【陰陽師】尋香行(じんこうぎょう)の評価・おすすめ御魂・出現場所
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「尋香行(じんこうぎょう)」の評価、ステータス、スキルを掲載!尋香行の特徴を確認して、陰陽師の攻略に役立てよう!
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「尋香行」の基礎情報
総合評価 | 6.5/10.0点 |
PvE評価 | 6.0/10.0点 |
PvP評価 | 6.5/10.0点 |
レア度 | |
攻撃タイプ | 全体攻撃 全体牽制 |
入手方法 | 召喚 百鬼夜行 |
登場場所 | - |
声優・CV | 日本語:小林裕介 中国語:Kinsen |
中国名 | 寻香行 |
英語名 | Jinkougyou |
プロフィール詳細 |
覚醒前アイコン | 覚醒後アイコン |
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ダンジョン適正度
PvE評価 | PvP評価 |
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星6推奨度 | 所持しておきたい数 |
★★★☆☆ | 1体 |
活躍場所 | |
PvE重視兼PvP型 |
全コンテンツ評価
探索ダンジョン | 御魂ダンジョン | 覚醒ダンジョン |
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3/5点 | 3/5点 | 3/5点 |
御霊ダンジョン | 結界突破 | 闘技 |
3/5点 | 4/5点 | 4/5点 |
叢原火 | 日輪の隕 | 永生の海 |
3/5点 | 3/5点 | 3/5点 |
真オロチ | レイド | 鬼王襲来(麒麟) |
3/5点 | 2/5点 | 2/5点 |
陰界の門 | 異聞ダンジョン | 地域鬼王 |
4/5点 | 4/5点 | 3/5点 |
首領退治 | 妖気封印 | 経験値妖怪 |
4/5点 | 3/5点 | 3/5点 |
銭貨妖怪 | 石距 | 年獣 |
2/5点 | 2/5点 | 2/5点 |
イベント(※) | ||
4/5点 |
※イベントによって点数が大幅に左右される
「尋香行」のスキル
スキル1:御香引
詳細 | |
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消費鬼火 | 0 |
効果 | これが私たちの帰り道だ。 香りが刃になり、敵に命中すると消散し、攻撃力の100%相当のダメージを与える。 |
レベルアップ時の効果 | |
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Lv2 | ダメージが105%にアップ |
Lv3 | ダメージが110%にアップ |
Lv4 | ダメージが115%にアップ |
Lv5 | ダメージが125%にアップ |
スキル上げ優先度 |
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★☆☆☆☆ |
通常攻撃
スキル2:縛夢明香
詳細 | |
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消費鬼火 | 3 |
効果 | 線香一本、八方帰魂。 唯一効果。 記憶の奥底に眠る香りが香炉から漂ってくる。3ターン維持する「 明香境」を展開する。 「明香境」効果中、自身を除く非召喚物の味方のターン終了後、尋香行は心香を1重獲得する。尋香行が敵を攻撃した時、40%の基礎確率で縛魂香を付与する。 【心香】 [バフ、印]累計5重得た場合、現在の重数を消費し、敵全体に攻撃力の43%相当の間接ダメージを与える。 【縛魂香】 [デバフ、印]1重ごとに目標の初期防御力を5%ダウンさせる、最大3重。累計3重時、現在の重数を消費して失神に転化させ、敵目標に攻撃力の231%相当の間接ダメージを与える。 【失神】 [デバフ、印]装着者が行動ゲージの最後にいる時、ターンをスキップし印を解除する。この印を初めて獲得した時、目標の初期防御力を永久的に35%ダウンさせる。【唯一効果】 同じ式神が複数いても、このスキルを発動するのは一体のみである。【維持】 この状態または印の持続ターン数はターゲットのターン数ではなく、発動者のターン数でカウントされる。【基礎確率】 確率は効果命中に影響されます。【先手】 戦闘開始時に行動する。 |
レベルアップ時の効果 | |
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Lv2 | 「明香境」の維持効果が4ターンに延長される |
Lv3 | 縛魂香1重ごとに敵防御力を10%ダウン |
Lv4 | 消費鬼火-1 |
Lv5 | 先手:「縛夢明香」発動 |
スキル上げ優先度 |
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★★★★☆ |
幻境展開+縛魂香や失神付与
※縛魂香は3重目を付与する時にリセット(失神付与)されるので、実質縛魂香での防御力ダウンは最大20%。
スキル3:菩提願
詳細 | |
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消費鬼火 | 3 |
効果 | 瑠璃の心を以て、菩提に願いをかけ、菩提となり、無限の罪を受け入れる。 自ら悪を負い、長い夢を与える。敵全体に攻撃力の80%相当の間接ダメージを与える。【覚醒後】 「明香境」中に「菩提願」を発動すると怪物に対して必ず縛魂香を付与する。 【失神】 [デバフ、印]装着者が行動ゲージの最後にいる時、ターンをスキップし印を解除する。この印を初めて獲得した時、目標の初期防御力を永久的に35%ダウンさせる。 【縛魂香】 [デバフ、印]1重ごとに目標の初期防御力を5%ダウンさせる、最大3重。累計3重時、現在の重数を消費して失神に転化させ、敵目標に攻撃力の231%相当の間接ダメージを与える。【間接ダメージ】 ダメージの一種で、御魂効果を発動しない。分担できず、防御力0の敵に対して必ず会心攻撃になる。 |
レベルアップ時の効果 | |
---|---|
Lv2 | ダメージが85%にアップ |
Lv3 | ダメージが90%にアップ |
Lv4 | ダメージが95%にアップ |
Lv5 | ダメージが100%にアップ、戦闘開始時に比べて敵が1体減少するごとにダメージが12%アップする、最大60% |
スキル上げ優先度 |
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★★★★☆ |
全体攻撃+縛魂香付与
スキル上げ優先度について |
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★★★★★:最優先で上げた方が良い(上げないと使えない) ★★★★☆:上げないと使えない場合がある ★★★☆☆:上げた方が良い ★★☆☆☆:優先度は低い ★☆☆☆☆:上げなくても良い |
式神鑑賞
「尋香行」が覚醒して得られる効果
覚醒して得られる効果の詳細 |
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スキル3「菩提願」追加「明香境」中に「菩提願」を発動すると怪物に対して必ず縛魂香を付与する。 |
「尋香行」の強い点
最大55%防御ダウンとアタッカーの二刀流
尋香行は、縛魂香を付与するごとに初期防御力を10%ダウン(最大20%)させ、失神を付与すると永久的に初期防御力を35%ダウン、合計で55%ダウンさせることができる。さらに、スキル3での全体攻撃に加え、心香5重時や縛魂香3重時にも間接ダメージを与えることが可能。
攻撃はすべて間接ダメージのため、敵の御魂を誘発しない他、清姫や蠍女などの式神と組み合わせて防御力を0にできれば確定会心となるので会心を上げない運用もできる。
防御力が高い敵ほど有効
初期防御力最大55%までダウンはメリットでもデメリットでもある。防御力の低い敵に対してはあまりメリットはないが、防御力の高い敵の場合には、他の防御力ダウン式神以上の値を出すこともできる。
怪物には縛魂香を確定付与
尋香行は、攻撃時に40%の確率で縛魂香を付与できる。怪物(PvEの敵)に対しては確定付与となるので、主に取り巻きがいる超鬼王などのボス系で活躍できる。
敵が減るごとに火力アップ
尋香行は、戦闘開始時から敵が減るごとにダメージが12%アップする。最大60%まで上がるので後半になればなるほど火力が増す。
失神で敵のターンをスキップできる
尋香行は、縛魂香3重後の失神を付与する。失神は、敵の行動ゲージが一番下(ターン開始前)になるとターンをスキップさせることができる。
ターンスキップとなるので、ターン開始時に発動する効果などはすべて発動できず、スキルが使えないので実質結界なども解除することができる。
「尋香行」の弱い点
ターンスキップはダメージが発生しない
失神によるターンスキップは、文字通り完全に行動させずに順番を飛ばしてしまう。そのため、土蜘蛛や彼岸花などのターン前ダメージなどは発生しないデメリットもあるので注意。
防御ダウンは割合で最大55%まで
尋香行の防御力ダウンは、割合(%)であり実数ではないので、自身のみで防御力を0にすることはできず、最大でも初期防御力55%ダウンが限界。そのため、防御力を0にして確定会心をさせる運用をしたい場合は、清姫や蠍女などの防御ダウン式神と編成させる必要がある。
また、縛魂香による初期防御力ダウンは、3重付与するごとにリセットされるので、初期防御力ダウン35~55%(失神発動後)とターンごとに数値と与えるダメージが左右される。
「尋香行」に装備させるオススメ御魂
間接ダメージ判定時の御魂効果は発動しない |
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間接ダメージの決算時、敵味方問わず、御魂効果を誘発しない。 面霊気が破勢や網切、魍魎の匣などを装備した場合、効果は発動しないので注意。 |
オススメ御魂(アタッカー)
御魂 | セット/効果 |
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海月の火の玉 |
【海月の火の玉×4 + 会心/攻撃×2】鬼火の数が上限に達すると、妖術発動時に追加で鬼火1点を消費し、ダメージが40%アップする。 |
兵主部 |
【兵主部×4 + 会心/攻撃×2】ターン終了後、兵刃を1重獲得、ダメージを与える時、1重ごとに目標の防御を75ポイント無視する。上限3重。 |
招き猫 |
【招き猫×4 + 会心/攻撃×2】ターン開始時、50%で鬼火を2点獲得。 |
悲鳴鳥 |
【悲鳴鳥×4 + 会心/攻撃×2】任意の非妖怪目標が倒された時、最大HPの20%が回復する。さらに戦闘終了まで、ダメージを20%アップさせる(上限120%)。 |
輪入道 |
【輪入道×4 + 会心/攻撃×2】行動終了後、20%で追加行動のチャンスを獲得。 |
青女房 |
【青女房×4 + 会心/攻撃×2】致命傷を初めて受けた時、すべてのバフ・デバフを解除し、100%のHPを回復させ、1ターンの間自身を氷結させる。氷結中、防御力が100%アップし、すべてのデバフを無効化する。氷結が解けた後、まだ生存している場合は再び100%のHPを回復させる。1ターンにつき1回のみ発動する。 |
御魂位置 | オプション |
---|---|
壱(左上) | 【メイン】攻撃力【サブ】会心DMG,追加攻撃力,会心率 |
弐(左) | 【メイン】追加攻撃力 / 素早さ【サブ】会心DMG,追加攻撃力,会心率 |
参(左下) | 【メイン】防御力【サブ】会心DMG,追加攻撃力,会心率 |
肆(右下) | 【メイン】追加攻撃力【サブ】会心DMG,追加攻撃力,会心率 |
伍(右) | 【メイン】HP【サブ】会心DMG,追加攻撃力,会心率 |
陸(右上) | 【メイン】会心DMG / 会心率【サブ】会心DMG,追加攻撃力,会心率 |
御魂設置例
御魂 | 例 |
---|---|
パターン① | ①効果指標:与ダメージ └弐:追加攻撃力/素早さ └肆:追加攻撃力 └陸:会心DMG ②会心率:不要 ③素早さ:128以上(以下も可) |
パターン② | ①効果指標:与ダメージ └弐:追加攻撃力/素早さ └肆:追加攻撃力 └陸:会心DMG/会心率 ②会心率:100% ③素早さ:128以上(以下も可) |
オススメ御魂(サポート)
御魂 | セット/効果 |
---|---|
招き猫 |
【招き猫×4 + 命中/HP/攻撃×2】ターン開始時、50%で鬼火を2点獲得。 |
蛤の精 |
【蛤の精 + 命中/HP/攻撃×2】戦闘開始時、1ターンの間味方全体に自身のHPの10%のダメージを吸収するバリアを発生。 |
火霊 |
【火霊 + 命中/HP/攻撃×2】1ターン目に鬼火を3点獲得する。 |
遺念火 |
【遺念火 + 命中/HP/攻撃×2】装着者はターン開始時に念火を1重獲得する(最大3重まで)。1重につき効果抵抗が15%アップする。装着者がスキルを発動する時は、先に念火を消費する(念火は同量の鬼火として使用できる)。 |
返魂香 |
【返魂香×4 + 命中/HP/攻撃×2】ダメージを受けた場合、25%の基礎確率で相手を1ターンスタンにする。複数回攻撃でも1回しか発動できない。挑発された目標に対する発生率が60%ダウンする。 |
玉樹 |
【玉樹×4 + 命中/HP/攻撃×2】味方が攻撃を受けた場合、25%の確率で相手の鬼火を1つ消す。多段攻撃は効果重複なし。 挑発された目標に対する発生率が60%ダウンする。 |
御魂位置 | オプション |
---|---|
壱(左上) | 【メイン】攻撃力【サブ】素早さ,効果命中,追加HP |
弐(左) | 【メイン】素早さ【サブ】素早さ,効果命中,追加HP |
参(左下) | 【メイン】防御力【サブ】素早さ,効果命中,追加HP |
肆(右下) | 【メイン】効果命中 / 追加HP / 追加攻撃力【サブ】素早さ,効果命中,追加HP |
伍(右) | 【メイン】HP【サブ】素早さ,効果命中,追加HP |
陸(右上) | 【メイン】追加HP / 追加攻撃力【サブ】素早さ,効果命中,追加HP |
御魂設置例
御魂 | 例 |
---|---|
パターン① | ①効果指標:素早さ └弐:素早さ └肆:効果命中 └陸:追加HP/追加攻撃力 |
パターン② | ①効果指標:効果命中 └弐:素早さ └肆:効果命中 └陸:追加HP/追加攻撃力 ②素早さ:195以上 |
パターン③ | ①効果指標:追加HP/追加攻撃力 └弐:素早さ └肆:追加HP/追加攻撃力 └陸:追加HP/追加攻撃力 ②素早さ:195以上 |
「尋香行」のステータス
覚醒前 | 覚醒後 | |
---|---|---|
攻撃 | (152) | (166) |
HP | (790) | (864) |
防御 | (60) | (66) |
速さ | (107) | (117) |
会心率 | (10%) | (10%) |
会心ダメージ | 150% | 150% |
覚醒後レベル40のステータス
ステータス | ||
---|---|---|
攻撃 | 3,511 | |
HP | 9,229 | |
防御 | 388 | |
速さ | 117 | |
会心率 | 10% | |
会心ダメージ | 150% |
「尋香行」の覚醒素材
素材 | 個数 |
---|---|
風転·中 |
8 |
風転·大 |
16 |
天雷·中 |
16 |
天雷·大 |
8 |
「尋香行」と相性が良い&対策式神
尋香行と相性が良い式神
式神 | 理由 |
---|---|
清姫 |
全体防御ダウンにより防御力を0にしやすく、尋香行を会心不要にできる。 |
食霊 |
心香によるターン外の間接ダメージの火力をアップできる。 |
心狩鬼女紅葉 |
葉燼付与で間接ダメージの火力をアップできる。 |
鳳凰火 |
縛魂香や失神は駆除不可のため、全体スタンを狙いに行ける。 |
再行動や行動ゲージ操作系式神
尋香行は敵に縛魂香を3重付与すると失神によるターンスキップ&間接ダメージができるかつ、心香が5重溜まると敵に間接ダメージを与えることができる。そのため、再行動や行動ゲージ操作系式神と編成することで、縛魂香や心香を付与しやすくなりアドバンテージを取れる。
尋香行の対策になる式神と御魂
式神 | 理由 |
---|---|
鯉の精 |
バリアで間接ダメージを大幅にダウン。 |
蛍草 |
間接ダメージを回復に変える。 |
デバッファー全般で行動不能
尋香行は、デバフに対する対策を持っていないため、デバフを付与してしまえばスキルを封印できる。
「尋香行」のオススメパーティ
PVEパーティ例
陰陽師 | ||||
---|---|---|---|---|
|
||||
式神(左から行動順) | ||||
式神/行動順 | 御魂/ポイント |
---|---|
千姫 (1速) |
②素早さ/攻撃 ④攻撃 ⑥会心/会心DMG/攻撃 ・スキル3LvMAX ・海貝の戟召喚後通常攻撃固定 ・追月神や因幡かぐや姫でも可 ・素早さ128以上 |
清姫 (2速) |
②素早さ/攻撃 ④命中 ⑥自由 ・素早さ128以上 |
縁結神 (3速) |
②HP ④HP ⑥会心/会心DMG ・スキル3Lv4以上 ・尋香行にスキル使用 ・素早さ128以上 |
安倍晴明 (4速) |
- |
浮世青行燈 (5~6速) |
②攻撃 ④攻撃 ⑥会心DMG/会心 ・スキル2LvMAX ・狂骨でも可 ・その他アタッカーでも可 |
尋香行 (5~6速) |
②攻撃 ④攻撃 ⑥会心DMG ・会心率不要 ・スキル2,3LvMAX ・兵主部やバラ御魂でも可 |
「尋香行」の伝記(ネタバレ注意!)
伝記一
杖をつき、静寂で満たされた闇の中を進んでいく。僕はいま、極めて慎重に歩を進めていた。一歩でも間違えば、足元に広がる深淵に飲み込まれてしまうからだ。 行香域の大地が裂け、荒廃してから、長い時が過ぎた。その裂け目を封じ、旅人のために香をたく御香の一族も皆、とうの昔に死に絶えてしまった。 御香の一族と共に、この行香域もまた破滅の一途をたどっている。いまでは寥々と漂う残香だけが、この世の絶望を雄弁に語っている。 ふと、仄かな香りが立ちのぼり――まるで道しるべのように、僕を導こうとしていた。 僕は立ち止まり、その香りを鼻腔に吸い込む。たちまち、真っ暗だったはずの視界に火花が散り、長い長い道が見えた気がした。冷たい風に耐えながら、僕は香りがする方へと進んでいく。 どれだけ歩いただろうか。ふいに杖先が宙を突き、手応えを失う。 底が見えない深淵の縁で、僕は立ち止まった。 地底から吹き上がる風は、骨を突き刺すような冷気と、不気味に湿った空気を運んでくる。それはまるで、何もかもを飲み込む巨獣の口を思わせる。――これ以上、進む手立ては無かった。 けれどその香りは、絶望の匂いをまとい、僕をその先へと導き続けていた。 香炉を手に持ち、深淵の縁に腰掛ける。香炉の中には何一つ入ってはいなかった。僕は目を閉じ、思いを馳せる。すると、菩提樹の花が咲き、その香炉から煙が立ち昇った。 「心に香を焚きしめ、念じよう。どうか菩提樹よ、答えてほしい……」 香炉から漂ってきた煙が、滝のように流れ落ちていく。生えてきた菩提樹が瘴気をかきわけ煙を伝って、僕の眼前で花を咲かせる。 花の香りを通じて、封じられていた記憶が僕の視界いっぱいに広がっていく。――突然、大きな雲の中から、空に浮かぶ島が姿を現す。 懐かしい。御香山だ。この香りを辿っていけば故郷に戻れるのだと、僕は感じる。 僕は立ち上がり、その風景の中へと入り込んでいく。 「尋……尋……おいで……」 どこからともなく響いた、優しい声が――次第に、叫び声へと変わっていく。人々の苦しむ絶叫が、悲しい記憶を次々と呼び覚ましていく。 ――持国天が、世界を飲み込んだ日の光景だ。 「尋……逃げて……生き……て……」 |
僕はその声を振り払い、目の前に伸びる道に、意識を集中させる。 御香山はまるで、たゆたう灯火のように、帰る場所のない僕を待っている。――未だに約束を果たせないままでいる、この僕を。 僕は御香一族の最後の長だ。……同時に、一族を滅ぼした罪人でもある。 僕は立ち上がり、衣服についた塵を払うと――記憶を巡る旅路への一歩を踏み出す。 |
伝記一開放条件
条件 | 報酬 | |
---|---|---|
尋香行をレベル40にする |
×5,000 |
伝記二
「世界は、悪から生まれたのだ――」 アマテラスは、この地に住まう人々に他者の魂と融合する香炉の力を授け、御香の一族をこの地の守護者とした。 しかし、あらゆる善悪は常に背中合わせに存在している。御香の一族は愚かにも、アマテラスに捧げるべき信仰を悪神に捧げ、悪神が封印を破るための手助けをしてしまった。 ――僕は記憶の流れを遡っていく。世のために奔走し、己の魂を燃やし、世界の裂け目を補ってきた御香の一族たちが見える。 しかし、彼らは知らないだろう。己が骨身を削ってまで焚いた香が、既に悪神たちの邪念に染まってしまっていることを。 闇に囚われた悪神は、この世の全ての命を妬んでいる。彼らは一見、慈悲深い旗を掲げているが、その裏で世界の支配を目論んでいた。 暗闇の牢獄から抜け出しすべての生命を飲み込む日を、彼らは虎視眈々と待ち続けているのだ―― 「世界の終わりは、そなたが生まれた日に決まっていた」 「悪から生まれた御子よ――そなたはいかにして、定められた運命から、逃れようというのか?」 耳元で囁く誰かの声を、どこか懐かしく感じる。声の主の吐息とともに漂ってくる香りは、僕の魂の奥まで入り込み、意識を朦朧とさせる。 僕は抗うことなく、ただ静かに夢の世界へと沈んでいく。香りの渦に呑み込まれていくうち、いつしか僕は、無数の香炉が飾られた祭壇の前に立っていた。 すると、周囲の世界が崩れ落ちていき――奔走していた御香の一族も魂を燃やし尽くし、墓標と化していった。 僕の目の前で、友人たちが煙と化して消えていく。親族が次々と、闇の中に飲み込まれていく。彼らの無数の手が、僕へ向かって伸びてくる。 消えゆく命が、最後の希望である僕に、助けを求めているのだ。 世のために奔走した御香の一族はむしろ、行香域を滅ぼす悪を手助けしてしまった。それどころか彼らは今や悪鬼と成り果て、煉獄で想像を絶する苦痛を味わい続けている。 ――気がつくと僕の両手は、実体化した強い悪念に、きつく縛り付けられていた。 僕と同じ顔の持ち主が目の前に立つ。――熙だ。彼は僕に微笑み、言った。 「やっと捕まえた」 「ずっと、待っていたよ」 「兄さん――」 |
伝記二開放条件
条件 | 報酬 | |
---|---|---|
尋香行のスキルレベルを8回上げる | 尋香行の欠片 ×10 |
伝記三
人々の間に不和をもたらす悪神は、世界中でありとあらゆる争いを引き起こした。 一族の未来を願った先代の族長でさえも、悪神に付け入る隙を与えてしまった。 そうして、この世に僕と熙が生まれ落ちた。悪神に翻弄される僕たちは、生まれ持った才能の差によって、それぞれが別の扱いをされるようになった。それが後に、僕たちの間にどうしても埋められない溝をつくることになる。 幼い頃、僕が優れた才能を発揮したのに対し、熙はあまり恵まれてはなかった。しかし、次第に僕の才能は衰えていき、代わりに熙の才能が開花していった。 誰もが、僕たち二人のどちらかが一族の先頭に立ち、この世界を守っていくだろう、と考えていた。 しかし、行香域の人々もまた、持国天の玩具にすぎなかった。悪神に運命を弄ばれているとも知らずに、人々は互いを憎みあっていた。 嫉妬という名の罪は、あらゆる人間の魂を蝕んでいく。僕たちも、例外ではなかった。 けれどその憎しみの日々も、弟と一族が悪神に飲み込まれ、僕だけが生き残ったあの日に、終焉を迎えることになる―― 手に乗せた香炉に火が点り、悪念の鎖を引きちぎった。 香煙が立ち上り、辺りに満ちていく。香炉の火が、悪神の陰に覆われた祭壇を照らし出す。突如、祭壇の香炉が一斉に焚かれ、立ち上る煙の中に、悪鬼となった人々の苦痛に歪んだ顔が映し出される。 ――気づけば僕は、御香山の奥深くにいた。 すぐ正面に、熙が立っている。血が繋がった兄弟なのに、まるで見知らぬ他人のように感じられる。 「俺に身を委ねて、兄さん」 かつて御香の一族だった悪鬼たちの、耳をつんざく絶叫。その声は洪水のように、僕を飲み込んでいく。 「拒むな、己が心に従え」 大地が波のように揺れ動く。振り返ると世界は、悪神の巨大な手のひらの上にあった。 「我と、ひとつになれ」 悪神は手のひらをわずかに閉じ――慈愛に満ちた目で僕を見つめる。 「そうすれば、世界は安らぎを取り戻す。再び御香山には楽しい歌声が響き渡り、一族も平和な生活に帰れるだろう」 「そして、そなた自身も果てしない旅から解放され、再び一族とともに暮らせるだろう」 「そなたは、それを望んでいたのではないか?」 「僕の、願い……か」 混乱と喧騒の中、悪神が狂ったように笑い出した。 僕は香炉を取り出し、抱きしめる。すると僕の言葉を待たず、火が灯った。 香炉は眩しい光を放ち、悪鬼たちの顔を照らし出す。――次第に、彼らの表情が、安らぎに満ちていく。 「……そうだ。かつて僕はこの香で、皆の魂を浄化していたんだ」 「果てしない苦しみから、全ての魂を救うと僕は誓った。一族を守る務めを果たすため、この苦痛を背負うと決めたんだ」 「一族の罪を背負う代わりに、彼らを解放する――」 「それこそが、僕の願いだ」 香が流れるとともに、僕の魂が少しずつ、削り取られていく。それは温かい風となって世界に満ちていき、人々に熱を伝えていく。 救済によって自由になった人々の魂が、菩提樹の花とともに大地に帰っていく。――途端、罪を肩代わりした僕を凄まじい痛みが襲う。けれど僕はその痛みの中に、心からの喜びを感じていた。 「僕はここに、僕の願いを叶えるために来たわけじゃない」 「約束を……皆の命を奪ったあの日に、皆と交わした約束を――果たしに来たんだ」 「――望みはただ、それだけだ」 「そなたは全く、愚かだ」 持国天は冷ややかに笑った。 「忘れるな。たとえ全ての人間が自由になったとて――熙は、永遠に我の手中にある」 「これは、そなたの逃れられない宿命だ。終生の罪なのだ」 「そなたは人々に自由を与える代償として、弟を犠牲にしたのだ」 「御子よ――今のそなたに、熙の目を見る勇気はあるか?」 深淵の深くへと落下し、視界が闇に覆われていく。完全に闇に遮られる前に一目だけでもと、僕は目を見開き、頭上にいるはずの熙を探す。 冷たい風が、指先にまとう残り香を散らす。――目覚めると僕は、深淵の淵に腰掛けていた。ふと、手のひらに、ひとひらの菩提樹の花弁があることに気づく。僕はそれを香炉に入れる。香りに包まれながら、さっきまで見ていた幻について思い返す。 耳元で、あの問いがまだ木霊していた。 僕は底知れない深淵を見つめ、大きく息を吸ってから立ち上がり――前に向かって力強く、一歩を踏み出した。虚空に陥るはずだった僕の足は、しっかりと地面を踏みしめている。 香炉は、静かに燃え続けていた。僕はあの懐かしい香りを辿って、僕たちの帰るべき場所を目指し、まっすぐに進んでいく。 僕は――御香一族の最後の長は、これからも、世界中に散った自由な魂たちを探す旅を続ける。 何があっても、彼らを帰るべき場所へと連れて帰る。 そしていつか必ず、熙を救い――共に帰ろう。僕たちの故郷、御香山へ。 |
伝記三開放条件
条件 | 報酬 | |
---|---|---|
戦闘中に敵を累計10回「失神」させる |
×10 |
「尋香行」の紹介
※編集中
「尋香行」のセリフ一覧
※編集中
「尋香行」のイラスト
覚醒前 |
---|
覚醒後 |
魂蝶の導き(花合戦) |
光明の香り(商店) |
イラスト1 |
イラスト2 |
イラスト3 |
イラスト4 |
イラスト5 |
イラスト6 |
「尋香行」のストーリー
追憶絵巻
双賜 |
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香行域は千年前の神々の戦いの中、神の大いなる力によって誕生した六道の世界の一つであるため、人々に知られていない。 彼の時、天変地異が起こり、六悪神は天照大神によって六道に封印された。雷の槍に貫かれ重傷を負った嫉妬の悪神は、天照大神に仕える神が神香炉を使って香行域に封印した。神香によって浄化された悪神は、そのまま世界から消えたようだ。 この時、残された神香の力の中から新しい命が生まれた。生き残るために荒れ果てた大地で足掻き続けた彼らは、やがて世界の果てまでやってきて、御香を持つ神像を見つけた。 神香炉を持つ巨大な神像は、世界を守る神のように、山の頂上に重々しく腰を下ろしている。その後ろには断崖が広がっている。 不思議な光を放つ神香が香炉から立ち昇り、通りかかるところにその息吹を吹き込む。不思議な御香は目には見えない壁を作り、ひび割れ続ける大地を繋ぎ止めている。 大地を守る御香の神の慈悲深き御心に、神香から生まれた一族は感動し、敬意を込めてその神を持国と呼んだ。 神は天照大神の神力が秘められた神香炉を通じて、新たに誕生した命に御香を操る力を分け与え、辛うじて取り留めることができた小さな世界を祝福した。 御香一族は香りを操り、風に乗ることができる。命に息吹を吹き込む御香を持つ御香一族は、世界に命を吹き込む神使いに当たる。彼らは世界を守る神、持国天を祭っている。 こうして、御香一族は苦しみから解放され、香行域では暗闇が消え去り、明媚な香りの雲が漂った。 御香一族は千年の平和を手に入れ、風の子のように自由に生きていた。 彼らはよく大地に舞い降り、己の力に合う御香を見つけるべく世界中を旅し、同時に世界を見回り、守っている。 一族の最も重要な祭典である御香初詣が近づくと、御香山の神殿は神香に火をつけ、世界中を旅している御香一族に帰ってくるよう呼び掛ける。 見回りから戻る御香一族は風に乗り、かすかに見える香りの糸を辿って空に見え隠れする御香山に戻る。 彼らが帰ってくると、山の至る所に飾られた香鈴がその帰還を歓迎するかのように、ちりんと透き通った音を出す。 そして一族の若い長、尋が門の前で彼らを待っている。 「久しぶりだな、尋。」 「今年もあまり背が伸びていないようだが?」 「燃えている線香みたいに、縮まないようにね。」 優しい若い長は反応に困ると同時に、少し怒りを見せた。これ以上からかってはいけないと悟った皆は冗談をやめ、一緒にここに来ているはずの、もう一人について聞いた。 少し動揺した若い長は、あることを思い出した。御香の部屋から出てきた熙には新しい傷がたくさんできていたが、彼を見るなりそっぽを向いて去っていった。 「熙は新しい御香の研究をしているから、ちょっと手が離せないんだ。」 皆はそうかと頷き、同時に思わず心の中でため息をついた。これは一族の長年の悩みだった。 御香一族の族長と妻は互いを愛し合っていたが、いつまで経っても子供ができなかった。 二人は神に祈りを捧げ、子供を、一族を導く未来の希望を授けてほしいと願った。 慈悲深い神は願いを聞き入れた。神香炉が突然光り、漂う煙が神の手の中から立ち昇った。夢か幻か定かではない混沌の煙が神々しい光に包まれ、誰もその中に混ざっていた黒い煙に気づかなかった。やがて煙は族長の妻の腹の中に入り込んだ。 御香一族はひれ伏し、神の恵みに感謝していた。しかし人々を見下ろす持国天は、なんともいえぬ表情を浮かべていた。 こうして皆に期待を寄せられ、一族に祝福されて、尋と熙は生まれた。 しかし同時に、運命は分かれ道の手前まで来たようだ。 双子というのは互いにとって最も親しい存在になるものだ。 しかし彼らの間には、親しみだけでなく、期待を寄せる人々による比較があった。皆、神から賜った神の子が一族に何をもたらすのか期待していた。 そして全ての変化は、双子の兄が初めて自分の才能を見せた日に始まった。 |
展香 |
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尋は他者の感情の変化にも気づくことができるほど優れた嗅覚を持っていたため、御香を嗅ぎ分けることにおいては右に出る者がいなかった。 一族は彼らに期待し、関心を寄せていた。尋の才能を喜んだ一族の者は、双子の弟である熙も兄に劣らぬ才能を持っているのではないかと期待していた。 しかし兄に比べると、熙の力は絶望的なものだった。 人々は失望した。弟の熙には、御香の才能がないようだった。彼にとって、御香は特別なものではなかった。 神は双子を授けたが、祝福を授かったのはそのうち一人だけだったようだ。 御香一族の未来の長は一族の存続という重荷を背負っていて、いつかは一族を守る立場になる。当然、才能をもって選ばれるべきだ。それから双子は徐々に違う道を辿っていった。 絶望的な差のせいで、まだ幼い熙はますます無口になっていった。 幾多の夜、すやすや寝ている兄の傍で、彼は御香を嗅ぎ分けようと何度も何度も挑戦していた。遠く離れた場所にいる兄に追いつくため、執拗に頑張った。 しかしやはり無駄だった。 御香の修行において、尋は日々進化し続けていた。それに比べて熙は、いつも同じ場所で立ち止まっていた。御香になれなかった燃えかすの数が、彼の無力さを証明していた。 彼に期待していた人々は失望し、次第に頭角を現す兄の方に期待を寄せた。 月日が流れ、双子の兄弟はそれぞれ光と影になったようだった。才能に恵まれた兄は脚光を浴び、凡庸な弟には誰も興味を持たない。見えない隔たりが生じ、一族の二人への接し方も変わっていった。 「能力不足なのであれば、より努力すべきだ。このままでは、見回りも任せられない。」 香室で、熙の手中にあった香炉がまた爆発し、彼は手のひらに傷を負った。香炉からは煙が立ち昇り、真っ黒な灰になっていく。 近くにいた尋は皆に囲まれながら、なぜか突然称賛の声を浴びた。 熙は無表情のまま、顔を上げて彼の方を見た。 才能に恵まれた未来の長の手の中から、不思議な香りが立ち昇り、部屋中を満たしていた。やがて御香は虹色の尾を引きながら、熙の手の中に収まった。 御香の香りが彼の壊れた香炉の中に入っていく。香炉の中の御香の残滓が微光を放ち始めた。息吹を吹き込まれた御香は、まるで優しい祝福のようだった。 熙はこっちに目を向ける尋から目をそらし、しばし沈黙した後、御香を振り払った。 失敗作の御香を片付けると、彼は立ち上がってその場を去った。 皆があちこちで議論していた。 「神に授かった双子なのに、どうして才能の差がこんなにも大きいのか。」 「あの様子では、一族に何か貢献することもできないだろう。」 帰り道、菩提の花がたくさん空から落ちてきた。そのうちの一つが、熙の手の中にひらりと落ちた。 顔を上げ、花が落ちてくる方を見ると、花に囲まれ、微かに震える花枝を持って微笑んでいる尋の姿が目に入った。 「どうして待ってくれないんだい?」 熙は長い間彼を見つめていた。いつも通りの優しい笑顔だが、彼には皮肉に思えた。 同じ双子なのだ。こんな風に尋を見上げ、自分の無力さを嘆くのではなく、彼自身も尋と同じ才能を手にしているべきだと思った。 尋は何も悪くないかもしれない。しかし彼は、優れた才能を持っている。それは決して消えることのない原罪だ。あるいは、それは彼自身の原罪なのかもしれない。 でもどうせ同じことだ。彼に憐れみは必要なかった。 花を捨てた熙は、同時に最後の感情も捨てたようだった。孤独な少年はその場を去り、やがて御香山の夕日の中に消えた。 木の影が尋を包み込み、彼の迷いを覆い隠した。 彼は追いかけようとはせず、手の中の少し咲いた花をじっと見ていた。まるで彼から徐々に離れていくもう一つの心を吟味しているかのようだ。 長い沈黙の後、彼は手の中の花をそっと握った。 「……才能か、分かった。」 それから尋と熙はすれ違っていった。いつも一緒にいた双子の姿は過去のものとなり、彼らが会うことは稀になった。 それを境に、熙は引きこもり、新しい御香の研究に打ち込むようになった。彼はもうすぐ訪れる御香初詣で、皆が見守る中、正々堂々と兄に勝つことを目指していた。 嫉妬に狂った彼は、兄がいる場所を避けていたが、兄に追いつきたいという気持ちは一度も揺らがなかった。 しかし同時に、分からなくなってきていた。日に日にこじれる執念は、悔しくて嫉妬する気持ちによるものか……それとも深い憧れによるものなのか。 弟の気持ちに気づいた尋は、自分の思いやりを表に出さないようにしていた。 熙は何度も何度も失敗を重ね、新しい傷がたくさんできていた。不安定な御香の力は非常に危険なものだったが、彼は諦めなかった。尋も止めなかった。 夜な夜なひっそりと立ち昇る癒しの御香だけが、熙の仲間だった。しかし熙の必死の努力は、全く報われていないようだった。 頑固に自分を傷つけ続ける熙を見た族長夫婦は心配し、止めようとした。 「才能がないだけだ、そこまで拘る必要はない。」 「努力すれば神が授けた才能を越えられるというのなら、それは神への冒涜だろう。」 「本当にそうかな?」尋は頭を上げ、御香の材料をすり潰す手を止めた。「鷹の雛は、羽ばたきたければ痛みを乗り越えなければならない。」 「双子の僕と熙は、実はそんなに違わないのかもしれない。」 「皆が気長に彼を見守りさえすれば、それで十分なのかもしれない。」 族長夫婦は黙り込んだ。双子の才能はかけ離れているが、彼らにとって、二人は同じだけ大切な宝物だ。そんな二人が可愛くないはずがなかった。 今、彼らはいつの間にか大人になり、己の選んだ道を進み始めたようだ。 ついに熙が、新しい御香を作り上げた。いい香りを放つ御香を見て、尋は思った。この執念と諦めない心が、熙に彼の望むものをもたらしてくれるだろう。 しかし彼らは、暗闇から彼らを見つめる存在に気づいていなかった。 「神への冒涜か……よく言った。」神殿の中で、小さな声が響いた。 |
厄払い |
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大地に恵みをもたらす神に感謝を伝えるため、御香一族は期待と共に御香初詣を迎えた。 御香一族の少年達は、祭典後の御香試しで自分の御香を神に捧げる。そして神に承認されれば、慈悲深い神が一つだけ願いを叶えてくれる。 人々が見守る中、尋と熙が神殿に現れ、皆と共に御香に火をつけた。御香の煙が立ち昇り、神殿の中でそれぞれの幻境を展開する。 双子の力が輝き、御香神殿を照らす。片方の香域は広々としていて、もう片方からは柔らかな印象を受ける。人々が喜びに打ち震えただけでなく、神像が持つ神香炉も香りに惹かれ、活気と明光を喜んでいた。 神が頭を下げ、少年を見下ろす。少年の期待の眼差しの中、神香炉はやはり尋の力に惹かれていた。 「本当に、驚きの才能だ。」神は感慨を漏らした。 熙が持っていた香炉が突然爆発した。彼は何とか抑えつけていた凶暴な力の制御を失った。鮮血が見えない刃を伝って零れ落ちる。 傷だらけの手を隠した彼は、尋の周りを漂う安定した柔らかい力を見て、自嘲めいた笑いを浮かべた。「本当に、驚きの才能だよ。」 「他人が何をしても決して越えられない……俺の負けだ、兄さん。」 流れる血が熙の頂点に達した嫉妬と共に、ひび割れた大地の裂け目の奥深くに入っていく。そして誰も気づかぬうちに、神像の台座の中に融け込んだ。神香炉が閃き、一瞬禍々しい気配が現れたが、すぐに消えた。 顔にわずかに罅が入った神像は、意味ありげな笑みを浮かべた。尋の才能を喜んでいるようだ。 優勝者への褒美として、神が未来の長の願いを一つ叶えてくれる。 横を向いた尋は、熙の壊れた香炉を目にした。しかし熙本人は、いつの間にか傷ついた体を引きずってどこかに消えたようだ。何かを思いついた様子の彼は、願いを口にした。 「どうか、熙が望むものをお与えください。」 「ほう?」神は意味ありげな笑みを浮かべた。「そなたの願いは、他人のためのものか?これは今までなかったことだな。」 「彼の願いは極めて単純だ、そなたのような才能を欲している。」 「そなたのような才能を手に入れることが、どれだけ難しいか分かるか?」 「それでも、彼と分かち合いたいのです。」 「その力を、本当に弟のために使うのだな?」 「はい、迷いはありません。」 楽しそうに笑った神は、口を開いた。「ならば、望みを叶えてやろう。」 そう言うと、契約が結ばれた。神像の持つ神香炉が光を放つ。やがて光が収まり、ある力が静かに神像の中に流れていく。神はより一層優しい笑顔を見せた。 同時に、神力が優しい春風のように尋の頬を撫で、神殿を通り抜けて熙の懐に入った。 彼は何かに気づいたように足を止めた。 振り返ると、久しぶりの笑顔を見せてくれた少年が風に乗ってこっちに向かっていた。彼は思わず手を差し伸べ、兄を受け止めた。 優しい力が絶え間なく、二人の繋いだ手の中を通り抜け、双子に不思議な共鳴を与えた。それはまるで、幼い頃の二人に戻ったようだった。 御香試しの次に控えているのは祭典だった。皆、自分が作った新しい御香を神に捧げ、神力によって張られている御香結界を維持する。そして神もまた、一族に祝福を与える。 神香炉から立ち昇る数々の煙の糸が御香一族の周りを漂い、魂を繋ぎ止める。そして彼らの安全を守るため、彼らの手の中で神香となる。神香に火をつければ、故郷を離れた旅人に御香山に戻る道を示してくれる。 しかし日に日に薄らぐ神香と、罅の入った神像を見た御香一族は、どうしても不安を払拭できなかった。 「神の力が、年々衰えているようだ。」 「もし神の力が足りなければ……」 もし神の力が足りなければ、香行域は、そして彼らは、一体どうなってしまうのだろう? そんな複雑な悩みと、未知なる未来への憂いは、風に乗る少年達には届いていなかった。 神の力により、尋と熙の力が通じ合っていた。わだかまりが消えた今、彼らは共に山を下り、見回りの旅を始めた。 最後に世界の果てにたどり着いた彼らは、世界の崩壊の兆しを見つけた。 世界の崩壊の時、闇より生まれし悪しき獣が次々と世界に湧き出てくる。 しかしこの時、尋は突然力の制御を失った。己の力が際限なく魂から溢れ出し、熙の体に入っていくのを、彼はただ感じているしかなかった。 力尽き、ゆっくりと意識を失う中で彼が最後に見たものは、押し寄せる闇の海に立ち向かい、杖を手にたった一人で目の前に佇む熙の姿だった。 「残念だ……」暗闇の中、神は小声で笑った。「よもや、最後にわれを阻むのが『彼』だとは。」 |
拂心 |
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尋が再び目覚めた時、彼は既に御香山に運ばれていた。しかし傍に熙はいなかった。彼は皆と再び山を下りたらしい。御香山は混乱に陥っていた。 災厄が訪れた今、神はなぜか眠りについていた。世界は日に日に壊れていく。汚染が噴き出し、何とか形を保っている小さな世界を蝕んでいく。 世界滅亡の危機が、千年の時を経てまた訪れたようだ。 御香山は門を開き、生き残った命を受け入れる。御香一族は全力を挙げて世界中を見回り、魂を御香とし、香域となって砕けた大地を補修して、崩れ続ける世界を何とか救おうとしていた。 しかしこの時、人々は気づいてしまった。頼みの綱だった未来の長は、神の寵愛を失ったかのように、力を失っていた。一夜にして、彼の才能は失われた。 人々がざわめく。危機に見舞われた今、未来の長である尋は一族を守ることすらできない。 「これでは遠方を見回り、崩壊する世界を維持することもできないじゃないか。」 「未来の長は、ただの役立たずになってしまったのか……」 尋は疲れ切って傷だらけの一族の者が世界中を奔走するのを見ているだけで、何もできなかった。彼は自分の無力さを痛感した。その時、自分が力を失った後に強くなった熙のことを思い出した。 神の加護は、双子の一人からもう一人に移ったようだ。 彼は初めて自分の選択を疑った。 天才だった若き長が鳴りを潜める今、熙が大活躍した。底なしの力で、無限の香域を作る彼は、御香山の最強の礎となった。彼は兄が背負っていた重荷を引き受け、世界を守る旅に出た。 熙がまた、傷だらけの体を引きずって御香山に戻ってきた。数日休み、また山を下りようとした時、尋が彼を引き留めた。 「僕も連れて行ってくれ。」 「……今の世界は、あまりにも危険だ。」 「それでも、皆が危険に晒されるのを黙って見ているわけにはいかない。」 雪が舞い、冬の風が大地の裂け目を通り抜ける。 皆が拠点で休んでいると、尋が突然顔色を変えた。生臭い匂いを嗅ぎ取ったからだ。 皆の驚く声と共に、獰猛な悪獣の雄叫びが拠点に響いた。狂った獣の群れが、いつの間にか拠点の防衛を突破し侵入していた。皆、不意を突かれた。 悪獣が人々に飛び掛かるのを見て、尋は香炉に火をつけた。儚い煙は丈夫な縄となり、獣達を縛り上げた。 獣の大群は少し戸惑っていたが、すぐに恐ろしい咆哮を上げると、汚れた煙を放った。汚れた煙が煙の縄を侵食する。獣の大群は縄を振り払うと、再び皆に襲い掛かった。 激しい断末魔が風に乗って、容赦なく尋の耳に飛び込んでくる。 よく知っている一族の者が彼の目の前で命を落とす。仲間の怯える様子を見ながら香炉を持つ尋の手の中の煙は、消えていく一方だ。効果がない以上、彼にはもう打つ手がない。 その時閃光が閃き、空から見えない力が降りてきて、獣達を強引に遠くへ押しのけた。 香杖を持った熙が、皆の前に立つ。杖で方向を示すと、香りが刃の如く獣の群れに切り込む。次の瞬間、花のように咲いた香りが獣の群れの中に根を下ろし、獣達の魂の力を吸収した。おかげで御香一族の者に少し余裕ができた。 戦闘はすぐに終わった。熙が杖をしまい、皆の方へやって来る。しかし暗闇の中、ずっと隠れてた一匹の獣が突然飛び出してきた。 熙は不意を突かれ、避けることもできなかった。しかし次の瞬間、母に突き飛ばされた。 熱い血が噴き出し、尋の足元の雪を溶かした。一方、彼の家族は巨獣の傍に取り残されていた。その頭上で鋭い爪が光る。冷たい雪が、彼の貧相な胸元を凍らせた。 香炉の尖った飾りが尋の手のひらに食い込み、立ち昇る煙の中に鮮血が融け込んだ。薄い煙が突然濃くなり、周囲に広がっていく。いつの間にか煙は、弟の杖と繋がっていた。力がその中に融けていく。 悪獣が爪を振り下ろす。 尋は思わず力を使って、今まさに起ころうとしている悲劇を止めようとした。 見えない力が突然熙の体に入り込み、彼の力と肉体を操って、尋が考えた通りに獰猛な悪獣を切り刻んだ。 力が架け橋となり、この瞬間、彼らの気持ちは再び通じ合った。 悪臭を放ちながら獣が倒れると、尋は母と熙に駆け寄り、二人の手を強く握った。 春風が冬の寒さに取って代わっても、母の傷は治らなかった。悪獣による汚染が、どうしても消えない。重傷の母を見て、尋は気が気でなかった。 心の中の声が、彼の欲望を何度も繰り返していた。 「皆を守れるぐらい、強くなりたい。」 「それが本来、僕の務めなんだ……」 「もし……もし僕がまだ力を持っていたら、結果は違っていたのか?」 「あんなことを願っていなければ……」 尋は以前、神の前で口にした願いを思い出した。 「彼の願いは極めて単純だ、そなたのような才能を欲している。」 「そなたのような才能を手に入れることが、どれだけ難しいか分かるか?」 「その力を、本当に弟のために使うのだな?」 「……それでいいのか?」彼は思わず自分に問いかけた。「もしあの出来事がなければ、自分の力で皆を守り抜き、この全てを阻止できることができたのだろうか。」 「もしかしたら……熙よりも上手くできたんじゃないか。」 その問いは、毒薬のように少しずつ彼の心に根を下ろした。彼は、自分が小声で愚痴を言うのを、そしていつの間にか現れた……嫉妬の声を、心の中で聞いた。 彼はぞっとして、手を握り締めた。 彼の不安定な心を敏感に感じ取った母は、何とか体を起こし、頭を優しく撫でてくれた。 「以前もあなたに言ったように、あなたと熙は何も違わない。力はいつだって、あなた達の心の中に隠れているの。ただ少しの間、発揮できないだけよ。自分を信じていれば、いつか必ず迷路の出口が見つかるわ。」 「あなたはいつも鋭いから、一時的な混乱に惑わされたりしないわ。」 「覚えてる?目を閉じれば、全ての真実を嗅ぐことができるって。」 彼は少しぼんやりしていた。母が眠ると、彼は窓辺で目を閉じ、嗅覚に集中し始めた。 土の中から芽生える命の匂い。御香山で咲き誇る菩提の匂い。遠い旅から戻った、疲れ切った一族の者の喜びの匂い。御香一族の、星々のような、弱々しいけれどとても明るい魂の匂い。風が運んできた、様々な匂いを嗅いだ。皆母と同じ、強く優しい信念を貫いていた。 そして……扉の外の沈黙に包まれた後悔の匂いも、嗅ぎ取った。 突然目を開けた尋は、立ち上がって扉を開けた。 母のために癒神香を焚いた後、彼と熙は寄り添って、そのまま扉の前で一夜を過ごした。 辛そうだった母の呼吸が、次第に落ち着いていった。彼らはようやく心の平和を取り戻した。 同時に尋は、さっき嗅いだ匂いの意味を突然悟った。それは一族が困難を乗り越えられるように支えている力、そして彼が憧れる力だった。 彼は目を閉じて瞑想を始めた。手の中から光が溢れ、香りでできた菩提の花がひっそりと咲いた。彼は花を持ち上げると、いつの間にか眠りに落ち、何かに魘されている熙の手の中に入れた。 兄の気配が静かに彼の夢に入り込み、侵食を取り込んだせいで生じた魂の痛みを和らげた。 魂の奥からは優しい力が湧き続けている。この瞬間、双子はようやく再び通じ合い、互いの魂に触れた。 一方、遠くの神殿では、神香炉が弱々しく光り、再び光を取り戻そうとしていた。しかしやがて、再び闇に呑み込まれた。 「……ふん、無駄な足掻きを。」 |
喰惑 |
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尋は旅に出て、毎日大地を奔走していた。しかし彼は、一族の者達が裂け目を塞ぐために魂香を使い果たし、彼らの補修する大地の上で塔となり、香行域に永遠の平和をもたらすため、礎となり、永遠の眠りにつくのを、見届けることしかできなかった。 人形の石碑が道標のように並び、人々のために犠牲になった者が作った道を示している。その道は、世界の果てまで続いている。 彼は寄り添う夫婦を見た。力尽きた夫婦は、指を絡ませたまま大地の上で眠りについていた。彼は老婆を見た。老婆は我が子の形見を抱え、寂しそうな石碑に寄り添っていた。 彼らは信じていた。いつの日か、世界は必ず平和を取り戻すと。そして眠っていた御香一族は神の思し召しにより再び目覚め、平和な日々を取り戻して、いつものように世界を守る旅に出ると。 全ては彼らが望む方向に進んでいるようだった。世界の礎は次第に安定し、大地は久しぶりの平和を取り戻した。人々は一時の平和を手に入れたかに思えた。 その時、御香山で眠っていた神がようやく目覚めた。 喜んだ御香一族は神殿に入り、神の恵みを求めて祈りを捧げた。 御香一族の歓声の中、神は悪意に満ちた笑顔を見せた。大地の上で眠っている御香一族が彼に与える力を吟味してから、千年に渡り自分を封印していた手の中の封印を握りつぶした。 生臭い煙が音もなく素早く大地に融け込んだ。平和を取り戻したはずの世界が、轟音を立てて揺らぎ始めた。並び立つ石碑も悪の神の力に侵され、眠っている魂は呑み込まれた。大地が再び崩壊していく。 世界の礎に悪が根差していたことに、誰も気づいていなかった。 御香一族は最初から、千年に渡って、間違った道をつき進んでいた。そして魂に神香が浸透している御香一族は、闇に潜む魔の手から決して逃れられない。 この世界は元々、嫉妬の悪神を封印するために誕生したものだった。 須佐之男の雷の槍によって重傷を負い、魂が神香炉によって浄化され続けた悪神は世界から消えたと思われていたが、残りの力を使って御香の神像の中に隠れ、静かに時を待ち続けていた。 天照の神力を秘めた神香炉は、不思議な力を持っている。神力を通じて大地に取り残された一族に御香を操る力を分け与え、辛うじて守ることができた小さな世界に祝福を与えた。 しかし悪神はそこに、天照の力を侵食する機会を見出した。 人々の信念が絶え間なく香炉の中に流れ込み、人知れず神香が出来上がった。神香の神々しい輝きを見た持国天は、目まいを覚えた。 悪神は神香を蝕もうとしたが、神香炉は彼を拒んだ。 悪神は笑った。「何故そこまで拒む。この世界に天照はいない。誰もわれを止められぬ。たかが天照の香炉に、われを阻むことなどできぬ。」 「ならばいっそ神香を差し出し、われが牢獄から脱出し、この世界の支配者になるのを手伝え。」 しかし神香炉は動じなかった。立ち昇る煙は持国天の目を盗んで神香を隠した。 御香一族の族長夫婦は、神の前で子供が欲しいと祈りを捧げた。 神香炉の光が明滅した。やがて何かを決めたように神光が柔らかくなり、祝福を与えた。 持国天は意味深長な様子で手の中の神香炉を見た。 「ほう?長年かけてようやく作り上げた神香を凡人に与え、神の子を授けるのか。」 「ならばわれとて協力しないはずはなかろう?」 悪神は汚れた神力を分離させ、神香に紛れ込ませて御香一族に授けた。こうして神の悪意により、双子の神の子が誕生した。悪神は嫉妬の罪を弄び、神香の力を蝕みながら、力を蓄えていた。 今、悪神が再び世界に降臨した。 「天照は神香の力を操り、千年に渡ってわれを大地の下に封印していた。」 「そなた達には感謝している。神魂の力をわれに捧げてくれたおかげで、こうして封印を壊すことができた。」 巨大で厳かな神像が粉々に崩れ、中から黒い煙が立ち昇る。神は哄笑しながら脱出を果たし、空をも覆い隠す黒い煙となった。そして今度は突然急降下すると、恐怖におののく御香一族に襲い掛かった。 |
香行 |
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一歩遅れて神殿に入った尋は、一族が神力に取り込まれる光景を見た。神殿の最奥では、熙が辛そうに神像の前で跪いていた。目を閉じたまま、苦しそうでもあり、楽しそうにも見える表情を浮かべた彼は、既に意識を失っていた。 罪の神力は枷となり、少しずつ御香一族の魂に入り込んで、その生命を吸収している。 尋の手の中の香炉が突然光り出した。竜の形をした煙が広がり、悪神の力と争っている。彼は何とか歩き出し、手を差し伸べて目の前にいる御香一族を掴もうとした。 しかし全ては空回りだった。 彼の力は次第に弱まり、自分すら守れなくなった。罪が彼の肉を引き裂き、血に飢えた悪獣のように彼の力を啜る。 彼は、無数の魂が空中に現れ、氾濫する罪の奔流に巻き込まれて消えていく匂いを嗅いだ。苦しむ一族の者達は、濃い香りに包まれている。 明るく弱々しい魂は風前の灯火のようだ。荒ぶる神威に触れると、すぐに消えてしまう。 しかしその時、彼は気づいた。懐かしい力がゆっくりと自分の魂に流れ込んでくる。神殿の奥にいた魂は、既に遠くへ行ってしまった。 満身創痍の尋は罪の侵食に抗いながら、なんとか前に向かって手を差し伸べたが、今回も彼はただ見ていることしかできなかった。人々は呑み込まれる前に辛そうに地に倒れ、彼の目の前からいなくなった。 彼は全力を尽くしたが、暴れる海原のような力に逆らうことは叶わなかった。 嫉妬の悪神の力は際限なく溢れてきて、目の前の全てを呑み込んだ。 持国天が香りの雲の中を飛び回り、彼の傍で囁く。 「おやおや、これはわれらが神の子、驚きの才能を持つ未来の長、尋ではないか?」 「神香の力が生み出した神の子。心は瑠璃のように透き通り、罪に侵されることはない。」 「天照はわれを分離し、われから全ての力を奪った。しかしそなたは生まれた時から世界に愛されている。実に……羨ましい。」 「神香炉は人の手を借りてそなたに生を授けようとした。われも、神の子は罪を受け入れることができるのかどうか、見てみたいと思った。そうして、われの力によって、熙がそなたと共に生まれたのだ。」 「どうだ、面白いと思わないか。大切な家族が、実は自分とは相容れない罪だなんて。」 「今この世界はわれの支配下にある。本来はそなたまで呑み込むつもりだったが、このままでは少々味気ない。われと一つになるがいい。この世界を出て、天照がどんな反応を見せるか確かめようではないか。」 「昔、俺達は一心同体だっただろう、兄さん。」 悪神が熙の姿に化け、尋の耳元で囁いた。 尋は苦しそうに額をおさえ、漂う香りの侵食に対抗している。しかし彼はまるで悪神の言うことなど聞こえなかったかのように、動揺することなくそのまま神殿に向かっていた。 一族の者の絶望の叫びの中で、彼は足掻きながら進んでいく。やがて彼は、道を見失った。立ち込めた煙の雲が耳目鼻口から入り込み、彼から五感を奪おうとしている。 辛そうな悲鳴や無力さを嘆く声は次第に聞こえなくなり、指先が触れる人々は皆幻と化し、辛そうな顔も見えなくなった。皆を呼んでいるつもりが、聞こえるのは辛そうな呻きだけだ。 尋は果てのない闇の中に迷い込んだ。迸る罪の奔流に巻き込まれた彼は、神殿の上から落ちた。 山頂に御座す神は、笑みを湛えながら、神々しく下を見下ろす。 麗らかな雲海の中、尋は虹のように落ちていった。雲の上には罪の魂が押し寄せてくる。呑み込まれた御香一族の魂が、嫉妬の罪に突き動かされて彼を襲ってきた。 ぼんやりとした意識の中で、尋は懐かしい匂いを嗅いだ。目を開けると、熙の姿が見えた気がした。 「兄さん……」 「ごめん……俺が生まれたこと自体が、間違いだったのかもしれない。」 「俺の存在は、無意味だ。」 「違う、そんなはずはない!」尋が手を差し伸べ、熙を掴もうとする。 しかし熙は彼を見て、悲しそうに笑った。 「諦めろ、尋。」 「諦めるものか!」尋は全力を尽くして前に進み、熙の手を掴んだ。 「俺達は悪神に呑み込まれた、もう逃げられない。」熙の手は冷たく、青白い。「俺達は死なないが、永遠に逃げられない。御香一族は香行域が崩壊するまで、悪神が世界の生命力を吸収するための媒介であり続ける。」 囚われの生、自由のない死、それは実に残酷な未来だ。 暗闇に包まれた世界で、雲の中から悪神の笑い声が聞こえる。人々の喚き声が聞こえた。悲鳴が次々と耳に入ってくる。皆瞬く間に煙に呑み込まれ、跡形もなく消えてしまった。 「苦しい……」 「助け……助けて……」 「生きて……」 「尋……早く逃げて……」 絶望的な結末は、もう変えられないかのように思えた。 しかし、彼は悪神が決めた結末を受け入れたくはなかった。彼はいつでも御香一族を守るという責任を背負っている。そして彼らの未来がどうなるかは……彼が決めるべきだ。 「分かった。」 「でも僕は皆を諦めない。僕は御香一族の未来の長、尋だから。」 このまま生きて囚われ続けるくらいなら……自由な魂となり、大地に還ろう。 「だから……待っていてほしい、僕が必ず皆を見つけ出す。」 「その前に、一つだけ願いを言ってもいいよ。」 尋は懐の香炉を掴み、心臓に当てると、目を閉じた。 神香が与えてくれた琉璃の心は、菩提の願いを掛け、菩提の身となった。それから……彼は一族の人々を、無限の罪を受け入れた。 香炉の力が徐々に開放され、巨大な手のように皆を抱える。御香一族の死に際の強い呼び掛けが、強い執念が聞こえた。 「家……御香山……」 彼の目の前に、昔の平和な御香山が浮かび上がった。 「皆の願いは、ちゃんと聞こえたよ。」 目を開けた彼は微笑んで手を差し伸べ、差し出された悪神の手を掴んだ。 悪神は喜んで言った。「そうだ、来い、俺の傍に来るんだ、兄さん。」 「われと一つになれば、世界を支配する力が手に入り、そなたが望む大いなる力を持った神になれるぞ。」 しかし尋は笑った。「やっぱりやめよう。それと、僕と君は兄弟じゃない。」 彼は願いを、燃える心香に変えた。神香の力が闇の中で少しずつ花開く。 眩しい光が世界を包み込み、無数の刃となった光が優しく御香一族の心臓を貫く。罪と繋がってしまった命を断ち切り、新生の自由を与えた。 殺戮の罪が魂に刻まれ、汚れた罪が次々と少年の胸に入り込む。けれど、御香一族は透き通った自由な魂でいられる。 「何をしている?」悪神が詰問すると、神の威厳が溢れ出た。 「われらは間もなく世界を支配し、大いなる力を手に入れるのだ。なのになぜそんなことをする?」 尋は自由な魂が流星のように大地に落ちていく光景を見届けた。美しい夢を見ているようだった。 「僕がほしいものは、大いなる力なんかじゃない。」 あと少しのところで世界の支配者になれたが、彼は人々に安らかな夢を与えると決めた。 彼の魂に罪が徐々に刻まれていく。彼が払った対価は、今から明らかになる。 五感が失われ、尋は熙の姿を捉えることもできなくなった。それでも、彼は熙を見つめながら、彼を優しく抱きしめた。 「大丈夫、兄さんに任せて。」 彼は素早く落ちていく。悪神の最後の罪が彼の体の中に入り込むと、熙の姿もそのまま消え去った。 消える前に、悪神は不気味な笑いを浮かべた。 「これで逃げられたと思っているのか?神の子よ、われらは再び巡り会う。」 「われが彼らに刻んだ印はまだ消えておらぬ。例え再び彼らを見つけても、そなたは永遠に夢の中で自分が犯した罪を繰り返す。」 「例え全ての人間が自由になったとしても、我が神力から生まれた熙は永遠にわれの手中にある。」 「こればかりはどうしようもないだろう?」 尋は地面に落ちた。五感はほぼ全て失われ、嗅覚だけが少し残っている。 熙を掴んでいた手の中は、今はもう空っぽだった。わずかに残っていた残り香は、彼の指の周りを漂うと、すぐに消えてしまった。 一方、彼の香炉から立ち昇る煙が大波のように暗雲を洗い落とした。長年覆い隠されていた荒れ果てた世界が、ようやく明るみに出た。 そして煙の外、遥かなる御香山もどこかに吹き飛ばされていた。荒れ果てた大地に立つ尋は、茫然と遠くを眺めていた。 彼は一人ぼっちになった。天涯孤独の彼は、自分がどこから来たのか、どこに向かうべきなのか、分からなくなった。御香一族の生き残りは彼だけだった。帰りの御香を焚いてくれる人はもういない。 悪神の問いが今でも耳元で聞こえる気がして、尋は笑い出した。 彼は偉大な人になることなど望んでいない。人の願いなどちっぽけなものだから、大それた野望を受け止めることはできない。 彼と御香一族の願いは、既に香りに乗って、眠りについた御香一族が見る美しい夢となった。 でも大丈夫だ…… 香炉を握り締めた彼は暗闇の中で立ち上がり、遠方の香りを辿って進みだした。 御香一族の最後の長は旅に出た。長い旅路の中、彼は香りを辿り、美しい夢を見る自由な魂を探している。 彼らを約束の地に連れて帰ると約束したからだ。 約束の地とは、平和な御香山のことだ。 |
「尋香行」のプロフィール詳細
※編集中
「尋香行」のCG
予告CG
願いに応じ、香は生ず
霧が故郷を覆い、香が導く
善悪同源、香に従う
全新CG『尋世香行』