修羅】 「上に登って、崖の上で俺を待て!」阿修羅は帝釈天の背後を守るため、自分の体で彼を庇った。そして彼は目を瞑り、やがてやってくる痛みを持つ。……深淵の底」【帝釈天】 「ここは……どこだ?………………………………思い出した。石橋が砕かれ、全員崖の下に落ちたんだ。迦楼羅の神器が霊神体を無効化し、翼の団を全滅させた。私は結局……深淵の底に落ちた。無数の仲間達と共に。彼らは崖の底に葬られたというのに、私は運良くのうのうと生きている!あの時と同じだ、いつも、いつも!あ、あ……あああ!!何故私は何度も人々の思いを裏切り、一人だけ生き残る?う、ああ……苦しい、左胸の……心魂の位置が疼く……あなたまで私の無能を嘲笑っているのか?私は確かに、相応しくなかったよ。阿修羅……私が手に入れることができるのは……最初から、心を麻痺するこの玉醸のみだった。ふう…………これで……」【阿修羅】 「お前の何が相応しくないんだ?」【帝釈天】 「なっ……?!阿修羅?まだ生きているなんて、私の幻覚ではないのか?」【阿修羅】 「今、何をしていたんだ?」帝釈天の手中の瓶が落ちて、中から怪しげな紫の液体が地面にこぼれ出した。辺りには異様な甘い匂いが漂い始めた。【阿修羅】 「これは玉醸か?帝釈天、何故お前がこんな物を飲んでいるんだ。玉醸はかつて軍が戦力を強化する為に用いた物。しかし、過剰摂取すると幻覚が見えるようになり、霊神体も無効化され、後顧の憂いが絶えない。軍にいたお前なら知っているはずだ。」【帝釈天】 「……」【阿修羅】 「何故だ?まさかお前、以前にも?」【帝釈天】 「ああ。玉醸を使うのは初めてじゃない。」【阿修羅】 「偽りの夢に縋りつくのは弱者のすることだ。お前はそんな堕落なやつなのか?」【帝釈天】 「阿修羅、お前!」【阿修羅】 「さっきのは言いすぎた。お前は心の強い人だ。そんなことをするはずがない。」【帝釈天】 「知ったふうな口を、俺の何がわかる……」【阿修羅】 「お前は俺の尊敬する友であり、相棒でもある。お前になら俺の命を託せる。俺に何が分かると問うが、では何故お前の方から教えてくれないのだ?俺にはお前を知る資格はないというのか?」【帝釈天】 「あなたのせいではない。あれは、以前私が軍の一員として竜巣を進攻した時の事だ。遠い昔の出来事だ、故に断じてあなたのせいではない。」【阿修羅】 「軍の一員として、竜巣城へ進攻したことがあるのか?しかし、竜巣城は予てより一度向かえば無事に戻れないと言われる危険な地、なのにお前は……」【帝釈天】 「私は都の貴族の元に産まれた末子であり、幼き頃より軟弱で無能だった。そのうえ、霊神体は一溜りもない程に脆い。私の能力は何の役にも立たず、此処へ送り込まれる筋合いなどない、そうだろう?」【阿修羅】 「違う。俺が言いたいのは、お前はここの惨劇を目撃したにも関わらず、再びここへの進攻に自ら申し出たということだ。お前の過去の苦難を知っていれば、もっと入念に準備していた。」【帝釈天】 「どんなに用意しても、竜巣城の前では無意味だ。私は善見城で衣食住に困らない貴族の子として、何年も呑気に過ごしてきた。貴族の者には兵役の義務がある。徴兵の令が下された時、家族は私を思い出した。軍に入れば必ず戦闘に役立つ能力が開花すると、母親が私を説得したあの時の光景を今も覚えている。だが、それは長男を護るための口実でしかないと私は知っていた。それでも、私は強大な戦士になることに対して強い憧れを抱いていた。しかし、いざ軍に入れば、私の貧弱な霊神体ではまるで歯が立たなかった。軍の者は貴族出身の私が易々と死ぬことを恐れ、私を後方へと回した。私は霊神体で兵士を支援し、彼らの痛みを分かち合う軍医となった。そんな私は一族の恥だった。私はずっと、最前線で犠牲になることを夢見た。それが叶えばどんなに良かっただろう。残されるのは屈辱ではなく栄光だったはずだ。父と兄は私が見知らぬ土地で戦死することを望んだ。せめて輝かしい名誉を手に入れられるからと。最終的に、軍は私を一度入れば二度と戻れないと言われる竜巣の要塞へと送り込んだ。私には少しも恐怖を感じなかった。竜巣の要塞に向かったのは、私が知る最も勇猛果敢な戦士達だった。彼らと過ごした日々は、人生の中で一番愉快で心地良いものだった。しかし、彼らが命懸けで戦ったとしても、この地では敗戦が続くばかり。要塞を守ることさえ難しいというのに、竜巣を落とすなど以ての外。そのうえ私は何の役にも立たず、唯一できるのは彼らの痛みを和らげることだけ。玉醸の悪名が、どこから伝わってきたか分かるか?正にここ、竜巣の要塞からだ。軍医として、こんな物が出てきた時、私は止めなかったばかりか……彼らと共に玉醸を服用し、幻想で自分を麻痺させて、苦しみから目を背けた。その結果、全軍の霊神体は無効化され、戦闘不能となった。私のせいで、彼らは夜襲に気づかず、一人残らず息絶えてしまったんだ!あの時だけではない。本日の橋の上での一戦も、私が光明天に献上した策のせいだ。私が兵士達を死へと導いてしまった。光明天が援軍を連れてくると、軽率に信じた私の油断が仇となった。その結果、大軍は全滅した……!よりによって、こんな私が毎回運よく生き延びる……毎回……毎回…………」【阿修羅】 「帝釈天。」帝釈天の目は焦点が合わなくなり、遠くを虚ろに見つめているようで、目の前の阿修羅だけが眼中になかった。これが玉醸の後遺症であると知る阿修羅は、帝釈天に向かって手を差し伸べる。触れられた瞬間、一瞬にして帝釈天の意識が戻り、彼は突然両目を大きく見開いた……【帝釈天】 「過去から現在に至るまで、私はずっと無能な人間だった。これ以上あなたの足を引っ張るわけにはいかない。阿修羅、あなたはもう行くべきだ。」 |
深淵夜話
深淵夜話 |
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……鬼域深淵、竜巣城の片側にある森の近く【煉獄茨木童子】 「友よ、石橋は砕け、阿修羅と帝釈天は下に落ちてしまった。恐らく先行きは暗いだろう!」【鬼王酒呑童子】 「何を怖がってる、あの二人は決して只者ではないと言ったはずだ。そうあっけなく死なれては、この俺の面子が潰れるじゃねえか。無事に橋を渡った者は何人いる?」【翼団兵士甲】 「最初は半数近くおりましたが。あの不気味な神器が現れるや否や、皆の霊神体が制御できなくなり、消えてしまいました。状況が逆転し、我々は多くの兵士を失いました……今は、二割しか生き残っておりません。」【鬼王酒呑童子】 「正面から城門を突破するのは不可能になったようだな。十天衆の援軍は、はなから来るつもりが無かったのだろう。全員俺について来い。崖付近の森に潜入し、人目につかない場所で駐屯する。そこのお前、軽傷で済んだ信頼できる部下を数名集め、当番制で崖を見張るよう命じろ。よじ登る気力が残っている者を見つけたら、拠点に連れて帰り治療を施せ。軍の中に医者はいるか?」【毘瑠璃】 「怪我人の治療なら、私が!」【煉獄茨木童子】 「毘瑠璃?なぜお前がここに!」【毘瑠璃】 「歩兵の衣装を盗み、皆が琉璃城を出た時、こっそり後ろをついてきた。橋を渡る時も、歩兵の中に隠れていた。」【煉獄茨木童子】 「まったく……以前琉璃城を離れたせいで、城が陥落し、鬼族に占領された事を忘れたのか!」【毘瑠璃】 「もちろん忘れてなんかいない、でも今回は事情が違う。当時の鬼族には、琉璃城の付近に伏兵を配置する余力があった。しかし今は痛手を負って戻って来た。主力は全て、あなた方を迎え撃つために、ここに集っている。出兵するとしても、我々と同じ道で遭遇するでしょう。琉璃城は竜巣城に最も近い天人の都。竜巣城を討伐しなければ、琉璃城に平和な日々は一日たりとも訪れない。ましてや私の姉の蘇摩は、迦楼羅に攫われてしまった。彼女は琉璃城になくてはならない存在であり、私も彼女無しでは生きていけない!」【鬼王酒呑童子】 「なんとも感動的な姉妹の絆だな。ここまで来たなら、軍医と怪我人の救助をしろ。ついでに、我々の代わりに拠点を見張っていてくれ。」【毘瑠璃】 「あなた達はどこへ行くの?」【鬼王酒呑童子】 「俺と茨木童子は一日中ここで退屈していたんだ。気晴らしにこの辺りを散策し、竜巣城の下で月でも眺めるつもりだ。茨木童子!来い!この森は窮屈過ぎる、竜巣城の夜景を見たいと言っていたじゃねえか。」【煉獄茨木童子】 「何?う、うむ、友の言う通りだ!今すぐ夜景を見に行こうではないか!」【毘瑠璃】 「二人とも……おかしな人達。」……鬼域深淵、入口付近【鬼王酒呑童子】 「ここだ。霊力は東から西へと流れて来て、ここで合流し、最後に深淵の中に入っていく。だが、俺が深淵の中から感じた圧迫感は消えている。膨大な量の霊力が吸い込まれている。こんな無限の霊力、たとえ大妖怪だとしても耐え難いだろう。竜巣城は確かに深淵の入口の真上に建築されている、迦楼羅の実力も侮れん。だが彼はどうも全てを知っている様には見えない。今日橋を渡った時、彼は金翅鳥に天人の兵士を深淵の中に蹴落とすように命じた。そして、阿修羅のせいで、自分が深淵に落ちる一歩手前まで追い詰められると、慌てて切り札の神器を使った。深淵の中には霊力が集っている、恐らく落ちても死にはしない。もしそれを知っていれば、追手を送らないはずはないだろう?」【煉獄茨木童子】 「そういえば、我々がこの竜巣城に接近した時、二度も突然出現した霧に遭遇し、道に迷ってしまった。あれは迦楼羅が仕掛けた結界だと思っていたが、今日大軍が橋を渡った時、霧は出現しなかった。どうやら迦楼羅とは関係ないようだ。深淵の件の黒幕は恐らく他にいる……友はそれに気づいて、橋の上で二人に手出しせず、突然立ち止まったという訳か?」【鬼王酒呑童子】 「ああ、そうだ。」【翼団兵士甲】 「お二方、やはりお二方の予想通り、闇に隠れて深淵からよじ登って来た仲間を沢山見つけました。間一髪で阿修羅様が鉄網を広げ、彼らの命を救ってくれたそうです。ですが阿修羅様は帝釈天様を救う為に、共に谷底へと落ちていきました。」【鬼王酒呑童子】 「何を慌てている?少し待てば、二人とも自力で上がってくるかもしれない。俺と茨木童子は先に帰る。他に何かあるなら、二人が上がってきてからにしろ。」【煉獄茨木童子】 「友よ、わざと天人を避ける理由は、まさか……」【鬼王酒呑童子】 「天人相手にも油断は禁物だ、言っただろう?阿修羅と帝釈天は只者じゃねえ、この酒呑童子が自分の面子を潰すことは決してない。」……深淵の底【阿修羅】 「いや。帝釈天、俺は行かない。昼間お前は俺を助けた、俺もお前を見殺しにはしない。」【帝釈天】 「私のようなお荷物を抱えて、どうやって上に登り、兵士達と再会するつもりだ?」【阿修羅】 「生き残った兵士達に上で待つよう伝えた。お前を置いて俺一人で戻るなど、空約束にも程がある。」【帝釈天】 「あなたに何を言っても無駄だ。今すぐ私がこの場を去る……これから私が魔神に食われようと、餓死しようと、あなたとは無関係だ!」【阿修羅】 「確かに何を言っても無駄だな。お前はあんな物を飲んで、馬鹿げたことを口走っている。これ以上は一言たりとも聞いてやらん。」阿修羅は深淵から拾ってきた鎖を取り出し、有無を言わせず帝釈天をきつく縛った。帝釈天の罵声にも聞く耳を持たず、彼を自分の背中にくくりつけた。阿修羅は手に持っていた給水袋を帝釈天に押しつけ、彼を背負い、絶壁を這いながら上へ登っていく。【阿修羅】 「罵声は聞き飽きた、こんな高い崖、登るのにどれだけ時間がかかるかわからない。もう登り始めたんだ、落ちれば今度こそ共倒れになるぞ。少しはまともに話してくれないか?」【帝釈天】 「ふう…………全くもって人の話を聞かないやつだ。共に地獄へ落ちる?望むところだ。」【阿修羅】 「随分と手のひら返しが早いな。昼間橋の上で、俺に縋りついて失望することなどないと言ったばかりだというのに。」【帝釈天】 「失望なら今正にしている。」【阿修羅】 「なるほど、どうりで俺にお前の何が分かるなどと言ったわけだ。失望するか否かの基準が確かに独特だ。」【帝釈天】 「阿修羅!冗談を言っている場合か!」【阿修羅】 「冗談を言っているつもりはないが。俺は本気でお前を理解しようと、お前をよく知りたいと心から思っている。だが俺はお前ほど察しが良くない。故に、お前に教えて欲しいが、そんなお前は口を固く閉じる。ならば極端な行動を取り、お前を怒らせることで試す他に術はない。つまり、お前が今怒っているのは全てお前自身のせいだ。俺に教えてくれなかった自分を責めるんだな。」【帝釈天】 「……」【阿修羅】 「お前の能力が欲しい。そうすれば、簡単に人の考えを知ることができる。」【帝釈天】 「……阿修羅、私は自分の能力が好きではない。」【阿修羅】 「それは何故だ?」【帝釈天】 「戦が絶えず、戦士も民も酷く苦しんだ。私はその苦しみを分かち合う軍医だった。」【阿修羅】 「人の心を落ち着かせるお前の能力、その本質は他人の苦しみを吸収し、その身をもって担うものだということは知っている。」【帝釈天】 「そうだ。人々の苦しみは私の精神へと流れ込む。どこへ行こうがこの苦しみからは逃れられない。一人で耐え続けるしかなかった。しかし積年の苦しみは、私の精神を崩壊寸前まで追い込んだ。軟弱だろう?私が受けた苦しみは、帰る場所や最愛の人を失った人々が感じた苦しみの千万分の一にも及ばないというのに。それなのに、私には耐えられないとほざくなんて。こうして悩み続けるよりも、前線で戦えば、少しでも力になることができたし、死に場所も得られた。しかし、後方で兵士を支援する他に能がない私では、戦死することすら高望みだった。」【阿修羅】 「確かにお前の能力は実戦向きではないが。お前の知恵、お前の優しさ、お前の思いやりは、全て前線では貴重な才能だ。」【帝釈天】 「かつて、私に同じ言葉をかけてくれた人がいた。」……数十年前、竜巣深淵前の天人の要塞【要塞の戦士乙】 「何故そう仰るのですか?軍医様ご自身は戦場に行かなくても、私のような者が再び戦場に戻れるのは、全てあなたのお陰です!」【要塞の戦士甲】 「そうですよ、帝釈天様が前線で戦うことはなくても、先日捉えた口を閉ざした捕虜を思い出してください。我々がどんなに苦労したことか。最後には帝釈天様が情報を引き出してくれました。」【要塞の戦士乙】 「帝釈天様は貴族ですが、全く威張らず、とても寛大で、何をされても決して怒りません。気に障るとすぐ杖刑を持ち出し、大声で怒鳴る将軍様とは比べ物になりません!」【帝釈天】 「……最後のは本当に褒めているのか?」【要塞の戦士乙】 「勿論です!賛美に値し、今後も保つべき素晴らしい長所です!」【帝釈天】 「分かった分かった、将軍のようにはならないと誓う。」【要塞の戦士乙】 「それならよかったです!」【要塞の戦士甲】 「では帝釈天様、我々は先を急ぎます!」【帝釈天】 「ああ、分かった。ずっと変わらず保て、か……決して容易い事ではない。食糧と弾薬が不足し、戦士達は既に満身創痍、援軍はいつまで経っても来ない。私とて、戦士達の痛みを分かち合い、彼らを激励し、共に苦難を乗り越えたいのは山々だが。皆、心の中では知っている。援軍は恐らく、永遠に来ない。私には聞こえる、見える。皆、無理に笑顔を作っている。皆、本当は知っている。十天衆が新たな兵士を派遣するのは、私達が竜巣城の下で戦死し全滅する時だと。もう聞くことをやめてしまえたらいいのに。何故私は皆と同じように自分を騙し、嘘と戯言で自分を麻痺できないんだ。そうすれば少なくとも、残された日々を楽に過ごす事が出来たというのに。忉利天よ、どうか私からこの憎き能力を取り上げてくれ……私が最期に欲しいのは、皆と同じ、ひと時の安らぎに過ぎない。」……数日後【要塞の将校】 「どけ、早くどけ!」【帝釈天】 「何が起きた?」【要塞の戦士乙】 「あの憎き金翅鳥です、やつらは夜中門番に奇襲をかけ、食糧を奪っていきました!今朝発覚した時には、既に大半の食糧を奪われ、門番たちの屍はもう硬直していました。彼らの心魂は無残に裂かれ、喉には爪で引き裂かれた痕跡があります。」【要塞の将校】 「邪魔だ!」【帝釈天】 「将軍様!どういうことですか?ここは本物の治療場ではないのです、彼の傷は到底治せません!」【要塞の将校】 「彼はもう助からん、一晩中持ち堪えたが、まともに息ができない。喉が完全に切れていない、これでは息をするのも苦痛だ。彼を楽にしてやれ。幼い頃からこんな場所に送り込まれたんだ。これで彼はようやく解放される。」【帝釈天】 「そんな……いえ、私は人を殺めた事はありません!ましてや自分の戦友を!」【要塞の将校】 「他人の苦しみを和らげることができるのだろう?これがお前の仕事だ。口を閉じて、刀を取れ!これは命令だ!」【帝釈天】 「私は、私には分からない……」【要塞の戦士乙】 「これは彼の最期の願いです。」【帝釈天】 「何?」【要塞の戦士乙】 「かつて彼と前線で、最期の死に方について話したことがあります。こいつは、あなたの元で死にたいと言っていました。彼は辺境で最も地位の低い民。その上、身寄りのない孤児でした。人に良くしてもらったのは、これが生まれて初めてだと。彼は、あなたの側でなら、ひと時の安らぎを得ることができると言っていました。もし死ぬなら、あなたの側で死にたいと。」【要塞の戦士甲】 「どう……か……」【帝釈天】 「分かった、分かったから、もう何も言うな、言う通りにする!」【要塞の戦士乙】 「ここです、刀をここへ刺し込めば、もう痛みを感じません。」【帝釈天】 「怖がらないでくれ、すぐに痛みは無くなる。私が代わりに痛みを受ける。私が……私があなたの恐怖を取り除こう。」【要塞の戦士甲】 「ありが、とう……」戦士が息を引き取った後、その場にいた者は皆沈黙した。【要塞の将校】 「食糧の件について調査する、先に席を外すぞ。帝釈天、彼の亡骸を片付ける者は後ほど手配する。」【帝釈天】 「……彼は死んでしまった。数日前まで、ここで私達と談笑していたというのに。彼の死に際の恐怖、苦しみ、私は全て……あ……ぐあ……!」【要塞の戦士乙】 「帝釈天様、大丈夫ですか!あなたもきっとお辛いでしょう。当然だ、たとえ死を覚悟した者でも、死に際には悔しさを感じるはず。私のせいです、私が将軍様に進言しなければ……」【帝釈天】 「あなたのせいではない。」【要塞の戦士乙】 「そうだ、どうしてもお辛ければ、これをお飲みください!」【帝釈天】 「これは?」【要塞の戦士乙】 「これは玉醸と言って、薬酒の一種です。服用するとすぐに痛みが消え、戦場でも恐怖を感じなくなります!私達は毎日飲んでいますが、くれぐれも将軍様には秘密にしてください。あの方はこれが気に入らないようなので。」【帝釈天】 「ありがとう!ごくん……ほんの一口飲んだだけで大分楽になった。さっき死を目前にした時の苦しみは全て消え去り、頭の中で鳴る声も弱まった。これは良いな。まだあるか?」【要塞の戦士乙】 「もちろんです!将軍様に知られないように、秘密にしておいてくださいね!」【帝釈天】 「秘密は守る、私が代わりに保管しよう。将軍の監視の目は、私のところまでは届かない。」要塞の兵士たちのすすめで、帝釈天は毎日のように玉醸に頼るようになった。そして、ある朝。帝釈天はやっと玉醸の夢から覚めた。」【帝釈天】 「ふう…………予想外に辺りが静まり返っている、一体何があった?苦しみも泣き声も消え去った、戦士達は悲しみから解放されたのか?食糧の問題が解決したのか?十天衆の援軍が遂にやって来たのか?将軍様!将軍様!援軍が、援軍が遂に来たのですか?」【要塞の将校】 「援軍?帝釈天、久し振りに会ったかと思えば、気が狂ったのか?最寄りの町に食糧をもらいに行くところだ、邪魔をするな。それ以上無駄口を叩くと、兵士達の心を乱した罰として、杖刑を下す。」【帝釈天】 「どういうことです?援軍が来た訳ではないのですか?そんな、まさか……戦士達の苦しみが消えたのではなく、私に彼らの心の声が届かなくなったのか?私の霊神体が、私の能力が消えた……何故だ?最も憎んだ能力を完全に失ったというのに、心は欠片も釈然としない。それどころか、後悔の波に押し潰されそうだ!遂に、唯一の価値まで失ってしまった!玉醸だ、この後悔を打ち消せるのは、玉醸しか……まだ玉醸はあるか?」【要塞の戦士乙】 「帝釈天様?」【帝釈天】 「頼むから玉醸をくれ……私はもう霊神体を召喚できない……私の苦しみを和らげることができるのは、玉醸だけだ!」【要塞の戦士乙】 「何故そんな風になってしまったのですか?今宵の夜勤は私どもが当番です。もし金翅鳥と遭遇し、手も足も出なければ、軍は全滅してしまいます!」【帝釈天】 「だが私は苦しくて堪らないんだ……このまま苦しみながら死ぬのはいやだ。」【要塞の戦士乙】 「それなら、ここに少し玉醸が残っております。帝釈天様がお望みなら、どうぞ。ですが……」【要塞の将校】 「玉醸?この数日間、私の目を盗み、裏でこんなものを使っていたとはな!帝釈天様を檻に閉じ込めろ!看守をつけ、誰も中へ入れるな!この部屋にある物は一つ残らず叩き潰せ!」……その夜【要塞の戦士甲】 「金翅鳥だ!金翅鳥が襲ってきたぞ!」【要塞の戦士丙】 「将軍様を守れ!食糧を守れ!ぐああああ!」【要塞の戦士甲】 「死んでしまう、霊神体を召喚できない!」【帝釈天】 「金翅鳥だ!橋の上から攻めてくる!いつかその日が来るとは知っていたが、いざ目前にすると、私は恐怖で震えた。私はやはり軟弱者だ。いいだろう、私が戦友達を死なせたんだ。金翅鳥の爪に引き裂かれ、己の死で詫びよう!」【要塞の将校】 「こんなところで何をしている?要塞はじきに陥落する、早くあちらへ逃げろ!早く!」【帝釈天】 「ですが私は罪人です!私が要塞の皆を死なせたんです!」【要塞の将校】 「罪人?お前が?はははは!覚えておけ!我々を死なせたのは竜巣の金翅鳥と、頭上の十天衆であって、断じてお前ではない!今すぐここから出て行け!」【要塞の戦士丙】 「帝釈天様、こちらです!」【要塞の戦士乙】 「帝釈天様!最後の食糧と装備を用意しました、急いでください!我々があなたを護衛します!」【要塞の将校】 「迦楼羅!この程度の人数で私を仕留められると思っているのか!たとえ私が死んだとしても、彼らには決して手を出させんぞ!ぐあああ!」【帝釈天】 「将軍様!!」【要塞の戦士丙】 「帝釈天様、ご安心ください。この馬車はあなたのためにご用意したものです。夜明け前までに琉璃城に就くことができるはずです、そうすればもう心配いりません!」【帝釈天】 「なぜ私を助ける?私は役立たずの貴族でしかない、ここで死んだ方がましだ!」【要塞の戦士乙】 「今更何を仰りますか!あなたのお力がなければ、我々は今まで生き延びる勇気などありませんでした!」【翠甲鬼】 「どこへ逃げる!迦楼羅様の命令だ、一人たりとも生かしておくわけにはいかぬ!」【要塞の戦士丙】 「うわあああ!俺に構うな、早く逃げろ!必ず帝釈天様を安全な場所に送り届けるんだ!」【帝釈天】 「だめだ!行くな!彼を見捨てるな!彼は怖がっている、怖がっているんだぞ!」【要塞の戦士乙】 「心配するな!必ず帝釈天様を琉璃城まで連れて行く!」【帝釈天】 「だめだ!」帝釈天の語りは終わった。阿修羅は崖を登り続けている。深淵の底はとうに見えなくなり、頭上には益々明るくなった月明かりがさしている。【帝釈天】 「その後、金翅鳥の追手により、彼らは私を護送する道中で次々に死んでいった。私は酷く後悔した。もし私が自堕落の道に走っていなければ、せめて最後の逃亡中には彼らの役に立てただろう。だが、私は彼らが苦しみ死んでいく姿を茫然と見る事しか出来なかった。彼らは命の最期にさえ、ひと時の安らぎも得られなかった。私は逃げることを選んだ軟弱者だという事を、死んだ仲間の一人一人が思い出させる。私の命は、運命に立ち向かう勇気を持つ、真の強者の命と引き換えに拾ったものだ。私には相応しくないことを、私だけが知っている。【阿修羅】 「だからお前は翼の団を立ち上げた。」【帝釈天】 「ああ。」【阿修羅】 「お前はここへ戻り、彼らが、お前達が果たせなかった責務を今度こそ全うするつもりだったのか。」【帝釈天】 「そうだ。」【阿修羅】 「だが彼らは、お前にこんな苦しみを背負わせたいが為にお前を救ったのではない。そう考えたことはないのか?」【帝釈天】 「分かっている。しかし夢から覚める度に、またあの夜に戻ってしまう。自らここへ戻らねば、本当に解放されないと気づいたんだ。」【阿修羅】 「帝釈天、お前はここから解放される、俺と一緒にな。二人でここを出た暁には、凱旋となるだろう。民は俺達を歓声とともに出迎え、花束を贈る。十天衆さえも、冷たかったお前の家族さえも、自ら城から出て迎える。善見城の城門前で、お前の帰りを待っていてくれる。夜が更け、お前が眠りにつくと、夢の中ではかつての戦友と将軍が笑顔で迎えてくれる。彼らはこう告げる、お前が解放される時は来た、と。そして目が覚めると、そこには俺が、翼の団の仲間達がいる。俺達はこう告げる、お前が解放される時は来た、と。」【帝釈天】 「そんな日が本当に来るのか?」【阿修羅】 「来るさ。」……鬼域深淵、竜巣城の片側にある森の近く【鬼王酒呑童子】 「ほらな、あの二人ならきっと無事だと言っただろう。」【煉獄茨木童子】 「見事な予想だ、友よ!」【毘瑠璃】 「治療は私に任せて。」【帝釈天】 「なぜ毘瑠璃がここに?」【毘瑠璃】 「話すと長くなるけど、私はただ助けに来たの。」【阿修羅】 「あと何人残っている?」【翼団兵士甲】 「全部で二百三十五人です。」【帝釈天】 「早朝に点呼を取った時は千人以上いた軍隊が、夜には数百人しか残っていないとは。」【阿修羅】 「まだ十分戦える。」【帝釈天】 「双方の実力がこんなにもかけ離れているんだ。援軍が来る兆しもないというのに、どうやって百人で城を攻め落とすつもりだ?」【阿修羅】 「竜巣には門が二つある。本来はお前と俺が正門に陽動攻撃を仕掛け、光明天が兵士を率いて後門を攻めるはずだった。光明天は来なかったが、まだお前と俺がいるだろう。昼間に正門で熾烈な戦いを繰り広げた後に、まさか夜中また俺達が後門から奇襲をかけるとは、迦楼羅も予想出来まい。彼らは勝ったばかりで、守備に隙が生じているはずだ。つまり、陽動攻撃は既に完了している。」【帝釈天】 「守備が緩んだとしても、たった数百人の兵力で、どうやって城に入る?」【阿修羅】 「俺が兵士を連れて城壁から潜入し、前哨と後哨の二手に分かれる。両側の城門を勝ち取ったら、正門で太鼓を鳴らす。その音を聞けば迦楼羅は兵士を集結させるはずだ。やつらがすぐには応戦できないよう、俺が前方で足止めする。後哨は太鼓の音を聞くなり、即座に城内から後門を開く。お前は兵士を率いて後門から城に入れ。哨所は無人、主将も不在、偽の情勢が太鼓で伝えられ、城門はがら空きだ。敵軍兵士の心は大きく乱されるだろう。お前の能力なら、必ず竜巣を撃破できる。」【帝釈天】 「だめだ、あなた一人でどうやって迦楼羅の相手をする?私は共に城へ入る!」【阿修羅】 「お前はまだ弱っている、俺と城へ入るなど論外だ。それに、お前まで城に入れば、誰が兵士を率いて城を攻める?」【帝釈天】 「迦楼羅には霊神体を無効化する神器がある。私がいなければ、あなたは再び暴走する。この戦に勝機はまるでない。あなたが死に急ぐのをただ見ているなど、私には出来ない。」【阿修羅】 「勝機がない?いや、俺の出陣こそ、最も勝算がある選択だ。玉醸を服用すると、ぼうっとし、戦意が削がれるとさっき言っていたな。霊神体も段々と無効化され、最終的には消えてしまうと。」【帝釈天】 「そのとおりだ。」【阿修羅】 「だがお前は今、正常に霊神体を使用することができている。」【帝釈天】 「玉醸を止めると、霊神体は徐々に復元され、今や完全に元通りになった。」【阿修羅】 「琉璃城では、金翅鳥どもが大量の玉醸を所持していたが、どこから持って来たのかは未だ不明だ。その玉醸の作用は、今日俺達が目撃した法器と極めて似ている気がする。要するに、この二つは元から金翅鳥の策略によるものだろう。」阿修羅はそう言いながら、霊神体を召喚した。彼の霊神体は既に元通りになり、六本の力強い触手が殺気を放っている。【阿修羅】 「霊神体の無効化は一時的なものだ、決して消えはしない。恐らく神器が吸い取ったのは天人の精神力であり、霊神体そのものではないだろう。そして、俺の精神力には底がない。帝釈天よ、人の肉体には姿形があり、どんなに完璧無欠な戦士も、体力が尽きれば足を止めるし、戦死してしまう。だが心に限界はない。見ることも触ることもできないが、万物を受け入れることができる。心は焼かれず、破壊されない。足を止めることも、底を尽きることもない。俺は決して運命に易々と屈しない強者になると、お前に誓おう。お前も強者となり、二度と玉醸に手を出さないと俺に誓ってくれるか?再び迷いに陥った時、苦しみに苛まれた時、お前が思い出すのは過去ではなく……今の、あなたの友人を思い出してほしい。俺はお前を失望させない。」【帝釈天】 「約束する。では、夜明けに、竜巣で会おう。」阿修羅はうなずくと、背を向けた。【阿修羅】 「兵士を二十人集めろ、俺と共に城へ入るぞ!」【鬼王酒呑童子】 「おい、これを落としたぞ。」【阿修羅】 「これは?俺の剣か。」【鬼王酒呑童子】 「崖で拾ったものだ、確かに持ち主に返したぞ。」【阿修羅】 「ちょうどいいところに来てくれた、二人も俺と城に入ってくれないか?二人は鬼族だから、あの奇妙な神器に影響されない。」【鬼王酒呑童子】 「そのつもりだ。あの不気味な神器には、我々も興味がある。」【毘瑠璃】 「姉様も城にいるはず。もし彼女を見つけたら、どうか助けてあげてください!」【阿修羅】 「ああ、最善を尽くそう。では準備を整えて、城壁の下で待ち合わせよう。帝釈天、竜巣城の中で会おう。」集められた天人戦士のうち、十人は帝釈天と共に後門へ回り込み、残りの十人は阿修羅と共に正門から城壁を登った。昼間の城門での一戦を経て、鬼族の守備は緩み、失った兵力も未だ補充されていなかった。【翼団兵士甲】 「こんな所で酔いつぶれているなんて。この瓶。琉璃城でも見た事あるぞ。間違いない、これは玉醸だ。」【翼団兵士乙】 「やつら、宴の祝杯に玉醸を飲んでいるのか?」【雷公鬼】 「うぐ、俺を殴ったのは誰だ?ああ、侵入者が、入っ、うぐぐぐ……」【翼団兵士乙】 「阿修羅様の予想通り、城壁を攻めるのは朝飯前のようだ。」【阿修羅】 「お前達はここで待機しろ。迦楼羅の正殿に光が差した瞬間、太鼓を鳴らせ。」【翼団兵士乙】 「はっ!」阿修羅は数人を引き連れ、縄で城壁を降り、一直線に迦楼羅の正殿に向かった。【煉獄茨木童子】 「ここも同じだ、警備の者達があちこちで酔い潰れ、空になった瓶が地面に散らばっている。」【翼団兵士甲】 「なぜここに大量の玉醸が?まさか本当に金翅鳥が玉醸を造っているのか?」【鬼王酒呑童子】 「敵の霊神体を害するための薬酒を自らも飲むなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。」【阿修羅】 「それはさておき、迦楼羅と神器を探せ。」【翼団兵士甲】 「阿修羅様、あちらを見てください!」【阿修羅】 「迦楼羅だ、やはり酔い潰れている。あの神器が無造作に羽の下に隠されている。」【煉獄茨木童子】 「隣の檻を見ろ、女が一人閉じ込められている。」【蘇摩】 「あなた達は……誰?」【阿修羅】 「しっ、静かに。琉璃城城主姉妹の姉、蘇摩か?」【蘇摩】 「はい、私が蘇摩です……あなた達は何者ですか?」【阿修羅】 「我々は天人の援軍だ。お前の妹、毘瑠璃の頼みでお前を助けに来た。彼女は城外で待っている。酒呑童子、蘇摩は重傷を負っている。先に彼女を城外に逃してくれないか?」【煉獄茨木童子】 「しかしあの神器が……」【鬼王酒呑童子】 「もちろん問題ない、今すぐ城を出よう。茨木童子、黒焔で鎖を溶かせ。くれぐれも物音を立てるな。彼女を連れ出すぞ。」阿修羅は慎重に迦楼羅に近づき、琉璃心という名の神器を取り出し、召喚した霊神体を琉璃心にぶつけた。何度試しても、何の効果も得なかった。すると、突然瑠璃心が眼球のように開いた。【阿修羅】 「破壊できないだと?」【翼団兵士甲】 「阿修羅様!これは主人と共鳴しているようです、迦楼羅が目を覚まします!」【迦楼羅】 「一体誰だ、私の安眠を邪魔する者は。またお前か!昼間与えた教訓では足りなかったようだな!全員起きろ!畏れ知らずの侵入者を皆殺しにしろ!」【阿修羅】 「はは、そう慌てるな。何か失くしたものはないか?」【迦楼羅】 「……琉璃心?お前、琉璃心を持って行ったのか?」【阿修羅】 「そうだ、瑠璃心はここにある。取れるもんなら取ってみろ!(お前は琉璃心を持って後門へ急げ、そこで帝釈天と合流しろ。)」【翼団兵士甲】 「(はっ。)」【阿修羅】 「お前達は別々の方向に向かって走れ、やつは一度に全員を追うことはできない。俺が後ろで足止めして時間を稼ぐ。」阿修羅はそう言うと、手中の霊符に火をつけて宙に投げた。火の光が夜空で弧線を描き落ちていく。城壁の方から突然、耳を聾する太鼓の音が轟き、城中の警備の者達が身を起こした。【翠甲鬼】 「なぜ太鼓の音が聞こえる?侵入者か?」【雷公鬼】 「また正門の方か。誰かが諦めきれず、闇に紛れて橋を渡ろうとしているのか?」【翠甲鬼】 「迦楼羅様の正殿にも明かりがついている、何かあったのか?こ、これはどっちに向かうべきだ?」【藍爪鬼】 「馬鹿野郎!迦楼羅様の正殿でのことは迦楼羅様が始末する、我々の出る幕などない!早く正門に行け!」【翠甲鬼】 「行くぞ!みんなで正門へ!」……竜巣城、裏門の外【翼団兵士乙】 「帝釈天様、照明の術が発動されました。帝釈天様の予想に違わず、鬼族は全て正門のほうに向かいました。」【帝釈天】 「裏門を突き破るぞ、皆、私について中に攻め入るんだ!」……竜巣城、城内【阿修羅】 「瑠璃心はこの手の中にあるぞ、取りに来い。」【迦楼羅】 「その腕ごと切り落とすぞ!」【阿修羅】 「いい刀ではあるが、残念ながら、不甲斐ない主を持っているな。」【迦楼羅】 「手の中には何もないだと、貴様、騙したな!」【阿修羅】 「その通りだが?おまえだけではない、この城ごと騙した。」【迦楼羅】 「城ごとだと?しまった!…ふっ、貴様には分からないだろうが、瑠璃心と私とは一心同体のようなものだ。その気になれば、いつでもそのありかを突き止めることができる。瑠璃心は裏門のほうへ移動している、貴様の仲間も裏門にいるのだろう。我が宝物に手を出す者は、決して許さない!」迦楼羅は突然目を閉じ、月を見上げて鳥のような鳴き声を出した。鋭い声が夜空に響き渡る。しばらくして、彼は目を開けて高笑いした。そして四つの翼を使って力強く羽ばたき、真っすぐに裏門のほうへと向かっていく。 ……竜巣城、裏門の外【翼団武将】 「帝釈天様、誰か来ました!」【翼団兵士甲】 「帝釈天様!」【帝釈天】 「阿修羅は?阿修羅は来ていないのか?」【翼団兵士甲】 「帝釈天様、この瑠璃心は破壊できません。どうかこれをお持ちください、騎兵に命じ、できるだけ遠くへ!」【迦楼羅】 「させるか!くらえ!」【翼団兵士甲】 「ぐあ、ゴホ。また、あと一歩のところで。帝釈天様、これを……」【迦楼羅】 「それに触るな!」迦楼羅と帝釈天は、同時に瑠璃心を目掛けて駆け出した。時を同じくして、阿修羅も駆けつけ、迦楼羅のほうへ飛び出した。迦楼羅と帝釈天がほぼ同時に瑠璃心に触れる寸前に……【阿修羅】 「その腕、もらった!」【迦楼羅】 「ぐあああ!腕が!腕が!貴様!卑しい天人め、よくも!その六本の霊神体を全て切り落とし、瑠璃心に食わせてやる!うわあああ!」突然、迦楼羅の全身を狂風が包んだ。【帝釈天】 「まずい、この風は瑠璃心を狙っている!」瑠璃心は狂風に巻き上げられたが、それを手放さなかった帝釈天も道連れとなった。【帝釈天】 「これは戦士達が命と引き換えに手に入れたものだ、手放すものか!」【阿修羅】 「帝釈天、早く手を離せ!」【迦楼羅】 「目を開けろ、瑠璃心!」【帝釈天】 「うわああああ!」瑠璃心が再び禍々しい瞳を開けて、震動で帝釈天を振り落とし、空に昇っていった。そして以前より何百倍もまぶしい光を放ち、竜巣中に巨大な衝撃を与えた。【翼団兵士乙】 「この嵐のような衝撃を受けると、霊神体は砂の如く吹き散らされ、風の中に消えてしまうのか?」【翼団兵士甲】 「俺達だけじゃない、見ろ!戦士達の霊神体は全てひき潰され巻き上げられてしまった!これじゃどう戦えばいいんだ!」【雷公鬼】 「迦楼羅様を怒らせたな、てめえらはもう終わりだ!」【翠甲鬼】 「やつらの霊神体が消えたぞ!一人も逃すな!」【翼団兵士乙】 「恐れるな!霊神体は消えたが、我々にはまだ武器がある!例え武器が折れても、まだ腕がある!行け!仲間や家族の敵を討て!」竜首も崖全体が震動し、嵐の中心にある瑠璃心は周囲から精神力を吸い続けている。前線に赴く天人の援軍、城壁の上で金翅鳥と抗戦している戦士達、城の中に侵入しようとしている金翅鳥達……全ての精神力が、嵐の中心にある瑠璃心に押し寄せる。天人の兵士達の霊神体が次々に消え、空を飛ぶ金翅鳥達も矢を受けたように失墜して地に落ちた。【阿修羅】 「帝釈天?具合は?」【帝釈天】 「平気だ、ただ霊神体が使えない……今日はもうこりごりだ、何度も高い所から落とされ、その度にあなたに受け止めてもらった。」【阿修羅】 「お前は飛べないくせに、高いところが好きだ。今後お前が高いところに立つ時は、俺が側にいなければいけないな。」【帝釈天】 「迦楼羅は?」【阿修羅】 「安心しろ、俺の霊神体はまだ使える、やつは俺に任せろ。言ったはずだ、共に勝利し故郷へ錦を飾って、お前の昔の仲間達を弔うんだ。」【迦楼羅】 「分を弁えろ!貴様の霊神体は既に揺らつき、消える寸前だが?」【阿修羅】 「弁えていないのはお前だ。お前の腕を切り落とした瞬間、勝負は既に決まった。今のお前はただ神器にすがっているだけだ。橋にいた時、お前は俺から逃げて、帝釈天を襲った。敗北を前に、お前は最後に瑠璃心に賭けるしかなかったんだ。つまり、俺は別にお前を倒さなくてもいい。瑠璃心さえ倒せば、竜巣城の敗北は、もう覆せない。」【迦楼羅】 「瑠璃心は紛れもない正真正銘の神器だ、貴様のような卑しい天人になど負けはしない!」【阿修羅】 「俺の読みが正しければ、それは精神力を食らうことで天人の霊神体を無効化にしている。しかし、肉体には限界があるが、精神は尽きることがない。ある者は揺るぎのない精神で善をなし、ある者は尽きない狂気によって、残虐を極める。心の力は永遠に尽きない。悪人が悪をなそうとも、善人はそれで善をなすことをやめない。同様に、善人が善をなしても、悪人は決して悪をなすことを諦めない。精神力は力にも、魔にもなれる。そして俺の力は、魔の中の魔だ!」【迦楼羅】 「どういうことだ、なぜいくら吸い上げようと、やつの力は、霊神体は、完全に消滅しない?むしろ、より早く再生している?」【阿修羅】 「それはな、俺の霊神体はマグマでいっぱいの火山のように、いくら噴出しても尽きないからだ。これは全部お前をもてなすために用意した、心行くまで楽しもうじゃないか。」【迦楼羅】 「邪気、邪気だ!一体どうしてやつが、こんな桁外れの邪気を抱えている?邪気に体が侵されている?!うわああ!!これほどの邪気には耐えられない、肉体が、もうすぐ限界を迎える、うわあああ!苦しい!苦しい!」【阿修羅】 「ははは!どうだ?苦しいか、楽しいか、絶望したか……?この叫び、実に素晴らしい……!ははははは……」【帝釈天】 「まずい、阿修羅が狂暴になっていく…もう暴走寸前だ!このままでは、例え勝っても、甚大な被害を受けてしまう!瑠璃心がかつてないほど暗くなっている。今のうちにあれを破壊すれば、きっと阿修羅を助けられる。」帝釈天はなんとか体を動かし、嵐の中心にある瑠璃心に向かって進み始めた。【迦楼羅】 「許さん!瑠璃心に触れることは許さん!死ね、天人ども!死ね!天人は皆くたばるべきだ!」【阿修羅】 「帝釈天?帝釈天は俺が守る。迦楼羅、くたばれ!」その瞬間、阿修羅は地に刺さった刃を抜き、迦楼羅の頭を狙って剣を振り下ろした。迦楼羅の体は頭の真ん中から、真っ二つに切り裂かれた。【迦楼羅】 「ぐあああ……!」【帝釈天】 「まずい、瑠璃心が!」【阿修羅】 「帝釈天!気をつけろ!」【帝釈天】 「うっ…!」迦楼羅の血が噴き出すと同時に、瑠璃心の周りには空間が砕けたような波紋が現れた。空で強烈な爆発が発生し、精神力もつられて爆発し始めた。爆発は長く続いたが、ついに落ち着いた。【帝釈天】 「お、終わったのか?」【阿修羅】 「終わった、俺達の勝ちだ。(瑠璃心の爆発の衝撃はそろそろ効いてくるはずだ)」【帝釈天】 「その通り、あなたは成し遂げた。阿修羅、その額は?」【阿修羅】 「?」【帝釈天】 「あなたの額に、第三の目、天眼が現れた。天人にはとても珍しいことだ。」【阿修羅】 「第三の目?道理でいつもよりお前がよく見えるわけだ。」【帝釈天】 「その冗談は、いつもどおりくだらないが。はは、はははは…!」【阿修羅】 「ははは、結局笑っているじゃないか。」【帝釈天】 「阿修羅、あなたの勝ちだ!あなたは狂暴さによる支配から逃げ出すことができた!これからも、あなたは必ず勝ち続ける!もしこの世の果てに勝者が一人しか存在できないとしたら、それはきっとあなた、阿修羅なんだ!」【毘瑠璃】 「姉様?姉様!」【蘇摩】 「毘瑠璃、本当にあなたなの!よかった、瑠璃城はどうなってるの?皆は?」【毘瑠璃】 「瑠璃城も、皆も無事。あとは姉様だけ、皆も待ってるわ!」【阿修羅】 「いったいどういうことだ?瑠璃心は壊れたのに、なぜ迦楼羅の肉体はゆっくりと元に戻ろうとしているんだ?」【帝釈天】 「これは…阿修羅、見ろ。これは、天人一族の霊神体、黒翼か?ずっと隠されていたのか。まさか?ずっと敵だと思っていた、異族の連中を率いて天域に攻め入り、十天衆の住まう善見城を狙っていた者が…竜巣城の首領迦楼羅は、天人だったのか!堕ちた天人、天人を絶滅させたい天人。結局、天人を一番憎んでいたのは天人自身だったのか、一体なぜだ?」【煉獄茨木童子】 「しかし、迦楼羅が神器瑠璃心を操っているというより……むしろ瑠璃心に操られていると言うべきだ……玉醸を飲み、夢に落ちたあの天人達のようにな。」【鬼王酒呑童子】 「その通り、瑠璃心の裏には必ず誰かいるはずだ。(茨木童子、気づいたか?ついさっき瑠璃心が爆発した後、深淵に送られていた霊力が止まった。)」【煉獄茨木童子】 「(まさか黒幕は、本当に迦楼羅だったのか。)」【鬼王酒呑童子】 「(深淵の霊力を吸っていた者と、瑠璃心の支配者は、別の人物のはずだ。先に対処すべきのは前者だ、急いで行動するぞ。)十天衆の使者 翼の団の兵士達よ、光明天様がお越しだ、早く出迎えの準備を。」【阿修羅】 「ふっ、必要な時はどこにもいなかったが、こんな時には現れるのか。」【帝釈天】 「恐らく、わざとゆっくり来たんだろう。私達と金翅鳥が共倒れになる隙をつき、手柄を横取りするつもりで。」【阿修羅】 「残念だが、それは叶わなかったな。」【光明天】 「まさか本当に迎えに来るとは。翼の団の阿修羅は残虐で、礼儀知らずだと聞いていたが。迎えに来てくれるとは、光栄だな。」【阿修羅】 「もちろんただ迎えに来たわけじゃない。」【光明天】 「言ってみろ。」【阿修羅】 「光明天様はご存知か?金翅鳥一族の鬼王迦楼羅だが、鬼族ではなく、善見城の天人だった。誇り高き天人は、鬼族を毛嫌いしているが、堕ちた天神は、悪鬼以下の存在に成り下がる。」【光明天】 「貴様!」【阿修羅】 「光明天様のことも、いつもよりはっきり見える。」【光明天】 「これは……天眼?」【阿修羅】 「他の十天衆の皆様も、祭壇から降りてきて、姿を見せてくれればいいのだが。」【光明天】 「貴様……!」【鬼王酒呑童子】 「(茨木童子、この深淵の霊力、明らかに二つの勢力が衝突している。俺たち以外にも、何者かが霊力を止めようとしている。どうやらここでの物語も、終わりを迎えようとしているようだ。)」【煉獄茨木童子】 「(友よ、それはつまり…?)」【鬼王酒呑童子】 「(もうすぐだ。備えておけ、茨木童子。)」 |
光影の変
光影の変 |
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……善見城、城門【天人の民甲】 「聞いたか?翼の団を率いる闘神阿修羅が竜巣城を討伐したらしい。今日戻ってくるそうだ!」【天人の民乙】 「善見城の城門は今日開けっぱなしだ、翼の団の戦士達を迎えるためにな!」【天人の民丙】 「来たぞ来たぞ!」【天人の民甲】 「闘神阿修羅様だ!阿修羅様!」【天人の民乙】 「阿修羅様!帝釈天様!」【天人の民丙】 「英雄の凱旋だ!」【阿修羅】 「どうだった?」【帝釈天】 「中々悪くない。」【阿修羅】 「ほう?この日のために長年画策していたのに、薄い反応だな。」【帝釈天】 「阿修羅!何だ、その言い方は。」【阿修羅】 「おまえの根気強さを、諦めない決意を、褒めている。次は十天衆だ、もう一度新しい目標を立てたらどうだ?」【帝釈天】 「だめだ、正規軍との協力はまだ始まったばかり、これからも一緒に戦うことになる。ここで十天衆を潰せば、協力の話も、約束の物資も、全て水泡に帰すことになる。」【阿修羅】 「本気で十天衆の話を信じているのか?」【帝釈天】 「できることなら信じたい。瑠璃城はともかく、善見城の民はまだ十天衆を信頼している。彼らを敵に回したくない。現状を打破したければ、慎重に計画を練らないと。」【阿修羅】 「あまり難しく考えるな。天人を屠る鬼族も、一族を犠牲にする十天衆も、全部俺に任せとけ。絶対的な力は、腐りきったものを全て滅ぼす。道を遮るものは、排除すべきだ。」【帝釈天】 「阿修羅、天人にとって、滅びることは最適な選択ではない。敵対者の排除や処刑は全てあなたに任せる、それ以外は私がやる。」【十天衆の使者】 「お二方、十天衆様から拝謁の伝令を預かっております、どうか神殿へご足労を。お待ちください、十天衆様は仰いました。神殿は聖なる場所です、異族が入ることはできません。ですから、後ろにいるお二方はご遠慮ください。」【煉獄茨木童子】 「ふん!何が十天衆だ、愚かしいにもほどがある。我々とてお願いされても、全く行きたくなどない!」【鬼王酒呑童子】 「いいだろう、こっちも天人一族のことには介入したくない、ここで待つとしよう。」【帝釈天】 「本当にすみません。酒呑童子、茨木童子、私達が戻るまで、しばしお待ちを。交渉が終わってから、また相談しましょう。」【鬼王酒呑童子】 「……うまくいくことを願っている。」……善見城、十天衆神殿内 雄大な神殿に、鐘の音が鳴り響く。十天衆の首領、善法天の声が広大な神殿に響き渡る。帝釈天は微かに頭を下げ、礼儀正しく天人の首領の言葉に耳を傾けた。一方、阿修羅は不遜な態度で、まっすぐに善法天を睨みつけている。【善法天】 「……鬼族との戦争において、翼の団は積極的に正規軍に協力した。正規軍の指揮下で、無数の勝利をおさめ、数多の手柄を立てた。十天衆会議の結果により、汝らに天人正規軍と名乗る名誉を授ける。今後、汝らは誇り高き正規軍の一員となり、十天衆の配下に属す。」【光明天】 「善法天様直々に冊封なさる、天人としてこれに勝る栄誉はない。それなのに、無礼者め、跪くことも知らぬのか!」【阿修羅】 「俺たちは帰順しに来たんじゃない、交渉しに来たんだ。」【帝釈天】 「阿修羅。翼の団が結成された目的は、鬼族を永遠に駆逐し、失われた土地を取り戻すことです。正規軍であるかどうかは関係ありません。私達と十天衆の皆様の目的は同じではありませんか。どうして共に戦えないのでしょうか?」【善法天】 「ふん、貴様らのような卑しき民に貴族の名が与えられたことは、名誉の限りだと知れ。貴様らははなから交渉する資格なんぞを持ち合わせていないのだ。」【阿修羅】 「鬼族という外患を解決するには、天人一族は今まで以上に団結しなければならない。だから俺の要望はただ一つ、貴族が民に物資を分け与えることだ。」【善法天】 「人のせっかくの好意を無下にするか……不届き者め、どうやらまだ状況を理解していないようだな。外患を解決するには、先に内憂を解決すべきだ。兵を呼び集め、権力を握ろうとする貴様らこそ、天人一族の内憂に当たる。誰か!この反逆者二人を捕えろ!」善法天が杖で床を叩くと、瞬く間に、数えきれない数の兵士が神殿に現れ、二人を幾重にも取り囲んだ。【正規軍兵士】 「はっ!」【善法天】 「帰順するか、死刑になるか。貴様らに他の選択はない。」【阿修羅】 「服従か、それとも死か。それはこっちの台詞だ。」阿修羅の目に残忍な色合いが浮かんだ。彼の霊神体が急に顕現し、雨の如く周囲の兵士に振り下ろされた。一瞬で、兵士は血飛沫と化し、神殿中が血に染められた。【帝釈天】 「阿修羅、やめろ!」阿修羅はまるで聞こえなかったかのように、まっすぐに善法天に襲いかかる。十天衆は体裁など構わずに、立ち上がり、後退していく。【善法天】 「…ち、畜生め…これはもはや反乱だぞ!!もっと兵を呼べ!!!」【光明天】 「善法天様を守れ!」兵士がやってきて、人の壁を作り出した。阿修羅の触手はそのまま兵士たちを薙ぎ倒し、善法天に襲いかかり、彼を縛り付けた。そして息ができないほど、善法天を空高く吊るし上げた。」【善法天】 「ゴホッ…う、うう……」【阿修羅】 「命乞いしろ、そして俺の命令に従え。運が良ければ、俺はお前を逃し、深淵で暮らすことを許すかもしれないぞ。」【善法天】 「貴様…ゴホゴホ……この……反逆者め……」その時、殿外から一名の伝令が慌てた形相で走って来た。彼の声は震えている。【伝令兵】 「十天衆の皆様にご報告があります!前線の偵察兵から、鬼族が侵攻してきたとの情報がありました。恐らく城は既に囲まれています!どうやら……鬼族の残党による特攻隊のようです。」【帝釈天】 「なんだと!」【善法天】 「聞いたか……早く……放せ……!放せ、貴様の本当の敵は私達じゃない、侵攻してきた鬼族だ!敵軍が迫っている時に仲間割れするなど、それが貴様の言う英雄か?」【阿修羅】 「鬼族の軍隊は、当然皆殺しだ。しかしその前に……俺はお前らを一人残さず殺す。」阿修羅は周りを見渡し、十天衆の残党に向かって五本の触手を伸ばした。残り一本の触手は鋭く尖り、今にも善法天の喉に突き刺さろうとしている。」【帝釈天】 「彼を放せ、阿修羅。」【阿修羅】 「帝釈天?」【帝釈天】 「放せと言っている。」触手はゆっくりと善法天を解放した。善法天は自分の喉を触り、その場で咳き込んだ。十天衆は許しを得たかのように、隅に隠れた。」【帝釈天】 「鬼族は我々が交渉している隙に、兵力を集結した。これは我が一族の存続の危機に当たる一大事です、どうか武器をおさめ、共に敵を撃退してください!」【阿修羅】 「帝釈天?なぜやつらに妥協するんだ!貴族が際限なく民を圧迫しているからこそ、天人一族は鬼域に落とされ、鬼族と戦争を繰り返す羽目になったんだ。十天衆を根絶やしにしない限り、例え鬼族を殺し尽しても、第二、第三の鬼族が必ず現れる!」【帝釈天】 「状況を弁えろ、阿修羅!今ここで十天衆を殺したらどうなると思う?十天衆が死ねば、都は大混乱に陥る!都が陥落し、天人一族が絶滅に追い込まれたら、私達は一体どうやって罪を償うんだ!」阿修羅が帝釈天の胸ぐらを掴み、頭がぶつかりそうな勢いで対峙する。【阿修羅】 「罪を償うべきは、ただ王座に座って皆の成果を我が物にする貴族達だ!帝釈天、貴族であるお前には、永遠に分からない!」【帝釈天】 「……」【阿修羅】 「……」【善法天】 「こほん、翼の団は反逆の罪を犯したが、それを許してやってもいい。翼の団の物資の件についても、話し合ってやってもいい……貴様らが鬼族の軍隊を打ち破り、天人一族の危機を救いさえすれば……!」【阿修羅】 「それなら、素直に負けを認めろ。物資を分け、軍の指揮権を俺に渡せ!」【善法天】 「我々こそが天人一族の支配者だ。翼の団は我々に帰順し、我々の命令に服従すべきだ。連合軍の統帥権を握る者も、我々が決める。それは阿修羅、貴様ではない。決議の結果、我々は帝釈天を、連合軍を統べる者に任命する!」【阿修羅】 「翼の団は恥知らずのお前らなんかには従わない。」重々しい顔をした帝釈天が素早く前に出て、阿修羅の側に来た。しばらく黙った後、帝釈天は神殿の中で、急に頭を下げ、片膝をついた。」【帝釈天】 「この帝釈天、十天衆の任命を受け、軍を統べ鬼族を打ちのめす所存です!」【阿修羅】 「帝釈天、やつらに騙されるな。それは俺達の仲を裂く罠だ!」【帝釈天】 「罠だと知っていながら、何故自ら手玉に取られる?私の決断は、全て私が決めたこと。これこそが私の求めていた答えだ。」阿修羅の怒りの表情は一転、凍てつく程の冷静なものに変わった。【阿修羅】 「お前が決めたというなら、お前はもう俺の知っている帝釈天ではない。」【帝釈天】 「私の心は初めから、何も変わっていない。」【阿修羅】 「どうやら俺が最初からお前のことを勘違いしていたようだ。さらばだ、帝釈天。」阿修羅は振り返ることなく神殿を後にした。夕日に照らされた彼は、長い長い影を落とした。 ……善見城、十天衆神殿外【鬼王酒呑童子】 「お前一人か?」【煉獄茨木童子】 「帝釈天は?」【阿修羅】 「あいつの話はするな!俺に会った事も、あいつには言うな!」しばらくして、帝釈天が光明天と話しながら神殿から出てきた。【帝釈天】 「光明天様、友人に少々話したい事があるので私は失礼します。また後ほどお会いしましょう。」【光明天】 「あまり待たせるなよ、帝釈天。」【帝釈天】 「酒呑童子、茨木童子、阿修羅を見なかったか?」【煉獄茨木童子】 「ええと、う、うむ……恐らく見ていない。」【帝釈天】 「阿修羅は焦り過ぎだ。十天衆との交渉は私に任せろ、彼らを挑発するなと事前に言っていたのに。十天衆の統治は根深く、未だ城外では鬼族が虎視眈々としている。今はまだ、十天衆や貴族達と決裂する時ではない。しかし……正殿にて、彼は最初から私を勘違いしていたと言った。腹立ち紛れの心にもない言葉だと知っていても……」【煉獄茨木童子】 「あまり悲しむな。友人だろうと、意見が食い違うことはあるだろう。だが親友とは、相手が言った傷つく一言を笑って許し、相手の気が滅入っている時には寄り添える存在だ。窮地から抜け出すには、お互いを支え合い、良く理解し合うことが大切だ。もっと彼を信じてやれ!」【帝釈天】 「……私達は、お互いを理解しているが故に、別の道を行かざるを得ないのかもしれない。阿修羅は素直で堂々としている。これが長所でもあるが、善見城では仇となり、彼の命を脅かす恐れがある。彼は今、怒り心頭に達している。何か不慮の事態が起きたら、どうすればいい?十天衆がこのまま引き下がるとは思えない。お二方、どうか私の代わりに、くれぐれも彼をお願いします。」【煉獄茨木童子】 「その言葉にも一理ある。私と友が……」【鬼王酒呑童子】 「お前が十天衆の近くにいれば、阿修羅はきっと安全だろう。阿修羅の名は今や世間中に知れ渡っている。どこへ行っても彼を囲む取り巻きがいるさ。十天衆が手を出す隙は無い。俺達はやはりここに残るべきだ。十天衆は手段を選ばない、やつらのすぐそばにいるお前に何かあったら、厄介な事になるぞ!そうだろう、茨木童子?」【煉獄茨木童子】 「友の言う通りだ!」【帝釈天】 「……それはそれで一理ある。」……善見城、光明天殿内【光明天】 「帝釈天、そなたは竜巣城の一戦で輝かしい功績を挙げた貴族の子だ。対して阿修羅は傲慢で横暴。そなたは分別がつく人間で助かった。よって、十天衆の皆との決議の末、そなたを天人正規軍の統帥に任命し、天人軍の兵権を引き渡すこととなった。直ちに出陣し、阿修羅が率いる反乱軍を討伐せよ。」【帝釈天】 「光明天様、鬼族は総力を結集し、じきに城を進攻するでしょう。阿修羅らは民心を掴んでおり、我々が使える戦力です。討伐の件はまた日を改め、先ずはどうか翼の団と共に鬼族を迎撃させてください。」【光明天】 「いいだろう、許可する。」……数カ月後、善見城、辺境の拠点【阿修羅】 「鬼族の残党はこれ程大規模な軍隊を集結したというのに、未だに行動を控えている。恐らく時機を伺っているのだろう。(今は昔とは違う。過去は変えられない。だがチャンスを得るためにも、この芝居のやりがいはある。深淵に送られていた霊力は既に遮断された。あとは最後の一歩だ。)」【蘇摩】 「阿修羅様。」【阿修羅】 「蘇摩?なぜここに来た?」【蘇摩】 「この辺りは地形が険しく、食料が不足しています。鬼族にも長らく動きがありません。しばらくの間、琉璃城に滞在されませんか?」【阿修羅】 「琉璃城はここから遠くはないが、いつ鬼族が進攻して来てもおかしくない状況で、持ち場を離れる訳にはいかない。」【蘇摩】 「鬼族の軍隊は一体何の時機を待っているのですか?」【阿修羅】 「かつて俺と帝釈天が変装し、琉璃城に潜入した際、警備していた鬼族将校はこう言った……恐らく自分は翼の団に太刀打ち出来ないと、迦楼羅が認めたと。善見城を攻略するには、俺と帝釈天が別々の道を行く必要がある。」【蘇摩】 「では帝釈天は一体どこに行ったのですか?」【阿修羅】 「……もうすぐ日が暮れる。辺境の道のりは危険だ、我が軍の兵士に護送させよう。お前の誘いは、戦が終わったから考えよう。」【蘇摩】 「阿修羅様、最後の一戦もどうかご無事で。失礼します。」……日暮れの時【反乱軍戦士甲】 「鬼族の大軍は未だ出陣しないどころか、何度も小隊ばかり送り込んで、我々を探っている。まるでわざと我々の戦力を消耗しているようだ。」【反乱軍戦士乙】 「進攻する鬼族は数少ないが、阿修羅様は毎度応戦し、凶暴に血を貪り最前線に出ている……」【反乱軍戦士丙】 「帝釈天様がいなければ、発狂した阿修羅様は敵より多く味方を殺すと、下の者は口を揃えて言う。このままでは、人はおろそか、装備や補給も足りないぞ。」【反乱軍戦士乙】 「かつて食糧や装備は帝釈天様が管理していた。彼がいなくなってから、全て疎かになってしまった……」【反乱軍戦士丙】 「傷人は治療を施されず、食糧もじきに底を尽きる。なのに我々は未だこんな場所で守備を続け、上には反乱軍の烙印を押された。我々は一体何のために、今まで耐えてきたんだ?正規軍は出身を問わない上に、来る者拒まずだと聞いた。いっその事……正規軍に帰順しないか?」そう言った瞬間、発言した戦士は阿修羅の触手に胸を貫かれ、数十丈先へと放り投げられた。【阿修羅】 「伝令せよ!十天衆の軍隊に寝返る、もしくは帰順を扇動する奴は、何者だろうと……容赦なく殺す。」【反乱軍戦士甲】 「我々はそんなつもりは……どうか信じてください!」【反乱軍戦士乙】 「言ったのは彼です!我々は彼の言葉に頷きませんでした!」【反乱軍戦士丙】 「鬼神だ……化け物だ……助けてください、帝釈天様、どうか……」【光明天】 「どうした?」【反乱軍戦士丙】 「光明天様……助けてください、私は正規軍に帰順します……」【光明天】 「これはこれは、大英雄阿修羅が部下を教育しているのか。僅か数日で、かつて向かうところ敵なしだった翼の団がこんなことになるとはな。実に惨めだ。食糧は尽き、傷人は床に放置され、つける薬さえも無い。あったとしても、貴様ら身の程知らずの暴漢には、薬の分別もつかないだろうな?帝釈天に倣ってさっさと帰順し、私に尻尾を振っていれば、今頃出世していたというのにな。ははははは。口を開けば反逆だと喚いていたのに、我々がいなければただの無能どもに過ぎない!」触手の先端が尖り、光明天の喉に突きつけられた。【阿修羅】 「ここは貴様に無礼な戯言を言わせる場所ではない。話があるなら、天人戦士の亡霊の前で言え。失せろ!」【光明天】 「はははは、それは貴様に誤って殺された手下の戦士のことか?貴様が帰順を拒んだ真の理由を、こいつらに言えるか?貴様の霊神体にまつわる、恐ろしい真相を口にできるか?ここにいる生き残った兵士達に、葬られた亡将達に、自分の口から伝えることはできるか?貴様は血に飢えた残虐な鬼族との混血児だと!貴様は鬼族の回し者で、天人の裏切り者だ。天人の英雄は単なる嘘だった。偽りの闘神……阿修羅よ!」【反乱軍戦士甲】 「なんだと、阿修羅様が……?」【反乱軍戦士乙】 「道理で鬼族のように血を貪り、鬼族のように残忍だったのか……」【反乱軍戦士甲】 「帝釈天様はきっと真相を知ったから、ここを去ったんだ!」【阿修羅】 「黙れ。」【光明天】 「嘘を暴かれた気分はどうだ?我々は貴様を必要としていない、貴様は天人一族の繁栄を阻む障害だ!」【阿修羅】 「天人一族の障害は、他でもない、お前達十天衆だ!死ね!」触手の棘が光明天の喉を貫通した。逃げ遅れた光明天は両目を見開き、即死した。【反乱軍戦士甲】 「逃げろ、逃げるんだ!」【反乱軍戦士乙】 「阿修羅様が狂った!光明天を殺した!」【阿修羅】 「それがどうした。全ての兵力を集結し、善見城へ進攻しろ!裏切り者どもを血祭りにあげてから、鬼族と決着をつける!」【反乱軍戦士甲】 「うわああ……!殺せ……殺せ……」【反乱軍戦士乙】 「苦しい……俺は……殺す……!」逃げようとした兵士は、一瞬で血飛沫と化した。阿修羅は完全に凶暴化し、精神力を使い兵士達をも狂わせた。殺戮を求める彼らは、善見城へと向かった。 ……善見城、十天衆神殿内【如意天】 「なんだと?あの狂人め、光明天を殺したのか!彼が鬼族の混血児であるという噂を流し、兵士の心を乱したのが我々だと知られてしまったら……」【施行天】 「あの傲慢な光明天め、なぜわざわざこんな時に挑発しに行った!そしてなぜそう簡単に阿修羅に会えた?おかしいぞ!」【歌音天】 「今更何を言っても手遅れだ。反乱軍は既に城の前まで迫り、我々の主力は辺境に配置してある。やつらを止める術はもう無い!奴らが上がって来た時が我々の死期です!善法天様、生死に関わります、早く決断を!」【善法天】 「光明天が迂闊だった、しかし過ちは既に犯された……今となっては、一先ずここを離れてから、対策を考えるしか……」【帝釈天】 「皆さん、阿修羅は恐れるに足りません。私が全身全霊を傾け、後顧の憂いのないよう、事件を解決します。」【歌音天】 「それは……」【善法天】 「どれくらいの勝算がある?」【帝釈天】 「十分あります。」【善法天】 「ならば、やってみろ。」……善見城、十天衆神殿前の広場【煉獄茨木童子】 「外で何が起きている?軍隊と群衆が次々にやってくる、まるで大敵から追われて必死に逃げているようだ。」【鬼王酒呑童子】 「恐らく幕を閉じる時が、ついにやって来たのだろう。軽々しく手を出すなよ、俺と共に傍観していればいい。」【毘瑠璃】 「姉様!阿修羅様は一体どうしたんですか?」【蘇摩】 「ふん、隣の方に聞いてみてはいかが?」【毘瑠璃】 「隣の……?帝釈天様、やっといらっしゃったのですね!」【帝釈天】 「送り込んだ十人の偵察兵のうち、生きて帰ったのは一人だけ。その一人も、帰って間もなく息絶えた。阿修羅達は城まで迫っている。霊神体が凶暴化した彼は既に、生きる者を見るや否や殺す暴虐な天魔へと成り果てた。彼についてきた翼の団の戦士の多くは彼の手によって殺された。外は屍が山積みで、民は必死で逃げ回っている。彼は今や殺戮しか知らない。ここがかつて命を懸けて守った善見城だったことさえ忘れてしまった。由々しき事態なのは百も承知だが、阿修羅の件は特別だ……目前の惨劇は決して彼一人の過ちによるものではない。十天衆がわざと挑発し罠を仕掛けた。恐らく鬼族の内通者も紛れ込んでいた。私は彼の生涯の親友だというのに、意地を張ったせいで、彼が一人で困難に立ち向かう事になってしまった。悔やんでも悔やみきれない!どうか阿修羅の退治に力を貸してもらいたい。だが、くれぐれも彼を傷付けないでくれ!」神殿の前にいる阿修羅は敵や仲間達の残骸に取り囲まれ、暴虐を尽くす鬼神のようだった。【善見城の護衛乙】 「阿修羅様!必ず天人一族を輝く未来へと導いてくださるのではなかったのですか!」【善見城の護衛甲】 「お前は阿修羅様ではない!阿修羅様は我々の大英雄だが、お前は凶暴な鬼神だ!」【阿修羅】 「嘘つきの卑怯者を皆殺しにする!生まれた時から、俺は闇の子供だった。だが俺は化け物にはなりたくなかった。友情が欲しかったんだ!結局、全てが無駄だった!ならば天魔に戻り、卑劣な天人貴族を殺し尽くし、天界を血で染めてやる!この阿修羅、軍を挙げて十天衆を討伐する!従う者は、我が名を叫べ!世界の不平等を全て殲滅してやろう!」 |
主な登場人物
帝釈天 | 阿修羅 | 煉獄茨木童子 |
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鬼王酒呑童子 | 源頼光 | 天剣刃心鬼切 |
十天衆の使者 | 光明天 | 善法天 |
少年阿修羅 | 阿修羅の母 | 金翅鳥 |
迦楼羅 | 毘瑠璃 | 蘇摩 |
兵士系 | ||
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魔神 | ||
帝釈天CG
天域の章・前篇
紅蓮華冕イベント攻略情報 | ||
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